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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1341945
異議申立番号 異議2017-700918  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-28 
確定日 2018-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6103072号発明「ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6103072号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6103072号の請求項1、2、4?6、9に係る特許を維持する。 特許第6103072号の請求項3、7、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6103072号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年6月18日(優先権主張 平成25年9月24日、日本国)を国際出願日とする出願であって、特願2015-538954号として審査され、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年3月29日にその特許掲載公報が発行され、その後、当該発行日から6月以内にあたる同年9月28日に、特許異議申立人である三田翔より特許異議の申立てがなされ、同年11月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月25日に意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、同年2月23日に当該訂正請求に係る訂正請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出されたものである。
なお、上記訂正請求に対し、特許異議申立人に意見を述べる機会を与えたが応答はなかった。

第2 本件訂正の適否についての当審の判断

当審は、平成30年1月25日になされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、適法になされたものとして認容できると判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 訂正事項
本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同法第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?9を訂正の対象として請求されたものであるところ、具体的な訂正事項は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有する表面処理剤層、加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」とあるのを、「金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有し、フッ素を含有しない表面処理剤層、レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60であり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率が1:99?60:40である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2、4?6、9も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「加硫接着剤が熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤である請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」とあるのを、「レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤が、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂、未加硫のニトリルゴムまたはそのコンパウンド、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂との混合物である請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「フェノール樹脂としてノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂が併用された請求項5記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」とあるのを、「レゾール型フェノール樹脂-ノボラック型フェノール樹脂混合物として、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10?100重量部の割合でレゾール型フェノール樹脂が併用された請求項5記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(7) 訂正事項7
明細書の段落【0007】に「かかる本発明の目的は、金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有する表面処理剤層、加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材によって達成される。」とあるのを、「かかる本発明の目的は、金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有し、フッ素を含有しない表面処理剤層、レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60であり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率が1:99?60:40である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材によって達成される。」に訂正する。
(8) 訂正事項8
明細書の段落【0017】に「表面処理剤処理が施された鋼板上には、熱硬化性フェノール樹脂系接着剤組成物または熱硬化性フェノール樹脂とエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂とが併用された接着剤組成物が用いられた加硫接着剤層が形成される。」とあるのを、「表面処理剤処理が施された鋼板上には、熱硬化性レゾール型フェノール樹脂含有接着剤組成物または熱硬化性レゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂とが併用されたレゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層が形成される。」に訂正する。
(9) 訂正事項9
明細書の段落【0018】に「加硫接着剤として用いられる熱硬化性フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂の他、レゾール型フェノール樹脂、ジヒドロベンゾオキサジン環を有するフェノール樹脂も用いられ、これらのフェノール樹脂は併用して用いることができる。またこれらのフェノール樹脂とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等の他の熱硬化性樹脂を併用することもでき、さらに未加硫のニトリルゴムまたはそれのコンパウンドを添加して用いることもできる。」とあるのを、「加硫接着剤として用いられる熱硬化性フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂の他、ノボラック型フェノール樹脂、ジヒドロベンゾオキサジン環を有するフェノール樹脂も用いられ、これらのフェノール樹脂は併用して用いることができる。またこれらのフェノール樹脂とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等の他の熱硬化性樹脂を併用することもでき、さらに未加硫のニトリルゴムまたはそれのコンパウンドを添加して用いることもできる。」に訂正する。
(10) 訂正事項10
明細書の段落【0025】に「樹脂成分としては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が約1?500重量部、好ましくは約10?100重量部の割合で併用されたものが一般に用いられる。レゾール型フェノール樹脂の併用は、耐水接着性をさらに向上させるという効果をもたらし、ただしこれ以上の割合で併用されると、耐熱接着性が低下するようになる。」とあるのを、「樹脂成分としては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が約10?100重量部の割合で併用されたものが一般に用いられる。レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂の併用は、耐水接着性をさらに向上させるという効果をもたらし、ただしこれ以上の割合で併用されると、耐熱接着性が低下するようになる。」に訂正する。

2 各訂正事項についての検討
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項3の記載に基づいて、本件訂正前の請求項1に記載されていたジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率を付加し、さらに、本件明細書の段落【0004】や、実施例(【0032】?【0043】)として記載された具体的な表面処理剤及び加硫接着剤などに基づいて(なお、本件明細書の段落【0028】、【0029】などに記載されるとおり、加硫接着剤は、塗布、乾燥後に焼付け処理が行われて、加硫接着剤層となるものである。)、本件訂正前の請求項1に記載されていた表面処理剤層及び加硫接着剤層を、それぞれフッ素を含有しない表面処理剤層及びレゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層に限定するものである(請求項2、4?6、9についてする訂正事項1に係る訂正についても同様である。)。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。
また、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書に規定される目的要件に適合するものであるとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。
(2) 訂正事項2、5、6について
訂正事項2、5、6は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。また、これらの訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
したがって、訂正事項2、5、6は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書に規定される目的要件に適合するものであるとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、明細書の段落【0018】や、実施例(【0032】?【0043】)として記載された具体的な加硫接着剤などに基づいて、本件訂正前の請求項5に記載されていた熱硬化性フェノール系加硫接着剤の種類を限定するものである(請求項6についてする訂正事項3に係る訂正についても同様である。)。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。
また、訂正事項3が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書に規定される目的要件に適合するものであるとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、明細書の段落【0025】に基づいて、本件訂正前の請求項6に記載されていた熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤のフェノール樹脂の成分組成を限定するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。
また、訂正事項4が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書に規定される目的要件に適合するものであるとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。
(5) 訂正事項7?10について
訂正事項7?10は、いずれも上記訂正事項1?6に係る特許請求の範囲についての適法な訂正との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。また、これらの訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
したがって、訂正事項7?10は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書に規定される目的要件に適合するものであるとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、適法になされたものであるといえる。
したがって、結論のとおり、本件訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明・本件特許

上記のとおり、本件訂正は許容できるものであるから、本件訂正後の請求項1、2、4?6、9に係る発明は、次のとおりのものである(以下、請求項1に発明を「本件発明1」などといい、対応する特許を「本件特許1」などという。)。
「 【請求項1】
金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有し、フッ素を含有しない表面処理剤層、レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60であり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率が1:99?60:40である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項2】
ジルコニウム含有化合物が炭酸ジルコニウムアンモニウムである請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項4】
金属板がアルカリ脱脂されたSPCCまたはSPFCである請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項5】
レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤が、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂、未加硫のニトリルゴムまたはそのコンパウンド、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂との混合物である請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項6】
レゾール型フェノール樹脂-ノボラック型フェノール樹脂混合物として、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10?100重量部の割合でレゾール型フェノール樹脂が併用された請求項5記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項9】
ニトリルゴム層上に粘着防止剤層を形成せしめた請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。」

第4 平成29年11月27日付け取消理由についての当審の判断

1 取消理由の概要
当審は、平成29年11月27日付けで取消理由を通知した。その取消理由は、概略、次のとおりである。
(1) (新規性)本件訂正前の請求項1、3、4、5、8に係る発明は、その優先日(平成25年9月24日)前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(以下、特許異議申立人が提出した刊行物を「甲1」などと略称する。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2) (進歩性)本件訂正前の請求項1?9に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3) (実施可能要件)本件訂正前の特許に係る出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 取消理由(1)、(2)(新規性進歩性)について
(1) 刊行物一覧
甲1:特開2004-125174号公報
甲2:特開2008-75808号公報
甲3:特開2007-112871号公報
甲4:特開2003-286587号公報
甲5:特開平3-128986号公報
甲6:特開2006-283182号公報
(2) 甲1に記載された発明(甲1発明)
ア 甲1の記載事項
(ア) 甲1の【請求項1】には、次の「ガスケット用素材」が記載されている。
「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面または両面に、酸成分と金属との反応生成物または酸成分と金属化合物との反応生成物及びシリカからなる皮膜を介してゴム層が形成されていることを特徴とするガスケット用素材。」
(イ) また、同じく【0019】には、次のように記載されている。
「また、必要に応じて、ゴム層と皮膜との間に、プライマー層(例えば、ニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂との接着剤)を介在させてもよい。」
(ウ) そして、具体例として、【実施例】には、次のように記載されている。
「【0020】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げて更に詳しく説明する。但し、これらの実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【0021】
(試料の作製)
ステンレス鋼板の両面に、ロールコーターで表1に示す配合にて混合した皮膜形成用処理液を塗布し、塗膜を180℃で乾燥させ皮膜を形成した。尚、皮膜量については表2に示す。次いで、皮膜の上にニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂で構成された接着剤を塗布して熱処理を行い、皮膜上にプライマー層を形成した。また、このプライマー層を形成しない試料も作製した(実施例5)。そして、その上(プライマー層または皮膜)に、ニトリルゴムを溶剤で溶かした液をロールコーターにて塗布し、180℃で10分間加硫接着させてゴム層を形成して試料とした。
・・・
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】


(エ) 特に、甲1の【0026】【表1】の実施例2には、水酸化物、酸化物またはフッ化物として配合されたニッケル4%、ジルコニウム16%、日産化学工業(株)製スノーテックスO(固形分20重量%)として配合されたコロイダルシリカ40%、りん酸20%、フッ酸10%、水10%から構成された皮膜形成用処理液(以下、「実施例2の皮膜形成用処理液」という。)が記載されている。
イ 甲1に記載された発明(甲1発明)
そうすると、甲1には、実施例2として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、ステンレス鋼板の両面に、ロールコーターで実施例2の皮膜形成用処理液を塗布し、塗膜を180℃で乾燥させて形成された皮膜、当該皮膜の上にニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂で構成された接着剤を塗布して熱処理を行い形成されたプライマー層、および当該プライマー層に、ニトリルゴムを溶剤で溶かした液をロールコーターにて塗布し、180℃で10分間加硫接着させて形成されたゴム層を順次積層してなるガスケット用素材。」
(3) 本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明における「実施例2の皮膜形成用処理液」は、上記表1のとおり、「水酸化物、酸化物またはフッ化物として配合」されたジルコニウム、りん酸及びコロイダルシリカを含有するものであるから、本件発明1の「ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有」する「表面処理剤」に対応するものである。
(イ) また、甲1発明の「ステンレス鋼板」は、本件発明1の「金属板」に相当し、その上に順次積層された「ロールコーターで実施例2の皮膜形成用処理液を塗布し、塗膜を180℃で乾燥させて形成された皮膜」、「当該皮膜の上にニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂で構成された接着剤を塗布して熱処理を行い形成されたプライマー層」および「当該プライマー層に、ニトリルゴムを溶剤で溶かした液をロールコーターにて塗布し、180℃で10分間加硫接着させて形成されたゴム層」は、それぞれ本件発明1の「ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有」する「表面処理剤層」、「加硫接着剤層」および「ニトリルゴム層」に対応するものといえる。
ここで、甲1発明の「ニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂で構成された接着剤」は、広義に解すれば「加硫接着剤」にあたるものと解釈した。
(ウ) さらに、甲1発明に係る「ガスケット用素材」は、本件発明1の「ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材」に対応するものといえる。
(エ) しかしながら、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違するといえる。
相違点:本件発明1の表面処理剤層は「フッ素を含有しない」ものであるのに対して、甲1発明の「ロールコーターで実施例2の皮膜形成用処理液を塗布し、塗膜を180℃で乾燥させて形成された皮膜」は、「実施例2の皮膜形成用処理液」中に、酸成分としてフッ酸を有しており、フッ素を含有するものである点。
イ 相違点についての検討
(ア) 甲1には、皮膜形成用処理液に使用する酸成分について、次の記載がある。
「【0011】
本発明に使用される酸成分としては、リン酸、正リン酸、縮合リン酸、無水リン酸、酢酸、蟻酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、フルオロ錯体、有機酸などがある。これらの酸成分は、皮膜形成用の処理液の固形分中に5?50重量%の割合で配合されることが好ましい。さらに好ましくは10?30重量%である。
【0012】
これら酸成分は基本的に1種で十分であるが、1種のみならず、異種の成分を2種以上混合して使用することも可能である。これは、酸成分と金属成分との反応効率が上がり、酸成分と金属との反応生成物または酸成分と金属化合物との反応生成物の生成が速くなるからである。
【0013】
特に、フルオロ錯体は安定して反応効率を上げるのに適している。フルオロ錯体の例として、フルオロチタン酸、フルオロジルコン酸、フルオロシリコン酸、フルオロアルミン酸、フルオロリン酸、フルオロコバルト酸、フルオロ硫酸、フルオロホウ酸などが挙げられる。また、フルオロ錯体を第2酸成分として選択する場合はフルオロチタン酸またはフルオロジルコン酸を加えるのが良い。これらの酸を加えると、酸成分と金属との反応生成物、または酸成分と金属化合物との反応生成物の生成がより速くなる。」
そうすると、甲1には、皮膜形成用処理液の酸成分として、フッ素を含有するフッ酸以外のものを使用することが記載されているといえる。
(イ) しかしながら、甲1発明はあくまで、甲1に実施例2として記載された、特定の皮膜形成用処理液(実施例2の皮膜形成用処理液)を用いて得たガスケット用素材であるから、上記のように、甲1に、確かに皮膜形成用処理液の酸成分として、フッ素を含有するフッ酸以外のものを使用することが記載されているとしても、当該特定の皮膜形成用処理液(実施例2の皮膜形成用処理液)における「ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率」及び「ジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率」を維持した上で(すなわち、酸成分以外の成分組成はそのままで)、酸成分のみを、フッ酸以外のものに代えることまでが、甲1に記載されているとはいえない。また、甲1全体をみても、これを動機付ける記載ないし示唆は見当たらない。
(ウ) さらに、甲2?6をみても、当該動機付けとなり得る記載ないし示唆は認められない。
(エ) そして、本件発明1は、当該相違点に係る発明特定事項を具備することにより、本件明細書の段落【0004】に記載された、「リン酸亜鉛やリン酸鉄などを用いない金属表面の処理方法としては、有機樹脂にシリカ、フッ化物由来のチタン化合物やジルコニア化合物を含有する表面処理剤を用いた方法が提案されているが(特許文献1)、フッ素を含有しているため、廃水のフッ素除去が必要となり、設備上好ましくない。」という課題を解決することができたものである。
(オ) したがって、本件発明1と甲1発明の間には実質的な相違点が存在し、その上、当該相違点に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するといえず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
(4) 本件発明2、4?6、9について
本件発明2、4?6、9は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、これらの発明も、本件発明1と同様、新規性及び進歩性を有するものと認められる。
(5) 取消理由(1)、(2)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4?6、9は、甲1発明であるとも、当該甲1発明から容易想到のものであるともいえない。
したがって、本件特許1、2、4?6、9は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号には該当しないから、取消理由(1)、(2)によって取り消すことはできない。

3 取消理由(3)(実施可能要件)について
取消理由(3)は、本件明細書の発明の詳細な説明には、比較例5、11、17(【0043】の表2参照)として、表面処理剤L(【0033】の表1参照)を用いたものが記載されているところ、当該表面処理剤Lは、本件訂正前の請求項1に規定されていた条件を満足するものであるのに、同表2のLLC半浸漬性試験の結果は、未浸漬部において評点が2あるいは3となっていることを根拠とするものである。
しかしながら、本件訂正により、上記表面処理剤Lは、本件訂正後の請求項1の規定からは外れるものとなったため、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記取消理由(3)の根拠となる事実はなくなったから、当該取消理由(3)には、理由がない。

第5 その他の特許異議申立理由についての当審の判断

特許異議申立人は、本件訂正前の請求項7に係る発明について、上記甲1発明と甲7(特開2000-17242号公報)に記載された技術的事項の組合せによる容易想到性を主張するが、当該甲7にも、上記取消理由(1)、(2)において検討した相違点に係る本件発明1の発明特定事項が、容易想到のものであるというに足りる記載は見当たらないから、当該主張を採用して、本件発明1、2、4?6、9は、甲1発明と甲7記載の技術的事項などから容易想到のものであるということはできない。
また、特許異議申立人は、上記取消理由(3)と同様の事実を根拠に、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(特許請求の範囲の明確性要件違反)を主張するが、上述のとおり、本件訂正により当該事実はなくなったから、この主張を採用することもできない。

第6 結び

以上のとおり、本件特許1、2、4?6、9は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、上記取消理由及び特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、上記のとおり、本件訂正により、請求項3、7、8は削除されたので、これらの請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないため、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材に関する。さらに詳しくは、耐LLC性、耐熱性にすぐれたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板に表面処理を行った後、接着剤を介してゴムを加硫接着して製品化するニトリルゴム-金属積層ガスケットでは、例えばSPCC(冷間圧延鋼板)やSPFC(冷間圧延高張力鋼板)の表面処理として、リン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理などが主として用いられている。これらの処理は、脱脂された鋼板を酸性に調整された薬液中に浸し、不溶性の皮膜を鋼板上に生成させることで、防錆や接着剤との接着性を確保している。
【0003】
しかるに、これらの処理では、皮膜生成段階でスラッジ(産業廃棄物)が発生することや、反応により薬剤成分が低下するため常時薬剤を投入する必要があり、コストが高いなどの問題がある。
【0004】
リン酸亜鉛やリン酸鉄などを用いない金属表面の処理方法としては、有機樹脂にシリカ、フッ化物由来のチタン化合物やジルコニア化合物を含有する表面処理剤を用いた方法が提案されているが(特許文献1)、フッ素を含有しているため、廃水のフッ素除去が必要となり、設備上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5050316号公報
【特許文献2】特開2006-218630号公報
【特許文献3】特開2008-75808号公報
【特許文献4】特開2004-83623号公報
【特許文献5】特開平7-165953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ガスケットとしての実使用環境下において、例えばSPCC、SPFC等の金属板とニトリルゴムとの積層体であっても、LLC(ロングライフクーラント)中に浸漬あるいは暴露された場合にも十分な接着性を示すと共に、耐熱性にもすぐれたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有し、フッ素を含有しない表面処理剤層、レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60であり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率が1:99?60:40である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るニトリルゴム-金属積層ガスケット素材は、LLC中に浸漬あるいは暴露された場合にも十分な接着性を示すと共に、すぐれた耐熱性をも示すといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属鋼板としては、鉄、アルミ、銅などやそれらの合金等が用いられ、例えばSPCC(冷間圧延鋼板)、SPFC(冷間圧延高張力鋼板)が用いられる。これらの鋼板上には、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有する表面処理剤層が形成される。
【0010】
この表面処理剤層においては、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60、好ましくは90:10?50:50、またジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率が1:99?60:40、好ましくは3:97?52:48の割合で形成される。リン元素に対するジルコニウム元素の量がこれより多いと、後記LLC半浸漬性試験における未浸漬部の耐LLC性が低下するようになり、一方これより少ないと、耐熱性が低下するようになる。また、ジルコニウム元素に対するシリカの量がこれより多いと後記LLC半浸漬性試験における未浸漬部の耐LLC性が低下したり、耐熱性が低下するようになり、一方これより少ないと接着性が低下するとともに処理液の安定性が低下するようになる。
【0011】
これらの皮膜中のジルコニウム含有化合物は、リン酸ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムの形で存在しているが、好ましくはリン酸ジルコニウムの形で存在しているものが用いられる。これらを形成させるための成分としては、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、酸化ジルコニウム等を含有した処理液が用いられるが、好ましくは炭酸ジルコニウムアンモニウムを含有した処理液が用いられる。
【0012】
リン酸の添加量はジルコニウムZrとリンPの元素質量比率が、前述の如く95:5?40:60、好ましくは90:10?50:50になるように調整される。
【0013】
シリカ(酸化けい素)としては、SiO_(2)含有量が85%以上の乾式または湿式シリカを有機溶媒または水中にて分散させたもの、好ましくは高純度の無水シリカの微粒子を有機溶媒または水中にて分散させ、コロイド状としたいわゆるコロイダルシリカが用いられる。コロイダルシリカとしては、平均粒径が1?50nm、好ましくは10?30nmのものであって、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒または水に分散されているものが用いられ、例えば市販品であるメタノールシリカゾル(日産化学工業製品:メタノール中に固形分濃度30重量%で分散したもの)、スノーテックスMEK-ST(同社製品;メチルエチルケトン中に固形分濃度30重量%で分散したもの)、スノーテックスMIBK-ST(同社製品;メチルイソブチルケトン中に固形分濃度30重量%で分散したもの)などが用いられる。
【0014】
また、表面処理剤中には、その効果を高め、また液の安定性を確保する目的で、硝酸、硫酸等の無機酸、ギ酸、酢酸等の有機酸、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、モルホリン、コリン等の含窒素アルカリ性化合物などを添加することもできる。
【0015】
なお、本出願人は先に特許文献2?3において、金属鋼板上に、ジルコニウム元素、リン元素およびアルミニウム元素を含有する表面処理剤層、シリカ含有樹脂系加硫接着剤層およびニトリルゴム層または水素化ニトリルゴム層を順次積層してなるニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を提案しているが、これらの発明で用いられている表面処理剤はAl元素を必須成分としており、またシリカは接着剤の必須成分とされている点で本発明とは異なっている。
【0016】
表面処理剤は、以上の各成分を水中に溶解または分散させた液として、アルカリ等で脱脂された鋼板、好ましくはSPCC、SPFC鋼板上に噴霧、浸漬、刷毛塗り、ロールコータ等の公知の塗工方法によって、片面目付量が約10?1000mg/m^(2)、好ましくは約100?500mg/m^(2)となるように塗布され、室温または温風下で乾燥させた後、約100?250℃で約0.5?20分間程度焼付け処理が実施される。
【0017】
表面処理剤処理が施された鋼板上には、熱硬化性レゾール型フェノール樹脂含有接着剤組成物または熱硬化性レゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂とが併用されたレゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層が形成される。
【0018】
加硫接着剤として用いられる熱硬化性フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂の他、ノボラック型フェノール樹脂、ジヒドロベンゾオキサジン環を有するフェノール樹脂も用いられ、これらのフェノール樹脂は併用して用いることができる。またこれらのフェノール樹脂とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等の他の熱硬化性樹脂を併用することもでき、さらに未加硫のニトリルゴムまたはそれのコンパウンドを添加して用いることもできる。
【0019】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはこれらの混合物とホルムアルデヒドとを、塩酸、しゅう酸等の酸触媒の存在下において縮合反応させることによって得られる軟化点が約80?150℃の樹脂が使用され、好ましくはm-クレゾール、p-クレゾール混合物とホルムアルデヒドとから製造された軟化点100℃以上のものが用いられる。
【0020】
レゾール型フェノール樹脂としては、上記縮合反応を水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、アンモニア等のアルカリ触媒の存在下で反応させたものが用いられる。
【0021】
また、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性フェノール樹脂としては、ジヒドロベンゾオキサジン環を有し、ジヒドロベンゾオキサジン環の開環反応によって硬化する熱硬化性フェノール樹脂であれば任意のものを使用することができ、例えばフェノール性水酸基を有する化合物、1級アミンおよびホルムアルデヒドから、次式に示される如く、ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン誘導体が合成される(特許文献4参照)。

【0022】
フェノール性水酸基を有する化合物としては、芳香環のフェノール性水酸基に対して少くとも一方のo-位に水素原子が結合していることが必要であり、好ましくは分子中にフェノール性水酸基が複数個存在する多官能性フェノール類が用いられる。具体的には、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン等のフェノール類、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類、ノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂、メラミンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等のフェノール樹脂類が例示される。
【0023】
また、1級アミンとしては、アニリン、トルイジン等の芳香族アミン類またはメチルアミン、エチルアミン等の脂肪族アミンが例示される。
【0024】
これらのフェノール性水酸基を有する化合物と1級アミンのそれぞれ1モルに対して、2モル以上のホルムアルデヒドが用いられ、しゅう酸触媒等の存在下に、反応温度約70?130℃、好ましくは約90?110℃で約1/3?4時間程度反応させた後、減圧下120℃以下で未反応のフェノール性化合物、1級アミン類、ホルムアルデヒド等を除去することにより、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂が得られる。
【0025】
樹脂成分としては、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対してレゾール型フェノール樹脂が約10?100重量部の割合で併用されたものが一般に用いられる。レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂の併用は、耐水接着性をさらに向上させるという効果をもたらし、ただしこれ以上の割合で併用されると、耐熱接着性が低下するようになる。
【0026】
フェノール樹脂と共にエポキシ樹脂が併用される場合は、エポキシ樹脂がフェノール樹脂100重量部当り約500重量部以下、好ましくは約20?200重量部の割合で用いられる。エポキシ樹脂の併用により初期接着性がさらに向上するが、これ以上の割合で併用されると耐水性が低下する。なお、エポキシ樹脂を併用する場合には、3級アミン系、イミダゾール系等の硬化促進剤を同時に用いることもできる。
【0027】
また、未加硫のニトリルゴムまたはそのコンパウンドの添加は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部当り約1000重量部以下、好ましくは約10?100重量部の割合で添加して用いられる。ニトリルゴム(コンパウンド)の添加は、加硫接着剤の焼付け層の耐熱接着性をさらに向上させるが、これ以上の割合での添加は耐水接着性を低下させてしまう。
【0028】
加硫接着剤は、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶媒またはこれらの混合溶媒を用い、その成分濃度が約0.1?10重量%の有機溶媒溶液として調製され、表面処理剤の場合と同様の方法で約50?2000mg/m^(2)の片面目付け量で塗布され、室温または温風下で乾燥させた後、約100?250℃で約1?20分間の焼付け処理が行われる。
【0029】
このようにして形成された加硫接着剤層上には、未加硫のニトリルゴムコンパウンドが約5?120μm程度の片面厚さの加硫物層を両面に形成せしめるように、ニトリルゴムコンパウンドの有機溶媒溶液として塗布される。ニトリルゴムとしては、その硬化物の硬度(デュロメーターA)が80以上で、圧縮永久歪(100℃、22時間)が50%以下のものであればよく、また水素化ニトリルゴムであってもよく、特に配合内容によって制限されるものではないが、イオウ、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のイオウ系加硫剤を用いたコンパウンドとして使用することもできるものの、好ましくは有機過酸化物を架橋剤として使用した未加硫ニトリルゴムコンパンドとして用いられる。かかるパーオキサイド架橋系の未加硫ニトリルゴムコンパウンドとしては、例えば次のような配合例が示される。
(配合例)
NBR(JSR製品N235S) 100重量部
SRFカーボンブラック 80 〃
炭酸カルシウム 80 〃
粉末状シリカ 20 〃
酸化亜鉛 5 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラック224) 2 〃
トリアリルイソシアヌレート 2 〃
1,3-ビス(第3ブチルパーオキシ)イソプロピルベンゼン 2.5 〃
可塑剤(バイエル社製品ブカノールOT) 5 〃
【0030】
塗布された未加硫ゴム層は、室温乃至約100℃の温度で約1?15分間程度乾燥し、有機溶媒として用いられたメタノール、エタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類またはこれらの混合溶媒などを揮発させた後、約150?230℃で約0.5?30分間加熱加硫し、必要に応じて加圧して加硫することも行われる。加硫されたニトリルゴム層は、ガスケットとしての用途上、硬度(デュロメーターA)が80以上で、圧縮永久歪(100℃、22時間)が50%以下であることが望ましく、粘着防止が必要な場合には、その表面に粘着防止剤を塗布することもできる。
【0031】
粘着防止剤は、ゴム同士やゴムと金属との粘着を防止する目的で使用され、加硫ニトリルゴム層上に皮膜を形成し得るものであれば任意のものを用いることができ、例えばシリコーン系、フッ素系、グラファイト系、アミド、パラフィン等のワックス系、ポリオレフィン系またはポリブタジエン系のもの等が挙げられるが、好ましくは液状の1,2-ポリブタジエン水酸基含有物、1,2-ポリブタジエンイソシアネート基含有物およびポリオレフィン系樹脂の有機溶剤分散液からなる粘着防止剤が用いられる(特許文献5参照)。
【実施例】
【0032】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0033】
実施例1?7、比較例1?6
アルカリ脱脂した冷間圧延鋼板(SPCC-4D:厚さ0.2mm)上に、表面処理剤皮膜中のジルコニウム、リン、シリカ(SiO_(2)として)質量比率が表1に示される割合になるように、炭酸ジルコニウムアンモニウム、リン酸およびシリカの量を調整した表面処理剤を、所定の片面目付量になるように塗布し、200℃で1分間の乾燥を行った。なお、表面処理剤は、pH6?10になるように水酸化アンモニウムを用いて調整された。ここで、シリカとしてはコロイダルシリカ(平均粒径10?15nm)が用いられ、下記表中のシリカは、SiO_(2)としての重量比率を示している。また、リン酸亜鉛を下記表面処理剤Mとして用い、従来処理であるリン酸亜鉛処理も行われた。リン酸亜鉛処理は、日本パーカライジング製品パルボンドL3020を用いて、片面目付量が2500mg/m^(2)となるように行われた。

【0034】
この表面処理剤A?GおよびH?Mを塗布した鋼板上に、
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 150 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 133 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 3182 〃
よりなる加硫接着剤A(溶液の場合は溶液量として表示;以下同じ)を皮膜量が1500mg/m^(2)となるように塗布し、室温で乾燥させた後、220℃で5分間の焼付け処理を行った。
【0035】
この加硫接着剤塗布鋼板上に、前記配合例のニトリルゴムコンパウンドの25重量%トルエン-メチルエチルケトン(重量比9:1;前記混合溶媒溶液の混合比も同じ)混合溶媒溶液を塗布し、60℃で15分間乾燥させて片面厚さ25μmの未加硫ゴム層を形成させた後、220℃、60kgf/cm^(2)(5.88MPa)、2分間の条件下で加圧加硫を行って、ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材を作製した。
【0036】
このガスケット素材について、次のような各種試験を行った。
LLC半浸漬性試験:LLC液(日本ケミカル製品JCC310)の50重量%水溶液中に、120℃で48時間、ガスケット素材の垂直方向下部を半分のみ浸漬した後、JIS K6894に規定される描画試験に従い試料表面に半径4.5mmの螺旋を25回描き、半浸漬未浸漬部および半浸漬浸漬部について各々下記評価基準(評点)で評価した
評点5:ゴム層が完全に残存している
〃4:ゴム層が一部脱落している
〃3:ゴム層の約半分が脱落している
〃2:ゴム層がわずかに残存している
〃1:ゴム層が完全に脱落している
耐LLC性試験:LLC液(JCC310)の50重量%水溶液中に、120℃で500時間全体を浸漬した後のガスケット素材について、JIS K5400に準拠して碁盤目テープ剥離を実施し、次のような評点で評価した
評点5:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目も剥れない
〃4:カットの交差点において塗膜の小さな剥れあり(剥れ面積率5%未満)
〃3:塗膜がカットの縁に沿って又は交差点において剥れがみられる
(剥れ面積率5?15%未満)
〃2:塗膜のカットの縁に沿って、部分的又は全体的に剥れている
(剥れ面積率15?35%未満)
〃1:塗膜のカットの縁に沿って、部分的又は全体的に剥れている
(剥れ面積率35%以上)
耐熱性試験:ガスケット素材を120℃の恒温槽内で500時間暴露、放置した後、上記碁盤目テープ剥離を実施し、同様に評価した
【0037】
実施例8?14、比較例7?12
実施例1?7、比較例1?6において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤Bが用いられた。
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 33 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 133 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 2597 〃
【0038】
実施例15?21、比較例13?18
実施例1?7、比較例1?6において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤Cが用いられた。
ノボラック型フェノール樹脂 100重量部
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 333 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 133 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 4097 〃
【0039】
実施例22?25
実施例3(表面処理剤C使用)において、加硫接着剤Aの代りに次の組成を有する加硫接着剤D?Gが用いられた。
加硫接着剤D:
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 100重量部
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 96 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 884 〃
【0040】
加硫接着剤E:
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 100重量部
ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂 100 〃
(30重量%メチルエチルケトン溶液)
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 192 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 1768 〃
【0041】
加硫接着剤F:
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 100重量部
o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 18 〃
(ジャパンエポキシレジン製品エピコート180S)
2-エチル-4-メチルイミダゾール 0.9 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 96 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 763.1 〃
【0042】
加硫接着剤G:
レゾール型フェノール樹脂(30重量%メタノール溶液) 100重量部
ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂 100 〃
(30重量%メチルエチルケトン溶液)
o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エピコート180S)36 〃
2-エチル-4-メチルイミダゾール 1.8 〃
前記配合例のニトリルゴムコンパウンド 192 〃
(25重量%トルエン-メチルエチルケトン混合溶媒溶液)
メチルエチルケトン 1508.2 〃
【0043】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表2に示される。


【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るニトリルゴム-金属積層ガスケット素材は、LLC中に浸漬あるいは暴露された場合にも十分な接着性を示すと共に、すぐれた耐熱性をも示すといった効果を奏するので、自動車の補機類、例えばカークーラーコンプレッサー用ガスケット、ウォーターポンプ用ガスケットなどの冷媒と接触する用途に用いられるガスケット、インテークマニホールド用ガスケット、スロットルボディ用ガスケットなどの燃料配管系のガスケット、カムカバー用ガスケット、タイミングベルトカバー用ガスケット、オイルパン用ガスケット、オイルストレーナー用ガスケット、オイルポンプ用ガスケット、ヒーターパイプ用ガスケットなどのエンジン系統に用いられるガスケットのほか、パワーステアリング用ガスケット、ブレーキシム用ガスケット、トランスミッションセパレートプレート用ガスケット、トランスミッションケース用ガスケットなどの自動車用部品として有効に用いられる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板上に、ジルコニウム含有化合物、リン酸およびシリカを含有し、フッ素を含有しない表面処理剤層、レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤層およびニトリルゴム層を順次積層してなり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とリン酸中のP元素の元素質量比率が95:5?40:60であり、ジルコニウム含有化合物中のZr元素とシリカの質量比率が1:99?60:40である表面処理剤が用いられたニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項2】
ジルコニウム含有化合物が炭酸ジルコニウムアンモニウムである請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
金属板がアルカリ脱脂されたSPCCまたはSPFCである請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項5】
レゾール型フェノール樹脂含有加硫接着剤が、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂、未加硫のニトリルゴムまたはそのコンパウンド、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂との混合物である請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項6】
レゾール型フェノール樹脂-ノボラック型フェノール樹脂混合物として、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して10?100重量部の割合でレゾール型フェノール樹脂が併用された請求項5記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
ニトリルゴム層上に粘着防止剤層を形成せしめた請求項1記載のニトリルゴム-金属積層ガスケット素材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-24 
出願番号 特願2015-538954(P2015-538954)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
井上 能宏
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6103072号(P6103072)
権利者 NOK株式会社
発明の名称 ニトリルゴム-金属積層ガスケット素材  
代理人 吉田 俊夫  
代理人 吉田 和子  
代理人 吉田 和子  
代理人 吉田 俊夫  
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