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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16K
審判 全部無効 2項進歩性  F16K
管理番号 1338992
審判番号 無効2017-800085  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-06-30 
確定日 2018-04-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3611969号発明「ソレノイド」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第3611969号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る発明についての出願は、平成10年7月9日の出願であって、平成16年10月29日にその発明について特許権の設定登録(請求項の数3)がなされた。そして、平成28年8月12日に、本件特許の特許請求の範囲を訂正することを求める訂正審判の請求がなされ、同年10月25日に訂正を認める旨の審決がなされた。
その後、請求人より平成29年6月30日に、本件請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)の特許について特許無効審判の請求がなされた。

本件特許無効審判に係る手続の概要は、概略、以下のとおりである。
平成29年 6月30日 無効審判の請求
同年 9月12日 審判事件答弁書・証拠説明書
同年10月24日 審理事項通知書
同年11月28日 口頭審理陳述要領書・証拠説明書(被
請求人)
同年11月29日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年12月12日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年12月12日 第2回口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月20日 口頭審理
同年12月27日 上申書(請求人)

第2 本件特許発明

本件特許発明1ないし3は、願書に添付した明細書及び図面並びに本件特許に係る訂正審判の平成28年8月12日付け審判請求書(以下、「本件特許訂正審判請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲(以下、単に「訂正特許請求の範囲」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、
前記ソレノイドは、前記取付孔に入り込まれるケース部材、該ケース部材の内側に収納されるコイル部材、前記ケース部材の一方の開口端部の内側に固定され前記コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材、前記コイル部材の内筒部に位置し有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレート、該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材、外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材、及び前記プランジャに接続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッドを備え、
前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設けることを特徴とするソレノイド。
【請求項2】
前記端部部材は、コイル部材と一体化される樹脂成形部材であることを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。
【請求項3】
前記取付孔の開口部に係止されると共に、前記端部部材の外側端面に当接する抜け止め部材を備えることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項に記載のソレノイド。」

第3 請求人の主張の概要

請求人は、本件特許発明1ないし3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の無効審判を請求し、証拠方法として、下記の甲第1ないし16号証を提出し、以下のとおりの無効理由を主張している。

1.無効理由1
本件特許発明1?3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

2.無効理由2
本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

3.無効理由3
本件の特許請求の範囲に記載された「密封嵌合」という用語が、現実的、具体的にいかなる状態を意味するのか不明確であり、本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

[証拠方法等]
甲第1号証:実願平3-96794号(実開平5-40679号)のCD
-ROM
甲第2号証:特開平4-1495号公報
甲第3号証:特開平2-30992号公報
甲第4号証:実願昭62-187026号(実開平1-91085号)の
マイクロフィルム
甲第5号証:実願昭62-72021号(実開昭63-182285号)
のマイクロフィルム
甲第6号証:実願昭51-110462号(実開昭53-28445号)
のマイクロフィルム
甲第7号証:特開平6-341378号公報
甲第8号証:特開平9-166086号公報
甲第9号証:実開平4-20866号公報
甲第10号証:実願昭62-176616号(実開平1-80665号)
のマイクロフィルム
甲第11号証:訂正2016-390104号審判請求書
甲第12号証:審決(訂正2016-390104号)
甲第13号証:広辞苑第6版(抜粋)
甲第14号証:東京地裁平成29年(ワ)第3569号事件の訴状
甲第15号証:東京地裁平成29年(ワ)第3569号事件の準備書面2
甲第16号証:広辞苑第6版(抜粋)
(甲第17号証は、参考資料とされた。)

第4 被請求人の主張の概要

被請求人は、証拠方法として、下記の乙第1ないし8号証を提出し、請求人の主張する無効理由はいずれも理由がなく、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものではないと主張している。

[証拠方法等]
乙第1号証:JIS C 4552
乙第2号証:実願平2-60837号(実開平4-19610号)のマイ
クロフィルム
乙第3号証:特開2001-152966号公報
乙第4号証:特許第3611969号公報
乙第5号証:渡辺康博著,「現場の即戦力 よくわかるシール技術の基礎
」,初版,株式会社技術評論社,2009年5月1日,p.128-129
乙第6号証:「大辞林」,第二版新装版,株式会社三省堂,1999年10月1

乙第7号証:JIS B 0116 パッキン及びガスケット用語
乙第8号証:「広辞苑」,第五版,株式会社岩波書店,1998年11月11日

第5 当審の判断

1.甲各号証に記載された発明及び事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図面と共に以下の記載がある(下線は、当審で付した。)。
ア.「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 モールド部1と前記モールド部1をその外周側から覆うケース2とを有し、エンジンのシリンダヘッド22に取り付けられ、前記エンジンのヘッドカバー21との間をパッキン10によりシールするソレノイドバルブにおいて、前記モールド部1に前記ケース2から外部へ外周面8を露出させた露出部7を設け、前記露出部7の外周面8に装着溝9を設け、前記装着溝9に前記パッキン10を装着したことを特徴とするソレノイドバルブ。」
イ.「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ソレノイドバルブの改良に関する。本考案のソレノイドバルブはエンジンのシリンダヘッドに取り付けられる。」
ウ.「【0002】
【従来の技術】
図4に示す従来のソレノイドバルブにおいては、樹脂製のモールド部1がその外周面を全面に亙って鋼材製のケース2によって覆われており、モールド部1およびケース2の双方がエンジンのヘッドカバー21の外側(図上上側)に表われている。ヘッドカバー21の内側(図上下側)に水が侵入することはこれを極力回避しなければならず、よってケース2とヘッドカバー21の間、およびモールド部1とケース2の間にそれぞれOリング等のパッキン3,4が装着されている。符号22は当該ソレノイドバルブを取り付けたエンジンのシリンダヘッドである。」
エ.「【0007】
図1に示すように、樹脂製のモールド部1に鋼材製のケース2から外部へ外周面8を露出させた部分7(以下、露出部と称する)が設けられ、露出部7の外周面8に装着溝9が設けられ、装着溝9にパッキン10が嵌着されている。コイル11やコネクタ12等のソレノイド部品を内包したモールド部1はこれをモールド成形後にケース2内に組み込み、ケース2の端部13をカシメてケース2と一体化している。
しかして、上記構成を備えたソレノイドバルブによれば、モールド部1とケース2のうちヘッドカバー21の外側(図上上側)に表われるのが図示するようにモールド部1のみとなり、このモールド部1とヘッドカバー21の間を一個のパッキン10によってシールすることによりヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止することができる。」
オ.「【0008】
図1のソレノイドバルブはモールド部1の成形後にこのモールド部1をケース2に組み込んでカシメ固定したが、次のように構成しても良い。
すなわち、図2に示すように、先ずケース2の内部にコイル11やプレート14等のソレノイド部品を組み込み、ケース2の端部13をカシメてケース2とソレノイド部品を一体化し、その後、モールド部1をモールド成形する。また図3に示すように、ケース2の内部にコイル11やプレート14等のソレノイド部品を組み込んでカシメること無く直ちにモールド部1をモールド成形する。
この図2および図3の場合にはモールド部1がケース2に密着するため、放熱性が向上するという効果がある。またモールド部1とケース2の間のシール性が向上し、ケース2の内周面に予め溝等の凹凸15を設けておくことにより、この凹凸15と樹脂とが噛み合い、ソレノイド内部に発生する油圧をシールすることができ、これまで油圧をシールするために設けて来たOリング等のパッキン16,17(図4および図1参照)を省略することができる。」
カ.「【0009】
【考案の効果】
本考案は次の効果を奏する。すなわち、モールド部にケースから外部へ外周面を露出させた露出部を設け、露出部の外周面に装着溝を設け、装着溝にパッキンを装着したために、モールド部とケースのうちヘッドカバーの外側に表われるのがモールド部のみとなり、このモールド部とヘッドカバーの間をパッキンによりシールすることによりヘッドカバーの外側から水が侵入するのを防止することができる。したがってモールド部とケースの間に二個目のパッキンを装着することが不要となり、この二個目のパッキンが切れて絶縁不良が生じるのを未然に防止することができる。パッキンを装着した装着溝はモールド部の露出部の外周に設けられ、従来より加工に手間がかからない。またパッキンの装着数を減らすことができる。」

そして、前記アの記載と図1?3の記載を併せてみると、次のことが理解できる。
キ.ソレノイドバルブは、その一部がシリンダヘッド22に備えられた孔に収容され、ケース2は、その一部がシリンダヘッド22に備えられた孔に入り込まれている。
前記エ,オの記載、図1?3の記載を併せてみると、次のことが理解できる。
ク.ソレノイドバルブは、弁体、及び弁体が摺動自在に嵌合する弁ハウジングを備え、弁ハウジングはケース2の反端部13側の端部に固定されている。
ケ.コイル11がケース2の内側に収納され、ソレノイドバルブが、コイル11の内筒部に延出するセンタポスト部材、コイル11の内筒部に位置し有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、及びプランジャに接続され弁体の開閉動作を可能とするロッドを備え、プレート14がケース2の端部13とプランジャ室との間に配置される。
そして、図1の記載及び前記事項ク,ケを併せてみると、センタポスト部材は弁ハウジングに嵌合しており、センタポスト部材は、プランジャの当該センタポスト部材方向への移動端を規定することからみて、その位置が固定されている必要があることは明らかであるから、次の事項が理解できる。
コ.センタポスト部材は、弁ハウジングに固定されている。
前記ア,エの記載と図1?3の記載を併せてみると、次の事項が理解できる。
サ.露出部7が、プレート14の外側でヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合し、パッキン10が、ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するために前記ヘッドカバー21に設けられた孔と前記露出部7の間に配置されている。

以上のことから、甲第1号証には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「シリンダヘッド22に備えられた孔にその一部が収容されるソレノイドバルブであって、
前記シリンダヘッド22に備えられた孔にその一部が入り込まれるケース2、該ケース2の内側に収納されるコイル11、前記コイル11の内筒部に延出するセンタポスト部材、前記コイル11の内筒部に位置し有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、前記ケース2の端部13と前記プランジャ室との間に配置されるプレート14、該プレート14の外側でヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合する樹脂製の露出部7、前記ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するために前記ヘッドカバー21に備えられた孔と前記露出部7の間に配置されているパッキン10、弁体、弁体が摺動自在に嵌合する弁ハウジング、及び前記プランジャに接続され前記弁体の開閉動作を可能とするロッドを備え、
前記弁ハウジングはケース2の反端部13側の端部に固定されており、
前記センタポスト部材は、前記弁ハウジングに固定されているソレノイドバルブ。」

(参考図)甲第1号証の図1に、当審が認定した事項を付記。


(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面と共に以下の記載がある(下線は、当審で付した。)。
シ.「(産業上の利用分野)
本発明は、車両用空調装置の冷媒圧縮機等として用いる可変容量式ベーン型圧縮機、特に外部からの制御信号により吐出量を制御し得る外部制御可能な可変容量式ベーン型圧縮機に関する。」(第1ページ右下欄第2?6行)
ス.「吐出空間から吐出圧の冷媒ガスをオリフィスを介して前記高圧室に導く高圧導入通路と、該オリフィスの開閉を外部からの制御信号に応じて制御する電磁弁」(第2ページ右上欄第18行?左下欄第1行)
セ.「第1図に示すように、外部制御可能な可変容量式ベーン型圧縮機は、略楕円形の内周面1aを有するカムリング1と、カムリング1の両側端面を閉塞する如くこれら両側端面に夫々固定されたフロントサイドブロック3及びリヤサイドブロック4とから成るシリンダと、該シリンダ内に回転自在に収納された円筒状のロータ2と、これら両サイドブロック3,4の外側端面に夫々固定されたフロントヘッド5.リヤヘッド6と、ロータ2の回転軸7とを主要構成要素としており」(第2ページ右下欄第14行?第3ページ左上欄第3行)
ソ.「また、前記オリフィス31の開閉を外部からの制御信号に応じて制御する電磁弁40が、リヤサイドブロック4及びリヤヘッド6に装着されている。」(第3ページ右下欄第15?18行)
タ.「前記電磁弁40は、第2図に示すように、オリフィス31を有する通路形成部材41と、励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43と、該コイルボビン43の一端と通路形成部材41の端面とによりフランジ部が挾持され、軸部がコイルボビン43内に嵌合した磁性体から成るコア44と、コイルボビン43内に摺動自在に嵌挿された大径軸部45aとコア44の貫通孔44aに摺動自在に嵌合した針弁45bとが一体に形成された磁性体から成るプランジャ45と、コイルボビン43の他端側にあり、プランジャ45の右方への変位位置を規制するストッパ部材46と、プランジャ45を右方へ付勢するスプリング47と、一端側を通路形成部材41のフランジ部41aに、他端側をストッパ部材46の端面に夫々カシメて固定されたカバ一部材48とから構成されている。そして、ストッパ部材46には、第1図に示す制御部60からの制御信号を励磁コイル42に導くためのコード49が保持されている。このように一つのアセンブリとして組立てられた電磁弁40は、その通路形成部材41及びカバ一部材48の一端部がリヤサイドブロック4の装着穴4aに嵌合するように該カバ一部材48をリヤヘッド6の装着穴6b内に入れ、該カバ一部材48の外側を蓋体48aで閉塞してある。」(第4ページ左上欄第10行?右上欄第14行)
チ.「オフ信号が入力されている間、電磁弁40は吸引力を発生しないので、プランジャ45はスプリング47の付勢力により第2図の如く右方に変位した開弁位置にあり、その針弁45bの先端がオリフィス31のシート面から離れてオリフィス31を開いている。すなわち電磁弁40が開弁している。一方、オン信号が入力されている間、電磁弁40が発生する吸引力によりプランジャ45がスプリング47の付勢力に抗して第2図の開弁位置から左方に変位した閉弁位置にあり、その針弁45bの先端がオリフィス31のシート面に着座してオリフィス31を閉じている。すなわち電磁弁40が閉弁している。」(第4ページ右下欄第9行?第5ページ左上欄第1行)
なお、第2図に記載された符号「6a」は、記載事項タ並びに甲第2号証の「リヤヘッド6の上部後端面には冷媒ガスの吸入口6aが夫々形成されている。・・・(中略)・・・吸入口6aはリヤヘッド6とリヤサイドブロック4とにより画成される吸入室11に夫々連通している。」(第3ページ左上欄第7?13行)及び第1図の記載(右上に符号「6a」の記載がある。)からみて、「6b」の誤記であると認められる。

そして、前記セ,ソ,タの記載及び第1,2図の記載を併せてみると,次のことが理解できる。
ツ.リヤヘッド6の装着穴6bは、リヤサイドブロック4の装着穴4aに連続しており、前記装着穴4aと前記装着穴6bは、併せて、1つの孔を構成している。
前記タ及び第1,2図の記載を併せてみると、次のことが理解できる。
テ.励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43がカバー部材48の内側に収納されている。
以上のことから、甲第2号証には以下の発明(以下、「引用発明2」という)が記載されていると認める。
「可変容量式ベーン型圧縮機の、リヤサイドブロック4及びリヤサイドブロック4の外側端面に固定されたリヤヘッド6に装着される電磁弁40であって、
オリフィス31を有する通路形成部材41と、励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43と、該コイルボビン43の一端と通路形成部材41の端面とによりフランジ部が挾持され、軸部がコイルボビン43内に嵌合した磁性体から成るコア44と、コイルボビン43内に摺動自在に嵌挿された大径軸部45aとコア44の貫通孔44aに摺動自在に嵌合した針弁45bとが一体に形成された磁性体から成るプランジャ45と、コイルボビン43の他端側にあり、プランジャ45の右方への変位位置を規制するストッパ部材46と、プランジャ45を右方へ付勢するスプリング47と、一端側を通路形成部材41のフランジ部41aに、他端側をストッパ部材46の端面に夫々カシメて固定されたカバ一部材48とから構成され、
励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43は、前記カバー部材48の内側に収納され、
通路形成部材41及びカバ一部材48の一端部がリヤサイドブロック4の装着穴4aに嵌合するように該カバ一部材48をリヤヘッド6の装着穴6b内に入れ、該カバ一部材48の外側を蓋体48aで閉塞してあり、
リヤヘッド6の装着穴6bは、リヤサイドブロック4の装着穴4aに連続しており、前記装着穴4aと前記装着穴6bは、併せて、1つの孔を構成している、
電磁弁40。」
(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に以下の記載がある。
ト.「リヤハウジング3の後端突出部内には電磁制御弁機構15が内蔵されており、その電磁コイル16の励磁により押圧ばね17に抗して吸着される弁体18が常には弁座19に形成された弁孔19aの上部開口を押圧ばね17の押圧作用により閉塞している。」(第3ページ左上欄第7?12行)
(4)甲第4号証
甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ナ.「前記電磁弁53は、リヤハウジング3の弁収納部66に内装されている。この電磁弁53は弁ケース60内に、コア55とコイル56とからなる電磁石57と、前記コア55の下方部に圧縮ばね58の下向き付勢力を常時受けて上下動可能に設けられたプランジャ59と、プランジャ59の下方に着座固定され貫通弁口62を有する弁座部材61とを具備して構成され、電磁石57の励磁、非励磁に応じて、プランジャ59が、第2,3図に示すように弁座部材61に接近し、あるいは弁座部材61から遠ざかるように移動して貫通弁口62を開閉するものである。」(第10ページ第18行?第11ページ第9行)
ニ.「なお、64は押えリング、65はOリング等のシール部材である。」(第11ページ第15?16行)
(5)甲第5号証
甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ヌ.「前記リヤハウジング3の外側壁には、膨出部3aが一体形成され、同膨出部3aに形成された弁収容室3bには容量制御用電磁弁19が収納されている。」(第8ページ第3?6行)
ネ.「前記電磁弁19は、前記弁収容室3b内に設けられ、かつ中央部に弁孔21aを透設した弁座21と、同じく弁収容室3bの底部に嵌合固定された弁ケーシング22の挿通孔22aに対し往復動可能に、かつ前記弁座21に対しコイルバネ23により常には閉鎖位置に付勢保持される磁性体よりなる弁体24と、この弁体24を前記コイルばね23の弾性力に抗して開放位置に移動し得る電磁コイル25とにより構成されている。」(第8ページ第12?20行)
(6)甲第6号証
甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ノ.「次にハウジングとチューブアセンブリ相互の係止機構の異なる例を示す第7図,第8図について説明する。これらの図は,押さ付部材として前実施例のチューブアセンブリの後端に対し螺合させる構造に代えて、図示するようなC状の止付リング44を用いた例を示すものであり,チューブアセンブリの後端部には止付リング44を嵌着しうるようにした溝45が形成されている。」(第12ページ第1?8行)
(7)甲第7号証
甲第7号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ハ.「【0023】30は電磁駆動の定差圧弁であり、電磁ソレノイド31に流す電流値を変えることによってクランク室12内の圧力Pcと吸入室20内の圧力Psとの差圧「Pc-Ps」を任意の一定圧に調整するためのものである。」
ヒ.「【0025】定差圧弁30の受圧部材35は、電磁ソレノイド31の電磁コイル31aによって駆動される可動鉄芯31bとロッド31cを介して連結されており、電磁コイル31aへの通電電流値を考えることによって、受圧部材35に加わる電磁力による付勢力が変化する。」
フ.「【0028】なお、定差圧弁30は全体としてユニットに形成されて圧縮機1に取り付けられており、リークを防ぐ必要のある部分にはシール用のOリング39が装着されている。」
(8)甲第8号証
甲第8号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ヘ.「【0012】
【発明の実施の形態】図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図1及び図2は、自動車用空調装置の冷凍サイクル中に用いられる容量可変圧縮機10と、その容量制御装置30を示しており、」
ホ.「【0016】容量制御装置30を囲むブロック31は、容量可変圧縮機10と同じブロックで形成されており、そこに形成された同軸多段状の孔内に、本体筒32が嵌め込まれている。33は、その嵌合部及びその他の嵌合部をシールするためのOリングである。」
(9)甲第9号証
甲第9号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
マ.「ところが、このような従来のアンチスキッド装置の構造においては、ソレノイドバルブ11,12及びそのリード線13が外部に対してむき出しになっている。このため、これらの重要部分が外力により損傷を受ける危険性があり、かつ、耐水性が不良で、水の侵入により機能を害されるおそれがあった。また、リレーカバー16はリレーベース15上に載っているだけなので、その接触面(図示X部)から水が侵入し、リレー14の寿命低下を来す可能性が大きかった。
本考案は、このような従来の車両用アンチスキッド装置の問題点に鑑み、ソレノイドバルブ、リード線及びリレーを完全に遮蔽し、外力や水の侵入による損傷、機能低下を防止することができるアンチスキッド装置の構造を提供することを目的とする。」(第3ページ第11行?第4ページ第6行)
(10)甲第10号証
甲第10号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ミ.「ハウジング本体7における後端部は、合成樹脂製カプラ45で覆われており、このカプラ45の外周縁に嵌着されたリング状シール部材46が、取付孔3の後端部の段部47と、スロットルボディ2に固着される押え板48との間に挟持され、これにより燃料噴射弁4がスロットルボディ2に取付けられる。」(第12ページ第5?11行)

2.無効理由1について
(1)本件特許発明1
ア.本件特許発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「ケース2」、「コイル11」、「プレート14」及び「パッキン10」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明1の「ケース部材」、「コイル部材」、「アッパープレート」及び「シール部材」に相当する。
本件特許発明1は、ケース部材の一方の開口端部の内側にセンタポスト部材が固定され、ケース部材の他方の開口端部とプランジャ室との間にアッパープレートが配置されるものであるから、引用発明1の「前記ケース2の反端部13側の端部」及び「前記ケース2の端部13」は、それぞれ、本件特許発明1の「ケース部材の一方の開口端部」及び「ケース部材の他方の開口端部」に相当する。
引用発明1は、センタポスト部材が弁ハウジングに固定され、該弁ハウジングがケース2の反端部13側の端部に固定されるものであるから、引用発明1の前記センタポスト部材は、前記弁ハウジングを介して、前記ケース2の反端部13側の端部に固定されているといえる。そうすると、引用発明1の「前記コイル11の内筒部に延出するセンタポスト部材」「を備え、前記弁ハウジングはケース2の反端部13側の端部に固定されており、前記センタポスト部材は、前記弁ハウジングに固定されている」態様は、本件特許発明1の「前記ケース部材の一方の開口端部の内側に固定され前記コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材」「を備え」る態様に相当する。
引用発明1において、露出部7は、樹脂製であり、プレート14の外側でヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合しているとともに、パッキン10が、前記ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するために前記ヘッドカバー21に備えられた孔と前記露出部7の間に配置されている。そうすると、引用発明1の「該プレート14の外側でヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合する樹脂製の露出部7」は、本件特許発明1の「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」と、「アッパープレートの外側で孔に嵌合する端部部材」である点で一致しており、引用発明1の「前記ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するために前記ヘッドカバー21に備えられた孔と前記露出部7の間に配置されているパッキン10」は、本件特許発明1の「外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材」と、「前記端部部材が嵌合する孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材」である点で一致する。
引用発明1の弁体及び弁ハウジングは、協働して弁としての機能を奏するものであるから、本件特許発明1の「バルブ部」に相当する。そうすると、引用発明1の「弁体」は、本件特許発明1の「バルブ部の弁体」に相当し、引用発明1の「前記プランジャに接続され前記弁体の開閉動作を可能とするロッド」は、本件特許発明1の「前記プランジャに接続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッド」に相当する。
そして、引用発明1のソレノイドバルブのうちの、ケース2、コイル11、センタポスト部材、スリーブ、プランジャ、プランジャ室、プレート14、露出部7、パッキン10、及びロッドからなる部分(以下、「特定部分1」という。)は、本件特許発明1の「ソレノイド」と、「ケース部材、コイル部材、センタポスト部材、有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、アッパープレート、端部部材、前記端部部材が嵌合する孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材、及びロッドを備える」点で一致する。
更に、引用発明1のソレノイドバルブは、シリンダヘッド22に備えられた孔にその一部が収容されて該シリンダヘッドに取り付けられており、引用発明1の前記特定部分1もシリンダヘッド22に備えられた孔にその一部が収容されて該シリンダヘッドに取り付けられている。そうすると、引用発明1の「シリンダヘッド」及び「シリンダヘッド22に備えられた孔」は、それぞれ、本件特許発明1の「相手側ハウジング部材」及び「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔」に相当する。そうすると、引用発明1の「シリンダヘッド22に備えられた孔にその一部が収容されるソレノイドバルブ」の前記特定部分は、本件特許発明1の「ソレノイド」と、「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に取り付けられる」点で一致する。
以上のことから、本件特許発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に取り付けられるソレノイドであって、
前記ソレノイドは、ケース部材、該ケース部材の内側に収納されるコイル部材、前記ケース部材の一方の開口端部の内側に固定され前記コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材、前記コイル部材の内筒部に位置し有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレート、該アッパープレートの外側で孔に嵌合する端部部材、前記端部部材が嵌合する孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材、及び前記プランジャに接続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッドを備えるソレノイド。」

【相違点1】
本件特許発明1は、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記ケース部材が前記取付孔に入り込まれ、耐食材料による前記端部部材が前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぎ、前記シール部材が外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるのに対し、引用発明1は、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔にその一部が収容されるソレノイドであって、前記ケース部材の一部のみが前記取付孔に入り込まれ、樹脂製の前記端部部材が前記取付孔ではなくヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合し、前記シール部材が前記ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するために前記ヘッドカバー21に備えられた孔と前記端部部材の間に配置される点。
【相違点2】
本件特許発明1が、前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設けるのに対し、引用発明1は、当該シール部材を設けていない点。
イ.前記相違点について検討する。
請求人は、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものある旨主張しているので、以下それについて検討する。
(ア)相違点1について検討すると、引用発明1において当該相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することについて、甲第1号証には記載も示唆もない。
また、引用発明1は、エンジンのシリンダヘッド22に取り付けられるソレノイドバルブにおいて、ヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合する露出部7、及び前記ヘッドカバー21に備えられた孔と前記露出部7の間に配置されているパッキン10を備えることにより、前記ヘッドカバーの外側から水が侵入するのを防止するものである。すなわち、本件特許発明1は、従来相手側ハウジングから突出して設けられていたソレノイドが、該相手側ハウジングに備えられた取付孔に収容されるものであるのに対して、引用発明1は、相手側ハウジング部材(シリンダヘッド22)に取り付けられるソレノイドの一部が該相手側ハウジング部材に備えられた取付孔(孔)に収容されるとともに、前記相手側ハウジング部材とは別部材であるヘッドカバー21が、前記ソレノイドの前記取付孔に収容されていない部分の一部と嵌合しているものであるから、引用発明1は、本件特許発明1とはその前提が異なるというべきである。そうすると、たとえ取付孔に収容されるソレノイドであって、取付孔に入り込まれるケース部材を備えるものが本件特許に係る発明についての出願の出願時に公知又は周知であったとしても、当該公知又は周知の技術を引用発明1に適用して、引用発明1において、ケース部材(ケース2)が取付孔(シリンダヘッド22に備えられた孔)に入り込まれ、端部部材(露出部7)が前記取付孔に嵌合するようにすることには、阻害要因があるというべきである。
そして、本件特許発明1は、相違点1に係る発明特定事項を採用することにより、ケース部材の内側に収納されるコイル部材、該コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材、前記コイル部材の内筒部に位置するプランジャ室を囲む有底円筒状のスリーブ、前記プランジャ室に配置されるプランジャ、前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレートは外部に露出されることはなく、外部雰囲気(湿気や水などの流体等をも含む)の進入が端部部材と取付孔との嵌め合い及びシール部材により抑制されるので、ソレノイドの耐食性を向上することできるという効果を奏するものである。
したがって、引用発明1において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

a.この点について、請求人は、シリンダヘッドの孔とヘッドカバーの孔は、1つのソレノイドバルブをシリンダヘッドに収容するためにセットで設けられており、併せて、1つのソレノイドバルブに対する「取付用の孔」というべきものであって、ヘッドカバーの孔は、いわば「取付用の孔」の開口部というべきである旨主張している(審判請求書「第3 3(2)イ」(第8?9ページ)、同「第3 3(3)エ(ウ)」(第12?13ページ)、口頭審理陳述要領書「5(3)一(一)」(第27?31ページ)参照)。
本件特許発明1は、本件請求項1に記載されているとおり、ソレノイドが「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容される」ものである。ここで、「収容」とは「人や物品を一定の場所におさめ入れること」(広辞苑 第五版)を意味し、更に本件特許明細書の「本発明にあっては、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とする。これにより、取付孔の内部に収容されたソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく」(段落0015?0016)や「ソレノイド1の構成を、このように取付孔Haに収容されるようにすることにより、取付孔Haの内部に収容されたソレノイド1のヘッド部8より奥側の部材(ケース部材2、コイル部材3、アッパープレート6等の部材)は外部に露出されることはなく」(段落0034)の記載からみて、本件特許発明1のソレノイドは、端部部材以外の部分の全体が取付孔におさめ入れられるとともに、当該端部部材も少なくとも前記取付孔に密封嵌合する部分が前記取付孔におさめ入れられているものと解するのが相当であり、そのケース部材は、おのずと、その全体が取付孔に入り込まれているといえる。
一方、引用発明1は、ケース2の一部のみがシリンダヘッド22に備えられた孔に入り込まれ、露出部7がヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合するものであって、甲第1号証、特に図1?3の記載からみて、シリンダヘッド22に備えられた孔とヘッドカバー21に備えられた孔が離隔しており、ケース2の、シリンダヘッド22に備えられた孔に入り込まれていない部分がシリンダヘッド22とヘッドカバー21との間の空間に露出されているものである。そうすると、仮に、請求人が主張するとおり、引用発明1の「シリンダヘッド22に備えられた孔」と「ヘッドカバー21に備えられた孔」が、併せて、1つのソレノイドバルブに対する「取付用の孔」といえるとしても、引用発明1は、「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記ソレノイドは、前記取付孔に入り込まれるケース部材を備える」とはいえない。
更に、本件特許発明1は、先に検討したとおり、「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記ソレノイドは、前記取付孔に入り込まれるケース部材を備え」た上で、端部部材が前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぎ、シール部材が外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されることにより、前記ケース部材の内側に収納されるコイル部材、該コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材、前記コイル部材の内筒部に位置するプランジャ室を囲む有底円筒状のスリーブ、前記プランジャ室に配置されるプランジャ、前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレートは外部に露出されることはなく、外部雰囲気(湿気や水などの流体等をも含む)の進入が端部部材と取付孔との嵌め合い及びシール部材により抑制されるので、ソレノイドの耐食性を向上することできるという効果を奏するものである。
b.この効果の点については、請求人は、甲第1号証には「ヘッドカバー21の内側に水が侵入することはこれを極力回避しなければならず」と記載されており、さらに引用発明1は、従来技術で必要であったモールド部1とケース2との間の防水用のパッキン4を不要にできることを作用効果としており、シリンダヘッドとヘッドカバーの間に水等が存在しているのであれば、防水性を維持するため、端部13の内側でモールド部1とケース2との間をシールするパッキンが必須となり、当該作用効果を奏し得ないことから、甲第1号証においてはヘッドカバーの内側に水等の腐食性の流体が存在することをそもそも想定しておらず、引用発明1においても本件特許発明1と同様の効果が得られる旨主張している(審判請求書「第3 3(3)エ(エ)」(第13?14ページ)参照)。
甲第1号証に「ヘッドカバー21の内側(図上下側)に水が侵入することはこれを極力回避しなければならず」と記載されていることは、請求人が主張するとおりであり(前記「第5 1(1)ウ」参照」)、また、引用発明1は、ヘッドカバー21に備えられた孔と露出部7の間にパッキン10を配置することにより、ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するものである。
しかしながら、引用発明1は、あくまでヘッドカバー21に備えられた孔からヘッドカバー21の内側に水が侵入することを防止するにとどまる。一方、シリンダヘッド22とヘッドカバー21との間の空間は、当該シリンダヘッド22とヘッドカバー21を含む少なくとも2つの部材によって画成されるところ、前記ヘッドカバー21に備えられた孔以外にも、例えば前記少なくとも2つの部材同士の接合部等、シリンダヘッド22とヘッドカバー21との間の空間に水が侵入する経路は存在する。そうすると、引用発明1は、それのみによっては、シリンダヘッド22とヘッドカバー21との間の空間に水が侵入することを防止することができないものであるから、引用発明1が本件特許発明1と同様の効果を奏するとはいえない。
加えて、請求人は、平成29年11月29日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり、「引用発明1においても『バルブ部側から、ヘッドカバーとシリンダヘッドの間の空間に水分等の流体の侵入を防止する』という課題は内在しているというべきである。」と主張している(口頭審理陳述要領書「5(1)二(三)イ(オ)」(第13?14ページ)参照)。仮に請求人の主張とおりであるとすれば、甲第1号証の記載を参照すれば、引用発明1は、ソレノイドのバルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を備えていないから、シリンダヘッド22とヘッドカバー21との間の空間に水が存在することとなり、やはり、引用発明1が本件特許発明1と同様の効果を奏するとはいえない。
c.請求人は、本件特許発明1は、ソレノイドバルブ自体の発明であり、これが受け入れられる側のハウジング部材の構成は全く無関係である旨、また被請求人が想定するようなハウジング部材に引用発明1にかかるソレノイドバルブを挿入した場合、相違点1は相違点たり得ない旨も主張している(審判請求書「第3 3(3)エ(オ)?(カ)」(第14?16ページ)参照)。
しかしながら、本件特許発明1は、本件請求項1に記載されているとおり、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドに係るものであって、前記ソレノイドは、前記取付孔に入り込まれるケース部材を備えるものであり、また引用発明1は、甲第1号証の記載からみて、エンジンのシリンダヘッドに取り付けられるソレノイドバルブに係るものであって、ケースの一部のみがシリンダヘッドに備えられた孔に入り込まれるものである。したがって、請求人の当該主張は、本件特許に係る明細書、特許請求の範囲及び図面並びに甲第1号証の記載に基づかないものである。
d.更に、請求人は、本件特許発明1は、ハウジング部材については、単に「相手側ハウジング部材」と特定するだけであり、その開口部を形成する部分と内部とが単一部材で形成される必要があるとか、取付孔の内部部分に空間にあってはならないというような限定は一切なく、ヘッドカバーに設けられた取付孔とは別に内部にさらに別体のシリンダヘッドの孔があり、シリンダヘッドとヘッドカバーの間に空間があったとしても、「取付孔の開口部を塞ぐ端部材(当審注:「端部部材」の誤記)を有するソレノイドバルブ」という構成については本件特許発明と異なるところがない旨主張している(口頭審理陳述要領書「5(1)二(五)ウ,エ」(第15?16ページ)、同「5(3)一(二)」(第31?32ページ)参照)。

しかしながら、先に検討したとおり、本件特許発明1のソレノイドは、端部部材以外の部分の全体が取付孔におさめ入れられるとともに、当該端部部材も少なくとも前記取付孔に密封嵌合する部分が前記取付孔におさめ入れられているものと解するのが相当であり、そのケース部材は、おのずと、その全体が取付孔に入り込まれているといえるものであるから、ヘッドカバーに備えられた孔とは別にシリンダヘッドに備えられた孔があり、シリンダヘッドとヘッドカバーの間に空間が存在する引用発明1は、相違点1について、本件特許発明1と異なるところはないとはいえない。
e.以上のとおりであるから、請求人の主張を検討しても、引用発明1において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)相違点2について検討する。
甲第1号証には「この図2および図3の場合には・・・(中略)・・・またモールド部1とケース2の間のシール性が向上し、ケース2の内周面に予め溝等の凹凸15を設けておくことにより、この凹凸15と樹脂とが噛み合い、ソレノイド内部に発生する油圧をシールすることができ、これまで油圧をシールするために設けて来たOリング等のパッキン16,17(図4および図1参照)を省略することができる。」と記載されている(前記「第5 1(1)オ」参照」)。一方で、甲第1号証、特に図1?3の記載からみて、引用発明1のケース部材(ケース2)の外周とシリンダヘッド22に備えられた孔との間にシール部材は配置されていない。
してみると、引用発明1は、バルブ部(弁体及び弁ハウジング)側からソレノイド内部に油が進入することを防止するという課題を認識し、当該課題を解決するためにパッキン16,17や凹凸15を設けている一方で、ケース部材の外周とシリンダヘッド22に備えられた孔との間にバルブ部側から油が進入することを防止するための手段を何ら設けていないものであるから、ケース部材の外周とシリンダヘッド22に備えられた孔との間にシール部材を配置することが甲第1号証に示唆されているとはいえず、請求人が主張する「バルブ部側から、ヘッドカバーとシリンダヘッドの間の空間に水分等の流体の侵入を防止する」という課題が引用発明1に内在しているとはいえない。
そうすると、たとえソレノイドのバルブ側の外周にOリング等のシール部材を設けることが本件特許に係る発明についての出願の出願時に公知又は周知であったとしても、当該公知又は周知の技術を引用発明1に適用する動機付けは存在しないというべきである。
したがって、引用発明1において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ.したがって、本件特許発明1は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明1に係る特許は、請求人が主張する無効理由1によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を更に限定したものであるので、同様に、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明2及び3に係る特許も、請求人が主張する無効理由1によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

3.無効理由2について
(1)本件特許発明1
ア.本件特許発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2の「カバー部材48」、「励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43」、「コア44」、及びプランジャ45の「大径軸部45a」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明1の「ケース部材」、「コイル部材」、「センタポスト部材」、及び「プランジャ」に相当する。
引用発明2において、コア44の軸部が「コイルボビン43内に嵌合し」ている態様は、本件特許発明1のセンタポスト部材が「コイル部材の内筒部に延出する」態様に相当する。更に、引用発明2のコア44は、「コイルボビン43の一端と通路形成部材41の端面とによりフランジ部が挾持され」、カバー部材48は、「一端側を通路形成部材41のフランジ部41aに」「カシメて固定され」ているから、結果として、コア44は、そのフランジ部がカバー部材48の一端側に固定されているということができ、引用発明2の「カバー部材48の一端」は、本件特許発明1の「ケース部材の一方の開口端部」に相当する。
引用発明2において、プランジャ45の大径軸部45aは、コイルボビン43内に摺動自在に嵌装されているから、コイルボビン43の内筒部に、前記大径軸部45aが往復動可能に配置される室が備えられていることは明らかであり、当該室は、本件特許発明1の「プランジャ室」に相当する。そうすると、引用発明2の「ストッパ部材46」は、前記室とカバー部材48の他端との間に位置することになるから、本件特許発明1の「アッパープレート」に相当し、引用発明2の「カバー部材48の他端」は、本件特許発明1の「ケース部材の他方の開口端部」に相当する。
引用発明2において、プランジャ45の針弁45bは、その先端がオリフィス31のシート面に対して接離して電磁弁40が閉弁又は開弁するから、引用発明2のプランジャ45の「針弁45b」は、その先端部が本件特許発明1の「バルブ部の弁体」に相当し、残余の部分が本件特許発明1の「プランジャに接続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッド」に相当し、引用発明2の、「プランジャ45」の「針弁45b」の先端部と「通路形成部材41」は、併せて、本件特許発明1の「バルブ部」に相当する。
そして、引用発明2の電磁弁40のうちの、カバー部材48、励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43、コア44、プランジャ45の大径軸部45a、ストッパ部材46、及びプランジャ45の針弁45bの前記残余の部分からなる部分(以下、「特定部分2」という。)は、本件特許発明1の「ソレノイド」と、「ケース部材、コイル部材、往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、アッパープレート、及びロッドを備える」点で一致する。
更に、引用発明2は、リヤサイドブロック4の外側端面にリヤヘッド6が固定され、リヤサイドブロック4の装着穴4aと、当該装着穴4aに連続する、リヤヘッド6の装着穴6bと、が併せて構成する1つの孔に電磁弁40が収容されているから、当然、引用発明2の前記特定部分2も前記1つの孔に収容されている。そうすると、引用発明2の「リヤサイドブロック4」と「リヤヘッド6」は、併せて、本件特許発明1の「相手側ハウジング部材」に相当し、引用発明2の、リヤサイドブロックの装着穴4aとリヤヘッド6の装着穴6bが併せて構成する「1つの孔」は、本件特許発明1の「取付孔」に相当する。してみると、引用発明2において、電磁弁40が、「可変容量式ベーン型圧縮機の、リヤサイドブロック4及びリヤサイドブロック4の外側端面に固定されたリヤヘッド6に装着され」、「通路形成部材41及びカバ一部材48の一端部がリヤサイドブロック4の装着穴4aに嵌合するように該カバ一部材48をリヤヘッド6の装着穴6b内に入れ」られるとともに、「リヤヘッド6の装着穴6bは、リヤサイドブロック4の装着穴4aに連続しており、前記装着穴4aと前記装着穴6bは、併せて、1つの孔を構成している」態様は、本件特許発明1のソレノイドが「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容される」態様に相当する。
また、引用発明2は、通路形成部材41及びカバ一部材48の一端部がリヤサイドブロック4の装着穴4aに嵌合するように該カバ一部材48をリヤヘッド6の装着穴6b内に入れ、該カバ一部材48の外側を蓋体48aで閉塞してある。そして、甲第2号証、特に第1及び2図の記載からみて、蓋体48aは、ストッパ部材46の外側で装着穴6b内に位置している。
ここで、「嵌合」について、被請求人が提出した乙第6号証には「機械部品の、互いにはまり合う丸い穴と軸について、機能に適するように公差や上下の寸法差を定めること。」を意味する旨の記載があり、請求人が提出した甲第13号証には「軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係」を意味する旨の記載がある。これらの記載からみれば、「嵌合」とは、まさに「はまり合う」ことを意味するのであって、機能に適するように公差や上下の寸法差が定められていることは必ずしも必要ではなく、互いにはまり合う穴と軸の間に隙間があってもなくてもよいといえる。
そうすると、装着穴6b内に位置する、引用発明2の「蓋体48a」は、ストッパ部材46の外側で該装着穴6bに嵌合しているといえるから、本件特許発明1の「端部部材」と、「アッパープレートの外側で取付孔に嵌合する部材」である点で一致する。
一方、引用発明2において、電磁弁40は、通路形成部材41と、励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43と、コア44と、プランジャ45と、ストッパ部材46と、スプリング47と、カバ一部材48とから構成されて、一つのアセンブリとして組立てられており(前記「第5 1(2)タ」参照。)、蓋体48aは、当該一つのアセンブリには含まれていない。そして、「入れる」とは「外から、ある限られた範囲内へ移す。中におさめる。」という動作を意味するから(乙第8号証参照)、引用発明2は、一つのアセンブリとして組立てられた電磁弁40を、リヤヘッド6の装着穴6bの外から該装着穴内に移し、当該一つのアセンブリには含まれない蓋体48aで、1つのアセンブリとして組立てられた電磁弁40の外側を閉塞してあると解するべきものである。そうすると、蓋体48aは、電磁弁40とは別体として構成されているといえ、電磁弁40が蓋体48aを備えるとはいえない。
以上のことから、本件特許発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
「相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、
前記ソレノイドは、前記取付孔に入り込まれるケース部材、該ケース部材の内側に収納されるコイル部材、前記ケース部材の一方の開口端部の内側に固定され前記コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材、前記コイル部材の内筒部に位置し往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室、前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレート、及び前記プランジャに接続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッドを備えるソレノイド。」

【相違点1】
本件特許発明1は、前記プランジャ室が有底円筒状のスリーブにより囲まれるのに対し、引用発明2は、前記プランジャ室が有底円筒状のスリーブにより囲まれていない点。
【相違点2】
本件特許発明1は、ソレノイドが、該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えるのに対し、
引用発明2は、該アッパープレートの外側で前記取付孔に嵌合する部材によりケース部材の外側を閉塞してあるが、前記部材は、ソレノイドが備えるものではなく、さらに前記部材の前記取付孔に対する嵌合が密封嵌合して当該取付孔の開口部を塞ぐものであるか否かが明らかではなく、前記部材の材料も明らかではない点。
【相違点3】
本件特許発明1は、外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材を備えるのに対し、引用発明2は、当該シール部材を備えていない点。
【相違点4】
本件特許発明1が、前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設けるのに対し、引用発明2は、当該シール部材を設けていない点。
イ.前記相違点について検討する。
請求人は、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に甲第1号証に記載された技術ないし周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものある旨主張しているので、以下それについて検討する。
(ア)まず、相違点2について検討すると、引用発明2において当該相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することについて、甲第2号証には記載も示唆もない。
甲第1号証に記載された引用発明1は、本件特許発明1の「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」と「アッパープレートの外側で孔に嵌合する端部部材」である点で一致する「該プレート14の外側でヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合する樹脂製の露出部7」をソレノイドが備えている(前記「第5 2(1)ア」参照)。しかしながら、引用発明1は、エンジンのシリンダヘッドに取り付けられるソレノイドバルブに係り、ヘッドカバー21の外側から水が侵入するのを防止するものであって、可変容量式ベーン型圧縮機のリヤヘッドに装着される電磁弁に係る引用発明2とは、技術分野及び解決しようとする課題が異なるものである。そして、甲第1号証の記載全体を参照しても、甲第1号証に記載された前記発明を引用発明2に適用することが当業者が容易になし得る事項であるという足るものは見いだせない。
更に、請求人が提出した他の証拠方法のいずれにも、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項が本件特許に係る発明についての出願の出願時に公知又は周知であったというに足るものはない。
したがって、引用発明2において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

a.この点について、請求人は、引用発明2の電磁弁40は、その外郭がカバー48で構成されているところ、甲2号証の第2図をみると、カバー48と蓋体48aとは、両者が接する面形状をぴったりと合わせられていること、また甲第2号証において「該カバー部材48の外側を蓋体48aで閉塞してある」と記載されていることからして、少なくとも、カバー48と蓋体48aとはなんらかの形で接合されているといえ、したがって、電磁弁40は蓋体48aを「備えている」といえる旨主張している(口頭審理陳述要領書「5(4)一」(第32?33ページ)参照)。
しかしながら、先に検討したとおり、甲第2号証には、電磁弁40は、通路形成部材41と、励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43と、コア44と、プランジャ45と、ストッパ部材46と、スプリング47と、カバ一部材48とから構成され、一つのアセンブリとして組立てられていると明確に記載されている(前記「第5 1(2)タ」参照。)。そして、一つのアセンブリとして組立てられている電磁弁40の一部であるカバー部材48をリヤヘッド6の装着穴6bに入れるためには、当然、電磁弁40を一体として該装着穴6bに入れなければならない。そうすると、甲第2号証の「このように一つのアセンブリとして組立てられた電磁弁40は、その通路形成部材41及びカバ一部材48の一端部がリヤサイドブロック4の装着穴4aに嵌合するように該カバ一部材48をリヤヘッド6の装着穴6b内に入れ、該カバ一部材48の外側を蓋体48aで閉塞してある。」との記載は、一つのアセンブリとして組み立てられている電磁弁40を一体として装着穴6bに入れ、その外側を、電磁弁40とは別体として構成された蓋体48aで閉塞したと解するのが相当である。
また、たとえ、請求人が主張するように甲第2号証の第2図から、カバー部材48と蓋体48aとが、両者が接する面形状をぴったりと合わせられていることが見て取れるとしても、それはあくまで当該面形状を特定するにとどまり、それをもってカバー部材48と蓋体48aが接合されているとはいえない。
更に、甲第2号証の記載全体を参照しても、電磁弁40がと蓋体48aを備えていることを示唆するものはない。
したがって、請求人の当該主張は、これを採用することができない。

(イ)次に相違点3について検討する。
請求人が主張するとおり、「第2図でいえば、蓋体48aの左側に位置し、カバー部材48の右端側の外周部に位置する部材(断面が略楕円形状のもの)」がシール部材であるとしても(口頭審理陳述要領書「5(1)三(一)エ」(第17ページ)参照)、請求人の主張によれば、引用発明2にかかるソレノイドは、通常、ソレノイド内部に水分等が侵入することを防止するため、カバー部材48とストッパ部材46との間にシール部材を備えている(口頭審理陳述要領書「5(1)三(三)イ(ウ)iii」(第22?23ページ)参照)。
先に検討したとおり、引用発明2は、電磁弁40が、通路形成部材41と、励磁コイル42が巻かれたコイルボビン43と、コア44と、プランジャ45と、ストッパ部材46と、スプリング47と、カバ一部材48とから構成されて、一つのアセンブリとして組立てられているものである(前記「第5 1(2)タ」参照。)。
そうすると、引用発明2は、1つのアセンブリとして組み立てられている電磁弁40が、その内部に水分等が侵入することを防止するためにカバー部材48とストッパ部材46との間にシール部材を備えるとともに、カバー部材48の外周部に装着穴6bとの間を密封するシール部材が設けられているものであるから、それに加えて、蓋体48aと装着穴6bとの間にシール部材を備える動機付けはないというべきである。
したがって、引用発明2において相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ.以上のとおりであるから、相違点1及び4について判断を示すまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明1に係る特許は、請求人が主張する無効理由2によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を更に限定したものであるので、同様に、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明2及び3に係る特許も、請求人が主張する無効理由2によっては、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

4.無効理由3について
(1)請求項1について
請求人が現実的、具体的にいかなる状態を意味するのか不明確であると主張する「密封嵌合」との語は、本件の請求項1に「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」と記載されているように、端部部材が取付孔に密封嵌合することを特定するものである。
本件特許明細書には、前記端部部材と前記取付孔との密封嵌合に関して、以下の記載がある。
「【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明にあっては、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とする。
【0016】
これにより、取付孔の内部に収容されたソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく、また、外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入が端部部材により抑制されるので、相手側ハウジング部材に組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となる。」
この記載からみて、本件特許発明1における、前記端部部材と前記取付孔との密封嵌合の「密封」とは、外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入を抑制する程度の密封を意味し、これは、被請求人が提出した乙第7号証を参照すれば、一般的な技術用語とも矛盾するものではない。
さらに、「嵌合」については、先に検討したとおり(前記「第5 3(1)ア」参照)、まさに「はまり合う」ことを意味する。
そうすると、前記「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」の記載によって特定される、端部部材と取付孔との密封嵌合は、当該端部部材と取付孔の間から外部雰囲気(湿気や水などの流体)が進入するのを抑制するという機能を発揮する程度のはめ合いと解することが相当であって、その意味するところに不明確なものはない。
そして、このように解しても、本件特許明細書の他の記載、特に外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材に関する以下の記載
「【0019】
前記取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることも好適である。これによって、より外部雰囲気の進入が抑制される。」
や、本件特許発明1の実施の形態に関する以下の記載
「【0032】
取付孔Haの内径寸法とヘッド部8の外径寸法は、両者が嵌合した場合に密封性を発揮し得ると共に、かつ容易に取り外しが行なえるような嵌め合い寸法に設定されている。尚、Oリング13は、ヘッド部8の密封嵌合を補助する目的で設けられている。」
とも矛盾しない。
したがって、本件請求項1に記載された「密封嵌合」との語は、本件特許発明1を不明確にするものではなく、本件特許発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。

a.これに関し、請求人は、被請求人が、本件特許訂正審判請求書(甲第11号証)において、「外部雰囲気(湿気や水などの流体等をも含む)の進入が端部部材と取付孔との嵌め合い及びシール部材により抑制される」と述べていることから、端部部座のみならず、シール部材とが合わさることにより外部雰囲気の進入が抑制されるものと考えられ、さらに被請求人が、本件特許に係る別件訴訟の訴状(甲第14号証)において、「ソレノイドの端部部材とバルブ部側部材の両方をシール部材によって支持することにより、ソレノイドを相手側ハウジングから浮かして隙間を保ち、ソレノイドと相手側ハウジングとの接触を防止できる。」と述べ、端部部材と取付孔との間に隙間があるかのような主張をしていることから、本件特許発明にかかるソレノイドの端部部材それ自体は、取付孔開口部に「密封嵌合」していない旨主張している(審判請求書「第3 5(2)ウ,エ」(第25?26ページ)参照)。
しかしながら、請求人が摘記した、本件特許訂正審判請求書の記載自体は、端部部材と取付孔との嵌め合いと、シール部材とが、いずれも、外部雰囲気の進入を抑制しているとも解せるものであって、端部部材と取付孔との嵌め合いのみでは外部雰囲気の進入を抑制することができないとしか解せないものではない。更に、先に摘記した本件特許明細書の段落0015,0016,0019及び0032の記載を参照するに、本件特許発明1は、端部部材と取付孔との密封嵌合により外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入を抑制するとともに、シール部材も設けることにより、外部雰囲気の進入をより一層抑制するものである。
また、被請求人が摘記した、本件特許に係る別件訴訟の訴状における被請求人の主張に対応する事項は、本件特許明細書に明示的に記載されてはいないが、先に検討したことからみて(前記「第5 3(1)ア」参照)、仮に端部部材と取付孔との間に隙間が存在していたとしても、それのみをもって端部部材と取付孔が嵌合しているとはいえなくなるものではなく、外部雰囲気の進入を抑制するという機能を奏し得るのであれば、端部部材と取付孔は密封嵌合しているといえるのである。そうすると、本件特許に係る別件訴訟の訴状における被請求人の主張をもって、直ちに、端部部材と取付孔は密封嵌合していないとはいえない。
b.請求人は、被請求人の解釈を前提とするならば、「密封嵌合」は、ある程度水漏れをしてもよい程度に嵌まっていれば良い」というものであり,極めてあいまいな概念であり、結局のところ,本件特許発明における「密封嵌合」なる用語は、水分等の進入を抑制するようなもののか、そうでないのか、全くもって不明である旨主張している(口頭審理陳述要領書「5.(1)四(二)(第25?26ページ))。
しかしながら、先に検討したとおり、本件特許発明における「密封嵌合」が、外部雰囲気(湿気や水などの流体)が進入するのを抑制するという機能を発揮する程度のはめ合いと解することが相当であって、その意味するところに不明確なものはない。

(2)請求項2及び3について
本件請求項2及び3は、いずれも、本件請求項1を引用するものであるが、本件請求項1に記載された「密封嵌合」との語は、本件特許発明1についてと同様に、本件特許発明2及び3を不明確にするものではなく、本件特許発明2及び3に係る特許も、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-06 
結審通知日 2018-02-09 
審決日 2018-02-20 
出願番号 特願平10-210450
審決分類 P 1 113・ 537- Y (F16K)
P 1 113・ 121- Y (F16K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
藤井 昇
登録日 2004-10-29 
登録番号 特許第3611969号(P3611969)
発明の名称 ソレノイド  
代理人 小椋 正幸  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 宍戸 充  
代理人 小椋 正幸  
復代理人 横井 康真  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 宍戸 充  
代理人 特許業務法人インターブレイン  
代理人 天坂 康種  
代理人 天坂 康種  

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