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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 一部無効 2項進歩性  H01M
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01M
審判 一部無効 特29条の2  H01M
審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  H01M
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01M
審判 一部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  H01M
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部無効 特許請求の範囲の実質的変更  H01M
管理番号 1339393
審判番号 無効2013-800022  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-02-14 
確定日 2018-04-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5072123号「扁平形非水電解質二次電池」の特許無効審判事件についてされた平成25年12月11日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10097号、平成26年11月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5072123号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5072123号についての手続の経緯は、以下のとおりである。
平成11年 8月27日 原出願(特願平11-240964号)
平成21年10月 9日 本件分割出願(特願2009-234722号)
平成24年 8月31日 特許権の設定登録
平成25年 2月14日 無効審判請求
平成25年 5月 7日 被請求人:審判事件答弁書
平成25年 7月 5日 請求人:審判事件弁駁書
平成25年 8月28日 審理事項通知
平成25年10月15日 請求人:口頭審理陳述要領書
平成25年10月22日 被請求人:口頭審理陳述要領書
平成25年10月29日 口頭審理
平成25年12月11日 一次審決(請求不成立)
平成26年 4月16日 審決取消訴訟(H26(行ケ)10097)提訴
平成26年11月26日 判決言渡(審決取消)
平成26年12月18日 被請求人:訂正申立
平成27年 1月22日 通知書
平成27年 2月25日 被請求人:訂正請求書、審判事件答弁書
平成27年 3月 6日 併合審理通知(無効2013-800236号)
平成27年 4月 9日 被請求人:意見書(無効2013-800236 号)
平成27年 7月28日 請求人:審判事件弁駁書
〃 請求人:意見書(無効2013-800236号 )
平成28年 4月 7日 併合分離通知

第2 請求人の主張
請求人は、特許第5072123号の請求項1に係る特許は無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下のとおり主張し、その証拠方法として下記甲第1号証?甲第6号証を提出し、平成25年7月5日付け審判事件弁駁書において、下記甲第7号証?甲第11号証を提出している。

・無効理由I
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件特許に係る特許出願の原出願の出願日前に特許出願され、前記本件特許に係る特許出願の原出願の出願後に出願公開された甲第1号証(特願平10-338734号)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、本件特許に係る特許出願の原出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、原出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人とも同一ではないから、本件特許発明に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

・無効理由II
本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許発明の本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

・無効理由III
本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明に甲第4号証?甲第5号証に記載された周知技術を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

・無効理由IV
本件特許発明に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。


甲第1号証: 特願平10-338734号(特開2000-16425 9号公報)
甲第2号証: 実験成績証明書
甲第3号証: 実願昭62-166928号(実開平1-71867号) のマイクロフィルム
甲第4号証: 特開平11-97064号公報
甲第5号証: 特開平9-298066号公報
甲第6号証: 本件特許に係る特許出願の原出願に対する平成21年11 月10日付け拒絶理由通知書
甲第7号証: 甲第2号証(実験成績証明書)の補足説明及びその訳文
甲第8号証: 東京税関長に提出された松川克明専門委員の「意見書」
甲第9号証: 東京税関長に提出された村田真一専門委員の「意見書」
甲第10号証:東京税関長に提出された松井孝夫専門委員の「意見書」
甲第11号証:東京税関長からの「輸入差止申立てにおける専門委員意見 照会に係る輸入差止申立ての保留結果通知書」

第3 被請求人の主張
被請求人は、平成25年5月7日付け審判事件答弁書において、本件特許発明は、無効理由I?IIIは成立せず、また、本件特許は、無効理由IVは存在しない旨主張し、下記乙第1?4号証を提出している。


乙第1号証: 特許第5072123号公報
乙第2号証: 本件特許出願に対する平成24年5月24日(起案日)付 の拒絶理由通知書
乙第3号証: 本件特許出願について提出した平成24年7月27日付け の意見書
乙第4号証: 原出願(特願平11-240964号)から本件特許を分 割出願した際に、提出した平成21年10月9日付の上申 書

第4 訂正の適否について
[1]訂正の内容
平成27年2月25日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
・訂正事項1-1:
特許請求の範囲の請求項1に「内包した扁平形非水電解質二次電池において」とあるのを、「内包し、前記絶縁ガスケットの開口が円形である、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池において」に訂正する。

・訂正事項1-2:
特許請求の範囲の請求項1に「前記正極板は、導電性を有する正極構成材の表面に、正極作用物質を含有する作用物質含有層を有しており」とあるのを、「前記正極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構造材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記正極構造材の連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有しており」に訂正する。

・訂正事項1-3:
特許請求の範囲の請求項1に「前記負極板は、導電性を有する負極構成材の表面に、負極作用物質を含有する作用物質含有層を有しており」とあるのを、「前記負極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構造材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記負極構成材の連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有しており」に訂正する。

・訂正事項1-4:
特許請求の範囲の請求項1に、「前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続されており、」を追加する。

・訂正事項1-5:
特許請求の範囲の請求項1に、「前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する各前記(「前記各」の誤記)正極板及び各前記(「前記各」の誤記)負極板は、各前記(「前記各」の誤記)正極構成材及び各前記(「前記各」の誤記)負極構成材の両面に各前記(「前記各」の誤記)作用物質含有層を有しており、」を追加する。
(なお、訂正請求書においては、「各前記」と記載されているが、訂正請求の趣旨が、「特許請求の範囲を本件請求書に添付した・・・特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」ものであり、訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1には、「前記各」と記載されている。
また、訂正事項1-4においても「前記各」、「前記各」とあることから、上記「各前記」は「前記各」の誤記と認める。)

・訂正事項2:
特許請求の範囲の請求項2,請求項3、及び請求項8を削除する。

・訂正事項3:
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれかに記載の扁平形非水電解質二次電池」とあるのを、「請求項1に記載の扁平形非水電解質二次電池」に訂正する。

・訂正事項4:
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の扁平形非水電解質二次電池」とあるのを、「請求項1又は4に記載の扁平形非水電解質二次電池」に訂正する。

[2]当審の判断
1.訂正の目的の適否、新規事項の追加、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の変更・拡張の存否
・訂正事項1-1について
本件特許請求の範囲の請求項1における「扁平形非水電解質二次電池」について、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である、コイン形又はボタン形の」との限定を付するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の「本発明の電池について、主としてコイン形やボタン形などの電池総高に対して電池最外径が長い扁平形非水電解質二次電池について説明した」(【0024】)との記載、及び「開口径が20mmであり、開口面積が3.14cm^(2)である絶縁ガスケット6を一体化した負極金属ケース5」(【0031】)との記載に基づくものといえるので、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項1-2及び1-3について
前記正極板において、「正極構成材」が「直線状の2辺が対向する部分を有」し、「作用物質含有層」が「塗工によるものであり」、「かつ前記正極構造材の連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有して」いることを限定するものであり、また、前記負極板において、「負極構成材」が「直線状の2辺が対向する部分を有」し、「作用物質含有層」が「塗工によるものであり」、「かつ前記負極構造材の連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有して」いることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、当該訂正は、本件特許明細書の「本発明の電池において、実際に電極群を作製、収納する方法については、電極の一部に通電部を設けた正極板および負極板を用意し、セパレータを介して正極板および負極板を積層する際に、正極板の通電部がセパレータの配置されている箇所よりも外側に露出し、負極板の通電部が、正極板の通電部が露出している位置に対向する位置において、セパレータの配置されている箇所よりも外側に露出する形で積層した後、正極は正極同士、負極は負極同士おのおのの通電部を溶接などの方法により電気的に接続し電極群を形成し、電池内に収納する方法が好ましい。正極板の通電部と負極板の通電部とを上記のように配置することで、コイン形やボタン形などの小さな扁平形非水電解質二次電池においても、正極板の通電部と負極板の通電部との接触による内部ショートを防止できる。」(【0017】)との記載や、「(実施例1) 実施例1の電池の製造方法を図1の断面図を参照して説明する。・・・これらの電極を幅13mm、長さ13mmの正方形の一辺に幅6mm、長さ2mmの張り出し部が付いた形状に切り出し、次にこの張り出し部に形成された作用物質含有層をこそげ落とし、アルミニウム層または銅層をむき出しとして通電部とし、幅13mm、長さ13mmの作用物質含有層が形成された両面および片面塗工の正極板並びに負極板を作製した。次に、・・・正極板の通電部および負極板の通電部をそれぞれ溶接して、電極群を作製した。作製した電極群を85℃で12h乾燥した後、開口径が20mmであり、開口面積が3.14cm^(2)である絶縁ガスケット6を一体化した負極金属ケース5の内底面に、電極群の片面塗工負極板の未塗工側(すなわち、負極集電体4a)が接するように配置し・・・」(【0026】-【0031】)との記載及び【図1】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

なお、審判請求人は、平成27年7月28日付け審判事件弁駁書(第4頁下から9行?第6頁第3行)において、「本件明細書には、正極構成材あるいは負極構成材が「直線状の2辺が対向する部分を有する」ものであることについては、何ら記載も示唆もされていない。・・・本件明細書には、正極構成材あるいは負極構成材の形状として、正方形以外のものが一切記載されていないばかりか、正極構成材あるいは負極構成材が正方形以外の形状を取り得るというような示唆すら、全くない。・・・本件明細書には、正極構成材及び負極構成材の形状を正方形とすることにより、電極群の製造を容易にし、高効率な形状で可及的に電極面積を最大化する技術が記載されているといえる。これに対して、訂正事項1-2及び1-3により審判被請求人が追加しようとしている「直線状の2辺が対向する部分を有する形状に含まれる」、例えば対向する直線状の2辺を結ぶ線が曲線であるような形を採用する場合には、電極群の製造が困難であって、低効率な形状で究極的に電極面積を最大化する、という新たな技術上の意義が追加されることは明らかである。・・・」と主張する。

そこで、上記主張について検討すると、本件特許明細書には、実施例として、正方形の正極構成材及び負極構成材を使用する扁平型電池のみが記載されているものの(【0029】)、本件特許明細書全体を見ても、正極構成材及び負極構成材について、その形状が正方形に限定される旨の記載はない。
そして、【図1】にも示されるように、正極板及び負極板は、該正極板の通電部と該負極板の通電部とが対向する位置になるよう交互に積層され、その通電部は、正極は正極同士、負極は負極同士おのおの接合され、電極群が形成されるものであるところ、それぞれの正極板、負極板は、接合のために通電部の曲げを要するものであり(正極構成材、負極構成材のそれぞれにおいて、作用物質含有層を有する部分と作用物質含有層のない露出部分との境界で曲げられている)、また、この曲げられた通電部が、隣接する対極の端部と接触することを避けるためには、正極構成材および負極構成材の形状としては、少なくとも「直線状の2辺が対向する部分を有し」ていればよく、それ以外の部分については任意の形状でよいものと認められる。

また、本件特許明細書には、本件特許発明に係るコイン型やボタン型の扁平型非水型二次電池が、リチウムイオン電池のような円筒型あるいは角型の電池に比べ、生産性に優れ、小型化が可能であることは記載されるものの(【0014】、【0018】、【0019】等)、「正極構成材及び負極構成材の形状を正方形とすることにより、電極群の製造を容易にし、高効率な形状で可及的に電極面積を最大化する」旨記載されているわけではなく、請求人のいう、例えば、「対向する直線状の2辺を結ぶ線が曲線であるような形状を有する電極群」の製造が、正方形の場合と比べて格別困難であるとも認められない

したがって、上記審判請求人の主張は採用できない。

・訂正事項1-4について
特許請求の範囲の請求項1に「前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、前記各正極板同士、前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続されており、」なる事項を直列的に付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、当該訂正は、訂正前の請求項2及び3の記載、さらには、本件特許明細書の「本発明の電池において、実際に電極群を作製、収納する方法については、電極の一部に通電部を設けた正極板および負極板を用意し、セパレータを介して正極板および負極板を積層する際に、正極板の通電部がセパレータの配置されている箇所よりも外側に露出し、負極板の通電部が、正極板の通電部が露出している位置に対向する位置において、セパレータの配置されている箇所よりも外側に露出する形で積層した後、正極は正極同士、負極は負極同士おのおのの通電部を溶接などの方法により電気的に接続し電極群を形成し、電池内に収納する方法が好ましい。正極板の通電部と負極板の通電部とを上記のように配置することで、コイン形やボタン形などの小さな扁平形非水電解質二次電池においても、正極板の通電部と負極板の通電部との接触による内部ショートを防止できる。」(【0017】)との記載及び【図1】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項1-5について
特許請求の範囲の請求項1に、「前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する各前記正極板及び各前記負極板は、各前記正極構成材及び各前記負極構成材の両面に各前記作用物質含有層を有しており、」なる事項を直列的に追加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、【0019】、【0021】、【0030】、【0032】、【0033】、【0034】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

なお、審判請求人は、平成27年7月28日付け審判事件弁駁書(第6頁末行?第7頁11行)において、次のような主張をしている。
「訂正前の本件特許発明の目的及びこれに対応する構成と、訂正事項1-5を含む訂正後の本件特許発明の目的及びこれに対応する構成とを対比すると、訂正前は、重負荷放電特性が格段に優れた扁平形非水電解質二次電池を提供することを目的とし、『セパレータを介して対向している電極群内の正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とする』ことによって、この目的を達成しているのに対し、訂正後は、容積効率が改善された扁平型非水電解質二次電池を提供することを目的とし、『電極群の中間部に位置する各正極板及び各負極板が、各正極構成材及び各負極構成材の両面に各作用物質含有層を有する』ことによって、この目的を達成している。
したがって、訂正事項1-5を含む訂正が、特許請求の範囲に記載されている発明の目的を変更するものであることは明らかである。」(審決注:『』は当審において付した。)

しかしながら、本件訂正によれば、訂正前に記載されていた『セパレータを介して対向している電極群内の正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とする』との事項に加え、さらに、『電極群の中間部に位置する各正極板及び各負極板が、各正極構成材及び各負極構成材の両面に各作用物質含有層を有する』との事項が直列的に付加されるものであり、訂正後においても、重負荷放電特性が格段に優れた扁平形非水電解質二次電池を提供することを目的としていることは明らかであり、訂正事項1-5を含む訂正が、目的を変更するものであるとはいえないから、上記主張は採用できない。

・訂正事項2について
特許請求の範囲の請求項2,請求項3、及び請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項3について
請求項2、3の削除に伴い、訂正前の請求項4について、訂正後の請求項1のみを引用するように訂正したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項4について
請求項2、3の削除に伴い、訂正前の請求項5について、訂正後の請求項1、4のみを引用するように訂正したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、本件訂正前の請求項2ないし8は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

2.独立特許要件
上記のとおり、本件訂正前の請求項4?7は、いずれも訂正前の請求項1を引用する請求項であり、これらについても、訂正事項1-1?1-4による訂正を行うものである。
そして、訂正前の請求項4?7は、特許無効審判の請求がなされていない請求項であるから、対応する本件訂正後の請求項4?7に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明4」・・・「本件訂正発明7」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けられるものかどうかを検討する。

(1)無効理由Iについて
(1-1)本件訂正発明4
本件訂正発明4は、訂正後の請求項1及び請求項4に記載される事項を発明特定事項として備えるものであり、これらをまとめて記載すると次のとおりである。
「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包し、前記絶縁ガスケットの開口が円形である、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池において、
前記正極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有しており、
前記負極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有しており、
前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、
前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続されており、
前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有しており、
前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、かつ前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり、
前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きく、
前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続していることを特徴とする扁平形非水電解質二次電池。」

(1-2)甲第1号証の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載事項
(なお、下線は、当審において付与した。以下、同様。)
(1a)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項7】 金属製の正極ケースと負極ケースを,これらの電気的絶縁をとる樹脂製ガスケットを介してかしめて封口する扁平形電池であって,内部にリチウム塩を溶解した有機電解液と,リチウムを吸蔵・放出可能な正極材料を金属集電体上に配した正極板とリチウムを吸蔵・放出できる負極活物質を含む負極板とをセパレーターを介して積層してなる積層電極を有する扁平形非水電解液電池。
・・・」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,扁平形非水電解液電池の構成およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年,AV機器,パソコン等のコードレス化,ポータブル化に伴いその駆動用電源である電池に対し,小型,軽量,高エネルギー密度化の要望が強まっている。特にリチウム二次電池は高エネルギー密度を有する電池であり次世代の主力電池として期待され,その潜在的市場規模も大きい。また形状としては通信機の薄型化,あるいは,スペースの有効利用の観点からも角薄型の要望が高まっている。
【0003】従来角薄型リチウムイオン電池は,特開平8-32998号公報に示されるように,金属板をしぼり加工などで有底の角薄形電池ケースを作成し,その中に渦巻き状の極板群及び電解液を注入した後,開口部を塞ぐ封口板をレーザー溶接で封口する方法が一般的である。・・・」

(1c)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】電池の角薄型が進み通信機用途では現在5mm程度のものに移行しつつあり,将来さらなる薄型化が要望されている。・・・電池の薄型化に伴い当然封口板も薄くなり端子取り出しスペースが窮屈になる。
【0006】従って樹脂を絶縁層にして端子を兼ねたリベットでかしめる方式では非常に小さい部品となり耐漏液性の信頼性が極めて低くなるといった課題がある。また,封口板と外装ケースをレーザー溶接し封口する工程においても溶接スペースに余裕がなく高精度のレーザー溶接技術が必要となり生産性は低下する。量産化に際しては少しのレーザー軌道のズレや,ランプの消耗によるレーザー出力変動で不良率を著しく増加させるといった課題がある。
【0007】一方,特開平6-310144号公報や特開平3-129664号公報にその製造法や構造が詳細に示されるような扁平形コイン電池では正負極の対峙面積すなわち反応面積が小さすぎることや,活物質層の厚みが0.2から1.7mmと厚いこと等の要因で極めて小さな電流しか取り出せないといった課題がある。
【0008】本発明はこのような課題を解決し,扁平形電池で,かつ十分な電流を取り出せ,さらに極めて生産性の良い電池構成及びその製造法を提供するものである。」

(1d)「【0009】
【課題を解決するための手段】金属箔にリチウムを吸蔵・放出可能な正極材料を含む合剤ペーストを塗工した薄い正極板と,同様に金属箔にリチウムを吸蔵・放出できる負極材料を含む合剤ペーストを塗工した薄い負極板を,ポリエチレンなどの樹脂からなる微多孔膜であるセパレーターを介して渦巻き状に巻回し極板群を構成する。
【0010】この極板群をプレスなどで断面が長円形になるように扁平状に成形する。このことにより,扁平形の極板群で,かつ,薄型極板を使用するので正負極の対向面積(反応面積)が大きく,従来の粉体合剤をプレスしペレット状に成形したものに比較し大きな電流を取り出す事ができる。
【0011】あるいは,エキスパンドメタルの薄板にリチウムを吸蔵・放出可能な正極材料の合剤あるいは負極材料の合剤を塗り込み圧延して作成した薄型極板を短冊状に切断し,これらを樹脂製のセパレータを介して積層して,さらに熱を加え加圧接合し一体化した極板群とする事でも上述の場合とほぼ同様な効果を得ることができる。」

(1e)「【0019】図1に示すように正極板と正極ケース及び負極板と負極ケースは接触し電気的導通を確保している。つまり扁平形極板群の最外周側面部は片面に正極が露出し,もう片面は負極板が露出した構成にした。電池のサイス゛は図2に外観を示すが,長辺側が50mm,短辺側が30mmで電池厚みが3mmである。また,四角のRは5mmとした。図3にこの電池を4.1Vの定電圧充電(最大電流500mA)を2時間行い,80mA,400mA及び800mAの3種類の定電流で放電した結果を示した。図より400mAの電流値でも電池容量が約400mAhの放電容量があり,セルラーフォンなどの用途に十分使用可能であることがわかる。
【0020】以上のことより,本実施例で示したような構成の電池を作成することで,扁平形電池で,かつ十分な電流を取り出せ,さらに極めて生産性の良い電池を提供する事が可能となる。」

(1f)「




(1g)「【0032】(実施例2)図6は,積層極板群とした場合の扁平形電池の構造断面図である。実施例1と同様に,20は正極ケースでステンレスとアルミニウムのクラッド材を用い,アルミニウムの面が電池の内側になるように成形した。21は負極ケースでステンレス材を使用した。22は正極ケースと負極ケースを絶縁するガスケットでポリプロピレン製である。15は正極板,16は負極板,17はセパレーターである。18は正極金属集電体で19は負極金属集電体で,それぞれ積層極板間で連結されている。 【0033】図6に示した本発明の扁平形非水電解液電池は以下のようにして作製した。正極板はアルミニウムのエキスパンドメタルを集電体にしLiCoO_(2)を活物質とする正極合剤を塗布乾燥したのち圧延し厚みを規定寸法にしたものである。ケースに接触する正極板は接触する面には合剤を塗布せず片面塗着とするがその他は両面塗着である。
【0034】負極板は銅のエキスパンドメタルを集電体にし黒鉛を含む負極合剤を塗布乾燥したのち圧延し厚みを規定寸法にしたものである。正極板同様,ケースに接触する負極板は接触する面には合剤を塗布せず片面塗着とするがその他は両面塗着である。理由は,電池内の空間体積を有効に活用するために片面塗着とした。セパレータはポリマー電解質シートからなる。
【0035】これら正極板及び負極板をセパレータを介して図のように積層し熱加圧することで一体化して積層極板群とした。極板間の電気的導通は図に示すように各極板に未塗着部を設け,正負極各々反対側で集電体同士を溶接する事で確保する。極板の集電体とケースを溶接する場合はこの部分を利用しケースと溶接する。溶接する効果は実施例1と同様,長期保存後の内部抵抗の増加を低減させることができる。
【0036】次にこの極板群に電解液を含浸させる。積層極板中に可塑剤等が含まれる場合は,可塑剤を抽出する工程を経てから注液工程に進む。本実施例では可塑剤としてジブチルフタレート,抽出剤としてジエチルエーテルを用いた。含浸は密閉容器の中で電解液に極板群を浸し,容器を60mmHgまで減圧に引き10秒間ホールドし大気圧に戻す作業を,3回繰り返した。
【0037】電解液には,エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をモル比で1:3で混合した溶媒に溶質として六フッ化リン酸リチウムを1モル/lの濃度で溶解したものを用いた。液の含浸した極板群を正極ケースに入れ,ガスケットを封口部分にはめ込んだ負極ケースをかぶせ封口金型に挿入し油圧プレスでかしめ封口を行った。電池のサイス゛は実施例1同様の長辺側が50mm,短辺側が30mmで電池厚みが3mmである。また,四角のRは5mmとした。」

(1h)「




(1i)「【0041】なお,本実施例では扁平で横断面角形の電池としたがその他横断面円形などでも同様の効果がある。」

(1j)「【0042】
【発明の効果】以上のように本発明によれば,5mm以下の様な非常に薄い扁平形電池であっても,十分な電流を取り出せ,さらに従来の一般的な角薄型リチウム2次電池のようにレーザー溶接などの高度な要素技術を必要としないため,極めて生産性の良い電池を提供する事が可能となる。」

(1-3)甲第1号証の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明
ア)上記(1a)の【請求項7】によれば、甲第1号証には、「金属製の正極ケースと負極ケースを,これらの電気的絶縁をとる樹脂製ガスケットを介してかしめて封口する扁平形電池であって,内部にリチウム塩を溶解した有機電解液と,リチウムを吸蔵・放出可能な正極材料を金属集電体上に配した正極板とリチウムを吸蔵・放出できる負極活物質を含む負極板とをセパレーターを介して積層してなる積層電極を有する扁平形非水電解液電池。」が記載されている。

イ)ここで、上記(1g)の【0035】の「正極板及び負極板をセパレータを介して図のように積層し熱加圧することで一体化して積層極板群とした。」との記載によれば、前記「扁平形非水電解液電池」の前記「積層電極」は、「積層極板群」と言い換えることができ、また、(1g)の【0036】及び【0037】の「この極板群に電解液を含浸させる。・・・液の含浸した極板群を正極ケースに入れ,ガスケットを封口部分にはめ込んだ負極ケースをかぶせ封口金型に挿入し油圧プレスでかしめ封口を行った。」との記載によれば、前記「扁平形非水電解液電池」は、正極ケースに負極ケースがこれらの電気的絶縁をとる樹脂製ガスケットを介してはめ込まれ、さらに、正極ケースがかしめられ、封口された扁平形非水電解液電池であるといえる。

ウ)そして、上記(1a)の【請求項7】の記載及び上記(1d)の【0011】の記載によれば、上記(1g)の【0033】に記載された「LiCoO_(2)を活物質とする正極合剤」及び【0034】に記載された「黒鉛を含む負極合剤」は、それぞれ、「リチウムを吸蔵・放出可能な正極材料」及び「リチウムを吸蔵・放出できる負極材料」といえるから、上記(1g)の【0032】?【0034】の記載によれば、前記扁平形非水電解液電池において、前記正極板は、正極金属集電体上に塗布によりリチウムを吸蔵・放出可能なLiCoO_(2)を正極活物質とする正極合剤を有するとともに、未塗着部が設けられ、前記負極板は、負極金属集電体上に塗布によりリチウムを吸蔵・放出できる黒鉛を負極活物質とする負極合剤を有するとともに、未塗着部が設けられたものであるといえる。
また、上記(1h)によれば、積層極板群において、正極板、負極板、及び、セパレータは、電池の扁平面に平行に積層され、前記正極板の各未塗工部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、前記負極板の各未塗工部が、前記正極板の各未塗工部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、積層極板群の内、ケースに接触する正極板、負極板は、それぞれ、集電体の片面に正極合剤、負極合剤が塗着され、塗着されない面が正極ケース、負極ケースに接触し、中間部の正極板、負極板は、それぞれ、集電体の両面に正極合剤、負極合剤が塗着されている様子が見て取れる。

エ)上記(1a)、(1g)の記載事項及び上記認定事項(ア)?(ウ)を整理すると、甲第1号証の願書に最初に添付した明細書又は図面には、以下の発明が記載されていると認められる。

「金属製の正極ケースと負極ケースとが、これらの電気的絶縁をとる樹脂製ガスケットを介してはめ込まれ、さらに、正極ケースがかしめられ、封口され、
その内部には、正極板と負極板とがセパレータを介し積層された積層極板群と、リチウム塩を溶解した有機電解液とを内包する扁平形非水電解液電池であって、
前記正極板は、正極金属集電体上に塗布によりリチウムを吸蔵・放出可能なLiCoO_(2)を正極活物質とする正極合剤を有するとともに、未塗着部が設けられ、
前記負極板は、負極金属集電体上に塗布によりリチウムを吸蔵・放出可能な黒鉛を負極活物質とする負極合剤を有するとともに、未塗着部が設けられ、
前記正極板の各未塗工部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各未塗工部が、前記正極板の各未塗工部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの未塗工部を溶接することによって接続されており、
前記積層極板群は、正極ケースに接触する正極板、負極ケースに接触する負極板は、それぞれ、集電体の片面に正極合剤、負極合剤が塗着され、中間部の正極板、負極板は、それぞれ、集電体の両面に正極合剤、負極合剤が塗着され、
前記積層極板群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、
前記積層極板群の正極ケースに接触する正極板は、ケースに接触する面において正極金属集電体は正極合剤が塗着されておらず、ケースに直接接触しており、負極ケースに接触する負極板は、ケースに接触する面において負極金属集電体は負極合剤が塗着されておらず、ケースに直接接触している扁平形非水電解液電池。」(以下、「甲1発明」という。)

(1-4)本件訂正発明4と甲1発明との対比
本件訂正発明4と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「金属製の正極ケースと負極ケース」が、それぞれ、正極端子、負極端子を兼ねることは自明であるから、「金属製の正極ケースと負極ケース」は、本件訂正発明4の「正極端子を兼ねる金属製の正極ケース」、「負極端子を兼ねる金属製の負極ケース」に相当する。
そして、甲1発明の「リチウム塩を溶解した有機電解液」は、それ自体、非水電解質といえるから、本件訂正発明4の「非水電解質」に相当し、甲1発明の「扁平形非水電解液電池」は、正極板、負極板に、それぞれ、リチウムを吸蔵・放出可能な活物質を含むものであるから、二次電池であるといえ、本件訂正発明4の「扁平形非水電解質二次電池」に相当する。
甲1発明における、「正極板と負極板とがセパレーターを介し積層された積層極板群」は、セパレータを介して正極板と負極板が配置されており、正極板と負極板とはセパレータを介して対向配置しているといえ、また、積層極板群は、それ自体で発電要素ということができるから、本件訂正発明4の「正極板と負極板とがセパレータを介して・・・対向配置している電極群を含む発電要素」に相当する。

さらに、甲1発明の「正極板は、正極金属集電体上に塗布によりリチウムを吸蔵・放出可能なLiCoO_(2)を正極活物質とする正極合剤を有するとともに、未塗着部が設けられ、負極板は、負極金属集電体上に塗布によりリチウムを吸蔵・放出可能な黒鉛を負極活物質とする負極合剤を有するとともに、未塗着部が設けられ、前記正極板の各未塗工部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、前記負極板の各未塗工部が、前記正極板の各未塗工部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、前記各正極板同士及び前記負極板同士が、それぞれの未塗工部を溶接することによって接続されており」は、本件訂正発明4の「前記正極板は、導電性を有」する、「正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記正極構成材の」「一部に、前記正極構成材が露出している通電部を有しており」、「前記負極板は、導電性を有」する、「負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記負極構成材の」「一部」に、「前記負極構成材が露出している通電部を有しており」、「前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、 前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続されており」に相当する。

また、甲1発明の「前記積層極板群は、正極ケースに接触する正極板、負極ケースに接触する負極板は、それぞれ、集電体の片面に正極合剤、負極合剤が塗着され、中間部の正極板、負極板は、それぞれ、集電体の両面に正極合剤、負極合剤が塗着され」は、本件訂正発明4の「前記電極群は、両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有しており」に相当する。

そして、甲1発明の「前記積層極板群の正極ケースに接触する正極板は、ケースに接触する面において正極金属集電体は正極合剤が塗着されておらず、ケースに直接接触しており、負極ケースに接触する負極板は、ケースに接触する面において負極金属集電体は負極合剤が塗着されておらず、ケースに直接接触している」は、本件訂正発明4の「前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している」に相当する。
そうすると、本件訂正発明4と甲1発明とは、次のとおりの一致点、相違点を有する。
(一致点)
「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介し対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包した扁平形非水電解質二次電池において、
前記正極板は、導電性を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記正極構成材の一部に、前記正極構成材が露出している通電部を有しており、
前記負極板は、導電性を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記負極構成材の一部に、前記負極構成材が露出している通電部を有しており、
前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、
前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続されており、
前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有しており、
前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層され、
前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している扁平形非水電解質二次電池。」

(相違点1)
本件訂正発明4は、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である、コイン形又はボタン形の」扁平形非水電解質二次電池であるのに対し、甲1発明では
それが不明である点。

(相違点2)
本件訂正発明4は、前記各正極板は、「直線状の2辺が対向する部分を有する」正極構成材の表面に、正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部」に、前記正極構成材が露出している通電部を有し、前記各負極板は、「直線状の2辺が対向する部分を有する」負極構成材の表面に、負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部」に、前記負極構成材が露出している通電部を有しているのに対し、甲1発明では、そのような構成を有しているか不明である点。

(相違点3)
上記発電要素について、本件訂正発明4は、「前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり、前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、絶縁ガスケットの開口面積よりも大きい」のに対し、甲1発明は、積層極板群について、セパレータを介して対向している正極板の正極材料と負極板の負極材料との対向面の面数が不明であり、また、前記積層極板群内の正極板の正極材料と負極板の負極材料の対向面積が、電気的絶縁をとる樹脂製ガスケット(絶縁ガスケット)の開口面積より大きいかについても不明である点。

(1-5)相違点についての判断
・相違点1について
上記(1i)によれば、甲1発明に係る扁平形非水電解質二次電池は、横断面円形、すなわちコイン形またはボタン形とすることも記載されており、コイン形またはボタン形の場合、ガスケットは通常円形であるから、該相違点1は実質的なものとはいえない。

・相違点2について
上記のとおり、甲1発明に係る扁平形非水電解質二次電池は、横断面円形、すなわちコイン形またはボタン形とすることも記載されているが、この場合の積層極板群を構成する正極板、負極板において、正極金属集電体及び負極金属集電体の形状や、正極合剤及び負極合剤の配置、正極板及び負極板の未塗工部の配置について、甲第1号証には何ら具体的に記載されていない。
そして、絶縁ガスケットの開口が円形であるコイン形またはボタン形の扁平形非水電解液二次電池において、正極板は、「直線状の2辺が対向する部分を有する」正極構成材の表面に、正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有し」、負極板は、「直線状の2辺が対向する部分を有する」負極構成材の表面に、負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有し」ているものは、甲第1?5号証には記載も示唆もなく、また、それが周知、慣用技術であるとも認められない。
したがって、該相違点2は実質的な相違点である。

・相違点3について
当審の審理は、平成26年(行ケ)10097号判決の判断に拘束されるものであるところ、該相違点は、本件訂正前の請求項1に係る発明(判決における「本件発明」)と甲1発明との相違点(該判決における「相違点A」)と同じであり、該判決においては、「相違点A」について以下のとおり判示している。
「・・・本件発明と甲1発明とは,いずれも,扁平形非水電解質二次電池において,電極群として,正極構成材の表面に作用物質含有層を有する正極板と,負極構成材の表面に作用物質含有層を有する負極板とが,セパレータを介し多層積層されたものを用いて,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和を大きくし,重負荷放電時の放電容量を大きくすることができるとするものであり,その課題と課題解決方法において共通するものである。
・・・甲1において正極板と負極板との対向面の面数について具体的に明記されているのは,上記のとおり,3面の場合のみであるが,もとより,甲1発明は対向面の面数を3面に限定する発明ではないところ,甲1発明は,正極板と負極板とを積層することにより,正極板と負極板との対向面積を大きくしようとするものであり,また,正極板と負極板との積層数(すなわち,正極板と負極板との対向面の面数)が多くなればなるほど,正極板と負極板との対向面積がこれに比例して単純に大きくなることも明らかである。そうであれば,甲1には,正極板と負極板との対向面を3面とすることだけではなく,複数のもの,すなわち,2面や4面以上とすることも記載されているに等しいということができる。したがって,甲1には、セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が5面であることも記載されていると認められ,正極板と負極板との積層数(すなわち、対向面の面数)をどの程度とするかは,要求される重負荷放電時の放電容量のレベルに応じて決定される,単なる設計的事項にすぎないといえる。
そして、本件明細書の【表1】には,対向面の面数を1,3,5,7及び
9面とした扁平形非水電解質二次電池(比較例2、実施例1-4)の重負荷放電容量が,それぞれ,2.4mAh,22.8mAh,52.7mAh,53.7mAh,52.5mAhであることが示されている。この【表1】によれば,上記対向面の面数が1面から5面まで増加するにつれて,重負荷放電容量が上昇しているが,このことは,対向面の面数が多くなればなるほど,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和
が大きくなることからすれば,当業者にとって,予想通りの結果といえる。そして,対向面積の総和に対する重負荷放電容量の増加割合は,1面から3面にした場合が6.0((22.8-2.4)/(5.1-1.7)),3面から5面にした場合が約8.8((52.7-22.8)/(8.5-5.1)),5面から7面にした場合が0.3((53.7-52.7)/(11.8-8.5))であり,7面から9面にした場合はマイナスであり,3面から5面にした場合の増加割合が1面から3面にした場合のものに比してやや高いとはいえるものの,単純な比例関係を超えるものではなく,その増加割合が顕著なものとはいえない。一方で,対向面が5面を超えても重負荷放電容量に大きな変化が見られず,場合によって逓減化することは,予想外のことともいえるが,本件発明は,重負荷放電時の放電容量を大きくすることを技術課題とする発明であって,対向面の面数の下限値を特定したものであり,上限値を特定したものではないから,対向面数の増加に比例して放電容量が増加しないことをもって,本件発明における新たな効果ということはできない。
・・・従来の扁平形非水電解質二次電池においては,正極と負極との対向面積は,通常,絶縁ガスケットの開口面積よりやや小さいものであるから,甲1発明において,対向面が5面のものの対向面積が,ガスケットの開口面積よりも大きいことは明らかである。
・・・以上のとおりであるから,相違点Aは実質的なものとはいえず,・・・」
この点についての当審の判断も上記のとおりである。
よって、該相違点3は実質的なものとはいえない。

(1-6)以上のとおり、本件訂正発明4は甲1発明と上記相違点2において実質的に相違するから、本件訂正発明4は甲第1号証の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。

(1-7)本件訂正発明5?7について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1または4を引用するものである。
そして、本件訂正発明5と甲1発明とを対比すると、本件訂正発明1を引用するもの、または本件訂正発明4を引用するもののいずれにおいても、前記本件訂正発明4と甲1発明との相違点1?3と同じ相違点を有し、前記のとおり、相違点2は、実質的な相違点である。
そうすると、本件訂正発明5は、甲第1号証の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。
また、本件訂正発明6、7はいずれも本件訂正発明5を引用するものであるから、本件訂正発明5と同様に、甲第1号証の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。

(2)無効理由IIおよび無効理由IIIについて
(2-1)甲第3?5号証の記載事項
(2-1-1)甲第3号証の記載事項
(3a)「2.実用新案登録請求の範囲
シート状の正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させてなる電極群を先端から折り重ねて積層電極群とし、この積層電極群を内部に収容してなることを特徴とする非水電解液二次電池。」(明細書第1頁第4?8行)

(3b)「<考案の概要>
本考案は、例えばボタン型ないしはコイン型をした小型の非水電解液二次電池内に、シート状の正・負両極の間にセパレータを介在させて構成された電極群が先端から順番に折り重ねられて構成された積層電極群を内部に収容することによって、上記正・負両電極の電極反応面積を増大させ、充電時間を短縮化し、且つ組立て作業が容易な非水電解液二次電池を提供しようとするものである。」(明細書第1頁下から3行?第2頁第6行)

(3c)「<考案が解決しようとする問題点>
上述のような電池の構成は、基本的には非水電解液二次電池でも同様であり、具体的にコイン型のカーボンリチウム二次電池を例にすれば、ウッド合金からなる負極と活性炭からなる正極との間に電解液を染み込ませたセパレータを介在させてなるものである。
ところで、現在の電子機器の使用状況からすれば、電源に使用する電池の充電時間が長いというのは実用的ではなく、少なくとも8時間以内で充電を完了できる電池が望ましい。しかし、ボタン型やコイン型をなしたこれまでの電池で充電時間を短縮しようとすると、充電時における反応電極単位面積当たりの充電電流、すなわち充電電流密度を大きなものとせざるを得ず、特にリチウムを負極活物質とした場合、充電によって析出するリチウムの不活性化が進み電池寿命性能を低下させてしまう。したがって、これまでのコイン型電池のペレット状の比較的厚い電極構造を採用した場合には、その電極反応面積が小さいがために、十分な寿命性能を得ようとすると充電に長い時間を要することとなる。
このような問題点を解決する方法として、例えば電極反応面積を大きくするため、何枚かの正極,負極をセパレータを介して積み重ねて構成することが考えられる。
しかし、この構成によれば、電極一枚毎にリード線を取り出し、さらに正・負両極の各リード線をそれぞれ集合させる必要があるとともに、内容積の小さいコイン型の電池では組立て作業が非常に面倒となってしまう。
本考案は、上述した従来の技術が有する問題点を解決するために提案されたものであり、短時間に充電を行った場合にも優れたサイクル寿命特性を発揮し、且つ簡単に製造することができる非水電解液二次電池を提供することを目的とするものである。」(明細書第3頁第3行?第4頁末行)

(3d)「<実施例>
以下、本考案に係る二次電池の実施例を、図面を参照しがら(審決注:「しながら」の誤記)説明する。
この実施例は、本考案を所謂ボタン型電池に適用したものであり、第1図に示すように、上方に開口したカソードカン(1)と、このカソードカン(1)の内周面に円環状に配設されたガスケット(2)と、このガスケット(2)内に収容された積層電極群(3)と、上記カソードカン(1)を上方から閉鎖するように配設され上記カソードカン(1)と上記ガスケット(2)を介して絶縁されるように配設されたアノードカップ(5)とから構成され、上記カソードカン(1),ガスケット(2)及びアノードカップ(5)は一体となり、また後述する電解液が外部に漏れ出ることのないようにかしめられている。
上記カソードカン(1)は、この二次電池の正極を構成するものであり、本例の場合、導体であるステンレス鋼からなり、後に詳述する積層電極群(3)を収納するに足りる収容部(la)が形成されている。
そして、上記カソードカン(1)の内周面には、円環状に形成されたガスケット(2)が配設されている。このガスケット(2)は、負極となるアノードカップ(5)と上記カソードカン(1)との間で短絡することがないように、絶縁体により構成され、本例の場合はプラスチックからなっている。」
(明細書第5頁下から2行?第7頁第4行)

(3e)「さらに、このガスケット(2)の内側には、積層電極群(3)が収容されている。この積層電極群(3)は、第2図に示すように、それぞれシート状に形成された正極電極板(7)及び負極電極板 (8) と、上記正極電極板(7)と負極電極板(8)との間に介在させたセパレータ(9)とからなる電極群(10)を、折り重ねて構成されている。
本例では、上記正極電極板(7)及び負極電極板(8)は、それぞれ以下の方法により作成したものである。すなわち、先ず、市販の二酸化マンガン86.9 gに18.5gの炭酸リチウムを乳鉢にて十分混合し、この混合物をアルミナボード上で450℃の温度によって空気中で1時間の焼成を行ないLiMn_(2)O_(4)を合成する。次いで、このLiMn_(2)O_(4)を82.8重量部、導電剤としてグラファイトを12重量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5.2重量部を混合し、N-メチル-2-ピロリドンを分散剤として湿式混合してペーストを作製する。さらに、上記ペーストを厚さ0.03mmのアルミニウム集電体の両面に均一に塗布し、これをローラープレスして厚さ0.14mm正極シートを作製し、これを幅8mm、長さ55mmに切断して正極電極板(7)とする。
また、負極電極板(8)は、厚さ0.07mmのリチウム箔を、幅10mm、長さ60mmに切断した後、5mm幅の銅箔を末端にプレス圧着して電極リードとすることによって作製したものである。」(明細書第7頁第5行?第8頁第11行)

(3f)「そして、上記正極電極板(7)と負極電極板(8)との問に0. 05mmの厚さとしたポリプロピレン製のセパレータ(9)を介在させ、これによって長尺状の電極群(10)を作製する。なお、この電極群(10)の一端側であって上記正極電極板(7)と上記セパレータ(9)との間からは正極リード(11)がこの電極群(10)の長手方向と直交する方向に設けられ、また、同様に上記負極電極板(8)と上記セパレータ(9)からも負極リード(12)が設けられている。
次に、上述のように構成された電極群(10)を、第2図に示す幅lの間隔をもった点線の位置で、且つ、一側側に上記正極電極板(7)が臨み他側側に負極電極板(8)が臨むように折り重ね第3図に示すような積層電極群(3)とする。なお、この積層電極群(3)の厚みは前記カソードカン(1)の高さと略同じ厚さとなし、カソードカン(1)内にこの積層電極群(3)を収容した後、アノードカップ(5)を被せた場合に上記正極リード(11)と正極となるカソードカン(1)の内面とが密着するとともに、同様に上記負極リード(12)も上記アノードカップ(5)に密着するようにした。また、各リード(11),(12)はそれぞれ上記電極群(10)の内側へ折り込んで上記正極リード(11)が前記カソードカン(1)に接触し、負極リード(12)はアノードカップ(5)に接触するように折り曲げる。したがって、これら正極リード(11)や負極リード(12)は折り曲げたときに若干の弾性力を有することが望ましい。これにより、カソードカン位置やアノードカップ(5)と弾発付勢された状態で確実に接触させることができるからである。」(明細書第8頁第12行?第10頁第1行)

(3g)「そして、上述のように作製した積層電極群(3)は、第1図に示すように、プラスチックにより形成されたガスケット(2)を填め込んだカソードカン(1)内に収容されている。上記ガスケット(2)は、円環状をなすとともに周壁(2a)と内壁(2b)との間に後述するアノードカップ(5)の周部(5a)が嵌入する円環溝部(2c)が形成され、さらに、上記周壁(2a)の裏面には径方向に突出する円環状のストッパ部(2d)が設けられている。なお、このカソードカン(1)内には、上記ガスケット(2)と積層電極群(3)とが収容されているとともに、図示しない電解液が注入されている。本例では、この電解液として、1mol/lのLiPF_(6)を溶解した炭酸プロピレンと1,2-ジメトキシエタンの混合液を使用している。
そして、上記積層電極群(3)の上方には、負極となるアノードカッブ(5)が被せられ、上記積層電極(3)の上部に位置する負極リード(12)がこのアノードカップ(5)の裏面に圧接するようにされているこのアノードカップ(5)は、周部近傍が湾曲させられ全体形状が皿状となされ、この周部(5)上記ガスケット(2)の円環溝部(2c)内に嵌入するようにされている。さらに、このアノードカップ(5)の周縁部は外側に折曲させられ周部は二重と
されているとともに外周面に位置する端部(5b)が前記ガスケット(2)に設けられたストッパ部(2d)に当接するようになされ、ガスケット(2)内に嵌入させた際に容易に抜けてしまうことがなく、且つ、前記カソードカン(1)内に注入された電解液が電池外部に漏れ出ることがないようにされている。
さらに、上記アノードカップ(5)は上方から押圧されるとともに、このアノードカップ(5),ガスケット(2),カソードカン(1)は、外部からかしめられて一体となっている。
このように構成された本実施例に係る非水電解液二次電池は、外径20mm、厚さ2.5mmのコイン型二次電池とされている。」(明細書第10頁第2行?第11頁下から2行)

(3h)「




(2-1-2)甲第4号証の記載事項
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 シート状の正極と、シート状の負極と、前記正極および前記負極の間に介在された固体ポリマー電解質層とを含む素電池;前記正極と電気的に接続された正極リード;前記負極と電気的に接続された負極リード;前記素電池を前記正極リードおよび前記負極リードの先端が外部に突出するように密封したラミネートフィルム;を具備し、
前記フィルムは、内部に金属層を含むと共に、端面のうち、少なくとも前記正極リード及び前記負極リードを挟んでいる部分が絶縁性を有する層状物で被覆されていることを特徴とするポリマー電解質二次電池。」

(4b)「【0027】(負極)この負極は、負極活物質、非水電解液及びこの電解液を保持するポリマーを含む負極層が集電体に担持されたものから形成される。
【0028】前記負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素質材料を挙げることができる。・・・
【0029】前記非水電解液及び前記ポリマーとしては、前述した正極で説明したものと同様なものが用いられる。前述した図1においては前記負極の集電体としては、銅製エキスパンドメタルを使用したが、例えば銅箔、銅製メッシュ、銅製パンチドメタル等を用いても良い。」

(2-1-3)甲第5号証の記載事項
(5a)「【0056】(負極)本発明の二次電池における負極材料(図1に示す例では負極101)の材料として、好ましくは充電時にリチウム元素を含むものが用いられ(リチウム二次電池)、・・・
【0057】リチウム二次電池用の負極材料としては、例えば、リチウム金属、黒鉛を含めた炭素材料、金属材料、遷移金属化合物のようなリチウムがインターカレートする材料が挙げられる。上記金属材料としては、リチウムと合金を形成するアルミニウムなどの金属材料、析出するリチウムを収納する細孔を有し集電体をも兼ねる多孔質のニッケルなどの金属などが好適である。
【0058】上記負極用材料の形状としては箔や板状であればそのまま用いることができる。また、粉末状であれば結着剤を混合し、場合によっては導電補助材も添加して、集電体上に塗膜を形成して負極を作成する。また、集電体上に上記材料の薄膜を形成する方法としてはメッキや蒸着法を用いることもできる。・・・」

(5b)「【0066】(負極及び正極の集電体)本発明の二次電池における負極及び正極で用いる集電体は、充放電時の電極反応で消費する電流を効率よく供給するあるいは発生する電流を集電する役目を担っている。したがって、負極及び正極の集電体を形成する材料としては、電導度が高く、かつ、電池反応に不活性な材質が望ましい。
【0067】好ましい材質としては、ニッケル、チタニウム、銅、アルミニウム、ステンレススチール、白金、パラジウム、金、亜鉛、各種合金、及び上記材料の二種以上の複合金属が挙げられる。集電体の形状としては、例えば、板状、箔状、メッシュ状、スポンジ状、繊維状、パンチングメタル、エキスパンドメタルなどの形成状が採用できる。」

(2-2)甲第3号証に記載された発明
ア)上記(3a)及び(3b)によれば、甲第3号証には、「シート状の正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させて構成された一対の電極群が先端から順番に折り重ねられた積層電極群を内部に収容することによって、前記正極電極と負極電極の電極反応面積を増大させた、ボタン型ないしはコイン型の非水電解液二次電池。」が記載されているといえる。

イ)また、上記(3d)及び(3g)には、前記「ボタン型ないしはコイン型の非水電解液二次電池」において、前記電極群は、プラスチックにより形成されたガスケットを填め込んだカソードカン内に収容され、前記ガスケットは円環状をなすとともに、アノードカップの周部が嵌入する円環溝部が形成され、LiPF_(6)を溶解した炭酸プロピレンと1,2-ジメトキシエタンの混合電解液が注入された後、負極となるアノードカップが被せられ、前記ガスケットの円環溝部内に嵌入するように押圧されるとともに、前記アノードカップ、前記ガスケット、前記カソードカンは、外部からかしめられて一体となることが記載されているから、前記「ボタン型ないしはコイン型の非水電解液二次電池」は、「負極となるアノードカップがカソードカンに対し、プラスチックにより形成されたガスケットを介して嵌入され、さらに、前記アノードカップは、かしめられ一体とされ、その内部に正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させて構成された前記電極群と、非水電解液とを含み、前記ガスケットが円環状をなす、ボタン型ないしはコイン型の非水電解液二次電池」であるといえる。
ここで、「プラスチックにより形成されたガスケット」は、上記(3d)の「ガスケットは、・・・絶縁体により構成され」との記載によれば、「絶縁体により構成されたガスケット」であり、また、「カソードカン」は、上記(3f)に記載されるとおり、「正極となるカソードカン」である。

ウ)また、上記(3e)、(3f)によれば、前記「正極電極」及び前記「負極電極」は、「正極電極板」及び「負極電極板」と言い換えることができ、前記電極群は、それぞれシート状に形成された正極電極板及び負極電極板と、前記正極電極板と前記負極電極板との問に介在させたセパレータとからなる、「正極電極板-セパレータ-負極電極板」の一対の長尺状の電極群が折り重ねて構成されたものであって、前記正極電極板は、幅8mm、長さ55mmのアルミニウム集電体の両面にLiMn_(2)O_(4)、グラファイトを含むペーストを塗布した塗布層を有し、さらに正極リードが設けられ、また、前記負極電極板は、リチウム箔であり、負極リードが設けられたものである。
そして、上記(3f)の記載によれば、前記電極群は、折り重ねられた正極電極板、セパレータ、負極電極板の面に対し垂直方向からみて、「正極電極板-セパレータ-負極電極板」と「負極電極板-セパレータ-正極電極板」の折り返し毎を一単位として、積み重ねられた構造のものであって、複数回の折り返しにより、一方の端部の正極電極板は、正極リードを介して正極となるカソードカンと密着し、他方の端部の負極電極板は、負極リードを介して負極となるアノードカップと密着したものである。

エ)上記ア)?ウ)の記載事項及び認定事項を整理すると、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「負極となるアノードカップが、正極となるカソードカンに対して、絶縁体により構成されたガスケットを介して嵌入され、さらに、前記アノードカップは、かしめられ一体とされ、その内部にシート状の正極電極板と負極電極板との間にセパレータを介在させて構成された一対の長尺状の電極群が先端から順番に折り重ねられた積層電極群と、非水電解液を含み、前記ガスケットが円環状をなす、ボタン型ないしはコイン型の非水電解液二次電池において、
前記正極電極板は、幅8mm、長さ55mmのアルミニウム集電体の両面にLiMn_(2)O_(4)、グラファイトを含むペーストを塗布した塗布層を有し、さらに正極リードが設けられ、
前記負極電極板は、リチウム箔であり、負極リードが設けられ、
前記電極群は、折り重ねられた正極電極板、セパレータ、負極電極板の面に対し垂直方向からみて、「正極電極板-セパレータ-負極電極板」と「負極電極板-セパレータ-正極電極板」の折り返し毎を一単位として、積み重ねられた構造のものであって、複数回の折り返しにより、一方の端部の正極電極板は、前記正極リードを介して正極となる前記カソードカンと密着し、他方の端部の負極電極板は、前記負極リードを介して負極となる前記アノードカップと密着したものであって、前記正極電極板と前記負極電極板の電極反応面積を増大させた、非水電解液二次電池。」(以下、「甲3発明」という。)

(2-3)本件訂正発明4と甲3発明との対比
ア)本件訂正発明4と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「絶縁体により構成されたガスケット」、「正極電極板」、「負極電極板」、「前記ガスケットが円環状をなす」、「ボタン型ないしはコイン型」、「幅8mm、長さ55mmのアルミニウム集電体」、及び「LiMn_(2)O_(4)、グラファイトを含むペーストを塗布した塗布層」は、それぞれ、本件訂正発明4の「絶縁ガスケット」、「正極板」、「負極板」、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である」、「扁平型」、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材」及び「正極作用物質を含有する作用物質含有層」に相当する。

イ)また、甲第3号証の上記(3d)の「カソードカン(1)は・・・導体であるステンレス鋼からなり」との記載によれば、甲3発明の「正極となるカソードカン」は、金属製であり正極端子を兼ねるものであるから、本件特許発明1の「正極端子を兼ねる金属製の正極ケース」に相当し、甲第3号証の上記(3d)の「このガスケットは、負極となるアノードカップと上記カソードカンとの間で短絡することがないように」との記載によれば、甲3発明の「負極となるアノードカップ」はカソードカンと同じく導体であって金属製のものと認められるから、本件訂正発明4の「負極端子を兼ねる金属製の負極ケース」に相当する。

ウ)そして、甲3発明の「負極となるアノードカップが、正極となるカソードカンに対して、絶縁体により構成されたガスケットを介して嵌入され、さらに、前記アノードカップは、かしめられ一体とされ」は、本件訂正発明4の「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し」に相当し、また、甲3発明の「シート状の正極電極板と負極電極板との間にセパレータを介在させて構成された一対の長尺状の電極群が先端から順番に折り重ねられた積層電極群」は、発電能力を有する二次電池の構成要素であり、発電要素と言い換えることができるから、本件訂正発明4の「正極板と負極板とがセパレータを介し」た、「電極群を含む発電要素」に対応する。

エ)そうすると、本件訂正発明4と甲3発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介し積層された電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包し、前記絶縁ガスケットの開口が円形である、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池において、
前記正極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有しており、
前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きい、扁平形非水電解質二次電池。」である点で一致し、以下の点において相違する。

(相違点1)
本件訂正発明4は、「電極群」は「正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置して」おり、
前記「正極板」は「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有しており、
前記負極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有しており、
前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、
前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続され、
前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有し」(以下、「A」という。)
「前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、かつ前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であ」(以下、「B」という。)るのに対し、甲3発明では、「シート状の正極電極板と負極電極板との間にセパレータを介在させて構成された一対の長尺状の電極群が先端から順番に折り重ねられた積層電極群であって、前記正極電極板はさらに正極リードが設けられ、前記負極電極板は負極リードが設けられ、前記電極群は、折り重ねられた正極電極板、セパレータ、負極電極板の面に対し垂直方向からみて、「正極電極板-セパレータ-負極電極板」と「負極電極板-セパレータ-正極電極板」を折り返す毎の一単位として、積み重ねられ」ている点。

(相違点2)本件訂正発明4では、「電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している」のに対し、甲3発明では、「一方の端部の正極電極板は、正極リードを介して正極となるカソードカンと密着し、他方の端部の負極電極は、負極リードを介して負極となるアノードカップと密着したもの」である点。

(2-4)相違点についての判断
・相違点1について
本件訂正発明4は、上記Aの構成を有することから、本件図面の図1に示されるような、正極板、負極板、セパレータがそれぞれ異なるシートとして分離され、セパレータを介して正極板と負極板が順次積層されるものであることは明らかであり、それにより、上記Bの構成である「前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、かつ前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり」を有するものと認められる。
これに対し、甲3発明に係る電極群は、シート状の正極電極板と負極電極板との間にセパレータを介在させて構成された一対の長尺状の電極群が先端から順番に折り重ねられた積層電極群であって、正極板、負極板、セパレータがそれぞれ異なるシートとして分離され、セパレータを介して正極板と負極板が順次積層されるものではない。
そして、順番に折り重ねられた積層電極群のうち、少なくとも折り曲げ部においては、扁平形電池の扁平面に対して平行に正負極対向部を有するものということはできず、また、前記電極群は、折り重ねられた正極電極板、セパレータ、負極電極板の面に対し垂直方向からみて、見掛け上、例えば、複数回の折り返しにより、「正極電極板-セパレータ-負極電極板-負極電極板-セパレータ-正極電極板-正極電極板-セパレータ-負極電極板」というような積み重ね構造となり、折り重ねた内側に当たる部分では、同一電極同士が直接対向することになるから、正極板、負極板、セパレータがそれぞれ異なるシートとして分離され、セパレータを介して正極板と負極板が順次積層されるものとは積層状態が異なるものである。
そうすると、該相違点1は、実質的な相違点である。

・相違点2について
甲3発明では、アルミニウム集電体(正極構成材)の両面に、LiMn_(2)O_(4)、グラファイトを含むペーストの塗布層(正極作用物質を含有する作用物質含有層)を有し、一方の端部の正極電極板は、前記正極リードを介して正極となる前記カソードカンと密着しており、また、他方の端部の負極電極板は、前記負極リードを介して負極となる前記アノードカップと密着しているから、該相違点2は、実質的な相違点であることは明らかである。

次に該相違点1の容易想到性について検討する。
ア)本件訂正発明4は、本件特許明細書の記載によれば、従来の扁平型非水電解質二次電池は、その内部に絶縁ガスケットの開口径より一回り直径が小さいタブレット状の正極および負極が、それぞれ1枚ずつ、非水電解質を含浸させたセパレータを介して対向配置された構造であったため、量産性、長期信頼性、安全性に優れるものの、大電流で放電した場合の特性(重負荷放電特性)に対しては遙かに不十分であり、満足できるレベルではなかった点を解決すべき課題とするものであって、かかる課題に対し、扁平型非水電解質二次電池内において、扁平形電池の扁平面に対して平行に正負極対向部を持つように電極を多層配置し積層とすること、特に、セパレータを介して対向している電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とし、かかる対向面の面積を、絶縁ガスケットの開口面積よりも大きくすることで、重負荷放電特性が著しく優れた扁平形非水電解質二次電池を提供できることを見出したものである(【0003】、【0004】、【0007】、【0008】、【0010】、【0011】、【0013】、【0014】、【0039】?【0041】、【表1】を参照。)。
イ)甲第3号証の上記(3c)には、甲3発明の従来技術として、それまでのコイン型電池のペレット状の比較的厚い電極構造を採用した場合には、その電極反応面積が小さいために、十分な寿命性能を得ようとすると充電に長い時間を要することとなることを解決する方法として、電極反応面積を大きくするため、何枚かの正極、負極をセパレータを介して積み重ねて構成することが考えられる一方、かかる構成によれば、電極一枚毎にリード線を取り出し、さらに正・負両極の各リード線をそれぞれ集合させる必要があるとともに、内容積の小さいコイン型の電池では組立て作業が非常に面倒となってしまうという問題点があったため、甲3発明は、かかる問題点を解決すべき課題として提案されたものであること、すなわち、何枚かの正極、負極をセパレータを介して積み重ねて構成する手段に換えて、シート状の正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させてなる電極群を折り重ねて積層電極群とすることにより解決したものであることが記載されているといえる。
ウ)そうすると、甲第3号証には、電極反応面積を大きくするため、何枚かの独立した正極、負極をセパレータを介して積み重ねて構成することは記載されているとしても、かかる構成を甲3発明に適用することには、阻害事由があるといえる。

また、仮に、阻害事由がないとしても、甲第3号証には、「何枚かの正極、負極をセパレータを介して積み重ねて構成すること」について、その具体的な構成については何ら記載されておらず(何枚かのペレット状の正極板、負極板をセパレータを介して積み重ねるものも含みうる)、相違点1に係る構成については、甲第3?5号証のいずれにも記載も示唆もなく、また、それが、周知、慣用技術であるとも認められないから、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件訂正発明4は、相違点2について検討するまでもなく、甲第3号証に記載された発明及び甲第3?5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-6)本件訂正発明5?7について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1または4を引用するものである。
そして、本件訂正発明5と甲3発明とを対比すると、本件訂正発明1を引用するもの、または本件訂正発明4を引用するもののいずれにおいても、少なくとも、前記本件訂正発明4と甲3発明との相違点1を有し、前記のとおり、相違点1は、実質的な相違点であり、また、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そうすると、本件訂正発明5は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明及び甲第3?5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件訂正発明5を引用する本件訂正発明6、7についても同様である。

(3)無効理由IVについて
(3-1)無効理由IVの具体的理由について
審判請求書の6頁及び33頁?34頁の記載によれば、無効理由4の具体的理由は、以下のとおりのものと認められる。

ア)本件特許発明1は、「正極板は、『導電性を有する正極構成材』の表面に、『正極作用物質を含有する作用物質層』」を有すること、及び、「負極板は、『導電性を有する負極構成材』の表面に、『負極作用物質を含有する作用物質層』」を有することを発明特定事項として規定するものであり、本件特許明細書の【0021】には、肉薄電極として、「正極板」及び「負極板」が、「正極構成材である金属箔に少なくとも正極作用物質を含有したスラリー状の正極合剤を塗布、乾燥した電極」及び「負極構成材である金属箔に少なくとも負極作用物質を含有したスラリー状の負極合剤を塗布、乾燥した電極」は記載されているものの、従来の材料を「導電性を有する正極構成材」、「導電性を有する負極構成材」に用いた場合には、肉薄電極の作製が難しいものと理解され、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とし、発明の詳細な説明に記載の効果を奏することができるとは認められない。

イ)また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「正極作用物質を含有する作用物質含有層」、「負極作用物質を含有する作用物質含有層」が、例えば、正極活物質を含む正極合剤を加圧成形してなる作用活物質層、負極活物質を含む負極合剤を加圧成形してなる作用活物質層(本件特許明細書の比較例1(【0035】?【0037】)のタブレット)等である場合には、薄い電極を形成することが困難となり、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とし、発明の詳細な説明に記載の効果を奏することができるとはいえない。

ウ)よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではないし(特許法第36条第6項第1号違反)、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない(特許法第36条第4項第1号違反)。

(3-2)判断
ア)本件訂正発明4は、前記「第4[2]2(1)(1-1))」のとおり、正極板、負極板が、それぞれ、「正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、「負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有」することは特定されるものの、正極構成材、負極構成材が金属箔であることは特定されていない。
これに対し、本件特許明細書の【0021】には、「電極については正極板、負極板とも、肉薄電極の作製が行い易いという点で金属箔にスラリー状の合剤を塗布、乾燥したものがよく、さらにそれを圧延したものを用いることもできる。」とあり、金属箔を正極構成材及び負極構成材として用いることにより、肉薄電極の作製が行える旨記載されているが、他方、請求人が主張するような、その他の従来材料を正極構成材及び負極構成材に用いた場合には、肉薄電極の作成が難しく、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とし、発明の詳細な説明に記載の効果を奏することができないとする記載や、かかる記載を示唆する記載は何ら見当たらない。

イ)そして、本件特許明細書の【0005】には、正極構成材や負極構成材として、金属箔以外に金属ネットが例示されており、この金属ネットにより金属箔と同様に肉薄電極を作製し得ることは技術常識(要すれば、特開平5-182657号公報の【0002】、【0011】などを参照。)であるから、かかる技術常識を踏まえ本件特許明細書の記載をみれば、本件訂正発明4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものということができる。
また、本件訂正発明5?7は、いずれも、正極構成材、負極構成材が金属箔であることを特定するものであり、当該無効理由がないことは明らかである。

ウ)そうすると、本件訂正発明4?7は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明4?7を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(4)本件無効審判と併合審理された無効2013-800236号(以下、「別件無効審判」という。)における無効理由(特許法第29条第1項第3号および特許法第29条第2項)について
(4-1)別件無効審判の口頭審理(平成26年8月7日)において告知された無効理由は次のとおりである。

「本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証明細書本文の第8頁下から2行ないし第9頁第12行、第9頁第20行ないし第10頁第8行、第10頁最終行ないし第11頁第9行及び図4等に記載された実施例2に係るコイン型リチウムイオン二次電池に関する記載事項、 又は、同号証明細書本文の第12頁第5行ないし第21行、第13頁第15行ないし第14頁第1行に記載された比較例4に係るコイン型リチウムイオン二次電池に関する記載事項に、甲第2号証及び甲第6号証に記載されたガスケットの封口構造に関する周知技術を、それぞれ、組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。」

なお、別件無効審判の審判請求書において請求人が主張する無効理由(特許法第29条第1項第3号及び第2項)の具体的理由は、概略、次のとおりである。
本件特許の請求項1に係る発明(「本件特許発明」)と甲第1号証の「比較例4」として記載されるコイン型非水電解質電池(甲第1号証に記載された発明)との間に相違点はないから、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明である。
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2?4号証に示されるような、絶縁ガスケットを介して嵌合された正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造という周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書第10頁?第17頁)

甲第1号証:国際公開第98/28804号
甲第2号証:特開平9-63644号公報
甲第3号証:特開平10-92414公報
甲第4号証:特開昭63-259967号公報
甲第5号証:JIS C8500^(:2013 ),一次電池通則,
日本規格協会,平成25年3月21日,p.1-42
甲第6号証:電池便覧,丸善株式会社,平成2年8月20日,p.32 2-338
甲第7号証:Research and Development o f Li Swing Type Secondary
Battery(II),1994年9月16日,p.1 -139
甲第8号証:Research and development o f Polymer Secondary Batte ry,1990年6月,p.1-64

なお、上記甲第5?8号証は、別件無効審判の口頭審理陳述要領書において、追加されたものである。

(4-2)甲第1?8号証(以下、それぞれ、「併合甲第1号証」・・・「併合甲第8号証」という。)の記載事項
(4-2-1)併合甲第1号証
(併1a)「背景技術
非水電解質電池、特にリチウム二次電池における正負両極は、活物質粉体を、導電材と高分子バインダを混合し、溶媒で溶いて塗料化したものを金属箔に塗布、乾燥させ、所定の形状に成形して製造されている。この電極中に占める活物質の割合はおよそ40vol%で、残りはバインダ、導電材、金属箔等20?30vol%および空孔30?40vol%から構成されている。したがって、バインダ、導電材、金属箔といった本来電極の容量に寄与しないものが体積当たりの電気容量を制限する。また金属箔は電極の重量として大きな割合を占め、単位重量当たりの電気容量をも制限している。」(明細書第1頁第6?15行、下線は、当審において付与した。以下、同様)

(併1b)「発明の開示
そこで、本発明の第1の目的は、実質的に活物質のみからなる多孔質体を電極材料とすることにより、構成される電池の容器内の電極中のデッドスペースの容積を減少させ、単位体積当たりの電気容量を大きくすることができる非水溶媒二次電池を提供することにある。
本発明の第2の目的は、電極材料として粉体ではなく多孔質体を用いることにより、活物質は電気的に電解液と充分に接触させる一方、集電体としての金属箔や導電材の使用を減少または不要とし、単位重量当たりの電気容量を従来よりも大きくすることができる非水溶媒二次電池を提供することにある。」(明細書第2頁第3?12行)

(併1c)「発明を実施するための最良の形態
図1には本発明の単位セルの基本形態を示し、多孔質焼結体正極5と多孔質焼結体負極3とをセパレー夕4を介して積層し、その上下端面に各集電タブ2、2を接着し、絶縁体膜1で覆うことにより形成されている。
上記多孔質焼結体からなる正極5は寸法は用途に応じて任意に作成することができ、厚みは10μm?2mm、好ましくは50μm?lmmである。
・・・
正極材料としては、従来公知の何れの材料も使用でき、例えば、LixCo0_(2),LixNi0_(2), Mn0_(2), LixMn0_(2), LiMn_(2)0_(4), LixCoyMn_(2-y)0_(4),α-V_(2)0_(5), TiS_(2)等が挙げれるが、LiCo0_(2), LiNi0_(2), LiMn0_(4)またはリチウム遷移金属酸化物を主体とする物質が好ましい。
・・・
本発明において使用される負極材料としては、炭素材料、IIIb?Vb族酸化物、金属アルミニウム、ケイ素、またはケイ素化合物など公知の電極材料が挙げられる。炭素材料としては 天然黒鉛、コークスやガラス状炭素、黒鉛前駆体等の炭素材料を用いることができるが、特に、熱処理して炭素化する材料を原料として焼成した炭素材料が好ましい。
・・・
上記セパレ一タ4は厚み200 μm以下、より好ましくは50 μm以下である薄手のポリエチレン微多孔質膜、ポリプロピレン微多孔質膜やポリプロピレン不織布など公知のいずれのものであってもよい。
本発明に使用される非水電解液は、有機溶媒と電解質とを適宜組み合わせて調製されるが、これら有機溶媒や電解質はこの種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能である。
有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等である。
・・・
電解質としては、例えばLiC10_(4),LiAsF_(6),LiBF_(4), LiB(C_(6)H_(5))_(4), LiCl, LiPF_(6)(LiBr, Lil,CH_(3)S0_(3)Li, CF_(3)S0_(3)Li, LiAlCl_(4) 等が挙げられ、これらの1種を単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる
・・・
図4は上記集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合正極板50と集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える負極板30とをセパレータ4を介して積層した電池単位6を繰り返し、最後は上側に負極板3?1、上集電タブ2?1、上絶縁体膜1?1を重ねる一方、多孔質焼結体正極板5?2、下集電タブ 2?2、下絶縁体膜1?2を重ね、多層型セルを構成している。・・・」(明細書第2頁末行?第9頁第5行)

(併1d)「


」(図中、「上絶縁薄膜」等の名称は当審において付与した。)

(併1e)「製造例1 (正極の製造)
炭酸リチウム粉末と炭酸コバルト粉末をモル比でLi/Co=1/1となるように混合し、大気雰囲気中でセ氏600度1時間仮焼する。次いでこれを粉砕し、アクリル繊維直径20μm長さ50μmを混合して押し固め、大気雰囲気中でセ氏800度10時間熱処理を施して研磨工程を経て直径15mm厚さ0.4mm比重一立方センチメートル当たり3.0g、空孔率40%の正極を得た。」(明細書第9頁第6?12行)

(併1f)「製造例3 (負極の製造)
太さ20μmのポリエステル繊維70万本を内径18mm筒状の容器に収納し、さらに容器内の空間を充填するように熱硬化性樹脂、詳しくはフルフリルアルコール100重量部、92%パラホルムアルデビド46重量部、フエノール134重量部の組成物を流し込んで繊維に含浸させた。これを80℃の乾燥機に72時間入れて樹脂を硬化させた後、得られた棒状の硬化物をダイヤモンドカッタを用いて厚さ0.5mmのディスク状に切断した。次いでこれを不活性雰囲気下2,200℃で3時間熱処理し、硬化樹脂を炭化させるとともに含浸繊維を分解揮散させ、直径15mm厚さ0.4mm重量0.05g、空孔率36%のカーボン薄板を製造した。これを顕微鏡(×200)で観察し一平方ミリメートル中の平均孔径が20/μm連通孔の数は2,000であり、厚さ方向の電気伝導度を両面に金属板を張り付けて測定した結果は1×100S/cm以上であった。これを負極とした。」(明細書第9頁第20行?第10頁第8行)

(併1g)「実施例2
製造例1および3で得られた正極板と負極板にそれぞれ集電を目的とする金属片を付け、ポリエチレン多孔膜をセパレータとしてはさみ正極板側を上方として電池素単位を作った。この電池素単位をセパレータをはさんで10単位積み重ね、正極負極それぞれで集電用の金属片を束ねて一つの正極の集電体束と一つの負極の集電体束を作り、負極を最下層に、正極を最上層に導きコイン電池用の金属容器に入れ、電解液にエチレンカーボネートとジメチルカーボネート体積比で1:1の混合溶媒に1mon/l(審決注;「1mol/l」の誤記)の六フッ化リン酸リチウムを加えたものを用いてコイン型リチウムイオン二次電池を得た。この電気容量は180mAhであった。」(明細書第10頁末行?第11頁第9行)

(併1h)「比較例2
正負両極共上述の焼成品で繊維を混入していないものを粉砕し、メジアン径が共に30μm程度にしたコバルト酸リチウムの粉体と炭素の粉体を得た。
正極の場合はコバルト酸リチウムの粉体90重量部にアセチレンブラック9重量部、炭素粉9重量部、ポリフッ化ビニリデン12重量部を混入し、n-メチル-2-ピロリドンで溶いてペースト状にし、厚さ20μmのアルミ二ウム箔に塗布し乾燥、カレンダプレスを経て厚さ0.4mmとし、直径15μm(審決注;「15mm」の誤記)に打ち抜いた。負極は炭素の粉体90重量部にポリフッ化ビニリデン10重量部を混入し、n-メチル-2-ピロリドンで溶いてぺ一スト状にし、乾燥、カレンダプレスを経て厚さ0.4mmとし、厚さ15μmの銅箔に塗布し直径15μm(審決注;「15mm」の誤記)に打ち抜いた。これら正極と負極の間にポリエチレン多孔膜をセパレー夕としてはさみ、電解液にエチレンカーボネートとジメチルカーボネート体積比で1:1の混合溶媒に1mon/l(審決注;「1mol/l」の誤記)の六フッ化リン酸リチウムを加えたものを用いてコイン型リチウム二次電池を得た。この電気容量は14mAhであり、実施例1の性能の優位が示される。」(明細書第12頁第5?21行)

(併1i)「比較例4
比較例2で得られた正極板と負極板にそれぞれ集電を目的とする金属片を集電体にスポット溶接によって取り付け、ポリエチレン他孔膜(審決注:「多孔膜」の誤記)をセパレータとしてはさみ正極板側を上方として電池素単位を作つた。この電池素子単位を絶縁薄膜をはさんで10単位積み重ね、正極負極それぞれで集電用の金属片を束ねて一つの正極の集電体束と一つの負極の集電体束を作り、負極を最下層に、正極を最上層に導きコイン電池用の金属容器に入れ、電解液にエチレンカーボネートとジメチルカーボネート体積比で1:1の混合溶媒に1mon/l(審決注;「1mol/l」の誤記)の六フッ化リン酸リチウムを加えたものを用いてコイン型リチウムイオン二次電池を得た。この電気容量は140mAhであった。
実際に広く用いられるような条件でも実施例2の性能の優位が示された」
(明細書第13頁第15行?第14頁第1行)

(4-2-2)併合甲第2号証
(併2a)「【0026】実施例7 電池サイクル寿命
図1に示した電池寸法が外径20mm、高さ2.5mmのコイン形非水電解液電池を製作した。負極には金属リチウムを、正極2にはLiCoO_(2)85重量部に導電剤としてグラファイト12重量部、結合剤としてフッ素樹脂3重量部を加えた混合物を加圧成形したものを用いた。これら負極1、正極2を構成する物質は、ポリプロピレンから成る多孔質セパレータを介してそれぞれ負極缶4および正極缶5に圧着されている。このような電池の電解液として炭酸トリフルオロメチルエチレン(TFMEC)と炭酸ジメチル(DMC)とを体積比1:1の割合で混合した溶媒にLiPF_(6)を1.0mol/L(リットル)の割合で溶解したものを用い、封口ガスケット6より封入した。」

(併2b)「




(4-2-3)併合甲第3号証
(併3a)「【0017】(実施例1)図1は、本発明の実施例に用いたコイン型の非水電解液二次電池の断面図、・・・を示し、図において1はステンレス鋼製ケース、2はステンレス製封口板、3は一方の表面にInメッキ層3aを施した銅製の負極集電体、4はInメッキ層3aに積層して形成したリチウムを吸蔵,放出できる球状黒鉛とフッ素樹脂製粘着剤とから構成した黒鉛層、5は負極で、負極集電体3の表面にInメッキ層3aおよび黒鉛層4を順次積層して形成している。6はアルミニウム箔製の正極集電体で、表面にLiCoO_(2) と、アセチレンブラックとフッ素樹脂とで構成された正極活物質層7を形成して正極としている。8はポリプロピレン樹脂製のセパレータ、9はポリプロピレン樹脂製のガスケットである。・・・」

(併3b)「




(4-2-4)併合甲第4号証
(併4a)「第1図は酸化銅リチウム電池の縦断面図を示す。」(第2頁右上欄第9行)

(併4b)「




(4-2-5)併合甲第5号証


」(「3 用語及び定義」第2頁)

(4-2-6)併合甲第6号証



」(第330頁)

(4-2-6)併合甲第7号証の記載事項



」(第51頁)

(4-2-8)併合甲第8号証の記載事項
(併8a) 「


」(第26頁)

(併8b)



・・・


」(第28頁)
(当審による翻訳:
「イ.電池の組立
・・・
(3)組立て及びクランプ
Dry box内で製造したanode部に、電解液を0.2ml含浸させた後、cathode部を閉めて写真2-5のクランプ工具を利用してクランプさせコイン型のPan/Li-Al2次電池を製造した。写真2-7,2-8に電池の組立過程と製造したコイン型Pan/Li-Al2次電池をそれぞれ表している。」)

(4-3)併合甲第1号証に記載された発明
ア 上記(併1e)?(併1g)によれば、実施例2に記載される電極群を図示すると次のようになる。
(参考図1)


なお、口頭審理の際に告知された前記無効理由において「本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証明細書本文の第8頁下から2行ないし第9頁第12行、第9頁第20行ないし第10頁第8行、第10頁最終行ないし第11頁第9行及び図4等に記載された実施例2に係るコイン型リチウムイオン二次電池に関する記載事項」とされた図4に示される電極群は、「図4は上記集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合正極板50と集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える負極板30とをセパレー夕4を介して積層した電池単位6を繰り返し、最後は上側に負極板3-1、上側集電タブ2-1、上絶縁体膜1-1を重ねる一方、多孔質焼結体5-2、下側集電タブ2-2、下絶縁体膜1-2を重ね、多層型セルを構成している。」(第8頁下から2行?第9頁第4行)との記載のとおりのもの(以下に再掲)のようなものであって、実施例2に記載される電極群(参考図1)とは構造が異なり、実施例2に係るコイン形リチウムイオン二次電池の構造を説明したものではない。



そして、上記(併1g)の実施例2において用いられる正極板、負極板は、上記(併1e)、(併1f)によれば、実質的に活物質のみからなる多孔質体であることは明らかである。
よって、併合甲第1号証には、上記(併1e)?(併1g)および上記(参考図1)によれば、実施例2に係るコイン型リチウムイオン二次電池として、以下の発明が記載されているといえる。
「コイン電池用の金属容器の内部に、円形の正極板と負極板との間にセパレータをはさんで、正極板側を上方とした電池素単位を10単位積み重ねた電極群と、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に1mol/lの六フッ化リン酸リチウムを加えた電解液を含むコイン型リチウムイオン二次電池において、
前記正極板は、実質的に活物質のみからなる多孔質体であり、集電用の金属片が付けられ、
前記負極板は、実質的に活物質のみからなる多孔質体であり、集電用の金属片が付けられ、
前記各正極板の集電用の金属片を束ねて一つの正極の集電体束を作り、前記各負極板の集電用の金属片を束ねて一つの負極の集電体束を作り、
前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが、実質的に電池の扁平面に平行に積層されており、
前記電極群の最外部に位置する正極板は、最外部側の面において集電用の金属片を有しており、前記電極群の最外部に位置する負極板は、最外部側の面において集電用の金属片を有している、コイン型リチウムイオン二次電池。」(以下、「併合甲1-1発明」という。)

イ 上記(併1h)、(併1i)に基づき、比較例4に記載される電極群を図示すると次のようになる。

(参考図2)




そして、併合甲第1号証には、上記(併1h)、(併1i)および上記参考図2によれば、比較例4に係るコイン型リチウムイオン二次電池として、以下の発明も記載されていると認められる。
「コイン電池用の金属容器の内部に、円形の正極板と負極板との間にセパレータをはさんで、正極板側を上方として作製した電池素単位を、絶縁薄膜をはさんで10単位積み重ねた電極群と、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に1mol/lの六フッ化リン酸リチウムを加えた電解液を含むコイン型リチウムイオン二次電池において、
前記正極板は、円形の集電体であるアルミニウム箔の片面に、ペースト状物の塗布によるコバルト酸リチウム含有層を有し、アルミニウム箔の片面には集電用の金属片が取り付けられ、
前記負極板は、円形の集電体である銅箔の片面に、ペースト状物の塗布による炭素含有層を有し、銅箔の片面には集電用の金属片が取り付けられ、
前記各正極板の集電用の金属片を束ねて一つの正極の集電体束を作り、前記各負極板の集電用の金属片を束ねて一つの負極の集電体束を作り、
前記正極板、前記負極板および前記セパレータが、実質的に電池の扁平面に平行に積層されており、かつ、セパレータを介して対向している正極板のコバルト酸リチウム含有層と負極板の炭素含有層との対向面が10面であり、絶縁薄膜を介して対向している正極板のコバルト酸リチウム含有層と負極板の炭素含有層との対向面が9面あり、セパレータを介して対向している対向面と絶縁薄膜を介して対向している対向面が交互に存在し、
前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、アルミニウム箔が露出しており、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、銅箔が露出している、コイン型リチウムイオン二次電池。」(以下、併合甲1-2発明」という。)

(4-4)対比・判断
(ア)併合甲1-1発明を主引用発明として
(ア-1)本件訂正発明4について
(ア-1-1)対比
本件訂正発明4と併合甲1-1発明とを対比すると、本件訂正発明4において、「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有」するものは、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包し、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池を構成するものであり、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池における「容器」といえるから、併合甲1-1発明における「コイン電池用の金属容器」とは「電池用の容器」との点で共通する。
そして、併合甲1-1発明における「円形の正極板と負極板と・・・重ねた電極群」、「エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に1mol/lの六フッ化リン酸リチウムを加えた電解液」、「コイン型リチウムイオン二次電池」は、それぞれ、「正極板と負極板とが・・・発電要素」、「非水電解質」、「コイン形」の「扁平型非水電解質二次電池」に相当する。
また、併合甲1-1発明において、「前記各正極板の集電用の金属片を束ねて一つの正極の集電体束を作り、前記各負極板の集電用の金属片を束ねて一つの負極の集電体束を作」ることにより、各正極板同士及び前記負極板同士が、それぞれの集電用の金属片の電気的接続によって接続されることは明らかである。
さらに、本件訂正発明4における「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部」と、併合甲1-1発明の「円形の多孔質焼結体からなる正極板」に「付けられる集電用の金属片」とは、正極板の集電部材として機能する点で共通し、本件特許発明4における「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部」と、併合甲1-1発明の「円形の多孔質焼結体からなる負極板」に「付けられる集電用の金属片」とは、負極板の集電部材として機能する点で共通する。

よって、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「電池用の容器内部に、少なくとも、正極板と負極板とが多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包する、コイン形の扁平形非水電解質二次電池において、
前記各正極板同士及び前記負極板同士が、それぞれの集電部材の電気的接続によって接続されており、
前記電極群は両側の最外部と中間部とからなり、
前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されているコイン形の扁平形非水電解質二次電池。」

(相違点1)
前記電池用の容器について、本件訂正発明4は「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し」、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である」のに対し、併合甲1-1発明では、「コイン電池用の金属容器」である点。

(相違点2)
本件訂正発明4では、前記正極板は、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、かつ「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有し」ており、また、前記負極板は、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、かつ「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有し」ているのに対して、併合甲1-1発明では、かかる構成を備えておらず、前記正極板が「円形の実質的に活物質のみからなる多孔質体であり、集電用の金属片が付けられ」ており、前記負極板が「円形の実質的に活物質のみからなる多孔質体であり、集電用の金属片が付けられ」ている点。

(相違点3)
本件訂正発明4では、「前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されてい」るのに対し、併合甲1-1発明では、それが明らかではない点。

(相違点4)
本件訂正発明4では、前記電極群は、「少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有し」ているのに対して、併合甲1-1発明では、そのような構成を有していない点。

(相違点5)
本件訂正発明4では、「前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり、前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大き」いのに対して、併合甲1-1発明では、そのような構成を有していない点。

(相違点6)
本件訂正発明4では、「前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している」のに対し、併合甲1-1
発明では、「前記電極群の最外部に位置する正極板は、最外部側の面において集電用の金属片を有しており、前記電極群の最外部に位置する負極板は、最外部側の面において集電用の金属片を有して」おり、正極端子、負極端子との接続は不明な点。

(ア-1-2)判断
・相違点1について
コイン形の扁平形非水電解質電池における容器として、「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し」、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である」ものは周知であり(併合甲第2?4、6?8号証)、容器について金属容器である以外に特定のない併合甲1-1発明において、該周知のものを適用することは当業者が適宜なし得ることである。

・相違点2について
コイン形の扁平形非水電解質二次電池において、正極板が、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、かつ「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有し」ており、また、負極板が、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、かつ「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有し」ているものは、併合甲第1?8号証のいずれにも記載も示唆もなく、また、それが周知、慣用技術であるとも認められない。
よって、当該相違点2に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、仮に、かかる構成が公知技術あるいは周知、慣用技術であったとしても、併合甲第1号証の記載によれば、「非水電解質電池、特にリチウム二次電池における正負両極は、活物質粉体を、導電材と高分子バインダを混合し、溶媒で溶いて塗料化したものを金属箔に塗布、乾燥させ、所定の形状に成形して製造されている。・・・したがって、バインダ、導電材、金属箔といった本来電極の容量に寄与しないものが体積当たりの電気容量を制限する。また金属箔は電極の重量として大きな割合を占め、単位重量当たりの電気容量をも制限している。」(上記(併1a))ことを問題とし、これに対して、「実質的に活物質のみからなる多孔質体を電極材料とすることにより、構成される電池の容器内の電極中のデッドスペースの容積を減少させ」、また、「電極材料として粉体ではなく多孔質体を用いることにより、活物質は電気的に電解液と充分に接触させる一方、集電体としての金属箔や導電材の使用を減少または不要とし単位重量当たりの電気容量を大きくすることができる非水溶媒二次電池を提供する」(上記(併1b))と記載されている。
そして、これらの記載によれば、実質的に金属箔や導電材を含まない多孔質体を電極材料とした場合に、体積当たりの電気容量が制限されず、また、粉体ではなく多孔質体を電極材料とする場合には、集電体としての金属箔や導電材の量を減らしたりあるいは不要にすることができ、重量当たりの電気容量が制限されないものと認められる。
そうすると、「正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有」する正極板や、「負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有」する負極板のような、活物質粉体、導電材を含む塗料を金属箔に塗布、乾燥させて製造する電極(板)の使用は、体積当たりの電気容量、重量当たりの電気容量のいずれをも制限するのであるから、併合甲1-1発明において、かかる構成の電極とすることには阻害事由があるといえる。
よって、当該相違点2に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

・相違点4について
正極板と負極板とがセパレータを介して多層積層されて対向配置している電極群を含むコイン形の扁平形非水電解質二次電池において、「少なくとも中間部に位置する各正極板及び各負極板は、各正極構成材及び各負極構成材の両面に各作用物質含有層を有し」、「正極板と負極板とがセパレータを介して多層積層され」たものは、併合甲第1?8号証のいずれにも記載も示唆もなく、また、それが、周知、慣用技術であるとも認められない。
したがって、当該相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

以上のとおり、相違点1、2、4は実質的な相違点であり、また、相違点2、4については、当業者が容易になし得たことはいえないから、相違点3、5、6について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-1発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ア-2)本件訂正発明5?7について
本件訂正発明1又は4を引用する本件訂正発明5と併合甲1-1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、前記相違点1?5の点で相違するものであり、上記のとおり、相違点1、2、4は実質的な相違点であり、相違点2、4は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件訂正発明5は、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-1発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件訂正発明5を引用する本件訂正発明6、7についても同様である。

(イ)併合甲1-2発明を主引用発明として
(イ-1)本件訂正発明4について
(イ-1-1)対比
本件訂正発明4と併合甲1-2発明とを対比すると、本件訂正発明4において、「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有」するものは、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包し、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池を構成するものであり、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池における「容器」といえるから、甲1-2発明における「コイン電池用の金属容器」とは「電池用の容器」との点で共通する。
そして、併合甲1-2発明における「集電体であるアルミニウム箔」、「ペースト状物の塗布によるコバルト酸リチウム含有層」、「集電体である銅箔」、「ペースト状物の塗布による炭素含有層」、「エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に1mol/lの六フッ化リン酸リチウムを加えた電解液」、「コイン型リチウムイオン二次電池」は、本件訂正発明4の「導電性を有」する「正極構成材」、「塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層」、「導電性を有」する「負極構成材」、「塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層」、「非水電解質」、「コイン形」の「扁平形非水電解質二次電池」に相当する。
また、併合甲1-2発明において、「各正極板および各負極板の集電用の金属片をそれぞれを束ねて一つの正極の集電体束と一つの負極の集電体束が形成」されることによって、「各正極板同士及び前記負極板同士が、それぞれの集電部材の電気的接続によって接続され」ることは明らかである。
そして、本件訂正発明4における「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部」と、併合甲1-2発明の「アルミニウム箔」の「片面に」「スポット溶接で取り付けられ」る「集電用の金属片」は、正極板の集電部材である点で共通し、本件訂正発明4における「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部」と、併合甲1-2発明の「銅箔」の「片面に」「スポット溶接で取り付けられる」「集電用の金属片」は、負極板の集電部材である点で共通する。
よって、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「電池用の容器内部に、少なくとも、正極板と負極板とが多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包する、コイン形の扁平形非水電解質二次電池において、
前記正極板は、導電性を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、
前記負極板は、導電性を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、
前記各正極板同士及び前記負極板同士が、それぞれの集電部材の電気的接続によって接続されており、
電極群は両端の最外部と中間部とからなり、
前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、
電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出し、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出しているコイン形の扁平形非水電解質二次電池。」

(相違点7)
前記電池用の容器について、本件訂正発明4は「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し」、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である」のに対し、併合甲1-2発明では、「コイン電池用の金属容器」である点。

(相違点8)
本件訂正発明4では、前記正極構成材が「直線状の2辺が対向する部分を有する」形状であり、前記正極板の集電部材が「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部」であるのに対して、併合甲1-2発明では、前記正極構成材が「円形」であり、前記正極板の集電部材が、前記正極構成材の「片面に取り付けられ」る「金属片」であり、また、本件訂正発明4では、前記負極構成材が「直線状の2辺が対向する部分を有する」形状であり、前記負極板の集電部材が「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部」であるのに対して、併合甲1-2発明では、前記負極構成材が「円形」であり、前記負極板の集電部材が、前記負極構成材の「片面に取り付けられ」る「金属片」である点。

(相違点9)
本件訂正発明4では、「前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されている」のに対し、併合甲1-2発明では、それが明らかではない点。

(相違点10)
本件訂正発明4では、前記電極群は、「少なくとも中間部に位置する前記正極板及び前記負極板は、前記正極構成材及び前記負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有し」、「正極板と負極板とがセパレータを介して多層積層され」、「前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であ」るのに対して、併合甲1-2発明では、前記電極群は、「中間部に位置する前記正極板および負極板が、前記正極構成材および負極構成材の片面にのみ、前記各作用物質層を有して」おり、「正極板と負極板はセパレータおよび絶縁薄膜を交互に介して多層積層され」、「前記セパレータを介して対向している正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面が10面であ」るが、「絶縁薄膜を介して正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層とが対向している面が9面ある」点。

(相違点11)
本件訂正発明4では、「前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大き」いのに対して、併合甲1-2発明では、それが明らかではない点。

(相違点12)
本件訂正発明4では、前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続しているのに対し、併合甲1-2発明では、それが明らかではない点。

(イ-1-2)判断
・相違点7について
前記「(ア)(ア-1)(ア-1-2)」の「・相違点1について」と同様である。

・相違点8について
コイン形の扁平形非水電解質二次電池において、正極構成材が「直線状の2辺が対向する部分を有する」形状であり、正極板の集電部材が「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部」であり、また、負極構成材が「直線状の2辺が対向する部分を有する」形状であり、負極板の集電部材が「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部」である、当該相違点8に係る構成については、併合甲第1?8号証のいずれにも記載も示唆もなく、また、それが、周知または慣用技術であるともいえない。
したがって、当該相違点8に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

・相違点10について
正極板と負極板とがセパレータを介して多層積層されて対向配置している電極群を含むコイン形の扁平形非水電解質二次電池において、「少なくとも中間部に位置する正極板及び負極板は、正極構成材及び負極構成材の両面に各作用物質含有層を有し」、「正極板と負極板とがセパレータを介して多層積層され」たものは、併合甲第1?8号証のいずれにも記載も示唆もなく、また、それが、周知または慣用技術であるともいえない。
したがって、当該相違点10に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

以上のとおり、相違点7、8、10は実質的な相違点であり、また、相違点8、10については当業者が容易になし得たものとはいえないから、相違点9、11、12について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-2発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ-2)本件訂正発明5?7について
本件訂正発明1又は4を引用する本件訂正発明5と併合甲1-2発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点7?11の点で相違するものであり、上記のとおり、相違点7、8、10は実質的な相違点であり、また、相違点8、10は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件訂正発明5は、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-2発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件訂正発明5を引用する本件訂正発明6、7についても同様である。

(ウ)なお、併合甲第1号証の上記(併1d)の図4に係るものに基づく特許法第29条第1項第3号、同第29条第2項の無効理由の有無についても、以下、検討する。
(ウ-1)本件訂正発明4について
(ウ-1-1)上記(併1c)、(併1d)の図4の記載によれば、併合甲第1号証には、
「集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合正極板と集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合負極板とをセパレータを介して積層した電池単位を繰り返し、上側に多孔質焼結体負極板、上集電タブ、上絶縁体膜を重ねる一方、下側に多孔質焼結体正極板、下集電タブ、下絶縁体膜を重ねた多層型セルと、プロピレンカーボネート等の有機溶媒にLiClO_(4)等の電解質を加えた電解液を有する非水電解液二次電池において、
前記複合正極板の各集電タブが、同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記複合負極板の各集電タブが、前記複合正極板の各集電タブが露出している位置に対向する位置において、同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されている非水電解液二次電池。」(以下、「併合甲1-3発明」という。)が記載されていると認められる。

(ウ-1-2)対比
併合甲1-3発明における「集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合正極板と集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合負極板とをセパレータを介して積層した電池単位を繰り返し」たものは、「電極群」であり、「発電要素」であるといえる。
また、併合甲1-3発明における「複合正極板」、「複合負極板」、「プロピレンカーボネート等の有機溶媒にLiClO_(4)等の電解質を加えた電解液」、「非水電解液二次電池」は、それぞれ、本件訂正発明4の「正極板」、「負極板」、「非水電解質」、「非水電解質二次電池」に相当する。
さらに、併合甲1-3発明における「集電タブ」と、本件訂正発明4における「通電部」は、「集電部材」との点で共通する。

よって、両者は、
「少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介して多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを有する、非水電解質二次電池において、
前記正極板の集電部材が、同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の集電部材が、同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記電極群は両端の最外部と中間部とからなる、
非水電解質二次電池。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点13)
本件訂正発明4は「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し」、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である」、「コイン形又はボタン形の扁平形」の電池であるのに対し、併合甲1-3発明では、それが明らかでない点。

(相違点14)
本件訂正発明4では、前記正極板は、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、かつ「前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有し」ており、また、前記負極板は、「導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し」、かつ「前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有し」ているのに対して、併合甲1-3発明では、かかる構成を備えておらず、前記正極板が「集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合正極板」であり、前記負極板が「集電タブの両側に形成した多孔質焼結体を備える複合負極板」である点。

(相違点15)
本件訂正発明4では、「前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように」「配置され」、「前記負極板の各通電部が」「電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように」「配置され」ているのに対し、併合甲1-3発明では、それが明らかではない点。

(相違点16)
本件訂正発明4では、前記電極群は、「少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有し」ているのに対して、併合甲1-3発明では、「中間部に位置する前記正極板及び前記負極板は、前記集電タブの両面に多孔質焼結体を備え」ている点。

(相違点17)
本件訂正発明4では、「前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、かつ前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり、
前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大き」いのに対して、併合甲1-3発明では、かかる構成について明らかではない点。

(相違点18)
本件訂正発明4では、「前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している」のに対し、併合甲1-3
発明では、前記電極群の最外部に位置する多孔質焼結体負極板は、その上に上集電タブ、上絶縁体膜を重ねる一方、多孔質焼結体正極板は、その上に下集電タブ、下絶縁体膜を重ねており、上集電タブ、下集電タブが露出しておらず、正極端子、負極端子との接続は不明な点。

(ウ-1-3)判断
・相違点13について
併合甲1-3発明においては、非水電解液二次電池の形状について特に限定されていないものの、前記(併1g)のように、実施例2として、コイン型リチウムイオン電池が示されていることから、併合甲1-3発明を、周知(併合甲第2?4、6?8号証)の「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し」、「前記絶縁ガスケットの開口が円形である」、「コイン形又はボタン形の扁平形」の電池とすることは、当業者が容易になし得ることである。

・相違点14について
併合甲1-3発明における「多孔質焼結体」は、実質的に活物質のみからなるものであるから、前記「(ア)(ア-1)(ア-1-2)」の「・相違点2について」で述べた理由と同様の理由により、併合甲1-3発明において、相違点14に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことではない。

・相違点16について
前記「(ア)(ア-1)(ア-1-2)」の「・相違点4について」で述べた理由と同様の理由により、併合甲1-3発明において、相違点16に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことではない。
以上のとおり、相違点13、14、16は実質的な相違点であり、また、相違点14、16については、当業者が容易になし得たこととはいえないから、相違点15、17、18について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-3発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ-2)本件訂正発明5?7について
本件訂正発明1又は4を引用する本件訂正発明5と併合甲1-1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、前記相違点13?17の点で相違するものであり、上記のとおり、相違点13、14、16は実質的な相違点であり、相違点14、16は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件訂正発明5は、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-3発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件訂正発明5を引用する本件訂正発明6、7についても同様である。

(エ)別件無効審判の審判請求書において主張する無効理由について
前記「第4[2]2.(4)(4-1)」に記載のとおり、請求人が別件無効審判の審判請求書において主張する無効理由I(29条1項3号)、II(29条2項)は、具体的には、併合甲第1号証において「比較例4」として記載されるコイン型二次電池に基くものであり、これについては、上記(イ)で述べたとおり、本件訂正発明4?7は、「比較例4」に基いて認定された「併合甲1-2発明」とは少なくとも相違点7?11を有し、相違点7、8、10は実質的な相違点であり、また、相違点8、10については、当業者が容易になし得たこととはいえないから、相違点7、9、11について検討するまでもなく、併合甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、併合甲1-2発明及び併合甲第1?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、他に本件訂正発明4?7を拒絶すべき理由を発見しない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明4?7は、特許出願の際独立して特許を受けられないものとはいえない。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第3項、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第5 本件特許発明について
(1)本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定されるとおりのものである。

(2)無効理由Iについて
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、両者は、前記「第4[2]2.(1)(1-3)、(1-4)」で検討した、本件訂正発明4と甲1発明との相違点1?3と同じ相違点を有し、前記のとおり、相違点2については、実質的な相違点であるから、本件特許発明は、甲第1号証の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明と同一であるとはいえない。

(3)無効理由II、IIIについて
本件特許発明と甲3発明とを対比すると、前記「第4[2]2.(2)(2-3)、(2-4)」で検討した、本件訂正発明4と甲3発明との相違点1?2のうち、相違点1と同じ相違点を有し、前記のとおり、相違点1については、実質的な相違点であり、当業者が容易になし得たことともいえないから、本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明とはいえず、また、甲第3号証に記載された発明及び甲第3?5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)無効理由IVについて
本件特許発明は、前記「第4[2]2.(3)」において検討した、本件訂正発明4における「前記電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している」との事項以外、全て同じ発明特定事項を有するものである。
よって、本件特許発明は、前記「第4[2]2.(3)」で述べたのと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
扁平形非水電解質二次電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平形非水電解質二次電池に関するものであり、特に、重負荷放電特性の向上した扁平形非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極作用物質にMnO_(2)やV_(2)O_(5)などの金属酸化物、フッ化黒鉛などの無機化合物、またはポリアニリンやポリアセン構造体などの有機化合物を用い、負極に金属リチウム、リチウム合金、ポリアセン構造体などの有機化合物、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素質材料、またはチタン酸リチウムやリチウム含有珪素酸化物のような酸化物を用い、電解質にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ-ブチルラクトンなどの非水溶媒にLiClO_(4)、LiPF_(6)、LiBF_(4)、LiCF_(3)SO_(3)、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)などの支持塩を溶解した非水電解質を用いたコイン形やボタン形などの電池総高に対して電池最外径が長い扁平形非水電解質二次電池は既に商品化されており、放電電流が数?数十μA程度の軽負荷で放電が行われるSRAMやRTCのバックアップ用電源や電池交換不要腕時計の主電源といった用途に適用されている。
【0003】
これらのコイン形やボタン形などの扁平形非水電解質二次電池は、一般に図2に示したような構造を有している。すなわち、負極端子を兼ねる金属製の負極ケース5と正極端子を兼ねる金属製の正極ケース1とが絶縁ガスケット6を介して嵌合され、さらに正極ケース1が加締め加工により加締められた封口構造を有し、その内部に絶縁ガスケット6の開口径より一回り直径が小さいタブレット状の正極2および負極4が、それぞれ1枚ずつ、非水電解質を含浸させた単層または多層のセパレータ3を介して対向配置された構造である。
【0004】
上述のコイン形やボタン形などの扁平形非水電解質二次電池は製造が簡便であり、量産性に優れ、長期信頼性や安全性に優れるという長所を持っている。また、構造が簡便であることから、これらの電池の最大の特徴として小型化が可能であることが挙げられる。
【0005】
一方、携帯電話やPDAなどの小型情報端末を中心に使用機器の小型化が加速されており、これに伴い主電源である二次電池についても小形化を図ることが必須とされている。従来、これらの電源には正極作用物質にコバルト酸リチウムなどのリチウム含有酸化物、負極に炭素質材料を用いたリチウムイオン二次電池や、正極作用物質にオキシ水酸化ニッケル、負極作用物質に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池などのアルカリ二次電池が使用されてきたが、これらの電池は金属箔または金属ネットからなる集電体に作用物質層を塗布または充填し電極を形成後、電極中心部にタブ端子を溶接し、その後、巻回または積層して電極群とし、さらに電極群の中心部から取り出したタブ端子を複雑に曲げ加工を行い、安全素子や封口ピン、電池缶などに溶接して電池を製作していた。
【0006】
上述したようにこれらの電池は、複雑な製造工程を経て製作されるために作業性が劣り、また部品の小型化も困難であり、さらに、タブ端子のショート防止に電池内に空間を設けたり、安全素子などの多数の部品を電池内に組込む必要があり、電池の小型化に際しても現状ではほぼ限界に達していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは電池の小型化に際し円筒形や角形のリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池の小型化ではなく、前段に述べた扁平形非水電解質二次電池の高出力を図ることを試みた。まず、本発明者らは、正極作用物質に高容量で高電位なコバルト酸リチウムを、負極作用物質に高容量で電圧平坦性の良好な黒鉛化した炭素質材料をそれぞれ使用し、従来の扁平形非水電解質二次電池の製造や構造に従い、正極および負極をガスケットより一回り小さいタブレット状に成形加工して電池を作製した。
【0008】
しかしながら、このように作製された電池は、従来の扁平形非水電解質二次電池に比べて優れた特性は得られたものの、小型携帯機器の主電源として要求される大電流で放電した場合の特性に対しては遥かに不十分であり、小型携帯機器の主電源としては到底満足できるレベルではなかった。
【0009】
小型の扁平形非水電解質二次電池の重負荷放電特性を如何にして従来にないレベルまで引き上げるかが本発明の課題であり、重負荷放電特性が格段に優れた扁平形非水電解質二次電池を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前述の扁平形非水電解質二次電池の重負荷放電特性の向上に関し鋭意研究を重ねた結果、従来の扁平形非水電解質二次電池に比べて電極面積を格段に大きくすることで重負荷放電特性が飛躍的に向上することを見出した。
【0011】
すなわち、負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介し嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介して対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包した扁平形非水電解質二次電池において、前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積(以下、「正負極の対向面積」や、単に「対向面積」と省略する場合がある。)を、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きくすることで、重負荷放電特性が著しく優れた扁平形非水電解質二次電池を提供できることを見出した。
【0012】
重負荷放電特性を向上させるためには電極面積を増大させることが有効であると推察されるが、従来の扁平形非水電解質二次電池ではタブレット状の正極および負極をそれぞれ1枚ずつ絶縁ガスケットに内接する形で電池内に収容していたため、正負極がセパレータを介して対向する対向面積はどうしても絶縁ガスケットの開口面積より一回りほど小さくせざるを得なかった。ガスケットを肉薄にするなどして多少の電極面積の拡大を図ることは可能であるが、ガスケットの開口面積を上回るような対向面積を持つ電極を電池内に収納することは理論的に不可能であった。
【0013】
そこで、本発明者らは従来技術からの大胆な発想の転換を図り、コイン形やボタン形などの非常に小さな扁平形電池の電池ケース内に電極を多層配置することで、電極群内の正負極の対向面積の総和が絶縁ガスケットの開口面積よりも大きな電極群を収納することを可能にした。つまり、円筒形や角形などの容積の大きな二次電池では数十層を有する電極を収納している例があるが、これらの電池は前述のように構造が複雑であり、そのままの電池の電池構造をコイン形やボタン形などの小型の扁平形非水電解質二次電池に適用することは困難であった。また、たとえ適用したとしても小型であることや生産性に優れるといった扁平形非水電解質二次電池の利点を維持することは不可能であるため、コイン形やボタン形などの小型の扁平形非水電解質二次電池に絶縁ガスケットの開口面積よりも大きな正負極の対向面積を有する電極群を収納しようという取組みは過去にされなかった。
【0014】
以下、如何にして本発明者らが本発明の扁平形非水電解質二次電池を実現したかを説明する。まず、正負極の対向面積がガスケットの開口面積より大きな電極を扁平形非水電解質二次電池内に収納する形態については種々の形態が考えられるが、その中で扁平形電池の扁平面に対して平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群として収納することが好ましいことが分かった。なぜなら、優れた重負荷放電特性を得るためには、電極面積を極力大きくとることと、部品点数を極力減らし、小さな電池内のスペースを有効に活用し、電極群と放電に必要な量の非水電解質を電池内に収納する必要があり、上記のような扁平面に対して平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群とするような収納方法、例えば正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層とがセパレータを介し対向している正負極対向面を少なくとも3面有する電極群とするような収納方法とすることでこれらを実現できることが分かった。また、この収納方法によると電極を除く電池の組立方法が従来のタブレット状電極を用いた扁平形電池の製造方法に近く、従来の生産設備の一部流用が可能である上、生産性やコストといった実用面においても優れており量産する上でも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、扁平形電池の持つ電池サイズが小さく、かつ生産性に優れるという利点を維持したまま、重負荷放電時の放電容量が従来の電池に対し格段に大きくすることができるので、工業的価値の優れた扁平形非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の扁平形非水電解質二次電池の断面図である。
【図2】比較例1の扁平形非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電池において、実際に電極群を作製、収納する方法については、電極の一部に通電部を設けた正極板および負極板を用意し、セパレータを介して正極板および負極板を積層する際に、正極板の通電部がセパレータの配置されている箇所よりも外側に露出し、負極板の通電部が、正極板の通電部が露出している位置に対向する位置において、セパレータの配置されている箇所よりも外側に露出する形で積層した後、正極は正極同士、負極は負極同士おのおのの通電部を溶接などの方法により電気的に接続し電極群を形成し、電池内に収納する方法が好ましい。正極板の通電部と負極板の通電部とを上記のように配置することで、コイン形やボタン形などの小さな扁平形非水電解質二次電池においても、正極板の通電部と負極板の通電部との接触による内部ショートを防止できる。
【0018】
次に、電極群と外部端子を兼ねる電池金属ケースとの接続方法について説明する。前述したように、円筒形や角形などの比較的大きなリチウムイオン二次電池では電極群の中心部や巻き芯部にタブ端子を溶接してそれを曲げ加工して安全素子や封口ピンに溶接し集電を行っている。しかしながら、曲げ工程は工程自体が複雑なために生産性に劣る上、内部ショートを防止するため電池内に空間を持たせたり、電極群との間に絶縁板を挿入する必要があった。また、タブ端子を電極に溶接している部分に応力が加わるとセパレータを突き破ったり、電極の変形が起こるため絶縁テープで保護したり、巻き芯部に空間を設ける必要があり、電池の内容積を有効に使用することはできなかった。そのため、電池の内容積が小さなコイン形やボタン形の扁平形非水電解質二次電池ではこれらの集電方法は適用できず、新たな集電方法を考案する必要があった。
【0019】
そこで、本発明者らは電極群の最外部に位置する正極板において、金属箔などの導電性を有する正極構成材を露出させ、電極群の最外部に位置する負極板において、金属箔などの導電性を有する負極構成材を露出させた形状を持つ電極群を作製し、おのおのの電極構成材を正極および負極の電池ケースに接触させることにより、電極群と電池ケースとの集電を確保することを見出した。この方法によれば、電極群と電池ケースとの間に無駄な空間や絶縁板を設ける必要もなく、放電容量を増やすことができる。また、電池ケースや電極とタブ端子がショートを起こすこともなく、安全性や信頼性も優れている。
【0020】
更に、本発明のような封口構造を持つ扁平形電池では、電池ケースの加締め加工によって負極ケースと正極ケースの扁平面に対して垂直方向に応力が加わっており、本集電方法によると電極群の平面方向に均一な加圧力が加わり、充放電を円滑に行うことができる。なお、電極群の電極構成材露出部と電極ケースの接触は直接、接していてもよいし、金属箔や金属ネット、金属粉末、炭素フィラー、導電性塗料などを介して電気的に間接的に接していてもよい。
【0021】
電極については正極板、負極板とも、肉薄電極の作製が行い易いという点で金属箔にスラリー状の合剤を塗布、乾燥したものがよく、さらにそれを圧延したものを用いることもできる。上記のような金属箔に作用物質を含む合剤層を塗工した電極を用いる場合は、電極群の内部に用いる電極は金属箔の両面に作用物質含有層を形成したものを用いることが、容積効率の上から好ましく、電極群の両端の電池ケースに接触する電極構成材露出部については作用物質含有層でも構わないが、接触抵抗を低減させるために電極構成材のうち、特に金属箔を露出させることが好ましい。これに関してはこの部分に限り片面にのみ作用物質含有層を形成した電極を用いてもよいし、一旦両面に作用物質含有層を形成した後、片面のみ作用物質含有層を除去してもよい。
【0022】
一方、本発明の電池は電極を含めた電池の構造に主点をおいたものであり、正極作用物質については限定されるものではなく、MnO_(2)、V_(2)O_(5)、Nb_(2)O_(5)、LiTi_(2)O_(4)、Li_(4)Ti_(5)O_(12)、LiFe_(2)O_(4)、LiMn_(2)O_(4)、Li_(4)Mn_(5)O_(12)、Li_(0.33)MnO_(2)、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの金属酸化物;フッ化黒鉛;FeS_(2)などの無機化合物;ポリアニリンやポリアセン構造体などの有機化合物;など、あらゆるものが適用可能である。ただし、この中でも、作動電位が高くサイクル特性に優れるという点で、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムやそれらの混合物、それらの元素の一部を他の金属元素で置換したリチウム含有酸化物がより好ましく、長期間に亘り使用されることもある扁平形非水電解質二次電池においては、高容量で電解液や水分との反応性が低く化学的に安定であるという点で、コバルト酸リチウムがさらに好ましい。
【0023】
また、本発明の電池の負極作用物質については限定されるものではなく、金属リチウム;Li-Al、Li-In、Li-Sn、Li-Si、Li-Ge、Li-Bi、Li-Pbなどのリチウム合金;ポリアセン構造体などの有機化合物;リチウムを吸蔵、放出可能な炭素質材料;Nb_(2)O_(5)、LiTi_(2)O_(4)、Li_(4)Ti_(5)O_(12)やLi含有珪素酸化物やLi含有錫酸化物のような酸化物;Li_(3)Nのような窒化物;など、あらゆるものが適用可能であるが、サイクル特性に優れ、作動電位が低く、高容量であるという点で、Liを吸蔵、放出可能な炭素質材料が好ましく、特に放電末期においても電池作動電圧の低下が少ないという点で、天然黒鉛や人造黒鉛、膨張黒鉛、メソフェーズピッチ焼成体、メソフェーズピッチ繊維焼成体などの、d_(002)の面間隔が0.338nm以下の黒鉛構造が発達した炭素質材料がより好ましい。
【0024】
なお、これまで、本発明の電池について、主としてコイン形やボタン形などの電池総高に対して電池最外径が長い扁平形電池について説明したが、本発明電池はこれのみに限定するものではなく、小判形や角形などの特殊形状を有する扁平形電池も本発明の電池に包含される。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例及び比較例について詳細に説明する。
【0026】
(実施例1)
実施例1の電池の製造方法を図1の断面図を参照して説明する。
【0027】
まず、LiCoO_(2) 100質量部に対し、導電剤としてアセチレンブラック5質量部と黒鉛粉末5質量部を加え、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部を加え、N-メチルピロリドンで希釈、混合し、スラリー状の正極合剤を得た。次に、この正極合剤を、正極集電体2aである厚さ0.02mmのアルミニウム箔の片面にドクターブレード法により塗工、乾燥を行い、アルミニウム箔表面に正極作用物質含有層2bを形成した。以後、作用物質含有層の塗膜厚さが0.39mmとなるまで塗工、乾燥を繰り返し、片面塗工正極板を作製した。次に、この片面塗工正極板と同様の方法によりアルミニウム箔の両面に正極作用物質含有層の塗膜厚さが片面当たり0.39mmとなるように両面塗工し正極板を作製した。
【0028】
次に、黒鉛化メソフェーズピッチ炭素繊維粉末100質量部に結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、それぞれ2.5質量部添加し、イオン交換水で希釈、混合してスラリー状の負極合剤を得た。この負極合剤を負極集電体4aである厚さ0.02mmの銅箔に作用物質含有層4bの厚さが0.39mmとなるように正極の場合と同様に塗工、乾燥を繰り返し実施し、片面塗工負極板を作製した。次に、この片面塗工負極板と同様の方法により銅箔の両面に負極作用物質含有層の塗膜厚さが片面当たり0.39mmとなるように両面塗工負極板を作製した。
【0029】
これらの電極を幅13mm、長さ13mmの正方形の一辺に幅6mm、長さ2mmの張り出し部が付いた形状に切り出し、次にこの張り出し部に形成された作用物質含有層をこそげ落とし、アルミニウム層または銅層をむき出しとして通電部とし、幅13mm、長さ13mmの作用物質含有層が形成された両面および片面塗工の正極板並びに負極板を作製した。
【0030】
次に、片面塗工正極板の正極作用物質含有層形成部に、厚さ25μmのポリエチレン微多孔膜からなるセパレータ3を介し両面塗工負極板を通電部が先の正極板と対向する位置に設置し、さらに、セパレータ3を介し、両面塗工正極板を通電部が先の正極板と同方向に向くように設置し、さらにセパレータ3を介し、このセパレータ面に負極作用物質含有層4bが接するように片面塗工負極板の通電部が先の負極板と同方向に向くように設置し、正極板の通電部および負極板の通電部をそれぞれ溶接して、電極群を作製した。
【0031】
作製した電極群を85℃で12h乾燥した後、開口径が20mmであり、開口面積が3.14cm^(2)である絶縁ガスケット6を一体化した負極金属ケース5の内底面に、電極群の片面塗工負極板の未塗工側(すなわち、負極集電体4a)が接するように配置し、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した溶媒に支持塩としてLiPF_(6)を1mol/lの割合で溶解させた非水電解質を注液し、さらに電極群の片面塗工正極板の未塗工側(すなわち正極集電体2a)に接するようにステンレス製の正極ケース1を嵌合し、上下反転後、正極ケースに加締め加工を実施し、封口して、厚さ3mm、直径φ24.5mmの実施例1の扁平形非水電解質二次電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計3面であり、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和は5.1cm^(2)である。
【0032】
(実施例2)
電極群内の正極板および負極板の片面当たりの作用物質含有層の塗膜厚さがそれぞれ0.22mmであり、かつ電極群中間部の両面塗工正極板および両面塗工負極板の積層枚数がそれぞれ2枚であること以外は実施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計5面であり、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和は8.5cm^(2)である。
【0033】
(実施例3)
電極群内の正極板および負極板の片面当たりの作用物質含有層の塗膜厚さがそれぞれ0.15mmであり、かつ電極群中間部の両面塗工正極板および両面塗工負極板の積層枚数がそれぞれ3枚であること以外は実施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計7面であり、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和は11.8cm^(2)である。
【0034】
(実施例4)
電極群内の正極板および負極板の片面当たりの作用物質含有層の塗膜厚さがそれぞれ0.11mmであり、かつ電極群中間部の両面塗工正極板および両面塗工負極板の積層枚数がそれぞれ4枚であること以外は実施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計9面であり、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和は15.2cm^(2)である。
【0035】
(比較例1)
LiCoO_(2) 100質量部に対し導電剤としてアセチレンブラック5質量部と黒鉛粉末5質量部と加え、結着剤としてポリ4フッ化エチレン5質量部を加え、混合後、粉砕して、顆粒状の正極合剤を得た。次にこの正極顆粒合剤を、直径19mm、厚さ1.15mmに加圧成形を行い、正極タブレットとした。
【0036】
次に黒鉛化メソフェーズピッチ炭素繊維粉末100質量部に結着剤としてSBRとCMCとを、それぞれ2.5質量部を添加、混合し、乾燥後、さらに粉砕して顆粒状の負極合剤を得た。この負極顆粒合剤を、直径19mm、厚さ1.15mmに加圧成形し、負極タブレットとした。
【0037】
次に、これらの正負極タブレットを85℃で12h乾燥した後、開口面積3.14cm^(2)の絶縁ガスケットを一体化した負極ケースに負極タブレット、ポリプロピレンからなる厚さ0.2mmのポリプロピレン不織布、正極タブレットの順に配置し、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した溶媒に支持塩としてLiPF_(6)を1mol/lの割合で溶解させた非水電解質を注液し、さらにステンレス製の正極ケースを嵌合し、上下反転後、正極ケースに加締め加工を実施し、厚さ3mm、直径φ24.5mmの比較例1の扁平形非水電解質二次電池を作製した。この電池のセパレータを介した正負極対向面の面数は1面であり、正負極の対向面積の総和は2.8cm^(2)である。
【0038】
(比較例2)
電極群内の正極板および負極板が片面塗工電極板のみであり、作用物質含有層の塗膜厚さがそれぞれ1.24mmであること以外は実施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計1面であり、正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和は1.7cm^(2)である。
【0039】
以上の通り作製した本実施例および比較例の電池について、4.2V、3mAの定電流定電圧で48h初充電を実施した。その後、30mAの定電流で3.0Vまで放電を実施し重負荷放電容量を求めた。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より明らかであるが、本実施例の各電池は比較例1の従来の顆粒合剤成形法により作製したタブレット状の電極を用いた正負極の対向面積がガスケットの開口面積よりも小さい電池や比較例2の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面が1面しかなく、対向面積が小さい電池に比べて、著しく重負荷放電時の放電容量が大きい。
【0042】
なお、本発明の実施例では、非水電解質に非水溶媒を用いた扁平形非水溶媒二次電池を用いて説明したが、非水電解質にポリマー電解質を用いたポリマー二次電池や固体電解質を用いた固体電解質二次電池についても当然適用可能であり、樹脂製セパレータの代わりにポリマー薄膜や固体電解質膜を用いることも可能である。また、電池形状については正極ケースの加締め加工により封口するコイン形非水電解質をもとに説明したが、正負極電極を入れ替え、負極ケースの加締め加工により封口することも可能である。さらに、電池形状についても真円である必要はなく小判形や角形などの特殊形状を有する扁平形非水電解質二次電池においても適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 正極ケース
2 正極
2a 正極集電体
2b 正極作用物質含有層
3 セパレータ
4 負極
4a 負極集電体
4b 負極作用物質含有層
5 負極ケース
6 絶縁ガスケット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され、さらに前記正極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し、その内部に、少なくとも、正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置している電極群を含む発電要素と、非水電解質とを内包し、前記絶縁ガスケットの開口が円形である、コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電池において、
前記正極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する正極構成材の表面に、塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記正極構成材が露出している通電部を有しており、
前記負極板は、導電性を有し、直線状の2辺が対向する部分を有する負極構成材の表面に、塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有し、かつ前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張り出し部に、前記負極構成材が露出している通電部を有しており、
前記正極板の各通電部が、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置され、
前記負極板の各通電部が、前記正極板の各通電部が露出している位置に対向する位置において、電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くように、かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配置されていて、
前記各正極板同士及び前記各負極板同士が、それぞれの通電部の電気的接続によって接続されており、
前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり、少なくとも中間部に位置する前記各正極板及び前記各負極板は、前記各正極構成材及び前記各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有しており、
前記電極群は、前記正極板、前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面に平行に積層されており、かつ前記セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり、
前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積が、前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きいことを特徴とする扁平形非水電解質二次電池。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
電極群の最外部に位置する正極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する正極構成材が露出していて、前記正極構成材が直接または電気的に前記正極ケースに接続しているか、または、前記電極群の最外部に位置する負極板は、前記電極群の最外部側の面において、導電性を有する負極構成材が露出していて、前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続している請求項1に記載の扁平形非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極板における導電性を有する正極構成材および負極板における導電性を有する負極構成材が、金属箔である請求項1又は4に記載の扁平形非水電解質二次電池。
【請求項6】
正極板における金属箔がアルミニウム箔である請求項5に記載の扁平形非水電解質二次電池。
【請求項7】
負極板における金属箔が銅箔である請求項5に記載の扁平形非水電解質二次電池。
【請求項8】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-07 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2009-234722(P2009-234722)
審決分類 P 1 123・ 856- YAA (H01M)
P 1 123・ 113- YAA (H01M)
P 1 123・ 854- YAA (H01M)
P 1 123・ 16- YAA (H01M)
P 1 123・ 851- YAA (H01M)
P 1 123・ 841- YAA (H01M)
P 1 123・ 855- YAA (H01M)
P 1 123・ 536- YAA (H01M)
P 1 123・ 121- YAA (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 安子  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 鈴木 正紀
河本 充雄
登録日 2012-08-31 
登録番号 特許第5072123号(P5072123)
発明の名称 扁平形非水電解質二次電池  
代理人 鷺 健志  
代理人 須田 洋之  
代理人 飯田 圭  
代理人 鷺 健志  
代理人 岸 慶憲  
代理人 辻居 幸一  
代理人 佐竹 勝一  

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