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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1340057
異議申立番号 異議2017-700694  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-14 
確定日 2018-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6062713号発明「光学素子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6062713号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6062713号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6062713号は、平成24年10月31日に出願された特願2012-240509号の特許請求の範囲に記載された請求項1?6に係る発明について、平成28年12月22日に設定登録がされたものであり、その後、全請求項に係る特許について、平成29年7月14日付けの特許異議の申立てが星正美(以下、「申立人」という。)によりされたので、同年9月8日付けで取消理由を通知したところ、特許権者より同年11月13日付けの訂正請求がされ、これに対し、申立人より同年12月22日付けで意見書が提出されたものである。

第2.訂正請求の認否

1.訂正の内容

本件訂正請求は、次の訂正事項よりなる(下線部が訂正箇所)。

訂正事項1
請求項1に「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が980×10^(-7)K^(-1)以下であり、」とあるのを、「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が920×10^(-7)K^(-1)以下であり、」に訂正する。

訂正事項2
請求項1に「1.40以上2.00以下の屈折率(nd)」とあるのを、「1.40以上1.60以下の屈折率(nd)」に訂正する。

2.訂正要件の判断

訂正事項1,2は、請求項1に記載された「光学ガラスの製造方法」の発明において、使用するガラス素材の線膨張係数の最大値(α_(max))及び屈折率(nd)の数値範囲をより狭く特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正後の数値範囲は、訂正前の数値範囲内にあって新たな技術的意味を有するものではないから、これらの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1,2に係る訂正前の請求項1を請求項2?6が直接引用していたから、これらの訂正は、一群の請求項1?6について請求したものと認められる。

3.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項第1号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3.本件発明の認定

本件特許の請求項1?6に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が920×10^(-7)K^(-1)以下であり、1.40以上1.60以下の屈折率(nd)と、60以上のアッベ数(νd)を有するガラス素材を、加熱により軟化した状態で、成形型によってプレス成形する工程を含む光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記プレス成形は、前記ガラス素材を屈伏点(At)以上の温度への加熱により軟化した状態で行う請求項1記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス素材が、カチオン成分として
P^(5+)を15.0?55.0%、
Al^(3+)を5.0?30.0%及び
Ca^(2+)を0%超?35.0%
含有し、
アニオン成分として
O^(2-)を20.0?70.0%及び
F^(-)を30.0?80.0%
含有する請求項1又は2記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス素材が、カチオン成分として
Mg^(2+) 0?20.0%
Sr^(2+) 0?30.0%
Ba^(2+) 0?30.0%
である請求項1から3のいずれか記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記光学素子として非球面レンズを作製する請求項1から4のいずれか記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載の光学素子の製造方法で製造された光学素子を用いて光学機器を作製する光学機器の製造方法。

第4.取消理由について

1.取消理由の概要

理由1.訂正前の請求項1?6に係る発明は、下記甲第6号証(以下、「甲6」という。)の記載によれば、同甲第1?3号証(以下、「甲1?3」という。)に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、これらの発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は取り消すべきものである。

理由2.訂正前の請求項1に記載された「アッベ数が60以上」で「2.00の屈折率」を有する光学ガラスが得られないことは、当業者の技術常識であって、訂正前の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。

甲1:特開2002-234753号公報
甲2:特表2012-521942号公報
甲3:特開2003-95694号公報
甲6:星正美による実験成績証明書

2.理由1(新規性進歩性要件違反)について

(1)甲1?3には、甲6の記載を参酌しても、甲1に、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が950×10^(-7)K^(-1)(実施例3)の弗燐酸塩光学ガラス、甲2に、α_(max)が926×10^(-7)K^(-1)(実施例10)のフルオロリン酸塩の光学ガラス、甲3に、α_(max)が973×10^(-7)K^(-1)(実施例16)及び953×10^(-7)K^(-1)(実施例17)のモールドレンズ用ガラスを、それぞれ加熱してプレス成形することが記載されているにすぎず、訂正後の請求項1に記載された「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が920×10^(-7)K^(-1)以下であ」る「ガラス素材を、加熱により軟化した状態で、成形型によってプレス成形する」ことについて記載も示唆もない。
したがって、訂正後の請求項1及びこれを引用する請求項2?6に係る発明は、甲1?3に記載された発明ではないし、これらの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、理由1には理由がない。

(2)申立人は意見書で、920×10^(-7)K^(-1)以下という数値限定には臨界的意義がないから、訂正後の発明も進歩性がない旨主張しているが、甲1?3には、そもそもα_(max)の値を小さくすることについて記載も示唆もないのだから、臨界的意義がないとしても上記数値限定を当業者が容易に想到し得たとはいえない。また、臨界的意義はないとしてもα_(max)の値をより小さい範囲に限定したことにより本発明の効果が向上することは、本件明細書に記載の作用機序(【0020】)からみて明らかである。
よって、上記主張は採用できない。

3.理由2(サポート・実施可能要件違反)について

訂正後の請求項1に記載された「アッベ数が60以上」で「1.60の屈折率」を有する光学ガラスが得られることは、当業者の技術常識と認められるから、訂正後の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定を満たしているといえる。
よって、理由2には理由がない。

第5.取消理由以外の申立理由について

1.進歩性要件違反について

(1)申立人は、下記甲第4,5号証(以下、「甲4,5」という。)を提出して、甲6の記載によれば、甲4には、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が901×10^(-7)K^(-1)(実施例4)の弗燐酸塩光学ガラス、甲5に、α_(max)が903×10^(-7)K^(-1)(FK01)の光学ガラスがそれぞれ記載されており、甲1?3に光学ガラスを加熱してプレス成形することが記載されているから、訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲1?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は取り消すべきものであると主張している。

甲4:特開昭60-81042号公報
甲5:『ガラス組成データブック 1991』、
社団法人 日本硝子製品工業会、1991年3月25日、第102ページ

(2)そこで検討するに、甲4には、実施例の光学ガラスについて、溶融し攪拌均質化した後、温度を下げ、金型等にキャストし徐冷することにより得る(3頁9?13行)と記載されており、甲5には、光学ガラスの成形方法について記載がない。そして、甲1?3には、α_(max)が920×10^(-7)K^(-1)以下であるガラス素材を、加熱してプレス成形することにより、割れやクラックが防止できるという訂正後の請求項1に係る発明の作用効果について記載も示唆もない。
したがって、訂正後の請求項1及びこれを引用する請求項2?6に係る発明は、甲1?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、上記主張は採用できない。

2. サポート・実施可能要件違反について

(1)申立人は、本件明細書には、実施例のガラス素材以外に、請求項1に記載されたα_(max)値を満足するガラス素材を製造するための成分組成について十分な記載がなく、訂正前の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものであると主張している。

(2)そこで検討するに、本件明細書には、本発明の目的について、
「プレス成形時におけるガラスの割れやクラックを低減でき、ひいては光学素子の生産性を高めることが可能な光学素子の製造方法を提供すること」(【0007】)と記載され、ガラス素材について、
「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が所定以下であれば所期の課題が解決されるため、本質的にはその組成によって限定されない」(【0029】)
と記載されているから、本発明は、プレス成形時におけるガラスの割れやクラックの発生を課題として、これをα_(max)値が所定以下のガラス素材を用いることにより解決した製造方法の発明であると認められる。
すなわち、本発明は、α_(max)値が所定以下となるガラスが得られないことを課題として、これを成分組成の範囲を特定することにより解決したガラス素材の発明ではないのだから、成分組成について十分な記載があるか否かは、本発明のサポート要件や実施可能要件とは無関係なことといえる。
したがって、上記主張は採用できない。

(3)そして、本件明細書には、実施例としてα_(max)値が920×10^(-7)K^(-1)以下のガラス素材が製造できること(【0068】)、当該ガラス素材を用いた場合に、プレス成形されたガラス成形体で割れやクラックが発生しなかったこと(【0075】)が記載され、その作用機序について、
「このようにガラスが割れ難くなる理由として、例えば、ガラスを加熱して軟化させる際や、軟化したガラスをプレス成形して冷却する際に、ガラス内部の温度差によって、ガラス内部に線膨張係数の大きいガラス転移点以上の高温部と、線膨張係数の小さいガラス転移点以下の低温部に分かれたときに、高温部の熱膨張や熱収縮が小さくなることで、高温部の熱膨張や熱収縮によって低温部に掛かる力が小さくなることが挙げられる」(【0020】)と記載されている。
したがって、訂正後の請求項1及びこれを引用する請求項2?6に係る発明は、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明の記載により、その実施ができることは明らかである。


第6.むすび

以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))が920×10^(-7)K^(-1)以下であり、1.40以上1.60以下の屈折率(nd)と、60以上のアッベ数(νd)を有するガラス素材を、加熱により軟化した状態で、成形型によってプレス成形する工程を含む光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記プレス成形は、前記ガラス素材を屈伏点(At)以上の温度への加熱により軟化した状態で行う請求項1記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス素材が、カチオン成分として
P^(5+)を15.0?55.0%、
Al^(3+)を5.0?30.0%及び
Ca^(2+)を0%超?35.0%
含有し、
アニオン成分として
O^(2-)を20.0?70.0%及び
F^(-)を30.0?80.0%
含有する請求項1又は2記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス素材が、カチオン成分として
Mg^(2+) 0?20.0%
Sr^(2+) 0?30.0%
Ba^(2+) 0?30.0%
である請求項1から3のいずれか記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記光学素子として非球面レンズを作製する請求項1から4のいずれか記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載の光学素子の製造方法で製造された光学素子を用いて光学機器を作製する光学機器の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-05 
出願番号 特願2012-240509(P2012-240509)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C03B)
P 1 651・ 536- YAA (C03B)
P 1 651・ 121- YAA (C03B)
P 1 651・ 113- YAA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 則充  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 大橋 賢一
山崎 直也
登録日 2016-12-22 
登録番号 特許第6062713号(P6062713)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 光学素子の製造方法  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 新山 雄一  

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