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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特29条の2  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1339187
異議申立番号 異議2017-701122  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-28 
確定日 2018-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6137390号発明「化学強化用ガラス及び化学強化ガラス並びに化学強化ガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6137390号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6137390号は、平成27年3月25日(優先権主張 平成26年3月28日 日本国)を国際出願日とする特願2015-550855号の一部を平成28年6月20日に新たな出願とした特願2016-121657号の特許請求の範囲に記載された請求項1?10に係る発明について、平成29年5月12日に設定登録、同年5月31日に特許公報の発行がされたものであり、その後、同年11月28日付けの特許異議の申立てが特許異議申立人「松村朋子」(以下、「申立人」という。)によりされたものである。

第2.本件発明の認定

本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、「本件発明1?10」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
酸化物基準の質量百分率表示で
SiO_(2)を65.6?70%、
Al_(2)O_(3)を4.4?7%、
MgOを7?10.9%、
CaOを0.1?5%、
Na_(2)Oを15?19%、
K_(2)Oを0?3%含有し、
ROが7%以上11%以下(ROはアルカリ土類金属酸化物、すなわち、MgO、CaO、SrO、BaOの和を示す。)、および、RO/(RO+R_(2)O)が0.20以上、0.42以下(R_(2)Oはアルカリ金属酸化物の和を示す。)であり、
粘度が10^(2)dPa・sとなる温度(T2)が1550℃以下である化学強化用ガラス。
【請求項2】
RO/(RO+R_(2)O)が0.40以下である請求項1に記載の化学強化用ガラス。
【請求項3】
Al_(2)O_(3)を5%以上含有する請求項1または2に記載の化学強化用ガラス。
【請求項4】
MgOを10%以下含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス。
【請求項5】
B_(2)O_(3)を0?4%、Fe_(2)O_(3)を0?1%、TiO_(2)を0?1%を含有する請求項1?4のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス。
【請求項6】
フロートガラスである、請求項1?5のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスが化学強化された、化学強化ガラス。
【請求項8】
表面圧縮応力が300MPa以上である請求項7に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
圧縮応力深さが10μm以上である請求項7又は8に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
請求項1?6のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスをイオン交換処理する化学強化工程を含む化学強化ガラスの製造方法。

第3.申立理由の概要

申立人は、証拠として次の甲第1?7号証(以下、「甲1?7」という。)を提出し、甲1,2を証拠として、請求項1?2,4?10に係る特許は、特許法第29条第1項並びに第2項、あるいは、同法第29条の2の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」という。)と主張し、また、甲3?7を証拠として、請求項1?10に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)と主張している。

甲1:国際公開第2014/148020号
甲2:特願2014-70098号の出願当初書類
甲3:国際公開2012/057232号
甲4:特開2013-170087号公報
甲5:特開2013-48222号公報
甲6:特開2013-139381号公報
甲7:特開2013-247238号公報

第4.申立理由1について

(1)まず、申立人は、甲2として提出した本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲には、本件特許の請求項1に記載されたMgOの含有率の上限「10.9%」が開示されていないから、本件発明1?10には、優先権主張の効果が認められず、甲1が公知文献になると主張しているので検討する。

(2)甲2の【0021】には、
「・・・MgOの含有量は、12%以下であり、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下である。・・・一方、MgOの含有量が12%以下であると、失透の起こりにくさが維持され、充分なイオン交換速度が得られる。」と記載されている。
してみると、この記載から、MgOの含有量の上限が12%から9%の範囲にあることは当業者に自明なことと認められ、MgOの含有量の上限を10.9%とすることは、甲2に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものといえる。
してみると、MgOの含有量の上限を「10%」とする本件発明4はもちろん、「10.9%」とする本件発明1及びこれを引用する本件発明2,3,5?10も、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明といえる。
したがって、本件発明1?10には優先権主張の効果が認められるから、申立理由1のうち、甲1が公知文献であることを前提とする新規性進歩性要件違反の主張は採用できない。

(3)次に、申立人は、優先権主張の効果が認められるとしても、本件発明1?2,4?10は、先願公開公報である甲1の実施例3に記載された発明と同一であると主張しているので検討する。

(4)甲1の表1には、化学強化用ガラス組成物の実施例3として、「モル%で、SiO_(2)を67.5%、Al_(2)O_(3)を2.5%、MgOを13.5%、CaOを1.5%、Na_(2)Oを14.4%、K_(2)Oを0.6%含有し、粘度が10^(2)dPa・sとなる温度(T2)が1513℃である化学強化用ガラス組成物。」が記載されている。
してみると、上記ガラス組成を質量%に換算すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「酸化物基準の質量百分率表示で
SiO_(2)を68.88%、
Al_(2)O_(3)を4.33%、
MgOを9.24%、
CaOを1.43%、
Na_(2)Oを15.16%、
K_(2)Oを0.96%含有し、
ROが10.67%、および、RO/(RO+R_(2)O)が0.40であり、
粘度が10^(2)dPa・sとなる温度(T2)が1513℃以下である化学強化用ガラス組成物。」

(5)本件発明1と甲1発明とを対比すると、Al_(2)O_(3)を、本件発明1が4.4?7%含有するのに対し、甲1発明が4.33%しか含有していない点で相違するが、申立人は、フロート法において量産時に許容せざるを得ない成分の含有率の変動等を考慮すると、甲1発明の4.33%は4.4%以上も意味するから、実質的な差異ではないと主張している。
しかしながら、甲1発明は、実施例において所定の組成となるように原料を調合して作成した試料ガラスであって、フロート法により量産されたガラスではないから、量産による含有率の変動を考慮すべきものとはいえない。また、仮に、甲1発明をフロート法を用いて量産することを考慮するとしても、量産時の含有率の変動に関する証拠もなしに、Al_(2)O_(3)が4.4%以上となることを当業者に自明なこととはいえない。
してみると、上記相違点は実質的な差異であって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2,4?10は、甲1に記載された発明と同一ではない。
したがって、申立理由1のうち、甲1が先願公開公報であることを前提とする拡大先願発明同一の主張も採用できない。
よって、申立理由1には理由がない。

第5.申立理由2について

(1)申立人は、本件発明1?10は、甲3に実施例の例3として記載された太陽電池用ガラスのMgO含有量を僅かに低下させ、甲4?7に記載された周知の化学強化を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。

(2)そこで検討するに、本件特許の請求項1に記載されたガラス組成により、従来のソーダライムシリケートガラスよりも化学強化時に強化が入りやすく圧縮応力深さ(DOL値)が向上し、また、失透特性が良好であり、かつ従来のソーダライムシリケートガラス並みの粘性で生産性に優れた化学強化ガラスが提供できるという本件明細書の【0014】【0068】等に記載された作用効果について、甲3?7には記載も示唆もない。
すなわち、本件発明1?10は、甲3?7の記載からは予測し得ない作用効果を奏するものであって、単に、甲3に記載の一実施例のガラスに甲4?7に記載の化学強化を適用することにより得られたものとはいえない。
したがって、本件発明1?10は、甲3?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由2には理由がない。

第6.むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-13 
出願番号 特願2016-121657(P2016-121657)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
P 1 651・ 113- Y (C03C)
P 1 651・ 16- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 宮澤 尚之
大橋 賢一
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6137390号(P6137390)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 化学強化用ガラス及び化学強化ガラス並びに化学強化ガラスの製造方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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