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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1338166
異議申立番号 異議2017-700740  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-28 
確定日 2018-03-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6073980号発明「内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6073980号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6073980号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年6月29日にされた出願であって、平成29年1月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年7月28日に、特許異議申立人津崎愛美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、当審において、平成29年9月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年11月17日に意見書が提出された。そして、平成29年12月27日に、申立人から上申書が提出された。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
容器の内側から外側に順に、下記の内層、ポリビニルアルコールを含む酸素バリアー層および耐光安定剤を含む下記の外層を少なくとも積層してなる各層が透明性を有する超高純度薬品用吹込み成形積層容器であって、波長500?800nmの可視光の透過率が35%以上であり、波長200?400nmの紫外線透過率が1%以下であり、かつ貯蔵している薬品中へ容器側から浸出する不純微粒子の個数を示す指数としてのクリーン度が5個/ml以下であることを特徴とする内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器。
内層:エチレン、プロピレン、ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1から選択される少なくとも1種類を含む単独重合体あるいは共重合体から成る下記の特性を有する高密度ポリエチレン。
中和剤、酸化防止剤、および耐光安定剤を意図的には添加せず、最大含有量0.005質量%以下、
クリーン度:5個/ml以下
密度:950?962Kg/m^(3)
重量平均分子量:18万?25万
分子量1,000以下の成分:0.4質量%以下
分子量分布(Mw/Mn):12以下
HL-MFR(190℃、21.6Kg荷重 g/10min):6.5?9.5
外層:下記特性を有する高密度ポリエチレンと、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤とトリアジン系耐光安定剤を各0.05?0.30質量%と、カルボン酸系造核剤、燐酸エステル金属塩系造核剤およびソルビトール系造核剤からなる群から選択される少なくとも1種の造核剤を0.5?2.5質量%と、フェノール系、リン系、サルファー系酸化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の酸化防止剤を0.05?0.30質量%とを少なくとも含む樹脂組成物からなる。
(特性)
密度:940?962Kg/m^(3)
重量平均分子量:22万?26万
分子量分布(Mw/Mn):12以下
溶融張力:20?30g
HL-MFR(190℃、21.6Kg荷重 g/10min):5?7
【請求項2】
前記内層と酸素バリアー層および前記酸素バリアー層と外層を無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂から成る接着層により積層してなることを特徴とする請求項1記載の超高純度薬品用吹込み成形積層容器。
【請求項3】
前記バリアー層が、下記の特性を有する酸素バリアー性に優れたエチレンビニルアルコール共重合樹脂であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の吹込み成形積層容器。
(特性)
MFR(210℃、2.16Kg荷重 g/10min):2?5
密度(Kg/m^(3)):1.1?1.3
融点(℃):170?200」

第3 取消理由の概要
本件発明1?3のそれぞれに係る特許に対して、平成29年9月21日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。本取消理由の通知によって、本件特許異議の申立てに係る全ての取消理由が通知された。
なお、甲第1号証等を、以下、「甲1」等といい、甲1等に記載された発明あるいは事項を、以下、「甲1発明」等あるいは「甲1事項」等という。

【理由1】(進歩性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



< 刊 行 物 一 覧 >

甲1:特開2010-42824号公報
甲2:特開平11-171923号公報
甲3:特許第5706512号公報
甲4:特開2012-106494号公報
甲5:特開平11-290420号公報
甲6:特開2008-45122号公報
甲7:特開2004-331706号公報

【理由1】(進歩性)について
本件発明1?3の各々は、甲1発明、甲2事項、甲3事項、及び、甲4?7に例示される従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。

第4 当審の判断
1. 甲1
甲1の【請求項1】、【0011】、【0013】、【0015】、【0016】、【0019】、【0025】、【0031】、【0035】?【0037】、【0039】の記載、特に【0037】等に記載された「(実施例1)」に着目すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認める。
「順次積層された多層構造であり、添加剤不含有の高密度ポリエチレン樹脂で形成された最内層、
エチレン-ビニルアルコール共重合体で形成されたガスバリア層及び
酸化亜鉛を含有する紫外線遮断樹脂層の最外層を有し
高純度フォトレジストのような感光性薬品である収容薬品を外部から確認できる視認性を有し、多層ブロー成形容器である収容薬品視認性紫外線遮断多層容器であって、
400nm?800nmの波長領域での透過率が少なくとも25%であり、
1nm?380nmの紫外波長領域での吸光度がすくなくとも3.0であり、
検査容器内に超純水を一定期間充填していた超純水1.0ml中に0.1μmの粒子がいくつ存在するかを算出するクリーン度が500個/ml未満とする多層ブロー成形容器である収容薬品視認性紫外線遮断多層容器。
最内層:下記の特性を有する高密度ポリエチレン。
高密度ポリエチレン樹脂製の最内層が添加剤、例えば中和剤、酸化防止剤、耐光安定剤などを一切含有せず、上記クリーン度が500個/ml未満であり、
最内層が0.951g/cm^(3)であって、メルトフローレイトが0.15g/10分である高密度ポリエチレン樹脂層であり、
最外層が密度0.946g/cm^(3)であって、メルトフローレイトが0.30g/10分である高密度ポリエチレンであり、
最内層とガスバリア層及び外層とガスバリア層とを接着する接着樹脂としてポリエチレンに無水マレイン酸がグラフト重合した樹脂である。
ガスバリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体である。」

2. 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点>
超高純度薬品用吹き込み成形積層容器の薬品と接する内側の層を成す高密度ポリエチレンの特性について、
本件発明1の「内層」は、
「エチレン、プロピレン、ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1から選択される少なくとも1種類を含む単独重合体あるいは共重合体から成る下記の特定を有する高密度ポリエチレン。
中和剤、酸化防止剤、および耐光安定剤を意図的には添加せず、最大含有量0.005質量%以下、
クリーン度:5個/ml以下
重量平均分子量:18万?25万
分子量1,000以下の成分:0.4質量%以下
分子量分布(Mw/Mn):12以下
HL-MFR(190℃、21.6Kg荷重 g/10min):6.5?9.5」であるのに対し、
甲1発明の「最内層」は、高密度ポリエチレンではあるものの、「エチレン、プロピレン、ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1から選択される少なくとも1種類を含む単独重合体あるいは共重合体から成る」ものであるかは不明であって、かつ、クリーン度が、検査容器内に超純水を一定期間充填していた超純水1.0ml中に0.1μmの粒子がいくつ存在するかを算出するクリーン度が500個/ml未満であって、重量平均分子量や分子量1000以下の成分の質量割合、そして、分子量分布が明らかではなく、「メルトフローレイト」が、「0.15g/10分」ではあるものの、「HL-MFR(190℃、21.6Kg荷重 g/10min)」との関係が一応不明である点。

3. 相違点についての検討
甲1発明の最内層は、高密度ポリエチレンではあるものの、上記相違点に係る構成を備えたものとすることは記載されていないし、示唆する記載もない。また、他の甲号証をみても、そのような記載はないし、示唆する記載もない。
そして、本件特許明細書には以下の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器に関するものであり、さらに詳しくは、耐薬品性や機械的強度などに優れ、保管貯蔵している超高純度薬品などの中へ容器側から浸出する不純微粒子の個数を示す指数としてのクリーン度が5個/ml以下と非常に少ない吹込み成形(ブロー成形)積層容器であって、収容した内容液を外部から目視確認できるという、透明硝子瓶に匹敵する視認性を有するとともに、収容した内容液の変質を防止できる紫外線遮断性、酸素バリアー性などにも優れており、低コストで経済性に優れた、内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、薬品を保存する容器としてガラス容器やプラスチック製の容器が用いられていたが、特に半導体分野では、貯蔵している超高純度薬品類を超高純度のまま保存することが必要である。・・・
【0003】
ポリエチレン系樹脂が内層となる単層または多層積層容器は取り扱い時に割れにくく、軽量であるという長所があるが、半導体製造においてエッチングや洗浄に使用される高純度薬品・・・および殺菌、消毒、製剤原料などの医薬用に使用される高純度な溶剤・・・などは保管貯蔵している間に、容器を形成している樹脂組成物や添加剤から貯蔵している薬品中へ不純微粒子が浸出し、薬品の純度を損なうという問題がある。
【0004】
このために半導体自体や、液晶の品質などおよび歩留りに著しい悪影響を及ぼす問題を解決する必要がある他に、薬品が変質して保存期間が短くなるという問題を解決するために紫外線遮断性、酸素バリアー性などを備えた容器が求められている。
集積回路などの微細加工に用いられるレジスト液などの超高純度薬品液には微細な不純微粒子の浸出を極限まで少なくする必要があり、現在、使用される容器の大部分はガラス瓶である。
しかしガラス容器は容器自体が重いため取り扱いが不便である上、落下などにより割れてしまう問題があり、安全性に劣り、割れて薬品が漏れると環境汚染や健康問題も発生する。
【0005】
薬品を容器中に長期間貯蔵している間に、容器側から内容物である薬品中に不純微粒子が浸出し、この不純微粒子が内容物を不純化する度合いを示す指数としてクリーン度がある。
クリーン度は、一旦、検査容器を成形し、その検査容器に一定期間超純水を貯蔵した後、容器が貯蔵していた水1ml中に粒径0.2μm以上の微粒子がいくつ存在するかを示すものである。・・・
【0006】
・・・
従来は、前記測定法で測定されたクリーン度(不純微粒子(パーティクル)個/ml)が500個/ml未満であると、半導体、液晶の品質および歩留りを向上することができるとされていた。
しかし、現在はさらに厳しくなり、5個/ml以下が要求される場合が多くなっている。」
「【0015】
本出願人は先に、容器の内側から外側に順に、下記の内層、バリアー兼接着樹脂層、接着層、バリアー層、接着層および外層を積層してなる耐薬品性吹込み成形積層容器であって、前記各層が透明性を有する透明性に優れた耐薬品性吹込み成形積層容器を提案した・・・。
内層:フッ素樹脂
バリアー兼接着樹脂層:特殊ポリアミド樹脂
接着層:無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂
バリアー層:エチレンビニルアルコール共重合樹脂
接着層:無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂
外層:超高分子量高密度ポリエチレン樹脂
【0016】
本出願人が先に提案した透明性に優れた耐薬品性吹込み成形積層容器は、耐薬品性や機械的強度などに優れ、保管貯蔵している薬品や香料などの中への不純粒子の浸出が少なく、クリーン度が5個/ml以下であり、収容した内容液を外部から目視確認できるという、透明硝子瓶に匹敵する視認性を有するとともに、紫外線遮断性、酸素バリアー性にも優れているものであるが、内層としてテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/単量体(α)共重合体などのフッ素樹脂およびバリアー兼接着樹脂層として添加剤や潤滑剤などの添加物を含有しない特殊ポリアミド樹脂など高価な樹脂を使用するので、コストアップとなり経済性が劣るという問題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、内層として前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/単量体(α)共重合体などのフッ素樹脂およびバリアー兼接着樹脂層として添加剤や潤滑剤などの添加物を含有しない特殊ポリアミド樹脂など高価な樹脂を使用することなく、収容した内容液を外部から目視確認できるという、透明硝子瓶に匹敵する視認性を有するとともに、保管貯蔵している超高純度薬品などの中への容器側からの不純粒子の浸出が非常に少なく、クリ-ン度5個/ml以下を達成した超高純度薬品用吹込み成形積層容器であって、耐薬品性や機械的強度などに優れ、収容した内容液の変質を防止できる紫外線遮断性、酸素バリアー性や酸化防止性に優れている、低コストで経済性に優れた、内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、従来の問題を解決するために、鋭意研究の結果、容器の内側から外側に順に、接液面となる内層として中和剤、酸化防止剤、および耐光安定剤を意図的には添加せず、最大含有量0.005質量%以下、クリーン度が5個/ml以下、分子量1,000以下の成分が0.4質量%以下などの特性を有する高密度ポリエチレンを使用し、ポリビニルアルコールを含む酸素バリアー層および耐光安定剤を含む高密度ポリエチレン樹脂組成物の外層を少なくとも積層してなり、これらの層を含む各層がそれぞれ視認性を有する、波長500?800nmの可視光の透過率が35%以上である超高純度薬品用吹込み成形積層容器が、収容した内容液を外部から目視確認できるという、透明硝子瓶に匹敵する視認性を有するとともに、保管貯蔵している超高純度薬品などの中への容器側からの不純粒子の浸出が非常に少なく、クリーン度5個/ml以下を達成でき、かつ耐光安定剤を含む特定の高密度ポリエチレンの外層を設けたので、ドローダウンしないなどの加工特性に優れ、溶融加工・急冷却するという通常の成形加工条件で多層成形された吹込み成形積層容器の外層は緻密な小結晶集合体から構成されるので、視認性が一層向上し、耐薬品性や機械的強度などに優れ、波長200?400nmの紫外線透過率が1%以下であり、収容した内容液の変質を防止できる紫外線遮断性に優れており、かつ酸素バリアー性や酸化防止性に優れており、高価で危険性の高い化学物質も多い超高純度薬品の容器として対応でき、低コストで経済性に優れた、内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器を提供できることを見いだし、本発明を成すに到った。
【0020】
前記課題を解決するための本発明の請求項1は、容器の内側から外側に順に、下記の内層、ポリビニルアルコールを含む酸素バリアー層および耐光安定剤を含む下記の外層を少なくとも積層してなる各層が透明性を有する超高純度薬品用吹込み成形積層容器であって、波長500?800nmの可視光の透過率が35%以上であり、波長200?400nmの紫外線透過率が1%以下であり、かつ貯蔵している薬品中へ容器側から浸出する不純微粒子の個数を示す指数としてのクリーン度が5個/ml以下であることを特徴とする内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器である。
【0021】
内層:エチレン、プロピレン、ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1から選択される少なくとも1種類を含む単独重合体あるいは共重合体から成る下記の特性を有する高密度ポリエチレン。
中和剤、酸化防止剤、および耐光安定剤を意図的には添加せず、最大含有量0.005質量%以下、
クリーン度:5個/ml以下
密度:950?962Kg/m^(3)
重量平均分子量:18万?25万
分子量1,000以下の成分:0.4質量%以下
分子量分布(Mw/Mn):12以下
HL-MFR(190℃、21.6Kg荷重 g/10min):6.5?9.5
・・・」

そうすると、本件発明1は、耐薬品性吹込み成形積層容器において、内層を上記相違点に係る構成を備えたものとすることによって、内層に高価なフッ素樹脂を使うことなく、少なくとも、本件発明1で特定された「ポリビニルアルコールを含む酸素バリアー層」及び「耐光安定剤を含む外層」とを、容器の内側から外側に順に積層することで、超高純度薬品用吹込み成形積層容器を、耐薬品性や機械的強度などに優れ、保管貯蔵している超高純度薬品などの中へ容器側から浸出する不純微粒子の個数が5個/mlと、従来よりも厳しいクリーン度を満足する吹込み成形(ブロー成形)積層容器を得ることができ、かつ、その容器は、内容液を外部から目視確認できるほどの、透明硝子瓶に匹敵する視認性を有すると同時に、収容した内容液の変質を防止できる紫外線遮断性、酸素バリアー性などにも優れている、低コストで経済性に優れた、内容物の視認性に優れたものとできる、との格別な作用効果を奏するものである。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲2事項、甲3事項、及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができものではない。

4. 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、いずれも本件発明1を引用するものである。そうすると、上記3.に示したように、本件発明1は、甲1発明、甲2及び3事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された、本件発明2及び3のいずれも、甲1発明、甲2及び3事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5. 申立人が提出した平成29年12月27日付け上申書について
平成29年11月17日付け意見書において、特許権者は、乙第1号証及び乙第2号証を提出して、甲1発明は、光触媒機能を有する酸化亜鉛を含む高密度ポリエチレン樹脂を最外層に備えたものであるから、甲1発明に、甲2発明や甲3発明を組み合わせると、当該光触媒機能によって、甲2発明、甲3発明の耐光安定剤、造核剤、酸化防止剤が分解され、分解後の物質によって、容器の視認性が低下する、あるいは、容器充填溶液を汚染する等の問題点が生じる可能性がある、旨主張しているところ、申立人は、上記上申書において、「酸化亜鉛の近傍の有機物が分解されたとしても、乙第1号証、乙第2号証の何れからも、多層容器の最外層にあるその有機物の分解物が最内層にまで拡散して溶出することや多層容器の透明性を損なうことは、窺い知れない。」(3ページ下から2行?4ページ3行)等と反論している点について検討する。
上記3.及び4.に示したように、最外層の高密度ポリエチレン樹脂に酸化亜鉛を含むことで、上記問題点が生じるか否かにかかわらず、甲1発明の最内層は、高密度ポリエチレンではあるものの、上記相違点に係る構成を備えたものとすることは記載されていないし、示唆する記載もない。また、他の甲号証をみても、そのような記載はないし、示唆する記載もない。本件発明1?3は、当該構成を備えることで、上記3.に示した格別な作用効果を奏するものであるから、本件発明1?3は、当業者が甲1発明、甲2事項、甲3事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、申立人の上記上申書に記載の主張は当を得たものではなく、採用できない。

6. 小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3の各々は、当業者が容易に発明することができたものではないから、本件発明1?3の各々は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1?3の各々に係る特許は、特許法第113条第2項に該当せず、取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1?3の各々に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2018-03-07 
出願番号 特願2015-129849(P2015-129849)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 家城 雅美  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 久保 克彦
谿花 正由輝
登録日 2017-01-13 
登録番号 特許第6073980号(P6073980)
権利者 コダマ樹脂工業株式会社
発明の名称 内容物の視認性に優れた超高純度薬品用吹込み成形積層容器  
代理人 吉澤 大輔  
代理人 秋元 輝雄  
代理人 秋元 正哉  

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