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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1340986
審判番号 不服2016-18690  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-12 
確定日 2018-06-04 
事件の表示 特願2014-158072「適応的映像符号化装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-225911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯
1 経緯
本件出願は、2010年(平成22年)12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年12月16日、韓国、2010年5月28日、韓国、2010年12月14日、韓国)を国際出願日とする出願である特願2012-544386号の一部を平成26年8月1日に新たな特許出願としたものであって、その手続きの経緯は、以下のとおりである。

平成27年 8月31日:拒絶理由の通知
平成27年12月 4日:手続補正(1)
平成28年 3月16日:拒絶理由の通知(最後)
平成28年 6月22日:手続補正(2)
平成28年 8月 4日:補正の却下の決定(手続補正(2))
平成28年 8月 4日:拒絶査定
平成28年 8月12日:拒絶査定の謄本の送達
平成28年12月12日:拒絶査定不服審判の請求
平成28年12月12日:手続補正(3)

2 査定の概要
原査定の理由は、概略、次のとおりである。

[査定の理由]
(理由1)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1?4
・理由 1、2
・引用文献等 1

<引用文献等一覧>
引用文献1:Martin Winken et al., "Description of video coding technology proposal by Fraunhofer HHI", Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 1st Meeting: Dresden, DE, 15-23 April, 2010, [JCTVC-A116]

理由3(特許法第36条第6項第2号)は省略。

第2 補正却下の決定
平成28年12月12日付けの手続補正について次のとおり決定する。

[補正却下の決定の結論]
平成28年12月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成28年12月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正である。

補正前の請求項1?4
「 【請求項1】
画面間予測を実行する映像復号化方法であって、
ビットストリームを受信するステップ;及び、
前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ;を含み、
前記適応的復号化は、
符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、
前記参照ブロックの動き情報及び前記対象ブロックに適用される動き情報は、各々、動きベクトルおよび参照映像インデックスを含むことを特徴とする映像復号化方法。
【請求項2】
前記制御ステップでは、前記参照ブロックの動きベクトルを前記対象ブロックに適用される動きベクトルとして決定し、前記決定された動きベクトルに基づいて前記対象ブロックに対する復号化を実行することを特徴とする請求項1に記載の映像復号化方法。
【請求項3】
前記制御ステップでは、前記参照ブロックの参照映像インデックスを前記対象ブロックに適用される参照映像インデックスとして決定し、前記決定された参照映像インデックスに基づいて前記対象ブロックに対する復号化を実行することを特徴とする請求項1に記載の映像復号化方法。
【請求項4】
前記ビットストリームは、符号化方式指示子に対する情報をさらに含み、前記符号化方式指示子は、前記対象ブロックに対応する符号化モードを指示し、前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記対象ブロックに対応する符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定することを特徴とする請求項1に記載の映像復号化方法。」

を、次のとおり補正後の請求項1?3に補正するものである(下線は補正箇所である。)。

「 【請求項1】
画面間予測を実行する映像復号化方法であって、
ビットストリームを受信するステップ;及び、
前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ;を含み、
前記適応的復号化は、
前記ビットストリームに含まれている符号化情報を使用して符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、
前記参照ブロックの動き情報及び前記対象ブロックに適用される動き情報は、各々、動きベクトルおよび参照映像インデックスを含むことを特徴とする映像復号化方法。
【請求項2】
前記制御ステップでは、前記参照ブロックの動きベクトルを前記対象ブロックに適用される動きベクトルとして決定し、前記決定された動きベクトルに基づいて前記対象ブロックに対する復号化を実行することを特徴とする請求項1に記載の映像復号化方法。
【請求項3】
前記制御ステップでは、前記参照ブロックの参照映像インデックスを前記対象ブロックに適用される参照映像インデックスとして決定し、前記決定された参照映像インデックスに基づいて前記対象ブロックに対する復号化を実行することを特徴とする請求項1に記載の映像復号化方法。」

2 補正の適合性
本件補正は、以下のとおりにする補正である。
(a)請求項1において、「符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、」を「前記ビットストリームに含まれている符号化情報を使用して符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、」とする。
(b)請求項4を削除する。

上記(a)の「前記ビットストリームに含まれている符号化情報を使用して」を付加する補正は、特許請求の範囲を減縮を目的とする補正と認められる。
上記(b)は、請求項の削除を目的とする補正と認められる。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

そこで、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か以下検討する。

3 独立特許要件
補正後の請求項1?3に係る発明のうち請求項1に係る発明における「前記ビットストリームに含まれている符号化情報を使用して符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、」が明確でない。詳細は以下のとおりである。

(1)「符号化情報」とは、一体、如何なる技術的意味を有する情報であるのかが不明確である。
(2)「符号化情報」とは、一体、どのブロックの情報であるのか(例えば、現在ブロックの情報であるのか、参照ブロックの情報であるのか、それ以外のブロックの情報であるのか、もしくは、ブロックとは何ら関連付けられていない情報であるのか、等)が不明確である。
(3)上述したように、「符号化情報」の技術的意味等が不明確であるから、「符号化情報を使用して」とは、「符号化情報」をどのように使用することであるのかが不明確である。また、そのために、復号側において、「符号化情報」から、一体、どのようにして、「符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたか」が判別できるのかが不明確である。

以上のとおり、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2項の規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができることができない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年12月12日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成27年12月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

(本願発明)
「 【請求項1】
(A)画面間予測を実行する映像復号化方法であって、
(B)ビットストリームを受信するステップ;及び、
(C)前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ;を含み、
(D)前記適応的復号化は、
符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、
(E)前記参照ブロックの動き情報及び前記対象ブロックに適用される動き情報は、各々、動きベクトルおよび参照映像インデックスを含む
(F)ことを特徴とする映像復号化方法。
【請求項4】
(G)前記ビットストリームは、符号化方式指示子に対する情報をさらに含み、前記符号化方式指示子は、前記対象ブロックに対応する符号化モードを指示し、
(H)前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記対象ブロックに対応する符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定する
(I)ことを特徴とする請求項1に記載の映像復号化方法。」

((A)?(I)は当審で付与した。以下各構成要件を「構成要件A」等という。)

2 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(1)本願発明の優先日について
優先権主張番号10-2009-0125305(以下「優先権主張1」という。)の段落<73>には、次の記載があると認められる(原文は韓国語であり、訳を示す。)。

「<73>参照ブロックA、A'、A''などの少なくともいずれかがBの条件を持つ符号化パラメータを持っている場合、符号化対象ブロックを符号化する際に、既存の符号化パラメータのsyntaxとsemantic、decoding processと参照ブロックに基づいて適応的に符号化されているモードを率-歪み最適化と歪みの観点、率の観点からの競争を通じて最適の符号化モードを決定して符号化する。このとき、追加のsignaling情報が要求されることがあり、参照ブロックの符号化パラメータから符号化されているモードを適応的に決定するにつれて、追加のsignaling情報を必要としないことかできる。(参照ブロックの符号化パラメータに基づいて適応的に符号化されたモードと適応的に符号化されていないモード間の競争を通じた符号化対象ブロックの符号化モードを選択)」

しかしながら、上記段落<73>には、signaling情報を使用することは記載されているが、signaling情報がどのような情報であり、ビットストリームにどのように記述される情報であるか定義されておらず、本願発明の構成要件G、Hにおける「符号化情報指示子」についての開示はない。優先権主張1の他の記載をみても、本願発明の構成要件G、Hが開示されているとは、認められない。

優先権主張番号10-2010-0050034(以下「優先権主張2」という。)の段落<80>には、次の記載があると認められる(原文は韓国語であり、訳を示す。)。

「<80>一方、参照ブロックの符号化パラメータに基づいて適応的に符号化されたモードと適応的に符号化されていないモード間の競争が行われることができ、前記の競争を通じて、現在のブロックの符号化モードが選択されることができる。この場合、現在のブロックは、前記1)の符号化モードで符号化されるか、または前記2)の符号化モードで符号化されるかの追加のフラグと構文を復号化器に送信して、前記復号化器の正しいモードで復号化することができるようにする。」

上記段落<80>における「追加のフラグ」は、本願発明の構成要件G、Hにおける「符号化方式指示子」に相当する。
したがって、本願発明の構成要件G、Hは、上記段落<80>に開示されていると認められる。
また、優先権主張2には、本願発明の他の構成要件も記載されていると認められる。

そうすると、本願発明の優先日は、優先権主張2における2010年5月28日であると認められる。

(2)引用文献1の記載
本願発明の上記優先日より前に公開され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「Description of video coding technology proposal by Fraunhofer HHI」(タイトル:フラウンホーファーHHIによるビデオ符号化技術提案の説明)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

ア「Abstract
This document gives a description of the video coding technology proposal by Fraunhofer HHI. The proposed algorithm is based on the hybrid video coding approach using temporal and spatial prediction followed by transform coding of the residual and entropy coding.

Reportedly, the conceptual design can be considered as a generalization of H.264/AVC. While the individual building blocks of the hybrid coding approach are kept simple similarly as in H.264/AVC, the flexibility of the block partitioning for prediction and transform coding is increased. The use of two nested and pre-configurable quadtree structures is proposed, such that the spatial partitioning for temporal and spatial prediction as well as the space-frequency resolution of the corresponding prediction residual can be adapted to the given video signal in a highly flexible way. As another notable feature of the Fraunhofer HHI proposal, new entropy coding concepts have been integrated allowing a parallelization of the entropy decoding and/or the use of variable-length codes with the efficiency of arithmetic codes.

Objective gains of 29.9% in terms of average BD-rate improvement have been achieved for constraint set 1. For constraint set 2, the average BD-rate improvements are 22.1% relative to the beta anchor and 42.4% relative to the gamma anchor.」(p.1)
[訳:要約
このドキュメントは、フラウンホーファーHHIによるビデオ符号化技術の提案の説明を与える。提案されたアルゴリズムは、残差の変換符号化とエントロピー符号化に従う時間的および空間的予測を使用するハイブリッドビデオ符号化アプローチに基づいている。

報告によると、概念設計は、H.264/AVCの一般化として考えることができる。ハイブリッド符号化アプローチの個々に生成するブロックは、H.264/AVCと同様に単純でありながら、予測及び変換符号化のためのブロック区分の柔軟性が向上する。対応する予測残差の空間周波数分解能と同様に、時間的および空間的予測のための空間的分割は、高度に柔軟な方法で、与えられたビデオ信号に適応させることができるように、2ネステッド及び予め設定可能な4分木の構造の使用が提案されている。フラウンホーファーHHI提案の別の注目すべき特徴として、新たなエントロピー符号化概念は、エントロピー復号化の並列化および/または算術符号化の効率的な可変長コードを使用するを許すことにより統合される。

平均BD-rate改善の点で29.9%の目標ゲインは、制約セット1について達成された。制約セット2の場合、平均BD-rate改善がベータアンカーに対して22.1%、ガンマアンカーに対して42.4%である。]

イ「2.1.3 Block merging process
For each inter predicted block, individual motion parameters are transmitted. In order to achieve an improved coding efficiency, the block merging process enables to merge neighbouring blocks into so-called regions. By doing so, the motion parameters do not need to be transmitted for each block of the region individually, but instead the parameters are transmitted only for once for the whole region.

For each prediction block, the set of all prediction blocks that are coded before that block in processing order is called the "set of causal blocks". The set of blocks that is admissible for merging with a particular block is called the "set of available blocks" and is always a subset of the set of causal blocks. If a particular block is encoded and its set of available blocks is not empty, it is signaled whether this block is to be merged with one block out of this set and if so, with which of them. Otherwise, merging cannot be used for this block.」(p.9)
[訳:2.1.3 ブロックマージング処理
各インター予測ブロックのために、個々の動きパラメータが送信される。改善された符号化効率を達成するために、ブロックマージ処理は、隣接ブロックを、いわゆる領域に、マージすることができる。このようにすることにより、動きパラメータは、領域の各ブロックについて個別に送信される必要はなく、その代わりに、パラメータは全領域に対して1回のみ送信される。

各予測ブロックについて、ブロック処理順番における前に符号化されるすべての予測ブロックのセットは、「因果ブロックのセット」と呼ばれる。ある特定のブロックとマージすることが許容されるブロックのセットは、「利用可能なブロックのセット」と呼ばれ、常に因果ブロックのセットのサブセットである。もし、特定のブロックが符号化され、利用可能なブロックのそのセットが空でない場合は、このブロックは、このセットのうちの1つのブロックとマージするか否かをシグナリングされ、その場合、このブロック又は1つのブロックのどちらかとともにシグナリングされる。そうでない場合、マージは、このブロックに関しては使用することはできない。]

ウ「2.1.3.1 Derivation of the set of available blocks
The set of available blocks is formed as follows. Starting from the top-left sample position of the current block, its left neighbouring sample position and its top neighbouring sample position is derived. The set of available blocks can have only up to two elements, namely those blocks out of the set of causal blocks that contain one of the two sample positions. Thus the set of available blocks can only have the two direct neighbouring blocks of the top-left sample position of the current block as its elements. Note that only inter predicted blocks can be members of the set of available blocks.」(p.9)
[訳:2.1.3.1 利用可能なブロックのセットの導出
利用可能なブロックの組は、以下のように形成される。現ブロックの左上のサンプル位置から始まって、その左の隣接するサンプル位置とその上部隣接サンプル位置が、抽出される。利用可能なブロックのセットは、2個までの要素のみを有することができ、即ち、2のサンプル位置のうちの1つを含む因果ブロックのセットからのそれらのブロックである。このように、利用可能なブロックのセットは、その要素として、現在ブロックの左上のサンプル位置の2個の直接隣接するブロックのみを有することができる。インター予測ブロックのみが利用可能なセットのメンバーであることに注意して下さい。]

エ「2.1.3.2 Signaling
If the set of available blocks is not empty, one flag called merge_flag is signaled, specifying whether the current block is merged with any of the available blocks. Otherwise, or if the merge_flag is equal to 0 (for "false"), this block is not merged with one of its causal blocks and all parameters are transmitted ordinarily. If the merge_flag is equal to 1 (for "true"), the following applies. If the set of available blocks contains one and only one block, this block is used for merging. Otherwise the set of available blocks contains exactly two blocks. If the motion parameters of these two blocks are identical, these motion parameters are used for the current block. Otherwise (the two blocks have different motion parameters), a flag called merge_left_flag is signaled. If merge_left_flag is equal to 1 (for "true"), the block containing the left neighbouring sample position of the top-left sample position of the current block is selected out of the set of available blocks. If merge_left_flag is equal to 0 (for "false"), the other (i.e., top neighbouring) block out of the set of available blocks is selected. The motion parameters of the selected block are used for the current block.」(p.9)
[訳:2.1.3.2シグナリング
利用可能なブロックのセットが空でない場合は、merge_flagと呼ばれる1つのフラグがシグナリングされる。そのフラグは、現在のブロックが利用可能ブロックのいずれかとマージされるか否かを指定している。そうでなければ、又はmerge_flagが0(「偽」)の場合、このブロックは、その因果ブロックの1つにマージされず、すべてのパラメータは通常どおり伝送される。merge_flagが1(「真」)の場合、次のように適用される。利用可能なブロックのセットが1つを含み、ただ1つのブロックを含む場合、このブロックは、マージのために使用される。そうでなければ、利用可能なブロックのセットは、ちょうど2ブロックを含む。これらの2ブロックの動きパラメータが同一であるならば、これらの動きパラメータは、現在ブロックのために使用される。そうでなければ(2つのブロックは、異なる動きパラメータを有する場合)、merge_left_flagと呼ばれるフラグがシグナリングされる。merge_left_flagが1(「真」)の場合、現在ブロックの左上のサンプル位置の左の隣接するサンプル位置からなるブロックは、利用可能なブロックのセットから選択される。merge_left_flagが0(「偽」)の場合、利用可能なブロックのセットから他のブロック(すなわち、上隣接)が選択される。選択されたブロックの動きパラメータは、現在のブロックのために利用される。]

(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、映像符号化方法が記載されている。符号化されたデータがビットストリームとして送信されることは明らかである。
上記(2)イ、ウには、「インター予測ブロック」について記載されているから、当該映像符号化方法は、画面間予測を行うものである。
上記(2)エによると、merge_flag又は、merge_flag及びmerge_left_flagがシグナリングされる。そのフラグは、利用可能なブロックを選択し、選択されたブロックの動きパラメータが、現在のブロックのために利用されるためのものである。このような符号化は、適応的符号化といえる。また、現在のブロックは符号化する対象のブロックであるから、対象ブロックといえる。
上記(2)エによると、merge_flagが0の場合、マージされず、すべてのパラメータが通常どおり伝送され、merge_flagが1の場合、マージされ、利用可能なブロックを選択し、選択されたブロックの動きパラメータが、現在のブロックのために利用される。利用可能なブロックは、参照されるブロックであるから、参照ブロックといえる。参照ブロックが1つの場合及び2つの参照ブロックの動きパラメータが同じ場合は、その動きパラメータが現在ブロックのために利用され、2つの参照ブロックの動きパラメータが異なる場合は、merge_left_flagがシグナリングされ、merge_left_flagが0の場合、上隣接の参照ブロックが選択され、merge_left_flagが1の場合、左隣接の参照ブロックが選択され、選択された参照ブロックの動きパラメータが現在ブロックのために利用される。
このような動作は、対象ブロックの適応的符号化を実行するといえる。

以上より、引用文献1には、次の映像符号化方法が記載されていると認められる。

「画面間予測を実行する映像符号化方法であって、
ビットストリームを送信するステップ、及び、
対象ブロックの適応的符号化を実行するステップ、を含み、
前記適応的符号化は、符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかを、merge_flag又は、merge_flag及びmerge_left_flagをシグナリングすることにより、示し、ここで、merge_flagは、merge_flagが0の場合、マージされず、すべてのパラメータが通常どおり伝送され、merge_flagが1の場合、マージされ、参照ブロックを選択するものであって、選択された参照ブロックの動きパラメータを用いて、前記対象ブロックを復号化できるようにすることであり、
前記ビットストリームは、merge_flag又は、merge_flag及びmerge_left_flagをシグナリングした情報をさらに含む、
映像符号化方法。」

符号化と復号化とは、互いに密接に関連した技術であって、符号化されたものを符号化の逆の手順により、復号化されることは明らかであるから、引用文献1には、次の復号化する方法が記載されていると認められる。この方法を以下「引用発明」という。

(引用発明)
「(a)ビットストリームを送信するステップ、及び、
(b)対象ブロックの適応的符号化を実行するステップ、を含み、
(c)前記適応的符号化は、符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかを、merge_flag又は、merge_flag及びmerge_left_flagをシグナリングすることにより、示し、ここで、merge_flagは、merge_flagが0の場合、マージされず、すべてのパラメータが通常どおり伝送され、merge_flagが1の場合、マージされ、参照ブロックを選択するものであって、選択された参照ブロックの動きパラメータを用いて、前記対象ブロックを復号化できるようにすることであり、
(d)前記ビットストリームは、merge_flag又は、merge_flag及びmerge_left_flagをシグナリングした情報をさらに含む、
(e)画面間予測を実行する映像符号化方法によって符号化されたものを復号化する方法。」

((a)?(e)は、引用発明の構成を区別するために付与した。以下各構成を「構成a」等という。)

3 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 構成要件A
引用発明は、「画面間予測を実行する映像符号化方法によって符号化されたものを復号化する方法」であるから、「画面間予測を実行する映像復号化方法」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「画面間予測を実行する映像復号化方法」として一致する。

イ 構成要件B
引用発明は、構成aを含む「画面間予測を実行する映像符号化方法によって符号化されたものを復号化する方法」であるから、映像符号化方法により、送信されたビットストリームを受信するステップがあることは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「ビットストリームを受信するステップ」を含む点で一致する。

ウ 構成要件C
引用発明の構成cによると、対象となるブロックを符号化するから、復号化も対象ブロックに対して行われるものと認められ、引用発明が、「前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ」を含むことは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ」を含む点で一致する。

エ 構成要件D
引用発明の構成cにおける「前記適応的符号化は、符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかを、merge_flag又は、merge_flag及びmerge_left_flagをシグナリングすることにより、示し」は、符号化における処理が示されており、復号化においては、符号化においてシグナリングされたmerge_flag及びmerge_left_flagを用いて、どの参照ブロックが選択されたかを決定しているといえるから、「前記適応的復号化は、符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定」するといえる。
また、引用発明の構成cの「動きパラメータ」は、本願発明の構成要件Dの「動き情報」に相当し、引用発明の構成cの「選択された参照ブロックの動きパラメータを用いて、前記対象ブロックを復号化できるようにすることであり」は、本願発明の構成要件Dの「前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記適応的復号化は、符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり」として一致する。

オ 構成要件E
引用発明の「動きパラメータ」は、本願発明の「動き情報」に相当するものの、「動きベクトルおよび参照映像インデックス」を含むと特定されていない点で、本願発明と相違する。

カ 構成要件G
引用発明の構成c、dの「merge_flag」は、merge_flagが0の場合、マージされず、すべてのパラメータが通常どおり伝送され、merge_flagが1の場合、マージされ、利用可能なブロックを選択し、選択された参照ブロックの動きパラメータを用いて、対象ブロックを復号化できるようにするものである(構成c)から、引用発明の構成cの「merge_flagが0の場合」のモードは、通常の符号化という符号化モード、すなわち、適応的符号化でない符号化モードであるといえ、「merge_flagが1の場合」のモードは、適応的符号化という符号化モードであるといえる。そうすると、「merge_flag」は、「対象ブロックに対応する符号化モードを指示している」といえ、「merge_flag」は本願発明の構成要件Gの「符号化方式指示子」に相当する。
また、引用発明の構成dの「merge_flagをシグナリングした情報」は、本願発明の構成要件Gの「符号化方式指示子に対する情報」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記ビットストリームは、符号化方式指示子に対する情報をさらに含み、前記符号化方式指示子は、前記対象ブロックに対応する符号化モードを指示」する点で一致する。

キ 構成要件H
上記ウのとおり、引用発明は、「前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ」を含むといえる。
また、上記カのとおり、引用発明の「merge_flag」は、本願発明の、対象ブロックに対応する符号化モード(適応的符号化でない符号化モード、適応的符号化という符号化モード)を指示している「符号化方式指示子」に相当するから、引用発明は、「merge_flag」に基づいて、適応的符号化が行われているかどうかを決定しているといえ、このような決定は「対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ」(上記ウ)で行われることは明らかである。
したがって、引用発明は、「前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記適応的復号化実行の可否を決定する」点で、本願発明と共通する。
しかしながら、「前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記適応的復号化実行の可否を決定する」が、本願発明においては、「前記符号化方式指示子に基づいて前記適応的復号化の実行の可否を決定する前記対象ブロックに対応する符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定する」のに対し、引用発明においては、当該符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定する、と特定されていない点で相違する(下線は相違を明確にするために付与した。)。

ク 構成要件F、I
上記アのとおり、引用発明は、「画面間予測を実行する映像復号化方法」といえるから、「映像復号化方法」として、本願発明と一致する。

(2)一致点、相違点
以上より、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
画面間予測を実行する映像復号化方法であって、
ビットストリームを受信するステップ;及び、
前記受信されたビットストリームに基づいて対象ブロックの適応的復号化を実行する制御ステップ;を含み、
前記適応的復号化は、
符号化の対象となる現在ブロックを符号化するための参照ブロックのうちどの参照ブロックが選択されたかに基づいて、以前に復元された複数の復元ブロックの中から一つの復元ブロックを前記対象ブロックの参照ブロックとして決定し、前記対象ブロックにそのまま適用される前記参照ブロックの動き情報を決定し、前記決定された動き情報に基づいて前記対象ブロックを復号化することであり、
前記ビットストリームは、符号化方式指示子に対する情報をさらに含み、前記符号化方式指示子は、前記対象ブロックに対応する符号化モードを指示し、
前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記適応的復号化実行の可否を決定する
を特徴とする映像復号化方法。

(相違点1)
本願発明においては、「前記参照ブロックの動き情報及び前記対象ブロックに適用される動き情報は、各々、動きベクトルおよび参照映像インデックスを含む」ものであるのに対し、
引用発明においては、「前記参照ブロックの動き情報及び前記対象ブロックに適用される動き情報は、各々、動きベクトルおよび参照映像インデックスを含む」と特定されていない点

(相違点2)
「前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記適応的復号化実行の可否を決定する」が、
本願発明においては、「前記符号化方式指示子に基づいて前記適応的復号化の実行の可否を決定する前記対象ブロックに対応する符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定する」のに対し、
引用発明においては、当該符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化の実行可否を決定する、と特定されていない点

4 相違点の判断
(1)相違点1について
インター予測では、動きベクトルと参照映像インデックスを用いることは、よく知られていることであるから、引用発明において、「前記参照ブロックの動き情報及び前記対象ブロックに適用される動き情報は、各々、動きベクトルおよび参照映像インデックスを含む」ようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
上記3(1)カのとおり、引用発明の「merge_flag」は、本願発明の構成要件Gの対象ブロックに対応する符号化モードを指示している「符号化方式指示子」に相当する。
引用発明の「merge_flag」は、対象ブロックの符号化モードを指示しているものであるから、引用発明において「merge_flag」により符号化モードを決定すること、すなわち、「符号化方式指示子に基づいて前記対象ブロックに対応する符号化モードを決定」することは、当業者が容易に着想することであり、このようにすることにより、引用発明の「制御ステップ」は、「前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定する」ことになる。
したがって、引用発明において、「前記制御ステップでは、前記符号化方式指示子に基づいて前記対象ブロックに対応する符号化モードを決定し、前記決定された符号化モードによって前記適応的復号化実行の可否を決定する」ようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)そして、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものでもない。

(4)したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1?3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-09 
結審通知日 2018-01-12 
審決日 2018-01-23 
出願番号 特願2014-158072(P2014-158072)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡辺 努
小池 正彦
発明の名称 適応的映像符号化装置及び方法  
代理人 吉田 昌司  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 関根 毅  
代理人 中村 行孝  

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