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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
管理番号 1338095
異議申立番号 異議2016-700977  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-11 
確定日 2017-12-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5904460号発明「高圧噴射攪拌工法の施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5904460号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。 特許第5904460号の請求項1、3、5に係る特許を取り消す。 同請求項2、4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5904460号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年8月6日に特許出願され、平成28年3月25日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人ケミカルグラウト株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月17日付けで取消理由が通知され、同年3月23日に意見書が提出され、同年6月15日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年8月18日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正」という。)がなされ、同年10月6日に申立人から意見書が提出されたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「有効壁厚に対して小径の扇形から中心角を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。」と記載されているのを、「a≒b^(2)となるようにbを設定するとともに、有効壁厚に対して小径の扇形から中心角を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。」(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管から高圧噴射される改良材による地盤切削状態をモニタリングする、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。」と記載されているのを、「高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管から高圧噴射される改良材による地盤切削状態を、下限値測定用計測管の計測センサーと上限値測定用計測管の計測センサーを利用してモニタリングし、前記噴射管の回転数を、下限値測定用計測管の計測センサーで検知され、上限値測定用計測管の計測センサーで検知されないような回転数に設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項1は、改良体の造成に係る条件について、「a≒b^(2)となるようにbを設定する」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記(ア)で説示したように、訂正事項1は、改良体の造成に係る条件についてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0029】には、「また本発明では、好ましくは、有効壁厚が改良体の大径の0.7倍以下になるように、改良体を造成することが望ましい。また、好ましくは、改良体の小径を大径の0.2?0.8倍に設定することが望ましい。また、好ましくは、a/bが0.9以下であることが望ましい。この場合、a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)とする。さらにa≒b^(2)となるように設定することが望ましい。このような条件設定で改良体を造成することで、効率の良い形状(有効壁厚tに対して余分な面積(体積)の少ない形状)となる。」と記載されているとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項2は、地盤切削状態のモニタリングについて、「下限値測定用計測管の計測センサーと上限値測定用計測管の計測センサーを利用して」、「噴射管の回転数を、下限値測定用計測管の計測センサーで検知され、上限値測定用計測管の計測センサーで検知されないような回転数に設定する」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項1ないし3を引用する記載であったものを、請求項2及び3を引用しないものとするから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的としているといえる。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記(ア)で説示したように、訂正事項2は、地盤切削状態のモニタリングについてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。また、請求項2及び3を引用しないものとすることは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(ウ)願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0069】には、「この試験施工のプロセスでは、噴射管から高圧噴射される改良材による地盤切削状態をモニタリングし、所望の改良径が確保されるように噴射管の回転数(回転速度)をリアルタイムで調節して最適値に設定する。」と、段落【0071】には、「図10に示すように、モニタリング装置1は、・計測センサー21を備えた下限値測定用計測管24(建込み管)と、・計測センサー31を備えた上限値測定用計測管34(建込み管)と、・・・を有している。」と、段落【0074】には、「続いて試験施工を開始し、その過程で土層又は深度ごとに計測センサー21,31を利用して地盤切削状態をモニタリングする。そして、土層又は深度ごとの仕様として、下限値側の計測センサー21で検知され、上限値側の計測センサー31で検知されないような回転数(回転速度)に設定する。」と、記載されているとおり、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。また、請求項2及び3を引用しないものとすることは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。

ウ 一群の請求項について
訂正前の請求項3ないし5は、それぞれ請求項2を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、請求項2ないし5は一群の請求項である。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。

3 本件発明
本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明は、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、それらをまとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
噴射管を回転させながら改良材を噴射する高圧噴射攪拌工法において、径が異なる2種類の扇形を組み合わせた形状で改良体の断面形状が構成されるように造成する方法であって、
改良体の前記断面形状は、小径の扇形と大径の扇形の2種の組み合わせで構成され、小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部を有し、
有効壁厚が改良体の大径の0.7倍以下になるように改良体を造成し、
改良体の小径を大径の0.2?0.8倍に設定し、
a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)において、a/bが0.9以下であることを特徴とする高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項2】
a≒b^(2)となるようにbを設定するとともに、
有効壁厚に対して小径の扇形から中心角を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項3】
改良体を造成するときに、高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管の回転数を断続的に変化させて改良体の径をコントロールする、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項4】
高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管から高圧噴射される改良材による地盤切削状態を、下限値測定用計測管の計測センサーと上限値測定用計測管の計測センサーを利用してモニタリングし、
前記噴射管の回転数を、下限値測定用計測管の計測センサーで検知され、上限値測定用計測管の計測センサーで検知されないような回転数に設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの施工方法を利用して、複数本の改良体で構成される造成体を造成することを特徴とする高圧噴射攪拌工法の施工方法。」

4 刊行物の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
取消理由で通知した、本件特許の出願日前に頒布された甲第1号証の特開2012-97550号公報には、次の事項が記載されている(下線は当決定で付した。以下同様。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地中に固結体を造成して、地盤を改良する技術に関する。より詳細には、本発明は、施工するべき地中の領域に地盤改良材や固化材を包含する噴流を噴射して、原位置土を切削すると共に、原位置土と地盤改良材や固化材とを混合、攪拌して、固結体を造成する地盤改良工法に関する。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
係る従来の地盤改良工法では、例えば、所定の深度までボーリング孔を削孔し、ボーリング孔に噴射装置を挿入し、地盤改良材や固化材を包含する噴流を噴射しつつ噴射装置を回転する。これにより、噴流によって原位置土を切削すると共に、原位置土と地盤改良材や固化材とを混合、攪拌する。そして、噴射装置を地上側に引き上げれば、原位置土と地盤改良材や固化材とが混合した後に固結して、断面円形の円柱形状の地中固結体が造成される。
連続した壁状の地中固結体を造成する場合には、図19で示す様に、造成しようとする地中壁W(図19では点線で示す)の長さ方向に沿って、上述した様な態様で造成される円柱状地中固結体を複数造成して、その一部を重複させれば良い。
隣接する円柱状地中固結体が重複する範囲については、地中壁Wにおいて必要とされる幅寸法tを確保する様に決定される。
【0003】
ここで、図19において、地中壁Wに要求される幅寸法tを確保するために、造成される円柱状地中固結体においては、点線D1、D2よりも(地中壁Wの)外側の領域LAが存在している。
係る領域LAが存在しなければ、特に重複している部分において、必要な幅寸法tが確保できなくなってしまうからである。
しかし、その様な領域LAは、地中壁Wに要求される幅寸法t或いは強度に対して、過剰に改良されている部分である。
換言すれば、図19における領域LAは、地中壁Wの造成に当たって、切削、改良することが無駄になってしまう領域である。
・・・(略)・・・
【0005】
その他の従来技術として、削孔工程で高圧ジェットを噴射して、先行する削孔工程で地盤が緩んだ領域を包含する範囲を切削して、連続地中壁を造成する技術が提案されている(特許文献1参照)。・・・(略)・・・」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、地中固結体を造成する際に、切削、改良が不要な領域を出来る限り切削、改良しないで済む様な地盤改良工法の提供を目的としている。」
(エ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の地盤改良工法は、
地盤を改良するべき領域までボーリング孔を削孔する工程と、
削孔されたボーリング孔に噴射装置(モニタ10)を挿入する工程と、
同一方向に回転する噴射装置(10)から改良材(例えば、固化材、硬化材、注入材、地盤改良材)を包含する噴流(J1、J1A)を噴射して、原位置土を切削し、改良材と原位置土を混合して、攪拌することにより改良する工程を含み、
当該改良する工程では、造成するべき地中固結体(K、W)の長手方向について地盤を改良する場合(例えば、図1における領域1、1Aの改良)には、改良材を包含する噴流(J1、J1A)の切削距離(到達距離)を長くして、造成するべき地中固結体(K)の長手方向と直交する方向に地盤を改良する場合(例えば、図1における領域3、3Aの改良)には、改良材を包含する噴流(J1、J1A)の切削距離(到達距離)を短くすることを特徴としている。
ここで、前記改良材を包含する噴流(J1、J1A)とは、改良材のみを包含する噴流や、改良材の噴流と高圧エアの噴流とを組み合わせている場合等を含む趣旨の文言である。
【0009】
本発明において、前記改良する工程では、噴射装置(10)の回転速度(角速度v1?v3等)を増減して、噴流の切削距離(到達距離)を調整するのが好ましい。
具体的には、噴射装置(10)の回転速度(角速度v1?v3等)を遅くして、噴流の切削距離(到達距離)を長くする工程と、
噴射装置(10)の回転速度(角速度v1?v3等)を速くして、噴流(J1、J1A)の切削距離(到達距離)を短くする工程を備えているのが好ましい。」
(オ)「【発明の効果】
【0015】
上述する構成を具備する本発明によれば、造成するべき地中固結体(K)の長手方向については、改良材を包含する噴流(J1、J1A)の切削距離(到達距離)を長くして、造成するべき地中固結体(K)の長手方向と直交する方向については、前記噴流(J1、J1A)の切削距離を短くしている。
そのため、改良された領域の断面形状は円形から長方形状に近い形状となり、切削、改良が不要な領域について、原位置土を切削して改良してしまう面積が減少する。その結果、改良材(固化材)の使用量が減少し、無駄な作業(不要な領域の改良)が省略されるので、作業効率が向上して、施工コストを節約することが出来る。
ここで、本発明では噴射装置(10)の回転方向は同一であり、切削距離(到達距離)は増減しても、噴射装置(10)の回転方向を途中で変更する必要が無い。従って、既存の地盤改良用の機器を可能な限り適用して実施することが可能であり、噴射装置(10)の回転方向を逆転するための機構を別途設ける必要が無い。そのため、導入コストの高騰化を防止出来る。」
(カ)「【発明を実施するための形態】」
「【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1?図5は、本発明の第1実施形態を示している。
第1実施形態では、地中固結体として連続壁を造成している。
【0020】
第1実施形態においては、図1で示す工程を施工する以前の段階で、図示しないボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔から図2で示す様な噴射装置10を挿入する。そして、噴射装置10を所定深度まで挿入したならば、噴射装置10のノズル10nから一対の噴流J1、J1Aを噴射している。ここで、噴流J1、J1Aの噴射速度、噴射圧力、噴射流量は、一定の値に保たれている。
一対の噴流J1、J1Aは、水平面について(図1における工程(1a)?(1e)参照)、噴射装置10に対して点対称となる様に噴射される。換言すれば、一対の噴流J1、J1Aと噴射装置10は、常に一直線になっている。
【0021】
図1とその他の図面を参照して説明される実施形態において、噴射装置10から噴射される噴流J1、J1Aは、固化材(例えば、セメントミルク)の噴流と高圧エアの噴流とを組み合わせている。例えば噴流J1、J1Aは、固化材の噴流を高圧エアの噴流で包囲する態様で、地盤中に噴射される。
ただし、固化材のみで噴流を構成しても良い。
【0022】
図1において、噴流J1、J1Aを噴射する工程は、図1の工程(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1e)の順序で行われる。
図1により平面で示されている工程(1a)?(1d)では、噴流J1Aで切削された領域1A、2A、3A、4Aには添え字「A」が付されており、噴流J1で切削された領域1、2、3、4には、添え字「A」は付されていない。
また、図1で示す工程(1a)?(1d)において、符号v1、v2、v3は、噴射装置10(図2参照)が回転する角速度を示しており、
v1<v2<v3
となっている。
なお、工程(1a)?(1d)において、改良が行なわれている領域(ハッチングを付している領域)の中央に噴射装置10が位置している。ただし、図1では、噴射装置10の図示は省略している。
図1において、改良が行なわれている領域については、ハッチングを施して示している。
【0023】
図1の工程(1a)では、噴射装置10から噴射される噴流J1、J1Aにより、第1の領域1、1A、すなわち、点11?点12までの半径r1の扇状の領域と、点1A1?点1A2までの半径r1の扇状の領域における地盤を切削し、固化材と混合して、改良する。
領域1、1Aの中心角度は符号θ1で示されている。ここで、領域1、1Aは、「造成するべき地中固結体の長手方向」における領域に相当する。
第1の領域1、1Aを改良する工程(1a)では、噴射装置10の回転角速度はv1である。
図1の工程(1a)において、符号tは、築造するべき連続壁で必要とされる厚さを示している。
【0024】
領域1、1Aの改良を行った後(工程1aの後)、図1の工程(1b)において、噴射装置10の回転を角速度v2として、噴流J1、J1Aにより、領域2、2Aを改良する。
工程(1b)において、領域2の中心角度は、符号θ2で示されている。
噴射装置10の回転角速度v1、v2は、v1<v2である。そのため、工程(1b)においては、円周方向(矢印R方向)の円周方向の単位面積(単位領域)当たり、噴流J1、J1Aによる改良が行なわれる時間は、工程(1a)に比較して短くなる。そのため、領域2、2Aにおいて、噴流J1、J1Aによる切削距離は、領域1、1Aに比較して短くなる。そして、領域2、2Aでは、半径方向の長さ(噴流J1、J1Aの到達距離)r2は、領域1、1Aの半径方向の長さr1よりも短い(r2<r1)。
【0025】
領域2、2Aの改良を行なった後、図1の工程(1c)では、噴射装置10を角速度v3で回転して、領域3、3Aを改良する。ここで、領域3、3Aは、「造成するべき地中固結体の長手方向と直交する方向」における領域に相当する。
図1の工程(1c)における領域3の中心角度は、符号θ3で示されている。
噴射装置10の角速度v2、v3は、v2<v3となっている。
【0026】
工程(1b)で述べた通り、円周方向の単位面積(単位領域)当たりについて、噴流J1、J1Aによって地盤が切削される時間は、角速度が速いほど短くなり、切削距離は短縮される。
・・・(略)・・・
【0028】
図1、図2で説明した第1実施形態によれば、噴射装置10は同一方向(図1では符号Rの方向)にのみ回転すれば良く、噴射装置10の正転、逆転を変更する必要がない。
噴射装置10の回転方向が常に同一方向であり、逆転はさせないので、噴射装置10の回転方向を逆転するための機構を別途設ける必要が無く、既存の地盤改良用の機器(噴射装置その他)を使用することが可能である。そのため、導入コストの高騰化を防止出来る。
図2で示すように、噴射装置10からは一対の噴流J1、J1Aが(2方向へ)噴射される。そして噴射装置10が半回転すれば、図1の工程(1a)?工程(1d)で示す改良が行なわれて、領域1、1A、2、2A、3、3A、4、4Aの改良が行なわれる。
ここで、固い地盤であれば、噴射装置10が半回転しても、一対の噴流J1、J1Aが図1(1a)?(1d)で示す半径方向距離r1、r2、r3まで到達せず、領域1、1A、2、2A、3、3A、4、4Aの改良が完了しない恐れがある。係る場合には、上述した態様にて、噴射装置10をさらに回転すれば良い。換言すれば、噴射装置10を1回点以上回転することにより噴流による切削を繰り返し、以って、地盤を上述した形状に切削し、改良することが出来る。
【0029】
図1の(1a)?(1d)で示す工程により、領域1、1A、2、2A、3、3A、4、4Aの改良が完了したならば、噴射装置10を所定深度分だけ引き上げる。
所定深度分だけ引き上げたならば、図1の(1a)?(1d)で説明した工程を繰り返して、深度方向の所定の領域について、図1の(1d)で示す様な平面形状の柱状固結体として、地盤を改良する。
ここで、噴射装置10の引き上げ量は、改良するべき地盤の性質や施工条件により、ケース・バイ・ケースで決定される。
【0030】
深度方向の所定の領域について図1の工程(1d)で示す様な平面形状の柱状固結体として地盤を改良したならば(図1の1eで示す領域K1)、造成するべき連続壁の他の部分(例えば、図1の1eにおける領域K2)について、図1の(1a)?(1d)で示す工程を順次繰り返して、改良された領域を鉛直方向に延伸する。
図1の(1e)で示すように、改良された部分の間の領域(図1の1eにおける領域K3)についても、図1の(1a)?(1d)で示す工程を順次繰り返して、改良された領域を横方向(水平方向)に延長する。
これにより、連続壁Wを造成する。
【0031】
図1の(1a)?(1d)を参照して説明した様に、噴流J1、J1Aを噴射しつつ回転する噴射装置10(図2参照)について、同一方向へ回転し、所定の回転角度だけ回転した時に回転速度(角速度)を変化させるための構成が、図3、図4で例示されている。
図3は、噴射装置10を回転するモータ20の回転速度を制御する構成を示している。」
(キ)「【0043】
次に、図6を参照して、図1?図5の第1実施形態における作用効果を説明する。
図6の(6a)は、築造するべき連続壁で必要とされる厚さtが1m(1000mm)である場合に、図1?図5の第1実施形態を実施した状態を示している。
図6の(6a)において、領域1、1Aの施工の際、噴流が到達する距離を1.25m(1250mm)、中心角θ1を60°とすれば、領域1、1Aの合計面積の合計は1.63m^(2)となる。
そして、図6の(6a)の例では、領域2、2Aと領域4、4Aの合計面積は0.13m^(2)、領域3、3Aの合計面積は0.88m^(2)であり、改良した部分の合計面積は2.64m^(2)である。」
(ク)「【0046】
また、明確には図示されてはいないが、いわゆる複合地盤で施工するに際しては、地盤の種類により、噴射装置10の角速度v1、v2、v3を変動させる必要がある。
この場合、角速度v1、v2、v3の具体的な数値については、地盤の種類、深度方向寸法、その他の条件により、ケース・バイ・ケースに定められる。
また、角速度を無段階に変動させることにより、地盤改良された領域の平面形状を任意の形状(四角形、楕円形、星型、その他)にすることが可能である。」
(ケ)「【0090】
図16は、本発明の第9実施形態を示している。
図15の第8実施形態では、1箇所当たりの工程数を6工程にしており、第1実施形態?第7実施形態(1箇所当たり4工程)に比較して増加している。これに対して、図16の第9実施形態では、1箇所当たりの工程数を2工程に減少している。
図16において、工程(16a)は、図1の工程(1a)と同じであり、領域1及び領域1Aを改良する。この時の噴射装置10の回転速度はv1である。
図16の工程(16b)は、図1の工程(1b)と同じであり、領域2及び領域2Aを改良する。この時の噴射装置10の回転速度はv2である。
【0091】
噴射装置10は半回転して、領域2、2Aを改良すれば、その深度における改良が完了する。
ただし、地盤が固い場合には、噴射装置10を1回転以上回転して、噴流による切削を繰り返せば良い。
噴射装置10の回転速度v1、v2は、 v1<v2 となっている。
図16の第9実施形態におけるその他の構成及び作用効果については、図1?図15の実施形態と同様である。」
(コ)図面について
a 図1は、第1実施形態の施工手順を平面的に示す工程図であって、当該図からは、改良された領域の断面形状が、径の異なる3種類の扇形を組み合わせた形状であること、及び、複数本の地中固結体で構成される連続壁Wが見て取れる。また、図6の(6a)の図からも、改良された領域の断面形状が、径の異なる3種類の扇形を組み合わせた形状であることが見て取れる。
b 図16は、第9実施形態を平面的に示す工程図であって、当該図からは、改良された領域の断面形状が、径の異なる2種類の扇形を組み合わせた形状であって、小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部を有していることが見て取れる。また、小径部の外側境界部と、大径部と小径部との境界部との交わる点は、連続壁の境界部にあることが見て取れる(このことは、改良が不要な領域を減らすとの段落【0015】に記載の作用効果とも整合するものである。)。

イ 甲第1号証の認定
(ア)上記ア(ア)、(イ)、(カ)(特に段落【0020】ないし【0022】)で摘記した事項からみて、甲第1号証には、「噴射装置10を回転させながら地盤改良材を噴射して、地盤を切削し、地盤改良材と混合、攪拌して、地中固結体を造成する地盤改良工法」が記載されていると認められる。
(イ)上記ア(ア)の「施工するべき地中の領域に地盤改良材や固化材を包含する噴流を噴射して、原位置土を切削する」、及び、上記ア(イ)の「削孔工程で高圧ジェットを噴射」(段落【0005】)との記載事項から、地盤改良材は高圧で噴射されるものと認められる。
(ウ)上記ア(カ)(特に段落【0022】ないし【0025】)で摘記した事項及び図1及び6の図示内容からみて、甲第1号証には、改良された領域、すなわち地中固結体の断面形状が、径の異なる3種類の扇形を組み合わせた形状であることが記載されていると認められる。また、上記ア(キ)で摘記した事項及び図6の図示内容からみて、その実施形態における、築造するべき連続壁の厚さtは1m、領域1,1Aである大径の半径は1.25m(すなわち直径は2.5m)、中心角θ1は60°であることが記載されていると認められる。
(エ)上記(ウ)を参酌すると、上記ア(ケ)で摘記した事項及び図16の図示内容からみて、甲第1号証には、改良された領域、すなわち地中固結体の断面形状が、径の異なる2種類の扇形を組み合わせた形状であって、小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部を有していることが記載されていると認められる。また、当該実施形態においても、築造するべき連続壁の厚さtは1m、領域1,1Aである大径の半径は1.25m(すなわち直径は2.5m)であることが認められる。さらには、連続壁の厚さtが1mで、大径部の中心角θ1は60°であることから、小径の半径は1.0m(すなわち直径は2.0m)であることが認められる。
(オ)上記(ア)(イ)(エ)を踏まえると、上記アで摘記された事項及び図示内容からみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「噴射装置を回転させながら地盤改良材を高圧で噴射して、地盤を切削し、地盤改良材と混合、攪拌して、地中固結体を造成する地盤改良工法であって、径の異なる2種類の扇形を組み合わせた形状で地中固結体の断面形状が構成されるように造成する方法であって、
前記地中固結体の断面形状は、小径の扇形と大径の扇形の2種の組合せで構成され、小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部を有し、
築造するべき連続壁の厚さtが1m、大径の直径が2.5m、小径の直径が2.0mである、
地盤改良工法。」

(カ)また、甲第1号証には、上記アで摘記された事項及び図示内容からみて、次の技術事項も記載されていると認められ、甲1発明はそれらの技術事項で限定できるものである。
a 「噴射装置を同一方向へ回転し、所定の回転角度だけ回転した時に回転速度(角速度)を変化させることにより、地中固結体の半径方向の長さ(径)を制御すること。」(段落【0024】及び【0031】を参照。)
b 「複数本の地中固結体で構成される連続壁Wを造成すること。」(段落【0030】及び図1を参照。)

(2)甲第5号証
ア 甲第5号証の記載事項
取消理由で通知した、本件特許の出願日前に頒布された甲第5号証の特開2012-62626号公報には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「特許請求の範囲
【請求項1】
地盤中に挿入された注入管の噴射ノズルから高圧噴射される固化材による地盤の切削状態をモニタリングする地盤の切削状態モニタリング方法において、前記注入管の噴射ノズルから高圧噴射される固化材によって前記注入管の周囲の地盤に挿入された建込み管の発する振動を検知器によってモニタリングすることにより原地盤の切削状態を確認することを特徴とする高圧噴射撹拌工法における地盤の切削状態モニタリング方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射撹拌工法で実施される地盤の切削状態モニタリング方法およびモニタリング装置に関し、高圧噴射される固化材と原土とを撹拌混合して地盤改良体を造成しながら、高圧噴射される固化材による原地盤の切削状態をリアルタイムで把握することにより、造成されつつある地盤改良体の径を判定することができる。」
(ウ)「【背景技術】
【0002】
一般に、高圧噴射撹拌工法は、地中に挿入した注入管を介し、その先端の噴射ノズルから固化材を高圧噴射し、その強力なエネルギーによって原地盤を切削崩壊し、かつ固化材と原土とを強制的に撹拌混合して円柱状の改良体を造成する方法であり、仮設から本設工事まで多目的に利用可能な地盤改良工法として知られている。」
(エ)「【発明を実施するための形態】」
「【0050】
(4) 次に、注入管1を介し、噴射ノズル1aから固化材を高圧噴射し、その強力なエネルギーによって原地盤を切削崩壊しながら、施工機4によって注入管1を一定速度で回転させることにより原土と固化材とを強制的に撹拌混合して地盤改良体イを造成する。
【0051】
この間、注入管1先端の噴射ノズル1aから高圧噴射された固化材が各地点A,B,C,Dに到達していれば、各地点の地盤は切削崩壊されており、また各地点に挿入された建込み管5に固化材が当たり、各地点の建込み管5に固化材の当たる音が発生する。」
「【0055】
また、その間、各ステージにおいて、各地点A,B,C,Dの建込み管5に固化材の当たる音を集音マイク6bによってモニタリングすることができ、かつ数値化して記録装置13において記録することができる。」
「【0061】
以上の工程を連続して行うことにより、噴射ノズル1aから高圧噴射される固化材と原土とからなる地盤改良体イを造成しながら、同時に造成されつつある地盤改良体イの各地点A,B,C,Dの各ステージにおける建込み管5の発する音をリアルタイムでモニタリングし、記録することができる。そして、その結果から造成されつつある地盤改良体イの径を施工段階においてリアルタイムで容易に判定することができる。」

(3)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
取消理由で通知した、本件特許の出願日前に頒布された甲第2号証の特開2012-107463号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に固結体を造成する技術に関する。より詳細には、本発明は、施工するべき地中の領域に地盤改良材や固化材を包含する噴流を噴射して、原位置土を切削すると共に、原位置土と地盤改良材や固化材とを混合、攪拌して、固結体を造成する地盤改良工法に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、地中固結体を造成する際に、切削、改良が不要な領域を出来る限り切削、改良しないで済む様な地盤改良工法の提供を目的としている。」
(ウ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射攪拌装置により、地盤改良するべき領域までボーリング孔を削孔する工程を含み、噴射攪拌装置は、2本の回転軸と、2本の回転軸の各々に設けられた攪拌手段及び噴射手段を有しており、噴射攪拌装置の攪拌手段により原位置土を攪拌しつつ、噴射攪拌装置の噴射手段から改良材を包含する噴流を噴射して原位置土を切削し、以って、改良材と原位置土を混合、攪拌することにより改良する工程を含み、当該改良する工程では、噴流が噴射攪拌装置の2本の回転軸を結ぶ直線方向であって、且つ、2本の回転軸から離隔する方向に噴射される場合には、当該噴流の切削距離を長くし、噴流が噴射攪拌装置の2本の回転軸を結ぶ直線と直交する方向に噴射される場合には、当該噴流の切削距離を短くし、噴流が噴射攪拌装置の2本の回転軸を結ぶ直線方向であって、且つ、2本の回転軸に向かう方向に噴射される場合には、当該噴流の切削距離をさらに短くすることを特徴とする地盤改良工法。」
(エ)図1、2には、地盤改良された地中固結体の水平断面形状が、複数種類の扇形からなることが見て取れる。

(4)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
取消理由で通知した、本件特許の出願日前に頒布された甲第3号証の特開2004-169304号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、地盤土壌等の土壌と硬化材や固化材等の安定材とを攪拌混合して所定強度でパイル状の改良柱体を造成する深層混合処理等に用いて好適な改良柱体造成工法及び改良柱体造成装置に関する。

(イ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の改良柱体造成装置1では、一対の攪拌翼3,3を回転させて断面円形の改良柱体6を造成するようにしているため、柱列状の地中連続壁7を造成する場合に、隣接する改良柱体6,6をオーバラップさせる必要があり、このオーバラップLの部分及び有効厚H以外の部分hに安定材のロスが発生し、全体として高コストになった。
【0008】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、安定材のロスを可及的に減少させて全体の低コスト化を図ることができる改良柱体造成工法及び改良柱体造成装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、土壌と安定材とを攪拌混合させて改良柱体を造成する工法において、前記土壌と前記安定材とを攪拌混合させて断面略矩形の改良柱体を造成することを特徴とする。」
(ウ)「【0023】
以上実施形態の改良柱体造成装置10によれば、攪拌軸11を地盤土壌5に貫入すると共に安定材Aを吐出しながら、攪拌軸11を図3(a)中矢印に示すように揺動させると、地盤土壌5と安定材Aとが各攪拌翼13,14により攪拌混合される。これにより、図2及び図3(a)に示すような断面略矩形の改良柱体8が造成される。」

(5)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載事項
取消理由で通知した、本件特許の出願日前に頒布された甲第4号証の特開2013-2044号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッドを地中に挿入して、ロッドに設けられた噴射ノズルから硬化材液を噴射して地盤に混入して造成される改良体を用いて、十字状や格子状の改良域を形成する方法に関する。」
(イ)「【請求項3】
前記第一工程で造成される半径Bメートル以上の270度の扇形改良体、もしくは前記半径Bメートル以上の270度の扇形改良体と第二工程で造成される所定角度を有する扇形改良体、もしくは前記半径Bメートル以上の270度の扇形改良体と前記第三工程で造成される所定角度を有する扇形改良体の半径を√2Bメートルとしたことを特徴とする請求項および請求項2記載の改良域形成方法。」

5 判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「噴射装置」は本件発明1の「噴射管」に相当し、同様に、「地盤改良材」は「改良材」に、「地中固結体」は「改良体」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明の「地盤改良工法」は、「地盤改良材を高圧で噴射して、地盤を切削し、地盤改良材と混合、攪拌して、地中固結体を造成する」から、本件発明1の「高圧噴射攪拌工法」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致及び相違する。

(一致点)
「噴射管を回転させながら改良材を噴射する高圧噴射攪拌工法において、径が異なる2種類の扇形を組み合わせた形状で改良体の断面形状が構成されるように造成する方法であって、
改良体の前記断面形状は、小径の扇形と大径の扇形の2種の組み合わせで構成され、小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部を有する、
高圧噴射攪拌工法の施工方法。」

(相違点1)
改良体の形状について、
本件発明1は、「有効壁厚が改良体の大径の0.7倍以下になるように改良体を造成し、改良体の小径を大径の0.2?0.8倍に設定し、a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)において、a/bが0.9以下である」のに対し、
甲1発明は、「築造するべき連続壁の厚さtが1m、大径の直径が2.5m、小径の直径が2.0mである」である点。

イ 判断
(ア)甲1発明の「築造するべき連続壁の厚さtが1m、大径の直径が2.5m、小径の直径が2.0mである」ことからは、築造するべき連続壁の厚さt(本件発明1の「有効壁厚」に相当する。)が大径の0.4倍(aが0.4)であり、小径/大径が0.8倍(bが0.8)であり、a/bが0.5であることが理解できる。
すなわち、甲1発明において、築造するべき連続壁の厚さt(有効壁厚)が大径の0.7倍以下であり、小径/大径が0.2?0.8倍の範囲であり、a/bが0.9以下であるといえる。
そうすると、甲1発明の「築造するべき連続壁の厚さtが1m、大径の直径が2.5m、小径の直径が2.0mである」ことは、本件発明1の「有効壁厚が改良体の大径の0.7倍以下になるように改良体を造成し、改良体の小径を大径の0.2?0.8倍に設定し、a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)において、a/bが0.9以下である」ことで特定される範囲に含まれるといえる。
(イ)また、甲第1号証には、「角速度v1、v2、v3の具体的な数値については、地盤の種類、深度方向寸法、その他の条件により、ケース・バイ・ケースに定められる」(上記4(1)アの段落【0046】)と記載されていることから、地中固結体の大径や小径の直径は、種々の条件により適宜に変更され、決定されるものであることが記載されているといえる。なお、上記4(1)イ(カ)aで述べたとおり、回転速度(角速度)を変化させることにより、地中固結体の半径方向の長さ(径)は変化する。
そして、甲1発明は、「地中壁Wに要求される幅寸法tを確保するために、造成される円柱状地中固結体においては、点線D1、D2よりも(地中壁Wの)外側の領域LAが存在し・・・領域LAは、地中壁Wの造成に当たって、切削、改良することが無駄になってしまう領域」(同段落【0003】)であるから、「地中固結体を造成する際に、切削、改良が不要な領域を出来る限り切削、改良しないで済む様な地盤改良工法の提供を目的」(同段落【0007】)とするものであるので、甲1発明の「築造するべき連続壁の厚さtが1m、大径の直径が2.5m、小径の直径が2.0mである」ものについて、小径の直径の変更を試みる際には、大径の直径に近くなることにより、全体として円柱状の形状に近づく2.0mを超える大きさではなく、小径の扇形と大径の扇形が組み合わされた形状が維持される2.0mより小さくするのが合理的であるといえる。加えていうと、図1及び6に示されるような径の異なる3種類の扇形を組み合わせた形状のものにおいては、より小さい扇形が含まれていることからも、小径の直径は2.0mより小さくすることを着想するといえる。また、小径の直径は、築造するべき連続壁の厚さt(有効壁厚)の1mを超えるものであることは明らかである。
(ウ)ところで、本件発明1において、有効壁厚が1m、大径の直径が2.5mとした際の、小径の直径の範囲を計算すると、1.1?2.0mの範囲となる。くわしくは、小径は大径の0.2?0.8倍であるから、小径の最大の直径は2.0mとなる。また、aは0.4であるから、a/bが0.9以下であることを満足するには、bは0.44以上となり、それを満足する小径の直径は1.1m以上である。
(エ)上記(イ)と(ウ)で述べたことを踏まえると、甲1発明において、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に着想し得たことであるといえる。また、有効壁厚が1m、大径の直径が2.5mとした際の、小径の直径の範囲は1.1?2.0mであることは、小径の扇形と大径の扇形が組み合わされた形状であることと、有効壁厚が1mであることを前提とすると、通常考えられる全ての範囲を示すものであり、言い換えると、小径の直径を1.1m未満や2.0mを超えるものとすることは、通常考えられないものといえるから、そのような範囲とすることは、当業者にとって格別に困難なこととはいえない。
(オ)以上のことから、甲1発明において、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 特許権者の主張について
特許権者は、平成29年3月23日付け意見書において、本件発明1は、「有効壁厚が改良体の大径の0.7倍以下になるように改良体を造成し、改良体の小径を大径の0.2?0.8倍に設定し、a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)において、a/bが0.9以下である」(相違点1に係る構成)との条件設定で改良体を造成することで、有効壁厚tに対して余分な面積(体積)の少ない形状を、特別な試行錯誤を要することなく、効率良く決定することができる、といった格別の効果を達成できる旨主張する(第16頁)。

しかしながら、特許権者の主張は、以下のとおり採用できない。
改良体が小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部とからなる場合、小径と大径の2つの直径を設定するのみであるから、特別な試行錯誤を要するものとはいえない。加えて、甲第1号証の図16や図1(1e)のような図を作成すれば(そのような図を見れば)余分な面積を概略把握でき、余分な面積を少なくするための値の予測が可能であるといえるので、本件発明1の条件設定を用いなくても、特別な試行錯誤を要することなく、小径と大径の2つの直径を決定できるといえる。
また、本件発明1の相違点1に係る条件は、上記イ(エ)で述べたように広範囲なものを含むものであって、むしろ通常は設定しないような範囲を除外しているにすぎないといえるものであるから、上記条件で得られる小径と大径の直径の範囲は、上記条件を参酌しなくても導き出せる数値を含むものであるといえる。
さらにいうと、本件特許明細書からは、改良体が小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部とからなるものにおいて、本件発明1の相違点1に係る条件によることにより、余分な面積(体積)を格別に少なくするとの効果を奏するものとは認められない。すなわち、扇形を組み合わせた形状とすることによる効果に加えて、格別な効果を奏するものとは認められない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明との相違点1に加えて、以下の点で相違する。

(相違点2)
相違点1に関連して、本件発明2は、「a≒b^(2)となるようにbを設定する」のに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

(相違点3)
本件発明2は、「有効壁厚に対して小径の扇形から中心角を決定する」のに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1については、上記(1)イで検討したとおりである。
(イ)相違点2について検討する。
先の取消理由で引用した甲第2号証(上記4(3)を参照。)、甲第4号証(上記4(5)を参照。)には、径が異なる複数種の扇形を組み合わせた形状で改良体の断面形状が構成されるように造成する方法が開示されているが、「a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)において」「a≒b^(2)となるようにbを設定する」こと、すなわち本件発明2の相違点2に係る構成とすることは記載も示唆もされていない。また、甲第3号証(上記4(4)を参照。)にも、本件発明2の相違点2に係る構成とすることは記載も示唆もされていない。
申立人は、「a≒b^(2)」なる関係式を用いなくとも市販されている表計算ソフトを用いて、余分な面積を最小とする組合せを決定できる旨主張するが(意見書10頁下から6行?末行。)、表計算ソフトが周知であるとしても、複数種の扇形を組み合わせた形状の改良体の断面形状を決定する際に「a≒b^(2)」なる関係式を用いることが当業者にとって容易に想到できたことはいえない。
そして、本件発明2の相違点1及び2の条件設定で改良体を造成することで、効率の良い形状(有効壁厚tに対して余分な面積(体積)の少ない形状)となるものといえる(本件特許明細書の段落【0029】)。
よって、甲1発明において、本件発明2の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)相違点3について検討する。
小径の扇形と大径の扇形の2種の組み合わせで構成される改良体により壁を造成する場合、小径の扇形と大径の扇形の直径や中心角は、有効壁厚を考慮して決定することは当然である。
また、小径の扇形から中心角を決定するか、大径の扇形から中心角を決定するかは、当業者が適宜に決定し得ることである。
よって、甲1発明において、本件発明2の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、当業者が甲第1ないし4号証に記載された発明(技術事項)に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
ア 対比
甲第1号証には、上記4(1)イ(カ)aで述べたように、「噴射装置を同一方向へ回転し、所定の回転角度だけ回転した時に回転速度(角速度)を変化させることにより、地中固結体の半径方向の長さ(径)を制御すること」も記載されており、当該技術事項は甲1発明において限定できるものである。
そして、「回転速度(角速度)を変化させること」は回転数を変化させることになり、また、径の異なる2種類の扇形を組み合わせた形状とするものであるからその変化は断続的であるといえるから、「噴射装置10を同一方向へ回転し、所定の回転角度だけ回転した時に回転速度(角速度)を変化させることにより、地中固結体の半径方向の長さ(径)を制御すること」は、本件発明3の「改良体を造成するときに、高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管の回転数を断続的に変化させて改良体の径をコントロールする」ことに相当する。
そうすると、(本件発明1を引用する)本件発明3と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明との相違点1で相違する。

イ 判断
相違点1については、上記(1)イで検討したとおりである。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明3は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明との相違点1に加えて、以下の点で相違する。

(相違点4)
本件発明4は、「高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管から高圧噴射される改良材による地盤切削状態を、下限値測定用計測管の計測センサーと上限値測定用計測管の計測センサーを利用してモニタリングし、前記噴射管の回転数を、下限値測定用計測管の計測センサーで検知され、上限値測定用計測管の計測センサーで検知されないような回転数に設定する」のに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点1については、上記(1)イで検討したとおりである。
(イ)相違点4について検討する。
甲第5号証には、上記4(2)で摘記したように、「高圧噴射される固化材と原土とを撹拌混合して地盤改良体を造成しながら、高圧噴射される固化材による原地盤の切削状態をリアルタイムで把握することにより、造成されつつある地盤改良体の径を判定することができる。」(段落【0001】)、「地盤中に挿入された注入管の噴射ノズルから高圧噴射される固化材による地盤の切削状態をモニタリングする地盤の切削状態モニタリング方法において、前記注入管の噴射ノズルから高圧噴射される固化材によって前記注入管の周囲の地盤に挿入された建込み管の発する振動を検知器によってモニタリングすることにより原地盤の切削状態を確認することを特徴とする高圧噴射撹拌工法における地盤の切削状態モニタリング方法。」(請求項1)が記載されているから、「高圧噴射される固化材と原土とを撹拌混合して地盤改良体を造成する高圧噴射攪拌工法において、注入管の噴射ノズル(本件発明4の「噴射管」に相当する。)から高圧噴射される固化材(同「改良材」に相当する。)による地盤切削状態を、前記注入管の周囲の地盤に挿入された建込み管の発する振動を検知器によってモニタリングすること」(以下「甲5技術」という。)が記載されていると認められる。
しかしながら、甲第5号証には、「下限値測定用計測管の計測センサーと上限値測定用計測管の計測センサーを利用してモニタリングし、前記噴射管の回転数を、下限値測定用計測管の計測センサーで検知され、上限値測定用計測管の計測センサーで検知されないような回転数に設定する」ことは記載されていないから、甲1発明に甲5技術を適用しても、本件発明4の相違点4に係る構成を備えたものとはならない。
また、甲第2号証(上記4(3)を参照。)、甲第3号証(上記4(4)を参照。)、甲第4号証(上記4(5)を参照。)、並びに、申立人が意見書とともに提出した参考資料1(特開平7-180136号公報)、参考資料2(特開2014-237941号公報)、参考資料3(特開2009-102892号公報)、参考資料4(特開2007-217963号公報)にも、本件発明4の相違点4に係る構成は開示されていない。
よって、甲1発明において、本件発明4の相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明4は、当業者が甲第1ないし5号証に記載された発明(技術事項)に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明5について
ア 対比
甲第1号証には、上記4(1)イ(カ)bで述べたように、「複数本の地中固結体で構成される連続壁Wを造成すること」も記載されており、当該技術事項は甲1発明において限定できるものである。
そして、「複数本の地中固結体で構成される連続壁Wを造成すること」は、本件発明5の「複数本の改良体で構成される造成体を造成すること」ことに相当する。
そうすると、(本件発明1を引用する)本件発明5と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明との相違点1で相違する。

イ 判断
相違点1については、上記(1)イで検討したとおりである。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本件発明1、3、5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明2、4に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射管を回転させながら改良材を噴射する高圧噴射攪拌工法において、径が異なる2種類の扇形を組み合わせた形状で改良体の断面形状が構成されるように造成する方法であって、
改良体の前記断面形状は、小径の扇形と大径の扇形の2種の組み合わせで構成され、小径の扇形からなる小径部と大径の扇形からなる大径部を有し、
有効壁厚が改良体の大径の0.7倍以下になるように改良体を造成し、
改良体の小径を大径の0.2?0.8倍に設定し、
a:壁厚係数(有効壁厚/改良体の大径)、b:小径係数(改良体の小径/大径)において、a/bが0.9以下であることを特徴とする高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項2】
a≒b^(2)となるようにbを設定するとともに、
有効壁厚に対して小径の扇形から中心角を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項3】
改良体を造成するときに、高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管の回転数を断続的に変化させて改良体の径をコントロールする、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項4】
高圧噴射攪拌工法に用いる噴射管から高圧噴射される改良材による地盤切削状態を、下限値測定用計測管の計測センサーと上限値測定用計測管の計測センサーを利用してモニタリングし、
前記噴射管の回転数を、下限値測定用計測管の計測センサーで検知され、上限値測定用計測管の計測センサーで検知されないような回転数に設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法の施工方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの施工方法を利用して、複数本の改良体で構成される造成体を造成することを特徴とする高圧噴射攪拌工法の施工方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-09 
出願番号 特願2015-156519(P2015-156519)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (E02D)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 神尾 寧  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 住田 秀弘
小野 忠悦
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5904460号(P5904460)
権利者 株式会社エヌ、アイ、テイ 株式会社日東テクノ・グループ
発明の名称 高圧噴射攪拌工法の施工方法  
代理人 特許業務法人高橋特許事務所  
代理人 富田 款  
代理人 富田 款  
代理人 富田 款  

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