• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1338569
審判番号 不服2016-17716  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-28 
確定日 2018-04-03 
事件の表示 特願2014-110188「電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月14日出願公開,特開2015-225231,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2014-110188号(以下「本件出願」という。)は,平成26年5月28日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成27年 5月21日付け:手続補正書
平成28年 4月12日付け:拒絶理由通知書
平成28年 6月10日付け:手続補正書
平成28年 8月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成28年11月28日付け:審判請求書
平成28年11月28日付け:手続補正書
平成29年 9月14日付け:拒絶理由通知書
(この拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由を,以下「当合議体の拒絶の理由」という。)
平成29年10月26日付け:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)

2 本願発明
本件出願の請求項1-請求項4に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-請求項4に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである(以下「本願発明1」-「本願発明4」といい,また,総称して「本願発明」という。)。
「【請求項1】
少なくとも電荷発生物質を含む電荷発生層および電荷輸送物質を含む電荷輸送層がこの順で積層された積層型感光層,または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が,導電性基体上に積層された電子写真感光体であって,
該電子写真感光体は,積層型感光層における電荷輸送層または単層型感光層を表面層として備え,
前記表面層は,4フッ化エチレン樹脂微粒子とその凝集体を,前記表面層における全固形成分の5?17重量%の範囲で含有するが,前記表面層が無機(微)粒子を含む場合を除き,
前記4フッ化エチレン樹脂微粒子が,平均一次粒子径0.1?0.5μmを有し,
前記凝集体が,走査型電子顕微鏡を用いて測定した定方向接線径が1?3μmである凝集体を含み,前記定方向接線径が1?3μmである凝集体の数が,前記4フッ化エチレン樹脂微粒子全粒子数の21?40%であることを特徴とする電子写真感光体。

【請求項2】
前記導電性基体上に,下引き層を介して積層型感光層が積層されている請求項1に記載の電子写真感光体。

【請求項3】
前記積層型感光層が,電荷輸送物質の含有濃度が異なる2層の電荷輸送層から形成され,4フッ化エチレン樹脂微粒子を前記電荷輸送層の表面層に含有する,請求項1または2に記載の電子写真感光体。

【請求項4】
請求項1?3のいずれか1つに記載の電子写真感光体と,前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と,帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と,前記静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と,前記トナー像を記録材上に転写する転写手段と,転写された前記トナー像を前記記録材上に定着する定着手段を備える画像形成装置。」

第2 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例の記載
当合議体の拒絶の理由において引用され,本件出願前に頒布された特開2005-43765号公報(以下「引用例」という。)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に感光層が形成された電子写真感光体であって,
前記感光層が,前記導電性基体から最も遠い位置に,フッ素系樹脂粒子とフッ素系グラフトポリマーと結着樹脂とを含有する表面層を備え,
前記フッ素系樹脂粒子の一次粒子及び粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径が0.1?0.3μmであることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
…(省略)…
【請求項4】
請求項1または2に記載の電子写真感光体と,
前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置と,
帯電した前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成させる露光装置と,
前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と,
前記トナー像を被転写体に転写する転写装置と,
前記電子写真感光体上に残存するトナーを除去するクリーニング装置と,
を備えることを特徴とする画像形成装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,帯電,露光,現像,転写等の電子写真方式の画像形成に使用される電子写真感光体及びその製造方法,画像形成装置,画像形成方法並びにプロセスカートリッジに関する。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
…(省略)…
【0007】
そこで,本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり,画像形成方法におけるクリーニング工程後において,感光体の表面にトナーを残存させない電子写真感光体及びその製造方法,画像形成装置,画像形成方法並びにプロセスカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,感光体と該感光体の表面に付着したトナーとの間の摩擦力を低くする観点から上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果,感光体に特定の条件を満足する特定樹脂を含有することにより上記課題を解決できることを見出し,本発明を完成するに至った。
…(省略)…
【0013】
このように,トナーと直接接触する感光体の表面層が,フッ素系樹脂粒子とフッ素系グラフトポリマーとを含有し,そのフッ素系樹脂粒子の一次粒子並びに粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上であることによって,トナーとクリーニング装置のブレードとの間の摩擦力は変化がないのに対して,該表面層とその表面層に付着したトナーとの間の摩擦力が低下すると考えられる。
…(省略)…
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば,画像形成方法におけるクリーニング工程後において,感光体の表面にトナーを残存させない電子写真感光体及びその製造方法,画像形成装置,画像形成方法並びにプロセスカートリッジを提供することができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
…(省略)…
【0026】
(電子写真感光体)
図1は本発明の電子写真感光体の好適な一実施形態を模式的に示す要部断面図であり,電子写真感光体1を基体2及び感光層3の積層方向に沿って切断したものである。図1に示した電子写真感光体1はいずれも機能分離型感光体であり,各感光体が備える感光層3には電荷発生層5と電荷輸送層6とが別個に設けられている。より詳しくは,図1に示した電子写真感光体1においては,導電性基体2上に電荷発生層5及び電荷輸送層6がこの順で積層されて感光層3が構成されている。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


エ 「【0027】
導電性基体2は,導電性を有していれば特に限定されるものはなく,例えば,アルミニウム,銅,鉄,亜鉛,ニッケル等の金属ドラムを使用することができる。
…(省略)…
【0030】
電荷発生層5は,電荷発生物質を適当な結着樹脂中に分散した状態で形成されるものである。電荷発生物質としては,フタロシアニン顔料,キノン顔料,ペリレン顔料,インジゴ顔料,ビスベンゾイミダゾール顔料,アントロン顔料若しくはキナクリドン顔料等を使用することができる。
…(省略)…
【0036】
電荷輸送層6は,本実施形態における表面層となるので,電荷輸送物質及び結着樹脂に加えて,フッ素系樹脂粒子とフッ素系グラフトポリマーとを含有するものである。
【0037】
フッ素系樹脂粒子としては,4フッ化エチレン樹脂,3フッ化塩化エチレン樹脂,6フッ化エチレンプロピレン樹脂,フッ化ビニル樹脂,フッ化ビニリデン樹脂及び2フッ化2塩化エチレン樹脂並びにこれらの共重合体から選ばれる1種または2種以上の樹脂からなると好ましい。
【0038】
フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径は0.05?1.0μmであると好ましい。該平均一次粒子径が0.05μmを下回ると分散時の凝集が進行しやすくなる。また,上記平均一次粒子径が1.0μmを上回ると画質欠陥が発生しやすくなる。そのような観点から,フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径は0.1?0.3μmであるとより好ましい。
【0039】
本実施形態の電荷輸送層6に含有されるフッ素系樹脂粒子は,一次粒子並びに粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上であるものである。言い換えると,そのフッ素系樹脂粒子は,粒子径1μm以上の二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して20%未満であるものである。
【0040】
これにより,トナーとクリーニング装置のブレードとの間の摩擦力は変化がないのに対して,該表面層とその表面層に付着したトナーとの間の摩擦力が低下すると考えられる。
…(省略)…
【0048】
フッ素系樹脂粒子の電荷輸送層6(表面層)中における含有割合は,電荷輸送層6(表面層)の固形成分の全質量に対して,0.1?40質量%であることが好ましく,1?30質量%であることがより好ましい。この含有割合が1質量%未満ではフッ素含有樹脂からなる粒子の分散による改質効果を充分に得ることができなくなる傾向が大きくなる。一方,この含有割合が40質量%を超えると電荷輸送層6(表面層)の光通過性が低下し,かつ,繰返し使用による残留電位の上昇が生じてくるおそれがある。
【0049】
フッ素系グラフトポリマーは,フッ素系樹脂粒子の分散液として用いられており,その分散安定性を向上させるため,および塗膜形成時の凝集を防止するための分散助剤として機能している。そこで,フッ素系樹脂粒子を最適に分散させる観点から,フッ素系グラフトポリマーは,そのフッ素系樹脂粒子の質量に対する割合が,1.5?2.5質量%であると好ましく,1.6?2.2質量%であるとより好ましい。この含有割合が1.5質量%未満ではフッ素系樹脂粒子の分散液としての作用が十分でなくなる。一方,この含有割合が2.5質量%を超えると繰り返し使用による残留電位の上昇が生じてくる。」

オ 「【実施例】
【0205】
以下,実施例により本発明を更に詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0206】
(電子写真感光体(1)の作製)
まず,ホーニング処理により粗面化された30mmφのアルミニウム基体を準備した。
【0207】
次いで,4質量部のポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM-S,積水化学社製,商品名)を溶解したn-ブチルアルコール170質量部に,有機ジルコニウム化合物(アセチルアセトンジルコニウムブチレート)30質量部および有機シラン化合物(γ-アミノプロピルトリメトキシシラン)3質量部を添加し,混合撹拌して下引き層形成用の塗布液を得た。この塗布液を,上記アルミニウム基体の上に浸漬塗布し,室温で5分間風乾を行った後,該基体を10分間で50℃まで昇温し,50℃,85%RH(露点47℃)の恒温恒湿槽中に入れて,20分間加湿し,硬化促進処理を行った。その後,熱風乾燥機に入れて170℃で10分間乾燥を行い,下引き層を得た。
【0208】
次に,電荷発生物質として,Cu-kα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において,7.4°,16.6°,25.5°及び28.3°の位置に回折ピークを有する塩化ガリウムフタロシアニンを準備した。そして,これを15質量部,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH,日本ユニオンカーバイト社製,商品名)を10質量部及びn-ブチルアルコールを300質量部混合した混合物を,サンドミルを用いて4時間分散処理した。得られた分散液を,上記下引き層上に浸漬塗布し,乾燥して,膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0209】
続いて,N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニルベンジジン20質量部と,N,N’-ビス(3,4-ジメチルフェニル)ビフェニル-4-アミン20質量部と,ビスフェノールZポリカーボネート樹脂(分子量40,000)60質量部とを,テトロヒドロフラン280質量部及びトルエン120質量部の混合液に十分に溶解混合した。次いで,4フッ化エチレン樹脂粒子8質量部とフッ素系グラフトポリマー0.2質量部を更に加え,混合物を得た。そして,高圧ホモジナイザー(LA-33S,ナノマイザー株式会社製,商品名)の圧力を500kg/cm^(2)に設定し,上記混合物をこの高圧ホモジナイザーに4回流通させることにより分散処理を行い,4フッ化エチレン樹脂粒子の分散液を得た。得られた分散液を上記電荷発生層の上に浸漬塗布し,乾燥することにより,膜厚26μmの電荷輸送層を形成し,電子写真感光体(1)を得た。
【0210】
上記電荷輸送層の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し,画像解析装置SPICCA(日本アビオニクス株式会社,商品名)により解析したところ,4フッ化エチレン樹脂粒子は,ほぼ一次粒子として分散していた。また,その平均一次粒子径は0.2μmであり,観察された4フッ化エチレン樹脂粒子は,一次粒子又は二次粒子にかかわらず,全て粒子径1μm未満であった。」

(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用例には,請求項1の記載を引用して記載された請求項2に係る電子写真感光体の発明が記載されている。また,引用例の【0026】には,図1とともに,「本発明の電子写真感光体の好適な一実施形態」として,「導電性基体上に電荷発生層及び電荷輸送層がこの順で積層されてなる感光層」が開示されている。
そうしてみると,引用例には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。
「 導電性基体上に電荷発生層及び電荷輸送層がこの順で積層されてなる感光層が形成された電子写真感光体であって,
前記感光層が,前記導電性基体から最も遠い位置に,フッ素系樹脂粒子とフッ素系グラフトポリマーと結着樹脂とを含有する表面層を備え,
前記フッ素系樹脂粒子の一次粒子及び粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上であり,
前記フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径が0.1?0.3μmである,
電子写真感光体。」

イ 引用発明B
引用例には,請求項4に係る発明として,以下の発明も記載されている(以下「引用発明B」という。)。
「 引用発明Aの電子写真感光体と,
前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置と,
帯電した前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成させる露光装置と,
前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置と,
前記トナー像を被転写体に転写する転写装置と,
前記電子写真感光体上に残存するトナーを除去するクリーニング装置とを備える,
画像形成装置。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明Aを対比すると,以下のとおりとなる。
ア 電子写真感光体の各層の構成
引用発明Aの「導電性基体」,「電荷発生層」,「電荷輸送層」及び「電子写真感光体」は,その文言が表す機能のものであるから,本願発明1の「導電性基体」,「電荷発生層」,「電荷輸送層」及び「電子写真感光体」に相当する。
そして,引用発明Aの「電子写真感光体」は,「導電性基体上に電荷発生層及び電荷輸送層がこの順で積層されてなる感光層が形成された電子写真感光体」である。また,電子写真感光体に関する技術常識を勘案すると,引用発明Aの「電荷発生層」は電荷発生物質を含み,「電荷輸送層」は電荷輸送物質を含む。
そうしてみると,引用発明Aの「感光層」は,本願発明1の「積層型感光層」に相当する。また,引用発明Aの「電子写真感光体」は,本願発明1の「電子写真感光体」における,「少なくとも電荷発生物質を含む電荷発生層および電荷輸送物質を含む電荷輸送層がこの順で積層された積層型感光層」「が,導電性基体上に積層された」という要件を満たすものである。

イ 表面層
引用発明Aの「電子写真感光体」は,「導電性基体上に電荷発生層及び電荷輸送層がこの順で積層されてなる感光層が形成された電子写真感光体」である。
そうしてみると,引用発明Aの「電荷輸送層」は,引用発明Aでいう「表面層」でもあり,また,本願発明1の「表面層」に相当する。加えて,引用発明Aの「電子写真感光体」は,本願発明1の「該電子写真感光体は,積層型感光層における電荷輸送層または単層型感光層を表面層として備え」という要件を満たすものである。

ウ 4フッ化エチレン樹脂微粒子
引用発明Aの「表面層」は,「フッ素系樹脂粒子とフッ素系グラフトポリマーと結着樹脂とを含有する表面層」である。また,引用発明Aの「フッ素系樹脂粒子」は,その文言のとおり「樹脂」の「粒子」である。そして,引用発明Aの「フッ素系樹脂粒子」は,「平均一次粒子径が0.1?0.3μmである」ところ,本願発明1は「平均一次粒子径0.1?0.5μm」の「4フッ化エチレン樹脂微粒子」を,「微」粒子と称している。加えて,引用発明Aの「二次粒子」は,技術的にみて,フッ素系樹脂粒子の一次粒子の凝集体である。
そうしてみると,引用発明Aの「フッ素系樹脂粒子」は,本願発明1の「4フッ化エチレン樹脂微粒子」と「樹脂微粒子」の点で共通し,また,「平均一次粒子径0.1?0.5μmを有し」という要件を満たすものである。そして,引用発明Aの「表面層」と本願発明1の「表面層」は,「樹脂微粒子とその凝集体を」,「含有する」点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明Aは,次の構成で一致ないし共通する。
「 少なくとも電荷発生物質を含む電荷発生層および電荷輸送物質を含む電荷輸送層がこの順で積層された積層型感光層,または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が,導電性基体上に積層された電子写真感光体であって,
該電子写真感光体は,積層型感光層における電荷輸送層または単層型感光層を表面層として備え,
前記表面層は,樹脂微粒子とその凝集体を,含有し,
前記樹脂微粒子が,平均一次粒子径0.1?0.5μmを有する,
電子写真感光体。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明Aは,以下の点で相違する。
(相違点1)
「樹脂微粒子」が,本願発明1は「4フッ化エチレン樹脂微粒子」であるのに対して,引用発明Aは「フッ素系樹脂粒子」である点。

(相違点2)
本願発明1の「表面層」は,「4フッ化エチレン樹脂微粒子とその凝集体を,前記表面層における全固形成分の5?17重量%の範囲で含有するが,前記表面層が無機(微)粒子を含む場合を除き」というものであるのに対して,引用発明Aの「表面層」は,「フッ素系樹脂粒子」の含有量が特定されておらず,また,無機(微)粒子を含まないとは特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1は,「前記凝集体が,走査型電子顕微鏡を用いて測定した定方向接線径が1?3μmである凝集体を含み,前記定方向接線径が1?3μmである凝集体の数が,前記4フッ化エチレン樹脂微粒子全粒子数の21?40%である」という構成を具備するのに対して,引用発明Aは,「前記フッ素系樹脂粒子の一次粒子及び粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上」という構成を具備する点。


(3) 判断
事案に鑑みて,相違点3について判断する。
引用発明Aは,「前記フッ素系樹脂粒子の一次粒子及び粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上」という構成を具備する。
したがって,引用発明Aにおいて,仮に,「一次粒子及び粒子径1μm未満である二次粒子」以外の「フッ素系樹脂粒子」が全て,走査型電子顕微鏡を用いて測定した定方向接線径が1?3μmである二次粒子であるとしても,その含有量は,高々20%である。
そして,引用例の【0013】には,「トナーと直接接触する感光体の表面層が,フッ素系樹脂粒子とフッ素系グラフトポリマーとを含有し,そのフッ素系樹脂粒子の一次粒子並びに粒子径1μm未満である二次粒子の含有割合が,該フッ素系樹脂粒子の一次粒子と二次粒子との総数に対して80%以上であることによって,トナーとクリーニング装置のブレードとの間の摩擦力は変化がないのに対して,該表面層とその表面層に付着したトナーとの間の摩擦力が低下する」と記載されている。
そうしてみると,たとえ当業者といえども,引用発明Aにおいて,走査型電子顕微鏡を用いて測定した定方向接線径が1?3μmである二次粒子の含有量を21?40%とすることはないというべきである。
したがって,相違点3以外の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

(4) 本願発明2-本願発明3について
本願発明2及び本願発明3の電子写真感光体は,いずれも,前記相違点3に係る本願発明1の構成を具備するものである。
したがって,本願発明1と同じの理由により,当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

(5) 本願発明4について
本願発明4の「画像形成装置」は,「請求項1?3のいずれか1つに記載の電子写真感光体」を具備する発明である。これに対して,引用発明Bの「画像形成装置」は,「引用発明Aの電子写真感光体」を具備する発明である。したがって,本願発明4と引用発明Bを対比すると,前記相違点3と同じ相違点が抽出されることとなる。
そうしてみると,本願発明4は,当業者が引用発明Bに基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

3 原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献(特開2010-230981号公報,特開2005-43765号公報,特開2005-43623号公報及び特開2006-71826号公報)にも,前記相違点3に係る構成は記載されておらず,示唆もされていない。
したがって,本願発明1-本願発明4は,いずれも,これら引用文献に記載された発明であるということはできず,また,当業者が,これら引用文献に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものであるということもできない。
また,原査定において指摘された,記載不備(36条6項2号)に関する拒絶の理由については,本件補正により解消した。
したがって,原査定を維持することはできない。

4 当合議体の拒絶の理由について
当合議体の拒絶の理由のうち,進歩性(29条2項)の拒絶の理由については,前記2で述べたとおりである。
また,当合議体の拒絶の理由のうち,記載不備(36条6項1号及び2号)及び新規事項違反(17条の2第3項)の拒絶の理由については,本件補正により解消した。
したがって,当合議体の拒絶の理由によっても,もはや本件出願を拒絶することはできない。

第3 まとめ
以上のとおり,本件出願は,原査定の拒絶の理由及び当合議体の拒絶の理由によっては,拒絶することができない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-19 
出願番号 特願2014-110188(P2014-110188)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 樋口 信宏
宮澤 浩
発明の名称 電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 冨田 雅己  
代理人 野河 信太郎  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ