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審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01M
審判 全部無効 2項進歩性  H01M
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01M
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01M
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1339371
審判番号 無効2015-800088  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2018-03-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5603515号発明「空気極材料及び固体酸化物型燃料電池」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5603515号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕、〔3?4〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5603515号(請求項の数[4]、以下、「本件特許」という。)は、平成26年 4月 2日(優先権主張 平成25年 8月23日)に出願された特願2014- 76282号に係るものであって、その特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明について、平成26年 8月29日に特許権の設定登録がなされた。

これに対して、本件無効審判請求人 河野洋子(以下「請求人」という。)は、平成27年 3月30日に、上記請求項1?4に係る発明の特許について、本件無効審判〔無効2015-800088号〕を請求した。

その後の手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成27年 6月17日付け 審判事件答弁書(被請求人)
同年 9月14日付け 審理事項通知書
同年10月13日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年11月10日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年11月24日付け 審尋(被請求人に対して)
通知書(請求人に対して)
同年12月 1日受付 回答書(被請求人)
上申書(被請求人)
同年12月 1日 第1回口頭審理
同年12月 9日付け 無効理由通知書(被請求人に対して)
職権審理結果通知(請求人に対して)
同年12月24日付け 上申書(請求人)
平成28年 1月13日付け 訂正請求書(被請求人)
意見書(被請求人)
回答書(被請求人)
同年 2月25日付け 審判事件弁駁書(請求人)
同年 3月28日付け 訂正拒絶理由通知書(被請求人に対して)
同年 5月20日付け 補正許否の決定
通知書(請求人に対して)
同年 6月 2日付け 審決の予告
同年 8月 3日付け 訂正請求書(被請求人)
同年 9月15日付け 審判事件弁駁書(請求人)


第2 平成28年 8月 3日付けの訂正請求の適否
平成28年 8月 3日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

なお、平成28年 1月13日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げたものとみなされる。


1. 訂正請求の趣旨
本件特許の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?2、3?4について訂正することを求める。


2. 訂正の内容
(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?2からなる一群の請求項
に係る訂正
(1-1) 訂正事項1-A
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?2(以下、「訂正前の請求項1?2」ということもある。)に「空気極材料」とあるのを、
「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」に訂正する。

(1-2) 訂正事項1-B
本件特許の明細書の段落【0028】(以下、「訂正前の段落【0028】」ということもある。)に「同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差」とあるのを、
「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差」に訂正する。

(1-3) 訂正事項1-C
本件特許の明細書の段落【0060】(以下、「訂正前の段落【0060】」ということもある。)に「次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。この際、空気極の焼成条件(焼成時間及び焼成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した。」とあるのを、
「次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。」に訂正する。

(2) 本件特許の特許請求の範囲の請求項3?4からなる一群の請求項
に係る訂正
(2-1) 訂正事項2-A
訂正前の段落【0028】に「同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差」とあるのを、
「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差」に訂正するという訂正事項であり、訂正事項1-Bと同じ訂正事項である。

(2-2) 訂正事項2-B
本件特許の明細書の段落【0034】(以下、「訂正前の段落【0034】」という。)に「後述するように、空気極50における同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差は、空気極50の焼成条件を調整することによって制御することができる。」とあるのを、
「後述するように、空気極50における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、空気極50の成形体の粉体充填密度を調整することによって制御することができる。」に訂正する。

(2-3) 訂正事項2-C
訂正前の段落【0060】に「次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。この際、空気極の焼成条件(焼成時間及び焼成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した。」とあるのを、
「次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。」に訂正するという訂正事項であり、訂正事項1-Cと同じ訂正事項である。


3. 訂正請求の適否についての当審の判断
(1)一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであることについて
本件訂正の請求の趣旨、及び、請求の理由によれば、本件訂正の請求では、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?2(以下、単に、「請求項1?2」という。)からなる一群の請求項に係る訂正と本件特許の特許請求の範囲の請求項3?4(以下、単に、「請求項3?4」という。)からなる一群の請求項に係る訂正とが請求されているが、本件無効審判は、上記第1に示したとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4を対象としているところ、当該請求項1?4には、請求項1?2からなる一群の請求項と請求項3?4からなる一群の請求項とがあるため、請求項1?2からなる一群の請求項に係る訂正と請求項3?4からなる一群の請求項に係る訂正とを請求することは、特許法第134条の2第2?3項の規定に適合するし、同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(2)請求項1?2からなる一群の請求項に係る訂正
ア. 訂正の目的
(ア-1) 訂正事項1-A
訂正事項1-Aは、特許請求の範囲についてする訂正であって、訂正前の請求項1?2に記載の「空気極材料」を、「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(ア-2) 訂正事項1-B
訂正事項1-Bは、訂正前の段落【0028】の「後述するように、空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差は、原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。」との記載が、本件特許の明細書の段落【0039】?【0040】の記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落【0028】の記載を、訂正明細書の段落【0028】の「後述するように、空気極材料における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落【0028】の記載と段落【0039】?【0040】の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(ア-3) 訂正事項1-C
訂正前の段落【0060】の記載は、当該段落に記載される、「空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した」ことと、「空気極の焼成条件(焼成時間及び焼成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した」こととが、両立し得ることではないため、明瞭でない記載となっているところ、訂正事項1-Cは、訂正前の段落【0060】を、訂正明細書の段落【0060】の「次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落【0060】の記載の明瞭化を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ. 新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の
存否
訂正事項1-A?1-Cが実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、訂正事項1-A?1-Cについての訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ. 独立特許要件
本件無効審判は、上記第1に示したとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4を対象としているので、訂正事項1-A?1-Cには、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

エ. 小括
上記ア.?ウ.で検討したとおり、本件訂正の請求のうちの請求項1?2からなる一群の請求項に係る訂正の請求は、特許法第134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とするものであるし、同法同条第2?3項の規定に適合するし、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第4?6項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。


(3) 請求項3?4からなる一群の請求項に係る訂正
カ. 訂正の目的
(カ-1) 訂正事項2-A
訂正事項2-Aは、上記2.(2-1)に示したとおり、訂正事項1-Bと同じ訂正事項であり、上記(2)ア.(ア-2)での検討と同様にして、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(カ-2) 訂正事項2-B
訂正事項2-Bは、訂正前の段落【0034】の「後述するように、空気極50における同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差は、空気極50の焼成条件を調整することによって制御することができる。」との記載が、本件特許の明細書の段落【0048】の記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落【0034】を、訂正明細書の段落【0034】の「後述するように、空気極50における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、空気極50の成形体の粉体充填密度を調整することによって制御することができる。」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落【0034】の記載と段落【0048】の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(カ-3) 訂正事項2-C
訂正事項2-Cは、上記2.(2-3)に示したとおり、訂正事項1-Cと同じ訂正事項であり、上記(2)ア.(ア-3)での検討と同様にして、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

キ. 新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の
存否
訂正事項2-A?2-Cが実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、訂正事項2-A?2-Cについての訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

ク. 独立特許要件
本件無効審判は、上記第1に示したとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4を対象としているので、訂正事項2-A?2-Cには、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

ケ. 小括
上記カ.?ク.で検討したとおり、本件訂正の請求のうちの請求項3?4からなる一群の請求項に係る訂正の請求は、特許法第134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とするものであるし、同法同条第2?3項の規定に適合するし、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第4?6項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。


(4) 補足
サ. 請求人の主張
平成28年 1月13日付けの訂正請求書による訂正の請求にも含まれていた、訂正事項1-B、訂正事項2-Aについて、請求人は、平成28年 2月25日付けの審判事件弁駁書の第2頁第5行?第3頁末行において、本件特許の審査段階で行われた、平成26年 5月16日付け拒絶理由通知に対する応答手続としての、同年 7月17日付けの意見書(甲第4号証)の「2.拒絶理由3について」での、「空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径は、空気極材料の製造時における原料粉末の粉砕条件によって変化しますが(本願の【0028】【0040】段落)、空気極材料自体の粉砕条件によっては変化しません。」との被請求人の主張によると、つまり、審査段階での被請求人の、本件特許の明細書の段落【0028】を根拠とした、「空気極材料の製造時の原料粉末の粉砕条件が平均円相当径の制御因子である」との主張によると、訂正事項1-B、訂正事項2-Aは、本件特許の明細書の段落【0028】から、本来の意である、「粉砕条件が平均円相当径の制御因子である」ことを削除して、本来の意を表すものでないようにする事項であるし、審査段階での被請求人の主張と矛盾する事項であり、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものではないため、訂正要件を満たしていない旨主張している。

シ. 当審の見解
請求人の上記サ.の主張について検討すると、本件特許の明細書の段落【0028】の本来の意は、明細書全体の記載から把握すべきことであって、審査段階での主張のみから把握されることではないところ、訂正事項1-B、訂正事項2-Aは、上記(ア-2)、(カ-1)で検討したとおり、訂正前の段落【0028】の記載が、本件特許の明細書の段落【0039】?【0040】の記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正明細書において、段落【0028】の記載と段落【0039】?【0040】の記載との整合を図るものであるから、明細書全体の記載から把握される、本来の意を削除するものであるとはいえず、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、本件特許の審査段階での被請求人の主張は、平成26年 7月17日付けの意見書(甲第4号証)の「2.拒絶理由3について」の記載のとおり、本件特許の明細書の段落【0028】、【0040】の記載に基づく、「空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径は、空気極材料自体の粉砕条件によっては変化しない」との主張であるのに対し、訂正事項1-B、訂正事項2-Aは、上記(ア-2)、(カ-1)で検討したとおり、訂正明細書において、段落【0028】の記載と段落【0039】?【0040】の記載との整合を図るものであるから、本件特許の審査段階での被請求人の主張と矛盾するものともいえない。
よって、請求人の上記サ.の主張は妥当な主張とはいえない。


第3 本件訂正後発明
上記第2のとおり本件訂正を認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、本件訂正の請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものであるし、また、本件特許の明細書は、訂正後の明細書である、訂正明細書のとおりのものである。

「【請求項1】
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、
電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である、
固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項2】
前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である、
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項3】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下である、
固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値は、3.3以下である、
請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池。」

以下、本件訂正後の請求項1?4に係る発明については、それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明4」ということがある。また、請求項1?4に係る発明を、まとめて、「本件発明」ということがあり、訂正前の請求項1?2に係る発明について、「訂正前の本件発明1?2」ということがある。


第4 当事者の主張及び証拠方法
1.請求人の主張の概要
請求人は、特許5603515号の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成27年10月13日付け口頭審理陳述要領書、同年12月 1日の第1回口頭審理(第1回口頭審理調書)、同年同月24日付け上申書、平成28年 2月25日付け審判事件弁駁書、平成28年 9月15日付け審判事件弁駁書において、証拠方法として甲第1?4号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

無効理由1:訂正明細書には、本件発明の製造方法が具体的には記載されていないことから、訂正明細書の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件発明の特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

無効理由2:本件訂正発明1?2は、平均円相当径の範囲が規定された空気極材料の発明であるが、訂正明細書には、空気極を製造する際の焼成温度および焼成時間が特定の空気極材料について記載がされているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明1?2の範囲まで、訂正明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件訂正発明1?2は、訂正明細書に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件訂正発明1?2の特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

無効理由3:本件訂正発明3?4は、平均円相当径が数値を用いて規定された空気極を備えた発明であるが、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明3?4の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例や説明が記載されていないため、本件訂正発明3?4の範囲まで、訂正明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件訂正発明3?4は、訂正明細書に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件発明3?4の特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

無効理由4:訂正前の本件発明1?2は、「空気極材料」の発明であるが、本件特許の明細書には、「固体酸化物型燃料電池の空気材料」が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、訂正前の本件発明1?2の範囲まで、本件特許の明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないし、また、訂正前の本件発明1?2における「空気極材料」との特定事項が「固体酸化物型燃料電池の空気極材料」以外の如何なる空気極材料まで含むのか不明であるため、訂正前の本件発明1?2は本件特許の明細書に記載したものでないか、又は明確ではないから、特許法第36条第6項第1号ないし第2号に規定する要件を満たしていないものであり、訂正前の本件発明1?2の特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

無効理由5:仮に、「訂正明細書の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである」との仮定が成立する場合には、本件発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明と同じ物であるか、又は類似の物であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明の特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

なお、請求人は、無効理由1に関連して、平成27年10月13日付け口頭審理陳述要領書の第10頁第11行?第12頁下から2行目において、空気極材料としての粒子の集合体について、空気極材料が「粉体」、「解砕物」、「塊」のいずれの形態であるかによって、「同一結晶方位領域の円相当径」が変化し、どのような形態で「同一結晶方位領域」を解析するかが特定されない限り、「平均円相当径」を特定できないし、また、EBSD法による結晶方位解析によって描画される「同一結晶方位領域」は、「粉体」状態の空気極材料に対しては、粉体の粒径(大小)、硬化樹脂と粉体の混合割合などの要因によって、複数の粒子どうしの分布状態が変化するため、「同一結晶方位領域の円相当径」が変化し、ひいては、「平均円相当径」も変化する旨(以下、「無効理由1’」という。)を主張している。
また、請求人は、無効理由1に関連して、新たに追加された資料4をともなう、平成27年12月24日付け上申書の第2頁第5行?第4頁第17行、及び、平成28年 2月25日付け審判事件弁駁書の第6頁第20行?第8頁第22行において、「結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状態」が制御できなければ、同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能であるし、「同一結晶方位領域」を解析する際に、粉体充填密度をどのような値に設定するのかは何ら記載されていない旨(以下、「無効理由1’’」という。)を主張している。

無効理由1’については、第1回口頭審理において、審判請求書の請求の理由の要旨を変更するものであるが、特許法第131条の2第2項第2号に該当すると判断し、無効理由に追加することを許可するとの決定を行った(第1回口頭審理調書 審判長3)。
無効理由1’’については、平成28年 5月20日付け補正許否の決定により、無効理由に追加することは許可しないとの決定を行った。

[証拠方法]
甲第1号証:東京高等裁判所判決 平成12年(行ケ)第120号
甲第2号証:特開2012-43774号公報
甲第3号証:国際公開第2013/094260号
甲第4号証:本件特許の審査段階で提出された平成26年 7月17日付け
の意見書

甲第1?3号証の成立に争いはない。また、甲第4号証の成立に疑義を差し挟み余地はない。なお、甲第1?3号証は、審判請求書とともに提出され、甲第4号証は、平成28年 2月25日付けの審判事件弁駁書とともに提出された。


2. 甲号証の記載事項
請求人が証拠方法として提出した甲第2号証、甲第3号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである(なお、「…」は記載の省略を表す。以下、同様。)。

(1) 甲第2号証(特開2012-43774号公報)
(1a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有し、
1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である
電極材料。
【請求項2】
前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれる
請求項1に記載の電極材料。

【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の電極材料からなる空気極と、
燃料極と、
前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と、
を備える
固体酸化物型燃料電池セル。
…」

(1b) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料及びそれによって形成された空気極を備える固体酸化物型燃料電池セルに関する。」


(1c) 「【0012】
1.電極材料
電極材料は、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含む。電極材料は、複合酸化物以外の成分を含んでいてもよい。
【0013】
複合酸化物の組成は、一般式ABO_(3)で表される。また、Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよい。このような複合酸化物の具体例としては、LSCFつまり(LaSr)(CoFe)O_(3)、LSFつまり(LaSr)FeO_(3)、LSCつまり(LaSr)CoO_(3)、LNFつまりLa(NiFe)O_(3)、SSCつまり(SmSr)CoO_(3)等の材料が挙げられる。これらの複合酸化物は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を併せ持つ物質であり、混合導電材料と呼ばれる。これらの複合化合物は、燃料電池の空気極の材料として適している。
【0014】
電極材料は、複合酸化物を「主成分」として含むことができる。組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが好ましくは60重量%以上を占め、より好ましくは70重量%以上を占め、さらに好ましくは90重量%以上を占めることを意味する。」

(1d) 「【0016】
電極材料は、組成分布が高い均一性を有していることが好ましい。具体的には、電極材料における任意の視野内で、10スポットにおいて、EDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトに含まれる元素のそれぞれの原子濃度を取得し、その原子濃度の標準偏差値を得たとき、Aサイトにおいて得られる標準偏差値が、10.3以下であることが好ましい。
【0017】
例えば、Aサイトに、A1、A2、A3・・Anのn種の元素が含まれるとする。10スポットで得られた原子濃度に基づいて、各元素の原子濃度の標準偏差値を取得した場合、元素A1についての原子濃度の標準偏差値が、A2?Anそれぞれについての標準偏差値よりも大きいとき元素A1についての標準偏差値が、10.3以下であることが好ましい。
ここで、任意の視野とは、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)やEPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)などの電子顕微鏡において100倍?5000倍の倍率で観察される範囲であればよい。また、10スポットそれぞれのサイズは、1μm以下とすることができる。」

(1e) 「【0018】
2.電極材料の製造方法
上記1.欄の電極材料の製造方法の例を以下に説明する。
【0019】
製造方法は、具体的には、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を得ることを含む。
【0020】
複合酸化物を得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられる。
【0021】
「固相法」とは、構成元素を含む原料(粉末)を所定の比で混合することで得られた混合物を焼成し、その後に粉砕することで目的材料を得る手法である。
【0022】
「液相法」とは、
・構成元素を含む原料を溶液に溶かすこと、
・その溶液から目的材料の前駆体を沈殿等によって得ること、及び
・さらに乾燥、焼成、及び粉砕を行うこと、
の工程によって、目的材料を得る手法である。
【0023】
電極材料における組成分布を制御し得る因子としては、さらに、原料の種類、原料の混合方法、原料の混合条件に加えて、合成温度(900℃?1400℃、1?30hr)が挙げられる。」

(1f) 「【実施例】
【0079】
A.セルの作製
NiO-8YSZ燃料極基板(500μm)上に、NiO-8YSZ燃料極活性層(10μm)、8YSZ電解質層(3μm)、GDCバリア層(3μm)を積層した後、1400℃で2hrの条件で、共焼成した。
【0080】
表1?表3に示すように、(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)を含む10種の電極材料(No.1?No.10)は、(La_(0.8)Sr_(0.2))FeO_(3)を含む6種の電極材料(No.11?No.16)、及びLa(Ni_(0.6)Fe_(0.4))O_(3)を含む6種の電極材料(No.17?No.22)を得た。
【0081】
同じ一般式で表され、かつ番号の異なる電極材料は、出発原料、焼成条件、粉砕条件がそれぞれ異なる。また、各電極材料が固相法及び液相法のいずれで合成されたかは、表中に記載している。
【0082】
得られた解砕物の平均粒径は200μmであった。解砕物を後述の組成分布の測定に用いた。
【0083】
解砕物をボールミル装置によって粉砕した。電極材料(粉体)の平均粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-700)で測定したところ、全て0.3μm以下であった。
【0084】
得られた粉体を用いてペーストを作製し、このペーストをスクリーン印刷法により膜化することで、バリア層上に空気極(30μm)を形成した。空気極は、1000℃下で2hr加熱されることで、バリア層上に焼き付けられた。
【0085】
以上の操作によって、SOFCセルを得た。
【0086】
B.評価
B-1.組成分布の測定
電極材料の解砕物について、EPMAにより各元素の原子濃度分布を測定した。具体的には、日本電子株式会社の電界放射型電子プローブマイクロアナライザー(型番:JXA-8500F)を用いて測定を行った。次に、EDSにより任意の視野において、SEM像で確認できる空洞になっていない10スポットで、Aサイトの各元素、Bサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定した。具体的には、ZEISS社(ドイツ)の電界放射型走査電子顕微鏡(型番:ULTRA55)を用いて測定を行った。
【0087】
具体的には、No.1?No.10の各試料について、AサイトのLa及びSrのそれぞれの濃度を10スポットで測定し、La濃度の平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値、並びにSr濃度の平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値を得た。また、BサイトのCo及びFeについても同様に、濃度平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値を得た。さらに、No.1?No.10の各試料について、Aサイトの元素の原子濃度についての標準偏差値の最大値、及びBサイトの元素の原子濃度についての標準偏差値の最大値を得た。
【0088】
No.11?No.16の各試料については、AサイトのLa及びSr、並びにBサイトのFeの濃度に関して同様の作業を行い、No.17?No.22の各試料については、AサイトのLa及びSr、並びにBサイトのFeの濃度に関して同様の作業を行った。
【0089】
B-2.耐久性試験
作製したSOFCセルを用いて連続発電を実施した。発電条件は温度:750℃、電流密度:0.3A/cm^(2)であり、この条件による1000時間あたりの電圧降下率(劣化率)を算出した。劣化率が1%以下のものを“良好”と判定した。
【0090】
C.結果
C-1.No.1?No.10:(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)について
No.1?No.10の試料のうち、一例としてNo.1の試料における濃度の測定結果、平均値及び標準偏差値の算出結果を表1に示す。表2には、No.1?No.10の各試料について、各元素の原子濃度の標準偏差値の最大値を示す。各試料について、Aサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値に、下線を付す。表3には、No.1?No.10の試料について、表2に示したAサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値と、1000時間当たりの電圧降下率(劣化率)と、電圧降下率に基づく評価結果と、を示す。

【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
表1?3…に示すように、No.1?No.4、No.7?No.10の試料については、劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差(ばらつき)は、10.5未満であり、具体的には10.3以下であった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は3.99以下であった。
【0096】
その一方で、劣化率が大きかったNo.5?No.6の試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は11.5以上であり、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は4.18以上であった。
【0097】
C-2.No.11?No.16:(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)について
…表5には、No.11?No.16の各試料について、各元素の原子濃度の標準偏差値の最大値を示す。各試料について、Aサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値に、下線を付す。表6には、No.11?No.16の試料について、表5に示したAサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値と、1000時間当たりの電圧降下率(劣化率)と、電圧降下率に基づく評価結果と、を示す。

【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
表4?表6に示すように、No.11?No.13、No.15?No.16の試料については、劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では、Aサイトの元素の原子濃度の
標準偏差(ばらつき)は、7.91以下であった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は、4.16以下であった。
【0102】
その一方で、劣化率が大きかったNo.14の試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は10.95と比較的大きかった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差も4.98と比較的大きかった。
【0103】
C-3.No.17?No.22:(La_(0.8)Sr_(0.2))FeO_(3)について
…表8には、No.17?No.22の各試料について、各元素の原子濃度の標準偏差値の最大値を示す。各試料について、Aサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値に、下線を付す。表9には、No.17?No.22の試料について、表8に示したAサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値と、1000時間当たりの電圧降下率(劣化率)と、電圧降下率に基づく評価結果と、を示す。

【0105】
【表8】

【0106】
【表9】

【0107】
…No.17、No.19?No.22の試料については、劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差(ばらつき)は、7.72以下であった。
【0108】
その一方で、劣化率が大きかったNo.14の試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は10.5と比較的大きかった。
【0109】
C-4.まとめ
以上の結果から、原子の分布が比較的均一である(標準偏差が小さい)ことで、空気極の劣化が抑制されると考えられる。」


(2) 甲第3号証(国際公開2013/094260号)
(2a) 「[0012] 1.電極材料

[0016] 電極材料は、組成分布が高い均一性を有していることが好ましい。具体的には、電極材料における任意の視野内で、10スポットにおいて、EDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトに含まれる元素のそれぞれの原子濃度を取得し、その原子濃度の標準偏差値を得たとき、Aサイトにおいて得られる標準偏差値が、10.3以下であることが好ましい。

[0018] ここで、任意の視野とは、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)やEPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)などの電子顕微鏡において100倍?5000倍の倍率で観察される範囲であればよい。…」

(2b) 「[0020] 2.電極材料の製造方法
上記1.欄の電極材料の製造方法の例を以下に説明する。
[0021] 製造方法は、具体的には、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を得ることを含む。
[0022] 複合酸化物を得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられる。
[0023] 「固相法」とは、構成元素を含む原料(粉末)を所定の比で混合することで得られた混合物を焼成し、その後に粉砕することで目的材料を得る手法である。
[0024] 「液相法」とは、
・構成元素を含む原料を溶液に溶かすこと、
・その溶液から目的材料の前駆体を沈殿等によって得ること、及び
・さらに乾燥、焼成、及び粉砕を行うこと、
の工程によって、目的材料を得る手法である。
[0025] 以下、固相法を用いて電極材料を製造する場合と、液相法を用いて電極材料を製造する場合とについて、図面を参照しながら順次説明する。
[0026] 2-1.固相法を用いた電極材料の製造方法
図1は、固相法を用いた電極材料の製造方法を説明するためのフロー図である。
[0027] まず、ステップS101において、複合酸化物の種類に応じた原料を準備する。複合酸化物としてLSCFを製造する場合には、例えばLa_(2)O_(3)、SrCO_(3)、Co_(3)O_(4)およびFe_(2)O_(3)を準備する。…
[0028] 次に、ステップS102において、各原料を分級する。具体的には、例えば気流式分級機を用いて分級することによって、各原料の比表面積を調整する。…
[0029] 次に、ステップS103において、各原料を所定の混合比で混合する。本実施形態において、この混合工程は、各原料を所定の混合比で秤量して玉石(例えば、アルミナやジルコニア製の玉石を適用できる)と共にポットミルに投入する工程と、ポットミルを所定時間(10hr?120hr)乾式で回転させた後に所定量(原料に対する重量比で50%?200%)の溶媒(例えば、水系であればイオン交換水、溶媒系であればアセトンなど)をポットミルに投入する工程と、ポットミルを所定時間(10hr?300hr)さらに湿式で回転させる工程と、を含んでいる。

[0031] ステップS104において、ポットミルで混合された原料を焼成することによって、電極材料を合成する。合成条件は、酸化性雰囲気において合成温度900℃?1400℃と合成時間1?30hrとの範囲において適宜調整すればよい。
[0032] 次に、ステップS105において、合成された塊状の電極材料を粉砕する。具体的には、電極材料を玉石(例えば、アルミナやジルコニア製の玉石を適用できる)と共にポットミルに入れて所定時間(5hr?20hr)回転させることによって、電極材料の平均粒径を0.3μm?1.2μmに調整する。…
[0033] 次に、ステップS106において、粉砕された電極材料を分級する。具体的には、例えば気流式分級機を用いて分級することによって、電極材料の比表面積を調整する。…
[0034] 2-2.液相法を用いた電極材料の製造方法
図2は、液相法を用いた電極材料の製造方法を説明するためのフロー図である。
[0035] まず、ステップS201において、複合酸化物の種類に応じた原料を準備する。複合酸化物としてLSCFを共沈法又はクエン酸法で製造する場合には、La(NO_(3))_(3)・6H_(2)O、Sr(NO_(3))_(2)、Co(NO_(3))_(3)・9H_(2)OおよびFe(NO_(3))_(3)・9H_(2)Oを準備する。…
[0036] 次に、ステップS202において、各原料を分級する。具体的には、例えば気流式分級機を用いて分級することによって、各原料の比表面積を調整する。…
[0037] 次に、ステップS203において、各原料を所定の混合比で混合する。…

[0039] 次に、ステップS204において、ステップS203で作製された水溶液を乾燥させる。…
[0040] 次に、ステップS205において、乾燥された原料を焼成することによって、電極材料を合成する。合成条件は、酸化性雰囲気において合成温度900℃?1400℃と合成時間1?30hrとの範囲において適宜調整すればよい。
[0041] 次に、ステップS206において、合成された塊状の電極材料を粉砕し、ステップS207において、粉砕された電極材料を分級する。これらの工程の詳細は、上述のステップS105、S106と同様である。

[0063] 4.燃料電池セルの製造方法

[0072] 4-5.空気極の形成
空気極は、例えば、燃料極、電解質層、及びバリア層の積層体(焼成後)上に、圧粉形成、印刷法等によって空気極の材料の層を形成した後、焼成することで形成される。具体的に、LSCFによって構成される電極材料を用いる場合には、印刷法を用いるのであれば、LSCFとバインダ、分散剤、分散媒を混合して作製されるペーストを積層体上に印刷して焼成(焼成温度900℃?1100℃、焼成時間1hr?10hr)すればよい。」

(2c)「 実施例
[0113] A.セルの作製
NiO-8YSZ燃料極基板(500μm)上に、NiO-8YSZ燃料極活性層(10μm)、8YSZ電解質層(3μm)、GDCバリア層(3μm)を積層した後、1400℃で2hrの条件で、共焼成した。
[0114] 表1?表3に示すように、(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)を含む10種の電極材料(No.1?No.10)、(La_(0.8)Sr_(0.2))FeO_(3)を含む6種の電極材料(No.11?No.16)、及びLa(Ni_(0.6)Fe_(0.4))O_(3)を含む6種の電極材料(No.17?No.22)を得た。…
[0115] 同じ一般式で表され、かつ番号の異なる電極材料は、出発原料、焼成条件、粉砕条件がそれぞれ異なる。また、各電極材料が固相法及び液相法のいずれで合成されたかは、表中に記載している。…
[0116] 得られた解砕物の平均粒径は200μmであった。解砕物を後述の組成分布の測定に用いた。
[0117] 解砕物をボールミル装置によって粉砕した。電極材料(粉体)の平均粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-700)で測定したところ、全て1.0μm以下であった。
[0118] 得られた粉体を用いてペーストを作製し、このペーストをスクリーン印刷法により膜化することで、バリア層上に空気極(30μm)を形成した。空気極は、1000℃下で2hr加熱されることで、バリア層上に焼き付けられた。
[0119] 以上の操作によって、SOFCセルを得た。
[0120] B.評価
B-1.組成分布の測定
電極材料の解砕物について、EPMAにより各元素の原子濃度分布を測定した。具体的には、日本電子株式会社の電界放射型電子プローブマイクロアナライザー(型番:JXA-8500F)を用いて測定を行った。次に、EDSにより任意の視野において、SEM像で確認できる空洞になっていない部分の10スポットで、Aサイトの各元素、Bサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定した。具体的には、ZEISS社(ドイツ)の電界放射型走査電子顕微鏡(型番:ULTRA55)を用いて測定を行った。
[0121] 具体的には、No.1?No.10の各試料について、AサイトのLa及びSrのそれぞれの濃度を10スポットで測定し、La濃度の平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値、並びにSr濃度の平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値を得た。また、BサイトのCo及びFeについても同様に、濃度平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値を得た。さらに、No.1?No.10の各試料について、Aサイトの元素の原子濃度についての標準偏差値の最大値、及びBサイトの元素の原子濃度についての標準偏差値の最大値を得た。
[0122] No.11?No.16の各試料については、AサイトのLa及びSr、並びにBサイトのFeの濃度に関して同様の作業を行い、No.17?No.22の各試料については、AサイトのLa、並びにBサイトのNi及びFeの濃度に関して同様の作業を行った。
[0123] B-2.耐久性試験
作製したSOFCセルを用いて連続発電を実施した。発電条件は温度:750℃、電流密度:0.3A/cm^(2)であり、この条件による1000時間あたりの電圧降下率(劣化率)を算出した。劣化率が1%以下のものを“良好”と判定した。
[0124] C.結果
C-1.No.1?No.10:(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)について
No.1?No.10の試料のうち、一例としてNo.1の試料における濃度の測定結果、平均値及び標準偏差値の算出結果を表1に示す。表2には、No.1?No.10の各試料について、各元素の原子濃度の標準偏差値の最大値を示す。各試料について、Aサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値に、下線を付す。表3には、No.1?No.10の試料について、表2に示したAサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値と、1000時間当たりの電圧降下率(劣化率)と、電圧降下率に基づく評価結果と、を示す。

[0126]

[0127]

[0128]

[0129] 表1?3…に示すように、No.1?No.4、No.7?No.10の試料については、劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差(ばらつき)は、11.5未満であり、具体的には10.3以下であった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は3.99以下であった。
[0130] その一方で、劣化率が大きかったNo.5?No.6の試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は11.5以上であり、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は4.88以上であった。
[0131] C-2.No.11?No.16:(La_(0.8)Sr_(0.2))FeO_(3)について
…表5には、No.11?No.16の各試料について、各元素の原子濃度の標準偏差値の最大値を示す。各試料について、Aサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値に、下線を付す。表6には、No.11?No.16の試料について、表5に示したAサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値と、1000時間当たりの電圧降下率(劣化率)と、電圧降下率に基づく評価結果と、を示す。

[0133]

[0134]

[0135]…No.11?No.13、No.15?No.16の試料については、劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差(ばらつき)は、7.91以下であった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は、4.16以下であった。
[0136] その一方で、劣化率が大きかったNo.14の試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は10.95と比較的大きかった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差も4.98と比較的大きかった。
[0137] C-3.No.17?No.22:La(Ni_(0.6)Fe_(0.4))O_(3)について
…表8には、No.17?No.22の各試料について、各元素の原子濃度の標準偏差値の最大値を示す。各試料について、Aサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値に、下線を付す。表9には、No.17?No.22の試料について、表8に示したAサイトにおける標準偏差値の最大値及びBサイトにおける標準偏差値の最大値と、1000時間当たりの電圧降下率(劣化率)と、電圧降下率に基づく評価結果と、を示す。

[0139]

[0140]

[0141]…No.17、No.19?No.22の試料については、劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差(ばらつき)は、7.72以下であった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は、4.81以下であった。
[0142] その一方で、劣化率が大きかったNo.18の試料では、Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は10.5と比較的大きかった。また、Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差も6.35と比較的大きかった。

[0145]
C-5.まとめ
以上の結果から、原子の分布が比較的均一である(標準偏差が小さい)ことで、空気極の劣化が抑制されると考えられる。
…」

(2d)

(2e)


(2f) 「 請求の範囲
[請求項1]
一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物によって構成される茎極材料であって、
1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である
固体酸化物型燃料電池セルの空気極材料。
[請求項2]
前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれる
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池セルの空気極材料。

[請求項8]
請求項1?7のいずれかに記載の空気極材料からなる空気極と、
燃料極と、
前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と、
を備える
固体酸化物型燃料電池セル。
…」


3.被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、平成27年 6月17日付け審判事件答弁書、同年11月10日付け口頭審理陳述要領書、同年12月 1日受付の回答書、同年同月同日受付の上申書、同年同月同日の第1回口頭審理(第1回口頭審理調書)、平成28年 1月13日付け意見書、同年同月同日付け回答書において、乙第1?12号証を提示し、請求人の主張する上記無効理由1?無効理由5、並びに、無効理由1’は、いずれも理由がない、と主張した。

[証拠方法]
乙第1号証:特許第4849774号公報
乙第2号証:特許第5072304号公報
乙第3号証:知的財産高等裁判所判決 平成22年(行ケ)第10247号
乙第4号証:知的財産高等裁判所判決 平成17年(行ケ)第10445号
乙第5号証:小中尚ら「X線回折法による結晶子サイズ分布解析 -ビス
(アセチルアセトナト)亜鉛を出発物質とするZnOナノ単
結晶を例に-」Journal of Flux
Growth Vol.2,No.1,2007,p.41? 44
乙第6号証:松嶋茂憲ら「アナターゼ-ルチル相転移におけるZrの添加
効果」北九州工業高等専門学校研究報告45号(2012年
1月) p.61?64
乙第7号証:特開2012-22896号公報
乙第8号証:西野華子ら「YSZ薄膜電解質/LSCF酸素極のSOFC- SOEC可逆作動特性」第33回固体イオニクス討論会講演
要旨集(2007年)p.240?241
乙第9号証:特開2013-144382号公報
乙第10号証:下尾聰夫ら「低酸素SiC系繊維の熱安定性に対する焼成
条件の最適化」
Journal of the Ceramic
Society of Japan 107[4]
(1999)p.365?371
乙第11号証:石川賢司ら「アルコキシド法により合成したチタン酸鉛超
微粒子の焼成過程」静岡大学電子工学研究所研究報告28
(1)(1993)p.37?41
乙第12号証:八田章光ら「熱CVD法によるCNTの合成」
高知工科大学 電子・光システム工学科
卒業研究報告書(平成19年) p.1?41

乙第1?12号証の成立に争いはない。なお、乙第1?4号証は、平成27年 6月17日付け審判事件答弁書とともに、乙第5?8号証は、平成27年11月10日付け口頭審理陳述要領書とともに、乙第9号証は、平成27年12月 1日受付の上申書とともに、乙第10?12号証は、平成28年 1月13日付け回答書とともに、提出された。

第5 無効理由についての当審の判断
1. 訂正明細書の記載事項、及び、図面からの視認事項
本件発明、及び、その製造方法に関し、訂正明細書には、次の記載があり、図面からは次の事項が視認される。

a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極材料及び空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関する。」

b.「【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、一般的に、燃料極と、固体電解質層と、空気極と、を備える。空気極材料としては、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)などのペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いることができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-32132号公報」

c.「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、固体酸化物型燃料電池の出力を向上させるには、空気極の活性を高めることが好ましい。本発明者らは、鋭意検討した結果、空気極材料の粉体粒子及び空気極の構成粒子において同程度の結晶方位を有する領域のサイズが空気極の活性に関連していることを新たに見出した。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料、及び出力を向上可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。」

d.「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気極材料は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する。空気極材料を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である。」

e.「【0010】
(固体酸化物型燃料電池10の構成)
固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)10の構成について、…説明する。…
【0011】
固体酸化物型燃料電池10は、縦縞型、横縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型の燃料電池である。固体酸化物型燃料電池10は、…燃料極20、固体電解質層30、バリア層40および空気極50を備える。
【0012】
燃料極20は、固体酸化物型燃料電池10のアノードとして機能する。…

【0016】
固体電解質層30は、燃料極20と空気極50の間に配置される。固体電解質層30は、空気極50で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。…
【0017】
バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に配置される。バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に高抵抗層が形成されることを抑制する。…
【0018】
空気極50は、バリア層40上に配置される。空気極50は、固体酸化物型燃料電池10のカソードとして機能する。…」

f.「 【0019】
空気極50は、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する。Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれていてもよい。このような複合酸化物としては、例えばランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)及びLSM-8YSZなどが挙げられる。
【0020】
従って、空気極50の材料(以下、「空気極材料」という。)としては、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する材料を用いることができる。空気極材料は、粒子の集合体であればよく、粉体(例えば平均粒径0.1μm以上5μm以下程度)、解砕物(例えば平均粒径5μm以上500μm以下程度)、或いは解砕物よりも大きな塊であってもよい。このような空気極材料は、上記複合酸化物の原料粉末を粉砕することによって作製することができる。空気極材料の作製方法については後述する。」

g.「【0021】
(空気極材料の結晶方位解析)
空気極材料の結晶方位解析結果について、図面を参照しながら説明する。図2は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって倍率15000倍に拡大された空気極材料を示すSEM画像の一例である。図3は、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例である。
【0022】
EBSD法による結晶方位解析では、結晶方位の不連続性を観測することができ、結晶方位差が所定角度以上の境界によって規定される領域(以下、「同一結晶方位領域」という。)を描画することができる。図3では、結晶方位差が5度以上の境界によって同一結晶方位領域が規定されている。図4は、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例である。
【0023】
図2に示すように、空気極材料のSEM画像では、粒界によって規定される粒子一つ一つの外形を把握することができる。このSEM画像に基づいて、空気極材料の粒子の平均粒径や粒径の標準偏差などを求めることができる。
【0024】
図3に示すように、空気極材料のEBSD画像では、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域の外形を把握することができる。
【0025】
ここで、図2と図3を比較すると分かるように、EBSD画像上の境界は、SEM画像上の粒界とは必ずしも一致しない。すなわち、空気極材料において、同一結晶方位領域と粒子は異なる概念である。従って、1つの粒子内に複数の同一結晶方位領域が存在する場合や、1つの同一結晶方位領域内に複数の粒子が存在する場合がある。
【0026】
同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上2.8μm以下であることが好ましい。円相当径とは、同一結晶方位領域と同じ面積を有する円の直径のことであり、平均円相当径とは、複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の算術平均値である。
【0027】
同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、0.1以上3以下であることが好ましい。
【0028】
後述するように、空気極材料における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。」

h.「【0029】
(空気極50の結晶方位解析)
空気極50の結晶方位解析結果について、図面を参照しながら説明する。図5は、SEMによって倍率15000倍に拡大された空気極50の断面を示すSEM画像の一例である。図6は、空気極50の断面をEBSD法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例である。図7は、空気極における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例である。
【0030】
図5に示すように、空気極50のSEM画像では、粒界によって規定される粒子一つ一つの外形を把握することができる。このSEM画像に基づいて、空気極50を構成する粒子の平均粒径や粒径の標準偏差などを求めることができる。
【0031】
図6に示すように、空気極50のEBSD画像では、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域の外形を把握することができる。上述の通り、空気極50において、同一結晶方位領域と粒子は異なる概念である。
【0032】
同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下であることが好ましい。なお、図6及び図7では、空気極50の同一結晶方位領域が比較的小さい例が示されている。一般的には、空気極50の成形体を作成する工程において空気極材料の粉砕は進むが、空気極材料の凝集状態によって、空気極50の同一結晶方位領域の方が大きくもなりうる。
【0033】
同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、0.1以上3.3以下であることが好ましい。
【0034】
後述するように、空気極50における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、空気極50の成形体の粉体充填密度を調整することによって制御することができる。」

i.「【0035】
(空気極材料の製造方法)
次に、空気極材料の製造方法の一例について説明する。
【0036】
空気極材料は、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等によってペロブスカイト構造を有する複合酸化物を作製することによって得られる。
【0037】
「固相法」とは、構成元素を含む原料を所定比で混合した混合物を焼成し、その後に粉砕する工程を経て目的材料を得る手法である。
【0038】
「液相法」とは、(i)構成元素を含む原料を溶液に溶かす工程、(ii)その溶液から目的材料の前駆体を沈殿等によって得る工程、(iii)乾燥、焼成、及び粉砕を行う工程、を順次経て目的材料を得る手法である。
【0039】
この際、空気極材料の合成条件(混合方法、昇温速度、合成温度/時間)を制御することによって、空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することができる。具体的には、合成温度を高くし、合成時間を長くすると平均円相当径は大きくなり、合成温度を低くし、合成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。
【0040】
また、原料の粉砕/混合条件を制御することによって、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、粉砕条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり、混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり、粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり、混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる傾向がある。」

j.「【0041】
(固体酸化物型燃料電池10の製造方法)
次に、固体酸化物型燃料電池10の製造方法の一例について説明する。

【0046】
…成形体の積層体を1300?1600℃で2?20時間共焼結して、燃料極20、固体電解質層30およびバリア層40の共焼成体を形成する。
【0047】
次に、空気極用材料粉末(例えば、LSCF、LSF、LSC及びLSM-8YSZなど)に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。そして、塗布法などを用いてスラリーをバリア層40上に塗布して、空気極50の成形体を形成する。
【0048】
次に、空気極50の成形体を焼成(焼成温度1000℃?1200℃、焼成時間1時間?10時間)する。この際、焼成条件を制御することによって、空気極50における同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することができる。具体的には、焼成温度を高温化したり、焼成時間を長くしたりすると平均円相当径は大きくなり、焼成温度を低温化したり、焼成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。また、空気極成形体の粉体充填密度を制御することによって、空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、空気極成形体の粉体充填密度を低くすると標準偏差は大きくなり、空気極成形体の粉体充填密度を高くすると標準偏差は小さくなる傾向がある。」

k.「【0049】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0050】
(A)上記実施形態において、固体酸化物型燃料電池10は、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40及び空気極50を備えることとしたが、これに限られるものではない。例えば、固体酸化物型燃料電池10は、バリア層40を備えていなくてもよい。…」


l.「【実施例】
【0052】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0053】
[サンプルNo.1?32の作製]
まず、NiOと8YSZの混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極集電層の成形体を形成した。
【0054】
次に、NiOと8YSZとPMMAの混合物にPVAを添加してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極集電層の成形体上に印刷して、燃料極活性層の成形体を形成した。
【0055】
次に、8YSZに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極活性層の成形体上に塗布して、固体電解質層の成形体を形成した。
【0056】
次に、GDCに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを固体電解質層の成形体上に塗布して、バリア層の成形体を形成した。
【0057】
次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層それぞれの成形体の積層体を共焼成(1400℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を作製した。
【0058】
次に、表1及び表2に示す空気極材料を準備して、サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製した。この際、空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した。また、空気極材料に用いた原料の粉砕条件(機械エネルギー)と混合時間を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。
【0059】
次に、このスラリーをバリア層上に塗布して、空気極の成形体を形成した。この際、空気極材料の充填密度を調整することによって、後述するとおり空気極における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。
【0060】
次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。」

m.「【0061】
[空気極材料の結晶方位解析]
サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料をEBSD装置(TSL製 OIM)で測定することによって、EBSD法による解析画像を得た。EBSD画像では、結晶方位差が5度以上となる境界を外縁とする同一結晶方位領域を描画した(図3参照)。
【0062】
そして、各サンプルの空気極材料について、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差とを算出した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0063】
[空気極の結晶方位解析]
サンプルNo.1?32それぞれの空気極断面をEBSD装置(TSL製 OIM)で測定することによって、EBSD法による解析画像を得た。EBSD画像では、結晶方位差が5度以上となる境界を外縁とする同一結晶方位領域を描画した(図6参照)。
【0064】
そして、各サンプルの空気極断面について、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差とを算出した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0065】
[出力密度の測定]
各サンプルにおいて、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
【0066】
その後、各サンプルについて、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)における出力密度を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、出力密度が0.15W/cm^(2)より小さい場合を×と評価し、出力密度が0.15W/cm^(2)以上である場合を○と評価し、出力密度が0.25W/cm^(2)以上である場合を◎と評価した。
【0067】
【表1】

表1に示されるように、同一結晶方位領域の平均円相当径を0.03μm以上2.8μm以下とした空気極材料を用いたサンプルNo.1?7,9?19,21?26,28?32では、出力密度を0.15W/cm^(2)以上とすることができた。サンプルNo.1?7,9?19,21?26,28?32の空気極において、同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下であった。このような結果が得られたのは、空気極の結晶方位が揃い、電気化学反応速度が上がることによって、空気極の活性を向上できたためである。なお、表1に示されるように、このような効果は、空気極材料の種類にかかわらず、同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することによって得られることが確認された。
【0068】
また、表1に示されるように、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を3以下とした空気極材料を用いたサンプルNo.9?14,21,22,28?31では、空気極の出力密度をさらに高くすることができた。サンプルNo.9?14,21,22,28?31の空気極において、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、3.3以下であった。なお、表1に示されるように、このような効果は、空気極材料の種類にかかわらず、同一結晶方位領域の平均円相当径の標準偏差を制御することによって得られることが確認された。」


n.「【図3】

上記g.の【0021】?【0025】の記載を踏まえると、【図3】には、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例が示されており、このEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を把握できることが視認される。」

o.「【図4】

上記g.の【0021】?【0027】、 上記m.の【0061】?【0062】の記載を踏まえると、【図4】には、空気極材料について、【図3】のような、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例が示されており、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であることから、このヒストグラムから、空気極材料について、複数の同一結晶方位領域の平均円相当径と複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値とを求めることができるということが視認される。
なお、【図4】のヒストグラムにおいては、横軸は空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径を、縦軸は相対度数を、それぞれ、表していることは明らかである。」

p.「【図6】

上記h.の【0029】?【0032】の記載を踏まえると、【図6】には、空気極50の断面を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例が示されており、このEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を把握できることが視認される。」

q.「【図7】

上記g.の【0026】、上記h.の【0029】?【0033】、上記m.の【0063】?【0064】の記載を踏まえると、【図7】には、空気極の断面について、【図6】のような、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例が示されており、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であることから、このヒストグラムから、空気極の断面について、複数の同一結晶方位領域の平均円相当径と複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値とを求めることができるということが視認される。
なお、【図7】のヒストグラムにおいては、横軸は空気極の断面における同一結晶方位領域の円相当径を、縦軸は相対度数を、それぞれ、表していることは明らかである。」


2. 無効理由1について
(1) 判断手法
ア. 特許法第36条第4項第1号は、いわゆる実施可能要件を規定したものであり、物の発明について上記実施可能要件を充足するためには、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記実施可能要件を満たすと判断できる(知的財産高等裁判所判決平成24年(行ケ)第10020号、知的財産高等裁判所判決平成22年(行ケ)第10247号、知的財産高等裁判所判決平成17年(行ケ)第10205号等参照。)。

イ. そこで、上記1.のa.?q.に示した、訂正明細書及び図面の記載について、上記第3に示されている本件訂正発明1?4の物の発明に関し、その物を製造する方法についての具体的な記載が明細書にあるかという観点だけではなく、そのような記載がなくても、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を製造することができるかという観点からも判断することとする。

(2) 本件訂正発明1?2に関する当審の判断
カ. 上記第3に示されている本件訂正発明1?2は、物である、固体酸化物型燃料電池用空気極材料(以下、単に「空気極材料」ということがある。)に係る発明であるところ、その物を製造する方法について、訂正明細書には、上記1.のa.?m.によれば、次の事項が記載されている。

(カ-1) 「(空気極材料の製造方法)
次に、空気極材料の製造方法の一例について説明する。
空気極材料は、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等によってペロブスカイト構造を有する複合酸化物を作製することによって得られる。
「固相法」とは、構成元素を含む原料を所定比で混合した混合物を焼成し、その後に粉砕する工程を経て目的材料を得る手法である。
「液相法」とは、(i)構成元素を含む原料を溶液に溶かす工程、(ii)その溶液から目的材料の前駆体を沈殿等によって得る工程、(iii)乾燥、焼成、及び粉砕を行う工程、を順次経て目的材料を得る手法である。
この際、空気極材料の合成条件(混合方法、昇温速度、合成温度/時間)を制御することによって、空気極材料の断面における同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することができる。具体的には、合成温度を高くし、合成時間を長くすると平均円相当径は大きくなり、合成温度を低くし、合成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。
また、原料の粉砕/混合条件を制御することによって、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、粉砕条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり、混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり、粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり、混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる傾向がある。」(上記1.のi.)

(カ-2) 「【実施例】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。…
[サンプルNo.1?32の作製]

…表1…に示す空気極材料を準備して、サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製した。この際、空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した。また、空気極材料に用いた原料の粉砕条件(機械エネルギー)と混合時間を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。…」(上記1.のl.)

(カ-3) 【表1】(上記1.のm.の【0067】)には、サンプルNo.1?8の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当(μm)が、それぞれ、0.03、0.12、0.45、1.2、1.6、2.1、2.8、3.5の、LSCFであること、サンプルNo.16?20の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径(μm)が、それぞれ、0.08、0.42、1.6、2.5、3.2の、LSFであること、サンプルNo.24?27の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径(μm)が、それぞれ、0.6、1.9、2.4、3.3の、SSCであることが記載されている。

(カ-4) また、【表1】(上記1.のm.の【0067】)には、サンプルNo.9?15の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径と同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差(以下、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を、単に、「円相当径の標準偏差」ということがある。)が、それぞれ、0.65μmで0.1、0.54μmで0.6、0.63μmで1.2、0.86μmで1.8、1.8μmで2.4、2.4μmで3.0、2.6μmで3.5の、LSCFであること、サンプルNo.21?23の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、0.68μmで0.3、1.3μmで0.9、2.1μmで3.3の、LSFであること、サンプルNo.28?32の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、0.93μmで0.6、1.3μmで1.0、1.8μmで1.5、2.3μmで2.0、2.5μmで3.2の、SSCであることが記載されている。

キ. 上記(カ-1)?(カ-3)からすると、訂正明細書には、例えば、サンプルNo.1の空気極材料である、同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μmのLSCFは、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等によって製造する際、その空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって、同一結晶方位領域の平均円相当径を変更したことが記載されているとはいえるものの、その空気極材料についての具体的製造方法が記載されているとまではいえない。

ク. また、上記(カ-1)?(カ-2)、(カ-4)からすると、訂正明細書には、例えば、サンプルNo.9の空気極材料である、同一結晶方位領域の平均円相当径が0.65μmで円相当径の標準偏差が0.1のLSCFは、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等によって製造する際、その空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって、同一結晶方位領域の平均円相当径を変更し、その空気極材料の原料の粉砕条件(機械エネルギー)と混合時間を調整することによって、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を変更したことが記載されているとはいえるものの、その空気極材料についての具体的製造方法が記載されているとまではいえない。

ケ. ところで、訂正明細書には、上記1.のb.によれば、固体酸化物型燃料電池用の空気極材料としては、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)などのペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いることができる(特開2006-32132号公報参照)旨の背景技術についての記載があり、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)からなるペロブスカイト構造を有する複合酸化物は、上記1.のf.によれば、LSCFと略称されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物であることから、LSCFを固体酸化物型燃料電池用の空気極材料に用いることは、特開2006-32132号公報にも記載されている、背景技術であるといえる。

コ. ここで、特開2006-32132号公報には、LSCFを、次の製造方法により製造したことが記載されている。
「(1)?(6)の工程により空気極原料粉体を作製した。
(1)La,Sr,Co,Feの各硝酸塩を出発原料として、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8の割合となるように調整して水に溶解させる。
(2)中和剤にNH_(4)OHを用いて、上記溶液から各元素を含む塩を共沈させる。
(3)得られた共沈塩を水洗し、80℃で乾燥する。
(4)さらに、1000℃で5時間仮焼を行う。
(5)仮焼物をホソカワミクロン(株)製のアクアマイザー(回転数:250rpm)を用いて3時間湿式粉砕後、乾燥した。
(6)乾燥物からホソカワミクロン(株)製ジェットミル(分級回転速度:22000rpm、圧空量:0.72Nm^(3)/minの条件)を用いて粗大粒子を除去し、LSCFカソード原料粉体を得た。」(【0032】)

サ. 上記コ.に示したLSCFカソード原料粉体(以下、単に「LSCF」という。)の製造方法は、訂正明細書の背景技術となっている特許文献に記載されていることから、当業者にとっては、本件特許の出願当時の技術常識となっていると認められる。

シ. 上記コ.に示したLSCFの製造方法は、La,Sr,Co,Feの各硝酸塩を含む水溶液から各元素を共沈させて得られた共沈塩についての仮焼を行うことを含む方法であるから、この方法は、いわゆる、共沈法と認められるものの、本件訂正発明1?2は、上記1.のb.によれば、上記コ.に示した製造方法で得られたLSCFを固体酸化物型燃料電池用の空気極材料とすることを背景技術とするものであるから、上記コ.に示した共沈法そのものによって得られたLSCFは、本件訂正発明1?2の空気極材料ではないこと、すなわち、その空気極材料を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μm以上2.8μm以下の範囲外であることは自明の事項といえる。

ス. 共沈法について、訂正明細書には、上記(カ-1)に示したような、本件訂正発明1を製造するための、「合成温度を高くし、合成時間を長くすると平均円相当径は大きくなり、合成温度を低くし、合成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。」という具体的な指針が記載されているところ、上記コ.に示した共沈法においては、仮焼を行うことで複合酸化物の合成を行っていることは明らかであるから、仮焼の際の「仮焼温度」、「仮焼時間」が、それぞれ、「合成温度」、「合成時間」に相当する。

セ. さらに、共沈法について、訂正明細書には、上記(カ-1)に示したような、本件訂正発明2を製造するための、「原料の粉砕/混合条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり、混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり、原料の粉砕/混合条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり、混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる傾向がある。」という具体的な指針が記載されているところ、上記コ.に示した共沈法においては、「湿式粉砕」が、「原料の粉砕/混合」に相当する。

ソ. ところで、本件訂正発明1は、上記第3に示されるように、「電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である」との発明特定事項を備えており、さらに、本件訂正発明2は、上記第3に示されるように、「前記複数の同一結晶方位領域のそれぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である」との発明特定事項を備えているから、本件訂正発明1?2の物が製造できるというには、その物の解析方法も明らかでなければならないところ、その物の解析方法については、上記1.のn.?o.によれば、次の事項が把握されるため、その物の解析方法は明らかであるといえる。
すなわち、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を、【図3】に示されるように、把握できることから、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、【図4】のような、ヒストグラムを得ることができ、そして、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であるため、このヒストグラムから、空気極材料について、「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」と「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」とが求まるということが把握されるため、その物の解析方法は明らかであるといえる。

タ. 上記カ.?ソ.の検討を踏まえると、本件訂正発明1の空気極材料は、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を製造することができるといえる。
すなわち、上記コ.に示した共沈法そのものによっては、本件訂正発明1の空気極材料を製造することができないことは、上記シ.で検討したとおりであるところ、上記コ.に示した共沈法そのもので製造した空気極材料について、上記ソ.に示した、解析方法によって、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムを得て、前記空気極材料についての複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μm以上2.8μm以下の範囲外の特定の数値(以下、「上記コ.に示した共沈法そのもので製造した空気極材料についての複数の同一結晶方位領域の平均円相当径の数値」という。)を明らかにした上で、次の(タ-1)の事項と(タ-2)の事項と(タ-3)の事項とを、順次、行うことによって、複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μm以上2.8μm以下の本件訂正発明1の空気極材料を得ることは可能であるから、本件訂正発明1の空気極材料は、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を製造することができるといえる。

(タ-1) 上記コ.に示した共沈法そのもので製造した空気極材料についての複数の同一結晶方位領域の平均円相当径の数値と、訂正明細書に記載されている、上記ス.に示したような、例えば、合成温度を高くすると同一結晶方位領域の平均円相当径は大きくなり、合成温度を低くすると同一結晶方位領域の平均円相当径は小さくなるという具体的な指針とに基づいて、本件訂正発明1の空気極材料が得られるように、上記コ.に示した共沈法において、仮焼温度を1000℃よりも高くして、あるいは、仮焼温度を1000℃よりも低くして、新たな空気極材料を製造するという事項。

(タ-2) 上記(タ-1)あるいは下記(タ-3)で製造された、新たな空気極材料について、上記ソ.に示した、解析方法によって、同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムを得て、複数の同一結晶方位領域の平均円相当径を算出するという事項。

(タ-3) 上記(タ-2)で得られた、複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μm以上2.8μm以下の範囲外の場合は、本件訂正発明1の空気極材料を得るために、上記コ.に示した共沈法において、上記ス.に示したような具体的な指針に基づいて、例えば、仮焼温度を前回よりも高くして、あるいは、仮焼温度を前回よりも低くして、新たな空気極材料を製造するという事項。

チ. そして、上記(タ-1)の事項と(タ-2)の事項と(タ-3)の事項とを、順次、行って本件訂正発明1の空気極材料が得られた際の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムから、複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値を算出し、その標準偏差値が3以下であれば、本件訂正発明2の空気極材料も得られたこととなるところ、その標準偏差値が3よりも大きくて、本件訂正発明2の空気極材料ではない場合には、本件訂正発明1の空気極材料が得られた仮焼条件で仮焼を行う共沈法において、上記セ.に示した具体的な指針に基づいて、湿式粉砕の条件についての調整を行うことにより、本件訂正発明2の空気極材料を製造することも可能であるから、本件訂正発明2の空気極材料も、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、当業者がその物を製造することができるといえる。

ツ. また、本件訂正発明1?2が対象とする、LSCF以外の、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する、固体酸化物型燃料電池用空気極材料についても、例えば、上記コ.に示した共沈法において、出発原料として、LSCFの場合と同様に、製造しようとしている、複合酸化物に対応する各元素の硝酸塩を用いて製造することが、当業者にとっては、本件特許の出願時の技術常識であることを考慮すると、上記カ.?チ.での検討と同様にして、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を製造することができるといえる。

テ. 小括
よって、本件訂正発明1?2に関し、訂正明細書及び図面の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。


(3) 本件訂正発明3?4に関する当審の判断
ナ. 上記第3に示されている本件訂正発明3?4は、物である、固体酸化物型燃料電池に係る発明であるところ、その物を製造する方法について、訂正明細書には、上記1.のa.?m.によれば、次の事項が記載されている。

(ナ-1)「【実施例】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。…
[サンプルNo.1?32の作製]
まず、NiOと8YSZの混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極集電層の成形体を形成した。
次に、NiOと8YSZとPMMAの混合物にPVAを添加してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極集電層の成形体上に印刷して、燃料極活性層の成形体を形成した。
次に、8YSZに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極活性層の成形体上に塗布して、固体電解質層の成形体を形成した。
次に、GDCに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを固体電解質層の成形体上に塗布して、バリア層の成形体を形成した。
次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層それぞれの成形体の積層体を共焼成(1400℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を作製した。
次に、表1…に示す空気極材料を準備して、サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製した。この際、空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した。また、空気極材料に用いた原料の粉砕条件(機械エネルギー)と混合時間を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。
次に、このスラリーをバリア層上に塗布して、空気極の成形体を形成した。この際、空気極材料の充填密度を調整することによって、後述するとおり空気極における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。
次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。」(上記1.のl.)

(ナ-2) 【表1】(上記1.のm.の【0067】)には、サンプルNo.1?8の空気極は、同一結晶方位領域の平均円相当径(μm)が、それぞれ、0.03、0.16、0.68、1.5、1.9、2.4、3.3、3.8のLSCFからなること、サンプルNo.16?20の空気極は、同一結晶方位領域の平均円相当径(μm)が、それぞれ、0.12、0.56、1.8、2.6、3.8のLSFからなること、サンプルNo.24?27の空気極は、同一結晶方位領域の平均円相当径(μm)が、それぞれ、0.9、2.1、2.5、3.5のSSCからなることが記載されている。

(ナ-3) また、【表1】(上記1.のm.の【0067】)には、サンプルNo.9?15の空気極は、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、0.89μmで0.1、0.67μmで0.4、0.86μmで0.9、1.1μmで1.6、1.8μmで2.1、2.4μmで3.3、2.9μmで3.9の、LSCFからなること、サンプルNo.21?23の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、0.81μmで0.4、1.4μmで1.1、2.4μmで3.6の、LSFからなること、サンプルNo.28?32の空気極材料は、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、1.1μmで0.8、1.6μmで1.3、2.0μmで1.8、2.4μmで2.5、2.7μmで3.7の、SSCからなることが記載されている。

ニ. 上記(ナ-1)?(ナ-2)からすると、訂正明細書には、例えば、同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μmのLSCFである、サンプルNo.1の固体酸化物型燃料電池用空気極材料を準備し、その空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製し、続いて、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体におけるバリア層上に、前記スラリーを塗布して、空気極の成形体を形成し、1050℃で3時間焼成すると、同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μmのLSCFからなる空気極を備えた、本件訂正発明3の固体酸化物型燃料電池が得られることが記載されているとはいえるものの、前記固体酸化物型燃料電池用空気極材料についての具体的な準備の仕方、すなわち、前記固体酸化物型燃料電池用空気極材料についての具体的な製造方法が記載されているとまではいえない。

ヌ. また、上記(ナ-1)、(ナ-3)からは、例えば、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、0.65μmで0.1のLSCFである、サンプルNo.9の固体酸化物型燃料電池用空気極材料を準備し、その空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製し、続いて、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体におけるバリア層上に、前記スラリーを塗布して、空気極の成形体を形成し、1050℃で3時間焼成すると、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差が、それぞれ、0.89μmで0.1であるLSCFからなる空気極を備えた、本件訂正発明4の固体酸化物型燃料電池が得られることが記載されているとはいえるものの、前記固体酸化物型燃料電池用空気極材料についての具体的な準備の仕方、すなわち、前記固体酸化物型燃料電池用空気極材料についての具体的な製造方法が記載されているとまではいえない。

ネ. ところで、本件訂正発明3は、上記第3に示されるように、「前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上3.3μm以下である」との発明特定事項を備えており、さらに、本件訂正発明4は、上記第3に示されるように、「前記複数の同一結晶方位領域のそれぞれの円相当径の標準偏差値が、3.3以下である」との発明特定事項を備えているから、本件訂正発明3?4の物が製造できるというには、その物の解析方法も明らかでなければならないところ、その物の解析方法については、上記1.のp.?q.によれば、次の事項が把握されるため、その物の解析方法は明らかであるといえる。
すなわち、空気極の断面を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を、【図6】に示されるように、把握できることから、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、【図7】のような、ヒストグラムを得ることができ、そして、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であるため、このヒストグラムから、空気極の断面について、「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」と「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」とが求まるということが把握されるため、その物の解析方法は明らかであるといえる。

ノ. また、上記(2)カ.?ツ.で検討したとおり、固体酸化物型燃料電池用空気極材料は、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を製造することができるといえる。

ハ. してみると、上記ニ.?ノ.の検討から、本件訂正発明3?4の固体酸化物型燃料電池は、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を製造することができるといえる。

ヒ. 小括
よって、本件訂正発明3?4に関し、訂正明細書及び図面の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。


(4) 補足
(4-1) 請求人の主張
請求人が特許法第36条第4項第1号違反を主張する無効理由1は、おおむね次のとおりである。

マ. 本件訂正発明1?2の「空気極材料」の製造方法(例えば、合成条件(混合方法、昇温速度、合成温度/時間)など)について、如何にして、本件訂正発明1?2のパラメータ(平均相当径や標準偏差)を達成するのかについて、訂正明細書には、いわゆる当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないし、本件訂正発明3?4の「空気極」を製造するには、本件訂正発明1?2の「空気極材料」を使用できることが前提となるが、訂正明細書には、空気極の製造にあたり前提となる「空気極材料」を製造できる程度に明確かつ十分に記載されていないことから、「空気極」についても、いわゆる当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない(審判請求書第6頁第9行?第11頁第22行)。

ミ. 大前提として、被請求人が、「本件明細書の記載がいわゆる実施可能要件を満たしていること」を立証できない限り、本件特許は無効とすべきであるところ、訂正明細書や図面の記載には、本件発明における空気極材料を当業者が過度の試行錯誤等をすることなく製造できるほどの記載は一切なく、本件発明における空気極材料を製造するには、長期間を要するし、過度な試行錯誤や複雑高度な実験等が必要であるし、そのような空気極材料を用いて製造される空気極を有する固体酸化物型燃料電池を製造する際にも、過度な試行錯誤や複雑高度な実験等が必要であるため、訂正明細書の記載は、いわゆる当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない(平成27年10月13日付け口頭審理陳述要領書第2頁第4行?第10頁第10行、同書第12頁末行?第15頁第1行、平成28年 2月25日付け審判事件弁駁書第5頁第3行?第6頁第19行、同書第8頁下から6行?第9頁第8行、及び、平成28年 9月15日付け審判事件弁駁書第2頁第4行?第3頁第3行、同書第4頁第11?23行)。

ム. また、無効理由1に関連する、無効理由1’として、空気極材料としての粒子の集合体について、空気極材料が「粉体」、「解砕物」、「塊」のいずれの形態であるかによって、「同一結晶方位領域の円相当径」が変化し、どのような形態で「同一結晶方位領域」を解析するかが特定されない限り、「平均円相当径」を特定できないし、また、EBSD法による結晶方位解析によって描画される「同一結晶方位領域」は、「粉体」状態の空気極材料に対しては、粉体の粒径(大小)、硬化樹脂と粉体の混合割合などの要因によって、複数の粒子どうしの分布状態が変化するため、「同一結晶方位領域の円相当径」が変化し、ひいては、「平均円相当径」も変化する旨の主張をしている(平成27年10月13日付け口頭審理陳述要領書の第10頁第11行?第12頁下から2行)。

メ. さらに、無効理由1に関連する、無効理由1’’としての、新たに追加された資料4をともなう、「結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状態」が制御できなければ、同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能であるし、「同一結晶方位領域」を解析する際に、粉体充填密度をどのような値に設定するのかは何ら記載されていない旨の主張(平成27年12月24日付け上申書の第2頁第5行?第4頁第15行、及び、平成28年 2月25日付け審判事件弁駁書の第6頁第20行?第8頁第22行)について、平成28年 9月15日付け審判事件弁駁書の第3頁第4行?第4頁第7行において、「同一結晶方位領域の平均円相当径」および「同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差」が特定される上での前提となるものであり、無効理由1における間接事実であることは明らかであり、請求理由を補正するものではない旨の主張をしている。


(4-2) 当審の見解
ヤ. 上記(1)ア.?(3)ヒ.で検討したとおり、訂正明細書には、本件訂正発明1?2の空気極材料についての具体的製造方法が記載されているとまではいえないものの、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づくと、当業者が本件訂正発明1?2の空気極材料及び本件訂正発明3?4の固体酸化物型燃料電池を製造することができるため、訂正明細書及び図面の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、請求人の上記(4-1)マ.?ミ.の主張は採用し得ない。

ユ. 上記(4-1)ム.に示した、空気極材料の形態によって、「同一結晶方位領域の円相当径」等が変化し、また、EBSD法による結晶方位解析によって描画される「同一結晶方位領域」は、「粉体」状態の空気極材料に対しては、粉体の粒径(大小)などの要因によって、変化するとの、主張を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠を、請求人は提出していないところ、上記(2)ソ.に示したとおり、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を、【図3】に示されるように、把握できることから、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、【図4】のような、ヒストグラムを得ることができ、そして、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であるため、このヒストグラムから、空気極材料について、「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」と「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」とが求まることから、請求人の上記(4-1)ム.の主張にも合理性は認められず、その主張も採用し得ない。

ヨ. 無効理由1’’については、上記第4の1.の末尾に示したとおり、平成28年 5月20日付け補正許否の決定により、無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから、請求人の上記(4-1)メ.の主張は、本件の審理範囲内の主張ではない。
また、仮に、無効理由1’’の主張が審判請求書にも記載されていたと仮定してみても、本件訂正発明1?2の空気極材料及び本件訂正発明3?4の固体酸化物型燃料電池は、上記(1)ア.?(3)ヒ.で検討したとおり、訂正明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者が製造することができるといえることから、無効理由1’’の主張にも合理性は認められず、その主張も採用し得ない。


(5) まとめ
以上の検討から、無効理由1、無効理由1’によっては、本件訂正発明1?4の特許を無効にすべきとはいえない。


3. 無効理由2?3について
(1) 判断手法
ア. 特許法第36条第6項第1号は、いわゆるサポート要件を規定したものであり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)。

イ. ここで、訂正明細書には、【発明の詳細な説明】との明示の記載はないものの、特許法第36条第3項の規定からすると、訂正明細書のうち、発明の名称についての記載と図面の簡単な説明についての記載とを除いた記載が、発明の詳細な説明の記載となるから、上記1.のa.?m.の記載は、いずれも、発明の詳細な説明の記載である。
そして、上記ア.に示したことからすると、上記第3に示した特許請求の範囲の記載と上記1.のa.?m.に示した、発明の詳細な説明の記載とを対比して、特許請求の範囲に記載された発明と、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係を検討することとなるから、まず、発明の詳細な説明の記載に基づき、本件訂正発明1?2に係る固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明(以下、この発明を、単に「空気極材料の発明」ということもある。)が解決しようとする課題を確認し、次に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲につき整理した後、最終的に、特許請求の範囲に記載された本件訂正発明1?2との対比関係の検討を行うこととする。
次に、本件訂正発明3?4に係る固体酸化物型燃料電池の発明(以下、この発明を、単に「固体酸化物型燃料電池の発明」ということもある。)についても、本件訂正発明1?2についての検討と同様の検討を行うこととする。


(2) 本件訂正発明1?2に係る固体酸化物型燃料電池用空気極材料の
発明についての検討
(2-1) 本件訂正発明1?2に係る固体酸化物型燃料電池用空気極材料
の発明が解決しようとする課題
カ. 発明が解決しようとする課題について、発明の詳細な説明には、
「【発明が解決しようとする課題】

本発明は、…固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料、及び出力を向上可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。」(上記1.のc.の【0005】)との記載があり、この記載によれば、本件訂正発明1?2に係る固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明は、「固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料を提供すること」を発明が解決しようとする課題としていると認められる。

キ. ただし、上記カ.に示した、「固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な」との記載では、固体酸化物型燃料電池の出力に関する向上可能の程度が明らかではない。
そこで、発明の詳細な説明における、固体酸化物型燃料電池の出力に関する記載につきみてみると、次の事項が記載されている。
「[出力密度の測定]
各サンプルにおいて、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
その後、各サンプルについて、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)における出力密度を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、出力密度が0.15W/cm^(2)より小さい場合を×と評価し、出力密度が0.15W/cm^(2)以上である場合を○と評価し、出力密度が0.25W/cm^(2)以上である場合を◎と評価した。」(上記1.のm.の【0065】?【0066】)

ク. 上記キ.に示される事項からすると、上記カ.に示される「固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な」とは、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)において、固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm^(2)以上にすることが可能なことを意味していると認められる。

ケ. 小括
上記カ.?ク.での検討から、固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明は、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)において、固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm^(2)以上にすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供することを、発明が解決しようとする課題としていることが確認できる。


(2-2) 課題を解決できると認識できる固体酸化物型燃料電池用空気
極材料の発明の範囲
サ. 測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)において、固体酸化物型燃料電池の出力密度(以下、この条件での固体酸化物型燃料電池の出力密度を、単に「出力密度」ということがある。)を0.15W/cm^(2)以上にすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料について、発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。

「[サンプルNo.1?32の作製]
… 燃料極、固体電解質層及びバリア層それぞれの成形体の積層体を共焼成(1400℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を作製した。
次に、表1… に示す空気極材料を準備して、サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製した。…
…このスラリーをバリア層上に塗布して、空気極の成形体を形成した。…
次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。」(上記1.のl.)、
「…
[出力密度の測定]

…測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)における出力密度を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、出力密度が0.15W/cm^(2)より小さい場合を×と評価し、出力密度が0.15W/cm^(2)以上である場合を○と評価し、出力密度が0.25W/cm^(2)以上である場合を◎と評価した。
【表1】

表1に示されるように、同一結晶方位領域の平均円相当径を0.03μm以上2.8μm以下とした空気極材料を用いたサンプルNo.1?7,9?19,21?26,28?32では、出力密度を0.15W/cm^(2)以上とすることができた。…
また、表1に示されるように、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を3以下とした空気極材料を用いたサンプルNo.9?14,21,22,28?31では、空気極の出力密度をさらに高くすることができた。…」(上記1.のm.)

シ. 上記サ.の【表1】から、出力密度は、空気極材料の複数の同一結晶方位領域の平均円相当径を0.03μm以上2.8μm以下とすることによって、0.15W/cm^(2)以上にすることができるということが把握される。そして、その出力密度は、上記サ.の【表1】から、空気極材料の複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値を3以下とすることによって、0.25W/cm^(2)以上とすることができるということが把握される。

ス. ここで、「空気極材料の同一結晶方位領域の円相当径」について、発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
(ス-1)「本発明に係る空気極材料は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する。空気極材料を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である。」(上記1.のd.)

(ス-2)「空気極50の材料(以下、「空気極材料」という。)としては、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する材料を用いることができる。空気極材料は、粒子の集合体であればよく、…」(上記1.のf.の【0020】)

(ス-3)「(空気極材料の結晶方位解析)
空気極材料の結晶方位解析結果について、図面を参照しながら説明する。図2は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって倍率15000倍に拡大された空気極材料を示すSEM画像の一例である。図3は、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例である。
EBSD法による結晶方位解析では、結晶方位の不連続性を観測することができ、結晶方位差が所定角度以上の境界によって規定される領域(以下、「同一結晶方位領域」という。)を描画することができる。図3では、結晶方位差が5度以上の境界によって同一結晶方位領域が規定されている。図4は、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例である。
図2に示すように、空気極材料のSEM画像では、粒界によって規定される粒子一つ一つの外形を把握することができる。このSEM画像に基づいて、空気極材料の粒子の平均粒径や粒径の標準偏差などを求めることができる。
図3に示すように、空気極材料のEBSD画像では、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域の外形を把握することができる。

同一結晶方位領域の平均円相当径は。0.03μm以上2.8μm以下であることが好ましい。円相当径とは、同一結晶方位領域と同じ面積を有する円の直径のことであり、平均円相当径とは、複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の算術平均値である。
同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、0.1以上3以下であることが好ましい。
…」(上記1.のg.)

セ. 「空気極材料の複数の同一結晶方位領域の円相当径」について、上記(ス-1)?(ス-2)からは、「空気極材料」は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有することが把握される。

ソ. また、「空気極材料の同一結晶方位領域の円相当径」について、上記(ス-1)と(ス-3)とからは、「空気極材料の同一結晶方位領域」は、粒子の集合体である、空気極材料について、電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析したEBSD画像で描画される、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される領域であることが把握され、また、「空気極材料の同一結晶方位領域の円相当径」とは、同一結晶方位領域と同じ面積を有する円の直径のことであるところ、空気極材料をEBSD法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、複数の同一結晶方位領域の外形を把握できることから、EBSD画像から把握される複数の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムを得ることができ、そして、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であるため、このヒストグラムから、空気極材料について、「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」と「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」とが求まるということが把握される。

タ. 上記サ.?ソ.の検討を踏まえると、発明の詳細な説明の記載から、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する、空気極材料について、電子線後方散乱回折法によって結晶方位解析して得られた、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムから求まる「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」を、0.03μm以上2.8μm以下とすることによって、出力密度を0.15W/cm^(2)以上にすることができるという技術事項が把握でき、さらに、当該ヒストグラムから求まる「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」を、3以下とすることによって、出力密度を0.25W/cm^(2)以上にすることができるという技術事項も把握できる。

チ. 小括
以上の検討から、出力密度を0.15W/cm^(2)以上にすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供するとの、上記(2-1)ケ.に示される、発明が解決しようとする課題は、上記タ.に示した技術事項によって解決できるといえる。
してみると、固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する、空気極材料について、電子線後方散乱回折法によって結晶方位解析して得られた、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、ヒストグラムから求まる「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」を、0.03μm以上2.8μm以下とすることであるといえる。

(2-3) 本件訂正発明1?2に係る固体酸化物型燃料電池用空気極
材料の発明との対応関係の検討
ナ. 上記第3に示した本件訂正発明1?2と、上記(2-2)チ.に示した、固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係につき検討するに、
上記第3に示した本件訂正発明1?2を再掲すると、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、
電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である、
固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項2】
前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である、
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料。 」

ニ. ここで、本件訂正発明1における、上記ナ.に示した、「電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、」、「結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」は、それぞれ、上記(2-2)チ.に示した、固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲における、「電子線後方散乱回折法によって結晶方位解析して得られた、」、「結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、ヒストグラムから求まる「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」」に相当するから、本件訂正発明1は、上記(2-2)チ.に示した、固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められる。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1の発明特定事項のすべてを備えているものである。

ヌ. 小括
してみると、本件訂正発明1?2は、上記(2-2)チ.に示した、固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められる。
よって、本件訂正発明1?2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。


(3) 本件訂正発明3?4に係る固体酸化物型燃料電池の発明に
ついての検討
(3-1) 本件訂正発明3?4に係る固体酸化物型燃料電池の発明が解決
しようとする課題
固体酸化物型燃料電池の発明が解決しようとする課題を、上記(2-1)カ.?ク.での検討と同様にして、上記1.のc.の【0005】の記載と上記1.のm.の【0065】?【0066】の記載とに基づいて検討すると、固体酸化物型燃料電池の発明は、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)において、固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm^(2)以上にすることが可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを、発明が解決しようとする課題としていることが確認できる。

(3-2) 課題を解決できると認識できる固体酸化物型燃料電池の発明の
範囲
固体酸化物型燃料電池の発明の課題を解決できると認識できる範囲を、上記(2-2)サ.?チ.での検討と同様にして、上記1.のl.の記載、上記1.のm.の記載、上記1.のd.?f.の記載、上記1.のh.の記載、及び、上記1.のk.の記載に基づいて検討すると、固体酸化物型燃料電池の発明の課題を解決できると認識できる範囲は、燃料極と、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、を備え、前記空気極の断面について、電子線後方散乱回折法によって結晶方位解析して得られた、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、ヒストグラムから求まる「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」を、0.03μm以上3.3μm以下とすることであるといえる。

(3-3) 本件訂正発明3?4に係る固体酸化物型燃料電池の発明との
対応関係の検討
ハ. 上記第3に示した本件訂正発明3?4と、上記(3-2)に示した、固体酸化物型燃料電池の発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係につき検討するに、
上記第3に示した本件訂正発明1を再掲すると、次のとおりのものである。
「【請求項3】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下である、
固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値は、3.3以下である、
請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池。」

ヒ. ここで、本件訂正発明3における、「前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、」、「結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」は、それぞれ、上記(3-2)に示した、固体酸化物型燃料電池の発明の課題を解決できると認識できる範囲における、「前記空気極の断面について、電子線後方散乱回折法によって結晶方位解析して得られた、」、「結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、ヒストグラムから求まる「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」」に相当するから、本件訂正発明3は、上記(3-2)に示した、固体酸化物型燃料電池の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められる。
また、本件訂正発明4は、本件訂正発明3の発明特定事項のすべてを備えているものである。

フ. 小括
してみると、本件訂正発明3?4は、上記(3-2)に示した、固体酸化物型燃料電池の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められる。
よって、本件訂正発明3?4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。


(4) 補足
(4-1) 請求人の主張
請求人が特許法第36条第6項第1号違反を主張する無効理由2?3は、おおむね次のとおりである。

マ. 訂正明細書には、サンプルNo.1に、空気極材料の同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μmで、空気極の平均円相当径が0.03μmである事例が説明され、サンプルNo.7に、空気極材料の同一結晶方位領域の平均円相当径が2.8μmで、空気極の平均円相当径が3.3μmである事例が説明され、また、サンプルの製造方法として、「空気極の成形体を1050℃、3時間焼成した」ことが記載され(段落0060)、また、空気極の製造方法に関して、段落0048にて、焼成温度が1000?1200℃、焼成時間が1?10時間であること、「焼成温度を高温化したり、焼成時間を長くすると平均円相当径は大きくなり、焼成温度を低温化したり、焼成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある」ことが記載されているため、サンプル1と同じ空気極材料を用いて空気極を製造したとしても、1050℃よりも低い焼成温度で、かつ3時間よりも短い焼成時間で焼成して得られる空気極は、同一結晶方位領域の平均円相当径が0.03μmよりも小さくなることは明らかであるし、サンプル7と同じ空気極材料を用いて空気極を製造したとしても、1050℃よりも高い焼成温度で、かつ3時間よりも長い焼成時間で焼成して得られる空気極は、同一結晶方位領域の平均円相当径が3.3μmよりも大きくなることは明らかであり、本件発明の課題である「固体酸化物型燃料電池の出力を向上」を達成するには、空気極として、「平均円相当径が0.03μm以上3.3μm以下である空気極」を備えることが必要であるため、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明1?2まで、訂正明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない(審判請求書第11頁下から5行?第14頁第2行、及び、平成28年9月15日付け審判事件弁駁書第4頁下から4行?第5頁第10行)。

ミ. 訂正明細書には、サンプルNo.6とNo.14は、平均円相当径が同一の値であるものの、出力密度が大きく異なっているが、平均円相当径以外にどのような要因によって空気極の出力密度が変化するのかについて、訂正明細書には明確に説明されておらず、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明3に規定された平均円相当径の全範囲において課題が解決できると当業者が認識できる程度に具体例や説明が記載されていないため、本件訂正発明3の平均円相当径の全範囲まで、訂正明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないし、本件訂正発明4についても、本件訂正発明3と同様に、訂正明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない(審判請求書第14頁第3行?第15頁第10行、及び、平成28年9月15日付け審判事件弁駁書第5頁第第11?24行)。

ム. 大前提として、被請求人が、「本件明細書の記載がいわゆるサポート要件を満たしていること」を立証できない限り、本件特許は無効とすべきであるところ、本件訂正発明1?2の空気極材料は、焼成温度及び焼成時間の条件によっては、出力向上可能な空気極を製造できない範囲の空気極材料をも含んでおり、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明1?2まで、訂正明細書に開示された内容を拡張ないし般化できるとはいえないし、空気極の平均円相当径および空気極の標準偏差は、いずれも、出力密度との間でどのような相関関係にあるのか規則性を見出すことができず、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明3?4まで、訂正明細書に開示された内容を拡張ないし般化できるとはいえない(平成27年10月13日付け口頭審理陳述要領書第2頁第4?16行、同書第15頁第2行?第25頁下から3行、平成28年2月25日付け審判事件弁駁書第10頁第7行?第13頁第12行、及び、平成28年 9月15日付け審判事件弁駁書第4頁第19行?第5頁第5行)。

メ. 本件訂正発明1?2には、空気極の製造時における焼成条件を特定する記載は存在せず、本件訂正発明1?2に係る「空気極材料」は、焼成条件が通常の範囲外を含んだものであるため、本件訂正発明1?2は、訂正明細書に記載したものでない(平成28年2月25日付け審判事件弁駁書第9頁第9行?第10頁第6行)。


(4-2) 当審の見解
ヤ. 請求人は、上記マ.、ム.のように、本件発明の課題である「固体酸化物型燃料電池の出力を向上」を達成するには、空気極として、「平均円相当径が0.03μm以上3.3μm以下である空気極」を備えることが必要であるとした上で、本件訂正発明1?2の固体酸化物型燃料電池用空気極材料を用いて固体酸化物型燃料電池を作製したとしても、焼成条件によっては、課題を解決し得ない場合がある等、主張しているが、本件訂正発明1?2は、請求人が主張しているような、どのように焼結しても、得られる空気極が、必ず、平均円相当径が0.03μm以上3.3μm以下となる、固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供するということを、解決しようとする課題としているわけではなくて、上記(2-1)カ.?ケ.で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載に基づくと、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)において、固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm^(2)以上とすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供することを、発明が解決しようとする課題としているのである。

ユ. そして、上記ヤ.に示したような、出力密度を0.15W/cm^(2)以上とすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供するとの、発明が解決しようとする課題については、上記(2-2)サ.?(2-3)ヌ.で検討したとおり、本件訂正発明1?2は、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

ヨ. また、請求人は、上記ミ.?ム.のように、空気極の平均円相当径および空気極の標準偏差は、いずれも、出力密度との間でどのような相関関係にあるのか規則性を見出すことができず、出願時の技術常識に照らしても、請求項3?4に係る発明まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし般化できるとはいえない等、主張するにとどまり、発明の詳細な説明の記載に基づき、上記(3-1)で検討したとおり認定される、発明が解決しようとする課題について、本件訂正発明3?4は、その課題を解決し得ない場合まで含んでいるとの主張を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠を提出していないところ、本件訂正発明3?4は、上記(3-2)?上記(3-3)フ.で検討したとおり、発明の課題を解決できると認識できる範囲にあると認められる。

ラ. してみると、請求人の上記マ.?メ.の主張は妥当な主張とはいえず、採用し得ない。


(5) まとめ
以上の検討から、無効理由2によっては、本件訂正発明1?2の特許を無効にすべきとはいえないし、無効理由3によっては、本件訂正発明3?4の特許を無効にすべきとはいえない。


4. 無効理由4について
無効理由4は、訂正前の本件発明1?2が「空気極材料」の発明であったのに対し、本件特許の明細書には、「固体酸化物型燃料電池の空気極材料」が記載されているのみであったことに基づく無効理由であると認められるが、本件訂正により、上記第3に示したように、本件訂正発明1?2は、「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」に係る発明とされ、「固体酸化物型燃料電池の空気極材料」が記載されているのみの、訂正明細書の記載と整合することとなった。

してみると、本件訂正発明1?2は、無効理由4によっては、その特許を無効にすべきとはいえない。


5. 無効理由5について
(1) 甲号証記載の発明
(1-1) 甲第2号証記載の発明
ア. 甲第2号証には、上記第4の2.(1a)によれば、「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有し、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、電極材料」に係る発明と、「その電極材料からなる空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と、を備える固体酸化物型燃料電池セル」に係る発明とが記載されていると認められる。

イ. 上記ア.に示した「電極材料」は、上記第4の2.(1b)によれば、それによって形成された空気極を備える固体酸化物型燃料電池セルに関する電極材料であり、固体酸化物型燃料電池セルが備える空気極を形成するための電極材料と言い換えることができる。

ウ. また、上記第4の2.(1c)によれば、その電極材料は、複合酸化物を主成分として含んでいるといえる。

エ. 上記ア.?ウ.の検討から、固体酸化物型燃料電池セルが備える空気極を形成するための電極材料に注目すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、固体酸化物型燃料電池セルが備える空気極を形成するための電極材料」に係る発明(以下、この発明を、「甲2a発明」という。)。

オ. また、上記ア.?ウ.の検討から、固体酸化物型燃料電池セルに注目すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、電極材料からなる空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と、を備える固体酸化物型燃料電池セル」に係る発明(以下、この発明を、「甲2b発明」という。)。


(1-2) 甲第3号証記載の発明
カ. 甲第3号証には、上記第4の2.(2f)によれば、空気極材料に係る発明に注目すると、「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物によって構成される空気極材料であって、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、固体酸化物型燃料電池セルの空気極材料」に係る発明(以下、この発明を、「甲3a発明」という。)が記載されていると認められる。

キ. また、甲第3号証には、上記第4の2.(2f)によれば、固体酸化物型燃料電池セルに係る発明に注目すると、「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物によって構成される空気極材料であって、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、空気極材料からなる空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と、を備える固体酸化物型燃料電池セル」に係る発明(以下、この発明を、「甲3b発明」という。)が記載されていると認められる。


(2) 本件発明と甲第2号証記載の発明との対比・判断
(2-1) 本件訂正発明1と甲2a発明との対比・判断
1ア. 本件訂正発明1と、上記(1-1)エ.に示される、甲2a発明とを対比すると、甲2a発明における「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ」ること、「固体酸化物型燃料電池セルが備える空気極を形成するための電極材料」は、それぞれ、本件訂正発明1における「一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有」すること、「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」に相当するから、両者は次の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点1:固体酸化物型燃料電池用空気極材料が、
本件訂正発明1では、「電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲2a発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

1イ. そこで、相違点1につき、以下、検討するに、甲2a発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料(以下、固体酸化物型燃料電池用空気極材料を、単に、「空気極材料」ということもある。)は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」との発明特定事項を備えているところ、この発明特定事項は、上記第4の2.(1d)、上記第4の2.(1f)の【0086】?【0096】によれば、空気極材料の解砕物について、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)やEPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)などの電子顕微鏡において100倍?5000倍の倍率で観察される範囲の1つの視野内の10スポットにおいてEDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトの各元素、Bサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定し、上記第4の2.(1f)の【0092】の【表1】に示されるような、その10スポットの測定結果から、Aサイトの各元素についての濃度の平均値と標準偏差とを算出し、Aサイトの各元素の中から標準偏差が最大となる値を取り出すという、材料解析技術によって特定される値が10.3以下であるという発明特定事項である。

1ウ. そして、甲2a発明は、上記第4の2.(1f)の【0079】?【0096】によれば、その空気極材料を用いて固体酸化物型燃料電池を作製すると、その固体酸化物型燃料電池は、温度750℃、電流密度0.3A/cm^(2)で1000時間連続発電を実施しても電圧降下率が1%以下であるという技術的意義を有する。

1エ. 上記1イ.に示したような発明特定事項を備え、その発明特定事項は、上記1イ.に示したような材料解析技術によって特定され、そして、上記1ウ.に示したような技術的意義を有する甲2a発明に対して、本件訂正発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を備えているところ、上記1.のn.?o.によれば、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を、【図3】に示されるように、把握できることから、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、【図4】のような、ヒストグラムを得ることができ、そして、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であるため、このヒストグラムから、空気極材料について、「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」と「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」とが求まるという、材料解析技術によって特定される技術事項のうちの「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」が、0.03μm以上2.8μm以下であるというものである。そして、本件訂正発明1は、上記1.のl.?m.によれば、その空気極材料を用いて固体酸化物型燃料電池を作製すると、その固体酸化物型燃料電池は、温度750℃、電流密度0.2A/cm^(2)で出力密度が0.15w/cm^(2)以上であるという技術的意義を有するものである。

1オ. 上記1ア.?1エ.の検討からすると、甲2a発明と本件訂正発明1は、いずれも、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料に係る発明ではあるものの、互いに、備えている発明特定事項、その発明特定事項を特定するための材料解析技術、技術的意義が、いずれも、異なっていることは、明らかであるから、両者は、互いに、技術的思想を異にする関係にある、異なる発明であるといえる。

1カ. また、本件特許に係る出願の優先日前において、甲2a発明に該当する空気極材料の中に、上記相違点1に係る発明特定事項を備えた空気極材料があったことを、裏付け得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらない。

1キ. そうすると、甲2a発明は、本件訂正発明1とは実質的に異なる発明である。また、甲2a発明のような空気極材料に、上記相違点1に係る発明特定事項を備えさせることが、本件特許に係る出願の優先日前において、周知のことであると認定し得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし、技術常識であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらないから、本件訂正発明1は、甲2a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

1ク. 小括
よって、本件訂正発明1は、甲2a発明であるとはいえないし、また、甲2a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-2) 本件訂正発明2と甲2a発明との対比・判断
2ア. 本件訂正発明2は、上記第3に示されるように、本件訂正発明1が備える全ての発明特定事項を備えた上で、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である」との発明特定事項も備えるものであるところ、このような本件訂正発明2と、上記(1-1)エ.に示される、甲2a発明とを対比すると、上記(2-1)1ア.での検討と同様にして、両者は、上記相違点1以外に、次の点でも相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点2:固体酸化物型燃料電池用空気極材料が、
本件訂正発明2では、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲2a発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

2イ. 上記相違点1に係る発明特定事項を備えた本件訂正発明1については、上記(2-1)1ア.?1ク.で検討したとおり、甲2a発明であるとはいえないし、また、甲2a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえないのであるから、上記相違点2についての検討を行うまでもなく、本件訂正発明2も、甲2a発明であるとはいえないし、また、甲2a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

2ウ. 小括
よって、本件訂正発明2は、甲2a発明であるとはいえないし、また、甲2a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-3) 本件訂正発明3と甲2b発明との対比・判断
3ア. 本件訂正発明3と、上記(1-1)オ.に示される、甲2b発明とを対比すると、甲2b発明における「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ」る「電極材料からなる空気極」、「固体酸化物型燃料電池セル」は、それぞれ、本件訂正発明3における「一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極」、「固体酸化物型燃料電池」に相当するから、両者は次の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点3:固体酸化物型燃料電池における空気極が、
本件訂正発明3では、「前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲2b発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、電極材料からなる」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

3イ. そこで、相違点3につき検討するに、甲2b発明の固体酸化物型燃料電池は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、電極材料からなる空気極」との発明特定事項を備えているところ、この発明特定事項は、上記1イ.で検討したとおり、電極材料の解砕物について、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)やEPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)などの電子顕微鏡において100倍?5000倍の倍率で観察される範囲の1つの視野内の10スポットにおいて、EDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトの各元素、Bサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定し、上記第4の2.(1f)の【0092】の【表1】に示されるような、その10スポットの測定結果から、Aサイトの各元素についての濃度の平均値と標準偏差とを算出し、Aサイトの各元素の中から標準偏差が最大となる値を取り出すという、材料解析技術によって特定される値が10.3以下であるという発明特定事項である。

3ウ. そして、甲2b発明は、上記第4の2.(1f)の【0079】?【0109】によれば、その電極材料からなる空気極を備えた固体酸化物型燃料電池は、温度750℃、電流密度0.3A/cm^(2)で1000時間連続発電を実施しても電圧降下率が1%以下であるという技術的意義を有する。

3エ. 上記3イ.に示したような発明特定事項を備え、その発明特定事項は、上記3イ.に示したような材料解析技術によって特定され、そして、上記3ウ.に示したような技術的意義を有する甲2b発明に対して、本件訂正発明3は、上記相違点3に係る発明特定事項を備えているところ、上記1.のp.?q.によれば、空気極の断面を電子線後方散乱回折(EBSD)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像によると、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される、同一結晶方位領域一つ一つの外形を、【図6】に示されるように、把握できることから、EBSD画像から把握される同一結晶方位領域の円相当径の分布を示す、【図7】のような、ヒストグラムを得ることができ、そして、平均円相当径とは複数の同一結晶方位領域の円相当径の算術平均値であるため、このヒストグラムから、空気極の断面について、「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」と「複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差値」とが求まるという、材料解析技術によって特定される技術事項のうちの「複数の同一結晶方位領域の平均円相当径」が、0.03μm以上3.3μm以下であるというものである。そして、本件訂正発明3は、上記1.のl.?m.によれば、その空気極を備えた固体酸化物型燃料電池は、温度750℃、電流密度0.2A/cm^(2)で出力密度が0.15w/cm^(2)以上であるという技術的意義を有するものである。

3オ. 上記3ア.?3エ.の検討からすると、甲2b発明と本件訂正発明3は、いずれも、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極を備えた固体酸化物型燃料電池に係る発明ではあるものの、互いに、備えている発明特定事項、その発明特定事項を特定するための材料解析技術、技術的意義が、いずれも、異なっていることは、明らかであるから、両者は、互いに、技術的思想を異にする関係にある、異なる発明であるといえる。

3カ. また、本件特許に係る出願の優先日前において、甲2b発明に該当する固体酸化物型燃料電池の中に、上記相違点3に係る発明特定事項を備えた固体酸化物型燃料電池があったことを、裏付け得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらない。

3キ. そうすると、甲2b発明は、本件訂正発明3とは実質的に異なる発明である。また、甲2b発明のような固体酸化物型燃料電池における空気極に、上記相違点3に係る発明特定事項を備えさせることが、本件特許に係る出願の優先日前において、周知のことであると認定し得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし、技術常識であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらないから、本件訂正発明3は、甲2b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

3ク. 小括
よって、本件訂正発明3は、甲2b発明であるとはいえないし、また、甲2b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-4) 本件訂正発明4と甲2b発明との対比・判断
4ア. 本件訂正発明4は、上記第3に示されるように、本件訂正発明3が備える全ての発明特定事項を備えた上で、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値は、3.3以下である」との発明特定事項も備えるものであるところ、このような本件訂正発明4と、上記(1-1)オ.に示される、甲2b発明とを対比すると、上記(2-3)3ア.での検討と同様にして、両者は、上記相違点3以外に、次の点でも相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点4:固体酸化物型燃料電池における空気極が、
本件訂正発明4では、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3.3以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲2b発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、電極材料からなる」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

4イ. 上記相違点3に係る発明特定事項を備えた本件訂正発明3については、上記(2-3)3ア.?3ク.で検討したとおり、甲2b発明であるとはいえないし、また、甲2b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえないのであるから、上記相違点4についての検討を行うまでもなく、本件訂正発明4も、甲2b発明と同じであるとはいえないし、また、甲2b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

4ウ. 小括
よって、本件訂正発明4は、甲2b発明であるとはいえないし、また、甲2b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(3) 本件発明と甲第3号証記載の発明との対比・判断
(3-1) 本件訂正発明1と甲3a発明との対比・判断
1サ. 本件訂正発明1と、上記(1-2)カ.に示される、甲3a発明とを対比すると、甲3a発明における「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物によって構成される空気極材料であって、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ」ること、「固体酸化物型燃料電池セルの空気極材料」は、それぞれ、本件訂正発明1における「一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有」すること、「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」に相当するから、両者は次の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点1’:固体酸化物型燃料電池用空気極材料が、
本件訂正発明1では、「電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲3a発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

1シ. そこで、相違点1’につき検討するに、この相違点は、上記(2-1)1ア.に示した相違点1と同じであり、 甲3a発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料も、甲2a発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料と同様、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」との発明特定事項を備えているところ、この発明特定事項は、上記第4の2.(2a)、上記第4の2.(2c)の[0120]?[0130]によれば、空気極材料の解砕物について、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)やEPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)などの電子顕微鏡において100倍?5000倍の倍率で観察される範囲の1つの視野内の10スポットにおいてEDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトの各元素、Bサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定し、上記第4の2.(2c)の[0126]の[表1]に示されるような、その10スポットの測定結果から、Aサイトの各元素についての濃度の平均値と標準偏差とを算出し、Aサイトの各元素の中から標準偏差が最大となる値を取り出すという、材料解析技術によって特定される値が10.3以下であるという発明特定事項である。

1ス. そして、甲3a発明は、上記第4の2.(2c)の[0113]?[0145]によれば、その空気極材料を用いて固体酸化物型燃料電池を作製すると、その固体酸化物型燃料電池は、温度750℃、電流密度0.3A/cm^(2)で1000時間連続発電を実施しても電圧降下率が1%以下であるという技術的意義を有する。

1セ. 上記1シ.に示したような発明特定事項を備え、その発明特定事項は、上記1シ.に示したような材料解析技術によって特定され、そして、上記1ス.に示したような技術的意義を有する甲3a発明は、甲2a発明と同じであるから、上記(2-1)1エ.?1オ.での検討と同様にして、甲3a発明と本件訂正発明1は、いずれも、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料に係る発明ではあるものの、互いに、備えている発明特定事項、その発明特定事項を特定するための材料解析技術、技術的意義が、いずれも、異なっていることは、明らかであるから、両者は、互いに、技術的思想を異にする関係にある、異なる発明であるといえる。

1ソ. また、本件特許に係る出願の優先日前において、甲3a発明に該当する空気極材料の中に、上記相違点1’に係る発明特定事項を備えた空気極材料があったことを、裏付け得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらない。

1タ. そうすると、甲3a発明は、本件訂正発明1とは実質的に異なる発明である。また、甲3a発明のような空気極材料に、上記相違点1’に係る発明特定事項を備えさせることが、本件特許に係る出願の優先日前において、周知のことであると認定し得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし、技術常識であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらないから、本件訂正発明1は、甲3a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

1チ. 小括
よって、本件訂正発明1は、甲3a発明であるとはいえないし、また、甲3a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(3-2) 本件訂正発明2と甲3a発明との対比・判断
2サ. 本件訂正発明2は、上記第3に示されるように、本件訂正発明1が備える全ての発明特定事項を備えた上で、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である」との発明特定事項も備えるものであるところ、このような本件訂正発明2と、上記(1-2)カ.に示される、甲3a発明とを対比すると、上記(3-1)1サ.での検討と同様にして、両者は、上記相違点1’以外に、次の点でも相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点2’:固体酸化物型燃料電池用空気極材料が、
本件訂正発明2では、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲3a発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

2シ. 上記相違点1’に係る発明特定事項を備えた本件訂正発明1については、上記(3-1)1サ.?1チ.で検討したとおり、甲3a発明であるとはいえないし、また、甲3a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえないのであるから、上記相違点2’についての検討を行うまでもなく、本件訂正発明2も、甲3a発明であるとはいえないし、また、甲3a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

2ス. 小括
よって、本件訂正発明2は、甲3a発明であるとはいえないし、また、甲3a発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(3-3) 本件訂正発明3と甲3b発明との対比・判断
3サ. 本件訂正発明3と、上記(1-2)キ.に示される、甲3b発明とを対比すると、甲3b発明における「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物によって構成される空気極材料であって、前記Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ」る「空気極材料からなる空気極」、「固体酸化物型燃料電池セル」は、それぞれ、本件訂正発明3における「一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極」、「固体酸化物型燃料電池」に相当するから、両者は次の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点3’:固体酸化物型燃料電池における空気極が、
本件訂正発明3では、「前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲3b発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、空気極材料からなる」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

3シ. そこで、相違点3’につき検討するに、この相違点は、上記(2-3)3ア.に示した相違点3と同じであり、甲3b発明の固体酸化物型燃料電池は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、空気極材料からなる空気極」との発明特定事項を備えているところ、この発明特定事項は、上記1シ.で検討したとおり、空気極材料の解砕物について、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)やEPMA(電子プローブマイクロアナライザー:Electron Probe Micro Analyzer)などの電子顕微鏡において100倍?5000倍の倍率で観察される範囲の1つの視野内の10スポットにおいて、EDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトの各元素、Bサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定し、上記第4の2.(2c)の[0126]の[表1]に示されるような、その10スポットの測定結果から、Aサイトの各元素についての濃度の平均値と標準偏差とを算出し、Aサイトの各元素の中から標準偏差が最大となる値を取り出すという、材料解析技術によって特定される値が10.3以下であるという発明特定事項である。

3ス. そして、甲3b発明は、上記第4の2.(2c)の[0113]?[0145]によれば、その空気極材料からなる空気極を備えた固体酸化物型燃料電池は、温度750℃、電流密度0.3A/cm^(2)で1000時間連続発電を実施しても電圧降下率が1%以下であるという技術的意義を有する。

3セ. 上記3シ.に示したような発明特定事項を備え、その発明特定事項は、上記3シ.に示したような材料解析技術によって特定され、そして、上記3ス.に示したような技術的意義を有する甲3b発明は、甲2b発明と同じであるから、上記(2-3)3エ.?3オ.での検討と同様にして、甲3b発明も、本件訂正発明3とは実質的に異なる発明であるし、また、甲3b発明のような固体酸化物型燃料電池における空気極に、上記相違点3’に係る発明特定事項を備えさせることが、本件特許に係る出願の優先日前において、周知のことであると認定し得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし、技術常識であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらないから、本件訂正発明3は、甲3b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

3ソ. 小括
よって、本件訂正発明3は、甲3b発明であるとはいえないし、また、甲3b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(3-4) 本件訂正発明4と甲3b発明との対比・判断
4サ. 本件訂正発明4は、上記第3に示されるように、本件訂正発明3が備える全ての発明特定事項を備えた上で、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値は、3.3以下である」との発明特定事項も備えるものであるところ、このような本件訂正発明4と、上記(1-2)キ.に示される、甲3b発明とを対比すると、上記(3-3)3サ.での検討と同様にして、両者は、上記相違点3’以外に、次の点でも相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点4’:固体酸化物型燃料電池における空気極が、
本件訂正発明4では、「前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値は、3.3以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲2b発明は、「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である、電極材料からなる」ものの、前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点。

4シ. 上記相違点3’に係る発明特定事項を備えた本件訂正発明3については、上記(3-3)3サ.?3ソ.で検討したとおり、甲3b発明であるとはいえないし、また、甲3b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえないのであるから、上記相違点4’についての検討を行うまでもなく、本件訂正発明4も、甲3b発明であるとはいえないし、また、甲3b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

4ス. 小括
よって、本件訂正発明4は、甲3b発明であるとはいえないし、また、甲3b発明に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(4) 補足
(4-1) 請求人の主張
請求人が本件訂正発明1?4は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、又は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張する無効理由5は、おおむね次のとおりである。

ア. 訂正明細書における、原料の種類、原料の混合、原料の混合条件、合成温度、合成時間という、空気極材料の製造に関する記載内容は、甲第2号証および甲第3号証と同一または類似であるため、本件訂正発明1?2は、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明と同じ物であるか、又はそれと類似のものであり、訂正明細書における空気極の製造に関する記載内容は、甲第2号証および甲第3号証と同一または類似であるため、本件訂正発明3?4は、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明と同じ物であるか、又はそれと類似のものである旨主張している(審判請求書第16頁第12行?第28頁下から2行、平成27年10月13日付けの口頭審理陳述要領書第27頁第9行?第33頁第15行、同書に添付された資料1?3、及び、平成28年 9月15日付けの審判事件弁駁書第5頁下から3行?第6頁第8行)。

イ. 本件特許は、無効理由1および無効理由5のいずれか一方を有する旨主張している(平成28年 2月25日付けの審判事件弁駁書第13頁第13行?第14頁第12行、及び、平成28年 9月15日付けの審判事件弁駁書第6頁第9行?下から3行)。


(4-2) 当審の見解
カ. 甲第2号証には、上記第4の2.(1f)の【0080】に記載された、例えば、(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)(以下、「LSCF」という。)からなる10種の空気極材料(No.1?No.10)について、上記第4の2.(1c)、(1e)によれば、「LSCFを得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられ、空気極材料における組成分布を制御し得る因子としては、さらに、原料の種類、原料の混合方法、原料の混合条件に加えて、合成温度(900℃?1400℃、1?30hr)が挙げられる」旨の空気極材料の製造に関する記載がされているところ、このような空気極材料の製造に関する記載のうち、「LSCFを得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられる」との記載については、上記1.のf.と上記1.のi.の【0035】?【0038】に示したように、訂正明細書にも同一内容の記載があるものの、「空気極材料における組成分布を制御し得る因子としては、さらに、原料の種類、原料の混合方法、原料の混合条件に加えて、合成温度(900℃?1400℃、1?30hr)が挙げられる」との記載については、上記(2)?(3)で検討したとおり、本件発明は、LSCFのAサイトの元素の原子濃度の標準偏差の最大値という、空気極材料における組成分布を制御する発明ではない等のため、訂正明細書には同一内容の記載は見当たらない。

キ. そして、甲第2号証には、上記カ.に示した、No.1?No.10の空気極材料について、上記第4の2.(1f)の【0081】には、「同じ一般式で表され、かつ番号の異なる空気極材料は、出発原料、焼成条件、粉砕条件がそれぞれ異なる。また、各空気極材料が固相法及び液相法のいずれかで合成されたかは、表中に記載している」旨の記載があるから、それらの空気極材料は、固相法及び液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)のいずれかで合成されたものの、互いに、出発原料、焼成条件、粉砕条件(以下、これらの条件を、まとめて「製造条件」ということがある。)が異なると認められるところ、上記第4の2.(1f)の【0079】?【0096】によれば、製造されたNo.1?No.10の空気極材料は、LSCFのAサイトの元素の原子濃度の標準偏差の最大値が、互いに、相違しており、それらの空気極材料のうちのNo.5?No.6の空気極材料は、上記(1-1)エ.に示した甲2a発明に該当せず、また、製造されたNo.1?No.10の空気極材料のそれぞれを用いてペーストを作製して、バリア層上にスクリーン印刷してから1000℃で2hr焼成することで作製された固体酸化物型燃料電池のうち、No.5?No.6の空気極材料を用いて作製された固体酸化物型燃料電池は、上記(1-1)オ.に示した甲2b発明に該当しなかったとされている。

ク. また、甲第3号証には、上記第4の2.(2c)の[0114]に記載された、例えば、(La_(0.6)Sr_(0.4))(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)(以下、「LSCF」という。)からなる10種の空気極材料(No.1?No.10)について、上記第4の2.(2b)、(2d)、(2e)によれば、「LSCFを得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられ、固相法を用いる場合には、図1のフロー図のような、ステップS101?S106を順次行って、空気極材料の平均粒径を0.3μm?1.2μmに調整し、比表面積も調整し、液相法を用いる場合には、図2のフロー図のような、ステップS201?S206を順次行って、空気極材料の平均粒径を0.3μm?1.2μmに調整し、比表面積も調整する」旨の空気極材料の製造に関する記載がされているところ、このような空気極材料の製造に関する記載のうち、「LSCFを得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられる」という記載については、上記カ.で検討したとおり、訂正明細書にも同一内容の記載があるものの、「固相法を用いる場合には、図1のフロー図のような、ステップS101?S106を順次行って、空気極材料の平均粒径を0.3μm?1.2μmに調整し、比表面積も調整し、液相法を用いる場合には、図2のフロー図のような、ステップS201?S206を順次行って、空気極材料の平均粒径を0.3μm?1.2μmに調整し、比表面積も調整する」という記載については、訂正明細書には同一内容の記載は見当たらない。

ケ. そして、甲第3号証には、上記ク.に示した、No.1?No.10の空気極材料について、上記第4の2.(2c)の[0115]には、「同じ一般式で表され、かつ番号の異なる空気極材料は、出発原料、焼成条件、粉砕条件がそれぞれ異なる。また、各空気極材料が固相法及び液相法のいずれで合成されたかは、表中に記載している」旨の記載があるから、それらの空気極材料は、固相法及び液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)のいずれかで合成されたものの、互いに、出発原料、焼成条件、粉砕条件(以下、これらの条件を、まとめて「製造条件」という。)が異なると認められるところ、上記第4の2.(2c)の[0113]?[0130]によれば、製造されたNo.1?No.10の空気極材料は、LSCFのAサイトの元素の原子濃度の標準偏差の最大値が、互いに、相違しており、それらの空気極材料のうちのNo.5?No.6の空気極材料は、上記(1-2)カ.に示した甲3a発明に該当せず、また、製造されたNo.1?No.10の空気極材料のそれぞれを用いてペーストを作製して、バリア層上にスクリーン印刷してから1000℃下で2hr焼成することで作製された固体酸化物型燃料電池のうち、No.5?No.6の空気極材料を用いて作製された固体酸化物型燃料電池は、上記(1-2)キ.に示した甲3b発明に該当しなかったとされている。

コ. 上記カ.?ケ.の検討からすると、甲第2?3号証には、LSCFからなる空気極材料を固相法及び液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)のいずれかで合成したとしても、必ずしも、甲2a発明や甲3a発明に該当する空気極材料が得られるとは限らないことが記載されているといえるから、「LSCFを得る方法としては、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等が挙げられる」との空気極材料の製造に関する記載が、甲第2?3号証と同様に、訂正明細書にも記載されているということは、本件訂正発明1?2が甲第2号証および甲第3号証に記載された発明であることを裏付け得る証拠とはなり得ないことは明らかであるし、また、本件訂正発明3?4が甲第2号証および甲第3号証に記載された発明であることを裏付け得る証拠ともなり得ないことも明らかである。

サ. また、上記カ.?ケ.の検討からすると、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料は、LSCFのAサイトの元素の原子濃度の標準偏差の最大値が、互いに、相違したとの結果を生じたが、そのような結果は、互いに異なる製造条件で製造されたことに起因していると認められるところ、そのような結果が生じたことは、化学技術の分野においては、一般に、複雑な反応工程をたどることが多く、出発物質、反応条件等のわずかな相違によって同一の生成物が得られないとの結果を生ずるという技術常識と整合している。

シ. そして、上記サ.に示した技術常識を考慮すると、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料が、本件訂正発明1?2のLSCFでなる空気極材料と同じ物であるか否かを、その物の製造方法の観点から合理的に検討するにあたっては、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料についての製造条件が、本件訂正発明1?2のLSCFからなる空気極材料についての製造条件と全く同一であるといえるか否かを客観的かつ具体的に検討することとなるところ、その検討にあたっては、本件訂正発明1?2のLSCFからなる空気極材料についての製造条件との対比の対象となる、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料についての製造条件が明確に特定されていることが必須の前提となる。

ス. そこで、改めて、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料についての製造条件に関する記載を精査してみるに、甲第2?3号証には、No.1?No.10のLSCFからなる空気極材料についての製造条件に関しては、上記キ.や上記ケ.で指摘したとおり、「同じ一般式で表され、かつ番号の異なる空気極材料は、出発原料、焼成条件、粉砕条件がそれぞれ異なる。また、各空気極材料が固相法及び液相法のいずれかで合成されたかは、表中に記載している」旨の記載があるのみで、No.1?10のLSCFからなる空気極材料を製造するにあたって、出発原料、焼成条件、粉砕条件が、それぞれ、具体的にどのようであったのかを明確に特定し得る記載は見当たらない。また、甲第2?3号証におけるNo.1?10のLSCFからなる空気極材料を製造するにあたっての製造条件を客観的かつ具体的に裏付け得る証拠も見当たらない。
したがって、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料が、本件訂正発明1?2のLSCFでなる空気極材料と同じ物であるか否かを、その物の製造方法の観点から検討するにあたっての、上記シ.で指摘した、必須の前提となっていることが欠けているため、甲第2?3号証におけるNo.1?No.10のLSCFからなる空気極材料が、本件訂正発明1?2のLSCFからなる空気極材料と同じ物であるか否かを、その物の製造方法の観点からは合理的な検討ができないといえる。

セ. また、LSCF以外からなる空気極材料、及び、空気極材料を用いて作製された固体酸化物型燃料電池についても、上記カ.?ス.と同様の検討により、その物の製造方法の観点からは合理的な検討ができないといえる。

ソ. 上記カ.?セ.の検討を踏まえると、請求人の上記(4-1)ア.の主張は妥当な主張とはいえず、採用し得ない。

タ. また、上記2.(1)?(5)で検討したとおり、無効理由1によっては、本件訂正発明1?4の特許を無効にすべきとはいえない。

チ. してみると、請求人の上記(4-1)イ.の主張も妥当な主張とはいえず、採用し得ない。


(5) まとめ
以上の検討から、無効理由5によっては、本件訂正発明1?4の特許を無効にすべきとはいえない。


第6 当審における無効理由通知の概要
当審において平成27年12月 9日付けで通知した無効理由通知(以下、「当審無効理由」という。)は、おおむね次のとおりである。

1. 特許請求の範囲の請求項1?2の記載について
訂正前の本件発明1?2は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?2に記載されるとおりの「空気極材料」に係る発明(以下、単に、「本件の空気極材料に係る発明」と称することがある。)である。
これに対して、本件特許の明細書には、固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料を提供するとの発明が解決しようとする課題が記載され、その課題が本件の空気極材料に係る発明によって解決できることが記載されているところ、それ以外の課題が、本件の空気極材料に係る発明によって解決できることまでの記載はない。
ここで、固体酸化物型燃料電池において良好な空気極材料が、例えば、高温水蒸気電解セル等の固体酸化物型燃料電池以外の用途においても良好な空気極材料となるということは技術常識とまではいえないし(特開平9-228085号公報の【0002】?【0008】、特表2009-544843号公報の【0005】?【0006】等参照。)、また、固体酸化物型燃料電池だけではなくて、例えば、高温水蒸気電解セル等の固体酸化物型燃料電池以外の用途にも用いることができる発明にあっては、そのような発明についての説明が発明の詳細な説明で具体的に行われるのが通常である(特開平11-260376号公報の【0001】?【0014】、特開2010-159458号公報の【0001】?【0026】等参照。)。
してみると、固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料を提供するとの発明が解決しようとする課題以外の課題が、本件の空気極材料に係る発明によって解決できることまでの記載がない、本件特許の明細書にあっては、その開示を本件の空気極材料に係る発明にまで拡張ないし一般化することはできるとはいえない。
したがって、訂正前の本件発明1?2は本件特許の明細書に記載されたものではないから、訂正前の本件発明1?2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

2. 明細書の記載について
訂正前の段落【0028】には、「後述するように、空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差は、原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。」との記載があり、また、訂正前の段落【0034】には、「後述するように、空気極50における同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差は、空気極50の焼成条件を調整することによって制御することができる。」との記載がある。
そして、これらの記載に関し、本件特許の明細書には、原料の粉砕/混合条件を制御することによって、「空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差」を制御できることは具体的に記載されている(【0039】?【0040】)ものの、「空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径」が原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御できることは明記されていないし、また、焼成条件を制御することによって、「空気極50における同一結晶方位領域の平均円相当径」を制御できることは具体的に記載されている(【0048】)ものの、「空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差」が、空気極50の焼成条件を調整することによって制御できることは明記されていない。
してみると、本件特許の明細書の記載は、全体として、整合性がとれておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものといえ、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。


第7 当審無効理由についての判断
1. 特許請求の範囲の請求項1?2の記載について
上記第2のとおり本件訂正を認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?2に係る発明は、それぞれ、上記第3に示したとおりの本件訂正発明1?2となった。
そして、本件訂正発明1?2については、上記第5の3.(1)ア.?(2-3)ヌ.で検討したとおり、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しているとはいえない。

2. 明細書の記載について
上記第2のとおり本件訂正を認めるので、本件特許の明細書の記載は、訂正明細書に記載のとおりとなった。
すなわち、訂正明細書においては、「後述するように、空気極材料における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。」(【0028】)との記載、「後述するように、空気極50における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、空気極50の成形体の粉体充填密度を調整することによって制御することができる。」(【0034】)との記載は、それぞれ、同書における「…原料の粉砕/混合条件を制御することによって、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、粉砕条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり、混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり、粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり、混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる傾向がある。」(【0040】)との記載、「…空気極成形体の粉体充填密度を制御することによって、空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、空気極成形体の粉体充填密度を低くすると標準偏差は大きくなり、空気極成形体の粉体充填密度を高くすると標準偏差は小さくなる傾向がある。」(【0048】)との記載と整合することとなった。
そして、訂正明細書については、上記第5の2.(1)ア.?(3)ヒ.で検討したとおり、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものとはいえない。

3. まとめ
上記1.?2.の検討を踏まえると、上記第6に示した当審無効理由によっては、本件特許は無効にすべきものとはいえない。


第8 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法並びに当審無効理由によっては、本件訂正発明1?2の特許、及び、本件訂正発明3?4の特許は無効にすべきものとはいえないし、また、他に無効とすべき理由も見当たらない。

審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
空気極材料及び固体酸化物型燃料電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極材料及び空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、一般的に、燃料極と、固体電解質層と、空気極と、を備える。空気極材料としては、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)などのペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いることができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-32132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、固体酸化物型燃料電池の出力を向上させるには、空気極の活性を高めることが好ましい。本発明者らは、鋭意検討した結果、空気極材料の粉体粒子及び空気極の構成粒子において同程度の結晶方位を有する領域のサイズが空気極の活性に関連していることを新たに見出した。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料、及び出力を向上可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気極材料は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する。空気極材料を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料、及び出力を向上可能な固体酸化物型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】固体酸化物型燃料電池の構成を示す断面図
【図2】空気極材料のSEM画像の一例
【図3】空気極材料のEBSD画像の一例
【図4】空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例
【図5】空気極のSEM画像の一例
【図6】空気極のEBSD画像の一例
【図7】空気極における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
(固体酸化物型燃料電池10の構成)
固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)10の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、固体酸化物型燃料電池10の構成を示す断面図である。
【0011】
固体酸化物型燃料電池10は、縦縞型、横縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型の燃料電池である。固体酸化物型燃料電池10は、図1に示すように、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40および空気極50を備える。
【0012】
燃料極20は、固体酸化物型燃料電池10のアノードとして機能する。燃料極20は、図1に示すように、燃料極集電層21と燃料極活性層22を有する。
【0013】
燃料極集電層21は、Niと酸素イオン伝導性物質を主成分として含んでいてもよい。燃料極集電層21は、NiをNiOとして含んでいてもよい。燃料極集電層21がNiOを含む場合、NiOは、発電時に水素ガスによってNiに還元されてもよい。酸素イオン伝導性物質としては、イットリア安定化ジルコニア(3YSZ、8YSZ、10YSZなど)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などが挙げられる。燃料極集電層21において、Ni及び/又はNiOの体積比率はNi換算で35?65体積%とすることができ、酸素イオン伝導性物質の体積比率は35?65体積%とすることができる。燃料極集電層21は多孔質であり、還元時における燃料極集電層21の気孔率は15%以上50%以下であることが好ましい。燃料極集電層21の厚みは、0.2mm以上5.0mm以下とすることができる。
【0014】
なお、本実施形態において、「組成物Aが物質Bを主成分として含む」とは、好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が60重量%以上であることを意味し、より好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が70重量%以上であることを意味する。
【0015】
燃料極活性層22は、燃料極集電層21と固体電解質層30の間に配置される。燃料極活性層22は、Niと酸素イオン伝導性物質を主成分として含む。燃料極活性層22は、NiをNiOとして含んでいてもよい。燃料極活性層22がNiOを含む場合、NiOは、発電時に水素ガスによってNiに還元されてもよい。酸素イオン伝導性物質としては、イットリア安定化ジルコニア(3YSZ、8YSZ、10YSZなど)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などが挙げられる。燃料極活性層22において、Ni及び/又はNiOの体積比率はNi換算で25?50体積%とすることができ、酸素イオン伝導性物質の体積比率は50?75体積%とすることができる。燃料極活性層22は多孔質であり、還元時における燃料極活性層22の気孔率は15%以上50%以下であることが好ましい。燃料極活性層22の厚みは5.0μm以上30μm以下とすることができる。
【0016】
固体電解質層30は、燃料極20と空気極50の間に配置される。固体電解質層30は、空気極50で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層30の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ、10YSZ及びScSZなどを挙げることができる。固体電解質層30は緻密質であり、固体電解質層30の気孔率は10%以下であることが好ましい。固体電解質層30の厚みは、3μm以上30μm以下とすることができる。
【0017】
バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に配置される。バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に高抵抗層が形成されることを抑制する。バリア層40の材料としては、セリア(CeO_(2))及びCeO_(2)に固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料が挙げられる。このようなセリア系材料としては、ガドリニウムドープセリア(GDC:(Ce,Gd)O_(2)やサマリウムドープセリア(SDC:(Ce,Sm)O_(2):)等が挙げられる。バリア層40は緻密質であり、バリア層40の気孔率は15%以下であることが好ましい。バリア層40の厚みは、3μm以上20μm以下とすることができる。
【0018】
空気極50は、バリア層40上に配置される。空気極50は、固体酸化物型燃料電池10のカソードとして機能する。空気極50は多孔質であり、空気極50の気孔率は25%?50%とすることができる。空気極50の厚みは、3μm以上600μm以下とすることができる。
【0019】
空気極50は、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する。Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよい。このような複合酸化物としては、例えばランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)及びLSM-8YSZなどが挙げられる。
【0020】
従って、空気極50の材料(以下、「空気極材料」という。)としては、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する材料を用いることができる。空気極材料は、粒子の集合体であればよく、粉体(例えば平均粒径0.1μm以上5μm以下程度)、解砕物(例えば平均粒径5μm以上500μm以下程度)、或いは解砕物よりも大きな塊であってもよい。このような空気極材料は、上記複合酸化物の原料粉末を粉砕することによって作製することができる。空気極材料の作製方法については後述する。
【0021】
(空気極材料の結晶方位解析)
空気極材料の結晶方位解析結果について、図面を参照しながら説明する。図2は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって倍率15000倍に拡大された空気極材料を示すSEM画像の一例である。図3は、空気極材料を電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例である。
【0022】
EBSD法による結晶方位解析では、結晶方位の不連続性を観測することができ、結晶方位差が所定角度以上の境界によって規定される領域(以下、「同一結晶方位領域」という。)を描画することができる。図3では、結晶方位差が5度以上の境界によって同一結晶方位領域が規定されている。図4は、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例である。
【0023】
図2に示すように、空気極材料のSEM画像では、粒界によって規定される粒子一つ一つの外形を把握することができる。このSEM画像に基づいて、空気極材料の粒子の平均粒径や粒径の標準偏差などを求めることができる。
【0024】
図3に示すように、空気極材料のEBSD画像では、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域の外形を把握することができる。
【0025】
ここで、図2と図3を比較すると分かるように、EBSD画像上の境界は、SEM画像上の粒界とは必ずしも一致しない。すなわち、空気極材料において、同一結晶方位領域と粒子は異なる概念である。従って、1つの粒子内に複数の同一結晶方位領域が存在する場合や、1つの同一結晶方位領域内に複数の粒子が存在する場合がある。
【0026】
同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上2.8μm以下であることが好ましい。円相当径とは、同一結晶方位領域と同じ面積を有する円の直径のことであり、平均円相当径とは、複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の算術平均値である。
【0027】
同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、0.1以上3以下であることが好ましい。
【0028】
後述するように、空気極材料における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。
【0029】
(空気極50の結晶方位解析)
空気極50の結晶方位解析結果について、図面を参照しながら説明する。図5は、SEMによって倍率15000倍に拡大された空気極50の断面を示すSEM画像の一例である。図6は、空気極50の断面をEBSD法によって結晶方位解析した結果を示すEBSD画像の一例である。図7は、空気極における同一結晶方位領域の円相当径の分布を示すヒストグラムの一例である。
【0030】
図5に示すように、空気極50のSEM画像では、粒界によって規定される粒子一つ一つの外形を把握することができる。このSEM画像に基づいて、空気極50を構成する粒子の平均粒径や粒径の標準偏差などを求めることができる。
【0031】
図6に示すように、空気極50のEBSD画像では、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域の外形を把握することができる。上述の通り、空気極50において、同一結晶方位領域と粒子は異なる概念である。
【0032】
同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下であることが好ましい。なお、図6及び図7では、空気極50の同一結晶方位領域が比較的小さい例が示されている。一般的には、空気極50の成形体を作成する工程において空気極材料の粉砕は進むが、空気極材料の凝集状態によって、空気極50の同一結晶方位領域の方が大きくもなりうる。
【0033】
同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、0.1以上3.3以下であることが好ましい。
【0034】
後述するように、空気極50における複数の同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、空気極50の成形体の粉体充填密度を調整することによって制御することができる。
【0035】
(空気極材料の製造方法)
次に、空気極材料の製造方法の一例について説明する。
【0036】
空気極材料は、固相法、液相法(クエン酸法、ペチニ法、共沈法等)等によってペロブスカイト構造を有する複合酸化物を作製することによって得られる。
【0037】
「固相法」とは、構成元素を含む原料を所定比で混合した混合物を焼成し、その後に粉砕する工程を経て目的材料を得る手法である。
【0038】
「液相法」とは、(i)構成元素を含む原料を溶液に溶かす工程、(ii)その溶液から目的材料の前駆体を沈殿等によって得る工程、(iii)乾燥、焼成、及び粉砕を行う工程、を順次経て目的材料を得る手法である。
【0039】
この際、空気極材料の合成条件(混合方法、昇温速度、合成温度/時間)を制御することによって、空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することができる。具体的には、合成温度を高くし、合成時間を長くすると平均円相当径は大きくなり、合成温度を低くし、合成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。
【0040】
また、原料の粉砕/混合条件を制御することによって、空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、粉砕条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり、混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり、粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり、混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる傾向がある。
【0041】
(固体酸化物型燃料電池10の製造方法)
次に、固体酸化物型燃料電池10の製造方法の一例について説明する。
【0042】
まず、金型プレス成形法で燃料極集電層用粉末を成形することによって、燃料極集電層21の成形体を形成する。
【0043】
次に、燃料極活性層用粉末と造孔剤(例えばPMMA)との混合物にバインダーとしてPVA(ポリビニルブチラール)を添加してスラリーを作製する。続いて、印刷法などでスラリーを燃料極集電層21の成形体上に印刷して、燃料極活性層22の成形体を形成する。
【0044】
次に、固体電解質層用粉末に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。続いて、塗布法などでスラリーを燃料極活性層22の成形体上に塗布して、固体電解質層30の成形体を形成する。
【0045】
次に、バリア層用粉末に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。続いて、塗布法などでスラリーを固体電解質層30の成形体上に塗布して、バリア層40の成形体を形成する。
【0046】
次に、成形体の積層体を1300?1600℃で2?20時間共焼結して、燃料極20、固体電解質層30およびバリア層40の共焼成体を形成する。
【0047】
次に、空気極用材料粉末(例えば、LSCF、LSF、LSC及びLSM-8YSZなど)に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。そして、塗布法などを用いてスラリーをバリア層40上に塗布して、空気極50の成形体を形成する。
【0048】
次に、空気極50の成形体を焼成(焼成温度1000℃?1200℃、焼成時間1時間?10時間)する。この際、焼成条件を制御することによって、空気極50における同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することができる。具体的には、焼成温度を高温化したり、焼成時間を長くすると平均円相当径は大きくなり、焼成温度を低温化したり、焼成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。また、空気極成形体の粉体充填密度を制御することによって、空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には、空気極成形体の粉体充填密度を低くすると標準偏差は大きくなり、空気極成形体の粉体充填密度を高くすると標準偏差は小さくなる傾向がある。
【0049】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0050】
(A)上記実施形態において、固体酸化物型燃料電池10は、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40及び空気極50を備えることとしたが、これに限られるものではない。例えば、固体酸化物型燃料電池10は、バリア層40を備えていなくてもよい。また、固体酸化物型燃料電池10は、固体電解質層30とバリア層40の間に緻密質又は多孔質のバリア層を別途備えていてもよい。
【0051】
(B)上記実施形態において、空気極材料や空気極50の粒子(粒界)の観察にはSEMを用いることとしたが、これに限られるものではない。粒子の観察には、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)、或いは透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)などの各種電子顕微鏡を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0053】
[サンプルNo.1?32の作製]
まず、NiOと8YSZの混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極集電層の成形体を形成した。
【0054】
次に、NiOと8YSZとPMMAの混合物にPVAを添加してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極集電層の成形体上に印刷して、燃料極活性層の成形体を形成した。
【0055】
次に、8YSZに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極活性層の成形体上に塗布して、固体電解質層の成形体を形成した。
【0056】
次に、GDCに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを固体電解質層の成形体上に塗布して、バリア層の成形体を形成した。
【0057】
次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層それぞれの成形体の積層体を共焼成(1400℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を作製した。
【0058】
次に、表1及び表2に示す空気極材料を準備して、サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料に水とバインダーを混合してスラリーを作製した。この際、空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径をサンプルごとに変更した。また、空気極材料に用いた原料の粉砕条件(機械エネルギー)と混合時間を調整することによって、後述するとおり空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。
【0059】
次に、このスラリーをバリア層上に塗布して、空気極の成形体を形成した。この際、空気極材料の充填密度を調整することによって、後述するとおり空気極における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差をサンプルごとに変更した。
【0060】
次に、空気極の成形体を1050℃で3時間焼成して、空気極を作製した。
【0061】
[空気極材料の結晶方位解析]
サンプルNo.1?32それぞれの空気極材料をEBSD装置(TSL製 OIM)で測定することによって、EBSD法による解析画像を得た。EBSD画像では、結晶方位差が5度以上となる境界を外縁とする同一結晶方位領域を描画した(図3参照)。
【0062】
そして、各サンプルの空気極材料について、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差とを算出した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0063】
[空気極の結晶方位解析]
サンプルNo.1?32それぞれの空気極断面をEBSD装置(TSL製 OIM)で測定することによって、EBSD法による解析画像を得た。EBSD画像では、結晶方位差が5度以上となる境界を外縁とする同一結晶方位領域を描画した(図6参照)。
【0064】
そして、各サンプルの空気極断面について、同一結晶方位領域の平均円相当径と円相当径の標準偏差とを算出した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0065】
[出力密度の測定]
各サンプルにおいて、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
【0066】
その後、各サンプルについて、測定温度:750℃、電流密度:0.2A/cm^(2)における出力密度を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、出力密度が0.15W/cm^(2)より小さい場合を×と評価し、出力密度が0.15W/cm^(2)以上である場合を○と評価し、出力密度が0.25W/cm^(2)以上である場合を◎と評価した。
【0067】
【表1】

表1に示されるように、同一結晶方位領域の平均円相当径を0.03μm以上2.8μm以下とした空気極材料を用いたサンプルNo.1?7,9?19,21?26,28?32では、出力密度を0.15W/cm^(2)以上とすることができた。サンプルNo.1?7,9?19,21?26,28?32の空気極において、同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下であった。このような結果が得られたのは、空気極の結晶方位が揃い、電気化学反応速度が上がることによって、空気極の活性を向上できたためである。なお、表1に示されるように、このような効果は、空気極材料の種類にかかわらず、同一結晶方位領域の平均円相当径を制御することによって得られることが確認された。
【0068】
また、表1に示されるように、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を3以下とした空気極材料を用いたサンプルNo.9?14,21,22,28?31では、空気極の出力密度をさらに高くすることができた。サンプルNo.9?14,21,22,28?31の空気極において、同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は、3.3以下であった。なお、表1に示されるように、このような効果は、空気極材料の種類にかかわらず、同一結晶方位領域の平均円相当径の標準偏差を制御することによって得られることが確認された。
【符号の説明】
【0069】
10 燃料電池
20 燃料極
21 燃料極集電層
22 燃料極活性層
30 固体電解質層
40 バリア層
50 空気極
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、
電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である、
固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項2】
前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値が、3以下である、
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項3】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径は、0.03μm以上3.3μm以下である、
固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の標準偏差値は、3.3以下である、
請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-06 
結審通知日 2016-12-09 
審決日 2016-12-20 
出願番号 特願2014-76282(P2014-76282)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (H01M)
P 1 113・ 853- YAA (H01M)
P 1 113・ 536- YAA (H01M)
P 1 113・ 121- YAA (H01M)
P 1 113・ 841- YAA (H01M)
P 1 113・ 113- YAA (H01M)
P 1 113・ 851- YAA (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河本 充雄
小川 進
登録日 2014-08-29 
登録番号 特許第5603515号(P5603515)
発明の名称 空気極材料及び固体酸化物型燃料電池  
代理人 横井 康真  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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