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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M |
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管理番号 | 1340163 |
異議申立番号 | 異議2018-700192 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-02 |
確定日 | 2018-05-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6191188号発明「金属加工油用エステル基油」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6191188号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6191188号に係る特許についての出願は、平成25年3月26日の出願であって、平成29年8月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年3月2日に、特許異議申立人舘利彦(以下、単に、「申立人」ともいう。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第6191188号の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。 「分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られるエステルであり、前記分岐トリデシルアルコールの分岐数が1.5?2.5であることを特徴とする金属加工油用エステル基油。」 3.特許異議申立理由の概要 申立人は、特開2010-201568号公報(甲第1号証。以下、申立人の提出した甲各号証を番号に応じて、単に「甲1」などという。)、平野二郎、「合成潤滑油 特に合成エステル油について」、油化学、1973年、第22巻、第11号、p695-706、(甲2)、特開2000-110076号公報(甲3)、特開2002-114970号公報(甲4)、及び、「工業用潤滑油/金属加工油-潤滑油-出光興産」、[平成30年3月1日検索]、インターネット<URL:http://www.idemitsu.co.jp/lube/products/use/metal.html>(甲5)を提出し、本件発明は、甲1に記載された発明(甲1発明)から、甲2?4の記載を適宜参酌することにより容易に発明をすることができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2項の規定により、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。 なお、特許異議申立書における「第113条第2号」という記載(3頁5行、12頁下から2行)は、「第113条第2項」の誤記と認める。 4.判断 (1)甲1?甲5の記載 ア 甲1 甲1には、「放電加工油」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 炭素数が6?22であるカルボン酸部分と炭素数が1?18であるアルコール部分からなるエステルを、全量基準で20質量%以上配合してなることを特徴とする放電加工油。」 「【発明を実施するための形態】 【0007】 本発明の放電加工油は、所定のエステルを全量基準で20質量%以上配合してなることを特徴とする。当該エステルは、炭素数が6?22であるカルボン酸部分と炭素数が1?18であるアルコール部分からなる構造を有する。ここで、エステルの製法としては、カルボン酸とアルコールからの脱水反応でもよくエステル交換反応でもよい。結果として上述のエステルを得ることができればどのような製法でもよい。例えば、当該エステルとして、炭素数が6?22であるカルボン酸と炭素数が1?18であるアルコールから脱水反応により縮合させて得られたものが好適に使用される。 【0008】 本発明の放電加工油に配合される上述のエステルは、総炭素数が7?40であり、好ましくは10?34であり、より好ましくは20?30である。総炭素数が6以下であると、放電加工油として用いたときに引火点が低くなりすぎるおそれがある。一方、総炭素数が41以上であると、放電加工油の粘度が高くなりすぎて放電加工性能が悪化するおそれがある。このようなエステルは、40℃粘度が3?10mm^(2)/sとなる範囲で選択することが好ましい。 【0009】 ここで、当該エステルを構成するカルボン酸部分の炭素数は6?22であり、好ましい炭素数は8?18である。炭素数が5以下となると、エステルが分解した際に生じるカルボン酸の腐食性が高いため問題となる。一方、炭素数が23以上であると、粘度が高くなりすぎて加工性能が劣るおそれがあり好ましくない。また、上述のエステルを構成するアルコールの炭素数は1?18であり、好ましくは2?16である。引火点の観点からは、炭素数は多い方がよいが、炭素数が19以上であると、粘度が高くなりすぎて加工性能が劣るおそれがあり好ましくない。 【0010】 以下に、一例として上述のエステルを構成するためのカルボン酸とアルコールについて具体的な好ましい構造を説明する。 炭素数が6?22のカルボン酸としては、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナント酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(キサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)などの飽和カルボン酸や、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸などの不飽和カルボン酸が挙げられる。低温流動性の観点からは、不飽和カルボン酸のほうが好ましい。また、耐腐食性の観点からは一価のカルボン酸であることが好ましい。 【0011】 炭素数が1?18であるアルコールとしては、特に制限はなく、一価のアルコールでもよく、炭素数が2以上であれば多価アルコールでもよい。多価アルコールとしては、トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールが挙げられる。炭素数が3以上のアルコールでは、分岐構造があってもよい。たとえば、イソブチルアルコールや2?エチルヘキシルアルコールなどが挙げられる。低温流動性の観点からは分岐があるほうが好ましい。」 「【実施例】 【0021】 次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。 〔実施例1?5、比較例1?7〕 以下に示す基油および添加剤を用いて、表1、表2に示す配合組成の放電加工油を調製し、各種の評価を行った。 【0022】 (基油) 以下に示す基油のうち、(1)と(2)が本発明の放電加工油を構成する上で必須のエステルであるが、他の基油成分を混合して用いることを除外するものではない。 (1) オレイン酸イソブチル (40℃動粘度:5.7mm^(2)/s、引火点:210℃) (2) パルミチン酸2-エチルヘキシル (動粘度@40℃:8.2mm^(2)/s、引火点:220℃) (3) ペンタエリスリトールテトラオレエート (40℃動粘度:64.7mm^(2)/s、引火点:223℃) (4) ポリ-α-オレフィン (40℃動粘度:17.5mm^(2)/s、引火点:222℃) (5) 鉱物油A (40℃動粘度:19.6mm^(2)/s、引火点:230℃) (6) 鉱物油B (40℃動粘度:1.62mm^(2)/s、引火点:84℃)」 イ 甲2 甲2には、「合成潤滑油 特に合成エステル油について」(標題)、次の記載がある。 3.2 エステルの製造 エステルを合成するためのエステル化反応は古くから各種の合成化学工業の分野で用いられてきた基本的な合成反応であるが,汎用性のある高性能の合成潤滑油を経済的に製造するためには,エステル製造技術に関していまだ検討すべき諸点が残っている。・・・(当審注:「・・・」は、中略を示す。以下同じ。) 3.2.1 合成素材の選択 所要の特性をもったエステルを合成する場合に,市場に多数存在する合成素材の中から最適の酸とアルコールの組合せを選出する必要がある。幸いなことには,エステル油の流動性や揮発性と化学構造との間には,Zisman^(9),24))やFainman^(17))らが指摘したような密接な関係が存在しており,その概略的な考えを図-1に示す。 したがって,ある特定目的に合致した特性をもつエステル油を製造する場合に,図-1の関係は有効な合成指針と見なされ,さらに,エステルの全炭素数,エステル結合の位置と数^(25)),分枝鎖の大きさと付加位置^(9)),酸やアルコール成分の同族体(異性体)の混合効果などの効果^(20))も考慮し,その経済的入手性も含めてエステル合成用の素材を選択することができる。」(700頁右欄下から6行?701頁左欄25行) 「 」 ウ 甲3 「【0021】・・・イソトリデシルアルコール(ブテンの3量体またはプロピレンの4量体等から得られる)・・・」 エ 甲4 「【0051】尚、A-1?A-3の原料であるイソトリデシルアルコールは、プロピレンのテトラマーからオキソ法によって合成されたアルコールである。A-4及びA-5の原料であるイソトリデシルアルコールは、イソブテンのトリマーからオキソ法によって合成されたアルコールである。・・・」 オ 甲5 「工業用潤滑油/金属加工油 ・・・ 金属加工油 ・・・ 水不溶性切削油 製品名 特徴・用途 ・・・ ・・・ 高速放電加工油 仕上・粗加工両方で加工速度を向上します。・・・ 非塩素系切削油。高速放電加工に最適。 ・・・」 (2)甲1に記載された発明の認定(甲1発明) 甲1の【請求項1】の記載からみて、甲1には、「炭素数が6?22であるカルボン酸部分と炭素数が1?18であるアルコール部分からなるエステルを、全量基準で20質量%以上配合してなる放電加工油。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比・判断 本件発明と甲1発明とを対比する。 本件発明の「金属加工油用エステル基油」と甲1発明の「放電加工油」とは、甲1発明の「放電加工油」がエステルを全量基準で20質量%以上配合してなるものであるから、「加工油用エステル基油」である点で共通する。 また、本件発明の「分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られるエステル」は、分岐トリデシルアルコールに基づくアルコール部分と、オレイン酸に基づくカルボン酸部分とからなるエステルといえるものであるから、本件発明の「分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られるエステル」と、甲1発明の「炭素数が6?22であるカルボン酸部分と炭素数が1?18であるアルコール部分からなるエステル」とは、「アルコール部分とカルボン酸部分とからなるエステル」である点で共通する。 そうすると、本件発明と甲1発明とは、 「アルコール部分とカルボン酸部分とからなるエステルである加工油用エステル基油。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。 (相違点1) 「加工油用エステル基油」の用途について、本件発明は「金属加工油用」であるのに対し、甲1発明は「放電加工」用である点。 (相違点2) 「カルボン酸部分とアルコール部分からなるエステル」について、本件発明では、「分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られるエステルであり、前記分岐トリデシルアルコールの分岐数が1.5?2.5である」のに対し、甲1発明では、「炭素数が6?22であるカルボン酸部分と炭素数が1?18であるアルコール部分からなるエステル」である点。 ここで、相違点について検討する。 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 (相違点2について) 上述したように、本件発明の「分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られるエステル」は、炭素数が13である分岐トリデシルアルコールに基づくアルコール部分と、オレイン酸に基づくカルボン酸部分とからなるエステルといえるものであるから、甲1発明の「エステル」における「炭素数が1?18であるアルコール部分」は、本件発明の「分岐トリデシルアルコール」に基づくアルコール部分に相当しうるものといえる。 そして、該「炭素数が1?18であるアルコール部分」について、甲1の【0009】には、「炭素数が5以下となると、エステルが分解した際に生じるカルボン酸の腐食性が高いため問題となる。一方、炭素数が23以上であると、粘度が高くなりすぎて加工性能が劣るおそれがあり好ましくない。」という記載があり、同【0011】には、「炭素数が1?18であるアルコールとしては、特に制限はなく、一価のアルコールでもよく、炭素数が2以上であれば多価アルコールでもよい。」という記載はあるものの、【0021】?【0022】に記載された「実施例」に関する記載を参照しても、甲1の記載からは、「炭素数が1?18であるアルコール」の中から、本件発明における、炭素数が13に特定される「トリデシルアルコール」をあえて選択する動機付けを見出すことはできない。 しかも、本件発明における「トリデシルアルコール」は、分岐数が「1.5?2.5」の「分岐」したものであることが特定されているところ、甲1の【0011】には、「炭素数が3以上のアルコールでは、分岐構造があってもよい。たとえば、イソブチルアルコールや2?エチルヘキシルアルコールなどが挙げられる。低温流動性の観点からは分岐があるほうが好ましい。」という記載はあるものの、分岐数についての具体的な記載はなく、甲1の記載からは、甲1発明の「炭素数が1?18であるアルコール部分」について、「トリデシルアルコール」を選択した上で、さらにその分岐数を、1.5?2.5のものを選択する動機付けも見出すことはできない。 また、甲2には、エステルの製造にあたり、「エステルの全炭素数,エステル結合の位置と数^(25)),分枝鎖の大きさと付加位置^(9)),酸やアルコール成分の同族体(異性体)の混合効果などの効果^(20))も考慮し,その経済的入手性も含めてエステル合成用の素材を選択することができる。」ことが記載され、合成油の性質とエステル構造との関係について、図-1が示されており、甲2の記載から、甲1発明において、エステルの粘度、引火点(甲1の【0009】)、低温流動性(同【0011】)等を所望のものとするには、鎖長(炭素数)、分岐数を考慮してアルコールを選択する必要があることは理解できる。しかしながら、これらの特性をバランス良く発現するために、アルコールの炭素数及び分岐数をどの程度の値にするかについて具体的に示すものではなく、甲2の記載は、甲1発明の「炭素数が1?18であるアルコール部分」について、「トリデシルアルコール」を選択した上で、さらにその分岐数を、1.5?2.5のものを選択することについての動機付けを示すものではない。 そして、甲3には、イソトリデシルアルコールが、ブテンの3量体またはプロピレンの4量体等から得られることが記載され、甲4には、イソトリデシルアルコールは、プロピレンのテトラマーからオキソ法によって合成されたアルコールであることが記載され、甲5には、「不水溶性切削油」として、「高速放電加工油」が示されているものの、いずれも、甲1発明の「炭素数が1?18であるアルコール部分」について、「トリデシルアルコール」を選択した上で、さらにその分岐数を、1.5?2.5のものを選択することについての動機付けを示すものではない。 これに対し、本件発明の「金属加工油用エステル基油」は、「分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られるエステルであり、前記分岐トリデシルアルコールの分岐数が1.5?2.5である」ことにより、「粘度が低く、引火点が高いので、金属加工油の揮発による作業環境の悪化や、引火点の低下に伴う危険性が抑えられる。また、特段の対策を講じていない既存の設備を使用して、低粘度の金属加工油を使用することが可能となるので、例えば、切削加工においては、より緻密で加工精度の高い金属加工部材の製造が可能となる。さらに、本発明の金属加工油用エステル基油は、低い流動点を有しており、低温環境下においても固化し難いので、加熱用の設備を設置しなくても使用することができる。」(本件明細書【0011】)という、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。 したがって、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項は、甲2?4の記載に基いて、当業者が容易に想到し得るものではないものであって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明及び甲2?5の記載に基いて当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。 (申立人の主張について) 申立人は、甲1発明の「炭素数が1?18であるアルコール部分」について、「トリデシルアルコール」を選択した上で、さらにその分岐数を、1.5?2.5のものを選択することについて、「エステル油」自体の物性の傾向について「表1」(特許異議申立書9頁上)を作成した上で、「従って、当業者が、上記表1に示す観点に基づいて、甲1の実施例1のエステルにおける引火点を250℃以上に高めるため、アルコールの鎖長を増やそうとすることは、極めて自然な思考といえる。 そして、鎖長を増やすことで分岐数の調整も可能となることから、当業者は、低温流動性を持たせるために、上記表1に示す観点に基づいて、粘度や引火点とのバランスを考慮しつつ、分岐を増やすことも容易に想到するであろう。 このように、甲1の実施例1のエステル(オレイン酸イソブチル)の物性を踏まえ、引火点250℃以上、流動点-30℃程度となるようにエステルを設計しようと試みた当業者が、上記表1に示すエステルにおける物性変化の傾向に基づき、アルコールの鎖長を増やし、分岐を増やすことを検討することは、極めて自然なことである。」(特許異議申立書10頁下から10行?11頁4行)と主張している。 しかしながら、上記「表1」を参照すれば、甲1の【0009】から明らかなように、甲1発明は、粘度が高くなることは好ましくないものであるところ、甲1の実施例について、アルコールの鎖長を増やせば、粘度は高くなるものであり、また、甲1の【0008】から明らかなように、甲1発明は、引火点が低くなることは好ましくないものであるところ、甲1の実施例について、分岐を増やせば、引火点が下がることになり、甲1発明において、単に、アルコールの鎖長を増やし、分岐を増やせば、望ましい特性を有するものが得られるとはいえないことから、申立人の上記主張は採用できない。 5.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-04-24 |
出願番号 | 特願2013-63264(P2013-63264) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C10M)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 牟田 博一 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 川端 修 |
登録日 | 2017-08-18 |
登録番号 | 特許第6191188号(P6191188) |
権利者 | 日油株式会社 |
発明の名称 | 金属加工油用エステル基油 |
代理人 | 米田 圭啓 |