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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1341057
異議申立番号 異議2017-700561  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-06 
確定日 2018-04-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6037053号発明「発泡成形体、空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6037053号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 特許第6037053号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6037053号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2014年10月16日(優先権主張 2013年12月3日)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年11月11日にその特許権の設定登録(設定登録時の請求項数7)がされ、その後、その特許に対し、平成29年6月6日に特許異議申立人 鎌田 亜希子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、当審において同年7月21日付けで取消理由(以下、「取消理由1回目」という。)が通知され、同年9月22日に特許権者 日産自動車株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年9月27日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月1日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年11月27日付けで取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)が通知され、平成30年1月29日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年1月31日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年3月5日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
なお、平成29年9月22日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
平成30年1月29日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、
目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、
発泡倍率が3.4?6.7倍であり、
独立気泡率が79?86%である
ことを特徴とする発泡成形体。」と記載されているのを、「筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、
目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、
発泡倍率が5?6.7倍であり、
独立気泡率が79?83%であり、
平均気泡径が164?173μmであり、
厚みが3?4mmである
ことを特徴とする発泡成形体。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2ないし7についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「平均気泡径が50?700μmであることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体。」と記載されているのを、「目付け量が0.075g/cm^(2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項2を引用する請求項3ないし7についても、請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3
明細書の【0007】に「本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が3.4?6.7倍であり、独立気泡率が79?86%である構成とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されているのを、「本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が5?6.7倍であり、独立気泡率が79?83%であり、平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである構成とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0008】に「すなわち、本発明の発泡成形体は、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成り、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が3.4?6.7倍であり、独立気泡率が79?86%であるものである。」と記載されているのを、「すなわち、本発明の発泡成形体は、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成り、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が5?6.7倍であり、独立気泡率が79?83%であり、平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmであるものである。」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の【0010】に「本発明によれば、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が3.4?6.7倍であり、独立気泡率が79?86%である構成とした。そのため、優れた消音性と断熱性とを両立し得る発泡成形体、これを備えた空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトを提供することができる。」と記載されているのを、「本発明によれば、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が5?6.7倍であり、独立気泡率が79?83%であり、平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである構成とした。そのため、優れた消音性と断熱性とを両立し得る発泡成形体、これを備えた空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトを提供することができる。」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の【0042】に「(実施例2)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.072g/cm^(2)、発泡倍率が5倍、独立気泡率が86%、平均気泡径が150μmである本例の発泡成形体を得た。」と記載されているのを、「(参考例2)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.072g/cm^(2)、発泡倍率が5倍、独立気泡率が86%、平均気泡径が150μmである本例の発泡成形体を得た。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の【0044】に「(実施例4)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが5mm、目付け量が0.075g/cm^(2)、発泡倍率が6.5倍、独立気泡率が79%、平均気泡径が187μmである本例の発泡成形体を得た。」と記載されているのを、「(参考例4)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが5mm、目付け量が0.075g/cm^(2)、発泡倍率が6.5倍、独立気泡率が79%、平均気泡径が187μmである本例の発泡成形体を得た。」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の【0045】に「(実施例5)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.090g/cm^(2)、発泡倍率が3.4倍、独立気泡率が80%、平均気泡径が133μmである本例の発泡成形体を得た。」と記載されているのを、「(参考例5)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.090g/cm^(2)、発泡倍率が3.4倍、独立気泡率が80%、平均気泡径が133μmである本例の発泡成形体を得た。」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の【0046】に「(実施例6)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが5mm、目付け量が0.090g/cm^(2)、発泡倍率が4.8倍、独立気泡率が83%、平均気泡径が148μmである本例の発泡成形体を得た。」と記載されているのを、「(参考例6)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが5mm、目付け量が0.090g/cm^(2)、発泡倍率が4.8倍、独立気泡率が83%、平均気泡径が148μmである本例の発泡成形体を得た。」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の【0053】に「【表1】

」と記載されているのを、「【表1】

」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の【0055】に「表1から、本発明の範囲に属する実施例1?6は、本発明外の比較例1?5と比較して、優れた消音性を有することが分かる。また、目付け量を0.075g/cm^(2)以下とした実施例1?4は、風量4m^(3)/minのときの消音性能が1dB程度であり、風量7m^(3)/minのときの消音性能が3dB程度であるためより優れていることが分かる。」と記載されているのを、「表1から、本発明の範囲に属する実施例1及び3は、本発明外の比較例1?5と比較して、優れた消音性を有することが分かる。また、目付け量を0.075g/cm^(2)以下とした実施例1、参考例2、実施例3、参考例4は、風量4m^(3)/minのときの消音性能が1dB程度であり、風量7m^(3)/minのときの消音性能が3dB程度であるためより優れていることが分かる。」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の【0056】に「更に、T/H×(H-T)^(2)という関係式(この関係式においてはT/H<1の関係を満足する。)から算出される値が1.0以上8以下である実施例1、3及び4は消音性能が更に優れ、上記関係式から算出される値が3以上6以下である実施例1及び3は消音性能が特に優れることが分かる。」と記載されているのを、「更に、T/H×(H-T)^(2)という関係式(この関係式においてはT/H<1の関係を満足する。)から算出される値が1.0以上8以下である実施例1、3及び参考例4は消音性能が更に優れ、上記関係式から算出される値が3以上6以下である実施例1及び3は消音性能が特に優れることが分かる。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、請求項ごとに訂正の請求をするときに、請求項の全てについて行っているか否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、「発泡倍率」を「3.4?6.7倍」から「5?6.7倍」に減縮し、「独立気泡率」を「79?86%」から「79?83%」に減縮し、さらに、「平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである」という記載を追加することによって、訂正前の請求項1に係る発明の「発泡成形体」を「平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書の【0021】、【0025】、【0053】の【表1】(実施例1及び3)並びに【0055】ないし【0060】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「目付け量が0.075g/cm^(2)以下である」という記載を追加することによって、訂正前の請求項2に係る発明の「発泡成形体」を「目付け量が0.075g/cm^(2)以下」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書の【0020】及び【0055】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3ないし12について
訂正事項3ないし12は、訂正事項1及び2による訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3ないし12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項3ないし12は、願書に添付した明細書の訂正であるが、本件訂正の請求は、訂正前の請求項1ないし7の全てについて行われている。

(4)一群の請求項
訂正前の請求項2ないし7は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1及び2は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものである。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし12は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2は、一群の請求項ごとに請求された訂正であるから、同法第120条の5第4項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1ないし12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
さらにまた、訂正事項3ないし12は、願書に添付した明細書についての訂正であるが、当該明細書に係る請求項の全てについて、本件訂正の請求は行われているので、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正の請求は適法なものであり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、平成30年1月29日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、
目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、
発泡倍率が5?6.7倍であり、
独立気泡率が79?83%であり、
平均気泡径が164?173μmであり、
厚みが3?4mmである
ことを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
目付け量が0.075g/cm^(2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体。
【請求項3】
上記樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
上記樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つの項に記載の発泡成形体。
【請求項5】
上記樹脂が、ポリプロピレン又はポリエチレンであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1つの項に記載の発泡成形体。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の発泡成形体を備えたことを特徴とする空気調節装置用ダクト。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の発泡成形体を備えたことを特徴とする車載空気調節装置用ダクト。」

2 取消理由(決定の予告)について
2-1 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

1.(新規性)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.(進歩性)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証.特開2010-260229号公報
甲第2号証.特開2011-201085号公報
甲第3号証.登録実用新案第3157009号公報
参考文献1.特開2010-167628号公報
(甲第1ないし3号証は、平成29年6月6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に甲第1ないし3号証として添付されたものであり、参考文献1は、同年11月1日に特許異議申立人が提出した意見書に参考文献1として添付されたものである。)

なお、該取消理由(決定の予告)は、平成29年9月22日にされた訂正の請求により訂正された本件特許の請求項1ないし7に係る発明に対して通知したものであり、甲第1号証を主引用文献とし、参考文献1を周知文献とした場合の進歩性違反、甲第2号証を主引用文献とし、参考文献1を周知文献とした場合の進歩性違反、甲第3号証を主引用文献(甲第3号証の請求項1に基づくものである。)とし、参考文献1を周知文献とした場合の進歩性違反及び参考文献1を主引用文献とした場合の新規性違反である。

2-2 取消理由(決定の予告)についての判断
2-2-1 甲第1ないし3号証及び参考文献1の記載等
(1)甲第1号証の記載等
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、次の記載(以下、総称して「甲第1号証の記載」という。)がある。

・「【0009】
上記目的を達成するために、原料のポリエチレン系樹脂や発泡ブロー成形体を形成している樹脂について種々の検討を行い、本発明を為すに至った。
すなわち、本発明は、以下に示すポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体の製造方法およびそれによる発泡ブロー成形体に関る。」

・「【0014】
本発明の発泡ブロー成形体の製造方法により、密度0.935g/cm^(3)以上のポリエチレン系樹脂を発泡層とする高発泡倍率の発泡ブロー成形体を得ることができ、さらには薄肉で厚みの均一な発泡ブロー成形体を得ることが可能となる。
また、本発明の発泡ブロー成形体は、耐熱性を有し、且つ高発泡倍率のポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体である。さらには、断熱性、低温脆性や軽量性を有し、機械的物性の良好な発泡ブロー成形体である。本発明の発泡ブロー成形体は、特に、自動車の空調用のダクトとして有用であり、また保温、保冷容器、電化製品部材、自動車部材、緩衝部材、フロート等にも有用である。」

・「【0055】
本発明の発泡ブロー成形体の厚み方向の平均気泡径aは、0.05?1.0mmであることが望ましく、さらには0.05?0.9mmであることが好ましい。
【0056】
本発明の発泡ブロー成形体において、気泡変形率a/b、及びa/cがそれぞれ0.2?1.3であることが好ましい(但し、発泡ブロー成形体において、aは成形体厚み方向の平均気泡径、bは成形体長手方向の平均気泡径、cは成形体周方向の平均気泡径である。)。気泡変形率a/b、及びa/cは発泡パリソンのドローダウン量やブロー比、成形時の気体吹き込み圧力により影響を受ける。上記範囲内であれば、気泡が扁平となることなく、良好な機械的物性を維持することができる。このような観点から、気泡変形率a/b、a/cは、それぞれ0.3?1.0が好ましい。」

・「【0066】
実施例5
東ソー株式会社製ポリエチレン系樹脂、グレード名:08S55A(密度0.952g/cm^(3)、MFR:3.6g/10分、MT:9.1cN、その他物性は表1に示す)を、前記ポリエチレン系樹脂(I)として用いた以外は、実施例1と同様にして発泡ブロー成形体を得た。得られた発泡ブロー成形体の物性を表2、表3に示した。」

・「【0091】
【表3】



イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載、特に実施例5、9、10及び12に関する記載を整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、順に「甲1実施例5発明」のようにいう。)が記載されていると認める。

<甲1実施例5発明>
「ポリエチレン系樹脂を発泡させて成るポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体であって、
目付け量が0.084g/cm^(2)であり、
発泡倍率が4.53倍であり、
独立気泡率が82%であり、
厚みが4.0mmである
ポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体。」

<甲1実施例9発明>
「ポリエチレン系樹脂を発泡させて成るポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体であって、
目付け量が0.069g/cm^(2)であり、
発泡倍率が4.13倍であり、
独立気泡率が80%であり、
厚みが3.0mmである
ポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体。」

<甲1実施例10発明>
「ポリエチレン系樹脂を発泡させて成るポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体であって、
目付け量が0.066g/cm^(2)であり、
発泡倍率が4.30倍であり、
独立気泡率が82%であり、
厚みが3.0mmである
ポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体。」

<甲1実施例12発明>
「ポリエチレン系樹脂を発泡させて成るポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体であって、
目付け量が0.045g/cm^(2)であり、
発泡倍率が6.28倍であり、
独立気泡率が85%であり、
厚みが3.0mmである
ポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体。」

(2)甲第2号証の記載等
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、次の記載(以下、総称して「甲第2号証の記載」という。)がある。

・「【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡ブロー成形体の製造方法に関する。」

・「【0012】
発泡ブロー成形体は、同じ厚みで比べた場合、従来のソリッドブロー成形体よりも軽量化することが可能であり、更にその見掛け密度と厚みとを調整することにより、ソリッドブロー成形体と同じような剛性であっても、より軽量化することができるという利点がある。そのために、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡ブロー成形が、自動車の空調ダクトに採用され始めている。」

・「【0092】
【表5】



イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の記載、特に実施例2に関する記載を整理すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリプロピレン系樹脂を発泡させて成るポリプロピレン系樹脂発泡ブロー成形体であって、
目付け量が0.084g/cm^(2)(当審注:見掛け密度0.14×平均厚み6.0mmにより計算。)であり、
発泡倍率が6.43?6.5倍であり、
独立気泡率が83%である
ポリプロピレン系樹脂発泡ブロー成形体。」

(3)甲第3号証の記載等
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には、次の記載(以下、総称して「甲第3号証の記載」という。)がある。

・「【請求項1】
見掛け密度0.1?0.6g/cm^(3)、平均厚み1?5mmの熱可塑性樹脂発泡ブロー成形体からなる車両用空調ダクトにおいて、該ダクトの外表面に微細な凹凸による粗面を有することを特徴とする車両用空調ダクト。」

・「【0021】
発泡ブロー成形体を構成する前記熱可塑性樹脂に制限はないが、通常は、成形性に優れると共に容易に入手できることから、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、それらの混合物が使用される。但し、本考案はこれらに限定するものではなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等を使用することもできる。さらに、熱可塑性樹脂には、耐衝撃性改良などを目的として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、エチレン-ブタジエン-エチレンブロック共重合体やそれらの水素添加物などの熱可塑性エラストマー、エチレン-プロピレンゴム、ブタジエンゴムなどの合成ゴムを添加しても良い。」

・「【0028】
上記熱可塑性樹脂の中でも、耐熱性と機械的強度とのバランスが優れることから、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、さらに好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。」

・「【0040】
本考案のダクトを構成する発泡ブロー成形体においては、独立気泡率が60%以上であることが好ましい。独立気泡率が低すぎる場合は、優れた断熱性、機械的物性のものを得ることができない虞がある。かかる観点からは、本考案の発泡ブロー成形体の独立気泡率は、70%以上、更に80%以上であることがより好ましい。」

・「【0044】
本考案のダクトを構成する発泡ブロー成形体においては、厚み方向の平均気泡径aが概ね0.1mm以上であることが好ましく、その上限は概ね1mmであることが好ましい。該平均気泡径aが前記範囲であると、ダクトに要求される断熱性を十分に発揮でき、また、寸法安定性にさらに優れたダクトとなる。
更に、該平均気泡径aが前記範囲であると、後述するように、気泡の形状や気泡の破泡により表面に凹凸を形成する場合には、所望の凹凸を容易に形成することができる。かかる観点からは、該平均気泡径の下限は0.2mmであることがより好ましく、一方その上限は0.8mmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.5mmである。
【0045】
本考案のダクトを構成する発泡ブロー成形体において、成形体の気泡変形率a/b及びa/cがそれぞれ0.1以上であることが好ましい。但し、a、b、cは、それぞれ下記の方法により求められた、発泡ブロー成形体の厚み方向の平均気泡径a、発泡ブロー成形体の長手方向の平均気泡径b、発泡ブロー成形体の周方向の平均気泡径cである。前記気泡変形率a/b及びa/cがそれぞれ前記範囲であることにより、特に圧縮強度に優れたダクトとなる。さらに、後述するように、気泡の形状や気泡の破泡により表面に凹凸を形成する場合には、所望の凹凸を容易に形成することができる。かかる観点から、気泡変形率a/b及びa/cがそれぞれ0.2以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.3以上である。なお、気泡変形率a/b及びa/cの上限は概ね1である。」

・「【0086】
【表1】



イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の記載、特に【請求項1】の記載を整理すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3請求項1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3請求項1発明>
「熱可塑性樹脂を発泡させて成る熱可塑性樹脂発泡ブロー成形体からなる車両用ダクトであって、
目付け量が0.01?0.3g/cm^(2)(当審注:見掛け密度0.1?0.6g/cm^(3)×平均厚み1?5mmにより計算。)であり、
発泡倍率が1.5?9.1倍(当審注:熱可塑性樹脂を【0028】で好ましいとされているポリプロピレンと仮定し、その真密度0.90?0.91g/cm^(3)÷見掛け密度0.1?0.6g/cm^(3)により計算。)であり、
独立気泡率が60%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上(当審注:【0040】参照。)であり、平均厚みが1?5mmである
熱可塑性樹脂発泡ブロー成形体からなる車両用ダクト。」

(4)参考文献1の記載等
ア 参考文献1の記載
参考文献1には、次の記載(以下、総称して「参考文献1の記載」という。)がある。

・「【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体において、見掛け密度が150kg/m^(3)以上350kg/m^(3)未満、平均厚みが1mm以上2.3mm未満、成形体の厚み方向の平均気泡径D1が0.05?0.5mmかつ成形体の厚み方向の気泡数が5個以上であり、成形体厚みの変動係数Cvが50%以下であることを特徴とする、ポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体。
・・・(略)・・・
【請求項8】
前記発泡ブロー成形体を構成するポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、該発泡ブロー成形体の平衡コンプライアンスJe0が0.5×10^(-3)?1.8×10^(-3)Pa、且つスウェルが2.5以下であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体。
【請求項9】
前記発泡ブロー成形体がダクトであることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体。」

・「【0003】
温暖化ガス排出による地球温暖化問題から、自動車業界においても排出ガス中の二酸化炭素等の削減は最重要課題となっている。自動車からの二酸化炭素の排出量を削減するための一つの手法として、自動車の軽量化による自動車の低燃費化が推進されており、自動車部品においてもより一層の軽量化が望まれている。
発泡ブロー成形体は、同じ厚みで比べた場合、従来のソリッドブロー成形体よりも軽量化することが可能であると共に、その見掛け密度と厚みとを調整することにより、ソリッドブロー成形体と同じような剛性であっても、より軽量化することができるという利点がある。このような特徴から、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂からなる発泡ブロー成形体が、自動車の空調ダクトに採用され始めているが、より自動車の軽量化を目指すという観点から、発泡ブロー成形体からなるダクトにおいてもさらなる軽量化が望まれている。」

・「【0058】
〔2〕発泡ブロー成形体の形状
図5に示す、縦方向(型締め方向):100mm×横方向:180mm×長手方向:650mmの外形寸法を有する二股のダクト形状の発泡ブロー成形体を得た。成形体の平均展開比は1.50、平均ブロー比は0.33であった。図5(b)、(c)に示した各部位の引込み比、展開比及びブロー比を表2に示す。」

・「【0073】
実施例1?11、比較例1?4、参考例1で得られた発泡ブロー成形体の物性を表4に示す。
・・・(略)・・・
【0075】
【表4】



イ 参考文献1に記載された発明
参考文献1の記載、特に実施例7及び参考例1に関する記載を整理すると、参考文献1には次の発明(以下、順に「参考文献1実施例7発明」及び「参考文献1参考例1発明」という。)が記載されていると認める。

<参考文献1実施例7発明>
「筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、
目付け量が0.049g/cm^(2)であり、
発泡倍率が3.5倍であり、
独立気泡率が80%であり、
平均気泡径が175μmであり、
厚みが1.9mmである
ダクトであるポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体。」

<参考文献1参考例1発明>
「筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、
目付け量が0.059g/cm^(2)であり、
発泡倍率が6.4倍であり、
独立気泡率が80%であり、
平均気泡径が150μmであり、
厚みが4.2mmである
ダクトであるポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体。」

2-2-2 甲第1号証を主引用文献とし、参考文献1を周知文献とした場合の進歩性
(1)本件特許発明1について
甲1実施例5発明、甲1実施例9発明、甲1実施例10発明及び甲1実施例12発明における「ポリエチレン系樹脂発泡ブロー成形体」が「筒状形状」を有することは明らかであるから、本件特許発明1と甲1実施例発明5、甲1実施例9発明、甲1実施例10発明及び甲1実施例12発明を対比するに、両者は次の点で一致する。
<一致点>
筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体。

そして、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「発泡倍率が5?6.7倍であり」、
「平均気泡径が164?173μmであり」であるのに対し、甲1実施例5発明、甲1実施例9発明、甲1実施例10発明及び甲1実施例12発明においては、そうでない点。

そこで、検討するに、「発泡倍率」を「5?6.7倍」の範囲内の値にし、さらに、「平均気泡径」を「164?173μm」の範囲内の値にすることは、甲第1号証には記載も示唆もされておらず、また、参考文献1にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1実施例5発明、甲1実施例9発明、甲1実施例10発明及び甲1実施例12発明に参考文献1に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲1実施例5発明、甲1実施例9発明、甲1実施例10発明及び甲1実施例12発明、すなわち甲第1号証に記載された発明及び参考文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有していることから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び参考文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-2-3 甲第2号証を主引用文献とし、参考文献1を周知文献とした場合の進歩性
(1)本件特許発明1について
甲2発明における「ポリプロピレン系樹脂発泡ブロー成形体」が「筒状形状」を有することは明らかであるから、本件特許発明1と甲2発明を対比するに、両者は次の点で一致する。
<一致点>
筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体。

そして、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「平均気泡径が164?173μmであり、
厚みが3?4mmである」のに対し、甲2発明においては、そうでない点。

そこで、検討するに、「平均気泡径」を「164?173μm」の範囲内の値にし、さらに、「厚み」を「3?4mm」の範囲内の値にすることは、甲第2号証には記載も示唆もされておらず、また、参考文献1にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明に参考文献1に記載された事項を適用して、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明及び参考文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有していることから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明及び参考文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-2-4 甲第3号証を主引用文献とし、参考文献1を周知文献とした場合の進歩性
(1)本件特許発明1について
甲3請求項1発明における「熱可塑性樹脂発泡ブロー成形体からなる車両用ダクト」が「筒状形状」を有することは明らかであるから、本件特許発明1と甲3請求項1発明を対比するに、両者は次の点で一致する。
<一致点>
筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体。

そして、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1においては、「目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、
発泡倍率が5?6.7倍であり、
独立気泡率が79?83%であり、
平均気泡径が164?173μmであり、
厚みが3?4mmである」のに対し、甲3請求項1発明においては、「目付け量が0.01?0.3g/cm^(2)であり、
発泡倍率が1.5?9.1倍であり、
独立気泡率が60%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上であり、
平均厚みが1?5mmである」点。

そこで、検討するに、「平均気泡径」を「164?173μm」の範囲内の値にし、さらに、「厚み」を「3?4mm」の範囲内の値にすることは、甲第3号証には記載も示唆もされておらず、また、参考文献1にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲3請求項1発明に参考文献1に記載された事項を適用して、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到しえたこととはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲3請求項1発明、すなわち甲第3号証に記載された発明及び参考文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有していることから、本件特許発明1と同様に、甲第3号証に記載された発明及び参考文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-2-5 参考文献1を主引用文献とした場合の新規性
(1)本件特許発明1について
参考文献1実施例7発明及び参考文献1参考例1発明における「ダクトであるポリオレフィン系樹脂発泡ブロー成形体」が「筒状形状」を有することは明らかであるから、本件特許発明1と参考文献1実施例7発明及び参考文献1参考例1発明を対比するに、両者は次の点で一致する。
<一致点>
筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体。

そして、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明1においては、「平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである」のに対し、参考文献1実施例7発明においては、「平均気泡径が175μmであり、厚みが1.9mmであ」り、また、参考文献1参考例1発明においては、「平均気泡径が150μmであり、厚みが4.2mmである」点。

そして、相違点4により、本件特許発明1の「平均気泡径」及び「厚み」の数値範囲から、参考文献1実施例7発明の数値及び参考文献1参考例1発明の数値は除かれたことから、相違点4は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、参考文献1実施例7発明及び参考文献1参考例1発明、すなわち参考文献1に記載された発明であるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有していることから、本件特許発明1と同様に、参考文献1に記載された発明であるとはいえない。

2-3 取消理由(決定の予告)についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由(決定の予告)によっては、取り消すことはできない。
なお、平成30年3月5日に特許異議申立人から提出された意見書を検討したが、上記判断は左右されない。

3 取消理由1回目の内、取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由について
取消理由1回目の内、取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由は、甲第1号証に基づく新規性違反、甲第2号証に基づく新規性違反、甲第3号証の請求項1及び比較例1に基づく新規性違反並びに甲第3号証の比較例1に基づく進歩性違反である。
そこで、検討するに、上記第3 2-2-2ないし2-2-4のとおり、本件特許発明1ないし7と甲第1ないし3号証に記載された発明(甲第3号証については、請求項1から認定した発明。)との間には相違点があるから、甲第1号証に基づく新規性違反、甲第2号証に基づく新規性違反及び甲第3号証の請求項1に基づく新規性違反の取消理由では、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取り消すことはできない。
また、本件特許発明1ないし7と甲第3号証の比較例1から認定した発明も、甲3請求項1発明と同様に、相違点3の点で相違するものであるから、甲第3号証の比較例1に基づく新規性違反及び進歩性違反の取消理由では、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取り消すことはできない。

4 特許異議申立ての理由について
特許異議申立ての理由は、いずれも取消理由1回目あるいは取消理由(決定の予告)で採用された。
そして、上述のとおり、取消理由1回目あるいは取消理由(決定の予告)によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできないので、特許異議申立ての理由はいずれも理由がない。

第4 結語
上記第3のとおりであるから、取消理由1回目、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発泡成形体、空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクト
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形体、空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトに関する。更に詳細には、本発明は、優れた消音性と断熱性とを両立し得る発泡成形体、これを備えた空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブロー成形により樹脂を高発泡倍率で発泡させるとともに所要の形状に成形した発泡ダクトが提案されている(特許文献1参照。)。
【0003】
この発泡ダクトは、自動車用の空調装置において、両端に他の部材を嵌合する接続口部を備え、接続口部の間にはエアーの通過する管路が三次元形状に曲折したダクト本体を有し、接続口部及びダクト本体は物理発泡法により発泡させた単層のパリソンをブロー成形することにより発泡平均粒子径が100?300μmの発泡セルで構成されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2005-193726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討においては、特許文献1に記載された発泡ダクトは、消音性が十分でないという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明は、優れた消音性と断熱性とを両立し得る発泡成形体、これを備えた空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が5?6.7倍であり、独立気泡率が79?83%であり、平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである構成とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の発泡成形体は、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成り、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が5?6.7倍であり、独立気泡率が79?83%であり、平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmであるものである。
【0009】
また、本発明の空気調節装置用ダクト又は車載空気調節装置用ダクトは、上記本発明の発泡成形体を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、発泡倍率が5?6.7倍であり、独立気泡率が79?83%であり、平均気泡径が164?173μmであり、厚みが3?4mmである構成とした。そのため、優れた消音性と断熱性とを両立し得る発泡成形体、これを備えた空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】送風による騒音を想定した消音性能評価試験の概要を示す説明図である。
【図2】暖房、換気及び空調システム(HVAC)動作音を想定した消音性能評価試験の概要を示す説明図である。
【図3】発泡倍率と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る発泡成形体、これを備えた空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクトについて詳細に説明する。
【0013】
まず、本発明の一実施形態に係る発泡成形体について詳細に説明する。本実施形態の発泡成形体は、筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成るものであって、目付け量が0.090g/cm^(2)以下であり、発泡倍率が3.4?40倍であるものである。
【0014】
このように、目付け量を0.090g/cm^(2)以下とし、更に発泡倍率を3.4?40倍とすることによって、優れた消音性と断熱性とを両立することができる。
【0015】
目付け量が0.090g/cm^(2)より大きい場合には、優れた消音性と断熱性を両立することができない。また、発泡倍率が3.4倍より小さい場合には、所望の断熱性を確保することができない。更に、発泡倍率が40倍より大きい場合には、現時点におけるブロー成形方法では安定して製造することができない。
【0016】
このように優れた消音性と断熱性とを両立し得るのは、発泡成形体における気泡の占有率が高く、例えば振動吸収特性が優れるためであると考えられるが、このような理由によらずに上述の効果が得られている場合であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
例えば、消音のメカニズムについては、発泡倍率(セル壁の振動による音エネルギー損失)、面剛性(スキン層の振動による音エネルギー損失)、目付け量(密度低下による内側から外側への音透過損失)などの影響因子が多岐にわたり、また、周波数によってもこれらの影響度合いが異なるものと推測されるため、未だ解明には至っていない。
【0018】
また、例えば、このような発泡成形体を暖房、換気及び空調システム(HVAC)のような空気調節装置に用いられる空気調節装置用ダクトに適用すると、軽量化や、ダクト外面における結露発生の抑制ないし防止を図ることができるという利点もある。
【0019】
更に、例えば、このような発泡成形体を車載される暖房、換気及び空調システム(HVAC)のような空気調節装置に用いられる車載空気調節装置用ダクトに適用すると、車載空気調節装置の作動音が車室内に到達することが抑制ないし防止され、車室内の快適性を向上させることができる。また、例えば、このような発泡成形体を車載空気調節装置用ダクトに適用すると、車載空気調節装置用ダクト出入り口における温度差が小さくなり、空気調節装置の空気調節効率が向上し、車室内の快適性を向上させることができる。更に、例えば、このような発泡成形体を電気自動車の車載空気調節装置用ダクトに適用すると、空気調節装置の空気調節効率の向上に伴い、電気自動車の航続距離を延長することができる。
【0020】
また、本実施形態の発泡成形体においては、消音性向上の観点から、目付け量が0.075g/cm^(2)以下であることが好ましい。また、生産性向上の観点から、目付け量は0.018g/cm^(2)以上であることが好ましい。
【0021】
更に、本実施形態の発泡成形体においては、断熱性向上及び生産性向上の観点から、発泡倍率が3.4?10倍であることが好ましく、3.4?8倍であることがより好ましく、5?8倍であることが更に好ましい。
【0022】
ここで、発泡倍率と断熱性の関係について更に詳しく説明する。発泡材の熱伝導率は、複合則により求められる理論値とほぼ一致する。つまり、発泡材の熱伝導率λ_(c)は、発泡材の母材(例えばポリプロピレン)の熱伝導率をλ_(m)、空気の熱伝導率をλ_(g)、空気の体積分率(空孔率)をV_(g)としたとき、以下の式(I)により算出される。
【0023】
λ_(c)=V_(g)・λ_(g)+(1-V_(g))・λ_(m)・・・(I)
【0024】
式(I)から熱伝導率は発泡倍率が高いほど低下することがわかり、発泡倍率が高いほど高い断熱性が得られることが分かる。発泡倍率が8倍を超えると断熱性の向上効果が飽和する一方、車載空気調節装置用ダクトとして要求される強度を維持するため、3.4?8倍が好ましい。なお、レイアウト状の制約が少ない家庭用空気調節装置用ダクトにおいては、発泡倍率が3.4?10倍であることが好ましい。低コスト化の観点からは、発泡倍率は10倍以下とすることが好ましい。
【0025】
また、発泡材の発泡倍率が5倍以上である場合には、断熱性が更に向上する。また、上述したように発泡倍率を8倍より大きくしても、断熱性の向上効果が飽和するため、発泡倍率を5?8倍とすることにより、断熱性を更に向上させることができると共に、生産性を向上させることができる。低コスト化の観点からは、発泡倍率は10倍以下とすることが特に好ましい。
【0026】
更に、本実施形態の発泡成形体においては、断熱性向上及び強度向上の観点から、独立気泡率が60%以上であることが好ましく、75%以上であることが更に好ましい。生産性向上の観点からは、独立気泡率は90%以下であることが好ましい。
【0027】
ここで、「独立気泡率」とは、発泡成形体のような多孔質体における全気泡の体積のうち、独立気泡の体積の割合を意味する。なお、独立気泡とは、発泡成形体のような多孔質体における気泡のうち、気泡が完全に気泡壁に囲まれているものをいう。例えば、独立気泡率を以下のような方法により測定されるもので規定することができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0028】
まず、測定サンプルとして、発泡ブロー成形品(形状:円筒形、高さ:700mm、内径:100mm、厚みXmm(X≧2))の中央部の壁面中央部を10×10×2mmに切り出す。次に、液層置換法(ピクノメーター法)により測定サンプルの真密度(D)を測定する。具体的には、装置としての自動湿式真密度測定器(オートトゥルーデンサーMAT-7000)と媒液としての水とを用い、装置のセルの中にサンプルと媒液を入れ、サンプルの細孔や粒子間に媒液を浸入させるための脱気を行い、その後ある液面まで媒液を足して重量を量り、そのときの媒液温を計り、サンプルによって置換される媒液の重量から真密度(D)及び連通気孔体積(Voc)を計測する(1)。次に、測定サンプル寸法を実測し、測定サンプルの見た目(幾何学的な)体積(Vg)を計算する(2)。更に、電子天秤を使い、測定サンプルの重量(W)を測定する(3)。しかる後、(1)?(3)で得られた数値と以下の式(II)及び(III)から独立気孔の体積(Vc)と独立気泡率(Cc)を算出する。値はサンプル数5点の平均値とする。
【0029】
Vc=Vg-W/D-Voc・・・(II)
Cc=Vc/Vg×100・・・(III)
【0030】
また、本実施形態の発泡成形体においては、断熱性向上の観点から、平均気泡径が50?700μmであることが好ましい。平均気泡径が50μmより小さい場合には、気泡壁が薄くなり、曲げた場合に壁が破損し、空気抜けが生じるおそれがある。一方、平均気泡径が700μmより大きい場合には、気泡壁が厚くなり、曲げた場合に壁が破損し、空気抜けが生じるおそれがある。
【0031】
ここで、「平均気泡径」とは、発泡成形体における気泡の平均値を意味する。例えば、平均気泡径を以下のような方法により測定されるもので規定することができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0032】
まず、測定サンプルとして、発泡ブロー成形品(形状:円筒形、高さ:700mm、内径:100mm、厚みAmm)の中央部の壁面中央部を10×10×Amm切り出す。次に、サンプルの厚み方向の気泡径aの平均値、長手方向の気泡径cの平均値をそれぞれ以下の方法で求め、a、cの平均値を気泡径とする。具体的には、サンプルの周方向及び厚み方向と直交する方向(長手方向)に該成形体の中空形成部を略二等分し、二つの垂直断面を得る。次に、対になって存在する対向する二つの垂直断面をそれぞれ顕微鏡などにより拡大投影し、該投影画像上の厚み方向と直交する幅方向の中心付近に、厚み方向に発泡ブロー成形体の全厚みに亘る線分(α)を引き、画像上の線分(α)の長さL3を測定する。なお、このとき投影画像における幅方向中心付近の厚みが投影画像上の他の部分に比べて著しく薄いときには、その画像は上記物性の測定には使用せず、他の部位を改めて投影して測定に用いるものとする。次に、成形体の全厚みに亘って、線分(α)を中心とし、線分(α)に平行でかつ長さL3の幅を有する二重線を引く。この二重線の内側に存在する全気泡を測定対象として(ただし、気泡が二重線と交差するものは除く。)、各気泡における気泡の内径の厚み方向の最大長さ及び気泡の内径の長手方向の最大長さを測定し、それらの測定値を拡大写真撮影時の拡大倍率で除することによって各気泡の気泡径a及びcをそれぞれ求める。平均気泡径の値は、5つの成形体から、サンプルを切り出し、上記測定方法によって得た気泡径の平均値とする。
【0033】
更に、特に限定されるものではないが、独立気泡率が60%以上、平均気泡径が50?700μmとした場合、曲げても割れず適度に弾性変形するため、取り回しが複雑な車載用空気調節装置用ダクトとして好適である。
【0034】
更に、本実施形態の発泡成形体に適用する樹脂としては、成形性に優れるという観点から熱可塑性樹脂を好適例として挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、安価であるという観点からポリオレフィン系樹脂を好適例として挙げることができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、ポリ塩化ビニルやポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド/ポリスチレンアロイ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリルブタジエン樹脂、ポリアクリロニトリルスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリウレタンなどの他の熱可塑性樹脂を適用することもできる。また、ポリオレフィン系樹脂としては、安価であり、ブロー成形技術が確立しているという観点から、ポリプロピレンやポリエチレンなどを好適に用いることができる。更に、これらの熱可塑性樹脂同士のアロイやこれらの熱可塑性樹脂を主成分として、エラストマーやゴム等を添加してもよい。
【0035】
なお、本実施形態の発泡成形体においては、特に限定されるものではないが、断熱性の指標となる熱抵抗は熱伝導率と厚みとの積であるため、厚みは断熱性の観点から厚い方が好ましい。車載空気調節装置用ダクトにおいては、周辺部品との干渉防止のためにレイアウト状の外径の制約があり、また、送風の流動抵抗を低減するために内径確保の制約があるため、一般的に厚みが0.7?5.0mm程度となっている。なお、消音性や断熱性の確保と生産性の向上という観点から、厚みを2?5.0mmとすることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態の発泡成形体においては、特に限定されるものではないが、消音性向上の観点から、曲げ弾性率を100?500MPaとすることが好ましく、200?400MPaとすることがより好ましく、250?350MPaとすることが更に好ましい。
【0037】
更に、本実施形態の発泡成形体においては、特に限定されるものではないが、消音性向上の観点から、厚みTmm、発泡倍率H倍としたときにT/H×(H-T)^(2)という関係式(この関係式においてはT/H<1の関係を満足する。)から算出される値が0.75より大きく13より小さいことが好ましく、0.8以上10以下であることがより好ましく、1.0以上8以下であることが更に好ましく、3以上6以下であることが特に好ましい。
【0038】
次に、本発明の一実施形態に係る空気調節装置用ダクト及び車載空気調節用ダクト(以下、単に「ダクト」ということがある。)について詳細に説明する。なお、上述の実施形態において説明した構成については説明を省略する。本実施形態の空気調節装置用ダクト及び車載空気調節用ダクトは、上述した本発明の一実施形態に係る発泡成形体を備えたものである。また、本実施形態のダクトは、内側に内貼り吸音ウレタンを備えた構成であってもよく、外側に結露防止の外貼りウレタンを備えた構成であってもよい。なお、本実施形態のダクトには、発泡成形体のみを備えるもの、すなわち、発泡成形体単体も含まれる。
【0039】
上述した本発明の一実施形態に係る発泡成形体を備える構成とすることにより、優れた消音性と断熱性とを両立することができる。また、ソリッド成形体の内側に内貼り吸音ウレタンを備えた構成と比較して、送風ノイズを低減することができ、ピンクノイズは同等程度であるため、内貼り吸音ウレタンをなくすことができ、軽量化を図ることができる。更に、ダクト外面における結露発生の抑制ないし防止を図ることができるという利点もある。そのため、電気系の近傍に配置するダクトであっても外貼りウレタンをなくすことができる可能性がある。更に、車載空気調節装置の作動音が車室内に到達することが抑制ないし防止され、車室内の快適性を向上させることができる。また、車載空気調節装置用ダクト出入り口における温度差が小さくなり、空気調節装置の空気調節効率が向上し、車室内の快適性を向上させることができる。更に、空気調節装置の空気調節効率の向上に伴い、電気自動車の航続距離を延長することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。
【0041】
(実施例1)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが3mm、目付け量が0.045g/cm^(2)、発泡倍率が6.3倍、独立気泡率が83%、平均気泡径が164μmである本例の発泡成形体を得た。なお、独立気泡率及び平均気泡径は上述した方法で測定した。以下同様である。
【0042】
(参考例2)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.072g/cm^(2)、発泡倍率が5倍、独立気泡率が86%、平均気泡径が150μmである本例の発泡成形体を得た。
【0043】
(実施例3)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.060g/cm^(2)、発泡倍率が6.7倍、独立気泡率が81%、平均気泡径が173μmである本例の発泡成形体を得た。
【0044】
(参考例4)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが5mm、目付け量が0.075g/cm^(2)、発泡倍率が6.5倍、独立気泡率が79%、平均気泡径が187μmである本例の発泡成形体を得た。
【0045】
(参考例5)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが4mm、目付け量が0.090g/cm^(2)、発泡倍率が3.4倍、独立気泡率が80%、平均気泡径が133μmである本例の発泡成形体を得た。
【0046】
(参考例6)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが5mm、目付け量が0.090g/cm^(2)、発泡倍率が4.8倍、独立気泡率が83%、平均気泡径が148μmである本例の発泡成形体を得た。
【0047】
(比較例1)
ソリッドポリプロピレンからブロー成形により、厚みが1.7mm、目付け量が0.153g/cm^(2)、発泡倍率が1倍である本例の成形体を得た。
【0048】
(比較例2)
比較例1の成形体のダクト開口部の内側に吸音ウレタンを貼り付けて、本例の成形体を得た。
【0049】
(比較例3)
ソリッドポリプロピレンからブロー成形により、厚みが0.8mm、目付け量が0.072g/cm^(2)、発泡倍率が1倍である本例の成形体を得た。
【0050】
(比較例4)
比較例3の成形体のダクト開口部の内側に吸音ウレタンを貼り付けて、本例の成形体を得た。
【0051】
(比較例5)
ソリッドポリプロピレンから発泡ブロー成形により、厚みが3mm、目付け量が0.108g/cm^(2)、発泡倍率が2.5倍、独立気泡率が85%、平均気泡径が129μmである本例の発泡成形体を得た。
【0052】
各例の仕様の一部を表1に示す。なお、表1中の「Δ[dB]」は値の大きい方が消音性能が優れていることを示す。また、表中の「(1)送風」とは送風による騒音を想定したものであり、風量が4m^(3)/minであるものは弱風量を想定したものであり、風量が7m^(3)/minであるものは強風量を想定したものであり、「(2)ピンクノイズ」は暖房、換気及び空調システム(HVAC)動作音を想定したものである。
【0053】
【表1】

【0054】
[消音性能評価試験]
(1)送風による騒音を想定したものについては、測定サンプルについては、リアダクト型長さ1130mmとし、ウレタンはダクト開口部(入口部内面及び出口部内面に50mm幅)に貼り付けた。また、音源については、ダクト出口における風量を4m^(3)/min、7m^(3)/minとした。測音方法は、音圧計:1/3オクターブバンド、A特性、測定点:実車相当の耳位置(具体的には、図1におけるX点である。)である。
(2)暖房、換気及び空調システム(HVAC)動作音を想定したものについては、測定サンプルについては、センター及びサイドベント型ダクトとして、ウレタンは暖房、換気及び空調システム(HVAC)嵌合部付近の内側全面(15g)に貼り付けた。また、音源については、ダクト入口における基準ノイズ音を70dBAとした。測音方法は、音圧計:1/3オクターブバンド、A特性、測定点:センターベント出口(具体的には、図2におけるY、Z点である。)であり、平均値で評価した。
【0055】
表1から、本発明の範囲に属する実施例1及び3は、本発明外の比較例1?5と比較して、優れた消音性を有することが分かる。また、目付け量を0.075g/cm^(2)以下とした実施例1、参考例2、実施例3、参考例4は、風量4m^(3)/minのときの消音性能が1dB程度であり、風量7m^(3)/minのときの消音性能が3dB程度であるためより優れていることが分かる。
【0056】
更に、T/H×(H-T)^(2)という関係式(この関係式においてはT/H<1の関係を満足する。)から算出される値が1.0以上8以下である実施例1、3及び参考例4は消音性能が更に優れ、上記関係式から算出される値が3以上6以下である実施例1及び3は消音性能が特に優れることが分かる。
【0057】
なお、各例の共振周波数は10000Hz以上であり、周波数が100?500Hz程度のロードノイズや周波数が250?3000Hz程度のエンジン音、周波数800?1500Hz程度の送風ノイズ、周波数が2780Hz程度の暖房、換気及び空調システム(HVAC)動作音に対しても影響を受けるものではない。
【0058】
[断熱性能評価試験]
各種発泡倍率の発泡成形体における熱伝導性を測定した。得られた結果を図3に示す。
【0059】
図3から、発泡倍率を3.4倍以上とすれば、優れた断熱性を有する発泡成形体となること、発泡倍率を5倍以上とすると更に優れた断熱性を有する発泡成形体となることが分かる。なお、レイアウト状の制約が少ない家庭用空気調節装置用ダクトにおいては、低コスト化の観点などから発泡倍率が3.4?10倍であることが好ましい。
【0060】
また、各実施例及び比較例のように、各種発泡倍率、厚みのサンプルで消音性を評価した結果、一般的な厚み0.7?5.0mm、発泡倍率8倍以下の範囲において、目付け量0.090g/cm^(2)以下の範囲に顕著な消音性が確認された。そのため、各種制約の中で使用される車載用空気調節装置用ダクトとしては、発泡倍率3.4?8倍、厚み0.7?5.0mm、目付け量0.090g/cm^(2)以下であり、優れた断熱性と消音性とを両立する筒状の発泡成形体を適用することが好ましいことが分かる。また、断熱性の更なる向上の観点から発泡倍率が5?8倍であることが好ましいことも分かる。
【0061】
更に、各実施例のように、独立気泡率が60%以上、更には75%以上である発泡成形体は、優れた断熱性と強度とを有するものであることが分かる。
【0062】
また、各実施例のように、平均気泡径が50?700μmである発泡成形体は、空気抜けが生じることがなく、優れた断熱性を有するものであることが分かる。
【0063】
更に、各実施例のように、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン)のような熱可塑性樹脂を発泡させて成る発泡成形体は、成形性に優れ、各種制約の中で使用される車載用空気調節装置用ダクトとして好適である。
【0064】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0065】
日本国特願2013-250218号(出願日:2013年12月3日)の全内容は、ここに援用される。
【符号の説明】
【0066】
1A,1B 車載用空気調節装置用ダクト
2 発泡成形体
4 吸音ウレタン
10 ノイズ音源(暖房、換気及び空調システム(HVAC))
RC 残響室
SC 防音室
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状形状を有し、樹脂を発泡させて成る発泡成形体であって、
目付け量が0.045?0.090g/cm^(2)であり、
発泡倍率が5?6.7倍であり、
独立気泡率が79?83%であり、
平均気泡径が164?173μmであり、
厚みが3?4mmである
ことを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
目付け量が0.075g/cm^(2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体。
【請求項3】
上記樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
上記樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つの項に記載の発泡成形体。
【請求項5】
上記樹脂が、ポリプロピレン又はポリエチレンであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1つの項に記載の発泡成形体。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の発泡成形体を備えたことを特徴とする空気調節装置用ダクト。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の発泡成形体を備えたことを特徴とする車載空気調節装置用ダクト。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-11 
出願番号 特願2015-551422(P2015-551422)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
加藤 友也
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6037053号(P6037053)
権利者 日産自動車株式会社
発明の名称 発泡成形体、空気調節装置用ダクト及び車載空気調節装置用ダクト  
代理人 的場 基憲  
代理人 的場 基憲  

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