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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C03C
審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する C03C
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C03C
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する C03C
審判 訂正 特36条4項詳細な説明の記載不備 訂正する C03C
審判 訂正 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 訂正する C03C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C03C
審判 訂正 2項進歩性 訂正する C03C
管理番号 1339380
審判番号 訂正2017-390099  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-09-28 
確定日 2018-03-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5596717号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5596717号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3?12〕、2について訂正することを認める。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第5596717号(以下、「本件特許」という。)は、平成18年 3月31日に出願した特願2006-98088号(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年 1月30日に新たな特許出願とした特願2012-16333号の請求項1?12に係る発明について、平成26年 8月15日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、本件審判は、本件特許の特許請求の範囲の訂正を求め、平成29年 9月28日に請求され、平成29年10月16日付けで手続補正指令書(方式)が通知され、これに対し、平成29年10月26日付けで審判請求書に対する手続補正書が提出されたものである。


第2.請求の要旨

1.本件訂正審判請求の趣旨は、「特許第5596717号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3?12について訂正することを認める、との審決を求める」というものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?24である(下線部が訂正箇所である)。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)をさらに特定し、このうち、屈折率(nd)の数値範囲について「1.75?2.00」に訂正し、また、アッベ数(νd)の数値範囲について「35?55」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「SiO_(2)を1.0質量%より多く12.0質量%未満含有し」とあるのを、「SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し」に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「B_(2)O_(3)を8.0?35.0質量%」とあるのを、「B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%」に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「Y_(2)O_(3)を3.00?15質量%」とあるのを、「Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%」に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「ZrO_(2)を1?15.0質量%」とあるのを、「ZrO_(2)を5.0?9.0質量%」に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1について、Nb_(2)O_(5)成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲について「1.62?14質量%」に訂正する。

キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1に「質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0を超え0.6未満であり」とあるのを、「質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり」に訂正する。

ク.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項1について、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)をさらに特定し、その数値範囲について「0.206以上0.5未満」に訂正する。

ケ.訂正事項9
特許請求の範囲の請求項1に「La_(2)O_(3)を25.0?50.0質量%含有し」とあるのを、「La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し」に訂正する。

コ.訂正事項10
特許請求の範囲の請求項1について、ZnO成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲について「0?5.0質量%」に訂正する。

サ.訂正事項11
特許請求の範囲の請求項1について、WO_(3)成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲について「0?0.50質量%」に訂正する。

シ.訂正事項12
特許請求の範囲の請求項1について、Ta_(2)O_(5)成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲について「0?1.14質量%」に訂正する。

ス.訂正事項13
特許請求の範囲の請求項1において、「重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるもの」を除外する。

セ.訂正事項14
特許請求の範囲の請求項2に「屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス」とあるのを、「-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、酸化物基準で、SiO_(2)を1.94%?7.52質量%含有し、B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%含有し、かつ、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、ZnOの含有量が0?5.0質量%、WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%であり、Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)」に訂正する。

ソ.訂正事項15
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

タ.訂正事項16
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか一項に記載のガラス」とあるのを、「請求項1に記載のガラス」に訂正する。

チ.訂正事項17
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載のガラス」とあるのを、「請求項1又は4に記載のガラス」に訂正する。

ツ.訂正事項18
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載のガラス」とあるのを、「請求項1、4又は5に記載のガラス」に訂正する。

テ.訂正事項19
特許請求の範囲の請求項6に「ZnO 0?10.0%」とある記載を削除する。

ト.訂正事項20
特許請求の範囲の請求項7、8を削除する。

ナ.訂正事項21
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか一項に記載のガラス」とあるのを、「請求項1又は4?6のいずれか一項に記載のガラス」に訂正する。

ニ.訂正事項22
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか一項に記載のガラス」とあるのを、「請求項1、4?6又は9のいずれか一項に記載のガラス」に訂正する。

ヌ.訂正事項23
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

ネ.訂正事項24
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?9のいずれか一項に記載のガラス」とあるのを、「請求項1、4?6又は9のいずれか一項に記載のガラス」に訂正する。


第3.当審の判断

1.訂正の目的、新規事項の追加、及び、特許請求の範囲の拡張/変更の有無について

ア.訂正事項1

訂正事項1は、訂正前の請求項1で特定されていない「屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、」を新たに特定するものである。
したがって、当該訂正事項1は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正前の請求項2、本件特許明細書の段落【0034】には、屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有することが記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2
訂正事項2は、請求項1の「SiO_(2)を1.0質量%より多く12.0質量%未満含有し」を「SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し」へと訂正するものであり、要するに、SiO_(2)成分の含有量について「1.0質量%より多く12.0質量%未満」を「1.94?7.52質量%」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項2は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項の限定であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項2は、訂正前のSiO_(2)成分の含有量の数値範囲内で限定するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3
訂正事項3は、請求項1の「B_(2)O_(3)を8.0?35.0質量%」を「B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%」へと訂正するものであり、要するに、B_(2)O_(3)成分の含有量について「8.0?35.0質量%」を「18.33?30.21質量%」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項3は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項の限定であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項3は、訂正前のB_(2)O_(3)成分の含有量の数値範囲内で限定するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

エ.訂正事項4
訂正事項4は、請求項1の「Y_(2)O_(3)を3.00?15質量%」を「Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%」へと訂正するものであり、要するに、Y_(2)O_(3)成分の含有量について「3.00?15質量%」を「8.80?15質量%」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項4は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項の限定であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項4は、訂正前のY_(2)O_(3)成分の含有量の数値範囲内で限定するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

オ.訂正事項5
訂正事項5は、請求項1の「ZrO_(2)を1?15.0質量%」を「ZrO_(2)を5.0?9.0質量%」へと訂正するものであり、要するに、ZrO_(2)成分の含有量について「1?15.0質量%」を「5.0?9.0質量%」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項5は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項の限定であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項5は、訂正前のZrO_(2)成分の含有量の数値範囲内で限定するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

カ.訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項1で特定されていないNb_(2)O_(5)成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲を「1.62?14質量%」とするものである。
したがって、当該訂正事項6は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書には、段落【0039】に「Nb_(2)O_(5)成分は、Ta_(2)O_(5)成分と同様に、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、0?18質量%の範囲で任意に含有させることが可能である。・・・最も好ましい上限値は14質量%である。」との記載と、段落【0070】の実施例4に、Nb_(2)O_(5)成分の含有量が「1.62質量%」であることが記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

キ.訂正事項7
訂正事項7は、請求項1の「質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0を超え0.6未満であり」を「質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり」へと訂正するものであり、要するに、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)について「0を超え0.6未満」を「0.086以上0.410以下」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項7は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項の限定であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項7は、訂正前の質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)の数値範囲内で限定するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ク.訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項1で特定されていない質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)をさらに特定し、その数値範囲を「0.206以上0.5未満」とするものである。
したがって、当該訂正事項8は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書には、段落【0080】の実施例7に、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206であること、段落【0061】に、「質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0を超え0.5未満とすることで、所望の乗算α×βを実現する光学ガラスを安定に形成する効果が得られ」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ケ.訂正事項9
訂正事項9は、請求項1の「La_(2)O_(3)を25.0?50.0質量%含有し」を「La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し」へと訂正するものであり、要するに、La_(2)O_(3)成分の含有量について「25.0?50.0質量%」を「40.00?50.0質量%」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項9は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項の限定であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項9は、訂正前のLa_(2)O_(3)成分の含有量の数値範囲内で限定するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

コ.訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項1で特定されていないZnO成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲を「0?5.0質量%」とするものである。
したがって、当該訂正事項10は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書には段落【0053】に、「ZnO成分は、ガラスの熔融性を向上させる一方で、平均熱膨張係数αを小さくする効果が得られるため、0?10.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、光弾性定数βを著しく増大させる性質を持っているため、過剰に含有させると、所望の特性を実現しにくくなる。より好ましい範囲は、5.0質量%」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

サ.訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項1で特定されていないWO_(3)成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲を「0?0.50質量%」とするものである。
したがって、当該訂正事項11は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書には、段落【0040】に、「WO_(3)成分は屈折率及び分散を調整し、ガラスの耐失透性を向上させる効果がある。しかし過剰に含有させると、ガラスの着色が顕著となり、特に可視-短波長領域(500nm未満)の透過率が低くなるため、好ましくない。・・・最も好ましくは6質量%を上限とする。」、及び、段落【0080】の実施例10に、WO_(3)成分の含有量が「0.50質量%」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

シ.訂正事項12
訂正事項12は、訂正前の請求項1で特定されていないTa_(2)O_(5)成分の含有量をさらに特定し、その数値範囲を「0?1.14質量%」とするものである。
したがって、当該訂正事項12は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書には段落【0038】に、「Ta_(2)O_(5)成分は、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、で任意に含有させることが可能である。しかし、Ta_(2)O_(5)成分は、希少鉱物資源であり原料価格が高く、難熔融成分であり、ガラス製造時に高温熔解を余儀なくされるため、生産コストが増大するばかりでなく、光弾性定数βを増大させる特性を持つため、その含有量の上限は、25質量%が好ましい。より好ましい上限値は、22質量%、最も好ましい上限値は19質量%である。」と記載されていており、訂正事項9は、段落【0038】に記載の数値範囲よりも限定されたものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ス.訂正事項13
訂正事項13は、請求項1において「重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるもの」を除外する訂正を行うものであり、要するに、B_(2)O_(3)成分とSiO_(2)成分の合計量について、「33?35%」を除いた範囲に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項13は、訂正前の請求項に記載された発明を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ここで、訂正事項13は、東京地裁平成28年(ワ)第40817号特許権侵害差止等請求事件における特許無効の抗弁で用いられた乙第12号証(特開昭56-041850号公報)に開示された「重量パーセントで・・・B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%・・・の組成からなる」(請求項1)の要件との重なりのみを除くために、いわゆる除くクレームの形態でこれを規定したものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
なお、訂正事項13の「重量パーセント」は、「質量%」に相当するものである。

セ.訂正事項14
訂正事項14は、訂正前の請求項2に「屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス」とあるのを、「-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、酸化物基準で、SiO_(2)を1.94%?7.52質量%含有し、B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%含有し、かつ、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、ZnOの含有量が0?5.0質量%、WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%であり、Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しないことを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)」へと訂正するものであり、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第126条第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、「Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%含有し、」、「質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、」、「質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、」、「ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、」、「ZnOの含有量が0?5.0質量%、」、「WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、」、「Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%であり、」、及び、「(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)」について新たに特定するものであり、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、「SiO_(2)」、「B_(2)O_(3)」、「Y_(2)O_(3)」、「ZrO_(2)」、「質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)」、「La_(2)O_(3)」及び「Gd_(2)O_(3)」について、それぞれ含有量又は質量%比の範囲を減縮するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

「-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって」を追加する訂正、及び、各成分の組成を「酸化物基準で」特定する訂正は、訂正前の請求項1に記載されていたから、これらの訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

「SiO_(2)を1.94%?7.52質量%含有し」、「B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%」、「Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%」、「ZrO_(2)を5.0?9.0質量%」、「質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり」、「質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり」、「La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し」、「ZnOの含有量が0?5.0質量%」、「WO_(3)の含有量が0?0.50質量%」、「Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%であり」を追加する訂正は、それぞれ上記イ(訂正事項2)、ウ(訂正事項3)、エ(訂正事項4)、オ(訂正事項5)、キ(訂正事項7)、ク(訂正事項8)、ケ(訂正事項9)、コ(訂正事項10)、サ(訂正事項11)、シ(訂正事項12)で検討したように、それぞれ特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

「重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるもの」を除外する訂正も、上記ス(訂正事項13)で検討したように、特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

Nb_(2)O_(5)成分の含有量を「1.62?7.40質量%」とする訂正について、本件特許明細書には、段落【0039】に「Nb_(2)O_(5)成分は、Ta_(2)O_(5)成分と同様に、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、0?18質量%の範囲で任意に含有させることが可能である。・・・最も好ましい上限値は14質量%である。」との記載と、段落【0070】の実施例4に、Nb_(2)O_(5)成分の含有量が「1.62質量%」であることが記載されており、訂正事項14は、段落【0039】、実施例4に記載の数値範囲よりも限定されたものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

「質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))」を「0.398以下」とする訂正について、本件特許明細書には、段落【0045】に「構成7の光学ガラスにおいては、分散を高める効果の強いTa_(2)O_(5)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)の合計量と分散を小さくする効果が得られるGd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)の合計量の質量%比である(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))は、0.05を超え1.30未満の範囲にすることで、所望のアッベ数(35?55)を実現しやすくなる」との記載、及び、段落【0080】の実施例10に「質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))」が「0.398」であることが記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

「ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)の含有量」を「6.99質量%以上13.0質量%未満」とする訂正について、本件特許明細書には、段落【0061】の「また、質量%和ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が、5.0質量%を超え13.0質量%未満とすることにより、難熔融成分の含有量を制限しエネルギー消費を抑えつつ、耐失透性に優れた光学ガラスを実現する効果が得られる。」と記載されており、訂正事項14は、段落【0061】に記載の数値範囲よりも限定されたものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

「Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しないこと」とする訂正について、本件特許明細書には、段落【0078】の実施例4、5の「Gd_(2)O_(3)成分」の含有量が記載されていないことから、不可避に混入されるものを除いて実質的に「Gd_(2)O_(3)成分」が含有されていないことが明らかであるから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

よって、訂正事項14は、特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

ソ.訂正事項15
訂正事項15は、請求項3を削除するというものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項15は、請求項3を削除するものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

タ.訂正事項16
訂正事項16は、選択的に引用する請求項の数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

チ.訂正事項17
訂正事項17は、選択的に引用する請求項の数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

ツ.訂正事項18
訂正事項18は、選択的に引用する請求項の数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

テ.訂正事項19
訂正事項19は、請求項6において「ZnO 0?10.0%」とある記載を削除するものである。
そして、請求項6が引用する請求項1には、「ZnOの含有量が0?5.0質量%」であることが特定されており、訂正事項19は、請求項1の記載との整合を図るために上記事項を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項19は、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

ト.訂正事項20
訂正事項20は、請求項7、8を削除するというものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項20は、請求項7、8を削除するものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

ナ.訂正事項21
訂正事項21は、選択的に引用する請求項の数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

ニ.訂正事項22
訂正事項22は、選択的に引用する請求項の数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

ヌ.訂正事項23
訂正事項23は、請求項11を削除するというものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項23は、請求項11を削除するものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。

ネ.訂正事項24
訂正事項24は、選択的に引用する請求項の数を減少するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、第126条第6項に適合するものである。


2.一群の請求項について

訂正前の請求項2?12は、訂正事項1?13に係る訂正前の請求項1の記載をそれぞれ直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1?13によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、当該請求項1?12は、特許法126条第3項に規定する一群の請求項である。
ただし、訂正後の請求項2に係る訂正事項14は、引用関係の解消を目的とする訂正であって、特許権者から、訂正後の請求項2について訂正が認められるときは請求項1、3?12とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項2の訂正が認められる場合は、請求項2は、請求項1、3?12とは別途訂正することを認めるものである。


3.独立特許要件について

(1)本件訂正発明
特許請求の範囲の減縮を目的とする下記訂正後の請求項1、2、4?6、9、10、12に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、「本件訂正発明4」?「本件訂正発明6」、「本件訂正発明9」、「本件訂正発明10」、「本件訂正発明12」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。(下線部が訂正箇所である)

【請求項1】
-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、
屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、
酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?14質量%、
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
Gd_(2)O_(3)の含有量が0.0?8.17質量%、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であることを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。
【請求項2】
-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、
屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、
酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であり、
Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しない
ことを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1に記載のガラスであって、酸化物基準で、
GeO_(2)を0.0?0.1質量%、
Yb_(2)O_(3)を0.0?1.0質量%、
Ga_(2)O_(3)を0.0?1.0質量%、又は
Bi_(2)O_(3)を0.0?1.0質量%を含有し、
鉛化合物及び砒素化合物を含有しないことを特徴とする光学ガラス。
【請求項5】
請求項1又は4に記載のガラスであって、酸化物基準で、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が、0.05を超え1.30未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項6】
請求項1、4又は5に記載のガラスであって、酸化物基準の質量%表示で、
Li_(2)O 0?5.0%、
Na_(2)O 0?5.0%、
K_(2)O 0?5.0%、
Cs_(2)O 0?5.0%、
MgO 0?5.0%、
CaO 0?5.0%、
SrO 0?5.0%、
BaO 0?5.0%、
TiO_(2) 0?3.0%、
SnO_(2) 0?3.0%、
Al_(2)O_(3) 0?3.0%、
P_(2)O_(5) 0?5.0%、
Lu_(2)O_(3) 0?5.0%、
TeO_(2) 0?3.0%、
Sb_(2)O_(3) 0?2.0%、又は
F 0?3.0%を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
請求項1又は4?6のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、質量%比(ZrO_(2)+Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が、1.00未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項10】
請求項1、4?6又は9のいずれか一項に記載のガラスを母材とする光学素子。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
請求項1、4?6又は9のいずれか一項に記載のガラスで作成した光学素子及び光学基板材料を使用する光学機器。

以下、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12についての独立特許要件について検討する。

(2)東京地裁平成28年(ワ)第40817号特許権侵害差止等請求事件(以下、「特許権侵害差止等請求事件」という。)における特許無効の抗弁

特許権侵害差止等請求事件において、本件特許に対し、以下に示す乙第7号証、乙第12号証、及び、乙第7号証と乙第12号証のそれぞれに関する実験成績証明書等、及び、技術常識を示す文献が提出され、以下の無効理由1?5に関する特許無効の抗弁が行われた。

乙第7号証:特開昭57-56344号公報
乙第8号証の1:実験成績証明書、副題:特開昭57-56344号公報の実施例2に記載の光学ガラスの線膨張係数α測定用サンプルの作製
乙第8号証の2:試験完了報告書(乙第8号証の1で作製した光学ガラスの線膨張係数αの測定)
乙第9号証の1:実験成績証明書、副題:特開昭57-56344号公報の実施例2に記載の光学ガラスの光弾性定数β測定用サンプルの作製
乙第9号証の2:光弾性定数測定に関する報告書(乙第9号証の1で作製した光学ガラスの光弾性定数βの測定)
乙第10号証の1:実験成績証明書、副題:特開昭57-56344号公報の実施例12に記載の光学ガラスの線膨張係数α測定用サンプルの作製
乙第10号証の2:試験完了報告書(乙第10号証の1で作製した光学ガラスの線膨張係数αの測定)
乙第11号証の1:実験成績証明書、副題:特開昭57-56344号公報の実施例12に記載の光学ガラスの光弾性定数β測定用サンプルの作製
乙第11号証の2:光弾性定数測定に関する報告書(乙第11号証の1で作製した光学ガラスの光弾性定数βの測定)
乙第12号証:特開昭56-41850号公報
乙第13号証の1:実験成績証明書、副題:特開昭56-41850号公報の実施例1に記載の光学ガラスの線膨張係数α測定用サンプルの作製
乙第13号証の2:試験完了報告書(乙第13号証の1で作製した光学ガラスの線膨張係数αの測定)
乙第14号証の1:実験成績証明書、副題:特開昭56-41850号公報の実施例1に記載の光学ガラスの光弾性定数β測定用サンプルの作製
乙第14号証の2:光弾性定数測定に関する報告書(乙第14号証の1で作製した光学ガラスの光弾性定数βの測定)
乙第15号証:横田秀夫、すばる望遠鏡用主焦点補正光学系の設計と製作、精密工学会誌、2001年、vol.67 No.10、p.1575-1578(技術常識を示す文献)
(以下、それぞれ、「乙7」?「乙15」とする。)

特許無効の抗弁における無効理由1?5の概略は以下の通りである。

無効理由1:訂正前の請求項1について、乙7に基づく新規性欠如(特許法第29条第1項第3号)
無効理由2:訂正前の請求項1について、乙12に基づく新規性欠如(特許法第29条第1項第3号)
無効理由3:訂正前の請求項1に記載の「乗算α×β」についてのサポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)
無効理由4:訂正前の請求項1に記載された成分組成についてのサポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)
無効理由5:訂正前の請求項1についての実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)

以下、本件訂正発明1について、上記無効理由1?5に関する独立特許要件について検討するとともに、乙7、乙12に基づく進歩性欠如(特許法第29条第2項)に関する独立特許要件についても検討する。
さらに、本件訂正発明2、4?6、9、10、12についても同様に独立特許要件について検討する。

(3)独立特許要件についての検討

ア.乙7に基づく、特許法第29条第1項第3号(新規性)(無効理由1)、及び、同法第29条第2項(進歩性)について

(ア)乙7の記載事項及び引用発明

乙7には、以下の事項が記載されている。

「重量パーセントで,B_(2)O_(3 )28?30%,SiO_(2 )1?3%,La_(2)O_(3 )44?51%,Y_(2)O_(3 )0?12%,Gd_(2)O_(3 )0?10%,但し,Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3 )2?12%,ZrO_(2 )4?7%,Nb_(2)O_(5 )3?10%,R_(2)O(R=Li,NaおよびK)0?0.5%,SrO 0?2%未満,BaO 0?2%未満,ZnO 0?2%未満,Al_(2)O_(3) 0?1%,但し,SrO+BaO+ZnO+Al_(2)O_(3 )0?2%未満,As_(2)O_(3)および/またはSb_(2)O_(3 )0?0.1%,SnO_(2 )0?2%,およびWO_(3 )0?5%の組成からなり,屈折率(nd)およびアッベ数(νd)が,A(nd=1.81,νd=45), B(nd=1.79,νd=48),C(nd=1.78,νd=48), D(nd=1.78,νd=46),E(nd=1.80,νd=43)およびF(nd=1.81,νd=43)の6点を結んだ領域内にあることを特徴とする光学ガラス。」(特許請求の範囲)

「本発明は,屈折率(nd)およびアッベ数(νd)が,第1図に示すように,A,B,C,D,EおよびFの6点を結んだ領域内にあり,溶融条件による分光透過率の変動が小さく,短波長域における光線の透過性能,化学的耐久性,非分相性および溶融性に優れ,しかも,Ta_(2)O_(5)を含有しない新規な組成の光学ガラスに関する。」(第1頁右欄第2行?第8行)

「つぎに,本発明にかかる光学ガラスの実施組成例および既知の光学ガラスの組成例を表1および表2に示し,それぞれの組成例につき,光学恒数(nd,νd),溶融条件による分光透過率の変動,化学的耐久性,分相性および溶融性を併記した。」(第3頁右上欄第7行?第11行)



」(第4頁表1(1))



」(第4頁表1(2))

上記実施例2及び12を構成するガラス成分は、全て酸化物であるから、酸化物基準の重量比が記載されているものと認められる。
そして、実施例2には、SiO_(2)が3重量%、B_(2)O_(3)が28重量%、Y_(2)O_(3)が8重量%、ZrO_(2)が6.5重量%、La_(2)O_(3)が48重量%、Nb_(2)O_(5)が6.5重量%であり、屈折率が1.7998であること、及び、アッベ数が45.1であることが記載されており、このときの、重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)=3/28=0.107であり、重量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)=(0+8)/48=0.167であり、重量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))=(0+6.5+0)/(0+8)=0.813であり、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)=6.5+6.5=13.0であり、B_(2)O_(3)+SiO_(2)=3+28=31重量%である。
また、実施例12には、SiO_(2)が2重量%、B_(2)O_(3)が29重量%、Y_(2)O_(3)が12重量%、ZrO_(2)が6重量%、La_(2)O_(3)が46重量%、Nb_(2)O_(5)が5重量%であり、屈折率が1.7960であること、及び、アッベ数が46.5であることが記載されており、このときの、重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)=2/29=0.069であり、重量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)は(0+12)/46=0.261であり、重量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))=(0+5+0)/(0+12)=0.417であり、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)=6+5=11.0であり、B_(2)O_(3)+SiO_(2)=29+2=31重量%である。
そして、実施例2及び12には、Gd_(2)O_(3)、ZnO、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)含有量について記載されておらず、他の成分の合計量が100重量%であることからみて、実質的に含まれていないものといえる。

よって、乙7の実施例2には、本件訂正発明1の記載に則して、以下の引用発明1-1が記載されていると認められる。
「酸化物基準で、SiO_(2)を3重量%、
B_(2)O_(3)を28重量%、
Y_(2)O_(3)を8重量%、
ZrO_(2)を6.5重量%、
Nb_(2)O_(5)を6.5重量含有し、かつ、
重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.107であり、
重量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.167であり、
重量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.813であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が13.0であり、
La_(2)O_(3)を48重量%、
Gd_(2)O_(3)、ZnO、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)が実質的に含まれておらず、
屈折率が1.7998であり、
アッベ数が45.1であり、
B_(2)O_(3)+SiO_(2)が31重量である光学ガラス。」

また、乙7の実施例12には、本件訂正発明1の記載に則して、以下の引用発明1-2が記載されていると認められる。
「酸化物基準で、SiO_(2)を2重量%、
B_(2)O_(3)を29重量%、
Y_(2)O_(3)を12重量%、
ZrO_(2)を6重量%、
Nb_(2)O_(5)を5重量%含有し、かつ、
重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.069であり、
重量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.261であり、
重量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.417であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が11.0であり、
La_(2)O_(3)を46重量%、
Gd_(2)O_(3)、ZnO、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)が実質的に含まれておらず、
屈折率が1.7960であり、
アッベ数が46.5であり、
B_(2)O_(3)+SiO_(2)が31重量である光学ガラス。」

(イ)本件訂正発明1と引用発明1-1について

引用発明1-1に記載の「重量%」は、本件訂正発明1の「質量%」に相当する。

よって、本件訂正発明1と引用発明1-1とを対比すると、
「SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?14質量%、
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
Gd_(2)O_(3)の含有量が0.0?8.17質量%、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であることを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。」の点で両者は一致し、以下の3点で相違する。

・相違点1:本件訂正発明1は、光学ガラスの-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるのに対し、引用発明1-1は、上記事項について記載されていない点。
・相違点2:本件訂正発明1は、Y_(2)O_(3)が8.80?15質量%であるのに対し、引用発明1-1は、Y_(2)O_(3)が8質量%である点。
・相違点3:本件訂正発明1は質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であるのに対し、引用発明1-1は、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.167である点。

相違点1について検討する。

特許権侵害差止等請求事件の特許無効の抗弁において提出された乙8の1?乙9の2について、乙8の1、乙9の1は、特許権侵害差止等請求事件の被告であるHOYA株式会社の従業員が作製した測定用サンプルであり、それぞれ乙7の実施例2に記載の光学ガラスの線膨張係数α測定用サンプルと光弾性定数β測定用サンプルの作製条件に関する実験成績証明書である。
また、乙8の2は、乙8の1で作製した線膨張係数α測定用サンプルを第三者機関であるNSST日鉄住金テクノロジー株式会社において平均線膨張係数αを測定した結果を示すものであり、乙9の2は、乙9の1で作製した光弾性定数β測定用サンプルを第三者機関であるユニオプト株式会社において光弾性定数βを測定した結果を示すものである。

乙8の1?乙9の2によると、引用発明1-1の組成を満たす光学ガラスを作製し、-30?+70℃の平均線膨張係数α(以下、「平均線膨張係数α」という。)と波長546.1nmにおける光弾性定数β(以下、「光弾性定数β」という。)を測定したところ、平均線膨張係数αは63×10^(-7)[℃^(-1)]であり、光弾性定数βは1.41×10^(-12)[Pa^(-1)]であったことから、乗算α×βは88.83×10^(-19)[℃^(-1)×Pa^(-1)]=88.83×10^(-12)[℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)]である。

よって、引用発明の光学ガラスは、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。

次に、相違点2、3について検討する。
引用発明1-1のY_(2)O_(3)は8.0質量%であり、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)は0.167であり、両者とも、明らかに本件訂正発明1で特定されている範囲内ではない。
よって、相違点2、3は実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明1は、乙7に記載された引用発明1-1ではない。

相違点2、3についてさらに検討する。
乙7には、Y_(2)O_(3)と共に質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)を調製することの記載も示唆もなく、引用発明1-1のY_(2)O_(3)と質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)を変更する動機付けがない。
さらに、技術常識からみて、Y_(2)O_(3)と質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)を変更した際に、乗算α×βがどうなるかについての予測性もない。
したがって、引用発明1-1において相違点2、3を解消することは容易であるとはいえない。
よって、本件訂正発明1は、乙7に記載された引用発明1-1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件訂正発明1と引用発明1-2について

引用発明1-2に記載の「重量%」は、本件訂正発明1の「質量%」に相当する。

よって、本件訂正発明1と引用発明1-2とを対比すると、
「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?14質量%、
含有し、かつ、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
Gd_(2)O_(3)の含有量が0.0?8.17質量%、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であることを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。」の点で両者は一致し、以下の2点で相違する。

・相違点4:本件訂正発明1は、光学ガラスの-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるのに対し、引用発明1-2は、上記事項について記載されていない点。
・相違点5:本件訂正発明1は質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であるのに対し、引用発明1-2は、重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.069である点。

相違点4について検討する。

特許権侵害差止等請求事件の特許無効の抗弁において提出された乙10の1?乙11の2について、乙10の1、乙11の1は、特許権侵害差止等請求事件の被告であるHOYA株式会社の従業員が作製した測定用サンプルであり、それぞれ乙7の実施例12に記載の光学ガラスの線膨張係数α測定用サンプルと光弾性定数β測定用サンプルの作製条件に関する実験成績証明書である。
また、乙10の2は、乙10の1で作製した線膨張係数α測定用サンプルを第三者機関であるNSST日鉄住金テクノロジー株式会社において平均線膨張係数αを測定した結果を示すものであり、乙11の2は、乙11の1で作製した光弾性定数β測定用サンプルを第三者機関であるユニオプト株式会社において光弾性定数βを測定した結果を示すものである。

乙10の1?乙11の2によると、引用発明1-2の組成を満たす光学ガラスを作製し、平均線膨張係数αと光弾性定数βを測定したところ、平均線膨張係数αは66×10^(-7)[℃^(-1)]であり、光弾性定数βは1.36×10^(-12)[Pa^(-1)]であったことから、乗算α×βは89.76×10^(-19)[℃^(-1)×Pa^(-1)]=89.76×10^(-12)[℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)]である。
よって、引用発明の光学ガラスは、平均線膨張係数αと光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるといえるから、相違点4は実質的な相違点ではない。

次に、相違点5について検討する。
引用発明1-2の質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)は0.069であり、明らかに本件訂正発明1で特定されている範囲内ではない。
よって、本件訂正発明1は、乙7に記載された引用発明1-2ではない。

さらに、相違点5について検討する。
乙7には、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)を調製することの記載も示唆もなく、引用発明1-2の質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)を変更する動機付けがない。
さらに、技術常識からみて、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)を変更した際に、乗算α×βがどうなるかについての予測性もない。
したがって、引用発明1-2において相違点5を解消することは容易であるとはいえない。
よって、本件訂正発明1は、乙7に記載された引用発明1-2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件訂正発明1についてのまとめ
(イ)、(ウ)より、本件訂正発明1は、乙7に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、乙7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)本件訂正発明2と引用発明1-1について

本件訂正発明2と引用発明1-1とを対比すると、
「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であり、
Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しない
ことを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。」の点で両者は一致し、以下の5点で相違する。

・相違点6:本件訂正発明2は、光学ガラスの-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるのに対し、引用発明1-1は、上記事項について記載されていない点。
・相違点7:本件訂正発明2は、Y_(2)O_(3)が8.80?15質量%であるのに対し、引用発明1-1は、Y_(2)O_(3)が8質量%である点。
・相違点8:本件訂正発明2は質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であるのに対し、引用発明1-1は、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.167である点。
・相違点9:本件訂正発明2は、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であるのに対し、引用発明1-1は、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.813である点。
・相違点10:本件訂正発明2は、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であるのに対し、引用発明1-1は、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が13.0質量%である点。

上記相違点6?10について検討する。

相違点6は相違点1と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように実質的な相違点ではない。
相違点7は相違点2と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように実質的な相違点である。
相違点8は相違点3と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように実質的な相違点である。

相違点9について、引用発明1-1の質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))は0.813であり、明らかに本件訂正発明2で特定されている範囲内ではない。
よって、相違点9は実質的な相違点である。

相違点10について、引用発明1-1のZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)は13.0質量%であり、明らかに本件訂正発明2で特定されている範囲内ではない。
よって、相違点10は実質的な相違点である。

したがって、本件訂正発明2は、乙7に記載された引用発明1-1ではない。

さらに、相違点7、8について検討する。
相違点7、8は上記(イ)で検討した相違点2、3と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように、引用発明1-1において相違点7、8を解消することは容易であるとはいえない。

よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明2は、乙7に記載された引用発明1-1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(カ)本件訂正発明2と引用発明1-2について

本件訂正発明2と引用発明1-2とを対比すると、
「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%
含有し、かつ、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であり、
Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しない
ことを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。」の点で両者は一致し、以下の3点で相違する。

・相違点11:本件訂正発明2は、光学ガラスの-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるのに対し、引用発明1-2は、上記事項について記載されていない点。
・相違点12:本件訂正発明2は、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であるのに対し、引用発明1-2は、重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.069である点。
・相違点13:本件訂正発明2は、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であるのに対し、引用発明1-2は、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.417である点。

上記相違点11?13について検討する。

相違点11は相違点4と同じ相違点であり、上記(ウ)で検討したように実質的な相違点ではない。
相違点12は相違点5と同じ相違点であり、上記(ウ)で検討したように実質的な相違点である。

相違点13について、引用発明1-2の質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))は0.417であり、明らかに本件訂正発明2で特定されている範囲内ではない。
よって、相違点13は実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明2は、乙7に記載された引用発明1-2ではない。

さらに、相違点12、13について検討する。
相違点12は上記(ウ)で検討した相違点5と同じ相違点であり、上記(ウ)で検討したように、引用発明1-2において相違点12を解消することは容易であるとはいえない。
相違点13についても、乙7には、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))を調製することの記載も示唆もなく、引用発明1-2の質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))を変更する動機付けがなく、技術常識からみて、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))を変更した際の乗算α×βの値について予測性もない。
したがって、引用発明1-2において相違点13を解消することは容易であるとはいえない。

よって、本件訂正発明2は、乙7に記載された引用発明1-2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(キ)本件訂正発明2についてのまとめ
上記(オ)、(カ)より、本件訂正発明2は、乙7に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明2は、乙7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ク)本件訂正発明4?6、9、10、12について

本件訂正発明4?6、9、10、12は本件訂正発明1を直接または間接的に引用するものであり、引用発明1-1、1-2と対比すると、それぞれ上記(イ)に記載した相違点2?3、上記(ウ)に記載した相違点5と同じ相違点が少なくとも存在する。そしてそれらの相違点については、上記(イ)、(ウ)で検討したとおりであるから、本件訂正発明4?6、9、10、12は、乙7に記載された発明ではなく、乙7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ケ)乙7に基づく、新規性進歩性についてのまとめ
本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12は、乙7に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12は、乙7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ.乙12に基づく、特許法第29条第1項第3号(新規性)(無効理由2)、及び、同法第29条第2項(進歩性)について

(ア)乙12の記載事項及び引用発明

乙12には、以下の事項が記載されている。

「重量パーセントで、B_(2)O_(3) 30?33%、SiO_(2) 1?3.5%、ただし、B_(2)O_(3)+SiO_(2) 33?35%、La_(2)O_(3) 43?49%、Y_(2)O_(3) 6?12%、ただし、La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3) 54?57%、ZrO_(2) 6?7.5%、Nb_(2)O_(5) 1?2.5%、SrO 0.5?1%、BaO 0?1%、ZnO 0?1%、ただし、SrO+BaO+ZnO 0.5?2%未満、および、As_(2)O_(3)+Sb_(2)O_(3) 0.01?0.1%の組成からなる光学ガラス。」(特許請求の範囲)

「本発明は、屈折率(Nd)が1.770±6×10^(-2)、アッベ数(νd)が49.5±0.5の光学恒数を有し、溶融条件による分光透過率の変動が小さく、短波長域における光線の透過性能、化学的耐久性、非分相性、溶融性および脱泡性が優れ、しかも、Ta_(2)O_(5)およびGd_(2)O_(3)を含有しない光学ガラスに関する。」(第1頁左欄第14行?第1頁右欄第2行)

「つぎに、本発明にかかる光学ガラスの実施組成例とこれからAs_(2)O_(3)またはSb_(2)O_(3)を除いた組成例および既知の光学ガラスの組成例を表1、表2および表3に示し、それぞれの組成例につき光学恒数(Nd,νd)、溶融条件による分光透過率の変動、化学的耐久性、分相性、溶融性および脱泡性を併記した。」(第2頁右下欄第18行?第3頁左上欄第4行)



」(第3頁表1)

上記実施例1を構成するガラス成分は、全て酸化物であるから、酸化物基準の重量比が記載されているものと認められる。
そして、実施例1には、SiO_(2)が3.50重量%、B_(2)O_(3)が30.00重量%、Y_(2)O_(3)が11.00重量%、ZrO_(2)が6.60重量%、Nb_(2)O_(5)が1.50重量%、La_(2)O_(3)が45.45重量%、ZnOが0.90重量%、SrOが1.00重量%、Sb_(2)O_(3)が0.05重量%であり、屈折率が1.7713であること、及び、アッベ数が49.3であることが記載されており、このときの、重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)=3.50/30.00=0.117であり、重量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)=(0.90+11.00)/45.45=0.262であり、重量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))=(0+1.50+0)/(0+11.00)=0.136であり、ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)=6.60+1.50=8.10であり、B_(2)O_(3)+SiO_(2)=3.50+30.00=33.50重量%である。
そして、実施例1には、Gd_(2)O_(3)、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)の含有量について記載されておらず、他の成分の合計量が100重量%であることからみて、実質的に含まれていないものといえる。

よって、乙12の実施例1には、本件訂正発明1の記載に則して、以下の引用発明2が記載されていると認められる。
「酸化物基準で、
SiO_(2)を3.50重量%含有し、
B_(2)O_(3)を30.00重量%、
Y_(2)O_(3)を11.00重量%、
ZrO_(2)を6.60重量%、
Nb_(2)O_(5)を1.50重量%
含有し、かつ、
重量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.117であり、
重量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.262であり、
重量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.136であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が8.10重量%であり、
La_(2)O_(3)を45.45重量%含有し、
ZnOの含有量が0.90重量%、
B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33.50重量%であり
Gd_(2)O_(3)、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)を実質的に含有しない
ことを特徴とする光学ガラス」

(イ)本件訂正発明1と引用発明2について

引用発明2に記載の「重量%」は、本件訂正発明1の「質量%」に相当する。

よって、本件訂正発明1と引用発明2とを対比すると、
「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
Gd_(2)O_(3)の含有量が0.0?8.17質量%、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であることを特徴とする光学ガラス。」の点で両者は一致し、以下の3点で相違する。

・相違点14:本件訂正発明1は、光学ガラスの-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるのに対し、引用発明2は、上記事項について記載されていない点。
・相違点15:本件訂正発明1は、Nb_(2)O_(5)を1.62?14質量%含有しているのに対し、引用発明2は、Nb_(2)O_(5)を1.50質量%含有している点。
・相違点16:本件訂正発明1は、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除いた光学ガラスであるのに対し、引用発明2は、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33.50重量%である点。

上記相違点14?16について検討する。

特許権侵害差止等請求事件の特許無効の抗弁において提出された乙13の1?乙14の2について、乙13の1、乙14の1は、特許権侵害差止等請求事件の被告であるHOYA株式会社の従業員が作製した測定用サンプルであり、それぞれ乙12の実施例1に記載の光学ガラスの線膨張係数α測定用サンプルと光弾性定数β測定用サンプルの作製条件に関する実験成績証明書である。
また、乙13の2は、乙13の1で作製した線膨張係数α測定用サンプルを第三者機関であるNSST日鉄住金テクノロジー株式会社において平均線膨張係数αを測定した結果を示すものであり、乙14の2は、乙14の1で作製した光弾性定数β測定用サンプルを第三者機関であるユニオプト株式会社において光弾性定数βを測定した結果を示すものである。

乙13の1?乙14の2によると、引用発明2の組成を満たす光学ガラスを作製し、平均線膨張係数αと光弾性定数βを測定したところ、平均線膨張係数αは65×10^(-7)[℃^(-1)]であり、光弾性定数βは1.37×10^(-12)[Pa^(-1)]であったことから、乗算α×βは89.05×10^(-19)[℃^(-1)×Pa^(-1)]=89.05×10^(-12)[℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)]である。
よって、引用発明の光学ガラスは、平均線膨張係数αと光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるといえるから、相違点14は実質的な相違点ではない。

次に、相違点15について検討する。
引用発明2のNb_(2)O_(5)成分の含有量は1.50質量%であり、明らかに本件訂正発明1で特定されている範囲内ではない。
よって、相違点15は実質的な相違点である。

次に、相違点16について検討する。
引用発明2のB_(2)O_(3)+SiO_(2)は33.50重量%であり、33?35%の範囲内であるから、相違点16は実質的な相違点である。

以上から、相違点15、16は実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明1は、乙12に記載された引用発明2ではない。

さらに、相違点16について検討する。

乙12の第2頁右上欄第18行?第2頁右上欄第20行には、「B_(2)O_(3)とSiO_(2)の合計量は、本発明の目的とする光学恒数を維持するためには33?35%の範囲でなければならない。」と記載されており、引用発明2において、相違点16を解消することには阻害要因がある。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、乙12に記載された引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件訂正発明2と引用発明2について

本件訂正発明2と引用発明2とを対比すると、

「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であり、
Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しない
ことを特徴とする光学ガラス」の点で両者は一致し、以下の3点で相違する。

・相違点17:本件訂正発明2は、光学ガラスの-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であるのに対し、引用発明2は、上記事項について記載されていない点。
・相違点18:本件訂正発明2は、Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%含有しているのに対し、引用発明2は、Nb_(2)O_(5)を1.50質量%含有している点。
・相違点19:本件訂正発明2は、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除いた光学ガラスであるのに対し、引用発明2は、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33.50重量%である点。

相違点17は相違点14と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように実質的な相違点ではない。
相違点18は相違点15と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように実質的な相違点である。
相違点19は相違点16と同じ相違点であり、上記(イ)で検討したように実質的な相違点である。

以上から、相違点18、19は実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明2は、乙12に記載された引用発明2ではない。

さらに、相違点19について検討すると、上記(イ)で検討したように、引用発明2において、相違点19を解消することには阻害要因がある。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明2は、乙12に記載された引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件訂正発明4?6、9、10、12について

本件訂正発明4?6、9、10、12は本件訂正発明1を直接または間接的に引用するものであり、引用発明2と対比すると、上記(イ)に記載した相違点15?16と同じ相違点が少なくとも存在する。そしてそれらの相違点については、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件訂正発明4?6、9、10、12は、乙12に記載された発明ではなく、乙12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(オ)乙12に基づく、新規性進歩性についてのまとめ
本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12は、乙12に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12は、乙12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。


ウ.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について(無効理由3、4)

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討することにより行うとされている。
(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)

これを本件特許についてみると、本件訂正後の請求項の記載は、光学ガラスを下記(ア)に記す組成要件と物性要件によって特定するものであり、物性要件は下記(イ)で述べるように本件発明の課題を定量的に表現するものであって、組成要件で特定される光学ガラスを本件発明の課題を解決できるものに限定するための要件ということができる。
そして、本件訂正発明がサポート要件に適合するものといえるためには、組成要件で特定される光学ガラスが発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、組成要件で特定される光学ガラスが組成範囲の上限値及び下限値においても高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又は本件特許の出願時の技術常識から当業者が認識できることが必要というべきである。

上記観点に基づいて、本件特許の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(ア)本件訂正発明の組成要件及び物性要件について

「本件訂正発明1」に係る「光学ガラス」は以下の「組成要件1」と「物性要件1」とに係る発明特定事項を有する。
「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?14質量%、
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
Gd_(2)O_(3)の含有量が0.0?8.17質量%、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%」、及び、「重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く」からなる「組成要件1」と、
「-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、
屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数」からなる「物性要件1」と、によって特定される「光学ガラス」。

同様に、「本件訂正発明2」に係る「光学ガラス」は以下の「組成要件2」と「物性要件2」とに係る発明特定事項を有する。
「酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%であり、
Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しない」、及び、「重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く」からなる「組成要件2」と、
「-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、
屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数」からなる「物性要件2」と、によって特定される「光学ガラス」。

(イ)本件発明が解決しようとする課題及び解決手段について

本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加したものである。)

摘記1-1:「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラスを環境負荷が高い成分及び希少な鉱物資源を大量に用いることなく提供することにある。

摘記1-2「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目標を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)を必須成分として含有させ、かつ構成成分の比率を調整することにより、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下を実現する高屈折率低分散光学ガラスを、環境負荷が高い成分及び希少鉱物資源を大量に使用することなく作製し、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。その構成を以下に示す。」

摘記1-3:「【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の光学ガラスについて説明する。
前記構成1の光学ガラスは、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であることを特徴とし、このα×βという指標は、使用環境における結像特性の変化量を示す。より具体的に説明すると、平均線膨張係数αが大きいほど、使用環境の温度変化に対して光学素子の膨張率(体積変化)が大きいことを意味するため、治具などで固定されている光学素子には、大きな熱応力が発生することを意味する。また、光弾性定数βが大きいほど、生じた熱応力によって生じる複屈折が大きいことを意味するため、すなわち、α×βがより小さいほど、使用環境における結像特性の変化が少ないことを示唆する。
なお、α×βが130×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であることにより、光学設計時に所望していた結増特性(当審注:結像特性の誤記と思われる)が、実使用環境で温度変化が生じた場合でも実現されやすいという利益がある。」

ここで、摘記1-1から、本件発明が解決しようとする課題は、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラスについて、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい光学ガラスにするとともに、環境負荷が高い成分及び希少な鉱物資源を大量に用いない光学ガラスを提供することであるといえる。
そして、摘記1-2及び摘記1-3の記載から、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい光学ガラスを形成するためには、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βを一定の範囲とすることが必要であるといえる。
また、環境負荷が高い成分及び希少な鉱物資源を大量に用いることのない光学ガラスを提供するために、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)を必須成分として構成成分の調製をしたものといえる。

(ウ)無効理由3について

本件訂正発明1は、「平均線膨張係数α」と「光弾性定数β」の乗算α×βを一定の範囲にすることに加えて、「屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有」することが物性要件1として特定され、さらに、「環境負荷が高い成分及び希少な鉱物資源を大量に用いることなく」についても、組成要件1によって特定されており、課題自体が特定されている。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明4?6、9、10、12についても同様である。

本件訂正発明2も、本件訂正発明1と同様に、「-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有」すること、及び、組成要件2によって各成分が特定されている。

ここで、特許権侵害差止等請求事件の無効の抗弁の無効理由3は、要するに、「使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくいかどうかは、固定治具として使用される材料(例えば、典型例は金属である)の線膨張係数αと光学ガラスの平均線膨張係数αの差に大きく依存するところ、本件明細書1には、実施例においても、固定治具の構造や材料についての記載はない。当業者は、光学ガラスの平均線膨張係数αが、固定治具として典型的に使用される金属の線膨張係数αよりも、例えば、極めて小さい場合であっても、α×βを90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下の光学ガラスとすることで、本件発明1の課題を解決できると認識することはできない。」というものであり、具体的には、本件発明の実施例として開示されている光学レンズの平均線膨張係数αが概ね61?64(×10^(-7)℃^(-1))の値を採り、本件出願当時の固定治具の材料が典型的には金属であったことを考慮すれば、これらの値は、固定治具の平均線膨張係数α’よりも小さいということになるが、本件発明がいう「α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下」とは、光学レンズの平均線膨張係数αを、例えば「30」(実施例の場合よりもαとα’の差がより広がることを意味する)とした場合、βを「3」(実施例の場合よりもひずみやすいガラスを意味する)以下にすればよいということを意味するのであるから、そのような光学ガラスは、本件発明の実施例からみて、およそ本件発明1の課題を解決できるということはできないというものである。

上記理由について検討する。
ガラスの組成によってα、β等の物性値が変化することは明らかであるところ、組成要件が特定されている本件訂正発明1において、取り得るα、βの値は実質的に限定されているものと認められる。
すなわち、本件訂正発明1の実施例に記載の光学ガラスの線膨張係数αは61?64×10^(-7)℃^(-1)であり、平均線膨張係数αを下げる成分であるB_(2)O_(3)とZnOを多く含む比較例3の光学ガラスであっても平均線膨張係数αが51×10^(-7)℃^(-1)であるから、本件訂正発明1で特定される光学ガラスが、上記無効理由3において主張されるような極めて小さな線膨張係数の光学ガラス(例えば、線膨張係数αが30×10^(-7)℃^(-1)の光学ガラス)を含むものとは認められない。
してみると、無効理由3は前提において失当があり、物性要件(屈折率、アッベ数、乗算α×β)及び組成要件が特定されている本件訂正発明1は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる光学ガラスであるといえる。
したがって、無効理由3には理由がない。
本件訂正発明2、4?6、9、10、12についても同様であって、無効理由3には理由がない。


(エ)無効理由4について

特許権侵害差止等請求事件の無効の抗弁の無効理由4は、要するに、「本件訂正発明1実施例の光学ガラスが使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくいものであるのかについて確認しておらず、本件訂正発明1が規定する各成分の含有量の範囲が、本件訂正発明1実施例の各成分の含有量と比べて極めて広範囲であるから、本件出願時の技術常識に照らしても、当業者が本件訂正発明1が規定する各成分の含有量のすべてにわたって、発明の課題を解決できるかどうか不明であるから、サポート要件に適合していない。」というものである。
以下、本件訂正発明1実施例に記載の各成分組成の最大値又は最小値と、組成要件1で特定される各成分組成の上限値又は下限値が離れている成分について検討する。

a.本件特許明細書の記載

本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加したものである)

摘記1-4:「【0030】
個々の成分について説明すると、SiO_(2)成分は安定なガラス形成を促し、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)や脈理(ガラス内部の不均一性)を抑制する効果があるが、過剰に含有させると屈折率(nd)が小さくなりやすく、光弾性定数βが著しく増大する傾向となり、その結果、所望の特性を得にくくなるため、その上限は、12.0質量%未満、より好ましくは11.5質量%、最も好ましくは11.0質量%であり、好ましくは1.0質量%より多く、より好ましくは1.2質量%以上、最も好ましくは1.4質量%以上とする。」

摘記1-5:「【0031】
B_(2)O_(3)成分は、SiO_(2)成分と同様に安定なガラス形成を促し、小さな平均線膨張係数を実現するために、不可欠な成分である。しかしその量が少なすぎると安定なガラスが得にくくなり、その量が多すぎると屈折率(nd)が小さくなりやすく、光弾性定数βが著しく増大する傾向となり、その結果、所望の特性を得にくくなる。好ましくは35質量%、より好ましくは34質量%、最も好ましくは33質量%を上限とし、好ましくは8.0質量%、より好ましくは8.5質量%、最も好ましくは9.0質量%を下限とする。」

摘記1-6:「【0032】
また、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0を超え、0.6未満とすることにより、原料の熔融性及びガラスの安定性が増す効果が得られるばかりでなく、平均線膨張係数αの増大を抑制する効果が得られる。上限を超えると、平均線膨張係数αが増大するばかりでなく、ガラス熔融時に熔け残り(主として、SiO_(2)を含む難熔融性の結晶)が発生し、生産性が悪化し、内部品質へ悪影響を及ぼすことがある。」

摘記1-7:「【0033】
La_(2)O_(3)成分は、屈折率を高め、分散が小さくなる(アッベ数が大きくなる)効果のほかに、光弾性定数βを小さくする効果がある。しかし過剰に含有させるとガラスが著しく不安定化して失透しやすくなる。したがって好ましくは50質量%、より好ましくは49.5質量%、最も好ましくは49.0質量%を上限とし、好ましくは25質量%、より好ましくは25.5質量%、最も好ましくは26質量%を下限とする。」

摘記1-8:「【0035】
前記構成1及び2の光学ガラスにおいて、Gd_(2)O_(3)成分はLa_(2)O_(3)成分と同様に屈折率を高め、分散を小さくする効果が得られるが、過剰に含有させると、La_(2)O_(3)成分と同様に、失透が発生しやすくなる。したがって、その上限値は、好ましくは40質量%、より好ましくは39質量%、最も好ましくは38質量%である。Gd_(2)O_(3)成分は、任意の原料形態で導入させることができるが、酸化物(Gd_(2)O_(3))或いは弗化物(GdF_(3))の形態で導入することが好ましい。」

摘記1-9:「【0036】
Y_(2)O_(3)成分は、屈折率及び分散を調整する効果があるが、過剰に含有させると所望の光学恒数が得られなくなる恐れがある。その上限値は、好ましくは15質量%、より好ましくは14.5質量%、最も好ましくは14.0質量%である。」

摘記1-10:「【0037】
ZrO_(2)成分は、屈折率(nd)を高め、耐失透性を向上させる効果が得られるが、ZrO_(2)成分は、難熔融成分であるため、過剰に含有させると、ガラス製造時に高温での熔解を余儀なくされ、エネルギー損失が問題となりやすい。一方、所定量含有させることにより失透を抑制する効果が得られる場合もある。したがって、好ましくは15質量%、より好ましくは13質量%、最も好ましくは12質量%を上限とし、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%、最も好ましくは3質量%を下限とする。」

摘記1-11:「【0038】
Ta_(2)O_(5)成分は、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、で任意に含有させることが可能である。しかし、Ta_(2)O_(5)成分は、希少鉱物資源であり原料価格が高く、難熔融成分であり、ガラス製造時に高温熔解を余儀なくされるため、生産コストが増大するばかりでなく、光弾性定数βを増大させる特性を持つため、その含有量の上限は、25質量%が好ましい。より好ましい上限値は、22質量%、最も好ましい上限値は19質量%である。」

摘記1-12:「【0039】
Nb_(2)O_(5)成分は、Ta_(2)O_(5)成分と同様に、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、0?18質量%の範囲で任意に含有させることが可能である。しかし、Nb_(2)O_(5)成分は難熔融成分であり、ガラス製造時に高温熔解を余儀なくされるため、生産コストが増大するばかりでなく、光弾性定数βを増大させる特性を持つため、その含有量の上限は18質量%が好ましい。より好ましい上限値は16質量%、最も好ましい上限値は14質量%である。」

摘記1-13:「【0040】
WO_(3)成分は屈折率及び分散を調整し、ガラスの耐失透性を向上させる効果がある。しかし過剰に含有させると、ガラスの着色が顕著となり、特に可視-短波長領域(500nm未満)の透過率が低くなるため、好ましくない。したがって、好ましくは10質量%、より好ましくは8質量%、最も好ましくは6質量%を上限とする。」

摘記1-14:「【0045】
構成7の光学ガラスにおいては、分散を高める効果の強いTa_(2)O_(5)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)の合計量と分散を小さくする効果が得られるGd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)の合計量の質量%比である(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))は、0.05を超え1.30未満の範囲にすることで、所望のアッベ数(35?55)を実現しやすくなるため、前記の範囲が好ましい。より好ましくは、0.055?1.29、最も好ましくは、0.06?1.28の範囲である。」

摘記1-15:「【0053】
ZnO成分は、ガラスの熔融性を向上させる一方で、平均熱膨張係数αを小さくする効果が得られるため、0?10.0質量%の範囲で任意に含有させることが可能であるが、光弾性定数βを著しく増大させる性質を持っているため、過剰に含有させると、所望の特性を実現しにくくなる。より好ましい範囲は、5.0質量%、最も好ましくは2.0質量%未満であり、好ましくは0.1質量%を下限とする。」

b.本件訂正発明1について

(a)SiO_(2)成分について
SiO_(2)成分の上限値(7.52質量%)について検討する。
実施例10には、SiO_(2)成分を2.60質量%、B_(2)O_(3)成分を28.2質量%、La_(2)O_(3)成分を45.06質量%、ZnO成分を0.90質量%とすることが記載されている。
摘記1-4、1-5には、SiO_(2)成分とB_(2)O_(3)成分が安定なガラス成分を促す組成として挙げられており、また、SiO_(2)成分を過剰に含有させると屈折率(nd)が小さくなりやすいこと、及び、光弾性定数βが増大する傾向であることが記載されている。
また、B_(2)O_(3)成分は、小さな平均線膨張係数を実現するために、不可欠な成分であり、含有量が多くなると屈折率が減少し、光弾性定数βは増大する傾向であることから、B_(2)O_(3)成分の含有量を減らすことで屈折率は増大し、光弾性定数βは減少するものといえる。
さらに、平均熱膨張係数αを小さく成分として、ZnO成分(摘記1-15)が、光弾性定数βを小さくする成分としてLa_(2)O_(3)成分(摘記1-7)が記載されている。

よって、実施例10において、SiO_(2)成分を2.60質量%から7.52質量%に変更する場合(4.92質量%増量)、屈折率が減少し、光弾性定数βが増大するといえるが、代わりにB_(2)O_(3)成分を28.2質量%から18.33質量%に変更(9.87質量%減量)するとともに、La_(2)O_(3)成分を45.06質量%から47.91質量%に変更(2.85質量%増量)し、ZnO成分を0.90質量%から3.00質量%に変更(2.10質量%増量)することで、屈折率が増大し、平均熱膨張係数α及び光弾性定数βは減少するものといえるから、SiO_(2)成分を上限値の7.52質量%としても、B_(2)O_(3)成分、La_(2)O_(3)成分及びZnO成分の含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、SiO_(2)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
同様に、SiO_(2)成分の下限値である1.94質量%についても、B_(2)O_(3)成分、La_(2)O_(3)成分及びZnO成分の含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、SiO_(2)成分の下限値も発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(b)B_(2)O_(3)成分について
上記(a)で検討したように、下限値である18.33質量%は、SiO_(2)成分、La_(2)O_(3)成分及びZnO成分の含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、B_(2)O_(3)成分の下限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、上限値である30.21質量%は実施例5に記載されている。

(c)La_(2)O_(3)成分について
摘記1-7に記載されているように、La_(2)O_(3)成分は屈折率を高め、アッベ数を大きくし、光弾性定数βを小さくする成分であり、屈折率、アッベ数を調製する(大きくする)成分としてGd_(2)O_(3)成分やY_(2)O_(3)成分が挙げられている(摘記1-8、1-9)。
また、La_(2)O_(3)成分を減少させることで光弾性定数βが増大してしまうが、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)を大きくすることで、平均線膨張係数αの増大を抑え(摘記1-6)、乗算α×βの値の増大を抑えることができる。

ここで実施例7には、SiO_(2)成分が2.60質量%、B_(2)O_(3)成分が29.20質量%、Y_(2)O_(3)成分が8.80質量%、La_(2)O_(3)成分が47.06質量%であり、Gd_(2)O_(3)成分を実施的に含まないことが記載されている。
そして、La_(2)O_(3)成分を47.06質量%から40.00質量%に変更(7.06質量%減量)する代わりに、Y_(2)O_(3)成分を8.80質量%から15.00質量%に変更(6.20質量%増量)することで、屈折率の減少及びアッベ数の減少を抑制(相殺)するとともに、残分の0.86質量%をSiO_(2)成分を増大させて(2.60質量%から3.46質量%に変更)質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が大きくなるように調製することで、平均線膨張係数αの増大を抑え、乗算α×βの値の増大を抑えることができ、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、La_(2)O_(3)成分の下限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
同様に、La_(2)O_(3)成分の上限値である50.0質量%についても、Y_(2)O_(3)成分、SiO_(2)成分の含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、La_(2)O_(3)成分の上限値も発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(d)Y_(2)O_(3)成分について
上記(c)で検討したように、上限値である15質量%は、La_(2)O_(3)成分、SiO_(2)成分の含有量を調製することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、Y_(2)O_(3)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、下限値である8.80質量%は実施例7に記載されている。

(e)Nb_(2)O_(5)成分について
摘記1-12に記載されているように、Nb_(2)O_(5)成分が多いと、ガラス原料の熔融が困難になること、及び、光弾性定数βが増大させる性質を有している。
ここで、実施例10には、SiO_(2)成分を2.60質量%、B_(2)O_(3)成分を28.2質量%、La_(2)O_(3)成分を45.06質量%、ZrO_(2)成分を6.60質量%、ZnO成分を0.90質量%、Nb_(2)O_(5)成分を3.80質量%とすることが記載されている。
そして、実施例10において、Nb_(2)O_(5)成分を3.80質量%から14.00質量%(10.20質量%増量)させた場合について検討すると、難熔融成分であるZrO_(2)成分を6.60質量%から5.00質量%まで減少(1.60質量%減量)させることで熔融性を若干改善させることができる。
さらに、B_(2)O_(3)成分を28.20質量%から20.20質量%に変更(8.00質量%減量)し、SiO_(2)成分を2.60質量%から2.00質量%に変更(0.60質量%減量)し、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が大きくなるように変更することで、平均線膨張係数αの増大を抑え、乗算α×βの値の増大を抑えることができる。
そして、ガラス原料の熔融性は、本件発明の課題ではなく、溶融温度を調整すればよいだけであるから、Nb_(2)O_(5)成分を上限値の14質量%に変更しても発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、Nb_(2)O_(5)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

次に、下限値である1.62質量%にする場合について検討する。
実施例10には、SiO_(2)成分を2.60質量%、B_(2)O_(3)成分を28.20質量%、La_(2)O_(3)成分を45.06質量%、ZrO_(2)成分を6.60質量%、ZnO成分を0.90質量%、Nb_(2)O_(5)成分を3.80質量%とすることが記載されている。
ここで、実施例10において、ZrO_(2)成分を6.60質量%から9.00質量%(2.40質量%増量)する場合、同じ難熔融成分であるNb_(2)O_(5)成分を3.80質量%から1.62質量%に変更(2.18質量%減量)することで難熔融成分の増加を抑制し、残部をSiO_(2)成分やB_(2)O_(3)成分等のネットワークフォーマーで調製することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、Nb_(2)O_(5)成分の下限値も発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(f)ZrO_(2)成分について
摘記1-10には、ZrO_(2)成分は、屈折率(nd)を高め、耐失透性を向上させる効果があること、及び、難熔融成分であることが記載されている。
本件訂正発明1実施例には、ZrO_(2)を6.50?6.60質量%とすることが記載されており、上記(e)で記載したように、同じ難熔融成分あるNb_(2)O_(5)成分を含めた成分調整を行うことで、下限値である5.0質量%、及び上限値である9.0質量%のガラス成分を調整することができ、ZrO_(2)成分の下限値及び上限値において、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、ZrO_(2)成分の下限値及び上限値も発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(g)Gd_(2)O_(3)成分について
上記(c)で検討したように、Gd_(2)O_(3)成分はLa_(2)O_(3)成分と同じく屈折率を高め、アッベ数を大きくする成分である。
ここで、実施例7には、SiO_(2)成分が2.60質量%、B_(2)O_(3)成分が29.20質量%、Y_(2)O_(3)成分が8.80質量%、La_(2)O_(3)成分が47.06質量%であり、Gd_(2)O_(3)成分を実施的に含まないことが記載されている。
そして、La_(2)O_(3)成分を47.06質量%から40.00質量%に変更(7.06質量%減量)する代わりに、Gd_(2)O_(3)成分を0.0質量%から8.17質量%に変更(8.17質量%増量)することで、屈折率の減少及びアッベ数の減少を抑制(相殺)するとともに、残分の1.11質量%をB_(2)O_(3)成分を減量させて(29.20質量%から28.09質量%に変更)、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が大きくなるように調製し、乗算α×βの増加を抑制させることで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、Gd_(2)O_(3)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、Gd_(2)O_(3)成分を0.0質量%にすることは、実施例10等に記載されている。

(h)ZnO成分について
上記(a)で検討したように、実施例10において、SiO_(2)成分を2.60質量%から7.52質量%に変更する場合(4.92質量%増量)、屈折率が減少し、光弾性定数βが増大するといえるが、代わりにB_(2)O_(3)を28.20質量%から18.33質量%に変更(9.87質量%減量)するとともに、La_(2)O_(3)成分を45.06質量%から45.91質量%に変更(0.85質量%増量)し、ZnO成分を0.90質量%から5.00質量%に変更(4.10質量%増量)することで、屈折率が増大し、平均熱膨張係数α及び光弾性定数βは減少するものといえるから、ZnO成分を上限値の5.0質量%としても、B_(2)O_(3)成分、La_(2)O_(3)成分及びSiO_(2)成分の含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、ZnO成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、実施例10において、ZnO成分を下限値の0質量%まで減少させた場合、減少分の0.90質量%分だけLa_(2)O_(3)成分を増加させることで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、ZnO成分の下限値も発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(i)WO_(3)成分について
実施例7には、WO_(3)成分を実施的に含まないこと、実施例10には、WO_(3)成分を0.50質量%とすることが記載されている。

(j)Ta_(2)O_(5)成分について
実施例10には、Ta_(2)O_(5)成分を実施的に含まないことが記載されている。
また、摘記1-11に記載されているように、Ta_(2)O_(5)成分は希少鉱物資源で、難熔融成分であるものの、屈折率を高め、ガラスを安定化させる効果が得られるため、実施例10において、Ta_(2)O_(5)成分を1.14質量%増量させ、他の成分、例えば、同じ難熔融成分であるNb_(2)O_(5)成分を3.80質量%から2.66質量%まで、1.14質量%減少させて調製することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、Ta_(2)O_(5)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(k)質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)について
下限値である0.086は実施例5に記載されている。
また、上記(a)で検討したように、SiO_(2)成分を7.52質量%、B_(2)O_(3)成分を18.33質量%とした場合の質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)は0.410である。

(l)質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)について
実施例7において、La_(2)O_(3)成分を47.06質量%から40.00質量%に変更(7.06質量%減量)する代わりに、Y_(2)O_(3)成分を8.80質量%から15.00質量%に変更(6.20質量%増量)することで、屈折率の減少及びアッベ数の減少を抑制(相殺)することができる。
また、ZnO成分を0.90質量%から5.00質量に変更(4.10質量%増量)することで、光弾性定数βが増大するものの、ガラスの熔融性が向上し、平均熱膨張係数αを小さくする効果が得られるため、乗算α×βの増大を抑制することができ、さらに、残部をB_(2)O_(3)成分を29.20質量%から25.96質量%に変更(3.24質量%減量)して調製することで、屈折率が増大し、光弾性定数βが減少するものといえるから、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できるといえる。
よって、La_(2)O_(3)成分を40.00質量、ZnO成分を5.00質量、Y_(2)O_(3)成分を15.00質量%とすることで、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.50となることから、当該上限値(0.5未満)は、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、下限値である0.206は実施例7に記載されている。

(m)小括
本件訂正発明1で特定されている組成要件の各成分について、各上限値及び下限値は、発明の詳細な説明の記載から、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、無効理由4には理由がない。

c.本件訂正発明2について

(a)SiO_(2)成分、B_(2)O_(3)成分、Y_(2)O_(3)成分、ZrO_(2)成分、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)、質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)成分、ZnO成分、WO_(3)成分、Ta_(2)O_(5)成分について
それぞれ、上記b.(a)、(b)、(d)、(f)、(k)、(l)、(c)、(h)、(i)、(j)で検討したように、各上限値及び下限値は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(b)Nb_(2)O_(5)成分について
上記b(e)で検討したように、Nb_(2)O_(5)成分を3.80質量%から増量するとともに、ZrO_(2)成分、B_(2)O_(3)成分、SiO_(2)成分、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)を調製することで乗算α×βの増加を抑制でき、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できるといえる。
また、ガラス原料の熔融性は、本件発明の課題を解決するために必須の構成ではなく、溶融温度を調整することで解決ができるものであるから、Nb_(2)O_(5)成分を上限値の7.40質量%に変更しても発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、Nb_(2)O_(5)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(c)質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))について
摘記1-14には、Ta_(2)O_(5)成分、Nb_(2)O_(5)成分、WO_(3)成分が分散を高める効果が強く、Gd_(2)O_(3)成分、Y_(2)O_(3)成分が分散を小さくする効果が得られるため、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))を0.05を超え1.30未満の範囲にすることで、所望のアッベ数(35?55)を実現しやすくなること、及び、実施例11には、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398であることが記載されており、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))の上限値である0.398は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(d)ZrO_(2)成分+Nb_(2)O_(5)成分について
実施例10には、SiO_(2)成分を2.60質量%、B_(2)O_(3)成分を28.20質量%、La_(2)O_(3)成分を45.06質量%、ZrO_(2)成分を6.60質量%、ZnO成分を0.90質量%、Nb_(2)O_(5)成分を3.80質量%、ZrO_(2)成分を6.60質量%とすることが記載されている。
ここで、ZrO_(2)成分を6.60質量%から9.20質量%に変更(2.60質量%増量)することで、屈折率(nd)を高め、耐失透性を向上させる効果が得られ、増量分を質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が大きくなるように、B_(2)O_(3)成分を28.20質量%から25.60質量%に変更(2.60質量%減量)することで、平均線膨張係数αの増大を抑え、乗算α×βの値の増大を抑えることができる。
なお、ZrO_(2)成分は、難熔融成分であるが、ガラス原料の熔融性は、本件発明の解決しようとする課題ではなく、溶融温度を調整すればよいだけであるから、ZrO_(2)成分を9.20質量%に変更しても発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、この際、ZrO_(2)成分+Nb_(2)O_(5)成分は上限値の13.0(9.20+3.80)となり、ZrO_(2)成分+Nb_(2)O_(5)成分の上限値は発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

また、実施例10においてNb_(2)O_(5)成分を3.80質量%から1.62質量%に変更(2.18質量%減量)、ZrO_(2)成分を6.60質量%から5.37質量%に変更(1.23質量%減量)することで、ガラス原料の熔融性を高めるとともに、減少した屈折率をLa_(2)O_(3)成分を45.06質量%から48.47質量%に変更(3.41質量%増量)して補填することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、この際、ZrO_(2)成分+Nb_(2)O_(5)成分は6.99(5.37+1.62)となり、ZrO_(2)成分+Nb_(2)O_(5)成分の下限値も発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(e)小括
本件訂正発明2で特定されている組成要件の各成分について、各上限値及び下限値は、発明の詳細な説明の記載から、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

d.本件訂正発明4?6、9、10、12について

本件訂正発明4?6、9、10、12は本件訂正発明1を直接または間接的に引用するものであり、それぞれの発明特定事項について、明細書の記載から発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。


(オ)サポート要件についてのまとめ
(ウ)、(エ)より、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12は、サポート要件を満たしているものと認識でき、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。


エ.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(無効理由5)

特許権侵害差止等請求事件の無効の抗弁の無効理由5は、要するに、「本件訂正発明1が実施可能であるというためには、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件訂正発明1で規定する各成分の範囲内の光学ガラスであって、乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下となる光学ガラスを製造する方法についての具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、本件特許明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が上記光学ガラスを製造できることが必要である。」というものであり、「特に、B_(2)O_(3)成分、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)について、乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下となる光学ガラスを製造する方法についての具体的な記載も、本件出願時の技術常識もない。」というものである。

そこで検討するに、上記ウ.(エ)b.(a)、(b)で検討したように、B_(2)O_(3)の下限値である18.33質量%は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、SiO_(2)、La_(2)O_(3)及びZnOの含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、当業者が本件発明の課題を解決できるような屈折率、アッベ数、乗算α×βを有する光学ガラスを形成できないとまではいえない。
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)についても、質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)の下限値である0.086は実施例5に記載されており、ウ.(エ)b.(a)、(k)で検討したように、発明の詳細な説明の記載に基づいて、SiO_(2)成分を7.52質量%、B_(2)O_(3)成分を18.33質量%とした場合に上限値である0.410となるため、SiO_(2)、La_(2)O_(3)及びZnOの含有量を変更することで、発明の課題を解決できる光学ガラスを形成できると当業者が認識できることから、当業者が本件発明の課題を解決できるような屈折率、アッベ数、乗算α×βを有する光学ガラスを形成できないとまではいえない。
その他のガラス成分についても、上記ウ.(エ)b、cで検討したように、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が本件発明の課題を解決できるような屈折率、アッベ数、乗算α×βを有する光学ガラスを形成できないとまではいえない。

よって、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12は、当業者が実施できない発明であるとはいえない。
したがって、無効理由5には理由がない。

(4)訂正後の発明の独立特許要件について

上記(3)のとおり、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12に係る発明は、乙7又は乙12に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、乙7又は乙12に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
さらに、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12に係る発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。
そして、本件訂正発明1、2、4?6、9、10、12に係る発明について、他に、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

したがって、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるから、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。


第4 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項、第5項?第7項の規定に適合するものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、
屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、
酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?14質量%、
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
Gd_(2)O_(3)の含有量が0.0?8.17質量%、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であることを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。
【請求項2】
-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが90×10^(-12)℃^(-1)×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下であって、
屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有し、
酸化物基準で、
SiO_(2)を1.94?7.52質量%含有し、
B_(2)O_(3)を18.33?30.21質量%、
Y_(2)O_(3)を8.80?15質量%、
ZrO_(2)を5.0?9.0質量%、
Nb_(2)O_(5)を1.62?7.40質量%
含有し、かつ、
質量%比SiO_(2)/B_(2)O_(3)が0.086以上0.410以下であり、
質量%比(ZnO+Y_(2)O_(3))/La_(2)O_(3)が0.206以上0.5未満であり、
質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.398以下であり、
ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)が6.99質量%以上13.0質量%未満であり、
La_(2)O_(3)を40.00?50.0質量%含有し、
ZnOの含有量が0?5.0質量%、
WO_(3)の含有量が0?0.50質量%、
Ta_(2)O_(5)の含有量が0?1.14質量%
であり、
Gd_(2)O_(3)を実質的に含有しない
ことを特徴とする光学ガラス(但し、重量パーセントで、B_(2)O_(3)+SiO_(2)が33?35%の組成からなるものを除く)。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1に記載のガラスであって、酸化物基準で、
GeO_(2)を0.0?0.1質量%、
Yb_(2)O_(3)を0.0?1.0質量%、
Ga_(2)O_(3)を0.0?1.0質量%、又は
Bi_(2)O_(3)を0.0?1.0質量%を含有し、
鉛化合物及び砒素化合物を含有しないことを特徴とする光学ガラス。
【請求項5】
請求項1又は4に記載のガラスであって、酸化物基準で、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が、0.05を超え1.30未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項6】
請求項1、4又は5に記載のガラスであって、酸化物基準の質量%表示で、
Li_(2)O 0?5.0%、
Na_(2)O 0?5.0%、
K_(2)O 0?5.0%、
Cs_(2)O 0?5.0%、
MgO 0?5.0%、
CaO 0?5.0%、
SrO 0?5.0%、
BaO 0?5.0%、
TiO_(2) 0?3.0%、
SnO_(2) 0?3.0%、
Al_(2)O_(3) 0?3.0%、
P_(2)O_(5) 0?5.0%、
Lu_(2)O_(3) 0?5.0%、
TeO_(2) 0?3.0%、
Sb_(2)O_(3) 0?2.0%、又は
F 0?3.0%を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
請求項1又は4?6のいずれか一項に記載のガラスであって、酸化物基準で、質量%比(ZrO_(2)+Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が、1.00未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項10】
請求項1、4?6又は9のいずれか一項に記載のガラスを母材とする光学素子。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
請求項1、4?6又は9のいずれか一項に記載のガラスで作成した光学素子及び光学基板材料を使用する光学機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-05 
結審通知日 2018-03-07 
審決日 2018-03-20 
出願番号 特願2012-16333(P2012-16333)
審決分類 P 1 41・ 113- Y (C03C)
P 1 41・ 121- Y (C03C)
P 1 41・ 851- Y (C03C)
P 1 41・ 536- Y (C03C)
P 1 41・ 857- Y (C03C)
P 1 41・ 856- Y (C03C)
P 1 41・ 537- Y (C03C)
P 1 41・ 853- Y (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田澤 俊樹山田 貴之  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 大橋 賢一
山本 雄一
登録日 2014-08-15 
登録番号 特許第5596717号(P5596717)
発明の名称 光学ガラス  
代理人 林 一好  
代理人 林 一好  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  

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