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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22D
管理番号 1341326
審判番号 無効2015-800175  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-07 
確定日 2018-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4725133号「鋼の連続鋳造用モールドパウダー」の特許無効審判事件についてされた平成28年 8月15日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10215号、平成29年10月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4725133号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕訂正することを認める。 特許第4725133号の請求項1?2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件無効審判事件の一次審決までの経緯
本件特許第4725133号(以下「本件特許」という。)は、平成17年 3月 2日の出願(特願2005-57899号)であって、その請求項1?2に係る発明について、平成23年 4月22日に特許権が設定登録されたものであり、その後、平成26年 1月23日付けで本件特許に対して別件の無効審判(無効2014-800016号)が請求され、平成26年 8月19日に訂正請求され、当該訂正を認容する平成26年12月16日付けの審決が、平成27年 1月26日に確定している。
これに対し、日鐵住金建材株式会社から平成27年 9月 7日付けで請求項1?2に係る発明の特許について無効審判が請求されたものであるところ、審判請求以降一次審決までの手続は、おおむね次のとおりである。

平成27年10月 8日付け 手続補正書(請求人)
同年12月21日付け 審判事件答弁書、訂正請求書
平成28年 1月29日付け 審理事項通知書(1回目)
同年 2月25日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 3月24日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 4月 1日付け 審理事項通知書(2回目)
同年 4月15日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年 4月15日付け 口頭審理陳述要領書(第2回)(被請求人)
同年 4月22日 第1回口頭審理
同年 8月15日付け 一次審決

2 一次審決
一次審決の結論は、
「特許第4725133号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。」
というものである。

3 審決取消訴訟
請求人は、上記一次審決の取消しを求めて、平成28年 9月23日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
上記訴えは、知的財産高等裁判所において、平成28年(行ケ)第10215号事件として審理され、主文を
「1 特許庁が無効2015-800175号事件について平成28年 8月15日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。」
とする判決の言渡しが平成29年10月26日にあった。
そして、上記判決はその後確定したので、「特許第4725133号の請求項1?2に係る発明についての審判請求」については、再度審理すべきものとなった。

4 差戻し後の手続の経緯
差戻し後の経緯は、以下のとおりである。
平成29年12月13日付け 審決の予告
なお、上記判決の確定の日から1週間以内に、被請求人から訂正の請求のための指定期間を求める申立てはなく、上記審決の予告に対して被請求人から訂正の請求はなされなかった。

第2 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の趣旨・内容
被請求人が平成27年12月21日に提出した訂正請求(以下、同訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第4725133号の明細書及び特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?2からなるものである。
なお、明細書について、本件訂正前のものを「特許明細書」と、本件訂正後のものを「訂正明細書」といい、訂正箇所に下線を付した。

(1) 請求項1?2に係る訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、及び[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合を除く)」とあるのを、
「前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)」に訂正する。
また、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許明細書の発明の詳細な説明の【0010】において、
「前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、及び[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合を除く)」とあるのを、
「前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)」に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?2について、請求項2は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?2に対応する訂正後の請求項1?2は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

(2) 請求項1?2に係る訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項1に記載されたモールドパウダーの成分組成に関して、(1)式及び(2)式を満たす範囲から、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除くものであるから、特許法第134条の2第1項のただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
請求項1を引用する請求項2においても、同様に、特許法第134条の2第1項のただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
上記アで検討したとおり、訂正事項1は、請求項1に記載されたモールドパウダーの成分組成に関して、(1)式及び(2)式を満たす範囲から、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除くものであるから、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(3) 訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項のただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
上記(2)イで検討したとおり、訂正事項1は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものである訂正事項2も、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項2は、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したとおり、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

エ 特許明細書の訂正に係る請求項について
上記アで検討したとおり、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、訂正事項2による特許明細書の訂正に係る請求項は、一群の請求項である請求項1?2である。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、特許法第134条の2第3項、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?2に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1?2」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
C:0.02?0.05質量%(但し、0.05質量%を除く)、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%を含有する低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造に使用される、少なくともSiO_(2)、CaO、及びNa_(2)Oを含有し、二次冷却帯においては鋳片表面からの剥離性に優れ、二次冷却帯での鋳片の冷却能を高めることが可能な、鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)ことを特徴とする、鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
0.65×[%Na_(2)O]+25≦[%SiO_(2)]≦2.08×[%Na_(2)O]+25…(1)
-0.078×[%Na_(2)O]+1.4≦CaO/SiO_(2)≦-0.077×[%Na_(2)O]+1.8…(2)
但し、(1)式及び(2)式において、[%Na_(2)O]は前記モールドパウダーのNa_(2)O含有量(質量%)、[%SiO_(2)]は前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)、[%CaO]は前記モールドパウダーのCaO含有量(質量%)、CaO/SiO_(2)は前記モールドパウダーの塩基度である。

【請求項2】
前記モールドパウダーは、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造時に使用するモールドパウダーであることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。」

第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
(1) 請求人は、「特許第4725133号の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、審判請求書とともに甲第1号証?甲第14号証を提出し、口頭審理陳述要領書を提出し、さらに、口頭審理陳述要領書(2)とともに甲第15号証?甲第16号証を提出し、上記審判請求書及び口頭審理(口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書(2)、第1回口頭審理調書を含む。)において、以下のア?ケの無効理由を主張している。

ア 本件発明1?2についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。

イ 本件発明1?2についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。

ウ 本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3-1」という。)。

エ 本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3-2」という。)。

オ 本件発明1?2は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3-3」という。)。

カ 本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第1号証に記載された発明及び技術常識(甲第4、7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由4-1」という。)。

キ 本件発明1?2は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第2号証に記載された発明及び技術常識(甲第1、4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由4-2」という。)。

ク 本件発明1?2は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第4号証に記載された発明及び技術常識(甲第1、7?9号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由4-3」という。)。

ケ 本件発明1?2は、甲第5号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第5号証に記載された発明及び技術常識(甲第1、10?14号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由4-4」という。)。

(2) 請求人の主張した上記無効理由1?4-4のうち、無効理由3-2?3-3は撤回されている(請求人の口頭審理陳述要領書3頁6?7行参照。)。

(3) 請求人の提出した甲第16号証に係る書証の申出は撤回され、当該甲第16号証は参考資料とされている(第1回口頭審理調書の請求人3及び被請求人5参照。)。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2003-94152号公報
甲第2号証:特開昭57-41862号公報
甲第3号証:特開平5-228596号公報
甲第4号証:荻林成章 外7名、「低炭素アルミキルド鋼用パウダー技術の開発」、製鉄研究、第324号、1987、p.1-9
甲第5号証:特開平11-291005号公報
甲第6号証:松川敏胤 外4名、「連続鋳片の2次冷却帯におけるロール冷却とスプレー冷却の解明」、川崎製鉄技報、Vol.19、No.1、1987、p.7-11
甲第7号証:特開2003-275852号公報
甲第8号証:特開昭59-229268号公報
甲第9号証:特開2001-205402号公報
甲第10号証:特開平10-314907号公報
甲第11号証:特開平11-320058号公報
甲第12号証:特開平3-118947号公報
甲第13号証:特開平4-210858号公報
甲第14号証:特開2002-292452号公報
甲第15号証:「連続鋳造用湯面保護剤仕様書」、日鐵住金建材株式会社 ニッテックス事業部、平成18年12月11日

2 甲号証の記載事項
請求人が証拠方法として提出した甲号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである(なお、記載の省略は「・・・」で表す。以下、同様である。)。
(1) 甲第1号証(特開2003-94152号公報)
(1a) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】・・・本発明の目的は、鋳片表面のスケールを確実に除去し、残存スケールに起因した表面欠陥が極めて少ない鋼板を製造することができる鋼板の製造方法を提供することにある。」(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)

(1b) 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述した従来技術において酸化促進剤により十分なスケール剥離性が得られない原因とその対策について検討を行った。その結果、連続鋳造プロセスで用いられているモールドパウダーが鋳片表面に残存付着していることが、酸化促進剤を塗布してもスケール剥離性が向上しない主要な原因であることを突き止めた。
【0008】・・・一般に、鋳片表面に付着したモールドパウダーの大部分は連続鋳造機の二次冷却スプレー水により鋳型直下で剥離してしまうが、不可避的に一部のモールドパウダーが鋳片表面に残存してしまう。
・・・
【0011】本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下の通りである。
[1]連続鋳造機により鋳造された鋳片を加熱炉に装入して加熱し、加熱炉を出た鋳片のデスケーリングを行った後、粗圧延及び仕上圧延を行う鋼板の製造方法において、前記鋳片を加熱炉に装入するのに先立ち、鋳片表面に付着したモールドパウダーの除去を行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
・・・
【0012】 [3]上記[1]又は[2]の製造方法において、鋳片表面に付着したモールドパウダーの除去を、鋳片表面への高圧水吹き付けにより行うことを特徴とする鋼板の製造方法。・・・」

(1c) 「【0018】
【実施例】図2に示す一連の鋼板製造設備を用いて、表1に示す極低炭素鋼と低炭素鋼の2つの鋼種の鋳片から先に述べたような工程にしたがって熱延鋼板を製造した。連続鋳造設備では、厚さ250mm、幅1050mmのサイズの鋳片を鋳造速度2.5m/分で鋳造した。その際に使用したモールドパウダーの組成を表2に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】



(2) 甲第2号証(特開昭57-41862号公報)
(2a) 「本発明は鋼の連続鋳造を行う際に使用する、ジルコニアを含有した浸漬ノズルの溶損を防止することを目的とする連続鋳造用鋳型添加剤に関するものである。」(1頁左下欄10?13行)

(2b) 「鋳型添加剤は通常、フラックス基材としてSiO_(2)、CaO、Al_(2)O_(3)、MgO、MnO等の金属酸化物からなっており、溶融性状調整材はNa_(2)O、K_(2)O、Li_(2)O、B_(2)O_(3)等の金属酸化物およびCaF_(2)、AlF_(3)、NaF、LiF等の金属弗化物を融点、粘性調整用に、炭素質粉末を溶融速度調整用に選択的に加えたものからなっている。
上述のアルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物は炭酸塩、硝酸塩の中から選択的に加える事もある。鋳型添加剤は鋳型自溶鋼面に添加されると溶鋼面に接している部分は溶融して溶融スラグ層を形成し、溶融スラグ層の上にはまだ溶融していない未溶融層を形成し溶鋼面を覆っている。
この溶融スラグは鋳型と鋳片間に流入し潤滑剤として消費されていくが常に追加投入され一定の溶融スラグ層厚さを維持している。」(1頁左下欄18行?右下欄13行)

(2c) 「本発明はジルコニアまたはジルコンの単体もしくはこれらのグラフアイトとの複合体からなる材質の浸漬ノズルもしくはスラグラインにこれらの材質のリングを使用する連続鋳造において浸漬ノズルもしくはリングの溶損量を抑制する効果のある鋳型添加剤を提供するものである。」(2頁左下欄19行?右上欄4行)

(2d) 「次に本発明の実施例を示す。
サイズ220×1500の低炭アルミキルド鋼の連続鋳造において、・・・第1表に示す・・・本発明による添加剤第1表Aを使用する事により、320分迄操業が継続できた。・・・」(2頁右下欄6?14行)

(2e) 「第1表 従来の鋳型添加剤と本発明による鋳型添加剤A,B,Cの化学成分

」(3頁左上欄)
(3) 甲第3号証(特開平5-228596号公報)
(3a) 「【請求項1】炭素含有量が0.01?0.08重量%の低炭素鋼に使用する連続鋳造用パウダーの設計に際し、パウダー結晶相と液相界面の温度を求めることにより鋳型内抜熱強度の指標とすることを特徴とする低炭素鋼連続鋳造用パウダーの評価方法。」

(3b) 「【0003】このような表面縦割れやブレークアウトが発生する場合には、鋳型内抜熱および潤滑状況が不適切である。すなわち鋳型内抜熱強度が高すぎる時には凝固シェルに生じる熱応力が大きいため、鋳型内抜熱強度が低すぎる場合には凝固シェルが薄くその強度が低いためであると考えられている。またパウダーの流入が阻害され、いわゆるパウダー切れが発生する場合には、凝固シェルと鋳型間に多大な応力が発生し、凝固シェルは破断に至る。
【0004】上記事態を回避するため、連続鋳造において通常行われている方法は、適正なパウダーの使用である。そのパウダーの選定に当たって、通常パウダーの潤滑性の指標として用いられるのが、パウダーの粘性であり、そして冷却強度の指標として用いられるのが、パウダーの凝固温度と呼ばれるものである。
【0005】このパウダーの凝固温度は、一定温度に保持した坩堝中において円筒を回転するなどして粘性を求め、測定温度に対し粘性をプロットした図において、温度の低下にともなって急激に粘性が高くなる温度とされている。この急激な粘性の変化は温度の低下に伴いパウダーが結晶化し、見掛けの粘性が高くなるためであると考えられており、この凝固温度が高い場合にはパウダーフィルム内の結晶相(固着相)厚みが厚いため鋳型-凝固シェル間の熱抵抗が大きくなり、緩冷却が実現されるとされている。」

(3c) 「【0021】
【実施例】本発明に係る実施例を以下に説明する。実施例および従来例に用いる低炭素鋼の成分を表1に示し、実施例および従来例に用いた主なパウダーの成分を表2に示す。以上の低炭素鋼およびパウダーの成分を用い、次の条件で実際の連続鋳造機において鋳造を行った。鋳型振動条件:ストローク6.8mm、オシレーションサイクル=55×Vc+50、引き抜き速度:0.9?2.0m/min、鋳片寸法:厚み240mm、幅1000?2200mm、タンディツシュ内溶鋼加熱度10?30℃。」

(3d) 「【0024】
【表1】

【0025】
【表2】



(4) 甲第4号証(「低炭素アルミキルド鋼用パウダー技術の開発」(「製鉄研究 第324号、1?9頁)
(4a) 「低炭素Alキルド鋼の連続鋳造における拘束性ブレークアウトの低減を図るため,実機計測試験およびブレークアウト鋳片調査を実施した。パウダーの均一流入性はパウダー粘度の最適化により確保できる。増減連鋳造時は鋳型抜熱量,パウダーフィルム厚の変化に時間遅れが見られ,増速時は抜熱不足,減速時は抜熱過多となりやすくブレークアウトが発生しやすい。ブレークアウト防止にはパウダー潤滑能向上および適正抜熱による初期凝固シェルの強度確保が重要である。これらの知見に基づき適正プリメルト顆粒型パウダーの開発および適正抜熱操業技術を確立した。」(抄録)

(4b) 「2.実験方法
鋳型内パウダーの溶融,流入挙動を調査するため,新日本製鐵君津製鉄所No.2連続鋳造機で実機計測試験およびトレーサーパウダー添加試験を実施した。・・・」(2頁左欄1?4行)

(4c) 「2.1 実機計測試験
低炭素Alキルド鋼を対象とし,パウダー組成および操業条件を変更して鋳型内パウダー挙動,抜熱挙動等を調査した。」(2頁左欄7?10行)

(4d) 「実験に使用したパウダーの物性を表2に示す。最適溶融速度および粘度を調べるためスラグ化率を25?90%,粘度を0.5?3.8poiseの15種類のプリメルト顆粒型パウダーを用いた。・・・
鋳造速度は1.1?2.0m/minとし,各鋳造速度の最適パウダー物性を評価する試験では一定速度で鋳造した。・・・鋳造条件を表3に示す。」(2頁右欄1?11行)

(4e) 「

」(2頁最下部)

(4f) 「

」(2頁右欄上部)
(5) 甲第5号証(特開平11-291005号公報)
(5a) 「【請求項1】 凝固温度が1100℃以上、1250℃以下で、下記式で定義される塩基度指数Bが1.7以上,2.2以下を満足し、かつAl_(2)O_(3)を4wt%以上、10wt%以下の範囲で含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドフラックス。

【数1】



(5b) 「【0002】
【従来の技術】鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、SiO_(2),CaO,Al_(2)O_(3),Na_(2)O,NaF,CaF_(2)およびMgO等を主成分として構成され、鋼の鋳造速度に応じて、その粘性、軟化温度および凝固温度等を調整している。このモールドパウダーは、連続鋳造プロセスにおいて重要な副原料であり、鋳型内に注入された溶鋼の表面上に添加され、主に鋳型と凝固シェルとの間の潤滑、浮上してきた鋼中介在物の吸収除去および溶鋼の保温、酸化防止等の役割を果たしている。しかしながら、一方で溶鋼上の溶融パウダーが鋳型内の溶鋼注入流に巻き込まれ、または局所的な湯面変動などにより凝固シェルへ付着し、そのまま圧延工程まで帯同されて伸展され、冷延鋼板の表面欠陥となる場合があった。」

(5c) 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】この発明の目的は、鋼の連続鋳造において、モールドパウダーの巻き込みを極力防止する一方、凝固シェルの異常成長を効果的に抑制することによって、巻き込まれたパウダーの凝固シェルへの付着を阻止し、もって冷延鋼板における表面欠陥の発生を有利に回避し、併せてブレークアウトやブレークアウト誤警報の発生をなくして、効率良く連鋳鋳片を生産しようとするところにある。」

(5d) 「【0027】
【実施例】表1に示す成分組成になるモールドフラックスを用い、以下の要領で連続鋳造を実施した。
・鋳型寸法長辺側:1000mm、短辺側:200m
・鋳型振動条件
ストローク:8mm
ネガティブ速度率(Ns率):20%(鋳型の振動による鋳型下降速度がスラブの引き抜き速度を上回る比率)
f=Vc/2×8(1+Ns/100)×1000
ここで、f:鋳型振動数(cpm)
Vc:鋳造速度(m/min)
鋳造速度:1.20?2.20m/min
・鋳型注入時の溶鋼温度と液相線温度との差△T:34?50℃(代表時点)
・連鋳対象鋼(C:0.002?0.004wt%、Si:0.02?0.04wt%、Mn:0.10?0.30wt%を含む極低炭素鋼)」

(5e) 「【0029】
【表1】

【0030】
【表2】



(6) 甲第6号証(「連続鋳片の2次冷却帯におけるロール冷却とスプレー冷却の解明」、川崎製鉄技報、Vol.19、No.1、1987、p.7-11)
(6a) 「2.1 オンラインでの鋳片表面温度推移の測定
支持ロール間から溶接銃を挿入し,CAシース熱電対を埋め込んだ円板状(6mmφ×3mmt)の小鋼片を鋳片表面に当て放電溶接し,連鋳機での鋳片表面温度の測定を行った。・・・」(7頁右欄下から6?3行)

(6b) 「測定結果の代表例を水スプレーとミストスプレーの場合についてそれぞれFig.1とFig.2に示す。・・・」(8頁左欄4?5行)

(6c) 「

」(8頁左欄上部)

(7) 甲第7号証(特開2003-275852号公報)
(7a) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、本発明者らの調査研究によれば、 鋳型内ならびに2次冷却帯における均一冷却を達成したとしても、鋳造速度が2m/minを超えるような高速鋳造において、次に述べる理由で鋳片の均一冷却が阻害される場合が頻繁に発生する。すなわち、鋳型内から排出され鋳片に不均一に付着したモールドフラックスによる、1)鋳片表面のスケール生成速度の増加、2)鋳片表面のスケールおよびモールドフラックス混合層の融点の低下に伴う付着性強化、という機構で鋳片表面に酸化スケール層の薄い箇所、 厚い箇所の不均一が生じてしまうことによる、鋳片の不均一冷却である。
【0007】酸化スケールは凝固殻に比較しておおよそ一桁小さい熱伝導率を有し、鋳型以降の2次冷却帯において伝熱抵抗層として不均一冷却の原因となる。この冷却の不均一性は、鋳片の表面縦割れや、あるいは非定常バルジングに伴う鋳型内湯面変動の原因のひとつとなり、鋼の連続鋳造プロセスにおける高品質維持ならびに安定操業の阻害要因として作用する。図3はこのような場合の鋳片付着モールドフラックスの量と鋳片表面品質との相関関係を示すグラフである。ここで、図3の横軸のデータは、熱延加熱炉前の鋳片短辺表面スケールを採取して、含有されるCaO の濃度から算出した値を用いた。」

(7b) 「【0018】また、上記と同じ試行条件で炭素0.04質量%を含有する一般的な低炭素鋼を鋳造したところ、比較例においては2次冷却帯での非定常バルジング起因の鋳型内湯面変動が散見されたのに対し、実施例においては2次冷却帯での均一強冷却化が促進されてシェル厚が増加し、非定常バルジングが抑制されたため、かかる鋳型内湯面変動は皆無であった。」

(8) 甲第8号証(特開昭59-229268号公報)
(8a) 「該パウダーは、鋳型と鋳片との焼付を防止するために鋳型内の溶鋼表面に供給され、該焼付防止によって鋳片の表面割れを防止し、鋳片の表面性状を良好にする等のためのもので、完全プリメルト状、半プリメルト状、あるいは顆粒状又は粉末状等の形態で供給される。そして該パウダ-は鋳型から引出される鋳片の表面に付着しており、該鋳片表面に付着したパウダ-は従来、2次冷却装置配設区域を通過する際に冷却媒体、例えば冷却水の鋳片への噴射によつて除去されていると考えられていた。」(2頁左上欄8?18行)

(9) 甲第9号証(特開2001-205402号公報)
(9a) 「【0002】
【従来技術】鋼の連続鋳造において鋳型内の溶鋼上に添加する粉末(以下、「モールドパウダー」または単に「パウダー」という)には、1)鋳型と鋳片との間の潤滑、2)鋳型と鋳片との間の伝熱媒体、3)介在物の吸収、4)溶鋼の酸化防止、5)溶鋼表面の保温等の機能がある。通常、モールドパウダーは、上記機能を併せ持つべく多種類の成分を含有している。即ち、CaO、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、Na_(2)O、K_(2)O、Li_(2)O等の酸化物を主要成分とし、融点および粘性を低下させるため、NaF、CaF_(2)、Na_(3)AlF_(6)、LiF、AlF_(3)等のフッ化物を含有させるのが一般的である。
【0003】上記のフッ化物によって、モールドパウダーは、鋳型内の溶鋼上で溶解しやすくなり、鋳型と鋳片の凝固シェルとの間に円滑に流入し、潤滑剤としての効果を発揮する。
【0004】鋳型と凝固シェルとの間へ流入した溶融パウダーは、鋳片表面に付着し、鋳型下方の二次冷却帯で、スプレーされる冷却水によって冷却され、鋳片の表面から剥離する。モールドパウダー中のフッ素は冷却水に溶解し、強酸であるフッ酸となる。この冷却水中のフッ酸は、連続鋳造機や付帯設備の腐食を招き、また、そのまま廃棄されたり、鋳造熱で蒸発したりすると環境汚染の問題を生じる。そこで、従来、モールドパウダー中のフッ素(以下、「F」と略記する)の含有量を低減させる検討がなされてきた。」

(10) 甲第10号証(特開平10-314907号公報)
(10a) 「【請求項1】 鋳造時に鋼湯表面に添加する鋳型添加剤であって、銅の酸化物、ニッケルの酸化物、コバルトの酸化物より選ばれた2種又は3種の酸化物の混合物を0.2?2重量%含有していることを特徴とする鋳型添加剤。」

(10b) 「【0002】
【従来の技術】近年、鋳型に溶鋼を注入して鋼の鋳造を行うに際し、鋼湯表面に鋳型添加剤を添加して鋳造する、所謂パウダーキャスティング法が広く採用されている。鋳型添加剤は鋼湯面を覆って保温するとともに、鋼湯表面に浮上してくる非金属介在物を吸収する。また、溶鋼の熱で溶かされた添加剤のスラグは鋳型と鋳片との間に入り、鋳型と鋳片との間の潤滑の作用を果たす。また溶鋼表面をスラグが覆って鋼の酸化を防止するとともに凝固シェルを徐冷し、これらの作用によって鋼塊表面の欠陥発生が防止される。
【0003】上記鋳型添加剤として、CaO、SiO_(2)等を母材とし、これに、NaCO_(3)、NaF、Na_(3)AlF_(6) 、CaF_(2)、Li_(2)CO_(3)等のフラックスや、コークス、カーボンブラック等の骨材を添加したものが広く用いられている。パウダーキャスティング法によって鋳造される鋼塊表面の状態は、鋳型添加剤の性状に大きく左右されるため、鋳型添加剤の配合組成について種々の研究が行われている。」

(10c) 「【0018】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例、比較例において使用した鋳型添加剤の成分組成を表1に示す。尚、表1に示す各成分の配合率は、必ずしも実際に配合した化合物の配合率を意味するものではなく、鋳型添加剤の蛍光X線分析結果から、対応する酸化物の量に換算したものである。また表1に示す添加剤1?7は実施例で用いる本発明添加剤であり、添加剤8?14は比較例で用いる従来の添加剤である。
【0019】
【表1】

【0020】実施例1?4、比較例1?3
垂直部2.4m、湾曲部半径9.5m、機長49mの垂直曲げ型連続鋳造機を用いて中炭素鋼を鋳造速度1.3?2.0m/分で鋳造し、鋳造幅1100mm、鋳造厚み245mmの鋳片を得た。鋳造に用いた鋳型添加剤の種類、鋳造条件及び得られた鋳片の品質を表2に示す。尚、鋳造に用いた中炭素鋼は、C:0.08?0.12重量%、Si:0.35重量%以下、Mn:0.30?0.50重量%、P:0.02重量%以下、S:0.023重量%以下のものである。
【0021】
【表2】



(10d) 「【0023】実施例5?7、比較例4?6
実施例1?4で用いたと同様の連続鋳造機により、低炭素鋼又は極低炭素鋼を、鋳造速度1.8?2.0m/分で連続鋳造し、鋳造幅1150mm、鋳造厚み245mmの鋳片を得た。鋳造に用いた鋼の種類、鋳型添加剤の種類、鋳造条件及び得られた鋳片の品質を表3に示す。尚、鋳造に用いた低炭素鋼は、C:0.04重量%、Mn:0.25重量%、Si:0.020重量%、P:0.015重量%、S:0.013重量%、sol.Al:0.035重量%の鋼であり、極低炭素鋼は、C:0.003重量%、Mn:0.15重量%、Si:0.025重量%、P:0.020重量%、S:0.014重量%、sol.Al:0.035重量%、Ti:0.015重量%、Nb:0.015重量%の鋼である。
【0024】
【表3】



(10e) 「【0026】実施例8?9、比較例7
垂直型連続鋳造機を用い、鋳造速度1.0m/分でステンレス鋼を連続鋳造した。このステンレス鋼は、C:0.05重量%、Mn:1.5重量%、Si:0.5重量%、Ni:9重量%、Cr:19重量%の鋼である。鋳造に用いた添加剤の種類、鋳造条件及び得られた鋳片の品質及びこの鋳片を圧延した製品表面の光沢ムラ指数を表4に示す。尚、実施例15の場合には、鋳造時に添加剤7を用いるとともに、添加剤7を74重量%、ポリビニルブチラールを1.0重量%、メチルアルコールを25重量%の割合で混合して得た塗布剤を、鋳造開始前に予め鋳型壁面にハケ塗り法で塗布してから鋳造を行った。
【0027】
【表4】



(11) 甲第11号証(特開平11-320058号公報)
(11a) 「【0063】C含有率が0.05%程度の低炭素鋼でも、とくに5m/分程度またはそれ以上の高速で鋳造する場合に、鋳片表面に縦割れが発生しやすい。
【0064】したがって、上述のような鋼を鋳造する場合に、本発明のパウダを用いることにより、5m/分またはそれ以上の鋳造速度で、鋳片表面の縦割れの発生することなく、連続鋳造が可能である。本発明のパウダは、C含有率が0.05%未満の鋼の連続鋳造にも好適であることは言うまでもない。」

(11b) 「【0066】
【実施例】湾曲型連続鋳造機を用いて、厚さ100mm、幅1000mmの鋳片を連続鋳造した。
【0067】表1に示す化学組成の中炭素鋼、低炭素鋼および低炭高Mn鋼を対象に、低炭素鋼は、鋳造速度6m/分、それ以外の鋼は、鋳造速度5m/分で鋳造した。」

(11c) 「【0072】(実施例1)CaO’/SiO_(2)が0.9?1.9、CaF_(2)含有率が15?60%である本発明例のパウダおよび従来の塩基度の低い比較例のパウダを用い、表1に示した鋼No.1の中炭素鋼を鋳造した。」

(11d) 「【0090】(実施例3)CaO’/SiO_(2)が0.9?1.9、CaF_(2)含有率が15?60%である本発明例のパウダおよび従来の塩基度の低い比較例のパウダを用い、表1に示した鋼No.3の低炭素鋼を鋳造した。」

(11e) 「【0097】(実施例4)CaO’/SiO_(2)が0.9?1.9、CaF_(2)含有率が15?60%である本発明例のパウダおよび従来の塩基度の低い比較例のパウダを用い、表1に示す鋼No.4の低炭高Mn鋼を鋳造した。」

(12) 甲第12号証(特開平3-118947号公報)
(12a) 「2.特許請求の範囲
(1)その溶融点が900乃至1200℃であり、軟化収縮開始温度が700℃以上であると共に、この軟化収縮時における線収縮率が0.5%以下であることを特徴とする連続鋳造用フラックス。」(1頁左下欄4?8行)

(12b) 「実施例1
先ず、珪石、石灰、珪灰石、炭酸ソーダ、蛍石、弗化ソーダ及びマグネシアクリンカを下記第1表の実施例1欄に示す組成になるように配合し、混合した。次に、この混合物を約750乃至780℃に加熱して焼成した後に、粉砕し、100メッシュ以下の粉末に篩分けし、更に所定量のカーボンを添加して再度混合することによりフラックスを製造した。このフラックスを実施例1とした。
また、このフラックスを使用して、鋳造速度が約1.4乃至1.6m/分で、サイズが240×900mmの低炭素アルミキルド鋼スラブを連続鋳造した。
実施例2
次に、珪石、石灰、炭酸ソーダ、蛍石及び弗化ソーダを下記第1表の実施例2欄に示す組成になるように配合し、混合した。次に、この混合物を一旦アーク炉で溶融し、予め十分に予熱した鉄製容器内に移し取って徐冷しながらクリンカを造った。その後、このクリンカを粉砕し、100メッシュ以下の粉末に篩分けし、更に所定量のカーボンを添加して再度混合することによりフラックスを製造した。このフラックスを実施例2とした。
また、このフラックスを使用して、鋳造速度が約0.6乃至1.0m/分で、サイズが380×600mmのブルーム(0.3重量%炭素鋼)を連続鋳造した。
実施例3
次に、珪石、石灰、珪灰石、炭酸ソーダ、蛍石、及びマグネシアクリンカを所定の比率で配合して混合した。次に、この混合物を約730乃至800℃に加熱して焼成した後に、粉砕し、100メッシュ以下の粉末に篩分けた。更に、この粉末を全量の約60重量%とし、所定量の珪藻土、石灰、弗化ソーダ、マグネサイト及びカーボンを全量の約40重量%として下記第1表の実施例3欄に示す組成になるように配合し、再度混合することによりフラックスを製造した。このフラックスを実施例3とした。
また、このフラックスを使用して、鋳造速度が約1.6乃至2.0m/分で、サイズが150×150mmの0.45重量%炭素鋼のビレットを連続鋳造した。
実施例4
次に、珪石、石灰、、炭酸ソーダ、蛍石、アルミナ、炭酸リチウム及びマグネシアクリンカを所定の比率で配合して混合した。次に、この混合物を一旦アーク炉で溶融し、予め十分に予熱した鉄製容器内に移載して徐冷しながらクリンカを造った。その後、このクリンカを粉砕し、100メッシュ以下の粉末に篩分けした。更に、この粉末を全量の約68重量%とし、所定量の珪藻土、石灰、蛍石、マグネサイト及びカーボンを全量の約32重量%として下記第1表の実施例4欄に示す組成になるように配合し、再度混合することによりフラックスを製造した。このフラックスを実施例4とした。
また、このフラックスを使用して、鋳造速度が約1.6乃至2.0m/分で、サイズが150×150mmの0.8重量%炭素鋼のビレットを連続鋳造した。
実施例5
次に、珪石、石灰、、炭酸ソーダ、蛍石、アルミナ及び炭酸リチウムを所定の比率で配合して混合した。次に、この混合物を一旦アーク炉で溶融し、水砕処理により急冷してガラス化した。その後、このガラス材料を全量の約76重量%とし、所定量の珪藻土、石灰、炭酸ソーダ、弗化ソーダ及びマグネシアクリンカを全量の約24重量%として下記第1表の実施例5欄に示す組成になるように配合し、再度混合した。次いで、この混合物を700乃至760℃に加熱して焼成し、更に粉砕し、100メッシュ以下の粉末に篩分けした後に、所定量のカーボンを添加し、混合することによりフラックスを製造した。このフラックスを実施例5とした。
また、このフラックスを使用して、鋳造速度が約1.4乃至1.6m/分で、サイズが240×1250mmの0.1重量%炭素鋼のスラブを連続鋳造した。」(5頁左上欄3行?同頁右下欄17行)

(12c) 「

」(6頁)

(12d) 「第1表から明らかなように、実施例1乃至5に係るフラックスは、軟化収縮開始温度がいずれも700℃以上であり、軟化時における線収縮率がいずれも0.5%以下であった。そして、実施例1乃至5に係るフラックスを使用して連続鋳造した場合はいずれも鋳造時の状態が良好であった。」(7頁左上欄1?6行)

(13) 甲第13号証(特開平4-210858号公報)
(13a) 「【請求項1】フラックス材料と水ガラスバインダとの混合物をスラリー化した後に乾燥させて球状顆粒状に造粒した連続鋳造用フラックスにおいて、前記顆粒の95重量%以上はその粒径が100乃至500μmであって、前記顆粒内にはその粒径の20%を超える大きさの空孔を有しないことを特徴とする連続鋳造用フラックス。」

(13b) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は鋼等の連続鋳造において、その鋳型内溶鋼上に散布され、溶鋼の再酸化を防止すると共に、溶融して鋳型と鋳片との間の潤滑材となる連続鋳造用フラックスに関し、特に、粉塵の発生を防止できる連続鋳造用フラックスに関する。
【0002】
【従来の技術】従前、連続鋳造用の鋳型内に散布する連続鋳造用フラックスとしては、微粉粒子で構成される所謂粉末品が頻繁に使用されていた。この粉末品は一般的に顆粒品に比して保温性及び溶融性が優れているために広範囲の鋳造条件に対応して使用することができるものの、取り扱い時に粉塵が発生しやすく、この粉塵により作業環境を劣悪なものにするため、労働衛生上、好ましくない。」

(14) 甲第14号証(特開2002-292452号公報)
(14a) 「【請求項1】 1.5m/min以上の鋳造速度で鋳造する連続鋳造方法において、ZrO_(2)を6%以上10%以下、Fを4%以上10%以下含有するパウダーを用い、且つ、鋳型内電磁攪拌を印加しながら鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。」

3 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書及び訂正請求書を提出し、口頭審理陳述要領書を提出し、更に、口頭審理陳述要領書(第2回)とともに乙第1号証?乙第5号証を提出し、上記審判事件答弁書及び第1回口頭審理(口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書(第2回)、第1回口頭審理調書を含む。)において、請求人が主張する無効理由1?無効理由4-4に対して反論しているが、このうち無効理由1について、以下のア?セの主張をしている。

ア 訂正明細書において行った剥離性評価のモデル実験は【0017】に記載されたとおりの方法であり、鉄製矩形容器のモールドパウダー側表面の温度は、当初は常温であったとしても、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを容器に流し込めば、容器表面は速やかに1300度近くの、少なくとも100℃を優に超える温度(最大到達温度)まで昇温する。この点、評価に用いたのはバルクの鉄ではなく「矩形」の容器であり、バルクの鉄とは異なり厚みが薄いものであるので、その表面が最大到達温度まで昇温するのに要する時間は、その後モールドパウダーが冷却され、固化する過程に要する時間に比べて無視し得る程度に短いものである。そして、最大到達温度にまで昇温した後、モールドパウダーが冷却され固化してゆく中で、最終的に固化完了する前に矩形容器を解体して、壁面でのモールドパウダーの剥離性を評価したのである。
このように、剥離性評価の段階での容器表面の温度は、鋳型直下の鋳片表面の温度と大差はない状態になっており、常温から最大到達温度までの昇温もその後の冷却過程に比べて十分に速やかに生じるため、溶融したモールドパウダーを流し込む前の容器の温度が常温であったとしても、そのことは剥離性を評価する場面では全く問題とならない。
よって、技術常識を有する当業者であれば、訂正明細書において行った剥離性評価のモデル実験が、鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして妥当なものであると理解することができる(審判事件答弁書8頁1行?22行)。

イ 本件発明が解決すべき課題が「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供すること」(【0009】)であり、しかも、モデル実験後に、実施例において、本件発明1で規定する成分組成の低炭素アルミキルド鋼を実際に高速連続鋳造して、(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーBの場合に、満たさないモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動が低減できたことを確かめるための実験を行っているのであるから、技術常識を有する当業者であれば、訂正明細書に明記されていなくても、鉄製矩形容器の壁面を鋳片の表面に見立てた剥離性のモデル実験で用いた鉄製矩形容器の「鉄」も、当然に、本件発明1で規定する鋼の成分組成と同じであると理解するものである。
以上のとおり、訂正明細書で行った剥離性評価のモデル実験は、鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして、温度の観点からも成分組成の観点からも当業者が妥当なものであると理解することができるものである(審判事件答弁書8頁26行?9頁12行)。

ウ このような鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして妥当なモデル実験によって、(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーの剥離性が良好であるのに対して、満たさないものは剥離性が悪いことが見出されているのであるから、実施例における連続鋳造において、(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーBの場合に、満たさないモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動が低減できたという結果が得られたのは、鋳型直下の鋳片からの剥離性の違いが原因であろうと考えるのが、技術常識を有する当業者が訂正明細書に接した際の理解である。そして、鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして妥当なモデル実験によって、モールドパウダーの成分組成が(1)式及び(2)式を満たすことの技術的意義は十分に示されている以上、実際に連続鋳造を行ってバルジング性湯面変動を低減できたものが(1)式及び(2)式を満たすうちの一つのモールドパウダーであったとしても、それ以外のモールドパウダーも同様に、鋳型直下の鋳片からの剥離性が優れる結果、バルジング性湯面変動が低減できるであろうと考えるのが、技術常識を有する当業者が訂正明細書に接した際の理解である。
以上のとおり、訂正明細書に接した当業者であれば、本件発明が「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」との課題を解決できることは十分に理解できるものである(審判事件答弁書9頁13行?10頁4行)。

エ 訂正明細書において行った剥離性評価のモデル実験における矩形容器の大きさは、長さ80mm、幅80mm、高さ80mmであり、当該容器を構成する板の厚さは1mmであり、当該容器の解体方法は、縦80mm、横80mm、厚さ1mmの板を5枚用意して、これら5枚の板で底面及び4つの側面からなる箱形の容器を組み、セロハンテープで仮止めして、高さ80mmの矩形の容器を作製し、煉瓦で底面及び側面を抑えた状態にして、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを容器内にその深さが約60mmとなるように流し込み、一定時間の経過後、具体的には、「溶融したモールドパウダーが固化完了する前に」(【0017】)煉瓦を外したもので、この試験では容器の側面のうちの1面をモールドパウダーの固化面から剥離し、その側面の板表面におけるモールドパウダーの付着面積率を評価したものである。
溶融したモールドパウダーは、容器内に流し込まれた後、容器内壁と接触した部分から容器内の中央部分に向けて固化が進行するが、「溶融したモールドパウダーが固化完了する前に」というのは、板表面と接触した部分が全ての面が固化してはいるが、冷却しすぎてモールドパウダーの全体が固化した状態にはなっていない段階、すなわち、容器内の中央部分は未だ固化していない段階において容器を解体した、という意味であり、より具体的には、本モデル実験では、全てのパウダー組成の場合について、溶融したモールドパウダーを容器に流し込んだ後、同一の一定時間(1分)の経過後に、煉瓦を外したものである。ここで、モールドパウダーの凝固点はその組成によって異なるが、上記「一定時間」は、煉瓦を外す時点が全てのパウダー組成の場合で「溶融したモールドパウダーが固化完了する前のタイミングとなるように選定したものである(口頭審理陳述要領書2頁9行?3頁11行)。

オ このモデル実験では、同一の容器に、同一の温度に溶融させたモールドパウダーを同一量流し込んだ後、容器は同一の環境に置かれており、組成によってモールドパウダーからの抜熱速度に大差はないから、上記「一定時間」経過後に凝固点以下となって固化しているモールドパウダーの板表面と接触した部分は、全てのパウダー組成の場合について、略同じ温度(鋳型直下における鋳片表面の温度である1000℃近く)となる。
このモデル実験は、連続鋳造における鋳型直下の鋳片からのモールドパウダーの剥離性を評価するためのものであるので、このようなモデル実験の条件は、発明の詳細な説明に殊更記載するまでもなく、当業者がモデル実験の目的から実施に際して適宜選択し得るものである。
なお、容器内のモールドパウダーの全体が固化完了してから容器を解体したとしても、そのタイミングでは、鋳型直下における鋳片表面の温度に比べ、板表面で固化したモールドパウダーの温度が下がり過ぎており、鋳型直下における剥離性を評価するモデル実験として適切なものとはならない(口頭審理陳述要領書3頁12行?25行)。

カ モデル実験において、「容器表面は速やかに1300度近くの、少なくとも100℃を優に超える温度(最大到達温度)まで昇温する」ことや、「バルクの鉄とは異なり厚みが薄いものであるので、その表面が最大到達温度まで昇温するのに要する時間は、その後モールドパウダーが冷却され、固化する過程に要する時間に比べて無視し得る程度に短いものである」ことは、当業者が訂正明細書に接して、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供すること」という本件発明が解決すべき課題を認識した以上は、訂正明細書のモデル実験の方法の記載(【0017】)に基づいて十分に理解できる技術事項である。
したがって、これらの技術事項が訂正明細書に記載されていないとか、技術常識として知っていたものではないといったことは、無効理由1が存在することの理由にはならない(口頭審理陳述要領書7頁2行?14行)。

キ 鉄製矩形容器の大きさ、容器を構成する鉄板の厚さ、及び鉄製矩形容器の大きさと流し込むモールドパウダーの容量との関係については、口頭審理陳述要領書2頁?3頁(上記エ?オ)に述べたとおりであり、鉄製矩形容器の設置環境についても、ごく一般的な室内環境で行ったものであり、種々のモールドパウダーを用いての一連のモデル実験において、室温、湿度、換気等において同じ設置環境を維持した。これらの条件については、本モデル実験が鋳型直下での鋳片からの剥離性を評価するために妥当な条件で行われたことを明確にするために、口頭審理陳述要領書で明らかにした事項であるが、これが訂正明細書に記載されていないとしても、訂正明細書で本件発明が解決すべき課題に接した当業者であれば、モデル実験手法として、パウダーの組成以外は条件を揃えて実験を行ったであろうことや、その条件も、課題を解決するために妥当と考えられる条件で行ったであろうことは、モデル実験の方法の記載(【0017】)で十分に理解できるものである(口頭審理陳述要領書7頁15行?8頁6行)。

ク 容器の解体方法と、「最終的に固化する前」が具体的にいつの時点であるかについては、口頭審理陳述要領書2頁?3頁(上記エ?オ)に述べたとおりであり、ここで重要なことは、容器の解体方法についても解体のタイミングについても全てのパウダーについて条件を揃えて実験を行ったことであり、パウダーの凝固温度が組成によって異なることは当然であるが、訂正明細書のモデル実験では、容器解体のタイミングは、鋳型直下において鋳片表面が1000℃近くになっていることを考慮したタイミングとしていることから、全てのパウダー組成においてほぼ同様の1000℃近くである(口頭審理陳述要領書8頁15行?8頁27行)。

ケ 容器表面が当初は常温であることが剥離性の評価において問題とならないことは審判事件答弁書8頁1?19行(上記ア)で説明したとおりであり、また、容器表面近傍のモールドパウダーが容器表面によって急激に冷却される過程を経る点が実際の鋳造と異なることに関しても、剥離性の評価において問題とならない。すなわち、容器表面の近傍のモールドパウダーは、容器内に流し込まれる溶融したモールドパウダーうちのごく一部であり、容器表面近傍のモールドパウダーに隣接している大量の溶融モールドパウダーから熱が供給されることと、容器表面は速やかに1300℃近くの温度まで昇温することから、容器表面近傍のモールドパウダーが、実機の温度履歴と解離するほどに冷却されることはない。そして、容器及びモールドパウダーの温度が、1300℃近くの、少なくとも1000℃を優に超える温度(最大到達温度)で一致した後、両者は徐々に冷却されて温度が低下するから、モールドパウダーの冷却時の温度変化は、実際の鋳造と大差ない(口頭審理陳述要領書9頁6行?20行)。

コ 鉄製矩形容器の表面が常温であること(初期温度の相違)と、「鉄製矩形容器」に関しては、答弁書8頁1行?9頁8行(上記ア?イ)で述べたとおりであり、これらの2点以外に、表面状態を異ならしめる原因については指摘されていない(口頭審理陳述要領書10頁1行?4行)。

サ 「鉄」と「低炭素アルミキルド鋼」とが同義ではないことは確かであるが、訂正明細書の課題(【0009】)と実施例(【0028】?【0031】)の記載に接した当業者は、本モデル実験で用いた鉄製容器の「鉄」が、「鉄」を意図するものではなく、「低炭素アルミキルド鋼」を意図したものであると理解するから、答弁書8頁26行?9頁8行(上記イ)における主張は正当なものである(口頭審理陳述要領書10頁6行?18行)。

シ 訂正明細書において行った剥離性評価のモデル実験は、鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして妥当なものと当業者が理解できるから、答弁書9頁13?27行(上記ウ)における主張は正当なものである(口頭審理陳述要領書10頁20行?11頁2行)。

ス 訂正明細書の実施例における実機でのバルジング性湯面変動の優劣が、パウダーの組成が異なることによる凝固温度の相違により、凝固シェルの厚みも変化し、その結果バルジング性湯面変動の程度が変わるという現象の影響を含んでいる可能性を否定するものではないが、訂正明細書に接した当業者であれば、実施例における実機でのバルジング性湯面変動の優劣は、鋳型直下の鋳片からの剥離性の違いにも起因するものであろうと理解するものである。
すなわち、訂正明細書の【0009】には、「本発明・・・の目的とするところは、二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することである。」と記載されており、モデル実験の結果から、特許発明の(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーによって、当該課題が解決できることは明らかになっている。しかも、【0008】、【0013】の記載に基づけば、鋳型直下での鋳片表面からの剥離性が向上すれば、二次冷却体でのスプレーによる冷却効率が向上し、その結果凝固シェルが厚くなり、バルジング性湯面変動が低減されることは、当業者であれば十分に理解できる。したがって、【0008】、【0009】、【0013】の記載と、モデル実験の結果を踏まえれば、訂正明細書の実施例における実機でのバルジング性湯面変動の優劣は、鋳型直下の鋳片からの剥離性の違いにも起因するものであろうことは当業者において容易に理解されるものである(口頭審理陳述要領書11頁7行?24行)。

セ モールドパウダーの特性評価方法として、鉄製容器を用いる方法が、本件特許出願時において一般的に行われていた方法だったことを、乙1号証?乙5号証の記載により理解できる(口頭審理陳述要領書(第2回)3頁7行?11頁4行)。

[証拠方法]
乙第1号証:特開昭56-66362号公報
乙第2号証:特開平8-267204号公報
乙第3号証:特開平10-58103号公報
乙第4号証:特開平10-58104号公報
乙第5号証:特開2001-259805号公報

4 乙号証の記載事項
被請求人が証拠方法として提出した乙号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである。
(1) 乙第1号証(特開昭56-66362号公報)
(1A) 「2.特許請求の範囲
上面が開口した平底状の容器内に造塊用添加剤を入れ、これを加熱炉内で所定温度に所定時間加熱し、造塊用添加剤の全部が溶融しない段階で前記容器を加熱炉より取り出し、冷却後造塊用添加剤の浴融挙動を観察することを特徴とする造塊用添加剤の浴融試験方法。
3.発明の詳細な説明
本発明は鋼の鋳造時に鋳型内に添加される造塊用添加剤の溶融試験方法に関するものである。
造塊用添加剤は鋼の鋳造時に鋳型内の溶鋼湯面に添加され、鋳型壁と鋳型内鋳片との間の潤滑作用や、鋳型内溶鋼表面の酸化防止作用及び該溶鋼表面の保温作用、並びに溶鋼表面に浮上してくる金属酸化物の吸収作用等を行なうものであり、それによって鋼片の表面欠陥をなくして美麗な鋳肌を形成できる効果があり、特に連続鋳造操業の鋳込作業の安定性確保と製鋼鋳造歩留の向上を図るために必要不可欠なものとなっている。」(1頁左下欄4行?右下欄2行)

(1B) 「実施例
0.5mm厚の鉄板(SS41)を用いて、縦90mm、横160mm、深さ20mmの上面が開口した平底状の箱形の容器1(第1図)を作成した。第1図、第2図に示すように、この容器1内に100gの造塊用添加剤2を入れ、その厚みが均等となるように敷きつめた。SiCを発熱体とする容量の大きい箱形のマツフル炉を1300℃に保持し、このマツフル炉に前記添加剤2の入った容器1を入れて加熱した。1分間加熱した後、前記容器1をマツフル炉より取り出し、大気中で放冷し、しかる後、前記添加剤2の溶融挙動を観察した。溶融部分と未溶融部分とが明確に識別でき、それらの割合やパターン等から溶融挙動の正確な把握を行なうことができた。」(3頁左上欄1行?右上欄14行)

(2) 乙第2号証(特開平8-267204号公報)
(2A) 「【0018】図1は、本発明者が考案したパウダ-スラグの急冷凝固用モールド(以下、「急冷凝固用モ-ルド」という)を示す概略斜視図である。この急冷凝固用モールドは、外形が幅66mm×長さ100mm×高さ60mmのステンレス製直方体の上面中央部に、幅5mm×長さ30mm×深さ30mmの溝状の空間部を形成し、この空間部を溶融パウダ-スラグの鋳込部とした。そして、鋳込部の長さ中心、幅中心、溝底から5mmの位置に熱電対を設置してモールドパウダーの冷却速度を測定した。
【0019】急冷凝固用モールドを200?400℃に保持し、その鋳込み部に、大気雰囲気電気炉によって温度1300℃で30分間溶融・保持したモールドパウダーを注ぎ込んだ。このようにして急冷され、凝固したモ-ルドパウダ-の試験片をモ-ルドから取り出した。このようにしてモ-ルドパウダ-の急冷凝固試験片を調製した。
【0020】モ-ルドパウダ-の凝固・冷却時の冷却速度は、約1700?2000℃/minであった。尚、冷却速度は急冷凝固用モールドの熱容量により変更可能であり、例えば、図1に示した急冷凝固用モールドの外形寸法を大きくすることにより冷却速度を速くし、逆に小さくすることにより遅くすることができる。
【0021】このよにして得られた急冷凝固試験片を長さ中央部且つ幅方向平行で深さ方向に切断し、切断面を研磨した。次いで、研磨面を画像解析して結晶化率を求めた。研磨面における結晶相生成に関しては、同様に調製した急冷凝固試験片を予め鉱物顕微鏡を用い10倍で研磨面を検鏡して結晶相生成の成否を判定し、画像解析に組み込んだ。そして、結晶化率は、研磨面積中に占める結晶相面積の割合(面積%)で定義した。
【0022】図2は、上述したモ-ルドパウダ-の急冷凝固試験によって得られた急冷凝固試験片の結晶組織の例を示す図である。同図中パウダ-試料No.Bにおいては、矢印で示した部分およびこれに類似の部分が結晶組織の部分である。
【0023】表1には、図2に示した結晶組織を呈したパウダ-試料No.AおよびBについての塩基度および従来の方法で測定した平衡結晶化温度、並びに、急冷凝固試験で得られた結晶化率を示す。」

(3) 乙第3号証(特開平10-58103号公報)
(3A) 「【請求項1】 モールドフラックスを黒鉛ルツボへ装入し、該黒鉛ルツボを所定時間加熱して、モールドフラックスを均一に溶解せしめ、その後溶融したモールドフラックスを黒鉛ルツボより抽出し、予め用意した所定形状を有する傾斜冷却鋳型に注入して、モールドフラックスの冷却試料を作り、該試料を縦断してその断面を観察し、モールドフラックスの評価を行うことを特徴とするモールドフラックスの溶融試験方法。」

(3B) 「【0029】鋳型の材質については特に限定されず、鉄、銅等の金属製でも或いは陶器、磁器製でもよいが通常の連続鋳造鋳片との類似性から鉄鋼製が製作面からみて容易である。」

(4) 乙第4号証(特開平10-58104号公報)
(4A) 「【0018】そこで本発明者らは、溶融したモールドフラックスの凝固時の結晶析出温度と、結晶の発生する数と大きさについて、図1に示すような鉄製鋳型に溶融フラックスを流し込み、その凝固組織を調査し検討を行った。モールドフラックスの溶融方法としては図2に示すように一般的なマッフル炉を用い、その操作を図3(a)と(b)に示した。
【0019】定量のモールドフラックス1(Ig.lossを除いたフラックス成分)を上部黒鉛ルツボ2の上方から装入する。この時上部黒鉛ルツボ2は下降した状態にあり、下部黒鉛ルツボ3の中心部に位置するストッパー5は閉じており、装入されたフラックス1は上部黒鉛ルツボ2が加熱状態にあるため、その一部は溶解されながら下部ルツボ3に流下し(図3-a)、ルツボ3内のフラックスを均等に溶融する。なお、下部黒鉛ルツボ3にはその外周に該ルツボを加熱するための発熱体9が設置されている。
【0020】モールドフラックス1は一定の均一溶融保持時間を経た後、上部ルツボ2を上昇することによりストッパー5も同時に上昇し、瞬時に下部黒鉛ルツボ3の抽出口4より流出させ(図3-b)、中間ノズル6を介して下方に位置する鋳型7に一定条件下で正確に注入されるようになっており、鋳型に注入された溶融フラックスは冷却され、モールドフラックスの凝固試料となる。冷却凝固したモールドフラックスは鋳型7より取り出され、該試料を縦方向に切断し、その切断面を肉眼によりその組織を観察する。」

(4B) 「【0026】本発明においては、モールドフラックスの溶融試験において、特定された条件のもとに冷却凝固した試料の断面観察を行ってモールドフラックスの良否を判断するものであるからモールドフラックスの溶融から鋳型への注入、また鋳型の特定等溶融試験において再現性ある結果が得られなければならない。そこで、特定される条件としては溶融モールドフラックスの溶解する時間と注入時の温度であるが、これは例えば図2に示したような溶解装置により、溶解を15分以内に行い、鋳型注入時の温度は1400?1450℃の範囲内で、2秒以内に注入を完了させる。また鋳型については図1に示したような寸法を有する鋳型であって、鋳型の材質としては高熱伝導率の性質をもち、鋳型高さ全体に亘っての健全な試料が得られるよう考慮する。試料の冷却は通常の空冷で特別の処置を施す必要はない。」

(5) 乙第5号証(特開2001-259805号公報)
(5A) 「【請求項1】モールドパウダを型枠の上方から落下させることにより上記型枠の上端まで装入した後、上記型枠とともに500℃以上に昇温して焼結させた後に冷却し、その後上記型枠から取り出したままのモールドパウダの焼結体の圧縮強度を測定することを特徴とするモールドパウダの焼結性評価方法。」

(5B) 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、モールドパウダを使用する前に、スラグベアが形成されやすいのかどうかを予め予測できる試験評価方法を提供すること、および、スラグベアが形成されにくいモールドパウダを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記(1)に示すモールドパウダの焼結性評価方法、および(2)に示すモールドパウダにある。
(1)モールドパウダを型枠の上方から落下させることにより型枠の上端まで装入した後、型枠とともに500℃以上に昇温して焼結させた後に冷却し、その後型枠から取り出したままのモールドパウダの焼結体の圧縮強度を測定するモールドパウダの焼結性評価方法。・・・」

(5C) 「【0015】
【発明の実施の形態】まず、本発明のモールドパウダの焼結性評価方法を説明する。型枠の材質は、約900℃程度の温度で変形や酸化を起こしにくいような耐熱性を有し、さらに、モールドパウダと化学反応しにくい材質であればよい。たとえば、一般的な18質量%Cr-8質量%Niを含むステンレス鋼を用いることができる。
【0016】型枠の形状は、上端および下端が開口した円筒状、または中空の多角柱状が望ましい。その際に同じ材質の台盤を用いればよい。また、底部を有する円筒状、または中空の多角柱状のものでも構わない。上端を結ぶ線および下端を結ぶ線は、型枠の中心軸に対してそれぞれ垂直な線となるように上端および下端を形成するのがよい。また、円筒状の場合で説明すると、内径および深さは、ともに30?100mm程度が望ましい。肉厚は1?5mm程度がよい。底部を有する場合の底部の肉厚も同様が望ましい。また、台盤を用いる場合には、台盤の肉厚も同様が望ましい。
【0017】さらに、円筒状、中空の多角柱状、または、それらの底部を有するもののいずれの型枠の場合にも、中心軸を含む断面で2分割できる構造とするのがよい。焼結体を型枠から取り出しやすいからである。」

(5D) 「【0034】
【実施例】(実施例1)本発明のモールドパウダの焼結性評価方法を用いることにより、鋳造中のスラグベアの発生の有無を予測できることを実証するため、下記の試験を行った。
【0035】モールドパウダの化学組成を表1に示す。後述する表3に示す2種類の原料配合によって製造した2種類のモールドパウダを用いて、モールドパウダの焼結性評価試験および実際の連続鋳造試験を行った。
【0036】
【表1】

本発明のモールドパウダの焼結性評価方法を用いたモールドパウダの焼結体の圧縮強度は、次のようにして測定した。内径50mm、高さ60mm、肉厚3mmの一般的な18質量%Cr-8質量%Niを含むステンレス鋼製の型枠内に、その上端の上方からモールドパウダを落下させ、型枠内をモールドパウダで充填させた。上方の高さは100mmとし、一部では200mmとした。その後、型枠の上面を擦り切って平面状にした。この状態のモールドパウダを、型枠とともに大気雰囲気中で電気抵抗による加熱炉を用いて加熱した。加熱温度、保持時間の条件を変更して試験した。加熱、保持後、モールドパウダの焼結体を放冷して室温まで冷却した。その後、この焼結体を型枠から取り出し、通常の油圧式圧縮試験機を用いて圧縮試験を行った。」

第5 当審の判断
当審は、本件発明1?2の特許は無効理由1によって無効にすべきものであると判断する。その理由は以下のとおりである。
1 無効理由1についての請求人の主張
請求人が主張する無効理由1に係る特許法第36条第6項第1号違反は、おおむね次のとおりである(審判請求書18頁7行?26頁下から5行)。

訂正明細書の【0009】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」ことであるところ、この課題でいう「鋳片表面からの剥離性」は、1000℃近くになる鋳片表面からのモールドパウダーの剥離性であると当業者に理解されるのに対し、訂正明細書に記載の「鉄製矩形容器」(【0017】)からの剥離性は、常温の容器表面からのモールドパウダーの剥離性と理解されるから、両者は、少なくとも剥離する表面温度の点で異なる。
また、訂正明細書に記載の剥離性の評価(【0017】)では、連続鋳造がされていないし、鉄製矩形容器における「鉄」の組成も不明である。
したがって、訂正明細書には、(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーが、請求項1に特定される組成の低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造において、上記課題を解決するモールドパウダーであると当業者において理解できる裏付けがない。
さらに、訂正明細書の実施例(【0028】?【0031】)からは、(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーのうちの一つがバルジング性湯面変動を低減可能であることが理解されるにすぎないから、当業者が上記実施例の記載を参酌したとしても、(1)式及び(2)式を満たすモールドパウダーのいずれもが、上記課題を解決するとは理解しない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 無効理由1についての一次審決の判断
一次審決では、無効理由1に対し、以下のとおり判断した。
『1 無効理由1について
(1) 請求人の主張
・・・
(2) 訂正明細書及び図面の記載事項
訂正明細書及び図面には、以下の記載がある。
(2ア)・・・
・・・
(2ク)・・・

(3) 判断
ア まず、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載について検討する。
(ア) 訂正明細書の上記(2ア)の【0009】の記載によれば、本件発明が解決すべき課題は、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」ことである。

(イ) そして、訂正明細書の上記(2イ)には、上記(ア)に示した課題を解決する手段として、「C:0.02?0.05質量%(但し、0.05質量%を除く)、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%を含有する低炭素アルミキルド鋼(以下、単に「低炭素アルミキルド鋼」ともいう。)の連続鋳造に使用される、少なくともSiO_(2)、CaO、及びNa_(2)Oを含有し、二次冷却帯においては鋳片表面からの剥離性に優れ、二次冷却帯での鋳片の冷却能を高めることが可能な、鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、・・・及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)ことを特徴とするものである。但し、(1)式及び(2)式において、[%Na_(2)O]は前記モールドパウダーのNa_(2)O含有量(質量%)、[%SiO_(2)]は前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)、CaO/SiO_(2)は前記モールドパウダーの塩基度である。

」鋼の連続鋳造用モールドパウダー、及び、「前記モールドパウダーは、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造時に使用するモールドパウダー」が記載されている。

(ウ) そこで、上記(イ)における(1)及び(2)式の技術的意義について検討する。
(ウ-1) 訂正明細書の上記(2エ)には、発明を実施するための最良の形態として、モールドパウダーの主成分であるCaO及びSiO_(2)と、物性調整材として一般的に使用されているNa_(2)Oとを選択し、これら成分の含有量を変化させて、モールドパウダーの鋳片表面からの剥離性を調査したこと、当該剥離性は、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを鉄製矩形容器内に流し込み、溶融したモールドパウダーが固化完了する前に矩形容器を解体し、矩形容器壁面へのモールドパウダーの付着した面積率で評価したこと、及び、付着した面積率が50%未満の場合を、剥離性に優れると評価し、逆に、付着した面積率が50%以上の場合を、剥離性が悪いと評価し、その結果、剥離性に優れたモールドパウダーとしては、モールドパウダー中のCaO含有量、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量が、下記の(1)式及び(2)式を同時に満足する必要があることが記載されている。


(ウ-2) また、訂正明細書の上記(2オ)には、実施例として、2ストランドの垂直曲げ型スラブ連続鋳造機において、上記(ウ-1)における(1)式及び(2)式を満足していないモールドパウダーA(SiO_(2)含有量32.2質量%、CaO含有量27.7質量%、Na_(2)O含有量14.9質量%)と、同(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーB(SiO_(2)含有量31.5質量%、CaO含有量31.9質量%、Na_(2)O含有量9.2質量%)の2種類のモールドパウダーを用いて、低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を鋳片引き抜き速度2.5m/分で鋳造し、その際に、これらのモールドパウダーを6チャージの連続連続鋳造で、チャージ毎にストランドを交互に変更して使用することで、湯面変動に及ぼすストランド特有の外乱を排除したところ、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーBでは、平均湯面変動は約7mmであり、目標とする10mm以下の湯面変動を確保することができたのに対し、上記(1)式及び(2)式を満足していないモールドパウダーAでは、平均湯面変動は約15mmであり、したがって、本件発明のモールドパウダーを使用することで、バルジング性湯面変動を低減可能であることが確認できたことが記載されている。

(ウ-3) ここで、訂正明細書の上記(2ウ)の「鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造」との記載によれば、上記(ウ-2)における実施例の鋳片引き抜き速度2.5m/分での鋳造は、高速鋳造であるといえる。
そうすると、同実施例において、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーBは、鋳片引き抜き速度が2.5m/分という高速鋳造であっても、バルジング性湯面変動を低減できるのであるから、訂正明細書の上記(2ア)の【0007】の「鋳片引き抜き速度が高速化されると、凝固シェル厚みが薄くなり、これに伴ってバルジングが大きくなることが、高速鋳造下でバルジングが激しくなる原因である」との記載からすると、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーBは、鋳片引き抜き速度が2.5m/分より遅い鋳造速度であっても、バルジング性湯面変動を低減できることは明らかである。
そして、訂正明細書の上記(2ア)の【0008】の「鋳型から引き抜かれた鋳片は、二次冷却帯に設置される水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズルによって冷却されるが、鋳片表面にモールドパウダーが付着した場合と付着していない場合とで、冷却効率に差が生ずる。つまり、鋳片表面にモールドパウダーが付着していない方が冷却効率は良く、凝固シェル厚みは厚くなる。バルジング性湯面変動を抑制するには、鋳片への付着量の少ないモールドパウダー、換言すれば、鋳片からの剥離性の良いモールドパウダーが望ましい。」との記載によれば、低炭素アルミキルド鋼を連続鋳造する際に、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーBを使用すると、バルジング性湯面変動が低減できるのは、二次冷却帯において、鋳片表面からの、上記モールドパウダーBの剥離性が良いため、冷却効率が良くなり、凝固シェル厚みが厚くなったことによるものであるといえる。

(ウ-4) 上記(ウ-1)?(ウ-3)の検討事項によれば、モールドパウダーの鋳片表面からの剥離性の評価(以下、単に「剥離性の評価」ともいう。)において、CaO含有量、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量が、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーは、剥離性に優れていると評価され、また、低炭素アルミキルド鋼を連続鋳造(鋳片引き抜き速度2.5m/分を含む)する際に、上記剥離性の評価において剥離性が悪いと評価された、上記(1)式及び(2)式を満足していないモールドパウダーAは、二次冷却帯において、鋳片表面からの剥離性が悪いため、当該二次冷却帯の冷却能を高めることができないのに対して、上記剥離性の評価において剥離性が優れているとされた、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーBは、二次冷却帯において、鋳片表面からの剥離性が良いため、当該二次冷却帯の冷却能を高めることができることが確認された。

(ウ-5) したがって、低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造(鋳片引き抜き速度2.5m/分を含む)に際して、上記(ウ-1)における剥離性の評価において剥離性が優れているとされた、上記(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーの一例として、モールドパウダーBを用いると、上記(ア)に示した課題を解決できる、すなわち、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」ことができると認められる。

(ウ-6) そうすると、上記剥離性の評価は、モールドパウダーの二次冷却帯における鋳片表面からの剥離性を評価する方法として妥当なものであるということができるから、上記剥離性の評価において、剥離性が優れているとされた、上記(1)式及び(2)式を満たす全てのモールドパウダーは、二次冷却帯における鋳片表面からの剥離性も優れているといえるから、低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造(鋳片引き抜き速度2.5m/分を含む)に使用する、当該全てのモールドパウダーも、上記モールドパウダーBと同様に、上記(ア)に示した課題を解決できるものであることは、訂正明細書に接した当業者であれば十分に理解し得るものである。

(エ) 以上から、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記(イ)における鋼の連続鋳造用モールドパウダー、すなわち、「C:0.02?0.05質量%(但し、0.05質量%を除く)、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%を含有する低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造に使用される、少なくともSiO_(2)、CaO、及びNa_(2)Oを含有し、二次冷却帯においては鋳片表面からの剥離性に優れ、二次冷却帯での鋳片の冷却能を高めることが可能な、鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、・・・及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)ことを特徴とするものである。但し、(1)式及び(2)式において、[%Na_(2)O]は前記モールドパウダーのNa_(2)O含有量(質量%)、[%SiO_(2)]は前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)、CaO/SiO_(2)は前記モールドパウダーの塩基度である。

」鋼の連続鋳造用モールドパウダー、及び、「前記モールドパウダーは、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造時に使用するモールドパウダー」(以下、まとめて「訂正明細書記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー」という。)は、いずれも、当業者であれば上記(ア)に示した課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

イ 一方、本件発明は、上記第3に示したとおりのものである。

ウ そうすると、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものは、本件発明と相違しない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

エ よって、本件発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(4) 小括
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して、特許されたものということはできない。』(27頁17行?39頁10行)

3 無効理由1についての上記判決の判断
上記一次審決の判断に対し、上記判決では以下のとおりの判断が示された。
『2 取消事由1(サポート要件についての判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(当庁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判例タイムズ1192号164頁参照)。

(2) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると,前記1(1)ウの【0010】及び【0011】における第1の発明についての記載は,請求項1の記載と一致する。
また,同【0012】の記載のうち,「前記モールドパウダー・・・特徴とする」という部分は,請求項2において,本件発明1をさらに特定する事項の記載と一致する。

(3)ア 前記1(1)イのとおり,本件発明の課題は,二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする,鋳片表面からの剥離性に優れる,鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することである(【0009】)。
イ そして,前記(2)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明【0010】,【0011】及び【0012】には,課題を解決する手段として,「第1の発明」及び「第2の発明」のモールドパウダー,すなわち,本件発明が記載され,また,前記1(1)オのとおり,剥離性の試験結果を示した図1及び図2に基づき,請求項1に記載された式(1)及び(2)を満たすモールドパウダーが,剥離性に優れることが分かったとされている(同【0018】?【0024】)。
具体的には,図1及び図2は,溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを鉄製矩形容器内に流し込み,溶融したモールドパウダーが固化完了する前に矩形容器を解体して,矩形容器壁面へのモールドパウダーの付着した面積率で評価し,付着した面積率が50%未満の場合を,剥離性に優れると評価し,逆に,付着した面積率が50%以上の場合を,剥離性が悪いと評価し(同【0017】。以下,この試験を「モデル試験」という。),その結果を,図1は,モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)及びNa_(2)O含有量(質量%)と剥離性との関係を示し,図2は,モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))及びNa_(2)O含有量(質量%)と剥離性との関係を示すようにプロットしたものである(同【0018】)。
また,前記1(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例1として,連続鋳造機において,表1の組成を有し,(1)式及び(2)式のどちらも満足しないモールドパウダーAと,(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーBの2種類のモールドパウダーを用い,厚み250mm,幅1350mm,C:0.02?0.05質量%,Si:0.1質量%以下,Mn:0.05?0.3質量%,P:0.002?0.035質量%,S:0.005?0.015質量%,sol.Al:0.02?0.05質量%の組成の低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を鋳片引抜き速度2.5m/分で鋳造したことが記載されている(本件明細書【0028】?【0030】)。これらのモールドパウダーを6チャージの連続連続鋳造(連々鋳)で,チャージ毎にストランドを変更して使用し,そのときの湯面変動を調査した結果,モールドパウダーAでは,平均湯面変動量は約15mmであり,モールドパウダーBでは,平均湯面変動量は約7mmであったことが記載されている(同【0030】【0031】)。この記載は,モデル実験の結果を示す図1及び図2から導かれた式(1)及び(2)を満たすモールドパウダーは,連続鋳造に用いた場合に,実際に鋳片からの剥離性に優れ,二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とするものであるかどうかを,バルジング湯面変動の抑制効果によって評価することを意図したものであると認められる。
ウ 実施例について
(ア) 証拠(甲3,5,7,8,10,19)及び弁論の全趣旨によると,次の技術常識が認められる。
a バルジング性湯面変動は凝固シェルの厚みが薄くなることに起因して激しくなる。凝固シェルは溶鋼が鋳型内で冷却されて形成されるものであり,鋳型内抜熱強度が低い場合(鋳型に抜けていく熱が少なく,鋳型内が冷却されにくい場合)には凝固シェルの厚みが薄くなる。
b 鋳型内における冷却強度の指標としてモールドパウダーの凝固温度が用いられる。このパウダーの凝固温度は,一定温度に保持した坩堝中において円筒を回転するなどして粘性を求め,測定温度に対し粘性をプロットした図において,温度の低下に伴って急激に粘性が高くなる温度とされている。この急激な粘性の変化は温度の低下に伴いパウダーが結晶化し,見掛けの粘性が高くなるためであると考えられており,この凝固温度が高い場合はパウダーフィルム内の結晶相(固着相)厚みが厚いため鋳型-凝固シェル間の熱抵抗が大きくなり,緩冷却が実現されるとされている。
c モールドパウダーの凝固温度は,その組成によって変化する。
(イ) これらの技術常識を考え合わせると,凝固シェルの厚みは,鋳型直下でのモールドパウダーの鋳片表面からの剥離性及びそれに伴う二次冷却帯での冷却効率のみによって決まるものではなく,モールドパウダーの組成によって異なる凝固温度にも影響されると認められる。
(ウ) 本件明細書記載の実施例において,モールドパウダーBとモールドパウダーAについて,鋳型内における冷却強度の指標となる凝固シェルの厚みに影響を与え得る凝固温度は記載されていない。また,モールドパウダーAとモールドパウダーBの組成が記載された表1には,化学成分として,SiO_(2),Al_(2)O_(3),CaO,MgO,Na_(2)Oのみが挙げられ,それらの量を合計しても,モールドパウダーAで80.6%,モールドパウダーBで78.7%であり,残りの成分が何であったのか不明であるから,その組成から凝固温度を推測することもできない。
また,本件明細書記載の実施例において,(1)式及び(2)式を満たすものと満たさないものについての連続鋳造の際のバルジング性湯面変動の測定は,それぞれ,モールドパウダーBとモールドパウダーAの一つずつで行われたにとどまる。
これらのことから,本件明細書の発明の詳細な説明において,モールドパウダーBがモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動を抑制できたことが示されていても,モールドパウダーBがモールドパウダーAと比較してバルジング性湯面変動を抑制することができたのは,モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満たす組成であることによるのか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明からは,不明であるといわざるを得ない。
エ モデル実験について
(ア) 本件明細書においては,モデル実験について,「剥離性は,溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを鉄製矩形容器内に流し込み,溶融したモールドパウダーが固化完了する前に矩形容器を解体し,矩形容器壁面へのモールドパウダーの付着した面積率で評価した」(甲26【0017】)と記載されているにすぎず,矩形容器の大きさ・厚さ,矩形容器に流し込むモールドパウダーの量や速度,矩形容器を解体するタイミング,鉄及びモールドパウダーの組成の全容など,多くの点で詳細な条件が不明である。
この点について,被告は,本件審判において,これらの具体的な条件について主張している(甲29)が,それらは,本件明細書には全く記載されていない。
また,被告は,(1)剥離タイミングにつき,板表面が鋳型直下での鋳片表面と極力同じ状態になるようにという考慮の下に条件が選定されており,矩形容器を解体するタイミングに関しては,本件明細書【0017】に「溶融したモールドパウダーが固化完了する前」と記載しているし,当業者は,モデル実験の目的を考慮し,又は,モールドパウダーの主成分の開示から,剥離タイミングを適宜選択し得る,(2)矩形容器の大きさ・厚さ及び矩形容器に流し込むモールドパウダーの量に関しても,モデル実験の目的に鑑みれば,当業者が適宜選定し得るなどと主張するが,それを裏付ける技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠はない(当審注:この段落の「(1)」及び「(2)」は「○に1」及び「○に2」で記載されている)。
さらに,原告が,被告が本件審判において主張した条件に従って,モデル実験を追試する実験を行ったところ,前記(1)オ(本件明細書【0029】【表1】)記載のモールドパウダーAについても,モールドパウダーBについても,付着面積率はほぼ100%であったことが認められる(甲33)。この追試について,被告は,容器内へのモールドパウダーの流し込みの速度が遅かったことが考えられると主張している。仮にそうであるすると,モールドパウダーの流し込みの速度は,試験の結果を左右する条件であるこということできるが,モールドパウダーの流し込みの速度は,本件明細書には記載がなく,それを認めることができる技術常識が存したとも認められない。
したがって,モデル実験は,それ自体が再現性に乏しいということができる。
(イ) 証拠(甲2,3,8,9,13,18,19)及び弁論の全趣旨によると,連続鋳造にモールドパウダーを用いた場合,モールドパウダーは,主に,固体(粉末)の状態で,鋳型に入れられ,固体の状態で入れられた場合は,溶鋼が固体化する過程にある鋳片からの熱伝達により融解し,鋳片と鋳型の間においてパウダーフィルムを形成し,鋳型直下では鋳片に接していない側から冷却されることが認められる。
一方,前記認定事実(1(1)オ)及び弁論の全趣旨によると,モデル実験においては,モールドパウダーは,融解した液体の状態で,鉄製の矩形容器に注ぎ込まれたのであって,鋳片に見立てた鉄板の側から冷却されたことが認められる。
そうすると,モデル実験においては,熱の移動方向が実際の連続鋳造における熱の移動方向とは逆になっていることになる。
前記認定事実(1(1)オ)及び弁論の全趣旨によると,モールドパウダーの鋳片からの剥離性には,鉄及びモールドパウダーの熱収縮率及び熱伝達率の差が影響すると認められる。前記のとおり,モデル実験は,熱の移動方向が実際の連続鋳造時とは異なっており,そうすると,鉄及びモールドパウダーの熱伝達率の差が,実際の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱伝達率の差と同じであるとは考え難い。また,前記のとおり,モデル実験に用いられた鉄及びモールドパウダーの組成の全容は,明らかでないから,このことからも,モデル実験における鉄及びモールドパウダーの熱収縮率の差が,実際の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱収縮率の差と同じであるかは,不明であるといわざるを得ない。
被告は,モデル実験の熱挙動は,実際の連続鋳造と大差ないと主張するが,そのようにいうことができないことは,上記判示したとおりである。
したがって,モデル実験が,実際の連続鋳造時におけるモールドパウダーの剥離の状況を反映した結果が得られる実験であるとは認められない。
(ウ) よって,モデル実験は,鋳型直下での鋳片表面からのモールドパウダーの剥離性を評価するための実験として妥当なものであると認めることはできない。
オ 以上によると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載又は本件特許出願時の技術常識から,(1)式及び(2)式を満たす本件発明のモールドパウダーが発明の課題を解決することができると認識可能であるとはいえない。
したがって,本件特許は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件明細書において本件訂正発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできない。
3 結論
そうすると,本件特許が特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできないから,これと異なる審決の判断は誤りであり,取消事由1は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。』(53頁6行?59頁3行)

4 無効理由1についての当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(当庁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判例タイムズ1192号164頁参照)。
上記の観点に立って、本件について検討する。

(2) 訂正明細書及び図面の記載事項
訂正明細書及び図面には、以下の記載がある。
(2ア) 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0007】
鋳片引き抜き速度が高速化されると、凝固シェル厚みが薄くなり、これに伴ってバルジングが大きくなることが、高速鋳造下でバルジング性湯面変動が激しくなる原因である。バルジング性湯面変動が発生すると、モールドパウダーの巻き込みが発生し、これを除去するために鋳片の表面手入れを実施する、或いは、バルジング性湯面変動を抑えるために鋳片引き抜き速度を減速する、などを余儀なくされる。
【0008】
鋳型から引き抜かれた鋳片は、二次冷却帯に設置される水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズルによって冷却されるが、鋳片表面にモールドパウダーが付着した場合と付着していない場合とで、冷却効率に差が生ずる。つまり、鋳片表面にモールドパウダーが付着していない方が冷却効率は良く、凝固シェル厚みは厚くなる。バルジング性湯面変動を抑制するには、鋳片への付着量の少ないモールドパウダー、換言すれば、鋳片からの剥離性の良いモールドパウダーが望ましい。しかしながら、従来、モールドパウダーに要求される特性は、前述した5つの特性が主体であり、鋳片表面からの剥離性については検討されておらず、鋳片表面からの剥離性に優れるモールドパウダーは提案されていないのが実情である。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することである。」

(2イ) 「【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の発明に係る鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、C:0.02?0.05質量%(但し、0.05質量%を除く)、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%を含有する低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造に使用される、少なくともSiO_(2)、CaO、及びNa_(2)Oを含有し、二次冷却帯においては鋳片表面からの剥離性に優れ、二次冷却帯での鋳片の冷却能を高めることが可能な、鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)ことを特徴とするものである。但し、(1)式及び(2)式において、[%Na_(2)O]は前記モールドパウダーのNa_(2)O含有量(質量%)、[%SiO_(2)]は前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)、CaO/SiO_(2)は前記モールドパウダーの塩基度である。
【0011】
【数1】

【0012】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、第1の発明において、前記モールドパウダーは、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造時に使用するモールドパウダーであることを特徴とするものである。」

(2ウ) 「【発明の効果】
【0013】
本発明に係るモールドパウダーを使用して溶鋼を連続鋳造することで、溶融して鋳型と凝固シェルとの間隙に流入したモールドパウダーは、鋳型内では鋳片表面に付着していたとしても、鋳型直下においては鋳片表面から迅速に剥離する。これにより、二次冷却の冷却能が向上して鋳片の凝固シェル厚みが増大し、鋳片のバルジング量が低減され、バルジング性湯面変動が減少する。その結果、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造であってもモールドパウダーの巻き込みのない高品質の鋳片を安定して製造することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。」

(2エ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
鋼の連続鋳造において鋳型内に添加して使用されるモールドパウダーは、通常、CaO、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、MnOなどの酸化物を基材とし、これら基材に、基材の物性を調整するための物性調整材として、Na_(2)O、K_(2)O、CaF_(2)、MgF_(2)、Li_(2)CO_(3)、氷晶石などのアルカリ金属或いはアルカリ土類金属の酸化物、弗化物、または炭酸化物と、必要に応じて基材の主成分であるCaO、SiO_(2)の成分調整材である石灰石や珪藻土と、溶融速度調整材であるカーボンブラック、人造黒鉛などの炭素物質と、が添加され構成されている。基材としては、高炉滓、ガラス粉末、ポルトランドセメントや、天然の玄武岩やシラス、また、電気炉及びキュポラなどで溶融されて製造される珪酸カルシウムなどが使用されている。
【0016】
このような成分組成のモールドパウダーにおいて、鋳片表面からの剥離性と化学成分組成との関係を調査した。化学成分としては、モールドパウダーの主成分であるCaO及びSiO_(2)と、物性調整材として一般的に使用されているNa_(2)Oとを選択し、これら成分を変化させて、鋳片表面からの剥離性を調査した。
【0017】
剥離性は、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを鉄製矩形容器内に流し込み、溶融したモールドパウダーが固化完了する前に矩形容器を解体し、矩形容器壁面へのモールドパウダーの付着した面積率で評価した。付着した面積率が50%未満の場合を、剥離性に優れると評価し、逆に、付着した面積率が50%以上の場合を、剥離性が悪いと評価した。尚、剥離性は、鉄及びモールドパウダーにおける熱収縮率及び熱伝達率の差などに依存するものと推定される。
【0018】
図1及び図2に試験結果を示す。図1は、モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)及びNa_(2)O含有量(質量%)と剥離性との関係を示す図であり、図2は、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))及びNa_(2)O含有量(質量%)と剥離性との関係を示す図である。
【0019】
図1に示すように、剥離性はSiO_(2)含有量が多くなっても、また、Na_(2)O含有量が多くなっても、悪くなり、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量が或る所定の範囲である場合のみ、剥離性が良くなることが分かった。即ち、モールドパウダー中のSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量とが下記の(1)式の範囲であるときに、剥離性が良くなることが分かった。
【0020】
【数2】

【0021】
また、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))とNa_(2)O含有量との関係では、図2に示すように、Na_(2)O含有量に応じて塩基度(CaO/SiO_(2))が或る所定の範囲であるときにのみ、剥離性が良くなることが分かった。即ち、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))とNa_(2)O含有量とが下記の(2)式の範囲であるときに、剥離性が良くなることが分かった。
【0022】
【数3】

【0023】
即ち、剥離性に優れたモールドパウダーとしては、モールドパウダー中のCaO含有量、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量が、(1)式及び(2)式を同時に満足する必要のあることを見出した。
【0024】
(1)式及び(2)式の関係を満足する限り、CaO含有量、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量の絶対値は特に規定する必要はなく、例えば、CaO:25?50質量%、SiO_(2):25?50質量%、Na_(2)O:2?15質量%の範囲で(1)式及び(2)式の関係を満足するようにすればよい。」

(2オ) 「【0027】
本発明のモールドパウダーを使用して鋳造することで、溶融して鋳型と凝固シェルとの間隙に流入したモールドパウダーは、鋳型内では鋳片表面に付着していたとしても、鋳型直下においては鋳片表面から迅速に剥離する。これにより、鋳型直下以降の二次冷却帯に設置された水スプレーノズル或いはエアーミストスプレーノズルから噴霧されるスプレー水は鋳片表面に直接衝突するので、冷却能が向上して鋳片の凝固シェル厚みが増大し、鋳片のバルジング量が低減され、バルジング性湯面変動が減少する。その結果、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造であってもモールドパウダーの巻き込みのない高品質の鋳片を安定して製造することが可能となる。
【実施例1】
【0028】
2ストランドの垂直曲げ型スラブ連続鋳造機において、表1に示す組成の2種類のモールドパウダーを用いて、厚み250mm、幅1350mm、C:0.02?0.05質量%、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%の組成の低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を鋳片引抜き速度2.5m/分で鋳造した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すモールドパウダーAは、前述した(1)式及び(2)式を満足しておらず、本発明の範囲外のモールドパウダーである。これに対してモールドパウダーBは、前述した(1)式及び(2)式を満足しており、本発明のモールドパウダーである。これらのモールドパウダーを6チャージの連続連続鋳造(連々鋳)で、チャージ毎にストランドを変更して使用し、そのときの湯面変動を調査した。ストランドを交互に変更することで、仮に湯面変動に及ぼすストランド特有の外乱があったとしても、外乱は双方のモールドパウダーに均等に影響するので、データ処理ではこの外乱を排除することができる。
【0031】
図3に調査結果を示す。図3に示すように、モールドパウダーBでは、平均湯面変動量は約7mmであり、目標とする10mm以下の湯面変動量を確保することができた。これに対して、モールドパウダーAでは、平均湯面変動量は約15mmであり、従って、本発明のモールドパウダーを使用することで、バルジング性湯面変動を低減可能であることが確認できた。」

(2カ) 「【図1】



(2キ) 「【図2】



(2ク) 「【図3】



(3) 判断
ア 上記(2ア)(【0009】)によれば、本件発明が解決すべき課題は、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」ことである。

イ そして、上記(2エ)、(2カ)、(2キ)には、【0017】によるモールドパウダーの剥離性を評価した試験の結果、上記(1)及び(2)式を満足するモールドパウダーの剥離性が優れていることが記載され、上記(2オ)、(2ク)には、実施例として、2ストランドの垂直曲げ型スラブ連続鋳造機において、2種類のモールドパウダーを用いて低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を鋳片引抜き速度2.5m/分で鋳造した試験の結果、上記(1)及び(2)式を満足するモールドパウダーは、バルジング性湯面変動を低減可能であることが確認できたことが記載されている。

ウ そこで、上記(1)の観点に立って、上記イにおけるモールドパウダーの剥離性を評価した試験(以下、「モデル実験」という。)及び2ストランドの垂直曲げ型スラブ連続鋳造機による試験(以下、「実施例試験」という。)によって、上記イにおける(1)及び(2)式を満足するモールドパウダーにより、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」という課題を解決できることを認識できるか否かについて検討する。

エ 実施例試験について
(ア) 上記(3b)、(5b)、(5e)、(7a)、(7b)、(10b)、(10c)によれば、以下の技術常識が認められる。
a バルジング性湯面変動は凝固シェルの厚みが薄くなることに起因して激しくなる。凝固シェルは溶鋼が鋳型内で冷却されて形成されるものであり、鋳型内抜熱強度が低い場合(鋳型に抜けていく熱が少なく、鋳型内が冷却されにくい場合)には凝固シェルの厚みが薄くなる。
b 鋳型内における冷却強度の指標としてモールドパウダーの凝固温度が用いられる。このパウダーの凝固温度は、一定温度に保持した坩堝中において円筒を回転するなどして粘性を求め、測定温度に対し粘性をプロットした図において、温度の低下に伴って急激に粘性が高くなる温度とされている。この急激な粘性の変化は温度の低下に伴いパウダーが結晶化し、見掛けの粘性が高くなるためであると考えられており、この凝固温度が高い場合はパウダーフィルム内の結晶相(固着相)厚みが厚いため鋳型-凝固シェル間の熱抵抗が大きくなり、緩冷却が実現されるとされている。
c モールドパウダーの凝固温度は、その組成によって変化する。

(イ) これらの技術常識を考え合わせると、凝固シェルの厚みは、鋳型直下でのモールドパウダーの鋳片表面からの剥離性及びそれに伴う二次冷却帯での冷却効率のみによって決まるものではなく、モールドパウダーの組成によって異なる凝固温度にも影響されるものである。

(ウ) ここで、上記(2オ)によれば、訂正明細書には、モールドパウダーBとモールドパウダーAについて、鋳型内における冷却強度の指標となる凝固シェルの厚みに影響を与え得る凝固温度は記載されていない。
また、上記(2オ)(【0029】 【表1】)には、モールドパウダーAとモールドパウダーBの組成が記載されているが、化学成分としてSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、CaO、MgO、Na_(2)Oのみが挙げられ、それらの量を合計しても、モールドパウダーAで80.6%、モールドパウダーBで78.7%であり、残りの成分が何であったのか不明であるから、その組成から凝固温度を推測することもできない。
更に、上記実施例試験において、(1)式及び(2)式を満たすものと満たさないものについての連続鋳造の際のバルジング性湯面変動の測定は、それぞれ、モールドパウダーBとモールドパウダーAの一つずつで行われたにとどまるものである。

(エ) このことと、上記(イ)の検討によれば、訂正明細書において、モールドパウダーBがモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動を抑制できたことが示されていても、それができたのは、モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満たす組成であることによるのか、あるいはモールドパウダーの組成によって異なる凝固温度に影響されたためであるのかは、訂正明細書の記載からは不明であるといわざるを得ない。

(オ) 上記「3 被請求人の主張の概要 ウ、ス」によれば、被請求人は、鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして妥当なモデル実験によって、モールドパウダーの成分組成が(1)式及び(2)式を満たすことの技術的意義は十分に示されている以上、実際に連続鋳造を行ってバルジング性湯面変動を低減できたものが(1)式及び(2)式を満たすうちの一つのモールドパウダーであったとしても、それ以外のモールドパウダーも同様に、鋳型直下の鋳片からの剥離性が優れる結果、バルジング性湯面変動が低減できるであろうと考えるのが、技術常識を有する当業者が訂正明細書に接した際の理解である旨、訂正明細書の【0008】、【0009】、【0013】の記載と、モデル実験の結果を踏まえれば、訂正明細書の実施例における実機でのバルジング性湯面変動の優劣は、鋳型直下の鋳片からの剥離性の違いにも起因するものであろうことは当業者において容易に理解される旨を主張している。

(カ) ところが、上記モデル実験により鋳型直下での鋳片表面からのモールドパウダーの剥離性を評価できるものではなく、上記モデル実験が妥当な実験であるとはいえないことは、下記「オ モデル実験について」に記載のとおりであり、かつ、訂正明細書において、モールドパウダーBがモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動を抑制できたことが示されていても、それができたのは、モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満たす組成であることによるのか、あるいはモールドパウダーの組成によって異なる凝固温度に影響されたためであるのかは、訂正明細書の記載からは不明であるといわざるを得ないことは上記(エ)に記載のとおりであるから、連鋳試験でのバルジング性湯面変動の優劣が、鋳型直下の鋳片からの剥離性の違いに起因することを、当業者が理解できるとはいえない。

(キ) そうすると、実施例試験の結果に基づいて、(1)式及び(2)式を満足するモールドパウダーにより、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」という課題を解決できることを認識できるとはいえない。

オ モデル実験について
オ-1 モデル実験の条件について
(ア) 上記(2エ)(【0017】)によれば、モデル実験は、剥離性を、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを鉄製矩形容器内に流し込み、溶融したモールドパウダーが固化完了する前に矩形容器を解体し、矩形容器壁面へのモールドパウダーの付着した面積率で評価したものであり、付着した面積率が50%未満の場合を、剥離性に優れると評価し、逆に、付着した面積率が50%以上の場合を、剥離性が悪いと評価したものである。

(イ) ところが、訂正明細書の記載からは、鉄製矩形容器の大きさ・厚さ、鉄製矩形容器に流し込むモールドパウダーの量や速度、鉄製矩形容器を解体するタイミング、鉄製矩形容器の鉄の組成及びモールドパウダーの組成の全容など、多くの点で詳細な条件が不明である。

(ウ) 上記「3 被請求人の主張の概要 エ?ク、シ、セ」によれば、被請求人は、モデル実験における矩形容器の大きさは、長さ80mm、幅80mm、高さ80mmであり、当該容器を構成する板の厚さは1mmであり、当該容器の解体方法は、縦80mm、横80mm、厚さ1mmの板を5枚用意して、これら5枚の板で底面及び4つの側面からなる箱形の容器を組み、セロハンテープで仮止めして、高さ80mmの矩形の容器を作製し、煉瓦で底面及び側面を抑えた状態にして、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを容器内にその深さが約60mmとなるように流し込み、一定時間の経過後、具体的には、「溶融したモールドパウダーが固化完了する前に」(【0017】)煉瓦を外したもので、この試験では容器の側面のうちの1面をモールドパウダーの固化面から剥離し、その側面の板表面におけるモールドパウダーの付着面積率を評価したものであり、より具体的には、モデル実験では、全てのパウダー組成の場合について、溶融したモールドパウダーを容器に流し込んだ後、同一の一定時間(1分)の経過後に、煉瓦を外したものである旨、モデル実験の条件は、発明の詳細な説明に殊更記載するまでもなく、当業者がモデル実験の目的から適宜選択し得る旨、モデル実験において、「容器表面は速やかに1300度近くの、少なくとも100℃を優に超える温度(最大到達温度)まで昇温する」ことや、「バルクの鉄とは異なり厚みが薄いものであるので、その表面が最大到達温度まで昇温するのに要する時間は、その後モールドパウダーが冷却され、固化する過程に要する時間に比べて無視し得る程度に短いものである」ことは、当業者が、本件発明が解決すべき課題及び訂正明細書のモデル実験の方法の記載(【0017】)に基づいて十分に理解できる技術事項である旨、モデル実験の条件が訂正明細書に記載されていなくても、訂正明細書で本件発明が解決すべき課題に接した当業者であれば、モデル実験手法として、パウダーの組成以外は条件を揃えて実験を行ったであろうことや、その条件も、課題を解決するために妥当と考えられる条件で行ったであろうことは、モデル実験の方法の記載(【0017】)で十分に理解できる旨、モデル実験は、鋳型直下の鋳片からの剥離性を評価するものとして妥当なものである旨、モールドパウダーの特性評価方法として、鉄製容器を用いる方法が、本件特許出願時において一般的に行われていた方法だったことを、乙第1号証?乙第5号証の記載により理解できる旨を主張している。

(エ) ところが、モデル実験の具体的な条件は、訂正明細書には何ら記載されていない。
また、上記「4 乙号証の記載事項」によれば、乙第1号証?乙第5号証には、造塊用添加剤の溶融試験(乙第1号証)、中炭素鋼鋳片の連続鋳造用モールドパウダーの急冷凝固試験(乙第2号証)、モールドフラックスの溶融試験(乙第3号証)、鋼の連続鋳造用モールドフラックスの凝固試験(乙第4号証)、モールドパウダの焼結性評価試験(乙第5号証)といったモールドパウダーの試験を鉄製容器により行うことが記載されているが、これらは、モールドパウダの種々の試験を鉄製容器により行うことを開示するにとどまるものであって、モールドパウダーの剥離性を鉄製容器で試験することを開示するものではないから、そもそも、モールドパウダーの剥離性を鉄製容器で試験することが技術常識であるということはできない。

(オ) そうすると、訂正明細書に、モデル実験において鉄製矩形容器を用いることが記載されているとしても、その条件としてどのような条件が妥当であるのかは不明であるし、ほかに、本件発明のモデル実験において、剥離タイミングや、矩形容器の大きさ・厚さ及び矩形容器に流し込むモールドパウダーの量といった具体的な条件を、当業者が適宜選定し得ることを認めるに足りる技術常識が存したとも認められないから、モデル実験の手法として、パウダーの組成以外は条件を揃えて実験を行ったであろうことや、その条件が、課題を解決するために妥当と考えられる条件で行ったであろうことが漠然と理解できるとしても、更にそこから進んで、モデル実験の具体的な条件を当業者が適宜選択し得るということはできない。
そして、訂正明細書にはモデル実験の具体的な条件が何ら記載されていない上に、モデル実験の具体的な条件を当業者が適宜選択し得ないのであれば、当業者が、モデル実験において、「容器表面は速やかに1300度近くの、少なくとも100℃を優に超える温度(最大到達温度)まで昇温する」ことや、「バルクの鉄とは異なり厚みが薄いものであるので、その表面が最大到達温度まで昇温するのに要する時間は、その後モールドパウダーが冷却され、固化する過程に要する時間に比べて無視し得る程度に短いものである」ことを理解できるともいえない。

(カ) そうすると、上記モデル実験は、多くの点で詳細な条件が不明であり、該条件を当業者が適宜選定し得るともいえないのであって、そのようなモデル実験により鋳型直下での鋳片表面からのモールドパウダーの剥離性を評価できるものではないから、妥当な実験であるとはいえない。

オ-2 モデル実験の熱収縮率及び熱伝達率について
(ア) 上記(2b)、(3b)、(8a)、(9a)、(13b)によれば、連続鋳造に用いられるモールドパウダーは、主に固体(粉末)の状態で鋳型に入れられ、固体の状態で入れられた場合は、溶鋼が固体化する過程にある鋳片からの熱伝達により融解し、鋳片と鋳型の間においてパウダーフィルムを形成し、鋳型直下では鋳片に接していない側から冷却されるものである。
一方、上記(2エ)(【0017】)によれば、モデル実験においては、モールドパウダーは融解した液体の状態で鉄製の矩形容器に注ぎ込まれたのであって、鋳片に見立てた鉄板の側から冷却されるものである。
そうすると、モデル実験においては、熱の移動方向が、モールドパウダー側から鋳片に見立てた鉄板側に向かうのであるが、実際の連続鋳造における熱の移動方向は、鋳片側からモールドパウダー側に向かうから、モデル実験の熱の移動方向は実際の連続鋳造とは逆になっていることになる。

(イ) ここで、上記(2エ)(【0017】)によれば、モールドパウダーの鋳片からの剥離性には、鉄及びモールドパウダーの熱収縮率及び熱伝達率の差が影響すると認められるが、モデル実験は、熱の移動方向が実際の連続鋳造時とは逆になっており、このとき、鉄及びモールドパウダーの熱伝達率の差が、実際の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱伝達率の差と同じであると直ちにいえるものではないし、これらの差が同じになることを認めるに足りる技術常識が存したとも認められない。

(ウ) また、モデル実験に用いられた鉄及びモールドパウダーの組成の全容は明らかでないことは上記「カ-1 モデル実験の条件について(イ)」に記載のとおりであるから、モデル実験における鉄及びモールドパウダーの熱収縮率の差が、実際の低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱収縮率の差と同じであると直ちにいえるものではないし、これらの差が同じになることを認めるに足りる技術常識が存したとも認められない。

(エ) 上記「3 被請求人の主張の概要 ア、イ、ケ?サ」によれば、被請求人は、剥離性評価の段階での容器表面の温度は、鋳型直下の鋳片表面の温度と大差はない状態になっており、常温から最大到達温度までの昇温もその後の冷却過程に比べて十分に速やかに生じるため、溶融したモールドパウダーを流し込む前の容器の温度が常温であったとしても、そのことは剥離性を評価する場面では全く問題とならない旨、当業者であれば、訂正明細書に明記されていなくても、鉄製矩形容器の壁面を鋳片の表面に見立てた剥離性のモデル実験で用いた鉄製矩形容器の「鉄」も、当然に、本件発明1で規定する鋼の成分組成と同じであると理解する旨、モールドパウダーの冷却時の温度変化は、実際の鋳造と大差ない旨、鉄製矩形容器の表面が常温であること(初期温度の相違)と、「鉄製矩形容器」の2点以外に、表面状態を異ならしめる原因については指摘されていない旨、「鉄」と「低炭素アルミキルド鋼」とが同義ではないことは確かであるが、訂正明細書の課題(【0009】)と実施例(【0028】?【0031】)の記載に接した当業者は、本モデル実験で用いた鉄製容器の「鉄」が、「鉄」を意図するものではなく、「低炭素アルミキルド鋼」を意図したものであると理解する旨を主張している。

(オ) ところが、モールドパウダーの鋳片からの剥離性には、鉄及びモールドパウダーの熱収縮率及び熱伝達率の差が影響すると認められること、モデル実験は、熱の移動方向が実際の連続鋳造時とは逆になっており、このとき、鉄及びモールドパウダーの熱伝達率の差が、実際の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱伝達率の差と同じであると直ちにいえるものではないし、これらの差が同じになることを認めるに足りる技術常識が存したとも認められないことは、上記(イ)に記載のとおりである。
更に、モデル実験に用いられた鉄及びモールドパウダーの組成の全容は明らかでないから、モデル実験における鉄及びモールドパウダーの熱収縮率の差が、実際の低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱収縮率の差と同じであると直ちにいえるものではないことは、上記(ウ)に記載のとおりである。
なお、モデル実験に用いられた鉄が「低炭素アルミキルド鋼」を意図していることが理解できるとしても、少なくともモールドパウダーの組成の全容は明らかでないのであるから、モデル実験における鉄及びモールドパウダーの熱収縮率の差が、実際の低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱収縮率の差と同じであると直ちにいえないことに変わりはない。

(カ) 上記(オ)の検討事項と、上記モデル実験は、多くの点で詳細な条件が不明であり、該条件を当業者が適宜選定し得るともいえない(「オ-1 モデル実験の条件について(カ)」)ことからみれば、そのようなモデル実験において、剥離性評価の段階での容器表面の温度が、鋳型直下の鋳片表面の温度と大差はない状態になっており、常温から最大到達温度までの昇温もその後の冷却過程に比べて十分に速やかに生じるとも、モールドパウダーの冷却時の温度変化は、実際の鋳造と大差ないとも、いうことはできない。

(キ) したがって、上記モデル実験は、実際の連続鋳造時におけるモールドパウダーの剥離の状況を反映した結果が得られる実験であるとは認められないので、鋳型直下での鋳片表面からのモールドパウダーの剥離性を評価するための実験として妥当なものであると認めることはできない。

キ 以上のとおりであるから、当業者は、実施例試験及びモデル実験によって、(1)及び(2)式を満足するモールドパウダーにより、「二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する」という課題を解決できることを認識できるとはいえない。
したがって、本件発明1?2は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 本件発明における他の無効理由についての当審の判断
本件発明1?2の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、他の無効理由については検討するまでもなく、無効理由1により、無効にすべきものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本件発明1?2の特許は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鋼の連続鋳造用モールドパウダー
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において鋳型内に添加して使用される連続鋳造用モールドパウダーに関し、特に、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造に好適な連続鋳造用モールドパウダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型内の溶鋼上に添加して使用される連続鋳造用モールドパウダーには、以下のような特性が要求されている。
【0003】
即ち、(1)モールドパウダーで鋳型内の溶鋼湯面を被覆することにより、空気による溶鋼の酸化を防止すると同時に溶鋼の温度低下を防止する効果を有すること、(2)溶融したモールドパウダーは、鋳型と凝固シェルとの間に流れ込んで均一なパウダーフィルムを形成し、両者の間で潤滑作用があること、(3)溶融したモールドパウダーは、鋳型と凝固シェルとの間に流入して潤滑剤として機能するため、常に、適当量供給される必要があり、そのため、消費速度に見合った且つ適正な溶融層の厚みを確保する溶融速度を有すること、(4)モールドパウダーの溶融層が溶鋼中から浮上・分離してくる非金属介在物を吸収した際に、その物性値(粘度、溶融速度)の変化が小さいこと、(5)モールドパウダーの溶鋼中への巻き込みを防止するため、溶融したモールドパウダーは適度な粘度を有すること、である。
【0004】
これらの特性は何れも重要であるが、特に高速鋳造時には、溶鋼中へのモールドパウダーの巻き込みが問題となることが多く、その対策が採られてきた。例えば特許文献1には、1400℃における純鉄との接触角を60度以上とした、溶鋼中に巻き込まれ難いモールドパウダーが開示されている。尚、ブリキ材や自動車用薄鋼板などの品質が厳格な鋼では、中速鋳造時や低速鋳造時でも溶鋼中へのモールドパウダーの巻き込みは問題であり、特許文献1はこれらの対策としても提案されている。
【特許文献1】特開2004-351482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の連続鋳造技術の向上は著しく、鋳片の断面積が大きいスラブ連続鋳造機でも鋳片引き抜き速度を2.0m/分以上とする操業が大半を占めるようになってきた。このように鋳片引き抜き速度が高速化されると、鋳片引き抜き速度が遅かった場合にはほとんど問題にならなかった現象が新たな問題として出現する。この問題の1つにバルジング性湯面変動がある。
【0006】
鋳型から引き抜かれた凝固シェルは、鋳片支持ロールで支持されながら下方に引き抜かれるが、凝固シェルには溶鋼静圧が作用することから、凝固シェルは隣り合う鋳片支持ロールの間で膨らみ(この膨らむことを「バルジング」という)、そして鋳片支持ロールで矯正されて元の厚みに戻る。このバルジングが同じ状態で維持されれば、凝固シェル内の未凝固層(溶鋼)はバランスが取れているので鋳型内湯面位置は変動しないが、バルジングが大きくなったり、小さくなったりする、或いは、鋳片支持ロールで矯正されても元の厚みに戻らなかったりすると、溶鋼はあたかも下流側に引き抜かれる或いは鋳片から押し戻されると同様の挙動を示し、鋳型内の溶鋼湯面は大きく変動する。このようにして生ずる鋳型内の湯面変動をバルジング性湯面変動と称している。
【0007】
鋳片引き抜き速度が高速化されると、凝固シェル厚みが薄くなり、これに伴ってバルジングが大きくなることが、高速鋳造下でバルジング性湯面変動が激しくなる原因である。バルジング性湯面変動が発生すると、モールドパウダーの巻き込みが発生し、これを除去するために鋳片の表面手入れを実施する、或いは、バルジング性湯面変動を抑えるために鋳片引き抜き速度を減速する、などを余儀なくされる。
【0008】
鋳型から引き抜かれた鋳片は、二次冷却帯に設置される水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズルによって冷却されるが、鋳片表面にモールドパウダーが付着した場合と付着していない場合とで、冷却効率に差が生ずる。つまり、鋳片表面にモールドパウダーが付着していない方が冷却効率は良く、凝固シェル厚みは厚くなる。バルジング性湯面変動を抑制するには、鋳片への付着量の少ないモールドパウダー、換言すれば、鋳片からの剥離性の良いモールドパウダーが望ましい。しかしながら、従来、モールドパウダーに要求される特性は、前述した5つの特性が主体であり、鋳片表面からの剥離性については検討されておらず、鋳片表面からの剥離性に優れるモールドパウダーは提案されていないのが実情である。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能とする、鋳片表面からの剥離性に優れる、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の発明に係る鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、C:0.02?0.05質量%(但し、0.05質量%を除く)、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%を含有する低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造に使用される、少なくともSiO_(2)、CaO、及びNa_(2)Oを含有し、二次冷却帯においては鋳片表面からの剥離性に優れ、二次冷却帯での鋳片の冷却能を高めることが可能な、鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)ことを特徴とするものである。但し、(1)式及び(2)式において、[%Na_(2)O]は前記モールドパウダーのNa_(2)O含有量(質量%)、[%SiO_(2)]は前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)、[%CaO]は前記モールドパウダーのCaO含有量(質量%)、CaO/SiO_(2)は前記モールドパウダーの塩基度である。
【0011】
【数1】

【0012】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、第1の発明において、前記モールドパウダーは、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造時に使用するモールドパウダーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るモールドパウダーを使用して溶鋼を連続鋳造することで、溶融して鋳型と凝固シェルとの間隙に流入したモールドパウダーは、鋳型内では鋳片表面に付着していたとしても、鋳型直下においては鋳片表面から迅速に剥離する。これにより、二次冷却の冷却能が向上して鋳片の凝固シェル厚みが増大し、鋳片のバルジング量が低減され、バルジング性湯面変動が減少する。その結果、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造であってもモールドパウダーの巻き込みのない高品質の鋳片を安定して製造することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
鋼の連続鋳造において鋳型内に添加して使用されるモールドパウダーは、通常、CaO、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、MnOなどの酸化物を基材とし、これら基材に、基材の物性を調整するための物性調整材として、Na_(2)O、K_(2)O、CaF_(2)、MgF_(2)、Li_(2)CO_(3)、氷晶石などのアルカリ金属或いはアルカリ土類金属の酸化物、弗化物、または炭酸化物と、必要に応じて基材の主成分であるCaO、SiO_(2)の成分調整材である石灰石や珪藻土と、溶融速度調整材であるカーボンブラック、人造黒鉛などの炭素物質と、が添加され構成されている。基材としては、高炉滓、ガラス粉末、ポルトランドセメントや、天然の玄武岩やシラス、また、電気炉及びキュポラなどで溶融されて製造される珪酸カルシウムなどが使用されている。
【0016】
このような成分組成のモールドパウダーにおいて、鋳片表面からの剥離性と化学成分組成との関係を調査した。化学成分としては、モールドパウダーの主成分であるCaO及びSiO_(2)と、物性調整材として一般的に使用されているNa_(2)Oとを選択し、これら成分を変化させて、鋳片表面からの剥離性を調査した。
【0017】
剥離性は、溶融させて1300℃に保持したモールドパウダーを鉄製矩形容器内に流し込み、溶融したモールドパウダーが固化完了する前に矩形容器を解体し、矩形容器壁面へのモールドパウダーの付着した面積率で評価した。付着した面積率が50%未満の場合を、剥離性に優れると評価し、逆に、付着した面積率が50%以上の場合を、剥離性が悪いと評価した。尚、剥離性は、鉄及びモールドパウダーにおける熱収縮率及び熱伝達率の差などに依存するものと推定される。
【0018】
図1及び図2に試験結果を示す。図1は、モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)及びNa_(2)O含有量(質量%)と剥離性との関係を示す図であり、図2は、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))及びNa_(2)O含有量(質量%)と剥離性との関係を示す図である。
【0019】
図1に示すように、剥離性はSiO_(2)含有量が多くなっても、また、Na_(2)O含有量が多くなっても、悪くなり、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量が或る所定の範囲である場合のみ、剥離性が良くなることが分かった。即ち、モールドパウダー中のSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量とが下記の(1)式の範囲であるときに、剥離性が良くなることが分かった。
【0020】
【数2】

【0021】
また、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))とNa_(2)O含有量との関係では、図2に示すように、Na_(2)O含有量に応じて塩基度(CaO/SiO_(2))が或る所定の範囲であるときにのみ、剥離性が良くなることが分かった。即ち、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO_(2))とNa_(2)O含有量とが下記の(2)式の範囲であるときに、剥離性が良くなることが分かった。
【0022】
【数3】

【0023】
即ち、剥離性に優れたモールドパウダーとしては、モールドパウダー中のCaO含有量、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量が、(1)式及び(2)式を同時に満足する必要のあることを見出した。
【0024】
(1)式及び(2)式の関係を満足する限り、CaO含有量、SiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量の絶対値は特に規定する必要はなく、例えば、CaO:25?50質量%、SiO_(2):25?50質量%、Na_(2)O:2?15質量%の範囲で(1)式及び(2)式の関係を満足するようにすればよい。
【0025】
その他の成分として、適宜、Al_(2)O_(3)、CaF_(2)、Li_(2)Oなどを配合し、更に、カーボンブラックや黒鉛粉などの溶融速度調整剤を1?5質量%となるように配合して、本発明のモールドパウダーとする。
【0026】
このモールドパウダーを使用して溶鋼を連続鋳造する。鋳片引き抜き速度は、特に規定する必要はないが、バルジング性湯面変動が激しくなる、2.0m/分以上の引き抜き速度の場合に本発明の効果が顕著になるので、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の場合に、本発明のモールドパウダーを使用することが好ましい。
【0027】
本発明のモールドパウダーを使用して鋳造することで、溶融して鋳型と凝固シェルとの間隙に流入したモールドパウダーは、鋳型内では鋳片表面に付着していたとしても、鋳型直下においては鋳片表面から迅速に剥離する。これにより、鋳型直下以降の二次冷却帯に設置された水スプレーノズル或いはエアーミストスプレーノズルから噴霧されるスプレー水は鋳片表面に直接衝突するので、冷却能が向上して鋳片の凝固シェル厚みが増大し、鋳片のバルジング量が低減され、バルジング性湯面変動が減少する。その結果、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造であってもモールドパウダーの巻き込みのない高品質の鋳片を安定して製造することが可能となる。
【実施例1】
【0028】
2ストランドの垂直曲げ型スラブ連続鋳造機において、表1に示す組成の2種類のモールドパウダーを用いて、厚み250mm、幅1350mm、C:0.02?0.05質量%、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%の組成の低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を鋳片引抜き速度2.5m/分で鋳造した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すモールドパウダーAは、前述した(1)式及び(2)式を満足しておらず、本発明の範囲外のモールドパウダーである。これに対してモールドパウダーBは、前述した(1)式及び(2)式を満足しており、本発明のモールドパウダーである。これらのモールドパウダーを6チャージの連続連続鋳造(連々鋳)で、チャージ毎にストランドを変更して使用し、そのときの湯面変動を調査した。ストランドを交互に変更することで、仮に湯面変動に及ぼすストランド特有の外乱があったとしても、外乱は双方のモールドパウダーに均等に影響するので、データ処理ではこの外乱を排除することができる。
【0031】
図3に調査結果を示す。図3に示すように、モールドパウダーBでは、平均湯面変動量は約7mmであり、目標とする10mm以下の湯面変動量を確保することができた。これに対して、モールドパウダーAでは、平均湯面変動量は約15mmであり、従って、本発明のモールドパウダーを使用することで、バルジング性湯面変動を低減可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】モールドパウダーのSiO_(2)含有量及びNa_(2)O含有量と剥離性との関係を示す図である。
【図2】モールドパウダーの塩基度及びNa_(2)O含有量と剥離性との関係を示す図である。
【図3】実施例1における調査結果を示す図である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.02?0.05質量%(但し、0.05質量%を除く)、Si:0.1質量%以下、Mn:0.05?0.3質量%、P:0.002?0.035質量%、S:0.005?0.015質量%、sol.Al:0.02?0.05質量%を含有する低炭素アルミキルド鋼の連続鋳造に使用される、少なくともSiO_(2)、CaO、及びNa_(2)Oを含有し、二次冷却帯においては鋳片表面からの剥離性に優れ、二次冷却帯での鋳片の冷却能を高めることが可能な、鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(1)式を満たす範囲であり、且つ、前記モールドパウダーの塩基度とNa_(2)O含有量との関係が、下記の(2)式を満たす範囲である(但し、[%SiO_(2)]=35%、[%Na_(2)O]=8%、かつ、[%CaO]=35%の場合、[%SiO_(2)]=31.4%、[%Na_(2)O]=9.6%、かつ、[%CaO]=25.1%の場合、[%SiO_(2)]=32.8%、[%Na_(2)O]=9.0%、かつ、[%CaO]=26.3%の場合、[%SiO_(2)]=34.4%、[%Na_(2)O]=6.3%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=32.3%、[%Na_(2)O]=7.5%、かつ、[%CaO]=32.1%の場合、[%SiO_(2)]=43.3%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=47.2%、[%Na_(2)O]=12.8%、かつ、[%CaO]=28.8%の場合、[%SiO_(2)]=36.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=38.4%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=37.0%の場合、[%SiO_(2)]=33.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=34.2%の場合、[%SiO_(2)]=34.5%、[%Na_(2)O]=7.9%、かつ、[%CaO]=35.6%の場合、[%SiO_(2)]=34.6%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合、及び[%SiO_(2)]=31.5%、[%Na_(2)O]=5.2%、かつ、[%CaO]=38.5%の場合を除く)ことを特徴とする、鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
0.65×[%Na_(2)O]+25≦[%SiO_(2)]≦2.08×[%Na_(2)O]+25…(1)
-0.078×[%Na_(2)O]+1.4≦CaO/SiO_(2)≦-0.077×[%Na_(2)O]+1.8…(2)
但し、(1)式及び(2)式において、[%Na_(2)O]は前記モールドパウダーのNa_(2)O含有量(質量%)、[%SiO_(2)]は前記モールドパウダーのSiO_(2)含有量(質量%)、[%CaO]は前記モールドパウダーのCaO含有量(質量%)、CaO/SiO_(2)は前記モールドパウダーの塩基度である。
【請求項2】
前記モールドパウダーは、鋳片引き抜き速度が2.0m/分以上の高速鋳造時に使用するモールドパウダーであることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-09 
結審通知日 2018-03-13 
審決日 2018-03-26 
出願番号 特願2005-57899(P2005-57899)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (B22D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 祢屋 健太郎國方 康伸川崎 良平  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 金 公彦
長谷山 健
登録日 2011-04-22 
登録番号 特許第4725133号(P4725133)
発明の名称 鋼の連続鋳造用モールドパウダー  
代理人 柳 康樹  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 吉住 和之  
代理人 黒木 義樹  
代理人 杉村 憲司  
代理人 中塚 岳  
代理人 川原 敬祐  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 杉村 憲司  
代理人 川原 敬祐  

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