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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1340067
異議申立番号 異議2017-700409  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-24 
確定日 2018-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6075148号発明「紡績糸およびそれを用いてなる布帛」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6075148号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6075148号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6075148号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成25年3月26日に出願され、平成29年1月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?3について、平成29年4月24日に特許異議申立人柏木里実(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
当審において、平成29年9月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年11月17日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。また、訂正自体を「本件訂正」という。)がされた。そして、その訂正の請求に対して、申立人から平成29年12月19日に、意見書が提出された。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。それぞれの訂正事項を訂正箇所に下線を付して示す。

・訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「該紡績糸10mにあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数(A)が150個以下であること、」とあるのを、「該紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数(A)が150個以下であること、」 と、請求項1及び請求項1の記載を引用する請求項2及び3を訂正する。

・訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数(B)が60個以下である」とあるのを、「毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数(B)が60個以下であり、I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.5?3.0である」と、請求項1と請求項1を引用する請求項2及び3を訂正する。

・訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、「1.0?3.0である」とあるのを、「1.8?3.0である」 と、請求項2と請求項2を引用する請求項3も同様に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項

(1)訂正事項1について
毛羽は、紡績糸の表面に生じるものであり、紡績糸の長さに比例して毛羽の数が増えることは技術常識であるから、毛羽の数を特定事項としようとすれば、紡績糸の基準長さあたりの数として特定すべきことは、当業者にとって明らかである。
したがって、本件訂正前の請求項1の「該紡績糸10mにあたりに」との記載のうち、「紡績糸10m」とは、上記基準長さが「10m」であることを特定しようとするものであることは明らかであって、「あたり」には、「(接尾語的に)「・・・に対して」の意。「一人-3合」」(広辞苑 第六版)との一般的な意味もある。したがって、「該紡績糸10mにあたりに」との記載は、本来「該紡績糸10mあたりに」と記載すべきであるものの誤記であることは、当業者にとって自明であるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
本件特許の願書に最初に添付した明細書の段落【0009】に、「本発明で毛羽数(A)とは、JIS L1095(2010)、9.22 B法に準じ、敷島紡績社製F-INDEX TESTERを使用し測定した、紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽の数をいう。」との記載があるから、訂正事項1は新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に記載された「紡績糸」について、「I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.5?3.0である」との構成を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0012】に、「・・・また、本発明の紡績糸のI係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.0?3.0の範囲であることが好ましく、1.5?2.5の範囲内であることがより好ましい。・・・」との記載から、訂正事項2は、I係数あるいはL係数の下限値として「より好ましい」値を採用したものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2に特定された「I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)」について、本件訂正前は「1.0?3.0」と数値範囲で特定したものを「1.8?3.0」と当該範囲を狭める訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0025】の【表1】には、実施例1?3が記載されていて、「実施例1」?「実施例3」についての「I係数、L係数」の最小値が1.8であるから、訂正事項3は新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2及び3からなる一群を対象とするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?3〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立について
1.本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に、それぞれ記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸であって、該紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数(A)が150個以下であること、及び毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数(B)が60個以下であり、I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.5?3.0であることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.8?3.0であることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の紡績糸を用いてなることを特徴とする布帛。」

2.取消理由の概要
本件発明1?3のそれぞれに係る特許に対して、平成29年9月19日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本取消理由の通知によって、本件特許異議の申立てに係るすべての取消理由が通知された。
なお、本件特許異議申立書に添付された甲第1号証等を、以下、「甲1」等といい、甲1等に記載された発明あるいは事項を、以下、「甲1発明」等あるいは「甲1事項」等という。

【理由】 本件発明1?3は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



(1)本件発明1について
本件発明1は、甲1発明、甲5又は10事項、及び、従来周知の事項(例えば、甲2?5事項)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明2について
本件発明2は、甲1発明、甲5又は10事項、甲8事項、並びに、従来周知の事項(例えば、甲2?5事項)から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明3について
本件発明3は、甲1発明、甲5又は10事項、甲8事項、並びに、従来周知の事項(例えば、甲2?6事項)から当業者が容易に発明をすることができたものである。

<刊 行 物 等 一 覧>
甲1:特開平9-157984号公報
甲2:特開平6-41822号公報
甲3:特開平8-100341号公報
甲4:特開平9-209224号公報
甲5:特開平8-209476号公報
甲6:特開2005-220478号公報
甲7:特開2004-197243号公報
甲8:特開2007-211388号公報
甲9:特開平8-158166号公報
甲10:本宮達也ほか編「繊維の百科事典」丸善株式会社、平成14年3月25日発行、511ページ

3.当審の判断

(1)甲1及び甲1発明
甲1の段落【0009】、【0022】、【0026】、【0038】の【表1】の記載から、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。
「ウール等の動物繊維を少なくとも一部に用いることのできる紡績糸であって、該紡績糸10m当たりに存在する長さ1mm以上の毛羽の指数が、83ケ、140ケ、51ケあるいは145ケである
紡績糸」

(2)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。

<相違点>
本件発明1の「紡績糸」は、10mあたりに存在する、長さ1mm以上の毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数が60個以下であるのに対し、甲1発明の「紡績糸」は、10mあたりに存在する、毛羽の一端のみが紡績と断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数が明らかではない点。

イ.相違点についての検討・判断
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
・・・動物繊維の表面にはスケールと呼ばれる凹凸が無数にあり、このスケールは毛が成長する度に発育するので、毛根から毛先の方向にスケールができ、一方の方向には動きやすいが逆方向には動きにくい性質がある。このため、上下から圧力がかかると、毛は太い毛根の方向に動きやすくなるが、毛は内側に絡み付いていく。これらの作用によって、動物繊維は絡み付いた際、後戻りできずに縮充が進行していき、ピリングを発生させるという問題を有していた。
・・・動物繊維は他の繊維とは異なり、無数にあるスケールなどで繊維表面が凸凹していること、かつ繊度が太いため剛性が高く毛羽の一端が糸に巻き込まれずにでていると、毛羽が少なくても、徐々にお互いの毛羽が絡まりつき、長い間着用していると、ピリングが発生し、ももけやフロスティングで色落ちが発生し、外観の低下を招いていた。
また、リング精紡法を改良し特殊な方法で紡績することで毛羽がループ状になり、嵩高な紡績糸を提供でき、かつ毛羽がループ状になっているのでピリングが生じにくくなる方法も検討されている(特許文献5)。しかしながら、この方法では毛羽数が多いため、毛羽がループ状になり絡まりにくくとも、ループとなった毛羽同士の重なりが非常に多く、動物繊維表面の凹凸のため、長い間着用していると、ピリングが発生するという問題を有していた。・・・」
「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の耐久抗ピル性紡績糸およびそれを用いてなる布帛は、前記課題を解決するため次の構成を有する。すなわち、
(1) 動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸であって、該紡績糸10mにあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数(A)が150個以下であること、及び毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数(B)が60個以下であることを特徴とする紡績糸。
・・・」
「【0012】
動物繊維の場合、ピリングの発生するメカニズムについて観察すると、毛羽数が少ないことはピリングを発生する機会が減るため有効であることはもちろんであるが、無数にあるスケールなどで繊維表面が凸凹しているため、毛羽の一端が糸に巻き込まれずにでていると、毛羽が少なくても、徐々にお互いの毛羽が絡まりつき、長い間着用していると、ピリングが徐々に大きくなっていった。また毛羽の両端が糸に巻き込まれていたとしても、毛羽数が多い場合、ループとなった毛羽同士が重なるため、重なり合った毛羽が絡まりつき、長い間着用していると、ピリングが徐々に大きくなっていく。このため本発明目的の長時間の着用にも耐え得る抗ピリング性を得るには、鋭意検討した結果、毛羽数(B)が60以下であることが必要であり、かつ毛羽数(A)が150個以下であることが重要であることがわかった。
毛羽数(B)>60であると、つまり毛羽の一端が紡績糸断面の中心付近に撚り込まれていない長さ1mm以上の毛羽が紡績糸10m辺り60個を越えて存在すると、紡績糸断面の中心付近に撚り込まれていない毛羽の一端同士がお互いの毛羽が絡まりつき、長い間着用していると、毛羽がズルズルと抜けてきてピリングが発生する。下限は特に限定されないが、少なすぎると風合いが粗硬に感じられやすくなるため、10以上が好ましい。
また毛羽数(A)が150個を超えると、毛羽の両端が糸に巻き込まれていたとしても毛羽が重なりあい、ピリングが発生する。毛羽数は少ない方がより好ましいが、少なすぎると風合いが粗硬に感じやすくなるため、50個以上が好ましい。
・・・」

そうすると、本件発明1は、表面に無数のスケールによる凸凹のために、毛羽が絡まりやすく、その結果ピリングが徐々に大きくなりがちな動物繊維において、ピリングの発生を少なくしようとすることを課題とするものである。そのために、本件発明1は、ピリング発生につながる、毛羽の絡まりつきを減らすために、毛羽自体の個数を、紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数を150個以下とすることに加えて、紡績糸断面の中心付近に撚り込まれていない長さ1mm以上の毛羽の一端同士がお互いの毛羽が絡まりつきを少なくするために、毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数(B)を60個以下としたものであり、そうすることで、無数のスケールによる凸凹が存在する動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸においても、ピリングの発生を少なくすることができる、との格別な効果を奏するものである。

一方、甲1には、動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸において、該紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数を150個以下とすることに加えて、毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている長さ1mm以上の毛羽数を60個以下と特定することは、記載されていないし、示唆する記載もない。
甲5には、段落【0026】の【表1】に「実施例1」?「実施例3」が記載されていて、それぞれの「合撚糸」の「1mm以上毛羽指数(コ/10m)」が、「128」、「94」及び「109」、「ループ状毛羽数(コ/10m)」が、それぞれ、「103」、「71」及び「92」であるから、毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数は、差し引き「25」、「23」及び「17」であると解される。しかし、甲5の段落【0025】の記載によれば、「実施例1」?「実施例3」の合撚糸は、綿とポリエステルを合撚するものであって、動物繊維を少なくとも一部に用いてなるものではない。
甲8には、毛羽数を「150コ/10m」とするものではあるものの、毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数を60個以下とすることの記載はない。
また、上記のことは、他の甲2?4、6、7、9、10、及び、申立人が平成29年12月19日に提出した意見書に添付された甲11?15にも、記載されていないし、示唆する記載もない。

そもそも、甲1には、動物繊維について、「【0022】なお、ステープル2の素材としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル繊維のステープル、その他の合成繊維のステープル、又は、これらの混合された繊維等が挙げられ、繊維の断面形状としては丸断面の他に三角断面、中空断面、多葉断面のいずれの断面を有していても良く、さらに異繊度、異繊維長混合であっても良い。・・・」(下線は当審が付した)との記載があるのみで、動物繊維表面が無数に覆われることにより凸凹が存在することについての記載もなく、示唆する記載もないから、甲1発明において、上記相違点に係る構成を備えることの動機付けがあるとはいえない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲5事項又は甲10事項、並びに、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記(2)に示したように、本件発明1は、甲1発明、甲5事項又は甲10事項、甲8事項、並びに、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2及び3のいずれも、甲1発明、甲5事項又は甲10事項、甲8事項、並びに、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人が提出した平成29年12月19日付け意見書について
申立人は上記意見書において、甲11?15を提出して、本件訂正後の請求項1に特定されたI係数またはL係数が1.5?3.0は、従来周知の値であり、本件発明1?3は、甲1発明、甲5事項又は10事項、甲8事項、並びに従来周知の事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1?3の各々に係る特許は、特許法第113条第2項の規定により取り消すことはできない、旨主張しているから検討する。
上記(2)イ.において示したように、動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸において、該紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数を150個以下とすることに加えて、毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている長さ1mm毛羽数についても特定し、60個以下とすることは、甲11?15にも記載されていないし、示唆する記載もないから、申立人の主張を採用することはできない。

(5)小括
上記(1)?(4)に示したとおり、本件発明1?3は、甲1発明、甲5事項又は10事項、甲8事項、並びに従来周知の事項から当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸であって、該紡績糸10mあたりに存在する長さ1mm以上の毛羽数(A)が150個以下であること、及び毛羽の一端のみが紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽数(B)が60個以下であり、I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.5?3.0であることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
I係数(紡績糸の構成本数が64本以下の場合)またはL係数(紡績糸の構成本数が64本を超える場合)が1.8?3.0であることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の紡績糸を用いてなることを特徴とする布帛。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-05 
出願番号 特願2013-63416(P2013-63416)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 久保 克彦
蓮井 雅之
登録日 2017-01-20 
登録番号 特許第6075148号(P6075148)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 紡績糸およびそれを用いてなる布帛  

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