• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1338535
審判番号 不服2016-18887  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-16 
確定日 2018-03-14 
事件の表示 特願2015-104149「単一非球面共通光学素子露光機レンズセット」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-218299〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月22日の出願であって、平成28年1月22日付けで拒絶理由が通知され、同年7月20日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月31日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年12月16日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年12月16日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の補正事項
ア 本件補正は、平成28年7月20日付けで補正された、以下の特許請求の範囲、明細書の段落【0009】、【0019】の記載(以下、「補正前」という。)、
「 【請求項1】
順に、第一レンズと第二レンズ及び第三レンズが配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成され、上記第一レンズが非球面で、上記第一と第三レンズが正の屈折力で、上記第二レンズが負の屈折力であり、また、上記第一と第三レンズとの屈折力の比が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの屈折力の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三レンズと反射レンズセットとの間隙よりも小さい共通光学素子セットと、
上記第三レンズの下方に配置され、光経路を反射して開口率を制御する球面反射鏡と、
第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセットと、
が含有される、
ことを特徴とする単一非球面共通光学素子露光機レンズセット。
【請求項2】
上記共通光学素子セットは、単一非球面の第一レンズで、光収差校正を行うことを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。
【請求項3】
上記光学素子露光機レンズセットの機器物件は、露光マスクや書き込み光源であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。
【請求項4】
上記光学素子露光機レンズセットの機器物件のパターンは、順に、上記第一平面反射鏡や上記共通光学素子セット、上記球面反射鏡及び上記第二平面反射鏡を通し、その中、光が、上記第一平面反射鏡によって、上記共通光学素子セットの一面が非球面である第一レンズと第二レンズ及び第三レンズに導入された後、上記球面反射鏡によって、逆方向に、上記共通光学素子の第三レンズと第二レンズ及び第一レンズを通してから、上記第二平面反射鏡によって、パターンが、上記感光面に映射されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。
【請求項5】
画像コリメーティング投影装置に適用されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。
【請求項6】
上記平面反射レンズセットは、プリズム或いは拡大レンズセットによって取り替えられることを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。」、
「 【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る単一非球面共通光学素子露光機レンズセットは、順に、第一レンズと第二レンズ及び第三レンズが配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成、上記第一レンズが非球面で、上記第一と第三レンズが凸面(positive curvature)レンズで、上記第二レンズが凹面(negative curvature)レンズであり、また、上記第一と第三レンズとの湾曲比率(curvature ratio)が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの湾曲比率(curvature ratio)が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三レンズと反射レンズセットとの間隙よりも小さい共通光学素子セットと、上記第三レンズの下方に配置され、光経路を反射して、開口率を制御する球面反射鏡と、第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセットと、が含有され、上記らの各光学レンズセットにより、等倍率の露光機レンズセットが形成されて、それぞれの機器のパターンが、各光学レンズセットによって、フォーカスされて、感光面に映射される。」、
「 【0019】
上記の共通光学素子セット10は、順に、第一レンズ11と第二レンズ12及び第三レンズ13が配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成され、単一非球面で、光収差校正を行い、また、上記第一レンズ11が非球面であり、上記第一レンズ11と上記第三レンズ13とが正の屈折力で、そして、上記第二レンズ12が負の屈折力であり、また、上記第一レンズ11と上記第三レンズ13との屈折力の比が3?4の範囲内にあり、上記第三レンズ13と上記第二レンズ12との屈折力の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三と反射レンズセットとの間隙よりも小さい。」
を、次のとおりに補正するものである(下線は補正箇所を示す。以下同様。)。

「 【請求項1】
順に、第一レンズ(11)と第二レンズ(12)及び第三レンズ(13)が配列されて、三つのレンズ(11、12、13)からなる組合せレンズが形成され、上記第一レンズ(11)が非球面で、上記第一レンズ(11)と第三レンズ(13)が凸レンズで、上記第二レンズ(12)が凹レンズであり、また、上記第一レンズ(11)と第三レンズ(13)との焦点距離の比が3?4の範囲内にあって、上記第三レンズ(13)と上記第二レンズ(12)との焦点距離の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズ(11、12、13)の隣接するレンズ間の間隔が第三レンズ(13)と平面反射レンズセット(30)との間隔よりも小さい共通光学素子セット(10)と、
上記第三レンズ(13)の下方に配置され、光経路を反射して開口率を制御する球面反射鏡(20)と、
第一平面反射鏡(31)と第二平面反射鏡(32)とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズ(11)の上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセット(30)と、
が含有される、
ことを特徴とする単一非球面共通光学素子露光機レンズセット。
【請求項2】
上記共通光学素子セットは、単一非球面の第一レンズ(11)で、光収差校正を行うことを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。
【請求項3】
上記光学素子露光機レンズセットの機器(1)の物件は、露光マスクや書き込み光源であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。
【請求項4】
上記平面反射レンズセット(30)は、プリズム或いは拡大レンズセットによって取り替えられることを特徴とする請求項1に記載の光学素子露光機レンズセット。」、
「 【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る単一非球面共通光学素子露光機レンズセットは、順に、第一レンズと第二レンズ及び第三レンズが配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成され、上記第一レンズが非球面で、上記第一と第三レンズが凸(positive curvature)レンズで、上記第二レンズが凹(negative curvature)レンズであり、また、上記第一と第三レンズとの焦点距離の比が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの焦点距離の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの隣接するレンズ間の間隔が第三レンズと反射レンズセットとの間隔よりも小さい共通光学素子セットと、上記第三レンズの下方に配置され、光経路を反射して、開口率を制御する球面反射鏡と、第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセットと、が含有され、上記らの各光学レンズセットにより、等倍率の露光機レンズセットが形成されて、それぞれの機器のパターンが、各光学レンズセットによって、フォーカスされて、感光面に映射される。」、
「 【0019】
上記の共通光学素子セット10は、順に、第一レンズ11と第二レンズ12及び第三レンズ13が配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成され、単一非球面で、光収差校正を行い、また、上記第一レンズ11が非球面であり、上記第一レンズ11と上記第三レンズ13とが凸レンズで、そして、上記第二レンズ12が凹レンズであり、また、上記第一レンズ11と上記第三レンズ13との焦点距離の比が3?4の範囲内にあり、上記第三レンズ13と上記第二レンズ12との焦点距離の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズ11、12、13の隣接するレンズ間の間隔が第三レンズ13と平面反射レンズセット30との間隔よりも小さい。」

イ 本件補正には、以下の補正事項が含まれている。
(ア)補正前の請求項1及び段落【0019】における第一レンズ及び第三レンズについて「正の屈折力」を「凸レンズ」と補正し、補正前の請求項1及び段落【0019】における第二レンズについて「負の屈折力」を「凹レンズ」と補正する補正事項。
(イ)補正前の請求項1及び段落【0019】における第一レンズと第三レンズおよび第三レンズと第二レンズの「屈折力の比」を「焦点距離の比」と補正する補正事項。
(ウ)補正前の請求項1及び段落【0009】、【0019】における「各レンズの間隙」を「各レンズ」の「隣接するレンズ間の間隔」と補正する補正事項。
(エ)補正前の請求項1及び段落【0019】における共通光学素子セットにおける「反射レンズセット」との文言を「平面反射レンズセット」と補正する補正事項。
(オ)補正前の請求項3における「機器物件」を「機器」「の物件」とする補正事項。
(カ)補正前の特許請求の範囲の請求項4及び請求項5を削除する補正事項。
(キ)各請求項の各構成要件に対し、発明の詳細な説明及び図面において付されていた符号を括弧付きで追記する補正事項。

2 新規事項の追加にあたるかについての検討
ア 補正事項(ア)について
願書に最初に添付した特許請求の範囲(以下、「出願当初の特許請求の範囲」等という。)の請求項1には、「上記第一と第三レンズが正曲率で、上記第二レンズが負曲率であり」と記載されていた。第一?第三レンズに関する出願当初の明細書及び図面の記載を確認すると、本願の図1及び図3

からは、第一レンズ11及び第三レンズ13が凸レンズであり、第二レンズ12が凹レンズであることが図示されていることが見て取れる。
そうすると、本願の出願当初の図1及び図3の記載に基づけば、第一レンズと第三レンズが凸レンズであり、第二レンズが凹レンズであることは、導き出されるといえる
したがって、補正事項(ア)は、新規事項を追加するものではない。

イ 補正事項(イ)について
出願当初の特許請求の範囲の請求項1には、「上記第一と第三レンズとの曲率比が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの曲率比が-1?-2.5の範囲内にあり」と記載されていた。しかしながら、「焦点距離の比」は、「曲率比」とは全く別の物理量であり、焦点距離の比が3?4の範囲内、又は-1?-2.5の範囲内にあることを、出願当初の明細書及び図面から読み取ることができない。
また、焦点距離に関して、出願当初の明細書の段落【0024】に、「本発明に係る複数の実施例」として、「図1と図2は、それぞれ、共通光学素子セットの焦点距離が249/-656/1565mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセットの断面図とその回折変調伝達関数曲線図であり、また、図3と図4は、それぞれ、共通光学素子セットの焦点距離が979/-640/586mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセットの断面図とその回折変調伝達関数曲線図である。」との記載がある。しかしながら、これらの記載から第一と第三レンズの焦点距離の比及び第三と第二レンズの焦点距離の比を計算しても、上記数値範囲内にあるとする要件を満たしていない。したがって、曲率比が焦点距離の誤記であったと推認することはできない。
よって、補正事項(イ)は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

ウ 補正事項(エ)について
出願当初の請求項1には、「第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセット」との記載がなされており、出願当初の明細書の段落【0023】にも「平面反射レンズセット30」との記載がなされている。これらの記載によれば、本願明細書における「反射レンズセット」が平面形状を有するものであったことは明らかである。
したがって、補正事項(エ)は、新規事項を追加するものではない。

エ 補正事項(ウ)、(オ)?(キ)について
補正事項(ウ)、(オ)、(キ)は何れも表現を変更するに過ぎないものであり、補正事項(カ)は一部の請求項を削除するものであるから、何れも、新規事項を追加するものとはいえない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正の補正事項(イ)は、出願当初の明細書に記載された事項の範囲内においてなされた補正とはいえないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 原査定の概要
(1)拒絶理由の概要
平成28年1月22日付けで通知された拒絶理由のうち、原査定の拒絶の理由とされた理由の概要は、以下のとおりである。

●理由1(サポート要件)、理由3(実施可能要件)、理由4(委任省令要件)について
発明の詳細な説明の記載には、当該発明を客観的かつ具体的に裏付ける存在である実施例として、第一のより良い実施例から第二のより良い実施例の2つの実施例が形式的には記載されている。
しかしながら、上記2つの実施例は、いずれも、露光機レンズセットを構成する構成要素の要素数、配列等に関する説明や、露光機レンズセットの構成の概略を示す概念図等の図面が添付されているものの、上記2つの実施例における露光機レンズセットを構成する構成要素の曲率半径、構成要素の厚さ、隣接する構成要素間の間隔、構成要素の屈折率、アッベ数等の各種諸元量の具体的な数値データが全く示されていない。
一般に、収差を補正する目的を含む光学系の発明においては、発明の詳細な説明の記載には、当該発明に係る課題を解決することを客観的かつ具体的に証明、実証するものとして、具体的な数値データによる光学系を実施例が必要であるところ、発明の詳細な説明に記載には、そのような具体的な数値データによる光学系の実施例がない。
また、上記2つの実施例は、具体的な数値データが示されていないので、実施例として完全性に欠けており、当業者が当該実施例を再現可能な程度に明確に特定されているものとはいえず、当該実施例は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
そして、発明の詳細な説明の記載には、請求項1ないし4に係る発明において特定している事項によって、当該実施例によらず、当業者が発明が解決することができると客観的かつ具体的に理解できる程度の原理的な説明等は存在しない。
したがって、総合すると、発明の詳細な説明の記載は、請求項1ないし4に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、上記2つの実施例について、既に上述したように、本件特許出願に係る課題を解決することができると当業者が理解することができるような原理的な説明等は、発明の詳細な説明の記載には存在せず、客観的にみて、発明の詳細な説明の記載は、請求項1ないし4に係る発明の技術上の意義を理解することができない。
また、請求項1ないし4に係る発明を客観的に裏付ける存在である上記2つの実施例が、上述したように完全性に欠けており、また、既に上述したように、本件特許出願に係る課題を解決することができると当業者が理解することができるような原理的な説明等は存在していないので、請求項1ないし4に係る発明は、実質的な裏付けを欠いており、発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえない。

(2)請求人の主張
一方、拒絶の理由に対する請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
ア 平成28年7月20日付けの意見書における主張
本願発明のレンズセットを構成する要素について、本願発明では、各諸元量の数値に特徴を有するものではないので、各諸元量の具体的な数値データが必須のものであるとの拒絶理由には、到底承服することができない。

イ 平成28年12月16日付けの審判請求書の請求の理由における主張
(ア)本特許出願に対応する台湾特許出願は、2016年9月21日付けで出願公告(TW I550364 B)されたが、この台湾特許出願の明細書には、具体的な数値データを明細書に記載していない。
(イ)上記公告された出願は、台湾の出願であるが、我が国においても、下記特許公報にように、レンズを組み合わせると共に収差補正にも関わる発明について、具体的な数値データを詳細な説明の欄に記載していないが、特許が認められた光学系の例である。
a 特許第2750062号「反射屈折型光学系及び該光学系を備える投影露光装置」
b 特許第3623482号「映像表示装置」
c 特許第3970098号「収差補正装置」
d 特許第4342106号「パノラマ画像装置」
e 特許第5373892号「ビーム走査型表示装置」
f 特許第5768124号「マスクによって生じる結像収差の補正を用いて・・方法」
g 特許第5769285号「マイクロリソグラフィのための照明光学ユニット及び露光装置」
h 特許第5819386号「オブスキュレーションがない高開口数の反射屈折・・」
以上のように、具体的な数値データが記載されていなくても特許が認められた実例があり、上記以外にも、レンズ群を構成要素とする発明に関し、数多くの特許公報があるので、上記拒絶理由には到底承服できない。


2 本願発明
本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面は、平成28年7月20日付けで補正された明細書及び特許請求の範囲によって特定されるものである。

(1)請求項1?4に係る発明
本願発明の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、前記「第2の[理由]1」に「補正前」と記載した特許請求の範囲の請求項1?4の記載により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?4に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。また、請求項1?4に係る発明をまとめて「本願発明」という。)。

(2)本願明細書及び図面の記載事項
一方、本願明細書及び図面には、以下の記載がある。
ア 「【背景技術】
【0002】
露光レンズセットは、電子素子で、露光機を作製する時の重要な子システムであり、今日において、電子素子製造メーカの使用している露光機が、全屈折式と伸長式を有し、前者は体積が大きくて、後者は素子数が低減されるが、多数面を利用するため、作製や組合せが極めて困難になる。
【0003】
伸長式露光機は、例えば、ドイツZEISS会社-ASML式(ドイツ特許DE19355198、DE19922209)と日本NIKON会社が、総計25枚の重ね合い式漸近曲率方式(JP-2004-252119)で、露光の機能(例えば、図5と図6を参照)を達成し、また、材料節約のため、フランスSAGEMは、DYSON反射屈折式(中華人民共和國特許CN101171546)で、光経路を低減させ、光が、レンズセット40、50内において、往復することにより、レンズの数を低減させるが、レンズセット40、50と反射面21、22に、二つの非球面(例えば、図7を参照)を使用しなければならなく、上海微機電会社によって提案された露光機(米国特許US7746571 B2)も、類似した方式(或いは、伸長式とも称される)を利用して、露光の機能が実現されるが、レンズの数も多すぎる(例えば、図8を参照)。
【0004】
上記のように、当該特許発明には、多すぎるレンズが使用されるため、機能が重複して作製コストが高くなるだけでなく、作製も困難になり、更に、複数の非球面鏡を利用するから、作製や組合せの困難性が高くなり、組合せの時、機構の精密度に対する要請も高くなり、その製造コストが高くなる。そのため、一般の従来のものは、実用的とは言えない。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、従来技術の上記諸問題を解消でき、単一非球面や重ね合い式組合せを利用して、単一非球面の三つのレンズと一つの球面反射鏡及び二つの平面反射鏡を重ね合うことで、二種類の光学材料を合わせて、等倍率の単一非球面共通光学素子露光機レンズセットを提供する。
【0008】
本発明の他の目的は、単一非球面光軸で、光が各光学レンズセットの間を行進することにより、光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり(レンズの作製経験公式に満足できる)、校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される単一非球面共通光学素子露光機レンズセットを提供する。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る単一非球面共通光学素子露光機レンズセットは、順に、第一レンズと第二レンズ及び第三レンズが配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成、上記第一レンズが非球面で、上記第一と第三レンズが凸面(positive curvature)レンズで、上記第二レンズが凹面(negative curvature)レンズであり、また、上記第一と第三レンズとの湾曲比率(curvature ratio)が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの湾曲比率(curvature ratio)が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三レンズと反射レンズセットとの間隙よりも小さい共通光学素子セットと、上記第三レンズの下方に配置され、光経路を反射して、開口率を制御する球面反射鏡と、第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセットと、が含有され、上記らの各光学レンズセットにより、等倍率の露光機レンズセットが形成されて、それぞれの機器のパターンが、各光学レンズセットによって、フォーカスされて、感光面に映射される。」

エ 「【0010】
本発明に係る実施例によれば、上記共通光学素子セットは、単一非球面の第一レンズで光収差(aberration of light)校正(calibration)を行う。」

オ 「【発明を実施するための形態】
【0018】
図1?図4は、それぞれ、本発明の第一のより良い実施例の単一非球面共通光学素子露光機レンズセットの断面概念図と本発明の第一のより良い実施例の露光機レンズセットの回折変調伝達関数曲線図であり、本発明の第二のより良い実施例の単一非球面共通光学素子露光機レンズセットの断面概念図及び本発明の第二のより良い実施例の露光機レンズセットの回折変調伝達関数曲線図である。図のように、本発明は、単一非球面共通光学素子露光機レンズセットであり、主として、単一非球面の共通光学素子(Common Optical Componets)を利用して、素子の数を低減させ、共通光学素子セット10と球面反射鏡20及び平面反射レンズセット30から構成される。
【0019】
上記の共通光学素子セット10は、順に、第一レンズ11と第二レンズ12及び第三レンズ13が配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成され、単一非球面で、光収差校正を行い、また、上記第一レンズ11が非球面であり、上記第一レンズ11と上記第三レンズ13とが正の屈折力で、そして、上記第二レンズ12が負の屈折力であり、また、上記第一レンズ11と上記第三レンズ13との屈折力の比が3?4の範囲内にあり、上記第三レンズ13と上記第二レンズ12との屈折力の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三と反射レンズセットとの間隙よりも小さい。
【0020】
上記球面反射鏡20は、上記第三レンズ13の下方に配置されて、光経路を反射し、開口率の大きさを制御する。
【0021】
上記平面反射レンズセット30は、光経路を引導する第一平面反射鏡31と第二平面反射鏡32とを有し、それぞれ、斜めに上記第一レンズ11の上方に設置され、これにより、上記各光学レンズセットによって、等倍率の露光機レンズセットが形成され、機器1上のパターンが各光学レンズセットによってフォーカスされた後、それをウェハー2の感光面に映射される。以上のように、上記の構造により、新規の単一非球面共通光学素子露光機レンズセットが形成される。」

カ 「【0024】
露光機台の主な組立の一つは露光機レンズセットであり、露光機レンズセットの機能は、投影の対象であるマスクに対して、レンズを介して、そのマスクの構造を感光面に映射し、その光学レンズの規格の分析能力について、回折極限までに養成され、歪曲値が最大画角0.01%以下である。これに対して、本発明に係る複数の実施例があり、各実施例について、回折変調伝達関数(Modulation Transfer Function, MTF)の性質を調べた。図1と図2は、それぞれ、共通光学素子セットの焦点距離が249/-656/1565mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセットの断面図とその回折変調伝達関数曲線図であり、また、図3と図4は、それぞれ、共通光学素子セットの焦点距離が979/-640/586mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセットの断面図とその回折変調伝達関数曲線図である。上記各図から、本発明の各実施例である露光機レンズセットによれば、各種類の収差が、ともに、有効的に校正され、その分析能力が回折極限に達成でき、そのため、行動画像分析能力が実現される。」

キ 「【0025】
以上のように、本発明は、単一非球面と重ね合い式組合せで、単一3in1レンズセットで、二組の3in1レンズセットが取り替えられ、単一非球面の三つのレンズと一つの球面反射鏡及び二つの平面反射鏡を重ね合い、また、二種類の光学材料を合わせて、等倍率の単一非球面共通光学素子露光機レンズセットが実現され、単一非球面光軸で、光が各光学レンズセットの間を行進することにより、光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が、容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり(レンズの作製経験公式に満足できる)、校正が簡単でありながら耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される。
【0026】
以上のように、本発明に係る単一非球面共通光学素子露光機レンズセットは、有効的に従来の諸欠点を解消でき、単一非球面の三つのレンズと一つの球面反射鏡及び二つの平面反射鏡を重ね合わせて組み立て、二種類の光学材料を合わせて、等倍率の単一非球面共通光学素子露光機レンズセットが実現され、単一非球面光軸で、光が各光学レンズセットの間を行進することにより、光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり(レンズの作製経験公式に満足できる)、校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現され、そのため、本発明はより進歩的かつより実用的で法に従って特許出願する。
【0027】
以上は、ただ、本発明のより良い実施例であり、本発明は、それによって制限されることが無く、本発明に係わる特許請求の範囲や明細書の内容に基づいて行った等価の変更や修正は、全てが、本発明の特許請求の範囲内に含まれる。」

(3)本願明細書の開示
前記(2)の記載事項に基づけば、本願明細書には、本願発明に関し、以下の点が開示されているものと認められる。

ア 本願発明は、一般の従来の露光機が有する、露光の機能が実現されるために、多すぎるレンズが使用されるため、機能が重複して作製コストが高くなるだけでなく、作製も困難になり、更に、複数の非球面鏡を利用するから、作製や組合せの困難性が高くなり、組合せの時、機構の精密度に対する要請も高くなり、その製造コストが高くなるという諸問題(記載事項ア)を解決し、光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり(レンズの作製経験公式に満足できる)、校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される単一非球面共通光学素子露光機レンズセットを提供する(記載事項イ)ことを解決しようとする課題とするものであること。

イ 本願発明は、係る課題を解決するために、順に、第一レンズと第二レンズ及び第三レンズが配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成、上記第一レンズが非球面で、上記第一と第三レンズが凸面(positive curvature)レンズで、上記第二レンズが凹面(negative curvature)レンズであり、また、上記第一と第三レンズとの湾曲比率(curvature ratio)が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの湾曲比率(curvature ratio)が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三レンズと反射レンズセットとの間隔よりも小さい共通光学素子セットと、上記第三レンズの下方に配置され、光経路を反射して、開口率を制御する球面反射鏡と、第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセットと、が含有され、上記らの各光学レンズセットにより、等倍率の露光機レンズセットが形成されて、それぞれの機器のパターンが、各光学レンズセットによって、フォーカスされて、感光面に映射される(記載事項ウ)こと。

ウ 本願発明の実施例として、共通光学素子セットの焦点距離が249/-656/1565mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセットと、共通光学素子セットの焦点距離が979/-640/586mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセット(記載事項カ)が開示されていること。

エ 本願発明は、各種類の収差が、ともに、有効的に校正され、その分析能力が回折極限に達成でき、そのため、行動画像分析能力が実現され(記載事項カ)、光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり(レンズの作製経験公式に満足できる)、校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される(記載事項キ)という効果を奏すること。


3 当審の判断
(1)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)
ア 当審の判断
(ア) 特許法第36条第4項第1号実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(同法第2条第3項第1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。

(イ) 前記2(3)ア、イ、エによれば、本願発明1は、従来、露光の機能を実現するために多くのレンズを使用していたことを課題とし、係る課題を解決するために本願発明1の構成を用い、各種類の収差が、ともに、有効的に校正され、その分析能力が回折極限に達成でき、そのため、行動画像分析能力が実現され、光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり、校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現されるという効果を奏するというものである。
そして、本願発明1の記載によれば、本願発明1は、
順に、第一レンズと第二レンズ及び第三レンズが配列されて、三つのレンズからなる組合せレンズが形成され、上記第一レンズが非球面で、上記第一と第三レンズが正の屈折力で、上記第二レンズが負の屈折力であり、また、上記第一と第三レンズとの屈折力の比が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの屈折力の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三レンズと反射レンズセットとの間隙よりも小さい共通光学素子セットと、
上記第三レンズの下方に配置され、光経路を反射して開口率を制御する球面反射鏡と、
第一平面反射鏡と第二平面反射鏡とを有し、それぞれが、斜めに上記第一レンズの上方に設置されて、光経路を引導する平面反射レンズセットと、
が含有される、
ことを特徴とする単一非球面共通光学素子露光機レンズセット。
という構成を有する。
そうすると、本願発明1が実施可能要件を満たすというためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、第一レンズが非球面とされる単一非球面共通光学素子露光機レンズセットによって、従来複数の非球面を要して実現していた露光機の機能と少なくとも同程度の耐収差や優れた開口数比が実現でき、その分析能力が回折極限に達成できることが、当業者が理解できる程度の記載があることを要するというべきである。

(ウ)耐収差及び開口数比についての記載
本願明細書には、収差について、前記2(2)エに「単一非球面の第一レンズで光収差(aberration of light)校正(calibration)を行う。」との記載があり、前記2(2)オの段落【0019】に「単一非球面で、光収差校正を行い、また、上記第一レンズ11が非球面であり、」との記載がある。また、開口に関し、前記2(2)オの段落【0020】に「上記球面反射鏡20は、上記第三レンズ13の下方に配置されて、光経路を反射し、開口率の大きさを制御する。」との記載がある。そして、前記2(2)カに「上記各図から、本発明の各実施例である露光機レンズセットによれば、各種類の収差が、ともに、有効的に校正され、」との記載、前記2(2)キに「校正が簡単でありながら耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される」との記載がある。
しかしながら、第一レンズの非球面において、光収差校正、すなわち収差補正を行うことは理解できるものの、従来複数の非球面を要して実現していた露光機の機能と少なくとも同程度の耐収差や優れた開口数比を実現する作用機序について記載されていない。光学系の設計において、一つの非球面を用いることにより一つの収差の除去を行うことは技術常識であったといえる。しかし、収差には、球面収差、コマ収差、非点収差などサイデル収差として知られる5種類の収差が存在し、露光機として機能させるために必要とされる収差を除去するためには、集光点だけでなく、集光角度など複数のパラメータを制御する必要がある。本願の明細書には、集光点位置や集光角度など複数のパラメータを一つの非球面で制御する設計手法について何ら記載されていない。また、非球面の設計において、複数の収差を独立して制御し、一つの非球面で露光機に必要な複数の収差の除去を実現することが当業者に自明であったともいえない。
そして、本願明細書には、前記非球面について、具体的に非球面係数等の数値の記載がなく、第一レンズの非球面がどのような非球面であるかを特定できないため、従来複数の非球面により実現できていた性能を、一つの非球面により、どのように実現できているのかが不明である。
したがって、本願発明1の構成によって、従来複数の非球面を要して実現していた露光機の機能と少なくとも同程度の耐収差や優れた開口数比が実現できることを当業者が理解できる程度の記載がなされていたとはいえない。

(エ)分析能力についての記載
本願明細書には、分析能力について、前記2(2)カにおいて「露光機台の主な組立の一つは露光機レンズセットであり、露光機レンズセットの機能は、投影の対象であるマスクに対して、レンズを介して、そのマスクの構造を感光面に映射し、その光学レンズの規格の分析能力について、回折極限までに養成され、歪曲値が最大画角0.01%以下である。」及び「上記各図から、本発明の各実施例である露光機レンズセットによれば、各種類の収差が、ともに、有効的に校正され、その分析能力が回折極限に達成でき、そのため、行動画像分析能力が実現される。」と記載するのみである。また、分析能力に類する記載として、前記2(2)カに「各実施例について、回折変調伝達関数(Modulation Transfer Function, MTF)の性質を調べた。」との記載があるが、具体的に調べたMTFが如何なるものであったかの記載がなく、従来複数の非球面で実現できていた性能を一つの非球面で実現できているのかが把握できない。
したがって、本願発明1の構成によって、分析能力が回折極限にまで達成できることを当業者が理解できる程度の記載がなされていたとはいえない。

(オ)非球面についての記載
本願明細書に開示された実施例が追試可能な程度に記載されていれば、その効果について確認できるところ、「本発明のより良い実施例」(前記2(2))キとされる実施例について、非球面がどのような面であるのかが開示されていない。非球面の面形状が異なることによって収差も大きく変動することが技術常識であるところ、非球面の形状も開示されていない。
一般に、レンズを用いた光学系を具体的に設計する際には、レンズ枚数、各レンズ面の曲率半径、メニスカス又は非メニスカス、レンズ面間隔(レンズ厚を含む。)各レンズの屈折率とアッベ数、接合レンズの有無とその配置、非球面レンズの有無とその配置、非球面係数、絞りの位置等の諸元量を含む多数の要素を調整して、球面収差等の諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認しながら、数多くの試行錯誤を繰り返して、一つの光学系の設計を完成するものであることが、当業者の技術常識である。
しかしながら、本願明細書には、前記2(2)ア?キの開示はあるものの、レンズを用いた光学系の設計において重要な、非球面係数等や各諸元量の数値データを明らかにした具体的な設計例は一つも開示されていない。
そうすると、本願明細書及び図面の記載からは、たとえ、出願当時の技術常識を参酌したとしても、光学系を設計する際には、各レンズの屈折率及びアッベ数並びに各レンズの焦点距離の数値を満たす数値の中から選択するとともに、その他の非球面係数等の多数の要素の数値を決定するために、球面収差等の諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認しながら数多くの試行錯誤を繰り返す必要があることが明らかである。
したがって、本願明細書の記載は、当業者がその効果を追試によって確認しようとした場合、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。

(カ)その他のパラメータに関する記載
本願発明1は、「上記第一と第三レンズとの屈折力の比が3?4の範囲内にあって、上記第三と上記第二レンズとの屈折力の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズの間隙が第三レンズと反射レンズセットとの間隙よりも小さい」とするパラメータを満たすことも必須の要件としている。
しかしながら、本願明細書には、これらのパラメータの技術的意味や作用機序について何ら記載していない。また、それぞれの構成要件がどのような働きをするのかが明らかにされておらず、どのような効果を奏するのかを予測することができない。
そして、前記2(2)カに開示される2つの実施例は、第一と第三レンズとの屈折力の比と第三と第二レンズの屈折力の比や、共通光学素子セットの各レンズの間隔と第三レンズ反射レンズセット(30)との間隔を開示していない。また、屈折力が焦点距離の誤記であったと仮定しても、開示された焦点距離「249/-656/1565mm」及び「979/-640/586mm」から算出される上記第一レンズ(11)と第三レンズ(13)との焦点距離の比は、本願発明1が特定する範囲内にはない。
したがって、これらの実施例を追試することができたとしても、本願発明1の効果を確認することができない。

イ 請求人の意見
請求人の主張は、要約すると、本願発明が各諸元量の特徴を有するものではないので、各諸元量の具体的な数値データが必須のものとする拒絶理由には承服できない、具体的な数値データを記載せずに特許が認められた事例があるというものである。
しかしながら、本願明細書の記載は、すでに確認したとおり、本願発明の構成要件の各々がどのような働きをするのかについて、形式的には記載するものの、それらがどのように達成されるかについて、その作用機序を何ら明らかにしていないものであるから、その構成要件からどのような効果を奏するかを予測することは困難である。そして、このような場合であっても、実施例として示された構造等についての記載から、当業者がその物を作れる場合には実施可能要件違反とはならないものの、本願明細書は、非球面などの構成について何らデータを開示しないものであり、開示されたデータも本願発明の要件を満たさないものである。
したがって、当業者であっても、具体的な数値データにより特定された実施例を開示しない本願明細書の記載に基づいて、本願発明を実施することは不可能であるか、過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。

ウ まとめ
以上のとおり、本願明細書の記載は、本願発明1?4を実施することができる程度に発明の構成等が記載されているとはいえないものであるから、特許法第36条第4項第1項に規定する実施可能要件を満たしていない。

(2)委任省令要件(特許法第36条第4項第1号)
ア 発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」とともに「その解決手段」として、請求項に係る発明によってどのように課題が解決されたかについて記載されていることが求められる。

イ 本願発明が解決しようとする課題について検討すると、前記2(3)アにおいて検討したとおり、光学システムの調律因子、すなわち収差などを調整する要素が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され、また、製造コストを低下でき、少ない素子数で光部材の作製が容易になり、校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される単一非球面共通光学素子露光機レンズセットを提供することを課題とするものであるといえる。

ウ 一方、解決手段について検討すると、前記2(3)イに、課題を解決する手段としての構成が記載されている。これらの構成がどのような役割を果たし、どのような効果を奏することにより、本願が解決しようとする上記課題を解決しているかについて確認すると、前記2(2)エに「単一非球面の第一レンズで光収差(aberration of light)校正(calibration)を行う。」と記載されており、前記2(2)オの段落【0020】に「上記球面反射鏡20は、上記第三レンズ13の下方に配置されて、光経路を反射し、開口率の大きさを制御する。」と記載されている。以上の記載から、本願発明が光収差補正及び開孔率の大きさの制御を行うことができることは理解できるものの、本願発明が解決しようとする課題である、「光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され」ること、「校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される」ことをどのように解決したかについて何ら記載していない。このため、本願明細書の記載は、原査定の拒絶の理由に記載されていたとおり、当業者が発明により課題を解決することができると客観的かつ具体的に理解できる程度の原理的な説明等は存在しないものであり、本願発明の構成が、本願が解決しようとする課題に対してどのような役割を果たし、どのような効果を奏するものであるのかについて何ら明らかにしていない。

エ また、実施例によってその課題が解決されることが示されているかについて検討すると、前記3(1)ア(オ)に記載したとおり、明細書に記載された2つの実施例は、何れも非球面の形状を開示していない。また、前記3(1)ア(エ)に記載したようにMTFが如何なるものであったかも記載しておらず、前記3(1)ア(カ)に記載したとおり、2つの実施例が本願発明1において限定するパラメータを満たすものであるかさえも不明であり、本願発明の効果を確認できないものである。そして、本願明細書には、本願発明の構成によって、従来複数の非球面を要して実現していた露光機の機能と少なくとも同程度の耐収差や優れた開口数比が実現でき、その分析能力が回折極限に達成できることが記載されたものではないから、当該課題を解決できることが記載されていたとはいえない。

オ 請求人の主張について検討すると、請求人の主張は、「各諸元量の具体的な数値データが必須のものであるとの拒絶理由には、到底承服することができません。」、「具体的な数値データが記載されていなくても特許が認められた実例があり、上記以外にも、レンズ群を構成要素とする発明に関し、数多くの特許公報がありますれば、上記拒絶理由には到底承服できません。」というものであり、課題が解決されることが、本願明細書に記載されていることについて何ら釈明していない。

カ 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題に対する解決手段が記載されていたとはいえないものであるから、本願明細書の記載は、本願発明1?4について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。

(3)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
ア 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁大合議部判決平成17年11月11日〔平成17年(行ケ)10042号〕参照)。

イ しかしながら、既に検討したとおり、本願明細書には本願発明の構成要件の各々がどのような働きをするのかについて、形式的には記載されるものの、それらがどのように達成されるかについて何ら明らかされていない。そして、前記2(3)ウに記載したとおり、本願明細書には、本願発明の実施例として、「共通光学素子セットの焦点距離が249/-656/1565mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセットと、共通光学素子セットの焦点距離が979/-640/586mmである単一非球面共通光学素子露光機レンズセット」が開示されているが、前記3(1)ア(カ)に記載したとおり、これらの実施例は、本願発明の構成要件を満たすものではない。したがって、拒絶理由通知において指摘されていたとおり、本願明細書の記載は、「発明の詳細な説明に記載には、そのような具体的な数値データによる光学系の実施例がない」ものであり、2つの実施例は本願発明の効果を確認できないものであるから、技術常識を参酌しても、本願発明の構成が本願発明の課題を解決できることを当業者が認識することができない。

ウ 請求人の主張は、前記3(2)オに記載したとおり「各諸元量の具体的な数値データが必須のものであるとの拒絶理由には、到底承服することができません。」というものであり、本願発明が課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであることについて何ら釈明していない。

エ 以上のとおり、本願発明1?4が、発明の詳細な説明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、本願発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(4) むすび
以上のとおり、本願発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1?4を実施することができる程度に発明の構成等が記載されているとはいえないものであり、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでもない。
したがって、原査定の拒絶の理由は、妥当なものである。

4 以下、念のため、本件補正を却下しない場合についても検討する。
(1)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)
本件補正が認められ、「正の屈折力」を「凸レンズ」、「負の屈折力」を「凹レンズ」、「屈折力の比」を「焦点距離の比」と変更したとしても、前記3(1)ア(イ)に記載したとおり、本願発明1が実施可能要件を満たすというためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、第一レンズが非球面とされる単一非球面共通光学素子露光機レンズセットによって、従来複数の非球面を要して実現していた露光機の機能と少なくとも同程度の耐収差や優れた開口数比が実現でき、その分析能力が回折極限に達成できることが、当業者が理解できる程度の記載があることを要するというべきである点に、違いはない。
そして、前記3(1)ア(ウ),(エ)に記載したとおり、本願明細書には、耐収差及び開口数比及び分析能力について、どのように実現できるかについて何ら記載していない。そして、前記3(1)ア(オ)に記載したとおり、非球面の面形状を開示しておらず、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。
なお、本件補正後の本願発明1は、「上記第一レンズ(11)と第三レンズ(13)との焦点距離の比が3?4の範囲内にあって、上記第三レンズ(13)と上記第二レンズ(12)との焦点距離の比が-1?-2.5の範囲内にあり、各レンズ(11、12、13)の隣接するレンズ間の間隔が第三レンズ(13)と平面反射レンズセット(30)との間隔よりも小さい」とするパラメータを満たすことを必須の要件とするものである。しかし、前記2(2)カに開示される2つの実施例は、各レンズ(11、12、13)の隣接するレンズ間の間隔及び第三レンズ(13)と平面反射レンズセット(30)との間隔を開示していない。また、開示された焦点距離「249/-656/1565mm」及び「979/-640/586mm」から算出される上記第一レンズ(11)と第三レンズ(13)との焦点距離の比は、本願発明1が特定する範囲内にはない。
したがって、これらの実施例を追試することができたとしても、本願発明1の効果を確認することができない。

(2)委任省令要件(特許法第36条第4項第1号)
本件補正後の明細書であっても、本願発明が解決しようとする課題である、「光学システムの調律因子が簡素化され、露光レンズの機能が容易に実現され」ること、「校正が簡単でありながら、耐収差や優れた開口数比(F/#)及びコストダウンが実現される」ことをどのように解決したかについて何ら記載していない点にかわりはない。このため、前記3(2)に記載したように、本願明細書の記載は、「当業者が発明が解決することができると客観的かつ具体的に理解できる程度の原理的な説明等は存在しない。」というものであり、本願発明の構成が、本願が解決しようとする課題に対してどのような役割を果たし、どのような効果を奏するものであるのかについて何ら明らかにしていない。

(3)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
本件補正後の明細書であっても、本願発明の構成要件の各々がどのような働きをするのかについて何ら明らかされていない点にかわりはない。したがって、前記3(3)に記載したように、本願明細書の記載は、「発明の詳細な説明に記載には、そのような具体的な数値データによる光学系の実施例がない」ものであり、2つの実施例は本願発明の効果を確認できないものであるから、技術常識を参酌しても、本願発明の構成が本願発明の課題を解決できることを当業者が認識することができない。

5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-16 
結審通知日 2017-10-17 
審決日 2017-10-30 
出願番号 特願2015-104149(P2015-104149)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G02B)
P 1 8・ 536- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 宮澤 浩
中田 誠
発明の名称 単一非球面共通光学素子露光機レンズセット  
代理人 鈴木 征四郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ