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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1339046
審判番号 不服2016-17907  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2018-04-05 
事件の表示 特願2015- 51339「押出樹脂板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日出願公開、特開2015-107664〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯

本願は、平成22年12月6日を出願日とする特許出願(特願2010-271083号、以下「原出願」という。)の一部を平成27年3月13日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、平成29年1月10日付けで同法第164条第3項所定の報告がされ、当審において同年10月12日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願請求項1?3に係る発明は、平成29年12月15日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

本願発明1:
「溶融した熱可塑性樹脂をダイから押出し、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛けた後、第3冷却ロールに巻き掛け、冷却ロールに接する熱可塑性樹脂の両面のうち、第1冷却ロールに接した面が第3冷却ロールに接することにより冷却して、厚さ5mm以下の押出樹脂板を製造する方法であって、
前記第1冷却ロールおよび第3冷却ロールが、いずれも外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであり、前記第2冷却ロールが、金属ロールであるとともに、
前記第2冷却ロールの周速度(V2)と、前記第3冷却ロールの周速度(V3)との周速度比(V3/V2)が、0.999以下であることを特徴とする前記押出樹脂板の製造方法。」


第3 当審の拒絶理由通知

当審において平成29年10月12日付け拒絶理由通知書によって通知した拒絶の理由は、概略次のとおりである。

理由(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(刊行物)
1.特開2009-137206号公報(以下、「引用文献1」という。)
2.特開平01-235623号公報(以下、「引用文献2」という。)
3.特開2002-120273号公報(以下、「引用文献3」という。)


第4 当審の判断

1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
当審の拒絶理由通知で引用された、本願の原出願の出願前に頒布されたことが明らかな引用文献1には、次のア?オの記載がある(下線は合議体による。)。

「【請求項1】
ダイから押出される溶融熱可塑性樹脂を、第1ロールと第2ロールとの間に挟み込み、前記第2ロールに巻き掛けた状態で、さらに第2ロールと第3ロールとの間に挟み込んで成形・冷却する、熱可塑性樹脂からなる押出樹脂板の製造方法であって、
前記第1ロールおよび第3ロールが、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであり、前記第2ロールが、高剛性の金属ロールであることを特徴とする押出樹脂板の製造方法。
【請求項2】
第1ロールおよび第3ロールを構成する前記弾性ロールのうち、少なくとも一方の弾性ロールは、略円柱状の軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うように配置された円筒形の金属製薄膜と、前記軸ロールと金属製薄膜との間に封入された流体とを備えており、
さらに前記流体を温度制御することによって温度制御可能に構成されている請求項1記載の押出樹脂板の製造方法。
【請求項3】
前記第1?第3ロールの表面温度(Tr)を、押出樹脂板を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)に対して、(Th-20℃)≦Tr≦(Th+20℃)の範囲内にする請求項1または2記載の押出樹脂板の製造方法。
【請求項4】
押出樹脂板の厚さが2mm以下である請求項1?3のいずれかに記載の押出樹脂板の製造方法。」


「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイから押出される溶融熱可塑性樹脂を、まず、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールからなる第1ロールと、高剛性の金属ロールからなる第2ロールとの間に挟み込む。このとき、前記弾性ロールが溶融熱可塑性樹脂を介して金属ロールの外周面に沿って凹状に弾性変形する。これにより、金属ロールおよび弾性ロールは、溶融熱可塑性樹脂に対して面接触で圧着するので、これらロール間に挟み込まれた溶融熱可塑性樹脂は面状に均一加圧され、樹脂板内に歪が残留するのを抑制することができる。
【0010】
そして、第1,第2ロール間に挟み込まれた後の熱可塑性樹脂を、前記第2ロールに巻き掛けた状態で、さらに第2ロールと第3ロールとの間に挟み込んで成形・冷却する。このとき、本発明では、前記第3ロールにも前記弾性ロールを用いる。したがって、第1,第2ロール間に挟み込まれた後の熱可塑性樹脂が、第2ロールに巻き掛けられた状態で第3ロールへ搬送される過程において、表面が冷却されて硬くなっていたとしても、高剛性の金属ロールからなる第2ロールと、前記弾性ロールからなる第3ロールとの間に挟み込まれることによって面状に均一加圧され、これにより第2,第3ロール間に挟み込んだ後の熱可塑性樹脂を第3ロールに均一に密着させることができ、歪やムラ等の発生が抑制された平滑な押出樹脂板を得ることができる。」


「【0037】
上記のようにしてダイ3から押出される溶融熱可塑性樹脂4を、略水平方向に対向配置された3本の冷却ロール5間に通し、成形・冷却する。3本の冷却ロール5は、溶融熱可塑性樹脂4の引取り方向(矢印Aに示す方向)に沿って順に第1,第2,第3ロールで構成されている。本実施形態では、図2に示すように、外周部に金属製薄膜9を備えた弾性ロール、すなわち金属弾性ロール7a,7bを第1,第3ロール、高剛性の金属ロール6を第2ロールとする。第1?第3ロールは、少なくとも1つのロールがモータ等の回転駆動手段に接続されており、各ロールが所定の周速度で回転するように構成されている。」


「【0045】
そして、第1,第2ロール間に挟み込まれた後の熱可塑性樹脂を、第2ロールに巻き掛けた状態で、さらに第2ロールと第3ロールとの間に挟み込んで成形・冷却する。ここで、本実施形態では、第3ロールにも金属弾性ロール7bを用いる。したがって、第1,第2ロール間に挟み込まれた後の熱可塑性樹脂が、第2ロールに巻き掛けられた状態で第3ロールへ搬送される過程において、表面が冷却されて硬くなっていたとしても、金属ロール6からなる第2ロールと、金属弾性ロール7bからなる第3ロールとの間に挟み込まれることによって面状に均一加圧され、これにより第2,第3ロール間に挟み込んだ後の熱可塑性樹脂を第3ロールに均一に密着させることができ、歪やムラ等の発生が抑制された平滑な押出樹脂板11を得ることができる。」






(2)引用発明
引用文献1の記載アの請求項1に記載されている「第1ロール」、「第2ロール」及び「第3ロール」と押出樹脂板との位置関係の態様を具体的に示す記載オ(図2及び3)を参照すると、上記第1ロールに接した押出樹脂板の面は、上記第3ロールにも接することが看取できる。
また、各ロールを回転させるときの周速度に関しては、記載ウにおいて、「・・・各ロールが所定の周速度で回転するように構成されている。」と記載されている。
そうすると、記載アの請求項1を引用する請求項4の押出樹脂板の製造方法に係る発明に着目し、上記の各ロールと押出樹脂板との位置関係、及び各ロールの周速度の記載を含めて整理して記述すると、引用文献1には次の発明が記載されているといえる(以下、「引用発明1」という。)。

引用発明1
「ダイから押出される溶融熱可塑性樹脂を、第1ロールと第2ロールとの間に挟み込み、前記第2ロールに巻き掛けた状態で、さらに第2ロールと第3ロールとの間に挟み込んで成形・冷却する、熱可塑性樹脂からなる押出樹脂板の製造方法であって、
前記第1ロールおよび第3ロールが、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであり、前記第2ロールが、高剛性の金属ロールであり、
押出樹脂板の厚さが2mm以下であり、
ロールに接する熱可塑性樹脂の両面のうち、第1ロールに接した面が第3ロールに接し、
第1?第3ロールが所定の周速度で回転するように構成されている、押出樹脂板の製造方法。」

2 引用文献2の記載
当審の拒絶理由通知で引用された、本願の原出願の出願前に頒布されたことが明らかな引用文献2には、次のカ?ケの記載がある(下線は合議体による。)。

「(4)メタクリル酸メチル重合体を押出し、成形ロールでバンク成形および表面仕上げをすることによりアクリル樹脂板状体を製造するにあたり、樹脂が最初に密着する成形ロールと最後に密着する成形ロールとの間で負の周速差を設けることを特徴とするアクリル樹脂押出板の製造方法。
(5)第4項記載の製造方法において、周速差が1?15%であることを特徴とする押出方向の内部ひずみが2%以下であるアクリル樹脂押出板の製造方法。」(第1頁、2.特許請求の範囲の請求項(4)及び(5))


「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、この押出板は、その成形手段に起因して押出方向あるいは直角方向に各種の不均一を有することが多く、なかでもロール間で半溶融樹脂が圧延され、さらに引き続くロールに密着しつつ冷却固化されることにより生ずる押出方向の内部ひずみは、巾方向のそれに対してかなり大である。市販アクリル樹脂押出板の内部ひずみは、2mm板の場合巾方向が1%以下であるのに対し、押出方向は5?10%程度と大きく、そのためこの押出板を加熱加工する場合押出方向に大きな収縮が起こるという欠点を有し、以下のような種々の弊害を招く。
a)加熱成形に供する板の寸法は、あらかじめ押出方向の収縮分を見込んだものとしなければならず、また押出方向と巾方向で収縮量に差があるので明確に区別しなければならない。
b)押出方向の内部ひずみが大きいため、収縮率のばらつきも大きく成形品形状にゆがみを生じる。
c)加熱加工時の押出方向の収縮により表面にひずみを生じ美麗な表面性が失われる。
d)平板に印刷後加熱成形する用途に対して成形形状と印刷にズレを生じる。
アクリル樹脂のセルキャスト板や連続キャスト板においても、内部ひずみを生じるが、押出板の押出方向のそれに比べるとその程度は格段に小さく、またどの方向においてもほぼ同一であるので、利用上の大きな障害にならない。
したがって、アクリル樹脂の加工分野においては、上記した押出方向の内部ひずみを残さず加熱加工時に収縮を起さない押出板を得ることが重要な課題となっていた。
(課題を解決するための手段)
本発明者らは、このような現状に鑑み、押出方向の内部ひずみの小さい押出板を得るため鋭意研究を重ねた結果、成形ロール間に周速差をもたせることにより、その目的を達成しうることを見い出し本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、分子量22万以下のメタクリル酸メチル重合体から成り、押出方向の内部ひずみが2.0%以下であることを特徴とするアクリル樹脂押出板およびメタクリル酸メチル重合体を押出し、成形ロールでバンク成形及び表面仕上げをすることによりアクリル樹脂板状体を製造するにあたり、樹脂が最初に密着する成形ロールと最後に密着する成形ロールとの間で負の周速差を設けることを特徴とする新規アクリル樹脂押出板の製造方法を提供するものである。」(第2頁左下欄第3行?第3頁左上欄第12行)


「本発明でいう最初に密着する成形ロール及び最後に密着する成形ロールとは、例えば3本ロールでは第1図に示す4及び5の成形ロールを、また4本ロールでは第2図に示す9及び11の成形ロールをそれぞれいい、樹脂は成形ロールに密着し第1および第2の如く巻きつく。
また、上記成形ロール間で負の周速差を設けるとは、樹脂が最初に密着する成形ロールの周速に対して最後に密着する成形ロールの周速を遅くすることであり、ここで周速差とは、次式により得られる値を言う。

」(第4頁右上欄第16行?左下欄第7行)




」(第6頁右下欄第1図)

3 対比・判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「ダイから押出される溶融熱可塑性樹脂」は、本願発明1の「溶融した熱可塑性樹脂をダイから押出し」に相当する。
引用発明1の「第1ロール」、「第2ロール」及び「第3ロール」は、記載アやエに基づき樹脂を冷却する作用を有すること及び、記載エの図2及び3に基づき把握される互いの位置関係を踏まえると、それぞれ本願発明1の「第1冷却ロール」、「第2冷却ロール」及び「第3冷却ロール」に相当する。
両発明において「ロールに接する熱可塑性樹脂の両面のうち、第1ロールに接した面が第3ロールに接し」という点は共通していることから、引用発明1の「ダイから押出される溶融熱可塑性樹脂を、第1ロールと第2ロールとの間に挟み込み、前記第2ロールに巻き掛けた状態で、さらに第2ロールと第3ロールとの間に挟み込んで成形・冷却する、熱可塑性樹脂からなる押出樹脂板の製造方法」及び「ロールに接する熱可塑性樹脂の両面のうち、第1ロールに接した面が第3ロールに接し」という点は、本願発明1の「溶融した熱可塑性樹脂をダイから押出し、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛けた後、第3冷却ロールに巻き掛け、冷却ロールに接する熱可塑性樹脂の両面のうち、第1冷却ロールに接した面が第3冷却ロールに接することにより冷却して、押出樹脂板を製造する方法」に相当する。
引用発明1の「前記第1ロールおよび第3ロールが、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであり、前記第2ロールが、高剛性の金属ロールであり」は、本願発明1の「前記第1冷却ロールおよび第3冷却ロールが、いずれも外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであり、前記第2冷却ロールが、金属ロールである」に相当する。
引用発明1における「押出樹脂板の厚さ2mm以下」は、本願発明1の「厚さ5mm以下の押出樹脂板」と厚さにおいて重複一致する。
したがって、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致している。

<一致点>
「溶融した熱可塑性樹脂をダイから押出し、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛けた後、第3冷却ロールに巻き掛け、冷却ロールに接する熱可塑性樹脂の両面のうち、第1冷却ロールに接した面が第3冷却ロールに接することにより冷却して、厚さ5mm以下の押出樹脂板を製造する方法であって、
前記第1冷却ロールおよび第3冷却ロールが、いずれも外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであり、前記第2冷却ロールが、金属ロールであるとともに押出樹脂板の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違している。
<相違点>
第2冷却ロールの周速度(V2)と第3冷却ロールの周速度(V3)に関し、本願発明1では「周速度比(V3/V2)が、0.999以下」という関係を有しているのに対して、引用発明1ではV2、V3共に単に「所定の周速度」である点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用文献1の記載イによれば、引用発明1によって得られる効果は、押出樹脂板の製造において、第2ロールの金属ロールと、第1及び第3ロールの弾性ロールとで挟み込むことによって面状に均一加圧することができ、これによって歪やムラ等の発生が抑制された平滑な押出樹脂板を得ることができるというものである。
一般に、平滑な押出樹脂板を製造するにあたり、引用文献1に記載されたような歪みやムラを含む製品の寸法に関わる品質を全体として向上させることによって、最終的により品質の高い製品とすることは、当業者に自明の課題である。
ここで、引用文献2には、押出板の押出方向の内部ひずみが大きいため、アクリル樹脂の加工分野において、押出方向の内部ひずみを残さず加熱加工時に収縮を起こさない押出板を得ることを課題として(記載キ)、樹脂が最初に密着する成形ロールと最後に密着する成形ロールとの間で負の周速差を設けることで、当該課題を解決できることが記載されている(記載カ、キ)。具体的には、3本ロールの場合(記載ケの第1図)には、最後に密着するロール5の周速度をロール4のそれよりも遅くすることが記載されている。また、遅くする程度として、記載カ(請求項5)には、周速差1?15%との記載がある。
かかる引用文献2の記載に基づくと、アクリル樹脂の押出樹脂板の製造方法において、樹脂が最初に密着する成形ロール、すなわち、3本ロールにおいては第2ロールの周速度に対して、最後に密着する成形ロールである第3ロールの周速度を遅くすること、例えばその程度として周速差1?15%とすることによって、内部ひずみを低減し、加熱加工時の収縮率のばらつきによるゆがみの発生を抑えることができるという技術が記載されていると認められる。(以下これを「引用文献2の技術」という)。なお、ここでいう「周速差1?15%」という数値範囲は、引用文献2の記載クの定義式に基づいて本願発明1における周速度比V3/V2に換算すると、「0.99?0.85」となる。
引用文献2の技術について、アクリル樹脂は引用発明1における熱可塑性樹脂の一種であることは技術常識であり、また、加熱加工時の収縮率のばらつきによるゆがみの発生を抑えるということは、平滑な押出樹脂板の寸法に関連する品質を向上させる手段であると解するのが相当である。
よって、押出樹脂板の製品の寸法に関わる品質を全体として向上させることによって、最終的により品質の高い製品とするという当業者にとっての自明の課題に基づき、押出樹脂板の歪等の低減だけでなく、加熱加工時の収縮のばらつきをも低減させるべく、引用発明1において、所定の周速度を設定するときに引用文献2の技術を適用し、第2ロールの周速度(V2)に対して第3ロールの周速度(V3)を遅くし、例えばその周速度比(V3/V2)を0.99?0.85の範囲とすることは当業者が容易に想到する事項である。
したがって、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項については、当業者が容易になし得た事項である。

(3)本願発明1の効果について
本願発明1の効果については、本願明細書の段落【0003】、【0008】及び平成29年12月15日提出の意見書3.の記載からみて、加熱されても反り難い押出樹脂板を提供することであるとされている。
しかし、引用文献1、2と同じ押出樹脂板に関する引用文献3の特に段落【0020】に記載されているように、押出成形品の製造において、残留歪みが増大すると成形品の反りや歪みの発生に影響することは、本願の原出願の出願前において当業者に知られた技術常識である。よって、本願発明1の加熱されても反り難いという効果についてみても、引用文献2の技術によって内部ひずみを低減することで加熱加工時の収縮率のばらつきによるゆがみの発生を抑えることや、残留歪みの増大が成形品の反りや歪みに影響するといった技術常識(引用文献3より)を踏まえると、当業者が予測できる程度のことである。

(4)審判請求書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成28年11月30日提出の審判請求書において、参考資料2なる証拠方法(本間精一、「プラスチックの実用強さと耐久性(11)」、プラスチックス、2003年、55巻8号、第87?97頁)を用いつつ、概略次の点を主張している。
(i)引用文献1には、溶融熱可塑性樹脂を弾性/金属/弾性というロール構成で冷却する場合に、押出樹脂板内に歪が残留するのを抑制すると記載されているが、この方法によって、加熱反りを引き起こす内部応力が蓄積されてしまう問題については記載されていない。
(ii)引用文献2には、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間で負の周速差を設けることで押出樹脂板の押出方向の内部ひずみを小さくすると記載されているが、加熱反りを引き起こす内部応力を緩和する手段については記載されていない。
(iii)してみれば、溶融した熱可塑性樹脂を接触回転する複数のロールに挟み込み、巻き掛けて冷却することで押出樹脂板を製造する方法において、加熱反りを引き起こす内部応力が蓄積されることは、そもそも、解決課題として知られておらず、新規な課題である。新規な課題を発見し、解決した本願発明には困難性が認められる。更に、引用文献2では加熱時における「反り」発生の可能性に言及しているのであるから(引用文献2第3頁左下欄第11?17行)、押出樹脂板の耐加熱反り性の向上を目的として、引用文献2に記載された押出方向の歪を解消する手段を採用することにはむしろ阻害理由がある。
(iv)参考資料2によれば、加熱反りを引き起こす内部応力と押出方向の歪は別異の特性であるから、当業者であれば、引用文献1に記載された押出樹脂板の内部応力の緩和(耐加熱反り性の向上)を目的として、引用文献2に記載された押出方向の歪を解消する手段を採用することはない。

上記の主張(i)ないし(iii)について検討する。
引用文献1は、押出樹脂板の歪みやムラ等の発生を抑制することを目的とする文献である。一方、引用文献2は、押出樹脂板の内部ひずみを小さくすることを目的とする文献であり、引用文献2でいうところの「内部ひずみ」とは、加熱したときの樹脂の収縮率のバラツキ、すなわち押出方向と巾方向の収縮の異方性に関係するものであると認められる。
押出樹脂板を製造するにあたり、その寸法に関わる品質を全体的に向上させることによって、最終的により品質の高い製品としようとすることは、当業者に自明の課題であるから、そのような課題に基づけば、歪みやムラの低減のみならず、加熱時の収縮のバラツキすなわち異方性をも低減させた方がより好ましいことは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明1において、引用文献2の技術、すなわち第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間で負の周速差を設けることは当業者にとって容易想到であり、その効果についても上記(3)で説示したとおり当業者が予測できる程度のことである。
また、引用文献2の第3頁左下欄第15行及び第4図には、押出板の試験片に反りを生じる場合があることが記載されているが、あくまで反りが生じる場合があるという可能性を指摘しているにすぎないこと、内部ひずみを低減することができる引用文献2の技術は、少なくとも押出樹脂板の製品の寸法に関わる品質の向上に寄与することが明らかであること、及び、本願明細書の表1を参照すると、実施例1でもある程度の反りが生じており、本願発明1は反りを完全に無くすことを実現したわけではないこと等を考慮すると、引用発明1に対して引用文献2の技術を適用することに阻害要因があるとは認められない。
よって、請求人の主張(i)ないし(iii)については理由がない。

上記の主張(iv)について検討する。
参考資料2には、確かに、「残留ひずみ」は成形過程での射出・保圧工程における分子配向によって発生する「配向ひずみ」と、固化する段階で生じる分子の弾性的変形である「凍結ひずみ」による2つに分けられるとの記載がある。また、表1等により、配向ひずみは、光学異方性や複屈折の発生及び加熱収縮率の異方性に影響すること、並びに、凍結ひずみは、後寸法変化やそりに影響することが記載されている。
しかしながら、引用文献2の技術が、当該参考資料2でいうところの「配向ひずみ」にのみ影響するものとは必ずしもいえない。すなわち、引用文献2の技術は、射出・成形後の冷却ロールの運転方法に関連する技術であるから、これが影響するひずみの種類を敢えて検討するならば、参考資料2の表1における射出・保圧工程における分子配向によって発生する「配向ひずみ」というより、むしろ固化する段階で生じる分子の弾性的変形である「凍結ひずみ」に対する影響の方が大きいとみるのが相当である。このことは、参考資料2の表1において、「凍結ひずみ」は、後寸法変化やそりに関連するものと示されている点とも符合する。よって、引用文献2の技術は、参考資料2でいうところの「凍結ひずみ」を改善する、或いは少なくとも「凍結ひずみ」を含むひずみを改善するものということができる。
なお、引用文献2の第3頁右上欄第13行?右下欄第7行には、内部ひずみを評価する方法として、樹脂押出板の試料片を160℃という高い温度で処理したことが記載されているが、試験結果としては、収縮や反りといった試験片の外見上の変化が観察されるにすぎないのであって、それが「配向ひずみ」であるとか「凍結ひずみ」であるといった、ひずみのメカニズムの種類ごとに区別できるものではない。そして、当該試験において、樹脂板が加熱によって軟化している以上、「配向ひずみ」だけでなく「凍結ひずみ」の影響も出現するとみるのが自然である。
よって、引用文献2によって示された実験結果が「配向ひずみ」のみの影響によるものと判断して、引用文献2の技術を引用発明1には適用できないとした請求人の主張には理由がない。

(5)意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成29年12月15日提出の意見書において、概略次の点を主張している。
(v)(効果の相違)引用文献2には、樹脂押出板の加熱反りという欠点について記載されておらず、その解決も示されていない。引用文献2の技術を使用しても樹脂押出板の加熱反りが解消されないことは、第3頁左下欄第15行に、内部ひずみを測定するために樹脂押出板を加熱する際に、反りを生じる場合があると記載されていることから理解される。
(vi)(効果の相違)引用文献3は、押出成形品の製造において、残留歪みが増大した場合に、成形品として反った押出シートになる可能性を述べているに過ぎない。本願明細書の比較例1と比較例2の結果によれば、室温の反り量と加熱反り量との関係が逆相関しているため、室温での製品の押出シートに存在する反りと加熱反りとは必ずしも相関しない。よって、引用文献3の記載は、特定環境下で加熱された場合、成形後の押出樹脂板に加熱反りが発生する問題については記載も示唆もない。
(vii)(構成の相違)引用文献2及び3の成形方法では、熱可塑性樹脂の両面に剛直な金属ロールで圧力を加えているのに対し、本願発明1では、熱可塑性樹脂の両面のうち、一方の面だけが2つの金属弾性ロール(第1および第3冷却ロール)に接触するものであるから、熱可塑性樹脂に加わる圧力は、全てが剛直な金属ロールである場合とは異なったものとなる。よって、引用文献2及び3の成形方法によって、残留歪みによる反り等の低減効果が認められるからといって、本願発明1の成形方法においても、同様の効果が得られると当業者が理解することはなく、押出樹脂板の加熱反りを解消することを目的として、金属弾性ロールを用いる引用文献1の発明と、金属弾性ロールに関する記載の無い引用文献2および引用文献3の発明とを組み合わせる動機は存在しない。

上記の主張(v)及び(vi)について検討する。
引用文献2はあくまで反りが生じる場合があるという可能性を指摘しているにすぎないこと、及び本願発明1は反りを完全に無くすことを実現したわけでもないことは、上記(4)でも説示したとおりである。
また、引用文献3には、押出樹脂板においてロールの圧力によって生じる「残留歪み」が増大すると、「反りや歪み」を生じる可能性がある旨が記載されているのであって、室温という点については記載されていないのであるから、室温での反りと審判請求人のいう特定環境下での加熱による反りとを区別する根拠にはならない。また、本願明細書の比較例1及び2については、これらの例のみで「逆相関」があるとは通常解されず、せいぜい成形初期の反り量が加熱処理によって増加することが理解できる程度にとどまるものである。
したがって、審判請求人は、本願発明1の効果について、電子部品として使用した場合に曝される温度における反り、すなわち「加熱反り」についての効果をことさらに主張するけれども、ここでいう「加熱反り」と、例えば引用文献3に記載された「反り」がメカニズムとして別異のものであると解すべき根拠は見出せない。
よって、請求人の主張(v)及び(vi)には理由がない。

上記の主張(vii)について検討する。
引用文献2の技術において使用される成形ロールが剛直な金属ロールに限定されるわけではないことは明らかであり、また、引用文献2の技術が弾性ロールを使用したときには機能しないと解すべき根拠も無い。
そして、審判請求人がいうところの「加熱反り」を解消するという目的の有無にかかわらず、押出樹脂板の寸法に関わる品質を全体的に向上するという自明の課題に基づき、引用発明1に対して、引用文献2の技術を適用することには動機付けがあるといえることは、上記(2)で説示したとおりである。
よって、請求人の主張(vii)については理由がない。

4 小括
以上のことから、本願発明1は引用発明1及び引用文献1ないし3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第5 むすび

以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-02 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-21 
出願番号 特願2015-51339(P2015-51339)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小柳 健悟
佐久 敬
発明の名称 押出樹脂板の製造方法  
代理人 福政 充睦  
代理人 山尾 憲人  
代理人 福政 充睦  
代理人 松谷 道子  
代理人 鮫島 睦  
代理人 山尾 憲人  
代理人 松谷 道子  
代理人 西下 正石  
代理人 西下 正石  
代理人 鮫島 睦  

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