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審決分類 審判 一部申し立て 特29条の2  E21D
審判 一部申し立て 2項進歩性  E21D
管理番号 1339214
異議申立番号 異議2018-700070  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-26 
確定日 2018-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6171052号発明「地中拡幅部の施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6171052号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6171052号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年11月5日(優先権主張 平成26年11月5日)に出願された特願2015-217296号の一部を、平成28年6月1日に新たな特許出願としたものであって、平成29年7月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成30年1月26日付けで特許異議申立人中川 賢治(以下「申立人」という。)により請求項1ないし3に対して特許異議の申立てがされたものである(特許異議申立書について、以下「申立書」という。)。


第2 本件特許発明
特許第6171052号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。


第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、以下の理由1、2により、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。

1 特許法第29条の2(以下「申立理由1」という。)
本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開された甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定に違反する。

2 特許法第29条第2項(以下「申立理由2」という。)
(1) 本件特許発明1は、当業者が、甲第6号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証ないし甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証)に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。
(2) 本件特許発明2は、当業者が、甲第6号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証ないし甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第9号証)に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。
(3) 本件特許発明3は、当業者が、甲第6号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証ないし甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証)に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。

甲第1号証:特開2015-105513号公報(特願2013-247745号)
甲第2号証:特開2014-43738号公報
甲第3号証:特開2006-112065号公報
甲第4号証:特開2010-84395号公報
甲第5号証:特開2008-274705号公報
甲第6号証:特開2008-88732号公報
甲第7号証:特開平7-229387号公報
甲第8号証:特開2013-217147号公報
甲第9号証:特開2009-144425号公報


第4 各甲号証の記載事項
1 甲第1号証
甲第1号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の発明(以下「甲1先願発明」という。)が記載されていると認められる(申立書44頁下から8行から45頁9行)。
「大断面トンネルの施工方法であって、
シールド掘進機を発進させ、切削可能なセグメントが配置された先行トンネルを間隔を空けて環状に複数構築する先行トンネルの構築工程と、
シールド掘進機を発進させ、前記先行トンネルの一部を切削しながら、後行トンネルを環状に複数構築する後行トンネルの構築工程と、
前記先行トンネル、及び前記後行トンネルの構築後、前記先行トンネルと前記後行トンネルとが交互に配置されることで形成される環状の外殻シールドトンネルの外周に止水領域を構築する止水工程と、
前記止水領域の構築後、前記先行トンネルと当該先行トンネルに隣接する前記後行トンネルとを連通し、前記先行トンネルと前記後行トンネルの内部に鉄筋とコンクリートとを有する外殻覆工壁を構築し、前記大断面トンネルの外殻を形成する前記外殻シールドトンネルを構築する外殻シールドトンネルの構築工程と、
前記外殻シールドトンネルの構築後、前記外殻シールドトンネルの内側を掘削する掘削工程と、
を備える、大断面トンネルの施工方法。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書48頁6から7行及び10から11行)。
「発進基地を構築する際に、内部に有するトンネル(「シールドトンネル」)の周壁の一部(「セグメント」)を撤去してその外周に発進基地を形成すること。」及び「トンネルの外周に形成する発進基地の形状につき、円周状に構築すること。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書48頁6から7行)。
「発進基地を構築する際に、内部に有するトンネル(「シールドトンネル」)の周壁の一部(「セグメント」)を撤去してその外周に発進基地を形成すること。」

4 甲第4号証
甲第4号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書48頁10から11行)。
「トンネルの外周に形成する発進基地の形状につき、円周状に構築すること。」

5 甲第5号証
甲第5号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書51頁17から20行)。
「ルーフシールドトンネル6(「先行シールド」又は「後行シールド」に相当)の両端部、すなわち、発進基地側、及び、発進基地の反対側の棲部に、凍結ゾーンを設けること。」

6 甲第6号証
(1) 甲第6号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる(申立書58頁2から20行)。
「大断面トンネル3の施工方法であって、
ECL工法によって切削可能な先行トンネル4Aを間隔を空けて環状に複数構築する先行トンネル4Aの構築工程と、
シールド工法によって、前記先行トンネル4Aの一部を切削しながら、後行トンネル4Bを環状に複数構築する後行トンネル4Bの構築工程と、
前記先行トンネル4A、及び前記後行トンネル4Bの構築後、前記先行トンネル4Aと前記後行トンネル4Bとが交互に配置されることで形成される環状の覆工体5の外周に地盤改良部を構築する地盤改良工程と、
前記地盤改良部の構築後、前記先行トンネル4Aと当該先行トンネル4Aに隣接する前記後行トンネル4Bとを連通し、前記先行トンネル4Aと前記後行トンネル4Bの内部に鉄筋とコンクリートとを有する構造物を構築し、本線トンネル1の外側に前記大断面トンネル3の輪郭を形成する前記覆工体5を構築する覆工体5の構築工程と、
前記覆工体5の構築後、前記覆工体5の内側を掘削する掘削工程と、
を備える、大断面トンネル3の施工方法。」

(2) また、甲第6号証には、次の事項が記載されている(本決定で下線を付加した。)。
ア 「【0009】・・・現場打ちライニング工法(ECL工法)によるコンクリート覆工を有する先行トンネル4Aと、シールド工法によるスチールセグメント覆工を有する後行トンネル4Bと・・・。」

イ 「【0015】以上の工程により、施工するべき大断面トンネル3の覆工体5が先行施工されたので、その覆工体4の内側の地盤を掘削して本線トンネル1とランプトンネル2を施工し、大断面トンネル3を完成させる。」

ウ 「【0022】・・・先行トンネル4AをECL工法ではなくシールド工法により施工してその覆工をコンクリートセグメントやスチールセグメントにより施工することは、後行トンネル4B施工の際に覆工を切除することが困難ないし不可能であるので採用できず、先行トンネル4AはECL工法に限ることは当然である。」

7 甲第7号証
甲第7号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書64頁14から21行。なお、左記の記載箇所には「甲第6号証には・・・開示されている。」との記載があるが、これは甲第「7」号証の誤記と認められる。)。
「先行トンネルを構築後に、先行トンネル内に充填材(埋め戻し材)を充填すること。」

8 甲第8号証
第8号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書60頁下から3から2行)。
「ECL工法であっても、シールド機を発進させる工法であること。」

9 甲第9号証
第9号証には、申立人の主張を踏まえると、以下の技術事項が記載されていると認められる(申立書60頁下から3から2行)。
「ECL工法であっても、シールド機を発進させる工法であること。」


第5 当審の判断
1 申立理由1(特許法第29条の2)について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比・判断
本件特許発明1と、甲1先願発明を対比すると、以下の相違点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は地中拡幅部の施工方法であり、シールドトンネルのセグメントを取り外し、地中拡幅部を構築するためのシールド機の発進基地を、当該シールドトンネル回りに円周状に構築する発進基地の構築工程を有し、外殻シールドは前記シールドトンネルの外側に地中拡幅部の外殻を形成するものであるのに対し、
甲1先願発明はそのような特定がなされていない点。

したがって、本件特許発明1は、甲1先願発明と同一ではない。

イ 申立人の主張について
申立人は、本件特許発明1と甲1先願発明との相違点は微差に過ぎない旨を主張している(申立書47ないし50頁「(2) 相違点について」)。
しかしながら、本件特許発明1は地中拡幅部の施工方法に関する発明であるところ、甲第1号証には、シールドトンネルの外側に地中拡幅部の外殻を形成することについては、何ら記載も示唆もされていないから、上記相違点1のとおり、本件特許発明1と甲1先願発明とはそもそも地中拡幅部の施工なのかどうかという基本的な施工内容から相違しており、微差といえるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(2) 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、それぞれ、本件特許発明1の構成をすべて含み、更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲1先願発明と同一ではない。

(3) まとめ
したがって、本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではなく、申立理由1により特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(特許法第29条第2項)について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、甲6発明を対比すると、以下の相違点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明1は、先行シールドは切削可能なセグメントが配置されたものであり、後行シールドはそのセグメントが配置された先行シールドの一部を切削するものであるのに対し、
甲6発明は、先行トンネル4AはECL工法により構築されたものであり、後行トンネル4BはECL工法によって構築された先行トンネル4Aの一部を切削するものである点。

<相違点3>
本件特許発明1は、シールドトンネルのセグメントを取り外し、地中拡幅部を構築するためのシールド機の発進基地を、当該シールドトンネル回りに円周状に構築し、当該発進基地から先行シールド機、後行シールド機を発進させるものであるのに対し、
甲6発明はそのような特定がなされていない点。

イ 判断
(ア) 相違点2について
甲6号証記載の施工方法は、上記第4の6(2)ア、ウに摘記したように、「先行トンネル4AをECL工法ではなくシールド工法により施工してその覆工をコンクリートセグメントやスチールセグメントにより施工することは、後行トンネル4B施工の際に覆工を切除することが困難ないし不可能であるので採用できず、先行トンネル4AはECL工法に限ることは当然である。」として「現場打ちライニング工法(ECL工法)によるコンクリート覆工を有する先行トンネル4A」とされているものであるから、その先行トンネル4Aに、現場打ちライニング工法によるコンクリート覆工(ECL工法)に代えてセグメントによる覆工を採用し、相違点2に係る本件特許発明1の構成とする動機付けがない。
加えて、甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証をみても、切削可能なセグメントが配置された先行シールドを構築し、後行シールドがそのセグメントが配置された先行シールドの一部を切削する構成の記載はなく、また当該構成が周知技術であるという証拠もない。
よって、相違点2に係る本件特許発明1の構成は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。

(イ) 相違点3について
甲6号証記載の施工方法では、上記第4の6(2)イに摘記したように、大断面トンネル3の覆工体5をまず先行施工し、そしてその覆工体4の内側の地盤を掘削して本線トンネル1とランプトンネル2を施工し完成させるものであって、その逆の、本線トンネル1とランプトンネル2から地中拡幅部を構築することは例示もないから、相違点3に係る本件特許発明1の構成とする動機付けがない。
そして甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証をみても、甲6号証記載の施工方法を相違点3に係る本件特許発明1の構成とする動機付けとなるような記載はない。
よって、相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、セグメントについて、ECL工法において構築されるトンネルが複数のセグメントから構成されることは当然であると主張している(申立書61頁「イ 相違点5について」)。
しかしながら、上記イで検討したとおり、甲第6号証では、「先行トンネル4AをECL工法ではなくシールド工法により施工してその覆工をコンクリートセグメントやスチールセグメントにより施工することは、後行トンネル4B施工の際に覆工を切除することが困難ないし不可能であるので採用できず、先行トンネル4AはECL工法に限ることは当然である。」として「現場打ちライニング工法(ECL工法)によるコンクリート覆工を有する先行トンネル4A」とされているものであるから、複数のセグメントから構成されることが当然であるという申立人の主張は採用できない。

エ 小括
以上より、本件特許発明1は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、それぞれ、本件特許発明1の構成をすべて含み、更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲第6号証に記載された発明並びに甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) まとめ
したがって、本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由2により特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-30 
出願番号 特願2016-109914(P2016-109914)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (E21D)
P 1 652・ 16- Y (E21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 桐山 愛世大熊 靖夫  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 前川 慎喜
井上 博之
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6171052号(P6171052)
権利者 前田建設工業株式会社
発明の名称 地中拡幅部の施工方法  
代理人 川口 嘉之  
代理人 平川 明  

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