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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  F02P
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F02P
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  F02P
審判 全部申し立て 2項進歩性  F02P
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F02P
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F02P
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F02P
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  F02P
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  F02P
管理番号 1340080
異議申立番号 異議2016-701111  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-30 
確定日 2018-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5928531号発明「点火コイル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5928531号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5928531号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5928531号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年5月13日付けでその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成28年6月1日)がされ、その後、平成28年11月30日に特許異議申立人 中條澄子(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされ、平成29年2月21日付けで取消理由が通知され、平成29年4月25日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年6月8日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成29年7月12日付けで特許異議申立人から意見書が提出され、平成29年9月22日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年11月1日に面接がされ、平成29年11月21日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年12月8日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成30年1月12日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する。なお、下線部は訂正箇所を示す(訂正事項2以降についても同様。)。
「【請求項1】
少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a?101d)によって、前記側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体(10、10a?10d)を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a?103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていないことを特徴とする点火コイル(1a、1d)」

(2)訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正することを請求する。
「【請求項2】
少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
前記側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a?101d)によって覆った側面鉄心モールド体(10、10a?10d)を具備し、
その一部を前記絶縁樹脂から露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a?103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記絶縁樹脂を充填したときに、前記成型特異点の表面を覆うように前記絶縁樹脂を引き上げるべく、前記成型特異点の近傍に前記コアカバーの一部を外側に向かって突出せしめた突起部(104、104_(1)、104_(2)、104_(3))を具備する、点火コイル(1b)」

(3)訂正事項3
特許権者は、明細書の段落【0011】を以下のとおり訂正することを請求する。
「【0011】
本発明の点火コイル(1a、1d)では、少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心(13)と前記側面鉄心(100)とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線(12)の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a?101d)によって、前記側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体(10、10a?10d)を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a?103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていない。」

(4)訂正事項4
特許権者は、明細書の段落【0013】に、「【図1A】本発明の第1の実施形態における点火コイル1の上面図」と記載されているのを、「【図1A】本発明の基本構成を示す第1の形態における点火コイル1の上面図」に訂正することを請求する。

(5)訂正事項5
特許権者は、明細書の段落【0014】に、「本発明の第1の実施形態のける点火コイル1」と記載されているのを、「本発明の基本構成を示す第1の形態における点火コイル1」に訂正することを請求する。

(6)訂正事項6
特許権者は、明細書の段落【0015】に、「本発明の点火コイル1は、」と記載されているのを、「本形態の点火コイル1は、」に訂正することを請求する。

(7)訂正事項7
特許権者は、明細書の段落【0021】に、「本発明の点火コイル1」と記載されているのを、「本形態の点火コイル1」に訂正し、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。

(8)訂正事項8
特許権者は、明細書の段落【0023】に、「本発明の要部」と記載されているのを、「本形態の要部」に訂正することを請求する。

(9)訂正事項9
特許権者は、明細書の段落【0025】に、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。

(10)訂正事項10
特許権者は、明細書の段落【0026】に、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。

(11)訂正事項11
特許権者は、明細書の段落【0028】に、「本実施形態における」と記載されているのを、「本形態における」に訂正し、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。

(12)訂正事項12
特許権者は、明細書の段落【0030】に、「本実施例においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。

(13)訂正事項13
特許権者は、明細書の段落【0033】に、「上記実施形態と」と記載されているのを、「上記形態と」に訂正することを請求する。

(14)訂正事項14
特許権者は、明細書の段落【0034】に、「第1の実施形態においては」と記載されているのを、「第1の形態においては」に訂正することを請求する。

(15)訂正事項15
特許権者は、明細書の段落【0037】に、「第1の実施形態と」と記載されているのを、「第1の形態と」に訂正することを請求する。

(16)訂正事項16
特許権者は、明細書の段落【0049】に、「第1の実施形態と」と記載されているのを、「第1の形態と」に訂正することを請求する。

(17)訂正事項17
特許権者は、明細書の段落【0051】に、「第1の実施形態と」と記載されているのを、「第1の形態と」に訂正することを請求する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2の、請求項2に係る訂正は、引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項1ないし4は、請求項2ないし4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
訂正事項3、4及び6ないし17の、明細書に係る補正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5の、明細書に係る補正は、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正を認める。
また、本件訂正請求による訂正事項3ないし17は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の明細書について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)訂正後の請求項1に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、上記第2 1 (1)において示したとおりのものである。

(2)刊行物の記載
ア 甲第3号証
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲第3号証(実願平2-46352号(実開平4-5626号)のマイクロフィルム)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「本考案は、エンジンの点火コイル装置に関する。」(第2ページ第7行)

(イ)「従来、この種のエンジンの点火コイル装置にあっては、第14図に示すように、コイルケース5内に収納された各コイルユニット1,2,3の全体を覆うように、コイルケース5内に樹脂37を注入するようにしている。
(中略)
そのため、各コイルユニット1,2,3におけるコアの熱膨張,熱収縮による応力が厚みの薄くなった樹脂部分に集中して、クラックが生じやすくなっている。」(第2ページ第17行ないし第3ページ第15行)

(ウ)「本考案に係るエンジンの点火コイル装置にあっては、第5図および第6図に示すように、その構成部分が、3つのコイルユニット1,2,3と、その各コイルユニット1,2,3が並列的に設置されるコイルベース4と、そのコイルベース4の上に装着されるコイルケース5とからなっており、そのコイルケース5内における余地部分にエポキシなどの絶縁性をもった熱硬化性の樹脂がポッティングされて、各構成部分がー体となるように成形されている。
各コイルユニット1,2,3は、それぞれ第7図に示すように構成されている。
C型コア61の一辺に、一次コイル7が巻装されている一次側ボビン8がはめ込まれ、さらにその上から重ねて二次コイル9が巻装されている二次側ボビン10がはめ込まれている。
C型コア61は、一次側ボビン8がはめ込まれる一辺が裸出するように、コアカバー111内に入れられている。
そして、そのC型コア61の開放端の部分に、コアカバー112内に入れられたI型コア62が圧入によってはめ込まれて、1つの閉磁路型のコアが形成されている。
各コアカバー111,112は、コア61,62に生ずる熱ひずみを吸収できる比較的柔軟性のあるPP樹脂などによってモールド成形されている。」(第4ページ第17行ないし第6ページ第3行)

(エ)「また、二次側ボビン10の両側の鍔部には、それぞれ端子ホルダ13が設けられ、その各ホルダ13内には二次端子14がそれぞれ装着される。」(第6ページ第14行ないし第16行)

(オ)「そして、二次端子14には、二次端子ピン15のプラグ部151と共働するバネ性をもったソケット部141が形成されており、第6図および第1図に示すように、そのソケット部141に二次端子ピン15のプラグ部151が差し込まれて両者間の電気的な接続がとられるようになっている。」(第7ページ第5行ないし第10行)

(カ)「コイルケース5内には、第1図に示すように、その内部に配設される各コイルユニット1,2,3の各収納部分をそれぞれ仕切る隔壁33がコイルケース5側に一体に設けられて、それぞれ独立した各コイルユニット1,2,3の収納室34,35,36が形成されている。
そして、第2図に示すように、コイルベース4とコイルケース5とが組み合せられた状態で、各収納室34,35,36内に樹脂が注入され、その注入された樹脂37の硬化によって全体が一体となるように成形される。」(第12ページ第9行ないし第19行)

(キ)「このようなものにあって、本考案では、コイルケース5内を樹脂37によって充満させることなく、コイルベース4における閉塞部16の中途のレベルLまで樹脂を注入させるようにしたことを特徴としている。
しかして、各コイルユニットにおけるコアカバー111の一部が樹脂37の外部に露出していても、その露出部分がコイルベース4側の閉塞部16によって完全に封じ込められて、防水性が確保される。」(第13ページ第6ないし15行)

(ク)上記(ア)ないし(キ)及び第1図ないし第9図の記載からみて、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「少なくとも、一次コイル7と、二次コイル9と、前記一次コイル7の内側に配置したC型コア61の中心部と、前記二次コイル9の外側に配置したC型コア61の外側部及びI型コア62と、前記C型コア61の中心部と前記C型コア61の外側部及びI型コア62とを含むコイルユニット1,2,3と、前記二次コイル9の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図るプラグ部151と、をコイルベース4及びコイルケース5の内側に収容し、前記コイルケース5内に充填された樹脂37によって封止した点火コイル装置であって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー111,112によって、前記C型コア61の外側部及びI型コア62を覆ったコイルユニット1,2,3の外側部を具備し、
その一部を、前記コイルケース5内に充填された前記樹脂37から該樹脂37の外部に露出せしめる、
点火コイル装置。」

イ 甲第1号証
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲第1号証(特開2012-146896号公報)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0027】
また、前記外周鉄芯32の前記中心鉄芯30及び前記マグネット38との接続面を除いた周囲はPBTで成形されたモールド樹脂と接着するカバー50で覆われている。さらに、当該モールド樹脂と接着するカバー50のカバー側コイル対向面51a,51bにPET(ポリエチレンテレフタレート)で成形したモールド樹脂と剥離するテープ52を貼り付けている。」(段落【0027】)

(イ)「【0046】
また、前記モールド樹脂と接着するカバー50及び前記モールド樹脂と剥離するカバー54は係止等を用いて一体化してもよい。さらに、前記モールド樹脂と接着するカバー50を第1成形段階とし、前記モールド樹脂と剥離するカバー54を第2成形段階として二色成形で形成してもよい。」(段落【0046】)

(ウ)上記(ア)、(イ)及び図1ないし図7の記載からみて、甲第1号証には、次の技術(以下、「甲1技術」という。)が記載されているといえる。

「点火コイルにおいて、外周鉄芯32の一部を、成形されたカバー50によって覆った構成を具備する技術。」

(エ)また、上記(ア)、(イ)及び図1ないし図7の記載からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証に記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「少なくとも、1次巻線12と、2次巻線22と、前記1次巻線12の内側に配置した中心鉄心30と、前記2次巻線22の外側に配置した外周鉄心32と、前記中心鉄心30と前記外周鉄心32とを含む電磁回路と、前記2次巻線22の出力端と内燃機関に設けた点火プラグとの接続を図る高圧端子60と、をケース40の内側に収容し、前記ケース内に充填されたモールド樹脂90によって封止した点火コイル100であって、
PBTを用いた成形によって形成したカバー50によって、前記外周鉄心32の一部を覆った外周鉄心カバー体を具備し、
その一部を、前記ケース内に充填された前記モールド樹脂90から該モールド樹脂の外部に露出せしめる、点火コイル100。」

ウ 甲第2号証
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲第2号証(特開2008-277535号公報)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0003】
点火コイルの構成部材としてのコアは、その耐食性を向上させるために、例えばインサート成形して絶縁樹脂中に埋没させた形式のものが主流となっている。」(段落【0003】)

(イ)「【0006】
図7において、長尺又は大面積のインサート71の少なくとも片面を、溶融材料の注入充填時におけるインサート71の正位置からのずれを防止するために複数のインサートピン72で支持し、成形金型の製品キャビティ73内にインサート71を中空保持したまま、例えばゲート74から製品キャビティ内に溶融材料を注入、充填してインサート成形品が成形される。
【特許文献1】特開平10-258442号公報
【特許文献2】特開昭58-018222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、点火コイルの構成部材であるコアとしてインサート成形品を適用する場合、以下のような問題がある。すなわち、コア表面に形成されたインサート時の固定ピンを抜いたピン跡の凹状部がそのままになっていると、コアを含むコイル組立体をコイルケース内に嵌挿し、注型材として絶縁樹脂を注入したとき、ピン跡の凹状部と絶縁樹脂との界面に歪が生じ、この歪みに起因して絶縁樹脂にクラックが発生するという問題がある。」(段落【0006】及び【0007】)

(ウ)「【0038】
一次モールド樹脂被膜が形成されたコア部材は、図4中、上部平面1815と、下部の傾斜接合面181a及び凸状接合面181b、並びに6箇所の固定ピン跡1814a?1814f部分及び表裏12箇所の鍵穴形状のピン跡1816a?1816f部分に方向性珪素鋼板1811が露出したものとなる。
【0039】
本実施の形態においては、一次モールド樹脂被膜を有するコア部材の固定ピン跡1814a?1814f及び1816a?1816fをモールド樹脂によって埋めるために、一次モールド樹脂被膜を更にモールド樹脂で覆って二次モールド樹脂被膜を形成する。すなわち、一次モールド樹脂被膜の形成時と同様、図4における上部平面1815、下部の傾斜接合面181a及び凸状接合面181bをそれぞれ金型の一部で支持し、必要に応じて一次モールド樹脂被膜面上の任意の部分を支持し、この状態で製品キャビティ内に溶融材料を注入、充填し、一次モールド樹脂被膜の表面に、例えば厚さ0.5mm?2.0mmの二次モールド樹脂被膜を形成し、これによってピン跡1814a?1814f及びピン跡1816a?1816fをモールド樹脂で埋める。このとき、例えば鍵穴状のピン跡1816a?1816fがモールド樹脂によって埋められた、上記鍵穴状の円弧部分の中心部が押し出しピンによる押し出し部となる。
【0040】
コア部材182(図3参照)についても、コア部材181と同様に処理し、一次モールド樹脂被膜を二次モールド樹脂被膜によって覆い、一次モールド樹脂被膜形成時の固定ピン跡が塞がれる。
【0041】
このようにして形成された二つのコア部材181と182を組み合わせることによってコア18が形成され、コア18は、点火コイルにおけるコイル組立体の構成部材として適用される。
【0042】
すなわち、一次コイルが巻装された円筒状の一次コイルボビン11の外側に、一次コイルボビン11よりも径が大きく、二次コイルが巻装された円筒状の二次コイルボビン12を配置してコイル対を形成し、次いで、コア部材181の傾斜接合面181aに板状のマグネット20を接合し、コの字状のコア部材181の傾斜接合面側の端部を、コイル対の上方から、一次コイルボビン11の中心空間に嵌挿し、もう一つのコア部材182の傾斜接合面182a側の端部をコイル対の下方から同様に一次コイルボビン11の中心空間に嵌挿し、コイルボビン11の中心空間内で傾斜接合面181aと182aを接合させ、このとき、コイル対の外側で、凹凸状の接合面181bと182bとを嵌合させ、これによってコア18としての閉磁路を形成する。このようにして一次コイルと二次コイルとが同心円状に配置されたコイル対の中心空間にコア18のセンターコア部位分18aが嵌挿され、センターコア18aと平行なサイドコア18bが二次コイルボビン12の外表面に沿って配置されたコイル組立体10が形成される。コイル組立体10は、図1に示したように、ハウジング1に嵌挿され、各構成部材相互間に絶縁樹脂が充填されて点火コイルとなる。
【0043】
本実施の形態において、一次モールド樹脂被膜形成時のピン跡1814a?1814f及び1816a?1816fである凹状部にモールド樹脂を充填して凹状部を塞いだことによって、コア部材181及び182の表面における凹凸が緩和されるので、このコア部材181と182を組み合わせたコア18を構成部材としたコイル組立体10(図1参照)をハウジング1内に嵌挿し、絶縁樹脂を注入、充填した点火コイルにおいて、コア181、182の表面のピン跡の凹状部と注型材としての絶縁樹脂との界面における歪みを抑制し、これによって絶縁樹脂におけるクラックの発生を防止することができる。
【0044】
本実施の形態において、二次モールド樹脂の被膜厚さを0.5?2.0mmとしたので、ピン跡1814a?1814f及び1816a?1816fである凹状部をモールド樹脂で塞ぐ工程を簡素化できると共に、モールド樹脂の使用量を適量にすることができる。
【0045】
本実施の形態においては、一次モールド樹脂被膜を形成する際に被膜面に形成される固定ピン跡を樹脂で塞ぐために、一次モールド樹脂被膜を樹脂で覆って二次モールド樹脂被膜を形成したが、本発明は、これに限定されるものではなく、ピン跡の凹状部のみをモールド樹脂で塞ぐようにしてもよい。」(段落【0038】ないし【0045】)

(エ)「【0063】
本実施の形態によれば、点火コイルの構成部材であるコアが、モールド樹脂によって被覆されており、且つモールド樹脂被膜に形成された該モールド樹脂被膜形成時のコア固定ピンが抜かれたピン跡1814a?1814f及び1816a?1816fに、さらにモールド樹脂を充填してピン跡の凹状部が埋められているので、コア表面のピン跡の凹状部と注型材としての絶縁樹脂との界面における歪を抑制して絶縁樹脂におけるクラックの発生を防止することができる。」(段落【0063】)

(オ)上記(ア)ないし(エ)及び図1ないし図7の記載からみて、甲第2号証には、次の技術が記載されているといえる。

「鉄心に一次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した時点で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹状部を絶縁樹脂によって埋める技術。」(段落【0007】に記載された従来技術。以下、「甲2技術1」という。)

「固化した一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹凸を二次モールド樹脂被膜のモールド樹脂によって緩和する技術。」(段落【0043】に記載された技術。以下、「甲2技術2」という。)

「一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した状態で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、二次モールド樹脂被膜の表面に残存する凹状部を絶縁樹脂によって埋めて塞ぐ技術。」(段落【0043】及び【0063】に記載された技術。以下、「甲2技術3」という。)

(3)対比・判断
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「一次コイル7」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「一次巻線」に相当し、以下同様に、「二次コイル9」は「二次巻線」に、「C型コア61の中心部」は「中心鉄心」に、「C型コア61の外側部及びI型コア62」は「側面鉄心」に、「コイルユニット1,2,3」は「昇圧トランス」に、「プラグ部151」は「高圧端子」に、「コイルベース4及びコイルケース5」は「ハウジング」に、「樹脂37」は「絶縁樹脂」に、「点火コイル装置」は「点火コイル」に、「コアカバー111,112」は「コアカバー」に、「コイルユニット1,2,3の外側部」は「側面鉄心モールド体」に、それぞれ相当する。

したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致する。

「少なくとも、一次巻線と、二次巻線と、前記一次巻線の内側に配置した中心鉄心と、前記二次巻線の外側に配置した側面鉄心と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランスと、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子と、をハウジングの内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバーによって、前記側面鉄心を覆った側面鉄心モールド体を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめる、
点火コイル装置。」

そして、両者は、以下の点で相違する。

〔相違点〕
ア 本件発明1においては、「モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバーによって、側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体を具備」するのに対し、甲3発明においては、「モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバーによって、C型コアの外側部及びI型コアを覆ったコイルユニットの外側部を具備」するものの、「側面鉄心の一部」を覆ったか否か明らかでない点(以下、「相違点1」という)。

イ 本件発明1においては、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、該成型特異点を、ハウジング内に充填された絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する一部には、前記成型特異点が設けられていない」のに対し、甲3発明においては、そのような構造を有するか否か明らかでない点(以下、「相違点2」という)。

上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
相違点1について検討すると、甲第1号証には、上記のように、
「点火コイルにおいて、外周鉄心の一部を成形されたカバーによって覆った構成を具備する技術。」(甲1技術)が記載されている。
そして、甲3発明と甲1技術とは、ともに、エンジンの点火コイル装置において、コイルを絶縁樹脂で覆う技術に関するものである。
してみれば、甲3発明において、甲1技術を参照して、「C型コアの外側部及びI型コア」の「一部」を「モールド成形によって形成したコアカバーによって覆ったコイルユニットの外側部を具備」するように設計変更することにより、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

(イ)相違点2について
相違点2について検討する。
a 甲2技術1の適用について
本件発明1における「絶縁樹脂」は、一次巻線、二次巻線、中心鉄心、側面鉄心等、ハウジング内に収容された構成部品を封止するものであって、「ハウジング内に充填された絶縁樹脂」である。
これに対し、甲第2号証には、従来技術として、
「鉄心に一次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した時点で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹状部を絶縁樹脂によって埋める技術。」(甲2技術1)
が記載されている。
しかし、甲2技術1は、
「コアを含むコイル組立体をコイルケース内に嵌挿し、注型材として絶縁樹脂を注入したとき、ピン跡の凹状部と絶縁樹脂との界面に歪が生じ、この歪みに起因して絶縁樹脂にクラックが発生するという問題がある。」(甲第2号証の段落【0007】)という問題を有するものであるから、当業者は、甲3発明において甲2技術1を適用することには、阻害要因がある。

また、甲第2号証の段落【0003】等の記載から、甲2技術1においては、鉄心はその全体が注型材としての絶縁樹脂中に埋没しているものと解される。
したがって、甲2技術1には、本件発明における「その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめる」という構成が記載されていない
それに対し、本件発明1は、その発明の前提として、
「従来の点火装置のように、昇圧トランスの全てを外装ケース内に収容し、その周囲を注形絶縁樹脂で覆って、密封した場合、昇圧トランスやケース内に収容されたスイッチングモジュールから放出された熱の廃熱性が低下して、スイッチング素子の応答性を低下させたり、冷熱ストレスによる熱応力が高くなり注形絶縁樹脂や外装ケース等に亀裂を生じたりする問題があった。」(本件特許明細書の段落【0002】)という課題があり、
「このような問題に対して、昇圧トランスの一部を収容ケースから露出させることにより、放熱性の向上と、熱応力の抑制を図ることにより、注形絶縁樹脂や外装ケース等に亀裂を抑制できると考えられる。」(同段落【0003】)という解決手段により、
「放熱性を向上させ、冷熱ストレスに対する耐久性を向上できる」(同段落【0004】)という作用効果を有するものである。
ところが、甲3発明において、甲2技術1を適用すると、鉄心全体が注型材としての絶縁樹脂に埋没されることになるから、本件発明1の前提となる課題を解決できないものとなる。
したがって、この点からも、甲3発明において甲2技術1を適用することには阻害要因がある。

よって、甲3発明において、甲2技術1を適用することは容易ではなく、仮に甲2技術1を適用したとしても、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。

なお、この点につき、異議申立人は、平成30年1月12日付け意見書において、「また、「埋没」という用語自体で、コア全体が絶縁樹脂内に埋められ、その結果、そのコアは、絶縁樹脂の表面から外部に露出する部分を有しないと解釈するのはいささか強引である。・・・甲2号証において、「コアが、絶縁樹脂中に埋没、つまり、絶縁樹脂の樹脂表面から露出することなく、全体が絶縁樹脂に埋まっている」と解釈するのは強引であり、不合理である。」(第35ページ第7行ないし第18行)と主張するが、「埋没」とは、一般的に、「埋れかくれること。埋れて見えなくなること。」という意味であるから、上記のように、コア全体が絶縁樹脂内に埋められ、その結果、そのコアは、絶縁樹脂の表面から外部に露出する部分を有しないと解釈することは、ごく自然なことである。

b 甲2技術2の適用について
甲第2号証には、
「固化した一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹凸を二次モールド樹脂被膜のモールド樹脂によって緩和する技術。」(甲2技術2)
が記載されている。
しかしながら、甲2技術2における二次モールド樹脂被膜は、ハウジング内に充填するものではないから、技術的な意義からみて、本件発明1における「ハウジング内に充填された絶縁樹脂」には相当しない。
したがって、甲3発明において、甲2技術2を適用しても、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。

c 甲2技術3の適用について
甲第2号証には、
「一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した状態で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、二次モールド樹脂被膜の表面に残存する凹状部を絶縁樹脂によって埋めて塞ぐ技術。」(甲2技術3)
が記載されている。
しかしながら、甲2技術3における「一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆」したものは、一次モールド樹脂被膜の表面のピン跡の凹状部が二次モールド樹脂被膜により埋められたものであるから、その技術的意義からみて、本件発明1における「側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバーによって覆った側面鉄心モールド体」に相当しない。
したがって、甲3発明において、甲2技術3を適用しても、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。

d まとめ
したがって、甲3発明において、甲2技術1ないし3を適用することにより、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到することができたとはいえない。

そして、本件発明1は、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、コアカバーの一部を絶縁樹脂の表面から露出させることで放熱性を良好にすると共に、冷熱ストレスを開放し易くし、コアカバーや、絶縁樹脂、ハウジング等に亀裂を生じ難くするとともに、コアカバーの成形用イジェクタピンの位置等の成型特異点に発生する亀裂への水分侵入を抑制したり、亀裂の進展を阻止することで、信頼性の高い点火コイルを提供するという、格別な作用効果を奏するものである。

(4)結び
よって、本件発明1は、甲3発明、甲1技術及び甲2技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び3に係る特許について、甲第1号証ないし甲第16号証を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものであり、訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の事項及び甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨を主張する。
訂正前の請求項1に係る発明と、甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、
「少なくとも、一次巻線と、二次巻線と、一次巻線の内側に配置した中心鉄心と、二次巻線の外側に配置した側面鉄心と、中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランスと、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子と、をハウジングの内側に収容し、絶縁樹脂によって封止した点火コイルであって、
側面鉄心の一部を成形によって形成したカバーによって覆った側面鉄心体を具備し、
その一部を絶縁樹脂から外部に露出せしめる、点火コイル。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
訂正前の請求項1に係る発明においては、「側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバーによって覆った側面鉄心モールド体を具備し」、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、成型特異点を、絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、絶縁樹脂により成型特異点を埋設し、かつ、側面鉄心モールド体において、外部に露出する前記一部には、成型特異点が設けられていない」のに対し、
甲第1号証に記載の発明においては、「外周鉄心の一部を成形によって形成したカバーによって覆った外周鉄心カバー体を具備」するものの、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、成型特異点を、絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、絶縁樹脂により成型特異点を埋設し、かつ、側面鉄心モールド体において、外部に露出する前記一部には、成型特異点が設けられていない」とはいえない点(以下、「相違点A」という。)。
相違点Aについて判断する。
甲第1号証には、「【0027】
また、前記外周鉄芯32の前記中心鉄芯30及び前記マグネット38との接続面を除いた周囲はPBTで成形されたモールド樹脂と接着するカバー50で覆われている。さらに、当該モールド樹脂と接着するカバー50のカバー側コイル対向面51a,51bにPET(ポリエチレンテレフタレート)で成形したモールド樹脂と剥離するテープ52を貼り付けている。」と記載されている。ここで、「PBTで成形されたモールド樹脂と接着するカバー50」という記載は、「PBTで成形され、モールド樹脂と接着するカバー50」という意味であって、PBTでどのようにして成形されたか不明であるから、甲第1号証に記載の発明における「成形によって形成したカバー50」は、モールド成形によるものかどうか不明である。
そうすると、甲第1号証に記載の発明における「成形によって形成したカバー50」には、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位」である「成型特異点」が生じるかどうかも不明であるから、「成型特異点を、絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり樹脂表面から露出しない位置に設け、絶縁樹脂により成型特異点を埋設し、かつ、側面鉄心モールド体において、外部に露出する一部には、成型特異点が設けられていない」とすることもできない。
また、甲第1号証に記載の発明には「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位」が生じるかどうかも不明であるから、甲第1号証に記載の発明に、甲第2号証に記載の事項を適用することはできない。
よって、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものとはいえず、同様に、訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の事項及び甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明及び訂正前の請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び2に係る特許について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨を主張する。
ア 異議申立の内容
(ア)「少なくとも、・・・中心鉄心(13)と、・・・側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、・・・をハウジング(30)の内側に収容し、」という記載が不明である。
(イ)「その一部」という記載が不明である。
(ウ)「・・・イジェクタピン痕(102、102b)、及び/又は、ゲート痕(103、103a?103d)、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの又は複数を、成型特異点と称し、」という記載が不明である。
(エ)「ゲート痕に対向する部位」という記載が不明である。
(オ)「前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設している」という記載において、「埋設」という用語の意味が不明である。
(カ)成型特異点が複数存在する場合にその一部でも絶縁樹脂により埋設されていれば足りると解釈できる余地のある請求項1の記載では、本件明細書に記載された発明の効果を達成することができないから、発明が不明確である。

イ 判断
(ア)について
請求項1において、中心鉄心(13)と側面鉄心(100)の配置について記載されており、「少なくとも、・・・中心鉄心(13)と、・・・側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、・・・をハウジング(30)の内側に収容し、」という記載が不明確とはいえない。
(イ)について
請求項1において、「その一部」とは、「側面鉄心モールド体の一部」であり、記載が不明確とはいえない。
(ウ)について
モールド成形の際にイジェクタピン、ゲート、可動式押さえピン、固定式押さえピンのいずれを使用するかによって、イジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕が生じるから、それらのいずれかの又は複数を、成型特異点と称するものである。
したがって、「・・・イジェクタピン痕(102、102b)、及び/又は、ゲート痕(103、103a?103d)、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの又は複数を、成型特異点と称し、」という記載が不明確とはいえない。
(エ)について
訂正明細書を参照すると、「本形態においては、ゲート痕103は、表面に露出しているが、ウェルドラインWLが形成され易い、側面鉄心100を挟んでゲート痕103に対向する部位は、絶縁樹脂40の内側に埋設されている。」(段落【0026】)と記載されており、「ゲート痕に対向する部位」とは、「側面鉄心100を挟んでゲート痕103に対向する部位」であると解される。
したがって、請求項1における「ゲート痕に対向する部位」という記載が不明確とはいえない。
(オ)について
訂正明細書を参照すると、「本発明では、ウェルドラインやボイド等の内部欠陥を生じ易い成型特異点を所定の絶縁樹脂で覆うことで、内部への浸水を阻止したり、クラックの進展を抑制したりして、点火コイルの耐久性の向上を図ろうとするものである。」(段落【0014】)、「本形態においては、コアカバー101の表面に形成されたイジェクタピン痕102が、絶縁樹脂40から露出しないよう、樹脂表面41よりも内側となる位置に設けてある。」(段落【0021】)、「本形態においては、イジェクタピン痕102は、絶縁樹脂40の樹脂表面41から露出しない位置となっており、絶縁樹脂40によって封止されている。」(段落【0025】)と記載されているから、請求項1における「絶縁樹脂により成型特異点を埋設している」とは、成型特異点が、絶縁樹脂から露出しないよう、絶縁樹脂の表面よりも内側となる位置に設けてある、という意味であることが分かる。
また、一般的な用語として、「埋設」とは、「地中に埋めてとりつけること」という意味であるから、上記の解釈と整合している。
したがって、請求項1における「埋設」という記載が不明確とはいえない。
(カ)について
請求項1については、「かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていない 」と限定する訂正がされ、絶縁樹脂の外部に露出する部分には成型特異点が設けられていないことが明らかになった。
また、請求項2について検討すると、成型特異点が複数存在する場合にその一部でも絶縁樹脂により埋設されていれば、その部分について、内部への浸水を阻止したり、クラックの進展を抑制したりして、点火コイルの耐久性の向上を図ることができ、訂正明細書に記載された発明の効果を達成することができるから、請求項2の記載が不明確とはいえない。

ウ 小括
したがって、請求項1及び2は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、特許異議申立人の主張は理由がない。

(3)特許異議申立人は、訂正前の請求項3及び4に係る特許について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨を主張する。
ア 異議申立の内容
(ア)請求項3に係る発明は、本件明細書中、第4の実施形態(図9A-9B,図10A-10B)に関する記載によってサポートされているように見えるが、請求項3の記載が請求項1の記載を引用する形式で記載されている以上、請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明をサポートする第1、第5および第6の実施形態に関する記載によってサポートされることが必要であるところ、そのようなサポートがない。
(イ)請求項4に係る発明は、本件明細書中、第3の実施形態(図7A-7C,図8A-8B)に関する記載によってサポートされているように見えるが、請求項2または3の記載を介在させて請求項1の記載を引用する形式で記載されている以上、請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明をサポートする第1、第5および第6の実施形態に関する記載によってサポートされることが必要であるところ、そのようなサポートがない。

イ 判断
(ア)について
請求項3に係る発明は、訂正明細書の段落【0046】ないし【0048】の記載並びに図9A、9B、10A及び10Bによってサポートされているのであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
(イ)について
請求項4に係る発明は、訂正明細書の段落【0037】ないし【0045】の記載並びに図7A、7B、7C、8A及び8Bによってサポートされているのであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(4)小括
したがって、請求項3及び4に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、特許異議申立人の主張は理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
点火コイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火プラグに高電圧を供給するための点火コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、収納部、コネクタ、及び高圧タワーが形成された絶性樹脂製の外装ケースと、中心鉄心及び該中心鉄心と協働して閉磁路を構成する側方鉄心からなる鉄心、該中心鉄心を囲繞するように配設された一次巻線、および該一次巻線を囲繞するように配設された二次巻線を有し、前記収納部内に収納される昇圧トランスと、前記収納部内に充填硬化され、前記昇圧トランスを埋設する注形絶縁樹脂と、を備えた内燃機関用点火装置が開示されている。
従来の点火装置のように、昇圧トランスの全てを外装ケース内に収容し、その周囲を注形絶縁樹脂で覆って、密封した場合、昇圧トランスやケース内に収容されたスイッチングモジュールから放出された熱の廃熱性が低下して、スイッチング素子の応答性を低下させたり、冷熱ストレスによる熱応力が高くなり注形絶縁樹脂や外装ケース等に亀裂を生じたりする問題があった。
【0003】
このような問題に対して、昇圧トランスの一部を収容ケースから露出させることにより、放熱性の向上と、熱応力の抑制を図ることにより、注形絶縁樹脂や外装ケース等に亀裂を抑制できると考えられる。
しかし、閉磁路を構成する側方鉄心には、積層ケイ素鋼板等が用いられており、絶縁樹脂から露出する部分の防水性、絶縁性を確保する必要がある。
【0004】
そこで、予め、側方鉄心の一部を、シリコーン樹脂、EPDM、PET樹脂やPBT樹脂などの熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂等の絶縁樹脂を用いて覆うことにより、絶縁性、防水性を確保した上で、昇圧トランスの一部を収容ケースから露出させることが可能となり、放熱性を向上させ、冷熱ストレスに対する耐久性を向上できると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-299614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、側面鉄心の一部を絶縁樹脂からなるコアカバーで覆った側面鉄心モールド体をインサート成形等の方法により形成した場合、金型から側面鉄心モールド体をイジェクタピンによって押し出す際に、コアカバーの表面に窪みが形成され、その部分の肉厚が薄くなることがある。
あるいは、コアカバー側面に金型内に樹脂を注入するためのゲートを設けたときには、ゲート位置若しくはゲートに対向する位置において、急激な樹脂流れ方向の変化や、樹脂の合流界面の形成により、ウェルドラインやボイドといったコアカバー内部若しくは、表面に微細な欠陥を生じることもある。
【0007】
コアカバーにこれらのような肉厚の薄い部分やウェルドライン等の欠陥があると、局所的な強度低下を招くおそれがある。
このような状態で、実車に搭載されて冷熱環境下に晒されると、コアカバー側面の絶縁樹脂液面境界付近は、絶縁樹脂のある部分とない部分で応力分布が変るため、コアカバーの局所的に強度の低い部分への応力集中により、亀裂を生じ易くなるおそれもあった。
【0008】
さらに、イジェクタピン痕の位置あるいはゲートの位置が絶縁樹脂から露出している場合、外部からの被水、結露等によって生じた水分が発生した亀裂内に侵入して、側面鉄心の腐食を招くおそれもあった。
側面鉄心が腐食によって膨張すると、周囲の注形絶縁樹脂にも亀裂を生じさせることにもなり、コイル内部の高電圧が外部へリークする等の著しい性能低下を招くことになる。
【0009】
また、車両整備点検時には、点火コイルの脱着を行うことがあり、その際、誤って、点火装置の一部をエンジン、ボディ、他の電装品、工具等にぶつけることがあり、樹脂成形部のイジェクタピン位置又はゲート位置若しくは、ゲートに対向する部位において局所的な強度低下が発生していると、外部からの衝撃が加わったときに、亀裂の進展を招くおそれもあった。
特に、点火コイルの搭載角度が水平に近い角度になる場合には、コアカバーの水平面にイジェクタピン痕あるいはゲート痕が露出していると、そこに水分が溜まり易く、より一相亀裂を生じ易くなるおそれがあった。
【0010】
そこで本発明は、かかる実情に鑑み、コアカバーの成形用イジェクタピンの位置等の成型特異点に発生する亀裂への水分侵入を抑制したり、亀裂の進展を抑制することで、信頼性の高い点火コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の点火コイル(1a、1d)では、少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a?101d)によって、前記側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体(10、10a?10d)を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a?103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記側面鉄心モールド体の形成の際に、イジェクタピンによって前記コアカバーの表面が押圧されて形成された窪み状の前記イジェクタピン痕や、前記ゲート痕、若しくは、前記ゲート痕に対向する部位等の成型特異点に、ウェルドラインやボイド等の内部欠陥が形成されても、前記絶縁樹脂に覆われているため、当該部分の局所的な強度低下が補われ、信頼性の高い点火コイルが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明の基本構成を示す第1の形態における点火コイル1の上面図
【図1B】図1Aの点火コイル1の縦断面図
【図1C】本発明の点火コイルを用いた点火装置の回路図
【図2A】本発明の要部であり、図1Aの点火コイルに用いられる側面鉄心モールド体10の上面図
【図2B】図2Aの側面鉄心モールド体10の正面図
【図2C】図2Aの側面鉄心モールド体10の底面図
【図2D】図2Aの側面鉄心モールド体10の側面図
【図3A】図2Aの側面鉄心モールド体10の製造に用いられるモールド金型M1、M2の概要を示す平面図
【図3B】図3Aに続くインサート時の状態を示す図3A中A-Aに沿った断面図
【図3C】図3Bに続く樹脂充填時の状態を示す図3A中A-Aに沿った断面図
【図3D】図3Cに続くモールド体取出時の状態を示す図3A中A-Aに沿った断面図
【図4A】本発明の第2の実施形態における点火コイル1aの上面図
【図4B】図4Aの点火コイル1aの縦断面図
【図5A】本発明の第2の実施形態における側面鉄心モールド体10aの上面図
【図5B】図4Aの側面鉄心モールド体10aの正面図
【図5C】図4Aの側面鉄心モールド体10aの底面図
【図5D】図4Aの側面鉄心モールド体10aの側面図
【図6A】本発明の第2の実施形態における側面鉄心モールド体10aの製造に用いられるモールド金型M1a、M2aの概要を示す平面図
【図6B】図6Aに続くインサート時の状態を示す断面図
【図6C】図6Bに続く樹脂充填時の状態を示す断面図
【図6D】図6Cに続くモールド体取出時の状態を示す断面図
【図7A】本発明の第3の実施形態における点火コイル1aの上面図
【図7B】図6Aの点火コイル1aの縦断面図
【図7C】図7B中C-Cに沿った要部断面図
【図7D】突起部の変形例104_(1)を示す要部平面図
【図7E】突起部の他の変形例104_(2)を示す要部平面図
【図7F】突起部の他の変形例104_(3)を示す要部平面図
【図8A】発明の第3の実施形態における側面鉄心モールド体10bの樹脂充填時の状態を示す断面図
【図8B】図8Aに続くモールド体取出時の状態を示す断面図
【図9A】本発明の第4の実施形態における点火コイル1cの上面図
【図9B】図9Aの点火コイル1cの縦断面図
【図10A】発明の第4の実施形態における側面鉄心モールド体10cの製造に用いられるモールド金型M1c、M2cの概要を示す平面図
【図10B】図10Aに続く樹脂充填時の状態を示す断面図
【図11A】本発明の第5の実施形態における点火コイル1dの上面図
【図11B】図11Aの点火コイル1dの縦断面図
【図12A】本発明の第5の実施形態における側面鉄心モールド体10dの製造に用いられるモールド金型M1d、M2dの概要を示す平面図
【図12B】図11Aに続く樹脂充填時の状態を示す断面図
【図13A】点火コイルを水平に配設した状態を示す側面図
【図13B】図14Aの上面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、内燃機関の点火プラグに印加する高電圧を発生させるための点火コイルを成形する過程において、二次巻線12を覆うコアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位のいずれかを成型特異点と称する。
本発明では、ウェルドラインやボイド等の内部欠陥を生じ易い成型特異点を所定の絶縁樹脂で覆うことで、内部への浸水を阻止したり、クラックの進展を抑制したりして、点火コイルの耐久性の向上を図ろうとするものである。
本発明の基本構成を示す第1の形態における点火コイル1、及び本発明の要部である側面鉄心モールド体10の概要について、図1A、図1B、図1C、図2A、図2B、図2C、図2Dを参照して説明する。
【0015】
図1A、図1Bに示すように、本形態の点火コイル1は、一次巻線11と、二次巻線12と、一次巻線11の内側に配置した中心鉄心13と、二次巻線12の外側に配置した側面鉄心100と、中心鉄心13と側面鉄心100との間隙に配設した永久磁石14とからなる昇圧トランス17と、一次巻線11への電流の供給と遮断とを制御する回路モジュール20と、一次巻線11及び回路モジュール20と外部との接続を図るコネクタターミナル21と、二次巻線12の出力端と図略の点火栓との接続を図る出力中継端子120、高圧端子121、バネ端子122と、をハウジング30内に収容し、絶縁樹脂40によって封止してある。
【0016】
ハウジング30に設けたコネクタ31の内側には、一次巻線11の入力端、及び、イグナイタ20と外部との接続を図るコネクタターミナル21が引き出され、図略の電源及び制御装置に接続される。
また、ハウジング30には、筒状のプラグキャップ32が延設され、内燃機関に設けた点火プラグへの装着が可能となっている。
プラグキャップ32の内側には、出力中継端子120、高圧端子121を介して二次巻線12の出力端に接続されたバネ端子122が配設されている。
【0017】
ハウジング30内から、側面鉄心モールド体10の一部が露出するように配設され、絶縁樹脂40によって封止固定されている。
絶縁樹脂40には、エポキシ樹脂、等が用いられており、機械的強度向上のための繊維を添加した繊維強化樹脂や、放熱性向上のための放熱フィラーを添加したものを用いても良い。
【0018】
一次巻線11及び二次巻線12には、銅、アルミニウム等の導体の表面に、エナメル、ポリウレタン、ポリエステル等の絶縁を施した公知の絶縁電線が用いられている。
一次巻線11は、一次側ボビン150に所定回数N1だけ巻回されている。
一次巻線11の一方の端は、コネクタターミナル21を介して外部に設けた図略の電源に接続されている。
一次巻線11の他方の端は、回路モジュール20に接続されている。
【0019】
二次巻線12は、二次側ボビン151に所定回数N2だけ巻回されている。
二次巻線12の一方の端は、ダイオード16を介して一次巻線11の一方の端に接続されている。
二次巻線12の他方の端は、出力中継端子120、高圧端子121、バネ端子122に接続されており、内燃機関に設けた点火プラグの中心電極に接続できるようになっている。
【0020】
回路モジュール20は、外部に設けた図略のECUに接続され、ECUから発信された点火信号IGtにしたがって、一次巻線11への通電と停止とを制御する。
回路モジュール20には、パワーMOSFETやIGBT等のスイッチング素子やスイッチング素子を開閉駆動するためのドライバ、制御IC等が内蔵されている。
点火コイル1は、回路モジュール20によって制御され、一次巻線11への通電と遮断を行うことにより、一次巻線11の巻回数N1と二次巻線12の巻回数N2との比N2/N1に比例する二次電圧を発生させることができる。
【0021】
本形態の点火コイル1では、側面鉄心100の一部がモールド成形用樹脂を用いて成形されたコアカバー101によって覆われた側面鉄心モールド体10を構成しており、コアカバー101の一部が、絶縁樹脂40の表面から露出している。
本形態においては、コアカバー101の表面に形成されたイジェクタピン痕102が、絶縁樹脂40から露出しないよう、樹脂表面41よりも内側となる位置に設けてある。
【0022】
中心鉄心13は、帯状のケイ素鋼板を複数枚積層して柱状としたものであり、励磁コアを構成している。
側面鉄心100は、コ字型に形成したケイ素鋼板を複数積層したものである。
側面鉄心100と中心鉄心13との間隙には永久磁石14が配設されている。
側面鉄心100と中心鉄心13との協働により閉磁路を形成している。
【0023】
本形態の要部である側面鉄心モールド体10は、図2A、図2Bに示すように、側面鉄心100の一部を、モールド成形により一体に形成した樹脂製のコアカバー101によって覆ったものである。
コアカバー101は、PET樹脂、PBT樹脂等のモールド樹脂材料からなり、機械的強度向上のための繊維を添加した繊維強化樹脂や、放熱性向上のための放熱フィラーを添加した放熱性向上樹脂を用いても良い。
【0024】
側面鉄心モールド体10の具体的な製造方法については、図3A?3Dを参照して、後述するが、コアカバー101は、トランスファー成型、射出成型、圧縮成形のいずれの成型方法でも形成することができる。
コアカバー101の一部は、絶縁樹脂40の表面から外部に露出している。
コアカバー101の一部を絶縁樹脂40の表面から露出させることにより、放熱性を良好にすると共に、冷熱ストレスを開放し易くし、コアカバー101や、絶縁樹脂40、ハウジング30等に亀裂を生じ難くしている。
【0025】
コアカバー101の表面には、モールド成型する際に金型に設けたキャビティ内に樹脂を充填するためのゲート位置に形成されるゲート痕103あるいは金型から排出する際にイジェクタピンによって押圧されたときのイジェクタピン痕102、及び、金型の分割面に沿ってパーティングラインラインPLが形成される。
本形態においては、イジェクタピン痕102は、絶縁樹脂40の樹脂表面41から露出しない位置となっており、絶縁樹脂40によって封止されている。
【0026】
本形態においては、ゲート痕103は、表面に露出しているが、ウェルドラインWLが形成され易い、側面鉄心100を挟んでゲート痕103に対向する部位は、絶縁樹脂40の内側に埋設されている。
【0027】
ハウジング30には、コネクタ31が形成され、外部との接続を図るコネクタハーネスが装着可能となっている。
ハウジング30には、プラグキャップ32が形成され、図略の点火プラグの頭部に装着されるようになっている。
ハウジング30には、フランジ33が形成され、エンジンヘッド等に固定できるようになっている。
【0028】
ここで、図3A、図3B、図3C、図3Dを参照して、本形態における点火コイル1の要部である側面鉄心モールド体10の製造方法について説明する。
図3Aに示すように、一対のモールド成型用の金型M1、M2には、側面鉄心100を収容保持するためのコアインサート用キャビティCV(100)と、コアカバー101を充填するためのコアカバー成形用キャビティCV1(101)が形成されており、コアカバー成形用キャビティCV1(101)に樹脂を注入するためのゲートG、及び、金型M1から、側面鉄心モールド体10を排出するためのイジェクタピンP_(EJC)が形成されている。
イジェクタピンP_(EJC)の位置は、側面鉄心モールド体10をハウジング30の内側に収容し、絶縁樹脂40を充填したときに、樹脂表面41よりも内側となる位置に設けられている。
なお、本形態においては、側面鉄心100の積層方向に型開きをする構成を示しているが、これに限定するものではなく、後述する第2の実施形態のように、側面鉄心100の積層方向に直交する方向に型開きするようにしても良い。
【0029】
図3Bに示すように、金型M1、M2を開いた状態で、金型M1に設けたコアインサート用キャビティCV(100)に側面鉄心100を装着し、図3Cに示すように、金型M1、M2を型締めして、ゲートGからコアカバー成型用キャビティCV(101)内に樹脂RSNを充填する。
コアカバー101の形成には、一般的にモールド成形用樹脂に用いられるものであって、PET樹脂やPBT樹脂等、絶縁樹脂40に熱膨張係数の近いものを適宜用いることができる。
なお、コアカバー101内に気泡等の欠陥が形成されないよう、ベントを設けてコアカバー形成用キャビティCV(100)内の空気を適宜排出しながら、樹脂RSNを充填する。
【0030】
本形態においては、コアカバー成型用キャビティCV(101)に露出するイジェクタピンP_(EJC)の先端が、コアカバー成型用キャビティCV(101)の底面と面一となるように配置した例を示してあるが、樹脂の充填前には、イジェクタピンP_(EJC)の先端が側面鉄心100の表面に当接し、樹脂の充填を開始したときに、コアカバー成型用キャビティCV(101)の底面と面一となる位置まで後退する稼働ピンによって構成しても良い。
コアカバー成型用キャビティCV(101)内に充填した樹脂が硬化すると、図3Dに示すように、金型M1、M2が開かれ、イジェクタピンP_(EJC)によって側面鉄心モールド体10が押し出される。
【0031】
このとき、イジェクタピンP_(EJC)の先端によって、コアカバー101が押圧された位置に、イジェクタピン痕102が窪み状に形成される場合がある。
しかし、上述の如く本発明によれば、樹脂界面の応力差の大きい位置にイジェクタピン痕102が存在していないので、ストレスによって亀裂を生じ難く、仮に亀裂が発生したとしても、イジェクタピン痕102が、絶縁樹脂40によって完全に封止されるので、浸水を阻止することができる。
【0032】
このようにしてできあがった側面鉄心モールド体10と、図1Aに示したように、一次巻線11、二次巻線12、中心鉄心13、永久磁石14とを組み合わせてハウジング30内に収容し、回路モジュール20、コネクタターミナル21、ダイオード16、出力中継端子120、高圧端子121、バネ端子122等の必要な配線を行い、絶縁樹脂40を充填、固化させることで点火コイル1が完成する。
なお、必要に応じて、雑音防止用コンデンサ等を内蔵させても良い。
【0033】
図4A、図4B、図5A、図5B、図5C、図5D、図6A、図6B、図6C、図6Dを参照して第2の実施形態における点火コイル1aと、その要部である側面鉄心モールド体10aとその製造方法について説明する。
なお、上記形態と同じ構成については同じ符号を付し、本実施形態の特徴的な部分にアルファベットaの枝番を付したので、共通する部分についての説明を省略し、特徴的な部分を中心に説明する。
他の実施形態においても同様である。
【0034】
第1の形態においては、コ字形の側面鉄心100の積層方向(板厚方向)に金型M1、M2を型開きするようにして側面鉄心モールド体10を形成する例を説明したが、本実施形態においては、図6A、図6Bに示すように金型M1a、M2aを、コ字形の側面鉄心100の積層方向に直交する方向(脚部の伸びる方向)に型開きする金型M1a、M2aを用い、イジェクタピン痕102aは、コアカバー101aの表面に形成されず、ゲート痕103aが、コアカバー101a側面の絶縁樹脂40から露出しない位置に形成されるようにした点が相違する。
このような構成とすることで、ゲート痕103a及びこれに対向する部位が、絶縁樹脂40によって封止され、外部からの浸水を抑制したり、強度低下を補ったりすることができる。
【0035】
本実施形態においては、図4A、図4B、及び、図5A?図5Dに示すようにゲート痕103a、及び、ウェルドラインWLaを生じ易いゲート痕103aに対向する部位が、絶縁樹脂40の樹脂表面41より内側となる位置に形成されている。
さらに、図6A?図6Dに示すように、ゲートGがコアカバー成型用キャビティCV(101a)の中心軸上で側面方向から樹脂を注入するように形成されている。
また、図6Bに示すように、本実施形態における金型M1a、M2aの分割面PLaの位置は、コアカバー形成用キャビティ(101a)から型抜きできる位置としてある。
【0036】
図5Bに示すように、本実施形態におけるイジェクタピン痕102aは、側面鉄心100の底面に位置することになるが、図6Dに示すように、イジェクタピンP_(EJC)が、堅い側面鉄心100の底面を押し出すので、実際にイジェクタピン痕102aが残ることはなく、製品表面にイジェクタピン痕に相当する凹凸が形成されないため、絶縁樹脂40に応力集中が発生せず、絶縁樹脂40に亀裂が発生し難くなるので、より一相、信頼性の高い点火コイル1aを実現できる。
【0037】
図7A、図7B、図7C、図8A、図8Bを参照して、第3の実施形態における点火コイル1bと、その要部である、側面鉄心モールド体10bの製造方法について説明する。
図7A、図7B、図7Cに示すように、本実施形態においては、第1の形態と同様、コアカバー101bの表面には、イジェクタピン痕102bが形成され、その一部が樹脂表面41bから露出している。
しかし、本実施形態においては、イジェクタピン痕102bの周囲を覆うように、リング状に突出する筒状突起部104が形成されている。
このため、リング状に形成された筒状突起部104は引っ張り応力に強く、イジェクタピン痕102bを取り囲むことで、亀裂の進展を抑制するための亀裂抑制手段として機能する。
加えて、筒状突起部104が樹脂表面41bの近傍に設けられているので、絶縁樹脂40を充填したときに、毛管作用により、リング状の突起部104の内側には、絶縁樹脂40が充満して、樹脂表面41bよりも高く盛り上がる隆起部410が形成され、イジェクタピン痕102bを完全に覆うことができ、外部からの浸水を遮断できる。
【0038】
突起部104は、イジェクタピン痕102b等の成型特異点の大きさよりも大きい内径W1を有する筒状に形成されている。
また、図7Cに示すように、筒状突起部104の内周面の最高位置が、樹脂表面41bから所定の高さH1の範囲となるように形成されている。
毛管作用を利用して、絶縁樹脂40を筒状突起部104内に吸い上げる必要性から、H1は、2mm以内とするのが望ましい。
また、筒状突起部104の水平方向の内径W1は4mm以内であることが望ましい。内径がこれ以上に大きくなると、毛管作用による絶縁樹脂40の吸い上げ力が低下し、成型特異点をカバーしきれなくなるからである。
さらに、筒状突起部104の内周の一部は、樹脂表面41bよりも低い位置となる必要がある。
これによって、筒状突起部104内に絶縁樹脂40の流入が可能となるからである。
【0039】
ここで、図7D、図7E、図7Fを参照して本実施形態における突起部の変形例について説明する。
図7Dに示す鞍型突起部104_(1)では、イジェクタピン痕102bの周囲を覆いつつ下端が開口する鞍型(逆U字形)に突出せしめた形状となっている。
鞍型突起部104_(1)においては、内周面の水平方向の幅W1は、筒状突起部104と同様、4mm以下とするのが望ましい。
また、樹脂表面41bから鞍型突起部104_(1)の内周面の最高位置までの高さH1は、筒状突起部104と同様2mm以下とするのが望ましい。
さらに、鞍型突起部104_(1)が樹脂表面41bに埋設される部分の深さH2は、特に限定するものではなく、樹脂表面41bよりも低い位置となれば、毛管作用を発生させ、鞍型突起部104_(1)の内側に絶縁樹脂40を引き込むことができる。
本実施形態においても、樹脂表面41bがイジェクタピン圧102よりも高く盛り上がる隆起部410が形成されるので、確実に浸水防止を図ることができる。
【0040】
図7Eに示す井下駄状突起部104_(2)では、イジェクタピン痕102bの両側において樹脂表面41bに対して直交するように平板状に突出して形成されている。
本実施形態では、井下駄状突起部104_(2)においても、水平方向の二平板間の距離W1を4mm以下、樹脂表面41bから二平板の上端までの高さH1は、2mm以下、二平板の下端が樹脂表面41b内に埋設されるようH2を設定するのが望ましい。
これにより、樹脂表面41bよりも高く、メニスカス状の隆起部4102が形成され、イジェクタピン痕102bが絶縁樹脂40によって覆われることになる。
【0041】
さらに、図7Fに示す、ハ字形突起部104_(3)では、イジェクタピン痕102bの両側において樹脂表面41bに対して上面側に向かって先細りとなるようにハの字型に並んだ二平板状に突出せしめてある。
本実施形態においては、二平板間の水平方向の距離は、樹脂表面41bよりも上側(W3)が狭く、下側(W2)が広くなっており、W3>W1>W2の関係となっている。ハの字形とすることにより、毛管作用による樹脂吸引力が強くなり、確実にイジェクタピン痕102bの表面を絶縁性樹脂によって覆うことが可能になる。
本変形例でも、樹脂表面41bから二平板の上端までの高さH1は、2mm以下、二平板の下端が樹脂表面41b内に埋設されるようH2を設定するのが望ましい。
【0042】
図8A、図8B、図8C、図8Dに示すように、金型M1bにおいて、イジェクタピンP_(EJC)によって押圧される部分の周囲に筒状の突起部形成用キャビティCV(104)を形成することで、コアカバー101bを形成すると同時に、イジェクタピン痕102bの周囲を覆う突起部104を一体的に形成することができる。
なお、本実施形態においては、側面鉄心100の板厚方向を型開き方向とした例を示したが、第2の実施形態と同様に、側面鉄心100の脚部方向に型開きをするようにし、本実施形態における要部である、突起部104をゲート痕103aの周囲に設けるようにしても良い。
【0043】
ゲート痕103aの形成される位置では、側面鉄心100に樹脂が衝突して金型内における樹脂の流れ方向が急激に変化するため、ゲート位置若しくは、側面鉄心100を超えてゲートに対向する位置にウェルドラインや、ボイドなどの内部欠陥が形成され易く、機械的強度が低下する場合がある。
そこで、本実施形態と同様の突起部104をゲート痕103aの周囲、若しくは、ゲート痕103に対向する位置を覆うように形成する。
【0044】
突起部104を補強手段として設けることにより、熱膨張差による内部応力や外部との衝突による衝撃などに対する耐久性が向上する。
強度向上の面からは突起部104は、リング状に形成するのが望ましい。
しかし、型抜きの都合上、リング状に形成するのが困難となる場合には、型開きの邪魔にならない方向に、ゲート痕103、103aを挟んで上下、若しくは、左右に、井下駄状、若しくは、楕円弧状の突起部を並べて形成するようにしても良い。
【0045】
さらに、側面鉄心100を挟んでゲート痕103aの対向する部位において、コアカバー101の表面に突起部104を形成するようにしても良い。この際、突起部104は、亀裂の進展が起こり得るウェルドラインの伸びる方向をさえぎるように設けるのがよい。
このような構成とすることにより、ウェルドラインWLの生じ易いゲート痕103aに対向する部位の補強をすることが可能となり、さらに点火コイル1aの信頼性向上を図ることができる。
【0046】
図9A、図9B、図10A、図10Bを参照して、本発明の第4の実施形態における点火コイル1cとその製造方法について説明する。
図9A、図9Bに示すように、本実施形態においては、イジェクタピン痕あるいはゲート痕103cにおいて、亀裂の進展を抑制するための亀裂抑制手段として、前述の突起部104に代えて、イジェクタピン痕あるいはゲート痕103c、の発生位置においてコアカバー101cの一部が外側に向かって凸となるように膨出する膨出部104c、105cを形成してある。
【0047】
図10A、図10Bに示すように、コアカバー形成用キャビティCV(101c)のイジェクタピン痕102c、コアカバー101cの形成される位置の周辺を窪ませることで、極めて容易に膨出部104c、105cを形成することができる。
欠陥の生じ易い、イジェクタピン痕102cあるいはゲート痕103cの形成位置、若しくは、ゲート痕103cに対向する部位におけるコアカバー101cの肉厚を局所的に厚くすることにより、側面鉄心モールド体10cを取り出す際に、イジェクタピンP_(EJC)で押圧されても、亀裂を生じない十分な肉厚を確保することができ、また、膨出部104c、105cを厚肉に形成することにより機械的強度が高くなるので亀裂が生じ難く、より一相信頼性の高い点火コイル1cを実現できる。
【0048】
膨出部104c、105cを本図に示すように、湾曲形状とすることで、応力を分散させ、更なる耐久性向上を図ることができる。
また、本実施形態における膨出部104c、105cを他の実施形態における側面鉄心モールド体に適用しても良い。
【0049】
図11A、図11Bを参照して、本発明の第5の実施形態における点火コイル1dについて説明する。
本実施形態における点火コイル1dでは、第1の形態と同様、側面鉄心モールド体10dをハウジング30内に収容したとき、イジェクタピン痕102が絶縁樹脂40の樹脂表面41よりも、内側に位置するのに加えて、ゲート痕103dも絶縁樹脂40の樹脂表面41よりも、内側に位置するようにコアカバー101dが形成されている。
【0050】
前記実施形態と同様、イジェクタピン痕102が、絶縁樹脂40内に埋設されているので、イジェクタピン痕102から浸水する虞がない。
加えて、ウェルドライン等の欠陥を生じ易い、ゲート痕103dの位置を絶縁樹脂40内に埋設させることで、ゲート痕103d周辺からの浸水の防止を図ることもできる。
【0051】
図12A、図12Bを参照して、本発明の第6の実施形態における点火装置1dの要部である側面鉄心モールド体10dの製造方法について簡単に説明する。
本実施形態においては、第1の形態と同様、成形後にコアカバー101dを押し出すイジェクタピンP_(EJC)の位置を、ハウジング30内に配設したときにイジェクタピン痕102が、絶縁樹脂40の樹脂表面41よりも、内側に位置するように配設してある。
【0052】
加えて、キャビティCV(101d)内に樹脂を充填するゲートG1、G2を複数設けてある。
さらに、ゲート痕103dが絶縁樹脂40の樹脂表面41よりも内側となる位置でキャビティCV(101d)に開口するように金型M1d、M2dを形成してある。
なお、前記実施形態においては、イジェクタピンP_(EJC)が、コアカバー101の表面を押圧して窪み状のイジェクタピン痕102が形成される場合の浸水防止や、亀裂発生の防止のため手段について説明したが、いわゆる可動式押さえピンあるいは固定式押さえピンを用いた場合にも適用し得るものである。
【0053】
可動式押さえピンは、樹脂充填開始時には、金型M1、M2のキャビティ(100)内にインサートされた側面鉄心100を押さえ、樹脂の充填完了時には側面鉄心100から離れ、可動式押さえピンのあった空間には樹脂が充填され、コアカバー101に可動式押さえピンの痕が残らないようにするものである。
しかし、可動式押さえピンの周辺の成型樹脂の流れが他の部分と異なり、肉厚が薄くなったり、内部に欠陥が生じたりする虞があり、イジェクタピン痕102と同様の問題を抱えている。
【0054】
このため、前記実施形態と同様に、可動式押さえピン痕の位置が、絶縁樹脂40に埋設される位置となるように配設することによって、可動式押さえピン痕への浸水の防止、亀裂の進展の防止を図ることができる。
また、固定式押さえピンは、樹脂充填開始時には、金型M1、M2のキャビティ(100)内にインサートされた側面鉄心100の片側を押さえるが、反対側は押えていない。従って樹脂充填時には、射出圧力により、側面鉄心100が固定式押さえピンから離れ、その部分に薄い厚みの樹脂が充填され、コアカバー101に開口部が残らないようにするものである。
【0055】
しかし、固定式押さえピンの周辺の成型樹脂の流れが他の部分と異なり、肉厚が薄く、内部に欠陥が生じたりする虞があり、イジェクタピン痕102と同様の問題を抱えている。
このため、前記実施形態と同様に、固定式押さえピン痕の位置が、絶縁樹脂40に埋設される位置となるように配設することによって、固定式押さえピン痕への浸水の防止、亀裂の進展の防止を図ることができる。
【0056】
図13Aに示すように、点火コイルの搭載角度が水平に近い角度になる場合には、コアカバーの水平面にイジェクタピン痕あるいはゲート痕が露出していると、そこに水分が溜まり易く、より一相亀裂を生じ易くなるおそれがある。
また、図13Bに示すように、エンジンルーム内壁との隙間CLRが狭くなる場合には、点火コイル1の取り付け作業時において、コアカバー101の露出部分がエンジンルーム内壁BMBに当たったときに、局所的に強度の低い部分が存在すると、亀裂を生じたり、亀裂の進展を招いたりする虞がある。
そこで、本発明の点火コイル1を用いれば、絶縁樹脂40から露出するコアカバー101の水平面に水滴が溜まっても、イジェクタピン痕102あるいはゲート痕103が、絶縁樹脂40に覆われた位置に形成されているので、イジェクタピン痕102あるいはゲート痕103への浸水を防止できる。
【0057】
本発明は、前記実施形態に限定するものではなく、側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバーによって覆った側面鉄心モールド体を具備し、その一部をハウジングに充填した絶縁樹脂から露出せしめると共に、前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、即ち、成型特異点を絶縁樹脂40によって封止せしめたことを基本要件とする本発明の思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、各実施形態の特徴部分について矛盾を生じない範囲で重畳的に組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 点火コイル
10 側面鉄心モールド体
100 側面鉄心
101 コアカバー(樹脂成形体)
102 イジェクタ痕
103 ゲート痕
11 一次巻線
12 二次巻線
120 出力中継端子
121 高圧端子
122 バネ端子
13 中心鉄心
14 永久磁石
150 一次巻線ボビン
151 二次巻線ボビン
16 昇圧トランス
20 点火回路モジュール
21 コネクタターミナル
30 ハウジング
31 コネクタ
32プラグキャップ
33 フランジ
40 絶縁樹脂
41 樹脂表面
PL 金型分割面(パーティングライン)
M1、M2 金型
CV(100) コアインサート用キャビティ
CV(101) コアカバー成形用キャビティ
G ゲート
P_(EJC) イジェクタピン
WL ウェルドライン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a?101d)によって、前記側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体(10、10a?10d)を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a?103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていないことを特徴とする点火コイル(1a、1d)
【請求項2】
少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
前記側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a?101d)によって覆った側面鉄心モールド体(10、10a?10d)を具備し、
その一部を前記絶縁樹脂から露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a?103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記絶縁樹脂を充填したときに、前記成型特異点の表面を覆うように前記絶縁樹脂を引き上げるべく、前記成型特異点の近傍に前記コアカバーの一部を外側に向かって突出せしめた突起部(104、104_(1)、104_(2)、104_(3))を具備する、点火コイル(1b)
【請求項3】
前記成型特異点における前記コアカバーの一部を厚肉に形成せしめた膨出部(104c、105)を具備する請求項1又は2に記載の点火コイル(1c)
【請求項4】
前記コアカバーの一部により形成され、前記成型特異点の周囲を取り囲むように筒状に突出せしめた筒状突起部(104)、前記成型特異点の周囲を覆いつつ下端が開口する鞍型に突出せしめた鞍型突起部(104_(1))、前記成型特異点の両側において前記樹脂表面に対して直交する平板状に突出せしめた井下駄状突起部(104_(2))、若しくは、前記成型特異点の両側において前記樹脂表面に対して上面側に向かって先細りとなるように並んだ平板状に突出せしめたハ字形平板状突起部(104_(3))のいずれかを有する請求項2又は3に記載の点火コイル(1b)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-12 
出願番号 特願2014-126204(P2014-126204)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F02P)
P 1 651・ 851- YAA (F02P)
P 1 651・ 841- YAA (F02P)
P 1 651・ 855- YAA (F02P)
P 1 651・ 854- YAA (F02P)
P 1 651・ 852- YAA (F02P)
P 1 651・ 857- YAA (F02P)
P 1 651・ 121- YAA (F02P)
P 1 651・ 853- YAA (F02P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 津田 健嗣  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 金澤 俊郎
佐々木 芳枝
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5928531号(P5928531)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 点火コイル  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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