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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B |
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管理番号 | 1342034 |
異議申立番号 | 異議2017-701208 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-20 |
確定日 | 2018-07-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6166393号発明「チオ硫酸ナトリウムを含有する薬学的組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6166393号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6166393号の請求項1?22に係る特許についての出願は、2010年(平成22年)7月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年7月8日、米国)を国際出願日とする特願2012-519695号の一部を平成28年1月15日に新たな特許出願としたものであって、平成29年6月30日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年12月20日付けで特許異議申立人島村直己(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成30年3月12日付けで取消理由を通知し、同年6月13日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 特許第6166393号の請求項1?22の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明22」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、独立項である本件発明1並びにそれに従属する本件発明2及び3を摘記すると、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 以下の特徴を有する薬学的等級のチオ硫酸ナトリウム五水和物: 10ppm以下の、除去し得ない有機炭素を含んでいる; 0.05ppm以下の水銀を含んでいる; 2ppm以下のアルミニウムを含んでいる; 0.003重量%以下のセレンを含んでいる(但し、0.003重量%のセレンを含んでいる場合を除く); イオンクロマトグラフィによって測定した無水ベースで98重量%以上、102重量%以下のチオ硫酸ナトリウムを含んでいる; 32重量%?37重量%の含水量を有している; 200ppm以下の塩化物を含んでいる; 0.001重量%以下の硫化物を含んでいる; 0.002重量%以下の鉄を含んでいる; 0.01重量%以下のカルシウムを含んでいる; 0.005重量%以下のカリウムを含んでいる; 0.1%以下の亜硫酸塩を含んでいる; 0.5%以下の硫酸塩を含んでいる; 3ppm以下の砒素を含んでいる; 0.001重量%以下の鉛を含んでいる; 微生物負荷の総好気性微生物数が100CFU/g以下である; 酵母およびカビの総数が20CFU/g以下である; 0.02EU/mg以下の細菌性内毒素を含んでいる; 0.002重量%以下の窒素化合物を含んでいる; 0.005重量%以下の不溶物を含んでいる; 0.01重量%以下の固化防止剤の残余を含んでいる; ICH Q3C(R3)の制限値以下の揮発性有機不純物を含んでいる; 25℃での10%水溶液が無色でありかつpH6.0?8.0である; 無臭の結晶である。 【請求項2】 0.01重量%以下の炭酸塩を含んでいる、請求項1に記載の薬学的等級のチオ硫酸ナトリウム五水和物。 【請求項3】 10ppm以下の重金属含量を有している、請求項1に記載の薬学的等級のチオ硫酸ナトリウム五水和物。」 第3 取消理由の概要 当審において、請求項1?22に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3及びそれらに従属する本件発明4?22を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえず、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。 具体的には、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例として、 「【0189】 下記の実施例の全てにおいて、当業者に既知の標準の実験および精製方法が利用され得る。他に表示されていなければ、全ての温度は℃(セルシウス度)で表される。他に示されていなければ、全ての反応は室温で行われた。下記の実施例で説明されている方法論は特定の実施例の使用を通じて利用可能な化学を実証することを目的としており、開示の範囲を示すものではない。 【0190】 〔実施例1:薬学的等級のチオ硫酸ナトリウム五水和物の調製〕 窒素下では、57キログラムの硫黄および脱イオン水(799.1キログラム)がオリコンロスコンビネーション(Oricon Ross combination) pH電極を用いて不活性化された500ガロン反応器装置に充填された。スラリーは攪拌され、161.4キログラムの亜硝酸ナトリウムが反応器に充填された。反応器は4時間の間95?100℃の間で加熱された。4時間後の反応器内のスラリーのpHは7.3であった。反応器は20+/-5℃に冷却された。冷却されたスラリーのpHは6.6であった。300グラムの水酸化ナトリウム50重量%溶液は反応器内のスラリーのpHを7.4に上げるために反応器内容物に添加された。反応器の内容物はエステラ(Estella)濾紙を通して濾過された。結果として得られた濾過物は特定の引力1.40で50?100℃の真空下で滅菌された。50+/-5℃の溶液の温度を維持しながら、300gの活性炭が溶液に添加された。溶液は1時間および3分間の間攪拌され、続いて袋状濾紙により濾過され、活性炭を除去された。濾過された溶液は20+/-5℃に冷却され、15グラムのチオ硫酸ナトリウム五水和物の結晶が溶液に添加された。溶液は次いで5+/-5度に冷却され、15時間および2分間の間攪拌された。固体および液体両方からなる反応器内の内容物は、不活性環境下においてオーロラろ紙を用いて濾過された。母源の水溶液は反応器の壁から固体を洗い流すために用いられた。固体は乾燥した皿上に載せられ、35℃で8時間の間、窒素流を用いた完全真空下の乾燥器内に静置された。乾燥は8時間後、工程中の試験において物質の水分含量(乾燥による消失)が34.0から36.8%の間になっていることが確認されるまで続いた。乾燥された固体は最終重量が112.5キログラムであった。(収率36%)。 【0191】 精製方法から本実施例1までで得られるチオ硫酸ナトリウム五水和物の解析は表1にまとめられている。 【0192】 【表1】 」 と記載されている。 ここで、本件発明1における「固化防止剤の残余」の物質を除けば、表1のチオ硫酸ナトリウム五水和物における物質の含有量は本件発明1?3で規定される値(上限値)を満たしているといえる。 しかし、本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物は、上記【0190】に記載されている製造工程を経ることによって製造されると記載されているが、不純物質とみなされる水銀、アルミニウム、セレン、塩化物、硫化物、鉄、カルシウム、カリウム、亜硫酸塩、硫酸塩、砒素、鉛、微生物負荷の総好気性微生物、酵母およびカビの数、細菌性内毒素、窒素化合物、不溶物、揮発性有機不純物、さらには、炭酸塩、重金属含量のすべてが再現性よく上記表1に記載されている値になるかどうか不明である。 特に、以下の(1)?(3)のことが、上記実施例1の製造(調整)方法において明確ではないことから、上記表1に記載されている値となるチオ硫酸ナトリウム五水和物を再現性よく得ることができるものとはいえず、チオ硫酸ナトリウム五水和物を得るためには、過度の試行錯誤を必要とするものであると指摘した。 (1)原料である硫黄の純度を厳密に調整する必要がある。 (2)再結晶の回数の制御、種々の精製工程の導入等が必要である。 (3)「固化防止剤の残余」の含有量。 第4 取消理由についての判断 特許権者が提出した平成30年6月13日付けの意見書(以下「意見書」という。)及び証拠方法として添付した以下の乙第3?6号証(以下「乙3」?「乙6」という。)を踏まえ、上記取消理由について以下のように判断した。 乙3:INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY, Vol.34, No. 9, pl043-1048 乙4:Material Safty Data Sheet Sulfur Sublimed MSDS 乙5:実験成績証明書1 乙6:実験成績証明書2 1 原料である硫黄の純度について 特許権者は、意見書で以下のように説明してきた。 「ここで、本件特許発明1の出発原料である硫黄中の不純物の性質および量は、天然物の供給源およびその製造方法に依存していることが知られている。一般的な硫黄源としては、岩塩ドームおよび火山堆積物が知られている。火山堆積物に由来する硫黄は、アルミニウム、ヒ素、カルシウム、鉄、鉛、水銀、カリウム、セレンおよび他の重金属などの比較的高濃度の元素不純物を含み得る。元素不純物は火山硫黄に溶解し、表面不純物のように容易に除去することはできないということが知られている。これとは対照的に、岩塩ドーム由来の硫黄は一般に元素不純物を含まない(乙第3号証第1044頁第9行?12行を参 照。)。一方、岩塩ドーム由来の硫黄中には、水分、酸、外来無機物質(汚れ)、溶解し吸収した気体、有機物等の不純物が含まれる。そして水分、酸および汚れは硫黄に不溶であるため、表面不純物となる。これらの不純物はすべて大気から派生したものである。水分は吸着された水蒸気であり、酸は大気によるものであるか、おそらくより頻繁には硫黄の細菌酸化であり、汚れは主に硫黄の風雨によって沈殿する。これらの表面不純物は容易に除去することができるということが知られている(乙第3号証第1044頁第19行?21行を参照。)。表面不純物は硫黄を水洗することにより、容易に除去することができる。したがって、上記知見が古くから知られているために、当業者であれば本件特許明細書 の段落【0190】の実施例1おいて、岩塩ドーム等の非火山堆積物由来の硫黄を本件特許発明1の出発原料として採用することは当然のことである。上記の観点から、本件特許権者は、本件特許の優先日当時に入手可能であった硫黄を検討し、Science Lab. com,Inc.製Sulfur Sublimed (カタログコード:SLS4 1 2 6、乙4号証を参照。)を出発原料の硫黄として本件特許の実施例1において採用した。」(意見書9頁1?21行) 本件特許明細書をみた当業者であれば、本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物を得るための出発原料について、できるだけ不純物の少ない原料を選択することは当然のことであり、原料である硫黄についても、できるだけ不純物の少ないものとして、上記意見書で説明されている、不純物の少ない岩塩ドーム等の非火山堆積物由来の硫黄を採用することは、当業者において過度の試行錯誤を強いるものとはいえない。そして、特許権者は、本件特許の優先日当時に入手可能であった岩塩ドーム由来の硫黄として、乙4を示している。 したがって、岩塩ドーム由来の硫黄を原料として用いれば、不純物の少ない硫黄を原料にできることは明らかであり、原料である硫黄の純度を厳密に調整できるものであるから、この点で、本件特許の発明の詳細な説明について当業者が本件発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。 2 再結晶の回数の制御、種々の精製工程の導入について 特許権者は意見書で、 「上述の硫黄を出発原料として用い、本件特許明細書の段落【0190】に記載された手順および当業者の通常の作法に従ってチオ硫酸ナトリウム五水和物の製造を行うことによって、本件特許明細書の表1に記載された不純物の条件と満たすチオ硫酸ナトリウム五水和物が得られるのである。つまり、本件特許明細書の段落【0190】には記載されていない種々の「精製方法」を組み合わせる必要はない。」(意見書10頁2?7行) 「本件特許発明に係るチオ硫酸ナトリウム五水和物の製造のためは、上述の硫黄を出発原料として用い、本件特許明細書の段落【0190】に記載された工程を実施すればよく、複数回の再結晶工程は含まれないのである。」(意見書10頁最下行?11頁2行)と説明し、本件特許明細書の上記実施例1の記載の方法に基づいてチオ硫酸ナトリウム五水和物の製造を行い、それについて分析をした結果を実験成績証明書1(乙5)として以下を提示してきた。 「 」 これを参酌すると、本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物は、本件特許明細書の【0190】には記載されていない種々の精製方法を組み合わせることなく、かつ、複数回の再結晶工程を行うことなく、本件特許明細書の上記実施例1に記載の方法に基づいて、本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物を再現性よく製造されているといえることから、再結晶の回数の制御及び種々の精製工程の導入について当業者において過度の試行錯誤を強いるものとはいえないことから、この点で、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。 3 固化防止剤の残余について 特許権者は、固化防止剤として古くからよく知られている亜鉛化合物に着目し、上記乙5のチオ硫酸ナトリウム五水和物に対して、その亜鉛について原子吸光分光法により測定を行った結果を実験成績証明書2(乙6)として以下を提示してきた。 「 」 これを参酌すると、本件発明1で規定される固化防止剤の含有量を満たしていることから、本件特許明細書の上記実施例1に記載の方法に基づいて製造されたチオ硫酸ナトリウム五水和物の固化防止剤は本件発明1で規定される含有量を満たすことになるから、この点で、本件特許明細書の発明の詳細な説明について当業者が本件発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。 4 まとめ 取消理由で具体的に指摘した(1)?(3)の点で、当業者が本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物を製造するために過度の試行錯誤を強いるものとはいえないことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3及びそれらに従属する本件発明4?22を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことで、請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由について 申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第22号証(以下「甲1」?「甲22」という。)を提出して、以下の申立理由により、請求項1?22に係る特許を取り消すべきものであると主張している。 甲1:「Laboratory Chemicals Vol. 18(国産化学株式会社総合カタログ第18版)2006年7月1日発行 甲2:実験成績証明書 甲3:第十一改正日本薬局方解説書、C-134?137頁及びC-1099?1103頁 甲4:第十五改正日本薬局方解説書、C-2476?2480頁 甲5:米国薬局方31 3260頁 Sodium Thiosulfate 甲6:欧州薬局方6.0 2927頁 SODIUM THIOSULPHATE 甲7:Merck株式会社 チオ硫酸ナトリウム 分析証明書(試験日:2006年3月24日、発行日:2010年12月18日 甲8:キシダ化学株式会社 チオ硫酸ナトリウム(5水和物)規格書 甲9:日本工業規格 チオ硫酸ナトリウム五水和物(試薬)JIS K8637 : 2006 甲10:医薬品の残留溶媒ガイドラインについて 平成10年3月30日 医薬審第307号、インターネット(URL: https://www.pmda.go.jp/files/000156502. pdf〉 甲11:本件特許に係る特許出願の対応米国出願である米国特許出願No.12/831, 331についてのApplicant-Initiated Interview Summary(面接日:2013年3月12日) 甲12:「化学便覧 応用化学編」(社団法人 日本化学会編、九善株式会社、昭和61年10月15日発行)234?236頁 甲13:「化学大辞典2(縮刷版)」(化学大辞典編集委員会編、共立出版株式会社、昭和46年2月5日縮刷版第11刷発行)437?438頁 甲14:英国特許第500489号明細書 甲15:Qian Lin, et al.、Chemical Engineering Journal, Vol. 139(2008)、p.264-271 甲16:特開2005-232014号公報 甲17:「生物トキシンー医学・生物学への応用」(加藤巌編、株式会社 学会出版センター、1988年6月10日初版発行)192頁 甲18:特開2008-1714号公報 甲19:特開2003-104870号公報 甲20:特開昭57-130915号公報 甲21:American Chemical Society, Reagent Chemicals,10th Edition、2006年、40頁、476頁、654?655頁 甲22:平成27年(行ワ)第1025号判決 (1)申立理由1 本件発明1?5は、甲1及び2から、優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができない。 (2)申立理由2 本件発明1?13、16及び17は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲3又は4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (3)申立理由3 本件発明1?22は、甲1及び2からの公然実施された発明もしくは甲3又は4に記載された発明、及び甲12?20の記載に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4)申立理由4 本件特許明細書の【0054】に記載されている方法、すなわち甲21で記載されている方法では、亜硫酸塩と硫酸塩の合算値を測定していることになり、チオ硫酸ナトリウム五水和物における亜硫酸塩を個別に測定していることにならないことから、発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 主な甲号証の記載事項 (1)甲1について 甲1には、優先日前に頒布された「Laboratory Chemicals Vol. 18(国産化学株式会社総合カタログ第1 8版)」の101頁には、以下の事項が記載されている。 「Sodium thiosulfate pentahydrate チオ硫酸ナトリウム五水和物 Na_(2)B_(4)O_(7)・5H_(2)O-248.19 2117207 >99.0%(T)・・・・500g 1,500 2135876 ・・・・20kg 43,300」 (2)甲2について 甲2は、以下の事項が記載されている実験成績証明書である。 「1.実験期間 2014年7月1日?2016年3月31日 2.実験の目的 (略) 3.実験に使用したチオ硫酸ナトリウム五水和物 本特許の優先日である2009年7月8日以前に入手したチオ硫酸ナトリウム五水和物を使用した。使用したチオ硫酸ナトリウム五水和物は、国産化学社より市販されている日本薬局方(第14改正)適合品である。なお、使用したチオ硫酸ナトリウム五水和物の検査成績書を本実験成績書の添付資料とした。(Lot:H117204) 4.本特許と日本薬局方との類似点 本特許と日本薬局方とで、共通する項目は以下のとおりである。今回使用したチオ硫酸ナトリウム五水和物は日本薬局方適合品であるため、日本薬局方と同一の基準を有する項目については、基準を満たすことが明らかであるので、実験は省略した。よって、本検討においては、日本薬局方の規格に該当しない項目または基準値の異なる項目について検討した。 5.実験方法 実験方法は本特許明細書記載の方法または同等の方法を用いた。 6.実験内容 分析結果の一覧を表に示した。実験方法の詳細については、次頁以降に記載した。この結果、本特許の優先日より前に市販されていた製品は、本特許の請求項1-5に記載されたチオ硫酸ナトリウム五水和物の基準を満たしていた。 (略) 7.結語 本特許の優先日である2009年7月8日以前に国産化学社から市販されていた日本薬局方(第14改正)適合品のチオ硫酸ナトリウム五水和物は、本実験の結果から、本特許の請求項1-5の基準を満たすことが確認された。よって、本特許の請求項1-5に新規性は認められない。」 (3)甲3及び4について 甲3である第十一改正日本薬局方解説書のC-1099?1103頁、甲4である第十五改正日本薬局方解説書のC-2476?2480頁には、医薬品の名称が、それぞれ「チオ硫酸ナトリウム」及び「チオ硫酸ナトリウム水和物」と記載されており、その化学式として「Na_(2)S_(2)O_(3)・5H_(2)O」と記載されていることから、甲3及び甲4には「チオ硫酸ナトリウム五水和物」について記載されている。 3 申立理由についての判断 (1)申立理由1について 甲2に「本件特許の優先日である2009年7月8日以前に入手したチオ硫酸ナトリウム五水和物を使用した。使用したチオ硫酸ナトリウム五水和物は、国産化学より市販されている日本薬局方(第14改正)適合品である。」と記載しており、甲2で示すチオ硫酸ナトリウム五水和物の実験結果が、本件特許1?5に記載されたチオ硫酸ナトリウム五水和物の基準を満たしていたことをもってして、甲1のカタログに載っているチオ硫酸ナトリウム五水和物も、本件特許1?5に記載されたチオ硫酸ナトリウム五水和物の基準を満たしていることを申立人は主張している。 しかしながら、実験期間が「2014年7月1日?2016年3月31日」となっており、実験をする際にはその時に販売されていたチオ硫酸ナトリウム五水和物を入手して実験するのが通常であり、その実験をする時においても販売されていたかどうか、入手できるかどうか不明である「2006年7月1日当時に販売されていた国産化学株式会社総合カタログ第18版のチオ硫酸ナトリウム五水和物」について分析したものと認めるほどの証拠が十分示されているとはいえない。 してみれば、本件特許1?5に記載された基準を満たしているとの結果を得たチオ硫酸ナトリウム五水和物が、上記甲1のカタログに載っているチオ硫酸ナトリウム五水和物と同じものであると判断できるほどの証拠が十分示されているとはいえないことから、「2006年7月1日当時に販売されていた国産化学株式会社総合カタログ第18版のチオ硫酸ナトリウム五水和物」を分析した結果が、甲2で得られた分析結果であるとはいえない。 加えて、申立人は、「2006年7月1日当時に販売されていた国産化学株式会社総合カタログ第18版のチオ硫酸ナトリウム五水和物」が、日本薬局方(第14改正)適合品であるとも述べているが、甲1には、それを裏付ける記載もない。 したがって、甲1の「国産化学株式会社総合カタログ第18版のチオ硫酸ナトリウム五水和物」が、本件特許1?5に記載された基準を満たしているとはいえないことから、本件発明1?5は、優先日前に公然実施をされた発明とはいえず、特許法第29条第1項第2号に該当するものではない。 (2)申立理由2について 甲3及び甲4は、医薬品としての「チオ硫酸ナトリウム五水和物」について記載されている。 申立人は、特許異議申立書で、 「本件特許の優先日前から市販されていた製品(チオ硫酸ナトリウム水和物 日本薬局方適合品 国産化学株式会社製)について、「有機炭素」を測定した結果(甲第2号証)も、5.8ppmと10ppm以下であることを示す。・・・本件特許の優先日前から市販されていた製品(チオ硫酸ナトリウム水和物 日本薬局方適合品 国産化学株式会社製)について、「水銀」を測定した結果(甲第2号証)も、0.05ppm以下であることを示す。・・・アルミニウム含量2ppm以下のチオ硫酸ナトリウム水和物は本件特許の優先日前に市販されていた(甲第2及び7号証)。・・・セレン含量0.003重量%以下のチオ硫酸ナトリウム水和物は本件特許の優先日前に市販されていた(甲第2号証)。本件特許の請求項1には「200ppm以下の塩化物を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2、8及び9号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1には「0.001重量%以下の硫化物を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2及び9号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1には「0.002重量%以下の鉄を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2及び7?9号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1には「0.01重量%以下のカルシウムを含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2及び7?9号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1には「O。005重量%以下のカリウムを含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2及び7号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1には「0.1%以下の亜硫酸塩を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2、8及び9号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1にば「0.5%以下の硫酸塩を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2、8及び9号証に示されている物性と区別できない。・・・ 実際に、砒素含量3ppm以下のチオ硫酸ナトリウム水和物は本件特許の優先日前に市販されていた(甲第2号証)。・・・本件特許の請求項1には「0.001重量%以下の鉛を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2、6?9号証に示されている物性と区別できない。・・・本件特許の請求項1には「微生物負荷の総好気性微生物数が100CFU/g以下」及び「酵母およびカビの総数が20CFU/g以下」・・・の要件を満たすチオ硫酸ナトリウム水和物は本件特許の優先日前に市販されていた(甲第1?2号証)。・・・本件特許の請求項1には「0.002重量%以下の窒素化合物を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2及び8号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項1には「0.005重量%以下の不溶物を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2号証に示されている物性と区別できない。・・・本件特許の請求項2には「0.01重量%以下の炭酸塩を含んでいる」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2号証に示されている物性と区別できない。本件特許の請求項3には「10ppm以下の重金属含量を有している」と記載されているが、当該発明特定事項は甲第2及び6号証に示されている物性と区別できない。」(異議申立書18頁19行?22頁24行)と述べ、 「上述したように、本件特許の請求項1?5に記載の純度及び物性のうち、甲第3号証及び甲第4号証に明示されていない純度及び物性は公知のチオ硫酸ナトリウム五水和物が有するものと区別できないものである。」(異議申立書22頁14?16行)と主張している。 しかしながら、上記(1)で説示したとおり、甲2の実験結果は「2006年7月1日当時に販売されていた国産化学株式会社総合カタログ第18版のチオ硫酸ナトリウム五水和物」についてのものとはいえないことから、甲2の実験結果に基づいてそのような判断をすることはできない。 さらに、申立人は、甲2以外の甲6?10、16及び17の記載に基づいても甲3及び甲4のチオ硫酸ナトリウム五水和物の成分について判断しているが、甲6?10、16及び17に記載されている事項は、甲3及び甲4のチオ硫酸ナトリウム五水和物について記載したものではないから、甲3及び甲4のチオ硫酸ナトリウム五水和物における個別の成分を、それぞれ甲6?10、16及び17の記載に基づいて解釈することはできない。 よって、本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物が、甲3及び甲4のチオ硫酸ナトリウム五水和物と同じものといえないことから、本件発明1?3及びそれらを引用する4?13、16及び17は、甲3又は4に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (3)申立理由3について ア 甲1及び2からの公然実施された発明 甲2で得られた分析結果は、甲1の「国産化学株式会社総合カタログ第18版のチオ硫酸ナトリウム五水和物」のものとはいえないことから、公然実施された発明は甲1だけに記載された発明である。甲1には、上記2(1)で摘記したとおり「Sodium thiosulfate pentahydrate チオ硫酸ナトリウム五水和物 Na_(2)B_(4)O_(7)・5H_(2)O-248.19 2117207 >99.0%(T)・・・・500g 1,500 2135876 ・・・・20kg 43,300」としか記載されておらず、本件発明1?3で特定されるほとんどの成分の含有量について相違点となる。 本件発明1?3の各成分の含有量は、上記第4の「取消理由についての判断」で述べたとおり、本件特許明細書の実施例1に記載されている製造方法に則って実施することによりはじめて、本件発明1?3で規定されるすべての成分について、各成分について規定される含有量となるものである。本件発明1?3で特定される成分について、個別に甲12?20に記載されているとしても、各々個別に上記甲1の公然実施された発明に適用して、各成分について個別に調整することは容易といえる可能性もあるが、通常、不純物の制御においては、ある成分を減らそうとしたとき、別の成分が導入されるあるいは増える場合もあることから、本件発明1?3で特定されるすべての成分の含有量について同時に満たすように、本件発明1?3で特定されるすべての成分の含有量を調整することが、当業者において容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明1?3は、甲1からの公然実施された発明及び甲12?20の記載に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 甲3又は4に記載された発明 上記(2)の「申立理由2について」で述べたとおり、甲3及び甲4には、医薬品としての「チオ硫酸ナトリウム五水和物」について記載されているものの、本件発明1?3で特定される多くの成分の含有量について相違点となるものである。 上記アで説示したとおり、本件発明1?3で特定される成分について、各々個別に甲3又は甲4に記載された発明に適用して、各成分について個別に調整することは容易といえる可能性もあるが、通常、不純物の制御においては、ある成分を減らそうとしたとき、別の成分が導入されるあるいは増える場合もあることから、本件発明1?3で特定されるすべての成分の含有量について同時に満たすように、本件発明1?3で特定されるすべての成分の含有量を調整することが、当業者において容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明1?3は、甲3又は甲4に記載された発明及び甲12?20の記載に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ まとめ よって、本件発明1?3及びそれらを引用する本件発明4?22は、甲1及び2からの公然実施された発明もしくは甲3又は4に記載された発明、及び甲12?20の記載に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 (4)申立理由4について 本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物は、本件特許明細書の実施例1に記載されている製造方法に則って製造することにより得られるものである。したがって、仮に本件特許明細書の【0054】に記載されている亜硫酸塩の測定方法が適切でないとしても、本件発明1?22は測定方法の発明ではなく、本件特許明細書の実施例1に記載されている製造方法で本件発明1?3のチオ硫酸ナトリウム五水和物が製造できないとはいえない以上、本件特許明細書の【0054】に記載されている亜硫酸塩の測定方法が適切でないことをもってして、チオ硫酸ナトリウム五水和物に係る本件発明1?3が実施できないとはいえない。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3及びそれらを引用する本件発明4?22を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1?22に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。 また、他に請求項1?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-06-29 |
出願番号 | 特願2016-6438(P2016-6438) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C01B)
P 1 651・ 112- Y (C01B) P 1 651・ 536- Y (C01B) P 1 651・ 121- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 廣野 知子 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 三崎 仁 |
登録日 | 2017-06-30 |
登録番号 | 特許第6166393号(P6166393) |
権利者 | ホープ メディカル エンタープライゼズ,インコーポレイテッド ディービーエー ホープ ファーマシュティカルズ |
発明の名称 | チオ硫酸ナトリウムを含有する薬学的組成物 |
代理人 | 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |