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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C |
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管理番号 | 1341995 |
異議申立番号 | 異議2017-701185 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-14 |
確定日 | 2018-06-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6146908号発明「表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6146908号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6146908号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6146908号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年10月9日に特許出願され、平成29年5月26日に特許権の設定登録がされ、同年6月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月14日に特許異議申立人 鈴木正法により特許異議の申立てがなされ、当審において平成30年2月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して特許異議申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はなされなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成30年3月15日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)における訂正の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。 (1) 訂正事項1 請求項1の「該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」の前に、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」を追加する(請求項1を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。 (2) 訂正事項2 明細書の【0016】の「該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」の前に、「、鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」を追加する。 (3) 訂正事項3 明細書の【0050】の「サイズ5μm以上の介在物」の前に「任意の1cm^(2)あたりの」を追加する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、平成30年2月1日付け取消理由において、訂正前の請求項1に係る発明について、「MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含」む「非金属介在物」を含む「ステンレス鋼」が、どの製造段階にあるものかが不明確であるとされたため、当該「ステンレス鋼」が、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであることを特定することにより、どの製造段階にあるものかを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0050】には、「2)非金属介在物組成:鋳込み開始直後、タンディッシュにて採取したサンプルを鏡面研磨し、SEM-EDSを用いて、サイズ5μm以上の介在物を20点ランダムに測定した。」と記載されており、ここで、上記「タンディッシュにて採取したサンプル」は、タンディッシュから採取した溶湯を凝固させたものであることは技術常識であるから、本件明細書には、非金属介在物を測定する際の「ステンレス鋼」が、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであることが記載されているといえる。 したがって、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 そして、以上のとおり、訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当しないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、訂正前の明細書の【0050】において、「サイズ5μm以上の介在物」を測定する際に、金属組織中のどの箇所及びどの領域で測定するのか明確でなかったため、「任意の1cm^(2)あたりの」との事項を特定することで、測定箇所については「任意」であり、測定領域については「1cm^(2)あたり」であることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、本件明細書の【0016】には、「非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下であり」と記載されているから、本件明細書には、「サイズ5μm以上の介在物」を測定する際に、「任意の1cm^(2)あたり」の箇所及び領域において測定することが記載されているといえる。 したがって、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加に該当しない。 そして、以上のとおり、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当しないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4) 一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項2?6は、それぞれ請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?6は、一群の請求項である。 また、訂正事項2、3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、これらは一群の請求項1?6に関係する訂正である。 (5) なお、本件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、 鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、 前記非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下であり、 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で50%以下であることを特徴とするステンレス鋼。 【請求項2】 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。 【請求項3】 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で0%であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。 【請求項4】 前記非金属介在物のうち、MgO・Al_(2)O_(3)はMgO:10?40%、Al_(2)O_(3):60?90%であり、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物は、CaO:20?60%、SiO_(2):10?40%、Al_(2)O_(3):30%以下、MgO:5?50%であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス鋼。 【請求項5】 さらに、Mo:5%以下、Cu:1?5%、Nb:0.05?1%、N:0.01?0.05%、B:0.01%以下の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のステンレス鋼。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか1項に記載のステンレス鋼の製造方法であって、原料を溶解し、Ni:3?15%、Cr:13?20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO_(2)比:2?5未満、MgO:3?15%、Al_(2)O_(3):5%未満からなるCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法。」 第4 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1-1 申立理由1-1 本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証?甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 1-2 申立理由1-2 本件発明6は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第5号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 2 申立理由2 請求項1?5に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 申立理由3 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、Vol.93、2007、No.3、p.8-14 甲第2号証:特開2012-201945号公報 甲第3号証:特開2005-274408号公報 甲第4号証:特開2007-284768号公報 甲第5号証:特開2001-26811号公報 第5 取消理由の概要 請求項1?6に係る特許に対して平成30年2月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1 取消理由1(前記申立理由2を採用。) 本件特許の請求項1?5に係る発明は、明確でない。その理由は、特許異議申立書の18頁4?11行に記載のとおりである。 よって、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 第6 甲号証の記載事項 1 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「SUS304ステンレス鋼スラブ中のスピネルを含む介在物の生成機構」(標題)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a) 「供試材としてAl濃度の異なる3種類のSUS304鋼スラブを用いた。Table2にそれらの化学組成を示す。なお,これら3種類のスラブは,すべて実機で製造されたものであり,Fe-Siを用いて脱酸を行っている。 Fig.1に,サンプルの切り出し位置を示す。定常部スラブの幅中央において,スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出して,表面を鏡面研磨した。その後,サンプル表面に現れた粒径5?50μmの介在物を実体顕微鏡およびSEMによって観察した。各サンプルにおいて,40?60個の介在物を観察した。」(9頁右欄12?21行) (1b) 「 」(9頁右欄) (1c) 「 」(9頁右欄) (1d) 「3.2 SUS304鋼スラブ中の介在物調査結果 Fig.4にスラブ中に観察された典型的な介在物のSEM写真を示す。(a)は下も多く観察された介在物である。形状は球形であり,全体的にほぼ均質な組成で,主成分はCaO,SiO_(2),Al_(2)O_(3),MgOであり,MgO=10%程度であった。(b)はMgOとAl_(2)O_(3)がモル比でほぼ1対1の組成であったため,MgO・Al_(2)O_(3)スピネルと判断される。(c)はスラグ型の内部にスピネルが含まれているタイプの介在物であった。」(10頁右欄下から4行?11頁左欄4行) (1e) 「 」(10頁右欄) (1f) 「Fig.6にスラブ2に観察された介在物の組成を示す。・・・スラブ2には,スラグ型とスラグ+スピネル型介在物が観察されたが,単体のスピネル介在物は認められなかった。」(11頁左欄20?25行) (1g) 「 」(11頁右欄) (1h) 「SUS304ステンレス鋼中のスピネル(MgO・Al_(2)O_(3))介在物の生成抑制を目的として,その生成機構を基礎実験と,Al濃度の異なる3種類のSUS304ステンレス鋼実機スラブの介在物調査から検討した。得られた主要な結果を以下にまとめた。 ・・・ (2) SUS304ステンレス鋼スラブ中の直径5μm以上の介在物は,(a)スラグ型(CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系),(b)スピネル,(c)スラグ+スピネル型 の3種類に大別された。」(14頁右欄2?12行) 2 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「表面光沢性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (2a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は表面欠陥を低減した光沢性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。」 (2b) 「【発明が解決しようとする課題】【0005】 本発明は以上のような問題を解消すべく案出されたものであり、微細なカキ庇、シミ状欠陥を防止するために非金属介在物である酸化物の組成さらには硫化物の大きさを制御することにより光沢性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。」 (2c) 「【発明の効果】 【0007】 本発明成分のオーステナイト系ステンレス鋼はカキ疵が防止できる酸化物系非金属組成に制御でき、かつシミ状欠陥が発生しない小さな硫化物の大きさに制御できるため極めて表面光沢性のよい鋼板を得ることが可能となる。」 (2d) 「【実施例】 【0013】 表1に示した14チャージの各組成のオーステナイト系ステンレス鋼80トンを電気炉→転炉→真空脱ガス(VOD)精錬→CC工程を経てスラブとして溶製した。なお、VODにおける還元精錬ではチャージに応じて使用するスラグの塩基度CaO/SiO_(2)を1.0?2.5まで変化させるとともに脱酸剤として使用するMn、Si、Al濃度を変化させた。 【0014】 【表1】 」 3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第3号証には、「鋼スラブ段階での最大非金属介在物の大きさを特定する方法、および鋼スラブ中の最大非金属介在物の大きさが特定された鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (3a) 「【背景技術】 【0002】 近年、鋼板に対して表面品質や内部品質の高いものが求められている。例えば、注射針として用いられるステンレス鋼板は、0.3mm程度にまで冷間圧延されて製品となり、また、ハードディスク用のサスペンションや、ガンパーツ等の電子材料として用いられるステンレス鋼板は、打ち抜き加工やエッチング加工等を経て製品になる。しかし、これらの加工段階において、前記鋼板中にもし大きな非金属介在物など含まれていると、圧延の際に鋼板表面に疵が発生したり、また、加工の作業性を悪化させるという問題点があった。このため、従来、鋼スラブの成分組成を調整するなどして、非金属介在物の含有量そのものを少なくしたり、そのうちの大型のものの含有量を少なくするなどして、上記問題に対処してきた。」 (3b) 「【0013】 本発明において、上記鋼板、例えば、ステンレス鋼板の組成は、該鋼板に含有される非金属介在物が、MnO:1?45wt%、CaO:1?45wt%、SiO_(2):10?60wt%、Al_(2)O_(3):5?50wt%、MgO:0.5?30wt%、Cr_(2)O_(3):0.2?10wt%、FeO:0.2?10wt%であること、該介在物がMgO・Al_(2)O_(3)介在物を非金属介在物全体の50体積%以下含むこと、ステンレス鋼板の金属成分が、Cr:5?30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1?3wt%、Mn:0.3?3wt%、Al:0.0001?0.01wt%、Ca:0.00001?0.002wt%、Mg:0.00001?0.002wt%、O:0.001?0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなることが特徴である。」 (3c) 「【0028】 本発明において用いる鋼板としては、ステンレス鋼板が好適である。そのステンレス鋼の代表的な製造方法を以下に詳細に説明するが、本発明は以下の例示の方法のみに限定されるものではない。 まず、電気炉において原料を溶解し、その後、AODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭する。その原料としては、鉄屑、ステンレス屑、FeCr、FeNi等を使用する。その後、スラグ中に移行したCrを、FeSiおよび/または金属Siにより還元し、さらに脱酸、脱硫を行う。このとき、石灰石、螢石のいずれかまたは一方を投入することにより、生成したシリカとともに、CaO-SiO_(2)系のスラグとする。AODあるいはVODの耐火物には、マグネシア含有れんが(マグクロ、ドロマイト、マグネシアカーボン)を用いるため、スラグは、CaO-SiO_(2)-MgO系のものとなる。耐火物保護の目的で、MgO含有耐火物屑を添加してもよい。以下に、本発明で用いる上記ステンレス鋼板の成分組成について説明する。 【0029】 Cr:5?30wt% Crは、耐食性を保つため、かつ必要な不動態皮膜をステンレス鋼板の表面に形成するために必要不可欠な元素である。Crの存在により、耐酸性、耐孔食性、対隙間腐食性ならびに対応力腐食割れ性が改善される。したがって、母材の構成成分としては、最も重要な元素である。なお、Crの含有量が5wt%未満だと、耐食性が十分ではなくなる。一方、Crの含有量が30wt%超だと、シグマ相を生成しステンレス鋼板の脆化を招く。このような理由から、Cr含有量は、5?30wt%が好適である。好ましくは、6?28wt%であり、より好ましくは、6?25wt%である。 【0030】 Ni:30wt%以下 Niは、塩化物を含む溶液環境にて、耐孔食性、耐隙間腐食性、耐応力割れ性を改善するとともに、組織をオーステナイトにする効果を持つ。本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼ともに効果を発揮するため、Ni含有量は30%以下と規定した。なお、好ましくは28wt%以下、より好ましくは25wt%である。 【0031】 Si:0.1?3wt% Siは、耐酸性ならびに耐孔食性に有効に作用するばかりか、脱酸にも有効な元素である。さらに、介在物組成を、MnO-CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-Cr_(2)O_(3)-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。Siの含有量が0.1wt%未満だと、脱酸が不十分となり、非金属介在物量が多くなる。この非金属介在物が増えることで、大型介在物の発生頻度も高くなり、これら大型介在物が表面欠陥をもたらし、ステンレス鋼板に要求される品質を満足できなくなる。一方、Siの含有量が3wt%超だと、Fe、Cr、Moから構成されるシグマ相の生成を促し、ステンレス鋼板を脆化させてしまううえに、ステンレス鋼板の溶接性を低下させる。さらには、非金属介在物が、MgO・Al_(2)O_(3)スピネルあるいはMgO主体となり、クラスター化しやすくなり、表面欠陥を引き起こす。 そこで、本発明では、Siの含有量を0.1?3wt%と定めた。この範囲内で好ましくは、0.2?2.5wt%である。より好ましくは、0.3?2.3wt%である。 また、Si源としては、金属Si合金および/またはFeSi合金を用いるのが好ましい。 【0032】 Mn:0.3?3wt% Mnは、脱酸に有効な元素であるとともに、介在物組成をMnO-CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-Cr_(2)O_(3)-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Mnの過剰量(3wt%超)の添加は、シグマ相の生成を促進しステンレス鋼板を脆化させる。そこで、本発明では、Mnの含有量を0.3?3wt%と定めた。この範囲内で好ましくは0.4?2.8wt%である。Mn源としては、金属Mnおよび/またはSiMnが好ましい。 【0033】 Al:0.0001?0.01wt% Alは、介在物組成をMnO-CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-Cr_(2)O_(3)-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Alの過剰量(0.01wt%超)の添加は、アルミナ介在物を生成し、生成したアルミナ介在物は、クラスター化しやすいため、表面疵の原因ともなる。そこで、本発明では、Alの含有量を0.0001?0.01wt%と定めた。この範囲で好ましくは0.0005?0.008wt%である。 Al含有量を上記範囲に制御するためには、金属Alを用いるか、あるいは、Alを0.1?2wt%含むFeSi合金を用いることが好ましい。 【0034】 Ca:0.00001?0.002wt% Caは、非金属介在物をMnO-CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-Cr_(2)O_(3)-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Caの含有量が0.002wt%超だと、介在物中のCaO濃度を上昇させ、耐食性あるいはエッチング加工性に悪影響を与える。このような観点から、Caの含有量は、0.00001?0.002wt%と規定した。より好ましくは、0.00005?0.0015wt%である。Caをこの濃度範囲に制御するために、Caを0.1?2wt%含むFeSi合金を用いることが好ましい。 【0035】 Mg:0.00001?0.002wt% Mgは、非金属介在物をMnO-CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-Cr_(2)O_(3)-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Mgの含有量は、0.002wt%超だと、非金属介在物が硬質のMgO・Al_(2)O_(3)スピネルあるいはMgO主体となるために、表面疵を引き起こしたり、エッチング時に孔形状不良を起こしたりする。このような観点から、Mgの含有量は、0.00001?0.002wt%と規定した。この範囲で好ましくは、0.00005?0.0015wt%である。Mg濃度を上記の範囲に制御すために、金属Mgの添加は好ましくない。そこで、下記の反応を用いることが最も好ましい。 2Al+3(MgO)=(Al_(2)O_(3))+3Mg…Alがスラグ中MgOを還元する反応 ( )…スラグ中の成分、 …溶鋼中の成分 すなわち、金属Alを用いるか、あるいは、Alを0.1?2wt%含むFeSi合金を投入して、溶鋼中の溶存Alを、0.0001?0.01wt%に制御する。このAlが、スラグ中のMgOを還元することで、適量のMgを溶鋼中に供給することができる。 【0036】 O:0.001?0.007wt% ステンレス鋼板のOには、溶存酸素(固溶酸素)と非金属介在物として酸化物として含有される酸素とがある。この両者の和を全酸素濃度とし、ここでは全酸素濃度(以下、「O濃度」という。)を規定する。O濃度が0.001wt%よりも低いと、溶鋼中のMg濃度が0.002wt%を超えて高くなり、ステンレス鋼板中の非金属介在物は、硬質のMgO・Al_(2)O_(3)スピネルあるいはMgO主体となるため、表面疵を引き起こしたり、エッチング時に酸しみを引き起こしたりする。一方、O濃度が0.007wt%超だと、脱酸不足となり、非金属介在物量が多くなる。非金属介在物が増えることで大型介在物の発生頻度も高くなり、その大型介在物が表面欠陥をもたらし、ステンレス鋼板に要求される品質を満足できなくなる。そこで、本発明では、Oの含有量を0.001?0.007wt%と定めた。より好ましくは、0.001?0.005wt%である。 【0037】 酸素濃度を上記の範囲に制御するためには、脱酸に寄与するSiならびにMn濃度を、上記に示した本発明で規定する範囲に制御することが必要である。好ましくは、スラグの塩基度(CaO/SiO_(2):スラグ中のCaOとSiO_(2)の重量%比)を1.5?4に制御する。 特に限定はしないが、用途に応じて、この他に、Mo、Cuのいずれか一方または両方を、10wt%以下含んでいても構わない。Moは、耐食性をさらに向上するために有効であり、Cuは、深絞り特性を向上させるのに有効である。また、耐食性が要求される用途には、Nが0.3wt%以下含まれていても構わない。 【0038】 次に、本発明において、ステンレス鋼板に含有される非金属介在物は、基本的にその成分は、MnO:1?45wt%、CaO:1?45wt%、SiO_(2):10?60wt%、Al_(2)O_(3):5?50wt%、MgO:0.5?30wt%、Cr_(2)O_(3):0.2?10%、FeO:0.2?10wt%を有するMnO-CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-Cr_(2)O_(3)-FeO系非金属介在物からなっている。その理由は、熱間圧延、及び冷間圧延時に延伸、分断により、微細化がなされるようにするためと、溶鋼中で大型化しないようにするためである。さらに、MgO・Al_(2)O_(3)介在物を、ステンレス鋼板に含まれる非金属介在物全体の50体積%以下含んでも構わない。 以下、上述した非金属介在物の組成を限定した根拠を説明する。」 (3d) 「【0046】 MgO・Al_(2)O_(3)介在物は、非金属介在物に対して50体積%以下であることが好ましい。その理由は、上記した組成の非金属介在物の他に、MgO・Al_(2)O_(3)介在物を、ステンレス鋼板に含まれる非金属介在物全体の50体積%以下含んでいても、MgO・Al_(2)O_(3)介在物がクラスター化して大型化することがなく、そのため、ステンレス鋼板の表面欠陥を引き起こさないからである。・・・」 (3e) 「【0047】 以下に、実施例を示し、本発明の効果をより明確なものとする。 (ステンレス鋼板の製造) 表1に示す金属組成を有するステンレス鋼板を、以下のようにして製造した。 まず、鉄屑、ステンレス屑、FeCr、FeNi等などからなる原料60tonを、電気炉で溶解しながら、所定のFe-Cr-Ni系あるいはFe-Cr系ステンレス溶鋼の組成に調整した。その後、AOD処理、VOD処理、またはAOD→VOD処理の3通りのいずれかの処理より脱炭を行い、次いで、AODあるいはVODにおいて、FeSi合金等のSi合金鉄を添加して、スラグ中に移行したCrを溶鋼中に還元する処理を行った。このとき、石灰石および/または螢石をフラックスとして添加し、所定の塩基度(CaO/SiO_(2):スラグ中のCaOとSiO_(2)の重量%比)に調整したが、一部のチャージでは、耐火物保護の目的で、MgO含有耐火物屑をフラックスとともに添加した。 次に、微量成分調整及び温度調整を行った後、普通造塊法により鋳造するか、または連続鋳造法により鋳造した。その後、連鋳スラブについては直接に、また普通造塊スラブについては、鍛造工程を経た後、熱間圧延を施して3.0?10.0mm厚のステンレス鋼の熱延板を得た。これらの熱延板のうち、いくつかは、さらに冷間圧延を施すことにより0.5?1.0mm厚まで圧延した。 【0048】 (調査および評価) 発明例1?7、及び比較例1?6のステンレス鋼板につき、以下の調査を行った。 ・・・ 【0057】 (結果) 上記B?Eの分析を行ったステンレス鋼スラブの成分組成(wt%)およびその合金の不可避不純物である非金属介在物の平均組成(wt%)を、表2にまとめた。そして、表2のステンレス鋼スラブについて行った上記分析結果を、表3にまとめた。 【0058】 【表2】 【0059】 【表3】 【0060】 表3の発明例1?7に示すように、√area_(max)が300μm以下で、かつ非金属介在物が、MnO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-CaO-MgO-FeO系で、MnO:1?45wt%、CaO:1?45wt%、SiO_(2):10?60wt%、Al_(2)O_(3):5?50wt%、MgO:0.5?30wt%、Cr_(2)O_(3):0.2?10wt%、FeO:0.2?10wt%の組成を有していて、かつスピネル介在物の割合が非金属介在物全体に対して50体積%以下のステンレス鋼板の場合には、製品厚(0.01?0.5mm)まで圧延しても表面欠陥の発生は確認されなかった。」 4 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第4号証には、「オーステナイト系ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (4a) 「【請求項1】 C :0.020wt%以下、 Si:0.50wt%以下、 Mn:0.30?2.00wt%、 P :0.050wt%以下、 S :0.005wt%以下、 Ni:8.0?12.0wt%、 Cr:16.0?20.0wt%、 Cu:2.0?5.0wt%、 B :0.0030?0.0250wt%、 O :0.020wt%以下、 N :0.040wt%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。 【請求項2】 Mo:0.1?2.5wt%、および、 W :0.1?2.5wt%、 から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。 【請求項3】 Ca:0.0010?0.0100wt%、 Mg:0.0010?0.0100wt%、 Al:0.005wt%以下、 Ti:0.50wt%以下、 Nb:0.50wt%以下、 V :0.50wt%以下、および、 Zr:0.50wt%以下、 から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。」 (4b) 「【0012】 すなわち、とりわけ、Bを比較的多く含有させることにより、精錬時における脱窒反応(BNの生成)によって鋼材中に含まれるNを低下させることが可能になることに加え、さらに、鋼材中に含まれている固溶NをBNとして固定しておけば、冷間加工性も害されないことが分かった。また、これにより熱間加工性もそれほど低下しないことも分かった。」 (4c) 「【0034】 (8)Cu:2.0?5.0wt%。 Cuは、加工硬化を生じ難くし、冷間加工性を向上させる元素である。その効果を得るため、Cu含有量は、2.0wt%以上とする。好ましくは、2.5wt%以上、より好ましくは、3.0wt%以上とすると良い。」 (4d) 「【0042】 (11)N:0.040wt%以下。 Nは、固溶強化元素であり、C、Siと同様に、鋼の強度向上に寄与する。しかし、N含有量が多くなると、加工硬化が生じやすくなり、冷間加工性が低下する傾向が見られる。また、他の元素と結びついて生成した窒化物が破壊起点となって冷間加工時に割れなどが生じやすくなり、これによっても冷間加工性が低下する傾向が見られる。」 (4e) 「【0064】 (18)Nb:0.50wt%以下。 Nbは、Tiと同様に、固溶強化元素であり、鋼の強度向上に寄与する。しかし、Nb含有量が多くなると、冷間加工時の変形抵抗が大きくなるなど、冷間加工性が低下する傾向が見られる。」 (4f) 「【0088】 【表1】 」 5 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第5号証には、「ステンレス鋼の精錬に用いるSi合金鉄およびステンレス鋼の精錬方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (5a) 「【0031】すなわち、表1に示した工程に従って、表4に示すSi合金鉄をスラグのCr_(2) O_(3) の還元剤および溶鋼の脱酸剤に用いて、Cr_(2) O_(3) 還元後のスラグの調整は、Cr_(2) O_(3) 還元後にスラグの組成分析を行い、目的のスラグ組成になるように、CaO、CaF_(2) などのフラックスを投入して行った。表4において、No.4-1?4-6までは比較例、No. 4-7?4-12は発明例を示す。No. 4-1、4-5、4-9、4-12はSi合金中のCa不足をCa合金の添加で補った例であり、Si合金鉄中のCa濃度に換算して表記してある。 【0032】また、表2に示した工程に従って、表5に示すSi合金鉄をスラグのCr_(2) O_(3) の還元剤および溶鋼の脱酸剤に用いて、Cr_(2) O_(3) 還元後のスラグの調整は、Cr_(2) O_(3) 還元後にスラグの組成分析を行い、除滓をした後の残滓に、目的のスラグ組成になるようにCaO、CaF_(2) などのフラックスを投入して行った。表5において、No. 5-1?5-6までは比較例、No. 5-7?5-12は発明例を示す。No. 5-1、5-5、5-9、5-12はSi合金鉄中のCa不足をCa合金の添加で補った例であり、Si合金鉄中のCa濃度に換算して表記してある。 【0033】さらに、表3に示した工程に従って、表6に示すSi合金鉄をスラグのCr_(2)O_(3) の還元剤および溶鋼の脱酸剤に用いて、Cr_(2) O_(3) 還元後のスラグの調整は、Cr_(2) O_(3) 還元後にスラグの組成分析を行い、目的のスラグ組成になるように、CaO、CaF_(2) などのフラックスを投入して行った。表6において、No. 6-1?6-6までは比較例、No. 6-7?6-12は発明例を示す。No. 6-1、6-5、6-9、6-12はSi合金中のCa不足をCa合金の添加で補った例であり、Si合金鉄中のCa濃度に換算して表記してある。 【0034】 【表4】 【0035】 【表5】 【0036】 【表6】 」 第7 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について (1) 取消理由1の概要 取消理由1において引用した、特許異議申立書の18頁4?11行の概要は以下のとおりである。 ステンレス鋼中の非金属介在物は工程が進むにつれ分断され、小サイズ化するのが通常であり、また、非金属介在物の存在密度は材料のどの断面を観察するかによって大きく変動するものであるところ、本件発明1?5は、どの製造段階のステンレス鋼を特定しているのか、また、非金属介在物の個数密度はどのように採取し、どの断面の観察により特定されるのか不明確である。 (2) 判断 本件訂正請求による訂正によって、本件発明1?5の「ステンレス鋼」は、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであることが特定されたから、どの製造段階にあるものか明確となった。 そして、ステンレス鋼中の非金属介在物の個数密度はどのように採取し、どの断面の観察により特定されるのかという点については、本件発明1には「任意の1cm^(2)あたり」と特定されており、また、本件発明1?5の「ステンレス鋼」は、「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた」ものであるから、何ら加工がされていないため、非金属介在物は、当該「ステンレス鋼」中に均一に分布しており、どの断面を観察しても、その個数密度は一義的に決まるものと認められる。 したがって、本件発明1?5は明確であり、取消理由1は解消している。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1) 申立理由1-1について ア 甲第1号証に記載された発明 (ア) 甲第1号証の前記(1b)のTable2におけるNo.Slab2(以下、「スラブ2」ともいう。)は、同(1a)の記載によればSUS304鋼スラブであるところ、このSUS304鋼スラブは、Table2に記載された化学組成(C:0.06mass%、Si:0.6mass%、Mn:1.0mass%、Ni8.0mass%、Cr:18.2mass%、Al:0.0008mass%、Mg:0.0003mass%、Ca:0.0004mass%、O:0.0031mass%)を含むものであり、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであることは技術常識である。 (イ) 甲第1号証の前記(1a)、(1d)、(1e)、(1h)の記載によれば、SUS304ステンレス鋼スラブ中の直径5μm以上の介在物は、定常部スラブの幅中央において、スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出し、その表面を鏡面研磨したサンプル表面の介在物であって、(a)スラグ型(CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系)、(b)スピネル(MgO・Al_(2)O_(3))、(c)スラグ+スピネル型の3種類に大別されるところ、同(1f)には、スラブ2には、スラグ型とスラグ+スピネル型介在物が観察されたが、単体のスピネル介在物は認められなかったことが記載されているから、スラブ2のSUS304ステンレス鋼スラブ中の介在物には、スラグ型(CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系)介在物及びスラグ+スピネル型介在物が含まれており、スピネル介在物は含まれていないといえる。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)で検討したNo.Slab2のSUS304ステンレス鋼スラブについて、本件発明1の記載ぶりに即して整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「C:0.06mass%、Si:0.6mass%、Mn:1.0mass%、Ni8.0mass%、Cr:18.2mass%、Al:0.0008mass%、Mg:0.0003mass%、Ca:0.0004mass%、O:0.0031mass%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるSUS304ステンレス鋼スラブにおいて、 前記SUS304ステンレス鋼スラブの幅中央において、スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出し、その表面を鏡面研磨したサンプル表面の介在物が、スラグ型(CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系)介在物及びスラグ+スピネル型介在物を含み、 前記SUS304ステンレス鋼スラブ中に含まれる介在物にスピネル(MgO・Al_(2)O_(3))介在物は含まれていない、SUS304ステンレス鋼スラブ。」(以下、「甲1発明」という。) イ 本件発明1と甲1発明との対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比すると、介在物について、本件発明1は「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」(以下、「本件発明1特定事項」という。)であるのに対し、甲1発明は「前記SUS304ステンレス鋼スラブの幅中央において、スラブ表層から0.025m深部から直径100mmの円盤形サンプルを切り出し、その表面を鏡面研磨したサンプル表面の介在物」である点で少なくとも相違する。 そして、甲第1号証?甲第5号証のいずれにも、上記相違点に係る本件発明1特定事項は記載も示唆もされていない。 したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 ウ 本件発明2?5について 本件発明2?5は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2?5は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 (2) 申立理由1-2について ア 本件発明6 請求項1を引用する本件発明6を独立形式で記載すると以下のとおりである。 「C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、 鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、 前記非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下であり、 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で50%以下であるステンレス鋼の製造方法であって、原料を溶解し、Ni:3?15%、Cr:13?20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO_(2)比:2?5未満、MgO:3?15%、Al_(2)O_(3):5%未満からなるCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法。」(以下、「本件発明6’」という。) イ 甲第3号証に記載された発明 (ア) 甲第3号証の前記(3b)、(3c)には、ステンレス鋼板の組成は、該鋼板に含有される非金属介在物が、MnO:1?45wt%、CaO:1?45wt%、SiO_(2):10?60wt%、Al_(2)O_(3):5?50wt%、MgO:0.5?30wt%、Cr_(2)O_(3):0.2?10wt%、FeO:0.2?10wt%であること、該介在物がMgO・Al_(2)O_(3)介在物を非金属介在物全体の50体積%以下含むこと、ステンレス鋼板の金属成分が、Cr:5?30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1?3wt%、Mn:0.3?3wt%、Al:0.0001?0.01wt%、Ca:0.00001?0.002wt%、Mg:0.00001?0.002wt%、O:0.001?0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなること、スラグの塩基度(CaO/SiO_(2):スラグ中のCaOとSiO_(2)の重量%比)を1.5?4に制御すること、及び、電気炉において原料を溶解し、その後、AODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭し、その後、スラグ中に移行したCrを、FeSiにより還元し、このとき、石灰石、螢石を投入することにより、シリカを生成するとともに、AODあるいはVODの耐火物に用いられるマグネシア含有れんが(マグクロ、ドロマイト、マグネシアカーボン)により、スラグをCaO-SiO_(2)-MgO系のものとし、さらに脱酸、脱硫を行うステンレス鋼の製造方法が記載されている。 また、甲第3号証の前記(3e)の【0047】によれば、上記「ステンレス鋼の製造方法」を行った後に、鋳造、圧延することによってステンレス鋼板が製造されるといえる。 ここで、上記「ステンレス鋼の製造方法」によって、ステンレス溶鋼の成分組成が、ステンレス鋼板の成分組成である、上記「Cr:5?30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1?3wt%、Mn:0.3?3wt%、Al:0.0001?0.01wt%、Ca:0.00001?0.002wt%、Mg:0.00001?0.002wt%、O:0.001?0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物」に調整されることは自明の事項である。 (イ) 前記(ア)で検討したステンレス鋼板の製造方法について、本件発明6’の記載ぶりに即して整理すると、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「Cr:5?30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1?3wt%、Mn:0.3?3wt%、Al:0.0001?0.01wt%、Ca:0.00001?0.002wt%、Mg:0.00001?0.002wt%、O:0.001?0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼板において、 当該ステンレス鋼板に含有される非金属介在物が、MnO:1?45wt%、CaO:1?45wt%、SiO_(2):10?60wt%、Al_(2)O_(3):5?50wt%、MgO:0.5?30wt%、Cr_(2)O_(3):0.2?10wt%、FeO:0.2?10wt%であり、 前記非金属介在物がMgO・Al_(2)O_(3)介在物を非金属介在物全体の50体積%以下含むステンレス鋼板の製造方法であって、 電気炉において原料を溶解し、その後、マグネシア含有れんがを耐火物に用いたAODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭し、その後、スラグ中に移行したCrを、FeSiにより還元し、このとき、石灰石、螢石を投入し、CaO/SiO_(2):1.5?4からなるCaO-SiO_(2)-MgO系スラグを用い、Cr:5?30wt%、Ni:30wt%以下、Si:0.1?3wt%、Mn:0.3?3wt%、Al:0.0001?0.01wt%、Ca:0.00001?0.002wt%、Mg:0.00001?0.002wt%、O:0.001?0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整し、その後、鋳造、圧延するステンレス鋼板の製造方法。」(以下、「甲3発明」という。) ウ 本件発明6’と甲3発明との対比・判断 本件発明6’と甲3発明とを対比すると、非金属介在物について、本件発明6’は「鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物」(以下、「本件発明6’特定事項」という。)を有しているのであるのに対し、甲3発明は「ステンレス鋼板に含有される非金属介在物」である点で少なくとも相違する。 そして、甲第1号証?甲第5号証のいずれにも、上記相違点に係る本件発明6’特定事項は記載も示唆もされていない。 したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明6’は、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 (3) 申立理由3について ア 特許異議申立人は、特許異議申立書18頁13?19行において、請求項1の「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下」を実現するために、特別の操作や制御が必要であるとすれば、その手法が発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者にとって、「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下」である鋼を作り分けることが困難であり、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。 しかし、特許異議申立人の上記主張は、請求項1の「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下」を実現するために、「特別の操作や制御が必要である」ことを前提とするものであるところ、特許異議申立書には、この前提が成り立つことを裏付ける証拠は何ら示されていない。 また、本件明細書の【実施例】(【0047】?【0061】)の記載によれば、「非金属介在物のうち長さが5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下」の鋼を作り分けることは、当業者にとって困難であるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 イ 特許異議申立人は、特許異議申立書18頁下から6行?19頁1行において、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を請求項6に規定される「C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼」の溶鋼組成に制御するための、特別な操作や手法が必要であるとすれば、その手法が発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者にとって、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を上記溶鋼組成の範囲に調製するためには試行錯誤が要求されるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。 しかし、特許異議申立人の上記主張は、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を請求項6に規定される「C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼」の溶鋼組成に制御するために、「特別な操作や手法が必要である」ことを前提とするものであるところ、特許異議申立書には、この前提が成り立つことを裏付ける証拠は何ら示されていない。 また、本件明細書の【実施例】(【0047】?【0061】)の記載によれば、Si、S、Al、Mg、Ca、Oの含有量を請求項6に規定される「C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼」の溶鋼組成に制御することは、当業者にとって困難であるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 ウ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。 第8 むすび したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、表面品質に優れたステンレス鋼に関するものである。さらに、ステンレス鋼の精錬方法に関し、スラグ塩基度および溶鋼中のMg、Al、Caといった微量成分を制御することにより、溶鋼中の有害な非金属介在物であるMgO・Al_(2)O_(3)の生成を抑制して、ノズル内付着を防止しつつ、表面品質に優れたステンレス鋼を製造するものである。 【背景技術】 【0002】 ステンレス鋼は、その優れた耐食性から表面に塗装やコーティングなどの処理をせず、使用される場合が多い。しかしながら、非金属介在物の形態によっては表面欠陥が発生するなどの問題がある。 【0003】 ステンレス鋼の介在物の無害化を図る技術は幾つかの開示がある。例えば、特許文献1では、ステンレス鋼の精錬の際に、Al、CaおよびMg濃度の低いフェロシリコンを使用することにより、有害な非金属介在物であるMgO・Al_(2)O_(3)を抑制している。この技術は、介在物形態をCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系に制御するためにスラグ塩基度を1.3?2.7と比較的低めに制御する必要がある。そのため、場合によっては、十分な脱硫能が得られないことがあり、熱間加工性を低下させることがあった。 【0004】 また、特許文献2では、溶鋼中Al濃度およびスラグ組成を制御することにより、溶鋼中非金属介在物をMgO系介在物に制御している。さらに、特許文献3では、溶鋼中Al濃度およびスラグ組成を制御することにより、溶鋼中非金属介在物をMgO系介在物あるいはCaO-Al_(2)O_(3)系介在物に制御している。 【0005】 上記2つの技術は、いずれもAl濃度を0.005%以上に調整する必要がある。Alは歩留まりが安定しないこともあり、本技術が完全に実施できるとは言い難かった。また、Alを積極的に添加するために、溶接を施す必要がある用途には、溶接後のビード部の品質に懸念があった。 【0006】 特許文献4では、スラグ組成を制御して、非金属介在物組成をMgO・Al_(2)O_(3)、CaO-Al_(2)O_(3)系、MgO、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-MnO系酸化物に制御する技術が開示されている。これによれば、耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼が得られると示されている。特許文献5では、非金属介在物組成をCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-MnO-Cr_(2)O_(3)-FeO系酸化物に制御する技術が開示されている。これによれば、耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼が得られると示されている。 【0007】 上記2つの技術は、いずれも精錬方法が明確に示されていないために、制御が不安定である問題があった。 【0008】 また、特許文献6では、耐衝撃性および表面性状に優れたFe-Ni-Cr-Mo合金が示されている。本技術はFe基であり、Ni:30?32%、Cr:26超?28%、Mo:6?7%を含有する合金に適用可能な技術であり、スラグの塩基度C/Sを5?20と高く制御している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 【特許文献1】特開2001-26811号公報 【特許文献2】特開平9-256028号公報 【特許文献3】特開2001-220619号公報 【特許文献4】特開2004-149833号公報 【特許文献5】特開2007-277727号公報 【特許文献6】特開2011-97224号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 上記のように、従来の方法では、有害な介在物であるMgO・Al_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)あるいはCaOの生成を抑制しつつ、さらには熱間加工性も健全な状態にて、表面品質を確保することは困難であった。本発明の目的は表面性状に優れたステンレス鋼を提供するとともに、該ステンレス鋼を汎用の設備を用いて安価に製造する方法を提案することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた。まず、本発明者らは、実機にて発生した表面欠陥を研究した。すなわち、欠陥をSEM観察し、内部に含まれる異物組成を特定した。その結果、MgO・Al_(2)O_(3)、CaOあるいはAl_(2)O_(3)のいずれかであることが分かった。 【0012】 さらに、操業との関連を調査したところ、これらの酸化物は、溶鋼中に含まれる非金属介在物であり、連続鋳造機におけるタンディッシュからモールドに溶鋼を供給するノズルに付着堆積し、その一部が脱落することで、大型の欠陥を引き起こすことが明らかとなった。その防止には、スラグの塩基度を制御すると共に、溶鋼中のAlを極力低減せねばならないということも分かった。したがって、これらの非金属介在物を防止せねばならないという指針が得られた。 【0013】 同時に、介在物組成が、MgOまたはCaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系であれば、ノズルに付着がなく、表面欠陥も生じないことが分かった。なお、MgO・Al_(2)O_(3)は個数比率にして50%以下であれば、表面欠陥を生じないことも分かった。さらに、化学成分を詳細に調べたところ、微量に含まれるMg、CaおよびOといった微量成分を制御せねばならないということも分かった。 【0014】 そこで発明者らは、操業条件が微量成分および介在物組成におよぼす影響について、次のように実験室検討を行った。まず、実験室にてマグネシアるつぼを用いて、幾つかの合金成分を縦型抵抗炉で溶解した。合金成分は、Fe-18%Cr-8%Ni合金、Fe-18%Cr-12%Ni-2.5Mo合金、Fe-15%Cr-5%Ni-3%Cu-0.25%Nb合金、Fe-20%Cr-10%Ni-0.7%Nb合金を用いて実験した。この溶鋼中にSi、Mn、Al、Caのうちいずれか1種または2種以上添加して脱酸を行った後、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-F系スラグを添加した後、所定時間で溶鋼を採取し、試料を得た。この試料の化学成分および試料中の介在物組成を測定し、実験条件による微量成分および介在物組成におよぼす影響について調査した。 【0015】 試料中の化学成分は、化学分析により測定し、試料中の介在物組成は採取した試料をSEM/EDSにて観察し、任意に5μm以上の介在物を20個選んで測定した。その結果、まず、Siにて脱酸を行い、なおかつ、Alを0.005%未満に制御することが肝要でことが分かった。併せて、Si濃度を0.2?1%に制御しつつ、Mgを0.0001?0.01%、Caを0.0001?0.01%、Oを0.0005?0.01%に調節することで、基本的に介在物組成をMgOまたはCaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系に制御することが可能である指針を得た。さらには、MgO・Al_(2)O_(3)は個数比率にして50%以下に抑制できることも明らかとなった。その際のスラグ組成は、スラグ塩基度を2?5未満に制御することが必要である指針も得られた。 【0016】 本発明は上記知見に基づいて成されたものであり、すなわち、C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下であり、非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で50%以下であることを特徴とするステンレス鋼である。 【0017】 本発明においては、非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で20%以下であることが好ましく、さらに、個数比率で0%であることがさらに好ましい。 【0018】 また、上記の非金属介在物は、MgO・Al_(2)O_(3)はMgO:10?40%、Al_(2)O_(3):60?90%であり、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物は、CaO:20?60%、SiO_(2):10?40%、Al_(2)O_(3):30%以下、MgO:5?50%であるとより好ましい。 【0019】 また、上記の成分に加えて、Mo:5%以下、Cu:1?5%、Nb:0.05?1%、N:0.01?0.05%、B:0.01%以下の1種または2種以上を含んでもよい。 【0020】 さらに本発明においては、上記ステンレス鋼の製造方法も提供する。すなわち、原料を溶解し、Ni:3?15%、Cr:13?20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO_(2)比:2?5未満、MgO:3?15%、Al_(2)O_(3):5%未満からなるCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法である。 【発明の効果】 【0021】 本発明によれば、合金成分の比率および介在物の絶対数および比率を特定の範囲内に制御することにより、熱間加工性を健全な状態に維持し、さらに、表面性状に優れたステンレス鋼を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0022】 まず本発明に用いる鋼の化学成分の限定理由について説明する。なお、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。 【0023】 C:0.1%以下 Cはオーステナイト安定化元素であるが、多量に存在すると、CrおよびMo等と結合して炭化物を形成し、母材に含まれる固溶CrおよびMo量を低下させ、耐食性を劣化させる。そのため、C含有量は0.1%以下とした。なお、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.07%である。 【0024】 Si:0.2%?1% Siは本発明で、とても重要な元素である。Siは脱酸に有効な元素であり、酸素濃度を0.01%以下に制御するためには、0.2%は必要である。さらに、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-F系スラグ中のCaOやMgOを還元し、溶鋼中にCaやMgをそれぞれ0.0001%以上供給する役割もある。その観点からも0.2%は必要である。一方、1%を超えて含有すると、スラグ中のCaOやMgOを還元しすぎてしまい、Ca、Mgを0.01%超供給してしまう。その結果Caは、CaO単体の介在物を形成させてしまい、製品に表面欠陥を発生させてしまう。また、Mgはスラブ中にMg気泡を形成して表面欠陥をもたらす危険がある。そのため、Si含有量は、0.2%?1%と規定した。好ましくは0.4?0.8%である。 【0025】 Mn:0.2%?2% Mnは脱酸に有効な元素である。Mn含有量が、0.2%未満では、その効果が十分に得られず、逆に、2%を超えて存在すると、シグマ相の生成を促進し、脆化を招く。そのため、Mn含有量は0.2%?2%と規定した。 【0026】 S:0.005%以下 Sは熱間加工性を阻害する元素であるため、極力低下させるべきであり、S含有量は0.005%以下とした。好ましくは0.003%以下である。さらに好ましくは0.002%以下である。そのためには、AODおよび/またはVODにてスラグを用いて脱硫する必要がある。スラグの塩基度C/Sを2?5未満として、溶鋼中にSiを0.2%?1%含有させることで脱硫することが可能であり、本範囲を満たすことが出来る。 【0027】 Ni:3%?15% Niは塩化物を含む溶液環境における耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善する効果を有する。しかしながら、その効果を得る為には、3%以上の必要である。しかしながら、その効果は、15%以下の添加で十分であり、それ以上ではコスト上昇を招くため好ましくない。そこで、Ni含有量は、3%?15%と規定した。 【0028】 Cr:13%?20% Crは、耐食性を確保するために必要不可欠な不動態皮膜を、鋼鈑表面に形成させる元素であり、耐酸性、耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善するための母材の構成成分として、最も重量な元素である、しかしながら、Cr含有量が13%未満では、十分な耐食性が得られない。逆に、含有量が20%を超えると、シグマ相を生成し脆化を招く。以上の理由から、Cr含有量は13%?20%と規定した。 【0029】 Al:0.005%未満 Alは、クラスター起因の表面欠陥をもたらすMgO・Al_(2)O_(3)を50個数%以上形成させるとともに、アルミナ介在物を形成する元素であるため、極力低減せねばならない元素である。さらには、溶接ビード部の品質を劣化させる元素でもある。そのため、Al含有量は0.005%未満と規定した。好ましくは0.004%以下である。この範囲に制御するには、もちろんAlを脱酸剤として用いないことが最重要である。 【0030】 Mg:0.0001%?0.01% Mgは鋼中の非金属介在物の組成を、クラスターを形成せず、表面品質に悪影響の無い酸化物系MgOあるいはCaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.01%を超えて含有させると、スラブ中にMg気泡を形成するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、Mg含有量は、0.0001%?0.01%と規定した。好ましくは、0.0002?0.005%である。より好ましくは、0.0003?0.003%である。 【0031】 溶鋼中に効果的にMgを添加させるには、下記の反応を利用することが好ましい。 2(MgO)+Si=(SiO_(2))+2Mg …(1) 括弧内はスラグ中成分を示し、下線は溶鋼中成分を示す。 上記の範囲にMgを制御するには、スラグ塩基度を2?5未満に制御するとともに、スラグ中MgO濃度を3?15%に調整すればよい。 【0032】 Ca:0.0001%?0.01% Caは鋼中の非金属介在物の組成を、クラスターを形成せず、表面品質に悪影響の無いCaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.01%を超えて含有させると、CaO単体の介在物が形成し、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのためCa含有量は、0.0001%?0.01%と規定した。好ましくは、0.0002?0.005%である。より好ましくは、0.0003?0.003%である。 溶鋼中に効果的にCaを添加させるには、下記の反応を利用することが好ましい。 2(CaO)+Si=(SiO_(2))+2Ca …(2) 上記の範囲にCaを制御するには、スラグ塩基度を2?5未満に制御すればよい。 【0033】 O:0.0005%?0.01% Oは、鋼中に0.01%を超えて存在すると、脱硫を阻害し、溶鋼中S濃度が0.005%を超えてしまう。逆に0.0005%未満と低くなると、Siがスラグ中のMgOやCaOを還元する能力を高めすぎてしまう。つまり、上記の(1)および(2)式の反応が進行しすぎてしまうことにより、溶鋼中のMgやCaがそれぞれ、0.01%を超えて高くなってしまう。そのため、O含有量は、0.0005%?0.01%と規定した。この範囲に制御するためには、Si濃度を0.2%?1%に調整することと、スラグの塩基度を2?5未満に調整することが必要である。好ましくは、0.0006?0.005%未満であり、さらに好ましくは、0.001?0.004%である。 【0034】 さらに本発明鋼は、下記の元素を1種または2種以上含有してもよい。 Cu:1?5% Cuは、加工効果しにくくして成形性を高めたるため、有用な元素である。さらに、抗菌性や硫酸に対する耐食性を向上する元素でもある。しかしながら、多量に添加すると熱間加工性が低下すると共に靱性も低下する。そのため、1?5%が望ましい。より望ましくは2?4%である。なお、精錬に及ぼす作用として、Cuは溶鋼中Mgの溶解度を高め、MgO介在物を形成しやすくする作用を持つ。同時に逆の側面では、Cuは溶鋼中のAlの作用を強くするため、Mgと反応して、MgO・Al_(2)O_(3)スピネル介在物を形成し易くする作用もある。そのため、Cu含有鋼に対しては、本発明の適用は極めて効果的である。 【0035】 Mo:5%以下 Moは耐食性を向上する元素である。5%を超えると、σ相の形成傾向が強まり、脆化する傾向がある。そのため、5%以下に留めるのが望ましい。好ましくは3%以下である。 【0036】 Nb:0.05?1% Nbは析出硬化型ステンレス鋼に必要な元素であり、硬化に対して寄与するとともに、Cを固着して耐食性を高める。このような効果を得るためには、0.05%以上必要である。一方、これらの元素の含有量が過剰になると、固溶化熱処理温度においてフェライトが多く形成されてしまい、時効硬化後の硬さが低下してしまう。したがって、これらの元素の総含有量は、1%以下とすべきである。よって、0.05?1%が望ましい範囲である。好ましくは0.1?0.7%である。 【0037】 N:0.01%?0.05% Nは、侵入型元素であり、鋼の硬さ及び耐食性を向上させるので、0.01%以上の添加が好ましい。しかしながら、N含有量が過剰になると、Nb、Crと共に窒化物を形成し、加工性に悪影響を及ぼす。したがって、N含有量は、0.05%以下である必要がある。よって、0.01%?0.05%が望ましい。好ましくは、0.015?0.04%である。 【0038】 B:0.01%以下 Bは900℃程度の比較的低温側での熱間加工性を改善する元素である。しかしながら、0.01%を超えての添加は、1200℃程度の比較的高温側での熱間加工性を阻害する。そのため、添加は0.01%以下に留めるのが良い。好ましくは0.005%以下である。 【0039】 非金属介在物 本発明では、非金属介在物組成は、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Al_(2)O_(3)を個数比率で50%以下であることを好ましい態様としている。以下、非金属介在物の個数比率限定の根拠を示す。 【0040】 非金属介在物組成は、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Al_(2)O_(3)を個数比率で50%以下 本発明に係るステンレス鋼は、鋼のSi、Al、Mg、Caの含有量に従い、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物のうち1種または2種以上含む。これらの介在物を含有させる理由は、まず、MgOは融点が2800℃と高いために、連続鋳造機の浸漬ノズル内で焼結しないため付着堆積しない。そのため、表面欠陥を引き起こさない。CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物は、融点が1300℃程度と低いため、これも焼結しない。そのため、表面欠陥を引き起こさない。 MgO・Al_(2)O_(3)は表面欠陥を引き起こす介在物であるので、極力少ない方が好ましい。ただし、その含有量が個数割合で50%以下であれば、MgO・Al_(2)O_(3)はノズル内に付着しないことから、個数比率で50%以下と定めた。 【0041】 MgO・Al_(2)O_(3)の構成成分を規定した理由を説明する。 MgO:10?40%、Al_(2)O_(3):60?90% MgO・Al_(2)O_(3)は比較的広い固溶体を持つ化合物である。上記の範囲で固溶体となるので、このように定めた。 【0042】 CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物の各成分を規定した理由を説明する。 CaO:20?60%、SiO_(2):10?40%、Al_(2)O_(3):30%以下、MgO:5?50% 基本的には、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物の融点を1300℃程度以下に保つために、上記範囲に設定した。なお、CaOが20%未満では融点が高くなり、CaOが60%を超えるとCaO介在物が共存する。SiO_(2)が10%未満ならびに40%超では、融点が高くなってしまう。Al_(2)O_(3)が30%超では純粋なAl_(2)O_(3)介在物が共存する。MgOが5%未満ならびに40%超では、融点が高くなってしまう。以上から、CaO:20?60%、SiO_(2):10?40%、Al_(2)O_(3):30%以下、MgO:5?50%とした。 【0043】 製造方法 本発明では、ステンレス鋼の製造方法も提案する。まず、原料を溶解し、Ni:3?15%、Cr:13?20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO_(2)比:2?5未満、MgO:3?15%、Al_(2)O_(3):5%未満からなるCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-F系スラグを用いて溶鋼を精錬する方法である。これによれば、本発明のステンレス溶鋼中S濃度を効果的に0.005%以下まで低下させることが可能である。さらに、非金属介在物もMgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Al_(2)O_(3)を個数比率で50%以下に制御して、最終製品での表面欠陥を防止して良好な表面性状を確保することが可能となる。 【0044】 本発明に係るステンレス合金の製造方法では、上述のようにスラグの組成に特徴を有している。以下、本発明で規定するスラグ組成の根拠を説明する。 CaO/SiO_(2)比:2?5未満 合金溶湯を効率よく脱酸、脱硫し、かつ非金属介在物組成を本発明の範囲に制御するためには、スラグのCaO/SiO_(2)比を制御する必要がある。この比の値が5を超えると、スラグ中CaOの活量が高くなり、(2)式の反応が進行しすぎる。そのため、溶鋼中に還元されるCa濃度が0.01%を超えて高くなり、CaO単体の非金属介在物が生成し、ノズル内に付着して、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、上限を5(未満)とした。一方、CaO/SiO_(2)比が2未満になると、脱酸、脱硫が進まずに、本発明におけるS濃度、O濃度の範囲に制御することができなくなる。そのため、下限を2とした。このようなCaO/SiO2比に制御するため、CaO成分として、石灰または蛍石を添加することで調整可能である。一方、SiO2成分は脱酸剤であるSiの酸化により得ることが出来る。すなわち、Cr還元期にFeSi合金を投入して、Cr酸化物を還元すると、スラグ中にはSiO_(2)シリカが形成される。限定はしないが、不足があれば、SiO_(2)成分として珪砂を適宜添加しても構わない。したがって、塩基度は2?5未満と定めた。好ましくは、2.7超?4.9である。 【0045】 MgO:3?15% スラグ中のMgOは、溶鋼中に含まれるMg濃度を請求項に記載される濃度範囲に制御するために、重要な元素であるとともに、非金属介在物を本発明に好ましい組成に制御するためにも重要な元素である。そこで、下限を3%とした。一方、MgO濃度が15%を超えると、(2)式の反応が進行しすぎてしまい、溶鋼中のMg濃度が高くなり、スラブ中にMg気泡を形成するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。そこで、MgO濃度の上限を15%とした。スラグ中のMgOは、AOD精錬、あるいはVOD精錬する際に使用されるドロマイトレンガ、またはマグクロレンガがスラグ中に溶け出すことで、所定の範囲となる。あるいは、所定の範囲に制御するため、ドロマイトレンガ、またはマグクロレンガの廃レンガを添加してもよい。 【0046】 Al_(2)O_(3):5%未満 スラグ中のAl_(2)O_(3)は、高いと溶鋼中のAl濃度も0.005%以上と高くなり、MgO・Al_(2)O_(3)が50個数%を超えて生成させる。また、アルミナ介在物も形成してしまうため、スラグ中のAl_(2)O_(3)濃度は極力下げる必要がある。そのため、上限を5%(未満)とした。なお、上限を満足させるためには、Alを脱酸剤として用いないことが重要である。 【実施例】 【0047】 次に実施例を提示して、本発明の構成および作用効果をより、明らかにするが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。 容量60トンの電気炉により、フェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe-Ni合金屑などを原料として、溶解した。一部の鋼種ではFeMo、FeNbあるいはCuも原料として添加した。その後、AODまたはVODにおいてCを除去するための酸素吹精(酸化精錬)を行い、石灰石および蛍石を投入し、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO-F系スラグを生成させ、さらに、FeSi合金を投入し、Cr還元を行い、次いで脱酸した。その後、さらにAr撹拌して脱硫を進めた。AOD、VODではマグクロレンガをライニングした。その後、取鍋に出鋼して、温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造機によりスラブを製造した。 【0048】 製造したスラブは、表面を研削し、1200℃で加熱て熱間圧延を実施し、厚み6mmの熱帯を製造した。その後、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケールを除去した。最終的に冷間圧延を施し、板厚1mm×幅1m×長さ1000mの薄板コイルを製造した。 【0049】 表1および2に、得られたステンレス鋼の化学成分、AODもしくはVOD精錬終了時のスラグ組成、非金属介在物組成および介在物の形態および品質評価を示す。なお、表1中の?は、無添加のため、分析限界以下であったことを示す。 【0050】 なお、表1および2に記載の諸項目は、下記のようにして求めた。 1)合金の化学成分およびスラグ組成:蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い、合金の酸素濃度は不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法で定量分析を行った。 2)非金属介在物組成:鋳込み開始直後、タンディッシュにて採取したサンプルを鏡面研磨し、SEM-EDSを用いて、任意の1cm^(2)あたりのサイズ5μm以上の介在物を20点ランダムに測定した。 3)スピネル介在物の個数比率:上記2)の測定の結果から個数比率を評価した。 4)品質評価:圧延により製造した上記薄板表面を目視で観察し、非金属介在物起因の表面欠陥(板幅中央近傍に線状の疵が発生、線状欠陥)ならびに熱間加工性低下起因の表面欠陥(板のエッジ部にめくれ状に疵が発生、耳割れ)の発生有無を判定した。コイル全長を観察して、その欠陥数をそれぞれ示した。 【0051】 【表1】 【0052】 【表2】 【0053】 発明例の1?9は、本発明の範囲を満足していたために、最終製品での表面に介在物起因の欠陥は無いか極めて少なく(11箇所以下)、良好な品質を得ることが出来た。 【0054】 一方、比較例は本発明の範囲を逸脱したため、表面欠陥が発生した。以下に、各例について説明する。比較例10は塩基度が5.45と5よりも高かったため、酸素濃度も低くなりすぎ、Ca濃度が0.0117%と0.01%よりも高くなってしまった。また、スラグ中MgO濃度も1.7%と3.0%よりも低く、Mg濃度が分析限界以下となってしまった。その結果、CaO単体の非金属介在物を生成し、最終製品で介在物起因の欠陥が生じた。 【0055】 比較例11は塩基度が1.73と2未満であったため、脱酸および脱硫が進まなかった。そのため、介在物個数が156個/cm^(2)と100個/cm^(2)を超えて多くなってしまった。さらに、Caが分析限界以下と低く、介在物中のMnOが47.5%と高くなったと同時に、S濃度が0.0058%と0.005%よりも高くなってしまった。その結果、熱間加工性が低下し、表面欠陥を生じた。 【0056】 比較例12は、Siが1.23%と1.0%を超えて高かったこと、および、Al濃度が0.006%と0.005%よりも高かったために、溶鋼中Mgと相まってMgO・Al_(2)O_(3)介在物が多く形成してしまった。その結果スピネル比率が95%と50%を超えてしまい、表面欠陥が発生した。 【0057】 比較例13はSiが0.11%と0.2%未満であったため、脱酸が進まず、介在物個数が127個/cm^(2)と100個/cm^(2)を超えて多くなってしまった。MgとCa濃度が分析限界以下となってしまい、介在物中のMnO濃度も36.3%と高くなった。さらに、脱酸や脱硫が進まず、S濃度が0.0068%と0.005%よりも高くなってしまった。その結果、熱間加工性が低下し、表面欠陥を生じた。 【0058】 比較例14はスラグ中アルミナ濃度が8.5%と5%を超えて高かったため、溶鋼中Al濃度が0.025%と0.005%を超えて高くなり、アルミナ単体の非金属介在物が生成し、表面欠陥が生じた。 【0059】 比較例15はスラグ中アルミナ濃度が7.5%と5%を超えて高く、溶鋼中のAl濃度が0.007%と0.005%よりも高くなり、MgO・Al_(2)O_(3)比率が60%と50%を超えてしまい、表面欠陥が発生した。 【0060】 比較例16はスラグ中MgO濃度が17.5%と15%を超えて高く、溶鋼中のMg濃度が0.0112%と0.01%よりも高くなり、スラブ中にMg気泡を形成し、最終製品に表面欠陥をもたらした。 【0061】 比較例17は、Siが1.02%と1.0%を超えて高かった。さらに、スラグ中のアルミナ濃度が5.5%と5%を超えて高かったために、溶鋼中のAl濃度が0.008%と0.005%よりも高くなった。その結果、MgO・Al_(2)O_(3)介在物のみが形成してしまい表面欠陥が発生した。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、 鋳込み開始直後のタンディッシュから採取した溶湯を凝固させた該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al_(2)O_(3)、CaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)系酸化物の1種または2種以上を含み、 前記非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cm^(2)あたり100個以下であり、 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で50%以下であることを特徴とするステンレス鋼。 【請求項2】 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。 【請求項3】 前記非金属介在物のうちMgO・Al_(2)O_(3)が個数比率で0%であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。 【請求項4】 前記非金属介在物のうち、MgO・Al_(2)O_(3)はMgO:10?40%、Al_(2)O_(3):60?90%であり、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-MgO系酸化物は、CaO:20?60%、SiO_(2):10?40%、Al_(2)O_(3):30%以下、MgO:5?50%であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス鋼。 【請求項5】 さらに、Mo:5%以下、Cu:1?5%、Nb:0.05?1%、N:0.01?0.05%、B:0.01%以下の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のステンレス鋼。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか1項に記載のステンレス鋼の製造方法であって、原料を溶解し、Ni:3?15%、Cr:13?20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO_(2)比:2?5未満、MgO:3?15%、Al_(2)O_(3):5%未満からなるCaO-SiO_(2)-MgO-Al_(2)O_(3)-F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2?1%、Mn:0.2?2%、S:0.005%以下、Ni:3?15%、Cr:13?20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001?0.01%、Ca:0.0001?0.01%、O:0.0005?0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-05-28 |
出願番号 | 特願2013-211957(P2013-211957) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C) P 1 651・ 121- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 川村 裕二 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
金 公彦 河本 充雄 |
登録日 | 2017-05-26 |
登録番号 | 特許第6146908号(P6146908) |
権利者 | 日本冶金工業株式会社 |
発明の名称 | 表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法 |
代理人 | 末成 幹生 |
代理人 | 末成 幹生 |