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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H04N
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H04N
管理番号 1338729
審判番号 無効2014-800097  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-11 
確定日 2018-03-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3978392号「立体映像信号生成回路及び立体映像表示装置」の特許無効審判事件についてされた平成27年 3月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10087号、平成28年 3月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3978392号の請求項1、3、8、11に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯

1.本件出願の経緯
本件特許第3978392号に係る出願は、平成14年11月28日の出願であって、平成19年6月29日に設定登録されたものであり、登録時の請求項の数は15である。

2.本件審判の経緯
本件無効審判における手続の経緯は、概要、以下のとおりである。

平成26年 6月11日 無効審判請求書(請求人)
(甲1号証から甲5号証添付)
平成26年 9月 5日 答弁書(被請求人)
平成26年10月14日 審理事項通知書(合議体)
平成26年11月25日 口頭審理陳述要領書(請求人)
(甲6号証から甲10号証添付)
平成26年12月24日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年 1月27日 口頭審理
平成27年 3月31日 審決

平成27年 5月11日 出訴
平成28年 3月24日 判決
平成28年 4月 6日 上告、上告受理申立
平成29年 2月 3日 決定(上告棄却、上告受理申立不受理)

平成29年 2月 8日 訂正請求申立
平成29年 2月13日 通知書(訂正請求のための期間指定通知)
平成29年 2月24日 訂正請求・上申書
平成29年 3月17日 手続補正(訂正請求書)
平成29年 4月27日 弁駁書
(甲11号証添付)
平成29年 7月 5日 審決の予告
平成29年 9月 8日 訂正請求・上申書
平成29年10月23日 弁駁書
(甲12号証?甲15号証添付)
平成29年11月30日 訂正拒絶理由
平成30年 1月 4日 意見書

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成29年9月8日に被請求人が行った明細書の訂正の請求における訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。

(1)一群の請求項1?7に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」との記載を、「前記オフセット設定手段は、前記表示装置情報、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、表示される映像の立体感を調整する」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す。以下同じ。)。

イ.訂正事項2
特許第3978392号の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0010】における「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」との記載を、「前記オフセット設定手段は、前記表示装置情報、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、表示される映像の立体感を調整する」と訂正する。

ウ.訂正事項3
本件特許明細書の【0027】における「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するので、立体映像に関連づけて定められたカメラ間距離情報及びクロスポイント情報によって、立体映像表示装置の画面サイズに対応した最適な立体度(奥行き量)に調整された立体映像を得ることができる。」との記載を、「前記オフセット設定手段は、前記表示装置情報、前記力メラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、表示される映像の立体感を調整するので、立体映像に関連づけて定められたカメラ間距離情報及びクロスポイント情報によって、立体映像表示装置の画面サイズに対応した最適な立体度(奥行き量)に調整された立体映像を得ることができる。」と訂正する。

(2)一群の請求項8?15に係る訂正
ア.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8における「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整し」との記載を「前記オフセット設定手段は、前記表示装置情報、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、前記表示器に表示される映像の立体感を調整し」と訂正する。

イ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10における「請求項8又は9に記載の立体映像信号生成回路。」との記載を「請求項8又は9に記載の立体映像表示装置。」と訂正する。

ウ.訂正事項6
本件特許明細書の【0018】における「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整し」との記載を「前記オフセット設定手段は、前記表示装置情報、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、前記表示器に表示される映像の立体感を調整し」と訂正する。

エ.訂正事項7
本件特許明細書の【0035】における「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整するので、立体映像の記録時に共に記録されたクロスポイント情報によって、画面サイズに対応した最適立体度(奥行き量)を調整した立体映像を得ることができる。」との記載を「前記オフセット設定手段は、前記表示装置情報、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、前記表示器に表示される映像の立体感を調整するので、立体映像の記録時に共に記録されたクロスポイント情報によって、画面サイズに対応した最適立体度(奥行き量)を調整した立体映像を得ることができる。」と訂正する。

2.新規事項
上記の一群の請求項1?7に係る訂正及び一群の請求項8?15に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
詳細は、以下のとおりである。

(1)一群の請求項1?7に係る訂正
訂正事項1のうち、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することは、願書に添付した明細書又は図面に記載されているとは認められない。
被請求人は、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0110】?【0112】、図16、図17等の記載に基づいていると主張している。
本件特許明細書の段落【0110】?【0112】の記載、図16,図17は、次のとおりである。

「 【0110】
次に、左右眼映像のオフセット量の算出について説明する。
【0111】
図16は、オリジナル立体映像の視差量と立体像出現位置との関係を示す。オリジナル立体映像300においては、図2に示すように右目映像と左目映像とが撮影時の位置関係にある。このとき、立体像出現位置(立体像の見える位置と観察者との間の距離)をLd、視距離(観察者と表示画面との間の距離)をLs、表示画面上に表示される左眼映像と右眼映像との視差量をX1、眼間距離をde(約65mm)とすると、上記パラメータは図16に示す式(1)によって表される。そして、立体像出現位置Ldは、この式を解くことによって、視差量X1の関数として求めることができる。ここでX1は、表示画面の大きさによって(表示画面サイズに比例して)変化する。
【0112】
図17は、左右眼画像にオフセットを与えた場合の左右眼映像の視差量と立体像出現位置との関係を示す。このとき、立体像出現位置(立体像の見える位置と観察者との間の距離)をLd、視距離(観察者と表示画面との間の距離)をLs、左右眼映像のオフセット量をXo、表示画面上に表示される左眼映像と右眼映像との視差量をX1、眼間距離をde(約65mm)とすると、上記パラメータは図17に示す式(2)によって表される。そして、オリジナル映像と同じ立体像出現位置Ldを得るために、図16に示す式(1)によって求めたLdを式(2)に代入する。そして、左右眼映像のオフセット量をXoを求める。」

「【図16】



「【図17】



本件特許明細書の段落【0110】?【0112】の記載、図16,図17をみても、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することは、記載されていない。
段落【0112】によると、「図16に示す式(1)によって求めたLdを式(2)に代入する」から、図17におけるオフセットは、図16に示された立体像出現位置Ldを得るためのものである。
したがって、本件特許明細書の段落【0110】?【0112】の記載、図16、図17に記載されていることは、図16に示された立体像出現位置Ldを得るためにオフセット量Xoを求めることであって、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することではない。
図16に示された立体像出現位置Ldを得るためにオフセット量Xoを求めることが、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することであるとは認められない。
本件特許明細書の段落【0110】?【0112】の記載以外の記載、図1?15をみても、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することが記載されているとは認められない。

被請求人は、平成30年1月4日付け意見書において、本件特許明細書の段落【0111】?【0112】の他に段落【0006】、【0009】を挙げ、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することは、本件特許明細書に記載されていると主張している。
本件特許明細書の段落【0006】、【0009】の記載は次のとおりである。

「 【0006】
また、立体映像コンテンツを制作する場合、最終的に表示する画面サイズ(ディスプレイやスクリーンのサイズ)を想定し、撮影用立体カメラのクロスポイントや、コンピュータグラフィックの視差量を調整して制作するが、一度制作されたコンテンツは、立体映像表示装置の画面サイズが変わると立体感が異なってしまうことから、画面サイズに応じて立体映像を再度制作する必要があった。また、CG(Computer Graphics)で立体映像を作成する場合は、レンダリングをやり直す必要があった。」
「 【0009】
本発明は、CP情報を活用することによって、画面サイズが異なる表示装置で再生しても、自然な飛び出し量の立体映像を得ることができる立体映像表示装置及びこれに用いる立体映像信号生成回路を提供することを目的とする。」

しかしながら、本件特許明細書の段落【0111】?【0112】に「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することが記載されていないことは上記のとおりであり、同段落【0006】、【0009】をみても、発明を解決しようとする課題、発明の目的が記載されているだけで、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整する構成が記載されているとは、認められない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

したがって、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、」表示される映像の立体感を調整することを含む訂正事項1は、本件特許明細書又は図面に記載されていない新たな技術的事項を導入するものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

訂正事項2、3も訂正事項1と同様である。

(2)一群の請求項8?15に係る訂正
訂正事項4、6、7も、上記(1)の訂正事項1と同様である。

第3 本件特許発明

本件訂正は上記のとおり認められず、また、平成29年2月24日付けの訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなされるから、本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」、・・・、「本件特許発明15」、あるいは、これらを総称して「本件特許発明」という。)。

[本件特許発明1](請求項1)
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路であって、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整することを特徴とする立体映像信号生成回路。

[本件特許発明2](請求項2)
前記情報取得手段は、
立体映像に関連づけて定められた、該立体映像の再生に適する画面サイズに関する適合画面サイズ情報、又は、再生時に観察者が見るのに適する表示画面までの距離に関する適合視距離情報のうち少なくとも一つの情報を前記映像情報とし取得し、
前記立体映像表示装置の表示画面サイズに関する表示画面サイズ情報、又は、観察者から前記立体映像表示装置の表示画面までの距離に関する視距離情報のうち少なくとも一つの情報を前記表示装置情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記最適画面サイズ情報、前記適合視距離情報、前記表示画面サイズ情報、前記視距離情報のうち取得した一又は二以上の情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整することを特徴とする請求項1に記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明3](請求項3)
前記情報取得手段は、立体感に関して入力された情報を取得し、
前記オフセット設定手段は、前記入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明4](請求項4)
前記左目映像を記憶する左目映像用フレームメモリと、前記右目映像を記憶する右目映像用フレームメモリとを備え、
前記オフセット設定手段は、前記左目映像用フレームメモリ及び/又は右目映像用フレームメモリから映像データを読み出すタイミングを制御するタイミング制御手段を備え、
前記タイミング制御手段は、前記左目映像用フレームメモリと前記右目映像用フレームメモリとの一方から映像データを読み出すタイミングを、他方のフレームメモリから映像データを読み出すタイミングと比べて早める又は遅らせることによって前記左目映像と前記右目映像とのオフセットを設定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明5](請求項5)
立体映像を記憶する立体映像用フレームメモリと、
前記左目映像用フレームメモリから読み出された映像データと前記右目映像用フレームメモリから読み出された映像データとを切り替えて前記立体映像用フレームメモリに入力する信号切替手段と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明6](請求項6)
前記左目映像と前記右目映像との水平位相を進める又は遅らせることによって、前記左目映像と前記右目映像とのオフセットを設定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明7](請求項7)
前記左目映像と前記右目映像とのオフセットを設定した際に、前記左目映像と前記右目映像との左右縁部において情報が欠落した領域に、当該欠落領域近傍の前記左目映像と前記右目映像との一方又は双方を水平及び垂直方向に拡大して表示することを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明8](請求項8)
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置であって、
左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器と、前記表示器を駆動する駆動回路とを備え、
前記立体映像信号生成回路は、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記表示器の表示領域に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整し、
前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示することを特徴とする立体映像表示装置。

[本件特許発明9](請求項9)
前記表示器の表示領域に関する情報として表示画面サイズに関する表示画面サイズ情報を記憶する記憶手段を備え、
前記情報取得手段は、前記記憶手段から前記表示画面サイズ情報を取得することを特徴とする請求項8に記載の立体映像表示装置。

[本件特許発明10](請求項10)
前記情報取得手段は、
立体映像に関連づけて定められた、該立体映像の再生に適する画面サイズに関する適合画面サイズ情報、又は、再生時に観察者が見るのに適する表示画面までの距離に関する適合視距離情報のうち少なくとも一つの情報を前記映像情報として取得し、
前記立体映像表示装置の画面サイズに関する表示画面サイズ情報、又は、観察者から前記立体映像表示装置の表示画面までの距離に関する視距離情報のうち少なくとも一つの情報を前記表示装置情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記最適画面サイズ情報、前記適合視距離情報、前記表示画面サイズ情報、前記視距離情報のうち取得した一又は二以上の情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整することを特徴とする請求項8又は9に記載の立体映像信号生成回路。

[本件特許発明11](請求項11)
視聴者が立体感に関する情報を入力する入力手段を備え、
前記オフセット設定手段は、前記入力手段に入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整することを特徴とする請求項8から10のいずれか一つに記載の立体映像表示装置。

[本件特許発明12](請求項12)
前記左目映像を記憶する左目映像用フレームメモリと、前記右目映像を記憶する右目映像用フレームメモリとを備え、
前記オフセット設定手段は、前記左目映像用フレームメモリ及び/又は右目映像用フレームメモリから映像データを読み出すタイミングを制御するタイミング制御手段を備え、
前記タイミング制御手段は、前記左目映像用フレームメモリと前記右目映像用フレームメモリとの一方から映像データを読み出すタイミングを、他方のフレームメモリから映像データを読み出すタイミングと比較して早める又は遅らせることによって前記左目映像と前記右目映像とのオフセットを設定することを特徴とする請求項8から11のいずれか一つに記載の立体映像表示装置。

[本件特許発明13](請求項13)
立体映像を記憶する立体映像用フレームメモリと、
前記左目映像用フレームメモリから読み出された左目映像データと前記右目映像用フレームメモリから読み出された右目映像データとを切り替えて立体映像用フレームメモリに入力する信号切替手段と、を備えることを特徴とする請求項8から12のいずれか一つに記載の立体映像表示装置。

[本件特許発明14](請求項14)
前記左目映像と前記右目映像との水平位相を進める又は遅らせることによって、前記左目映像と前記右目映像とのオフセットを設定することを特徴とする請求項8から13のいずれか一つに記載の立体映像表示装置。

[本件特許発明15](請求項15)
前記左目映像と前記右目映像とのオフセットを設定した際に、前記左目映像と前記右目映像との左右縁部において情報が欠落した領域に、当該欠落領域近傍の前記左目映像と前記右目映像との一方又は双方を水平及び垂直方向に拡大して表示することを特徴とする請求項8から14のいずれか一つに記載の立体映像表示装置。

第4 当事者の主張

1.請求人の主張
(1)請求の趣旨
特許第3978392号発明の特許請求の範囲の請求項1、3、8及び11に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

(2)無効理由
ア.無効理由1(36条6項2号36条4項1号)
本件特許は特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

イ.無効理由2(29条1項3号29条2項)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり(以下、「無効理由2-1」という。)、本件特許の請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一またはこれにより容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(以下、「無効理由2-2」という。)、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ウ.無効理由3(29条1項3号29条2項)
本件特許の請求項1、8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一またはこれにより容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

エ.無効理由4(29条1項3号29条2項)
本件特許の請求項1、8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一またはこれにより容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

オ.無効理由5(29条2項)
本件特許の請求項3、11に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明および甲第4号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

カ.無効理由6(29条2項)
本件特許の請求項3、11に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明および甲第5号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由1の要点
無効理由1は、以下のア.ないしエ.の4つの主張に分けることができる。
ア.本件特許発明1、3、8、11の「オフセット設定手段」は、映像情報(カメラ距離情報、クロスポイント情報)や表示装置情報から具体的にどのようにしてオフセットを設定するのか不明であって発明が不明確であるとともに、発明の詳細な説明にもこの点の記載がなく発明を実施できない。(以下、「無効理由1-ア」という。)

イ.左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸は、クロスポイントで交差するので、本件特許発明1、3、8、11の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」が定まらず、発明が不明確であり、かつ、発明の詳細な説明にもこの点の記載がなく発明を実施できない。(以下、「無効理由1-イ」という。)

ウ.本件特許発明1、3、8、11の「表示装置情報」は、画面サイズ以外の情報も含み得るが、画面サイズ以外の情報を用いて立体感を調整することは、本件特許明細書には記載されておらず、画面サイズ以外の「表示装置情報」をどのように用いて立体感を調整するのかが不明確であるから、発明が不明確である。(以下、「無効理由1-ウ」という。)

エ.本件特許発明1に「前記左目映像」及び「前記右目映像」とあるが、これ以前に「左目映像」及び「右目映像」が記載されておらず、発明が不明確である。(以下、「無効理由1-エ」という。)

(4)弁駁書における主張
請求人は、平成29年10月23日付け弁駁書において、次のように主張している。

ア.本件訂正が訂正要件を満たさないこと
「表示装置情報、カメラ距離情報及びクロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出」すること、「表示装置情報、カメラ距離情報及びクロスポイント情報に基づいてオフセット量を算出し、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」こと、「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、表示される映像の立体感を調整する」ことは、本件特許明細書等に記載されていない。
「左目映像と右目映像が撮影時の位置関係にあるオリジナル立体映像と同じ立体感が得られるように、表示される映像の立体感を調整する」ことは技術的に不明確であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

イ.本件訂正後の本件特許が記載要件違反の無効理由を有すること
仮に本件訂正が認められた場合、新たに明確性要件違反、サポート要件違反及び実施可能要件違反の無効理由が生じる。

ウ.本件訂正後の本件訂正発明1、3、8及び11が進歩性を有さないこと
仮に本件訂正が訂正要件を充足しているとしても、本件訂正発明1、8は、甲第3号証に記載された発明に基づき進歩性を有するものではない。
また、本件訂正発明3、11で限定された構成が甲4発明及び甲5発明と共通するから、本件訂正発明1、8が進歩性を有さない以上、従属項に係る本件訂正発明3、11も進歩性を有しない。

(5)証拠方法
甲第1号証:特開平7-167633号公報
甲第2号証:特開平7-95621号公報
甲第3号証:特開平8-9421号公報
甲第4号証:米国特許第5065236号明細書
甲第5号証:特開2002-232913号公報
甲第6号証:「テレビジョン・画像情報工学ハンドブック(抜粋)」
1990年11月30日第1版第1刷発行(207、225頁、奥付)
甲第7号証:特開平9-121370号公報
甲第8号証:特開2000-112428号公報
甲第9号証:特開2001-75047号公報
甲第10号証:本件特許出願の拒絶理由通知書(起案日 平成18年12月21日)
甲第11号証:人に優しい3D普及のための3DC安全ガイドライン
甲第12号証:広辞苑第6版第1刷(2947頁)「立体感」
甲第13号証:特開平7-298304号公報
甲第14号証:特開2002-27496号公報
甲第15号証:特開2000-78615号公報

2.被請求人の主張
(1)答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。
との審決を求める。

(2)答弁の概要
ア.無効理由1について
本件特許は、明確性要件及び実施可能要件のいずれにも違反するものではない。

イ.無効理由2について
本件特許の請求項1に係る発明について、甲第1号証に基づく新規性欠如はない。
本件特許の請求項8に係る発明について、甲第1号証に基づく新規性欠如及び進歩性欠如はない。

ウ.無効理由3について
本件特許の請求項1に係る発明について、甲第2号証に基づく新規性欠如及び進歩性欠如はない。
本件特許の請求項8に係る発明について、甲第2号証に基づく新規性欠如及び進歩性欠如はない。

エ.無効理由4について
本件特許の請求項1に係る発明について、甲第3号証に基づく新規性欠如及び進歩性欠如はない。
本件特許の請求項8に係る発明について、甲第3号証に基づく新規性欠如及び進歩性欠如はない。

オ.無効理由5について
本件特許の請求項3、11に係る発明について、甲第1ないし3号証及び甲第4号証に基づく進歩性欠如はない。

カ.無効理由6について
本件特許の請求項3、11に係る発明について、甲第1ないし3号証及び甲第5号証に基づく進歩性欠如はない。

(3)上申書における主張
被請求人は、平成29年9月8日付け上申書において、次のように主張している。
本件訂正発明1、本件訂正発明8について、甲第3号証に基づく新規性及び進歩性欠如の無効理由は存在しない。
本件訂正発明3は、本件訂正発明1の従属請求項に係る発明であり、本件訂正発明1については、甲第3号証に基づく無効理由は存在しないから、本件訂正発明3についても無効理由は存在しない。
本件訂正発明11は、本件訂正発明8の従属請求項に係る発明であり、本件訂正発明8については、甲第3号証に基づく無効理由は存在しないから、本件訂正発明11についても無効理由は存在しない。

(4)意見書における主張
被請求人は、平成30年1月4日付け意見書において、次のように主張している。

ア.本件訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内である。

イ.弁駁書に対する請求人が主張する無効理由に対する反論
本件訂正発明は、明確性要件、実施可能要件、サポート要件を満たす。
また、本件訂正発明は、進歩性の要件を満たす。

第5 甲第1号証ないし甲第9号証の記載事項

1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開平7-167633号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0019】図1は、本発明にかかる第1の実施例の立体画像撮像装置の構成図である。図1において、1,2はレンズ、3a,3bはカメラ本体、4a,4bは輻輳角移動機構部である回転制御部、5はカメラ間隔制御部であり、これらは従来の技術と同様な物である。14a ,14b はカメラ本体からの信号を輝度信号に変換する信号処理部、15は左右の画像から水平視差を計算する視差計算部、16は最小の視差を検出する視差処理部、17は観察者に最も近い被写体の空間位置を計算する奥行き表示位置計算部、18は観察者に最も近い被写体の空間位置が観察者の融合範囲内にあるかどうかをチェックする融合範囲確認部、19は観察者に最も近い被写体の空間位置が観察者の融合範囲内に入るように回転制御部4a,4bを制御する輻輳角制御部である。ここで、レンズ1,2及びカメラ本体3a,3bが、撮像部を構成している。
【0020】以上のように構成された本実施例の立体画像撮像装置について、以下その動作を説明する前に、撮像系と表示系のモデル理論と、観察者の両眼融合範囲に関する特性について説明する。
【0021】まず、撮像系と表示系のモデルについて、図2を用いて説明する。図2(a)は撮像系のモデルである。撮影カメラは左右対称に、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向いている。この時座標原点を2台のカメラの中心にとり、2台のカメラを並べる方向をx軸、奥行き方向をy軸、高さ方向をz軸とする。左右のレンズ1,2はx軸上のそれぞれ(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、撮像面(撮像素子またはフイルムの位置)7,8に対するレンズの焦点距離はfである。この時dx =∽にすると、2台のカメラの光軸は平行になる(図2(a)、破線)。
【0022】図2(b)は表示系のモデル(立体画像表示装置のモデル)である。表示系の座標は観察者の両眼の中心を原点として、両眼の中心を結ぶ線をX軸、奥行き方向をY軸、高さ方向をZ軸とする。この時、観察者から立体画像表示スクリーン12までの距離はds、左右眼はそれぞれ(-We,0,0),(We,0,0)に位置し、再現される点画像の位置が右目用がPr、左目用がPlであるとすると、観察者はPrと(We,0,0)を結ぶ線分とPlと(-We,0,0)を結ぶ線分の交点Pに点画像があると知覚する。一般的に、図2(b)の様な平面のスクリーンを用いた立体画像表示装置を用いると、dx =∽でかつ、無限遠点を撮像した位置(撮像画像の中心位置)が、図2(b)で左右画像それぞれNL(-We,ds,0),NR(We,ds,0)の位置に表示されると、撮像空間のx方向は歪なく再生される。また、撮像空間のy方向は(数1)の時、歪なく再生される。
【0023】
【数1】 ds=M・f
【0024】ここでMは、撮像面7,8上の像の大きさと表示スクリーン12上の像の大きさの比である(但し、Y軸上に観察者の中心がある場合)。この場合、無限遠点の再生画像を観察する場合は、図2(b)で両眼の視線が破線の様に平行になる。被写体が無限遠点から0の距離の間に存在することより、観察者の2つの視線は平行か、内側を向くことになり、外側に向くことはなくなる。人間の特性として、2つの視線が平行より外側に向くことはありえないため、この条件は立体画像の再生範囲が最も広くなる条件である。
【0025】この無歪再生条件の内、図2(a)のdx =∽の条件が成立しない場合、即ちdx が有限の値を持つときは、再生される立体画像は空間的に必ず歪むため、なるべくdx =∽の条件で撮像し、再生される立体画像が観察者の融合範囲内に無い場合のみdx を変化させて観察者が融合出来る様にする。この時、再生される立体画像の歪を最小限に抑えるため、dx はなるべく大きな値を持つように設定する。実際のdx の制御については後述する。この時、立体画像再生側では、立体画像の再生範囲を最大にするために、無限遠点の画像を図2(b)のNL,NRに再生する。このためには、図2(a)の撮像面7,8上での無限遠点の水平方向の座標はf×Wc/dx であることを用いて、(数2)の関係が成立する様にΔSを設定し、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動して左右画像を表示する。
【0026】
【数2】


【0027】次に、人間の両眼融合特性について説明する。本発明は、立体画像表示装置で立体画像を表示した時に、観察者が左右の画像を融合できる範囲内に立体画像を表示出来るように、撮像装置のパラメータdx を制御するため、図2(b)において観察者が両眼融合できる条件を知っておく必要がある。例えば図2(b)で、点Pの位置を観察者が注視しているとする。ここで、実際の画像は表示スクリーン12上に結像される。しかしながら、両眼の視線は点Pに向いている。この様に近い点を見るために両眼を内転することを輻輳眼球運動、P点を輻輳点というが、この輻輳眼球運動は、眼のピント情報と点Pの網膜投影位置情報を用いて制御されている。
【0028】この場合、ピント情報と網膜情報は矛盾しているため、観察者側に負担がかかる。この矛盾が小さな範囲ならば観察者は許容できるが、矛盾が大きくなると、観察者は左右の画像をひとつの画像として融合できなくなり、ついには二重像の知覚になってしまう。二重像の知覚にならなくても、視覚系に負担がかかり、疲労を招く。この眼のピント位置(調節という)と、網膜投影位置による輻輳点の位置(輻輳という)の許容範囲を測定した結果がある(日経エレクトリニクスvol.444,p205-214(1988))より)。これを図3に示す。横軸の輻輳は、両眼の視線の交点と観察者の距離、縦軸の調節は、眼球の水晶体のピントを合わせている位置と観察者の距離(単位はD、ジオプタで、距離の逆数)である。右上がりの45度の直線上が、輻輳と調節の一致する条件であり、斜線部は眼の焦点深度内の許容範囲、αは画像を0.5秒表示したときの融合限界線である。この上下の融合限界線の間の領域では、観察者は立体画像を融合でき、2重像になることはない。そこで図2のdx を、この融合可能な領域に全ての立体画像が再現される様な条件でかつ、なるべく大きな値を持つように制御して撮像する。
【0029】まず、初期値としてdx =∽(十分大きな値)とする。図1において、視差計算部15は信号処理部14a,bの出力である左右眼用の画像から、視差地図(3次元地図)を計算する。計算方法は左右画像の輝度パターンの相関を計算する相関マッチング法や左右画像のエッジ情報のマッチングを行う方法等、多くの方法が提案されているが、ここでは例として輝度パターンの相関を計算する相関マッチング法を用いる方法を説明する。図4を用いて視差計算部15の詳細な動作を説明する。図4において、大きさN×Mの左右画像を考える。左画像でn×n画素(図では3×3画素)のブロック窓を考える。このブロック窓と同じ画像を右画像で同じサイズの窓を用いて探し、この時の左右のブロック位置のずれを示すベクトル(Δx,Δy)の水平成分Δxが、そのブロック窓の中心座標での左右画像の両眼視差となる。基準となる左画像のブロック窓の位置を全画面に渡って平行移動し、全ての場合において右画像の対応するブロックの位置(両眼視差)を求めれば、画面全体の視差地図(画面の各場所での奥行き距離を示したもの)が求められる。ここで画像の座標(x,y)における左右画像のずれ、即ち両眼視差(Δx,Δy)は、(数3)で示される。
【0030】
【数3】
Δx=i,Δy=j for Min{Corr(i,j)}
【0031】ここで、
【0032】
【数4】

【0033】である。ただし(数3)のΣは、n×nのブロック窓内について座標xk,ykを変化させて絶対値内の総和をとることを示す。Nはブロック窓内の画素数である。両眼視差Δx,Δyの内、奥行き位置を直接示すのはΔxである。左画像を基準とした場合、両眼視差の値が正の時は、基準画像に対して右画像は右側、左画像は左側に位置し、両眼視差0の奥行き位置より奥側を示し、両眼視差の値が負の時は両眼視差0の奥行き位置より手前側に被写体が存在することを示す。
【0034】以上の様にして得られた視差地図(画面全体について各座標における視差Δxを計算したもの)を元にして、視差処理部16は、画像全体の視差の最小値(最も観察者に近い位置に再生される被写体の視差)を抽出し、これをΔxmin とする。次に、Δxmin を元にして、図5に示した立体画像表示における立体画像の奥行き再生位置Ypminは奥行き表示位置計算部17により計算されるが、計算式は(数5)で示される。
【0035】
【数5】

【0036】Ypminは表示座標系の原点から注目している被写体の位置までの距離のY座標を表す。ここで、図5は図2(b)の表示モデルに図3の観察者の両眼融合範囲を重ねて書いた物である。斜線部分は観察者の両眼融合可能領域である。
【0037】ここでF(ds)minは、図3において下側の曲線で与えられる。たとえば、スクリーンまでの視距離ds =71cmの時、F(ds)min=29cmとなり、観察者は無限遠から29cmのところまでの範囲内で両眼融合可能である。図3より、視距離が71cm以上の時には観察者は、無限遠からF(ds)minの範囲まで両眼融合可能である。視距離が71cm以下の場合には、図3の上側の曲線も両眼融合範囲を制限し、F(ds)max?F(ds)minまでの距離が両眼融合範囲となる。以下では、視距離が71cm以上の場合について説明する。ここで、Ypminが、両眼融合範囲の境界にあるかどうかを融合範囲確認部17が判断する。判断の基準は、(数6)が成立するかどうかを評価する。
【0038】
【数6】
F(ds)min+ΔF≧YPmin≧F(ds)min-ΔF
【0039】ここで、ΔFは任意の小さな値である。(数6)が成立する場合には、立体画像の再生表示位置は両眼融合範囲内にあるので、融合範囲確認部18は輻輳角制御部19に現在のdx の値をそのまま輻輳角制御部19に出力する。また、Ypminが、(数7)を満たす場合、Ypminの再生表示位置は両眼融合範囲内に完全に入っているため、融合範囲確認部18は現在のdxにΔdxだけ加算した値を新たなdxとして輻輳角制御部19に出力する。
【0040】
【数7】
YPmin>F(ds)min+ΔF
【0041】但し、後述のθ(図6参照)が0に近くなれば、後述のカメラ光軸角度θはほとんど変化しないので、dx は更新しなくてもよい。また、図5に示すように、Ypminが(数8)を満たす場合には、Ypminに再生された画像は観察者にとって両眼融合できない画像である。
【0042】
【数8】
YPmin<F(ds)min-ΔF
【0043】この場合、現在のdxからΔdxだけ減算してこれを新たなdxとする。このdxからΔFを減算した値が、dx0(後述、>0)よりも小さい場合には、dx0を新たなdxとする。ここで、dx0 の計算について説明する。融合範囲確認部18は、Ypminのy座標を、図5のF(ds)minにする条件でのdxをdx0として計算する。dxの計算式は(数5)と(数2)により、ΔSを消去し、Yp=F(ds)minとし、更にdxで解くと得られ、(数9)となる。
【0044】
【数9】

【0045】この様にして得られるdxを用いて、輻輳角制御部19は回転制御部4a,4bを制御し、カメラ本体3a,3bが図(a)に示した輻輳点にカメラの光軸が向くように制御する。この時のカメラの制御角度θの定義を図6(a)に示す。θ=0の時、2台のカメラの光軸は平行となる。ここで、dxの更新はΔdxずつとしたが、(数8)の条件の場合、(数9)で示されるdx_0の値をdxに直接代入しても良い。また、dxを制御する代わりに、(数8)が成立する場合のみ、カメラ間隔WcをWc-△Wc(△Wcは任意の小さな値)に変化させ、(数6)が成立するまで、これを繰り返してもよい。
【0046】以上の様にすれば、被写体の、観察者から最も近い点Ypminが融合範囲の限界近点であるF(ds)minになるように制御される。この時、Ypminが、カメラ本体3a,3bの光軸が平行になる条件で両眼融合範囲にある場合には、2台のカメラの光軸は平行に保たれる。
【0047】以上の様に、本実施例によれば、撮像画面の視差を計算し、これの最小値を観察者の融合範囲内に再現するように立体撮像カメラの光軸を制御することにより、再生表示された立体画像を観察者が最も広い範囲で融合できる画像を撮像することができる。」

2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証(特開平7-95621号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の画像記録再生装置は、所定位置に配置された複数の撮像手段と、複数の撮像手段のそれぞれの位置や光軸角を制御する制御手段と、複数の撮像手段の光学的な配置を記憶する光学配置記憶手段と、複数の撮像手段のそれぞれの位置や光軸角を計測する計測手段と、複数の撮像手段のそれぞれの異なる光軸配置によって得られる複数画像間での各領域の視差または各領域への距離をそれぞれ抽出する距離情報抽出手段と、複数画像および視差をそれぞれ示す画像データおよび距離または視差データを記録するデータ記録手段と、データ記録手段中のデータおよび光学配置記憶手段に記憶される撮像装置の光学配置情報に基いて、所定の撮像位置からの画像を生成する画像生成手段、とを有する。」
「【0007】これにより、撮像時のカメラ光学配置と再生時の肉眼等の光学配置との違いを反映した正しい立体画像、即ち左眼用と右眼用とで領域ごとに所定の視差のついた画像を生成することができ、さらに、画像中の対象に対して観察者が位置、視線方向をある程度変えても、該変更に追随した立体間のある画像生成を行なうことができる。」
「【0009】図1は本発明の第1実施例のシステム構成図である。本実施例は、全体として撮像部、画像処理部、画像表示部からなり、それぞれユニット化して分離可能に構成されている。また、各ユニットどうしは分離時にはデータ、制御信号等の送受信を行なう。
【0010】図1中、1L,1Rは、左カメラ,右カメラ、2は各カメラを搭載するステージ、3L,3Rはカメラ1L,1Rの光軸方向計測制御手段であり、左右カメラの輻輳角を制御する。
【0011】4L,4Rは、カメラ1L,1Rを搭載するステージ2の長手方向位置計測制御手段であり、左右カメラの基線長などを計測して位置を制御する。5L,5Rはカメラ1L,1Rからの画像データを一時記憶する画像メモリ、6は左右2つの画像の視差抽出手段、7は撮像部光学配置制御手段であり、光軸方向計測制御手段3L,3R,長手方向位置計測制御手段4L,4Rからのカメラ光学配置情報をもとに所望の配置に調整するためのコマンドの生成及び撮像部光学配置記憶手段8にカメラ光学配置情報の出力などを行なう。単眼、両眼視領域判定部9は、視差抽出手段6によって得られる視差値をもとに左右画像の対応点存在領域、右眼または左眼カメラのみに写っている画像領域を判定し、ラベリングを行なう。
【0012】単眼、両眼視領域判定部9で得られた単眼視、両眼視領域情報は、撮像部光学配置制御手段7に送られ、両眼視領域サイズを変えるためのカメラ位置、光軸方向の制御に使われる。10はカメラ光学配置記憶手段8からの情報と領域判定部9からのラベル情報と視差データを元に両眼視領域のカメラ光学系からの距離情報を算出する。
【0013】11は画像生成部で、12の再生(肉眼)光学系の配置計測手段からの情報と8の記憶手段から撮像時光学配置情報及び10で得られる両眼視領域の距離情報とを使って再生時の光学配置で観測される立体画像の生成を行ない、複眼表示装置(ディスプレー)13に左右それぞれの画像を出力する。
【0014】また、複眼表示装置13は、撮像部光学配置を変えるための制御コマンドを撮像部光学配置制御手段7に送信したり、あるいは、撮像部の光学配置情報(基線長、輻輳角など)を撮像部光学配置制御手段7から直接受信することができる。前者の機能は観察者が複眼表示装置13を視るときの肉眼の基線長さ等の光学配置パラメータを計測手段にて計測して、撮像部も同様の光学配置となるように制御する場合、あるいは表示された画像に基づき観測者が所望の倍率、視点位置で撮像するように撮像部を制御する場合などに用いる。後者は撮像時と同じ光学配置条件で表示する場合に用いる。」
「【0017】図2中、L,Rは単眼視領域でそれぞれ右カメラ、左カメラのみに写っている領域、LRは両眼視領域である。1L,1Rは左カメラ,右カメラで、それぞれ1L',1R'のように配置を変えることにより、両眼視領域LRは拡大し、単眼視領域L,Rは縮小することを示している。この配置制御では2つのカメラの基線長(カメラ中心間距離)を短くして輻輳角(2つのカメラの光軸のなす角度)を小さくしている。また、図中、1点鎖線はカメラ光軸、2点鎖線は各カメラの視野範囲、点線は遮蔽輪郭方向を示す。」
「【0032】本実施例では、このようにして対象物の画像中の両眼視領域における距離情報(立体形状情報)を異なる基線長または輻輳角の条件下で求めることにより、2つ以上の撮像光学配置の中間的な光学配置、例えば、1Lから1L'(1Rから1R')の間で取りうる基線長、輻輳角での任意の視点からの画像の生成を行なう。
【0033】例えば、図2において左右カメラが1L,1Rのように配置された状態(基線長b、輻輳角θ)で撮った画像から、図2のハッチングされた部分の、撮像系からの視差または対応点位置に基づく距離情報を求め、また、左右カメラが1L',1R'のように配置された状態(基線長b’、輻輳角θ’、b’<b,θ’<θ)での画像から矢印の方向に拡張した両眼視領域での距離情報を求めることにより、中間的な光学配置(基線長bM、輻輳角θM、b’<bM<b,θ’<θM<θ)で観測される両眼視領域の画像を複眼表示装置13において正しい視差値に変換して画像を出力する。
【0034】図9は視差情報変換の原理を示す図である。
【0035】SL,SRは撮像時のカメラセンサ面、SL’,SR’は再生時の肉眼の網膜またはディスプレイ面、Pは実空間のある物体上の点である。OL,ORは撮像時の左,右撮像系のレンズ中心、OL’,OR’は再生時の再生光学系のレンズ中心を示す。L,L’は撮像時と再生時の基線長を示し、PL,PRは撮像時の左眼,右眼カメラセンサ上の点Pの結像一を示す。また、PL’,PR’は再生時の点Pの結像位置を示す。
【0036】以下、簡単のために点PはOL,ORから等距離であり、OL,ORはセンサ面SL,SRから等距離uにあると過程する。また、撮影時の輻輳角(センサ面SL,SRの面法線のなす角)を2φとすると、図9中のセンサ面SL,SRからの面法線lL,lRの交点Qから点Pまでの距離xは、三角形OLPQにおいて、
【0037】
【数7】
x/sinθ=q/sin(π-φ-θ)
q=(L/2)・(1/2)-u
より、
【0038】
【数8】
x={(L/2sinφ)-u}/{(cosφ/tanθ)-sinφ}={(L/2sinφ)-u}/{(ucosφ/PL)-sinφ}
ここに、
【0039】
【数9】tanθ=PL/u=PR/u
一方、点Qは基線bを含む面から
【0040】
【数10】R=(L/2)cotφ
の距離にある。
【0041】同様に基線長がL’,輻輳角が2φ’のとき、
【0042】
【数11】
x’={(L’/2sinφ’)-u}/{(ucosφ’/PL’)-sinφ’}
R’=(L’/2)cotφ’
ここに、R’は点Q’の基線bを含む面からの距離、
【0043】
【数12】R-x=R’-x’
の関係を使って、PL’について解くと、
【0044】
【数13】
PL’=f(L,L’,φ,φ’)=ucosφ’/(A+sinφ’)・・・・・・(6)
ここに、
【0045】
【数14】
A=(L’-2usinφ’)/{L’cotφ’-Lcotφ+(L-2usinφ)/
〔(ucosφ/PL)-sinφ〕}・・・・・・(7)
したがって、u,φが既知でPLが測定可能であれば、L,φなどを読出し、同様に再生時の光学配置情報L’,φ’を検出して(6),(7)式にしたがってPLをPL’に変換して表示する。なお、視差はPL-PRで一般的に与えられるから、基線長の変化に伴って、視差もPL’-PR’のように変化する。
【0046】図9のようにPQを含む面に関して、光学系が対象となる場合には、視差は2PLから2PL’のように変化する。」
「【0049】上記のことを説明するために、仮りに1つのカメラ配置のみで再生する場合の問題点として以下の点が挙げられる。
【0050】(i)1L,1Rの配置で撮った画像のみでは1L',1R'の配置あるいはそれらの中間的な配置での両眼視領域全てをその距離情報に基いて表示装置13の左眼用ディスプレーと右眼用ディスプレーの対応領域画素の位置に視差に相当する正しい横ずれを与えて表示することができない。また単眼視領域での縮少サイズ形状の変化の予測が容易でない。
【0051】(ii)一方、1L',1R'の配置で撮った画像のみでは1L,1Rのカメラ配置あるいはそれらの中間的な配置での両眼視領域の全てを正しい視差をつけて複眼表示装置13に再生することができるが、単眼視領域での拡張部分、即ち図2でハッチングされていない領域のうち矢印でカバーされた部分の一部は必ずしもそのサイズ、強度分布等を予測することは容易でない。
【0052】これらに対して本実施例では2つの異なる基線長と輻輳角のカメラ配置で撮った画像からその中間的な配置での単眼視領域の画像の予測および両眼視領域の正確な画像再生を行なう。同一物体の単眼視領域のサイズ、強度分布は各カメラの視野角が十分ある場合は中間配置での基線長の値bM(b’<bM<b)及び各カメラの光軸角θLM(θL'<θLM<θL),θRM(θR'<θRM<θR)を使って単眼視領域サイズの大きい画像から領域分割して行なう。より具体的にはカメラ光軸角θL,θR基線長bまたはθL',θR'基線長b’で得られる画像を座標変換(回転、投影など)によりθL=θR=0の画像に変換した後、bM-b’/b-b’の割合で単眼視の輪郭位置を図4中のB1,B2からBMのように定める。図4でcは比例定数である。輪郭位置は抽出された距離情報に基づきスプライン関数等の非線形補間により求めてもよい。さらに、座標変換を行なってθLM,θRMのカメラ光軸角に相当する画像を得る。なお、本実施例ではこのようなカメラ光軸角の変化に伴なうカメラ画像の座標変換処理を含まなくても撮像時と再生時の光学系配置の違いを反映する補正効果を出すことができる。」

3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証(特開平8-9421号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。

ア.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、左右画像に基づいて、立体画像を再現する立体映像装置に関する。」

イ.「【0002】
【従来の技術】両眼視差をもって左右画像を撮像し、撮像した左右画像を表示装置に表示することにより、立体画像を再現する立体撮像装置が知られている。」

ウ.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような立体映像装置においては、同じ撮像条件で撮像された左右画像であっても、表示装置の種類、大きさ等によって、立体視の状態が変化する。このため、使用する表示装置によっては良好な立体画像が得られないという問題がある。
【0004】この発明は、使用する表示装置の種類、大きさ等にかかわらず、良好な立体画像が得られる立体映像装置を提供することを目的とする。」

エ.「【0010】
【実施例】図1は、立体映像装置の構成を示している。
【0011】この立体画像装置は、左画像を撮像するための左画像用ビデオカメラ1と、右画像を撮像するための右画像用ビデオカメラ2を備えている。各ビデオカメラ1、2は、レンズおよびCCDの他、フォーカス調整機構、アイリス調整機構等を備えている。
【0012】ここでフォーカスとは焦点である。アイリスとは絞りであり、焦点深度(焦点が合う距離の幅)と関係している。アイリスが大きくなると焦点深度が浅くなり、アイリスが小さくなると焦点深度が深くなる。2台のビデオカメラ1、2の光軸のなす角度θは、輻輳角である。この例では、輻輳角θは、固定されているものとする。
【0013】各ビデオカメラ1、2の出力は、それぞれ信号処理回路3、4に送られる。各信号処理回路3、4は、入力信号から所定の映像信号を生成して出力するとともに、入力信号に基づいてフォーカス情報およびアイリス情報を生成して出力する。フォーカス情報およびアイリス情報は、CPU6に送られる。CPU6は、フォーカス情報およびアイリス情報に基づいて、各ビデオカメラ1、2のフォーカス調整機構およびアイリス調整機構を制御する。
【0014】各ビデオカメラ1、2の出力は、視差量算出回路5にも送られる。視差量算出回路5は、左右両画面の対応する領域ごとの視差量を算出する。たとえば、左右の各画面を64の領域に分割し、対応する各領域ごとに視差量が算出される。算出された各領域ごとの視差量は、CPU6に送られる。CPU6には、さらに、各ビデオカメラ1、2から現在のズーム情報等が送られている。また、CPU6は、図示しない記憶手段を備えており、この記憶手段には、輻輳角θおよび2台のビデオカメラ1、2の間隔の情報が記憶されている。
【0015】各信号処理回路3、4から出力される映像信号は、多重回路7に送られる。また、CPU6からは、分割領域ごとの視差量、フォーカス情報、現在のズーム情報、輻輳角および2台のビデオカメラの間隔からなる制御情報が、多重回路7に送られる。
【0016】多重回路7では、左右画像の映像信号および制御情報が多重される。制御情報は、たとえば、映像信号の垂直ブランキング期間に挿入される。
【0017】多重回路7から出力される多重信号は、記録回路8によってビデオテープ等の記録媒体9に記録される。記録媒体9に記録された多重信号は、再生回路10によって読み出された後、分離回路11によって、左右画像の映像信号および制御信号に分離される。
【0018】各映像信号は、水平方向の画像表示位置を制御するための水平シフト回路13、14にそれぞれ送られる。制御信号は、両水平シフト回路13、14を制御するCPU12に送られる。
【0019】CPU12は、立体表示装置15に適した立体視を実現できるように、制御信号に基づいて、各水平シフト回路13、14によるシフト方向(右方向または左方向)およびシフト量を制御する。各水平シフト回路13、14から出力される映像信号は、立体表示装置15に送られて、表示される。」

オ.「【0020】制御信号に含まれている各領域の視差量に基づいて、各水平シフト回路13、14を制御する場合について、説明する。
【0021】図2は、立体表示装置15のモニタ面S上に表示される左画像および右画像ならびにそれらの画像の立体像位置を示している。
【0022】立体表示装置15のモニタ面Sと、観察者の目21、22との好適な間隔を適視距離Aとする。また、モニタ面S上での注視物体の右画像Rと左画像Lとの間隔を視差Bとする。また、観察者の眼間距離をCとする。適視距離Aは、立体表示装置15の種類、大きさ等によって決定される。また、映像信号が同じであっても注視物体の視差Bは、立体表示装置15の種類、大きさ等によって異なる。
【0023】適視距離Aと、視差Bと、眼間距離Cにより、注視物体の立体像位置Pは決まる。眼間距離Cは、ほぼ一定であるとすると、注視物体の立体像位置Pは適視距離Aと視差Bとによって決まる。
【0024】すなわち、観察者の左目21とモニタ面S上に表示される注視物体の左画像Lとを結ぶ線を23とし、観察者の右目22とモニタ面S上に表示される注視物体の右画像Rとを結ぶ線を24とすると、線23と24との交点が立体像位置Pとなる。
【0025】観察者の眼間距離Cおよび観察者の融合の度合には個人差があるが、適視距離Aが決まると、立体視できる限界立体像位置に対する限界視差が決定される。
【0026】たとえば、図3(a)に示すように、所定の適視距離Aにおいて、モニタ面Sから前方向の限界立体像位置までの範囲をWfとすると、前方向の限界立体像位置に対する視差(前方向限界視差)Bfが決定される。
【0027】また、図3(b)に示すように、所定の適視距離Aにおいて、モニタ面Sから後方向の限界立体像位置までの範囲をWrとすると、後方向の限界立体像位置に対する視差(後方向限界視差)Brが決定される。
【0028】図1の分離回路11によって分離された左右画像の両映像信号をそのまま立体表示装置15に表示した場合に、図4に示すように、2つの対象物体が左画像L1、L2および右画像R1、R2として表示されるとする。左画像L1と右画像R1とは同じ対象物体に対する画像であり、左画像L2と右画像R2とは同じ対象物体に対する画像である。
【0029】この場合には、図5に示すように、両対象物体の立体像位置範囲はWとなり、その一部が限界立体像位置範囲WMの前端から前側にはみ出でしまう。そうすると、正常な立体視ができなくなる。ここで、限界立体像位置範囲WMとは、モニタ面Sから前方向の限界立体像位置までの範囲Wf(図3(a)参照)と、モニタ面Sから後方向の限界立体像位置までの範囲Wr(図3(b)参照)とを合わせた範囲である。
【0030】このような場合には、左画像を左方向にシフトさせ、右画像を右方向にシフトさせる。そうすると、左画像L1、L2および右画像R1、R2は、図6のように表示される。この場合には、図7に示すように、両対象物体の立体像位置範囲Wは後方にシフトされ、限界立体像位置範囲WM内に収まるようになる。
【0031】分離回路11によって分離された左右画像をそのまま立体表示装置15に表示した場合に、立体像位置範囲Wが限界立体像位置範囲WMを前方向または後方向に越えるか否かは、各領域ごとの視差量と予め決定された限界視差Bf、Br(図3参照)とに基づいて判定される。
【0032】また、分離回路11によって分離された左右画像をそのまま立体表示装置15に表示した場合に、図8に示すように、立体像位置範囲Wが限界立体像位置範囲WM内に収まっていても、立体像位置範囲Wがモニタ面Sの近傍付近にあり、立体感がさほどでない場合がある。このような場合には、図9に示すように、限界立体像位置範囲WM内において、立体像位置範囲Wを前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させることができる。
【0033】分離回路11によって分離された左右画像をそのまま立体表示装置15に表示した場合に、立体像位置範囲Wがモニタ面Sの近傍付近に位置するか否かは、各領域ごとの視差量と予め決定された限界視差Bf、Br(図3参照)とに基づいて判定される。」

カ.「【0034】次に、制御信号に含まれているフォーカス情報、ズーム情報、輻輳角および2台のビデオカメラ1、2の間隔(光軸間距離)といった撮像手段(ビデオカメラ1、2)の制御パラメータに基づいて、各水平シフト回路13、14を制御する場合について説明する。
【0035】図10に示すように、フォーカス情報およびズーム情報により、両ビデオカメラ1、2の間の中心点から主要被写体Xまでの距離(主要被写体距離)Eが求まる。また、輻輳角θ、光軸間距離Dに基づいて、両ビデオカメラ1、2の光軸の交点Yまでの距離(輻輳交点距離)Fが求まる。そして、主要被写体距離E、輻輳交点距離Fおよび光軸間距離Dに基づいて、各ビデオカメラ1、2と主要被写体Xとを結ぶ線と、各ビデオカメラ1、2の光軸とのなす角αが求まる。
【0036】両ビデオカメラ1、2の光軸の交点Yと主要被写体Xとの間隔(F-E)は、主要被写体Xの左右画像間距離(視差)に比例する。そして、交点Yと主要被写体Xとの間隔(F-E)は角度αに比例するので、角度αの大きさは主要被写体Xの左右画像間距離(視差)に比例する。
【0037】ビデオカメラ1、2のカメラ画角は予めわかっているため、角度αがモニタ上の何画素に相当するかを計算することができる。つまり、制御信号に含まれているフォーカス情報、ズーム情報、輻輳角、2台のビデオカメラ1、2の間隔(光軸間距離)に基づいて、主要被写体Xのモニタ面上での視差を求めることができる。
【0038】そして、求められた主要被写体Xの視差と、立体表示装置15の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別することができる。
【0039】主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられる。また、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別された場合には、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させることができる。
【0040】左右画像の水平シフト制御は、視差量に基づいて行ってもよいし、フォーカス情報、ズーム情報、輻輳角および2台のビデオカメラ1、2の間隔といった撮像手段(ビデオカメラ1、2)の制御パラメータに基づいて行ってもよい。また、視差量および撮像手段の制御パラメータの両方に基づいて左右画像の水平シフト制御を行ってもよい。
【0041】左右画像の水平シフト制御を視差量に基づいて行う場合には、撮像された左右画像の映像信号と視差量とを多重して記録すればよい。また、左右画像の水平シフト制御を撮像手段の制御パラメータに基づいて行う場合には、撮像された左右画像の映像信号と撮像手段の制御パラメータとを多重して記録すればよい。
【0042】また、左右画像の水平シフト制御を視差量に基づいて行う場合には、再生側で、左右画像の映像信号から対応する領域ごとの視差量を算出するようにしてもよい。この場合には、撮像側で視差量を算出しなくて済む。」





4.甲第4号証の記載事項
甲第4号証(米国特許第5065236号明細書)には、図面とともに、以下の記載がある。
翻訳文については、当審で付したものである。
「SHIFTED STEREO IMAGES FOR PARALLEL CAMERAS
Consider FIG. 6a, which shows two parallel television cameras, viewing a thin and a fat bar having their longitudinal axis perpendicular to the plane of the paper. The thin bar is located directly in front of the left camera, and the fat bar is located directly in front of the right camera. Thus, the left camera presents the thin bar at the center of the monitor shown at TL in FIG. 6b, and the right camera presents the fat bar at the center of the monitor shown at F.R in FIG. 6b. TR and FL are the right camera's image of the thin bar and the left camera's image of the fat bar, respectively. The observer's eyes in FIG. 6b are converged upon the matching images on the monitor and the apparent thin and fat bar images appear between the observer and the monitor screen at TA and FA. FIG. 6c shows the observer's stereoscopic view with the bars fused but the monitor double. The outline of the left eye's view of the monitor is shown in a heavy dashed line, and the outline of the right eye's view of the monitor is shown as a thin solid line. The left eye's view of the monitor has the thin bar in its center, and the right eye's view of the monitor has the fat bar in its center.
The left camera's image of the bars can now be shifted to the left and the right camera's image of the bars shifted to the right symmetrically until the images overlap on the monitor. This can be done with a frame buffer, for example. FIG. 7a shows the results. The eyes converge on the monitor screen. The result is a satisfactory stereo image, with a single fused image of the television monitor screen as shown in FIG. 7b.」(第10欄第47行?第11欄第11行)
(平行カメラ用のシフトされたステレオ画像
図6aは、紙面の平面に対して垂直な長軸を有する細いバー及び太いバーを見る2つの平行テレビジョンカメラを示しており、この図6aを検討する。細いバーは左カメラの真正面に位置し、太いバーは右カメラの真正面に位置する。よって、左カメラは図6bのTLに示されるモニタの中心に細いバーを提示し、右カメラは図6bのFRに示されるモニタの中心に太いバーを提示する。TR及びFLは、それぞれ、細いバーの右カメラ画像及び太いバーの左カメラ画像である。図6bにおける観察者の眼は、モニタ上の一致した画像上で交わり、見かけの細いバー及び太いバー画像は、観察者とモニタスクリーンの間のTA、FAに現れる。図6cは、バーが結合しているがモニタがダブっている観察者の立体ビューを示している。モニタの左眼ビューのアウトラインは破線で示されており、モニタの右眼ビューのアウトラインは細い実線で示されている。モニタの左眼ビューはその中心に細いバーがあり、モニタの右眼ビューはその中心に太いバーがある。
モニタ上で画像が重なるまで、バーの左カメラ画像を左に、バーの右カメラ画像を右に対照的にシフトすることができる。このことは、例えばフレームバッファによって行われる。図7aにその結果を示す。眼はモニタスクリーン上で交わる。結果は十分なステレオ画像となっており、図7bに示すように、テレビジョンモニタスクリーンの1つの結合した画像となる。)
「In order that the methods of this invention may be carried out manually or automatically with television cameras 20, 21 and monitors 22, 23, a control computer 24 is provided as shown in FIG. 10 with provision for an operator or observer to override control of all parameters, such as the shift of images through buffers 25 and 26, magnification factors q1 and q2 through magnification control blocks 27 and 28, the stereoscopic image combiner 29, 」(第14欄第50行?第58行)
(テレビジョンカメラ20、21及びモニタ22、23を用いて本発明の方法を手動または自動で行えるよう、図10に示すように制御コンピュータ24が設けられ、バッファ25、26を介した画像のシフト、増幅制御ブロック27、28及び立体画像結合器29を介した増幅ファクタq1、q2のような全てのパラメータの上書き制御を操作者又は観察者に提供する。)
「While all of these parameters could be set directly by an operator, it is preferred to program the computer for control, and to allow the operator or observer to change the parameters from a central location, such as a computer keyboard, a mouse, a voice recognition system, etc.」(第14欄第65行?第15欄第2行)
(これらのパラメータの全てを、オペレータにより直接入力することができるが、コンピュータにより制御するとともに、コンピュータキーボード、マウス、音声認識システム等からオペレータ又は観察者によりパラメータを変更できるようにすることが好ましい。)

5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証(特開2002-232913号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0019】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、立体視において心地よい立体感を感じる視差量は、個人差が大きい。例えばAさんは立体感の強い画像はあまり好きではなく、逆にBさんは立体感の強い画像が好みだったとする。この様なときに、立体視画像を、Bさん用に調整した視差量で、Aさんが観察すると、立体感が強すぎたり、逆にAさん用に調整した視差量でBさんが観察すると、立体感が不足して物足りなく感じる事がある。
【0020】そのため、複数の人で、立体視画像を撮影、観察する際には、その人が自分に合うように毎回視差量を調整する必要があった。本出願の目的は、立体視画像を撮影、観察する際に各個人の視差量調整を容易にする事である。」
「【0042】(第2の実施例)図6が第2の実施例のシステムを示す図である。第2の実施例は、複眼カメラで撮影された立体視画像をPCに転送して、PCを使用して立体視を行うシステムである。図6中、61は複眼カメラ、62はPC本体、63はディスプレイ、64は液晶シャッタメガネ、65は観察者を指定している画面である。複眼カメラ61は第1の実施例と同様立体視画像を撮影し、その画像を図1の外部インターフェース7を介して、PC本体62に転送する。PC本体62は複眼カメラ61からの立体視画像を液晶シャッタメガネ64で立体視できるように、ディスプレイ63へ出力する。
【0043】ここで互いに視差を有する左右一級の立体視画像を立体視表示する方法について述べる。この制御はPC本体62上でソフトウェアを使用する事で行う。このソフトウェアは、PC本体62中のCPUの制御によって動作する。まずディスプレイコントローラを、120Hzの垂直走査周波数のビデオ信号に応じて左右一級の立体視画像を切り替えるように設定する。次に複眼カメラ61からの立体視画像を左右画像交互にディスプレイ63に出力すると、立体視画像が120Hzの周波数でディスプレイ63上に表示される。一方、同時にPC本体62に接続された液晶シャッタメガネ64に、右画像をディスプレイ63に表示するときは右目を透過させ、逆に左画像を表示するときは左眼を透過させるような信号を出力する。液晶シャッタメガネ64はPC本体62からの信号を受けて、左右どちらかを透過させて立体視が可能となる。
【0044】このような方法で立体視を行う際には、図8に示すようにディスプレイ63上には左画像と右画像が交互に表示される。主被写体801上の一点Pの視差量は左画像中で存在しているL点と右画像中でのR点のずれ量であらわされる。立体感は被写体上の全ての点の視差量から決められるが、代表点の視差量だけでもおおよその立体感がわかる。
【0045】複眼カメラ61からの立体視画像の視差量は撮影者に適した量となっており、撮影者に適した立体感になっている。しかしながら、上記に示したずれ量を水平方向に変化させる事で、各個人に適した立体感に変更する事が可能である。つまり、左右画像を交互に出力する位置を水平方向に制御する事により立体感を変更する事が出来る。例えば左右画像を水平方向に離して表示すれば立体感が強くなり、近づけて表示すれば立体感は弱いが疲れにくい表示となる。
【0046】すると、立体視画像の撮影者とその立体視画像の観察者が同じであるならば、そのままディスプレイ63上に立体視表示を行い、液晶シャッタメガネ64で見れば良いが、撮影者と観察者が異なる場合は観察者に適した視差量に変更し、表示位置を変更する事で各個人に対応する事が可能である。しかしながら、立体視画像の撮影者と観察者が異なるときには毎回その設定を行う必要があった。そこで本実施例では図6の観察者を指定している画面65に示すように、あらかじめ立体視画像を観察する観察者に適した視差量を保持しておき、また複眼カメラ61から立体視画像とともに撮影者データも入力され、撮影者と観察者を比較して、それが異なれば表示位置を演算し、観察者に適した視差量で立体視が可能なように表示する。
【0047】続いて、この実施例の動作を図7のフローチャートを用いて説明する。ステップ701では複眼カメラ61から立体視画像と撮影者データが入力される。ステップ702では人力された撮影者データからその撮影者に適した視差値を読み込む。これは第1の実施例で示した図9のような名前と適正視差からなるデータベースがあり、そのデータベースを使用する事により、立体視画像の撮影者の適正視差値を得る事が出来る。ステップ703では図6のように観察者を選択し、ステップ702同様データベースから観察者に適した視差値を読み込む。ステップ704では、撮影者に適した視差値と観察者に適した視差値を比較し、同じならばステップ706でその視差値に基づいてディスプレイ63に表示する。異なった時はステップ705で観察者に適した視差値になるように画像の表示位置を変更するために演算し、ステップ706でディスプレイ63の変更した位置に表示する。
【0048】ステップ705における画像の表示位置の変更は、撮影者に適した視差量をdt、観察者に適した視差量をdlとするときに、dt-dlを計算し、その分内側にずらす(負の場合は外側にずらす)ように変更して行う。」

6.甲第6号証の記載事項
甲第6号証(「テレビジョン・画像情報工学ハンドブック」)には、図面とともに、以下の記載がある。
「表示・画像出力システムは,撮像・画像入力システムで取り入れられ,処理・伝送された画像情報データを,最終的な受け手が最も受け取りやすい形に変換表示するシステムである.表示・出力に際して、ハードコピーや電子ディスプレイなどさまざまな形態がある.(中略)電子画像ディスプレイは,電光変換・表示部(狭義のディスプレイ部)を主体としそれの駆動部とからなり,駆動部にはディスプレイデバイスに固有な部分と,一般的な信号処理部分が含まれる(図4・1)(中略)画像ディスプレイは,表示内容や用途によっても分類される.(中略)光学式やホログラムを用いた3次元ディスプレイも一部で実用化され始めており,今後の発展が期待される.」(第207頁左欄第2行?右欄12行)
図4・1には、画像ディスプレイの基本構成として、入力信号(画像情報)が、駆動部を介して、電光変換・画像表示部に出力されている構成がある。

7.甲第7号証の記載事項
甲第7号証(特開平9-121370号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は,本発明の第1の実施の形態における立体TV装置の構成を示すものである。図1において、1,2はCRT、3,4は直線偏光板、5はハーフミラー、6は偏光フィルタで構成された眼鏡、7は観察者、8は視差計算部、9は解像度判別部、10は適正視差決定部、11は基本同期タイミング発生部、12a、bは同期部、13a、bは視差制御部、14a、bはRGB分離部、15a、bはCRT駆動部、16は視距離測定部である。」
「【0026】以上のようにして得られた平行移動量Dcを元にして、視差制御部13abは、左右画像をそれぞれ反対方向にDc/2だけ平行移動する。そして、RGB分離部14abにより画像信号はRGB信号に分解され、CRT駆動部15abを介してCRT1、2に出力される。CRT1,2により表示された画像は偏光板3,4でお互いに直交した直線偏光となり、ハーフミラー5により合成され、観察者7は偏光板3、4に対応した方向に直線偏光方向がセットされた偏光眼鏡6により左右画像がそれぞれ左右眼に分離され、観察者7が立体視する。」

8.甲第8号証の記載事項
甲第8号証(特開2000-112428号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0013】図2は、本発明立体画像表示装置の一例の構成をブロック図にて示している。図2において、1は同期検出回路、2はA-D変換器、3は逆ガンマ補正回路、4はサブフィールド変換回路、5はパネル駆動回路、6はPDPパネル、7は眼鏡制御回路、および8はシャッター眼鏡である。
【0014】動作につき説明する。映像入力信号は、例えば、1フィールドの前半においてL信号、後半においてR信号というように、L側およびR側の画像を表示しようとするタイミングで送られて来る。この信号は、同期検出回路1とA-D変換器2に供給され、前者においては水平、垂直同期信号が検出され、後者においてはディジタル信号に変換されて逆ガンマ補正回路3に供給される。通常のテレビジョン信号は、CRTで表示されることが基本となっているため、そのためのガンマをPDPに合わせて逆補正する(送信側で行われたガンマ補正を解除する)ためである。
【0015】サブフィールド変換回路4は、同期検出回路1から水平、垂直同期信号か、また逆ガンマ補正回路3から逆ガンマ補正されたディジタル映像信号がそれぞれ供給され、水平、垂直同期信号をもとにディジタル映像信号をサブフィールド信号に分解して出力し、同時にシャッター眼鏡8のシャッターを駆動するためのタイミング信号も出力する。このサブフィールド変換回路4は、誤差拡散法やディザ法などを用いて、実際に表示できる階調まで映像信号のビット数を落す擬似階調作成回路を含むこともある。
【0016】サブフィールド変換回路4の出力信号であるサブフィールド信号は、パネル駆動回路5を介してPDPパネル6に供給され、同パネル6に画像表示を行う。また、サブフィールド変換回路4からのタイミング信号は眼鏡制御回路7に供給され、シャッター眼鏡8のL側、R側用シャッター開閉信号を生成して当該眼鏡に供給する。この際のシャッター開閉信号は導線を用いて供給したり、または赤外線を用いるなどしてワイヤレスでシャッター眼鏡8に供給することができる。」

9.甲第9号証の記載事項
甲第9号証(特開2001-75047号公報)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0016】本発明の実施形態は、図1に示すように、第1および第2の映像ソース12、14と、インターレース回路16と、フレームメモリ18と、駆動回路20と、走査型映像出力手段(カラーCRT)22と、第1および第2の液晶シャッター付き眼鏡24、26とから構成された立体画像表示装置10である。そして、第1および第2の映像ソース12、14と、駆動回路20との間に設けられたインターレース回路16およびフレームメモリ18を介して、駆動回路20により、第1の映像ソース12から提供された第1の左眼用画像(以下、L1)、第1の映像ソース12から提供された第1の右眼用画像(以下、R1)、第2の映像ソース14から提供された第2の左眼用画像(以下、L2)、第2の映像ソース14から提供された第2の右眼用画像(以下、R2)を順次に走査型映像出力手段22において表示するか、あるいは、駆動回路20により、L1、L2、R1、R2の順に走査型映像出力手段22において表示するとともに、駆動回路20により、画像表示と同期させながら第1および第2の液晶シャッター付き眼鏡24、26をオン/オフ駆動させて、2チャンネル分の立体画像を認識させることを特徴としている。」

第6 当審の判断

1.主引用発明
(1)本件特許発明1に対応した甲第1号証に記載された発明
上記第5 1.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮し、甲第1号証について検討する。

(a)甲第1号証の第1の実施例は、段落【0021】?【0026】に記載されているように、表示系のモデル(立体画像表示装置のモデル)で、立体画像の再生範囲を最大にするための左画像と右画像の平行移動する量を設定し、段落【0027】?【0047】に記載されているように、最も観察者に近い位置に再生される被写体の視差を元にして、当該平行移動する量から算出される立体画像の奥行き再生位置が、両眼融合範囲の境界になるように、カメラの光軸を制御することにより、再生表示された立体画像を観察者が最も広い範囲で融合できる画像を撮像できるようにするものである。
発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であり、刊行物に記載された構成の一部であっても、まとまりのある技術思想であれば発明と認定することを妨げるものではない。
そうすると、甲第1号証においても、段落【0021】?【0026】の記載を基にして、第1の実施例の一部の構成である立体画像の再生範囲を最大にするための左画像と右画像の平行移動する量を設定する技術を発明と認定できるものである。
以下、段落【0021】?【0026】の記載を基にして、甲第1号証に記載された発明を認定する。

(b)甲第1号証の段落【0022】の記載によれば、甲第1号証には、右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚するように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現している立体画像表示装置のモデルが記載されている。

(c)甲第1号証の段落【0021】?【0026】の記載によれば、甲第1号証には、立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用していることが記載されている。

(d)甲第1号証の段落【0021】?【0026】の記載によれば、甲第1号証には、観察者から立体画像スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にすることが記載されている。ここで、【数2】は、


である。

(e)甲第1号証の段落【0021】?【0026】に記載されている技術は、立体画像表示装置のモデルとして記載されているものであるが、モデルとは、システムを実現するために考える構成であるから、モデルとして記載された構成は、立体画像表示装置を実現するための構成であるといえる。
そして、右目用の点画像と左目用の点画像を再現している立体画像表示装置を実現するためには、右目用の点画像と左目用の点画像を再現するために右目用の点画像と左目用の点画像を供給する回路を有し、該回路が、上記第6 1.(1)(c)及び(d)に記載したような動作を行っているといえ、甲第1号証に記載された発明は、そのような回路の発明であるといえる。

以上まとめると、甲第1号証に記載された発明は、以下のとおりのものである(以下、「甲1A発明」という。)。

「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚するように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現している立体画像表示装置に、右目用の点画像と左目用の点画像を再現するために右目用の点画像と左目用の点画像を供給する回路であって、
立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用し、
観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にすることを特徴とする回路。
ここで、【数2】は、


である。」

(2)本件特許発明8に対応した甲第1号証に記載された発明
上記第5 1.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮し、甲第1号証について検討する。

(a)上記第6 1.(1)(a)の検討と同様に、第1の実施例の一部の構成である立体画像の再生範囲を最大にするための左画像と右画像の平行移動する量を設定する技術を発明と認定できるものである。
以下、段落【0021】?【0026】の記載を基にして、甲第1号証に記載された発明を認定する。

(b)甲第1号証の段落【0022】の記載によれば、甲第1号証には、右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚させるように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現する立体画像表示装置のモデルが記載されている。

(c)甲第1号証の立体画像表示装置のモデルは、右目用の点画像と左目用の点画像を再現するのであるから、右目用と左目用の点画像を再現するための手段を有しているものである。また、甲第1号証の段落【0022】の記載によれば、立体画像表示スクリーンを備えるものである。
すなわち、甲第1号証の立体画像表示装置のモデルは、右目用と左目用の点画像を再現するための手段と、立体画像表示スクリーンを備えるものである。

(d)上記第6 1.(1)(c)にて検討したように、甲第1号証には、立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用していることが記載されている。

(e)上記第6 1.(1)(d)にて検討したように、甲第1号証には、観察者から立体画像スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にすることが記載されている。ここで、【数2】は、


である。」

(f)甲第1号証の段落【0021】?【0026】に記載されている技術は、立体画像表示装置のモデルとして記載されているものであるが、モデルとは、システムを実現するために考える構成であるから、モデルとして記載された構成は、立体画像表示装置を実現するための構成であるといえる。
したがって、甲第1号証に記載された発明は、右目用の点画像と左目用の点画像を再現する立体画像表示装置の発明であるといえる。
また、右目用の点画像と左目用の点画像を再現する立体画像表示装置を実現するためには、右目用の点画像と左目用の点画像を再現するための手段として、右目用の点画像と左目用の点画像を生成する回路を有しているといえ、該回路が、上記第6 1.(2)(d)及び(e)に記載したような動作を行っているといえる。

以上まとめると、甲第1号証に記載された発明は、以下のとおりのものである(以下、「甲1B発明」という。)。

「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚させるように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現する立体画像表示装置であって、
右目用と左目用の点画像を生成する回路と、立体画像表示スクリーンとを備え、
前記右目用と左目用の点画像を生成する回路は、
立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用し、
観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にすることを特徴とする立体画像表示装置。
ここで、【数2】は、


である。」

(3)本件特許発明1に対応した甲第2号証に記載された発明
上記第5 2.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮し、甲第2号証について検討する。

(a)甲第2号証の段落【0007】、【0009】?【0014】の記載によれば、甲第2号証の画像生成部は、左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し、複眼表示装置に左右それぞれの画像を出力するものである。

(b)甲第2号証の段落【0035】には、「SL’,SR’は再生時の肉眼の網膜またはディスプレイ面、・・・L,L’は撮像時と再生時の基線長を示し、」と記載されており、SL’,SR’はそれぞれ再生時のディスプレイ面である構成を含むこと、また、段落【0057】には第2実施例ではあるが、頭部搭載型ディスプレイが例示されていることから、SL’,SR’がそれぞれ再生時のディスプレイ面である構成とは、両眼式頭部搭載型ディスプレイを想定しており、その場合、L’は、再生時のディスプレイ面の基線長を指すものであるといえる。
したがって、甲第2号証の段落【0017】、【0032】?【0046】の記載、【図2】、【図9】によれば、甲第2号証の画像生成部は、カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出するものである。

(c)甲第2号証の段落【0032】?【0046】、【0049】?【0052】の記載によれば、甲第2号証の画像生成部は、L、φと、L’を利用して、撮影時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化するものである。

以上まとめると、甲第2号証に記載された発明は、以下のとおりのものである(以下、「甲2A発明」という。)。

「左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し、複眼表示装置に左右それぞれの画像を出力する画像生成部であって、
カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出し、
L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化することを特徴とする画像生成部。」

(4)本件特許発明8に対応した甲第2号証に記載された発明
上記第5 2.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮し、甲第2号証について検討する。

(a)甲第2号証の段落【0005】、【0007】、【0009】?【0014】の記載によれば、甲第2号証の画像記録再生装置は、左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し出力するものである。

(b)甲第2号証の段落【0007】、【0009】?【0014】の記載によれば、甲第2号証の画像記録再生装置は、左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成する画像生成部と、複眼表示装置とを備えるものである。

(c)上記第6 1.(3)(b)にて検討したように、甲第2号証の画像記録再生装置に備えられた画像生成部は、カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出するものである。

(d)上記第6 1.(3)(c)にて検討したように、甲第2号証の画像記録再生装置に備えられた画像生成部は、L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化するものである。

以上まとめると、甲第2号証に記載された発明は、以下のとおりのものである(以下、「甲2B発明」という。)。

「左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し出力する画像記録再生装置であって、
左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成する画像生成部と、複眼表示装置とを備え、
前記画像生成部は、
カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出し、
L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化することを特徴とする画像記録再生装置。」

(5)本件特許発明1に対応した甲第3号証に記載された発明
上記第5 3.の記載によれば、甲第3号証には以下の開示があることが認められる。

(a)甲3の水平シフト回路13、14は、視差を利用した立体視を実現できる立体表示装置15に映像信号を出力するものである(上記第5 3.エ.)。
(b)そして、甲3の水平シフト回路13、14を制御するCPU12は、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離を利用する(上記第5 3.イ.ないしカ.)。
(c)さらに、甲3の水平シフト回路13、14を制御するCPU12は、2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させるものである(上記第5 3.イ.ないしカ.)。

以上によれば、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3A’発明」という。)が記載されているものと認められる。

「視差を利用した立体視を実現できる立体表示装置に映像信号を出力する水平シフト回路を制御するCPUであって、
正常な立体視ができるようにするために、2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離を利用し、
2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させることを特徴とする水平シフト回路を制御するCPU。」

(6)本件特許発明8に対応した甲第3号証に記載された発明
上記第5 3.の記載及び上記第6 1.(5)を踏まえると、以下の発明(以下「甲3B’発明」という。)が記載されているものと認められる。

「左右画像の視差に基づいて立体画像を再現できる立体映像装置であって、
左画像の映像信号を出力する水平シフト回路13、右画像の映像信号を出力する水平シフト回路14と、立体視を実現できる立体表示装置15とを備え、
水平シフト回路13、14を制御するCPU12は、
正常な立体視ができるようにするために、2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離を利用し、
2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させることを特徴とする立体映像装置。」

2.副引用発明
(1)甲第4号証に記載された発明
上記第5 4.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「オペレータにより直接入力されたパラメータにより、モニタ上で、左カメラ画像と右カメラ画像をシフトして、十分なステレオ画像とするようにした装置。」

(2)甲第5号証に記載された発明
上記第5 5.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「観察者に適した視差量を読み込み、視差量を変更することにより、撮影者に適した立体感を観察者に適した立体感に変更することが可能な装置。」

(3)甲第6ないし甲第9号証に記載された技術
上記第5 6.?9.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、甲第6ないし9号証には、以下の構成が記載されている。
甲第6号証には、駆動部を介して、画像情報を3次元ディスプレイ部に出力する構成が記載されている。
甲第7号証には、CRT駆動部を介して、画像信号をCRTに出力させる立体TV装置が記載されている。
甲第8号証には、パネル駆動回路を介して、ディジタル映像信号であるサブフィールド信号をPDPパネルに画像表示させる立体画像表示装置が記載されている。
甲第9号証には、駆動回路により、左眼用映像と右眼用映像を走査型映像出力手段に表示させて立体表示させる立体画像表示装置が記載されている。
したがって、甲第6号証から甲第9号証に記載されているように、立体映像表示装置において、表示器を駆動する駆動回路を備え、駆動回路は、立体映像信号に基づいて、表示器に立体映像を表示することは、立体映像表示装置における、周知の技術であるといえる。

3.無効理由1について
(1)無効理由1-アについて
本件特許明細書の段落【0111】には、「図16は、オリジナル立体映像の視差量と立体像出現位置との関係を示す。オリジナル立体映像300においては、図2に示すように右目映像と左目映像とが撮影時の位置関係にある。このとき、立体像出現位置(立体像の見える位置と観察者との間の距離)をLd、視距離(観察者と表示画面との間の距離)をLs、表示画面上に表示される左眼映像と右眼映像との視差量をX1、眼間距離をde(約65mm)とすると、上記パラメータは図16に示す式(1)によって表される。そして、立体像出現位置Ldは、この式を解くことによって、視差量X1の関数として求めることができる。ここでX1は、表示画面の大きさによって(表示画面サイズに比例して)変化する。」と記載されている。
また、図16には、式(1)として、
Ld:Ld-Ls=de/2:X1
と記載されている。
ここで、図16のような、オリジナル立体映像の視差量と立体像出現位置との関係について、被請求人が、平成26年12月24日付けで提出した口頭審理陳述要領書にて「参考図A」として示した位置関係で撮影したものといえることは明らかである。

参考図Aは、左目映像用カメラと右目映像用カメラを結んだ線の中心を原点として、各カメラのレンズが、原点から距離dc/2に位置し、各カメラの光軸の交点を原点から左目映像用カメラのレンズと右目映像用カメラのレンズを結んだ線に対して垂直な距離Lcの位置Gとしたとき、Gは、右目映像用カメラのレンズから後方にfだけ離隔して配置された右目映像の撮像素子においてPの位置に結像され、原点から左目映像用カメラと右目映像用カメラを結んだ線に対して垂直な距離Laの位置にある被写体Aは、右目映像の撮像素子においてQの位置に撮像されることを示している。
ここで、右目映像用カメラのレンズからの垂線と右目映像の撮像素子の交点をRとしたとき、三角形の相似関係を利用すると、
QR=dc・f/2La
PR=dc・f/2Lc
となる。
そして、撮像素子上の視差であるPQ(y1)と表示画面上の視差である図16のX1は、撮像素子のサイズと表示画面のサイズ比であるkを利用すると、X1=k・y1の関係になるように、表示画面上の視差X1を設定することにより、同じ位置に立体像が出現することとなる。
そうすると、X1=k・y1=k(PR-QR)より、
X1=k・dc・f(1/2Lc-1/2La)
となることは、当業者であれば、容易に導くことができるものである。
したがって、表示画面サイズに比例して、X1は変化するものであり、X1を導く際に、カメラ距離情報であるdc、クロスポイント情報であるLcを利用するものである。
例えば、オリジナルで想定した表示画面サイズに対して、実際の表示画面サイズが小さいと、kが小さくなるので、立体感が弱くなる。このときの視差量をX1’とすると、オリジナルで想定した立体感にするために、
X1’+X0=X1
となるようなオフセット量X0を設定し、シフトさせれば良いといえる。
そうすると、映像情報(カメラ距離情報、クロスポイント情報)や表示装置情報から具体的にどのようにしてオフセットを設定するのか明確であるとともに、発明の詳細な説明の記載から発明が実施できるものである。

(2)無効理由1-イについて
カメラ距離情報に関する記載として、本件特許明細書には、
「【0046】
本発明の実施の形態の立体映像信号生成回路には、撮影時に記録されたデータとして、左目映像10、右目映像11、撮影時のクロスポイントまでの距離(CP情報)13が入力される。この左目映像10は左目用カメラによって、右目映像11は左目用カメラに並べて配置された右目用カメラによって撮影されている。また、左目用カメラと右目用カメラとは、互いの光軸が交差するように光軸が平行となる位置より傾けて配置されており、この光軸が交わる点が撮影対象面上に存在するクロスポイント(CP)である。また、撮影装置には、立体映像の撮影時にはCPまでの距離を、レーザ測距や、左目用カメラと右目用カメラとの傾きによって測定したり、撮影者が入力するクロスポイントデータ入力装置12が備わっており、立体映像の撮影時にはCPまでの距離の情報はCP情報として立体映像とともに記録されている。また、左目用カメラと右目用カメラとの間の距離(眼間距離)もCP情報として記録されている。この眼間距離情報は、人間の目の間の距離に相当し、63mmから68mmの間で選択されるものである。」
「【0071】
制作時画面サイズ・距離判定部103は、表示制御回路100に入力された立体映像信号から、該立体映像の再生に適する画面サイズに関する適合画面サイズ情報、再生時に観察者が見るのに適する表示画面までの距離に関する適合視距離情報、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を抽出して、立体映像信号生成回路101が必要とする形式のデータに変換して、これらの情報を立体映像信号生成回路101に供給する。」
と記載されている。
すなわち、カメラ距離情報とは、左目映像用カメラと右目映像用カメラとの間の距離のことであり、左目映像用カメラのどの位置から右目映像用カメラのどの位置までの距離をカメラ距離情報とするかを明確にするために、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離」と定義したものであるから、カメラ距離情報が、左目映像用カメラと右目映像用カメラを結ぶ線上の光軸間の距離であることは明白である。したがって、発明は明確であり、かつ、発明の詳細な説明の記載から発明が実施できるものである。

(3)無効理由1-ウについて
本件特許明細書には、
「【0069】
立体映像信号生成回路100は、前述したように、入力された立体映像信号から合成立体映像信号を生成し、生成した合成立体映像信号をドライバ回路102を介して、表示器121に供給する。表示器121からは、表示器121に備えられた表示素子の表示可能領域の大きさに関する画面サイズ情報が出力されている。この画面サイズ情報は表示器毎に設定されており、表示器に備えられた記憶部(メモリ)に記憶された縦横のドット数、表示領域の大きさの情報である。また、表示器121からは、表示器121に表示された映像を観察者が視聴する距離に関する視距離情報が出力されている。この視距離情報は表示領域の大きさに対応して定めてもよいし、表示器121に観察者を検出する装置を設け、表示機121から観察者までの距離を測定して、視距離情報を得るように構成してもよい。
【0070】
表示器121から出力された画面サイズ情報及び視距離情報は、画面サイズ・距離判定部104に入力され、立体映像信号生成回路101が必要とする形式のデータに変換されて、立体映像信号生成回路101に供給される。
【0071】
制作時画面サイズ・距離判定部103は、表示制御回路100に入力された立体映像信号から、該立体映像の再生に適する画面サイズに関する適合画面サイズ情報、再生時に観察者が見るのに適する表示画面までの距離に関する適合視距離情報、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を抽出して、立体映像信号生成回路101が必要とする形式のデータに変換して、これらの情報を立体映像信号生成回路101に供給する。
【0072】
また、立体映像信号生成回路101には、入力部105から立体度調整信号が入力されており、視聴者が入力部105に指示した立体度に応じて、左右目映像をオフセットして表示し、表示部121に表示される立体映像の立体度が変更できるようになっている。
【0073】
入力部105は、視聴者による操作されるスイッチ、可変抵抗等であり、視聴者の操作によって表示制御回路の動作条件を変えるもので、前述した画面サイズ切替信号を出力し、該画面サイズ切替信号を画面サイズ・距離判定部104に供給する。また、前述した立体度調整信号を出力し、該立体度調整信号を立体映像信号生成回路101に供給して、視聴者が最適な立体感が得られる視差量を調整する。」
と記載されている。
すなわち、表示装置情報として、表示画面サイズ情報、視距離情報が例示されていることから、画面サイズ以外の情報を用いて立体感を調整することも、本件特許明細書に記載されており、それらを表示装置情報と表すことに問題はない。

(4)無効理由1-エについて
本件特許発明1の「前記左目映像と前記右目映像」の前には、「左目映像」及び「右目映像」が記載されていないが、「前記」は明らかな誤記であり、該記載の前に「左目映像」及び「右目映像」が記載されていないからといって、本件特許発明1が、一概に不明確とはいえない。

(5)小括
以上の検討によれば、本件特許発明1、3、8、11は、いずれも明確であり、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許は特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は特許法第123条第1項第4号の規定に該当しない。

4.無効理由2について
(1)無効理由2-1について
a.対比
本件特許発明1と甲1A発明とを対比する。
(a)甲1A発明の「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚するように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現している立体画像表示装置に、右目用の点画像と左目用の点画像を再現するために右目用の点画像と左目用の点画像を供給する回路」において、「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚するように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現」することは、本件特許発明1の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する」ことと一致する。
甲1A発明の「立体画像表示装置」は、本件特許発明1の「立体映像表示装置」に一致する。
甲1A発明の「右目用の点画像と左目用の点画像を再現するために右目用の点画像と左目用の点画像を供給する回路」は、右目用の点画像と左目用の点画像により、立体映像を作ることから、本件特許発明1の「立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路」と対応する。
したがって、甲1A発明の「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚するように、右目用の点画像と左目用の点画像を再現している立体画像表示装置に、右目用の点画像と左目用の点画像を再現するために右目用の点画像と左目用の点画像を供給する回路」は、本件特許発明1の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路」に対応する。

(b)甲1A発明の「立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用し、」において、「Wc」は、2台の撮影カメラのレンズ間距離の1/2であり、「dx」は、輻輳点までの距離であるから、「Wcとdx」は、立体映像を表示するために必要な情報である。また、「M」は、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるから、甲1A発明の「Wcとdx」、「M」は、それぞれ、本件特許発明1の「立体視可能な映像に関する映像情報」、「立体映像表示装置に関する表示装置情報」に対応する。
また、甲1A発明は、「立体画像の再生範囲を最大にするために、・・・Wcとdx、・・・Mを利用し」ているものであるから、Wc、dx、Mを取得する手段を有するものといえる。
したがって、甲1A発明の「立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用し、」は、本件特許発明1の「前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段」に対応する。

(c)甲1A発明の「観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」において、【数2】は、Wc、dx、Mを利用して計算されるものであり、上記第5 4.(1)a.(b)で検討したように、甲1A発明の「Wcとdx」、「M」は、それぞれ、本件特許発明1の「立体視可能な映像に関する映像情報」、「立体映像表示装置に関する表示装置情報」に対応するから、甲1A発明の「カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、」は、本件特許発明1の「前記映像情報と前記表示装置情報に基づいて」に対応する。
甲1A発明の「右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させる」は、左目映像と右目映像とをΔSずらして表示させることであるから、ΔSは、ずらして表示させるための値である。
したがって、甲1A発明の「右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔS」は、本件特許発明1の「前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセット」に対応する。
また、ΔSを設定するということは、ΔSを設定する設定手段を備えているといえる。
そうすると、甲1A発明の「観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」と、本件特許発明1の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段」は、「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定するオフセット設定手段」を有する点で共通する。
しかし、オフセット設定に関して、甲1A発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」のに対し、本件特許発明1は、「表示される映像の立体感を調整する」ものである点で相違する。

(d)上記第6 4.(1)a.(b)で検討したように、甲1A発明の「Wc」は、2台の撮影カメラのレンズ間距離の1/2であり、「dx」は、輻輳点までの距離のことであるから、それぞれ、本件特許発明1の「立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報」に一致し、「Wcとdx」は、本件特許発明1の「立体視可能な映像に関する映像情報」に一致する。
また、甲1A発明は、上記第6 4.(1)a.(b)で検討したように、Wc、dx、Mを取得する手段を有するものといえる。ここで、Wc、dx、Mを取得する手段は、「Wc」と「dx」を、Wcとdxをまとめたものである立体映像を表示するために必要な情報として取得しているといえるので、甲1A発明の「立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置されたときのWcとdx・・・を利用し」は、本件特許発明1の「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、」に対応する。

(e)甲1A発明の「観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」において、【数2】は、Wc、dxを利用して計算されるものであり、上記第5 4.(1)a.(d)で検討したように、甲1A発明の「Wc」「dx」は、それぞれ、本件特許発明1の「カメラ距離情報」、「クロスポイント情報」に一致するから、甲1A発明の「Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、」は、本件特許発明1の「前記カメラ距離情報と前記クロスポイント情報に基づいて」に対応する。
上記第6 4.(1)a.(c)で検討したように、甲1A発明の「右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔS」は、本件特許発明1の「左目映像と右目映像とのオフセット」に対応する。
そうすると、甲1A発明の「観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」と、本件特許発明1の「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整すること」は、「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定」する点で共通する。
しかし、オフセット設定に関して、甲1A発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」のに対し、本件特許発明1は、「表示される映像の立体感を調整する」ものである点で相違する。

b.一致点・相違点
上記第6 4.(1)a.(c)、(e)にて摘記した相違点は、いずれも、オフセット設定に関して、甲1A発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」のに対し、本件特許発明1は、「表示される映像の立体感を調整する」ものであり、同じ相違点を指すものである。

そうすると、本件特許発明1と甲1A発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路であって、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定するオフセット設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定することを特徴とする立体映像信号生成回路。

[相違点]
オフセット設定に関して、本件特許発明1は、「表示される映像の立体感を調整する」ものであるのに対し、甲1A発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」ものである点。

c.判断
上記のとおり相違点を有するものであるから、本件特許発明1と甲1A発明は、同一ではない。
しかし、該相違点が記載上の相違にすぎず、発明が一致するものであるかについて、以下で検討する。

甲1A発明は、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にするためのΔSを設定するものである。そして、甲1号証の段落【0027】?【0047】の記載をみるに、甲1A発明によりΔSを設定した後、画面全体について各座標における視差Δxを計算したものである視差地図を元にして、最も観察者に近い位置に再生される被写体の視差を抽出し、これをΔxminとすると、Δxminを元にした立体画像の奥行き再生位置YPminは、
YPmin=2We・ds/(-M・Δxmin-2・ΔS+2We)
となる。ここで、YPminが、両眼融合範囲の境界にあれば、このときのdxを輻輳点とし、両眼融合範囲内に完全に入っている場合には、dxにΔdx加算した値を新たなdxとし、両眼融合範囲外であれば、dxからΔdx減算した値を新たなdxとするものである。
このようにして得られたdxを用いて、カメラの光軸を制御し、結果として、被写体の観察者から最も近い点が融合範囲の限界近点になるように制御し、再生表示された立体画像を観察者が最も広い範囲で融合できる画像を撮像できるようにするものである。
そうすると、甲1A発明のΔSは、YPminを求め、該YPminを両眼融合範囲の境界にすることにより、観察者が最も広い範囲で融合できる画像を撮像できるようにするために利用されるものである。すなわち、甲1A発明のΔSは、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生するための条件にすぎず、ΔSに設定しただけでは、観察者が融合できる範囲でない場合も想定され、立体に見えるかどうかは不明であるから、立体感を調整、すなわち、元々立体に見えるものに対して、その感じ度合いを調整しているものではなく、この点が一致点であるとはいえない。

以上のとおり判断されるから、本件特許発明1は甲1A発明と相違するものであり、甲1A発明として認定した以外の、他の甲第1号証の記載を見ても、本件特許発明1が記載されていると認めることもできないから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

d.請求人の反論に関して
請求人は、平成26年11月25日付け口頭審理陳述要領書の「(4)無効理由2に関する被請求人の主張に対する反論」にて、「なお、被請求人は、本件発明1は、表示装置の画面サイズが異なっていたとしても、自然な飛び出し量の立体映像の表示を可能とするものであり、この点は甲第1号証には記載が無いと主張するが(答弁書9頁)、かかる事項については、例えば、特開平8-9421号公報(甲3、段落【0003】【0004】)、特開平9-121370号公報(甲7、段落【0008】)に記載されているとおり、本件特許出願の以前から広く知られた周知技術に過ぎないものである。」(第14頁第10?15行)と反論しているので、この反論について、以下で検討する。

(a)甲第3号証について
甲第3号証の段落【0003】、【0004】には、
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような立体映像装置においては、同じ撮像条件で撮像された左右画像であっても、表示装置の種類、大きさ等によって、立体視の状態が変化する。このため、使用する表示装置によっては良好な立体画像が得られないという問題がある。
【0004】この発明は、使用する表示装置の種類、大きさ等にかかわらず、良好な立体画像が得られる立体映像装置を提供することを目的とする。」
と記載されており、表示装置の大きさによって、立体視の状態が変化するので、良好な立体画像が得られる立体映像装置を提供するという目的が開示されている。

(b)甲第7号証について
甲第7号証の段落【0008】には、
「【0008】本発明は、上記課題を解決するもので、同じ立体画像信号を入力しても、画面(ウインドウ)のサイズにより両眼視差量を自動的に調整し、観察し易くより自然な立体視を可能とすることを目的とする。」
と記載されており、画面のサイズにより両眼視差量を自動的に調整し、より自然な立体視を可能とするという目的が開示されている。

(c)検討
甲第3号証、甲第7号証には、表示装置の画面サイズが異なっていたとしても、自然な飛び出し量の立体映像の表示を可能とするという目的が開示されているものの、該記載を勘案しても、甲1A発明の「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」ことが、立体感を調整しているものではなく、本件特許発明1の「表示される映像の立体感を調整する」ことに一致するとはいえない。
したがって、表示装置の画面サイズが異なっていたとしても、自然な飛び出し量の立体映像の表示を可能とする目的が周知であるとしても、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

e.小括
以上の検討によれば、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

(2)無効理由2-2について
a.対比
本件特許発明8と甲1B発明とを対比する。
(a)甲1B発明の「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚させるように、立体画像表示スクリーンに右目用の点画像と左目用の点画像を再現する立体画像表示装置」において、「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚させるように、立体画像表示スクリーンに右目用の点画像と左目用の点画像を再現する」ことは、本件特許発明8の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する」ことと一致する。
また、甲1B発明の「立体画像表示装置」は、本件特許発明8の「立体映像表示装置」に一致する。
したがって、甲1B発明の「右目用に再現される点画像の位置と右目の位置を結ぶ線分と、左目用に再現される点画像の位置と左眼の位置を結ぶ線分の交点に点画像があると知覚させるように、立体画像表示スクリーンに右目用の点画像と左目用の点画像を再現する立体画像表示装置」は、本件特許発明8の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置」に一致する。

(b)甲1B発明の「右目用と左目用の点画像を生成する回路と、立体画像表示スクリーンとを備え」において、「右目用と左目用の点画像を生成する回路」は、右目用の点画像と左目用の点画像により、立体映像が作られることから、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路」と対応する。
また、甲1B発明の「立体画像表示スクリーン」は、立体映像を表示するものであるから、本件特許発明8の「立体映像を表示する表示器」と一致する。
したがって、甲1B発明の「右目用と左目用の点画像を生成する回路と、立体画像表示スクリーンとを備え」と、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器と、前記表示器を駆動する駆動回路とを備え」は、「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器とを備え」る点で共通する。
しかし、甲1B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていない点で相違する。

(c)上記第6 4.(1)a.(b)と同様に、甲1B発明の「立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置して撮影されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用し」は、本件特許発明8の「前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段」に対応する。

(d)上記第6 4.(1)a.(c)と同様に、甲1B発明の「観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」と、本件特許発明8の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段」は、「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定するオフセット設定手段」を有する点で共通する。
しかし、オフセット設定に関して、甲1B発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」のに対し、本件特許発明8は、「前記表示器に表示される映像の立体感を調整する」ものである点で相違する。

(e)上記第6 4.(1)a.(d)と同様に、甲1B発明の「立体画像の再生範囲を最大にするために、2台の撮影カメラのレンズが、x軸上の(-Wc,0,0),(Wc,0,0)に位置し、各撮影カメラが、輻輳点F(0,dx,0)に光軸が向くように配置されたときのWcとdx、カメラの撮像面上の像の大きさと立体画像表示スクリーン上の像の大きさの比であるMを利用し」は、本件特許発明8の「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、」に対応する。

(f)上記第6 4.(1)a.(e)と同様に、甲1B発明の「観察者から立体画像表示スクリーンまでの距離をds、カメラの撮像面に対するレンズの焦点距離がfで、観察者の左右眼がそれぞれ(-We,0,0)、(We,0,0)に位置したとき、Wcとdx、Mを利用した【数2】の関係に基づいて、右画像をΔSだけ右に平行移動、左画像をΔSだけ左に平行移動した左右画像を表示させるためのΔSを設定して、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にすること」と、本件特許発明8の「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整すること」は、「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定」することを有する点で共通する。
しかし、オフセット設定に関して、甲1B発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」のに対し、本件特許発明1は、「前記表示器に表示される映像の立体感を調整する」ものである点で相違する。

(g)上記第6 4.(2)a.(b)で検討したように、甲1B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていないため、甲1B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のように、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」か否か特定されていない点で相違する。

b.一致点・相違点
上記第6 4.(2)a.(b)、(g)にて摘記した相違点をまとめると、甲1B発明の立体画像表示装置が、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていない点で相違することに起因して、甲1B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のように、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」か否か特定されていない点で相違するものである。
また、上記第6 4.(2)a.(d)、(f)にて摘記した相違点は、いずれも、オフセット設定に関して、甲1B発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」のに対し、本件特許発明1は、「前記表示器に表示される映像の立体感を調整する」ものであり、同じ相違点を指すものである。

そうすると、本件特許発明8と甲1B発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置であって、
左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器とを備え、
前記立体映像信号生成回路は、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記表示器の表示領域に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定するオフセット設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定することを特徴とする立体映像表示装置。

[相違点]
相違点1
本件特許発明8は、「表示器を駆動する駆動回路」を備え、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」のに対し、甲1B発明は、駆動回路を備えることについて特定されておらず、駆動回路はどのようなものであるかについての特定もされていない点。

相違点2
オフセット設定に関して、本件特許発明8は、「前記表示器に表示される映像の立体感を調整する」ものであるのに対し、甲1B発明は、「無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にする」ものである点。

c.判断
(a)相違点1について
上記第6 2.(3)で検討したように、立体映像表示装置において、表示器を駆動する駆動回路を備え、駆動回路は、立体映像信号に基づいて、表示器に立体映像を表示することは、立体映像表示装置においては、周知の技術であるといえ、甲1B発明の立体映像表示装置においても、そのような構成を備えることは、当然に想定できるといえる。

(b)相違点2について
上記第6 4.(1)c.の検討と同様に、甲1B発明のΔSは、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生するための条件にすぎず、ΔSに設定しただけでは、観察者が融合できる範囲でない場合も想定され、立体に見えるかどうかは不明であるから、立体感を調整しているものではなく、この点が一致点であるとはいえない。
そして、無限遠点の画像を、NL(-We,ds,0)、NR(We,ds,0)に再生して、立体画像の再生範囲を最大にするものではあるが、観察者が融合できる範囲でない場合も想定され、立体に見えるかどうかは不明であるように設定する甲1B発明から、立体感すなわち立体に見える感じを調整するように設定する構成を思い至ることは、論理に飛躍があり、前記表示器に表示される映像の立体感を調整する本件特許発明8が、容易に想到できるともいえない。

以上のとおり、相違点2については、一致点であるとはいえず、また、容易に想到できるともいえないと判断されるから、本件特許発明8は甲1B発明と相違するものであり、また、甲1B発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできず、甲1B発明として認定した以外の、他の甲第1号証の記載を見ても、同様である。

d.小括
以上の検討によれば、本件特許発明8が甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明から容易に発明できたともいうことはできないから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に該当せず、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当しない。

5.無効理由3について
(1)本件特許発明1と甲2A発明について
a.対比
本件特許発明1と甲2A発明とを対比する。
(a)甲2A発明の「左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し、複眼表示装置に左右それぞれの画像を出力する画像生成部」において、甲2A発明の「複眼表示装置」は、左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成した画像生成部から左右それぞれの画像を受け取る表示装置であるから、左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示するものであり、甲2A発明の「複眼表示装置」は、本件特許発明1の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置」に対応する。
そして、甲2A発明の「画像生成部」は、複眼表示装置に左右それぞれの画像を出力するものであるから、本件特許発明1の「立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路」に対応する。
したがって、甲2A発明の「左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し、複眼表示装置に左右それぞれの画像を出力する画像生成部」は、本件特許発明1の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路」に対応する。

(b)甲2A発明の「カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L,φ、及び、L’を検出」において、「L」と「φ」は、ともに、立体画像を生成する際に必要なパラメータであるから、本件特許発明1の「立体視可能な映像に関する映像情報」に一致し、「L’」は、ディスプレイ面の基線長であるから、本件特許発明1の「立体映像表示装置に関する表示装置情報」に一致する。
また、甲2A発明は、「L、φ、及び、L’を検出」しているものであるから、L、φ、L’を取得する手段を有するものといえる。
したがって、甲2A発明の「カメラの光軸間距離をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出」は、本件特許発明1の「前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段」に対応する。

(c)甲2A発明の「L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」において、「L、φと、L’を利用して」いるということは、L、φと、L’に基づいているものといえ、本件特許発明1の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて」に対応する。
そして、甲2A発明は、カメラの光軸間距離Lと、再生時のディスプレイ面の基線長L’が異なるために、撮像時の結像位置を再生時の結像位置に補正する必要があり、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換するものであり、これは、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整することといえ、そのような手段を備えているものといえる。
そうすると、甲2A発明は、L、φと、L’に基づいて、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整する手段を備えているものといえる。
したがって、甲2A発明の「L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」と、本件特許発明1の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段」は、「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整する設定手段」という点で、共通する。
しかし、甲2A発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するのに対し、本件特許発明1は、「前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」という点で相違する。

(d)甲2A発明の「カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出」について、Lは、「カメラの光軸間距離(基線長)」であるから、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」に対応する。
甲2A発明の「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」は、2つのカメラの光軸の交差点での光軸の角度であるからクロスポイント情報といえるので、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報」とは、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値に関するクロスポイント情報」という点で共通する。
したがって、甲2A発明の「カメラの光軸間距離(基線長)をL、再生時のディスプレイ面の基線長をL’、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φとすると、L、φ、及び、L’を検出」と、本件特許発明1の「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し」は、「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得」するという点で共通する。
しかし、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値」に関して、甲2A発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」であるのに対し、本件特許発明1は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」である点で相違する。

(e)甲2A発明の「L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化すること」と、本件特許発明1の「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整すること」は、上記第6 5.(1)a.(c)、(d)で検討したように、「前記設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整すること」という点で、共通する。
しかし、「前記クロスポイント情報」は、甲2A発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」を指すのに対し、本件特許発明1は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」を指す点で相違する。
また、甲2A発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するのに対し、本件特許発明1は、「前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」という点で相違する。

b.一致点・相違点
上記第6 5.(1)a.(c)、(e)にて摘記した相違点は、いずれも、甲2A発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するのに対し、本件特許発明1は、「前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」ものであり、同じ相違点を指すものである。
また、上記第6 5.(1)a.(d)、(e)にて摘記した相違点は、いずれも、クロスポイント情報に関して、甲2A発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」を指すのに対し、本件特許発明1は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」を指すものであり、同じ相違点を指すものである。

そうすると、本件特許発明1と甲2A発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路であって、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整する設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整することを特徴とする立体映像信号生成回路。

[相違点]
相違点1
本件特許発明1は、「左目映像と右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」ものであるのに対し、甲2A発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するという点。

相違点2
クロスポイント情報に関して、本件特許発明1は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」であるのに対し、甲2A発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」である点。

c.判断
(a)相違点1について
甲2A発明は、カメラの光軸間距離Lと、再生時のディスプレイ面の基線長L’が異なるために、撮影時の視差が再生時の視差と異なる視差になるので、左目映像、右目映像それぞれにおいて、撮影時における点Pの結像位置を再生時における点Pの結像位置にずらして表示するための値を設定するものである。すなわち、左目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値、右目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値を設定するものであり、本件特許発明1のように、左目映像と右目映像とをずらして表示するための値を設定して、表示される映像の立体感を調整するものではない。
そして、左目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値、右目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値を設定する甲2A発明から、左目映像と右目映像とをずらして表示するための値を設定して、表示される映像の立体感を調整する構成を思い至ることは、論理に飛躍があり、左目映像と右目映像とをずらして表示するための値を設定する本件特許発明1が、容易に想到できるといえない。

(b)相違点2について
甲2A発明の「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」と、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」を利用すれば、計算により相互に導出可能な値であることは、立体視において周知慣用の技術であるから、甲2A発明において「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」を利用する代わりに、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」を取得して、本件特許発明1のような構成にすることは、容易に想到できるといえる。

以上のとおり、相違点1については、一致点とはいえず、また、容易に想到できるともいえないと判断されるから、本件特許発明1は甲2A発明と相違するものであり、また、甲2A発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできず、甲2A発明として認定した以外の、他の甲第2号証の記載を見ても、同様である。

(2)本件特許発明8と甲2B発明について
a.対比
本件特許発明8と甲2B発明とを対比する。
(a)甲2B発明の「左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像を生成し出力する画像記録再生装置」の「画像記録再生装置」は、左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示するものであるから、甲2B発明の「左眼用と右眼用とで領域ごとに所定の視差のついた立体画像を生成し出力する画像記録再生装置」は、本件特許発明8の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置」に対応する。

(b)甲2B発明の「左眼用と右眼用とで所定の視差のついた立体画像」は、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号」に対応するものであるから、甲2B発明の「左眼用と右眼用とで領域ごとに所定の視差のついた立体画像を生成する画像生成部」は、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路」と一致する。
また、甲2B発明の「複眼表示装置」は、本件特許発明8の「立体映像を表示する表示器」と一致する。
したがって、甲2B発明の「左眼用と右眼用とで領域ごとに所定の視差のついた立体画像を生成する画像生成部と、複眼表示装置とを備え」と、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器と、前記表示器を駆動する駆動回路とを備え」は、「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器とを備え」る点で共通する。
しかし、甲2B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていない点で相違する。

(c)上記第6 5.(1)a.(b)と同様に、甲2B発明の「カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出」は、本件特許発明8の「前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段」に一致する。

(d)上記第6 5.(1)a.(c)と同様に、甲2B発明の「L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」と、本件特許発明8の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段」は、「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整する設定手段」という点で、共通する。
しかし、甲2B発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するのに対し、本件特許発明8は、「前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」という点で相違する。

(e)上記第6 5.(1)a.(d)と同様に、甲2B発明の「カメラの光軸間距離(基線長)をL、撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度を2φ、再生時のディスプレイ面の基線長をL’とすると、L、φ、及び、L’を検出し、」と、本件特許発明8の「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し」は、「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得」するという点で共通する。
しかし、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値」に関して、甲2B発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」であるのに対し、本件特許発明8は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」である点で相違する。

(f)上記第6 5.(1)a.(e)と同様に、甲2B発明の「L、φと、L’を利用して、撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化すること」と、本件特許発明8の「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整すること」は、「前記設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整すること」という点で、共通する。
しかし、「前記クロスポイント情報」は、甲2B発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」を指すのに対し、本件特許発明8は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」を指す点で相違する。
また、甲2B発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するのに対し、本件特許発明8は、「左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」という点で相違する。

(g)上記第6 5.(2)a.(b)で検討したように、甲2B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていないため、甲2B発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のように、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」か否か特定されていない点で相違する。

b.一致点・相違点
上記第6 5.(2)a.(b)、(g)にて摘記した相違点をまとめると、甲2B発明の画像記録再生装置が、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていない点で相違することに起因して、甲2B発明の画像記録再生装置は、本件特許発明8のように、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」か否か特定されていない点で相違するものである。
上記第6 5.(2)a.(d)、(f)にて摘記した相違点は、いずれも、甲2B発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するのに対し、本件特許発明8は、「左目映像と右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」ものであり、同じ相違点を指すものである。
上記第6 5.(2)a.(e)、(f)にて摘記した相違点は、いずれも、クロスポイント情報に関して、甲2B発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」であるのに対し、本件特許発明8は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」であり、同じ相違点を指すものである。

そうすると、本件特許発明8と甲2B発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置であって、
左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器とを備え、
前記立体映像信号生成回路は、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記表示器の表示領域に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整する設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点から求まる値に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて左目映像と右目映像とを調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整することを特徴とする立体映像表示装置。

[相違点]
相違点1
本件特許発明8は、「表示器を駆動する駆動回路」を備え、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」のに対し、甲2B発明は、駆動回路を備えることについて特定されておらず、駆動回路はどのようなものであるかについての特定もされていない点。

相違点2
設定手段に関して、本件特許発明8は、「左目映像と右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」ものであるのに対し、甲2B発明は、「撮像時の左眼、右眼カメラセンサ上の点Pの結像位置であるPL、PRを、再生時の点Pの結像位置であるPL’、PR’に変換して表示し、その際、視差はPL-PRからPL’-PR’に変化」させることにより、左目映像、右目映像それぞれの映像について、再生時の点Pの結像位置に調整して表示するための値を設定して、表示される映像を調整するという点。

相違点3
クロスポイント情報に関して、本件特許発明8は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」であるのに対し、甲2B発明は、「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」である点。

c.判断
(a)相違点1について
上記第6 2.(3)で検討したように、立体映像表示装置において、表示器を駆動する駆動回路を備え、駆動回路は、立体映像信号に基づいて、表示器に立体映像を表示することは、立体映像表示装置においては、周知の技術であるといえ、甲2B発明の立体映像表示装置においても、そのような構成を備えることは、当然に想定できるといえる。

(b)相違点2について
上記第6 5.(1)c.(a)の検討と同様に、甲2B発明は、カメラの光軸間距離Lと、再生時のディスプレイ面の基線長L’が異なるために、撮影時の視差が再生時の視差と異なる視差になるので、左目映像、右目映像それぞれにおいて、撮影時における点Pの結像位置を再生時における点Pの結像位置にずらして表示するための値を設定するものである。すなわち、左目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値、右目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値を設定するものであり、本件特許発明8のように、左目映像と右目映像とをずらして表示するための値を設定して、表示される映像の立体感を調整するものではない。
そして、左目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値、右目映像における(点Pを)ずらして表示させるための値を設定する甲2B発明から、左目映像と右目映像とをずらして表示するための値を設定して、表示される映像の立体感を調整する構成を思い至ることは、論理に飛躍があり、左目映像と右目映像とをずらして表示するための値を設定する本件特許発明8が、容易に想到できるといえない。

(c)相違点3について
上記第6 5.(1)c.(b)の検討と同様に、甲2B発明の「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」と、本件特許発明8の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」は、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」を利用すれば、計算により相互に導出可能な値であることは、立体視において周知慣用の技術であるから、甲2B発明において「撮影時の2つのカメラの光軸のなす角度」を利用する代わりに、「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離」を取得して、本件特許発明8のような構成にすることは、容易に想到できるといえる。

以上のとおり、相違点2については、一致点であるとはいえず、また、容易に想到できるともいえないと判断されるから、本件特許発明8は甲2B発明と相違するものであり、また、甲2B発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできず、甲2B発明として認定した以外の、他の甲第2号証の記載を見ても、同様である。

(3)小括
以上の検討によれば、本件特許発明1、8が甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第2号証に記載された発明から容易に発明できたともいうことはできないから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に該当せず、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当しない。

6.無効理由4について
(1)本件特許発明1と甲3A’発明について
a.対比
本件特許発明1と甲3A’発明とを対比する。
(a)甲3A’発明の「視差を利用した立体視を実現できる立体表示装置」は、本件特許発明1の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置」に対応する。
また、甲3A’発明の「水平シフト回路」は、立体表示装置に映像信号を出力するものであるから、本件特許発明1の「立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路」に対応する。
しかし、甲3A’発明の「水平シフト回路を制御するCPU」に関して、甲3A’発明では、CPUと水平シフト回路が独立しており、CPUの動作により水平シフト回路が制御されるのに対し、本件特許発明1では、立体映像信号生成回路自体がそのような動作をしている。
したがって、甲3A’発明の「視差を利用した立体視を実現できる立体表示装置に映像信号を出力する水平シフト回路を制御するCPU」と、本件特許発明1の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路」は、「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路を制御する手段」である点で共通する。
しかし、立体映像信号生成回路を制御する手段が、甲3A’発明は、CPUであるのに対し、本件特許発明1は、立体映像信号生成回路自体である点で相違する。

(b)甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」は、立体画像を生成する際に必要なパラメータであるから、本件特許発明1の「立体視可能な映像に関する映像情報」に一致し、「立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離」は、本件特許発明1の「立体映像表示装置に関する表示装置情報」に一致する。
また、甲3A’発明は、正常な立体視ができるようにするために、2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離を利用しているものであるから、それらを取得する手段を有するものといえる。
したがって、甲3A’発明の「正常な立体視ができるようにするために、2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離を利用」は、本件特許発明1の「前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段」を有することに対応する。

(c)甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」は本件特許発明1の「立体視可能な映像に関する映像情報」に対応し、「立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離」は本件特許発明1の「立体映像表示装置に関する表示装置情報」に対応する。
そして、甲3A’発明についての記載ではなく、制御信号各領域の視差量に基づいて制御を行う場合の記載ではあるものの、甲3の段落【0032】には、立体像位置範囲が限界立体像位置範囲内に収まっていても、立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近にあり、立体感がさほどでない場合に、限界立体像位置範囲内において、立体像位置範囲を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御し、立体感を増加させることが記載されている。このような制御の技術的意義が甲3A’発明において異なる理由はないから、甲3A’発明において、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別することも、同様に、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲内に収まる、すなわち立体視が可能な状態である場合であることを前提に、立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近にあることにより立体感がさほどではない場合に、左右画像をシフト制御することにより立体感を増す必要があるかどうかを判定するためになされるものであると認められる。そして、甲3A’発明においては、主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別された場合には、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させることとなる。
加えて、甲3A’発明においては、左右画像を水平シフト制御によりシフトする制御が行われているのであるから、この制御の内容を設定しこれを行うための手段を有しているものと認められる。
そうすると、甲3A’発明のうち、「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、」「主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、」「求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させる」との構成は、映像情報及び表示装置情報に基づいて、既に立体的に見える映像について、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御、すなわちずらすことにより、表示される映像の立体感の感じ度合いを整える手段であるものと認められる。
以上によれば、甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させる」は、本件特許発明1の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段」に相当する。

(d)甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」「を利用し」について、「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離」は、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」に対応する。さらに、甲3A’発明の「2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」は、この「輻輳角」と「カメラ距離情報」を用いてクロスポイント及びクロスポイントまでの距離を特定することができるという意味において、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報」と共通する。
したがって、甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」「を利用し」と、本件特許発明1の「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し」は、「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得」するという点で共通する。

(e)甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」について、「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離」は、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報」に対応する。さらに、甲3A’発明の「2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角」は、この「輻輳角」と「カメラ距離情報」を用いてクロスポイント及びクロスポイントまでの距離を特定することができるという意味において、本件特許発明1の「左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報」と共通する。そうすると、甲3A’発明は、カメラ距離情報及びクロスポイント情報に基づいて、「主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、」「求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させる」ものであると認められる。
上記の点に、上記第6 6.(1)a.(c)で認定した点を踏まえると、甲3A’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させる」ことは、本件特許発明1の「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報を含む特定情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」ことに相当する。

b.一致点・相違点
以上より、本件特許発明1と甲3A’発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置に立体映像信号を供給する立体映像信号生成回路を制御する手段であって、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報を含む特定情報に基づいて、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整することを特徴とする立体映像信号生成回路を制御する手段。

[相違点]
立体映像信号生成回路を制御する手段が、本件特許発明1は、立体映像信号生成回路自体であるのに対し、甲3A’発明は、CPUである点。

c.判断
回路を制御する手段が、回路と分かれていることも、回路内に含まれていることも、いずれも回路としては、周知のことであり、甲3A’発明の「水平シフト回路を制御するCPU」が、回路内に含まれるようにして、水平シフト回路とCPUを合わせたものを1つの立体映像信号生成回路として、本件特許発明1のような手段とすることは、容易に想到できるといえる。

したがって、本件特許発明1は、甲3A’発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである

(2)本件特許発明8と甲3B’発明について
a.対比
本件特許発明8と甲3B’発明とを対比する。
(a)甲3B’発明の「左右画像の視差に基づいて立体画像を再現できる立体映像装置」は、本件特許発明8の「左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置」に対応する。

(b)甲3B’発明の「左画像の映像信号を出力する水平シフト回路13、右画像の映像信号を出力する水平シフト回路14」は、左目映像と右目映像を異なる水平シフト回路で生成するものであるから、甲3B’発明の「左画像の映像信号を出力する水平シフト回路13、右画像の映像信号を出力する水平シフト回路14」と、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路」は、「左目映像と右目映像とを生成する立体映像信号生成回路」という点で共通する。
甲3B’発明の「立体視を実現できる立体表示装置15」は、本件特許発明8の「立体映像を表示する表示器」に対応する。
したがって、甲3B’発明の「左画像の映像信号を出力する水平シフト回路13、右画像の映像信号を出力する水平シフト回路14と、立体視を実現できる立体表示装置15とを備え」と、本件特許発明8の「左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器と、前記表示器を駆動する駆動回路とを備え」は、「左目映像と右目映像とを生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器とを備え」る点で共通する。
しかし、甲3B’発明は、2つの水平シフト回路で左画像の映像信号と右画像の映像信号を個々に生成するのに対し、本件特許発明8の立体映像信号生成回路は、左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成する点で相違する。
また、甲3B’発明の立体表示装置15は、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていない点で相違する。

(c)甲3B’発明は、「水平シフト回路13、14を制御するCPU12」が、水平シフト回路を制御しており、本件特許発明8とは、「立体映像信号生成回路を制御する手段」を有する点で共通するが、本件特許発明8は、立体映像信号生成回路自体が、回路を制御している点で相違する。

(d)上記第6 6.(1)a.(b)と同様に、甲3B’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離を利用」は、本件特許発明8の「前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記立体映像表示装置に関する表示装置情報を取得する情報取得手段」に一致する。

(e)上記第6 6.(1)a.(c)と同様に、甲3B’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させる」は、本件特許発明8の「前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整するオフセット設定手段」に相当する。

(f)上記第6 6.(1)a.(d)と同様に、甲3B’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角を利用し」と、本件特許発明8の「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し」は、「前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得」するという点で共通する。

(g)上記第6 6.(1)a.(e)と同様に、甲3B’発明の「2台のビデオカメラの間隔である光軸間距離と2台のビデオカメラの光軸のなす角度である輻輳角に基づいて求められる主要被写体Xのモニタ面上の視差と、立体表示装置の種類や大きさ等によって決定される適視距離が決まることにより決定される立体表示装置の限界視差とに基づいて、主要被写体Xの立体像位置範囲が限界立体像位置範囲を前方向または後方向に越えるか否か、主要被写体Xの立体像位置範囲がモニタ面の近傍付近に位置するか否かを判別し、主要被写体Xの立体像位置が限界立体像範囲内にないと判別されたときには、主要被写体の立体像位置を限界立体像範囲内に収まるように、左右画像が水平シフトせしめられ、求められた主要被写体の立体像位置がモニタ面の近傍付近にあると判別されたときには、限界立体像位置範囲内において、主要被写体の立体像位置を前方にシフトさせるように左右画像をシフト制御することにより、立体感を増加させる」ことは、本件特許発明8の「前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整」することに相当する。

(h)上記第6 6.(2)a.(b)で検討したように、甲3B’発明の立体表示装置15は、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていないため、甲3B’発明の立体表示装置15は、本件特許発明8のように、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」か否か特定されていない点で相違する。

b.一致点・相違点
上記第6 6.(2)a.(b)、(h)で摘記した相違点をまとめると、甲3B’発明の立体画像表示装置が、本件特許発明8のような「表示器を駆動する駆動回路」を備えているかどうか特定されていない点で相違することに起因して、甲3B’発明の立体画像表示装置は、本件特許発明8のように、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」か否か特定されていない点で相違するものである。

そうすると、本件特許発明8と甲3B’発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
左右眼の視差作用によって立体視可能な映像を表示する立体映像表示装置であって、
左目映像と右目映像とを生成する立体映像信号生成回路と、立体映像を表示する表示器とを備え、
前記立体映像信号生成回路を制御する手段は、
前記立体視可能な映像に関する映像情報、及び、前記表示器の表示領域に関する表示装置情報を取得する情報取得手段と、
前記映像情報及び前記表示装置情報に基づいて前記左目映像と前記右目映像とをずらして表示するためのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像を調整するオフセット設定手段と、を備え、
前記情報取得手段は、立体映像に関連づけて定められた、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との間の距離に関するカメラ距離情報、及び、左目映像用カメラの光軸と右目映像用カメラの光軸との交差点までの距離に関するクロスポイント情報を前記映像情報として取得し、
前記オフセット設定手段は、前記カメラ距離情報及び前記クロスポイント情報に基づいて、左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整することを特徴とする立体映像表示装置。

[相違点]
相違点1
立体映像信号の生成に関して、本件特許発明8は、立体映像信号生成回路で左目映像と右目映像とを合成した立体映像信号を生成するのに対し、甲3B’発明は、2つの水平シフト回路で左画像の映像信号と右画像の映像信号を個々に生成する点。

相違点2
本件特許発明8は、「表示器を駆動する駆動回路」を備え、「前記駆動回路は、前記立体映像信号生成回路から出力された立体映像信号に基づいて、前記表示器に立体映像を表示する」のに対し、甲3B’発明は、駆動回路を備えることについて特定されておらず、駆動回路はどのようなものであるかについての特定もされていない点。

相違点3
立体映像信号生成回路を制御する手段に関して、本件特許発明8は、立体映像信号生成回路自体が、回路を制御しているのに対し、甲3B’発明は、水平シフト回路を制御するCPUが、回路を制御している点。

c.判断
(a)相違点1について
視差を利用した立体映像信号を生成する際には、左目映像と右目映像をそれぞれ生成するものであり、甲3B’発明は、CPUと2つの水平シフト回路で構成されるものであるから、各回路で個々に生成される2つの信号であるが、第6 6.(1)c.(a)にて検討するように、「水平シフト回路を制御するCPU」が、回路内に含まれるようにして、CPUと2つの水平シフト回路を、1つの回路として考えた場合には、左目映像と右目映像とを合成した信号を立体映像信号と考えることは、当然に導かれることである。

(b)相違点2について
上記第6 2.(3)で検討したように、立体映像表示装置において、表示器を駆動する駆動回路を備え、駆動回路は、立体映像信号に基づいて、表示器に立体映像を表示することは、立体映像表示装置においては、周知の技術であるといえ、甲3B’発明の立体映像表示装置においても、そのような構成を備えることは、当然に想定できるといえる。

(c)相違点3について
回路を制御する手段が、回路と分かれていることも、回路内に含まれていることも、いずれも回路としては、周知のことである。
そうすると、甲3B’発明の「水平シフト回路を制御するCPU」が、回路内に含まれるようにして、水平シフト回路とCPUを合わせたものを1つの立体映像信号生成回路として、本件特許発明8のような手段とすることは、容易に想到できるといえる。

(d)まとめ
以上のとおり、本件特許発明8は、甲3B’発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(3)小括
以上の検討によれば、本件特許発明1、8が甲第3号証に記載された発明であるとはいえないものの、甲第3号証に記載された発明から容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

7.無効理由5について
無効理由5は、本件特許発明3、11が、甲第1ないし3号証に記載された発明および甲第4号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるとの主張である。

(1)本件特許発明3と甲4発明について
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用する発明であるので、まず、本件特許発明3で限定された構成と、甲4発明とを対比する。
甲4発明は、「オペレータにより直接入力されたパラメータにより、モニタ上で、左カメラ画像と右カメラ画像をシフトして、十分なステレオ画像とするようにした装置。」である。
甲4発明の「オペレータにより直接入力されたパラメータ」は、左カメラ画像と右カメラ画像をシフトして、十分なステレオ画像とするためのものであるから、本件特許発明3の「立体感に関して入力された情報」に対応する。
また、甲4発明の「左カメラ画像と右カメラ画像をシフトして、十分なステレオ画像とする」は、パラメータに基づいて行われるものであるから、本件特許発明3の「入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」に対応する。

したがって、甲4発明は、
「立体感に関して入力された情報を取得し、
前記入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」
という点で、本件特許発明3で限定された構成と共通する。

そして、甲3A’発明は、立体映像に関するものであるから、甲4発明を適用することは当業者が容易に着想することであり、甲3A’発明に甲4発明を適用して、本件特許発明3で限定された構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
本件特許発明3が引用する本件特許発明1が甲3A’発明に基づいて容易に想到し得ることは上記第6 6.(1)のとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲3A’発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(2)本件特許発明11と甲4発明について
本件特許発明11は、本件特許発明8を引用する発明であるので、まず、本件特許発明11で限定された構成と、甲4発明とを対比する。
甲4発明の「オペレータ」は、画像を視ている人であるから、本件特許発明11の「視聴者」に対応する。
甲4発明の「パラメータ」は、左カメラ画像と右カメラ画像をシフトして、十分なステレオ画像とするためのものであるから、本件特許発明11の「立体感に関する情報」に対応し、オペレータが直接入力するものであるから、そのための入力手段を有するものであるといえる。

そうすると、上記第6 7.(1)の検討も踏まえるに、甲4発明は、
「視聴者が立体感に関する情報を入力する入力手段を備え、
前記入力手段に入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整する」
という点で、本件特許発明11で限定された構成と共通する。
そして、甲3B’発明は、立体映像に関するものであるから、甲4発明を適用することは当業者が容易に着想することであり、甲3B’発明に甲4発明を適用して、本件特許発明11で限定された構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
本件特許発明11が引用する本件特許発明8が甲3B’発明に基づいて容易に想到し得ることは上記第6 6.(2)のとおりである。
よって、本件特許発明11は、甲3B’発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(3)小括
以上の検討によれば、本件特許発明3、11は、甲第3号証に記載された発明および甲第4号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

8.無効理由6について
無効理由6は、本件特許発明3、11が、甲第1ないし3号証に記載された発明および甲第5号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるとの主張である。

(1)本件特許発明3と甲5発明について
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用する発明であるので、まず、本件特許発明3で限定された構成と、甲5発明とを対比する。
甲5発明は、「観察者に適した視差量を読み込み、視差量を変更することにより、撮影者に適した立体感を観察者に適した立体感に変更することが可能な装置。」である。
甲5発明の「観察者に適した視差量を読み込」むことは、立体感を変更するためのものであるから、本件特許発明3の「立体感に関して入力された情報を取得」に対応する。
また、甲5発明の「視差量を変更することにより、撮影者に適した立体感を観察者に適した立体感に変更する」は、読み込まれた視差量に基づいて行われるものであるから、本件特許発明3の「入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」に対応する。

したがって、甲5発明は、
「立体感に関して入力された情報を取得し、
前記入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、表示される映像の立体感を調整する」
という点で、本件特許発明3で限定された構成と共通する。

そして、甲3A’発明は、立体映像に関するものであるから、甲5発明を適用することは当業者が容易に着想することであり、甲3A’発明に甲5発明を適用して、本件特許発明3で限定された構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
本件特許発明3が引用する本件特許発明1が甲3A’発明に基づいて容易に想到し得ることは上記第6 6.(1)のとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲3A’発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(2)本件特許発明11と甲5発明について
本件特許発明11は、本件特許発明8を引用する発明であるので、まず、本件特許発明11で限定された構成と、甲5発明とを対比する。
甲5発明の「観察者」は、画像を視ている人であるから、本件特許発明11の「視聴者」に対応する。
甲5発明の「視差量」は、立体感を変更するためのものであるから、本件特許発明11の「立体感に関する情報」に対応し、視差量を読み込むものであるから、入力するための入力手段を有するものであるといえる。

そうすると、上記第6 8.(1)の検討も踏まえるに、甲5発明は、
「視聴者が立体感に関する情報を入力する入力手段を備え、
前記入力手段に入力された情報に基づいて左目映像と右目映像とのオフセットを設定して、前記表示器に表示される映像の立体感を調整する」
という点で、本件特許発明11で限定された構成と共通する。

そして、甲3B’発明は、立体映像に関するものであるから、甲5発明を適用することは当業者が容易に着想することであり、甲3B’発明に甲5発明を適用して、本件特許発明11で限定された構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
本件特許発明11が引用する本件特許発明8が甲3B’発明に基づいて容易に想到し得ることは上記第6 6.(2)のとおりである。
よって、本件特許発明11は、甲3B’発明及び甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(3)小括
以上の検討によれば、本件特許発明3、11が甲第3号証に記載された発明および甲第5号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

9.まとめ
(1)無効理由1について
本件特許は特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきであるとの請求人の主張は成立しない。

(2)無効理由2について
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一またはこれにより容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであるとの請求人の主張は成立しない。

(3)無効理由3について
本件特許の請求項1、8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一またはこれにより容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであるとの請求人の主張は成立しない。

(4)無効理由4について
本件特許の請求項1、8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明により容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

(5)無効理由5について
本件特許の請求項3、11に係る発明は、甲第3号証に記載された発明および甲第4号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

(6)無効理由6について
本件特許の請求項3、11に係る発明は、甲第3号証に記載された発明および甲第5号証に記載された発明より容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

第7 むすび

以上のとおり、特許第3978392号の請求項1、3、8、11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2項に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2018-01-23 
結審通知日 2018-01-26 
審決日 2018-02-06 
出願番号 特願2002-345155(P2002-345155)
審決分類 P 1 123・ 121- ZB (H04N)
P 1 123・ 851- ZB (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 篠原 功一
特許庁審判官 樫本 剛
小池 正彦
登録日 2007-06-29 
登録番号 特許第3978392号(P3978392)
発明の名称 立体映像信号生成回路及び立体映像表示装置  
代理人 松野 知紘  
代理人 林 いづみ  
代理人 大谷 寛  
代理人 久米川 正光  
代理人 小林 英了  
代理人 大野 聖二  
代理人 磯田 志郎  
代理人 明石 幸二郎  
代理人 永島 孝明  
代理人 朝吹 英太  
代理人 安國 忠彦  
代理人 若山 俊輔  

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