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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61J
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61J
管理番号 1340165
異議申立番号 異議2017-700533  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-29 
確定日 2018-04-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6088111号発明「パウチ容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6088111号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6088111号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願(以下「本件分割出願」という場合がある。)は、平成25年5月15日(優先権主張 平成24年6月26日 日本国)に出願した特願2013-102972号(以下「本件原出願」という。)の一部を平成28年12月1日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされたものであり、その特許について、平成29年5月29日に特許異議申立人株式会社ジェイ・エム・エス(以下「申立人1」という。)により、平成29年8月31日に特許異議申立人柏木里実(以下「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審において平成29年11月15日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成30年1月12日に意見書が提出がされた。その後、平成30年2月23日に申立人1より、上申書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面シートと裏面シートとを備えるパウチ容器であって、
前記表面シートと前記裏面シートに囲まれた空間が内容物の充填部を形成し、前記充填部に繋がる開口部が前記パウチ容器上部の前記表面シートと前記裏面シートとの間に形成されており、
前記パウチ容器は、さらに、
前記開口部を閉じるチャックと、
前記チャックより上方において、前記表面シートの内側に設けられた第1の内側シートと、
前記チャックより上方において、前記裏面シートの内側に設けられた第2の内側シートと、
を備え、
前記表面シートと前記第1の内側シートの間に第1の内部空間が形成されるとともに、前記裏面シートと前記第2の内側シートの間に第2の内部空間が形成されており、
前記表面シートは、
容器幅方向から前記第1の内部空間に指を挿入可能に形成された第1の挿入口、
を含み、
前記裏面シートは、
容器幅方向から前記第2の内部空間に指を挿入可能に形成された第2の挿入口、
を含むパウチ容器。
【請求項2】
請求項1に記載のパウチ容器において、
前記表面シートの前記第1の挿入口は、第1の切り欠き又は切り込みにより形成されており、前記裏面シートの前記第2の挿入口は、第2の切り欠き又は切り込みにより形成されているパウチ容器。
【請求項3】
請求項2に記載のパウチ容器において、
前記第1の切り欠き又は切り込みは、前記表面シートの幅方向に向かって凸状に膨らむ曲線で形成され、前記第2の切り欠き又は切り込みは、前記裏面シートの幅方向に向かって凸状に膨らむ曲線で形成されるパウチ容器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のパウチ容器であって、
前記第1の内側シートと前記第2の内側シートが接合されていない、パウチ容器。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパウチ容器であって、
前記表面シートの前記チャックより上方に位置する部分の容器幅方向の長さと、前記第1の内側シートの容器幅方向の長さは同じであり、前記裏面シートの前記チャックより上方に位置する部分の容器幅方向の長さと、前記第2の内側シートの容器幅方向の長さは同じである、パウチ容器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のパウチ容器であって、
シーラント層を有する第1の内側シートとシーラント層を有する表面シートとが、それぞれの当該シーラント層を対向させて接合されていると共に、シーラント層を有する第2の内側シートとシーラント層を有する裏面シートとが、それぞれの当該シーラント層を対向させて接合されている、パウチ容器。」

3.取消理由の概要
平成29年11月15日付けで、当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、申立人1及び申立人2が申立てた取消理由は全て通知した。
(理由1)本件発明1?6は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)本件発明1?6は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

以下、申立人1による特許異議申立書を「申立書1」、申立人2による特許異議申立書を「申立書2」とする。
以下、甲第1号証等を、「甲1」等という。
以下、刊行物1等に記載された発明、刊行物2等に記載された事項を、それぞれ、「刊行物1発明」等、「刊行物2記載事項」等という。

<刊行物>
刊行物1:特開2014-28652号公報(申立書1の甲1、申立書2の甲1)(本件原出願に係る公開公報である。)
刊行物2:米国特許第6922852号明細書(申立書2の甲2)
刊行物3:国際公開第2011/054170号(申立書2の甲3)
刊行物4:特開2007-253977号公報(申立書2の甲4)
刊行物5:米国特許出願公開第2006/0218709号明細書(申立書2の甲5)
刊行物6:特開2012-111056号公報(申立書2の甲6)
刊行物7:特開2009-40479号公報(申立書2の甲7)
刊行物8:特開2007-314245公報(申立書2の甲8)
刊行物9:特開2011-78737号公報(申立書2の甲9)

(理由1)及び(理由2)
(1)刊行物1発明を主引用発明とする理由1及び理由2
本件発明1は、分割出願の際に「充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件を削除したことにより、「充填部から隔離されていない内部空間を有する」パウチ容器も含むという新規事項が追加(申立書1)、あるいは、「袋状部を備え、前記各袋状部は、充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件を削除したことにより、「袋状部を備えず、充填部から隔離されていない内部空間を有する」パウチ容器も含むという新規事項が追加されたから(申立書2)、本件分割出願は不適法なものであるから、その出願日は、現実の出願日である平成28年12月1日である。
そうすると、本件発明1?6は、上記現実の出願日前に頒布された刊行物1に記載された刊行物1発明である。
また、本件発明1?6は、刊行物1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。

(2)刊行物2発明を主引用発明とする理由2
ア.本件発明1?3に対し
本件発明1?3は、刊行物2発明、刊行物5記載事項及び技術常識(刊行物3、4、6に記載)に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。
イ.本件発明4?6に対し
本件発明4?6は、刊行物2発明、刊行物5記載事項、刊行物7記載事項及び技術常識(刊行物3、4、6、8に記載)に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。

(3)刊行物9発明を主引用発明とする理由2
ア.本件発明1?3に対し
本件発明1?3は、刊行物9発明及び技術常識(刊行物3、4、6に記載)に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。
イ.本件発明4?6に対し
本件発明4?6は、刊行物9発明、刊行物7記載事項及び技術常識(刊行物3、4、6、8に記載)に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。

(理由3)
本件特許明細書の【0039】には「袋状部20Aは、充填部14から隔離された内部空間22Aをする。・・・」と記載され、図面もすべて「充填部から隔離された空間を有する」パウチ容器を記載しているから、「充填部から隔離された空間を有する」点を発明特定事項としない、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件発明1?6に係る特許は、いずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである。

4.当審の判断
(1)刊行物1発明を主引用発明とする理由1及び理由2について
ア.本件特許に係る特許出願の分割の適否
まず、本件特許に係る特許出願が分割要件を満たすかどうか検討する。 本件発明1は、
「A 表面シートと裏面シートとを備えるパウチ容器であって、
B 前記表面シートと前記裏面シートに囲まれた空間が内容物の充填部を形成し、前記充填部に繋がる開口部が前記パウチ容器上部の前記表面シートと前記裏面シートとの間に形成されており、
C 前記パウチ容器は、さらに、
前記開口部を閉じるチャックと、
D 前記チャックより上方において、前記表面シートの内側に設けられた第1の内側シートと、
前記チャックより上方において、前記裏面シートの内側に設けられた第2の内側シートと、
を備え、
E 前記表面シートと前記第1の内側シートの間に第1の内部空間が形成されるとともに、前記裏面シートと前記第2の内側シートの間に第2の内部空間が形成されており、
F 前記表面シートは、
容器幅方向から前記第1の内部空間に指を挿入可能に形成された第1の挿入口、
を含み、
G 前記裏面シートは、
容器幅方向から前記第2の内部空間に指を挿入可能に形成された第2の挿入口、
H を含むパウチ容器。」であり(分説A?Hは、申立書1の5頁のとおり。)、
「注入作業の作業性を向上させるために」「充填物の量を確認し易い構造のパウチ容器」(本件分割出願明細書【0005】)を提供することを課題とし、
「第1の挿入口を介して指を収納する第1の内部空間、および、第2の挿入口を介して指を収納する第2の内部空間がチャックの上方に設けられているので、利用者は、充填物を注入するとき、充填物の量を確認し易い。」(本件分割出願明細書【0016】)との効果を奏するものである。
本件発明1の課題及び効果は、本件原出願の【0009】の「本発明に係るパウチ容器において、前記壁面シートには、前記開口部を閉じるチャックが設けられ、前記各袋状部は、前記チャックよりも上方に設けられることが好適である。当該構成によれば、容器を保持する手によって充填部が隠れ難いため、充填物の量を確認し易い。」との記載に基づくもので、本件原出願の当初明細書等に記載された範囲のものである。
本件発明1の課題を、本件原出願の実施形態1(図6参照)、同2(図8参照)、同3(図12?15参照)、同4(図17参照)、同5(図18参照)、同6(図19参照)、同7(図20参照)及び同8(図22参照)のいずれもが、指挿入用の「内部空間」をチャックを介して「充填部」より上方に設けるという「内部空間と充填部との位置関係の改善」により解決している。そして、本件発明1の構成要件A?Hは、本件原出願の実施形態1?8に関する発明の詳細な説明の【0018】?【0081】、図1?図23に記載されている。例えば、パウチ容器が、チャックより上方において、表面シートの内側に設けられた第1の内側シートと、チャックより上方において、裏面シートの内側に設けられた第2の内側シートとを備える点(構成要件C及びD)は、本件原出願の当初明細書等の【0028】、【0036】等に記載されている。表面シートと第1の内側シートの間に第1の内部空間が形成されるとともに、裏面シートと第2の内側シートの間に第2の内部空間が形成されている点(構成要件E)は、本件原出願の当初明細書等の【0036】?【0039】等に記載されている。表面シートは、容器幅方向から第1の内部空間に指を挿入可能に形成された第1の挿入口を含み、裏面シートは、容器幅方向から第2の内部空間に指を挿入可能に形成された第2の挿入口を含む点(構成要件F及びG)は、本件原出願の当初明細書等の【0042】等に記載されている。
申立人は、それぞれ、本件発明1は、分割出願の際に「充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件を削除したことにより、「充填部から隔離されていない内部空間を有する」パウチ容器も含むという新規事項が追加(申立書1)、あるいは、「袋状部を備え、前記各袋状部は、充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件を削除したことにより、「袋状部を備えず、充填部から隔離されていない内部空間を有する」パウチ容器も含むという新規事項が追加されたから(申立書2)、本件分割出願は分割要件を満たさないと主張しているので、「充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件、「袋状部を備え、前記各袋状部は、充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件について検討する。
本件発明1は、構成要件Bと構成要件Cとから、充填部の開口部を閉じるチャックをパウチ容器上部に有し、構成要件Dと構成要件Eとから、当該チャックより上方に内部空間を有しているから、下方の充填部と上方の内部空間とがチャックを挟んで隔離されているものである。そうすると、本件発明1は、文言による直接的な特定はなくても、「充填部から隔離された内部空間を有し」との構成要件を実質的に含むものであると認められる。したがって、本件発明1は、「充填部から隔離されていない内部空間を有する」パウチ容器も含むということはできない。
また、「袋状部」に関しては、本件原出願の明細書の【0072】?【0073】の
「<第6の実施形態>
図19を参照し、第6の実施形態であるパウチ容器70について説明する。
パウチ容器70は、容器上部の幅方向両側にカット部71,72が形成されて容器上部の幅が容器下部の幅よりも小さくなっている点、及び袋状部20Aに2つ挿入口を形成する切り込み線25A,73Aが設けられている点(袋状部20Bについても同様)でパウチ容器10と異なる。切り込み線73Aは、袋状部20Aの幅方向他端側に近接して形成されており、切り込み線25Aと同様に正面視略U字状を呈する。・・・」との記載(下線は当審で付与。)及び図19より、「袋状部」は、挿入口を有する内部空間を含むものである点、及び「袋」とは「中に物を入れて、口を閉じるようにした入れ物」(乙2広辞苑第六版)である点を考慮すると、本件原出願の当初明細書及び本件分割出願の明細書で用いられている「袋状部」とは、「操作する指が挿入されるための挿入口を有する独立の内部空間を有する表面シートと第1の内側シート、あるいは、裏面シートと第2の内側シートから形成された入れ物」という程度の意味で用いられていると解される。そして、本件発明1は、構成要件D?Gより、第1の挿入口を有する、表面シートと第1の内側シートの間に形成される第1の内部空間と、第2の挿入口を有する、裏面シートと第2の内側シートの間に形成される第2の内部空間とを有するから、文言による直接的な特定はなくても、袋状と呼ぶことのできる部分、すなわち、「袋状部」を含むものであることが理解できる。上記の「充填部から隔離された内部空間を有し」という構成要件の検討とを併せて考量すると、本件発明1は、「袋状部を備え、前記各袋状部は、充填部から隔離された内部空間を有し」との構成要件を実質的に含むものである。したがって、本件発明1は、「袋状部を備えず、充填部から隔離されていない内部空間を有する」パウチ容器も含むということはできない。
なお、申立人2は、「これに対して、本件特許発明1は、親出願の前記課題、解決手段、効果は、全部削除された。具体的には、【0005】において、親出願では必須の構成要件であった、「袋状部を備え、前記各袋状部は、前記充填部から隔離された内部空間を有し」は削除されて、その分クレームは拡張され、【発明の効果】(【0016】)において、親出願の効果とは全く異なる効果に差し替えられた。」(申立書2の13頁1行?6行)と主張している。しかしながら、上記に示したとおり、本願発明1は、直接的な記載はなくても、「袋状部を備え、前記各袋状部は、充填部から隔離された内部空間を有し」を含むものであるから、当然のことながら、本件原出願の「充填物が指にかかる等の不具合を防止できると共に、開口部を広げながら容器を安定に保持することが容易なパウチ容器を提供できる」との効果を奏することは、当業者は理解できる。また、本件特許明細書に記載された効果も、本件原出願の当初明細書等の【0009】に「本発明に係るパウチ容器において、前記壁面シートには、前記開口部を閉じるチャックが設けられ、前記各袋状部は、前記チャックよりも上方に設けられることが好適である。当該構成によれば、容器を保持する手によって充填部が隠れ難いため、充填物の量を確認し易い。」との記載があり、本件原出願の当初明細書等の記載から、自明なものであるにすぎないから、申立人2の主張は採用しない。
そうすると、本件発明1は、本件原出願の出願当初の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。したがって、本件特許に係る出願は、適法な分割出願である。

イ.理由1及び理由2について
アで述べたように、本件出願に係る分割は、適法であるから、本件特許に係る出願の出願日は、本件原出願の出願日である平成25年5月15日(優先権主張日 平成24年6月26日)に遡及する。
そうすると、刊行物1は、本件原出願の公開公報(公開日平成26年2月13日)であり、本件特許の出願日の平成25年5月15日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物とはいえないから、その刊行物1発明を主引用発明とする、特許法第29条第1項第3号、あるいは、特許法第29条第2項に係る理由1及び理由2には、理由がない。

(2)刊行物2発明又は刊行物9発明を主引用発明とする理由2
ア.刊行物に記載された事項及び発明
(ア)刊行物2
刊行物2には、以下の刊行物2発明が記載されている(第1欄10?15行、第2欄37?50行、第2欄55?60行、FIG.1?FIG.4)。
「尿を採集する使い捨ての袋であって、頂部開口3と対向する長側面4とを有するバッグ2を含み、リブ15及びこれらに対向する溝16からなる長側面4の上端近くに設けられた密封手段5と、各長側面4の外側上部にそれぞれ設けられた筒状部材7とを備え、前記筒状部材7は、前記バッッグ2から隔離された内部空間を有し、容器幅方向から該空間への指の挿入を可能とする隙間9を有し、前記筒状部材7はポリエチレンフィルムのような軟質材料で作られ、前記筒状部材7は、袋状である、尿を採集する使い捨ての袋。」

(イ)刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載されている(第3頁20?22行、図3A)。
「チャックより上方に保持部が配置された袋体。」

(ウ)刊行物4
刊行物4には、以下の事項が記載されている(【0022】、図1及び図2)。
「把手部400の操作口401の開口縁がチャックテープ300の雌取付基材311および雄取付基材321が取り付けられた位置より投入口201側に位置する袋体200。」

(エ)刊行物5
刊行物5には、以下の事項が記載されている(【0001】、【0031】、【0032】、【0035】、【0047】?【0050】、Fig1a、Fig1b)。
「女性用排尿補助装置であって、指を挿入するための1対の指スリーブ40、42を備え、指スリーブ40、42は、シート状のフラップ44、46をシート状の側壁12、14に対して各々折り重ね、熱接合等することにより形成され、1対の指スリーブ40、42が指の挿入口を有し、指スリーブ40、42はその末端が封止されて袋状とした女性用排尿補助装置。」

(オ)刊行物6
刊行物6には、以下の事項が記載されている(【0013】)。
「切り欠き部に指を入れることで簡単に重ね合わせたシート基材を開くことができるクリアファイル。」

(カ)刊行物7
刊行物7には、以下の事項が記載されている(図1)。
「ファスナー部材13よりも上側において、表面シート11と裏面シート12とが接合されていないパウチ容器1。」

(キ)刊行物8
刊行物8には、以下の事項が記載されている(【0046】、【0096】)。
「種々のフィルムを常法に従って積層し、その外周縁をヒートシールした、四方シール形式のパウチ10。」

(ク)刊行物9
刊行物9には、以下の刊行物9発明が記載されている(【0017】、【0018】、【0022】、【0024】、図1、図2A及び図2B)。
「軟質プラスチックシート2aと軟質プラスチックシート2bを備えた医療用軟質容器であって、液状部を収容し得る収納部21と、前記収納部21に繋がる開口部4と、開口部4を開閉するジップ4a、4bを含む可撓性袋部材と、軟質プラスチックシート2aと軟質プラスチックシート2bの各々の外側にジップ4a、4bの上下にまたがって固定された開閉操作部5a、5bとを含み、軟質プラスチックシート2aとシート状の開閉操作部5a、軟質プラスチックシート2bとシート状の開閉操作部5bの間に、各々、内部空間として貫通路7a、7bを有し、開閉操作部5a、5bの一方の開口が、指を容器の右側又は左側から挿入可能な挿入口として機能する、医療用軟質容器。」

イ.刊行物2発明を主引用発明とする理由2
(ア)本件発明1について
本件発明1と刊行物2発明とは、少なくとも以下の相違点がある。
相違点1:容器を保持するために、指を挿入する構成について、本件発明1は、表面シートの内側に第1の内側シートが設けられ、その間に形成された第1の内部空間、及び裏面シートの内側に第2の内側シートが設けられ、その間に形成された第2の内部空間であるのに対し、刊行物2発明では、各長側面4の外側に設けられた筒状部材7である点。
相違点2:「第1の内部空間」、「第2の内部空間」の形成位置について、本件発明1では、チャックより上方にあるのに対して、刊行物2発明では、筒状部材7が長側面4の上端近くに設けられた密封手段5よりも下方にある点。

相違点を検討する。
相違点1について検討する。
刊行物2発明において、長側面4の外側に配置されている、筒状部材7を長側面4の内側に配置するように変更すると、指を挿入するためには、容器の開口部の上方から指を容器内部に進入させ、長側面4の内側において幅方向に延びる筒状部材7に指を挿入するという不自然な動作となり、指の挿入が困難となる。仮に、長側面4の内側に配置された筒状部材7に指を無理に挿入したとしても、排泄物を溜める空間に指を挿入することとなり、衛生に欠けるものである。
したがって、刊行物2発明において、筒状部材7を長側面4の内側に移動させるという変更をすることには、阻害要因がある。さらに、相違点1に係る構成である、表面シートの内側に第1の内側シートが設けられ、その間に第1の内部空間が形成され、裏面シートの内側に第2の内側シートが設けられ、その間に第2の内部空間が形成されている構成は、他の刊行物3?9にも記載はないし、示唆する記載もない。刊行物2発明において、相違点1に係る構成に変更することが当業者が容易になし得たとすることはできない。
次に相違点2について検討する。
刊行物2発明は、尿を採取するための使い捨ての袋であるから、密封手段5を筒状部材7よりも下方に設けると、採取した尿の水面が、密封手段5を超える可能性が生じ、密封手段5を閉じるに際して、上記超えた部分については、捨てなければならず、衛生に欠けることとなる。そうすると、刊行物2発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることに、阻害事由が存在するといえる。
また、相違点1に係る構成及び相違点2に係る構成により、本件発明1は、「第1の挿入口を介して指を収納する第1の内部空間、および、第2の挿入口を介して指を収納する第2の内部空間がチャックの上方に設けられているので、利用者は、充填物を注入するとき、充填物の量を確認し易い。」(本件分割出願明細書【0016】)との効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、刊行物2発明、刊行物5記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備える、本件発明2?6も、上記(ア)と同様の理由により、刊行物2発明、刊行物5記載事項及び技術常識、あるいは、刊行物2発明、刊行物5記載事項、刊行物7記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1?6は、刊行物2発明、刊行物5記載事項及び技術常識、あるいは、刊行物2発明、刊行物5記載事項、刊行物7記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。

ウ.刊行物9発明を主引用発明とする理由2
(ア)本件発明1について
本件特許発明1と刊行物9発明とは少なくとも以下の点で相違する。
相違点3:容器を保持するために、指を挿入する構成について、本件発明1は、表面シートの内側に第1の内側シートが設けられ、その間に形成された第1の内部空間、及び裏面シートの内側に第2の内側シートが設けられ、その間に形成された第2の内部空間であるのに対し、刊行物9発明では、軟質プラスチックシートの外側に設けられた開閉操作部である点。
相違点4:「第1の内部空間」、「第2の内部空間」の形成位置について、本件発明1では、チャックより上方にあるのに対して、刊行物9発明では、チャックの上下にまたがっている点。

相違点を検討する。
相違点3について検討する。
刊行物9発明の軟質プラスチックシート2a、2bの外側に固定された、開閉操作部5a、5bを軟質プラスチックシート2a、2bの内側に配置するように変更すると、指を挿入するためには、医療用軟質容器の開口部の上方から指を容器の中に進入させ、軟質プラスチックシート2a、2bの内側において開閉操作部5a、5bに指を挿入するという不自然な動作となり、指の挿入が困難になる。仮に、軟質プラスチックシート2a、2bの内側に配置された開閉操作部5a、5bに指を無理に挿入したとしても、容器の内側に指が位置すると液剤の注入作業に際して指が邪魔になるから、医療用軟質容器への液剤の注入作業が困難となることは明らかである。また、開閉操作部5a、5bが容器の内側でジップ4a、4bの上下にまたがって配置されるため、ジップ4a、4bを閉じることができないという不都合が生じる。したがって、刊行物9発明において、開閉操作部5a、5bを軟質プラスチックシート2a、2bの内側に移動させるという変更をすることには、阻害要因がある。さらに、相違点3に係る構成である、表面シートの内側に第1の内側シートが設けられ、その間に第1の内部空間が形成され、裏面シートの内側に第2の内側シートが設けられ、その間に第2の内部空間が形成されている構成は、他の刊行物2?8にも記載はないし、示唆する記載もない。刊行物9発明において、相違点3に係る構成に変更することが当業者が容易になし得たとすることはできない。
次に相違点4について検討する。
刊行物9発明において、開閉操作部5a、5bをジップ4a、4bの上下にまたがって固定されているのは、片手による開閉操作部5a、5bの操作によりジップ4a、4bの係合を解除するためで(刊行物9の【0024】)、ジップ4a、4bを開閉操作部5a、5bよりも下方に設けると、その利点が失われるので、刊行物9発明において、上記相違点4に係る本件発明1の構成を備えたものとする、動機付けがないといえる。
また、相違点3に係る構成及び相違点4に係る構成により、本件発明1は、「第1の挿入口を介して指を収納する第1の内部空間、および、第2の挿入口を介して指を収納する第2の内部空間がチャックの上方に設けられているので、利用者は、充填物を注入するとき、充填物の量を確認し易い。」(本件分割出願明細書【0016】)との効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、刊行物9発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備える、本件発明2?6も、上記(ア)と同様の理由により、刊行物9発明及び技術常識、あるいは、刊行物9発明、刊行物7記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1?6は、刊行物9発明及び技術常識、あるいは、刊行物9発明、刊行物7記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。

(3)理由3について
上記(1)で述べたように、本件発明1は、充填部より上方に内部空間を有するものであるから、本件発明1は、「前記充填部から隔離された内部空間を有し」との構成要件を実質的に含むものであると認められる。本件発明を引用する、本件発明2?6も、「前記充填部から隔離された内部空間を有し」との構成要件を実質的に含むものであると認められる。したがって、本件発明1?6は、「充填部から隔離された空間を有する」点を実質的に構成要件を含むから、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として取り消すことはできない。
よって、理由3については理由がない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-18 
出願番号 特願2016-234484(P2016-234484)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61J)
P 1 651・ 121- Y (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 悟史  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 小野田 達志
蓮井 雅之
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6088111号(P6088111)
権利者 ニプロ株式会社
発明の名称 パウチ容器  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 坂根 剛  

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