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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23D
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23D
管理番号 1339426
審判番号 不服2016-13054  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-31 
確定日 2018-04-11 
事件の表示 特願2011- 38678「水中油型の乳化油脂の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月10日出願公開、特開2012-170449〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年2月24日の出願であって、平成28年4月28日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成28年8月31日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審より平成29年6月30日付けで拒絶理由が通知され、平成29年9月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成29年9月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める(以下「本願発明」という。)。

「乳化剤を60℃以上に加温した水に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程及び前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に食用油脂を毎分1/50?1/10量の割合で添加し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化する第二工程を備えたエマルションの平均粒子径が2μm?15μmである水中油型の乳化油脂の製造方法であって、
前記乳化油脂を構成する乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリン部位の平均重合度が5?12、かつ脂肪酸部位の炭素数6?22であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸部位の種類が、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸からなる群から選択されることを特徴とする水中油型の乳化油脂の製造方法。」

第3 平成29年6月30日付け拒絶理由の概要
平成29年6月30日付け拒絶理由には、以下の理由が含まれている。

1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
本願発明の課題は、「従来よりも少量の油脂であっても、十分に油脂の旨味を維持できる嗜好性食品を提供すること、及び従来と同量の油脂を用いた場合には、油脂感・コク感が増強した嗜好性食品を提供することである。」(【0004】)と記載されているところ、請求項1記載の発明(以下「本願発明」という。)は、「水中油型の乳化油脂の製造方法」であるから、製造方法に特徴を有する発明であると考えられる。
しかし、本願明細書において、水中油型の乳化油脂の製造方法として、具体的に記載されているのは、実施例1(【0014】?【0016】)のみであり、用いられている乳化剤は、乳化剤A(HLB11、平均重合度10、脂肪酸としてステアリン酸(st)、デカグリセリンジステアレート)と乳化剤B(HLB13、平均重合度5、脂肪酸としてステアリン酸(st)、ペンタグリセリンモノステアレート)であり、いずれも本願発明で特定される乳化剤に当たらない。
そうすると、本願発明で特定されている乳化剤に含有されるポリグリセリン部位の重合度が5?12、かつ脂肪酸部位の炭素数6?22であり、構成する脂肪酸部位の種類が、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸からなる群から選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルについては、実施例による裏付けがなく、上記乳化剤A又はBと上記課題に関して、同じ結果を奏するとの技術常識も存在しないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲内のものでない。

2.本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公告又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
先願1:特願2010-276817号(特開2012-125155号公報)

3.本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例2:特開2002-176952号公報
引用例3:特開2002-176953号公報
引用例4:特開昭53-26803号公報
引用例5:特開昭58-158120号公報

第4 特許法第36条第6項第1号違反(上記第3 1.)について
1.本願発明の課題
本願発明の課題は、「従来よりも少量の油脂であっても、十分に油脂の旨味を維持できる嗜好性食品を提供すること、及び従来と同量の油脂を用いた場合には、油脂感・コク感が増強した嗜好性食品を提供すること」(【0004】)である。

2.本願明細書で具体的に記載されたポリグリセリン脂肪酸エステル
本願明細書の水中油型の乳化油脂の製造方法において、具体的に用いられたポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化剤A(HLB11、平均重合度10、脂肪酸としてステアリン酸(st)、デカグリセリンジステアレート)と乳化剤B(HLB13、平均重合度5、脂肪酸としてステアリン酸(st)、ペンタグリセリンモノステアレート)とを1:1で混合したもののみ(【0014】)である。

3.本願明細書に記載されたポリグリセリン脂肪酸エステルの範囲
請求人が、平成29年9月12日の意見書において主張するように、一般に、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルの性質は、ポリグリセリン部位の平均重合度と脂肪酸部位の種類に依存するものであるところ、本願明細書に記載された実施例1で用いられた平均重合度10、脂肪酸がステアリン酸の乳化剤Aと平均重合度5、脂肪酸がステアリン酸の乳化剤Bとの混合物と、本願発明の脂肪酸部位の種類が、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸からなる群から選択されるポリグリセリン脂肪酸エステルとは、脂肪酸部位の種類が異なっているから、両者の性質が同じものであるとする根拠はない。ましてや、本願発明に含まれる、ポリグリセリン部位の平均重合度が5?12の範囲の平均重合度の異なるポリグリセリン脂肪酸エステルの性質が同じであるとする根拠もない。
そうすると、本願明細書の【0010】?【0012】に種々の乳化剤が使用できることが記載されているとしても、乳化剤は、その平均重合度と脂肪酸部位の種類によって性質の異なることが技術常識であるから、本願明細書で具体的に確認された乳化剤Aと乳化剤Bとを1:1で混合したポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合の例示のみで、本願発明が、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということはできない。
また、本願明細書にエマルションの平均粒子径が2?15μmであれば、少量であっても、十分に油脂の旨味を維持できる旨の記載もあるが(【0005】、【0009】)、そのような技術常識は存在しないから、上記記載によっても、本願発明が、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。
したがって、本願発明は、本願発明の課題を解決するものとして、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものであるとはいえない。

ここで、請求人は、平成29年9月12日の意見書で、本願発明が本願発明の効果を奏することが理解できる旨主張するが、上記のとおりであるから、採用できない。また、特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載について、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を規定するものであり、事後的に実験データを提出して明細書の記載内容を記載外で補足することによって、サポート要件を満たすようにすることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないから、上記意見書に添付された実験報告書は、直ちに採用し得るものでない。また、実験報告書の内容について見ても、平均重合度が5のもののみをサンプルとしたものでしかなく、本願発明の範囲のもの全てについて、当該効果を奏することを示したものであるともいえない。

4.まとめ
上記のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

第5 特許法第29条の2違反(上記第3 2.)について
1.先願1に記載された事項
平成29年6月30日付けで通知した拒絶理由に引用され、本願の出願の時において、その出願人が同一でなく、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公告又は出願公開がされた先願1[特願2010-276817号(特開2012-125155号公報)]の願書に最初に添付された明細書又は図面には、次の事項が記載されている。(なお、「・・・」は、省略を意味する。)
(ア)「【請求項1】
HLBが4?14の乳化剤と、食用油脂と、水とから構成される食用油脂乳化物の製造方法であって、
(1)前記乳化剤を水に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程と、(2)前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に前記食用油脂を添加して乳化する第二工程とを含むことを特徴とする食用油脂乳化物の製造方法。
【請求項2】
・・・
【請求項3】
前記第二工程において、前記乳化剤微粒子分散水溶液に対して、前記食用油脂を毎分1/50量?1/10量の速度で投入することを特徴とする請求項1又は2に記載の食用油脂乳化物の製造方法。
【請求項4】
前記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれか一つに記載の食用油脂乳化物の製造方法。」

(イ)「【背景技術】
【0002】
食用油脂は、油分の美味しさとしてのコク味を呈し、風味を改善する目的でも頻繁に使用されており、ほとんどの飲食品の原料素材として必須原料といえる。食用油脂を飲食品中に添加し、加工する際には、食用油脂をそのまま添加する手法か、粉末油脂・乳化油脂等の組成物として添加する手法がとられる。いかなる形態であっても、食用油脂を飲食品に添加する際には、オイルオフやクリーミング等の品質的な劣化を抑えることを目的として、加工工程で均質化処理が行われていることが多い。均質化処理とは、エマルションの粒度分布として単一ピークかつ平均粒子径も小さくすることで安定に食用油脂を添加できるようにすることである。
【0003】
しかし、平均粒子径が単一かつ小さい場合には、前述する油分の美味しさであるコク味が感じられ難くなるという欠点がある。こうして、食用油を飲食品に用いる際には、最終的な製品中での安定性の確保と同時にコク味を感じさせるという二律背反的な要望が存在する。即ち、従来の粉末油脂や乳化油脂の場合は、安定性を確保できるように設計されていないため、結局最終の飲食品の製造工程で均質化処理をせざるを得ないという問題があり、結果的にコク味も付与できないという欠点があった。
【0004】
上記問題点を解決するために、食用油脂を含有する乳化物の製造方法に関する報告がされている。特許文献1では、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて乳化した油脂30?60質量%の食肉加工用ピックル液に関する発明が開示されている。圧力式ホモジナイザー等の均質機で微細乳化することで、低温下での食肉へ注入処理が可能となることに加え、加熱処理時の乳化破壊を防ぐことができ、結果的にジューシー感を付与することが可能であるとされている。しかし、均質化処理することは、結果的に油分の平均粒径を小さくすることになり、風味での表現としてコクに相当する油分のジューシー感は満足されるものであるとは言い難い。
【0005】
特許文献2には、食用油及び水の他にショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとを必須成分として含有してなり、かつ平均粒子径が3?15μmであるケーキ用O/W型乳化油脂組成物に関する発明が開示されている。平均粒子径が15μmを超えるとO/W型乳化油脂組成物の安定性が悪くなるため、均質機等を上手く調節することで3?15μmの範囲になるようにしなくてはならず、製造上は簡便な方法であるとは言い難い。また、3?15μmの範囲の平均粒子径で調製されたO/W型乳化油脂組成物の保存安定性は満足できるものではなく、殺菌処理に関する記載もないことから高耐熱性を備えた組成物ではなく、衛生上の問題も有している。
【0006】
特許文献3には、食用油脂、糖質、水分及び乳化剤からなり、乳化剤がグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルより選ばれる1種または2種からなり、かつ構成脂肪酸が炭素数14?22の飽和脂肪酸を50%以上有する焼き菓子用改質剤に関する発明が開示されている。しかし、糖質を必須成分としており、かつ食用油脂の含有量が65%を超えると水中油型乳化物の乳化安定性が低下する虞があるため、必ずしも保存安定性に満足できるものでは無い。また、製造工程において予備乳化された乳化組成物をさらにホモゲナイザーやコロイドミルなどを用いて均質化する方法が必要であり、これらの高価な製造装置は、必ずしも設置されているとは限らないため、簡便に調製できない。加えて、均質化された乳化組成物であることから平均粒子径のピークは単一となるため、不均一な粒度分布を有して油分のコク味を呈しつつ、焼き菓子の口どけや油分由来の効果であるライト感が付与できるものであるとは言い難かった。
【0007】
特許文献4には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、さらに詳しくは不飽和脂肪酸を主脂肪酸とするジグリセリンモノ脂肪酸エステルを必須成分とする冷凍ケーキ用改良剤に関する発明が開示されている。ここで、ジグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの配合量は1?50%、好ましくは3?20%である。この配合量は、乳化剤の許容範囲として、著しく高い濃度の範囲である。乳化剤が高濃度で使用されると、安定性が得られやすい反面、乳化剤由来のエグ味感がケーキの風味を損ねることに加え、乳化剤のコストも高額となるため使いやすい技術ではなかった。
特許文献5には、食用油脂の含有量が40?70%、乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルであり、食品用高油分乳化油脂組成物中の平均油滴径が2μmである食品用高油分乳化油脂組成物及びこれを用いた食肉加工用ピックル液に関する発明が開示されている。しかし、この発明では、平均粒子径が2μmであることから、食肉へ添加された場合に油分のジュシー感を十分満足に得られるものではなかった。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より高濃度の食用油脂を含有できると共に、油のコク味が良好に感じられ、かつ飲食品に添加された際にも、高い解凍耐性、及び耐熱性を備えた食用油脂乳化物の製造方法を提供することにある。」

(エ)「【0013】
更に、前記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルであることが好ましい。
また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸からなる群から選択される1種または2種であることが好ましい。
更に、前記食用油脂乳化物における前記食用油脂の含量が、35質量%?65質量%であることが好ましい。
第二の発明に係る食用油脂乳化物は、上記第一の発明によって製造されたものである。」

(オ)「【0019】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成ポリグリセリンの重合度は、特に限定を受けるものではないが、平均重合度が2?20、好ましくは4?10、更に好ましくは5?10である。また、2種類の重合度の異なるポリグリセリン脂肪酸エステルを併用しても良い。この場合には、平均重合度5と平均重合度10のポリグリセリン脂肪酸エステルとの併用が好ましい。併用する場合における混合比としては、平均重合度5のポリグリセリン脂肪酸エステルと平均重合度10のポリグリセリン脂肪酸エステルの比率が3:7?5:5であることが好ましく、3.5:6.5?4.5:5.5であることが更に好ましい。」

(カ)「【0025】
次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
<試験1> 乳化剤の混合比率を変化させたときの食用油脂乳化物の比較検討
(1)材料
乳化剤として、二種類のものを選択し、これらの混合比を変化させて同じ製造方法を適用したときの乳化物の効果を比較した。
乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルの乳化剤A(HLB11、平均重合度10、脂肪酸としてステアリン酸(st)、エステル化度2:サンソフトQ-182S(太陽化学株式会社製))と、乳化剤B(HLB13、平均重合度5、脂肪酸としてステアリン酸(st)、エステル化度1:サンソフトA-181E(太陽化学株式会社製))とを用いた。
表1の「混合比率(%)」に示すように、100%の乳化剤A(実施例1)と、100%の乳化剤B(実施例2)から開始し、両者の混合比を10%ずつ変化させながら、乳化剤A:乳化剤B=0:100?100:0となるように、11通りの試験を行った。
この試験では、乳化剤:食用油:水の混合比を5:70:25とした。
(2)乳化物の製造方法
表1に示す割合にて1種類または2種類の乳化剤を60℃以上のお湯に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させた(第一工程)。次いで、第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に食用油脂を添加し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化することによって食用油脂乳化物を製造した(第二工程)。食用油脂の添加速度は、1/16(ml/分)とした。」

2.先願1に記載された発明
先願1の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4には、以下の発明が記載されている。
「HLBが4?14のポリグリセリン脂肪酸エステルである乳化剤と、食用油脂と、水とから構成される食用油脂乳化物の製造方法であって、
(1)前記乳化剤を水に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程と、(2)前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に対して、前記食用油脂を毎分1/50量?1/10量の速度で投入して乳化する第二工程とを含む食用油脂乳化物の製造方法。」

そして、【0019】にポリグリセリン脂肪酸エステルとして、平均重合度が5?10が好ましいことが記載されていること、【0025】に、第1工程について、乳化剤を60℃以上のお湯に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させること、及び第二工程について、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化することが記載されていることを参酌すると、先願1には、以下の発明が記載されているといえる。
「HLBが4?14で平均重合度が5?10のポリグリセリン脂肪酸エステルである乳化剤と、食用油脂と、水とから構成される食用油脂乳化物の製造方法であって、
(1)前記乳化剤を60℃以上のお湯に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程と、(2)前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に対して、前記食用油脂を毎分1/50量?1/10量の速度で投入し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化する第二工程とを含む食用油脂乳化物の製造方法。」(以下「先願発明」という。)

3.本願発明と先願発明の対比
本願発明と先願発明とを対比する。
(ア)先願発明の「(1)前記乳化剤を60℃以上のお湯に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程と、(2)前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に対して、前記食用油脂を毎分1/50量?1/10量の速度で投入し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化する第二工程とを含む」態様は、本願発明の「乳化剤を60℃以上に加温した水に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程及び前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に食用油脂を毎分1/50?1/10量の割合で添加し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化する第二工程を備えた」態様に相当する。
そして、先願発明の「食用油脂乳化物」は、使用する乳化剤及び製造方法からみて、水中油型の乳化油脂である。

(イ)先願発明の「食用油脂乳化物」は、本願発明の「乳化油脂」に相当し、先願発明の「乳化剤」は、「食用油脂乳化物」を構成するものであるから、先願発明の「HLBが4?14で平均重合度が5?10のポリグリセリン脂肪酸エステルである乳化剤」と、本願発明の「ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリン部位の平均重合度が5?12、かつ脂肪酸部位の炭素数6?22であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸部位の種類が、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸からなる群から選択される」「乳化油脂を構成する乳化剤」とは、「ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリン部位の平均重合度が5?12である乳化油脂を構成する乳化剤」の限りで一致する。

したがって、本願発明と先願発明とは、
「乳化剤を60℃以上に加温した水に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程及び前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に食用油脂を毎分1/50?1/10量の割合で添加し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化する第二工程を備えた水中油型の乳化油脂の製造方法であって、
前記乳化油脂を構成する乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリン部位の平均重合度が5?12である水中油型の乳化油脂の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
水中油型の乳化油脂が、本願発明では、エマルションの平均粒子径が2μm?15μmであるのに対して、先願発明では、そのように特定されていない点。
<相違点2>
乳化剤について、本願発明では、脂肪酸部位の炭素数6?22であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸部位の種類が、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸からなる群から選択されるのに対して、先願発明では、そのように特定されていない点。

4.相違点についての判断
<相違点1について>
先願1の願書に最初に添付された明細書には、「油のコク味が良好に感じられ」(【0010】)ることを目的とすることが記載されており、【0002】及び【0003】に「食用油脂は、油分の美味しさとしてのコク味を呈し、風味を改善する目的でも頻繁に使用されており、ほとんどの飲食品の原料素材として必須原料といえる。食用油脂を飲食品中に添加し、加工する際には、食用油脂をそのまま添加する手法か、粉末油脂・乳化油脂等の組成物として添加する手法がとられる。いかなる形態であっても、食用油脂を飲食品に添加する際には、オイルオフやクリーミング等の品質的な劣化を抑えることを目的として、加工工程で均質化処理が行われていることが多い。均質化処理とは、エマルションの粒度分布として単一ピークかつ平均粒子径も小さくすることで安定に食用油脂を添加できるようにすることである。」「しかし、平均粒子径が単一かつ小さい場合には、前述する油分の美味しさであるコク味が感じられ難くなるという欠点がある。こうして、食用油を飲食品に用いる際には、最終的な製品中での安定性の確保と同時にコク味を感じさせるという二律背反的な要望が存在する。即ち、従来の粉末油脂や乳化油脂の場合は、安定性を確保できるように設計されていないため、結局最終の飲食品の製造工程で均質化処理をせざるを得ないという問題があり、結果的にコク味も付与できないという欠点があった。」と記載されていることから、先願1の乳化物の平均粒子径は、安定性が確保できる範囲で、油のコク味が良好に感じられる大きさであるといえる。
そして、【0005】に「平均粒子径が15μmを超えるとO/W型乳化油脂組成物の安定性が悪くなるため、均質機等を上手く調節することで3?15μmの範囲になるようにしなくてはならず、製造上は簡便な方法であるとは言い難い。また、3?15μmの範囲の平均粒子径で調製されたO/W型乳化油脂組成物の保存安定性は満足できるものではなく」と記載され、【0007】に「平均粒子径が2μmであることから、食肉へ添加された場合に油分のジュシー感を十分満足に得られるものではなかった。」と記載されていることから、先願1の乳化物の平均粒子径についても、2μmより大きく、安定性が確保できる程度の3?15μmの範囲のものとすることは、先願1の願書に最初に添付された明細書に記載されているに等しい事項といえるか、単なる設計上の微差であるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点でない。

ここで、請求人は、平成29年9月12日の意見書において、先願1の願書に最初に添付された明細書には、「より高濃度の食用油脂を含有できると共に、油のコク味が良好に感じられ、かつ飲食品に添加された際にも、高い解凍耐性、及び耐熱性を備えた食用油脂乳化物の製造方法を提供すること」(【0010】)と記載され、できるだけ多くの食用油脂を含有させることを目的の一つとしているから、本願発明と異なる旨主張する。
しかし、食用油脂の含有量について、本願発明は何ら特定しておらず、仮に上記目的が異なるとしても、この点は、本願発明と先願発明との相違点とはならないから、請求人の上記主張は採用できない。

<相違点2について>
先願1には、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸からなる群から選択されること(【0013】)が記載されている。
そして、ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸として、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸は、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸と並んで周知のものであり、それにより乳化油脂の製造方法を異ならせたり、新たな効果を奏するものでないから、先願発明においてポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸として、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸を選択することは、課題解決のための具体化手段における微差である。
したがって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

よって、本願発明は、先願1に記載された発明と実質同一である。

第6 特許法第29条第2項違反(上記第3 3.)について
1.引用例2?5に記載された事項
平成29年6月30日付けで通知した拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例2?5には、下記の事項が記載されている。
(1)引用例2(実施例1?3、6?8、9?11参照。)
「【0023】試験例1(実施例1?8及び比較例1?3)
常法に従い表2に示す組成の油相及び水相を調製した。水相を攪拌しながら油相を添加し、予備乳化した後、コロイドミル(5000rpm,クリアランス0.35mm)で均質化し、平均乳化粒子径2.5?3.5μmのマヨネーズを製造し、100gマヨネーズチューブに充填した。
【0024】
・・・
【0027】
【表2】

【0028】
*1:キサンタンガム(大日本製薬社製)
*2:平均重合度:10,エステル化率:80%以上,構成脂肪酸:C18:1及びC16,HLB=2.0
*3:構成脂肪酸:C18,HLB=2.1
*4:構成脂肪酸:C18及びC2,C18エステル化率:60%以上,アセチル化率:35%以上,HLB=0」

(2)引用例3(「本発明品5」参照。)
「【0022】実施例1 マヨネーズ
表1に示す組成の水相、油相を調製し、水相を攪拌しながら油相を添加して予備乳化した後、コロイドミル(5000r/min、クリアランス0.35mm)で均質化して、平均乳化粒子径(測定法:レーザー回析、散乱法、堀場製作所 HORIBA LA-910)2?4μmのマヨネーズを製造した。
【0023】
【表1】



(3)引用例4(実施例参照。)
(3-1)「実施例1
上昇融点34℃の大豆硬化油30部、精製ヤシ油10部を70℃で溶融し、HLB6.5のソルビタン脂肪酸エステル0.2部、大豆レシチン(市販大豆レシチン、アセトン不溶分65%)0.2部、ヨウ素価50のモノグリセライド0.2部を混合し、油相を調製した。一方、ヘキサメタリン酸ソーダとピロリン酸ソーダの混合物(混合割合50:50)0.1部、HLB15の蔗糖脂肪酸エステル0.1部を加熱した脱脂乳59部に溶解ないし分散させ、水相を調製した。上記の油相と水相を佐竹式攪拌機を使用し60℃の温度で予備乳化し、この予備乳化物の0.2/100量を均質化圧力170Kg/cm^(2)で均質化し、次に80/100量を80Kg/cm^(2)で均質化し、次いで残り19.8/100量を30Kg/cm^(2)で均質化処理し、これら均質化物を混合後12℃に冷却し、5℃の冷厳庫内で1晩エージングした。この乳化物のエマルジヨン粒子径分布は
2μ以下のもの 約 8%
2μより大きく、4μ以下のもの
約80%
4μより大きく6μ以下のもの
約12%
であった。」(5頁左上欄9行?右上欄13行)
(3-2)「実施例2
上昇融点32℃の大豆硬化油20部、精製ヤシ油3部、バターオイル5部を60℃で溶解し、HLB6.5のソルビタン脂肪酸よるチル0.2部、大豆レシチン(市販大豆レシチン、アセトン不溶分65%)0.2部、ヨウ素価50のモノグリセライド0.2部を混合し、油相を調製した。
一方、ヘキサメタリン酸ソーダとトリポリリン酸ソーダの混合物(混合割合50:50)0.1部、HLB15の蔗糖脂肪酸エステル0.1部を加温した脱脂乳32部に溶解分散させ、水相を調製した。上記油相と水相を50℃の温度で混合攪拌し、次いで油分45%の生クリームを40部混合攪拌し、アルファ・ラバル社のVTIB殺菌装眞によって140℃で3秒間処理し、次いでこの乳化物を均質化処理するに当つて、乳化物の始めの69/100量を均質化圧力5Kg/cm^(2)で均質化し、次に30/100量を50Kg/cm^(2)で均質化し、次に残り1/100量を100Kg/cm^(2)で均質化した後、12℃に冷却しクリーンペンチ内で容器に無菌充填した。
このクリーム状乳化脂を5℃の冷蔵庫内で1晩エージンダした。このクリーム状乳化脂のエマルジョン粒子径分布は
2μ以下のもの 約24%
2μより大きく、4μ以下のもの 約55%
4μより大きく、6μ以下のもの 約21%
であり、実施例1と同様に起泡させたところ、起泡時間3分40秒で、ホイップ終点の始まりが明瞭でしかも起泡終点幅も広く、保型性、オーバーラン、キメのいずれも良好で、リーク現象もほとんどみられない品質の良い起泡体が得られた。」(5頁左下欄2行?右下欄14行)

(4)引用例5(実施例7参照。)
「実施例1?7及び比較例1?2
第1表に示す配合組成及び攪拌時間、冷却可動化方法によって起泡性乳化油脂組成物を得た。詳細に説明すると、まず、大豆油と界面活性剤を混合槽に入れ80℃前後に加熱し均一に溶解して油性相を調製する。また、70%ソルビツト浴液及び水を別の混合槽に入れ、これに酸性化剤を混合し70℃前後まで加熱溶解して水性相を調製する。次に、これらの油性相と水性相を混合し、65?75℃に保ちながら、プロペラ型攪拌機で攪拌して水中油型に乳化せしめる。得られた乳化物をプレート式熱交換器を用い50?55℃まで冷却するかもしくはボテーター等のかき取式熱交換器に通し50?55℃まで急冷可塑化してペースト状の起泡性乳化油脂組成物を得た。
得られたペースF状の起泡性乳化油脂組成物を常温下で24時間放冷後、東京計測器製BH製粘度計で粘度の測定を行い、また光学顕微鏡で水中油型乳化のエマルジョン粒径の測定を行つた。その結果を第2表に示す。」(3頁左下欄1行?右下欄1行)







2.引用例2?5に記載された発明
上記記載事項から、引用例2?5には、それぞれ、「平均粒子径が2μm?15μmである水中油型の乳化油脂を製造する製造方法。」に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点3>
本願発明では、「乳化剤を60℃以上に加温した水に分散させて、平均粒子径が10nm?600nmの乳化剤微粒子を形成させる第一工程及び前記第一工程によって調製された乳化剤微粒子分散水溶液に食用油脂を毎分1/50?1/10量の割合で添加し、ホモミキサーで3500rpmから8000rpmに至るまで徐々に回転数を上げながら乳化する第二工程を備え」るのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

<相違点4>
本願発明では、「前記乳化油脂を構成する乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリン部位の平均重合度が5?12、かつ脂肪酸部位の炭素数6?22であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸部位の種類が、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸からなる群から選択される」のに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

4.判断
以下、上記相違点について検討する。
<相違点3について>
本願明細書の「本発明者は、鋭意検討の結果、水中油型の乳化油脂において、エマルションの平均粒子径が2μm?15μmのものは、少量であっても、十分に油脂の旨味を維持できることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。」(【0005】)の記載を参照すれば、本願発明は、エマルションの平均粒子径を2?15μmとすることにより、本願発明の課題を解決するものと認められる。
そうすると、相違点3に係る本願発明の製造工程は、課題解決に寄与するものではなく、当業者が任意の工程を選択した程度の単なる設計事項というべきである。

<相違点4について>
相違点4に係る乳化剤は周知のものであり(例えば、引用例2の【0033】参照。)、該周知の乳化剤を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<本願発明が奏する効果について>
本願発明の奏する効果は、引用発明及び上記周知の事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

5.むすび
よって、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定、又は同条第29条の2の規定より特許を受けることができないものである。
また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-15 
結審通知日 2018-01-16 
審決日 2018-01-30 
出願番号 特願2011-38678(P2011-38678)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (A23D)
P 1 8・ 537- WZ (A23D)
P 1 8・ 121- WZ (A23D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 耕一郎木原 啓一郎  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 千壽 哲郎
佐々木 正章
発明の名称 水中油型の乳化油脂の製造方法  
代理人 小林 洋平  

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