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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1339694
審判番号 不服2017-2908  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-28 
確定日 2018-04-27 
事件の表示 特願2013-132371「アンテナ内蔵車載装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年1月15日出願公開、特開2015-8375〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月25日の出願であって、平成28年9月7日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日付けで手続補正がされたが、同年11月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年2月28日付けで拒絶査定不服審判が請求され同時に手続補正がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[結論]
平成29年2月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
平成29年2月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成28年11月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「画面(14)の法線(N)の方向が乗員の頭部の高さを指向するように車室内に取り付けられた車載装置(11)の内部に、乗員が所持する携帯機(23)との間で近距離無線通信するためのアンテナ(21,22)を内蔵したアンテナ内蔵車載装置であって、
前記携帯機(23)に対する前記アンテナ(21,22)の感度が高くなるように、前記アンテナ(21,22)の向く方向を前記画面(14)の法線(N)の方向に対して下方向に傾斜させて乗員の頭部よりも下方向を指向させたことを特徴とするアンテナ内蔵車載装置。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、
「画面(14)の法線(N)の方向が乗員の頭部の高さを指向するように車室内に取り付けられた車載装置(11)の内部に、乗員が所持する携帯機(23)との間で近距離無線通信するためのアンテナ(21,22)を内蔵したアンテナ内蔵車載装置であって、
前記携帯機(23)に対する前記アンテナ(21,22)の感度が高くなるように、異なる通信規格で通信するための複数の前記アンテナ(21,22)の向く方向を前記画面(14)の法線(N)の方向に対して下方向に傾斜させて乗員の頭部よりも下方向を指向させたことを特徴とするアンテナ内蔵車載装置。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。
([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)

2 補正の適否
(1)補正の目的、新規事項の有無、シフト補正の有無について
請求項1についての上記補正は、本願発明を特定するために必要な「アンテナ(21,22)」について、「異なる通信規格で通信するための複数の」という限定を付すものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この補正には、特許法第17条の2第3項及び同第4項に違反することころはない。

(2)独立特許要件
請求項1についての上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は、上記「1 本願発明と補正後の発明」の項の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 先願発明と周知事項
(ア)先願発明
原査定の拒絶の理由に引用された特願2013-75972号(以下、「先願」という。特許出願 平成25年4月1日、出願公開 特開2014-204153号公報)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)のうちの上記明細書(以下、「先願明細書」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、静電式のタッチパネルを搭載した電子機器におけるアンテナ取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載用の電子機器では、意匠パネルに液晶などの表示モニタが配置され、アンテナの指向性能を確保する観点から、WiFiなどの無線LAN(Local Area Network)用のアンテナやBluetooth(登録商標;以下記載を省略する)用のアンテナも意匠パネルに配置される。
しかしながら、表示モニタの周囲には、表示モニタを機器本体に固定する板金製のフレームや、タッチパネルの静電気対策用の接地板金などの金属部材がある。このため、金属部材がアンテナの遮蔽物となってアンテナ性能を損なう可能性がある。
なお、特許文献1に記載の表示装置は、表示面の周縁部に表示面より浮かせてかつ指向特性中心軸が表示面に対して鉛直方向になるようにアンテナを配設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-129365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来の電子機器では、表示モニタの周囲に設けられた金属部材が遮蔽物となってアンテナ性能を損なう可能性があるという課題があった。
また、特許文献1の発明は、アンテナを表示面より前方に配置することで、表示モニタの周囲の金属部材とアンテナとの距離を確保することができるが、表示面に対して鉛直な方向の機器サイズが大きくなるため、機器の小型化が制限されるという課題がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、アンテナ取り付け対象の機器の小型化とアンテナ性能の確保を図ることができるアンテナ取り付け構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るアンテナ取り付け構造は、機器の表示部の側部に板状のアンテナを取り付けるアンテナ取り付け構造において、アンテナを取り付けた取り付け面を表示部に近い側から遠い側に向けて後方に傾けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、アンテナ取り付け対象の機器の小型化とアンテナ性能の確保を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明のアンテナ取り付け対象の機器を示す斜視図である。
【図2】図1の機器において意匠パネルを取り除いた構成を示す斜視図である。
【図3】図2の機器において液晶モニタ部を取り除いた構成を示す斜視図である。
【図4】実施の形態1に係るアンテナ取り付け構造を示す図である。
【図5】実施の形態1に係るアンテナ取り付け構造による機器外形の小型化の効果を説明するための図である。
【図6】アンテナ取り付け対象の機器を傾けて取り付ける場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明のアンテナ取り付け対象の機器を示す斜視図であり、この発明に係るアンテナ取り付け構造を移動体(例えば車両)に搭載する機器に設けた場合を示している。また、図2は、図1の機器において意匠パネルを取り除いた構成を示す斜視図であり、図3は、図2の機器において液晶モニタ部を取り除いた構成を示す斜視図である。
図1に示す機器1は、機器本体2、意匠パネル3および表示モニタ部4を備えており、機器本体2が車両のインストルメントパネルに内蔵され、意匠パネル2が外側に露出した状態で取り付けられる。
【0010】
また、図2に示すように、表示モニタ部4の周囲には金属部材4Aが設けられる。金属部材4Aは、例えば、表示モニタ部4を機器本体2に固定する板金製のフレームやタッチパネルの静電気対策用の接地板金などである。
この発明では、上述した表示モニタ部4の側部に取り付け面5が設けられ、この取り付け面5上に板状のアンテナ6a,6bが取り付けられる。
アンテナ6a,6bは、機器1の無線通信に使用する板金製のアンテナであり、例えばWiFiなどの無線LAN用のアンテナやBluetooth用のアンテナである。
取り付け面5は、例えば、図3に示すように、表示モニタ部4の裏面に配置された板金シャーシ7から延出される。
【0011】
図4は、実施の形態1に係るアンテナ取り付け構造を示す図であって、図4(a)は、図1の機器の側面図、図4(b)は、図4(a)の符号Aで囲んだ領域の縦断面であり、実施の形態1に係るアンテナ取り付け構造を示している。図4において、表示モニタ部4は、タッチパネル4aと液晶モニタ4bを備えて構成される。
図4(b)に示すように、この発明では、取り付け面5を表示モニタ部4に近い側から遠い側に向けて後方に傾けることにより、上述した金属部材4Aとアンテナ6a,6bとの距離を確保し、金属部材4Aがアンテナ6a,6bの遮蔽物となることを防いでいる。
【0012】
図5は、実施の形態1に係るアンテナ取り付け構造による機器外形の小型化の効果を説明するための図である。図5(a)は、従来のアンテナ取り付け構造である。従来では、表示面に正対する方向をアンテナ6a,6bの指向方向とするため、アンテナ取り付け面100が表示モニタ部4の表示面に対して平行になっている。これにより、図5(a)に示すように、金属部材4Aとアンテナ6a,6bの距離を確保するには取り付け面100を下方に配置する必要があった。
【0013】
これに対して、この発明では、図5(b)に示すように、アンテナ6a,6bを取り付けられた取り付け面5が表示モニタ4に近い側から遠い側に向けて後方に傾いている。
これにより、従来の構造よりも取り付け面5を表示モニタ部4の下方に近付けても金属部材4Aとアンテナ6a,6bとの距離が確保される。
従って、従来の構造と比べて表示モニタ部4を含む構成の外形寸法を距離Bだけ小さくすることが可能である。
【0014】
なお、取り付け面5の傾き角度は、機器1の取り付け角度を考慮して決定してもよい。
図6は、アンテナ取り付け対象の機器を傾けて取り付ける場合を示す図であって、図6(a)は、機器1が水平方向に対して上向きに取り付け角度θ1で取り付けられた場合を示している。例えば、車両のインストルメントパネルに機器1を取り付ける場合、このように上向きに取り付けられることがある。
【0015】
図6(a)に示すように機器1が取り付けられる場合、アンテナ6a,6bの取り付け面5は傾斜角度θ2で後方に傾ける。ここで、角度θ1とθ2には図6(a)に示す関係にあり、取り付け面5の傾きによって機器1の取り付け角度θ1による傾きが相殺され、アンテナ6a,6bの指向方向が水平方向に保たれる。
このように構成することで、アンテナ6a,6bの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けることができ、車両内アンテナとしての特性を向上させることができる。
【0016】
以上のように、この実施の形態1によれば、アンテナ6a,6bを取り付けた取り付け面5を、表示モニタ4に近い側から遠い側に向けて後方に傾けたので、表示モニタ4の側部にある板金フレームなどの金属部材からアンテナ6a,6bを避けることができ、金属部材による遮蔽が回避されてアンテナ性能を確保することができる。
また、アンテナ6a,6bの取り付け面が後方に傾いているので、アンテナ6a,6bによって外側に占有される空間が小さくなり、機器1の小型化を図ることができる。
【0017】
また、この実施の形態1によれば、取り付け面5を、機器1の取り付け角度に対してアンテナ6a,6bのアンテナ面の法線方向が水平方向に向く角度で傾けている。
このようにすることで、機器1の取り付け角度による傾きが取り付け面5の傾きにより相殺され、アンテナ6a,6bの指向方向を水平方向に保つことができる。
例えば、機器1が車両のインストルメントパネルに上向きに傾けて取り付けられる場合であっても、座席の正面側に向けることができ、車両内アンテナとしての特性を向上させることができる。」

また、図面の記載は以下のとおりである。






上記記載とアンテナを取り付けた車載用の電子機器の技術分野(段落【0001】,【0002】)における技術常識を勘案すると、先願明細書等には、特定のアンテナ取り付け構造を有する車両に搭載する機器1(段落【0009】)の発明について、以下の事項が記載されていると認める。
a 「機器1」について
段落【0009】より、機器1は、機器本体2、意匠パネル3及び表示モニタ部4を備え、車両のインストルメントパネルに取り付けられる。さらに、段落【0010】より、前記機器1には、前記表示モニタ部4の側部の取り付け面5上にアンテナ6a、6bが取り付けられ、その位置は、図4(b)、図6(b)より意匠パネル3の裏側である。そうすると、機器1は、その内部にアンテナ6a、6bが内蔵されているといえる。
b 「アンテナ6a、6b」について
段落【0010】より、アンテナ6a、6bは、機器1の無線通信に使用する板金製のアンテナであり、WiFiなどの無線LAN用のアンテナやBluetooth用のアンテナである。
また、「アンテナ6a、6b」は、アンテナ6aとアンテナ6bとが個別のアンテナであるから「2個のアンテナ」といえる。
c 「機器1」の取り付け角度について
段落【0014】、図6(a)には、前記車両のインストルメントパネルに前記機器1が水平方向に対して上向きに取り付け角度θ1で取り付けられた場合が記載されている。
この場合には、図4、図6の表示モニタ4と装置本体2との配置関係から、表示モニタ4の画面の法線の方向は、前記機器1の取り付け角度、すなわち水平方向に対して上向きに角度θ1の方向といえる。
d 「アンテナ6a、6b」の指向方向について
段落【0015】より、上記c(図6(a))のように機器1が取り付けられる場合、アンテナ6a、6bの取り付け面5を傾斜角度θ2(図6(a)より、θ2=90°-θ1))で後方に傾けると、前記取り付け面5の傾きによって機器1の取り付け角度θ1による傾きが相殺され、アンテナ6a、6bの指向方向が水平方向に保たれる。このように構成することで、アンテナ6a、6bの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けることができ、車両内アンテナとしての特性を向上させることができる。
このように、「車両内アンテナとしての特性を向上させること」を技術課題として考慮していることから、前記アンテナ6a、6bが、「車両内にある通信機」と通信するためのものであることは、自明である。

上記aないしdを総合すると、先願明細書等には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認める。

(先願発明)
「表示モニタ部の画面の法線の方向が水平方向に対して角度θ1で上向きの方向となるように車両のインストルメントパネルに取り付けられた機器の内部に、車両内にある通信機との間で無線通信するためのWiFiなどの無線LAN用のアンテナやBluetooth用のアンテナである2個のアンテナを内蔵した機器であって、
車両内アンテナとしての特性を向上させるように、前記2個のアンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けた機器。」

(イ)周知事項
新たに引用する国際公開第2006/48972号(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「[0009](中略)
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による表示装置の外観を示す斜視図である。図例の表示装置1は、モニタ(表示手段)2と装置本体3とから成り、カーナビゲーシヨン機能とオーディオ再生機能の他に、例えば車内において携帯電話機との無線通信によりハンドフリー通話を行う機能などを備えたカーナビゲーシヨンオーディオ一体装置である。この表示装置1は、装置本体3を車室内の例えばセンターコンソールの内部に搭載し、装置本体3に支持されているモニタ2が、例えばセンターコンソールの表面パネルを背後として車室内の中央を向くように設置する。
[0010] 図1に例示した表示装置1は、装置本体3の前面にモニタ2が配置され、このモニタ2は装置本体3の前面を開閉するように支持されている。(中略)モニタ2には、高周波の無線信号を送受信するアンテナ4が備えられ、例えば表示面5の周縁部に1個ないし複数配置される。図1に例示したものは、表示面5の周縁部の各辺に対応させてモニタ2の前面となる筐体の縁の部位に、それぞれ一個ずつアンテナを4個備えている。このように複数は位置されるアンテナ4として、無線LAN用やBluetooth(登録商標)用など送受信周波数帯域の異なるものを備えてもよい。
(中略)
[0025](中略)
また、送受信周波数帯域の異なるアンテナ4を備えたので、複数種類の無線通信を行うことができ、無線LANやbluetooth(登録商標)等を用いた他の装置との無線信号の送受信を行うことができる。」(3頁、段落9)

新たに引用する特許第5214073号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0023】
図2はこの発明の実施の形態1による無線通信装置の適用例を示す図である。図2において、無線通信装置1が例えばカーナビゲーションのような車載情報機器(図示せず)に組み込まれ、車室内に設置されているものとする。車室内において、第1無線通信部2は、無線LANによる無線通信を行い、搭乗者が持ち込んだPCなどの情報端末21とデータ通信を行っている。第2無線通信部3は、Bluetoothによる無線通信を行い、携帯端末22と接続して車内アプリケーションとして普及しているハンズフリー通話を行っている。第3無線通信部4は、ワイヤレスヘッドホン23と無線通信を行い、車載情報機器の楽曲再生を行っている。また、無線通信装置1以外に、情報端末24とポータブル情報端末25間で無線LANによる無線通信が行われている。
【0024】
図2では、第1無線通信部2、第2無線通信部3および第3無線通信部4がそれぞれ独立したアンテナ2a,3a,4aを有する構成を示しているが、第1無線通信部2、第2無線通信部3および第3無線通信部4のアンテナ端子を合成・分配器で接続し、1つのアンテナに集約することも可能である。」

周知例1及び周知例2に記載されているように、次の事項(以下、「周知事項1」という。)は周知である。

(周知事項1)
「車載装置において、異なる通信規格で通信するための複数のアンテナを備えること。」

新たに引用する特開2012-46054号公報(以下、「周知例3」という。)には、図2とともに以下の事項が記載されている。
「【0028】
図2の実線で示すように、ブレーキレバーがオン位置にあるとき手元ディスプレイ10は第1の画面角度とされる。第1の画面角度は、運転席のユーザが視線を落としたとき、その視線方向が手元ディスプレイ10の画面に対して垂直に交わる角度に設定されている。この第1の画面角度は、運転席のユーザが最も手元ディスプレイ10の画面を見易い角度に設定されている。」

上記記載において、「画面に対して垂直に交わる視線方向」の逆向きが「画面の法線の方向」であることを考慮すると、周知例3に記載されているように、次の事項(以下、「周知事項2」という。)は周知である。

(周知事項2)
「画面の法線の方向が運転席のユーザ(乗員)の目の位置(頭部)の方向を向いていると、前記乗員は前記画面を見やすいこと。」

また、新たに引用する特開2003-324302号公報(以下、「周知例4」という。)には、「車室内無線通信装置に関し、詳しくは、車室内のダッシュボード等に装着され、車室内に持ち込んだ携帯電話等の無線通信端末との間で無線通信を行うことができる車室内無線通信装置」(段落【0001】)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

A 「【0040】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1乃至図5は本発明に係る車室内無線通信装置の第1の実施の形態を示す図である。
【0041】まず、構成を説明する。図1、図2において、車両1の室内前方に設けられたダッシュボード2には図示しない2DINサイズの凹部が形成されており、この凹部には車室内無線通信装置3が設けられ、この無線通信端末装置3は無線通信端末としての携帯電話4と通信が可能になっている。」
「【0045】一方、車室内無線通信装置3は、局所無線回路21、操作部22、制御回路23、デッキ24、液晶ディスプレイ25から構成されている。
【0046】局所無線回路21はアンテナ素子が実装されたアンテナ基板を内蔵しており、制御回路23からの指令信号に基づいて携帯電話4との間の無線通信処理を実行する。操作部22は複数の操作ボタンを備えており、ボタン操作を示す操作信号を制御回路23に出力し、制御回路23は操作部22から操作信号が入力されると、その入力した操作信号を解読し、液晶ディスプレイ25に操作内容を表示したり、ハンズスリー処理を実行する。」

B 図1は以下のとおりである。



上記図1より、乗員が所持する携帯電話4と車室内無線通信装置3とで通信する態様が見て取れる。

周知例4に記載されているように、車載機器とともに乗員が車内において携帯機を使用する態様として、次の事項(以下、「周知事項3」という。)は周知である。

(周知事項3)
「ディスプレイを備える車載機器と乗員が所持する携帯機との間で無線通信を行うこと。」

ウ 対比・判断
補正後の発明と先願発明とを対比すると、
a 先願発明の「表示モニタ部の画面」及び「車両のインストルメントパネルに取り付けられた機器」は、それぞれ補正後の発明の「画面(14)」及び「車室内に取り付けられた車載装置(11)」に相当する。また、先願発明の「法線の方向が水平方向に対して角度θ1で上向きの方向となるように」と補正後の発明の「法線(N)の方向が乗員の頭部の高さを指向するように」とは、「法線の方向が所定の方向となるように」という点で共通する。そうすると、先願発明の「表示モニタ部の画面の法線の方向が水平方向に対して上向きの方向となるように車両のインストルメントパネルに取り付けられた機器」と、補正後の発明の「画面(14)の法線(N)の方向が乗員の頭部の高さを指向するように車室内に取り付けられた車載装置(11)」とは、「画面の法線の方向が所定の方向となるように車室内に取り付けられた車載装置」である点で共通する。

b 先願発明の「機器の内部に」「2個のアンテナを内蔵した機器」は、補正後の発明の「車載装置(11)の内部に」「アンテナ(21,22)を内蔵したアンテナ内蔵車載装置」に相当する。
さらに、先願発明の「車両内にある通信機」と補正後の発明の「乗員が所持する携帯機(23)」は、「車両内にある通信機」である点で共通し、先願発明の「WiFiなどの無線LAN用のアンテナやBluetooth用のアンテナである2個のアンテナ」は、補正後の発明の「近距離無線通信するためのアンテナ(21,22)」に含まれる。
そうすると、先願発明の「機器1の内部に、車両内の通信機と無線通信するためのWiFiなどの無線LAN用のアンテナやBluetooth用のアンテナである2個のアンテナを内蔵した機器」と補正後の発明の「車載装置(11)の内部に、乗員が所持する携帯機(23)との間で近距離無線通信するためのアンテナ(21,22)を内蔵したアンテナ内蔵車載装置」は、「車載装置の内部に、車両内にある通信機との間で近距離無線通信するためのアンテナを内蔵したアンテナ内蔵車載装置」である点で共通する。

c 先願発明の「車両内アンテナとしての特性を向上させるように、前記2個のアンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けた」と補正後の発明の「前記携帯機(23)に対する前記アンテナ(21,22)の感度が高くなるように、異なる通信規格で通信するための複数の前記アンテナ(21,22)の向く方向を前記画面(14)の法線(N)の方向に対して下方向に傾斜させて乗員の頭部よりも下方向を指向させたこと」を以下対比する。
c1 先願発明の「車両内アンテナとしての特性を向上させるように、前記2個のアンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けた」は、アンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けることで、従来よりも車両内アンテナとしての特性を向上させるものであり、アンテナ自体、及び、該アンテナと無線通信する車両内にある通信機自体の構造を変更して前記特性を向上させるものではない。
一方、補正後の発明の「前記携帯機(23)に対する前記アンテナ(21,22)の感度が高くなるように」について、本願明細書の「携帯機に対するアンテナの感度が高くなるように、アンテナの向く方向を画面の法線の方向に対して下方向に傾斜させて乗員の頭部よりも下方向を指向させたので、画面を乗員の頭部に向けて視認性や操作性を確保しながら、アンテナの方向を乗員の頭部よりも下方位置にあることが多い携帯機に向けて送受信感度を高めることができる。」(平成29年2月28日付け手続補正により全文が補正された明細書の段落【0010】)及び「図2(A)および図4から明らかなように、車幅方向に見たとき、Wi-Fi アンテナ21およびBluetooth アンテナ22の感度が最大になる方向A、つまり本体部21a,22aの平坦面が向く方向は、画面14の法線Nの方向に対して下向きに角度θだけ傾斜している。画面14の法線Nの方向は後上方に向かって傾斜しているため、Wi-Fi アンテナ21およびBluetooth アンテナ22の感度が最大になる方向Aは、乗員の頭部よりも下方に胸部あるいは腹部を指向することになる。」(同段落【0024】)の記載からみてアンテナの向く方向(指向方向)を変更することで、携帯機に対するアンテナの感度を高くするものといえ、アンテナ自体及び携帯機自体の構造を変更して前記感度を高くするものでははい。
そうすると、先願発明の「車両内アンテナとしての特性を向上させるように」と補正後の発明の「前記携帯機(23)に対する前記アンテナ(21,22)の感度が高くなるように」は、「前記通信機に対する前記アンテナの感度が高くなるように」という点で共通する。

c2 先願発明の「前記2個のアンテナ」は、「WiFiなどの無線LAN用のアンテナやBluetooth用のアンテナである2個のアンテナ」のことであり、上述のとおり、「車載装置において、異なる通信規格で通信するための複数のアンテナを備えること。」(周知事項1)は周知であるから、周知事項1を勘案すれば、「1個の無線LAN用のアンテナと1個のBluetooth用のアンテナの2つのアンテナ」と解するのが自然である。
よって、先願発明の「前記2個のアンテナ」と補正後の発明の「異なる通信規格で通信するための複数の前記アンテナ(21,22)」は、「異なる通信規格で通信するための複数の前記アンテナ」である点で共通する。

c3 先願発明は、「表示モニタ部の画面の法線の方向が水平方向に対して角度θ1で上向きの方向となるように車両のインストルメントパネルに取り付けられた機器」において、「2個の前記アンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けた」ものである。これは、「表示モニタ部の画面の法線の方向」である「水平方向に対して角度θ1で上向きの方向」を基準とすると、「2個の前記アンテナの指向方向を水平方向」とすることは、「2個の前記アンテナの指向方向を前記画面の法線の方向に対して下方向に傾斜させる」ことといえる。
そうすると、先願発明の「2個の前記アンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けた」と、補正後の発明の「複数の前記アンテナ(21,22)の向く方向を前記画面(14)の法線(N)の方向に対して下方向に傾斜させて乗員の頭部よりも下方向を指向させたこと」は、「複数の前記アンテナの向く方向を前記画面の法線の方向に対して下方向に傾斜させ」た点で共通する。

上記aないしcより、補正後の発明と先願発明とは、以下の点で一致し、また一応相違する。

(一致点)
「画面の法線の方向が所定の方向となるように車室内に取り付けられた車載装置の内部に、車両内にある通信機との間で近距離無線通信するためのアンテナを内蔵したアンテナ内蔵車載装置であって、
前記通信機に対する前記アンテナの感度が高くなるように、異なる通信規格で通信するための複数の前記アンテナの向く方向を前記画面の法線の方向に対して下方向に傾斜させたアンテナ内蔵車載装置。」

(一応の相違点1)
一致点である「所定の方向」について、補正後の発明では「乗員の頭部の高さを指向する」方向であるのに対し、先願発明ではこの点が一応特定されていない点。

(一応の相違点2)
一致点である「近距離無線通信する」相手が、補正後の発明では「乗員が所持する携帯機(23)」であるのに対し、先願発明ではこの点が一応特定されていない点。

(一応の相違点3)
一致点である「前記通信機に対する前記アンテナの感度が高くなるように」するために、補正後の発明では、「複数の前記アンテナ(21,22)の向く方向を」「乗員の頭部よりも下方向を指向させた」ものであるのに対し、先願発明ではこの点が一応特定されていない点。

まず、一応の相違点1について検討する。
先願発明の「表示モニタ部の画面」4は、専ら車両の運転手や助手席の乗員(以下、まとめて「乗員」という。)に視覚情報を与えるものといえるから、先願発明の「表示モニタ部の画面の法線の方向が水平方向に対して角度θ1で上向きの方向となる」ことは、乗員による前記画面の視認性を高めるための構成であることが明らかであり、画面を有する車載装置について、「画面の法線の方向が乗員の頭部の方向を向いていると、前記乗員は前記画面を見やすいこと。」(周知事項2)は、周知であるから、前記「画面の法線」が乗員の頭部の高さを指向するものと解するのが自然である。仮に、先願発明の前記画面の法線が乗員の頭部を指向していないものであるとしても、一応の相違点1に係る構成は、上記周知事項2の付加にすぎない。
よって、一応の相違点1は実質的な相違点ではない。

次に、一応の相違点2について検討する。
画面を有する車載装置について、「ディスプレイを備える車載機器と乗員が所持する携帯機との間で無線通信を行うこと。」(周知事項3)は周知であるから、車両内にある通信機とは乗員が所持する携帯機と解するのが自然であり、仮に、そうでないとしても一応の相違点2に係る構成は、上記周知事項3の付加にすぎない。
よって、一応の相違点2は実質的な相違点ではない。

最後に、一応の相違点3について検討する。
一応の相違点2に係る「乗員が所持する携帯機(23)」について、本願明細書の「乗員は携帯機23を上着のポケットやズボンのポケットに入れて所持することが多く、また運転席あるいは助手席の間のセンターコンソールに置いたり、カバンやハンドバッグに入れて助手席に置いたりすることもあるが、上記何れの場合であっても携帯機23は乗員の頭部よりも低い位置にあるため(図4参照)、Wi-Fi アンテナ21およびBluetooth アンテナ22の感度が最大になる方向Aを画面14の法線Nの方向に対して下向きに傾斜させたことで、携帯機23に対するWi-Fi アンテナ21およびBluetooth アンテナ22の送受信感度を最大限に高めることができる。」(段落【0025】)の記載からみて、近距離無線通信する相手である携帯機自体に特徴があるものではなく、該携帯機の位置が乗員の頭部よりも低い位置にあることが特徴であるといえる。そして、補正後の発明は、一応の相違点3に係る構成により、アンテナの向く方向を、乗員の頭部よりも低い位置にある前記携帯機に向けたものである。
一方、先願発明は、「車両内アンテナとしての特性を向上させるように、前記2個のアンテナの指向方向を水平方向、すなわち座席の正面側に向けた」ものであるから、機器との近距離無線する相手は、アンテナから見て水平方向、すなわち座席の正面側に位置することは明らかであり、この位置は、乗員の頭部よりも低い位置であることも明らかである。
したがって、一応の相違点3は、構成上の差異がないから相違点ではない。

エ むすび
以上のとおり、補正後の発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、この出願の発明者が先願の発明者と同一でなく、またこの出願の出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により独立して特許を受けることができない。

(3)結語
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年2月28日付けの手続補正は上述のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「1 本願発明と補正後の発明」の項中の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 先願発明
先願発明は、上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 先願発明と周知事項」の項中の「(ア)先願発明」の項で認定したとおりのものである。

3 対比・判断
そこで、本願発明と先願発明とを対比すると、本願発明は補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、、上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ 対比・判断」の項で検討したとおり、先願発明と実質的に同一であるから、本願発明も同様の理由により、先願発明と実質的に同一である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定によって、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-27 
結審通知日 2018-02-28 
審決日 2018-03-16 
出願番号 特願2013-132371(P2013-132371)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 16- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 一央  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
発明の名称 アンテナ内蔵車載装置  
代理人 特許業務法人落合特許事務所  

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