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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1339557
審判番号 不服2016-19714  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-29 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 特願2012- 88208「圧電振動子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-219542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月9日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 2月16日付け 拒絶理由の通知
平成28年 4月22日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年 9月29日付け 拒絶査定
平成28年12月29日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の
提出

第2 平成28年12月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年12月29日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の概要
本件補正は、平成28年4月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 励振電極膜が形成される振動部と、該振動部と繋がる支持部と、該支持部に設けられ、外部との導通を図る電極部とを備える圧電振動子において、
前記電極部が支持部の基材表面に形成された導電膜からなると共にこの導電膜には表面が導電性を備えた複数の凹部が設けられ、
前記凹部の形状が開口幅より深さが大きく、且つ底部がすぼまる断面V字状またはU字状であることを特徴とする圧電振動子。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「 励振電極膜が形成される振動部と、該振動部と繋がる支持部と、該支持部に設けられ、外部との導通を図る電極部とを備える圧電振動子において、
前記電極部が支持部の基材表面に形成された導電膜からなると共にこの導電膜には表面が導電性を備えた複数の凹部が設けられ、
前記凹部の形状が開口幅より深さが大きく、且つ底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状であり、電極部に塗布された導電性接着剤は毛細管現象によって導電性接着剤のバインダー樹脂が前記凹部の底部付近に集中し、バインダー樹脂の中に分散されたチップ状の薄く扁平な形状を有する導電フィラーが前記凹部の開口付近に集中することを特徴とする圧電振動子。」

という発明(以下、「本願補正発明」という。)とすることを含むものである。

2.補正の適否
(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、目的要件
請求項1についての上記補正は、(i)本件補正前の「凹部の形状」について、「底部がすぼまる」を「底部に向けてすぼまる」と限定して特許請求の範囲を減縮する、(ii)「電極部に塗布された導電性接着剤は毛細管現象によって導電性接着剤のバインダー樹脂が前記凹部の底部付近に集中し、バインダー樹脂の中に分散されたチップ状の薄く扁平な形状を有する導電フィラーが前記凹部の開口付近に集中する」と導電性接着剤に係る事項を新たに追加するものである。

ここで、上記(ii)の点についてみると、本願明細書段落1において「本発明は、導電性接着剤を介して導通支持される圧電振動子に関するものである。」と記載されているように、導電性接着剤は圧電振動子の構成ではない。また、上記(ii)の事項によって、圧電振動子の構成が特定されるものでもない。
したがって、本願補正発明は「圧電振動子」に係る発明であるところ、本件補正により新たに追加された上記(ii)の事項は、「圧電振動子」の発明特定事項を限定するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される事項に該当しない。
また、上記(ii)の補正の目的は、特許法第17条の2第5項に規定される他のいずれの事項にも該当しない。

また、同様の理由で特許法第17条の2第4項の規定を満たしていない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するところはないものの、同第4項、同第5項の規定に違反するものである。

(2)独立特許要件について
上記(1)のとおり、本件補正は特許法第17条の2第4項、第5項の規定に違反するものであるが、更に進めて、仮に特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)についても、以下に検討する。

ア 本願補正発明

本願補正発明は、上記「1.補正の概要」の項の「本願補正発明」のとおりのものと認める。

イ 引用例及び周知事項
(ア)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-289650号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性接着剤により接合固定される圧電振動片を備える圧電デバイスおよび圧電振動片の製造方法に関するものである。」(2ページ)

b 「【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1ないし図3は、本発明の実施形態を示す圧電デバイス10であって、図1は圧電デバイス10の概略平面図であり、図2は、図1のB-B線概略断面図、図3は圧電デバイス10の圧電振動片のみを拡大した拡大斜視図である。
これらの図において、圧電デバイス10は、圧電振動子を構成した例を示しており、圧電デバイス10は、パッケージ30内に圧電振動片20を収容している。
【0018】
パッケージ30は、例えば、絶縁材料として、酸化アルミニウム質のセラミックグリーンシートを成型して形成される複数の基板31,32,33,34を積層した後に、焼結して形成されている。すなわち、図2に示されるように、この実施形態では、パッケージ30は、下から第1の基板31、第2の基板32、第3の基板33、第4の基板34を積層して形成されている。
【0019】
第3の基板33および第4の基板33は、図2に示されるように、その内側に所定の孔33a,34aを形成することで、第2の基板32に積層した場合に、パッケージ30の内側に圧電振動片20を収容する内部空間S1を形成するようにされている。この第3の基板33および第4の基板33のうち、第4の基板34の上端にある開放端面34bには、例えば、低融点ガラス等のロウ材43を介して、蓋体39が接合されることにより、封止されている。
【0020】
また、第3の基板33は、上述の孔33aを形成することで、内部空間S1内の図において左端部付近に、圧電振動片20を載置するための台座部33bが設けられている。そして、この台座部33bの上に、例えば、金または金合金で形成した電極部40,40が設けられている。この電極部40,40は、外部と接続されて、駆動電圧を供給するものであり、図1に示すように、内部空間S1内の長手方向の側面に接して、所定の間隔を隔てて形成されている。
【0021】
この所定の間隔を隔てた電極部40,40の上には、接合力を発揮する接着成分としての合成樹脂剤に、銀製の細粒等の導電性の粒子を含有させた導電性接着剤42,42が塗布されている。本実施形態において、導電性接着剤42,42には、エポキシ系導電性接着剤に比べて、柔らかく、圧電振動片3を固定する力が弱いシリコーン系導電性接着剤が用いられているが、後述するように、シリコーン系のみならずエポキシ系導電性接着剤等を利用することもできる。
そして、この導電性接着剤42,42の上に圧電振動片20が載置され、圧電振動片20を、図2に示されるように上から力F1を加えて導電性接着剤42,42に密着させ、導電性接着剤42,42が乾燥硬化することにより、圧電振動片20が電極部40,40に固着されるようになっている。また、この導電性接着剤42,42に対して圧電振動片20は、基部50の振動腕24,26と反対側の端部(図2において左端部)であって、基部50の幅方向両端付近が対向するようにして固着されている。
【0022】
また、パッケージ30の底面のほぼ中央付近には、第1の基板31及びその上の第2の基板32に連続する貫通孔31a,32aを形成することにより、貫通孔35が設けられている。この貫通孔35は、圧電振動片20に有害なガスが付着しないようにするための孔である。すなわち、例えばパッケージ30内を加熱(アニール処理)して導電性接着剤42,42やロウ材43などから発生したガスを真空排気するための孔であり、これら有害なガスを排気した後に、図2に示されるように、封止材38により封止されるようになっている。
【0023】
圧電振動片20は、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電材料を利用することができるが、本実施形態の場合、圧電振動片20は、水晶の単結晶から所定の角度をもって切り出された基板を加工することにより形成されている。また、圧電振動子20は、小型に形成して必要な性能を得るために、特に図示する形状とされている。すなわち、圧電振動片20は、パッケージ30と固定される基部50と、この基部50を基端として、図において右方に向けて、二股に別れて平行に延びる1対の振動腕24,26を備えており、全体が音叉のような形状とされた、所謂音叉型圧電振動片が利用されている。
【0024】
圧電振動片20の基部50は、その端部(図1では左端部)の幅方向両端付近に、例えばクロム(Cr)および金(Au)をスパッタして形成された電極膜44,45が形成されている。電極膜44,45は、上述したように、パッケージ30側の電極部40,40と導電性接着剤42,42により接続される部分であり、互いに異極となるように形成されている。また、本実施形態において、電極部44,45は、図2に示されるように、基部50の表裏面(図2において上下面)に形成され、この表裏面の電極部44,45は基部50の端面を引き回されて電気的に接続されている。
【0025】
また、基部50は、図1に示されるように、各振動腕24,26の基端部近傍に、基部50の幅を縮幅するようにして設けた切欠き部28,28を備えている。これにより、各振動腕24,26からの振動の基部50側への漏れ込みを抑制し、CI値を低く抑えることができる。したがって、このような圧電振動片20のCI値を、従来の圧電振動片のCI値となるように形成して、振動腕24,26の長さL3を短くできる。
【0026】
圧電振動片20の各振動腕24,26は、それぞれ長さ方向に延びる長溝21,22を有している。各長溝21,22は、図1のC-C線切断端面図である図4に示すように、各振動腕24,26の表裏面(図4において上下面)に設けられ、各々の深さが40?45μmとなるように形成されている。振動腕24側の長溝21,21には励振電極46,46が設けられており、振動腕26側の長溝22,22には励振電極47,47が設けられている。また、振動腕24の両側面には励振電極47,47が設けられており、振動腕26の両側面には励振電極46,46が設けられている。この励振電極46,46,46,46は、図3に示されるように圧電振動片20を引き回されて電極膜45と電気的に接続されている。また、励振電極47,47,47,47は、圧電振動片20を引き回されて電極膜44と電気的に接続されている。このようにして、励振電極46,46,46,46と、励振電極47,47,47,47は互いに異極となっている。
これにより、振動腕24,26内の電界をE方向に沿って効率よく発生させ、圧電振動片20のCI値を低く抑えることができる。したがって、このような圧電振動片20のCI値を、従来の圧電振動片のCI値となるように形成して、振動腕24,26の長さL3を短くできる。
なお、本実施形態においては、上述の切り欠き部28,28および長溝212,22を形成することにより、振動腕24,26の長さL3を1.64mm、基部の長さL4を0.4mm、基部の幅W2を0.5mm以下で、例えば0.4mmに形成できている。
【0027】
ここで、基部50の導電性接着剤42,42が付着されている接合領域50a,50a、本実施形態においては、基部50の裏面の電極膜44,45が設けられている部分には、図3に示されるように、それぞれ複数の有底の孔52,52,52・・・が形成されている。これら複数の有底の孔52,52,52・・・は、圧電振動片20の長さ方向および幅方向に、所定の間隔をもって複数形成されている。
尚、これら複数の有底の孔52,52,52・・・は、それぞれ同様の構成であるため、以下、一つの有底の孔52について説明する。
【0028】
この有底の孔52は、図3の正円で囲った有底の孔52の部分拡大図に示されるように、幅W2が10μmから30μmであり、長さL4も幅W2と同様に10μmから30μmとなるように形成されている。
また、図3のF-F線端面図である図5に示されるように、有底の孔52の深さD1は、後述するように、圧電振動片20の製造工程において、有底の孔52と長溝21,22とを同時にハーフエッチングにより形成できるように、長溝21,22と同様の深さである40?45μmとなるように形成されている。
【0029】
また、本実施形態においては、有底の孔52は、水晶の単結晶から所定の角度をもって切り出された基板を、後述するようにハーフエッチングすることにより形成されている。このため、水晶材料の異方性により、有底の孔52は、その断面形状において、有底の孔52を形成する壁部52a,52bが、有底の孔52のほぼ中心に向かって除々に深さを増すような傾斜を備えるようになっている。
なお、本実施形態において、有底の孔52は基部50の裏面に設けられているが、基部50の表面あるいは側面に設けられていてもよい。」(5?7ページ)

c


d


e


f


bの段落23、24、26の記載によれば、引用例には「励振電極46、47が形成される振動腕24、26と、該振動腕24、26と繋がる基部50と、該基部50に設けられ、外部との導通を図る電極部44、45とを備える圧電振動片20」が記載されている。

cの図2の記載及びbの段落27の記載によれば、引用例には「電極部44、45が基部50の裏面に形成された導電膜からなり」、「導電性を備えた導電膜で覆われた基部50の裏面に複数の有底の孔52が設けられ」ていることがみてとれる。

bの段落28、図3、図5の記載によれば、孔の幅が10?30μmであるのに対し、深さD1は40?45μmであるから、引用例には「有底の孔52の形状が開口幅より深さが大き」いことが記載されている。

fの図5の記載及びbの段落29の記載によれば、有底の孔52は「有底の孔52のほぼ中心に向かって除々に深さを増すような傾斜を備える断面形状」であることは明らかである。

bの段落21の記載によれば、引用例では「電極部44、45に塗布された導電性接着剤42はシリコーン系樹脂の中に導電性の粒子を含有」しているものを含むことは明らかである。

したがって、上記の摘記した記載及び図面の記載並びに当業者における技術常識からみて、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(引用発明)
「 励振電極46、47が形成される振動腕24、26と、該振動腕24、26と繋がる基部50と、該基部50に設けられ、外部との導通を図る電極部44、45とを備える圧電振動片20において、
前記電極部44、45が基部50の裏面に形成された導電膜からなり、
導電性を備えた導電膜で覆われた基部50の裏面に複数の有底の孔52が設けられ、
前記有底の孔52の形状が開口幅より深さが大きく、且つ有底の孔52のほぼ中心に向かって除々に深さを増すような傾斜を備える断面形状であり、
前記電極部44、45に塗布された導電性接着剤42はシリコーン系樹脂の中に導電性の粒子を含有する、
とからなる圧電振動片20。」

(イ)周知事項
a 特開平10-188670号公報には(以下、「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気回路形成用に適した扁平状導電性金属粉及びその製造法並びに扁平状導電性金属粉を用いた導電性ペーストに関する。」(2ページ1欄)

(b)「【0010】本発明における扁平状とは、球状、塊状等の立体形状のものを一方向に押し潰した形状のものであり、例えば一般的にフレーク状と称するものもこれに含まれる。」(3ページ3欄)

(c)「【0014】本発明に用いられる導電性金属粉は、平均粒径が1?10μmの粉体を用いることが好ましく、1?7μmの粉体を用いることがより好ましく、1?4の粉体を用いることがさらに好ましい。1μm未満の粉体を用いると作製した導電性ペーストの印刷性が悪くなる傾向があり、10μmを超える粉体を用いると作製した導電性ペーストの導電性が悪化する傾向がある。導電性金属粉の平均粒径は、レーザー法、沈降法等の一般的な粒度分布測定法で求めることができる。本発明においては上記のような粒径の粉体のままでは粉体同士の接触点が少なく導電性が悪いため下記に示すような機械的エネルギーを加えて扁平状にする必要がある。」(3ページ3欄)

(d)「【0018】本発明になる扁平状導電性金属粉を用いた導電性ペーストは、絶縁材料として用いられる各種基板、各種フィルム等に塗布、印刷、ポッティングして配線導体を形成する材料として最適であり、その他スルーホール導通用、電極形成用、ジャンパ線用、EMIシールド用等の形成に用いることができる。また抵抗素子、チップ抵抗、チップコンデンサ等の電子部品と絶縁基材を接続する導電性接着剤、鉛レスはんだ代替材としても使用できる。」(3ページ4欄)

b 特開2000-80409号公報には(以下、「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、扁平状微小銅粉及びその製造方法に関し、詳しくは導電性ペースト、導電性接着剤に用いられたときに好適な特性を示す扁平状微小銅粉及びその安価、かつ簡便な製造方法に関する。」(2ページ1欄)

(b)「【0010】本発明は、上記知見に基づきなされたもので、平均長軸径4?10μm、扁平率2?20であることを特徴とするの扁平状微小銅粉を提供するものである。」(2ページ2欄)

上記のa(a)?(d)、b(a)(b)の記載によれば、「導電性接着剤に平均粒径が10μm程度の扁平状の導電性粒子が用いられる。」ことは周知事項であると認められる。

ウ 対比及び判断
本願補正発明と引用発明を対比すると、

(ア)本願補正発明の「励振電極膜」と引用発明の「励振電極46、47」とは、下記の相違点1は別として、「励振電極」の点で一致している。

(イ)引用発明の「振動腕24、26」、「基部50」、「電極部44、45」、「圧電振動片20」、「基部50の裏面」は、それぞれ本願補正発明の「振動部」、「支持部」、「電極部」、「圧電振動子」、「基材表面」に相当する。

(ウ)本願補正発明の「導電膜には表面が導電性を備えた複数の凹部が設けられ」との構成は、本願明細書段落19の「支持部14の表面をハーフエッチングすることによって微細な筋状に形成されている。」、「このような断面形状の溝部23の内周面は、前記平面部22と共に導電膜15aで一様に被覆形成され、導電性を有している。」という記載に照らせば、導電膜にのみ複数の凹部が設けられるもののみならず、導電膜で覆われた支持部14の表面に複数の凹部が設けられることも含まれると解するのが自然である。また、本願明細書段落29及び図8によれば、本願補正発明の「凹部」は丸型や角型等の開口からなる複数のドット状の孔部を含むものである。してみると、本願補正発明の「導電膜には表面が導電性を備えた複数の凹部が設けられ」には、引用発明の「導電性を備えた導電膜で覆われた基部50の面に複数の有底の孔52が設けられ」が含まれている。

(エ)本願補正発明は「凹部の形状が」「底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状」であるから、底部を有し当該底部に向けてすぼまる断面形状であるといえる。一方、引用発明の有底の孔52の形状が「有底の孔52のほぼ中心に向かって除々に深さを増すような傾斜を備える断面形状」であるから、両者は、下記の相違点2は別として、「凹部の形状が」「底部に向けてすぼまる断面形状」である点で一致する。

(オ)本願明細書段落22において「導電性接着剤21は、・・・接着に寄与する液状のバインダー樹脂24の中に、導電に寄与する導電フィラー25を分散させたものである。前記バインダー樹脂24の主なる成分は、シリコーン樹脂(Si)と、その他、エポキシ樹脂、シリカ、ミネラルスピリット、エタノール等であり、」との記載に照らせば、本願補正発明の「導電性接着剤」における「バインダー樹脂の中に分散された」「導電フィラー」という構成は、「導電性接着剤はシリコーン系樹脂の中に導電性の粒子を含有する」ものを含むものである。一方、引用発明の「導電性接着剤42はシリコーン系樹脂の中に導電性の粒子を含有する」ものであるから、両者は「電極部に塗布された導電性接着剤はバインダー樹脂の中に分散された導電フィラーを含む」点で一致する。

以上を総合すると、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「励振電極が形成される振動部と、該振動部と繋がる支持部と、該支持部に設けられ、外部との導通を図る電極部とを備える圧電振動子において、
前記電極部が支持部の基材表面に形成された導電膜からなると共にこの導電膜には表面が導電性を備えた複数の凹部が設けられ、
前記凹部の形状が開口幅より深さが大きく、且つ底部に向けてすぼまる断面形状であり、
前記電極部に塗布された導電性接着剤はバインダー樹脂の中に分散された導電フィラーを含む、
とからなる圧電振動子。」

(相違点1)
一致点の「励振電極が形成される振動部」における「励振電極」について、本願補正発明では「励振電極膜」であるのに対し、引用発明では励振電極が「膜」であるとは特定されていない点。

(相違点2)
一致点の「凹部の形状が」「底部に向けてすぼまる断面形状」に関して、本願補正発明では「底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状」であるのに対し、引用発明では「有底の孔52のほぼ中心に向かって除々に深さを増すような傾斜を備える断面形状」である点。

(相違点3)
一致点の「電極部に塗布された導電性接着剤はバインダー樹脂の中に分散された導電フィラーを含む」に関して、本願補正発明では「電極部に塗布された導電性接着剤は毛細管現象によって導電性接着剤のバインダー樹脂が前記凹部の底部付近に集中し、バインダー樹脂の中に分散されたチップ状の薄く扁平な形状を有する導電フィラーが前記凹部の開口付近に集中する」のに対し、引用発明ではシリコーン系樹脂の中に導電性の粒子を含有するものの当該事項が明らかでない点

以下、各相違点について検討する。
(相違点1について)
一般に電極を膜で形成することは常套手段であるから、励振電極を膜で構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
凹部の生成について、本願明細書段落15及び段落19の記載によれば、本願補正発明の凹部は水晶をハーフエッチングで形成されたものを含んでおり、一方、引用例の段落29の記載によれば、引用発明の有底の孔52は水晶をハーフエッチングで形成されている。そうすると、凹部の形状については、本願補正発明と引用発明のどちらも底部に向けてすぼまる断面形状であり、凹部の生成については、本願補正発明と引用発明のどちらも、同様の製造方法である、水晶をハーフエッチングで形成している。同様の製造方法で同様の形状を製造しているのであるから、本願補正発明の形状には引用発明の形状に対して有意な差異は認められない。

また、「底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状」では、V字状でも底部があることから、ハーフエッチングによる傾斜と深さによっては底部と壁部との角度が大きくなり、またU字状でも底部と壁部との角度が大きくなるため、引用例の段落13にて述べられているような「有底の孔の底部と壁部との角度が大きくなるため、有底の孔と導電性接着剤との間に隙間ができ難くなる。」との作用は奏されるといえる。したがって、引用発明において凹部を「底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状」にすることの阻害要因は認められない。

したがって、引用発明において凹部の形状について「底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状」とすることに格別の困難性は認められず、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
上記「2.補正の適否」の「(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、目的要件」において記載したように、相違点3については「圧電振動子」の内部構成ではない「導電性接着剤」に係る事項であって「圧電振動子」自体の発明特定事項を限定するものではない。
したがって、本願補正発明の圧電振動子と引用発明の圧電振動子の相違点では無い。
(審査基準第III部第2章第4節4.1.2 「他のサブコンビネーション」に関する事項が、「他のサブコンビネーション」のみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造、機能等を何ら特定していない場合、4.2.2 請求項中に記載された「他のサブコンビネーション」に関する事項がサブコンビネーションの発明の構造、機能等を何ら特定していない場合 参照)

仮に、相違点3に係る構成が圧電振動子の発明特定事項であるとしても、以下のとおり、当業者が容易になし得たことである。

本願明細書段落21、段落25の記載によれば、本願補正発明の「凹部」は「開口幅を20μm以下、深さを30μm程度」と「開口幅が約8μm、深さが約40μm」が含まれているといえ、同段落27の記載によれば、本願補正発明の「導電フィラー」の「平均サイズが10μm程度」が含まれているといえる。
一方、引用例の段落28の記載によれば、開口幅が10μm?30μm、深さが40?45μmが含まれるといえる。
そして、上記「イ 引用例及び周知事項」にて「(イ)周知事項」として示したように、「導電性接着剤に平均粒径が10μm程度の扁平状の導電性粒子が用いられる」ことは周知事項であり、引用発明の導電性接着剤として当該周知のものを使用することは普通に採用されることにすぎない。
そうすると、本願補正発明と引用発明で凹部の開口幅と深さは同程度であるから、引用発明の導電性接着剤として当該周知の「平均粒径が10μm程度の扁平状の導電性粒子が用いられ」た導電性接着剤を採用した場合、引用発明においても本願補正発明と同様に「毛細管現象によって導電性接着剤のバインダー樹脂が凹部の底部付近に集中し、バインダー樹脂の中に分散されたチップ状の薄く扁平な形状を有する導電フィラーが前記凹部の開口付近に集中する」こととなることは明らかである。
すなわち、相違点3は、引用発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項、第5項の規定に違反するものであり、また、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成28月4月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明は、上記「第2 平成28年12月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の「1.補正の概要」の項目で示した本願発明のとおりのものと認める。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 平成28年12月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件について」の「イ 引用例及び周知事項」の「(ア)引用例」項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記「第2 平成28年12月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件について」の「ア 本願補正発明」で検討した上記本願補正発明から「電極部に塗布された導電性接着剤は毛細管現象によって導電性接着剤のバインダー樹脂が前記凹部の底部付近に集中し、バインダー樹脂の中に分散されたチップ状の薄く扁平な形状を有する導電フィラーが前記凹部の開口付近に集中する」に係る限定事項を削除したものであり、本願発明の「底部がすぼまる断面V字状またはU字状」には本願補正発明の「底部に向けてすぼまる断面V字状またはU字状」も含まれていると解釈するのが自然である。
そうすると、両者は上記「第2 平成28年12月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件について」の「ウ 対比及び判断」の「相違点1」と「相違点2」のみ相違するが、本願発明の発明特定事項の全て含みさらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成28年12月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-15 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2012-88208(P2012-88208)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鬼塚 由佳  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 山本 章裕
中木 努
発明の名称 圧電振動子  
代理人 浅川 哲  

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