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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1340156
異議申立番号 異議2018-700003  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-05 
確定日 2018-05-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6156150号発明「成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6156150号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6156150号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成24年11月22日(優先権主張:平成23年12月16日)を国際出願日とする特許出願(特願2013-549188号)に係るものであって,平成29年6月16日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成29年7月5日である。)。
その後,平成30年1月5日に,本件特許の請求項1?7に係る特許に対して,特許異議申立人である末成幹生(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
脂肪族ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)45?1質量部(ただし,(A)及び(B)の合計を100質量部とする。)を含有するポリアミド樹脂組成物であって,かつ,前記ポリアミド樹脂組成物が,前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)からなる成形品。
【請求項2】
脂肪族ポリアミド樹脂(A)が,ポリアミド6又はポリアミド66である請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
キシリレンジアミンが,メタキシリレンジアミン,パラキシリレンジアミン又はこれらの混合物である請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(B)が,ポリメタキシリレンセバカミド樹脂,ポリパラキシリレンセバカミド樹脂又はポリメタ/パラキシリレンセバカミド樹脂である請求項1?3のいずれか1項に記載の成形品。
【請求項5】
前記成形品の最薄肉部の厚さが0.5mm以上である,請求項1?4のいずれか1項に記載の成形品。
【請求項6】
前記成形品が,射出成形,圧縮成形,真空成形,プレス成形およびダイレクトブロー成形のいずれかによって成形されたものである,請求項1?5のいずれか1項に記載の成形品。
【請求項7】
脂肪族ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)45?1質量部(ただし,(A)及び(B)の合計を100質量部とする。)を含有するポリアミド樹脂組成物であって,前記ポリアミド樹脂組成物が,前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)を射出成形,圧縮成形,真空成形,プレス成形およびダイレクトブロー成形のいずれかによって成形することを含む,成形品の製造方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件発明1?7は,下記1?3のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記4の甲第1号証?甲第8号証(以下,「甲1」等という。)を提出する。

1 取消理由1(新規性)
本件発明1,3,4及び7は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
2 取消理由2(特許法29条の2)
本件発明1?7は,本件特許の優先日前の日を優先日とする外国語特許出願(特許法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって,本件特許の優先日後に国際公開がされた甲2に係る外国語特許出願(以下,「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲(以下,「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の優先日の時において,その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものである(同法184条の13参照)。
3 取消理由3(進歩性)
本件発明1?7は,甲1に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
4 証拠方法
・甲1 特開2011-105822号公報
・甲2 特表2014-506944号公報
・甲3 米国特許第3968071号明細書
・甲4 特開平4-227959号公報
・甲5 性能確認試験結果
・甲6 米国特許第3553288号明細書
・甲7 特開平6-297660号公報
・甲8 特開昭60-86161号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
事案に鑑み,取消理由1,3,2の順で検討する。

1 取消理由1(新規性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(【0073】,【0076】?【0078】,表1,比較例2)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量%として,ポリアミド11(ARKEMA社製,商品名「Rilsan BESN OTL」,融点188℃,数平均分子量27,000)であるポリアミド樹脂(a-2)70質量%と,メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とセバシン酸(伊藤製油社製TAグレード)をモル比1:1で固相重合して得られたポリアミド(融点は191℃,ガラス転移点は60℃,数平均分子量は30,000,相対粘度2.8,水分率0.03%,末端アミノ基濃度33μ当量/g,末端カルボキシル基濃度33μ当量/g)であるポリアミド樹脂(a-1-1)30質量%を含有し,
ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量部として,エラストマー(B)成分であるマレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(三井化学社製,商品名「タフマーMP0610」)25質量部と,カルボジイミド化合物(C)成分である脂環式ポリカルボジイミド化合物(日清紡績社製,商品名「カルボジライトLA-1」)0.6質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる厚さ150μmのフィルム。」(以下,「甲1発明1」という。)

「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量%として,ポリアミド11(ARKEMA社製,商品名「Rilsan BESN OTL」,融点188℃,数平均分子量27,000)であるポリアミド樹脂(a-2)70質量%と,メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とセバシン酸(伊藤製油社製TAグレード)をモル比1:1で固相重合して得られたポリアミド(融点は191℃,ガラス転移点は60℃,数平均分子量は30,000,相対粘度2.8,水分率0.03%,末端アミノ基濃度33μ当量/g,末端カルボキシル基濃度33μ当量/g)であるポリアミド樹脂(a-1-1)30質量%を含有し,
ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量部として,エラストマー(B)成分であるマレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(三井化学社製,商品名「タフマーMP0610」)25質量部と,カルボジイミド化合物(C)成分である脂環式ポリカルボジイミド化合物(日清紡績社製,商品名「カルボジライトLA-1」)0.6質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造し,得られたペレットをTダイ付き二軸押出機に供給し,溶融混練を行った後,Tダイを通じてフィルム状物を押出し,冷却ロール上で固化する,厚さ150μmのフィルムを製造する方法。」(以下,「甲1発明2」という。)

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における「ポリアミド11(ARKEMA社製,商品名「Rilsan BESN OTL」,融点188℃,数平均分子量27,000)であるポリアミド樹脂(a-2)」,「メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とセバシン酸(伊藤製油社製TAグレード)をモル比1:1で固相重合して得られたポリアミド(融点は191℃,ガラス転移点は60℃,数平均分子量は30,000,相対粘度2.8,水分率0.03%,末端アミノ基濃度33μ当量/g,末端カルボキシル基濃度33μ当量/g)であるポリアミド樹脂(a-1-1)」,「熱可塑性樹脂組成物」は,それぞれ,本件発明1における「脂肪族ポリアミド樹脂(A)」,「ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)」,「ポリアミド樹脂組成物」に相当する。
また,甲1発明1は,「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量%として」,ポリアミド樹脂(a-2)「70質量%」,ポリアミド樹脂(a-1-1)「30質量%」を含有するものであるから,これらは,それぞれ,本件発明1において,「(A)及び(B)の合計を100質量部とする。」との前提で,ポリアミド樹脂(A)「55?99質量部」,ポリアミド樹脂(B)「45?1質量部」を含有することに相当する。
そして,本件発明1における「成形品」と,甲1発明1における「厚さ150μmのフィルム」とは,「物品」である限りにおいて共通する。
そうすると,本件発明1と甲1発明1とは,
「脂肪族ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)45?1質量部(ただし,(A)及び(B)の合計を100質量部とする。)を含有するポリアミド樹脂組成物からなる物品。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,ポリアミド樹脂組成物が,「前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であるのに対して,甲1発明1では,「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量%として」,「ポリアミド樹脂(a-2)70質量%」と,「ポリアミド樹脂(a-1-1)30質量%」を含有し,「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量部として,エラストマー(B)成分であるマレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(三井化学社製,商品名「タフマーMP0610」)25質量部と,カルボジイミド化合物(C)成分である脂環式ポリカルボジイミド化合物(日清紡績社製,商品名「カルボジライトLA-1」)0.6質量部を含有する」ものである点。

イ 相違点1の検討
(ア)本件発明1に係るポリアミド樹脂組成物は,上記アのとおり,「(A)及び(B)の合計を100質量部とする。」との前提で,「ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,」「ポリアミド樹脂(B)45?1質量部を含有する」ものであるが,これらのポリアミド樹脂以外の成分について特定するものではない。
また,本件発明1では,さらに,「前記ポリアミド樹脂組成物が,前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であることが特定されている。この特定は,ポリアミド樹脂組成物全体を100質量%とした場合の,ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の含有割合をそれぞれ特定するものと解されるが,「(A)及び(B)の合計」が「100質量%」である場合に限定されたものではない。
そうすると,本件発明1に係るポリアミド樹脂組成物は,ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)のほかに,さらに,その他の成分を含有する場合を包含するものと解される(この点,本件明細書に,その他の成分として,「充填材(C)」(【0036】?【0038】)や,「カルボジイミド化合物(D)」(【0039】?【0045】)等が挙げられていることとも符号する。)。そして,このような場合には,その他の成分の含有量も考慮した上で,ポリアミド樹脂組成物全体を100質量%とした場合の,ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の含有割合をそれぞれ算出する必要がある。
(イ)甲1発明に係る熱可塑性樹脂組成物は,ポリアミド樹脂(a-2)及びポリアミド樹脂(a-1-1)のほかに,さらに,エラストマー(B)成分及びカルボジイミド化合物(C)成分を含有するものである。
ここで,熱可塑性樹脂組成物全体を100質量%とした場合,ポリアミド樹脂(a-2)及びポリアミド樹脂(a-1-1)の含有割合を算出すると,それぞれ,
70/(70+30+25+0.6)×100=55.7質量%
30/(70+30+25+0.6)×100=23.9質量%
となる。
以上によれば,本件発明1におけるポリアミド樹脂(A)の含有割合は,「60?80質量%」であるのに対して,甲1発明1におけるポリアミド樹脂(a-2)の含有割合は,「55.7質量%」であるから,両者は,その含有割合が相違する。
そうすると,相違点1は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(3)本件発明2?6について
本件発明2?6は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2?6についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(4)本件発明7について
ア 本件発明7と甲1発明2とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,
「脂肪族ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)45?1質量部(ただし,(A)及び(B)の合計を100質量部とする。)を含有するポリアミド樹脂組成物を成形することを含む,物品の製造方法。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明7では,ポリアミド樹脂組成物が,「前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であるのに対して,甲1発明2では,「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量%として」,「ポリアミド樹脂(a-2)70質量%」と,「ポリアミド樹脂(a-1-1)30質量%」を含有し,「ポリアミド樹脂(a-2)とポリアミド樹脂(a-1-1)の合計を100質量部として,エラストマー(B)成分であるマレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(三井化学社製,商品名「タフマーMP0610」)25質量部と,カルボジイミド化合物(C)成分である脂環式ポリカルボジイミド化合物(日清紡績社製,商品名「カルボジライトLA-1」)0.6質量部を含有する」ものである点。

イ 相違点2の検討
相違点2は,上記(2)イで検討した相違点1と同様のものであるから,相違点1と同様の理由により,相違点2は実質的な相違点である。
したがって,本件発明7は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1?7は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由1は理由がない。
したがって,取消理由1によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由3(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1とを対比すると,両者は,前記1(2)アのとおりの一致点で一致し,少なくとも,相違点1で相違する。

イ 相違点1の検討
本件発明1は,ポリアミド樹脂組成物からなる成形品に関するものであるところ,本件明細書の記載(【0003】,【0009】,【0010】,【0012】,実施例1?7,比較例1?4,【0085】)によれば,成形品を構成するポリアミド樹脂組成物として,「脂肪族ポリアミド樹脂(A)」及び「ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)」を,本件発明1で特定される所定の含有割合で含有するものを用いることにより,脂肪族ポリアミドが本来有する優れた機械的性質等を保持しながら,耐薬品性,吸水率,結晶化度及び寸法安定性の各特性がバランス良く優れた成形品を提供できるというものである。
一方,甲1及び3?8のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明1において,熱可塑性樹脂組成物として,熱可塑性樹脂組成物全体を100質量%とした場合の,ポリアミド樹脂(a-2)の含有割合を「60?80質量%」とし,同ポリアミド樹脂(a-1-1)の含有割合を「20?40質量%」としたものを用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。そして,本件発明1は,上記のとおり,脂肪族ポリアミドが本来有する優れた機械的性質等を保持しながら,耐薬品性に優れ,吸水率が低く,結晶化度が高く,寸法安定性に優れた成形品を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?6について
本件発明2?6は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?6についても同様に,甲1に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明7について
ア 本件発明7と甲1発明2とを対比すると,両者は,前記1(4)アのとおりの一致点で一致し,少なくとも,相違点2で相違する。

イ 相違点2の検討
相違点2は,上記(1)イで検討した相違点1と同様のものであるから,相違点1と同様の理由により,甲1発明2において,熱可塑性樹脂組成物として,熱可塑性樹脂組成物全体を100質量%とした場合の,ポリアミド樹脂(a-2)の含有割合を「60?80質量%」とし,同ポリアミド樹脂(a-1-1)の含有割合を「20?40質量%」としたものを用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。そして,本件発明7は,本件発明1と同様に,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明7は,甲1に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1?7は,いずれも,甲1に記載された発明及び甲3?8に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由3は理由がない。
したがって,取消理由3によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由2(特許法29条の2)
(1)先願明細書に記載された発明
先願明細書の記載(甲2の請求項1,8,15,【0004】,【0024】,【0026】,【0029】,【0030】,表1)によれば,先願明細書には,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリアミド組成物を含む,燃料部材であって,
前記ポリアミド組成物が,脂肪族ポリアミドである第1のポリアミドを含むポリアミド組成物であって,第2のポリアミドとして,前記組成物のポリアミドの総量に基づいて,少なくとも0.01重量%の量のポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)を更に含む,ポリアミド組成物である,燃料部材。」(以下,「先願発明1」という。)

「ポリアミド組成物を射出成形して得られた,プラックであって,
前記ポリアミド組成物が,組成物のポリアミドの総量に基づいて,99重量%又は98重量%のポリアミド-6と,1重量%又は2重量%のポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)を含む,ポリアミド組成物である,プラック。」(以下,「先願発明2」という。)

「脂肪族ポリアミドである第1のポリアミドを含むポリアミド組成物であって,第2のポリアミドとして,前記組成物のポリアミドの総量に基づいて,少なくとも0.01重量%の量のポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)を更に含む,ポリアミド組成物であり,
前記ポリアミド組成物を使用して,射出成形又はブロー成形によって,燃料部材を製造する方法。」(以下,「先願発明3」という。)

「組成物のポリアミドの総量に基づいて,99重量%又は98重量%のポリアミド-6と,1重量%又は2重量%のポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)を含む,ポリアミド組成物であり,
前記ポリアミド組成物を射出成形することによって,プラックを製造する方法。」(以下,「先願発明4」という。)

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と先願発明1とを対比する。
先願発明1における「脂肪族ポリアミドである第1のポリアミド」,「第2のポリアミドとして」の「ポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)」,「ポリアミド組成物」,「燃料部材」は,それぞれ,本件発明1における「脂肪族ポリアミド樹脂(A)」,「ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)」,「ポリアミド樹脂組成物」,「成形品」に相当する。
そうすると,本件発明1と先願発明1とは,
「脂肪族ポリアミド樹脂(A)と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)を含有するポリアミド樹脂組成物からなる成形品。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の含有割合が,「(A)及び(B)の合計を100質量部とする。」との前提で,それぞれ,「55?99質量部」及び「45?1質量部」であり,さらに,ポリアミド樹脂組成物が,「前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であるのに対して,先願発明1では,「前記組成物のポリアミドの総量に基づいて,少なくとも0.01重量%の量のポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)を更に含む」ものである点。

イ 相違点3の検討
(ア)先願発明1に係るポリアミド組成物は,第1のポリアミド(脂肪族ポリアミド)及び第2のポリアミド(ポリアミド-PXD10)を含むものである。そして,これらポリアミドの含有割合は,組成物のポリアミドの総量に基づくものである。
先願明細書には,第1のポリアミドの含有割合の下限値について,請求項11に「50重量%」と記載されるほか,【0014】に様々な数値が記載され,また,同上限値について,請求項12に「90重量%」と記載されるほか,【0015】に様々な数値が記載されている。また,先願明細書には,第2のポリアミドの含有割合の下限値について,請求項2?5に,「0.5重量%」,「5重量%」,「10重量%」,「20重量%」と記載されるほか,【0009】,【0017】に様々な数値が記載され,同上限値について,請求項6及び7に,「90重量%」,「80重量%」と記載されるほか,【0009】,【0010】,【0017】に様々な数値が記載されている。
しかしながら,これらの記載は,第1のポリアミド及び第2のポリアミドの含有割合の下限値及び上限値としてとり得る可能性がある多数の数値を,個々に単に列挙したものにすぎない。先願明細書にこのような記載があるからといって,直ちに,先願明細書に,第1のポリアミド及び第2のポリアミドの含有割合について,これらの「合計を100質量部とする」との前提で,それぞれ,「55?99質量部」及び「45?1質量部」であることが記載されているとはいえない(現に,先願明細書には,具体例(実施例,表1)として,第1のポリアミド(ポリアミド-6)及び第2のポリアミド(ポリアミド-PXD10)の含有割合が,それぞれ,「99重量%又は98重量%」及び「1重量%又は2重量%」であるものが記載されるのみである。)。また,同様に,先願明細書に,ポリアミド組成物全体を100質量%とした場合の,第1のポリアミド及び第2のポリアミドの含有割合が,それぞれ,「60?80質量%」及び「20?40質量%」であることが記載されているとはいえない。
以上のとおりであるから,相違点3は実質的な相違点である。
(イ)また,相違点3が,課題解決のための具体化手段における微差(すなわち,周知慣用手段の付加,転換,削除であって,新たな効果を奏するものではないもの)といえる根拠も見当たらないから,本件発明1と先願発明1とが実質同一であるということもできない。
(ウ)したがって,本件発明1は,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

ウ 本件発明1と先願発明2とを対比する。
先願発明2における「ポリアミド-6」,「ポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)」,「ポリアミド組成物」,「プラック」は,それぞれ,本件発明1における「脂肪族ポリアミド樹脂(A)」,「ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)」,「ポリアミド樹脂組成物」,「成形品」に相当する。
また,先願発明2に係るポリアミド組成物は,組成物のポリアミドの総量に基づいて,ポリアミド-6「99重量%又は98重量%」,ポリアミド-PXD10「1重量%又は2重量%」を含有するものであるが,これら以外のポリアミドを含むものではないから,それぞれ,本件発明1において,「(A)及び(B)の合計を100質量部とする。」との前提で,ポリアミド樹脂(A)「55?99質量部」,ポリアミド樹脂(B)「45?1質量部」を含有することに相当する。
そうすると,本件発明1と先願発明2とは,
「脂肪族ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)45?1質量部(ただし,(A)及び(B)の合計を100質量部とする。)を含有するポリアミド樹脂組成物からなる成形品。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点4
本件発明1では,ポリアミド樹脂組成物が,「前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であるのに対して,先願発明2では,このようなポリアミド樹脂組成物全体を100質量%とした場合の,ポリアミド-6及びポリアミド-PXD10の含有割合をそれぞれ特定するものではない点。

エ 相違点4の検討
(ア)先願発明2に係るポリアミド組成物は,ポリアミド-6及びポリアミド-PXD10のみを含有するものであるから,ポリアミド組成物全体を100質量%とした場合,ポリアミド-6及びポリアミド-PXD10の含有割合は,それぞれ,「99重量%又は98重量%」及び「1重量%又は2重量%」となることは,明らかである。
そうすると,本件発明1におけるポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の含有割合は,それぞれ,「60?80質量%」及び「20?40質量%」であるのに対して,先願発明2におけるポリアミド-6及びポリアミド-PXD10の含有割合は,それぞれ,「99重量%又は98重量%」及び「1重量%又は2重量%」であるから,両者は,その含有割合が相違する。
そうすると,相違点4は実質的な相違点である。
(イ)また,相違点4が,課題解決のための具体化手段における微差(すなわち,周知慣用手段の付加,転換,削除であって,新たな効果を奏するものではないもの)といえる根拠も見当たらないから,本件発明1と先願発明2とが実質同一であるということもできない。
(ウ)したがって,本件発明1は,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

(3)本件発明2?6について
本件発明2?6は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない以上,本件発明2?6についても同様に,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

(4)本件発明7について
ア 本件発明7と先願発明3とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,
「脂肪族ポリアミド樹脂(A)と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)を含有するポリアミド樹脂組成物を射出成形によって成形することを含む,成形品の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明7では,ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の含有割合が,「(A)及び(B)の合計を100質量部とする。」との前提で,それぞれ,「55?99質量部」及び「45?1質量部」であり,さらに,ポリアミド樹脂組成物が,「前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であるのに対して,先願発明3では,「前記組成物のポリアミドの総量に基づいて,少なくとも0.01重量%の量のポリアミド-PXD10(ポリ(p-キシリレンセバカミド)を更に含む」ものである点。

イ 相違点5の検討
相違点5は,上記(2)イで検討した相違点3と同様のものであるから,相違点3と同様の理由により,相違点5は実質的な相違点である。
また,相違点5が,課題解決のための具体化手段における微差(すなわち,周知慣用手段の付加,転換,削除であって,新たな効果を奏するものではないもの)といえる根拠も見当たらないから,本件発明7と先願発明3とが実質同一であるということもできない。
したがって,本件発明7は,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

ウ 本件発明7と先願発明4とを対比すると,上記(2)ウと同様に,両者は,
「脂肪族ポリアミド樹脂(A)55?99質量部と,ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し,ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂(B)45?1質量部(ただし,(A)及び(B)の合計を100質量部とする。)を含有するポリアミド樹脂組成物を射出成形によって成形することを含む,成形品の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点6
本件発明7では,ポリアミド樹脂組成物が,「前記ポリアミド樹脂(A)を60?80質量%,かつ,前記ポリアミド樹脂(B)を20?40質量%を含有するポリアミド樹脂組成物(ただし,(A)及び(B)の合計が100質量%を超えることは無い)」であるのに対して,先願発明4では,このようなポリアミド樹脂組成物全体を100質量%とした場合の,ポリアミド-6及びポリアミド-PXD10の含有割合をそれぞれ特定するものではない点。

エ 相違点6の検討
相違点6は,上記(2)エで検討した相違点4と同様のものであるから,相違点4と同様の理由により,相違点6は実質的な相違点である。
また,相違点6が,課題解決のための具体化手段における微差(すなわち,周知慣用手段の付加,転換,削除であって,新たな効果を奏するものではないもの)といえる根拠も見当たらないから,本件発明7と先願発明4とが実質同一であるということもできない。
したがって,本件発明7は,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1?7は,いずれも,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由2は理由がない。
したがって,取消理由2によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-20 
出願番号 特願2013-549188(P2013-549188)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 161- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 井上 猛
渕野 留香
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6156150号(P6156150)
権利者 三菱瓦斯化学株式会社
発明の名称 成形品  
代理人 松川 まり子  
代理人 藍原 誠  

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