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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C12Q
管理番号 1340690
審判番号 不服2017-9533  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-29 
確定日 2018-06-13 
事件の表示 特願2015- 91283「食道がんを検出するための方法およびプローブ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日出願公開、特開2015-165807、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月28日の出願であって、特願2007-556340号(パリ条約による優先権(2005年2月18日[米国])を主張する国際出願)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき分割して新たな出願としたものであり、平成28年3月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月2日付けで手続補正がされ、平成29年2月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年2月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?15に係る発明は、以下の引用文献1?4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.Modern Pathology, 2004 May, Vol.17, No.5, p.588-596
2.Modern Pathology, 2005 Jan, Vol.18, No.Suppl.1, p.102A, 456
3.J Pathol, 2004 Jul, Vol.203, No.3, p.780-788
4.Hepatogastroenterology, 2003 Mar-Apr, Vol.50, No.50, p.404-407

第3 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、平成28年9月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
a.食道がん腫に関する状態が未知であるヒト被験者からの食道細胞を含む生物サンプルを、該サンプルにおける食道がん腫または前駆体病変を検出するために、該サンプルに存在するプローブの核酸標的にプローブを特異的にハイブリダイズさせる条件下で、20q13座特異的プローブ、17q11.2-12座特異的プローブ、9p21座特異的プローブおよび8q24.12-13座特異的プローブからなる染色体プローブのセットと接触させること;そして
b.生物サンプルに対する染色体プローブのセットについての増減を評価してハイブリダイゼーションパターンが被験者における食道がん腫または前駆体病変の存在または不在の指標であるハイブリダイゼーションパターンを検出すること:
を含んでなる、方法。」

なお、本願発明2?15の概要は以下のとおりである。
本願発明2、3は、本願発明1で検出される「がん腫または前駆体病変」について特定した発明である。
本願発明4、6、14、15は、本願発明1の「生物サンプル」について特定した発明である。
本願発明5、8?13は、本願発明1の「染色体プローブ」、「染色体プローブセット」について特定した発明である。
本願発明7は、本願発明1の「被験者」について特定した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1-1)「細胞診標本の蛍光in situハイブリダイゼーションにより検出された、バレット食道におけるp53遺伝子およびp16遺伝子の染色体上の獲得および損失」(タイトル)

(1-2)「内視鏡的ブラシの細胞診は、バレット食道の有望なサーベイランス技術である。補助マーカーは、細胞学の感受性を高め、疾患の進行のリスクが高い患者の同定を可能にするように求められている。異形成を伴わないものと比較して、関連悪性異形成/粘膜腺癌を伴うバレット食道の特定の遺伝的変化があるかどうかを判定するために、染色体および以前に変化したと記述されるゲノム領域に対するプローブを用いて、この病気。我々は40人のバレット食道患者:生検で証明された高悪性度異形成/癌腫を伴う21例、異形成なしおよび最低5年の陰性の追跡調査を伴う19例、のアーカイブのブラシの細胞学スライドを研究した。染色体6,7,11および12のためのセントロメア列挙プローブ(CEP)、および9p21(p16遺伝子)および17p13.1(p53遺伝子)遺伝子座の座特異的プローブ(LSI)(それぞれCEP9および17に対応する)を用いた。陽性のFISH結果は、> 2CEPシグナルを有する細胞の存在または対応するCEPと比較したLSIシグナルの喪失と定義され、100%の特異性を有する95%の生検陽性症例からルーチンに処理された内視鏡ブラシ細胞学検体のFISHにより、p53遺伝子座損失および/または染色体6,7,11および12の異常を検出することができた。興味深いことに、生検陽性の患者からの異形成のために不定であると分類された細胞学的変化を伴う5例すべてが、FISHによる変化を示した。p16遺伝子座の喪失は、異形成/癌の有無にかかわらず、患者に共通して見られた。この研究の選択されたバイオマーカーは、高悪性度形成異常の発生に先立ち、バレット食道患者の遺伝的変化を検出する可能性を決定するためのさらなる調査に値する。」(要約)

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「9p21(p16遺伝子)座特異的プローブ、17p13.1(p53遺伝子)座特異的プローブおよび染色体6,7,11,12のためのセントロメア列挙プローブを用いる、バレット食道患者の高悪性度異形成を検出する方法。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2-1)「バレット食道[BE]に関連する表在性食道腺癌における染色体および遺伝子のコピー数の変化:蛍光インサイチュハイブリゼーション(FISH)研究」(タイトル)

(2-2)「結果:C-MYC、HER2およびEGFRの遺伝子増幅がそれぞれ5/20(25%)、4/18(22%)および0/19(0%)の例で検出された。TOPO-2-アルファ遺伝子の検出は19中1つ(5%)の例であった。染色体7、8、および17における染色体獲得は、それぞれ9/19(47%)、5/20(25%)および18/18(100%)であった。」(結果の項)

したがって、上記引用文献2には、バレット食道に関連する表在性食道腺癌において、遺伝子C-MYC(8q24)、HER2(17q2)のコピー数が変化するという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3-1)「バレット腺癌におけるDNA配列のコピー数の変化を検出するためのアレイベースの比較ゲノムハイブリダイゼーション」(タイトル)

(3-2)「要約
アレイベースの比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)は、示差的に標識された試験DNAおよび対照DNAをゲノムクローンのマイクロアレイに共ハイブリダイズすることにより、高分解能でDNA配列コピー数の変化を同定することを可能にする。本研究では、バレット腺癌(BCA、n = 18)および非腫瘍性扁平上皮食道(n = 2)および胃心筋粘膜(n = 3)の23のホルマリン固定パラフィンワックス包埋組織サンプルを aCGHで分析した。使用されたマイクロアレイは、BCAにおいて以前に変化すると報告されている染色体領域内に局在する癌遺伝子、腫瘍サプレッサー遺伝子およびDNA配列をカバーする287のゲノム標的を含んでいた。約50の遺伝子のパネルについてのDNA配列コピー数の変化が同定され、その大部分は以前にBCAについて報告されていなかった。 DNA配列のコピー数の増加(平均41±25 / BCA)は、DNA配列のコピー数の減少(平均20±15 / BCA)よりも頻繁であった。 SNRPN(61%);GNLY(44%); NME1(44%); DDX15、ABCB1(MDR)、ATM、LAMA3、MYBL2、ZNF217、およびTNFRSF6B(各々39%); MSH2、TERC、SERPINE1、AFM137XA11、IGF1R、およびPTPN1(それぞれ33%)でDNA配列コピー数の増加の最高頻度が検出された。 PDGFB(44%); D17S125(39%);; AKT3(28%); RASSFI、FHIT、CDKN2A(p16)、およびSAS(CDK4)(それぞれ28%)で、DNA配列コピー数の損失が確認された。扁平上皮性食道粘膜および胃壁粘膜の非新生物組織試料では、測定された平均比は1.00(胃食道粘膜扁平上皮粘膜)または1.01(胃粘膜)であり、DNA配列のコピー数の変化は存在しなかった。検証のために、aCGHによって検出された選択されたクローン(SNRPN、CMYC、HER2、ZNF217)のDNA配列コピー数の変化を、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)によって確認した。これらのデータは、BCAにおける高分解能でのDNA配列コピー数変化の同定のためのaCGHの感受性を示す。新たに同定された遺伝子は、未知のバイオマーカーをBCAに含む可能性があり、従って、バレットの発癌におけるそれらの可能性のある役割を解明するさらなる研究の出発点である。」(780頁、要約)

引用文献3の表1(摘記せず)の記載から、上記MYBL2、ZNF217、およびTNFRSF6Bは20q13に存在することが分かる。
したがって、上記引用文献3には、20q13に存在するMYBL2、ZNF217、およびTNFRSF6Bのコピー数の増大がBCA(バレット腺癌)と関連しているという技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
(4-1)「3p21,5q21,9p21および17p13.1対立遺伝子欠損は、異形成なしにバレット上皮において腺癌を発症するリスクが高い個体の潜在的マーカーである」(タイトル)

(4-2)「要約
背景/目的:バレット腺癌で検出される一般的な遺伝子異常は、既知または推定腫瘍抑制遺伝子の部位でのLOH(ヘテロ接合性の喪失)である。従って、いくつかの欠損もまた、腫瘍周囲バレット上皮において決定されている。これらの知見は、体細胞の遺伝子改変の組織分野が癌腫の組織病理学的表現型変化に先行することを示唆している。我々は5q21(APC)、3p21,9p21(p16)および17p13.1(p53)染色体領域のLOHについて、形成異常のない32のバレット食道を調べた。
・・・・
結論:我々は、これらの遺伝子座のLOHが悪性増殖の発症前に存在し、LOH試験がバレット上皮の組織病理学的評価を補うかもしれないことを示唆している。異形成を伴わないバレット上皮の細胞における3p21,5q21,9p21および17p13染色体領域のLOHは、腺癌を発症する危険性の高い個体の潜在的マーカーとしての役割を果たす可能性がある。」(404頁、要約)

したがって、上記引用文献4には、9p21(p16)染色体領域のLOHは、バレット腺癌を発症する危険性の高い個体の潜在的マーカーとしての役割を果たす可能性があるという技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「バレット食道患者の高悪性度異形成を検出する方法」は、バレット食道患者、すなわち、高悪性度異形成や癌腫を有するかどうかは未知である患者に対して適用されるものであり、該方法は、バレット食道患者の9p21(p16遺伝子)および17p13.1遺伝子における遺伝的変化を検出するために、患者のサンプル対し、9p21(p16遺伝子)座特異的プローブおよび17p13.1(p53遺伝子)座特異的プローブを、サンプル中の標的核酸に該プローブが特異的にハイブリダイズする条件で接触させ、標的核酸の変化を検出する方法であると認められる。
したがって、両者は、
「a.食道がん腫に関する状態が未知であるヒト被験者からの食道細胞を含む生物サンプルを、該サンプルにおける食道がん腫または前駆体病変を検出するために、該サンプルに存在するプローブの核酸標的にプローブを特異的にハイブリダイズさせる条件下で、・・・染色体プローブ・・・と接触させること;そして
b.生物サンプルに対する染色体プローブのセットについての増減を・・・検出すること:
を含んでなる、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)
検出に用いる座特異的プローブについて、本願発明1では「20q13座特異的プローブ、17q11.2-12座特異的プローブ、9p21座特異的プローブおよび8q24.12-13座特異的プローブからなる染色体プローブのセット」が特定されているのに対して、引用発明では「9p21(p16遺伝子)座特異的プローブ、17p13.1(p53遺伝子)座特異的プローブ」を用いる点。
(相違点2)
本願発明1では、プローブを用いて増減を検出したあと、さらに「増減を評価してハイブリダイゼーションパターンが被験者における食道がん腫または前駆体病変の存在または不在の指標であるハイブリダイゼーションパターンを検出すること」が特定されている点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
上記第4の2.ないし4.に記載したとおり、引用文献2?4には、8q24に存在するC-MYC、17q2に存在するHER2、20q13に存在するMYBL2、ZNF217、およびTNFRSF6B、9p21に存在するp16を含む各種の遺伝子や染色体の変化と食道がんの関連について示されていると認められる。
しかし、引用文献2?4には、バレット食道患者の異形成や腺癌の発症が、各種の遺伝子や染色体の変化と関連していることや、そのために特異的なプローブが用いられることが示されるに止まり、本願発明1に特定される4つのプローブをセットとして組み合わせることまでが記載ないし示唆されているとはいえない。
そうすると、当業者といえども、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項から、引用発明の「9p21(p16遺伝子)座特異的プローブ、17p13.1(p53遺伝子)座特異的プローブ」に代えて、相違点1に係る本願発明1の「20q13座特異的プローブ、17q11.2-12座特異的プローブ、9p21座特異的プローブおよび8q24.12-13座特異的プローブからなる染色体プローブのセット」を用いることを容易に想到することはできない。
そして、本願明細書の段落【0085】に「図2および3における最高性能のプローブセットの1つが、8q24.12-13、9p21、17q11.2-12および20q13のセットである。」と記載されており、特定の4つのプローブを組み合わせたセットを用いる本願発明1は、引用文献1?4の記載から予測できない効果を奏するものと認められる。
なお、原査定では、図2、3の記載を示し、本願発明1のプローブセットは他のプローブセットと比較して顕著な効果は認められないと判断しているが、発明の効果について本願発明1と対比すべきものは、本願明細書に記載されている他のプローブセットではなく、引用文献に記載されているプローブである。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?15について
本願発明2?15も、本願発明1の「20q13座特異的プローブ、17q11.2-12座特異的プローブ、9p21座特異的プローブおよび8q24.12-13座特異的プローブからなる染色体プローブのセット」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?15は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-29 
出願番号 特願2015-91283(P2015-91283)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C12Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植原 克典  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 中島 庸子
高堀 栄二
発明の名称 食道がんを検出するための方法およびプローブ  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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