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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16H
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16H
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16H
管理番号 1341317
審判番号 訂正2018-390033  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-02-15 
確定日 2018-05-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5076887号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5076887号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5076887号(以下、「本件特許」という。)は、平成19年12月28日(優先権主張 平成18年12月29日)の出願(特願2007-341225号)であって、その請求項1ないし3に係る発明について、平成24年9月7日に特許権の設定登録がされ、平成30年2月15日に本件訂正審判の請求がなされ、平成30年3月16日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年3月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 審判請求書及び訂正明細書の補正及びその適否
当審において平成30年3月16日付けの訂正拒絶理由で、訂正事項2は特許法第126条第1項ただし書各号のいずれをも目的としたものでない旨を通知した。

この訂正拒絶理由に対し、特許権者は平成30年3月30日付けで意見書並びに審判請求書及び訂正明細書を補正する手続補正書を提出した。当該手続補正書による補正の内容は、以下のとおりである。

1 訂正事項2の削除
審判請求書に添付された訂正明細書の段落【0045】?【0051】の記載を本件訂正審判の請求前の記載に戻すとともに、審判請求書の「6 請求の理由」の「(2)訂正事項」から「イ 訂正事項2」を削除し、「(3)訂正の理由」の「ア 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」から「(イ)訂正事項2」を削除する。

上記「1 訂正事項2の削除」は、審判請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、上記補正を認める。
そして、当審による訂正拒絶理由は解消した。

第3 審判請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の趣旨は、「特許第5076887号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」ものであり、その訂正の内容は次のとおりである。(下線は特許権者が付した。)

1 訂正事項1
明細書段落【0013】、同【0014】、同【0017】、同【0019】、同【0021】並びに同【0052】の【図1】、【図2】及び【図5】の「実施形態」との記載を「参考形態」に訂正する。

第4 当審の判断
1 訂正事項1
(1)訂正の目的
訂正前の明細書の段落【0013】?【0023】及び【図1】?【図5】には、1個の鉄粉濃度計を具備し、2個の鉄粉濃度計を具備せず、ナット内の圧力を検出する圧力センサも具備しないねじ装置に関する第1の実施形態が記載されているが、請求項1に係る発明は2個の鉄粉濃度計を具備するねじ装置であり、請求項2及び3に係る発明はナット内の圧力を検出する圧力センサも具備するねじ装置であるから、訂正前の第1の実施形態に関する記載は特許請求の範囲と一致せず、不明瞭となっている。
訂正事項1は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、訂正前明細書段落【0013】、同【0014】、同【0017】、同【0019】、同【0021】並びに同【0052】の【図1】、【図2】及び【図5】の「実施形態」との記載を「参考形態」に訂正することで、訂正前の第1の実施形態を第1の参考形態に改め、特許請求の範囲に含まれないことを明瞭にするものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載されているが、特許請求の範囲に含まれない態様を「参考形態」に訂正するだけであって、何ら新規事項を追加するものではないから、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項1に係る訂正は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項及び第6項の規定を満たすものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ねじ装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、ローラねじ等のねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ、ローラねじ等のねじ装置は、一般に、ナットと、ナット内を挿通するねじ軸とを有しており、ナットの内周面に形成されたねじ溝とねじ軸の外周面に形成されたねじ溝との間には、球状またはローラ状に形成された多数の転動体が組み込まれている。
このようなねじ装置は塵埃などの異物がナット内に入り込むと、転動体の円滑な転がり運動が阻害される。そこで、ナット内への異物の侵入を防止するために、ねじ軸のねじ溝に接触してナット内を密封する環状シール体をナットの両端に設けたものが知られている。
【0003】
また、このようなねじ装置はナットの潤滑剤供給孔からナット内に供給された潤滑剤が枯渇したりすると、焼付きが生じる原因となることから、ナット内に潤滑剤を定期的に補給する必要がある。
ねじ装置のナット内に潤滑剤を補給する方法としては、ねじ軸をナットに対して軸回りに相対的に回転させてナットを軸方向に相対移動させつつ、ナットとねじ軸との間に形成された潤滑剤保持空間に潤滑剤を供給するようにした方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11-118017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した方法は潤滑剤をナット内に手動により補給する方法であるため、潤滑剤の鉄粉濃度や劣化度を迅速に検出してねじ装置の異常を故障前に検知することが困難であった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ナット内に供給された潤滑剤の鉄粉濃度や潤滑剤の油分率を検知することが可能なねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明に係るねじ装置は、ナット内を挿通するねじ軸のねじ溝に接触して前記ナット内を密封する環状シール体を、前記ナットまたは前記ナットの両端部に装着されたシールキャップに設けたねじ装置において、前記ナットまたは前記シールキャップに潤滑剤供給孔と潤滑剤排出孔を設け、前記潤滑剤供給孔から前記ナット内に潤滑剤を補給する潤滑剤補給ユニットと、前記潤滑剤排出孔から排出された潤滑剤の鉄粉濃度を計測する鉄粉濃度計と、前記鉄粉濃度計で計測された鉄粉濃度に基づいて前記潤滑剤補給ユニットを制御する制御手段と、前記潤滑剤排出孔から排出された潤滑剤を濾過して鉄粉を除去するフィルタ装置と、このフィルタ装置を通過した潤滑剤を前記潤滑剤補給ユニットに供給する潤滑剤供給管と、前記フィルタ装置を通過した後の潤滑剤の鉄粉濃度を計測する第2の鉄粉濃度計と、を具備し、前記制御手段は、前記フィルタ装置を通過する前の潤滑剤の鉄粉濃度と前記フィルタ装置を通過した後の潤滑剤の鉄粉濃度との濃度差が予め設定された閾値を上回ったときにフィルタ交換信号を出力することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明に係るねじ装置は、ナット内を挿通するねじ軸のねじ溝に接触して前記ナット内を密封する環状シール体を、前記ナットまたは前記ナットの両端部に装着されたシールキャップに設けたねじ装置において、前記ナットまたは前記シールキャップに潤滑剤供給孔と潤滑剤排出孔を設け、前記潤滑剤供給孔から前記ナット内に潤滑剤を補給する潤滑剤補給ユニットと、前記潤滑剤排出孔に接続された潤滑剤吸引ユニットと、前記潤滑剤が封入される前記ナット内の圧力を検出する圧力センサと、該圧力センサから出力された信号に基づいて前記潤滑剤吸引ユニットを制御する制御手段とを具備したことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明に係るねじ装置は、請求項2記載のねじ装置において、前記制御手段は、前記圧力センサで検出されたナット内圧力が予め設定された上限値を超えたときに吸引開始信号を前記潤滑剤吸引ユニットに出力し、前記圧力センサで検出されたナット内圧力が予め設定された下限値を下回ったときに吸引終了信号を前記潤滑剤吸引ユニットに出力するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るねじ装置によれば、ナットまたはシールキャップに潤滑剤供給孔と潤滑剤排出孔を設けたことにより、ナット内に供給された潤滑剤の鉄粉濃度や潤滑剤の油分率を検知することが可能となり、潤滑剤の鉄粉濃度が上昇して異常摩耗等が発生したり潤滑剤の油分率が低下して異常摩耗等が発生したりすることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るねじ装置を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1の参考形態に係るねじ装置の概略構成を示す図、図2は同参考形態に係るねじ装置の一部を示す図であり、第1の参考形態に係るねじ装置はナット11及びねじ軸12を備えている。
ナット11は円筒状に形成されており、ナット11内を挿通するねじ軸12の外周面には、螺旋状の転動体転動溝13がねじ軸12の一端部から他端部に亘って形成されている。この転動体転動溝13はナット11の内周面に形成された転動体転動溝14と対向しており、これら転動体転動溝13,14の間には、多数の転動体(図示せず)が組み込まれている。
【0014】
第1の参考形態に係るねじ装置は、また、円筒状のシールキャップ15をナット11の両端部に有している。これらのシールキャップ15は複数本の尖り螺子16によってナット11の両端部に装着されており、ナット11の両端部には、尖り螺子16と螺合する複数の螺孔17がナット11の径方向に沿って穿設されている。
シールキャップ15は円環状のシール取付け面151を軸方向の一端に有しており、このシール取付け面151には、ねじ軸12の外周面に形成された転動体転動溝13のフランク(溝面)に接触してナット11の内部(ねじ軸12とナット11との間の空間部)を密封する環状シール体18が複数の螺子19によって取り付けられている。
【0015】
図3はナット11の軸方向断面図であり、同図に示されるように、ナット11には、ナット11の内部(ねじ軸12とナット11との間の空間部)に潤滑剤を供給するための潤滑剤供給孔20a,20bが穿設されている。
図4はシールキャップ15の軸方向断面図であり、同図に示されるように、シールキャップ15には、ナット11の内部(ねじ軸12とナット11との間の空間部)に封入された潤滑剤をナット11の外部に排出するための潤滑剤排出孔21が穿設されている。
【0016】
潤滑剤排出孔21は、潤滑剤排出孔21での潤滑剤の圧力損失が潤滑剤供給孔20a,20bでの潤滑剤の圧力損失より小さくなるように、シールキャップ15に設けられている。具体的には、潤滑剤排出孔21は、ねじ軸中心線から法線方向に見て断面積の和が潤滑剤供給孔20a,20bの最小断面積の和より大きくなるように、シールキャップ15に設けられている。したがって、潤滑剤排出孔21の合計の流路抵抗は潤滑剤供給孔20a,20bの合計の流路抵抗より小さくなっている。
【0017】
第1の参考形態に係るねじ装置は、また、ちょう度が0番?000番(好ましくは、0番?00番)の潤滑剤(主にグリース)を潤滑剤供給孔20a,20bからナット11内(環状シール体18により密封されたねじ軸12とナット11との間の空間部)に補給する潤滑剤補給ユニット23(図1参照)と、この潤滑剤補給ユニット23を制御する制御手段としてのコントローラ24と、このコントローラ24からのアラーム信号により警報を発する警報装置25とを備えている。さらに、第1の参考形態に係るねじ装置は潤滑剤排出孔21から排出された潤滑剤の油分率を計測する油分率計26を備えており、この油分率計26から出力された信号は潤滑剤の油分率情報としてコントローラ24に供給されるようになっている。さらにまた、第1の参考形態に係るねじ装置は潤滑剤排出孔21から排出された潤滑剤の鉄粉濃度を計測する鉄粉濃度計27を備えており、この鉄粉濃度計27から出力された信号は潤滑剤の鉄粉濃度情報としてコントローラ24に供給されるようになっている。
【0018】
潤滑剤補給ユニット23は潤滑剤補給ユニット23の潤滑剤吐出ポンプから吐出される潤滑剤の吐出圧を検出する圧力センサを有しており、この圧力センサから出力された信号は、潤滑剤吐出ポンプの潤滑剤吐出口から潤滑剤が正常に吐出されたか否かを検知するために、コントローラ24に供給されている。
コントローラ24は図示を省略したが、中央演算処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)等からなり、リードオンリーメモリには、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率や鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度から潤滑剤の劣化等を判定するためのデータが閾値として格納されている。
【0019】
図5はコントローラ24の制御シーケンスを示す図であり、以下、同図を参照して第1の参考形態に係るねじ装置の作用について説明する。
図5に示すステップS1においてねじ装置が作動すると、コントローラ24はステップS2において油分率計26から出力された信号を取り込み、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率を予め設定された閾値と比較する。ここで、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が閾値(例えば50%)を下回ると、コントローラ24は潤滑剤が劣化したと判断し、ステップS3において潤滑剤補給開始信号を潤滑剤補給ユニット23に送出するとともに、アラーム信号を警報装置25に送出する。これにより、警報装置25から警報が発せられるとともに、潤滑剤補給ユニット23が作動し、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に潤滑剤が補給される。
【0020】
ステップS3においてコントローラ24から潤滑剤補給開始信号とアラーム信号が送出されると、コントローラ24はステップS6に進み、ねじ装置が作動停止状態であるか否かを判断する。ここで、ねじ装置が作動停止状態である場合は制御を終了し、ねじ装置が作動停止状態でない場合はステップS2に戻る。
ステップS2において油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が閾値を下回っていない場合は、コントローラ24はステップS4において鉄粉濃度計27から出力された信号を取り込み、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度を予め設定された閾値と比較する。ここで、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度が閾値(例えば1.0質量%、望ましくは0.5質量%)を上回ると、コントローラ24はステップS5において潤滑剤補給開始信号を潤滑剤補給ユニット23に送出するとともに、アラーム信号を警報装置25に送出する。これにより、警報装置25から警報が発せられるとともに、潤滑剤補給ユニット23が作動し、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に潤滑剤が補給される。
【0021】
ステップS5においてコントローラ24から潤滑剤補給開始信号とアラーム信号が送出されると、コントローラ24はステップS6に進み、ねじ装置が作動停止状態であるか否かを判断する。ここで、ねじ装置が作動停止状態である場合は制御を終了し、ねじ装置が作動停止状態でない場合はステップS2に戻る。
上述したように、第1の参考形態ではシールキャップ15に潤滑剤排出孔21を設けたことにより、潤滑剤の油分率や鉄粉濃度を検知することが可能となる。したがって、潤滑剤の劣化や潤滑剤に混入した鉄粉によって異常摩耗等が発生したりすることを防止することができる。
【0022】
また、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が予め設定された閾値を下回ると、コントローラ24から潤滑剤補給ユニット23に潤滑剤補給開始信号が送出され、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に潤滑剤が補給される。したがって、ナット11内に供給された潤滑剤の油分率が例えば50%以下に低下して異常摩耗等が発生したりすることを抑制することができる。
【0023】
さらに、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度が予め設定された閾値を上回ると、コントローラ24から潤滑剤補給ユニット23に潤滑剤補給開始信号が送出され、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に潤滑剤が補給される。したがって、ナット11内に供給された潤滑剤の鉄粉濃度が上昇して異常摩耗等が発生したりすることを抑制することができる。
【0024】
次に、図6?図8を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。
図6は本発明の第2の実施形態に係るねじ装置の概略構成を示す図、図7は同実施形態に係るねじ装置の一部を示す図であり、第2の実施形態に係るねじ装置はナット11及びねじ軸12を備えている。
ナット11は円筒状に形成されており、ナット11内を挿通するねじ軸12の外周面には、螺旋状の転動体転動溝13がねじ軸12の一端部から他端部に亘って形成されている。この転動体転動溝13はナット11の内周面に形成された転動体転動溝14と対向しており、これら転動体転動溝13,14の間には、多数の転動体(図示せず)が組み込まれている。
【0025】
第2の実施形態に係るねじ装置は、また、転動体転動溝13の溝面に接触してナット11の内部を密封する一対の環状シール体18を有しており、これらの環状シール体18はそれぞれ複数の螺子19によりナット11の両端面に取り付けられている。
図8はナット11の軸方向断面図であり、同図に示されるように、ナット11には、ナット11の内部に潤滑剤を供給するための潤滑剤供給孔20a,20bが穿設されているとともに、潤滑剤をナット11の外部に排出するための潤滑剤排出孔21が穿設されている。
【0026】
第2の実施形態に係るねじ装置は、また、ちょう度が0番?000番(好ましくは、0番?00番)の潤滑剤(主にグリース)を潤滑剤供給孔20a,20bからナット11内に補給する潤滑剤補給ユニット23(図6参照)と、潤滑剤補給ユニット23を制御する制御手段としてのコントローラ28と、コントローラ28からの潤滑剤交換信号により潤滑剤の交換を促す警報を発する警報装置25とを備えている。さらに、第2の実施形態に係るねじ装置は潤滑剤排出孔21から排出された潤滑剤の油分率を計測する油分率計26を備えており、この油分率計26から出力された信号は潤滑剤の油分率情報としてコントローラ28に供給されるようになっている。さらにまた、第2の実施形態に係るねじ装置は潤滑剤排出孔21から排出された潤滑剤の鉄粉濃度を計測する鉄粉濃度計27を備えており、この鉄粉濃度計27から出力された信号は潤滑剤の鉄粉濃度情報としてコントローラ28に供給されるようになっている。
【0027】
第2の実施形態に係るねじ装置は、また、油分率計26及び鉄粉濃度計27から排出された潤滑剤を濾過するフィルタ装置29と、フィルタ装置29で濾過された潤滑剤を潤滑剤補給ユニット23に供給する潤滑剤供給ライン30と、コントローラ28からのフィルタ交換信号によりフィルタの交換を促す警報を発する警報装置31とを備えており、潤滑剤供給ライン30には、フィルタ装置29で濾過された潤滑剤の鉄粉濃度を計測する鉄粉濃度計32が設けられている。
【0028】
潤滑剤補給ユニット23は潤滑剤補給ユニット23の潤滑剤吐出ポンプから吐出される潤滑剤の吐出圧を検出する圧力センサを有しており、この圧力センサから出力された信号は、潤滑剤吐出ポンプの潤滑剤吐出口から潤滑剤が正常に吐出されたか否かを検知するために、コントローラ28に供給されている。
コントローラ28は図示を省略したが、中央演算処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)等からなり、リードオンリーメモリには、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率や鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度から潤滑剤の劣化等を判定するためのデータが閾値として格納されている。
【0029】
図9はコントローラ28の制御シーケンスを示す図であり、以下、同図を参照して第2の実施形態に係るねじ装置の作用について説明する。
図9に示すステップS1においてねじ装置が作動すると、コントローラ28はステップS2において油分率計26から出力された信号を取り込み、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率を予め設定された閾値と比較する。ここで、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が例えば80%以下の場合はステップS3に進み、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が例えば50%以下であるか否かを判定する。
【0030】
ステップS3において油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が50%以下でない場合は、コントローラ28から潤滑剤補給ユニット23に補給量増加信号が出力される(ステップS4)。これにより、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に補給される潤滑剤の供給量が増加する。
また、ステップS3において油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が50%以上である場合は、コントローラ28から警報装置25に潤滑剤交換信号が出力される(ステップS5)。これにより、潤滑剤の交換を促す警報が警報装置25から発せられる。
【0031】
なお、ステップS5においてコントローラ28から潤滑剤補給ユニット23に補給量増加信号が出力されると、コントローラ28はステップS11においてねじ装置が作動停止状態であるか否かを判定し、ここでねじ装置が作動停止状態にない場合はステップS2に戻り、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率を予め設定された閾値と比較する。また、ステップS11においてねじ装置が作動停止状態にある場合は、コントローラ28は潤滑剤補給ユニット23に対する制御を終了する。
【0032】
ステップS2において油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が80%以下でない場合は、コントローラ28はステップS6において鉄粉濃度計27から出力された信号を取り込み、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度を予め設定された閾値と比較する。ここで、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度が例えば1.0質量%以上である場合は、コントローラ28から潤滑剤補給ユニット23に補給量増加信号が出力され(ステップS7)、これにより、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に補給される潤滑剤の供給量が増加する。
【0033】
なお、ステップS7においてコントローラ28から潤滑剤補給ユニット23に補給量増加信号が出力されると、コントローラ28はステップS11においてねじ装置が作動停止状態であるか否かを判定し、ここでねじ装置が作動停止状態にない場合はステップS2に戻り、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率を予め設定された閾値と比較する。また、ステップS11においてねじ装置が作動停止状態にある場合は、コントローラ28は潤滑剤補給ユニット23に対する制御を終了する。
【0034】
ステップS7において鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度が例えば1.0質量%以上でない場合は、コントローラ28はステップS8において鉄粉濃度計32から出力された信号を取り込む。そして、鉄粉濃度計27及び鉄粉濃度計32で計測された潤滑剤の鉄粉濃度差を算出し、算出した鉄粉濃度差を予め設定した閾値と比較する(ステップS9)。ここで、鉄粉濃度計27及び鉄粉濃度計32で計測された潤滑剤の鉄粉濃度差が閾値(例えば0.5質量%)を上回る場合は、コントローラ28から警報装置31にフィルタ交換信号が出力され(ステップS10)。これにより、フィルタの交換を促す警報が警報装置31から発せられる。
【0035】
なお、ステップS10においてコントローラ28から警報装置31にフィルタ交換信号が出力されると、コントローラ28はステップS11においてねじ装置が作動停止状態であるか否かを判定し、ここでねじ装置が作動停止状態にない場合はステップS2に戻り、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率を予め設定された閾値と比較する。また、ステップS11においてねじ装置が作動停止状態にある場合は、コントローラ28は潤滑剤補給ユニット23に対する制御を終了する。
【0036】
上述したように、第2の実施形態ではナット11に潤滑剤排出孔21を設けたことにより、潤滑剤の油分率や鉄粉濃度を検知することが可能となる。したがって、潤滑剤の劣化や潤滑剤に混入した鉄粉によって異常摩耗等が発生したりすることを防止することができる。
また、油分率計26で計測された潤滑剤の油分率が予め設定された閾値を下回ると、コントローラ28から潤滑剤補給ユニット23に補給量増加信号が送出され、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に供給される潤滑剤の供給量が増加する。したがって、ナット11内に供給された潤滑剤の油分率が例えば80%以下に低下して異常摩耗等が発生したりすることを抑制することができる。
【0037】
さらに、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度が予め設定された閾値を上回ると、コントローラ28から潤滑剤補給ユニット23に補給量増加信号が送出され、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に供給される潤滑剤の供給量が増加する。したがって、ナット11内に供給された潤滑剤の鉄粉濃度が上昇して異常摩耗等が発生したりすることを抑制することができる。
【0038】
また、鉄粉濃度計27で計測された潤滑剤の鉄粉濃度と鉄粉濃度計32で計測された潤滑剤の鉄粉濃度との偏差が予め設定された閾値を下回ると、コントローラ28から警報装置31にフィルタ交換信号が出力される。これにより、フィルタの交換を促す警報が警報装置31から発せられるため、鉄粉濃度の高い潤滑剤がフィルタ装置29から潤滑剤補給ユニット23に供給されることを抑制することができる。
【0039】
次に、図10?図12を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。なお、図1?図9に示したものと同一の部分には同一符号を付し、その部分の詳細な説明は割愛する。
図10は本発明の第3の実施形態に係るねじ装置の概略構成を示す図、図11は本発明の第3の実施形態に係るねじ装置の一部を示す断面図であり、図10に示されるように、第3の実施形態に係るねじ装置はナット11、ねじ軸12、潤滑剤補給ユニット23、油分率計26、鉄粉濃度計27、警報装置25,31を備えており、潤滑剤補給ユニット23はナット11に形成された潤滑剤供給孔20(図11参照)に接続されている。また、第3の実施形態に係るねじ装置はシールキャップ15の潤滑剤排出孔21(図11参照)に接続された潤滑剤吸引ユニット41と、潤滑剤が封入されたナット11内(環状シール体18により密封されたねじ軸12とナット11との間の空間部)の圧力を検出する圧力センサ42(図11参照)とを備えており、圧力センサ42から出力された信号は、潤滑剤吸引ユニット41を制御する制御手段としてのコントローラ43に供給されるようになっている。
【0040】
図12はコントローラ43の潤滑剤吸引時における制御シーケンスを示す図であり、同図に示されるように、コントローラ43はステップS1において圧力センサ42で検出されたナット内の圧力が予め設定された上限値を超えると、潤滑剤補給ユニット23からナット11内に供給された潤滑剤の封入量が多過ぎると判断し、潤滑剤吸引ユニット41に吸引開始信号を出力する(ステップS2)。そして、コントローラ43から吸引開始信号が出力されると、潤滑剤吸引ユニット41が作動することによって、ナット11内に供給された潤滑剤が潤滑剤吸引ユニット41によってナット11の外部に吸引される。
【0041】
潤滑剤吸引ユニット41が作動すると、コントローラ43は圧力センサ42から出力された信号を取り込み、圧力センサ42で検出されたナット内圧力と予め設定された下限値とを比較する(ステップS3)。ここで、圧力センサ42で検出されたナット内圧力が下限値に達すると、コントローラ43は潤滑剤が供給されたナット11内の圧力が適正圧になったと判断し、潤滑剤吸引ユニット41に吸引終了信号を出力する(ステップS4)。そして、コントローラ43から吸引終了信号が出力されると、潤滑剤吸引ユニット41の作動が停止する。
【0042】
上述した第3の実施形態では、潤滑剤が供給されたナット11内の圧力が予め設定された上限値を超えると潤滑剤吸引ユニット41が作動し、潤滑剤吸引ユニット41の作動後にナット11内の圧力が予め設定された下限値に達すると潤滑剤吸引ユニット41の作動が停止するので、劣化した潤滑剤をナット11の内部から自動的に排出することができる。
【0043】
上述した第3の実施形態では、圧力センサ42で検出されたナット内圧力が予め設定された上限値を超えたときに潤滑剤吸引ユニット41を作動させるようにしたが、これに限定されるものではない。たとえば、潤滑剤吸引ユニット41を手動で作動させるようにしてもよいし、あるいは任意の設定時間となったときにコントローラ43から潤滑剤吸引ユニット41に吸引開始信号を出力するようにしてもよい。
【0044】
また、ボールねじの作動中はボールの循環によってナット内圧力が変動し、圧力センサ42から出力される信号が不安定になることも考えられるため、潤滑剤の補給時や吸引時にボールねじ駆動モータからの信号を受けてボールねじの作動中は潤滑剤の吸引を停止するようにしてもよいし、あるいは潤滑剤の交換動作中のみ潤滑剤の吸引を許可するようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
「ちょう度」が、2、1、0、00、および000である各潤滑剤(極圧添加剤として有機モリブデン固体潤滑剤を含有するグリースであって、基油の40℃における動粘度が170mm^(2)/s)を用いて、第2の実施形態のねじ装置の「潤滑剤排出孔からの潤滑剤の排出し易さ」、「鉄粉濃度および油分率の測定し易さ」、および「長期運転時の配管詰まりなどの異常発生の有無」を調査した。ボールねじとしては、軸の直径が63mm、リードが16mm、ボールの直径が12.7mm、回路数が3.5巻×3列のものを使用した。このボールねじに、皿バネを用いてストローク200mmで最大20tonFの荷重をかけて調査を行った。
その結果を下記の表1に示す。結果は「×:特に悪い」、「△:悪い」、「○:良い」、「◎:特に良い」の4段階で示す。
【0046】
【表1】

【0047】
その結果、「ちょう度」が2と1のグリースは硬くて流れ難いため、第2の実施形態のねじ装置には適していないことが分かった。また、「ちょう度」が000のグリースは長期使用時に油と増ちょう剤が分離し、流れ性が若干低下して、送り時の圧力が若干上昇したが、異常が発生するほどではなく、実用に耐えた。
次に、「ちょう度」が、2、1、0、00、および000である各潤滑剤(極圧添加剤として硫化モリブデン固体潤滑剤を含有するグリースであって、基油の40℃における動粘度が170mm^(2)/s)を用いて、前記と同様の調査を行った。その結果を下記の表2に示す。結果は「×:特に悪い」、「△:悪い」、「○:良い」、「◎:特に良い」の4段階で示す。
【0048】
【表2】

【0049】
その結果、「ちょう度」に関わらず、長期運転時に配管詰まりが生じた。すなわち、極圧添加剤として硫化モリブデン固体潤滑剤を含有するグリースは、第2の実施形態のねじ装置には適していないことが分かった。
次に、「ちょう度」が、2、1、0、00、および000である各潤滑剤(極圧添加剤として有機モリブデン固体潤滑剤を含有するグリースであって、基油の40℃における動粘度が180mm^(2)/s)を用いて、前記と同様の調査を行った。その結果を下記の表3に示す。結果は「×:特に悪い」、「△:悪い」、「○:良い」、「◎:特に良い」の4段階で示す。
【0050】
【表3】

【0051】
その結果、「ちょう度」に関わらず、いずれの性能も不良であった。すなわち、基油の40℃における動粘度が180mm^(2)/sであるグリースは、第2の実施形態のねじ装置には適していないことが分かった。
これらの結果から、第2の実施形態のねじ装置に軸方向力として比較的大きな負荷が作用する場合に使用するグリースとしては、ちょう度が0?000番で、基油の40℃における動粘度が170mm^(2)/s以下で、極圧添加剤として硫化モリブデン固体潤滑剤ではなく有機モリブデン固体潤滑剤を含有するものが適していることが分かる。なお、基油の40℃における動粘度が100mm^(2)/s未満であると、必要な潤滑性能が得られなくなる。よって、基油の40℃における動粘度が100mm^(2)/s以上170mm^(2)/s以下のグリースを使用することが好ましい。
したがって、このグリースを使用することにより、高負荷が作用する条件下でも、長期に亙って、第2の実施形態のねじ装置を用いたグリースの異常検出を確実に行うことができる。
なお、上記実施例では、第2の実施形態のねじ装置の場合について例示したが、他の実施形態のねじ装置の場合でも同様の結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の参考形態に係るねじ装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の参考形態に係るねじ装置の要部を示す図である。
【図3】ナットの軸方向断面図である。
【図4】シールキャップの軸方向断面図である。
【図5】第1の参考形態に係るねじ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るねじ装置の概略構成を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るねじ装置の要部を示す図である。
【図8】ナットの軸方向断面図である。
【図9】第2の実施形態に係るねじ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るねじ装置の概略構成を示す図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るねじ装置の一部を示す図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係るねじ装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
11 ナット
12 ねじ軸
13,14 転動体転動溝
15 シールキャップ
18 環状シール体
20a,20b 潤滑剤供給孔
21 潤滑剤排出孔
23 潤滑剤補給ユニット
24,28,43 コントローラ
25,31 警報装置
26 油分率計
27,32 鉄粉濃度計
29 フィルタ装置
41 潤滑剤吸引ユニット
42 圧力センサ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-04-23 
結審通知日 2018-04-25 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2007-341225(P2007-341225)
審決分類 P 1 41・ 855- Y (F16H)
P 1 41・ 853- Y (F16H)
P 1 41・ 854- Y (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 林 茂樹  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
登録日 2012-09-07 
登録番号 特許第5076887号(P5076887)
発明の名称 ねじ装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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