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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特39条先願  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1338105
異議申立番号 異議2017-700140  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-16 
確定日 2018-01-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5970462号発明「低アウトガス用熱伝導性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5970462号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし14〕について訂正することを認める。 特許第5970462号の請求項1ないし8、11及び14に係る特許を取り消す。 特許第5970462号の請求項9、10、12及び13に係る特許を維持する。 
理由
第1 主な手続の経緯等

特許第5970462号(設定登録時の請求項の数は14。以下、「本件特許」という。)は、2012年10月5日(優先権主張:2011年10月6日、日本)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月15日に設定登録された。
特許異議申立人 坂田 純子(以下、単に「申立人」という。)は、平成29年2月16日、本件特許の請求項1ないし14についての特許に対して特許異議の申し立てをした。
当審において、平成29年4月7日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年6月12日付け(受理日:同年6月13日)に訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書(以下、「特許権者の意見書」という。)を提出した。
当審において、平成29年6月22日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、申立人は意見書を提出しなかった。
当審において、平成29年8月21日付けで取消理由(決定の予告)を通知したが、特許権者は意見書を提出しなかった。



第2 訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容
本件訂正における請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし14について訂正することを求める、というものであり、その内容は次のとおりである。(下線は、当審が付与。以下同様。)

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.1μm以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径2μm以上20μm未満のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径20μm以上100μm以下のフィラー成分を含有し、」とあるのを、「前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす、」とあるのを、「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である、」に訂正する。

(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0048】に「実施例7」とあるのを、「参考例7」に訂正する。また、願書に添付した明細書の段落【0076】の【表1】に「実施例7」とあるのを、「参考例7」に訂正する。

(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0051】に「実施例10」とあるのを、「参考例10」に訂正する。また、願書に添付した明細書の段落【0077】の【表2】に「実施例10」とあるのを、「参考例10」に訂正する。

(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0054】に「実施例13」とあるのを、「参考例13」に訂正する。また、願書に添付した明細書の段落【0077】の【表2】に「実施例13」とあるのを、「参考例13」に訂正する。

2 訂正要件の適合についての検討
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における、(A-1)フィラー成分の「平均粒径0.1μm以上2μm未満」、(A-2)フィラー成分の「平均粒径2μm以上20μm未満」、(A-3)フィラー成分の「平均粒径20μm以上100μm以下」という数値範囲を、それぞれ、訂正後の請求項1における、(A-1)フィラー成分の「平均粒径0.2μm以上1μm以下」、(A-2)フィラー成分の「平均粒径3.5μm以上8μm以下」、(A-3)フィラー成分の「平均粒径35μm以上60μm以下」という数値範囲に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで述べたとおり、訂正事項1は、(A-1)?(A-3)フィラー成分の平均粒径の数値範囲を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0023】には、(A-1)?(A-3)フィラー成分について、「(A-1)成分の平均粒径は、…0.2μm以上1μm以下がより好ましく、…(A-2)成分の平均粒径は、…3.5μm以上8μm以下が最も好ましい…(A-3)成分の平均粒径は、…35μm以上60μm以下が最も好ましい」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(2) 訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1が「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす」という大小関係を特定していたが、訂正後の請求項1では、「(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である」として、(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合の数値を限定することで、混合割合の数値が限定された大小関係に限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで述べたとおり、訂正事項2は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合の大小関係を限定するものあり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0024】には、(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合について、「最密充填を考慮する観点から、(A-1)成分は10?20質量%、(A-2)成分は25?35質量%、(A-3)成分は50?60質量%がより好ましい。」と記載されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3) 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項2ないし14は、訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1及び2に係る訂正で訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし14は、一群の請求項である。
そして、訂正事項1及び2は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものである。
したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第4項に適合する。

(4) 訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の明細書の【0048】の実施例7に記載された熱伝導性組成物は、「熱伝導性フィラーA-1 400g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 720g」が混合されたものであり、その混合割合は、【0076】の【表1】に記載されたように、当該フィラーA-1が25質量%、当該フィラーA-2が30質量%、当該フィラーA-3が45質量%に相当することから、実施例7の混合割合は、訂正事項2に係る訂正後の請求項1に記載された(A-1)成分および(A-3)成分の各混合割合の範囲外である。
よって、訂正事項3は、訂正前の【0048】および【0076】の【表1】の実施例7について、訂正後には、「実施例」ではなく「参考例」であることを明らかにするものである。
したがって、訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明細書の【0048】に記載された「実施例7」を、「参考例7」に訂正し、また、【0076】の【表1】に記載された「実施例7」を、「参考例7」に訂正するものである。
以上のとおり、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、「実施例7」を「参考例7」に訂正するものであって、実質的に内容を変更するものではないので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、「実施例7」を「参考例7」に訂正するものであって、実質的に内容を変更するものではないので、訂正事項3は、本件特許明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 明細書又は図面の訂正に係る請求項の全てについて行われている訂正であること
訂正事項3は、一群の請求項である請求項1ないし14全ての記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために訂正するものであるので、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(5) 訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の明細書の【0051】および【0077】の【表2】の実施例10について、訂正後には、「実施例」ではなく「参考例」であることを明らかにするものであるから、訂正事項4は、上記(4)アで述べた理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記(4)イで述べた理由と同様の理由により、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、上記(4)ウで述べた理由と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 明細書又は図面の訂正に係る請求項の全てについて行われている訂正であること
訂正事項4は、上記(4)エで述べた理由と同様の理由により、、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(6) 訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の明細書の【0054】および【0077】の【表2】の実施例13について、訂正後には、「実施例」ではなく「参考例」であることを明らかにするものであるから、訂正事項5は、上記(4)アで述べた理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、上記(4)イで述べた理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、上記(4)ウで述べた理由と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 明細書又は図面の訂正に係る請求項の全てについて行われている訂正であること
訂正事項5は、上記(4)エで述べた理由と同様の理由により、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第4項及び特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。



第3 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
下記(A)?(D)成分、
(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー、
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、
(C)有機チタン系硬化触媒、
(D)シランカップリング剤、
を含有し、
前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、
(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である、
熱伝導性組成物。
【請求項2】
(B)成分が、粘度300?3,000mPa・s、重量平均分子量3,000?25,000の加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1?2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
(B)成分が、(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1?2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを含有してなる請求項1?2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
(A)成分は熱伝導性組成物全体に対して60?95質量%の量であり、(C)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量であり、(D)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量である請求項1?5のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示す、請求項1?6のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
湿気硬化型である請求項1?7のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
低アウトガス用である請求項1?8のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
光ピックアップモジュール用である請求項1?9のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる放熱材。
【請求項12】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる接着剤。
【請求項13】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる塗布剤。
【請求項14】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。」



第4 取消理由(決定の予告)の概要

(理由1)本件特許発明は、その出願日前の下記甲1-2の出願に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲1-2:特願2012-509476号(特許第5828835号公報)(平成29年2月16日付けの特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)添付の甲第1号証の2)



第5 当審の判断

1 取消理由1(甲1-2に基づく先願同一違反)について
(1) 甲1-2に記載された事項
甲1-2である特許第5828835号は、異議事件(異議2016-700525)の平成29年4月25日付けの異議の決定において、
「特許第5828835号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第5828835号の請求項1-15に係る特許を維持する。」とされており、訂正が認められた特許請求の範囲及び明細書には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付与。以下同様。)

ア 「【請求項1】
下記(A)?(D)成分を含有してなる組成物。
(A)(A-1)平均粒径0.1以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、(A-3)平均粒径30μm以上80μm以下のフィラー成分を含有してなり、混合割合が、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%であるフィラー成分
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール
(C)硬化触媒
(D)シランカップリング剤
【請求項2】
前記混合割合が、(A-1)が10?20質量%、(A-2)が25?35質量%、(A-3)が50?60質量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(A)成分が絶縁性を有する熱伝導性フィラーである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
(B)成分が、粘度300?3,000mPa・s、重量平均分子量3,000?25,000の加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(B)成分が、(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項7】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを含有してなる請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項8】
(A)成分は前記組成物全体に対して60?95質量%の量で、(C)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量で、(D)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量で含まれる請求項1から7いずれかに記載の組成物。
【請求項9】
(C)成分が、ビスマス系硬化触媒である請求項1から8いずれかに記載の組成物。
【請求項10】
(C)成分が、チタン系硬化触媒である請求項1から8いずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の硬化体が、デュロメーターアスカー硬度計による硬度が90以下である請求項1から10いずれかに記載の組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる熱伝導性組成物。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる放熱材。
【請求項15】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。」

イ 「【0013】
本発明で使用する(A)フィラーとしては、酸化アルミニウム等のアルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミ、窒化ホウ素等、熱伝導性が高く、絶縁性を有するフィラーが好ましい。熱伝導性フィラーは、球状、破砕状等の形状のものであってよい。
本発明で使用する(A)フィラーは、(A-1)平均粒径0.1?2μmのフィラー成分、(A-2)平均粒径2?20μmのフィラー成分、(A-3)平均粒径20?100μmのフィラー成分といった、3種類のフィラーを併用する。
(A-1)成分の平均粒径は、0.1μm以上2μm未満であり、0.2μm以上1μm以下が好ましく、0.3μm以上0.8μm以下がより好ましい。(A-2)成分の平均粒径は、2μm以上20μm未満であり、2以上10μm以下が好ましく、3.5μm以上8μm以下がより好ましい。(A-3)成分の平均粒径は、20μm以上100μm以下であり、30μm以上80μm以下が好ましく、35μm以上60μm以下がより好ましい。」

ウ 「【0017】
本発明で使用する(C)成分の硬化触媒は、特に限定されないが、前記加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールの縮合反応を促進する化合物であることが好ましい。(C)成分の硬化触媒としては、シラノール化合物の縮合触媒が好ましい。(C)成分としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ジブチル錫と正ケイ酸エチルの反応物等の有機錫化合物:ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N-メチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7(DBU)等のアミン系化合物又はこれらとカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物;ビスマスカルボキシレート、アビエチン酸ビスマス、ネオアビエチン酸ビスマス、d-ピマル酸ビスマス、イソ-d-ピマル酸ビスマス、ポドカルプ酸ビスマス、安息香酸ビスマス、ケイ皮酸ビスマス、p-オキシケイ皮酸ビスマス、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ネオドデカン酸ビスマス等のビスマス系硬化触媒、オクチル酸鉛、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトライソプロポギシド、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等のチタン系硬化触媒、バナジルトリエトキシド等の公知のシラノール縮合触媒が挙げられる。これらの中では、樹脂の柔軟性の観点から、ビスマス系硬化触媒が好しく、反応促進性の観点からチタン系硬化触媒が好ましい。」

(2) 甲1-2に記載された発明について
甲1-2には、上記摘示(1)アないしウからみて、請求項1、3及び10を引用する請求項12に係る発明である、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1-2請求項12発明」という。)。

「下記(A)?(D)成分を含有してなる組成物を含有してなる熱伝導性組成物。
(A)(A-1)平均粒径0.1以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、(A-3)平均粒径30μm以上80μm以下のフィラー成分を含有してなり、混合割合が、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である絶縁性を有する熱伝導性フィラー成分
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール
(C)チタン系硬化触媒
(D)シランカップリング剤」

(3) 本件特許発明1について
ア 甲1-2請求項12発明との対比・判断
甲1-2請求項12発明の「組成物を含有してなる熱伝導性組成物」、「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー成分」、「(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール」、「(D)シランカップリング剤」は、それぞれ、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」、「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー」、「(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール」、「(D)シランカップリング剤」に相当する。
甲1-2請求項12発明の「(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分」は、本件特許発明1の「(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分」に相当する。
甲1-2請求項12発明の「(A-1)平均粒径0.1以上2μm未満のフィラー成分」及び「(A-3)平均粒径30μm以上80μm以下のフィラー成分」と、本件特許発明1の「(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分」及び「(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分」とは、それぞれ、平均粒径の下限値及び上限値が一応相違している。
しかしながら、甲1-2請求項12発明の(A-1)フィラー成分及び(A-3)フィラー成分の平均粒径と、本件特許発明1の(A-1)フィラー成分及び(A-3)フィラー成分の平均粒径は、それぞれ、「0.2μm以上1μm以下」及び「35μm以上60μm以下」の範囲で重複している。
そして、甲1-2の摘示(2)には、「(A-1)成分の平均粒径は、0.2μm以上1μm以下が好ましく」、「(A-3)成分の平均粒径は、35μm以上60μm以下がより好ましい」と記載されているので、甲1-2請求項12発明の(A-1)及び(A-3)フィラー成分の平均粒径は、それぞれ、「0.2μm以上1μm以下」及び「35μm以上60μm以下」の範囲を実質的に包含するものであるといえる。
そうすると、甲1-2請求項12発明の(A-1)及び(A-3)フィラー成分の平均粒径と、本件特許発明1の(A-1)及び(A-3)フィラー成分の平均粒径は、それぞれ、「0.2μm以上1μm以下」及び「35μm以上60μm以下」の範囲で重複一致する。
そして、甲1-2請求項12発明の「混合割合が、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)が10?20質量%、(A-2)が25?35質量%、(A-3)が50?60質量%」は、本件特許発明1の「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である」に一致している。
ここで、甲1-2請求項12発明の「(C)チタン系硬化触媒」として、甲1-2の摘示(3)には「ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトライソプロポギシド、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等のチタン系硬化触媒」が記載されており、チタン系硬化触媒の選択肢は、全て、有機系であって、加水分解性シリル基を有するポリマー組成物の硬化触媒は有機系チタン系硬化触媒を使用することが出願時の技術常識といえるから(例えば、甲4の請求項1又は甲6の請求項1等)、甲1-2請求項12発明の「(C)チタン系硬化触媒」は、実質的に、有機チタン系硬化触媒であるといえるから、本件特許発明1の「C)有機チタン系硬化触媒」と実質的に一致している。
したがって、本件特許発明1と甲1-2請求項12発明とは、全ての点で一致しており、相違点は存在しないので、同一である。

イ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4) 本件特許発明2ないし6、8、11及び14について
本件特許発明2ないし6、8、11及び14は、それぞれ、本件特許発明1において、本件特許の請求項2ないし6、8、11及び14に記載された事項で特定するものであるが、当該事項は、それぞれ、甲1-2の請求項4ないし8、13、14及び15に記載された事項と同一であるから、本件特許発明2ないし6、8、11及び14は、それぞれ、甲1-2請求項12発明において、甲1-2の請求項4ないし8、13、14及び15に記載された事項で特定するものと、全ての点で一致しており、相違点は存在しないので、同一である。
したがって、本件特許発明2ないし6、8、11及び14は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5) 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示すこと」を特定するものである。
本件特許明細書の「本実施形態の組成物は、高精度固定した部材に塗布する点で、その硬化体が柔軟な物性を示すものであることが好ましい。硬化体の柔軟性としては、デュロメーターアスカー硬度計「CSC2型」による硬度が90以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。硬度が90以下であることが、硬化物による歪みが全く発生しない観点から、好ましい。」(【0035】)を参酌すれば、当該「熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示すこと」とは、「デュロメーターアスカー硬度計「CSC2型」による硬度が90以下」であるものを意味している。一方で、甲1-2の請求項11には「組成物の硬化体が、デュロメーターアスカー硬度計による硬度が90以下である」とされているから、甲1-2の請求項11を引用する甲1-2請求項12発明は、硬化体が柔軟な物性を示すものであるといえる。
そうすると、本件特許発明7は、甲1-2請求項12発明において、甲1-2の請求項11に記載された事項で特定するものと、全ての点で一致しており、相違点は存在しないので、同一である。
したがって、本件特許発明7は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(6) 本件特許発明9について
本件特許発明9は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」を「低アウトガス用」と特定するものである。
甲1-2の請求項14には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を含有する「放熱材」が記載されているが、「放熱材」が「低アウトガス用」、すなわち、「低アウトガス性が求められる用途」であることは、本件特許の優先権主張当時の技術常識であるとはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項14に記載された事項で特定する発明と本件特許発明9とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明9は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(7) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」を「光ピックアップモジュール用」と特定するものである。
甲1-2の請求項14には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を含有する「放熱材」が記載されているが、「放熱材」が「光ピックアップモジュール用」という用途であることは、本件特許の優先権主張当時の技術常識であるとはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項14に記載された事項で特定する発明と本件特許発明10とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明10は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(8) 本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物を含有してなる接着剤」と特定するものである。
甲1-2の請求項13には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を含有する「熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物」が記載されているが、「硬化型」という性質が「接着性」という性質を示すものではないし、「硬化型」という性質であれば「接着性」という性質を示すことが、本件特許の優先権主張当時の技術常識であるとはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項13に記載された事項で特定する発明と本件特許発明12とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明12は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(9) 本件特許発明13について
本件特許発明13は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物を含有してなる塗布剤」と特定するものである。
甲1-2の請求項15には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を「電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法」が記載されているが、「塗布することによ」る「放熱方法」と、「塗布剤」とは、単なるカテゴリーの変更とはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項15に記載された事項で特定する発明と本件特許発明13とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明13は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

2 平成29年4月7日付け取消理由で通知し、取消理由(決定の予告)で通知しなかった取消理由について
(1) 平成29年4月7日付け取消理由で通知し、取消理由(決定の予告)で通知しなかった取消理由の概要は次のとおりである。

(理由2)本件特許発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物甲1-1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(理由3)本件特許発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物甲1-1、又は、甲3、甲4、甲6ないし16に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反しており、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲1-1:国際公開第2011/125636号(申立書添付の甲第1号証の1)
甲3 :特開2001-302936号公報(申立書添付の甲第3号証)
甲4 :特開2003-147220号公報(申立書添付の甲第4号証)
甲6 :特開2002-249672号公報(申立書添付の甲第6号証)
甲7 :特開2001-348488号公報(申立書添付の甲第7号証)
甲8 :特開2008-260855号公報(申立書添付の甲第8号証)
甲9 :特開2009-179771号公報(申立書添付の甲第9号証)
甲10:特開2007-246861号公報(申立書添付の甲第10号証)
甲11:特開2007-277406号公報(申立書添付の甲第11号証)
甲12:特開2007-204510号公報(申立書添付の甲第12号証)
甲13:特開2010-235953号公報(申立書添付の甲第13号証)
甲14:特開2002-363429号公報(申立書添付の甲第14号証)
甲15:特開2010-242006号公報(申立書添付の甲第15号証)
甲16:特開2006-316175号公報(申立書添付の甲第16号証)

(2) 甲1-1に基づく取消理由(理由2及び3)について
甲1-1に基づく取消理由は、平成29年4月7日付け取消理由に記載したとおり、本件特許発明の優先権主張の基礎出願である特願2011-221850号(申立書に添付された甲第2号証、以下、「甲2」という。)には、本件特許発明1の「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす」ことは記載されていないし、甲2の明細書の記載事項の全てを総合しても導くことはできないから、本件特許発明は、優先権主張の利益を享受することができず、本件の出願日は実際の出願日であるとの前提のもとに、甲1-1を公知文献として、新規性及び進歩性についての取消理由を通知したものである。
しかしながら、本件訂正によって、本件特許発明1の「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす」との特定事項は、「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である」と訂正された(訂正事項2)ことによって、甲2の明細書に記載された範囲内のものとなったことから、本件特許発明は、優先権主張の利益を享受することができるものとなった。
したがって、甲1-1を公知文献として、新規性及び進歩性についての取消理由を通知したものである、甲1-1に基づく取消理由(理由2及び3)は、解消している。

(3) 甲3に基づく取消理由(理由3)について
ア 甲3発明
平成29年4月7日付け取消理由に記載したとおり、甲3には、次のとおりの発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「一分子中に2個以上の加水分解性シリル基を有する加水分解性シリル基含有化合物(A)、前記加水分解性シリル基含有化合物(A)を架橋させるための架橋性化合物(B)、及び、熱伝導性充填材(C)からなり、
加水分解性シリル基含有化合物(A)は、アルコキシシリル基が、ポリアルキレングリコール中に置換して存在する加水分解性シリル基含有ポリマーであり、
熱伝導性樹脂組成物には、必要に応じて物性調整剤として各種シランカップリング剤が添加される、
熱伝導性樹脂組成物。」

イ 本件特許発明1と甲3発明との対比・判断
甲3発明の「熱伝導性樹脂組成物」、「アルコキシシリル基が、ポリアルキレングリコール中に置換して存在する加水分解性シリル基含有ポリマー」、「各種シランカップリング剤である物性調整剤」、「からなり」は、それぞれ、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」、「(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール」、「(D)シランカップリング剤」、「含有する」に相当する。
甲3の記載からみて、甲3発明の「架橋性化合物(B)」と、本件特許発明1の「(C)有機チタン系硬化触媒」とは、「硬化触媒」である限りにおいて一致している。
甲3発明の「熱伝導性充填材(C)」と、本件特許発明1の「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー」とは、「熱伝導性フィラー」である限りにおいて一致し、甲3発明の「熱伝導性充填材(C)」が、絶縁性を有することは、甲3には記載されていない。
したがって、本件特許発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、

<一致点>
「下記(A)?(D)成分、
(A)熱伝導性フィラー、
(B)アルコキシシリル基が、ポリアルキレングリコール中に置換して存在する加水分解性シリル基含有ポリマー、
(C)硬化触媒、
(D)シランカップリング剤、
を含有する、
熱伝導性組成物。」

次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1では「(C)硬化触媒」が「(C)有機チタン系硬化触媒」に特定されているのに対して、甲3発明ではそのような特定がない点。

<相違点2>
本件特許発明1では「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー」であるのに対して、甲3発明では「熱伝導性充填材(C)」が、絶縁性を有することが特定されていない点。

<相違点3>
本件特許発明1では「前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、
(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である」と特定されているのに対して、甲3発明では、そのような特定がない点。

上記相違点3について検討する。
甲7ないし甲12の記載からみれば、熱伝導性充填材が高充填されて、熱伝導性に優れた成形物を得るために、熱伝導性組成物において、異なる粒径の熱伝導性充填材を組み合わせて添加すること、甲13の記載から、より大きい粒子の群の間により小さい粒子の群が存在して、充填可能なフィラー量を多くすることができることまでは理解できる。
また、甲7の実施例1及び3、甲8の実施例4、甲9の試料1?6、8、甲10の実施例4及び9、甲11の試料No.11、甲12の実施例15には、3種類の粒径の熱伝導性充填材が配合されており、その充填材の配合量の関係が、小粒径の配合量<中粒径の配合量<大粒径の配合量であることまでは示されている。
しかしながら、甲7ないし甲13に開示された平均粒径に基づく配合量の大小関係は一律に定まっているものではなく、平均粒径の大きい粒子がそれよりも小さい粒子と同量で配合された態様や、平均粒径の大きい粒子がそれよりも小さい粒子より少ない量で配合された態様など、種々の関係で配合された態様が混在するものであって、甲7ないし甲13に開示された内容は、平均粒径の大きい粒子を多く配合する態様が選択肢として可能であることを示唆するに留まるものであるといえる。
実際、平均粒径が異なる3種類の粒子の平均粒径をどの範囲で設定し、かつ、それらの配合割合をどのように選定するかは、適用される樹脂組成物の種類や必要とされる機能や用途などに応じて検討される事項であるといえる。
そうすると、甲3発明において、熱伝導性充填材が高充填されて、熱伝導性に優れた成形物を得るために、当該熱伝導性充填材(C)として、(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分という、3種類の特定粒径の熱伝導性充填材を併用し、かつ、それら充填材の配合割合を、「(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%」という特定の数値範囲とすることは、たとえ当業者であっても容易になし得ることではない。
そして、相違点3による効果について検討しても、本件特許発明1は、相違点3の特定事項とすることによって、作業性などに優れることは、本件の明細書の実施例と参考例とを対比すれば明らかであって、斯かる効果は、当業者が予測し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明及び甲7ないし甲13に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではなく、特許を受けることができないものではないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明2ないし14と甲3発明との対比・判断
本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではなく、特許を受けることができないものではないから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるとはいえない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。

(サポート要件)本件特許発明1ないし14は、3種類のフィラー成分として、平均粒径2μmを境界線として(A-1)成分と(A-2)成分とを切り分け、平均粒径20μmを境界線として(A-2)成分と(A-3)成分とを切り分けるものであるところ、実施例では各成分が1種類のみであって、境界値に近い成分の併用は単独で用いた場合と実質的に区別できないことから、本件特許発明1ないし14には、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えており、それらの特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきである。

そこで、検討する。
本件訂正によって、3種類のフィラー成分の平均粒径は、(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分に訂正されたことから、(A-1)成分と(A-2)成分との間及び(A-2)成分と(A-3)成分との間に境界線は存在しなくなった。したがって、境界値に近い成分の併用が単独で用いた場合と実質的に区別できない場合は除外された。
また、3種類のフィラー成分の平均粒径が実施例では各成分が1種類のみであるとしても、発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識によれば、本件特許発明1ないし14が、それらの発明の課題を解決することができることを当業者は認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえ、本件特許の明細書の記載は、いわゆるサポート要件を満たしている。
よって、申立人の主張するサポート要件の異議の申立ての理由によっては、本件特許発明1ないし14の特許を取り消すことはできない。



第6 むすび

以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし8、11及び14は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1ないし8、11及び14に係る特許は、同法第39条第1項に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、申立人の主張する申立の理由及び証拠方法によっては、本件特許発明9、10、12及び13が特許法第113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もなく、他に取り消すべき理由を発見しないから、本件特許発明9、10、12及び13に係る特許を取り消すことはできない。

よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
低アウトガス用熱伝導性組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有する組成物に関する。本発明は、例えば、発熱した熱を外部へ放熱させる放熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の集積化、高密度化、高性能化に伴い、電子部品自身の発熱量が大きくなってきている。熱によって、電子部品は、その性能が著しく低下、もしくは故障し得ることから、電子部品の効率的な放熱が重要な技術になってきている。
【0003】
電子部品の放熱方法として、発熱する電子部品と放熱器の間や、発熱する電子部品と金属製伝熱板との間に放熱材を導入し、電子部品から発生する熱を他の部材に伝えることにより、電子部品に蓄積させない方法が一般的である。この種の放熱材として放熱グリース、熱伝導性シート、熱伝導性接着剤等が用いられている。
【0004】
放熱グリースを用いた場合は、発熱量が多量であるため、グリース成分が蒸発してしまったり、グリース油と熱伝導性フィラーが分離してしまったりする。蒸発成分は、電子部品に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。フィラーと分離したグリース油は、電子部品から流出して電子部品を汚染する恐れがある(特許文献1参照)。
【0005】
熱伝導性シートを用いると、成分の流出の問題は解決するが、電子部品と放熱器等が、固体のシート状の物に押し付けられるため、両間の密着性に不安が残り、電子部品がずれてしまう恐れがある(特許文献2参照)。
【0006】
熱伝導性接着剤を用いると、その硬化性により、蒸発したり、液状成分が流れたり、電子部品を汚染したりすることはない。しかし、硬化の際に電子部品に応力がかかり、電子部品がずれてしまう恐れがある。接着した物を取り外す作業は困難であり、更に電子部品を破壊してしまう恐れがある(特許文献3参照)。
【0007】
それらに対して、電子部品と放熱材の間の表面部分のみが硬化し、内部には未硬化部分が残る熱伝導性接着剤が提案された。この熱伝導性接着剤は、電子部品と放熱材との密着性に優れ、内部に未硬化部分があるので、電子部品と放熱材との間の応力を取り除くことができ、取り外し作業を簡便にできる(特許文献4,5)。
【0008】
架橋性シリル基を平均して少なくとも一個有するビニル系重合体、及び、熱伝導性充填材を含有することを特徴とする放熱シート用組成物が記載されている(特許文献6)。
架橋性シリル基を平均して少なくとも一個有するビニル系重合体、及び、熱伝導性充填材を含有し、硬化前の粘度が3000Pa・s以下の、流動性を有する室温にて硬化可能な組成物を発熱体と放熱体との間に塗布した後、発熱体と放熱体との間にて硬化させてなる、硬化後の厚みが0.5mm未満の熱伝導材料が記載されている(特許文献7)。
シロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素含有基を有するポリオキシアルキレン系重合体および/またはシロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素含有基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体、α位に置換基を有するβ-ジカルボニル化合物でキレート化したチタニウムキレート、窒素置換基と加水分解性ケイ素基を有する化合物、を含有することを特徴とする硬化性組成物が記載されている(特許文献8)。
【0009】
最近では、更なる高熱伝導性に加えて絶縁性が要求され、用い得る熱伝導性フィラーが制限され、フィラーの高充填化が必要となってきている。
【0010】
更に、これら高熱伝導性接着剤の硬化触媒に使用されている材料として、主に有機錫系触媒が広く使用されているが、最近では有機錫系化合物の毒性が指摘されており、非有機錫系触媒を用いた材料設計が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3-162493号公報
【特許文献2】特開2005-60594号公報
【特許文献3】特開2000-273426号公報
【特許文献4】特開2002-363429号公報
【特許文献5】特開2002-363412号公報
【特許文献6】特開2006-274094号公報
【特許文献7】特開2010-543331号公報
【特許文献8】特開2005-325314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の熱伝導性接着剤は、未硬化成分が存在するため接着性に不安が残る、内部が未硬化であるために硬化時間が遅い、といった課題があった。更に絶縁性を付与した放熱材では、得られる熱伝導率に限りがあった。又、電子部品の小型化や製品の細部での使用のため、熱伝導性接着剤成分からのアウトガスによる、電子部品への汚染が指摘されてきている。アウトガスとは、例えば、ガス状汚染物質等の揮発成分をいう。加えて、環境上の問題で、非有機錫系触媒を使用しない材料設計が必要とされてきている。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、高い作業性、速い硬化性、高い熱伝導性、低アウトガス性を有する非有機錫系硬化型の組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは熱伝導性接着剤に関する研究する中で、下記(A’)?(D’)成分を含有する樹脂組成物を調整し、その物性を評価した。
(A’)フィラー
(B’)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール
(C’)硬化触媒
(D’)シランカップリング剤
しかしながら、単純にこれらの成分を混合しただけでは、高い作業性、速い硬化性、高い熱伝導性、及び低アウトガス性を有する樹脂組成物が得られないことに気がついた。
【0015】
その後、本発明者らはさらなる研究を行う過程で、上記の(A)?(D)成分を含有する樹脂組成物が、「有機チタン系硬化触媒」及び「平均粒径の異なる3種類の絶縁性を有する熱伝導性フィラー成分」を含有しているときにのみ、高い作業性、速い硬化性、高い熱伝導性、及び低アウトガス性を達成できることを発見した。このような「有機チタン系硬化触媒」及び「平均粒径の異なる3種類のフィラー成分」を併用すること、及びそれによって得られる効果は、上記の特許文献1-8には記載されておらず、本願発明者らが初めて明らかにしたことである。
【0016】
即ち本発明によれば、下記(A)?(D)成分、
(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー、
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、
(C)有機チタン系硬化触媒、
(D)シランカップリング剤、
を含有し、
前記(A)成分は、(A-1)平均粒径0.1μm以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径2μm以上20μm未満のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径20μm以上100μm以下のフィラー成分を含有する、熱伝導性組成物が提供される。
【0017】
なお好ましくは、上記(B)成分は、粘度300?3,000mPa・s、重量平均分子量3,000?25,000の加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである。好ましくは、上記(B)成分は、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである。好ましくは、上記(B)成分は、(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである。好ましくは、上記(B)成分は、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを含有してなる。好ましくは、上記(A)成分は、熱伝導性組成物全体に対して60?95質量%の量であり、上記(C)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量であり、上記(D)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量である。好ましくは、上記熱伝導性組成物から得られる硬化体は、柔軟な物性を示す。好ましくは、上記熱伝導性組成物は、湿気硬化型である。好ましくは、上記熱伝導性組成物は、低アウトガス用である。好ましくは、上記熱伝導性組成物は、光ピックアップモジュール用である。
【0018】
また本発明によれば、上記熱伝導性組成物を含有してなる、放熱材が提供される。また本発明によれば、上記熱伝導性組成物を含有してなる、接着剤が提供される。また本発明によれば、上記熱伝導性組成物を含有してなる、塗布剤が提供される。また本発明によれば、上記熱伝導性組成物を電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、高い作業性、速硬化性、高熱伝導性、低アウトガス性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0021】
本実施形態で使用する(A)成分のフィラーとしては、酸化アルミニウム等のアルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミ、窒化ホウ素等、熱伝導性が高く、絶縁性を有するフィラーが好ましい。熱伝導性フィラーは、球状、破砕状等の形状のものであってよい。
【0022】
本実施形態で使用する(A)成分のフィラーは、(A-1)平均粒径0.1μm以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径2μm以上20μm未満のフィラー成分、(A-3)平均粒径20μm以上100μm以下のフィラー成分といった、3種類のフィラーを併用してもよい。
【0023】
(A-1)成分の平均粒径は、高い作業性、速い硬化性、高い熱伝導性、及び低アウトガス性の観点からは、0.1μm以上2μm未満が好ましく、0.2μm以上1μm以下がより好ましく、0.3μm以上0.8μm以下が最も好ましい。この平均粒径は、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、又は1.99μmであってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。(A-2)成分の平均粒径は、高い作業性、速い硬化性、高い熱伝導性、及び低アウトガス性の観点からは、2μm以上20μm未満が好ましく、2μm以上10μm以下がより好ましく、3.5μm以上8μm以下が最も好ましい。この平均粒径は、例えば、2、3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、13、15、18、又は19.9μmであってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。(A-3)成分の平均粒径は、高い作業性、速い硬化性、高い熱伝導性、及び低アウトガス性の観点からは、20μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上80μm以下がより好ましく、35μm以上60μm以下が最も好ましい。この平均粒径は、例えば、20、30、35、40、45、50、55、60、70、80、90、又は100μmであってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。なお本実施形態において「平均粒子径」には、体積平均粒子径を採用してもよい。また平均粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径として求めてもよい。
【0024】
上記の3種類の(A)成分の混合割合としては、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)成分は5?25質量%、(A-2)成分は20?40質量%、(A-3)成分は45?65質量%が好ましい。最密充填を考慮する観点から、(A-1)成分は10?20質量%、(A-2)成分は25?35質量%、(A-3)成分は50?60質量%がより好ましい。なお、(A-1)成分は、例えば、5、10、15、20、25、又は30質量%であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。(A-2)成分は、例えば、15、20、25、30、35、40、又は45質量%であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。(A-3)成分は、例えば、40、45、50、55、60、65、又は70質量%であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たすことが好ましい。
【0025】
フィラーとしては、熱伝導性フィラーが好ましい。(A)成分としては、電子部品近辺に塗布する観点から、絶縁性を有する熱伝導性フィラーが好ましい。熱伝導性フィラーの絶縁性としては、電気抵抗値が10^(8)Ωm以上であることが好ましく、電気抵抗値が10^(10)Ωm以上であることがより好ましい。この電気抵抗値は、例えば、10^(8)、10^(9)、10^(10)、10^(11)、又は10^(12)Ωmであってもよく、それらいずれかの値以上、又はそれらいずれか2つの範囲内であってもよい。電気抵抗値とは、JIS R 2141に従って測定した、20℃体積固有抵抗をいう。
【0026】
(A)成分のフィラーの含有量は、本実施形態の熱伝導性組成物全体に対して60?98質量%が好ましく、70?97質量%がより好ましい。60質量%以上であれば熱伝導性能が十分であり、70質量%以上であれば特に熱伝導性能が優れている。また、98質量%以下であれば電子部品と放熱材との接着性が大きくなる。(A)成分のフィラーの含有量は、例えば、60、63、65、70、75、80、85、90、94、95、97、又は98質量%であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。
【0027】
本実施形態で使用する(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールは、ケイ素原子に加水分解性基が結合したポリアルキレングリコールをいう。例えば、ポリアルキレングリコールの分子鎖の両末端又は片末端に、加水分解性シリル基が結合した化合物等が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられる。これらの中では、ポリプロピレングリコールが好ましい。加水分解性基としては、例えば、カルボキシル基、ケトオキシム基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基等が結合したもの等が挙げられる(例えば、旭硝子社製「S-1000N」、カネカ社製「SAT-010」、「SAT-115」)。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。(B)成分の粘度は、ハンドリング性の観点からは、300?3,000mPa・sであることが好ましく、500?1,500mPa・sがより好ましい。この粘度は、例えば、300、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、2000、2500、又は3000mPa・sであってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。(B)成分の重量平均分子量は、3,000?20,000であることが好ましく、4,000?15,000がより好ましい。この重量平均分子量は、例えば、3000、4000、4500、5000、5500、6000、7000、10000、12000、15000、17000、17500、18000、18500、19000、又は20000mPa・sであってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。重量平均分子量とは、GPC(ポリスチレン換算)により測定した値をいう。具体的には、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソ-社製SC-8010)を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して重量平均分子量を求めた。
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、および東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
送液圧力:39kg/cm^(2)
検出器:RI検出器
【0028】
(B)成分の中では、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、又は(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールが好ましい。防振性が必要な場合、(B-1)成分と、(B-2)成分とを併用することが好ましい。(B-1)成分と、(B-2)成分とを併用する場合、それらの混合比は、質量比で、(B-1):(B-2)=2?50:50?98が好ましく、5?40:60?95がより好ましく、10?30:70?90が最も好ましい。また、(B-1)÷(B-2)で表される質量比率は、例えば、0、0.1、1.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。
【0029】
本実施形態で使用する(C)成分の有機チタン系硬化触媒は、前記加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールの縮合反応を促進する化合物であることが好ましい。又、低アウトガス性の観点から、硬化触媒の配位子を限定させることが好ましい。(C)有機チタン系硬化触媒としては、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等のアルコキシド系、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)等のケトエステル系、チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、チタニウム-テトラキス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、テトラキス-2-エチルヘキソキシチタン等のジオレート系、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)等のヒドロキシアミネート系、チタンラクテート等のヒドロキシアシレート系、テトライソプロピルチタネートが挙げられる。これらの中では、低アウトガスの観点より、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、チタニウム-テトラキス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、テトラキス-2-エチルヘキソキシチタンテトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトネートからなる群のうちの1種以上が好ましく、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、テトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトネートからなる群のうちの1種以上が最も好ましい。
【0030】
(C)成分の硬化触媒の含有量は、低アウトガスの観点より、(B)成分に対して0.01?10質量%が好ましく、0.1?5重量%がより好ましい。0.1質量%以上であれば硬化促進の効果が確実に得られるし、10質量%以下であれば充分な硬化速度を得ることができる。この含有量は、例えば、0.01、0.05、0.1、0.3、0.5、0.7、1、1.5、2、2.5、2.8、3、3.2、3.5、4、5、8、又は10質量%であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。
【0031】
本実施形態で使用する(D)成分のシランカップリング剤は、硬化性、安定性を向上させるために使用するものであり、公知のシランカップリング剤が使用可能である。シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシシリルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、安定性の観点から、ビニルトリメトキシシランが好ましい。これらの中では、硬化性の観点から、3-グリシドキシプロピルメチルトリメトキシシラン及び/又は3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましく、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0032】
(D)成分のシランカップリング剤の含有量は、(B)成分に対して0.1?20質量%が好ましく、1?15質量%がより好ましい。0.1質量%以上であれば保存安定性が十分であり、20質量%以下であれば硬化性と接着性が大きくなる。ビニルトリメトキシシランの場合は、(B)成分に対して0.1?5質量%が好ましい。3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランの場合は、(B)成分に対して7?15質量%が好ましい。なおこの含有量は、例えば、0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、又は20質量%であってもよく、それらいずれか2つの範囲内であってもよい。
【0033】
本実施形態では、更に添加剤として、有機溶剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、チクソ性付与剤等も必要により使用することができる。
【0034】
本実施形態の組成物は、例えば、熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物である。本実施形態の熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物は空気中の湿分により硬化することができる。
【0035】
本実施形態の組成物は、高精度固定した部材に塗布する点で、その硬化体が柔軟な物性を示すものであることが好ましい。硬化体の柔軟性としては、デュロメーターアスカー硬度計「CSC2型」による硬度が90以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。硬度が90以下であることが、硬化物による歪みが全く発生しない観点から、好ましい。
【0036】
本実施形態の組成物は、例えば、CPUやMPU等の演算回路、光ピックアップモジュール等の精密機器を使用したレーザーダイオードに適用される。本実施形態の組成物は、例えば、金属製伝熱板等の放熱材として使用される。
【0037】
本実施形態の組成物は、上記精密機器等に使用されるため、電子部品への汚染を抑えることが好ましい。電子部品への汚染を測定する一つの指針として、本実施形態の組成物の硬化体のアウトガス成分を測定することが挙げられる。硬化体からのアウトガス成分の全体量が少なければ電子部品への汚染性も低減できる。アウトガス成分の測定としては、硬化体をバイアル瓶に採取し、窒素ガスにて置換・封入し、バイアル瓶を70℃×4hrs加熱後、気層部をヘッドスペースガラガスクロマトグラフ-質量分析(Combi-PAL Agilent 6890GC-5973N HS-GC-MS システム)により測定し、検出された総イオン量のうち検出されるm/z値が50?500の成分が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。この質量分析において、%とは、m/z値のピーク面積の%をいう。
【0038】
本発明の一実施形態は、上記熱伝導性組成物を硬化して得られる硬化体である。この硬化体は、柔軟性と低アウトガス性に優れている。また、本発明の一実施形態は、上記硬化体を用いた、電子部品におけるアウトガスの抑制方法である。
【0039】
なお、本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。結果を表1?7に示した。
【0042】
(実施例1)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール(ベースポリマーA、粘度800mPa・s、重量平均分子量5,000、カネカ社「SAT115」)30g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール(ベースポリマーB、粘度1,300mPa・s、重量平均分子量18,000、旭硝子社「S-1000N」)70g、チタン系硬化触媒A(ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、日本曹達社「T-50」)3g、熱伝導性フィラーA-1(平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム、電気抵抗値が10^(11)Ωm以上、住友化学社製「AA-05」)240g、熱伝導性フィラーA-2(平均粒径5μmの酸化アルミニウム、電気抵抗値が10^(11)Ωm以上、電気化学工業社製「DAW-05」)480g、熱伝導性フィラーA-3(平均粒径45μmの酸化アルミニウム、電気抵抗値が10^(11)Ωm以上、電気化学工業社製「DAW-45S」)880g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0043】
(実施例2)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 880g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0044】
(実施例3)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール10g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール90g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 880g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0045】
(実施例4)
メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール100g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 880g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0046】
(実施例5)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 160g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 960g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0047】
(実施例6)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 320g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 800g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0048】
(参考例7)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 400g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 720g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0049】
(実施例8)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 160g、熱伝導性フィラーA-2 560g、熱伝導性フィラーA-3 880g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0050】
(実施例9)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 320g、熱伝導性フィラーA-2 400g、熱伝導性フィラーA-3 880g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0051】
(参考例10)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 320g、熱伝導性フィラーA-3 1040g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0052】
(実施例11)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 400g、熱伝導性フィラーA-3 960g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0053】
(実施例12)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 560g、熱伝導性フィラーA-3 800g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0054】
(参考例13)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 640g、熱伝導性フィラーA-3 720g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0055】
(実施例14)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒A3g、熱伝導性フィラーA-1 264g、熱伝導性フィラーA-2 530g、熱伝導性フィラーA-3 968g、ビニルトリメトキシシラン3g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0056】
(実施例15)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒B(チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTA-30」)0.5g、熱伝導性フィラーA-1 264g、熱伝導性フィラーA-2 530g、熱伝導性フィラーA-3 968g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン13g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0057】
(実施例16)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒C(チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC-200」)0.5g、熱伝導性フィラーA-1 264g、熱伝導性フィラーA-2 530g、熱伝導性フィラーA-3 968g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン13g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0058】
(実施例17)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒D(テトライソプロピルチタネート、マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTA-10」)0.5g、熱伝導性フィラーA-1 264g、熱伝導性フィラーA-2 530g、熱伝導性フィラーA-3 968g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン13g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0059】
(実施例18)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒E(チタンアセチルアセトネート、マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC-100」)0.5g、熱伝導性フィラーA-1 264g、熱伝導性フィラーA-2 530g、熱伝導性フィラーA-3 968g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン13g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0060】
(実施例19)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール20g、メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール80g、チタン系硬化触媒E(チタンアセチルアセトネート、マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC-100」)3g、熱伝導性フィラーA-1 264g、熱伝導性フィラーA-2 530g、熱伝導性フィラーA-3 968g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン13g、を混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0061】
(比較例1)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ビスマス系硬化触媒(有機金属化合物、日本化学産業製「プキャットB7」)3g、熱伝導性フィラーA-1(平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム、電気抵抗値が10^(11)Ωm以上)400g、熱伝導性フィラーA-2(平均粒径5μmの酸化アルミニウム、電気抵抗値が10^(11)Ωm以上)480g、熱伝導性フィラーA-3(平均粒径45μmの酸化アルミニウム、電気抵抗値が10^(11)Ωm以上)720g、ビニルトリメトキシシラン3g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0062】
(比較例2)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ビスマス系硬化触媒3g、熱伝導性フィラーA-1 240g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 880g、ビニルトリメトキシシラン3g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0063】
(比較例3)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ビスマス系硬化触媒3g、熱伝導性フィラーA-1 80g、熱伝導性フィラーA-2 1520g、ビニルトリメトキシシラン3g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0064】
(比較例4)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ビスマス系硬化触媒3g、熱伝導性フィラーA-1 10g、熱伝導性フィラーA-2 1590g、ビニルトリメトキシシラン3g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0065】
(比較例5)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ビスマス系硬化触媒3g、熱伝導性フィラーA-1 480g、熱伝導性フィラーA-3 1120g、ビニルトリメトキシシラン3g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0066】
(比較例6)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ビスマス系硬化触媒3g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 1120g、ビニルトリメトキシシラン3g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0067】
(比較例7)
比較として市販されている湿気硬化型放熱樹脂「製品名:ThreeBond 2955(スリーボンド社製)」を評価した。
【0068】
(実施例20?22)
表6に示す組成の熱伝導性樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0069】
(比較例8?12)
表7に示す組成の熱伝導性樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0070】
(平均粒径評価)
平均粒径評価は「島津製作所製 SALD-2200」を用い、レーザー回析・散乱法にて測定した。
【0071】
(熱伝導率評価)
上記で得られた各組成物を使用して熱伝導率の評価を行った。熱伝導率の評価は、「NETZSCH社製 LFA447」を用い、レーザーフラッシュ法にて、25℃で測定した。熱伝導率は物質中の熱の伝わり易さを表す値であり、熱伝導率は大きいほうが好まれる。
【0072】
(タックフリー評価)
23℃・50%RH雰囲気下にて上記で得られた組成物を幅20mm×長さ20mm×厚さ5mmの型枠に流し込んで暴露させ、触指した。流し込んでから指に付着しなくなるまでの時間をタックフリー時間と定義し評価を行った。タックフリー時間は作業性や硬化性の一つの指針であり、タックフリー時間が長すぎると生産性が落ち、タックフリー時間が短すぎると作業途中で硬化が始まり、不良の発生原因となる。作業状況により求められるタックフリー時間の範囲は変わってくるが、作業性が良い観点から、10?70分が好ましく、40?60分がより好ましい。
【0073】
(硬度評価)
幅60mm×長さ40mm×厚さ5mmの各組成物を23℃・50%RH雰囲気下で10日間養生した試験片について、アスカー高分子計器社製、デュロメーターアスカー硬度計「CSC2型」により硬度の測定を行った。測定値が小さい場合、柔軟性を有する。
【0074】
(粘度測定)
粘度は、適切な値を示すことが好ましい。粘度の評価は「Anton Paar社製レオメーター(型番:MCR301)」を用いて測定した。粘度測定はハンドリング性の一つの指針であり、粘度が高すぎると塗布性が悪く作業できなくなる。熱伝導性を向上させたい場合にはフィラー充填量を多くすると良いがハンドリング性が悪くなるため、粘度は、小さいことが好ましい。液状成分が流れたり、電子部品を汚染したりするのを防ぐためには、粘度は、大きいことが好ましい。
【0075】
(アウトガス測定)
各組成物の0.2gを20mLのバイアル瓶に採取し窒素ガスにて置換・封入した。70℃×4Hrs.加熱後の気層部をヘッドスペース-ガスクロマトグラフ-質量分析(HS-GC-MS)にて測定した。検出される総イオン量のうち検出されるm/z値50?500の成分が全体の15%以下であればアウトガス性は問題なしとし、10%以下であれば特に問題なしとした。%は、検出されるm/z値のピーク面積の%である。15%以下であればアウトガス性は問題なしとする理由は、電子部品への汚染性を確認したところ、問題とならない基準値であったためである。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

【0083】
以上の結果によると、本発明は優れた効果を示すことが分かる。実施例1?6、実施例8?9、実施例11?12、実施例14?22は、3種類の(A)成分の混合割合が、より好ましい範囲内にあるため、より優れた効果を示す。また、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを併用した場合、実施例1?3、実施例5?21は、3種類の(A)成分と2種類の(B)成分の混合割合が、より好ましい範囲内にあるため、より優れた効果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本熱伝導性組成物は、例えば、熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物である。本熱伝導性組成物は、高い作業性と高い熱伝導性を有し、硬化後の柔軟性と速硬化性が非常に良好であり、高精度に固定化された電子部品の放熱媒体として最適である。本熱伝導性組成物は、硬化速度が向上するため、高い生産性を有する。本熱伝導性組成物は、硬化の際に電子部品に応力をかけないほど軟らかい柔軟性を示す。本熱伝導性組成物は低アウトガス性を示すため、電子部品への汚染が低減されており、高い耐久性を有する電子部品を得ることができる。特に、光ピックアップモジュール等の精密機器に使用した場合、レーザーダイオードへの汚染が無く、レーザーダイオードは長期耐久性を有する。光ピックアップモジュールは、例えば、レーザーダイオード等の発光素子からの出射光を各種レンズ、プリズム、ミラー等を介して対物レンズに導き、光ディスク上で集光させた後に、光ディスクからの戻り光を、各種レンズ、プリズム、ミラー等を介してフォトダイオード等で受光し、光電気信号に変換する構成になっている。光ピックアップモジュールは、光ディスクの記録・再生に用いられる。本熱伝導性組成物を光ピックアップモジュールにおける放熱材(例えば、対物レンズを固定する電子部品への塗布剤や、電子部品を接着するための接着剤)に使用した場合、各種レンズ等に付着するアウトガスの量が少なくなるので、各種レンズ等の光学特性が低下し難い。
【0085】
本熱伝導性組成物は、例えば、放熱材、接着剤、塗布剤として使用できる。本熱伝導性組成物は、例えば、1剤常温湿気硬化型放熱材として使用できる。本熱伝導性組成物を発熱する電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)?(D)成分、
(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー、
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、
(C)有機チタン系硬化触媒、
(D)シランカップリング剤、
を含有し、
前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、
(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10?20質量%、(A-2)は25?35質量%、(A-3)は50?60質量%である、
熱伝導性組成物。
【請求項2】
(B)成分が、粘度300?3,000mPa・s、重量平均分子量3,000?25,000の加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1?2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
(B)成分が、(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1?2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを含有してなる請求項1?2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
(A)成分は熱伝導性組成物全体に対して60?95質量%の量であり、(C)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量であり、(D)成分は(B)成分に対して0.01?10質量%の量である請求項1?5のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示す、請求項1?6のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
湿気硬化型である請求項1?7のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
低アウトガス用である請求項1?8のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
光ピックアップモジュール用である請求項1?9のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる放熱材。
【請求項12】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる接着剤。
【請求項13】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる塗布剤。
【請求項14】
請求項1?10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-29 
出願番号 特願2013-537579(P2013-537579)
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (C08F)
P 1 651・ 4- ZDA (C08F)
P 1 651・ 121- ZDA (C08F)
P 1 651・ 113- ZDA (C08F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 井津 健太郎  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小野寺 務
大島 祥吾
登録日 2016-07-15 
登録番号 特許第5970462号(P5970462)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 低アウトガス用熱伝導性組成物  
代理人 正林 真之  
代理人 正林 真之  

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