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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1340116
異議申立番号 異議2017-700879  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-15 
確定日 2018-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6101194号発明「固体酸化物形燃料電池用の電極材料とその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6101194号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6101194号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6101194号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年12月6日に特許出願され、平成29年3月3日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月22日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成29年9月15日に特許異議申立人山崎達彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものであって、同年11月7日に取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、その指定期間内である同年12月22日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、平成30年2月2日に申立人から意見書(以下、「意見書」という。)が提出されたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第6101194号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は、変更された箇所を表すために当審が付与したものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「副元素として、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」とあるのを「副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1
訂正事項1は、「副元素」について、本件訂正前は、「主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」ものであったが、本件訂正後は、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」ものとしたものである。すなわち、本件訂正前の請求項1の「副元素」には、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損」が含まれるのか否かが特定されていなかった。
そして、本件特許明細書には、「副元素とは、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、ペロブスカイト型の結晶構造におけるBサイトを占める元素であって、上記主元素よりもイオン半径の大きな一の元素を意味する。かかる副元素がBサイトを占める際の原子比は、0.1未満となり得る」(【0018】)と記載されており、本件訂正前の請求項1の「副元素として、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」との記載との間で不合理が生じていた。
そこで、訂正事項1は、本件訂正後の「副元素」には、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除」かれることを特定して、本来の意味を明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件訂正後の請求項1の記載は、上記のように、本件明細書【0018】に記載されたものであるから、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?8は、本件訂正前の請求項1を引用するものであって、本件訂正前の請求項1?8は一群の請求項であるといえるから、訂正事項1は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(4)独立特許要件について
訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるが、本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物を含み、
前記結晶構造のAサイトには、Ca,SrおよびBaから選択される1種または2種以上の元素Aeが含まれ、
前記結晶構造のBサイトには、
主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれ、
副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる、
固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項2】
前記副元素として、前記主元素として含まれる元素以外の元素であって、Ni,MnおよびTiから選択される1種または2種以上の元素が含まれる、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項3】
前記結晶構造のAサイトには、ランタノイドから選択される1種または2種以上の元素Ln、が含まれる、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項4】
600℃以上800℃以下の温度範囲で運転する固体酸化物形燃料電池の電極を構成するために用いられる、請求項1?3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項5】
さらに分散媒を含み、
前記のペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物が前記分散媒に分散されている、請求項1?4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の電極材料から構成されている、固体酸化物形燃料電池の構成部材。
【請求項7】
固体酸化物形燃料電池の空気極であって、請求項6に記載の燃料電池構成部材からなる、空気極。
【請求項8】
請求項7に記載の空気極を備えている、固体酸化物形燃料電池。」

(2)申立理由の概要
(2)-1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?8に係る特許に対して特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 特許法第36条第6項第1号について
本件発明1の「結晶構造のBサイトには、主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれ、副元素として、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1?8に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 特許法第29条第1項第3号について
本件発明1?8は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
<刊行物>特開2011-216187号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証、以下、「引用文献1」という。)

(2)-2 取消理由として採用しなかった申立理由の概要
本件訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、取消理由として採用しなかった申立て理由の概要は、次のとおりである。
ア 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1の「結晶構造のBサイトには、主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれ、副元素として、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」との発明特定事項は、明確であるとはいえないから、請求項1?8に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)当審の判断
(3)-1 取消理由について
ア 特許法第36条第6項第1号について
本件発明1は、「結晶構造のBサイトには、主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれ、副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」との発明特定事項を有するものである。
一方、本件明細書の【0018】には、「副元素とは、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、ペロブスカイト型の結晶構造におけるBサイトを占める元素であって、上記主元素よりもイオン半径の大きな一の元素を意味する」と記載され、また、【0038】?【0060】の各実施態様には、「例えば、サンプル1?12の電極材料は、La_(0.6)Sr_(0.4)(Co_(0.2)Fe_(0.8))_(1-x)Mn_(x)O_(3)で表される基本組成を有することから、出発原料としてLa_(2)O_(3),SrCO_(3),Co_(3)O_(4),Fe_(2)O_(3)およびMn_(2)O_(3)を用い、これらを化学量論比で湿式混合した後、大気雰囲気中、1100℃?1400℃で焼成し、得られた焼成物をボールミルを用いて湿式粉砕して粒度を調整することで用意した。・・・(略)・・・また、原料粉末には、いずれも純度99.9%以上の高純度試薬を用い、不純物の混入は極力回避するようにした」(【0044】)と記載されており、このように作製した電極材料を用いて、「副元素として、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」ことによる効果を確認している。
すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明には、副元素として、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損」を除き、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で故意に含有させたものが、記載されているだけであって、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損」を含めて、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含有させたものが、記載されている訳ではない。
そして、上記2で述べたように、本件訂正により、訂正後の請求項1には、「副元素」について、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除」くことが特定された。
したがって、本件発明1及びその引用発明である本件発明2?8は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

イ 特許法第29条第1項第3号について
イ-1 引用文献1の記載
(ア) 引用文献1には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、アンモニアガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCとも記載する)に関し、詳しくは固体電解質の片面側に燃料極が形成され、他面側に空気極が形成されたSOFCにおいて、燃料極側に設置された燃料極集電体、並びに当該燃料極集電体を有する固体酸化物形燃料電池用セルに関する。」
「【0017】
本発明の固体酸化物形燃料電池用セルは、基本的に、従来一般的な燃料電池と同様に、固体電解質と、該電解質の一方の面に形成された燃料極と、該電解質の他方の面に形成された空気極とを含むセルとして構成することができ、本発明の範囲において任意に変更し、改良することができが、以下に詳細に説明するように、本発明の燃料極集電材料から形成された燃料極集電体が設置されることが肝要である。」
「【0020】
空気極は、本発明の実施において特に限定されるものではなく、燃料電池に一般的に使用されている空気極材料から形成することができる。適当な空気極形成材料として、マンガン系、フェライト系、コバルト系やニッケル系ペロブスカイト型構造の酸化物が好ましく、例えば、ストロンチウム(Sr)等の周期律表第2族元素が添加されたランタンストロンチウムマンガナイト(La_(X)Sr_(1-X)MnO_(3))、ランストロンチウムコバルタイト(La_(X)Sr_(1-X)CoO_(3))、ランストロンチウムコバルトフェライト(La_(X)Sr_(1-X)Co_(Y)Fe_(1-Y)O_(3))、ランタンニッケルフェライト(LaNi_(Y)Fe_(1-Y)O_(3))などを挙げることができる。
【0021】
また、上記酸化物にYSZ、ScSZ、ScCeSZなどのジルコニア系粉末セラミックスやSDC、GDCなどのドープセリア系粉末が混合されていてもよい。」
「【0046】
(実施例1)
(燃料極材料)
市販の酸化ニッケル粉末(正同化学社製:製品名:Green、平均粒子径:0.7μm、比表面積:3.5m^(2)/g)を55質量%および、電解質粒子として、市販の10モル%スカンジア1モル%安定化ジルコニア粒子(第一稀元素化学工業社製;製品名:10Sc1CeSZ、平均粒子径:0.6μm、比表面積:10.8m^(2)/g)45質量%を、攪拌して混合物とし、燃料極材料を調製した。
【0047】
(空気極用材料)
市販の酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトおよび酸化鉄粉末から固相法で合成したランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)(平均粒子径:0.7μm、比表面積:3.5m^(2)/g)80質量%と、市販の酸化サマリウムおよび酸化セリア粉末から固相法で合成した30モル%サマリアドープセリア(平均粒子径:1.9μm、比表面積:2.4m^(2)/g)20質量%とを攪拌混合して空気極材料とした。
【0048】
(燃料極集電体材料)
アンモニア分解触媒として、市販の金属ルテニウム粉末(フルヤ化学社製)、導電性金属材料として、市販の金属ニッケル粉末(井原技研社製)を用いた。ルテニウム粉末20質量%と金属ニッケル粉末80質量%とを攪拌混合して混合物とし、当該混合物100質量部に対して、ポリエチレングリコールを7質量部加え、さらに攪拌混合して燃料極集電材料のペーストを調製した。
【0049】
(燃料極集電体付きセルの作製)
電解質として、ドクターブレード法を用いて作成、焼成した10モル%スカンジア1モル%安定化ジルコニアシート(直径:120mm、厚さ300μm)を用いた。この電解質の一方に面に、上記燃料極材料にバインダー(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、n-パラフィン、テレピン油、セルロース系樹脂)を加えた後混練して調製した燃料極ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥後、1300℃で2時間焼成して形成した。なお、燃料極の厚さは40μmで気孔率は35%であった。
【0050】
次いで、上記電解質の他方の面に、上記の空気極材料とバインダーを用い、同様にして空気極ペーストを調製し。950℃で焼成した以外は燃料極と同様にして空気極を形成し、電極有効面積が95cm^(2)の固体酸化物形燃料電池用セルを作製した。次いで、スクリーン印刷法を用いて燃料極の表面上に、上述した燃料極集電材料のペーストを塗布し、厚さ約25μmの燃料極集電体を形成することで燃料極集電体付きセルを作製した。」

(イ)上記(ア)の【0017】を参酌すると、上記(ア)の【0047】には、「固体酸化物形燃料電池用セル」の「空気極用材料」について、「市販の酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトおよび酸化鉄粉末から固相法で合成したランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」を含むものであることが記載されている。

(ウ)上記(ア)の【0020】には、「ランストロンチウムコバルトフェライト(La_(X)Sr_(1-X)Co_(Y)Fe_(1-Y)O_(3))」が「ペロブスカイト型構造の酸化物」であることが記載されているから、上記(イ)の「ランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」も同様に、「ペロブスカイト型構造の酸化物」であるといえる。

(エ)上記(イ)及び(ウ)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「市販の酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトおよび酸化鉄粉末から固相法で合成したランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)からなるペロブスカイト型構造の酸化物を含む、
固体酸化物形燃料電池用セルの空気極用材料。」

(オ)また、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「引用発明1から構成された、空気極。」

(カ)さらに、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「引用発明2を備えた、固体酸化物形燃料電池。」

イ-2 対比・判断
ここで、本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」は、本件発明1のように「一般式ABO_(3)で表される」ものであることは自明である。

(イ)引用発明1の「ペロブスカイト型構造の酸化物」は、本件発明1の「ペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物」に相当する。

(ウ)引用発明1の「La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」の「Sr」は、本件発明1の「結晶構造のAサイト」の「Ca,SrおよびBaから選択される1種または2種以上の元素Ae」に相当する。

(エ)引用発明1の「La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」の「Co」及び「Fe」は、本件発明1の「結晶構造のBサイト」に「主元素」として「含まれ」る「Ni,CoおよびFeから選択される2種以上」に相当する。

(オ)そうすると、引用発明1の「市販の酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトおよび酸化鉄粉末から固相法で合成したランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)からなるペロブスカイト型構造の酸化物を含む」との発明特定事項は、本件発明1の「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物を含み、前記結晶構造のAサイトには、Ca,SrおよびBaから選択される1種または2種以上の元素Aeが含まれ、前記結晶構造のBサイトには、主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれ」るとの発明特定事項に相当する。

(カ)引用発明1の「固体酸化物形燃料電池用セルの空気極用材料」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池用の電極材料」に相当する。

(キ)上記(オ)及び(カ)を踏まえ、本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、
「一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物を含み、
前記結晶構造のAサイトには、Ca,SrおよびBaから選択される1種または2種以上の元素Aeが含まれ、
前記結晶構造のBサイトには、
主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれる、
固体酸化物形燃料電池用の電極材料。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点)
「結晶構造のBサイトに」、本件発明1は、「副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」のに対し、引用発明は、本件発明1の「副元素」に相当する元素が含まれているか不明な点。

(ク)以下、上記相違点について、検討する。
申立人が提出した甲第2号証である特開2006-265421号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「通常、世の中で使われている大半の鋼材にはMnが含まれており、鉄鋼の酸洗工程で生じる廃塩酸についても必然的にMnが含まれる。従って、これを原料として製造した塩化鉄系酸化鉄にも当然Mnが取り込まれる。一般的に、噴霧熱分解により製造される酸化鉄は、0.20質量%?0.30質量%程度のMnを含有している」(【0019】)と記載されている。
しかしながら、引用文献1には、引用発明1の「ランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」に、「副元素」を含ませることが記載も示唆もされていないし、仮に、引用文献2を参酌することにより、引用発明1の「ランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)」に、Mnが含まれているといえたとしても、かかるMnは、本件発明1の「不可避的不純物等の意図しない元素」に相当するから、本件発明1でいう「副元素」とはいえない。
そうすると、引用発明には、「副元素」が含まれないこととなり、相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は引用発明1とはいえない。
また、本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、同様の理由により、引用発明とはいえない。

(ケ)次に、本件発明6及び7と引用発明2とを対比すると、上記相違点で相違し、その余の点で一致する。
そうすると、上記(ク)で検討した理由と同様の理由で、本件発明6及び7は、引用発明2とはいえない。

(コ)最後に、本件発明8と引用発明3とを対比すると、上記相違点で相違し、その余の点で一致する。
そうすると、上記(ク)で検討した理由と同様の理由で、本件発明8は、引用発明3とはいえない。

(サ)なお、申立人は、意見書(第2頁第13行?第3頁第22行)において、本件発明1はいわゆる「物の発明」であるから、本件発明1の「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損」が物としての区別に役立たない場合には、訂正後の本件発明1と引用文献1に記載された発明とを区別することはできない旨、述べている。
しかしながら、上記(ク)で検討したように、本件発明1は引用発明1とはいえないと判断することが可能であるから、両者を区別することは可能であるといえる。
よって、申立人の意見は採用できない。

(3)-2 取消理由として採用しなかった申立理由について
ア 特許法第36条第6項第2号について
本件訂正により、本件訂正前は、請求項1に「副元素として、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」とあったのを「副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」と訂正されたから、申立人が特許異議申立書(第4頁第10行?第6頁第18行)で主張した特許法第36条第6項第2号違反は、理由が存在しなくなった。

なお、申立人は意見書(第3頁第24行?第4頁最後から3行)において、本件発明1の「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き」との文言は、請求項1に記載された「物の発明」の構成の一部を製造方法によって特定する意図であるとも解釈でき、このように解釈すると、本件発明1は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(「PBPクレーム」)になるから、明確とはいえない旨、述べている。
しかしながら、本件発明1の「副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる」との発明特定事項は、物質の結晶構造を表す文言であって、「不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、」との文言は、該結晶構造に含まれる「主元素よりもイオン半径の大きい元素」の「Bサイトに占める原子比」を特定する条件であると解されるから、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとはいえない。
よって、申立人の意見は採用できない。

4 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物を含み、
前記結晶構造のAサイトには、Ca,SrおよびBaから選択される1種または2種以上の元素Aeが含まれ、
前記結晶構造のBサイトには、
主元素としてNi,CoおよびFeから選択される2種以上が含まれ、
副元素として、不可避的不純物等の意図しない元素や空孔等の欠損を除き、前記主元素よりもイオン半径の大きい元素が、Bサイトに占める原子比が0.1未満の割合で含まれる、
固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項2】
前記副元素として、前記主元素として含まれる元素以外の元素であって、Ni,MnおよびTiから選択される1種または2種以上の元素が含まれる、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項3】
前記結晶構造のAサイトには、ランタノイドから選択される1種または2種以上の元素Ln、が含まれる、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項4】
600℃以上800℃以下の温度範囲で運転する固体酸化物形燃料電池の電極を構成するために用いられる、請求項1?3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項5】
さらに分散媒を含み、
前記のペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物が前記分散媒に分散されている、請求項1?4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用の電極材料。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の電極材料から構成されている、固体酸化物形燃料電池の構成部材。
【請求項7】
固体酸化物形燃料電池の空気極であって、請求項6に記載の燃料電池構成部材からなる、空気極。
【請求項8】
請求項7に記載の空気極を備えている、固体酸化物形燃料電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-22 
出願番号 特願2013-253603(P2013-253603)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 金 公彦
土屋 知久
登録日 2017-03-03 
登録番号 特許第6101194号(P6101194)
権利者 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
発明の名称 固体酸化物形燃料電池用の電極材料とその利用  
代理人 安部 誠  
代理人 安部 誠  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  

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