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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A61H
審判 全部無効 2項進歩性  A61H
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A61H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
管理番号 1341313
審判番号 無効2016-800100  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-08-09 
確定日 2018-03-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5840320号発明「美容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5840320号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5840320号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成23年11月16日 原出願(特願2011-250916号)
平成27年 8月25日 本件特許出願
(特願2015-165494号)
平成27年11月20日 特許権の設定登録(特許第5840320号)
平成28年 8月 9日 本件無効審判請求
(無効2016-800100号)
平成28年 8月 9日 請求人による証拠説明書提出
平成28年12月26日 被請求人による審判事件答弁書提出
平成29年1月24日付け 審理事項通知書
平成29年 2月13日 請求人による口頭審理陳述要領書(以下「請求
人要領書」という。)提出
平成29年 2月13日 請求人による証拠説明書提出
平成29年 2月13日 請求人による上申書提出
平成29年 2月15日 請求人による証拠説明書提出
平成29年 2月16日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成29年2月20日付け 審理事項通知書(2)
平成29年 3月 7日 請求人による口頭審理陳述要領書(2)提出
平成29年 3月 7日 被請求人による口頭審理陳述要領書2提出
平成29年 3月 7日 第1回口頭審理
平成29年 3月24日 被請求人による上申書提出
平成29年 4月11日 審決の予告
平成29年 6月13日 被請求人による訂正請求書提出
平成29年 6月13日 被請求人による上申書提出
平成29年 7月20日 請求人による審判事件弁駁書提出
平成29年 7月21日 請求人による審判事件弁駁書(2)提出
平成29年 8月10日 審理事項通知書(3)
平成29年 9月 7日 請求人による口頭審理陳述要領書(3)提出
平成29年 9月11日 被請求人による口頭審理陳述要領書3提出
平成29年 9月12日 審理事項通知書(4)
平成29年 9月25日 被請求人による口頭審理陳述要領書4提出
平成29年 9月25日 第2回口頭審理
平成29年10月 5日 被請求人による上申書提出
平成29年12月28日 被請求人による審判事件答弁書提出
平成30年 1月16日 補正許否の決定

なお、各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」のように略記した。

第2 平成29年6月13日付け訂正請求について
1 訂正事項
本件特許請求の範囲及び明細書についての平成29年6月13日提出の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許権全体に対して請求するものであって、その具体的内容は、以下のとおりである(下線は訂正部分を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。」という記載を、
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
前記ハンドルの湾曲は、
美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、
水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、
水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、
前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており、
前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており、
前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。」と訂正する。

(2)訂正事項2
明細書段落【0007】の
「【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする。」という記載を、
「【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、前記ハンドルの湾曲は、美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており、前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており、前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする。」と訂正する。

(3)訂正事項3
明細書段落【0050】の
「【0050】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図8及び図9に示すように、前記ボール17の形状を、ボール17の外周面のハンドル11側の曲率がボール支持軸15の先端側の曲率よりも大きくなるようにバルーン状に形成することもできる。このように構成した場合には、曲率の小さな部分で肌を摘み上げ、曲率の大きな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる。」という記載を、
「【0050】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図8及び図9に示すように、前記ボール17の形状を、ボール17の外周面のハンドル11側の曲率がボール支持軸15の先端側の曲率よりも小さくなるようにバルーン状に形成することもできる。このように構成した場合には、曲率の大きな部分で肌を摘み上げ、曲率の小さな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる。」と訂正する。

2 訂正請求についての当審の判断
これら訂正事項1ないし3の適法性について検討する。

(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
(ア)「全体が山なりの湾曲形状」について
本件訂正後の請求項1の「側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし」に係る訂正は、本件訂正前の請求項1が「部分湾曲形状」(審決の予告44ページ参照)を含み得ると解釈される余地があったところ、「部分湾曲形状」を含まないことを明確にしたものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)「水平基準線」並びに「傾斜角」及びその大小関係について
本件訂正後の請求項1の「前記ハンドルの湾曲は、美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており」(以下「湾曲傾斜角構成」ということがある。)に係る訂正は、本件訂正前の請求項1において「湾曲がきつい」の比較の基準が明確ではないと解釈される余地があったところ、「湾曲傾斜角構成」を追加し、「湾曲がきつい」とは、ハンドルの基端側の特定の傾斜角と先端側の傾斜角との関係であることを限定し明確にしたものである。
したがって、上記訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(ウ)ボールの形状について
本件訂正後の請求項1の「前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており」(以下「バルーン形状」ということがある。)に係る訂正は、本件訂正前の請求項1では、ボールの形状が特定されていなかったところ、ボールの具体的形状を特定したものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無について
まず、上記ア(ア)の訂正事項は、本件特許の願書に添付した図面の図3(以下「本件図3」という。本件図3には、「ハンドルの全体が山なりに湾曲している美容器」が図示されている。)に記載されていると認められる。
また、上記ア(イ)の訂正事項である湾曲傾斜角構成は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0018】及び本件図3等の記載から自明な事項である。
すなわち、本件図3には、美容器において、湾曲の度合いが基端側よりも先端側が大きいハンドルが図示されている。同図において、ハンドルの湾曲の度合いが基端側よりも先端側を大きくならしめている理由とは、美容器の先端に図示されている一点鎖線yの傾斜角が基端側に図示されている一点鎖線xの傾斜角よりも大きいことによる。同図に示された一点鎖線yは、「ボール支持軸15の軸線」(【0018】)であり、同じく図示された一点鎖線xは、ハンドル11の中心線、すなわち、「ハンドル11の最も厚い部分の外周接線zの間の角度を二分する線と平行な線」(【0018】)である。また、一点鎖線yと一点鎖線xとの傾斜角を比較するには、同図のように基端側が持ち上がった状態ではなく、同図の美容器を水平台に設置した状態での側面視における水平台を基準線(水平基準線)とした一点鎖線yと一端鎖線xの傾斜角であることは自明である。
なお、湾曲傾斜角構成は、該構成の追加によっても、ハンドルの湾曲形状の技術的意義が変更されるものではないから(詳細は、下記第6の1及び第7の1を参照)、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項に該当するともいえない。
上記ア(ウ)の訂正は、本件特許明細書の段落【0050】の記載(下記(3)のとおり、ボールの形状の曲率は、「大きい」と「小さい」がいずれも誤って逆に記載されたものであると認める。)、及び願書に添付した図8、9の記載に基づくものである。

以上のとおり、訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加には該当しない。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
請求項1についてした上記訂正は、上記ア(ア)ないし(ウ)で示した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

エ 請求人の主張について
訂正事項1の適法性に関して、請求人は、特に、湾曲傾斜角構成が新規事項に該当する旨主張する。具体的には、請求人は、「水平基準線」、「支持軸の軸線の傾斜角」(以下「軸線側傾斜角」という。)及び「ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角」(以下「ハンドル側傾斜角」という。)の概念、並びに軸線側傾斜角とハンドル側傾斜角との大小関係は、本件特許明細書等には一切記載されていない、湾曲傾斜角構成は、本件無効審判の審理において明らかになった事項にすぎず、また、湾曲傾斜角構成とバルーン形状との関係については、本件無効審判の審理においても、明らかにされていない旨主張する(平成29年7月20日付け審判事件弁駁書5?10ページ)。
この点、訂正事項が新規事項であるとするためには、(i)明細書又は図面に記載された事項ではないことのほか、(ii)明細書等に記載された事項から自明な事項ではないこと、及び(iii)明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項に該当することを全て示す必要がある。しかしながら、請求人の上記主張は、実質的には、湾曲傾斜角構成が明細書等に記載されていないことを主張するにとどまるものである。
また、請求人は、バルーン形状について、本件特許明細書の段落【0008】及び【0009】を重視すれば、本件訂正前のボールは、「球体状」のボールを指すものと解釈され、本件訂正後のボール形状(バルーン形状)は、球体状とは明らかに異なる形状であるから、バルーン形状に関する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものに該当する旨主張する(同弁駁書13?17ページ)。
しかしながら、本件特許明細書及び願書に添付された図面(段落【0050】、図8及び9を含む。)に照らして、本件訂正前の特許請求の範囲の記載を検討すれば、請求人の主張する解釈を首肯することはできない。
よって、請求人の上記主張は、当審の判断を左右するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、本件訂正後の特許請求の範囲と明細書との整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、訂正事項1と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、新規事項を追加するものにも該当しない。

(3)訂正事項3について
本件特許明細書等の記載(特に、願書に添付した図8及び9に図示されたボールの形状を参照。)を総合すれば、段落【0050】における、ボールの形状の曲率は、「大きい」と「小さい」がいずれも誤って逆に記載されたものであると認める。
したがって、訂正事項3は、誤記の訂正を目的とするものである。また、訂正事項3は、単なる誤記の訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、新規事項を追加するものにも該当しない。

(4)小括
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、これを認める。

第3 本件訂正発明
上記のとおり本件訂正が認められるところ、本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、本件訂正により訂正した特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりであると認める。
なお、本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明は、審決の予告に記載のとおり、「本件発明」と表記する。

「【請求項1】
A ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B 前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
C 前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
C-1 前記ハンドルの湾曲は、
C-2 美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、
C-3 水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、
C-4 水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、
C-5 前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており、
E 前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており、
D 前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。」

なお、本件訂正発明に付したアルファベットは、請求人が分説した構成要件に準じた。

第4 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人の主張する請求の趣旨は、本件訂正発明についての特許を無効にする、との審決を求めるものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲1 国際公開第2011/004627号の写し(以下「写し」であ
る旨の表記は省略する。)
甲2 登録実用新案第3164829号公報
甲3 登録実用新案第3159255号公報
甲4の1 韓国意匠第30-0408623号公報
甲4の2 韓国意匠第30-0408623号公報の翻訳文
甲5 特開2000-24065号公報
甲6の1 米国特許第2011471号明細書
甲6の2 米国特許第2011471号明細書の翻訳文
甲7の1 米国再発行特許発明第19696号明細書
甲7の2 米国再発行特許発明第19696号明細書の翻訳文
甲8 特開2009-142509号公報
甲9 日本国語大辞典第二版第13巻、230頁、やま・なり【山形】
の項
甲10 日本国語大辞典第二版第13巻、1376頁、わん・きょく【湾
曲・彎曲】の項
甲11 日本国語大辞典第二版第4巻、172頁、きつ・いの項
甲12 特願2011-250916号の願書、明細書、特許請求の範囲及び図面
甲13 特開2013-103086号公報
甲14 特願2015-165494号の上申書(平成27年8月25日
提出)
甲15 大阪地裁平成28年(ワ)第6400号の訴状
甲16 本件発明の角度測定図
甲17 本件発明の角度測定図
甲18 甲1の角度測定図
甲19 甲2の角度測定図
甲20 甲3の角度測定図
甲21 甲4の角度測定図
甲22 甲5の角度測定図
甲23 甲6の1の角度測定図
甲24 甲7の1の角度測定図
甲25 意匠登録第1374522号公報
甲26 実願平1-82324号(実開平3-21333号)のマイクロ
フィルム
甲27 登録実用新案第3154738号公報
甲28 「広辞苑第4版」、683頁「曲率」の項
甲29 甲1の角度測定図
甲30の1 仏国特許出願公開第2891137号明細書
甲30の2 仏国特許出願公開第2891137号明細書のフロントページ
の英訳
甲30の3 仏国特許出願公開第2891137号明細書の翻訳文
甲31 登録実用新案第3141605号公報
甲32の1 米国特許出願公開第2006/0276732号明細書
甲32の2 米国特許出願公開第2006/0276732号明細書の抄訳
甲33の1 英国特許出願公告第968031号明細書
甲33の2 英国特許出願公告第968031号明細書の抄訳
甲34 「訂正後ボールを使用した美容器」、2017年9月6日
弁理士・高山嘉成作成

3 請求の理由の要点
請求の理由は、本件訂正が認められたこと及び請求人の主張の全趣旨を踏まえ、その要点は、以下のとおりである(第2回口頭審理調書の「請求人」欄2)。

(1)無効理由1(進歩性欠如)
ア 無効理由1-1
本件訂正発明は、甲1(主たる証拠)記載の発明、甲5、6の1、7の1及び8のいずれか(従たる証拠)記載の発明、及び甲5又は8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
イ 無効理由1-2
本件訂正発明は、甲2(主たる証拠)記載の発明、甲5、6の1、7の1及び8のいずれか(従たる証拠)記載の発明、及び甲5又は8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
ウ 無効理由1-3
本件訂正発明は、甲3(主たる証拠)記載の発明、及び甲5又は8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
エ 無効理由1-4
本件訂正発明は、甲4(主たる証拠)記載の発明、及び甲5又は8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
オ 無効理由1-5-1
本件訂正発明は、甲5(主たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
カ 無効理由1-5-2
本件訂正発明は、甲5(主たる証拠)記載の発明、及び甲8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
キ 無効理由1-6
本件訂正発明は、甲6の1(主たる証拠)記載の発明、及び甲5又は8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
ク 無効理由1-7
本件訂正発明は、甲7の1(主たる証拠)記載の発明、及び甲5又は8(従たる証拠)記載の発明から容易に発明することができたものである。
ケ 無効理由1-8-1
本件訂正発明は、甲1(主たる証拠)記載の発明、及び甲3又は31(従たる証拠)に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
コ 無効理由1-8-2
本件訂正発明は、甲1(主たる証拠)記載の発明、甲3又は31(従たる証拠)に記載の発明、及び甲2ないし5(従たる証拠)に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
サ 無効理由1-8-3
本件訂正発明は、甲1(主たる証拠)記載の発明、及び甲5、8、32の1又は33の1のいずれか記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
シ 無効理由1-8-4
本件訂正発明は、甲1(主たる証拠)記載の発明、甲5、8、32の1又は33の1のいずれか記載の発明、及び甲2ないし5(従たる証拠)に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
ス 無効理由1-9-1
本件訂正発明は、甲3(主たる証拠)記載の発明、及び甲1(従たる証拠)に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
セ 無効理由1-9-2
本件訂正発明は、甲3(主たる証拠)記載の発明、甲1(従たる証拠)に記載の発明、及び甲31(従たる証拠)に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
ソ 無効理由1-9-3
本件訂正発明は、甲3(主たる証拠)記載の発明、甲1に記載の発明(従たる証拠)、及び甲5、8、32の1又は33の1のいずれか記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(2)無効理由2(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)無効理由3(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明は、請求項1の「前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)無効理由4(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(5)無効理由5(分割要件違反に伴う新規性又は進歩性欠如)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載は、原出願の当初明細書等の記載事項等の範囲内でない。
よって、本件特許の出願は、分割要件を満たしておらず、本件訂正発明は、甲13(主たる証拠)記載の発明と実質的に同一であるか、容易に発明することができたものである。

なお、無効理由1-1ないし5のうち、無効理由1-1ないし1-7、及び無効理由2ないし5は、審判請求時に主張されたものであり(審決の予告3?4ページ参照)、無効理由1-8-1ないし1-9-3は、本件訂正に伴う請求の理由の補正により、追加されたものである(平成29年7月20日付け審判事件弁駁書18?19ページ及び同年7月21日付け審判事件弁駁書(2)2ページ参照)。

ここで、上記追加された無効理由のうち、無効理由1-8-3は、実質的に、審決の予告で当審の判断を示した無効理由1-1に、バルーン形状のボール(構成E)を開示する証拠として、甲5、8、32の1及び33の1を追加するものである(下記4(1-8)参照)。そして、当該証拠は、バルーン形状のボールが周知技術であることを示すものであり、当該証拠の追加による補正は、「周知事実の追加的な主張立証」(審判便覧51-16.4(1))に該当する。したがって、無効理由1-8-3は、請求の理由の要旨を変更するものではない。

一方、上記追加された無効理由のうち、無効理由1-8-1及び1-8-2は、無効理由1-1との関係において、非貫通状態で支持されたバルーン形状のボール(構成D及びE)を示す証拠を甲3又は31に変更ないし追加するものであり、以下同様に、無効理由1-8-2及び1-8-4は、屈曲形状のハンドルを示す証拠として甲2ないし5を新たに追加するものであり、無効理由1-9-1ないし1-9-3は、全体が山なり湾曲形状のハンドル(構成B)を示す証拠を新たに追加するものであり、いずれも、「直接証拠の差し替えや追加」(審判便覧51-16.3(3))に該当し、いずれも、請求の理由の要旨を変更するものである。
そして、要旨変更に該当する当該無効理由に係る補正は、事案に鑑み、平成30年1月16日付け決定をもって、却下された。

4 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
なお、審判請求時に主張された無効理由については、主として、本件発明に基づく主張である点を付記する(審決の予告5?28ページ参照)。

(1-1)無効理由1-1
(1-1-1)本件発明の文言解釈について
構成Bの「山なり」及び「湾曲」との表現、並びに、構成Cの「湾曲」が「きつい」との表現は、明細書(段落【0007】及び【0008】)を参酌しても、技術的な意義において不明確な表現である(無効理由が存在する)。
したがって、これらの表現の意義については、明細書の記載だけではなく、出願経過や被請求人が請求人に対して示した意図等を参酌して、解釈するほかない。

ア 文言解釈(出願経過の参酌)
出願経過(甲14)を参酌すると、構成B及びCは、本件図3に記載されている内容を表現したものであるといえる。

また、一般的技術用語として、「山なり」、「湾曲」及び「湾曲がきつい」という意義を検討すると、それぞれ、「山なり」は、「山のような形になること」(甲9)、「湾曲」は、「弓なりにまがること」又は「円弧を描くようにまがること」(甲10)を意味するものであり、「湾曲がきつい」は、そもそも日本語又は技術用語として不適切であるが、「きつい」につき「傾斜のきつい山の斜面に」という用例があるから(甲11)、「傾斜がきつい」と表現することは、あり得るといえる。
ここで、「山なり」について、「山」は、表面が隆起して「他より高くなった部分」を有するものであるから、「他より高くなった部分」を観念するためには、基準線を決めなければならないところ、本件図3より、基準線として、肌20が用いられていることが分かる。

そして、本件図3の記載内容、及び、甲9ないし11に示されている日本語としての客観的な意味解釈を考慮すれば、本件発明の構成Cは、以下のように解釈することができる。

「ハンドル11の湾曲形状について、ハンドル11の基端側の傾斜xの傾斜角と、ハンドル11の先端側の傾斜yの傾斜角とを比較した場合、傾斜yの傾斜角は、傾斜xの傾斜角よりも大きい」

そして、実際、本件図3での各傾斜角を測定したところ、傾斜yの傾斜角は、傾斜xの傾斜角よりも大きくなっていることが分かる(甲16)。

さらに、構成Cを上記のとおり解釈することで、構成Bの技術的意義も、以下のとおり解釈することが可能となる。

「ハンドル11は、基準線、ハンドル11の基端側の傾斜x、及びハンドル11の先端側の傾斜yとからなる三角形に沿って湾曲するように、山なりの湾曲形状をなし」

イ 文言解釈(被請求人が請求人に示した解釈)
被請求人が請求人に対して提起した特許権侵害の訴え(大阪地裁平成28年(ワ)第6400号)の訴状(甲15)においては、被告製品について、以下の被告製品説明図(以下では、被告製品1のものを示す。)を用いて、構成B及びCの充足性を説明している。なお、被告製品を水平な台に置くと、先端の回転体とハンドルの基端が当該台に当接して、自立することとなる。

このように、被請求人は、請求人に対しては、特許権侵害訴訟の場面において、肌20ではなく、美容器を水平な台に置いたときの水平な台を基準線としている。すなわち、被請求人は、本件図3に示された湾曲形状の傾斜角の解釈とは、異なる解釈を用いて主張している。

そこで、本件図3を回転移動させて、美容器を水平な台に載置したと想定して、傾斜x及びyの傾斜角を測定したところ、傾斜yの傾斜角は、傾斜xの傾斜角よりも大きくなっていることが分かる(甲17)。

よって、構成B及び構成Cの技術的意義について、出願経過の参酌による解釈(上記ア)は、訴訟上の解釈を用いたとしても成立することとなる。すなわち、構成B及びCについては、肌20を基準線として解釈する方法と、水平な台に美容器を載置した時の当該台を基準線として解釈する方法の二通りが存在することとなる。

ウ 基準線について
平成29年1月24日付け審理事項通知書において、審判合議体により示された構成B及びCの解釈の一案における「水平基準線」(上記イの解釈による基準線)について、「水平基準線」との理解が、ボールをハンドルに支持した状態で、美容器を水平台に載置した時の側面視における水平台を水平基準線とするという意味であれば、審判合議体の提案に同意する。
すなわち、ハンドル11に一対のボールが取り付けられた状態で、ハンドル11を水平としたときの水平基準線が用いられるべきである。

エ 小括
以上を踏まえると、構成B及びCについては、技術的意義が明確ではないが、出願経過及び被請求人が請求人に示した解釈等を総合的に判断すると、以下の意図であると解釈できる。

(ア)構成B
「ハンドルは、水平基準線、ハンドル11の基端側の傾斜x、及びハンドル11の先端側の傾斜yとからなる三角形に沿って湾曲するように、山なりの湾曲形状をなし」

(イ)構成C
「ハンドル11の湾曲形状について、水平基準線を基準として、ハンドル11の基端側の傾斜xの傾斜角と、ハンドル11の先端側の傾斜yの傾斜角とを比較した場合、傾斜yの傾斜角は、傾斜xの傾斜角よりも大きい」

なお、ここで、「傾斜x」及び「傾斜y」の定義は、以下のとおりとすべきである。

(a)傾斜xについて
「ハンドルの基端側の湾曲の度合いを近似するという目的で当業者が自らの技術的常識に基づいて選んだハンドルの基端側の2点を結んで得られる直線である。」

(b)傾斜yについて
「支持軸の軸線であるか、若しくは、傾斜xと同様に先端側の湾曲形状の一次近似である。」

(1-1-2)甲1発明の認定について
水平基準線を用いた甲1の角度測定図(甲29)において、傾斜yは、図1の平面図におけるローラ支持軸17及び永久磁石22の配置関係に基づいて把握される、ローラ支持軸17の軸線である。
また、傾斜xは、上記(1-1-1)エ(a)の定義に照らして、ハンドル11の湾曲形状を表現している分断線について、ハンドル11の基端側の湾曲度合いを近似するために、一次近似の手法を用いて、分断線の最右点と分断線の最高点とを結んだ直線である。
甲29に示すように、傾斜yの傾斜角度が16度であり、傾斜xの傾斜角度は15度である。

以上を踏まえると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「a1.ハンドル(12)の先端に形成された二又部(12a)に一対の円筒状のローラ(18,18)を、相互間隔をおいてそれぞれローラ支持軸(17,17)の軸線を中心に回転可能に支持した美容器(11)において、
b1.ハンドル(12)は、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
c1.ハンドル(12)の湾曲の傾斜角は、ハンドル(12)の基端側よりも先端側が大きく、
d1. ローラ(18,18)は、貫通状態で支持軸(17,17)に回転可能に支持されている美容器(11)。」

(1-1-3)本件発明と甲1発明との対比について
本件発明と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A’ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D’前記回転体は、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点1)本件発明では、回転体として、一対のボールを用いているのに対して、甲1発明では、一対の円筒状のローラ(18,18)を用いている点。

(相違点2)本件発明では、ボールは、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲1発明では、ローラ(18,18)は、貫通状態で支持軸(17,17)に回転可能に支持されている点。

相違点1について、甲5では、円柱体3の代わりに、回転体として、球体又は回転楕円体のボールを用いてもよいことが開示されている。
また、甲6の1には、ハンドル25の先端部に回転可能に支持された一対のボール15が、甲7の1には、ハンドル10の先端部に回転可能に支持された一対のボール16、19が、甲8には、柄10の先端部に回転可能に支持された一対のボール状のローラ20が開示されている。
よって、甲1発明の一対の円筒状のローラ18を、甲5、甲6の1、甲7の1、又は甲8の記載に基づいて、一対のボールに置き換えることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。

そして、相違点2について、甲5又は8に一対のボールを非貫通で支持軸に支持することが開示されているから、甲1発明に対して、甲5、甲6の1、甲7の1、又は甲8の記載に基づいて、一対の円筒状のローラ18を、一対のボールに置き換えた場合、置き換えた一対のボールを非貫通に支持させることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。

なお、被請求人が主張する相違点1-3は、存在しない。
もし仮に、相違点1-3が存在したとしても、甲2ないし甲7発明に示されているように、先端側の傾斜角を基端側の傾斜角よりも大きくすることは、出願時の技術水準において、単なる設計事項にすぎなかったため、甲1発明においても、先端側の傾斜角を基端側の傾斜角よりも大きくすることは、容易である。または、相違点1-3が存在したとしても、甲5、甲6の1、及び甲7の1のいずれか記載の発明、並びに、甲5又は甲8記載の発明から容易に発明することができたものであるといえる。

(1-2)無効理由1-2
(1-2-1)甲2発明の認定について
水平基準線を用いた甲2の角度測定図(甲19)によれば、先端側の傾斜角が23.5°であり、基端側の傾斜角が9.9°である。そして、杆体(1)は、山なりの湾曲形状であることも分かる。

したがって、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「a2.杆体(1)の先端部に一対の円筒状のローラ(2,3)を、相互間隔をおいてそれぞれ分岐軸部(6,7)の軸線を中心に回転可能に支持した美顔用ローラマッサージ器具において、
b2. 杆体(1)は、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
c2. 杆体(1)の湾曲の傾斜角は、ハンドルの基端側よりも先端側が大きく、
d2. ローラ(2,3)は、貫通状態で分岐軸部(6,7)に回転可能に支持されている美顔用ローラマッサージ器具。」

(1-2-2)本件発明と甲2発明との対比について
本件発明と甲2発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A’ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D’前記回転体は、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点1)本件発明では、回転体として、一対のボールを用いているのに対して、甲2発明では、一対の円筒状のローラ(2,3)を用いている点。

(相違点2)本件発明では、ボールは、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲2発明では、ローラ(2,3)は、貫通状態で支持分岐軸部(6,7)に回転可能に支持されている点。

相違点1について、甲5では、円柱体3,3の代わりに、回転体として、球体又は回転楕円体のボールを用いてもよいことが開示されている。また、甲6の1には、ハンドル25の先端部に回転可能に支持された一対のボール15が、甲7の1には、ハンドル10の先端部に回転可能に支持された一対のボール16又は19が、甲8には、柄10の先端部に回転可能に支持された一対のボール状のローラ20が、それぞれ開示されている。
よって、甲2発明の一対の円筒状のローラ(2,3)を、甲5、甲6の1、甲7の1、又は甲8の記載に基づいて、一対のボールに置き換えることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。

相違点2について、甲5又は8に一対のボールを非貫通で支持軸に支持することが開示されているから、甲2発明に対して、甲5、甲6の1、甲7の1、又は甲8の記載に基づいて、一対の円筒状のローラ(2,3)を、一対のボールに置き換えた場合、置き換えた一対のボールを非貫通に支持させることは、当業者にとって、何ら困難なものではなく、容易に推考し得るものである。

なお、被請求人の主張する相違点2-3は存在しない。
もし仮に、相違点2-3が存在したとしても、甲2発明のハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、単なる設計事項にすぎない。実際、甲1発明においても、ハンドルの形状は、設計事項として、山なりの湾曲形状としている。
そして、ハンドルの輪郭形状を、水平基準線、先端側の傾斜、及び基端側の傾斜によって、特定することは可能であり、このような輪郭形状での特定は、ハンドルが山なりに湾曲しているか否かに関わらず可能である。
したがって、甲2発明のハンドルの輪郭形状を維持した状態で、ハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、当業者にとって、何ら困難ではない。

(1-3)無効理由1-3
(1-3-1)甲3発明の認定について
水平基準線を用いた甲3の角度測定図(甲20)によれば、先端側の傾斜角が40.9°であり、基端側の傾斜角が9.4°である。そして、把持部(3)は、山なりの湾曲形状であることも分かる。
したがって、甲3には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

「a3.把持部(3)の先端部に一対の円柱状のローラ部(5,5)を、相互間隔をおいてそれぞれローラ保持部(4,4)の軸線を中心に回転可能に支持したマグネット美容ローラ(1)において、
b3.把持部(3)は、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
c3. 把持部(3)の湾曲の傾斜角は、把持部(3)の基端側よりも先端側が大きく、
d3. ローラ部(5,5)は、非貫通状態でローラ保持部(4,4)に回転可能に支持されているマグネット美容ローラ(1)。」

(1-3-2)本件発明と甲3発明との対比について
本件発明と甲3発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A’ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D”前記回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点)本件発明では、回転体として、一対のボールを用いているのに対して、甲3発明では、一対の円柱状のローラ部(5,5)を用いている点。

しかし、甲5では、円柱体3,3の代わりに、回転体として、球体又は回転楕円体を用いてもよいことが開示されており、甲5では、回転体は、支持軸に対して非貫通状態で支持されていることを考慮すると、甲3発明の一対の円柱状のローラ部(5,5)を、甲5の記載に基づいて、非貫通状態で支持されている一対のボールに置き換えることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。

また、甲8には、柄(10)の先端部に回転可能に非貫通状態で支持された一対のボール状のローラ(20,20)が開示されている。よって、甲3発明の一対の円柱状のローラ部(5,5)を、甲8の記載に基づいて、非貫通状態で支持されている一対のボールに置き換えることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
よって、甲3発明の一対の円柱状のローラ部(5,5)に対して、甲5又は8の記載に基づいて、非貫通のボールに置き換えて、本件発明を発明することは、当業者にとって容易である。

なお、被請求人の主張する相違点2-3は存在しない。
もし仮に、相違点2-3が存在したとしても、甲3発明のハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、単なる設計事項にすぎない。実際、甲1発明においても、ハンドルの形状は、設計事項として、山なりの湾曲形状としている。
そして、ハンドルの輪郭形状を、水平基準線、先端側の傾斜、及び基端側の傾斜によって、特定することは可能であり、このような輪郭形状での特定は、ハンドルが山なりに湾曲しているか否かに関わらず可能である。
したがって、甲3発明のハンドルの輪郭形状を維持した状態で、ハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、当業者にとって、何ら困難ではない。

(1-4)無効理由1-4
(1-4-1)甲4発明の認定について
水平基準線を用いた甲4の1の角度測定図(甲21)によれば、先端側の傾斜角が12.0°であり、基端側の傾斜角が9.1°である。そして、ハンドルは、山なりの湾曲形状であることも分かる。
したがって、甲4の1には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。

「a4.ハンドルの先端部に一対の円形体ボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
b4.ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
c4.ハンドルの湾曲の傾斜角は、ハンドルの基端側よりも先端側が大きく、
d4.円形体は、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているマッサージ器。」

(1-4-2)本件発明と甲4発明との対比について
本件発明と甲4発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A.ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D”前記ボールは、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点)本件発明では、一対のボールを非貫通状態で支持軸に回転可能に支持しているのに対して、甲4発明では、一対の円形体を貫通状態で支持軸に回転可能に支持している点。

しかし、甲5では、非貫通状態で円柱体3,3が回転可能に支持されており、さらに、円柱体3,3の代わりに、球体又は回転楕円体を用いてもよいことが開示されていることを考慮すると、甲4発明の一対の円形体を、甲5の記載に基づいて、非貫通で支持されるようにすることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
また、甲8には、柄(10)の先端部に回転可能に非貫通状態で支持された一対のボール状のローラ(20,20)が開示されている。よって、甲4発明の一対の円形体を、甲8の記載に基づいて、非貫通状態で支持されるようにすることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
よって、甲4発明における一対の円形体を、甲5又は8の記載に基づいて、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持するように構成し、本件発明を発明することは、当業者にとって容易である。

なお、被請求人の主張する相違点2-3は存在しない。
もし仮に、相違点2-3が存在したとしても、甲4発明のハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、単なる設計事項にすぎない。実際、甲1発明においても、ハンドルの形状は、設計事項として、山なりの湾曲形状としている。
そして、ハンドルの輪郭形状を、水平基準線、先端側の傾斜、及び基端側の傾斜によって、特定することは可能であり、このような輪郭形状での特定は、ハンドルが山なりに湾曲しているか否かに関わらず可能である。
したがって、甲4発明のハンドルの輪郭形状を維持した状態で、ハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、当業者にとって、何ら困難ではない。

(1-4-3)被請求人の主張する相違点2-1(甲4発明の円形体の支持態様)について
甲4発明の円形体が「回転可能」であることは、以下の理由から認定することができる。すなわち、認定の前提として、Y字状又はV字状の一対のローラ又はボールによる回転体を備える美容器を移動させれば、肌を摘み上げる作用が生じることは、本件特許の出願時において、当業者にとって周知である(甲6の1、甲7の1、甲8、甲25ないし27、甲30の1)。そして、甲4の1の記載から、(i)「ボール支持軸」の形状は、凹み部分を有しており、このような「ボール支持軸」を円形体の内部に配置するために、二つに分かれた円形体で「ボール支持軸」を挟み込むか、「ボール支持軸」に「抜け止め部」を設けること、(ii)樹脂成形時の成形収縮による公差を考慮すると、円形体と「ボール支持軸」との「はめあい」は「すきまばめ」であること、(iii)「人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐす」機能は、上記周知技術と同様に、一対の円形体が肌を上方向に引っ張り上げることで実現していること、を導くことができるためである。

仮に、甲4発明の円形体が回転しないものであったとしても、当業者にとって、上記周知技術に基づいて、甲4発明の円形体を回転可能に支持させることは、容易である。

(1-5)無効理由1-5-1及び1-5-2
(1-5-1)甲5発明の認定について
水平基準線を用いた甲5の角度測定図(甲22)によれば、先端側の傾斜角が24°であり、基端側の傾斜角が16°である。そして、把持部(4)は、山なりの湾曲形状であることも分かる。
したがって、甲5には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。

「a5.把持部(4)の先端部に一対の円柱体(3,3)を、相互間隔をおいてそれぞれ回転軸(8b)の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ具(1)において、
b5.把持部(4)は、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
c5.把持部(4)の湾曲の傾斜角は、把持部(4)の基端側よりも先端側が大きく、
d5.円柱体(3,3)は、非貫通状態で回転軸(8b)に回転可能に支持されているマッサージ具(1)。」

(1-5-2)本件発明と甲5発明との対比について
本件発明と甲5発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A’ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D”前記回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点)本件発明では、回転体として、一対のボールを用いているのに対して、甲5発明では、一対の円柱状のローラ部(3,3)を用いている点。

しかし、甲5の段落【0006】には、円柱体(3,3)として、球体又は回転楕円体を用いてもよいことが記載されており、球体又は回転楕円体は、本件発明でいうところのボールに相当する。
よって、甲5発明の円柱体(3,3)を、甲5の段落【0006】の記載に基づいて、非貫通状態のボールに置き換えて、本件発明を発明することは、当業者にとって容易である。
また、甲8には、柄(10)の先端部に回転可能に非貫通状態で支持された一対のボール状のローラ(20,20)が開示されている。よって、甲5発明の一対の円柱体(3,3)を、甲8の記載に基づいて、非貫通状態のボールに置き換えて、本件発明を発明することは、当業者にとって容易である。

(1-6)無効理由1-6
(1-6-1)甲6発明の認定について
水平基準線を用いた甲6の1の角度測定図(甲23)によれば、先端側の傾斜角が78°であり、基端側の傾斜角が31°である。そして、ハンドル(handle 25)は、山なりの屈曲形状をなしているといえる。
したがって、甲6の1には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。

「a6.ハンドル(handle 25)の先端部に一対のボール(rollers 15)を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸(spindles 11)の軸線を中心に回転可能に支持したボディマッサージ器において、
b6.ハンドル(handle 25)は、側面視において山なりの屈曲形状をなし、
c6.ハンドル(handle 25)の屈曲の傾斜角は、ハンドル(handle 25)の基端側よりも先端側が大きく、
d6.ボール(rollers 15)は、貫通状態で支持軸(spindles 11)に回転可能に支持されているボディマッサージ器。」

(1-6-2)本件発明と甲6発明との対比について
本件発明と甲6発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A.ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B’.前記ハンドルは、側面視において山なりの形状をなし、
C’.前記ハンドルの山なりの形状の傾斜は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D”前記ボールは、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点1)甲6発明では、ハンドルは、山なりに屈曲しているものの、湾曲とまではいえない点。

(相違点2)本件発明では、一対のボールを非貫通状態で支持軸に回転可能に支持しているのに対して、甲6発明では、一対のボールを貫通状態で支持軸に回転可能に支持している点。

相違点1について、ハンドルを湾曲させることは、甲1ないし5に記載のとおり周知事項であるから、屈曲形状のハンドルを湾曲形状のハンドルに変更することは、当業者にとって、何ら困難なものではない。そして、山なりの湾曲形状に変更したとしても、「湾曲がきつい」の意義解釈から考えて、傾斜角は湾曲であろうが屈曲であろうが同一に考えることができるので、構成Cについては、自ずと、本件発明の構成に至る。
また、甲6発明のハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、単なる設計事項にすぎない。

相違点2について、甲5では、非貫通状態で円柱体3,3が回転可能に支持されており、さらに、円柱体3,3の代わりに、球体又は回転楕円体を用いてもよいことが開示されていることを考慮すると、甲6発明の一対のボールを、甲5の記載に基づいて、非貫通で支持されるようにすることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
また、甲8には、柄(10)の先端部に回転可能に非貫通状態で支持された一対のボール状のローラ(20,20)が開示されている。よって、甲6発明の一対のボールを、甲8の記載に基づいて、非貫通状態で支持されるようにすることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
よって、甲6発明におけるハンドルを山なりの湾曲形状にし、一対のボールを、甲5又は8の記載に基づいて、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持するように構成し、本件発明を発明することは、当業者にとって容易である。

(1-7)無効理由1-7
(1-7-1)甲7発明の認定について
水平基準線を用いた甲7の1の角度測定図(甲24)によれば、先端側の傾斜角が75°であり、基端側の傾斜角が14°である。そして、ハンドル(handle 10)は、山なりの屈曲形状をなしているといえる。
したがって、甲7の1には、以下の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。

「a7.ハンドル(handle 10)の先端部に一対のボール(spherical elements 16,16 又は 19,19)を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸(axles 14,14 又は17,17)の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
b7.ハンドル(handle 10)は、側面視において山なりの屈曲形状をなし、
c7.ハンドル(handle 10)の屈曲の傾斜角は、ハンドル(handle 10)の基端側よりも先端側がきつく、
d7.ボール(spherical elements 16,16 又は 19,19)は、貫通状態で支持軸(axles 14 又は 17)に回転可能に支持されているマッサージ器。」

(1-7-2)本件発明と甲7発明との対比について
本件発明と甲7発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。

「A.ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
B’前記ハンドルは、側面視において山なりの形状をなし、
C’前記ハンドルの山なりの形状の傾斜は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
D”前記ボールは、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

そして、以下の点で相違する。

(相違点1)甲7発明では、ハンドルは、山なりに屈曲しているものの、湾曲とまではいえない点。

(相違点2)本件発明では、一対のボールを非貫通状態で支持軸に回転可能に支持しているのに対して、甲7発明では、一対のボールを貫通状態で支持軸に回転可能に支持している点。

相違点1について、ハンドルを湾曲させることは、甲1ないし5に記載のとおり周知事項であるから、屈曲形状のハンドルを湾曲形状のハンドルに変更することは、当業者にとって、何ら困難なものではない。そして、山なりの湾曲形状に変更したとしても、「湾曲がきつい」の意義解釈から考えて、傾斜角は湾曲であろうが屈曲であろうが同一に考えることができるので、構成Cについては、自ずと、本件発明の構成に至る。
また、甲7発明のハンドル形状を山なりの湾曲形状とすることは、単なる設計事項にすぎない。

相違点2について、甲5では、非貫通状態で円柱体3,3が回転可能に支持されており、さらに、円柱体3,3の代わりに、球体又は回転楕円体を用いてもよいことが開示されていることを考慮すると、甲7発明の一対のボールを、甲5の記載に基づいて、非貫通で支持されるようにすることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
また、甲8には、柄(10)の先端部に回転可能に非貫通状態で支持された一対のボール状のローラ(20,20)が開示されている。よって、甲7発明の一対のボールを、甲8の記載に基づいて、非貫通状態で支持されるようにすることは、当業者にとって、容易に推考し得るものである。
よって、甲7発明におけるハンドルを山なりの湾曲形状にし、一対のボールを、甲5又は8の記載に基づいて、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持するように構成し、本件発明を発明することは、当業者にとって容易である。

(1-8)無効理由1-8-1ないし1-8-4について
(1-8-1)共通の主張について
ア 本件訂正発明について
(ア)本件訂正発明の構成
構成Bについては、ハンドルの形状について、全体が山なりの湾曲形状をなすとの限定が加えられた点で、本件訂正前と異なる。
構成C-1ないしC-5は、審決の予告53?55ページ「第7 1 本件発明の文言解釈等について」に記載されているとおり、今までの審判の審理の中で構成B及びCを解釈するに際して使用された解釈手法を請求項に記載したものにすぎず、実質的には、本件訂正前の構成Cを明確にしたにすぎない。
構成Eについては、ボールの形状を、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成しているとされており、ボールの形状が限定されている。
以上の点を踏まえて整理すると、既に主張している無効理由との関係において特に問題となるのは、構成Bにおけるハンドルの形状の限定に伴う容易想到性と、構成Eにおけるボールの形状の限定に伴う容易想到性ということとなる。

(イ)本件訂正発明の構成Bの解釈
構成Bでは、審決の予告44ページで指摘されている「部分湾曲形状」は除外されているといえる。

(ウ)本件訂正発明の構成Eの解釈
a 主位的主張
訂正後のボールについては、「曲率の大きな部分で肌を摘み上げ、曲率の小さな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる」(本件訂正後の段落【0050】)との作用効果を有するとされているところ、構成Eの文言からだけでは、どのような物理的根拠により、上記作用効果が生じるのか、直ちに理解することはできず、また、訂正後の特許請求の範囲では、作用的記載によって、ボールの形状が特定されていない。
ゆえに、構成Eについては、主位的には、その文言どおりに解釈し、同一の作用効果を有さないボールであっても、構成Eのボールに該当すると解釈すべきである。

b 予備的主張
構成Eのボールにつき、本件訂正後の段落【0050】に記載の作用効果を有するものに限定されるとの解釈がなされた場合に備えて予備的に主張するに、願書に添付された図8と図4とを比較する限り、肌の摘み上げ状態の保持について格別に効果が相違するとはいえない。
また、本件訂正発明では、2つのボールの支持軸の開き角度や2つのボールの間隔の大きさは、限定されておらず、また、あらゆる角度や間隔を有する2つのボールにおいても、同様の作用効果が生じるか否かについて、何ら、本件特許明細書では言及されていない。
すると、構成Eのボールについて、作用効果までを参酌して、その範囲を考慮したとしても、肌を摘み上げる作用が生じるという程度の作用効果しか、生じていないと考えられる。

イ 本件訂正発明と甲1発明との対比について
本件訂正発明と甲1発明とは、審決の予告67?68ページの記載に基づいて判断すると、以下の点で一致し、相違する。

<一致点>
「ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
前記回転体は、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

<相違点1>
本件訂正発明では、回転体として、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成された一対のボールを用いているのに対して、甲1発明では、一対の円筒状のローラを用いている点。

<相違点2>
本件訂正発明では、ボールは、非貫通状態で支持軸に支持されているのに対して、甲1発明では、ローラは、貫通状態で支持軸に支持されている点。

<相違点3>
本件訂正発明では、ハンドルの湾曲は、基端側が先端側よりもきついのに対して、甲1発明では、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきついか否か不明な点。

(1-8-2)特に、無効理由1-8-3について
ア 相違点1について
甲5、8、32の1、及び33の1には、外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成されているマッサージ用の回転体が開示されている。ここで、甲5のマッサージ部2(回転楕円体)、甲8のローラ20(断面楕円形)、甲32の1のマッサージローラ40(断面長円形)、及び甲33の1のマッサージ用の要素52(洋ナシ形状)は、いずれも、本件特許明細書の段落【0052】の記載からするとボールとなる。
そして、甲5、8、32の1、及び33の1に記載の器具は、いずれも、皮膚をマッサージする器具であり、マッサージの機能の点において共通ないし類似していることから、甲5、8、32の1、及び33の1に記載のボールを、甲1発明に適用することには、十分な動機付けがあり、特段の阻害要因も存在しない。
よって、甲1発明のローラを、甲5、8、32の1、及び33の1に記載のボールに置き換えることは、当業者にとって容易であり、当該置き換えにより、相違点1は、解消することとなる。

イ 相違点2について
甲5、8、32の1、及び33の1に記載の回転体は、非貫通状態で支持軸に支持されているから、甲1発明のローラを、甲5、8、32の1、及び33の1に記載のボールに置き換えることで、相違点2については、解消することとなる。

ウ 相違点3について
相違点3は、構成C(具体的には、構成C-1ないしC-5)に関するものであるところ、構成B及びCの技術的意味については、ローラの回転軸の支持軸とハンドルの中心線が一平面上にあるハンドル形状における操作性の悪さの問題を解消すること、と理解され、この場合、構成B及びCは、ローラの回転軸の軸線がハンドルの中心線に対して一定の角度をもって傾斜(前傾)する状態を実現するための、ハンドル形状を特定する程度のものにすぎない。
一方、甲1発明においても、そのハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなしているものであり、甲1の図2の図示内容にも照らせば、ハンドルの先端側の傾斜を近似するローラ支持軸の軸線は、ハンドルの基端側の傾斜を近似するハンドルの中心線に対して、一定の角度をもって傾斜(前傾)する状態が実現できていることは明らかである。
そして、甲2ないし甲5のように、側面視におけるハンドル形状を屈曲形状にして、美容器の操作性を向上させることは、出願時の技術水準にあたり、ハンドル形状を屈曲形状にするに当たって、ハンドルの基端側の傾斜角よりも先端側の傾斜角を大きくすることは、単なる設計事項にすぎない。
よって、甲1発明のハンドル形状について、上記設計事項を適用して、ハンドルの基端側の傾斜角よりも先端側の傾斜角を大きくし、構成B及び構成C並びに構成C-1ないしC-5の構成とすることは、当業者にとって容易である。

エ 小括
甲2ないし甲5を周知技術として使用すると、上記したとおり、無効理由1-8-3が存在することとなる。

(2)無効理由2
(2-1)全般
請求項の制度趣旨及び条文の解釈から、以下のような場合が、明確性要件違反の類型の一つであるとされている。すなわち、請求項の記載自体が不明確である結果、発明が不明確となる場合であって、たとえば、「a.請求項に日本語として不適切な表現がある結果、発明が不明確となる場合」や、「b.明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に記載された用語の意味内容を当業者が理解できない結果、発明が不明確となる場合」があるとされている。
以上を踏まえると、本件発明の構成Bの「山なりの湾曲形状」とは、技術的な意義において、如何なる形状のことを指すのか明確ではない。「山なり」や「湾曲」という表現が如何なる形状のことを指すのか、具体的な物が請求項に係る発明の範囲に属するのか否かを判断できるほど、明確な用語として、これらの用語が用いられているとは到底言えない。
また、構成Cの「湾曲がきつい」とは、技術的な意義において、如何なる意味を有するのか明確ではない。「湾曲がきつい」という意義を技術的に理解することは不可能である。請求項1では、「基端側よりも先端側がきつい」と比較表現することで、「きつい」という抽象的な用語を理解させようと試みているが、そもそも、「湾曲がきつい」とは、基端側や先端側の傾斜角の大小をいっているのか、それも、基端側や先端側の曲率の大小をいっているのか、技術的に、一義に理解解釈できるような表現とはなっていない。
このような請求項1の表現では、第三者の具体的な物が特許発明の技術的範囲に属するか否か、明確に判断することができない。このような不明確な表現を用いた状態で、特許権が付与されることなどあってはならない。

(2-2)構成Cの「湾曲がきつい」の解釈について
ア 前提的理解
被請求人は、構成Cの「湾曲がきつい」は、「湾曲の度合いが大きい」と解釈することができると主張する。請求人としても、その主張の意図するところは、直感的かつ感覚的には把握できる。
しかしながら、発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作であるから、直感的かつ感覚的に程度や度合いが把握ができたとしても、本件発明の技術的範囲を画することはできない。
「度合い」とされるものが、いかなる定義によって数値化され、大小が比較されるのかを明確にしない限り、ハンドルの「湾曲の度合い」が基端側よりも先端側が大きいと表現したとしても、単に、日本語として、直感的かつ感覚的に意味が通じるだけである。

イ 曲率を用いた湾曲の評価について
「曲率」とは、曲線又は曲面上の各点におけるその曲線又は曲面の曲がりの程度を示す値であり(甲28)、曲率を用いて、曲がりの程度を検討することは、技術常識である。
また、「曲率」は、曲率半径の逆数で示され、「曲率半径」とは、「曲率円」の半径であり、「曲率円」とは、曲線上の一点Pと動点Q1、Q2を通る円がQ1、Q2を限りなくPに近づけるとき、一定の円に近づくならば、その円をPにおける「曲率円」というとされる(甲28)。
したがって、本件発明のハンドルのような自由曲線を考えた場合、側面視におけるハンドルの自由曲線に対して、当該自由曲線上の任意の点Pにおける曲率を求めることは、理論上は可能である。

ただし、ハンドルの「湾曲の度合い」を示す場合には、任意の点における曲率を求めただけでは、度合いは決まらない。一定の範囲(領域)における曲率の平均値や重み付け平均値などを利用して、曲率の変化の度合いを求めることで、先端部分が曲率の大きい領域であるのか、基端部分が曲率の小さい領域であるのかを理解することが必要となる。そして、自由曲線のように、点毎に曲率が変化する場合に、曲率の変化をどのようにして定義付けるかは、困難を要し、当業者といえども、直ちに導き出すことはできない。

以上のとおり、当業者であれば、「湾曲の度合い」が本件発明において明確ではないことが理解できる。

この点、具体例で検討すると以下のとおりである。
すなわち、自由曲線が円弧の一部であることが容易に理解できる場合(例えば、例1及び例2参照)は、曲率を計算し、平均値や重み付け平均値を計算することで、「湾曲の度合い」を数値化することは可能である。

しかしながら、実際の複雑な形状の場合、自由曲線が、ある一つの円弧の一部であるのか、それとも、複数の円弧の一部であるのかは、直ちに理解することはできない。このため、自由曲線上のあらゆる点上において、円弧の一部であるのか否かを検討・考察を行い(下記図参照)、微少区間において、円弧の一部である部分の曲率を求めて、自由曲線全体での任意の点での曲線を求める必要がある。したがって、複雑な自由曲線の場合に、曲率そのものを求めること自体が、極めて困難である。

さらに、曲率を求めること自体が困難であることに加えて、湾曲の程度の評価の手法を定義付けない限りは、仮に、任意の点での曲率が求まったとしても、基端側と先端側の湾曲の度合いを比較することはできない。

ウ 傾斜を用いた湾曲の評価について
本件発明を理解するために、本件特許明細書及び図面の記載を参酌すると、本件図3及び段落【0018】では、「湾曲の度合い」を近似的に表現するために、ハンドルの基端側の傾斜xと、ハンドルの先端側の傾斜yという概念を導入している。そして、本件発明では、傾斜xと傾斜yとの大小を比較する必要があるから、数値化しなければならないところ、傾斜xと傾斜yの角度を用いることで、当該角度を「湾曲の度合い」を評価するために近似値として使用していると考えることができる。

また、傾斜xと傾斜yの角度を求めるに際しての基準線については、本件図3及び段落【0018】には記載がないため、請求人が理解するところの水平基準線(上記(1-1-1)ウ参照)とする。

以上を踏まえて、上記(1-1-1)エのとおりに、構成B及び構成Cを理解すること自体には同意するものの、本件発明の不明確性及びそれに起因する一連の無効理由が存在していないわけではない。具体的には、傾斜xが不明確である。

すなわち、傾斜xは、段落【0018】では、「ハンドル11の中心線x」と表現されており、「具体的には、前記ハンドル11の中心線(ハンドル11の最も厚い部分の外周接線zの間の角度を二分する線と平行な線)x」と定義付けされている。
ここで、「ハンドル11の最も厚い部分」(以下、単に「最も厚い部分」ということがある。)が問題となる。最も厚い部分を評価するためには、基準線が必要となり、基準線に垂直に形状を輪切りにして、基準線からどの程度形状が離れているかで、形状の厚みを測定・比較して評価する。言い換えるならば、基準線をどこにするかで、最も厚い部分は変わる。

以上のような、当業者の技術的理解を前提として、本件図3を考察するに、本件図3のハンドル11の基端側の厚みを決めるに際して、基準線は決められていない。どこを基準として、ハンドル11の基端側の厚みを求めることができるのか、極めて不明確である。
この点、さらに検討するに、本件図3で最も厚い部分とされる箇所については、中心線xを基準として、垂直に線を引いて、ハンドル11を輪切りにしていき、輪切りにして最も厚かったところが、ハンドル11の最も厚い部分となっている。

このように、本件図3では、最も厚い部分とされた箇所について、厚さを測定する基準線が不明であることなどから、中心線xが先に決まっていて、xを基準に最も厚いところを求めたのが、本件図3での最も厚い部分となる。
しかし、中心線xを求めるためには、最も厚い部分を先に決めなければならないが、最も厚い部分を決めるには、中心線xを基準としなければならず、中心線xと最も厚い部分とは、循環定義の関係となっている。
したがって、段落【0018】に記載の基端側の傾斜xの定義では、傾斜xを定義付けることができない。
以上により、本件発明の構成B及び構成Cを認定するに際して、ハンドル11の基端側の傾斜xを一意に決める必要があるが、明細書及び図面を参酌したところ、傾斜xを定義付けることができず、傾斜xを一意に決めることができない。

(2-3)平成29年7月20日付け弁駁書における主張(本件訂正発明について)
本件訂正発明は、「全体が山なりの湾曲形状」、傾斜角の大小、及びボールの形状について、範囲を曖昧にし得る表現が用いられており、その結果、本件訂正発明の範囲が不明確となっている。具体的には、以下のとおりである。
ア 「全体が山なりの湾曲形状」について
「全体が山なりの湾曲形状」には、「本件図3ハンドル形状」(審決の予告45ページ)に加えて、本件図3ハンドル形状以外のハンドルの形状も、その範囲に入る得ることとなる。しかしながら、本件図3ハンドル形状以外のハンドルの形状につき、「全体が山なり」の形状であるとは、いかなる形状のことを指すのか、本件特許明細書には、その意味内容を理解するのに資する記載はない。
全体が山なりの湾曲形状であると訂正したところで、何をもってして、全体が山なりの湾曲形状というのか、その範囲が不明確のままであり、本件特許明細書にも、その解釈指針が示されていない以上、結局のところ、その範囲を画定する者の視覚や感覚に伴う主観が入り込むことが避けられない。
すると、全体が山なりの湾曲形状の範囲に入るか否かの判断を客観的に行うことはできず、本件図3ハンドル形状以外のハンドルの形状について、当該範囲に入るか否かを一義的に決めることはできない。

イ 傾斜角の大小について
既に主張しているとおり、「ハンドルの最も厚い部分」を一義に決めることができない限り、「ハンドルの最も厚い部分の外周接線間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角」、ひいては、該傾斜角と「前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角」との大小関係を一義に決めることはできない。
そして、傾斜角の大小関係を用いて、「ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなって」いることを定義付けようとする本件訂正発明においても、不明確さは、依然として存在する。

ウ ボールの形状について
訂正後ボール形状を用いた場合に、傾斜角の大小関係をどのように決めていくのかについては、本件特許明細書には、一切開示されていないから、訂正後ボール形状を用いた場合、傾斜角の大小関係については不明確な点が存在することとなる。
また、ボールの形状自体についても、不明確さが存在する。すなわち、「ハンドル側の曲率」や「先端側の曲率」といった場合、「ハンドル側」と「先端側」とは、どの範囲のことを指すのか曖昧であり、ある一定の範囲を「ハンドル側」及び「先端側」とするのであれば、既に主張したとおり、その曲率を直ちに導き出すことはできない。
本件特許明細書及び図面並びに技術常識を参酌したとしても、ボールのハンドル側の曲率及び先端側の曲率を数値化する指標は何かが不明確である。

(3)無効理由3
請求項1において「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載があるが、当業者が本件発明を実施しようとした場合、ハンドルをどのような形状にすれば、山なりの湾曲形状となるのか、また、ハンドルの湾曲を、どのようにすれば、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなるのか理解することができない。よって、本件発明を実施しようとした当業者は、発明の詳細な説明の記載を参酌することとなるが、発明の詳細な説明には、具体的に、どのような形状が、山なりの湾曲形状であるのか、また、どのような形状によって、ハンドルの湾曲がハンドルの基端側よりも先端側できつくなるのかについて、一切記載がないどころか、示唆さえない。
なお、明細書の段落【0057】には、ハンドルの変形例について記載されているが、かかる記載は、本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない。

(4)無効理由4
(4-1)審判請求書における主張
請求項1において「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載があるが、発明の詳細な説明には、ハンドルをどのような形状にすれば、山なりの湾曲形状となるのか、また、ハンドルの湾曲を、どのようにすれば、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなるのかについて、発明の詳細な説明には、記載されていないどころか示唆さえされていない。
被請求人は、本件図3の記載が、請求項1の根拠であると述べているが、出願時の技術常識を照らしても、本件発明の範囲まで、本件図3に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
すなわち、請求項1の記載では、本件図3に記載された形状以外の形状も特許発明の技術的範囲に属することとなるが、本件図3に記載された形状をどのように拡張し一般化することで、本件発明の内容を画することができるのか、発明の詳細な説明には、一切開示も示唆もされていない。
なお、明細書の段落【0057】には、ハンドルの変形例について記載されているが、かかる記載では、本件図3に記載された形状の拡張ないし一般化についての記載とはいえず、本件発明が、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(4-2)平成29年7月20日付け弁駁書における主張
ア 発明の課題について
審決の予告52ページに記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された課題の1つとは、「本件ハンドル形状(技術水準)」(下記第6の1(2)参照)における操作性の悪さの問題を解消して、操作性が良好な美容器を提供することである。

イ 課題解決手段について
段落【0007】の訂正により、「上記の目的を達成するために、・・・前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく・・・されていることを特徴とする。」と記載されている。

ウ サポート要件違反
本件訂正発明が発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記アの課題を解決できると認識できるものである、とするためには、発明の詳細な説明には、単に「操作性が良好」であるという抽象的な記載にとどまるのではなく、「本件ハンドル形状(技術水準)」と本件訂正発明の「全体が山なりの湾曲形状」であって「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつい」ハンドル形状との間にある構造的差異により、操作性の向上という作用ないし機能の観点からどのような差異が生じるのかについて、具体的に説明されていることが必要である。
しかし、発明の詳細な説明には、かかる点について、明示的な記載も示唆する記載も見当たらない。また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が上記課題を解決できると認識するに資する出願時の技術常識の存在は認められない。
したがって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できるものではなく、また、当業者が出願時の技術常識に照らして、上記課題を解決できると認識できる範囲のものではない。

(5)無効理由5
請求項1において「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」から観念される発明は、本件図3に記載のハンドルの形状以外も存在する。すなわち、請求項1の記載では、本件図3に記載されているハンドルの形状に加え、本件図3に記載されている以外のハンドルの形状も含まれる。
しかし、本件図3に記載されている以外のハンドルの形状については、原出願の出願当初の明細書等にも記載されておらず、かつ、原出願の分割直前の明細書等にも記載されていない(甲12)。
そして、原出願の出願当初及び分割直前の明細書等には、本件図3に記載されているハンドルの形状以外の形状で、請求項1に記載の構成要件を具備する形状についての示唆も一切存在しない。
このように、本件図3を拡張ないし一般化した本件発明は、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内でなく、かつ、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内でもないことは明らかである。よって、本件特許は、分割出願の要件を満たしていないため、出願日の遡及効を得ることができない。
ゆえに、本件特許出願の出願日は、現実の出願日であるところの平成27年8月25日となる。

そして、原出願は、平成25年5月30日に公開(甲13)されている。
甲13には、以下の発明(以下「甲13発明」という。)が開示されている。
「a.ハンドル(11)の先端部に一対のボール(17,17)を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線(y)を中心に回転可能に支持した美容器(10)において、
b.ハンドル(11)は、側面視においてボール(17,17)の軸線(y)がハンドル(11)の中心線(x)に対して前傾している形状をなし、
c.ハンドル(11)の形状は、肌(20)に対する軸線(y)の傾斜角度が中心線(x)の傾斜角度よりも大きくなる形状を有し、
d.ボール(17,17)は、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されている美容器(10)。」

本件発明と甲13発明とを対比した場合、甲13発明の「b.ハンドル(11)は、側面視においてボール(17,17)の軸線(y)がハンドル(11)の中心線(x)に対して前傾している形状をなし、c.ハンドル(11)の形状は、肌(20)に対する軸線(y)の傾斜角度が中心線(x)の傾斜角度よりも大きくなる形状を有し」の上位概念化によって、「B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」が得られる。
よって、本件発明は、甲13発明と実質的に同一である。

もしくは、甲13発明の「b.ハンドル(11)は、側面視においてボール(17,17)の軸線(y)がハンドル(11)の中心線(x)に対して前傾している形状をなし、c.ハンドル(11)の形状は、肌(20)に対する軸線(y)の傾斜角度が中心線(x)の傾斜角度よりも大きくなる形状を有し」から、「B.前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、C.前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」なるようにハンドルの形状を構成することは、当業者にとって何ら困難なものではない。

第5 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の理由に基づき、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
なお、請求人の主張と同様、審判請求時の無効理由に対する反論は、主として、本件発明に基づく主張である(審決の予告28?41ページ)。

(1-1)無効理由1-1に対する反論
(1-1-1)本件発明の文言解釈について
ア 構成C
構成Cを素直に解釈すれば、ハンドルが湾曲形状(弓なりで円弧を描くような形状)をしていて、そのハンドルの湾曲に関して、基端側の湾曲よりも先端側の湾曲がきつい(湾曲の度合いが大きい)、という意味である。
このため、ハンドル11の基端側の傾斜xの傾斜角とハンドル11の先端側の傾斜yの傾斜角との関係は、ハンドルが湾曲形状をしていることを前提として、本件発明の構成要件C「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」を解釈する指標となることは、異論ない。

イ 基準線
構成Cは、あくまで、ハンドル自体の湾曲における先端側の湾曲と基端側の湾曲のきつさの関係を特定したものであり、肌を基準とするハンドルの傾斜角度とか美容器を水平面に設置した場合のハンドルの傾斜角度ではない。
ハンドル自体の湾曲における先端側の湾曲と基端側の湾曲のきつさの関係は、ハンドル自身が有するものであり、これは美容器をどのような角度にしようと変わるものではない。
この点、「ハンドルの湾曲」について、「傾斜角」という指標を用いて、ハンドルの「先端側の湾曲」と「基端側の湾曲」の「きつさ」を判断するのであれば、ハンドルの「基端側」と「先端側」が同じ高さ、すなわち、美容器の先端及び基端を水平面に設置した状態を基準として測定するべきである。

ウ 審判合議体により示された構成B及びCの解釈の一案について
審判合議体により示された構成B及びCの解釈の一案(平成29年1月24日付け審理事項通知書)について、構成Bの「三角形に沿って」とは、本件発明の「山なり」を言い換えたものであって、山のように頂部を有するという意味であれば、構成B及びCの解釈に異論はない。
なお、上記解釈の一案における「水平基準線」に関し、「ボールをハンドルに支持した状態で、美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線とする」との請求人の理解について、特段の意見はない。

エ 傾斜x及び傾斜yの定義について
基端側の傾斜xについては、これを定義するに当たり、視覚的には基端側においてハンドルの最も厚い部分の傾斜が強調されるため、傾斜xは基端側におけるハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線とするべきである。なお、「最も厚い部分」とは「ハンドルの伸張方向」に対して垂直に輪切りした場合に最も厚い部分である。
また、先端側の傾斜yについては、支持軸の軸線と解釈すべきである。

(1-1-2)甲1発明の認定について
請求人の甲1発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲1の図2からは、甲1発明のハンドルの湾曲について、基端側よりも先端側がきついかどうかは明確ではなく、この点、甲1には明記はない。また、甲1には、甲1発明を水平面に設置した場合の、先端側の傾斜角と基端側の傾斜角についても明記はない。
したがって、甲1発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a1:ハンドルの先端に形成された二又部に一対の円筒状のローラを、相互間隔をおいてそれぞれローラ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
b1:ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、
c1:ハンドルの湾曲の傾斜角は、ハンドルの基端よりも先端側が大きいか小さいか不明であり、
d1:ローラは、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

なお、甲1の図面に基づき、甲1発明について、審判合議体により示された構成B及びCの解釈の一案のとおり解釈し、同案に基づき傾斜角の大小関係を特定すると、先端側の傾斜yの傾斜角(17度)は、基端側の傾斜xの傾斜角(22度)よりも小さいものであった。
したがって、甲1発明は、上記解釈の一案に基づいても、構成C「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつ」いものではない。

(1-1-3)本件発明と甲1発明との対比について
本件発明と甲1発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点1-1)
本件発明では、回転体として、一対のボールを用いているのに対して、甲1発明では、一対の円筒状のローラを用いている点(請求人主張の相違点1)。
(相違点1-2)
本件発明では、ボールは、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲1発明では、ローラは、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されている点(請求人主張の相違点2)。
(相違点1-3)
本件発明では、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつい。
これに対して、甲1発明では、ハンドルの湾曲の傾斜角は、ハンドルの基端よりも先端側が大きいか小さいか不明、すなわち、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきついか否か不明な点。

相違点1-1について、甲1発明のローラは、円筒形状をなしており、その表面の形状を多角形、円形等に変更してよい旨の記載はあるが、ローラそれ自体の形状(円筒形状)を変更可能とする記載や示唆はない。したがって、甲5、甲6の1、甲7の1、甲8にボール等が開示されていたとしても、それをもって甲1発明の円筒形状のローラを前記各甲号証に記載のボール等の形状に変更することができるとの動機付けは存在しない。
また、甲1発明は、ローラ自体が肌の表面組織に接触して刺激を与え、美肌効果等の美容効果を発揮させるという技術的意義を有するものであるから、その機能を発揮するためには、ローラはなるべく広範囲に肌に接触する必要があることは明らかである。一方、甲1発明の円筒状のローラをボール状とすれば、これを肌に接触した場合、円筒状のローラに比して肌に接触する範囲が小さくなるのは明らかである。
そうすると、円筒状のローラが肌の広い範囲に接触して刺激を与えることにより美容効果を発揮するという甲1発明の技術的意義を没却することになるため、甲1発明の円筒状のローラを甲5ないし8のボールに置き換える動機付けはなく、阻害要因すら存在する。

相違点1-2について、相違点1-1にて説明したとおり、甲1発明の円筒状のローラを甲5ないし8のボールに置き換える動機付けはなく、阻害要因すら存在する。そして、相違点1-2は、相違点1-1によるローラからボールへの変更を前提とするものであるから、相違点1-1が容易想到ではない理由と同様の理由により容易想到ではない。

相違点1-3について、甲1には、甲1発明のハンドルの湾曲を、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなるように構成する記載や示唆は存在せず、本件発明の構成とする動機付けは存在しない。
また、甲2ないし甲8に記載されているハンドル等は、いずれも湾曲形状をなしてないから、当然に「ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつ」いことも、甲2ないし甲8には開示されていない。したがって、甲2ないし甲8に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても、甲1発明は、相違点1-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-1-4)平成29年6月13日付け上申書
審決の予告では、本件発明が無効理由1-1があると判断しているが、本件訂正発明は、無効理由1-1は存在しない。具体的には、以下のとおりである。

ア 甲1発明の認定について
本件訂正発明の構成に対応して、甲1発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「ハンドルの先端部に一対の多角形筒状のローラを、相互間隔をおいてそれぞれローラ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの先端側よりも基端側がきつく、
前記ハンドルの湾曲は、
美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、
水平基準線に対するローラ支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、
水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、
前記水平基準線に対するローラ支持軸の軸線の傾斜角である17度が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角である22度よりも小さいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの先端側よりもハンドルの基端側がきつくなっており、
前記ローラの形状は、多角形筒状に形成されており、
前記ローラは、貫通状態で前記ローラ支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

イ 本件訂正発明と甲1発明との相違点
本件訂正発明と上記アに係る甲1発明とを対比すると、相違点は、以下のとおりとなる。
(相違点1)
本件訂正発明では、回転体として、一対のボールを用いているのに対して、甲1発明では、一対の多角形筒状のローラを用いている点。
(相違点2)
本件訂正発明では、ボールは、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲1発明では、ローラは、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されている点。
(相違点3)
本件訂正発明では、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつい、すなわち、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角(ハンドルの先端側の湾曲)が、水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角(ハンドルの基端側の湾曲)よりも大きい。
これに対して、甲1発明では、ハンドルの湾曲は、ハンドルの先端側よりも基端側がきつい、すなわち、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角(ハンドルの先端側の湾曲)が、水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角(ハンドルの基端側の湾曲)よりも小さい点。
(相違点4)
本件訂正発明では、ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されているのに対して、甲1発明のローラの形状は多角形筒状である点。

ウ 相違点の容易想到性
(ア)相違点1
甲1発明は筒状のローラを用いて肌の広い範囲をマッサージするものであり、その表面の形状を円形等に変更して良い旨の記載はあるが(段落【0040】)、ローラそれ自体の形状(筒状)をボールに変更可能とする記載や示唆はない。
また、甲1には、「(ローラ18の)接触部18aは、使用者の肌を含む人体の表面組織に刺激を与えるものであり」(段落【0021】)、「ローラ18の外周面の接触部18aが肌Sを含む人体の表面組織に適度な刺激を与え、美肌効果等の美容効果が得られる」(段落【0026】)と記載されており、ローラ自体が肌の表面組織に接触して刺激を与え、美肌効果等の美容効果を発揮させるという技術的意義を有するものであるから、その機能を発揮するためには、ローラはなるべく広範囲に肌に接触する必要があることは明らかである。
したがって、甲1発明は、ローラを多角形筒状等に形成し、ローラが肌の広い範囲に接触して刺激を与えることにより美容効果を発揮する発明であるといえ、そのローラをボールとすれば、肌に接触する範囲が小さくなることは明らかである。
これは、甲1発明の技術的意義を没却することになり、動機付けの不存在はもちろん、阻害要因も存在する。
また、甲5のマッサージ具は、図1、2から円柱体3が180度の開き角度で配置されている一方、甲1発明の多角形筒状のローラは、Y字状に配置されている。この開き角度の相違により、甲1発明と甲5のマッサージ具は作用効果が共通するとはいい得ず、この点からも組合せの動機付けはない。

(イ)相違点2
審決の予告では、甲1発明のローラを球体に変更することに当たって、甲5、甲8を踏まえて球体を甲1発明の支持軸に非貫通状態で支持するようにすることは、当業者にとって容易であると判断する。
しかし、相違点1にて説明したとおり、甲1発明の多角形状のローラを球状に変更することは当業者にとって容易ではない。したがって、相違点1の変更が容易ではない以上、相違点1の容易性を前提とする相違点2について、相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易ではない。

(ウ)相違点3
側面視において全体が山なりの湾曲形状をなすハンドルにおいて、その湾曲がハンドルの基端側よりも先端側がきついハンドル形状は、甲1には開示されておらず、また甲1以外にも開示がない。
このうち、審決の予告にて認定する甲2ないし甲4、甲5は、いずれも「ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし」たものではなく、甲2ないし甲4、甲5のハンドルが公知であることを理由として、甲1発明の「側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし」たハンドルを、相違点3に係る本件訂正発明の構成とすることは、設計的事項でもなければ容易想到でもない。
特に、甲1発明の筒状ローラは、上記(ア)のとおり、ローラの接触部が肌の広い範囲に接触して刺激を与え、美肌効果を発揮するために採用された構成である。
このような甲1発明において、ハンドルの湾曲を基端側よりも先端側がきつい形状とすると、側面視におけるローラの支持軸の軸線の傾斜角が大きくなる。
そうすると、甲1発明を肌に宛てた場合に、ローラの先端(軸方向外側)側を肌に接触させることはできるが、基端(軸方向内側)側を肌に接触させにくくなり、ローラ全体において使用者の肌に刺激を与えることができなくなる可能性がある。
このため、甲1発明のハンドルの湾曲を基端側よりも先端側がきつくするような変更をする動機付けは、甲1発明のローラの機能からも存在しない。

(エ)相違点4
相違点1にて説明したとおり、甲1発明の多角形筒状のローラをボールに変更することは当業者にとって容易ではない。このため、甲1発明において、ボールの形状について更に特定した「ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されて」いる構成を採用する動機付けも存在しない。
また、「ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されて」いる構成については、甲5の「球体」との記載によって示唆されるものではなく、甲8の「ローラ」が、本件訂正発明のボールに該当しないことは、本件特許明細書の先行技術文献として甲8を挙げていることからも明らかである。
さらに、上記構成を採用することによって、本件訂正発明は「曲率の大きな部分で肌を摘み上げ、曲率の小さな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる。」(段落【0050】)という作用効果を奏するものであるが、そのような作用効果は公知でもない。

(オ)小括
以上のとおり、相違点1ないし4はいずれも当業者にとって容易とはいえないから、本件訂正発明は、甲1発明、並びに甲5及び8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1-2)無効理由1-2に対する反論
(1-2-1)甲2発明の認定について
請求人の甲2発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲2発明の杆体1は、特に把持柄4が直線となっており、弓なりでも円弧を描くような形状でもなく、「湾曲形状をなし」ているものとはいえない。
したがって、甲2発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a2:杆体の先端部に一対の円筒状のローラを、相互間隔をおいてそれぞれ分岐軸部の軸線を中心に回転可能に支持した美顔用ローラマッサージ器具において、
b2:杆体は、側面視において山なりであるが湾曲形状ではなく、
c2:杆体は、湾曲形状をなしておらず、
d2:ローラは、貫通状態で分岐軸部に回転可能に支持されている美顔用ローラマッサージ器具。」

(1-2-2)本件発明と甲2発明との対比について
本件発明と甲2発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点2-1)
本件発明では、回転体として一対のボールを用いているのに対して、甲2発明では一対の円筒状のローラを用いている点。
(相違点2-2)
本件発明では、ボールは非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲2発明では、ローラは貫通状態で支持されている点。
(相違点2-3)
本件発明では、ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっているのに対して、甲2発明の杆体1は、側面視において湾曲形状をしておらず、また、杆体1が湾曲形状ではないから、その湾曲は基端側よりも先端側がきつくというハンドルの湾曲を前提とした構成それ自体が存在しない点。

相違点2-1について、甲2発明のローラは、円筒形状をなしているが、甲2にはローラそれ自体の形状を変更可能とする記載や示唆はない。したがって、甲5、甲6の1、甲7の1、甲8にボール等が開示されていたとしても、それをもって甲2発明のローラの形状を前記各甲号証に記載のボール等の形状に変更することができる動機付けにはならない。
また、甲2発明は、従来技術の1個のローラを回転自在に取り付けたローラ型マッサージ器具がマッサージの範囲が狭いこと等に鑑み、2個のローラを転動させることにより美顔マッサージ作用やリンパの流れを促進させることを意図したものである。
そうすると、甲2発明は、肌のなるべく広い範囲をマッサージすることを意図して円筒状のローラを採用したものであり、甲2発明のローラを、甲5、甲6の1、甲7の1、甲8のボール等に変更すると、肌への接触面積が狭くなることは明らかであり、発明の意図に反するような変更をする動機付けはない。

相違点2-2について、相違点2-1にて説明したとおり、甲2発明の円筒状のローラを甲5ないし8のボールに置き換える動機付けはない。そして、相違点2-2は、相違点2-1によるローラからボールへの変更を前提とするものであるから、相違点2-1が容易想到ではない理由と同様の理由により容易想到ではない。

相違点2-3について、甲2発明のハンドル(杆体1、特に把持柄4)は側面視において湾曲形状をしていないところ、これを側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきつくなる構成を採用する動機付けはない。
また、甲1発明はハンドルが側面視において山なりの湾曲形状をなしているものの、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきついかどうか不明であり、相違点2-3を開示するものではない。甲3、甲4、甲5、甲6の1、甲7の1については、いずれもハンドルが湾曲形状をなしていない。さらに、甲8発明のハンドルは山なり湾曲形状ではない。
したがって、他の公知文献に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても、甲2発明は、相違点2-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-3)無効理由1-3に対する反論
(1-3-1)甲3発明の認定について
請求人の甲3発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲3発明の把持部3は、へ字形状であり、弓なりでも円弧を描くような形状でもなく、「湾曲形状をなし」ているものとはいえない。
したがって、甲3発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a3:把持部の先端部に一対の円柱状のローラ部を、相互間隔をおいてそれぞれローラ保持部の軸線を中心に回転可能に支持したマグネット美容ローラにおいて、
b3:把持部は、側面視において山なりであるが湾曲形状ではなく、
c3:把持部は、湾曲形状をなしておらず、
d3:ローラ部は、非貫通状態でローラ保持部に回転可能に支持されているマグネット美容ローラ。」

(1-3-2)本件発明と甲3発明との対比について
本件発明と甲3発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点2-1)
本件発明では、回転体として一対のボールを用いているのに対して、甲3発明では一対の円柱状のローラを用いている点。
(相違点2-3)
本件発明では、ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっているのに対して、甲3発明の把持部は、側面視において湾曲形状をしておらず、また、把持部が湾曲形状ではないから、その湾曲は基端側よりも先端側がきつくというハンドルの湾曲を前提とした構成それ自体が存在しない点。

相違点2-1について、甲3発明は、ローラの回転を円滑とし、皮膚への接触状態が良好とすることを課題とするものである。そして、甲3発明は、ローラの回転を円滑、良好とするため円柱状のローラ部の構成を必須とするものであり、ローラを、甲5、甲8のボール等に変更するとその目的が達成できなくなるため、そのような変更をする動機付けはない。

相違点2-3について、甲3発明のハンドル(柄本体部4)は側面視において湾曲形状をしていないところ、これを側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきつくなる構成を採用する動機付けはない。
また、甲1発明はハンドルが側面視において山なりの湾曲形状をなしているものの、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきついかどうか不明であり、相違点2-3を開示するものではない。甲2、甲4、甲5、甲6の1、甲7の1については、いずれもハンドルが湾曲形状をなしていない。さらに、甲8発明のハンドルは山なり湾曲形状ではない。
したがって、仮に他の公知文献に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても、甲3発明は、相違点2-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-4)無効理由1-4に対する反論
(1-4-1)甲4発明の認定について
請求人の甲4発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲4発明のハンドルは、へ字形状であり、弓なりでも円弧を描くような形状でもなく、「湾曲形状をなし」ているものとはいえない。また、甲4発明の円形体が回転可能であることを示す記載は甲4には一切なく、図面からの円形体が回転することは直接読み取れない。

したがって、甲4発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a4:ハンドルの先端部に一対の円形体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能か否か不明な状態で支持したマッサージ器において、
b4:ハンドルは、側面視において山なりであるが湾曲形状ではなく、
c4:ハンドルは、湾曲形状をなしておらず、
d4:円形体は、貫通状態で支持軸に回転可能か否か不明な状態で支持されているマッサージ器。」

(1-4-2)本件発明と甲4発明との対比について
本件発明と甲4発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点2-1)
本件発明では、回転体として一対のボールを用いているのに対して、甲4発明の円形体は回転可能か否か不明であり回転体とはいえない点。
(相違点2-2)
本件発明では、ボールは非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲4発明では、円形体は貫通状態で支持されている点。
(相違点2-3)
本件発明では、ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっているのに対して、甲4発明のハンドルは、側面視において湾曲形状をしておらず、また、ハンドルが湾曲形状ではないから、その湾曲は基端側よりも先端側がきつくというハンドルの湾曲を前提とした構成それ自体が存在しない点。

相違点2-1について、甲4発明の円形体が回転可能か否かは不明である。特に、円形体が回転しない構成であればそれは意図的に回転しない構成を採用したのであるから、これを回転可能とすることはその意図に反するものである。このため、回転可能か否か不明な円形体につき、これを積極的に回転可能とする動機付けは存在しない。

相違点2-2について、相違点2-1で説明したとおり、甲4発明の円形体を回転可能とする動機付けは存在しない。このため、同様の理由により、甲4発明の円形体を非貫通状態で支持軸に回転可能に支持する構成とする動機付けは存在しない。

相違点2-3について、甲4発明のハンドルは側面視において湾曲形状をしていないところ、これを側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきつくなる構成を採用する動機付けはない。
また、甲1発明はハンドルが側面視において山なりの湾曲形状をなしているものの、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきついかどうか不明であり、相違点2-3を開示するものではない。甲2、甲3、甲5、甲6の1、甲7の1については、いずれもハンドルが湾曲形状をなしていない。さらに、甲8発明のハンドルは山なり湾曲形状ではない。
したがって、仮に他の公知文献に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても甲4発明は相違点2-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-5)無効理由1-5-1及び1-5-2に対する反論
(1-5-1)甲5発明の認定について
請求人の甲5発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲5発明の把持部4は、へ字形状であり、弓なりでも円弧を描くような形状でもなく、「湾曲形状をなし」ているものとはいえない。
したがって、甲5発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a5:把持部の先端部に一対の円柱体を、相互間隔をおいてそれぞれ回転軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ具において、
b5:把持部は、側面視において山なりであるが湾曲形状ではなく、
c5:把持部は、湾曲形状をなしておらず、
d5:円柱体は、非貫通状態で回転軸に回転可能に支持されているマッサージ具。」

(1-5-2)本件発明と甲5発明との対比について
本件発明と甲5発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点2-1)
本件発明では、回転体として一対のボールを用いているのに対して、甲5発明では一対の円柱状のローラを用いている点。
(相違点2-3)
本件発明では、ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっているのに対して、甲5発明の把持部は、側面視において湾曲形状をしておらず、また、把持部が湾曲形状ではないから、その湾曲は基端側よりも先端側がきつくというハンドルの湾曲を前提とした構成それ自体が存在しない点。

相違点2-1について、甲5には、円柱体を、球体、或いは回転楕円体等を用いてもよい旨が記載されており、甲5発明を甲5に記載された変更例に基づき相違点2-1に係る本件発明の構成とすることが当業者に容易であることは争わない。

相違点2-3について、甲5発明のハンドル(把持部4)は側面視において湾曲形状をしていないところ、これを側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきつくなる構成を採用する動機付けはない。
また、甲1発明はハンドルが側面視において山なりの湾曲形状をなしているものの、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきついかどうか不明であり、相違点2-3を開示するものではない。甲2、甲3、甲4、甲6の1、甲7の1については、いずれもハンドルが湾曲形状をなしていない。さらに、甲8発明のハンドルは山なり湾曲形状ではない。
したがって、仮に他の公知文献に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても甲5発明は相違点2-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-6)無効理由1-6に対する反論
(1-6-1)甲6発明の認定について
請求人の甲6発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲6発明は、ハンドルの屈曲の傾斜角はハンドルの基端側よりも先端側が大きくなっているが、ハンドルは湾曲していない。
したがって、甲6発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a6:ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したボディマッサージ器において、
b6:ハンドルは、側面視において山なりの屈曲形状をなしているが湾曲形状ではなく、
c6:ハンドルは、湾曲形状をなしておらず、
d6:ボールは、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているボディマッサージ器。」

(1-6-2)本件発明と甲6発明との対比について
本件発明と甲6発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点2-2)
本件発明では、ボールは非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲6発明では、ローラは貫通状態で支持されている点。
(相違点2-3)
本件発明では、ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっているのに対して、甲6発明のハンドルは、側面視において湾曲形状をしておらず、また、ハンドルが湾曲形状ではないから、その湾曲は基端側よりも先端側がきつくというハンドルの湾曲を前提とした構成それ自体が存在しない点。

相違点2-2について、甲6発明は、ローラ15が貫通するスピンドル11の先端部分にバネ18が装着されて、スピンドル11に対してローラ15が付勢されているため、ローラ15が貫通状態でスピンドル11に支持されている。一方、ボールが非貫通で支持されているとされる甲5、甲8ではそのような事情はなく、甲6発明の技術的意義を有しつつ、そのローラ15を非貫通とする動機付けは存在しない。

相違点2-3について、甲6発明のハンドル(器具ヘッド6、ハンドル25)は側面視において湾曲形状をしていない。
また、甲1発明はハンドルが側面視において山なりの湾曲形状をなしているものの、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきついかどうか不明であり、相違点2-3を開示するものではない。甲2、甲3、甲4、甲5、甲7の1については、いずれもハンドルが湾曲形状をなしていない。さらに、甲8発明のハンドルは山なり湾曲形状ではない。
したがって、甲6発明を相違点2-3に係る本件発明の構成とする動機付けは存在せず、また、仮に他の公知文献に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても甲6発明は相違点2-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-7)無効理由1-7に対する反論
(1-7-1)甲7発明の認定について
請求人の甲7発明の認定には、誤りがある。具体的には、甲7発明は、ハンドルの屈曲の傾斜角はハンドルの基端側よりも先端側が大きくなっているが、ハンドルは湾曲していない。
したがって、甲7発明は、以下のとおり認定されるべきである。

「a7:ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
b7:ハンドルは、側面視において山なりの屈曲形状をなしているが湾曲形状ではなく、
c7:ハンドルは、湾曲形状をなしておらず、
d7:ボールは、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているマッサージ器。」

(1-7-2)本件発明と甲7発明との対比について
本件発明と甲7発明との相違点は、以下のとおりである。

(相違点2-2)
本件発明では、ボールは非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲7発明では、ボールは貫通状態で支持されている点。
(相違点2-3)
本件発明では、ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっているのに対して、甲7発明のハンドルは、側面視において湾曲形状をしておらず、また、ハンドルが湾曲形状ではないから、その湾曲は基端側よりも先端側がきつくというハンドルの湾曲を前提とした構成それ自体が存在しない点。

相違点2-2について、甲7発明は、ハンドル10のヘッド11から周方向に等間隔で4つの球形要素16、19が配置されて、これらは中心を通るネジボルト14、17にて外から固定されている。このようなヘッド11に4つの球形要素16、19を配置する構成では、ヘッド11に球形要素16、19を固定するために球形要素16、19の外側からネジボルト14、17を固定する方法が効率的であり、そうすると必然的に球形要素16、19は貫通状態で支持されることとなる。
甲7発明において、あえて球形要素16、19を非貫通状態で支持する利点はなく、非貫通とする動機付けは存在しない。

相違点2-3について、甲7発明のハンドル(ハンドル10、ヘッド11)は側面視において湾曲形状をしていない。
また、甲1発明はハンドルが側面視において山なりの湾曲形状をなしているものの、ハンドルの湾曲はハンドルの基端側よりも先端側がきついかどうか不明であり、相違点2-3を開示するものではない。甲2、甲3、甲4、甲5、さらには甲6の1について、いずれもハンドルが湾曲形状をなしていない。さらに、甲8発明のハンドルは山なり湾曲形状ではない。
したがって、甲7発明を相違点2-3に係る本件発明の構成とする動機付けは存在せず、また、仮に他の公知文献に記載のハンドルの構成を適用するという論理をもっても甲7発明は相違点2-3に係る本件発明の構成には想到しない。

(1-8)無効理由1-8-3に対する反論(平成29年12月28日付け答弁書)
ア 請求人主張の相違点の容易想到性について
(ア)相違点1
甲1発明のローラ形状は、「多角形筒状」又は「円筒形状」を含む「筒状」としか解釈することができない。そして、甲1発明のローラは、ローラの外周面(接触部18a)が人体に適度な刺激を与え美容効果を得ること、及びローラを介して人体(肌)に微電流を流し美容効果を高めるという技術的意義のもと、「筒状(多角形筒状・円筒状)」を採用したものと理解できる。
かかる技術的意義のもとに、ローラが肌になるべく広い範囲で接触するように、ローラの形状を「筒状(多角形筒状・円筒状)」を採用していることに鑑みれば、甲1発明のローラを甲5、甲32の1、甲33の1の回転体(球状)の形状に変更する動機付けは全く存在せず、むしろ、甲1発明の技術的意義を没却することになり阻害要因も存在する。

(イ)相違点2
上記(ア)のとおり、甲5、甲32の1、甲33の1の回転体を甲1発明のローラに置き換える動機付けは存在せず、相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは、容易想到とはいえない。
したがって、甲1発明のローラを甲5、甲32の1、甲33の1の回転体に変更することは容易想到とはいえないとの相違点1と同様の理由により、甲1発明のローラを非貫通状態とし、相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは、容易想到とはいえない。

(ウ)相違点3
a 請求人は、相違点3に関する主張では、甲2、甲3、甲4、甲5の記載に基づいた主張をしている。このうち、甲2、甲3、甲4は、請求人主張の「無効理由1-8-3」を構成する証拠に該当しないため、無効理由1-8-3の相違点3については、甲5の記載だけから容易想到であるとの主張に読み替える必要がある。

b 甲5のマッサージ具は、その図1に示されるとおり、把持部4の基端側直線部分Aと先端部分Bとの境界が折り曲がった形状をなす「屈曲形状」であると理解できる。このため、甲5には、本件訂正発明の「側面視において全体が山なり湾曲形状をなし」ているハンドルの構成は開示されているとはいえない。
そうすると、甲5には、先端側と基端側の湾曲の度合いは開示されていないといえるから、甲5を組み合わせる動機付けが存在するか否かは措くとして、仮に甲5の技術を甲1発明に組み合わせたとしても、相違点3に係る本件訂正発明の構成には想到しない。
なお、甲1発明を相違点3に係る本件訂正発明の構成とする動機付けは、甲1発明のローラの機能からも存在しない。すなわち、甲1発明において、ハンドルの湾曲を基端側より先端側がきつい形状とすると、甲1発明を肌にあてた場合に、ローラの先端側を肌に接触させることはできるが基端側を肌に接触させにくくなり、ローラ全体において使用者の肌に刺激を与えることができなくなる可能性がある。

(エ)本件訂正発明の顕著な効果について
本件訂正発明は、ハンドル形状を構成C及び構成C-1ないしC-5としたことにより、支持軸の軸線を中心に回転可能に支持される一対のボールを肌に押し付けやすくなっており、強い体感を得やすくなっている。
また、ボール形状を構成Eとしたことにより、曲率の大きな部分で肌を摘み上げ、小さい部分で摘み上げ状態を保持でき、肌の摘み上げ効果を向上させることができる。
このように、上記ハンドル形状により強い体感を得やすくなっていること、及び上記ボール形状による肌の摘み上げ効果とが相まって、摘み上げ効果を強めやすいという顕著な効果を奏するものである。

(2)無効理由2に対する反論
ア 平成28年12月26日付け答弁書
請求人は、「山なり」について、甲9に「山のような形になること。また、その形。やまがた。」との記載がある旨主張しており、その字義どおりの解釈、すなわち、側面からみたハンドルの形状が山のような形になっていると素直に解釈することができる。要するに、ハンドルの両端から中央側へ向かうほど高くなっている形状である。
また、請求人は、「湾曲」について、甲10に「弓なりにまがること。まがりくねっていること。円弧を描くようにまがること。また、そのさま。」との記載がある旨主張しており、「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」も、字義どおり、すなわち、ハンドルが湾曲形状(弓なりで円弧を描くような形状)をしていて、そのハンドルの湾曲に関して、基端側の湾曲よりも先端側の湾曲がきつい(湾曲の度合いが大きい)、と素直に解釈することができる。
請求人は、「湾曲がきつい」とは傾斜角の大小か曲率の大小か一義的に理解できない旨を主張するが、「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載から「きつく(きつい)」の主語は「ハンドルの湾曲」である。
したがって、本件発明の「前記ハンドルは、側面視において湾曲形状をなし」及び「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」との記載はいずれも不明確ではない。

イ 第1回口頭審理調書
(ア)本件発明の「湾曲がきつい」とは、曲率の大小を特定する発明特定事項である。湾曲の程度を判断する指標として、傾斜角を用いることができる。
(イ)「ハンドル11の最も厚い部分」を特定するための基準である「ハンドルの伸長方向」とは、「ハンドルの軸方向又は長手方向」を意味する。

ウ 平成29年3月24日付け上申書
構成B及びCは、本件原出願の図3に示された開示事項に基づき、側面視のハンドル形状について視覚を通じて感覚的に把握できる構成を技術的思想として表現したものである。この視覚を通じて感覚的に把握できる構成とは、まさに、請求人が示した例1及び2のハンドルのような構成である。したがって、構成B及びCは明確である。

なお、湾曲の程度を判断する指標として、傾斜角を用いる場合には、ハンドルの最も厚い部分を特定するために、ハンドルを側面視した際の各点(ハンドルの輪郭線上の点)について、切り口が最短距離となるように輪切りする。したがって、輪切りする際、中心線xを用いる必要はないので、中心線xとハンドルの最も厚い部分とは、請求人の主張する循環定義の関係にはならない。

エ 平成29年6月13日付け上申書
審決の予告では、本件発明が、無効理由2があると判断しているが、本件訂正発明は、無効理由2は存在しない。具体的には、以下のとおりである。
(ア)「山なりの湾曲形状」について
本件訂正後の記載から、「全体が」山なりの湾曲形状であることが要件となる。このため、本件訂正発明では、部分湾曲形状は入らないことが明確となっている。

(イ)「湾曲がきつい」について
本件訂正により追加した構成は、本件訂正前の「ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側より先端側がきつく」をより具体化したものである。
すなわち、「ハンドルの基端側の湾曲」とは、「水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角」であり、「ハンドルの先端側の湾曲」とは、「水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角」であるように、本件訂正発明では、「ハンドルの基端側の湾曲」と「ハンドルの先端側の湾曲」とをそれぞれ明確にした。そして、「ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側より先端側がきつく」とは、「前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいこと」を明確にした。
なお、審決の予告47ページでは、水平基準線を用いて湾曲がきついか否かを判断する場合でも、「傾斜x」(ハンドルの基端側の傾斜)を定義付けるために新たな基準が必要となり、この基準を一義的に求めることができないと指摘する。しかしながら、本件訂正発明においては、審決の予告の指摘は当てはまらない。
すなわち、本件訂正発明では、「水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり」との構成を有する。この記載から、「ハンドルの最も厚い部分」を特定し、「同部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線」を求め、「水平基準線に対する、外周接線zを二分する線と平行な線の傾斜角(傾斜xの角度)」を求めればよい。ここで、「ハンドルの最も厚い部分」の特定方法は、平成29年3月24日付け上申書のとおりである。「傾斜x」は、このような流れで新たな基準を導入することなく求めることができる。

(3)無効理由3に対する反論
無効理由2に対する反論でも説明したとおり、「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、」の「山なりの湾曲形状」や「きつい」の用語は字義どおり素直に解釈すれば足りる。
また、本件特許明細書及び図面の記載に関しても、ハンドルについては段落【0012】ないし【0018】に記載されており、本件図3にはハンドルの具体的形状として、側面視において山なり(山のような形になっている)の湾曲形状(弓なりで円弧を描くようにまがっている形状)をなし、前記ハンドルの湾曲はハンドルの基端側の湾曲よりも先端側の湾曲がきつくなった形状が図示されている。
少なくとも当業者は、本件特許明細書及び図面の記載に基づき、本件発明に係る「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をな」す構成、「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつ」い構成を実施することができる。

(4)無効理由4に対する反論
ア 平成28年12月26日付け答弁書
ハンドルについては段落【0012】ないし【0018】に記載されており、本件図3にはハンドルの具体的形状として、側面視において山なり(山のような形になっている)の湾曲形状(弓なりで円弧を描くようにまがっている形状)をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側の湾曲よりも先端側の湾曲がきつくなった形状が図示されている。
少なくとも当業者は、本件特許明細書及び図面の記載から、本件発明の「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をな」す構成、「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつ」い構成が開示されていると理解するのは明らかである。

イ 平成29年6月13日付け上申書
本件訂正発明が「山なりの湾曲形状」であって「湾曲がハンドルの基端側より先端側がきつい」ハンドル形状(本件訂正発明ではより具体的な構成としている)を採用した意図は、従来のローラの回転軸の軸線とハンドル軸線が一平面上にある形状では肘を上げる等の必要があり、操作性が悪いという問題があったことに鑑みたものである(段落【0004】)
そこで、本件訂正発明は、「山なり湾曲形状」であって「湾曲がハンドルの基端側より先端側がきつい」ハンドル形状を採用することにより、肘を上げなくてもローラを肌に当ててマッサージすることができるというものであり、加えて、ハンドルが山なり形状をしているため、ハンドルを把持する箇所によって把持部分に対するローラの角度を異ならせることができ、ローラの肌への角度を調整することができるものである。
ここで、本件訂正発明の「湾曲がハンドルの基端側より先端側がきつい」とは、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線よりも大きいことを意味する。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】?【0035】及び【表1】では、本件実施形態の美容器について側方投影角度αを異ならせた実施例1?6について使用感の官能評価をしている。この実施例に用いた側方投影角度αとは、ハンドルの先端側の湾曲を示す傾斜角(傾斜y)と、ハンドルの基端側の湾曲を示す傾斜角(傾斜x)との間の角度であるが、これら3つの角度の合計は、三角形の内角の和である180度であるから、側方投影角度が異なれば、ハンドルの先端側の湾曲を示す傾斜角と、ハンドルの基端側の湾曲を示す傾斜角も同時に変化するものである。
つまり、発明の詳細な説明における、美容器の側方投影角度を異ならせた実施例1?6は、ハンドルの先端側の湾曲を示す傾斜角と、ハンドルの基端側の湾曲を示す傾斜角とを異ならせた実施例でもある。
このように、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、特許請求の範囲の「山なりの湾曲形状」であって「湾曲がハンドルの基端側より先端側がきつい」ハンドルに対して、実施形態の美容器の側方投影角度αを異ならせた複数の実施例について美容器の使用感、すなわち操作性の向上という作用ないし機能の観点からの試験及び評価を行い、その結果について具体的に説明している。
この発明の詳細な記載は、まさに、本件訂正発明の課題(操作性)及び解決手段(湾曲がハンドルの基端側より先端側がきつい)に直接対応する記載であり、かかる記載に接した当業者は本件訂正発明の構成により課題を解決できると認識することができる。

(5)無効理由5に対する反論
本件発明の「前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」なった構成は、原出願(甲12)の図3に明確に図示されている。本件特許は、同記載に基づき分割した出願に係るものであるから、原出願に記載されていた発明であり、なんら分割要件違反ではない。
したがって、本件特許は、適法な分割として特許法第44条第2項に規定の遡及効を有するものであり、本件発明は甲13(原出願の公開公報)により新規性、或いは進歩性が否定されるものではない。

第6 無効理由4についての当審の判断
事案に鑑み、まず、無効理由4について、当審の判断を示す。当審の判断を示すに当たり、本件訂正発明の構成B、C及びC-1ないしC-5の技術的意義を検討する。

1 本件訂正発明の構成B、C及びC-1ないしC-5の技術的意義について
本件訂正発明の構成B、C及びC-1ないしC-5の技術的意義を検討するに当たっては、本件訂正により訂正した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の記載及び出願時の技術常識を参酌する。

(1)本件訂正明細書
本件訂正明細書には、以下の記載がある。なお、下線は理解の便のため、当審にて付したものである。

ア 「【0001】
この発明は、ハンドルに設けられたマッサージ用のボールにて、顔、腕等の肌をマッサージすることにより、血流を促したりして美しい肌を実現することができる美容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の美容器が種々提案されており、例えば特許文献1には美肌ローラが開示されている。すなわち、この美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角をなすように設定されている。さらに、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されている。そして、この美肌ローラの柄を手で把持してローラを肌に対して一方向に押し付けると肌は引っ張られて毛穴が開き、押し付けたまま逆方向に引っ張ると肌はローラ間に挟み込まれて毛穴が収縮する。従って、この美肌ローラによれば、効率よく毛穴の汚れを除去することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-142509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成の美肌ローラでは、柄の中心線と両ローラの回転軸が一平面上にあることから(特許文献1の図2参照)、美肌ローラの柄を手で把持して両ローラを肌に押し当てたとき、肘を上げ、手先が肌側に向くように手首を曲げて柄を肌に対して直立させなければならない。このため、美肌ローラの操作性が悪い上に、手首角度により肌へのローラの作用状態が大きく変化するという問題があった。
【0005】
また、この美肌ローラの各ローラは楕円筒状に形成されていることから、ローラを一方向に押したとき、肌の広い部分が一様に押圧されることから、毛穴の開きが十分に得られない。さらに、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラ間に位置する肌がローラの長さに相当する領域で引っ張られることから、両ローラによって強く挟み込まれ難い。その結果、毛穴の開きや収縮が十分に行われず、毛穴の汚れを綺麗に除去することができないという問題があった。加えて、ローラが楕円筒状に形成されているため、肌に線接触して肌に対する抵抗が大きく、動きがスムーズではなく、しかも移動方向が制限されやすい。従って、美肌ローラの操作性が悪いという問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好な美容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、前記ハンドルの湾曲は、美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており、前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており、前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の美容器によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の美容器においては、ハンドルの先端部に一対のボールが相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持され、前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっている。このため、ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるときに手首を曲げる必要がなく、手首を真直ぐにした状態で、美容器を往動させたときには肌を押圧することができるとともに、美容器を復動させたときには肌を摘み上げることができる。
【0009】
また、肌に接触する部分が筒状のローラではなく、真円状のボールで構成されていることから、ボールが肌に対して局部接触する。従って、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度も高い。
【0010】
よって、本発明の美容器によれば、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好であるという効果を発揮することができる。」

イ 「【0018】
本実施形態の美容器10は、前述のように顔に適用できるほか、それ以外の首、腕、脚等の体(ボディ)にも適用することができる。
図3に示すように、美容器10の往復動作中にボール支持軸15の軸線が肌20面に対して一定角度を維持できるように、ボール支持軸15の軸線がハンドル11の中心線xに対して前傾するように構成されている。具体的には、前記ハンドル11の中心線(ハンドル11の最も厚い部分の外周接線zの間の角度を二分する線と平行な線)xに対するボール17の軸線yすなわちボール支持軸15の軸線yの側方投影角度αは、ボール17がハンドル11の中心線xに対し前傾して操作性を良好にするために、90?110度であることが好ましい。この側方投影角度αは93?100度であることがさらに好ましく、95?99度であることが最も好ましい。この側方投影角度αが90度より小さい場合及び110度より大きい場合には、ボール支持軸15の前傾角度が過小又は過大になり、ボール17を肌20に当てる際に肘を立てたり、下げたり、或いは手首を大きく曲げたりする必要があって、美容器10の操作性が悪くなるとともに、肌20面に対するボール支持軸15の角度の調節が難しくなる。」

(2)出願時の技術常識
請求人が提出した証拠方法(例えば、甲3を参照)によれば、ハンドルの先端部に一対のローラを設けたマッサージ器であって、側面視におけるハンドル形状をへ字形状(屈曲形状)とし、ハンドルの先端部に設けたローラの回転軸の軸線を、ハンドルの中心線に対して前傾するように構成したマッサージ器は、本件原出願の出願時の技術水準にあるものと認められる(以下、かかる技術水準にあるマッサージ器のハンドル形状を「本件ハンドル形状(技術水準)」という。)。

(3)検討
本件訂正明細書には、従来技術として、「特許文献1」に記載された美肌ローラが開示されている(なお、「特許文献1」は、甲8に相当する文献である。)。
本件訂正明細書によれば、「特許文献1」に記載された従来構成の美肌ローラは、柄の一端に一対のローラを備えたものであるところ、柄の中心線と両ローラの回転軸が一平面上にあることから、美肌ローラの柄を把持して両ローラを肌に押し当てたとき、手首を曲げて柄を肌に対して直立させなければならず、操作性が悪いという問題があった、とされている。そして、本件訂正発明は、かかる問題点に着目して、操作性が良好な美容器を提供することを、その目的の一つとし、その目的を達成するために構成B、C及びC-1ないしC-5を特徴とし、操作性が良好であるという効果を発揮することができる、とされている。

一方、上記(2)によれば、ハンドルの先端部に一対のローラを設けたマッサージ器におけるハンドル形状については、上記従来構成の美肌ローラのように、ローラの回転軸の軸線とハンドルの中心線が一平面上にある形状、すなわち、側面視で直線形状のハンドルのほかにも、本件ハンドル形状(技術水準)のように、側面視でへ字形状のハンドルも本件原出願の出願時の技術水準にある。

かかる技術常識を踏まえて、本件訂正明細書に記載された従来技術の問題点を検討すると、操作性が悪いという問題は、本件訂正明細書に明示的に記載された、上記従来構成の美肌ローラのみに存在するのではなく、程度の差はあるとしても、本件ハンドル形状(技術水準)においても、同様に存在すると理解することができる。そして、上記従来構成の美肌ローラのみならず、本件ハンドル形状(技術水準)における操作性の悪さの問題点をも解消するために、構成B、C及びC-1ないしC-5を特徴とするのが本件訂正発明であると理解することができる。

言い換えれば、本件訂正発明の構成B、C及びC-1ないしC-5とは、本件ハンドル形状(技術水準)における操作性の悪さの問題を解消すること、と理解することができる。

2 前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)。

3 特許請求の範囲の記載について
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、上記第3で示したとおりである。

4 発明の詳細な説明の記載について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、上記1(1)で示したとおりの記載がある。

(1)発明の課題について
本件訂正明細書の記載(上記1(1)参照)、及び本件原出願の出願時の技術常識(上記1(2)及び(3)参照)に照らして、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された課題の一つとは、本件ハンドル形状(技術水準)における操作性の悪さの問題を解消して、操作性が良好な美容器を提供することであると認められる。

(2)課題解決手段について
本件訂正明細書の段落【0007】には、「上記の目的を達成するために・・・前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく・・・されていることを特徴とする。」と記載されている。

5 検討
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、上記3及び4(2)から、形式的には、本件訂正発明が発明の詳細な説明に記載された発明である、とすることはできる。
しかしながら、本件訂正発明が発明の詳細な説明の記載により当業者が上記4(1)の課題を解決できると認識できるものである、とするためには、発明の詳細な説明には、そもそも、単に「操作性が良好」であるという抽象的な記載にとどまるのではなく、本件ハンドル形状(技術水準)と本件訂正発明の「山なりの湾曲形状」であって「湾曲がハンドルの基端側よりも先端側がきつい」ハンドル形状との間にある構造的差異により、操作性の向上という作用ないし機能の観点からどのような差異が生じるのかについて、具体的に説明されていることが必要である。しかるに、上記4のとおり、発明の詳細な説明には、かかる点について、明示的な記載も示唆する記載も見当たらない。
また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が上記4(1)の課題を解決できると認識するのに資する出願時の技術常識の存在は、認められない。
したがって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記4(1)の課題を解決できると認識できるものではなく、また、当業者が出願時の技術常識に照らして上記4(1)の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

なお、これに対して、被請求人は、平成29年6月13日付け上申書において、本件訂正明細書のみから発明の課題(操作性)を把握した上で、美容器の側方投影角度を異ならせた実施例の官能評価(段落【0031】?【0035】及び【表1】)を示しつつ、当該官能評価における操作性向上についての記載は、本件訂正発明の課題(操作性)及び解決手段(湾曲がハンドルの基端側より先端側がきつい)に直接対応する記載であり、かかる記載に接した当業者は、本件訂正発明の構成により課題を解決できると認識することができる旨主張している。
しかしながら、被請求人は、上記1(2)の出願時の技術常識を踏まえて、発明の課題を把握することの妥当性について何ら反論しておらず、また、被請求人が指摘する官能評価は、本件ハンドル形状(技術水準)と本件訂正発明の「山なりの湾曲形状」であって「湾曲がハンドルの基端側よりも先端側がきつい」ハンドル形状との間にある構造的差異と操作性の向上との関係を説明するものではないことは、明らかである。したがって、被請求人の上記主張は、当審の判断を左右するものではない。

6 小括
以上のとおり、構成B、C及びC-1ないしC-5を備えた本件訂正発明は、発明の詳細な説明の記載等に照らして当業者が上記4(1)の課題を解決できると認識できるものではなく、本件図3ハンドル形状を本件訂正発明の範囲まで拡張ないし一般化できないとした、請求人の主張には理由がある。

したがって、本件特許に係る出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当する。

第7 無効理由1-8-3についての当審の判断
1 本件訂正発明の構成B、C及びC-1ないしC-5の技術的意義について
本件における操作性が悪いという問題は、本件訂正明細書の明示的な記載に基づけば、あくまで、従来構成の美肌ローラのように、ローラの回転軸の軸線とハンドルの中心線が一平面上にある形状について存在すると解される。
そうすると、本件訂正発明の構成B、C及びC-1ないしC-5の技術的意義とは、ローラの回転軸の軸線とハンドルの中心線が一平面上にあるハンドル形状における操作性の悪さの問題を解消すること、と理解することができる。
そして、この場合、構成B、C及びC-1ないしC-5は、ローラの回転軸の軸線とハンドルの中心線が一平面上にある形状を回避する、すなわち、ローラの回転軸の軸線がハンドルの中心線に対して一定の角度をもって傾斜(前傾)する状態を実現するための、ハンドル形状を特定する程度のものになる。

このような理解を前提として、無効理由1-8-3(進歩性欠如)の判断を示す。

2 各甲号証の記載内容

(1)甲1
(1-1)甲1に記載された事項
甲1には、「美容器」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである(以下同様)。

ア 請求項1
「ハンドルと、前記ハンドルに回転可能に支持されたローラとを備え、前記ローラが人体上を転動することにより人体に刺激を与える美容器において、
前記ハンドルの外壁及び前記ローラの外壁に導電部がそれぞれ形成され、これらの導電部は互いに電気的に絶縁され、
前記ローラの内部に、同ローラの回転にともなって発電を行う発電部と、前記発電部で発生した電力を前記ローラの外壁に形成された導電部に供給する供給部とが設けられることを特徴とする美容器。」

イ [0002]?[0003]
「背景技術
従来、この種の美容器としては、例えば特許文献1に開示された構成が提案されている。
この従来の美容器は、支持杆の基端部に接続されたグリップと、支持杆の先端部に回転可能に支持されたローラとを備えている。支持杆の外周とローラの内周との間には、電力発生手段としてのコイル及び永久磁石が設けられており、これらのコイル及び永久磁石は、ローラの回転にともなって電流を発生させる。ローラ内には、電力発生手段で発生した電力を蓄えるための蓄電池が設けられている。ローラの外周には、肌刺激手段としての複数のLED(発光ダイオード)が配列されており、これらのLEDは、蓄電池の電力に基づいて発光する。
使用者がグリップを把持した状態でローラを肌に押し付けて回転させると、肌に適度な刺激が与えられて、美肌効果が得られる。これとともに、ローラの回転にともなってコイル及び永久磁石よりなる電力発生手段で電力が発生し、その電力が蓄電池に蓄えられる。ローラ上のLEDは、この蓄電池の電力により発光し、美肌効果を高めることができる。

ウ [0005]?[0006]
「発明が解決しようとする課題
ところが、この従来の美容器においては、複数のLEDを発光させるために、電力発生手段において大きな電力を発生させなければならない。この電力をローラの回転により得ようとすると、コイル及び永久磁石よりなる大掛かりな電力発生手段を装備する必要がある。その結果、美容器の構造が複雑になり、製作コストが高くなるという問題があった。しかも、大きな電力を発生させる際に、ローラの回転に抗する大きな磁気反発力が発生する。そのため、ローラを回転させるために強い力が必要となり、美容器の操作感が悪くなり、その高級感が損なわれることになる。
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、小電力で高い美容効果を得ることができるとともに、構造を簡潔化して製作コストを低減することができ、しかも好適な操作感を得ることのできる美容器を提供することにある。

エ [0007]?[0008]
「課題を解決するための手段
上記の目的を達成するために、この発明は、ハンドルと、前記ハンドルに回転可能に支持されたローラとを備え、前記ローラが人体上を転動することにより人体に刺激を与える美容器において、前記ハンドルの外壁及び前記ローラの外壁に導電部がそれぞれ形成され、これらの導電部は互いに電気的に絶縁され、前記ローラの内部に、同ローラの回転にともなって発電を行う発電部と、前記発電部で発生した電力を前記ローラの外壁に形成された導電部に供給する供給部とが設けられる美容器を提供する。
こうした構成を採用する場合、使用者が美容器を使用する際に、ハンドルを把持した状態で、ローラを肌に押し付けて回転させる。これにより、肌や人体の表面組織に適度な刺激を与えられて、美肌効果等の美容効果が得られる。また、この状態では、ローラの導電部とハンドルの導電部との間に人体を介在させた電路が形成される。従って、ローラの回転に伴い、発電部によりローラの導電部、人体、及びハンドルの導電部を流れる微電流が発生する。こうした微電流が肌を流れることにより、美容効果が高められる。よって、美容効果を高めるために大きな電力を必要とせず、発電部の構造を簡潔化して製作コストを低減することができるとともに、ローラの回転が重くなることを防止できて、好適な操作感を得ることができる。」

オ [0012]
「また、前記ハンドルは、使用者に把持される把持部と該把持部の先端部に形成された二叉部とを備え、平面形状がY字状をなすように形成されており、前記二叉部に、一対の前記のローラがそれぞれ支持されることが望ましい。」

カ [0018]
「図1?図3に示すように、この実施形態の美容器11は、平面形状が略Y字状をなすハンドル12を備えており、このハンドル12は、使用者の手によって把持される棒状の把持部12bと、この把持部12bの先端に形成された二叉部12aとを有している。・・・」

キ [0019]
「図1及び図4に示されるように、前記ハンドル12の芯材13において二叉部12aに対応する部分には、一対のローラ支持軸17が設けられている。これらのローラ支持軸17の基端部(図4の右側の端部)は芯材13の中心部に形成された空間に嵌入され、同ローラ支持軸17の先端部(図4の左側の端部)は、二叉部12aから突出している。・・・」

ク [0020]
「図1及び図4に示すように、前記両ローラ支持軸17には、円筒状をなすローラ18がそれぞれ各一対の軸受19を介して回転可能に支持されている。これらの軸受19は、磁性のある金属材料により構成されている。ローラ支持軸17の先端のネジ部17aには、ローラ18がローラ支持軸17から抜けることを防止するための雌ネジ部材20が螺合されている。・・・」

ケ 上記記載事項アないしオによれば、甲1には、「ハンドルと、前記ハンドルに回転可能に支持されたローラとを備え、前記ローラが人体上を転動することにより人体に刺激を与える美容器」を基本構成としつつ、「小電力で高い美容効果を得ることができるとともに、構造を簡潔化して製作コストを低減することができ、しかも好適な操作感を得る」という課題を解決するために、肌刺激手段として、従来の複数のLEDに代えて、ローラの導電部、人体、及びハンドルの導電部に微電流が流れる手段を設けた発明が記載されていると認められる。

コ 上記認定事項ケの基本構成とは、上記記載事項オないしクを踏まえて敷衍すれば、「ハンドルの先端に形成された二又部に一対の円筒状のローラを、相互間隔をおいてそれぞれローラ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器」ということができる。

サ 図2より、ハンドル12の形状は、側面視において、全体が山なりの湾曲形状をなしていることが看取できる。

シ 上記認定事項サの「山なりの湾曲形状をなしている」ハンドル12を備えた美容器について、水平基準線を基準として側面視した場合、ハンドル12の基端側の傾斜角と先端側の傾斜角が存在することが看取できる(甲29、及び、被請求人提出の口頭審理陳述要領書4ページの図を参照。)

ス 図1、2及び4を総合すると、ローラ18は、貫通状態でローラ支持軸17に支持されていることが看取できる。

(1-2)甲1に記載された発明

そこで、上記記載事項ア?ク、及び認定事項ケ?スを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて、本件訂正発明に照らして整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「審決甲1発明」という。)。

「ハンドルの先端に形成された二又部に一対の円筒状のローラを、相互間隔をおいてそれぞれローラ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
ハンドルの湾曲は、水平基準線を基準として側面視した場合、ハンドルの基端側及び先端側が一定の傾斜角をもって傾斜する形状であり、
ローラは、貫通状態で支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

(2)甲2
(2-1)甲2に記載された事項
甲2には、「美顔用ローラマッサージ器具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0023】
図1?図5において、美顔用ローラマッサージ器具Aは、主として頬、顎、喉、頸部などを含む顔の皮膚をマッサージするためのもので、3方向に分岐した形状の杆体1に、平滑な外周面を有する2個のローラ2,3を回転自在に取り付けてなり、杆体1は、細長い有底筒体からなる把持柄4と、この把持柄4の先端開口部に後述する連結構造によって分離可能に連結された略Y字形の頭部5とを備える。
【0024】
把持柄4の先端開口部に雌ねじ4aが形成され、略Y字形の頭部5は、左右一対の分岐軸部6,7(図3参照)を先端部で収束した基部8を備え、一方の分岐軸部6に一方のローラ2が回転自在に取り付けられ、他方の分岐軸部7に他方のローラ3が回転自在に取り付けられる。・・・
【0025】
略Y字形の頭部5の基部8は、後端径小部8aを除いた部位が、その後端から先端に近付くほど漸次径小になる括れ部8cとして形成されており、後端径小部8aには、表面処理用懸垂ジグ(図示省略)を掛脱可能に掛止する掛止孔10が設けられている。そして、括れ部8cの軸線Cは、その後端から先端にかけて前向き湾曲している。また、括れ部8cの後面に滑り止め用の凹凸部11が形成されている。」

イ 「【0035】
括れ部8cの軸線Cが、その後端から先端にかけて前向き湾曲していることにより、細長い把持柄4を頬、顎、喉、頸部などを含む顔の皮膚と略平行に把持してマッサージすることが容易になるので、把持柄4を顔の皮膚と非平行に把持してマッサージするする場合と比較して、各ローラ2,3による顔の皮膚への押圧力の変動が抑制されるので、均等なマッサージ作用を得ることができる。」

ウ 甲19(甲2の角度測定図)を参照しつつ、甲2の図2から、美顔用ローラマッサージ器具Aの杆体1について、水平基準線を基準として側面視した場合、杆体1の傾斜角は、後端たる基端側よりも先端側が大きい点が看取できる。

(2-2)甲2事項
上記記載事項ア?イ、及び認定事項ウを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲2には、以下の事項が記載されているものと認める。(以下「甲2事項」という。)

「3方向に分岐した形状の杆体1に2個のローラ2、3を回転自在に取り付けてなる美顔用ローラマッサージ器具であって、該杆体1は、把持柄4と略Y字形の頭部5とを備え、該頭部5の基部8に後端から先端にかけて前向き湾曲している括れ部8cが形成され、該括れ部8cにより、把持柄4を顔の皮膚と略平行に把持してマッサージすることが容易になるようにしたものものにおいて、水平基準線を基準として側面視した場合、該杆体1の傾斜角は、後端たる基端側よりも先端側が大きいこと。」

(3)甲3
(3-1)甲3に記載された事項
甲3には、「マグネット美容ローラ」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0019】
以下、本考案の実施例について、具体的に説明する。本考案に係るマグネット美容ローラ1は、図1に示すように、柄本体部2と、ローラ部5とによって構成される。
【0020】
前記柄本体部2は、本実施例では亜鉛合金によって成形され、図2及び図3に示されるように、使用者によって保持される把持部3と、この把持部3から一方の側に角度αで、例えば手前側に傾斜すると共に、角度βで両側に広がるように延出するローラ保持部4とによって構成され、さらにローラ保持部4は、前記把持部3から分かれて延出する大径部4aと、その先端に一体に形成された小径部4bとによって構成される。この小径部4bには、下記するベアリング8が固着される。また、前記把持部3は、一端側の前記ローラ保持部4の分岐部分から他端側に向けて漸次大きくなるように形成され、持ちやすさを向上させるものである。さらに、把持部3の断面は、この実施例では長円形状に形成されるものであるが、円形であっても良いものである。
【0021】
また、前記角度αは、20°?60°の範囲内であることが望ましく、特に本実施例では40°である。さらにまた、前記角度βは、100°?140°の範囲内であることが望ましく、特に本実施例では120°である。尚、前記把持部3の他方側の端部近傍に、ひも等を通すための孔7を形成しても良いものである。
【0022】
前記ローラ部5は、図4に示すように、フェライトインジェクション磁石から円筒状に形成され、一端に球面状に突出する先端部51を一体に具備するローラ本体部50と、このローラ本体部50の側面52に装着された複数の樹脂リング6とによって構成される。この樹脂リング6は、シリコンリングであり、前記側面52の軸方向に所定の間隔で形成された環状溝55に装着されるものである。
【0023】
また、前記ローラ部5のローラ本体部50には、軸方向に形成された小径孔53と大径孔54とが連設され、小径孔53には前記ローラ保持部4の小径部4bが挿通され、大径孔54には前記小径部4bに固着されたベアリング8が挿入され、前記大径孔54の内周面に固定される。これによって、前記ローラ部5は、前記ローラ保持部4に対して回転自在に保持されるものである。」

イ 甲20(甲3の角度測定図)を参照しつつ、甲3の図3から、マグネット美容ローラ1の柄本体部2について、水平基準線を基準として側面視した場合、柄本体部2の傾斜角は、基端側よりも先端側が大きい点が看取できる。

(3-2)甲3事項
上記記載事項ア、及び認定事項イを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲3には、以下の事項が記載されているものと認める。(以下「甲3事項」という。)

「柄本体部2と円筒状で先端が球面突出状に形成されているローラ部5から構成されるマグネット美容ローラ1であって、該柄本体部2は、使用者によって保持される把持部3と、該把持部3から一方の側に角度αで傾斜するとともに、角度βで両側に広がるように延出するローラ保持部4とによって構成され、該ローラ部5は、該ローラ保持部4に対して回転自在に保持されるものにおいて、水平基準線を基準として側面視した場合、該柄本体部2の傾斜角は、基端側よりも先端側が大きいこと。」

(4)甲4の1
(4-1)甲4の1に記載された事項
甲4の1には、「マッサージ器」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、括弧内の日本語は、請求人による仮訳に準じたものである。また、図面から看取される事項については、韓国意匠公報の図面が正投影図法により作成されたものであることを考慮したものである。

ア 意匠の対象になる物品・意匠の説明・意匠の創作内容



(意匠の対象となる物品
マッサージ器
意匠の説明
1.材質は合成樹脂材である。
2.本願意匠の上部に形成されている2つの円形体は、透明体で形成されており、内部が見えるようにデザインしたものである。
意匠創作内容の要点
本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器であって、安定感と立体感を強調し、新しい美感を生じさせるようにしたことを創作内容の要点とする。)

イ 甲4の1正面図から、次の点を看取することができる。

a マッサージ器は、正面視で略Y字形状を呈しており、正面図上下方向に延びる部分(以下「部分A」という。)、及び、部分Aの上部から正面図右上及び左上方向に延びる、ほぼ左右対称な二股状の部分(以下「二股部分」という。)を有しており、二股部分に2つの「円形体」が位置すること。

b 部分Aは、正面図上下方向を向く中心線(以下「中心線A」という。)に沿って、一定の長さを有していること。

c 二股部分は、正面図右上及び左上方向を向く軸線(以下「軸線B」という。)に沿って、一定の長さ(左右の長さは概ね同じ)の軸を有している。

ウ 甲4の1の左側面図から、次の点を看取することができる。

d マッサージ器は、側面視で略への字形状を呈しており、部分Aの上部から、左側面図右上方向に延びる部分(以下「部分B」という。)を有しており、部分Bに「円形体」が位置すること。

e 部分Bは、左側面図右上方向を向く軸線に沿って、一定の長さを有しており、当該軸線は、部分Aの中心線Aに対して、左側面図右上方向に傾斜していること。

エ 上記認定事項イ及びウに照らせば、部分Bは二股部分に相当し、部分Bの上記軸線は軸線Bに相当するものと認められる。したがって、二股部分の軸線(「円形体」の軸線でもある。)は、部分Aの中心線Aに対して、左側面図右上方向に傾斜しているということができる。

オ 上記アの「材質は合成樹脂材である。」及び「2つの円形体は、透明体で形成されており、内部が見えるようにデザインしたものである。」との記載に照らせば、「2つの円形体」は、二股部分とは別体の部材であって、透明な合成樹脂材で形成されたものであると認められる。

カ 上記アの「本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器」の記載に照らせば、部分Aとは、マッサージ器を使用する者が把持する部分である「ハンドル」であり、「2つの円形体」とは、人体の部位に宛がって、当該部位を引っ張り、押す部分であると認められる。また、部分Aの中心線Aは、「ハンドルの中心線」であり、部分Aの上記一定の長さとは、「ハンドルの長さ」であると認められる。

キ 上記認定事項オ及びカに照らせば、マッサージ器としての機能を果たすために、「2つの円形体」と二股部分との位置関係を一定に保ち、「2つの円形体」が人体の部位から受ける力を二股部分で支える必要がある。そうすると、「2つの円形体」は、二股部分によって「支持」されているものと認められる。また、二股部分は、「2つの円形体」を「支持」する軸(以下、単に「支持軸」という。)を有する。

ク 甲21(甲4の1の角度測定図)を参照しつつ、甲4の1の左側面図から、マッサージ器のハンドルについて、水平基準線を基準として側面視した場合、ハンドルの傾斜角は、基端側よりも先端側が大きい点が看取できる。

(4-2)甲4事項
上記記載事項ア、及び認定事項イ?クを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲4の1には、以下の事項が記載されているものと認める。(以下「甲4事項」という。)

「正面視で略Y字形状を呈し、側面視で略への字形状を呈するマッサージ器であって、ハンドルの二股部分の支持軸に2つの円形体が支持され、該2つの円形体を人体の部位に宛がって、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすものにおいて、水平基準線を基準として側面視した場合、該ハンドルの傾斜角は、基端側よりも先端側が大きいこと。」

(5)甲5
(5-1)甲5に記載された事項
甲5には、「マッサージ具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】従来の顔マッサージ器として、ローラーとそれを支持する取手を備えるもの(特開平3-182251号公報)は、単一のローラで顔面をマッサージするもので顔面の特定の部位に対するマッサージ器でなく、顎の引き締め効果が期待できるマッサージ器とは言えなかった。
【0003】他方3つの球体とそれを支持する把持部を備えるもの(実開昭62-73818号公報)は、3つの球体は動きを制限する回転軸が存在しないため、それぞれ独立した自由回転をする。顎の皮膚表面の凹凸は変化するため、皮膚表面から受ける様々な方向からの力によって、各球体はそれぞれ違う回転をする。そのため、球体は顎の皮膚表面を単に転がっているに過ぎず、顎の輪郭を引き締めるためのマッサージが十分ではなかった。」

イ 「【0006】
【発明の実施の形態】図1のマッサージ具1は、回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着した弾性体であるマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから成る。上記の弾性体であるマッサージ部2は、左右2つの円柱体3、3から成るが、球体、或いは回転楕円体等を用いてもよい。2つの内側側面部3aが顎の輪郭を中心にして両側から顎の皮膚表面に当接するため、マッサージ効果のある部位、即ち顎の表情筋にマッサージを行える道具となる。

ウ 「【0007】把持部4は、手で把持し円柱体3、3を操作するための柄部7を備え、柄部7は手に把持しやすい長さがよく、柄部7の先端部分Bを基端側直線部分Aから傾斜させるとより好ましい。先端部分Bから柄部7の全長の略1/3?1/4の部分で、基端側直線部分Aよりも略20?40度傾斜させた柄を用いると、手首の傾け角を大きくとる必要がなく、自然な動きで作用できる。本実施例では柄部7の全長の略1/3の部分で略30度傾斜させた。回転軸体8と把持部4の材質はポリエチレン(P.E.)、ポリプロピレン(P.P.)、ポリスチレン(P.S.)等の熱可塑性樹脂で作成する。」

エ 上記記載事項イの「マッサージ部2」は、回転軸体8に嵌着したものであり、「ローラ部」と言い換えることができる。また、上記記載事項イの「マッサージ具1」は、図1を踏まえると、「把持部4の一端に設けられたローラ部によってマッサージする構成」を備えるものと認められる。

オ 図1及び2を総合すると、マッサージ部2の円柱体3、3は、非貫通状態で回転軸体8に支持されていることが看取できる。

(5-2)甲5事項
上記記載事項ア?イ及び認定事項エを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲5には、以下の事項が記載されているものと認める。(以下「甲5-1事項」という。)

「把持部の一端に回転軸上を回転するローラ部を設け、該ローラ部によってマッサージする構成において、該ローラ部の形状には、球体、円柱体、回転楕円体など種々のものが使用できること。」

また、上記記載事項イ及び認定事項オを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲5には、以下の事項が記載されているものと認める。(以下「甲5-2事項」という。)

「回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着したマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから構成されるマッサージ具1であって、該マッサージ部2は、左右2つの円柱体3、3から構成され、該円柱体3、3は、非貫通状態で回転軸体8に支持されること。」

また、上記記載事項イ及びウを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲5には、以下の事項が記載されているものと認める。(以下「甲5-3事項」という。)

「回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着したマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから構成されるマッサージ具1であって、該把持部4は、手で把持し、該マッサージ部2の円柱体3、3を操作するための柄部7を備え、該柄部7の先端部分Bを基端側直線部分Aから傾斜させることにより、手首の傾け角を大きくとる必要がなく、自然な動きで作用できるようにしたこと。」

(6)甲6の1
(6-1)甲6の1に記載された事項
甲6の1には、「BODY MASSAGING APPLIANCE」(ボディマッサージ器)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、括弧内の日本語は、請求人による仮訳に準じたものである。

ア 第1欄最下行から第2欄11行



(ローラ15には、図2において16で示されるものなどスピンドル11上で自由に回転するブシュが備わっている。スピンドルの周りに係合しブシュ16に当接する17における割り座金が、ローラがスピンドル上をヘッド6に向かって移動し得る範囲を制限する。スピンドルの外側端部での18における小さい座金が、ブシュ16の端部内の凹部の中に配設され、圧縮ばね19のための隣接点を形成し、このばねがブシュに推力を及ぼし、ローラを通常は、ヘッド6に向かう移動のその末端の限界点に維持することになる。)

イ 第2欄23?35行



(ヘッド6とハンドル25の軸の間の角度によって、器具が身体に適切に当てるために正確な角度で保持されることを保証する。ヘッドにある孔7は、スピンドル11を互いを基準として適切な鋭角のところに保持する。この角度は、おおよそ50度である。部品がこのように角度を成すように関係付けられ支持される場合、ハンドル25に対する押す動作によってローラ15が身体の上を通過する際、ローラ15は、ローラの間に巻き込まれたまたは折り込まれた身体の皮膚を引っ張り上げ、このように噛み合っている皮膚に対して一定のマッサージ作用を行うことになる。)

ウ 請求項1



(皮膚のマッサージ器具において、一対の対応付けられたスピンドルと、それぞれのスピンドルの軸上を回転しその軸の方向に往復運動するように軸支されたローラ、および前記ローラの間に過度に皮膚がたまった場合、前記ローラを軸方向に移動させることを可能にする手段との組み合わせ。)

(7)甲8
(7-1)甲8に記載された事項
甲8には、「美肌ローラ」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0010】
(第1の実施例)
図1は第1の実施形態の車両における美肌ローラを示す図である。また、図2は第1の実施形態の美肌ローラの側面図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、本実施形態の美肌ローラは、柄10と、柄10の一端に一対のローラ20と、を備える。また、太陽電池30を備えていてもよい。
【0012】
図3は本実施形態の美肌ローラのローラ部分の拡大図である。図3に示すように、ローラ20の回転軸φ1、φ2が、柄10の長軸方向の中心線Xとそれぞれ鋭角θ1、θ2に設けられ、一対のローラ20の回転軸φ1、φ2のなす角が鈍角θ0に設けられる。」

イ 「【0015】
次に、第1の実施例の作用を説明する。本実施形態の美肌ローラを肌に押し付け、図3に示す矢印Aの方向に押す。このとき肌は両脇に引っ張られ、毛穴が開く。これにより、毛穴の奥の汚れが毛穴の開口部に向けて移動する。
【0016】
さらに、本実施形態の美肌ローラを肌に押し付けたまま矢印Bの方向に引く。このとき、肌は一対のローラの間に挟み込まれ、毛穴は収縮する。これにより、毛穴の中の汚れが押し出される。
【0017】
この押し引きを繰り返すことにより、毛穴の奥の汚れまで効率的に除去することが可能となる。」

ウ 「【0020】
軽く押さえつけながらローラ20を回転させれば、適度な圧でリンパに働きかけ、顔および全身のリフトアップマッサージができる。引けばつまみ上げ、押せば押し広げるという2パターンの作用により、こり固まったセルライト、脂肪を柔らかくもみほぐす。これにより、セルライト、脂肪を低減させることが可能となる。
【0021】
以上述べたように、本実施形態の美肌ローラは一対のローラ20を角度をつけて柄10の一端に設けた。このため、ローラ20を肌に押し付けて押し引きすることにより、効率的に毛穴の汚れを除去することが可能となるという効果がある。」

エ 図1及び3に照らせば、ローラ20の形状につき、外周面の柄10側(図1及び3の網掛け部分)の曲率は、ローラ20の支持軸の先端側(該網掛け部分よりも先端側)の曲率よりも小さいことが看取できる。

(7-2)甲8事項
上記記載事項アないしウ及び認定事項エを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲8には、以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲8事項」という。)

「柄10の一端に、一対のローラ20をV字状に回転可能に軸支した美肌ローラであって、該ローラ20を肌に押し付けて、押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げるようにしたものにおいて、ローラ20の形状は、外周面の柄10側の曲率が支持軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成されており、ローラ20は、非貫通状態で該柄10に支持されること。」

(8)甲25
甲25には、「マッサージ具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 意匠に係る物品の説明
「本物品は、健康や美容のために、足首からふくらはぎ、二の腕等の肌や筋肉をマッサージするための器具である。本物品のローラーを肌上でころがしながらグリップ部を肌に対し立てたり寝かせたりするなど角度を変えると、軸部の高さがローラー高さより大きいために、ローラーが中心へ向かって動き、肌や筋肉をググッとつまみあげるというマッサージ効果を得ることができる(使用状態を示す参考図(1)、(2)参照。」

(9)甲27
甲27には、「Y字型美容ローラー」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0007】
本考案のY字型美容ローラーは、弾力素材のラインが1本ないし複数本、円周方向に設けられた2つの円筒ローラー部を、T字ではなく略Y字型の柄に配置したので、美容ローラー全体が移動されれば、摩擦により、ローラー部がローラーを引く力を適度な挟圧に変換する。しかも接触面に対して平行ではなく、先端部がより深く接触し、つけね部が浅く接触するように、柄のY字が同一平面外になり傾きを生じるよう、屈曲を設けた。したがって、この美容ローラーで挟圧をうけた部位はローラー方向にも力をうけ、ソフトにつまみあげるがごとき動きを容易に実現できる利点がある。」

イ 「【0010】
本考案に掛かる美容ローラーにおいて、該略Y字型の柄部3は、1つの手持ち部と2つのローラー支持部を備え、該手持ち部と2つのローラー支持部は、それぞれの中心線が同一平面を形成しないように傾きをつけられている(図中、中心線は参考のための線であり、実際の製品には存在しない)。この傾きは使用感のよい角度を適宜選択することができるが、たとえば柄部を含む平面から、ローラー部が均等に、ほぼ10度?45度程度起きあがるような角度であってもよい。また、左右のローラーが不均等な傾きを有してもよい。2つのローラー支持部のY字型の開きも、使用感のよい角度を適宜選択することができるが、たとえば柄部の中心線から均等に50?80度程度開いていてもよい。」

ウ 「【0012】
該柄部3とローラー部4とはローラー部4が小さな抵抗を感じつつ回動自在となるよう接続されている。両者は例えばベアリングにより接続されていてもよい。
図4を参照して説明すると、本考案のY字型美容ローラーは、弾力素材のラインが1本ないし複数本、円周方向に設けられた2つの円筒ローラー部を、T字ではなく略Y字型の柄に配置した。このため、図4での下方向へ柄を引くと、美容ローラー全体が適用部位上を移動しながら、摩擦をうけて、ローラー部4が、図4での反時計回り方向に回転する。このことでローラーを引く力を適度な挟圧に変換する。しかも、ローラー部4の取り付けにあたっては、接触面に対して平行や垂直ではなく、先端部がより深く接触し、つけね部が浅く接触するように、柄のY字が同一平面外になり傾きを生じるような屈曲を設けた。したがって、この美容ローラーで挟圧をうけた部位はローラーの回転方向にしたがって、ソフトにつまみあげられる。すなわち、本考案の美容ローラーは、つまみあげるような動きを容易に実現できる利点がある。」

(10)甲30の1
甲30の1には、「APPAREIL DE MASSAGE MANUEL」(手動マッサージ器具)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、請求人による仮訳に準じたものである。

ア 「


(発明の詳細な説明
本発明は、揉み、長手方向のたたき、およびドレナージュ作用を同じ動作で一緒に結合したマッサージ器具に関する。マッサージ師は、片手だけではこれを実施することはできない。
このマッサージ器具は、回転自在な球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドルを含むことを特徴とする。
この器具は、マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能であることを特徴とする。
この器具は、小さい直径を持つ球の2つの軸が70?100°に及ぶ角度をなし、大きい球の場合は90?140°をなすことを特徴とする。
ユーザがハンドル(1)を握り、これを傾けて2個の球(2)を皮膚(4)に当て、引張り力を及ぼすと、球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転する。
その結果、球の対称な滑りが生じ、これらの球は、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動く。
引っ張る代わりに押圧すると、球の滑りと皮膚に沿った動きとによって、皮膚が引き伸ばされる。
限定的ではなく例として、球の直径は、直径2?8cmに変えることが可能である。
同様に、ハンドルは、球、あるいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。
添付図は、器具の正面図である。図1は、器具の基本図であり、図2は、大型直径の2個の追加球(3)と皮膚4でのその作用とを示す変形実施形態である。3個の球を有する別の変形実施形態も同じ原理で動作可能である。)

(11)甲31
甲31には、「鼻筋矯正用ローラー」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 要約
「【課題】 安楽な状態で、安全且つ容易に使用し得ると共に、過圧に起因する不利が解消でき、正しい鼻筋の矯正を実行できる許かりでなく鼻筋マッサージも行える鼻筋矯正用ローラーを提供する。
【解決手段】 持ち手部1の先端部に前方へ湾曲するU字状の分岐アーム2を連続突設し、この一対の分岐アーム21,22の先端部にそれぞれ先細のローラー31,32を配備すると共に、一位のローラー31,32の対向間隔は、先端側が鼻の裾野に対応して最も広く、且つ基端側は鼻の嶺側に対応して最も狭くなるように鼻の形態に対応させたことを特徴とする。」

(12)甲32の1
(12-1)甲32の1に記載された事項
甲32の1には、「ROLLER MASSAGER」(ローラマッサージ具)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、当審で作成したものである。

ア 「


(図2及び3を参照すると、好適な実施例によれば、本発明のマッサージ具20は、ハンドル30と、各々軸42を有する2つのローラ40を含む。2つのローラ40の軸42は、各々、ハンドル30の先端の両側に取り付けられている。)

イ 「


(図5を参照すると、ハンドル30は、垂直軸C及び水平軸Hを有する。使用者は、ローラ40を特定の傾斜角に配置することができ、これにより、ローラの軸Sとハンドルの水平軸Hは、角θをなす。図2に示すように、人体上のマッサージ具20のローラ40を前後に回転させると、ローラ40の突起48が使用者の皮膚及び筋肉を押し、マッサージ効果を奏する。本発明は、マッサージ具をF方向に後方に引くと、皮膚及び筋肉が、2つのローラ40間のより大きな隙間からより小さな隙間へ、相対的に移動することを特徴とする。この時、筋肉は、指でもまれるように内側へ圧搾される。そのようなマッサージ効果は、図1の従来のマッサージ具よりも一層高いことが、実際の使用を通じて見出された。)

ウ 図2及び図5を総合すると、マッサージ具20のローラ40の形状は、先端側(ハンドル30の反対側)が概ね球状を呈しており、ハンドル30側が概ね円筒状を呈していることが看取できる。また、ローラ40は、非貫通状態で軸42に支持されていることも看取できる。

エ 上記認定事項ウのローラ40の形状につき、ハンドル30側(円筒状)の外周面が直線形状であるため、曲率は略0となる。したがって、ハンドル30側の外周面の曲率(略0)は、技術常識に照らせば、先端側(球状)の外周面の曲率よりも小さいものと認められる。

(12-2)甲32事項
上記記載事項ア?イ及び認定事項ウ?エを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲32の1には、以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲32事項」という。)

「マッサージローラ40の形状は、外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成されており、マッサージローラ40は、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されていること。」

(13)甲33の1
(13-1)甲33の1に記載された事項
甲33の1には、「Massage Apparatus」(マッサージ装置)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、請求人による仮訳に準じたものである。

ア 2ページ89?107行



(図5には、本発明のマッサージ装置の別の変形実施形態の軸方向断面図が示されている。この図において、51はマッサージヘッドであり、その軸と約45°の角度をなすように例えばゴム製の可撓性の変形可能な支持体54に固定されたピン53を中心にして自由に回転するように取り付けられた卵形又は西洋ナシ形状の要素52を含む。この支持体54は、スピンドル56がねじ止めされるか、さもなければ固定される剛性部材55に順に固定される。この剛性部材55の周囲には、スピンドル56が軸受58、59内を自由に回転する中空のハンドル57がある。ハンドル57の下端に固定されたカップ状のワッシャ571が、剛性部材55の縁を覆い、操作者の手はそれとの接触から解放される。)

イ 上記記載事項アの「西洋ナシ形状の要素52」は、図5に照らせば、その外周面のハンドル57側の曲率が、支持軸たるピン53の先端側の曲率よりも小さくなるように形成されていることが看取できる。また、該「要素52」は、図5より、非貫通状態で支持軸たるピン53に回転可能に支持されている点も看取できる。

(13-2)甲33事項
上記記載事項ア及び認定事項イを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲33の1には、以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲33事項」という。)

「マッサージ用の要素52の形状は、外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成されており、要素52は、非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されていること。」

3 無効理由1-8-3について

(1)対比
本件訂正発明と審決甲1発明とを対比する。審決甲1発明の「先端に形成された二又部」は、本件訂正発明の「先端部」に相当し、以下同様に、「ローラ支持軸」は「支持軸」に、「水平基準線」は「美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台」たる「水平基準線」にそれぞれ相当する。
また、審決甲1発明の「円筒状のローラ」は、本件訂正発明の「ボール」と、「回転体」の限りにおいて共通する。

さらに、本件訂正発明の構成C-1ないしC-5については、審決の予告53?54ページの「構成B及びCの解釈案」における構成Cの内容を明確化した上で、請求項に記載したものであって、実質的には、本件訂正発明の構成Cたる「前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく」を具体的表現でもって言い換えたものにすぎない。
一方、審決甲1発明のハンドルの湾曲は「水平基準線を基準として側面視した場合、ハンドルの基端側及び先端側が一定の傾斜角をもって傾斜する形状」であるから、水平基準線を基準とすれば、基端側の傾斜xの傾斜角と先端側の傾斜yの傾斜角とを比較することはできるものの、基端側と先端側の傾斜角の大小関係そのものは不明である。
そうすると、本件訂正発明の構成C(具体的には構成C-1ないしC-5)と、審決甲1発明の「ハンドルの湾曲は、水平基準線を基準として側面視した場合、ハンドルの基端側及び先端側が一定の傾斜角をもって傾斜する形状であり」とを対比すると、「ハンドルの湾曲は、美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、側面視した場合、ハンドルの基端側及び先端側が一定の傾斜角をもって傾斜する形状であり」という限りにおいて、両者は共通する。

したがって、本件訂正発明と審決甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。

<一致点>
「ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
前記ハンドルの湾曲は、
美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、
側面視した場合、ハンドルの基端側及び先端側が一定の傾斜角をもって傾斜する形状であり、
前記回転体は、前記支持軸に回転可能に支持されている美容器。」

<相違点1>
本件訂正発明では、回転体として、一対のボールを用いており、ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されているのに対して、審決甲1発明では、回転体として、一対の円筒状のローラを用いている点。

<相違点2>
本件訂正発明では、ボールは、非貫通状態で支持軸に支持されているのに対して、審決甲1発明では、ローラは、貫通状態で支持軸に支持されている点。

<相違点3>
本件訂正発明では、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつい(具体的には、構成C-1ないしC-5のとおり)のに対して、審決甲1発明では、ハンドルの湾曲は、水平基準線に対するハンドルの先端側の傾斜角が、水平基準線に対するハンドルの基端側の傾斜角よりも大きいか否か不明な点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について

(ア)甲1と甲5の組合せの動機付けについて
審決甲1発明は、「ハンドルの先端に形成された二又部に一対の円筒状のローラを、相互間隔をおいてそれぞれローラ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器」であるのに対して、甲5-1事項は、「把持部の一端に回転軸上を回転するローラ部を設け、該ローラ部によってマッサージする構成において、該ローラ部の形状には、球体、円柱体、回転楕円体など種々のものが使用できること」である。そうすると、両者はともに、「把持部の一端に回転軸上を回転するローラ部を設け、該ローラ部によってマッサージする構成」(以下「回転軸ローラ構成」という。)で共通しているといえる。
また、甲5-1事項のとおり、回転軸ローラ構成におけるローラ部の形状には、球体、円柱体など種々のものが使用できる。

(イ)組合せの阻害要因について
さらに、審決甲1発明の美容器にあっては、ローラの形状は「円筒状」に限定される必要はなく、球体を含む他の形状を排除しない。
すなわち、審決甲1発明は、上記記載事項オによれば、「ハンドルは、使用者によって保持される把持部と該把持部の先端部に形成された二又部とを備え、平面形状がY字状をなすように形成されており、前記二又部に、一対の前記のローラがそれぞれ支持される」美容器である(以下「Y字型美容ローラ」という。)である。
そして、Y字型美容ローラが肌を摘み上げる効果を奏することは、審決甲1発明のY字型美容ローラを使用すれば自ずと明らかであり、また、当該効果が、円筒状以外のローラ部の形状でも得られることも含めて技術常識である(長球状につき、甲8の上記記載事項イ及び図3、球状につき、甲25の上記記載事項ア及び使用状態を示す参考図(1)(2)、円筒状につき、甲27の上記記載事項ア及びウを参照)。そうすると、当業者は、Y字型美容ローラが、ローラ部の形状が円筒状に限定されることなく、肌を摘み上げる効果を奏させることを理解する。
なお、Y字型美容ローラでは、肌の摘み上げ力を把持部の肌面に対する角度により調整するものであるから、たとえ円筒状のローラ部であっても、該ローラ部の側面を常に全体(又は広い範囲)にわたるように皮膚に接触させる必要性は想定しがたい。このことは、甲1のほか、甲8、25及び27記載のY字型美容ローラを使用すれば自ずと明らかであり、また、甲27の上記記載事項イの「該手持ち部と2つのローラー支持部は、それぞれの中心線が同一平面を形成しないように傾きをつけられている・・・。この傾きは使用感のよい角度を適宜選択することができる・・・」との記載が当然の前提とするところである。

(ウ)回転軸ローラ構成に係る技術常識等について
上記(ア)の動機付けについては、回転軸ローラ構成のうち、ローラ部の形状が「球体」である構成(以下「回転軸球体ローラ構成」という。)は、技術常識であることからますます明らかである(例えば、甲6の1、甲25、及び甲30の1を参照)。
また、甲1と甲5の組合せに当たっては、次の周知技術を考慮することができる。すなわち、回転軸ローラ構成のうち、ローラ部の形状につき、ローラ部の外周面の把持部側の曲率を、回転軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成された構成は、例えば、甲8事項、甲32事項、及び甲33事項が備えるように、本件原出願の出願時において周知技術である。

(エ)容易想到性のまとめ
上記(ア)ないし(ウ)のとおり、(i)審決甲1発明と甲5-1事項はともに、回転軸ローラ構成で共通していること、(ii)回転軸ローラ構成におけるローラ部の形状には、球体など種々のものが使用できること、(iii)審決甲1発明の「ローラ」の形状は、Y字型美容ローラの効果との関係で円筒状である必要はなく、球体を含む他の形状を排除しないこと、(iv)回転軸球体ローラ構成が技術常識であること、などを踏まえると、甲1と甲5にともに接した当業者であれば、審決甲1発明の回転軸ローラ構成の「ローラ部」の形状として、甲5に記載された「種々のもの」の中から、上記(ウ)の周知技術である、「ローラ部の外周面の把持部側の曲率を、回転軸の先端側の曲率よりも小さくなるように形成された」構成を選択する程度のことは、適宜なし得たことである。
してみれば、審決甲1発明に甲5-1事項及び該周知技術を適用して、相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

(オ)被請求人の主張について
被請求人は、甲1発明のローラが「多角形筒状」又は「円筒形状」を含む「筒状」であることを前提として、甲1発明のローラは、ローラの外周面(接触部18a)が人体に適度な刺激を与え美容効果を得ること、及びローラを介して人体(肌)に微電流を流し美容効果を高めるという技術的意義を有する旨主張する。また、かかる技術的意義から、ローラが肌になるべく広い範囲で接触するように、ローラの形状を「筒状(多角形筒状・円筒状)」を採用していることに鑑みれば、甲1発明のローラを甲5、甲32の1、甲33の回転体(球状)の形状に変更する動機付けは全く存在せず、むしろ、甲1発明の技術的意義を没却することになり阻害要因も存在する旨主張する。
しかしながら、審決甲1発明の美容器は、Y字型美容ローラであり、Y字型美容ローラが、ローラ部の形状が円筒状に限定されることなく、肌を摘み上げる効果を奏すること、及び、ローラ部の形状が円筒状であっても、該ローラ部の側面を常に全体(又は広い範囲)にわたるように皮膚に接触させる必要性は想定しがたいことは、上記(イ)で示したところである。したがって、被請求人の上記主張は、当審の判断を左右するものではない。

イ 相違点2について

甲5には、甲5-2事項のとおり、「回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着したマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから構成されるマッサージ具1であって、該マッサージ部2は、左右2つの円柱体3、3から構成され」るものにおいて、「該円柱体3、3は、非貫通状態で回転軸体8に支持されること」が記載されている。
また、甲8には、甲8事項のとおり、 「柄10の一端に、一対のローラ20をV字状に回転可能に軸支した美肌ローラであって、該ローラ20を肌に押し付けて、押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げるようにしたものにおいて」「ローラ20は、非貫通状態で該柄10に支持されること」が記載されている。
してみると、審決甲1発明の回転軸ローラ構成の「ローラ部」の形状につき、上記ア(エ)のとおり変更するに当たって、甲5-2事項及び甲8事項を踏まえて、「ローラ部」を審決甲1発明の支持軸に非貫通状態で支持するようにし、もって、相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

ウ 相違点3について

相違点3は、構成C(具体的には構成C-1ないしC-5)に関するものであるところ、構成B及びCを有する本件訂正発明の技術的意義については、ローラの回転軸の軸線とハンドルの中心線が一平面上にあるハンドル形状における操作性の悪さの問題を解消すること、と理解され、この場合、構成B及びCは、ローラの回転軸の軸線がハンドルの中心線に対して一定の角度をもって傾斜(前傾)する状態を実現するための、ハンドル形状を特定する程度のものにすぎないことは、上記1で示したとおりである。

一方、審決甲1発明においても、そのハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなしているものであり、甲1の図2の図示内容にも照らせば、ハンドルの先端側の傾斜を近似するローラ支持軸の軸線は、ハンドルの基端側の傾斜を近似するハンドル中心線に対して、一定の角度をもって傾斜(前傾)する状態が実現できていることが明らかである。

そして、請求人が提出した証拠方法(甲2ないし4事項、及び甲5-3事項を参照)によれば、側面視におけるハンドル形状を屈曲形状にして、美容器の操作性を向上させることは、本件原出願の出願時において技術水準にあり、ハンドル形状を屈曲形状にするに当たって、ハンドルの基端側の傾斜角よりも先端側の傾斜角を大きくすることは、単なる設計事項にすぎないものであると認める。

そうすると、審決甲1発明のハンドル形状について、かかる設計事項を適用して、ハンドルの基端側の傾斜角よりも先端側の傾斜角を大きくし、もって、相違点3に係る本件訂正発明の構成C(具体的には構成C-1ないしC-5)とすることは、当業者にとって容易である。

エ 本件訂正発明の効果について
本件訂正発明の効果は、審決甲1発明、甲5-1ないし5-2事項、甲8事項及び周知技術を組み合わせることによってごく自然に得られるものであって、格別顕著なものとはいえない。

オ 小括
したがって、本件訂正発明は、審決甲1発明、甲5-1ないし5-2事項、甲8事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、無効理由1-8-3によって、本件訂正発明に係る特許は、無効とすべきものである。

第8 むすび
以上のとおり、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。
また、本件特許に係る出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当する。
したがって、本件特許は、他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
美容器
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハンドルに設けられたマッサージ用のボールにて、顔、腕等の肌をマッサージすることにより、血流を促したりして美しい肌を実現することができる美容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の美容器が種々提案されており、例えば特許文献1には美肌ローラが開示されている。すなわち、この美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角をなすように設定されている。さらに、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されている。そして、この美肌ローラの柄を手で把持してローラを肌に対して一方向に押し付けると肌は引っ張られて毛穴が開き、押し付けたまま逆方向に引っ張ると肌はローラ間に挟み込まれて毛穴が収縮する。従って、この美肌ローラによれば、効率よく毛穴の汚れを除去することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-142509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成の美肌ローラでは、柄の中心線と両ローラの回転軸が一平面上にあることから(特許文献1の図2参照)、美肌ローラの柄を手で把持して両ローラを肌に押し当てたとき、肘を上げ、手先が肌側に向くように手首を曲げて柄を肌に対して直立させなければならない。このため、美肌ローラの操作性が悪い上に、手首角度により肌へのローラの作用状態が大きく変化するという問題があった。
【0005】
また、この美肌ローラの各ローラは楕円筒状に形成されていることから、ローラを一方向に押したとき、肌の広い部分が一様に押圧されることから、毛穴の開きが十分に得られない。さらに、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラ間に位置する肌がローラの長さに相当する領域で引っ張られることから、両ローラによって強く挟み込まれ難い。その結果、毛穴の開きや収縮が十分に行われず、毛穴の汚れを綺麗に除去することができないという問題があった。加えて、ローラが楕円筒状に形成されているため、肌に線接触して肌に対する抵抗が大きく、動きがスムーズではなく、しかも移動方向が制限されやすい。従って、美肌ローラの操作性が悪いという問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好な美容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、前記ハンドルの湾曲は、美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており、前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており、前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の美容器によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の美容器においては、ハンドルの先端部に一対のボールが相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持され、前記ハンドルは、側面視において山なりの湾曲形状をなし、前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつくなっている。このため、ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるときに手首を曲げる必要がなく、手首を真直ぐにした状態で、美容器を往動させたときには肌を押圧することができるとともに、美容器を復動させたときには肌を摘み上げることができる。
【0009】
また、肌に接触する部分が筒状のローラではなく、真円状のボールで構成されていることから、ボールが肌に対して局部接触する。従って、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度も高い。
【0010】
よって、本発明の美容器によれば、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好であるという効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における美容器を示す斜視図。
【図2】美容器を示す平面図。
【図3】美容器の使用状態を示す側面図。
【図4】美容器を示す正面図。
【図5】美容器の両ボールの軸線を含む面を水平にしたときの平面図。
【図6】美容器を示す縦断面図。
【図7】美容器のボールの回転機構を示す断面図。
【図8】美容器の別例を示す正面図。
【図9】別例の美容器におけるボールを示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明を具体化した美容器の実施形態を図1?図7に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の美容器10を構成するハンドル11の先端には平面Y字型に延びる二股部11aが設けられている。図6に示すように、このハンドル11は、ABS樹脂等の合成樹脂により形成された電気絶縁性の基材12と、その基材12の外周に被覆された上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13bよりなるハンドルカバー13とにより構成されている。これらの上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13bはそれぞれ合成樹脂により形成され、その外表面に導電性のメッキが施されるとともに、両ハンドルカバー13は複数のねじ14により基材12と連結されている。
【0013】
図7に示すように、前記ハンドル11の二股部11aにおいて基材12には一対の支持筒16が一体形成されており、この支持筒16には金属製のボール支持軸15が支持されている。ハンドル11の二股部11aの先端外周には、合成樹脂よりなる円筒状のキャップ18が嵌着されている。このキャップ18の嵌着により、二股部11aの先端がシールされるとともに、ボール支持軸15のがたつきが防止され、かつ二股部11aの外表面と、後述するボール17の外表面との導電部間の電気絶縁性が確保されている。
【0014】
前記ボール支持軸15の突出端部には、合成樹脂よりなり、内外周に金属メッキを施した円筒状の軸受部材19が嵌合され、ストップリング25により抜け止め固定されている。この軸受部材19の外周には、一対の弾性変形可能な係止爪19aが突設されている。前記ボール支持軸15上の軸受部材19には、球状をなすボール17が回転可能に嵌挿支持されている。このボール17は、合成樹脂よりなる芯材26と、その芯材26の先端内周に嵌着された合成樹脂よりなるキャップ材27と、芯材26の外周に被覆成形された合成樹脂よりなる外皮材28とより構成されている。
【0015】
前記外皮材28の外表面には、導電部としての導電金属メッキが施され、軸受部材19の金属メッキと電気接続されている。芯材26の内周には軸受部材19の係止爪19aに係合可能な段差部26aが形成されている。そして、ボール17が軸受部材19に嵌挿された状態で、係止爪19aが段差部26aに係合され、ボール17が軸受部材19に対して抜け止め保持されている。また、図3及び図4に示すように、各ボール17の外周面には、肌20の組織に刺激を与える多数の面17aが形成されている。
【0016】
前記各ボール17の内部には、ボール17の回転に伴って発電を行うための永久磁石22が配置されている。この永久磁石22は磁石鋼により円筒状に形成され、ボール17と一体回転可能に構成されている。そして、ボール17の回転に伴い、永久磁石22がボール支持軸15に対してわずかな間隔を隔てて相対回転されることにより、ボール支持軸15表面の微細な凹凸や真円度のわずかな偏り等に起因して微小電力が発生し、その微小電力がボール17外周面の導電部に伝えられるようになっている。
【0017】
図2及び図6に示すように、前記ハンドル11の先端側、つまり二股部11aの付け根側には透明板23が設けられ、その内側には太陽電池パネル24が設置され、この太陽電池パネル24の図示しない出力端子がハンドル11及びボール17の導電部に接続されている。このため、太陽電池パネル24で発電された電力がハンドル11及びボール17の導電部に供給されるようになっている。従って、美容器10の使用時にはハンドル11とボール17との間の太陽電池パネル24の電気が人体を通じて流れ、美容上の効果を得ることができる。
【0018】
本実施形態の美容器10は、前述のように顔に適用できるほか、それ以外の首、腕、脚等の体(ボディ)にも適用することができる。
図3に示すように、美容器10の往復動作中にボール支持軸15の軸線が肌20面に対して一定角度を維持できるように、ボール支持軸15の軸線がハンドル11の中心線xに対して前傾するように構成されている。具体的には、前記ハンドル11の中心線(ハンドル11の最も厚い部分の外周接線zの間の角度を二分する線と平行な線)xに対するボール17の軸線yすなわちボール支持軸15の軸線yの側方投影角度αは、ボール17がハンドル11の中心線xに対し前傾して操作性を良好にするために、90?110度であることが好ましい。この側方投影角度αは93?100度であることがさらに好ましく、95?99度であることが最も好ましい。この側方投影角度αが90度より小さい場合及び110度より大きい場合には、ボール支持軸15の前傾角度が過小又は過大になり、ボール17を肌20に当てる際に肘を立てたり、下げたり、或いは手首を大きく曲げたりする必要があって、美容器10の操作性が悪くなるとともに、肌20面に対するボール支持軸15の角度の調節が難しくなる。
【0019】
図5に示すように、一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、ボール17の往復動作により肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させるために、好ましくは50?110度、さらに好ましくは50?90度、特に好ましくは65?80度に設定される。この開き角度βが50度を下回る場合には、肌20に対する摘み上げ効果が強く作用し過ぎる傾向があって好ましくない。その一方、開き角度βが110度を上回る場合には、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。
【0020】
また、各ボール17の直径Lは、美容器10を主として顔や腕に適用するために、好ましくは15?60mm、より好ましくは32?55mm、特に好ましくは38?45mmに設定される。ボール17の直径Lが15mmより小さい場合、押圧効果及び摘み上げ効果を発現できる肌20の範囲が狭くなり好ましくない。一方、ボール17の直径Lが60mmより大きい場合、顔や腕の大きさに対してボール17の大きさが相対的に大きいことから、狭い部分を押圧したり、摘み上げたりすることが難しく、使い勝手が悪くなる。
【0021】
さらに、ボール17の外周面間の間隔Dは、特に肌20の摘み上げを適切に行うために、好ましくは8?25mm、さらに好ましくは9?15mm、特に好ましくは10?13mmである。このボール17の外周面間の間隔Dが8mmに満たないときには、ボール17間に位置する肌20に対して摘み上げ効果が強く作用し過ぎて好ましくない。一方、ボール17の外周面間の間隔Dが25mmを超えるときには、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。
【0022】
次に、前記のように構成された実施形態の美容器10について作用を説明する。
さて、この美容器10の使用時には、図3に示すように、使用者がハンドル11を把持した状態で、ボール17の外周面を図3の二点鎖線に示す顔、腕等の肌20に押し当てて接触させながらハンドル11の基端から先端方向へ往動(図3の左方向)させると、ボール17がボール支持軸15を中心にして回転される。このとき、図3の二点鎖線に示すように、肌20にはボール17から押圧力が加えられる。ボール17を往動させた後、ボール17を元に戻すように復動させると、図4の二点鎖線に示すようにボール17間に位置する肌20がボール17の回転に伴って摘み上げられる。
【0023】
すなわち、図5に示すように、両ボール17が矢印P1方向に往動される場合、各ボール17は矢印P2方向に回転される。このため、肌20が押し広げられるようにして押圧される。一方、両ボール17が矢印Q1方向に復動される場合、各ボール17は矢印Q2方向に回転される。このため、両ボール17間に位置する肌20が巻き上げられるようにして摘み上げられる。なお、往動時において両ボール17が肌20を押圧することにより、その押圧力の反作用として両ボール17間の肌20が摘み上げられる。
【0024】
この場合、ボール支持軸15がハンドル11の中心線xに対して前傾しており、具体的にはハンドル11の中心線xに対するボール支持軸15の側方投影角度αが90?110度に設定されていることから、肘を上げたり、手首をあまり曲げたりすることなく美容器10の往復動作を行うことができる。しかも、ボール支持軸15の軸線yを肌20面に対して直角に近くなるように維持しながら操作を継続することができる。そのため、肌20に対してボール17を有効に押圧してマッサージ作用を効率良く発現することができる。
【0025】
また、肌20に接触する部分が従来の筒状のローラではなく、真円状のボール17で構成されていることから、ボール17が肌20に対してローラより狭い面積で接触する。そのため、ボール17は肌20の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用させることができると同時に、肌20に対してボール17の動きがスムーズで、移動方向も簡単に変えることができる。
【0026】
従って、このボール17の回転に伴う押圧力により、顔、腕等の肌20がマッサージされてその部分における血流が促されるとともに、リンパ液の循環が促される。また、一対のボール17の開き角度βが50?110度に設定されるとともに、ボール17の外周面間の間隔Dが8?25mmに設定されていることから、所望とする肌20部位に適切な押圧力を作用させることができると同時に、肌20の摘み上げを強過ぎず、弱過ぎることなく心地よく行うことができる。さらに、ボール17の直径Lが15?60mmに設定されていることから、顔や腕に対して適切に対応することができ、美容器10の操作を速やかに進めることができる。このため、例えば肌20の弛んだ部分に対してリフトアップマッサージを思い通りに行うことができる。
【0027】
加えて、ボール17の押圧力により肌20が引っ張られたときには毛穴が開き、肌20がボール17間に摘み上げられたときには毛穴が収縮し、毛穴内の汚れが取り除かれる。その上、使用者の肌20がボール17の外周面に接触しているとともに、使用者の手がハンドル11表面の導電部に接触していることから、太陽電池パネル24で発電された電力により、図3に示すようにボール17から肌20及び使用者の手を介して微弱電流が流れて肌20を刺激し、血流の促進やリンパ液の循環促進が図られる。よって、これらのマッサージ作用、押圧・摘み上げ作用、リフトアップ作用、毛穴の汚れ取り作用、電気刺激作用等の作用が肌20に対して相乗的、複合的に働き、望ましい美肌作用が発揮される。
【0028】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の美容器10では、一対のボール17が相互間隔をおいて各軸線yを中心に回転可能に支持され、ボール支持軸15がハンドル11の中心線xに対して前傾するように、ハンドル11の中心線xに対するボール17の軸線yの側方投影角度αが90?110度に設定されている。すなわち、ボール17の軸線yはハンドル11の中心線xに対して前傾していることから、ハンドル11を把持して一対のボール17を肌20に当てるときに大きく肘を上げたり、手首を曲げたりする必要がない。このため、楽に美容器10を往復動させて肌20を押圧及び摘み上げることができる。
【0029】
また、肌20に接触する部分が真円状のボール17で構成されていることから、肌20の所望箇所に押圧力や摘み上げ力を集中的に働かせることができるとともに、肌20に対するボール17の動きをスムーズにでき、かつ移動方向の自由度も高い。
【0030】
よって、本実施形態の美容器10によれば、肌20に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好であるという効果を発揮することができる。
(2)ボール17の軸線yの側方投影角度αが好ましくは93?100度、さらに好ましくは95?99度であることにより、美容器10の操作性及びマッサージ効果等の美容効果を一層向上させることができる。
(3)一対のボール17の開き角度βが好ましくは50?110度、さらに好ましくは50?90度、特に好ましくは65?80度であることにより、美容器10の押圧効果と摘み上げ効果を格段に向上させることができる。
(4)ボール17の直径Lが好ましくは15?60mm、さらに好ましくは32?55mm、特に好ましくは38?45mmであることにより、美容器10を顔や腕に対して好適に適用することができ、マッサージ効果や操作性を高めることができる。
(5)ボール17の外周面間の間隔Dを好ましくは8?25mm、さらに好ましくは9?15mm、特に好ましくは10?13mmであることにより、所望の肌20部位に適切な押圧効果を得ることができると同時に、肌20の摘み上げを適度な強さで心地よく行うことができる。
(6)この美容器10においては、電源がハンドル11に設けられた太陽電池パネル24より構成されている。このため、乾電池等の電源を設ける必要がなく、太陽電池パネル24で発電された電力を利用して、ボール17から肌20に微弱電流を流すことができる。
(7)本実施形態の美容器10においては、ボール17の回転に伴って発電を行うための永久磁石22が配置されている。従って、ボール17の回転に基づいて微小電力を得ることができ、その微小電力によってボール17から肌20に微弱電流を与えることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1?6、側方投影角度αの評価)
前記実施形態に示した顔と体の双方用に適する美容器10において、ボール17の開き角度βを70度、ボール17の直径Lを40mm及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmに設定し、側方投影角度αを90?110度まで変化させて側方投影角度αの評価を実施した。すなわち、美容器10を顔又は腕、首等の体に対して適用し、その使用感について官能評価を行った。
【0032】
官能評価の方法は、美容器10を使用する評価者を10人とし、それらのうち8人以上が良いと感じた場合には◎、5?7人が良いと感じた場合には○、3人又は4人が良いと感じた場合には△、2人以下が良いと感じた場合には×とすることにより行った。
【0033】
それらの結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

表1に示したように、側方投影角度αが97度の実施例3及び99度の実施例4の結果が最も良好であった。次いで、側方投影角度αが93度の実施例2及び100度の実施例5の結果が良好であった。さらに、側方投影角度αが90度の実施例1及び110度の実施例6の結果も可能と判断された。
【0035】
従って、美容器10の側方投影角度αは90?110度の範囲が好ましく、93?100度の範囲がさらに好ましい範囲であると認められた。
(実施例7?15、開き角度βの評価)
顔と体の双方用に適する美容器10について、開き角度βを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の直径Lを40mm及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、開き角度βを40?120度まで変化させて開き角度βの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示した。
【0036】
【表2】

表2に示したように、開き角度βが70度の実施例11の結果が最も良好であった。続いて、開き角度βが50?60度の実施例8?10及び90?110度の実施例12?14の結果が良好であった。さらに、開き角度βが40度の実施例7及び120度の実施例15の結果が可能と判断された。
【0037】
従って、美容器10の開き角度βは50?110度の範囲が好ましく、65?80度の範囲が最も好ましいと認められた。
(実施例16?23、ボール17の直径Lの評価)
顔と体の双方用に適する美容器10について、ボール17の直径Lを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、ボール17の直径Lを20?40mmまで変化させてボール17の直径Lの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表3に示した。
【0038】
【表3】

表3に示したように、ボール17の直径Lが38.3mmの実施例22及び40mm実施例23の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の直径Lが35mmの実施例21の結果が良好であった。さらに、ボール17の直径Lが20?31.5mmの実施例16?20の結果も可能と判断された。
【0039】
従って、美容器10のボール17の直径Lは20?40mmの範囲が好ましく、35?40mmの範囲がさらに好ましく、38.3?40mmの範囲が最も好ましいと認められた。
(実施例24?28、ボール17の外周面間の間隔Dの評価)
顔と体の双方用に適する美容器10について、ボール17の外周面間の間隔Dを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の直径Lを40mmとして、ボール17の外周面間の間隔Dを8?15mmまで変化させてボール17の外周面間の間隔Dの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表4に示した。
【0040】
【表4】

表4に示したように、ボール17の外周面間の間隔Dが11mmの実施例26の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の外周面間の間隔Dが10mmの実施例25及び12mmの実施例27の結果が良好であった。さらに、ボール17の外周面間の間隔Dが8mmの実施例24及び15mmの実施例28の結果も可能と判断された。
【0041】
従って、美容器10のボール17の外周面間の間隔Dは8?15mmの範囲が好ましく、10?12mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例29?38、ボール17の直径Lの評価)
主として顔用に適する美容器10について、ボール17の直径Lを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、ボール17の直径Lを15?40mmまで変化させてボール17の直径Lの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表5に示した。
【0042】
【表5】

表5に示したように、美容器10が顔用のものである場合には、ボール17の直径Lが25mmの実施例32及び27.5mm実施例33の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の直径Lが15?20mmの実施例29?31及びボール17の直径Lが30mmの実施例34の結果が良好であった。さらに、ボール17の直径Lが32.5?40mmの実施例35?38の結果も可能と判断された。
【0043】
従って、美容器10が顔用に適する場合、ボール17の直径Lは15?40mmの範囲が好ましく、15?30mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例39?44、ボール17の外周面間の間隔Dの評価)
主として顔用に適する美容器10について、ボール17の外周面間の間隔Dを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の直径Lを40mmとして、ボール17の外周面間の間隔Dを6?15mmまで変化させてボール17の外周面間の間隔Dの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表6に示した。
【0044】
【表6】

表6に示したように、美容器10が顔用の場合、ボール17の外周面間の間隔Dが11mmの実施例42の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の外周面間の間隔Dが8mmの実施例40、10mmの実施例41及び12mmの実施例43の結果が良好であった。さらに、ボール17の外周面間の間隔Dが6mmの実施例39及び15mmの実施例44の結果も可能と判断された。
【0045】
従って、美容器10が顔用である場合、ボール17の外周面間の間隔Dは6?15mmの範囲が好ましく、8?12mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例45?51、ボール17の直径Lの評価)
主として体用に適する美容器10について、ボール17の直径Lを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、ボール17の直径Lを30?60mmまで変化させてボール17の直径Lの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表7に示した。
【0046】
【表7】

表7に示したように、ボール17の直径Lが50mmの実施例50及び60mm実施例51の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の直径Lが38.3mmの実施例48及びボール17の直径Lが40mmの実施例49の結果が良好であった。さらに、ボール17の直径Lが30?35mmの実施例45?47の結果も可能と判断された。
【0047】
従って、美容器10が体用の場合、ボール17の直径Lは30?60mmの範囲が好ましく、38.3?60mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例52?58、ボール17の外周面間の間隔Dの評価)
主として体用に適する美容器10について、ボール17の外周面間の間隔Dを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の直径Lを40mmとして、ボール17の外周面間の間隔Dを8?25mmまで変化させてボール17の外周面間の間隔Dの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表8に示した。
【0048】
【表8】

表8に示したように、ボール17の外周面間の間隔Dが12mmの実施例55及び15mmの実施例56の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の外周面間の間隔Dが10?11mmの実施例53、実施例54及び20?25mmの実施例57及び実施例58の結果が良好であった。さらに、ボール17の外周面間の間隔Dが8mmの実施例52の結果も可能と判断された。
【0049】
従って、美容器10が体用である場合、ボール17の外周面間の間隔Dは8?25mmの範囲が好ましく、10?25mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
以上に示した実施例1?58の結果を総合すると、美容器10の側方投影角度αは90?110度であることが必要であり、93?100度が好ましく、95?99度が特に好ましいと判断された。ボール17の開き角度βは50?110度が好ましく、50?90度がさらに好ましく、65?80度が特に好ましいと判断された。ボール17の直径Lは15?60mmが好ましく、32?55mmがさらに好ましく、38?45mmが特に好ましいと判断された。ボール17の外周面間の間隔Dは8?25mmが好ましく、9?15mmがさらに好ましく、10?13mmが特に好ましいと判断された。
【0050】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図8及び図9に示すように、前記ボール17の形状を、ボール17の外周面のハンドル11側の曲率がボール支持軸15の先端側の曲率よりも小さくなるようにバルーン状に形成することもできる。このように構成した場合には、曲率の大きな部分で肌を摘み上げ、曲率の小さな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる。
【0051】
・ 前記ハンドル11の中心線xに対するボール17の軸線yの側方投影角度αを可変にするために、ハンドル11とその二股部11aとの間を回動可能に構成することも可能である。この場合、肌20に対するボール17の軸線yの角度を容易に変更することができ、使い勝手を良くすることができる。
【0052】
・ 前記ボール17の形状を、断面楕円形状、断面長円形状等に適宜変更することも可能である。
・ 前記ボール17の外周部に磁石を埋め込み、その磁力により肌20に対して血流を促すように構成することもできる。
【0053】
・ 前記ボール17の外周部に酸化チタン等の光触媒を埋め込み、肌表面への汚れの付着を抑制したり、汚れを酸化したりするように構成することも可能である。
・ 前記ボール17に遠赤外線を発するアルミナ系やジルコニウム系のセラミックを含ませて、肌20に遠赤外線を当てるように構成することもできる。
【0054】
・ 前記太陽電池パネル24に代えて乾電池を使用することも可能である。
・ 前記上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13bの導電性メッキを省略し、上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13b自体をカーボンブラック、金属等の導電性粉末が合成樹脂に分散された導電性樹脂で形成することができる。
【0055】
・ 前記ハンドル11の基材12、ハンドルカバー13等を形成する電気絶縁材料としては、ナイロン樹脂、ABS樹脂のほか、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂を用いることも可能である。
【0056】
・ 前記ボール17の面17aの形状を、三角形以外の多角形や円形に形成することもできる。また、この面17aを縦縞模様、横縞模様、旋回縞模様、梨地模様、模様無し等に形成することもできる。
【0057】
・ 前記永久磁石22や太陽電池パネル24を省略することも可能である。
・ 前記ハンドル11の形状を変更することもできる。例えば、円筒状、円柱状、角柱状等に変更することができる。その場合には、側方投影角度αは、ハンドル11の軸線に対する角度となる。その他、凸凹状、ひょうたん状等に変更することも可能である。
【0058】
・ 前記軸受部材19を導電性樹脂で形成することもできる。
【符号の説明】
【0059】
10…美容器、11…ハンドル、17…ボール、20…肌、x…中心線、y…軸線、α…側方投影角度、β…ボールの開き角度、L…ボールの直径、D…ボールの外周面間の間隔。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記ハンドルは、側面視において全体が山なりの湾曲形状をなし、
前記ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりも先端側がきつく、
前記ハンドルの湾曲は、
美容器を水平台に載置したときの側面視における水平台を水平基準線として、
水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角がハンドルの先端側の湾曲であり、
水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角がハンドルの基端側の湾曲であり、
前記水平基準線に対する支持軸の軸線の傾斜角が、前記水平基準線に対する、ハンドルの最も厚い部分の外周接線の間の角度を二分する線と平行な線の傾斜角よりも大きいことにより、ハンドルの湾曲は、ハンドルの基端側よりもハンドルの先端側がきつくなっており、
前記ボールの形状は、ボールの外周面のハンドル側の曲率が支持軸の先端側の曲率より小さくなるように形成されており、
前記ボールは、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-01-16 
結審通知日 2018-01-22 
審決日 2018-02-07 
出願番号 特願2015-165494(P2015-165494)
審決分類 P 1 113・ 841- ZAA (A61H)
P 1 113・ 537- ZAA (A61H)
P 1 113・ 855- ZAA (A61H)
P 1 113・ 121- ZAA (A61H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 平瀬 知明
根本 徳子
登録日 2015-11-20 
登録番号 特許第5840320号(P5840320)
発明の名称 美容器  
代理人 ▲高▼山 嘉成  
代理人 小林 徳夫  
代理人 冨宅 恵  
代理人 小林 徳夫  

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