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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61M
管理番号 1340167
異議申立番号 異議2018-700191  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-02 
確定日 2018-05-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6191176号発明「モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6191176号の請求項1ないし2、4ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6191176号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年3月15日に特許出願され、平成29年8月18日に設定登録(特許公報の発行日は、平成29年9月6日)がされ、その後、請求項1?2、4?8に係る特許に対し、平成30年3月2日に特許異議申立人金山愼一により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第6191176号の請求項1?2、4?8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2、4?8に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?2、4?8の特許に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明2」、「本件発明4」?「本件発明8」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)。

3 申立理由の概要
(3-1)
特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載は、本件発明1?2、4?8が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許は特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すべきものであると主張している(以下「申立理由A」という。)。
(3-2)
特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載は、本件発明1?2、4?8が不明確であり、本件特許は特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すべきものであると主張している(以下「申立理由B」という。)。
(3-3)
特許異議申立人は、主たる証拠として甲1号証、従たる証拠として甲2号証、甲3号証、甲4号証、甲5号証を提出し、請求項1?2、4?8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すべきものであると主張している(以下「申立理由C」という。)。
甲1号証:特開2010-233853号公報
甲2号証:特開平07-275356号公報
甲3号証:東京都立工業技術センター研究報告,「高圧射出成形によるプラスチック部品の寸法特性」,1986年2月発行,通号15,p.6?10,写し
甲4号証:特開平10-185070号公報
甲5号証:特開2004-352360号公報

4 判断
最初に申立理由Bについて検討する。
(4-1)申立理由Bについて
特許異議申立人は、以下(ア)?(ウ)の3つを主張している。
(ア)
本件発明1及び2の「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置されること」、また、本件発明2の「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置されること」について、凹み部と封止部との相対的な位置関係は、流体ポートの内径に対する栓体の挿入量によって変化するものといえる。そうすると、ある流体ポートに対する栓体の挿入量が異なるだけで、本件発明1及び2において特定される条件を満たしたり、満たさなかったりするため、本件発明1及び2は、モジュールという「物」の発明において、栓体の挿入方法によって、構成が実質的に特定されているといえ、封止部と凹み部との関係が一義的に定まらないから、本件発明1及び2は、記載が明確でない。
(イ)
本件発明1及び2の「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し」について、凹み部に点状に落ち込んだものが含まれると、明細書の記載に矛盾して、凹み部の範囲が必要以上に広がることになるから、「凹み部」の定義が明確でない。
(ウ)
本件発明1及び2の封止部が、「該凹み部を避けた位置で当接する」及び「該凹み部の位置で当接する」について、封止部がどのような状態で流体ポートの内周面に当接すると、封止部が流体ポートの「該凹み部を避けた位置」及び「該凹み部の位置」に当接するのか明確でない。

(4-1-1)上記(ア)についての検討
請求項1及び2の「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置されること」との記載と、請求項2の「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置されること」との記載は、いずれも栓体から突出する封止部の位置を凹み部との関係において特定するものであり、流体ポートに対する栓体の挿入量を特定するものではない。
また、請求項1及び2は、モジュールという「物」の発明において、栓体の挿入方法によって、構成が特定されているものではない。
してみれば、請求項1及び2の「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置されること」との記載については、その記載から把握されるとおり、封止部と凹み部との相対的な位置関係は、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置されることから明確であり、また、請求項2の「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置されること」との記載については、その記載から把握されるとおり、封止部と凹み部との相対的な位置関係は、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置されることから明確である。
そして、このことは、発明の詳細な説明の段落【0041】の「微小凹みを考慮したポート内周面形状を作図することで、封止部の配置を検討することが容易となる。」等との記載とも整合する。
特許異議申立人は、本件発明1及び2は、モジュールという「物」の発明において、栓体の挿入方法によって、構成が実質的に特定されているといえ、封止部と凹み部との関係が一義的に定まらないから、本件発明1及び2は、記載が明確でないと主張しているが、本件発明1及び2は、栓体の挿入量または挿入方法によって、その構成を特定するものではないから、特許異議申立人の主張には理由がない。

(4-1-2)上記(イ)についての検討
発明の詳細な説明には、次のとおり記載されている。
(a)【0027】
「発明者らは、この透析液ポートの内周面の内径を精密に測定すると、透析液ポートの外側の大径部に相当する位置に微小凹み8があり、その凹みの部分において内径がわずかに大きくなっていること、さらに、特定の範囲の大きさの凹みが存在する場合、封止状態に影響を及ぼし得ることを発見した。ここで、凹みが無い場合の該当部の内径をD1とし、微小凹み部の最大内径をD2とすると、微小凹みの「量」Aは
A=(D2-D1)/2
の式で表される。」
(b)【0032】
「図3は、3次元形状測定器で微小凹みを測定する場合の概略図であり、3次元形状測定器の測定プローブ12を透析液ポートに挿し込むことで、非破壊で容易に任意の位置における内径を測定することができる。」
(c)【0034】
「図4(a)のように、測定プローブ12を透析液ポートの先端から0.5mm刻みの距離で測定し、図4(b)のように円周上に各6箇所ずつ当接させ、近似円半径を最小2乗法などの方法で算出することで、図5に示すようなグラフを得ることができる。」
(d)【0042】
「上記凹みの量Aは成形条件などにより異なるが、10μm未満の場合、内周面の平滑性を損ねることは少なく、従来の技術に係る栓体の封止部と当接した場合であっても、部分的にシール性が損なわれる恐れが少ない。また、100μmを超えると、金型内部での樹脂の充填状態が不良である場合が多く、この場合は成形条件を見直すなどの対策で改善可能である。」
(e)【0043】
「しかしながら10μm以上、100μm以下の微小凹みの場合、目視確認が困難であって、改善のための適切な成形条件を見出すことが困難であり、本発明が有効である。」
(f)【0052】
「図6において封止部は3箇所備えられ、円筒部の側面から全周にわたって突出した突起である。」
(g)【0053】
「封止部の側面から見た断面形状は略山型に形成されている。」
(h)【0063】
「残りの1つの封止部である上段の封止部51は、栓体を脱着する際に栓体の姿勢を安定させるために配置されている。上段の封止部は、透析液ポートの微小凹み部分に当接することで姿勢が安定する。」

上記(a)?(h)の記載から、発明の詳細な説明には、凹み部は一貫して、流体ポートの内面に沿った円周上の溝状のものとして記載されている。
また、【0035】?【0037】に記載されるような流体ポートの場合、その内面に形成される「成形ヒケ」は、内面に沿って点状でなく溝状になることは技術常識である。
以上のとおりであるから、本件発明1及び2の「凹み部」は、明細書の記載も併せてみて、流体ポートの内面に沿った円周上の溝状であって、点状に落ち込んだものは含まれないと認められる。
したがって、本件発明1及び2の「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し」は、そのような凹み部について、その位置と大きさを特定するものであるから明確であり、また、明細書の記載と矛盾するものではないため、特許異議申立人の主張には理由がない。

(4-1-3)上記(ウ)についての検討(下線は、当審で付した。以下、同様。)
本件発明1及び2の「該凹み部」は、請求項1及び2に記載されている流体ポート内面の「10μm以上100μm以下の凹み部」という特定事項を引用するものである。そして、上記(4-1-2)に記載のとおり、「該凹み部」は、流体ポートの内周面に沿った円周上の溝状のものである。
そして、本件発明1及び2の「該凹み部を避けた位置で当接する」との記載については、上記特定事項を引用して解釈すれば、10μm以上100μm以下の凹み部、すなわち、凹み部において凹みの量が10μm以上100μm以下の領域を避けた位置で当接すること、本件発明2の「該凹み部の位置に当接する」とは、上記特定事項を引用して解釈すれば、10μm以上100μm以下の凹み部、すなわち、凹み部において凹みの量が10μm以上100μm以下の領域に当接することと認められ、発明は明確である。
この点について、発明の詳細な説明の段落【0062】?【0066】等を参照すると、該凹み部を避けた位置に封止部が当接することでシール性を高め、該凹み部に封止部が当接することで栓体の姿勢を安定することができると記載されていることから、該凹み部(凹み部において凹みの量が10μm以上100μm以下の領域)を避けた位置、例えば、凹み部において凹みの量が10μm以下の領域での当接はシール性を高めることとなる。
そして、発明の詳細な説明の段落【0042】の「上記凹みの量Aは成形条件などにより異なるが、10μm未満の場合、内周面の平滑性を損ねることは少なく、従来の技術に係る栓体の封止部と当接した場合であっても、部分的にシール性が損なわれる恐れが少ない」の「部分的にシール性が損なわれる恐れが少ない」という記載から、凹み部において凹みの量が10μm未満の領域での当接はシール性を担保しようとするものといえ、発明の詳細な説明の記載とも整合しているため、特許異議申立人の主張には理由がない。

(なお、特許異議申立人の図面を伴う主張(特許異議申立書9頁)については、栓体の封止部が凹み部を避けた位置に当接するのはa、b、eであり、栓体の封止部が凹み部の位置に当接するのはc、d、f、gと認められる。)

(4-1-4)小括
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、本件発明1及び2は明確である。そして、本件発明1または2を引用する本件発明4?8も明確である。また、特許異議申立人は、本件発明4?8の明確性については、その引用する本件発明1及び2が不明確であるとの理由以外の主張をしていない。
したがって、本件発明1?2、4?8は特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たすものであるから、申立理由Bにより、請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。

(4-2)申立理由Aについて
本件発明1及び2の「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し」について、凹み部に点状に落ち込んだものが含まれると、明細書の記載に矛盾して、凹み部の範囲が必要以上に広がることになるから、発明の詳細な説明の開示された内容を超えることになる、と主張しているので、この点について検討する。

(4-2-1)はじめに
特許法第36条第6項第1号は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない旨を規定している(以下、この要件を「サポート要件」という。)。したがって、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比し、検討してなされるところ、その検討は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を越えるものであるか否かをみることによりなされるものである。
そこで、本件発明は、「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し」との発明特定事項に関し、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を越えるものであるか否かについて検討する。

(4-2-2)本件発明の課題
発明の詳細な説明には以下が開示されている。
(a)【0004】
「特に、医療用の容器の流体ポートに用いられる栓体は、容器内の品質を保ち、衛生的に保管するために、高いシール性が求められる。また、上記モジュールの例として、医療用または水処理用に主に用いられる中空糸膜モジュールを代表とする医療用の容器は、使用時に流体ポートに取り付けられた栓体を脱着容易となる構造であることが求められる。」
(b)【0005】
「上記栓体において、高いシール性を実現するためには、流体ポートの内面と栓体の封止部が、確実に密着する必要があり、そのために、栓体の封止部を、流体ポートの内径よりも大きな直径に設定し、材料の弾性を利用して封止部を変形させることで流体ポートの内面と密着し、栓体を保持する力を発現させる方法が用いられている。」
(c)【0006】
「このとき、栓体の封止部には、弾性を備え、かつ、流体の圧力に耐えるために、弾性の高いゴムやエラストマー、プラスチックなどが用いられている。しかしながら、上記の方法で流体ポートに栓体を取り付けても、わずかな寸法の狂いがあれば微少な流体の漏洩が生じるという懸念があった。」
(d)【0007】
「その場合、栓体の封止部の直径を、流体ポートの内径に対してさらに大きくすることで、より密着性を高め、シール性を向上させることがあった。」
(e)【0008】
「また、栓体の封止部の材質を、より硬度の高い材質とすることで、密着性を高め、シール性を向上させることもあった。」
(f)【0009】
「しかしながら、これらの方法では、栓体の脱着時に大きな力が必要となり、操作性が悪化するという問題点があった。」
(g)【0010】
「一方、栓体の封止部を2箇所以上備えることは、封止の確実性を向上させ、かつ栓体を脱着する際の力を低減させることができ、これらに関する技術は特許文献1?3に記載されている。」
(h)【0011】
「しかしながら、これらいずれの従来技術においても、高いシール性と脱着時の力の低減を両立する設計は、難易度の高いものであった。」
(i)【0013】
「本発明では、医療用、水処理用または食品用等に用いられるモジュールにおいて、そのケースにおける流体ポートに取り付けられる栓体がポート内面に密着して、わずかな寸法の狂いによっても微少の流体の漏洩を生じることなく、それでいながら栓体の脱着時に大きな力が不要となる技術を提供することを目的とする。」
(j)【0016】
「また、上記発明に基づいて検討した結果、栓体の姿勢の安定の観点、設計し易く、高い寸法精度で栓体が得られる観点のそれぞれに照らして、以下のそれぞれの態様に係る好ましい発明に到った。2.上記封止部の少なくとも1つが、上記1に係る凹み部を避けた位置に当接するように配置され、上記封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置される態様。3.上記封止部のすべてが、上記1に係る凹み部を避けた位置に当接するように配置される態様。」

以上の(a)?(j)の記載から、本件発明が解決しようとする課題は、流体ポートに取り付けられる栓体が流体ポートの内面に密着して、微小の流体の漏洩を生じることない技術を提供することである。

(4-2-3)発明の詳細な説明
発明の詳細な説明には、次のとおり記載されている。
(a)【0014】
「発明者らは、モジュールの流体ポートを封止するための栓体において、流体ポートに栓体を取り付けているにも関わらず、微少な液体の漏れや気体の漏洩が生じることの原因を詳細に調査した。」
(b)【0027】
「発明者らは、この透析液ポートの内周面の内径を精密に測定すると、透析液ポートの外側の大径部に相当する位置に微小凹み8があり、その凹みの部分において内径がわずかに大きくなっていること、さらに、特定の範囲の大きさの凹みが存在する場合、封止状態に影響を及ぼし得ることを発見した。ここで、凹みが無い場合の該当部の内径をD1とし、微小凹み部の最大内径をD2とすると、微小凹みの「量」Aは
A=(D2-D1)/2
の式で表される。」
(c)【0042】
「上記凹みの量Aは成形条件などにより異なるが、10μm未満の場合、内周面の平滑性を損ねることは少なく、従来の技術に係る栓体の封止部と当接した場合であっても、部分的にシール性が損なわれる恐れが少ない。また、100μmを超えると、金型内部での樹脂の充填状態が不良である場合が多く、この場合は成形条件を見直すなどの対策で改善可能である。」
(d)【0043】
「しかしながら10μm以上、100μm以下の微小凹みの場合、目視確認が困難であって、改善のための適切な成形条件を見出すことが困難であり、本発明が有効である。」
(e)【0061】
「図8は、本発明における封止部と透析液ポートの当接状態を示す一例である。なお、図8において、微小凹みは、その形状がわかりやすいように、凹凸の倍率を模擬的に大きくして描画している。」
(f)【0062】
「ここでは、封止部のうちの、中段の封止部52、および下段の封止部53が、透析液ポートの内周面に生じている微小凹みを避けた位置に当接している。これらの封止部が全て微小凹みの位置に当接すると、封止部がポート壁によって圧縮される割合(圧縮率)が減少し、シール性が低下する。」
(g)【0063】
「残りの1つの封止部である上段の封止部51は、栓体を脱着する際に栓体の姿勢を安定させるために配置されている。上段の封止部は、透析液ポートの微小凹み部分に当接することで姿勢が安定する。この様に、栓体の姿勢の安定の観点からは、封止部の少なくとも一つについては、ポート内壁と密着する役割を果たす他の封止部とは別に、あえて凹み部の位置に当接するように配置されることが、好ましい。かかる封止部は姿勢の安定のためのものであるから、透析液ポートに対して圧縮率を高める必要がなく、栓体の取り外し易さを損なうことがない程度に設計することができる。」
(h)【0064】
「上記の態様の如く、本発明においては、少なくとも1つの封止部が微小凹み部分を避けた位置に当接していることが重要であるが、好ましい態様として、封止部を形成する際に、上述した無理抜き方式により栓体を形成する場合において、栓体の最下段以外に配置された封止部が、凹み部を避けた位置に当接するように設計し、その封止部の円環がなす直径に比べて、それより下段に配置された封止部がなす円環の直径を小さく設計して、姿勢の安定に利用すれば、栓体の製造時に金型から離型しやすくなる利点もある。」
(i)【0065】
「たとえば、封止部をシール性を高めることを担う部位として、上記図8の態様の如く中段、下段が微小凹み部分を避けた位置に当接している場合に、中段のみが透析液ポートと高い密着力を維持してシール性を高める一方、下段については封止部の円環がなす直径を中段における当該直径より小さく設定して、姿勢の安定に利用することが可能である。」
(j)【0066】
「このように、必要に応じて、シール性を高めるための封止部と、姿勢を安定させるための封止部を緻密に設計できるため、取扱性を損なうことなく姿勢の安定の効果や、確実なシール性を得ることが出来る点が、本願発明が従来の技術とは大きく異なる点である。」

上記(a)?(j)の記載から、発明の詳細な説明には、内面に微小凹み量Aが10μm以上100μm以下を有する流体ポートに対して、栓体に設けられた封止部の少なくとも1つを凹み部を避けた位置に当接することで、確実なシール性を得ることができることが記載されている。
よって、本件発明1及び2は、「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部」との特定事項に関し、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された発明を超えるものではない。

(4-2-4)申立理由Aの主張についての検討
特許異議申立人は、本件明細書では一貫して、凹み部は、円形の内周面に沿った溝上のものとしてしか記載されていないため、「凹み部」に点状に落ち込んだ部分も含まれると、凹み部の範囲が必要以上に広がることになるから、発明の詳細な説明に開示された内容を超えることになる、と主張する。
この点について検討するに、上記(4-1-2)で検討したとおり、本件発明1及び2の「凹み部」は、流体ポートの内面に沿った円周状の溝状であって、点状に落ち込んだものは含まれないと認められる。よって、特許異議申立人の主張には理由がない。

(4-2-5)小括
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件発明1または2を引用する本件発明4?8も、発明の詳細な説明に記載されたものである。そして、特許異議申立人は、本件発明4?8のサポート要件について、その引用する本件発明1及び2がサポート要件を満たしていないとの理由以外の主張をしていない。
したがって、本件発明1?2、4?8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、申立理由Aにより、請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。

(4-3)申立理由Cについて
(4-3-1)刊行物の記載
(ア)甲1号証
(a)発明の詳細な説明
発明の詳細な説明には以下が記載されている。
(a-1)【0001】(【技術分野】の欄)
「本発明は、医療用具用液体ポートに用いられる栓体およびこれが用いられる医療用具に関する。」
(a-2)【0002】(【背景技術】の欄)
「内部に気体や水、水溶液などの流体が充填された医療用具、例えば、人工腎臓、血漿分離器、・・・等は、体液の循環や水、水溶液などの通液のための一個以上の液体ポートを備える。」
(a-3)【0003】(【背景技術】の欄)
「各液体ポートには、・・・、内部液体が漏出するのを防止するなどの目的で栓体が被冠されている。図3はその一例であり、この栓体20は円形の保持部21と装着部22とを有し、装着部22を液体ポート内周面に圧着することにより、不用意に脱線することを防止できる(特許文献1参照)。」
(a-4)【0017】(【発明を実施するための形態】の欄)
「液体ポートは、JIS T3250(2005)の規定に沿った寸法形状とされ、図1に示すように、円筒状に形成されている。」
(b)図面
従来の液体ポートの栓体の一例を示す図3には、栓体20の装着部22の側面には、複数の拡径した部分が突出していることが図示されている。

上記(a-4)に記載されているように、JIS T3250(2005)に規定に沿う寸法形状の医療用具は広く知られており、当該JIS T3250(2005)により規定された医療用具用液体ポートは円筒状であるから、上記(a-1)?(a-3)(【背景技術】の欄)に記載されている医療用具用液体ポートも円筒状と認められる。

以上から、甲1号証には、以下の発明が記載されている(以下、「甲1号証発明」という。)。
「円筒状の液体ポートを有する医療用具および該液体ポートに取り付けられる栓体を有する医療用具と栓体との組み合わせであって、該栓体は装着部と該装着部の側面から複数の拡径した部分が突出し、該液体ポートの内側に挿入されている、医療用具と栓体との組み合わせ」
(イ)甲2号証には、「等間隔でリング状の4つのリブが一体形成された血液浄化装置のポート部に取付けるキャップ」が記載されている(段落0010?0013、及び図1?2を参照)。
(ウ)甲3号証には、「外径35m、肉厚2mmで中心部に5mmの軸穴を有する実用部品としてモデル的な円筒部品を、ポリアセタール樹脂を用いて射出圧力1200?4000kgf/cm2の射出成形した際に、円筒形状の部品の軸穴に、約10?30μmの変形が生じること」が記載されている(第6頁、第7頁左欄、第10頁左欄、及び図1、図8を参照)。
(エ)甲4号証には、「樹脂管継手の受口の外径をD1(=256mm)、厚肉移行部開始点Aにおける外径D2とすると、ヒケ量D1-D2は、430μm以上1880μm以下の、ポリエチレン樹脂で射出成形されたガス分野や水道分野での樹脂管継手」が記載されている(段落0002、0040、表1参照)。
(オ)甲5号証には、「筒状のノズルの外周面に雄螺状が形成されたボトルにおいて、対応するボトルの内周面にヒケが存在する場合があるため、容器蓋に設けられた環状の凸部を、ノズル外周面のネジ切り開始位置より上に設定することにより、環状の凸部がヒケ部分に位置することがなく密封が保たれること」が記載されている(段落0020、及び図4?5を参照)。

(4-3-2)本件発明1について
(4-3-2-1)本件発明1と甲1号証発明との対比
本件発明1と甲1号証発明とを対比すると、その構造または機能からみて、甲1号証発明の「液体ポート」は、本件発明1の「流体ポート」に相当し、以下同様に、甲1号証発明の「医療用具」は本件発明1の「ケース」に、甲1号証発明の「医療用具と栓体との組み合わせ」は本件発明1の「モジュール」に、甲1号証発明の「円筒部」は本件発明1の「装着部」に、甲1号証発明の「拡径した部分」は本件発明1の「封止部」に相当する。
そこで、本件発明1の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

一致点
「円筒状の流体ポートを有するケースおよび該流体ポートに取り付けられる栓体を有するモジュールであって、該栓体は円筒部と該円筒部の側面から封止部が突出し、該流体ポートの内側に挿入されている、モジュール。」

そして、両者は次の相違点(1-1)?(1-2)で相違する。

相違点(1-1)
「封止部」について、本件発明1は「2箇所以上、4箇所以下の円環状の封止部が突出」しているのに対し、甲1号証発明は「個数」と「形状」が明らかでない点。
相違点(1-2)
「凹み部と封止部」について、本件発明1は 「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置される」のに対して、甲1号証発明は10μm以上100μm以下の凹み部を有するものかどうか不明であり、また、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置されているのかどうかが不明な点。

(4-3-2-2)相違点の検討
まず、相違点(1-2)について検討する。
上記(4-3-1)(ア)?(オ)に記載のとおり、甲1号証、及び甲2号証?甲5号証のいずれにおいても、流体ポートの内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置される、ことについての記載も示唆もない。
この点について、特許異議申立人は、本件特許の出願時において、流体ポートの内周にヒケが起きること、すなわち流体ポートの内周に凹み部が存在することは既に知られていた事実であり、その凹み部の深さも、「10μm以上100μm以下」の範囲内であることは、甲3号証及び甲4号証の記載などから裏付けられていると主張している(特許異議申立書15頁)ので、検討する。

甲3号証について、特許異議申立人は、射出成形された円筒部品の穴では、穴の内周面が内側に変形し、δr1で表された部位とδr2で表された部位との間の領域に凹み部が存在しているといえ、その凹み部の深さは、約10?30μmであるといえる、と主張している(特許異議申立書14頁)。この点について検討するに、上記(4-3-1)(ウ)に記載のとおり、甲3号証には、円筒部品の軸穴に約10?30μmの変形が生じることは記載されているものの、甲3号証の円筒部品は、「実用部品としてモデル的な円筒部品」であって、本件発明1の円筒状流体ポートとは形状が相違するものである。また、甲3号証には、円筒状の流体ポートを有するケース及び該流体ポートに取り付けられる栓体を有するモジュールにおいて、その流体ポートの内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在しているとの記載も示唆もない。
甲4号証について、特許異議申立人は、円筒体の外周面に起きるヒケの大きさであって、図4を考慮すると、内周面にも同様のヒケ(凹み部)が起きているといえ、甲4号証では、円筒体の外径が256mmと大きいが、ヒケは成形樹脂の収縮により起きるものであるから、ヒケ量は円筒体の直径に略比例するといえ、「外径が3mm?30mm」程度の流体ポートであれば、最大で100μm以下のヒケ量の引けが起きていると推測することができる、と主張している(特許異議申立書15頁)。この点について検討するに、甲4号証に明記されているヒケ量は、特許異議申立人も主張するように、円筒体の外周面である外径に生じるヒケ量であり、円筒体の内周面にどの程度のヒケ量が生じるかの記載も示唆もない。また、甲4号証の樹脂管継手は、本件発明1の円筒状流体ポートとは形状が相違するものであり、甲4号証には、円筒状の流体ポートを有するケース及び該流体ポートに取り付けられる栓体を有するモジュールにおいて、その流体ポートの内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在しているとの記載も示唆もない。
してみると、甲3号証及び甲4号証の記載などから裏付けられているという、特許異議請求人の上記主張には理由がない。

また、甲5号証について、特許異議申立人は、円筒状のノズル内壁と容器蓋のインナーリングとを当接させてシールしたとしても、その当接部位にヒケ(凹み部)が存在すると、リークが発生するといえるから、そのような位置では、積極的に当接させないように位置関係を設定することは、引用発明1においても、容易に着想し得る課題であるから、甲1号証発明において、封止部を凹み部を避けた位置に配置することは容易に想到し得ることであると主張している(特許異議申立書17頁)。
この点について検討するに、「凹み部を避けた位置」とは、単に「凹み部を避けた位置」ではなく、請求項1を参照すると、「該凹み部」と記載されているように、「10μm以上100μm以下の凹み部」という特定事項を引用するものであるから、単に「凹み部を避けた位置」ではなく、「10μm以上100μm以下の凹み部を避けた位置」である。
してみると、甲5号証に、上記(4-3-1)(オ)のとおりの記載があったとしても、10μm以上100μm以下の凹み部を避けるように封止部を当接するという技術的思想については、甲1号証、及び甲2号証?甲5号証のいずれにおいても記載も示唆もないため、当業者が容易になし得るものではなく、特許異議申立人の上記主張には理由がない。

したがって、本件発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1号証発明と、甲2号証?甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(4-3-2-3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1号証発明と、甲2号証?甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(4-3-3)本件発明2について
(4-3-3-1)本件発明2と甲1号証発明との対比
本件発明2と甲1号証発明とを対比すると、その構造または機能からみて、甲1号証発明の「液体ポート」は、本件発明2の「流体ポート」に相当し、以下同様に、甲1号証発明の「医療用具」は本件発明2の「ケース」に、甲1号証発明の「医療用具と栓体との組み合わせ」は本件発明2の「モジュール」に、甲1号証発明の「円筒部」は本件発明2の「装着部」に、甲1号証発明の「拡径した部分」は本件発明2の「封止部」に相当する。
そこで、本件発明2の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

一致点
「円筒状の流体ポートを有するケースおよび該流体ポートに取り付けられる栓体を有するモジュールであって、該栓体は円筒部と該円筒部の側面から封止部が突出し、該流体ポートの内側に挿入されている、モジュール。」

そして、両者は次の相違点(2-1)?(2-3)で相違する。

相違点(2-1)
「封止部」について、本件発明2は「2箇所以上、4箇所以下の円環状の封止部が突出」しているのに対し、甲1号証発明は「個数」と「形状」が明らかでない点。
相違点(2-2)
「凹み部と封止部」について、本件発明2は 「該流体ポートは内面に10μm以上100μm以下の凹み部が存在し、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置される」のに対して、甲1号証発明は10μm以上100μm以下の凹み部を有するものかどうか不明であり、また、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部を避けた位置に当接するように配置されているのかどうかが不明な点。
相違点(2-3)
「凹み部と封止部」について、本件発明2は「該封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置される」のに対して、甲1号証発明には、該封止部の少なくとも1つが、該凹み部の位置に当接するように配置されているかどうかが不明な点。

(4-3-3-2)相違点の検討
最初に、相違点(2-2)について検討する。
相違点(2-2)は、上記相違点(1-2)と実質的に相違するものでもなく、また、その判断も上記相違点(1-2)についての検討欄に記載した判断と相違するものではない。
したがって、本件発明2は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1号証発明と、甲2号証?甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(4-3-3-3)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲1号証発明と、甲2号証?甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(4-3-4)本件発明4?8について
本件発明4?8は、本件発明1または本件発明2を更に限定したものであるから、上記本件発明1または上記本件発明2についての判断と同様の理由により、甲1号証発明と、甲2号証?甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(4-4)まとめ
以上のとおり、本件発明1?2、本件発明4?8は、甲1号証発明と、甲2号証?甲5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-10 
出願番号 特願2013-52898(P2013-52898)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61M)
P 1 652・ 537- Y (A61M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 孝佑川島 徹  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 林 茂樹
船越 亮
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6191176号(P6191176)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 モジュール  

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