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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C23C
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C23C
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
管理番号 1342238
審判番号 無効2016-800055  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-05-11 
確定日 2018-06-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5629436号発明「表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5629436号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔2-4〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5629436号(請求項の数[4]、以下、「本件特許」という。)は、平成21年 7月21日に出願された特願2009-170345号に係るものであって、その特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明について、平成26年10月10日に特許権の設定登録がなされた。

これに対して、本件無効審判請求人 パーカー熱処理工業株式会社(以下「請求人」という。)は、平成28年 5月11日に、上記請求項1?4に係る発明の特許のうち、請求項2及び3並びに請求項2及び3に従属する請求項4に係る発明の特許について、本件無効審判〔無効2016-800055号〕を請求した。

その後の手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成28年 7月22日付け 審判事件答弁書(被請求人)
同年 同月 同日付け 訂正請求書 (被請求人)
同年11月 9日付け 審理事項通知書
同年12月16日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 同月 同日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 同月26日付け 審理事項通知書
平成29年 1月25日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 同月 同日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 2月 9日受付 証拠説明書(請求人)
同年 同月 同日受付 証拠説明書(被請求人)
同年 同月 同日 第1回口頭審理


第2 平成28年 7月22日付けの訂正請求の適否
平成28年 7月22日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

1. 訂正請求の趣旨
本件特許の明細書を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正後の請求項2?4について訂正することを求める。

2. 訂正の内容
ア. 訂正事項1
段落[0061]を、次のとおり訂正する。
「 ガス導入量制御手段26は、上述した式(2)で表される窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるように、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量を演算する。」

イ. 訂正事項2
段落[0074]を、次のとおり訂正する。
「(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、水素濃度検出手段4が炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、炉内ガス組成演算手段24が、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。」

ウ. 訂正事項3
段落[0075]を、次のとおり訂正する。
「 そして、この測定した演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段24が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、ガス導入量制御手段26が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。」

エ. 訂正事項4
段落[0079]を、次のとおり訂正する。
「 (3)本実施形態の表面硬化処理方法では、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。」

オ. 訂正事項5
段落[0096]を、次のとおり訂正する。
「 ここで、第一発明例では、NH_(3):N_(2)=80:20という混合ガスの混合比率を基にして、ガス導入量制御手段により、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるための水素濃度の設定値と、水素濃度検出手段により検出した炉内ガスの水素濃度とを比較し、アンモニアガス及び窒素ガスのマスフローコントローラに対して、それぞれ、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率NH_(3):N_(2)=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御することにより、窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。」


3. 訂正請求の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的について
ア. 訂正事項1
訂正事項1は、段落[0061]についてする訂正であって、訂正前の段落[0061]における「アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量との比が設定炉内ガス混合比率となるように、アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量を演算する。」との記載が、段落[0048]、[0070]等における「炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御する」との記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落[0061]における前記記載を、「炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量を演算する。」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落[0061]の記載と段落[0048]、[0070]等の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ. 訂正事項2
訂正事項2は、段落[0074]についてする訂正であって、訂正前の段落[0074]における「水素濃度検出手段4が、」「処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。」との記載が、段落[0046]、[0070]等における「炉内ガス組成演算手段24は、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する」との記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落[0074]における前記記載を、「水素濃度検出手段4が炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、炉内ガス組成演算手段24が、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落[0074]の記載と段落[0046]、[0070]等の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

ウ. 訂正事項3
訂正事項3は、段落[0075]についてする訂正であって、訂正前の段落[0075]における「このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉2内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、ガス導入量制御手段26が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御する」との記載では、その記載自体が意味する事項が明らかではないし、また、訂正事項1で示した訂正前の段落[0061]と同様に、段落[0048]、[0070]等との記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落[0075]における前記記載を、「このため、ガス導入量制御手段26が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御する」との記載に訂正して、その記載自体が意味する事項を明らかとし、また、訂正明細書において、段落[0075]の記載と段落[0048]、[0070]等の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

エ. 訂正事項4
訂正事項4は、段落[0079]についてする訂正であって、訂正前の段落[0079]における「このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉2内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御する」との記載が、訂正事項3で示した訂正前の段落[0075]と同様に、その記載自体が意味する事項が明らかではないし、また、段落[0048]、[0070]等との記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落[0079]における前記記載を、「このため、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御する」との記載に訂正して、その記載自体が意味する事項を明らかとし、また、訂正明細書において、段落[0079]の記載と段落[0048]、[0070]等の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

オ. 訂正事項5
訂正事項5は、段落[0096]についてする訂正であって、訂正前の段落[0096]における「第一発明例では、」「窒化ポテンシャルK_(N)が3.0となるための」「窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。」との記載が、段落[0095]における「第一発明例及び第一比較例共に、」「窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるように、ガス窒化処理を行った。」等との記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっており、また、訂正前の段落[0096]における「第一発明例では、」「設定炉内ガス混合比率であるNH_(3):N_(2)=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御する」との記載が、段落[0062]における「処理炉2内へ導入する混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))の処理炉2内への合計導入量を制御する」等との記載と整合がとれていないため、互いに、明瞭でない記載となっているところ、訂正前の段落[0096]における前記記載を、それぞれ、「第一発明例では、」「窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるための」「窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落[0096]の記載と段落[0095]等の記載との整合を図るとともに、「第一発明例では、」「処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率NH_(3):N_(2)=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御する」との記載に訂正して、訂正明細書において、段落[0096]の記載と段落[0062]等の記載との整合を図るものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるかについて
本件訂正の請求の趣旨、及び、請求の理由によれば、本件訂正の請求では、本件特許の明細書を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正後の請求項2?4について訂正することを求めているところ、本件特許の特許請求の範囲によれば、請求項2?4は、一体として特許請求の範囲の一部を形成するように連関している関係を有しているから、訂正後の請求項2?4について訂正することを求めることは、請求項2?4からなる一群の請求項ごとに訂正の請求をするものといえ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(3) 新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は
変更の存否
訂正事項1?5が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、訂正事項1?5についての訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

(4) 小括
上記(1)?(3)で検討したとおり、本件訂正の請求は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであるし、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第4?6項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。


第3 本件特許発明について
上記第2のとおり本件訂正を認めるところ、本件訂正は、本件特許の明細書を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正するものであって、特許請求の範囲についての訂正ではないから、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の明細書は、訂正後の明細書である、訂正明細書のとおりものである。

「【請求項1】
処理炉内で水素を発生するガスとしてはアセチレンガスのみを含むとともに、その他のガスとして窒素ガスを含む炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理として真空浸炭処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アセチレンガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とする表面硬化処理装置。
【請求項2】
処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入
ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とする表面硬化処理装置。
【請求項3】
前記表面硬化処理を前記ガス軟窒化処理とし、
前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通する水素濃度検出配管と、
前記水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段と、を備え、
前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で前記炉内ガスが固体として析出しないように、前記アンモニアガスに応じて前記水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御することを特徴とする請求項2に記載した表面硬化処理装置。
【請求項4】
前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間に介装し、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通させる連通状態と、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間を閉鎖する閉鎖状態と、を切換可能な開閉弁と、
前記ガス導入量制御手段の動作状態に応じて前記開閉弁を前記連通状態または前記閉鎖状態に切り換える開閉弁切換え制御手段と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した表面硬化処理装置。」


第4 当事者の主張及び証拠方法
1.請求人の主張の概要
請求人は、特許5629436号の請求項2及び3並びに請求項2及び3に従属する請求項4に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成28年5月12日付け手続補正書(方式)、同年12月16日付け口頭審理陳述要領書、平成29年1月25日付け口頭審理陳述要領書、同年2月7日付け証拠説明書、同年同月9日の第1回口頭審理(第1回口頭審理調書)、同年同月17日付け手続補正書(方式)において、証拠方法として甲第1?12号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

第1の無効理由:本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、甲第1号証に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明について、同法同条同項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明1に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第2の無効理由:本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明について、同法同条同項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明1に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第3の無効理由:本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明1に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第4の無効理由:本件特許の請求項3に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、甲第1号証及び/または甲第2号証、並びに甲第3?4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第5の無効理由:本件発明1?2に従属する本件特許の請求項4に係る発明(以下「本件発明3」という。)は、甲第1号証及び/または甲第2号証、並びに甲第3?7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明3に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第6の無効理由:本件発明1?3は、「(水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて演算したアンモニアガスの炉内濃度の演算値に基づいて)前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、制御する」ものであるが、本件特許の明細書には、「炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて」制御することについての具体的な説明は一切なされておらず、従って特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであり、本件の請求項2?4に係る特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。


[証拠方法] (当審注:「[]」は、ウムラウト付きであることを表す。以下、同様。)
甲第1号証:河田一喜、「窒化ポテンシャル制御システム付きガス軟窒化
炉」、熱処理、第49巻第2号、平成21年4月28日 発行
、社団法人 日本熱処理技術協会発行、p.64?68
甲第2号証:Dieter Liedtke und 6 Mitautoren, W[a]rmebehandlung von
Eisenwerkstoffen Nitrieren und Nitrocarburieren 3.,
v[o]llig neu bearbeitete Auflage, 2006年,
expert verlag発行 , p.123?125、p.154?
155、p.158?163
甲第3号証:藤原雅彦、「ガス浸炭における測定精度を向上したガス分析シ
ステム」、熱処理、第44巻第5号、平成16年10月28日
発行、社団法人 日本熱処理技術協会発行、p.320?
323
甲第4号証:特開2000-74798号公報
甲第5号証:特開平10-54784号公報
甲第6号証:特開2007-40756号公報
甲第7号証:特開2009-129925号公報
甲第8号証:本件被請求人 オリエンタルエンヂニアリング株式会社、及び
、その代理人から 本件請求人 パーカー熱処理工業株式会社
、及び、その代理人への平成28年4月8日差し出しの書簡
甲第9号証:豊田工業大学 先端工学基礎学科 教授 奥宮正洋、本件特許
の請求項2の無効審判請求事件に関する平成28年12月14
日付けの意見書
甲第10号証:Dieter Liedtke und 6 Mitautoren, W[a]rmebehandlung von
Eisenwerkstoffen Nitrieren und Nitrocarburieren 3.,
v[o]llig neu bearbeitete Auflage, 2006年,
expert verlag発行 , p.139
甲第11号証:A. Czelusniak et al. , Automatic Nitriding
Potentital Control in Gas Nitriding , Proceedings of
International Heat Treating Conference :
Equipment and Processes , 1994年4月発行 ,
p.449?454
甲第12号証:azbil デジタルマスフローコントローラ、第12版、
2016年9月 印刷、アズビル株式会社発行、p.1?
10

甲第1?12号証の成立に争いはない。なお、甲第1?8号証は、審判請求書とともに提出され、甲第9?12号証は、平成28年12月16日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書とともに提出された。


2. 甲号証の記載事項、及び、図面からの視認事項
第1?第6の無効理由に関し、請求人が証拠方法として提出した甲第1?7号証の記載事項、及び、図面からの視認事項は、それぞれ次のとおりであり、また、補足的に提出した甲第8?12号証のうちの、甲第11号証の記載事項、及び、図面からの視認事項は、次のとおりである。(当審注:「…」は記載の省略を表し、丸数字は「○1」等により表す。以下、同様。)。

(1) 甲第1号証(河田一喜、「窒化ポテンシャル制御システム付きガス軟窒化炉」、熱処理、第49巻第2号、平成21年4月28日 発行、社団法人 日本熱処理技術協会、p.64?68)
(1a) 「 1.はじめに
従来,ガス窒化炉およびガス軟窒化炉の雰囲気管理に関しては,手動ガラス管式アンモニア分析計により不連続に炉内残留アンモニア量をチェックする程度であった。また,連続的に炉内ガスを分析する場合は,サンプリングポンプにより炉内ガスを赤外線アンモニア分析計に導入する方法を採っていた。ただ,この赤外線アンモニア分析計は,ガス軟窒化処理においては,炭酸アンモニウムの析出によりサンプリング経路の詰りが発生しやすい,定期的にフィルター掃除などのメンテナンスの必要がある,分析計が高価であるなどの問題点があり,あまり普及していない。
そこで,当社では炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度を分析し,目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きガス軟窒化炉を開発したので,その内容を紹介する。」(p.64左欄第1?16行)

(1b) 「 2.窒化センサ制御システム
窒化センサは,真空浸炭・窒化炉に採用されているセンサと同様の原理からなり,ガスの熱伝導の違いにより炉内の水素濃度を測定している。
…窒化センサは,炉体に直接装着できるため窒化センサ制御システムとしてピット型,バッチ型,連続型に限らずあらゆるタイプのガス窒化・軟窒化炉に適用できる。一例として図2に窒化センサシステムを装備したストレートスルータイプの連続型ガス軟窒化炉の概略図を示す。
図3に窒化センサ制御システム構成図を示す。本制御システムは以下のような特徴がある。
○1窒化センサが炉体に直接装着されているため,赤外線アンモニア分析計方式に比べて分析応答速度が速く,制御性に優れる。○2センサ寿命が長く,ノーメンテナンスである。○3炭酸アンモニウム析出の問題がないため,窒化,軟窒化,酸窒化などの各種処理に適用できる。…。」(p.64左欄第17行?p.65左欄下から3行)

(1c) 「 3.窒化ポテンシャル
窒化炉内における窒化反応は(1)式のように表され,また,そのときの窒化ポテンシャルK_(N)は(2)式のように表される。
NH_(3)→(N)+3/2H_(2 )(1)
K_(N)=P_(NH3)/P_(H2)^(3/2 )(2)
K_(N):窒化ポテンシャル
P_(NH3):NH_(3)の分圧
P_(H2):H_(2)の分圧

そのため,窒化炉内の水素濃度を窒化センサにより分析すれば,窒化ポテンシャルを知ることができる。また,希望する窒化ポテンシャルに炉内ガスを調整するには,導入ガス量,ガス種をマスフローコントローラーへ設定信号を送ればよい。」(p.65左欄下から2行?p.66左欄下から13行)

(1d)「図5は,ピット型ガス軟窒化炉(処理重量:50kg/gross)を用い,窒化温度570℃にてNH_(3)とN_(2)の流量を変化させることにより窒化ポテンシャルを高い値から低い値まで自在に制御できることを示した記録チャートである。」(p.66左欄下から11行?下から7行)

(1e)「図7には,バッチ型ガス軟窒化炉(処理重量:600kg/gross)において,窒化初期は窒化ポテンシャルを高くし,後期には窒化ポテンシャルをある値に低く制御して処理することによりアンモニアガス量およびトータル使用ガス量を大幅に削減できたときの記録チャートを示す。また,そのときの具体的な窒化ポテンシャル制御によるガス使用量削減効果と窒化性能結果を表1に示す。」(p.66右欄下から4行?p.67左欄下から6行)

(1f)「図6はSCM440材で,処理品表面積の大小のものをピット型ガス軟窒化炉(処理重量:50kg/gross)にて窒化処理した場合,窒化ポテンシャル制御を行わなかった場合は,表面積が多いときは少ないときに比べて炉内の水素濃度が高い,すなわち窒化ポテンシャルが低いためそれに伴って化合物層も薄くなっている。一方,表面積が変わっても窒化ポテンシャルが同じになるように制御を行った場合,化合物層厚さにほとんど差がないことがわかる。」(p.66左欄下から7行?右欄下から4行)

(1g)「

上記(1a)?(1c)の記載を踏まえると、図3からは、ピット型、バッチ型、連続型に限らずあらゆるタイプのガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、希望する窒化ポテンシャルが得られるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを調節できるという窒化センサ制御システム付きガス軟窒化炉が視認される。」

(1h)「

上記(1d)の記載と上記(1g)の視認事項とを踏まえると、図5からは、ピット型のガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、その窒化ポテンシャルが設定値となるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを自動制御できるという窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉において、NH_(3)とN_(2)のみを使用し、窒化温度570℃にて炉内の水素濃度H_(2)、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期には28Vol%、4.2制御、中期には40Vol%、1.8制御、後期には50Vol%、0.9制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整することにより、炉内ガスの窒化ポテンシャルを高い値から低い値まで制御できたことが視認される。」

(1i)「

上記(1e)の記載と上記(1g)の視認事項とを踏まえると、図7からは、バッチ型のガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、その窒化ポテンシャルが設定値となるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを自動制御できるという窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉において、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)のみを使用し、窒化温度580℃にて炉内の水素濃度H_(2)、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期は15Vol%、7.5制御、後期には23Vol%、3.1制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整することにより、炉内ガスの窒化ポテンシャルを高い値から低い値まで制御できたことが視認される。
また、図7からは、後期における水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値が時間の推移に伴って、それぞれ、23Vol%付近、3.1付近で小刻みに変動したことが視認される。」

(1j)「

上記(1f)の記載と上記(1g)の視認事項とを踏まえると、図6からは、窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉を用いて、窒化温度570℃にて炉内の水素濃度が30Vol%となるように、NH_(3)とN_(2)の流量を変化させて、表面処理品であるSCM440材の窒化処理をすると、その表面処理品の表面積が4.4m^(2)の場合であっても、1.2m^(2)の場合と同様に、炉内ガスの窒化ポテンシャルを3.0に制御できるため、それらの表面処理品の表面積に影響されずに、厚さ約11.5μmの窒化処理ができるということが視認される。」

(1k)「




(2) 甲第2号証(Dieter Liedtke und 6 Mitautoren , W[a]rmebehandlung von Eisenwerkstoffen Nitrieren und Nitrocarburieren 3., v[o]llig neu bearbeitete Auflage, 2006年, expert verlag発行 , p.123?125、p.154?155、p.158?163)
(2a)「


(当審訳:

)

(2b)「


(当審訳:4.5 プロセスの監視と制御
4.5.1 概要
DIN EN ISO 9000ffによって強化された熱処理加工品に対する品質要請は、窒化及び軟窒化の場合、対応するプロセスが監視されて制御される時のみ満たされ得る。以下では、このために利用される計測及び制御方法が説明される。

4.5.2 測定手順の選択
第4.1節では、窒化の場合に、炉内のアンモニア濃度ψ_(R)(NH_(3))と水素濃度ψ_(R)(H_(2))との計測値が、窒化ポテンシャルK_(N)の決定に利用されることを説明した。


)

(2c)「


(当審訳:

)

(2d)「


(当審訳:

)

(2e)「


(当審訳:

)

(2f)「


(当審訳:

上記(2a)、(2c)?(2e)の記載を踏まえると、図4-37と図4-38とからは、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)とが、それぞれ、50%、45%、5%混合された、NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化のための制御装置であって、HydroNit-Sensorを用いて測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整できるが、より低い窒化ポテンシャルK_(N)の調整が必要な場合にはガス投入量の削減では達成できない制御装置、すなわち、前記窒化ポテンシャルK_(N)が4に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最小許容ガス投入量に調整され、前記窒化ポテンシャルK_(N)が9に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最大許容ガス投入量に調整される制御装置が視認される。)

(2g)「


(当審訳:

)

(2h)「


(当審訳:

上記(2g)の記載を踏まえると、図4-40からは、図4-26の軟窒化プロセスの進行の様子であって、1.2時間の辺りから3.5時間の辺りまで時間が経過する間、約580℃の温度で、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)との混合ガスにより、窒化ポテンシャルK_(N)が2.0に設定された軟窒化処理が行われ、その軟化処理の間、水素濃度はほぼ一定に保たれたのに対し、NH_(3)の流量、N_(2)の流量、CO_(2)の流量は、いずれも、めまぐるしく変化し、この変化に伴い、前記NH_(3)の流量と前記N_(2)の流量の相互の大小関係もめまぐるしく変化したことから、前記混合ガスにおけるNH_(3)とN_(2)とCO_(2)との流量比率もめまぐるしく変化したという、軟窒化プロセスの進行の様子が視認される。)


(3) 甲第3号証(藤原雅彦、「ガス浸炭における測定精度を向上したガス分析システム」、熱処理、第44巻第5号、平成16年10月28日 発行、社団法人 日本熱処理技術協会、p.320?323)
(3a)「2.ガス分析計におけるCP制御およびガス濃度測定
ガス浸炭における重要な数値であるCP値を制御する方法として,現状は炉内のO_(2)濃度を測定することにより,演算でCP値を算出している。…
一方CP値の演算はCO_(2)濃度からも可能である…CO_(2)測定には,一般的には非分散型赤外線吸収法(NDIR法)が用いられる。…
熱処理炉における管理としては,…COやCH_(4)の測定,軟窒化炉や浸炭軟窒化炉におけるNH_(3)測定がある。これらのガスもNDIR法で測定が可能である。」(p.320左欄第9行?右欄第7行)

(3b)「5.軟窒化におけるアンモニア測定
軟窒化におけるNH_(3)の濃度測定においてもNOIR法(当審注:「NOIR法」は「NDIR法」の誤記と認める。)が原理的に使用可能であるが,この場合の注意点としては,下記の項目があげられる。
○1炭酸アンモニウムの結晶が析出するため,サンプリング系における結晶の除去手段が必要

5.1 炭酸アンモニウム結晶の除去
炭酸アンモニウムは58度以下になると結晶化する。このため分析計では結晶による閉塞,測定値の低下や不安定性の問題を生じる。NH_(3)を連続して安定に測定するためには,炭酸アンモニウムの除去が重要な課題となる。分析計内部で結晶化させないためには,サンプリング部および分析部では,炭酸アンモニウムの結晶析出温度以上につねに保持する必要性がある。しかし,分析計の排気ガスラインも含めてすべて温度コントロールを行うことは,コストや測定の安定性などを考慮した場合に問題があり,サンプリング系において,除去することが好ましい。
サンプリングラインでは,フィルタを設けその部分は意図的に設定温度を低くし,結晶化させる方法をとる。サンプリング系のフローシートを図7に示す。この方式により連続でNH_(3)濃度の監視が可能となっている。」(p.323下から21行?右欄下から18行)

(3c)「




(4) 甲第4号証(特開2000-74798号公報)
(4a)「【従来の技術】低炭素鋼や他の鉄合金の表面を硬化するため、炉内で一酸化炭素又は炭化水素とアンモニアを含む雰囲気中で800?875℃に加熱し、炭素と窒素を金属中へ入れる侵炭窒化法がある。侵炭窒化法では、侵炭濃度を調節するために、炉内雰囲気ガス中に含まれるCO、CO_(2)、NH_(3)の濃度を測定している。炉内雰囲気ガスを測定するガス分析装置としては、サンプリングパイプを挿入して炉内雰囲気ガスを外部に導くサンプリングプローブと、そのサンプリングプローブからサンプリング導管を介して導かれた炉内雰囲気ガスに含まれる特定成分を測定セルで検出するガス分析部と、分析後の炉内雰囲気ガスを排出口に導く排出導管と、測定ガス流路に備えられ、サンプリングプローブから吸引し排出口から排出するポンプ機構とを備えたものが用いられる。そのようなガス分析装置の検出部には、例えば非分散型赤外分析計(NDIR)が用いられる。
侵炭窒化処理装置から採取した炉内雰囲気ガスの温度が80℃未満になると、炭酸アンモニウムの結晶を生じ、配管の閉塞やアンモニア濃度の指示値の低下、指示値のドリフトなどが生じ、正確な測定を行なうことができなくなる。そこで、このようなガス分析装置では、サンプリングプローブやフィルタ、サンプリング導管など測定ガス流路を局部的に80℃以上に加熱して炭酸アンモニウムの結晶の生成を防止している。」(【0002】?【0003】)

(4b)「【発明が解決しようとする課題】従来のガス分析装置では、測定ガス流路を局部的にしか加熱しておらず、加熱していない部分においては炭酸アンモニウムの結晶が生じていた。そのため、アンモニアの検出感度が低下したり、またメンテナンスの頻度が多くなるという不具合を生じていた。そこで本発明は、ガス分析装置において、測定ガス流路における結晶の生成を抑制することを目的とするものである。」(【0004】)

(4c)「【課題を解決するための手段】…本発明では、すべての測定ガス流路を所定の温度に保ち、温度低下による測定ガス成分の結晶の生成を抑制する。その結果、配管の閉塞、測定成分濃度の指示値の低下、指示値のドリフトなど、結晶の生成に起因する不具合を解消することができる。」(【0005】?【0006】)

(4d)「【実施例】図1は、一実施例を表す概略構成図である。例えば侵炭窒化処理装置の炉2にサンプリングパイプを挿入するサンプリングプローブ4が固定されている。プローブ4の内部はヒータ3により80℃以上に加熱されている。プローブ4からの測定ガス流路は、例えば120℃に加熱された加熱導管から構成されるサンプリング導管6を介して、恒温槽8の内部に導かれる。恒温槽8の内部は恒温槽8内部に設けられたヒータ10により80℃以上に加熱されている。…恒温槽8内部に導かれた測定ガス流路は、恒温槽8の内部に設けられたフィルタ18、ポンプ機構20のポンプヘッド22、電磁弁24及びフローメータ26を介して、恒温槽8の外部に設けられた例えばNDIRからなるガス分析計28に導かれる。フィルタ18、ポンプヘッド22、電磁弁24、フローメータ26及びそれらの間の測定ガス流路は恒温槽8により加熱されている。…ガス分析計28に導かれた測定ガス流路は、ガス分析計28内に備えられたセル30を介して、再び恒温槽8に導かれる。セル30では、NH_(3)やCO、CO_(2)などの測定ガスの特定成分が検出される。セル30は、温度制御装置14により制御されるヒータ32により80℃以上に加熱されている。また、恒温槽8とガス分析計28との間の測定ガス流路は断熱材34により覆われているので、測定ガスの温度はほとんど低下しない。ガス分析計28から恒温槽8に導かれた測定ガス流路は、恒温槽8の外部に設けられた例えば120℃に加熱された加熱導管から構成される排出導管36を介して、排出口38に導かれる。…この実施例では、サンプリングプローブ及びガス分析計はそれぞれ1つずつ備えられているが、バルブ等を介した配管により複数のサンプリングプローブ及びガス分析計を備えることが好ましい。…この実施例は、侵炭窒化処理装置の炉中雰囲気ガスの測定に適用し、炭酸アンモニウムの結晶が生じないように測定ガス流路の温度を80℃以上に保っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、測定ガス流路の保温温度を測定するガスに合わせて設定することにより、ガス成分の変質及び結晶の生成を防止して高感度な測定を行なうことができる。」(【0007】?【0012】)

(4e)「

」(【図1】)


(5) 甲第5号証(特開平10-54784号公報)
(5a)「【従来の技術】各種プラント或は処理装置に於いて、配管にはガス成分の検出、圧力の検出等を行う為の各種センサが設けられる。
従来のガスセンサの取付け構造は図2に示される様に、配管1に分岐管2を介してガス成分検出器、圧力検出器等のガスセンサ3が設けられたものであり、配管1中を流れるガスを前記分岐管2によりガスセンサ3に導きガスセンサ3に於いて、ガスの成分、圧力等を検出するというものである。」(【0002】?【0003】)

(5b)「【発明が解決しようとする課題】ところが半導体製造装置では腐食性ガス、例えばClF_(3)ガスの様に強い腐食性を有するガスも使用しており、又装置に必要なガスセンサとしてピラニ真空計等腐食性ガスにより腐食されるガスセンサも取付ける必要がある。上記した従来のガスセンサの取付け構造では、流通する腐食性ガスが前記ガスセンサ3に到達し、前記ガスセンサ3が腐食性ガスにより腐食されるという問題があった。
本発明は斯かる実情に鑑み、腐食性ガスが流通する場合は腐食性ガスがガスセンサに到達することを防止し、ガスセンサを腐食から防護しようとするものである。」(【0004】?【0005】)

(5c)「【課題を解決するための手段】本発明は、ガスセンサをバルブを介して構造物に設け、前記バルブが非腐食性ガスが流通する場合に開、腐食性ガス流通する場合に閉となる様開閉される構成とし、腐食性ガスがガスセンサに到達することを防止する。」(【0006】)

(5d)「【発明の実施の形態】…
配管1より分岐させた分岐管2を介して配管1にガス成分検出器、圧力検出器等のガスセンサ3を設け、前記分岐管2にはバルブ4を設け、該バルブ4は制御器5に接続する。又、前記ガスセンサ3は前記制御器5に接続され、ガスセンサ3で検出した結果が制御器5に入力され、ガス成分コントロール或は圧力コントロール等の制御信号として使用される。又、前記制御器5からは前記バルブ4に開閉信号が出力され、前記バルブ4の開閉状態がコントロールされる。
装置の作動シーケンスにより前記配管1に流されるガスが決定され、ガスの種類に応じて前記制御器5から前記バルブ4に開閉信号が入力される。即ち、配管1中を流通するガスが窒素ガス(N_(2)ガス)の様に非腐食性のガスの場合は、前記バルブ4に開信号が入力され、該バルブ4が開かれ、ガスセンサ3により検出が行われる。
次に、配管1に腐食性ガスを流す場合は、前記制御器5より前記バルブ4に閉信号が発せられ、バルブ4が閉塞され、ガスセンサ3へ腐食性ガスが到達するのを遮断する。而して、ガスセンサ3の腐食が防止される。
配管1に非腐食性ガスが流される状態となったら再び前記配管1が開かれ、前記ガスセンサ3によりガスに関する情報の検出が行われる。」(【0007】?【0012】)

(5e)「

」(【図1】)
(5f)「

」(【図2】)


(6) 甲第6号証(特開2007-40756号公報)
(6a)「【背景技術】…固体高分子膜型燃料電池においては、従来、燃料電池の酸素極側の排出系にガスセンサ(水素検出器)を設け、このガスセンサによって燃料極側の水素が固体高分子電解質膜を通じて酸素極側に漏洩したことを検知する技術が知られている…。具体的に、この技術では、ガスセンサの水素取込口(気体取込部)を鉛直下方に向けた状態で排気管の上壁に設けることで、比重の軽い水素を良好にガスセンサ内に取り込むことができる構造となっている。また、このような技術では、水素取込口に撥水フィルタを設けることで、ガスセンサ内に高湿のガスが入る前にそのガス中の水滴を撥水フィルタで除去して、水素検出器内の検出素子に水滴が付着するのを防止することも考えられている。」(【0002】?【0003】)

(6b)「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した技術では、燃料電池の発電中/発電停止中に関わらず、燃料電池から排出された高湿なオフガスが、ガスセンサ内に浸入し、ガスセンサ内で結露水が生成しやすい状況にあった。そのため、結露水が水素(被検出ガス)を検出するガス検出素子に付着し、腐食するなどした結果、ガスセンサが故障する場合があった。
そこで、本発明は、故障しにくいガスセンサおよびガスセンサシステムを提供することを課題とする。」(【0004】?【0005】)

(6c)「【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための手段として、請求項1に係る発明は、気体中に含まれる被検出ガスを検出するガス検出素子と、前記ガス検出素子を収容すると共に、前記気体が取り込まれるガス検出室を有する素子収容部と、を備え、前記気体が流通する気体流路の壁に設けられるガスセンサであって、前記気体流路から前記ガス検出室への前記気体の浸入を遮断する遮断手段を備えたことを特徴とするガスセンサである。
このようなガスセンサによれば、遮断手段によって、気体流路からガス検出室への気体の浸入を適宜に遮断することができる。すなわち、例えば、ガスセンサが、後記する実施形態のように、高湿である燃料電池のオフガス中の水素(被検出ガス)を検出する水素センサである場合、遮断手段によって、燃料電池の発電停止時などにおいて、気体流路とガス検出室との連通させなければ、ガス検出室への水蒸気の浸入を遮断することができる。その結果として、ガス検出素子に水蒸気、結露水などの不純物が付着することを防止でき、ガスセンサは故障しにくくなる。

請求項3に係る発明は、請求項1…に記載のガスセンサと、前記遮断手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記被検出ガスを検出する場合のみに、前記気体を取り込むように前記遮断手段を制御することを特徴とするガスセンサシステムである。
このようなガスセンサシステムによれば、制御手段によって、被検出ガスを検出する場合のみに、ガス検出室と前記気体流路とが連通するように遮断手段を制御して、気体をガス検出室に取り込むことができる。これにより、ガス検出素子が水蒸気に曝される時間を短くすることができ、ガス検出素子(ガスセンサ)の耐久性を向上させることができる。…」(【0006】?【0011】)

(6d)「【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は、本実施形態に係る水素センサを備えた燃料電池システムを示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る水素センサ1(ガスセンサ)は、燃料電池2から排出されるオフガス(空気オフガス、希釈ガス)中の水素を検出するために、燃料電池システムS内に組み込まれている。以下、燃料電池システムSについて簡単に説明した後、水素センサ1の詳細について説明する。

≪水素センサの構成≫
続いて、図2を参照して水素センサ1の具体的な構造について説明する。図2は、本実施形態に係る水素センサの側断面図である。
図2に示すように、水素センサ1は、ケース30と、ガス検出素子61と、ヒータ62と、素子収容部Bと、素子収容部Bを構成する第1素子収容部40に設けられた複数のリブ41(突起部)と、第1収容室40aと出口側配管6内のオフガス流路6aとを適宜に遮断するダイアフラム弁70(遮断手段)と、を主に備えている。

<ダイアフラム弁>
ダイアフラム弁70は、開口40bを適宜に閉じることによって、オフガス流路6aから第1収容室40aへのオフガス(空気オフガス、希釈ガス)の浸入を適宜に遮断する遮断手段である。ダイアフラム弁70は、第1素子収容部40の一部からなる弁箱71と、開口40bを開閉する弁体72と、弁体72を開口40bの閉方向に付勢する圧縮コイルバネ73と、弁体72に固定されバルブ室71aを仕切るダイアフラムシール74を備えている。なお、図2は、圧縮コイルバネ73が伸張し、弁体72が開口40bを閉じている状態である。
そして、ECU81からコンプレッサ35に作動信号が送られ、コンプレッサ35が作
動し、配管35aを介してバルブ室71aに圧縮空気が送り込まれると、圧縮コイルバネ73の付勢力に抗して、弁体72を図2における下方向に押し下げ、開口40bが開くようになっている。このように開口40bが開き、第1収容室40aとオフガス流路6aとが連通すると、オフガスが第1収容室40aに取り込まれるようになっている。
なお、コンプレッサ35を燃料電池2のカソードに空気を送るコンプレッサ21(図1参照)と共有し、入口側配管3から分岐し、且つ、その途中に開閉弁を有する分岐配管を設け、分岐配管の下流端をバルブ室71aに接続し、ダイアフラム弁70開く場合(オフガスを取り込む場合)にECU81が前記開閉弁を開く構成としてもよい。また、ソレノイドを使用し、ECU81の指令により、電磁駆動によって弁体72を開/閉する構成としてもよい。

前記した実施形態では、図2に示すように、第1素子収容部40は1つの開口40bを有し、この開口40bがオフガスの取込口と排出口として機能するとしたが、その他に例えば図4に示すように、第1収容室45aを有すると共に、取込口45bおよび排出口45cを別々に有する第1素子収容部45であってもよい。この場合、取込口45b、排出口45cの近傍に、バタフライ弁90、90(遮断手段)をそれぞれ設け、バタフライ弁90、90がECU81によって閉じられると、第1収容室45aとオフガス流路6aとが遮断される構成であってもよい。」(【0015】?【0046】)

(6e)「

」(【図1】)

(6f)「

」(【図2】)

(6g)「

」(【図4】)


(7) 甲第7号証(特開2009-129925号公報)
(7a)「【背景技術】
基板に半導体集積回路が作成され半導体装置が製造される1工程に、可燃性のガスを使用して処理する工程、例えば処理ガスとして水素ガスを使用する水素アニール処理がある。
以下、水素アニール処理が行われる基板処理装置について説明する。図3は、基板処理装置に用いられる、処理炉1の一例を示している。
ヒータベース2に円筒状の加熱装置3が立設され、又該加熱装置3の内部に同心に均熱管4が立設されている。前記ヒータベース2には炉口フランジ5が前記均熱管4と同心に設けられ、前記炉口フランジ5の上端に反応管6が前記均熱管4と同心に立設されている。前記反応管6、前記炉口フランジ5によって画成される空間は処理室7となっている。
前記炉口フランジ5から気密に挿通された温度検出器8は前記反応管6の壁面に沿って上方に延出している。前記温度検出器8は保護管と内部に挿入された熱電対により構成され、前記反応管6内部の温度を検出する様になっている。
前記炉口フランジ5の下端は、炉口部9を形成し、該炉口部9は炉口蓋であるシールキャップ11によって気密に閉塞可能であり、該シールキャップ11は図示しない昇降機構(ボートエレベータ)によって昇降可能である。前記シールキャップ11にはボート12が載置され、該ボート12には処理される基板(以下ウェーハ)13が水平姿勢で保持され、前記ボート12はボートエレベータによって前記処理室7に装脱される様になっている。
前記炉口フランジ5にはガス供給管14が連通し、該ガス供給管14より処理ガスが前記処理室7に供給され、又前記炉口フランジ5には排気管15が連通され、該排気管15より前記処理室7が排気される様になっている。
前記均熱管4と前記反応管6との間の円筒状の内側円筒空間16には窒素ガス等、水素の燃焼を抑制するガスが導入される様になっており、前記反応管6と前記均熱管4とがなす外側円筒空間17の上部には排気ダクト18が連通され、下部には吸気口19が連通されている。前記排気ダクト18には開閉弁21、排気冷却器22、冷却手段としてのブロア23が設けられ、前記排気ダクト18、前記開閉弁21、前記排気冷却器22、前記ブロア23は急速冷却機構24を構成する。
…ウェーハ13を保持した前記ボート12が前記処理室7に装入された状態で、前記加熱装置3によりウェーハ13が処理温度に加熱され、前記ガス供給管14より処理ガス、例えば水素ガスが導入され、前記処理室7が処理圧に維持される様前記排気管15より排気され、ウェーハ13に水素アニール処理がなされる。
水素アニール処理中、水素ガスが漏出した際の防爆対策として前記内側円筒空間16には窒素ガス等の不活性ガスがガスパージされている。
基板処理が終了すると、前記ボート12が装入された状態でウェーハ13が所要温度になる迄、冷却される。この場合、冷却時間を短縮する為、前記開閉弁21を開放して前記ブロア23より前記外側円筒空間17の雰囲気ガスを強制排気し、前記吸気口19から外気を吸引して前記加熱装置3を冷却し、冷却時間の短縮を図っている。
上記した様に、処理ガスが水素ガス等可燃性ガスである場合、前記内側円筒空間16に不活性ガスを充満させ、万一漏洩しても燃焼、爆発等が生じない様にしている。
然し乍ら、処理後は前記急速冷却機構24により前記外側円筒空間17を強制排気しており、該外側円筒空間17には外気が流入する。この為、処理中に前記外側円筒空間17に水素ガスがリークしていた場合等では、流入した外気とリークしたガスとで反応して、燃焼、爆発する可能性がある。」(【0002】?【0013】)

(7b)「【発明が解決しようとする課題】
本発明は斯かる実情に鑑み、処理ガスに可燃性ガスを使用した場合に、リークした可燃性ガスによる燃焼、爆発が起ることを防止するものである。」(【0016】)

(7c)「【課題を解決するための手段】
本発明は、基板を収容し処理する処理室を形成する反応容器と、該反応容器の外周側に設けられ、前記反応容器内を加熱する加熱装置と、前記反応容器内に可燃性ガスを供給するガス供給手段と、前記加熱装置の加熱する温度を検出する温度検出手段と、前記加熱装置及び前記ガス供給手段を、少なくとも前記温度検出手段の検出する検出温度に基づき制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記検出温度が前記可燃性ガスの発火温度よりも低い温度である予め設定された設定温度以下の時に前記可燃性ガスが供給可能な様に前記ガス供給手段を制御する基板処理装置に係るものである。」(【0017】)

(7d)「…基板処理装置に於いて、基板処理の1つである減圧水素アニール処理を行う場合を、図1、図3を参照して説明する。
ボート12に未処理ウェーハ13が所定枚数装填され、図示しないボートエレベータによって前記処理室7に前記ボート12が装入される。
前記開閉弁21、前記第9開閉弁67、前記第2開閉弁38、前記第4開閉弁45、前記第1開閉弁32、前記第6開閉弁52が閉とされ、前記流量制御弁31、前記第7開閉弁55、前記第10開閉弁69が開とされる。
前記排気ポンプ26が駆動され、前記処理室7が減圧状態とされる。…
前記第8開閉弁65が開とされ、前記第5流量調整器66で流量調整されながら、水素ガスが前記処理室7に供給される。反応後の残存ガスは前記排気管15を介して前記排気ポンプ26により吸引排気される。前記排気管15の圧力は前記圧力センサ28によって検出され、又前記流量制御弁31の開閉度の調整により、前記処理室7の圧力がコントロールされる。

又、前記処理室7が前記加熱装置3によって加熱され、処理室が所定の処理温度となる様に前記制御装置72によって制御される。処理温度は、例えばCu膜をアニール処理する場合は、100℃?250℃内の所定の温度であり、メタル膜を熱処理する場合は、200℃?450℃の範囲内の所定の温度とされる。
ところで、減圧水素アニール処理中、即ち水素ガスを前記処理室7に流す際には、事前に前記反応管6から水素ガスが漏出した場合を考慮して、防爆処理がなされる。即ち前記第3ガス供給ライン63から不活性ガス(本実施の形態の場合は窒素ガス)が前記第7流量調整器70によって流量調整されて、前記内側円筒空間16、外側円筒空間17に供給され、前記内側円筒空間16、前記外側円筒空間17が不活性ガスパージされる。尚、前記均熱管4には通孔(図示せず)が穿設されており、前記内側円筒空間16と前記外側円筒空間17とは連通状態となっている。
尚、排気ダクト18は前記開閉弁21によって閉塞されており、前記内側円筒空間16、前記外側円筒空間17は不活性ガスが充填されることで不活性ガス雰囲気となる。
又、前記外側円筒空間17内に酸素濃度検出器(図示せず)を設け、基板処理開始前、基板処理中の前記外側円筒空間17の酸素濃度を検出する様にし、水素ガスが前記外側円筒空間17に漏出した場合にも安全である様に、酸素濃度が規定値、即ち水素ガスが爆発する濃度以下に管理される。
規定する酸素濃度としては、水素は酸素分圧が5vol%以下であれば、如何なる状態であっても爆発しないので、規定する酸素濃度は5vol%以下、好ましくは安全を考慮して1vol%以下に規定する。

減圧水素アニール処理が完了すると、前記第8開閉弁65が閉とされ、水素ガスの導入が停止され、前記第9開閉弁67が開とされて、前記第2ガス供給ライン62より前記処理室7に不活性ガス(本実施の形態では窒素ガス)が供給され、前記排気ポンプ26により前記処理室7が排気され、該処理室7が不活性ガスに置換される。

尚、減圧水素アニール処理が完了した時点で前記第2開閉弁38が開とされ、前記処理室7内のガスが前記第1流量調整器39で流量調整されて前記水素濃度検出器41に導かれ、水素濃度が測定され、測定結果は前記制御装置72に送出される。測定後は前記水素希釈ライン42により不活性ガス、空気等の希釈ガスが供給され、希釈された状態で排気される。
又、前記第4開閉弁45が開とされ、前記処理室7内のガスが前記酸素濃度検出器46に導かれ、酸素濃度が測定され、測定結果は前記制御装置72に送出される。測定後は前記第5開閉弁49を開き、前記酸素希釈ライン47により不活性ガス、空気等の希釈ガスが供給され、希釈された状態で排気される。酸素濃度が後述する様に規定以下であるならば、前記第4開閉弁45及び前記第5開閉弁49を閉じる。
前記温度検出器8により前記処理室7の温度が測定され、測定結果は前記制御装置72に送出される。
該制御装置72は、通常の作動としては、減圧水素アニール処理が完了すると、前記急速冷却機構24を駆動し、前記開閉弁21を開にし、冷却空気を吸引し、前記排気ダクト18より排気することで、処理炉1内部(加熱装置3、均熱管4、反応管6)を冷却する。
前記急速冷却機構24が駆動されることで、前記内側円筒空間16内、前記外側円筒空間17内に大量の冷却空気が供給され、前記内側円筒空間16内、前記外側円筒空間17内の雰囲気ガスは、前記排気ダクト18より排気される。前記加熱装置3、前記均熱管4、前記反応管6が所定温度(例えば50℃?200℃)に降下維持される。…
前記処理炉1内部が所定温度迄冷却されると、前記ボート12が降下される。前記炉口フランジ5の下端炉口が炉口シャッタ(図示せず)により閉じられ、処理済のウェーハ13が払出される。
前記制御装置72は、前記処理室7から水素がリークしている場合を考慮し、前記水素濃度検出器41が検出した水素濃度、前記温度検出器8が検出した前記処理室7の温度によっては、前記急速冷却機構24の駆動を抑制する。
上記した様に基板処理中は、前記内側円筒空間16、前記外側円筒空間17は不活性ガス雰囲気となっているが、前記急速冷却機構24により急速冷却を実行すると、大量の空気が前記内側円筒空間16、前記外側円筒空間17に流入し、水素がリークしていた場合、加熱装置3のヒータ素線が着火源となり、又急激な流体の移動によりヒータ内壁、均熱管の外壁との摩擦が着火源となり爆発する虞れも生じる。
ここで、水素ガスの爆発範囲は、一般に空気中に於いて、4%?75%、酸素中に於いて4.65%?93.9%、又発火点については空気中で527℃、酸素中に於いて450℃とされている。
従って、前記制御装置72は、安全を考慮し、前記水素濃度検出器41からの濃度検出結果が、1%以下である場合に、又前記温度検出器8による温度検出結果が400℃以下の場合に前記急速冷却機構24を駆動可能となる様に水素濃度インタロック設定値又は、温度インタロック設定値を設定しておく。予め設定された水素濃度インタロック設定値又は温度インタロック設定値以下であれば、前記処理炉1の内部を急速冷却する。
一方、前記水素濃度検出器41からの濃度検出結果が1%を越える場合、即ち、予め設定された水素濃度インタロック設定値を超える場合、又前記温度検出器8による温度検出結果が400℃を越える場合即ち、予め設定された温度インタロック設定値を超える場合は、前記制御装置72は前記急速冷却機構24を禁止し、駆動不可能となる。その後、前記処理室7の水素濃度が1%以下(前記処理室7の水素濃度が水素濃度インタロック設定値以下)又は、前記温度検出器8による温度検出結果が400℃以下(前記温度インタロック設定値以下)となる様な制御を行う。
例えば、前記第2ガス供給ライン62からの不活性ガスの流量を増大させる様に、前記第9開閉弁67、前記第6流量調整器68を制御する。又、前記温度検出器8の検出温度が400°以下となる迄、前記急速冷却機構24の駆動を待機させる。
而して、前記処理室7から水素がリークしている場合でも、安全に前記急速冷却機構24による急速冷却を実行することができる。」(【0036】?【0063】)

(7e)「

」(【図1】)


(8) 甲第11号証(A. Czelusniak et al. , Automatic Nitriding Potentital Control in Gas Nitriding , Proceedings of International Heat Treating Conference : Equipment and Processes , 1994年4月発行 , p.449?454)

(8a)「 The H_(2) content is inversely proportional to the amount of residual ammonia, therefore directly proportional to the dissociation rate. This, in turn, depends on the flow. Slow flows yield high dissociation rates because of longer dwell lower the dissociation rate, thereby raising the amount of residual ammonia, hence, the value of Np. Fig.4 shows a typical characteristic curve of controllability, based on atmosphere flows.」(p.451右欄第1?9行)
(当審訳:H_(2)濃度は、未分解のアンモニアの量に反比例するため、アンモニアの熱分解度に直接的に比例する。そして、アンモニアの熱分解度は、流量に依存する。遅い流れは、反応領域での長い滞留時間のため、高い熱分解度をもたらす。速い流れは、熱分解度を低くし、それによって、未分解のアンモニアの量を増加させ、窒化ポテンシャルNpの値を上昇させる。図4は、アンモニアガス流量に基づく窒化ポテンシャルNp制御の典型的な特性曲線を示す。)

(8b)「

Fig.4 Controllability range of the nitriding potential by regulation of atmosphere flow
」(p.451左欄下)
(当審訳:

図4 アンモニアガスの流量調節による窒化ポテンシャルの制御可能範囲

上記(8a)の記載を踏まえると、図4からは、窒化ポテンシャル制御可能範囲では、その制御の際のアンンモニアガス流量を一定とすれば、アンモニアの熱分解度が一定となり、窒化ポテンシャルは一定となることが視認される。)


3.被請求人の主張の概要
被請求人は、本審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、平成28年7月22日付け審判事件答弁書、同年12月16日付け口頭審理陳述要領書、平成29年1月25日付け口頭審理陳述要領書、同年2月8日付け証拠説明書、同年同月9日の第1回口頭審理(第1回口頭審理調書)において、乙第1?5号証を提示し、請求人の主張する上記第1の無効理由1?第6の無効理由は、いずれも理由がない、と主張した。

[証拠方法]
乙第1号証:日本真空技術株式会社、真空ハンドブック増訂版、1982年
11月9日、1982年版真空ハンドブック編集委員会発行、
p.20?21
乙第2号証:ディーター・リートケほか、鉄の窒化と軟窒化、初版 第1刷
、2011年8月30日、株式会社アグネ技術センター、
p.157、p.159?160
乙第3号証:日本規格協会、JISハンドブック ○7 機械要素、第1版
第1刷、2006年1月25日、財団法人日本規格協会発行、
p.539
乙第4号証:河田一喜、本当によくわかる窒化・浸炭・プラズマCVD-
高機能表面改質法の基礎と応用-、初版1刷、2012年3月
22日、日刊工業新聞社発行、p.188?189
乙第5号証:(社)日本熱処理技術協会、熱処理技術便覧、初版1刷、20
00年8月30日、日刊工業新聞社発行、p.848

乙第1?5号証の成立に争いはない。なお、乙第1?2号証は、平成28年7月22日付け審判事件答弁書とともに、乙第2?5号証は、平成28年12月16日付けで被請求人が提出した口頭審理陳述要領書とともに、提出されたところ、平成28年7月22日付け審判事件答弁書とともに提出された乙第2号証は、平成28年12月16日付けで被請求人が提出した口頭審理陳述要領書とともに提出された乙第2号証に差し替えられた(第1回口頭審理調書の被請求人2)。

4. 乙号証の記載事項
被請求人が証拠方法として提出した乙第1?5号証のうちの、乙第2号証の記載事項は、次のとおりである。

(2’) 乙第2号証(ディーター・リートケほか、鉄の窒化と軟窒化、初版 第1刷、2011年8月30日、株式会社アグネ技術センター、p.157、p.159?160)
(2’a) 「

」(p.157)

(2’b) 「

」 (p.159)

(2’c) 「

」 (p.160)



第5 無効理由についての当審の判断
1. 訂正明細書の記載事項、及び、図面からの視認事項
上記第6の無効理由が主張されている本件発明1?3に関し、訂正明細書には、次の記載があり、図面からは次の事項が視認される。

a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、窒化、軟窒化…等、金属製の被処理品に対する表面硬化処理を行う、表面硬化処理装置…に関する。」

b.「【背景技術】
【0002】
従来から、金属製の被処理品、特に、鋼部品や金型に対する表面硬化処理として、窒化処理や軟窒化処理が適用されている。この窒化処理や軟窒化処理は、後述する浸炭処理や浸炭窒化処理と比較して、処理温度が低く、また、歪みの少ない処理法である。
このような窒化処理や軟窒化処理の方法としては、ガス法、塩浴法、プラズマ法等がある。そして、これらの方法の中では、ガス法が、品質、環境性、量産性等を考慮した場合に、総合的に優れている。
【0003】
ところで、ガス法による窒化処理(ガス窒化処理)は、被処理品に対し、窒素のみを浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、ガス窒化処理では、アンモニアガス、アンモニアガスと窒素ガスとの混合ガス、アンモニアガスとアンモニア分解ガス(75%H_(2),25%N_(2))との混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
一方、ガス法による軟窒化処理(ガス軟窒化処理)は、被処理品に対し、窒素とともに炭素を副次的に浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、ガス軟窒化処理では、アンモニアガスとRXガス(CO,H_(2),N_(2)を主成分とする吸熱型変成ガス)との混合ガス、アンモニアガスと窒素ガスとCO_(2)との混合ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
【0004】
以上のようなガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、内部に被処理品を配置した処理炉内の雰囲気を管理するために、例えば、非特許文献1に記載されているような測定方法を用いて、炉内ガスのアンモニア濃度や水素濃度を測定する場合がある。
具体的に、非特許文献1には、処理炉内に存在している炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法として、手動ガラス管アンモニア分析計を用いて、不連続に炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法と、赤外線アンモニア分析計を用いて、連続的に炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、炉内ガスの水素濃度を測定する方法として、炉内ガスの熱伝導度を利用した熱伝導度センサを用いて、連続的に炉内ガスの水素濃度を測定する方法が記載されている。なお、上記の熱伝導度センサは、処理炉の炉体に直接装着することが可能な構成であり、炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出可能な構成である。

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】河田一喜、「窒化ポテンシャル制御システム付きガス軟窒化炉」、熱処理、49巻2号、2009、P.64?68
…」

c.「【発明が解決しようとする課題】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている手動ガラス管アンモニア分析計は、手動操作により測定を行う構成であるため、炉内ガスのアンモニア濃度を連続的に測定することが不可能であり、処理炉内の雰囲気に対する、連続自動制御に適用できない。
また、特許文献1に記載されている赤外線アンモニア分析計は、炉内ガスのアンモニア濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用することは可能であるが、炉内ガスを、サンプリングポンプにより赤外線アンモニア分析計に導入する必要がある。このため、ガス軟窒化処理においては、炭酸アンモニウムの析出により、サンプリング経路の詰りが発生しやすく、定期的にフィルター清掃等のメンテナンスを行う必要があるため、表面硬化処理の作業効率が低下するという問題が発生するおそれがある。
【0010】
また、特許文献1に記載されている赤外線アンモニア分析計は、手動ガラス管アンモニア分析計や熱伝導度センサと比較して高価であるため、コスト面等から採用が困難であるという問題がある。
これに対し、特許文献1…に記載されている熱伝導度センサは、赤外線アンモニア分析計と異なり、低価格であり、且つ、処理炉の炉体に直接装着することが可能であり、また、炉内ガスの水素濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用可能である。
【0011】
したがって、上述したガス窒化処理等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内に導入して行う表面硬化処理では、特許文献1…に記載されているような熱伝導度センサを用いて、処理炉内の雰囲気制御を行うことが、コスト面等の観点から好適である。
また、熱伝導度センサは、赤外線アンモニア分析計と異なり、処理炉の炉体へ直接装着することが可能であり、さらに、処理炉内の水素濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用可能である。
【0012】
しかしながら、熱伝導度センサには、以下に示すような問題点がある。

【0013】
…熱伝導度センサを常に炉体へ装着している状態では、実際に被処理品を量産処理する場合、被処理品が処理炉内に配置し、昇温中において初期に発生する、被処理品に付着していた油分や汚れがガス化してセンサ部を汚染し、熱伝導度センサの精度維持が、早期に困難となるという問題が発生するおそれがある。
また、ガス軟窒化処理においては、センサ部と炉体とを連通する配管内に、炭酸アンモニウムの析出が発生するという問題が発生するおそれがある。また、処理炉内において塩化水素が発生するようなプロセスを有する場合、センサ部や配管内に、塩化アンモニウムの析出が発生することにより、熱伝導度センサの精度維持が困難となるという問題が発生するおそれがある。
【0014】

また、従来では、熱伝導度センサを用いた処理炉内の雰囲気制御に関して、具体的な制御方法が開示されていない。
【0015】
このため、混合ガスを用いる表面硬化処理では、複数種類の炉内導入ガスの消費量を一定の比率とする等、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うこととなる。これにより、炉内導入ガスの消費量が、表面硬化処理に適切な量よりも増加して、表面硬化処理に要するランニングコストが増加するという問題が発生するおそれがある。また、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うと、表面硬化処理に使用されずに処理炉内から排気される炉内ガスの量が増加して、大気中へのガス排出量が増加し、環境に悪影響を与えるという問題が発生するおそれがある。
【0016】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、炉内ガスの熱伝導度に基づいて処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して処理炉内の雰囲気を制御することが可能な、表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法を提供することを課題とする。」

d.「【課題を解決するための手段】
【0018】
…本発明のうち、請求項2に記載した発明は、処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水
素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
本発明によると、水素濃度検出手段が、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉内で水素を発生する炉内導入ガスであるアンモニアガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、ガス導入量制御手段が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0022】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した発明であって、前記表面硬化処理を前記ガス軟窒化処理とし、
前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通する水素濃度検出配管と、
前記水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段と、を備え、
前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で前記炉内ガスが固体として析出しないように、前記アンモニアガスに応じて前記水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御することを特徴とするものである。
【0023】
本発明によると、配管温度制御手段が、ガス軟窒化処理で用いるアンモニアガスの種類に応じて、水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御することにより、炉内ガスが水素濃度検出配管内で固体として析出することを抑制する。
このため、塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムが水素濃度検出配管内で析出するおそれのある表面硬化処理であるガス軟窒化処理において、水素濃度検出配管内における塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムの析出を抑制することが可能となる。

次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間に介装し、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通させる連通状態と、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間を閉鎖する閉鎖状態と、を切換可能な開閉弁と、
前記ガス導入量制御手段の動作状態に応じて前記開閉弁を前記連通状態または前記閉鎖状態に切り換える開閉弁切換え制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
本発明によると、開閉弁切換え制御手段が、ガス導入量制御手段の動作状態に応じて、開閉弁を連通状態または閉鎖状態に切り換える。
このため、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態において、炉内ガスが含む汚染成分が、水素濃度検出手段へ接触することを抑制可能となり、水素濃度検出手段の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となる。…」

e.「【0029】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(表面硬化処理の基礎的事項)
本実施形態を説明する前に、説明の前提となる事項として、被処理品の表面硬化処理に関する基礎的な事項について説明する。
【0030】
以下、表面硬化処理のうち、ガス窒化処理及びガス軟窒化処理について説明する。
ガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、被処理品を配置する処理炉(ガス窒化炉)内において、以下の式(1)で表される窒化反応が発生する。この場合、窒化反応における窒化ポテンシャルKNは、以下の式(2)で表される。
NH_(3) → (N)+3/2H_(2) … (1)
K_(N)=P_(NH3)/P_(H2)^(3/2) … (2)
【0031】
なお、上記の式(2)では、窒化ポテンシャルをK_(N)で示し、NH_(3)(アンモニアガス)の分圧をP_(NH3)で示し、H_(2)(水素ガス)の分圧をP_(H2)で示す。
ここで、窒化ポテンシャルK_(N)は、公知の要素であり、上記の式(2)のように、アンモニアガスと水素ガスの分圧比率を表し、ガス窒化炉内の雰囲気が有する窒化強度または窒化能力を表す指標である。

【0034】
(表面硬化処理の問題点)
次に、上述した各種の表面硬化処理に共通の問題点について説明する。
ガス窒化処理及びガス軟窒化処理のうち、ガス窒化処理において、アンモニアガスのみをガス窒化炉内に導入して表面硬化処理を行う場合、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルとするためには、熱伝導度センサを用いて、ガス窒化炉内に存在している炉内ガスの水素濃度を検出する。そして、この検出した水素濃度に応じて、ガス窒化炉内へのアンモニアガスの導入量を制御する。
【0035】
このように、一種類の炉内導入ガスのみをガス窒化炉内に導入して表面硬化処理を行う場合は、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度を検出することにより、検出した水素濃度を用いた計算によって、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが可能となる。したがって、上記の式(2)により窒化ポテンシャルを計算して、ガス窒化炉内の雰囲気を、所望の窒化ポテンシャルに制御することが可能となる。
【0036】
しかしながら、例えば、アンモニアガスと窒素ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、ガス窒化炉内へのアンモニアガスの導入量のみ、あるいは、ガス窒化炉内への窒素ガスの導入量のみを制御しても、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
これは、表面硬化処理の状況等により、混合ガスの混合比率が変化すると、炉内ガスの組成である炉内ガス組成が把握できなくなるため、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが不可能となるためである。

【0039】
(構成)
次に、図1を用いて、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を説明する。
図1は、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
本実施形態の表面硬化処理装置1は、鋼部品や金型等、金属製の被処理品Sを配置した処理炉2内に、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを導入して、被処理品Sの表面硬化処理を行う装置である。なお、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内へ個別に導入し、処理炉2内で混合してもよい。
【0040】
ここで、複数種類の炉内導入ガスのうち少なくとも一種類の炉内導入ガスは、アンモニアガス(NH_(3))等、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスとする。すなわち、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む。
なお、本実施形態では、複数種類の炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH_(3))と窒素ガス(N_(2))の、二種類の炉内導入ガスとした場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合を例に挙げて説明する。
【0041】
また、本実施形態では、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合を説明するため、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH_(3))とし、その他の炉内導入ガスを、窒素ガス(N_(2))とする。
また、本実施形態では、一例として、表面硬化処理を行う条件を、処理炉2内の温度(処理温度)を300?1100℃の範囲内とし、処理炉2内の圧力(処理圧力)を13?133000Paの範囲内とする。
【0042】
以下、表面硬化処理装置1の具体的な構成を説明する。
図1中に示すように、表面硬化処理装置1は、処理炉2と、水素濃度検出手段4と、調節計6と、記録計8と、開閉弁10と、開閉弁切換え制御手段12と、炉内導入ガス供給部14を備えている。
処理炉2は、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))を導入可能であり、且つ被処理品Sを配置可能に形成されており、攪拌ファン16と、攪拌ファン駆動モータ18と、炉内温度計測手段20を備えている。

【0044】

水素濃度検出手段4は、炉内ガスの水素濃度を検出可能な構成の熱伝導度センサにより形成されており、水素濃度を検出するためのセンサ部は、水素濃度検出配管22を介して処理炉2の内部と連通している。なお、炉内ガスの水素濃度は、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出する。
【0045】

水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する配管である。なお、本実施形態では、水素濃度検出配管22を、処理炉2と水素濃度検出手段4とを直接連通させる単線の経路で形成する。
【0046】
調節計6は、CPU(CENTRAL PROCESSING UNIT)等を備えて構成されており、炉内ガス組成演算手段24と、ガス導入量制御手段26を備えている。
炉内ガス組成演算手段24は、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。そして、この演算した炉内ガス組成を含む情報信号(炉内ガス組成信号)をガス導入量制御手段26へ出力する。
具体的には、炉内ガス組成演算手段24は、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。
【0047】
そして、炉内ガス組成演算手段24は、上記の測定及び演算による各ガス分圧に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。これにより、本実施形態のように、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合では、炉内ガスの水素濃度に基づいて、炉内ガスのアンモニア濃度を演算して求める。この測定した炉内ガスの水素濃度及びアンモニア濃度は、処理炉2内の雰囲気を反映する要素であるため、炉内ガスの水素濃度及びアンモニア濃度に基づいて、処理炉2内の窒化ポテンシャルを検出することが可能となる。
【0048】

ガス導入量制御手段26は、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成と、予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御する。なお、設定炉内ガス混合比率は、表面硬化処理の種類及び複数種類の炉内導入ガスに応じて設定する値であり、予め、ガス導入量制御手段26に記憶しておく。また、ガス導入量制御手段26が行う制御については、後述する。
【0049】

開閉弁10は、水素濃度検出配管22に取り付けられて、処理炉2と水素濃度検出手段4との間に介装された弁である。
【0050】
また、開閉弁10は、開閉弁切換え制御手段12が出力する制御信号(開閉制御信号)に応じて、連通状態と閉鎖状態を切換可能に形成されている。
ここで、連通状態とは、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通させる状態であり、閉鎖状態とは、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する状態である。
開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26の動作状態に応じて、開閉弁10を連通状態または閉鎖状態に切り換える。なお、ガス導入量制御手段26の動作状態は、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に基づいて検出する。
【0051】
なお、本実施形態では、具体例として、以下に示す条件により、開閉弁切換え制御手段12が、開閉弁10を連通状態または閉鎖状態に切り換える場合を説明する。
具体的に、開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁10を連通状態に切り換える。一方、開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁10を閉鎖状態に切り換える。
【0052】
炉内導入ガス供給部14は、第一炉内導入ガス供給部28と、第一炉内導入ガス供給量制御部30と、第一供給弁32と、第一炉内導入ガス流量計34と、第二炉内導入ガス供給部36と、第二炉内導入ガス供給量制御部38と、第二供給弁40と、第二炉内導入ガス流量計42と、炉内導入ガス導入配管44を備えている。
第一炉内導入ガス供給部28は、第一炉内導入ガスを充填したタンクにより形成されている。なお、本実施形態では、第一炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH_(3))とした場合について説明する。
【0053】
第一炉内導入ガス供給量制御部30は、開度を変化可能なマスフローコントローラにより形成されており、第一炉内導入ガス供給部28と第一供給弁32との間に介装されている。なお、第一炉内導入ガス供給量制御部30の開度は、ガス導入量制御手段26が出力する制御信号(導入量制御信号)に応じて変化する。
また、第一炉内導入ガス供給量制御部30は、第一炉内導入ガス供給部28から第一供給弁32への第一炉内導入ガスの供給量を検出し、この検出した第一炉内導入ガスの供給量を含む情報信号(第一炉内導入ガス供給量信号)を、ガス導入量制御手段26へ出力する。この第一炉内導入ガス流量信号は、例えば、ガス導入量制御手段26が行う制御の補正等に用いる。
【0054】
第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間に介装されている。
具体的には、第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第一供給弁32の開閉状態を、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間を連通させる開放状態に切り換える。一方、第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第一供給弁32の開閉状態を、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間を閉鎖する閉鎖状態に切り換える。

【0056】
第二炉内導入ガス供給部36は、第二炉内導入ガスを充填したタンクにより形成されている。なお、本実施形態では、第二炉内導入ガスを、窒素ガス(N_(2))とした場合について説明する。
第二炉内導入ガス供給量制御部38は、第一炉内導入ガス供給量制御部30と同様、開度を変化可能なマスフローコントローラにより形成されており、第二炉内導入ガス供給部36と第二供給弁40との間に介装されている。なお、第二炉内導入ガス供給量制御部38の開度は、ガス導入量制御手段26が出力する制御信号(導入量制御信号)に応じて変化する。
【0057】
また、第二炉内導入ガス供給量制御部38は、第二炉内導入ガス供給部36から第二供給弁40への第二炉内導入ガスの供給量を検出し、この検出した第二炉内導入ガスの供給量を含む情報信号(第二炉内導入ガス供給量信号)を、ガス導入量制御手段26へ出力する。この第二炉内導入ガス流量信号は、例えば、ガス導入量制御手段26が行う制御の補正等に用いる。
【0058】
第二供給弁40は、第一供給弁32と同様、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間に介装されている。
具体的には、第二供給弁40は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第二供給弁40の開閉状態を、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間を連通させる開放状態に切り換える。一方、第二供給弁40は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第二供給弁40の開閉状態を、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間を閉鎖する閉鎖状態に切り換える。

【0060】
炉内導入ガス導入配管44は、第一炉内導入ガス流量計34及び第二炉内導入ガス流量計42と処理炉2とを連結する配管であり、第一炉内導入ガス及び第二炉内導入ガスの処理炉2への導入経路を形成している。
以下、上述した構成を前提として、ガス導入量制御手段26が行う制御について、具体的な例を挙げて説明する。
【0061】
ガス導入量制御手段26は、上述した式(2)で表される窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるように、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量を演算する。
【0062】
そして、ガス導入量制御手段26は、演算したそれぞれのガス(NH_(3),N_(2))の導入量に基づいて、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38へ、それぞれの導入量を制御する制御信号(導入量制御信号)を出力する。
なお、ガス導入量制御手段26が、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))の導入量を制御する際は、以下の二通りの制御のうち、一方を行う。
第一の制御は、処理炉2内へ導入する混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))の処理炉2内への合計導入量を制御するものである。
【0063】
一方、第二の制御は、混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の炉内導入ガス流量比率が変化するように、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))について、それぞれの導入量を個別に変化させる制御である。

【0074】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、水素濃度検出手段4が炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、炉内ガス組成演算手段24が、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。
【0075】
そして、この測定した演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段24が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、ガス導入量制御手段26が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0076】
その結果、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御することが可能となるため、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。
また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【0077】
(2)本実施形態の表面硬化処理装置1では、開閉弁切換え制御手段12が、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁10を連通状態に切り換えて、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通させる。
一方、開閉弁切換え制御手段12が、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁10を閉鎖状態に切り換えて、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する。
このため、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態において、炉内ガスが含む汚染成分が、センサ部を含む水素濃度検出手段4へ接触することを抑制可能となる。
【0078】
その結果、水素濃度検出手段4の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0079】
(3)本実施形態の表面硬化処理方法では、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉2内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0080】
その結果、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御することが可能となるため、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。
また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。…」

f.「【0087】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図3は、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
図3中に示すように、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成は、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の構成と、配管温度制御手段46を備えている点を除き、上述した第一実施形態と同様であるため、以下の説明は、配管温度制御手段46に関する部分を中心に記載する。なお、図3中では、処理炉2、水素濃度検出手段4、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び配管温度制御手段46以外の図示を省略している。
【0088】
水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する第一配管22aと、処理炉2と第一配管22aとを連通する第二配管22bと、第一配管22aと連通する第三配管22cから形成されている。
開閉弁10は、第一配管22aに介装する第一開閉弁10aと、第二配管22bに介装する第二開閉弁10bと、第三配管22cに介装する第三開閉弁10cから形成されている。
配管温度制御手段46は、線状のヒーターを用いて形成されており、水素濃度検出配管22の温度を制御する。
【0089】
具体的には、配管温度制御手段46は、水素濃度検出配管22内で炉内ガスが固体として析出しないように、炉内導入ガスの種類に応じて、水素濃度検出配管22の温度を、25?450℃の範囲内に制御する。
具体的には、…配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス軟窒化処理である場合は、水素濃度検出配管22の温度を60?100℃の範囲内に制御する。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
…」

g.「【0095】
(第一実施例)
上述した第一実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第一発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第一実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第一比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
なお、第一発明例及び第一比較例共に、処理炉として、ピット型ガス窒化炉(処理重量:50kg/gross)を備え、処理炉内の温度を570℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、1.6m^(3)/hに制御し、また、窒
素ガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、0.4m^(3)/hに制御して、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるように、ガス窒化処理を行った。
【0096】
ここで、第一発明例では、NH_(3):N_(2)=80:20という混合ガスの混合比率を基にして、ガス導入量制御手段により、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるための水素濃度の設定値と、水素濃度検出手段により検出した炉内ガスの水素濃度とを比較し、アンモニアガス及び窒素ガスのマスフローコントローラに対して、それぞれ、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率NH_(3):N_(2)=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御することにより、窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。
【0097】
一方、第一比較例では、窒素ガスの処理炉内への導入量のみを制御することにより、窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。
以下、炉内ガスの水素濃度(炉内水素濃度)、炉内ガスのアンモニア濃度(炉内アンモニア濃度)、処理炉内の雰囲気の窒化ポテンシャル(窒化ポテンシャルK_(N))を測定した結果を、表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1中に示されているように、第一発明例では、窒化ポテンシャルK_(N)を、3.3と、精度良く制御することができた。また、炉内水素濃度を27.4%、炉内アンモニア濃度を47.2%に、それぞれ、制御することが可能であった。
これに対し、第一比較例では、窒化ポテンシャルK_(N)の制御が不可能であった。また、炉内水素濃度を27.4%に制御することが可能であったものの、炉内アンモニア濃度は計算不能であった。
これは、第一比較例では、水素濃度検出手段により炉内ガスの水素濃度のみを検出することは可能であったが、炉内ガス中における炉内ガス組成が不明であったため、検出した水素濃度からアンモニア濃度を求めることができず、窒化ポテンシャルK_(N)の演算が不可能であったためである。」

h.「【図1】

上記e.の記載を踏まえると、【図1】からは、処理炉2内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品Sの表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置1が、前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段4と、前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段24と、前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段26とを備えることが視認される。」

i.「【図3】

上記f.の記載を踏まえると、【図3】からは、表面硬化処理装置1が、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する水素濃度検出配管22(第一配管22a、第二配管22b、第三配管22c)と、 前記水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段46と、を備え、前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で前記炉内ガスが固体として析出しないように、前記水素濃度検出配管の温度を制御することが視認され、また、その表面硬化処理装置1は、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間に介装し、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通させる連通状態と、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間を閉鎖する閉鎖状態と、を切換可能な開閉弁10a、10bと、前記ガス導入量制御手段の動作状態に応じて前記開閉弁を前記連通状態または前記閉鎖状態に切り換える開閉弁切換え制御手段とを備えることも視認される。」


2. 第1の無効理由1について
上記第4の1.によれば、第1の無効理由は、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明について、同法同条同項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明1に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきであるとの無効理由である。

(1) 甲第1号証記載の発明
2ア. 甲第1号証の図7には、上記第4の2.(1i)によれば、バッチ型のガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、その窒化ポテンシャルが設定値となるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを自動制御できるという窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉において、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)のみを使用し、窒化温度580℃にて炉内の水素濃度(以下「H_(2)濃度」ということもある。)、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期は15Vol%、7.5制御、後期には23Vol%、3.1制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整すると、図7の後期には、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値(以下、「後期における値」ということがある。)が時間の推移に伴って、それぞれ、23Vol%付近、3.1付近で小刻みに変動したことが開示されていると認められる。

2イ. また、甲第1号証の図7の初期にも、甲第1号証の図7の後期と同様に上記ア.に示した窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉が用いられたことを考慮すると、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値は、後期における値と同様に、時間の推移に伴って、それぞれ、15Vol%付近、7.5付近で小刻みに変動したと認められる。

2ウ. また、甲第1号証の図5には、上記第4の2.(1h)によれば、ピット型のガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、その窒化ポテンシャルが設定値となるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを自動制御できるという窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉において、NH_(3)とN_(2)のみを使用し、窒化温度570℃にて炉内のH_(2)濃度、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期には28Vol%、4.2制御、中期には40Vol%、1.8制御、後期には50Vol%、0.9制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整することにより、炉内ガスの窒化ポテンシャルを高い値から低い値まで制御できたことが開示されていると認められる。

2エ. また、上記第4の2.(1h)?(1i)によれば、図5の制御で使用されたピット型ガス軟窒化炉は、窒化センサ制御システム構成としては、図7の制御で使用されたバッチ型ガス軟窒化炉と同様の構成であることから、上記2イ.に示したような、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動は、甲第1号証の図5の初期、中期、後期においても生じたと認められる、すなわち、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が、甲第1号証の図5の初期には、28Vol%付近、4.2付近で、甲第1号証の図5の中期には、40Vol%付近、1.8付近で、甲第1号証の図5の後期には、50Vol%付近、0.9付近で、それぞれ生じたと認められる。

2オ. なお、上記2イ.、上記2エ.に示したような、甲第1号証の図5及び図7における、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値が時間の推移に伴って小刻みに変動している点については、争いがない(審判請求書第17頁第7?8行、平成28年7月22日付け審判事件答弁書第3頁第21?26行、第1回口頭審理調書の被請求人5)。

2カ. 上記2ウ.?2オ.を踏まえると、甲第1号証の図5には、窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉に注目すると、次の発明(以下、「引用発明1-1」という。)が記載されていると認められる。
「ピット型のガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、その窒化ポテンシャルが設定値となるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを自動制御できるという窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉において、NH_(3)とN_(2)のみを使用し、窒化温度570℃にて炉内の水素濃度、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期には28Vol%、4.2制御、中期には40Vol%、1.8制御、後期には50Vol%、0.9制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整すると、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が、前記初期には、28Vol%付近、4.2付近で、前記中期には、40Vol%付近、1.8付近で、前記後期には、50Vol%付近、0.9付近で、それぞれ生じる、窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉。」

2キ. また、上記2ア.?2イ.、2オ.を踏まえると、甲第1号証の図7には、窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉に注目すると、次の発明(以下、「引用発明1-2」という。)が記載されていると認められる。
「バッチ型のガス窒化・軟窒化炉の炉体に直接装着できる窒化センサによりガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析し、目的の窒化ポテンシャルに自動制御できる窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉であり、前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ、その窒化ポテンシャルが設定値となるように、マスフローコントローラーを介して前記ガス軟窒化炉に接続されたNH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガス、CO_(2)、Airのうち、NH_(3)、N_(2)、H_(2)、NH_(3)分解ガスから選ばれる、ガス種と導入ガス量とについての設定信号をマスフローコントローラーへ送ると炉内ガスを調整でき、窒化ポテンシャルを自動制御できるという窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉において、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)のみを使用し、窒化温度580℃にて炉内の水素濃度、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期は15Vol%、7.5制御、後期には23Vol%、3.1制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整すると、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が、前記初期には、15Vol%付近、7.5付近で、前記後期には、23Vol%付近、3.1付近で、それぞれ生じる、窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉。」


(2) 本件発明1と引用発明との対比・判断
(2-1) 本件発明1と引用発明1-1との対比・判断
2サ. 本件発明1と、上記2カ.に示した、引用発明1-1とを対比すると、以下の2サ(ア)?(ウ)のとおりであり、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

2サ(ア) 技術常識に照らすと、引用発明1-1における「ピット型ガス軟窒化炉であって、NH_(3)とN_(2)のみを使用」すること、「窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉」、「ガス軟窒化炉内の水素濃度をガスの熱伝導の違いにより分析」する「窒化センサ」は、それぞれ、本件発明1における「処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入」すること、「前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置」、「前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段」に相当する。

2サ(イ) また、引用発明1-1における「窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉」は、「前記窒化センサにより前記炉内の水素濃度を分析すれば窒化ポテンシャルを知ることができ」るところ、窒化ポテンシャルK_(N)は、上記第4の2(1c)に示した(2)式、すなわち、K_(N)=P_(NH3)/P_(H2)^(3/2)、ここでP_(NH3)は炉内のNH_(3)濃度、P_(H2)は炉内のH_(2)濃度、で表されることから、そのようなことができるということは、技術常識によれば、NH_(3)とN_(2)のみをそれぞれxとyの既知量で450?590℃の処理炉に導入する表面硬化処理においては、NH_(3)→0.5N_(2)+1.5H_(2)という熱分解により、1モルのNH_(3)から0.5モルのN_(2)と1.5モルのH_(2)が炉内で生じて、炉内ガスはNH_(3)とN_(2)とH_(2)とからなることとなる一方、残存したNH_(3)により表面硬化処理が行われることから、炉内のNH_(3)の熱分解度s(0<s<1)を用いると、炉内のガス量は((1+s)x+y)、炉内のH_(2)濃度は1.5sx/((1+s)x+y)、炉内のNH_(3)濃度は(x-sx)/((1+s)x+y)、炉内のN_(2)濃度は(y+0.5sx)/((1+s)x+y)、で換算できるため、分析した炉内のH_(2)濃度から炉内のNH_(3)の熱分解度sを演算でき、それにより、炉内のNH_(3)濃度と炉内のN_(2)濃度を演算でき、NH_(3)とN_(2)とH_(2)とからなる炉内ガスの組成を知ることができ、そして、窒化ポテンシャルK_(N)を知ることができることを意味しているから、引用発明1-1における「窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉」は、本件発明1における「前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段」を備えているといえる。

2サ(ウ) さらに、引用発明1-1における「窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉」は、「窒化ポテンシャルが設定値となるように、」「NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整する」ところ、「窒化ポテンシャルが設定値となるように」とは、炉内ガス組成が予め設定した炉内ガス組成となるように調整すること、すなわち炉内ガス混合比率が予め設定した混合比率となるように調整することを意味しているし、前記の「NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整する」とは、ガス導入量制御を行っていることを意味しているから、引用発明1-1における「窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉」は、本件発明1における「前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、」調整を「行うガス導入量制御手段」を備えているといえる。

<一致点>
処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、行うガス導入量制御手段と、を備える表面硬化処理装置。

<相違点>
相違点1-1:ガス導入量制御手段が、本件発明1では、「複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのに対し、
引用発明1-1では、「複数種類の前記炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのか明らかではない点。

2シ. 上記相違点1-1につき検討するにあたって、まず、本件発明1の技術的意義につき検討するに、上記1.に示されているような訂正明細書(以下、単に「訂正明細書」ということがある。)によれば、表面硬化処理であるガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、例えば、非特許文献1等に記載されているような測定方法を用いて、具体的には、処理炉の炉内ガスの熱伝導度を利用した熱伝導度センサによって連続的に水素濃度を測定する方法を用いて、炉内ガスの水素濃度を測定して、処理炉内の雰囲気を管理することがあったが、その熱伝導センサを用いた処理炉内の雰囲気制御に関する具体的な制御方法は非特許文献1等には開示されていないところ、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うと、炉内導入ガスの消費量が表面処理に適切な量よりも増加して、表面処理に要するランニングコストが増加するとの問題や、表面硬化処理に使用されずに処理炉内から大気中へ排気されるガス排出量が増加し、環境に悪影響を与えるという問題が発生するおそれがあることから、本件発明1は、それらの問題に着目してなされたもので、熱伝導度に基づいて処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して処理炉内の雰囲気を制御することが可能な、表面硬化処理装置を提供することを、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」ということがある。)とするものであるとされている(上記1.b.?c.)。

2ス. ここで、上記2シ.に示されている非特許文献1は、甲第1号証である。

2セ. そして、訂正明細書によれば、アンモニアガスのみを処理炉内に導入して表面硬化処理を行う場合、炉内ガスの熱伝導度に基づいて炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段により、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが可能であるため、K_(N)=P_(NH3)/P_(H2)^(3/2) という 式(2)により窒化ポテンシャルを計算して、処理炉内の雰囲気を、所望の窒化ポテンシャルに制御することが可能となるものの、アンモニアガスと窒素ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、処理炉内へのアンモニアガスの導入量のみ、あるいは、処理炉内への窒素ガスの導入量のみを制御したのでは、処理炉内のガスの組成である炉内ガス組成が把握できなくなるため、炉内ガスの熱伝導度に基づいて炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段を用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが不可能であり、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルに制御することが不可能となるところ、水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを処理炉内へ導入し、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御するガス導入量制御手段を備えた、本件発明1においては、炉内ガスの熱伝導度に基づいて炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段を用いて炉内ガスの水素濃度を検出することにより、炉内ガスのアンモニア濃度を演算でき、その演算した値に基づいて炉内ガス組成を演算できるため、この演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御するガス導入量制御手段を備えているとされており、そのガス導入量制御手段を、以下の二通りの制御のうち、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行う手段とすることによって、上記2シ.に示した課題を解決したものとされている(上記1.d.?e.、上記1.h.)。
すなわち、第一の制御は、前記複数種類の炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御することであり、第二の制御は、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御することである。

2ソ. さらに、訂正明細書によれば、炉内ガスの熱伝導度に基づいて炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段を備えた処理炉として、ピット型ガス窒化炉(処理重量:50kg/gross)を用い、処理炉内の温度を570℃とし、ガス導入量制御手段を用いて、アンモニアガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、1.6m^(3)/hにし、また、窒素ガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、0.4m^(3)/hにして、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるための水素濃度27.4%という設定値と、水素濃度検出手段により検出した炉内ガスの水素濃度とを比較し、アンモニアガス及び窒素ガスのマスフローコントローラに対して、それぞれ、処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率NH_(3):N_(2)=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量の制御を行ったところ、ガス窒化処理の際の窒化ポテンシャルK_(N)=3.3と精度良く制御できたとされている(上記1.g.)が、このような処理装置は、上記2セ.に示される、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うとのガス導入量制御のうちの第一の制御を行うガス導入量制御手段を備えている本件発明1に当たることは明らかであるから、上記1.g.に示されている訂正明細書の記載によると、本件発明1により、上記2シ.に示した課題が解決できることが実証されているといえる。

2タ. 上記2シ.?2ソ.に示した事項は、訂正される前の本件特許の明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)にも記載されていた事項である。

2チ. ここで、上記2セ.に示したガス導入量制御手段は、上記相違点1-1に係る発明特定事項である。

2ツ. 上記2シ.?2チ.の検討からすると、本件特許明細書によれば、表面硬化処理装置について、甲第1号証には開示されていない、熱伝導センサを用いた処理炉内の雰囲気制御に関する具体的な制御手段を、上記相違点1-1に係る発明特定事項として備えているのが本件発明1であるといえる。

2テ. してみると、本件特許明細書に接すれば、表面硬化処理装置について、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を含む、熱伝導センサを用いた処理炉内の雰囲気制御に関する具体的な制御手段を把握できることとなるところ、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項が、本件特許の出願前に甲第1号証に開示されていたことを客観的に裏付けることができなければ、第1の無効理由の適用条文からして、当該無効理由は成立しないから、本件特許明細書に接する前であることを前提条件として、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項が、甲第1号証に開示されていたことが客観的に裏付けることができるか否かにつき、以下に、検討することとする。

2ト. 甲第1号証の記載事項、及び、図面からの視認事項は、上記第4の2(1a)?(1k)に示したとおりであり、そして、甲第1号証の図5から把握される発明が、引用発明1-1であり、その発明は、上記2カ.に示したように、ガス種にNH_(3)とN_(2)のみを使用し、窒化温度570℃にて炉内のH_(2)濃度、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期には28Vol%、4.2制御、中期には40Vol%、1.8制御、後期には50Vol%、0.9制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整すると、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が、前記初期には、28Vol%付近、4.2付近で、前記中期には、40Vol%付近、1.8付近で、前記後期には、50Vol%付近、0.9付近で、それぞれ生じる、窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉に係る発明である。
そのため、甲第1号証からは、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整するというガス導入量制御を行ったことまでは把握できるものの、以下の2ト(ア)?(カ)の検討により、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を引用発明1-1が備えていることを客観的に把握することはできるとはいえない。

2ト(ア) 炉内のH_(2)濃度、窒化ポテンシャルK_(N)が、それぞれ、初期には28Vol%、4.2制御、中期には40Vol%、1.8制御、後期には50Vol%、0.9制御となるように、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整するとのガス導入量制御についての記述に基づくと、上記第4の2.(1c)に示した窒化ポテンシャルK_(N)についての(2)式から、炉内のアンモニア濃度は、それぞれ、初期には62Vol%、中期には46Vol%、後期には32Vol%であると求まり、さらに、炉内の水素濃度H_(2)と炉内のアンモニア濃度の合計を100Vol%から差し引くことで、炉内の窒素濃度は、それぞれ、初期には10Vol%、中期には14Vol%、後期には18Vol%であると求まり、そして、上記2サ(イ)に示した炉内のH_(2)濃度、炉内のNH_(3)濃度、炉内のN_(2)濃度のそれぞれについての換算式を利用することで、NH_(3)とN_(2)のガス導入量は、初期には、およそ99.5:0.5の体積比率となるように、中期には、およそ、98.5:1.5の体積比率となるように、後期には、およそ、97.7:2.3の体積比率となるように、ガス導入量制御を行ったと求まり(審判請求書第16頁第26行?第17頁第6行、平成28年12月16日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書第8頁第1?12行、表1(第9頁))、そして、上記第4の2(8b)に示される、窒化ポテンシャル制御の際のNH_(3)ガス流量を一定とすれば、NH_(3)の熱分解度が一定となり、窒化ポテンシャルは一定となるとの技術常識を考慮して、初期、中期、後期のそれぞれの期間中に、炉内のNH_(3)の熱分解度sの変動がないように、NH_(3)のガス流量を一定に保つガス導入量制御(以下、「計算上のガス導入量制御」ということがある。)を行ったとすると、それぞれの期間中に、前記ガス流量以外に、炉内のNH_(3)の熱分解度sの変動要因が生じない限り、引用発明1-1においては、窒化ポテンシャルは、初期には4.2、中期には1.8、後期には0.9というそれぞれの所望の値に保持されることとなる。

2ト(イ) そして、上記した計算上のガス導入量制御とは、例えば、初期には、NH_(3)とN_(2)のガス導入量がおよそ99.5:0.5の体積比率となるように、NH_(3)のガス流量を一定に保つガス導入量制御を行うことであるが、このようなガス導入量制御は、NH_(3)のガス流量を一定に保ちながら、NH_(3)とN_(2)の体積比率を一定に保つことであるため、N_(2)のガス流量を一定に保つことも含み、NH_(3)とN_(2)の合計ガス流量を一定に保つことも含んでいるから、複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を一定値に保持するガス導入量制御を行うことに相当するが、そのようなガス導入量制御は、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項における上記第一の制御には該当しない。

2ト(ウ) なお、上記2ト(イ)に示したような、複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を一定値に保持するガス導入量制御が、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項における上記第一の制御には該当しない点については、争いがない(審判請求書第16頁第26行?第18頁第1行、平成28年7月22日付け審判事件答弁書第4頁第9?23行、同書第7頁第22?28行、平成28年12月16日付け口頭審理陳述要領書第5頁第2?25行、同書第13頁第17?24行)。

2ト(エ) また、上記した計算上のガス導入量制御が、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項における上記第二の制御にも該当しないことは明らかである。

2ト(オ) ところで、引用発明1-1には、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が生じたという事実があるところ、上記した計算上のガス導入量制御を行った場合、炉内のNH_(3)の熱分解度sの変動がないようにNH_(3)のガス流量を一定に保っているため、甲第1号証からでは、上記2ト(ア)の検討や技術常識を考慮しても、炉内のNH_(3)の熱分解度sの具体的な変動要因は把握できないことから、前記の事実を、合理的に説明することはできない。また、上記した計算上のガス導入量制御以外の具体的なガス導入量制御を甲第1号証から把握することはできないし、また、例えばフィードバック制御等、上記した計算上のガス導入量制御以外の具体的なガス導入量制御を把握し得たと仮定しても、そのようなガス導入量制御を行うと、必然的に、窒化ポテンシャルを所望の値に保持することを行わないガス導入量制御を行うこととなるところ、窒化ポテンシャルを所望の値に保持することを行わないガス導入量制御を行うと、ガス使用量の増大を招くこととなるとの技術常識を考慮すると、そのようなガス導入量制御を行う合理的な理由は、甲第1号証からは見出せない。

2ト(カ) 上記2ト(ア)?(オ)の検討を踏まえると、甲第1号証からでは、技術常識を考慮しても、具体的にどのようなガス導入量制御を行ったのかを客観的に把握することはできないことから、引用発明1-1が上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えているとはいえない。


2ナ. 請求人は、引用発明1-1に見られるような、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が生じたことに関し、以下の主張をしている。
(ナA) 水素濃度の測定と当該測定に連動して実施される導入ガスの流量制御とが、短いサンプリング時間毎に繰り返しされていることを示しており、この流量制御は、各ガスの導入比率が維持され、合計導入量が増減されるという流量制御であることは自明の事項である(審判請求書第17頁第7行?第18頁第1行、平成28年12月16日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書第5頁第1行?25行、同書第8頁第1?14行)。
(ナB) ガス窒化炉を用いた窒化処理において、炉内ガスの組成が所望の組成に安定している(窒化ポテンシャルが所望の値に安定している)状態というのは、炉内ガスの組成の変動を打ち消す方向に短い間隔でフィードバック制御が適切に行われている状態、を意味しておりこのようなフィードバック制御が行われなければ、炉内ガス組成の変動が過大となり、安定的に窒化処理を進行させることができない(平成28年12月16日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書第5頁第1行?25行)。
(ナC) 炉内におけるNH_(3)分解度sが一定であれば、導入ガス総流量を設定した窒化ポテンシャルと釣り合う流量で一定としておけば、窒化ポテンシャルは変化しないはずであるが、炉内におけるNH_(3)分解度sは被処理材表面積などに依存して変化する(甲第1号証のp.66左欄下から7行?右欄下から4行)し、ヒータのオン・オフ等に起因する温度変化等の外乱による測定値の変動の問題からも変化するため、目標の窒化ポテンシャル値を達成するように、マスフローコントローラーを設けておいて、例えば300ms間隔というような短い間隔で流量制御することが必要である(平成28年12月16日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書第6頁第10行?18行、同書第9頁下から12行?第10頁下から2行)。

2ニ. しかしながら、上記第4の2(1a)?(1k)に示したとおりの甲第1号証の記載事項、及び、図面からの視認事項について、上記2テ.に示したとおりに本件特許明細書に接する前であることを前提条件として精査してみると、上記2ト.(ア)?(カ)に示したとおり、引用発明1-1に見られるような、水素濃度についての測定値及びその測定値から求まる窒化ポテンシャルの値についての時間の推移に伴う小刻みな変動が生じたとの事実に関し、甲第1号証からでは、前記の事実を合理的に説明することはできないことから、上記(ナA)?(ナC)に示されるような請求人の主張は、客観的な裏付けを伴わない、単なる主張にとどまるというべきである。
付言するに、甲第1号証のp.66左欄下から7行?右欄下から4行の記載事項からは、上記第4の2(1j)の視認事項を考慮すると、窒化センサ制御システム付きピット型ガス軟窒化炉を用いて、表面処理品であるSCM440材の窒化処理をすると、その表面処理品の表面積が4.4m^(2)の場合であっても、1.2m^(2)の場合と同様に、炉内ガスの窒化ポテンシャルを3.0に制御できるため、それらの表面処理品の表面積に影響されずに、厚さ約11.5μmの窒化処理ができるということが把握されるだけであるから、上記(ナC)に示されるように、甲第1号証のp.66左欄下から7行?右欄下から4行の記載事項を根拠としている、炉内におけるNH_(3)分解度sは被処理材表面積などに依存して変化するとの請求人の主張は合理的な主張ではないし、また、上記(ナC)に示されるように請求人が主張する、温度変化等の外乱による測定値の変動の問題は温度制御等により対処すべきことであって、マスフローコントローラーを用いる流量制御で対処することに合理性はないし、また、例えば、上記2ト(ア)に示したような計算上のガス導入量制御を行った場合、窒化ポテンシャルは、初期には4.2、中期には1.8、後期には0.9というそれぞれの所望の値に保持されることとなるのであるから、上記(ナB)に示されるような、フィードバック制御が行われなければ、炉内ガス組成の変動が過大となり、安定的に窒化処理を進行させることができないとの請求人の主張にも合理性があるとはいえない。

2ヌ. 小括
上記2シ.?2ニ.の検討を踏まえると、上記相違点1-1は実質的な相違点といえるから、本件発明1は引用発明1-1と同じものであるとはいえない。


(2-2) 本件発明1と引用発明1-2との対比・判断
2ハ. 本件発明1と、上記2キ.に示した、引用発明1-2とを対比するに、上記2サ(ア)?(ウ)と同様の検討により、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<一致点>
処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、行うガス導入量制御手段と、を備える表面硬化処理装置。

<相違点>
相違点1-2:ガス導入量制御手段が、本件発明1では、「複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのに対し、
引用発明1-2では、「複数種類の前記炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのか明らかではない点。

2ヒ. 上記相違点1-2は、上記相違点1-1と同じ相違点であるから、上記2シ.?2ヌ.と同様の検討により、実質的な相違点といえる。

2フ. 小括
したがって、本件発明1は引用発明1-2と同じものであるともいえない。

(3) まとめ
以上の検討から、第1の無効理由によっては、本件発明1の特許を無効にすべきとはいえない。
付言するに、上記2テ.に示した、本件特許明細書に接する前であるとの前提条件は、第2?第5の無効理由の適用条文からしても、それらの無効理由を検討する際の前提条件である。


3. 第2の無効理由について
上記第4の1.によれば、第2の無効理由は、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明について、同法同条同項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明1に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきであるとの無効理由である。

(1) 甲第2号証記載の発明
3ア. 甲第2号証の図4-37?4-38には、上記第4の2.(2f)によれば、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)とが、それぞれ、50%、45%、5%混合された、NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化のための制御装置であって、HydroNit-Sensorを用いて測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整できるが、より低い窒化ポテンシャルK_(N)の調整が必要な場合にはガス投入量の削減では達成できない制御装置、すなわち、前記窒化ポテンシャルK_(N)が4に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最小許容ガス投入量に調整され、前記窒化ポテンシャルK_(N)が9に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最大許容ガス投入量に調整される制御装置が記載されていると認められる。

3イ. してみると、甲第2号証の図4-37?4-38には、「NH_(3)とN_(2)とCO_(2)とが、それぞれ、50%、45%、5%混合された、NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化のための制御装置であって、HydroNit-Sensorを用いて測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整でき、前記窒化ポテンシャルK_(N)が4に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最小許容ガス投入量に調整され、前記窒化ポテンシャルK_(N)が9に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最大許容ガス投入量に調整される制御装置」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

(2) 本件発明1と引用発明2との対比・判断
3ウ. 本件発明1と引用発明2とを対比するに、技術常識に照らすと、引用発明2における「NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化」、「NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化のための制御装置」、「HydroNit-Sensor」は、それぞれ、本件発明1における「処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入」すること、「前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置」、「炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段」に相当する。また、引用発明2における「HydroNit-Sensorを用いて測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準に」することは、上記2サ.での検討と同様にして、測定された炉内水素濃度から炉内のアンモニア濃度を知ることができ、そして、炉内ガス組成を知ることができることを意味しているといえるから、引用発明2における「NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化のための制御装置」は、本件発明1における「前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段」を備えていることとなるし、さらに、引用発明2における「NH_(3)とN_(2)とCO_(2)とが、それぞれ、50%、45%、5%混合された、NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化のため」に「測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整でき、前記窒化ポテンシャルK_(N)が4に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最小許容ガス投入量に調整され、前記窒化ポテンシャルK_(N)が9に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最大許容ガス投入量に調整される」ことは、本件発明1における「炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量」についての「ガス導入量制御手段」を備えることに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<一致点>
処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置であって、
炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量についてのガス導入量制御手段と、を備える表面硬化処理装置。

<相違点>
相違点2-1:水素濃度検出手段が、本件発明1では、「処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて」検出する手段であるのに対し、引用発明2では、HydroNit-Sensorであるものの、「処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて」検出する手段であるのか明らかでない点。

相違点2-2:ガス導入量制御手段が、本件発明1では、「複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのに対し、
引用発明2では、「複数種類の前記炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのか明らかではない点。

3エ. そこで、まず、上記相違点2-1につき検討するに、上記第4の4.(2’a)によれば、HydroNit-Sensorとは、水素分子透過性をもつ測定管により炉気の水素濃度を測定する水素センサであるとされていることからして、「処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて」検出する手段ではないことは明らかである。

3オ. 上記3エ.の検討からすると、上記相違点2-1は実質的な相違点といえる。

3カ. 次に、上記相違点2-2について検討するに、引用発明2では、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)とが、それぞれ、50%、45%、5%混合された、NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスにより、測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整でき、前記窒化ポテンシャルK_(N)が4に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最小許容ガス投入量に調整され、前記窒化ポテンシャルK_(N)が9に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最大許容ガス投入量に調整されるというガス導入量制御が行われるところ、そのようなガス導入量制御は、上記第4の2(8b)に示される、窒化ポテンシャル制御の際のNH_(3)の流量を一定とすれば、窒化ポテンシャルは一定となるとの技術常識を考慮すると、前記窒化ポテンシャルK_(N)の設定値と前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量とが一対一に対応した制御であることを意味しており、複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を前記窒化ポテンシャルK_(N)に応じて一定値に保持することであるから、上記2ト(イ)?(エ)での検討と同様にして、引用発明2が上記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにはならない。

3キ. 上記3カ.の検討からすると、上記相違点2-2も実質的な相違点といえる。

(3) まとめ
以上の検討から、第2の無効理由によっては、本件発明1の特許を無効にすべきとはいえない。


4. 第3の無効理由について
上記第4の1.によれば、第3の無効理由は、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明1に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきであるとの無効理由である。
この無効理由は、審判請求書第36頁第21行?第37頁第7行、及び、平成28年12月16日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書第8頁第1行?第12頁での請求人の主張によれば、主引例としての甲第1号証に記載された発明(以下、主引例に記載された発明を、「主発明」ということがある。)に、副引例としての甲第2号証の図4-37、図4-38、図4-40の記載事項を組み合わせて本件発明1とすることを、当業者が容易になし得たものである旨の無効理由であると認められる。
ここで、副引例の記載事項が周知技術や公知技術であればどのような記載事項でもあっても、主発明に組み合わせ得るというわけではなく、主発明に副引例の記載事項を組み合わせようとする動機付けが不可欠であるところ、副引例としての甲第2号証の図4-37、図4-38、図4-40の記載事項は、いずれも、NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスによる軟窒化に関する技術事項である(上記第4の2.(2f)、(2h))のに対し、主引例としての甲第1号証に記載された発明が、上記2.(1)カ.に示した、ガス種にNH_(3)とN_(2)のみを使用する窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉に関する、引用発明1-1であるとした場合、引用発明1-1に副引例の記載事項を組み合わせるには、引用発明1-1において、少なくとも、使用するガス種を、NH_(3)とN_(2)のみから、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)に変更しようとする動機付けが不可欠となるが、使用するガス種の変更は、引用発明1-1による処理内容を、窒化処理から軟窒化処理に変更するという、発明内容の変更を伴うから、そのような動機付けが生じ得るとすることには合理性がないことは明らかである。
そこで、以下では、使用するガス種に変更を要することがないように、上記2.(1)2キ.に示した、ガス種にNH_(3)とN_(2)とCO_(2)のみを使用する窒化センサ制御システム付きバッチ型ガス軟窒化炉に関する、引用発明1-2を主発明とし、その主発明に甲第2号証の図4-37、図4-38、図4-40の記載事項(上記第4の2.(2f)、(2h))を組み合わせて本件発明1とすることを、当業者が容易になし得たものであるかについて検討を行うこととする。

(1) 本件発明1と引用発明1-2との対比
本件発明1と引用発明1-2との対比は、すでに、上記2.(2-2)2ハ.で行ったとおりであり、両者は、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認める。
<相違点>
相違点1-2:ガス導入量制御手段が、本件発明1では、「複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのに対し、
引用発明1-2では、「複数種類の前記炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段」であるのか明らかではない点。

(2) 相違点についての当審の判断
4ア. 上記相違点1-2については、すでに、上記2.(2-2)2ヒ.で検討したとおりであり、甲第1号証からは、NH_(3)とN_(2)のそれぞれの導入ガス量についての設定信号をマスフローコントローラーへ送って炉内ガスを調整するというガス導入量制御を行ったことまでは把握できるものの、上記2ト.と同様の検討から、具体的にどのようなガス導入量制御を行ったのかを客観的に把握することはできないことから、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を引用発明1-2が備えているとはいえない。

4イ. よって、上記相違点1-2は実質的な相違点である。

4ウ. 次に、ガス導入量制御に関し、引用発明1-2に、甲第2号証の図4-37、図4-38、図4-40の記載事項を組み合わせ得るか否かにつき検討するに、それらの記載事項が周知技術や公知技術というだけでは、そのような組み合わせを行うことに合理性があるということにはならず、そのような組み合わせを行おうとする動機付けが不可欠であるところ、引用発明1-2は後期において窒化ポテンシャルを3.1に制御するものであるのに対し、甲第2号証の図4-37?図4-38に示されているのは、窒化ポテンシャルK_(N)をの値を9から4の間にすることである(上記第4の2.(2f))し、甲第2号証の図4-40に示されているのは、窒化ポテンシャルK_(N)を2の一定値に保つことであり(上記第4の2.(2h))、窒化ポテンシャルK_(N)の値が、相互に異なることからして、請求人の審判請求書等での主張を参照しても、そのような組み合わせを行おうとする動機付けは見当たらない。また、そのような動機付けを生じ得ると仮定したとしても、甲第2号証の図4-37、図4-38には、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)とが、それぞれ、50%、45%、5%混合された、混合ガスを、測定された炉内水素濃度H_(2)を利用して計算される、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整できるというガス導入量制御が記載されている(上記第4の2.(2f))のに対し、甲第2号証の図4-40には、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)との混合ガスにより、窒化ポテンシャルK_(N)が2.0に設定された軟窒化処理が行われる間、水素濃度はほぼ一定に保たれたのに対し、NH_(3)の流量、N_(2)の流量、CO_(2)の流量は、いずれも、めまぐるしく変化し、この変化に伴い、前記NH_(3)の流量と前記N_(2)の流量の相互の大小関係もめまぐるしく変化したことから、前記混合ガスにおけるNH_(3)とN_(2)とCO_(2)との流量比率もめまぐるしく変化したという、軟窒化プロセスの進行の様子が記載されている(上記第4の2.(2h))ことからして、その軟窒化プロセスの進行の様子がガス導入量制御を表しているとの仮定をしたとしても、甲第2号証の図4-37、図4-38に記載の制御はNH_(3)とN_(2)とCO_(2)との流量比率を一定にするガス導入量制御に対し、甲第2号証の図4-40に記載の制御はNH_(3)とN_(2)とCO_(2)との流量比率をめまぐるしく変化させるガス導入量制御であり、互いに、異なるガス導入量制御であって、引用発明1-2に、甲第2号証の図4-37、図4-38、図4-40に記載事項を組み合わせることに合理性がないことは明らかである。

4エ. また、上記4ウ.での検討と同様にして、引用発明1-2に、甲第2号証の図4-37、図4-38に記載のガス導入量制御を組み合わせを行おうとする動機付けを生じ得ると仮定したとしても、その組み合わせにより、引用発明1-2において、9から4の間の窒化ポテンシャルK_(N)を基準にして前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量が最大ないし最小許容ガス投入量の限界領域内で調整でき、前記窒化ポテンシャルK_(N)が4に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最小許容ガス投入量に調整され、前記窒化ポテンシャルK_(N)が9に設定されると、前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量は最大許容ガス投入量に調整されることとなるところ、そのようなガス導入量制御は、上記第4の2(8)に示される、窒化ポテンシャル制御の際のNH_(3)の流量を一定とすれば、窒化ポテンシャルは一定となるとの技術常識を考慮すると、前記窒化ポテンシャルK_(N)の設定値と前記NH_(3)-N_(2)-CO_(2)混合ガスの合計導入量とが一対一に対応した制御であることを意味しており、複数種類の炉内導入ガスの処理炉内への導入量の比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を前記窒化ポテンシャルK_(N)に応じて一定値に保持することであるから、上記2ト(イ)?(エ)での検討と同様にして、引用発明1-2が上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにはならない。

4オ. また、上記4エ.での検討と同様に、引用発明1-2に、甲第2号証の図4-40に記載されているガス導入量制御を組み合わせを行おうとする動機付けを生じ得ると仮定したとしても、その組み合わせにより、引用発明1-2において、NH_(3)とN_(2)とCO_(2)との混合ガスにより、窒化ポテンシャルK_(N)が設定値にされた軟窒化処理が行われる間、水素濃度はほぼ一定に保たれるのに対し、NH_(3)の流量、N_(2)の流量、CO_(2)の流量は、いずれも、めまぐるしく変化し、この変化に伴い、前記NH_(3)の流量と前記N_(2)の流量の相互の大小関係もめまぐるしく変化することから、前記混合ガスにおけるNH_(3)とN_(2)とCO_(2)との流量比率もめまぐるしく変化するという、ガス導入量制御が行われることとなるところ、そのようなガス流量制御は、上記相違点1-2における、上記第一の制御には該当しないため、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにはならない。

4カ. 上記4ア.?オ.の検討を踏まえると、引用発明1-2に、甲第2号証の図4-37、図4-38の記載事項、あるいは、甲第2号証の図4-40の記載事項を組み合わせようとする動機付けは見当たらないし、仮に、その動機付けを生じ得ると仮定して検討しても、そのような組み合わせを行っただけでは、引用発明1-2が上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにはならないといえる。

4キ. してみると、引用発明1-2に、甲第2号証の図4-37、図4-38の記載事項、あるいは、甲第2号証の図4-40の記載事項を組み合わせて、本件発明1とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

4ク. さらに、念のため、上記3イ.に示された、甲第2号証に記載された引用発明2を主発明とし、引用発明1-2を組合せ得るかについても検討してみるに、上記3ウ.?3キ.での検討と同様にして、上記相違点2-1と上記相違点2-2が、いずれも、実質的な相違点となる。

4ケ. そこで、まず、上記相違点2-1について検討してみるに、甲第2号証においては、プロセス制御のために処理炉内に設けられているセンサは、HydroNit-Sensorのみであり(上記第4の2.(2c)?(2g))、このセンサは、上記3エ.で検討したとおり、「処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて」検出する手段ではないところ、このセンサを、プロセス制御のために、「処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて」検出する手段に変更するとの記述は、甲第2号証には見当たらないし、また、甲第1号証にも見当たらないのであるから、このセンサを、「処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて」検出する手段に変更しようとする動機付け、すなわち、引用発明2において上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えさせようとする動機付けは、本件特許明細書に接しなければ生じ得ないといえる。

4コ. してみると、引用発明2において上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

4サ. 次に、上記相違点2-2についても検討してみるに、この相違点は、本件発明1が備えているガス導入量制御を引用発明が備えているか明らかでないという点で、上記相違点1-2と同じ相違点であり、そして、上記4ウ.?エ.の検討を踏まえると、引用発明2に、引用発明1-2を組み合わせようとする動機付けは見当たらないし、仮に、その動機付けを生じ得ると仮定して検討しても、そのような組み合わせを行っただけでは、引用発明2が上記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにはならないといえる。

4シ. してみると、引用発明2において上記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにすることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。


(3) まとめ
以上の検討から、第3の無効理由によっては、本件発明1の特許を無効にすべきとはいえない。


5. 第4の無効理由について
上記第4の1.によれば、第4の無効理由は、本件発明2は、甲第1号証及び/または甲第2号証、並びに甲第3?4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきであるとの無効理由である。
そして、上記4.の冒頭での検討を踏まえ、以下では、引用発明1-2を主発明とし、その主発明に甲第2?4号証の記載事項(上記第4の2.(2f)、(2h)、上記第4の2.(3a)?(4e))を組み合わせて本件発明2とすることを、当業者が容易になし得たものであるかについて検討を行うこととする。

(1) 本件発明2と引用発明1-2との対比
本件発明2と引用発明1-2とを対比するに、両者は、上記相違点1-2以外に、以下の点でも相違し、その余の点で一致していると認める。
<相違点>
相違点1-3:表面硬化処理装置が、本件発明2では、「水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段を備え、前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で炉内ガスが固体として析出しないように、アンモニアガスに応じて前記水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御する」との発明特定事項を備えているのに対し、
引用発明1-2では、そのような発明特定事項を備えていない点。

(2) 相違点についての当審の判断
5ア. そこで、まず、上記相違点1-3につき検討するに、甲第3?4号証に記載されているのは、上記第4の2.(3a)?(4e)によれば、非分散型赤外分析計(NDIR)を用いるガス分析装置への炭酸アンモニウムの結晶の生成防止に関する技術事項であるところ、引用発明1-2における、処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて前記炉内ガスの水素を検出する水素濃度検出手段は、上記第4の2.(1b)によれば、炉体に直接装着されており、寿命が長く、ノーメンテナンスであり、炭酸アンモニウムの析出の問題がないという特徴を有しているため、引用発明1-2における水素濃度検出手段を、甲第3?4号証に記載されている、非分散型赤外分析計(NDIR)に変更した上で、炭酸アンモニウムの結晶の生成防止を行うことに合理性はなく、引用発明1-2における水素濃度検出手段に甲第3?4号証に記載の技術事項を組み合わせようとする動機付けは生じ得ない。

5イ. また、甲第2号証には、上記第4の2.(2b)によれば、熱伝導率の変化によって炉排気ガス内の水素の濃度を測定する手段が記載されているものの、上記5ア.に示したように、引用発明1-2における、処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて前記炉内ガスの水素を検出する水素濃度検出手段は、炉体に直接装着されており、寿命が長く、ノーメンテナンスであり、炭酸アンモニウムの析出の問題がないという特徴を有しているため、引用発明1-2における水素濃度検出手段を、そのような特徴を有していない、甲第2号証に記載されている、熱伝導率の変化によって炉排気ガス内の水素の濃度を測定する手段に変更することに合理性はなく、また、仮に、そのような変更を行い得ると仮定しても、甲第2号証に記載されている、熱伝導率の変化によって炉排気ガス内の水素の濃度を測定する手段は、配管温度制御手段を備えていないから、上記相違点1-3に係る本件発明2の発明特定事項を備えることにはならない。

5ウ. よって、引用発明1-2に上記相違点1-3に係る本件発明2の発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易になし得たことではない。

5エ. また、上記相違点1-2については、甲第3?4号証には、ガス導入量制御手段に関する記載は見当たらない(上記第4の2.(3a)?(4e))ことから、上記4.の4ア.?キ.での検討と同様にして、引用発明1-2に上記相違点1-2に係る本件発明2の発明特定事項を備えさせることも、当業者が容易になし得たことではないといえる。

5オ. さらに、念のため、上記3イ.に示された、甲第2号証に記載された引用発明2を主発明とし、その主発明に引用発明1-2と甲第3?4号証の記載事項(上記2キ.、上記第4の2.(3a)?(4e))を組み合わせて本件発明2とすることを、当業者が容易になし得たものであるかについても検討してみるに、本件発明2と引用発明2とを対比すると、両者は、上記相違点2-1、2-2以外に、以下の点でも相違し、その余の点で一致していると認める。
<相違点>
相違点2-3:表面硬化処理装置が、本件発明2では、「水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段を備え、前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で炉内ガスが固体として析出しないように、アンモニアガスに応じて前記水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御する」との発明特定事項を備えているのに対し、
引用発明2では、そのような発明特定事項を備えていない点。

5カ. 上記相違点2-3は、本件発明2が備えている発明特定事項を主発明が備えていないという点で、上記相違点1-3と同じ相違点であり、上記5ア.?ウ.での検討と同様にして、当業者が容易になし得たことではないといえる。

5キ. 上記相違点2-1、2-2については上記4ケ.?シ.での検討と同様にして、いずれも、当業者が容易になし得たことではないといえる。


(3) まとめ
以上の検討から、第4の無効理由によっては、本件発明2の特許を無効にすべきとはいえない。


6. 第5の無効理由について
上記第4の1.によれば、第5の無効理由は、本件発明1?2に従属する本件発明3は、甲第1号証及び/または甲第2号証、並びに甲第3?7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明3に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきであるとの無効理由である。

この第5の無効理由は、本件発明3が本件発明1?2に従属するものであることからして、本件発明1について、少なくとも、第1の無効理由?第3の無効理由のうちのいずれかの無効理由が成立しているか、あるいは、第4の無効理由が成立していないと、成立し得ないところ、上記2.?5.によれば、第1の無効理由?第4の無効理由のいずれの無効理由も成立しない。

してみると、第5の無効理由によっては、本件発明3の特許を無効にすべきとはいえないこととなる。


7. 第6の無効理由について
上記第4の1.によれば、第6の無効理由は、本件発明1?3は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであり、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであるとの無効理由である。

(1) 判断手法
特許法第36条第6項第1号は、いわゆるサポート要件を規定したものであり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)。
なお、訂正明細書には、【発明の詳細な説明】との明示の記載はないものの、特許法第36条第3項の規定からすると、訂正明細書のうち、発明の名称についての記載と図面の簡単な説明についての記載とを除いた記載が、発明の詳細な説明の記載となるから、上記1.のa.?i.の記載は、いずれも、発明の詳細な説明の記載である。

(2) 当審の判断
7ア. 上記(1)に示したことからすると、上記第3に示した特許請求の範囲の記載と上記1.のa.?i.に示した、発明の詳細な説明の記載とを対比して、特許請求の範囲に記載された発明と、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係を検討することとなるから、一般的には、発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明1?3に係る表面硬化処理装置の発明が解決しようとする課題を確認し、次に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が表面硬化処理装置の発明の課題を解決できると認識できる範囲につき整理した後、最終的に、特許請求の範囲に記載された本件発明1?3との対比関係の検討を行うが、このような検討は、すでに、上記2.の2シ.、2セ.?2ソ.において行われている。
すなわち、本件発明1?3に係る表面硬化処理装置の発明は、発明の詳細な説明の記載によれば、上記2.の2シ.に示されるように、熱伝導度に基づいて処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して処理炉内の雰囲気を制御することが可能な、表面硬化処理装置を提供することを、発明が解決しようとする課題としており(上記1.のb.?c.)、このような課題は、上記2.の2セ.に示されるように、本件発明1により解決できるとされており(上記1.のd.?e.、上記1.のh.)、そして、上記2.の2ソ.に示されるように、上記1.g.に示されている発明の詳細な説明の記載によると、本件発明1により、前記の課題が解決できることが実証されているといえる。
してみると、特許請求の範囲に記載された本件発明1は、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が表面硬化処理装置の発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。

7イ. また、上記1.のf.、上記1.のi.には、本発明の第二実施形態が記載されており、前記第二実施形態は、本件発明1の発明特定事項を全て備えていることからして、課題を解決できるところ、前記第二実施形態は、上記1.のd.によれば、本件発明2?3に該当する。

7ウ. 上記7ア.?イ.の検討を踏まえると、特許請求の範囲に記載された本件発明2?3も、特許請求の範囲に記載された本件発明1と同様に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が表面硬化処理装置の発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。

7エ. なお、請求人は、本件発明1?3に関して、特許請求の範囲には、「炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように…制御する」ものであることが記載されているが、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるために如何なる制御が実施されるのかについて、何らの規定もないし、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるための水素濃度の設定値と、水素濃度検出手段により検出した炉内ガスの水素濃度とを比較し、窒化ポテンシャルがK_(N)が3.3となるように、ガス窒化処理を行ったとの説明されている(明細書段落0095?0096)のみで、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるために如何なる制御が実施されるのかについて、何ら具体的な説明がないので、本件発明1?3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない旨主張している(審判請求書第40頁第5行?第41頁第18行、平成28年12月6日付けで請求人が提出した口頭審理陳述要領書第12頁下から19行?第13頁第13行)。
しかし、上記7ア.?ウ.の検討から、特許請求の範囲に記載された本件発明1?3は、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が表面硬化処理装置の発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから、請求人の前記主張は妥当な主張とはいえない。


(3) まとめ
以上の検討から、第6の無効理由によっては、本件発明1?3の特許を無効にすべきとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項2及び3並びに請求項2及び3に従属する請求項4に係る発明の特許を無効にすべきものとはいえないし、また、他に無効とすべき理由も見当たらない。

審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、窒化、軟窒化、浸炭、浸炭窒化等、金属製の被処理品に対する表面硬化処理を行う、表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属製の被処理品、特に、鋼部品や金型に対する表面硬化処理として、窒化処理や軟窒化処理が適用されている。この窒化処理や軟窒化処理は、後述する浸炭処理や浸炭窒化処理と比較して、処理温度が低く、また、歪みの少ない処理法である。
このような窒化処理や軟窒化処理の方法としては、ガス法、塩浴法、プラズマ法等がある。そして、これらの方法の中では、ガス法が、品質、環境性、量産性等を考慮した場合に、総合的に優れている。
【0003】
ところで、ガス法による窒化処理(ガス窒化処理)は、被処理品に対し、窒素のみを浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、ガス窒化処理では、アンモニアガス、アンモニアガスと窒素ガスとの混合ガス、アンモニアガスとアンモニア分解ガス(75%H_(2),25%N_(2))との混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
一方、ガス法による軟窒化処理(ガス軟窒化処理)は、被処理品に対し、窒素とともに炭素を副次的に浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、ガス軟窒化処理では、アンモニアガスとRXガス(CO,H_(2),N_(2)を主成分とする吸熱型変成ガス)との混合ガス、アンモニアガスと窒素ガスとCO_(2)との混合ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
【0004】
以上のようなガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、内部に被処理品を配置した処理炉内の雰囲気を管理するために、例えば、非特許文献1に記載されているような測定方法を用いて、炉内ガスのアンモニア濃度や水素濃度を測定する場合がある。
具体的に、非特許文献1には、処理炉内に存在している炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法として、手動ガラス管アンモニア分析計を用いて、不連続に炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法と、赤外線アンモニア分析計を用いて、連続的に炉内ガスのアンモニア濃度を測定する方法が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、炉内ガスの水素濃度を測定する方法として、炉内ガスの熱伝導度を利用した熱伝導度センサを用いて、連続的に炉内ガスの水素濃度を測定する方法が記載されている。なお、上記の熱伝導度センサは、処理炉の炉体に直接装着することが可能な構成であり、炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出可能な構成である。
また、被処理品に対する表面硬化処理としては、上述した窒化処理や軟窒化処理の他に、浸炭処理や浸炭窒化処理がある。浸炭処理や浸炭窒化処理は、窒化処理や軟窒化処理と比較して、処理温度が高く、また、歪みが大きいものの、深い硬化層を形成可能な処理法である。
【0006】
このような浸炭処理や浸炭窒化処理の方法としては、ガス法、塩浴法、プラズマ法、真空法(減圧法)等がある。そして、これらの方法の中では、真空法が、他の方法と比較して、環境性が良好である、浸炭速度が速い、表面異常層が発生しない等の利点を有している。
ところで、真空法による浸炭処理(真空浸炭処理)は、被処理品に対し、炭素のみを浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。また、真空浸炭処理では、アセチレンガス、プロパンガス、エチレンガス等の炭化水素を、単独または複数同時に処理炉内に導入する場合や、炭化水素と窒素ガスとを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
【0007】
一方、真空法による浸炭窒化処理(真空浸炭窒化処理)は、被処理品に対し、炭素とともに窒素を副次的に浸透拡散させて、表面を硬化させるプロセスを有する。そして、真空浸炭窒化処理では、真空浸炭を行った後に、アンモニアガスを単独で、または、アンモニアガスと窒素ガスを混合した混合ガスを処理炉内へ導入して、表面硬化処理を行う。
以上のような浸炭処理や浸炭窒化処理では、処理炉内の雰囲気を管理するために、例えば、非特許文献2及び3に記載されているような熱伝導度センサを用いて、炉内ガスの水素濃度を測定する場合がある。なお、非特許文献2及び3に記載されている熱伝導度センサは、非特許文献1に記載されている熱伝導度センサと同様、炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】河田一喜、「窒化ポテンシャル制御システム付きガス軟窒化炉」、熱処理、49巻2号、2009、P.64?68
【非特許文献2】河田一喜、「浸炭処理および窒化処理」、機械設計、51巻7号、2007、P.54?59
【非特許文献3】河田一喜、「雰囲気制御付き真空浸炭炉の実用化」、熱処理、44巻5号、2004、P.289?295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている手動ガラス管アンモニア分析計は、手動操作により測定を行う構成であるため、炉内ガスのアンモニア濃度を連続的に測定することが不可能であり、処理炉内の雰囲気に対する、連続自動制御に適用できない。
また、特許文献1に記載されている赤外線アンモニア分析計は、炉内ガスのアンモニア濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用することは可能であるが、炉内ガスを、サンプリングポンプにより赤外線アンモニア分析計に導入する必要がある。このため、ガス軟窒化処理においては、炭酸アンモニウムの析出により、サンプリング経路の詰りが発生しやすく、定期的にフィルター清掃等のメンテナンスを行う必要があるため、表面硬化処理の作業効率が低下するという問題が発生するおそれがある。
【0010】
また、特許文献1に記載されている赤外線アンモニア分析計は、手動ガラス管アンモニア分析計や熱伝導度センサと比較して高価であるため、コスト面等から採用が困難であるという問題がある。
これに対し、特許文献1から3に記載されている熱伝導度センサは、赤外線アンモニア分析計と異なり、低価格であり、且つ、処理炉の炉体に直接装着することが可能であり、また、炉内ガスの水素濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用可能である。
【0011】
したがって、上述したガス窒化処理等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを処理炉内に導入して行う表面硬化処理では、特許文献1から3に記載されているような熱伝導度センサを用いて、処理炉内の雰囲気制御を行うことが、コスト面等の観点から好適である。
また、熱伝導度センサは、赤外線アンモニア分析計と異なり、処理炉の炉体へ直接装着することが可能であり、さらに、処理炉内の水素濃度を連続的に測定可能であるため、処理炉内の雰囲気に対する連続自動制御に適用可能である。
【0012】
しかしながら、熱伝導度センサには、以下に示すような問題点がある。
熱伝導度センサを、単に炉体へ装着しただけでは、炉内ガスが熱伝導度センサのセンサ部に流入するまでに時間を要するという問題が発生するおそれがある。また、熱伝導度センサの装着位置によっては、炉内ガスの偏った成分のみがセンサ部に流入し、炉内ガス全体の水素濃度を正確に反映することが困難となるという問題が発生するおそれがある。
【0013】
また、熱伝導度センサを常に炉体へ装着している状態では、実際に被処理品を量産処理する場合、被処理品が処理炉内に配置し、昇温中において初期に発生する、被処理品に付着していた油分や汚れがガス化してセンサ部を汚染し、熱伝導度センサの精度維持が、早期に困難となるという問題が発生するおそれがある。
また、ガス軟窒化処理においては、センサ部と炉体とを連通する配管内に、炭酸アンモニウムの析出が発生するという問題が発生するおそれがある。また、処理炉内において塩化水素が発生するようなプロセスを有する場合、センサ部や配管内に、塩化アンモニウムの析出が発生することにより、熱伝導度センサの精度維持が困難となるという問題が発生するおそれがある。
【0014】
また、真空浸炭や浸炭窒化処理においても、煤やタールがセンサ部に付着して、熱伝導度センサの精度維持が困難となるという問題が発生するおそれがある。
しかしながら、従来では、熱伝導度センサの精度を、長期間安定して維持することが可能な手段や対策が、開示されていない。
また、従来では、熱伝導度センサを用いた処理炉内の雰囲気制御に関して、具体的な制御方法が開示されていない。
【0015】
このため、混合ガスを用いる表面硬化処理では、複数種類の炉内導入ガスの消費量を一定の比率とする等、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うこととなる。これにより、炉内導入ガスの消費量が、表面硬化処理に適切な量よりも増加して、表面硬化処理に要するランニングコストが増加するという問題が発生するおそれがある。また、処理炉内の雰囲気を参照せずに表面硬化処理を行うと、表面硬化処理に使用されずに処理炉内から排気される炉内ガスの量が増加して、大気中へのガス排出量が増加し、環境に悪影響を与えるという問題が発生するおそれがある。
【0016】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、炉内ガスの熱伝導度に基づいて処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して処理炉内の雰囲気を制御することが可能な、表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、処理炉内で水素を発生するガスとしてはアセチレンガスのみを含むとともに、その他のガスとして窒素ガスを含む炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理として真空浸炭処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アセチレンガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0018】
本発明によると、水素濃度検出手段が、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉内で水素を発生する炉内導入ガスであるアセチレンガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、ガス導入量制御手段が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
なお、複数種類の炉内導入ガスを処理炉内へ導入する際には、例えば、複数種類の炉内導入ガスを混合した状態で処理炉内へ導入する、または、複数種類の炉内導入ガスを個別に処理炉内へ導入し、これらの導入した炉内導入ガスを処理炉内で混合する。
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、処理炉内で水素を発生するガスとしてはアンモニアガスのみを含む複数種類の炉内導入ガスを前記処理炉内へ導入して、前記処理炉内に配置した被処理品の表面硬化処理としてガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行う表面硬化処理装置であって、
前記処理炉内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、前記炉内ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出手段と、
前記水素濃度検出手段が検出した水素濃度に基づいて前記アンモニアガスの炉内濃度を演算し、当該演算した炉内濃度の演算値に基づいて前記炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する炉内ガス組成演算手段と、
前記炉内ガス組成演算手段が演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、前記炉内ガス組成が前記設定炉内ガス混合比率となるように、前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で前記複数種類の前記炉内導入ガスの前記処理炉内への合計導入量を制御する第一の制御と、前記炉内導入ガス流量比率が変化するように前記複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御する第二の制御と、の両者を実行可能であるとともに、同時にはいずれか一方の制御のみを選択的に行うガス導入量制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
本発明によると、水素濃度検出手段が、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉内で水素を発生する炉内導入ガスであるアンモニアガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、ガス導入量制御手段が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0022】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した発明であって、前記表面硬化処理を前記ガス軟窒化処理とし、
前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通する水素濃度検出配管と、
前記水素濃度検出配管の温度を制御する配管温度制御手段と、を備え、
前記配管温度制御手段は、前記水素濃度検出配管内で前記炉内ガスが固体として析出しないように、前記アンモニアガスに応じて前記水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御することを特徴とするものである。
【0023】
本発明によると、配管温度制御手段が、ガス軟窒化処理で用いるアンモニアガスの種類に応じて、水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御することにより、炉内ガスが水素濃度検出配管内で固体として析出することを抑制する。
このため、塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムが水素濃度検出配管内で析出するおそれのある表面硬化処理であるガス軟窒化処理において、水素濃度検出配管内における塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムの析出を抑制することが可能となる。
【0024】
なお、配管温度制御手段が水素濃度検出配管の温度を制御する際には、表面硬化処理が、処理炉内で塩化水素ガスが発生するようなガス窒化処理である場合は、水素濃度検出配管の温度を340?450℃の範囲内に制御することが好適である。また、表面硬化処理がガス軟窒化処理である場合は、水素濃度検出配管の温度を60?100℃の範囲内に制御することが好適である。
【0025】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間に介装し、前記処理炉と前記水素濃度検出手段とを連通させる連通状態と、前記処理炉と前記水素濃度検出手段との間を閉鎖する閉鎖状態と、を切換可能な開閉弁と、
前記ガス導入量制御手段の動作状態に応じて前記開閉弁を前記連通状態または前記閉鎖状態に切り換える開閉弁切換え制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
本発明によると、開閉弁切換え制御手段が、ガス導入量制御手段の動作状態に応じて、開閉弁を連通状態または閉鎖状態に切り換える。
このため、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態において、炉内ガスが含む汚染成分が、水素濃度検出手段へ接触することを抑制可能となり、水素濃度検出手段の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となる。
なお、開閉弁切換え制御手段が、開閉弁を連通状態または閉鎖状態に切り換える際には、例えば、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁を連通状態に切り換えて、処理炉と水素濃度検出手段とを連通させる。一方、開閉弁切換え制御手段が、ガス導入量制御手段が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁を閉鎖状態に切り換えて、処理炉と水素濃度検出手段との間を閉鎖する。
また、処理炉と水素濃度検出手段とを連通させる経路は、例えば、配管により形成する。また、この配管は、処理炉と水素濃度検出手段とを直接連通させる単線の経路であってもよく、処理炉と水素濃度検出手段との間で複数の経路に分岐する複線の経路であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、炉内ガスの組成である炉内ガス組成と、予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、処理炉内の雰囲気を検出し、この検出した雰囲気を参照して、処理炉内の雰囲気を制御することが可能となる。
これにより、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一実施形態の表面硬化処理装置の構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の変形例の構成を示す図である。
【図3】第二実施形態の表面硬化処理装置の構成を示す図である。
【図4】比較例の表面硬化処理装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(表面硬化処理の基礎的事項)
本実施形態を説明する前に、説明の前提となる事項として、被処理品の表面硬化処理に関する基礎的な事項について説明する。
【0030】
以下、表面硬化処理のうち、ガス窒化処理及びガス軟窒化処理について説明する。
ガス窒化処理及びガス軟窒化処理では、被処理品を配置する処理炉(ガス窒化炉)内において、以下の式(1)で表される窒化反応が発生する。この場合、窒化反応における窒化ポテンシャルK_(N)は、以下の式(2)で表される。
NH_(3) → (N)+3/2H_(2) … (1)
K_(N)=P_(NH3)/P_(H2)^(3/2) … (2)
【0031】
なお、上記の式(2)では、窒化ポテンシャルをK_(N)で示し、NH_(3)(アンモニアガス)の分圧をP_(NH3)で示し、H_(2)(水素ガス)の分圧をP_(H2)で示す。
ここで、窒化ポテンシャルK_(N)は、公知の要素であり、上記の式(2)のように、アンモニアガスと水素ガスの分圧比率を表し、ガス窒化炉内の雰囲気が有する窒化強度または窒化能力を表す指標である。
【0032】
次に、表面硬化処理のうち、真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理について説明する。
一例として、浸炭ガスとしてアセチレンガスを用いた真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理では、被処理品を配置する処理炉(真空浸炭炉)内において、以下の式(3)で表される浸炭反応が発生する。この場合、浸炭反応における浸炭ポテンシャルK_(C)は、以下の式(4)で表される。
1/2C_(2)H_(2) → (C)+1/2H_(2) … (3)
K_(C)=P_(C2H2)^(1/2)/P_(H2)^(1/2) … (4)
【0033】
なお、上記の式(4)では、浸炭ポテンシャルをK_(C)で示し、C_(2)H_(2)(アセチレンガス)の分圧をP_(C2H2)で示し、H_(2)(水素ガス)の分圧をP_(H2)で示す。
ここで、浸炭ポテンシャルK_(C)は、公知の要素であり、上記の式(4)のように、分解前の浸炭ガス(アセチレンガス)と分解後に生成したガスとの分圧比率を表し、真空浸炭炉内の雰囲気が有する浸炭強度または浸炭能力を表す指標である。
【0034】
(表面硬化処理の問題点)
次に、上述した各種の表面硬化処理に共通の問題点について説明する。
ガス窒化処理及びガス軟窒化処理のうち、ガス窒化処理において、アンモニアガスのみをガス窒化炉内に導入して表面硬化処理を行う場合、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルとするためには、熱伝導度センサを用いて、ガス窒化炉内に存在している炉内ガスの水素濃度を検出する。そして、この検出した水素濃度に応じて、ガス窒化炉内へのアンモニアガスの導入量を制御する。
【0035】
このように、一種類の炉内導入ガスのみをガス窒化炉内に導入して表面硬化処理を行う場合は、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度を検出することにより、検出した水素濃度を用いた計算によって、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが可能となる。したがって、上記の式(2)により窒化ポテンシャルを計算して、ガス窒化炉内の雰囲気を、所望の窒化ポテンシャルに制御することが可能となる。
【0036】
しかしながら、例えば、アンモニアガスと窒素ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、ガス窒化炉内へのアンモニアガスの導入量のみ、あるいは、ガス窒化炉内への窒素ガスの導入量のみを制御しても、ガス窒化炉内の雰囲気を所望の窒化ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
これは、表面硬化処理の状況等により、混合ガスの混合比率が変化すると、炉内ガスの組成である炉内ガス組成が把握できなくなるため、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアンモニア濃度を検出することが不可能となるためである。
【0037】
ところで、真空浸炭処理及び真空浸炭窒化処理においても、上述したガス窒化処理及びガス軟窒化処理と同様、例えば、アセチレンガスと窒素ガス等、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、真空浸炭炉内へのアセチレンガスの導入量のみ、あるいは、真空浸炭炉内への窒素ガスの導入量のみを制御しても、真空浸炭炉内の雰囲気を、所望の浸炭ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
【0038】
これは、上述したガス窒化処理及びガス軟窒化処理と同様、混合ガスの混合比率が変化すると、炉内ガスの組成である炉内ガス組成が把握できなくなるため、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアセチレン濃度を検出することが不可能となるためである。
また、真空浸炭窒化処理や真空窒化処理においても、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスをガス窒化炉内へ導入して、表面硬化処理を行う場合、熱伝導度センサを用いて炉内ガスの水素濃度のみを検出しても、炉内ガスのアセチレンやアンモニアの濃度を検出することが不可能となるため、真空浸炭炉内の雰囲気を、所望の浸炭ポテンシャルや窒化ポテンシャルに制御することが不可能であるという問題を有する。
【0039】
(構成)
次に、図1を用いて、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を説明する。
図1は、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
本実施形態の表面硬化処理装置1は、鋼部品や金型等、金属製の被処理品Sを配置した処理炉2内に、複数種類の炉内導入ガスを混合した混合ガスを導入して、被処理品Sの表面硬化処理を行う装置である。なお、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内へ個別に導入し、処理炉2内で混合してもよい。
【0040】
ここで、複数種類の炉内導入ガスのうち少なくとも一種類の炉内導入ガスは、アンモニアガス(NH_(3))等、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスとする。すなわち、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む。
なお、本実施形態では、複数種類の炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH_(3))と窒素ガス(N_(2))の、二種類の炉内導入ガスとした場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合を例に挙げて説明する。
【0041】
また、本実施形態では、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合を説明するため、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH_(3))とし、その他の炉内導入ガスを、窒素ガス(N_(2))とする。
また、本実施形態では、一例として、表面硬化処理を行う条件を、処理炉2内の温度(処理温度)を300?1100℃の範囲内とし、処理炉2内の圧力(処理圧力)を13?133000Paの範囲内とする。
【0042】
以下、表面硬化処理装置1の具体的な構成を説明する。
図1中に示すように、表面硬化処理装置1は、処理炉2と、水素濃度検出手段4と、調節計6と、記録計8と、開閉弁10と、開閉弁切換え制御手段12と、炉内導入ガス供給部14を備えている。
処理炉2は、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))を導入可能であり、且つ被処理品Sを配置可能に形成されており、攪拌ファン16と、攪拌ファン駆動モータ18と、炉内温度計測手段20を備えている。
【0043】
攪拌ファン16は、処理炉2内に配置されており、処理炉2内で回転することにより、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
攪拌ファン駆動モータ18は、攪拌ファン16に連結されており、攪拌ファン16を任意の回転速度で回転させる。
炉内温度計測手段20は、熱電対を備えており、処理炉2内に存在している炉内ガスの温度を計測可能に構成されている。
【0044】
また、炉内温度計測手段20は、炉内ガスの温度を計測すると、この計測した温度を含む情報信号(炉内温度信号)を、調節計6及び記録計8へ出力する。
水素濃度検出手段4は、炉内ガスの水素濃度を検出可能な構成の熱伝導度センサにより形成されており、水素濃度を検出するためのセンサ部は、水素濃度検出配管22を介して処理炉2の内部と連通している。なお、炉内ガスの水素濃度は、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出する。
【0045】
また、水素濃度検出手段4は、炉内ガスの水素濃度を検出すると、この検出した水素濃度を含む情報信号(水素濃度信号)を、調節計6及び記録計8へ出力する。
水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する配管である。なお、本実施形態では、水素濃度検出配管22を、処理炉2と水素濃度検出手段4とを直接連通させる単線の経路で形成する。
【0046】
調節計6は、CPU(CENTRAL PROCESSING UNIT)等を備えて構成されており、炉内ガス組成演算手段24と、ガス導入量制御手段26を備えている。
炉内ガス組成演算手段24は、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。そして、この演算した炉内ガス組成を含む情報信号(炉内ガス組成信号)をガス導入量制御手段26へ出力する。
具体的には、炉内ガス組成演算手段24は、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。
【0047】
そして、炉内ガス組成演算手段24は、上記の測定及び演算による各ガス分圧に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。これにより、本実施形態のように、表面硬化処理を、ガス窒化処理とした場合では、炉内ガスの水素濃度に基づいて、炉内ガスのアンモニア濃度を演算して求める。この測定した炉内ガスの水素濃度及びアンモニア濃度は、処理炉2内の雰囲気を反映する要素であるため、炉内ガスの水素濃度及びアンモニア濃度に基づいて、処理炉2内の窒化ポテンシャルを検出することが可能となる。
【0048】
なお、表面硬化処理が、真空浸炭処理や真空浸炭窒化処理である場合は、炉内ガスの水素濃度に基づいて、炉内ガスのアセチレン濃度を演算して求める。
ガス導入量制御手段26は、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成と、予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御する。なお、設定炉内ガス混合比率は、表面硬化処理の種類及び複数種類の炉内導入ガスに応じて設定する値であり、予め、ガス導入量制御手段26に記憶しておく。また、ガス導入量制御手段26が行う制御については、後述する。
【0049】
また、ガス導入量制御手段26は、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御している状態では、その作動状態を示す情報信号(制御実施信号)を、開閉弁切換え制御手段12及び炉内導入ガス供給部14へ出力する。
記録計8は、CPU等やメモリ等の記憶媒体を備えて形成されている。
また、記録計8は、炉内温度計測手段20及び水素濃度検出手段4が出力した情報信号に基づいて、処理炉2内の温度と炉内ガスの水素濃度を、例えば、表面硬化処理を行った日時と対応させて記憶する。
開閉弁10は、水素濃度検出配管22に取り付けられて、処理炉2と水素濃度検出手段4との間に介装された弁である。
【0050】
また、開閉弁10は、開閉弁切換え制御手段12が出力する制御信号(開閉制御信号)に応じて、連通状態と閉鎖状態を切換可能に形成されている。
ここで、連通状態とは、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通させる状態であり、閉鎖状態とは、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する状態である。
開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26の動作状態に応じて、開閉弁10を連通状態または閉鎖状態に切り換える。なお、ガス導入量制御手段26の動作状態は、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に基づいて検出する。
【0051】
なお、本実施形態では、具体例として、以下に示す条件により、開閉弁切換え制御手段12が、開閉弁10を連通状態または閉鎖状態に切り換える場合を説明する。
具体的に、開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁10を連通状態に切り換える。一方、開閉弁切換え制御手段12は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁10を閉鎖状態に切り換える。
【0052】
炉内導入ガス供給部14は、第一炉内導入ガス供給部28と、第一炉内導入ガス供給量制御部30と、第一供給弁32と、第一炉内導入ガス流量計34と、第二炉内導入ガス供給部36と、第二炉内導入ガス供給量制御部38と、第二供給弁40と、第二炉内導入ガス流量計42と、炉内導入ガス導入配管44を備えている。
第一炉内導入ガス供給部28は、第一炉内導入ガスを充填したタンクにより形成されている。なお、本実施形態では、第一炉内導入ガスを、アンモニアガス(NH_(3))とした場合について説明する。
【0053】
第一炉内導入ガス供給量制御部30は、開度を変化可能なマスフローコントローラにより形成されており、第一炉内導入ガス供給部28と第一供給弁32との間に介装されている。なお、第一炉内導入ガス供給量制御部30の開度は、ガス導入量制御手段26が出力する制御信号(導入量制御信号)に応じて変化する。
また、第一炉内導入ガス供給量制御部30は、第一炉内導入ガス供給部28から第一供給弁32への第一炉内導入ガスの供給量を検出し、この検出した第一炉内導入ガスの供給量を含む情報信号(第一炉内導入ガス供給量信号)を、ガス導入量制御手段26へ出力する。この第一炉内導入ガス流量信号は、例えば、ガス導入量制御手段26が行う制御の補正等に用いる。
【0054】
第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間に介装されている。
具体的には、第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第一供給弁32の開閉状態を、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間を連通させる開放状態に切り換える。一方、第一供給弁32は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第一供給弁32の開閉状態を、第一炉内導入ガス供給量制御部30と第一炉内導入ガス流量計34との間を閉鎖する閉鎖状態に切り換える。
【0055】
第一炉内導入ガス流量計34は、例えば、フロー式流量計等の機械的な流量計で形成されており、第一供給弁32と炉内導入ガス導入配管44との間に介装されている。
また、第一炉内導入ガス流量計34は、第一供給弁32から炉内導入ガス導入配管44を通じて処理炉2へ導入される第一炉内導入ガスの流量を検出する。なお、第一炉内導入ガス流量計34が検出した第一炉内導入ガスの流量は、例えば、表面硬化処理を行う作業員の目視による、第一炉内導入ガスの流量の確認作業に用いる。
【0056】
第二炉内導入ガス供給部36は、第二炉内導入ガスを充填したタンクにより形成されている。なお、本実施形態では、第二炉内導入ガスを、窒素ガス(N_(2))とした場合について説明する。
第二炉内導入ガス供給量制御部38は、第一炉内導入ガス供給量制御部30と同様、開度を変化可能なマスフローコントローラにより形成されており、第二炉内導入ガス供給部36と第二供給弁40との間に介装されている。なお、第二炉内導入ガス供給量制御部38の開度は、ガス導入量制御手段26が出力する制御信号(導入量制御信号)に応じて変化する。
【0057】
また、第二炉内導入ガス供給量制御部38は、第二炉内導入ガス供給部36から第二供給弁40への第二炉内導入ガスの供給量を検出し、この検出した第二炉内導入ガスの供給量を含む情報信号(第二炉内導入ガス供給量信号)を、ガス導入量制御手段26へ出力する。この第二炉内導入ガス流量信号は、例えば、ガス導入量制御手段26が行う制御の補正等に用いる。
【0058】
第二供給弁40は、第一供給弁32と同様、ガス導入量制御手段26が出力する情報信号(制御実施信号)に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間に介装されている。
具体的には、第二供給弁40は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第二供給弁40の開閉状態を、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間を連通させる開放状態に切り換える。一方、第二供給弁40は、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第二供給弁40の開閉状態を、第二炉内導入ガス供給量制御部38と第二炉内導入ガス流量計42との間を閉鎖する閉鎖状態に切り換える。
【0059】
第二炉内導入ガス流量計42は、第一炉内導入ガス流量計34と同様、例えば、フロー式流量計等の機械的な流量計で形成されており、第二供給弁40と炉内導入ガス導入配管44との間に介装されている。
また、第二炉内導入ガス流量計42は、第二供給弁40から炉内導入ガス導入配管44を通じて処理炉2へ導入される第二炉内導入ガスの流量を検出する。なお、第二炉内導入ガス流量計42が検出した第二炉内導入ガスの流量は、例えば、表面硬化処理を行う作業員の目視による、第二炉内導入ガスの流量の確認作業に用いる。
【0060】
炉内導入ガス導入配管44は、第一炉内導入ガス流量計34及び第二炉内導入ガス流量計42と処理炉2とを連結する配管であり、第一炉内導入ガス及び第二炉内導入ガスの処理炉2への導入経路を形成している。
以下、上述した構成を前提として、ガス導入量制御手段26が行う制御について、具体的な例を挙げて説明する。
【0061】
ガス導入量制御手段26は、上述した式(2)で表される窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるように、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成を参照して、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量を演算する。
【0062】
そして、ガス導入量制御手段26は、演算したそれぞれのガス(NH_(3),N_(2))の導入量に基づいて、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38へ、それぞれの導入量を制御する制御信号(導入量制御信号)を出力する。
なお、ガス導入量制御手段26が、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))の導入量を制御する際は、以下の二通りの制御のうち、一方を行う。
第一の制御は、処理炉2内へ導入する混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))の処理炉2内への合計導入量を制御するものである。
【0063】
一方、第二の制御は、混合ガス(アンモニアガス+窒素ガス)の炉内導入ガス流量比率が変化するように、アンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))について、それぞれの導入量を個別に変化させる制御である。
なお、表面硬化処理が、真空浸炭処理や真空浸炭窒化処理である場合は、ガス導入量制御手段26は、上述した式(4)で表される浸炭ポテンシャルK_(C)が所望の値となるように、炉内ガス組成演算手段24が演算した炉内ガス組成を参照して、複数種類の炉内導入ガス(アセチレンガス等)の導入量を演算する。
【0064】
(動作)
以下、図1を参照して、被処理品の表面硬化処理を行う際の、本実施形態の表面硬化処理装置1の動作について説明する。
まず、処理炉2内に被処理品Sを配置した後、炉内導入ガス供給部14からアンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))を混合した混合ガスを処理炉2内へ導入し、攪拌ファン駆動モータ18を駆動させて攪拌ファン16を回転させ、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
【0065】
このとき、開閉弁切換え制御手段12は、開閉弁10の状態を閉鎖状態に切り換え、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する。これにより、炉内ガスが含む汚染成分が、センサ部を含む水素濃度検出手段4へ接触することを抑制する。なお、炉内ガスが含む汚染成分とは、例えば、被処理品Sに付着している油分や汚れが、処理炉2内で気化することにより、炉内ガスに含まれる。
【0066】
ここで、本実施形態では、設定炉内ガス混合比率を、アンモニアガス(NH_(3)):窒素ガス(N_(2))=80:20とする。このため、表面硬化処理を開始する際には、処理炉2内へのアンモニアガス(NH_(3))及び窒素ガス(N_(2))の導入量は、アンモニアガス(NH_(3))の導入量と窒素ガス(N_(2))の導入量との比が、80:20となるように、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38の開度を制御する。
【0067】
これに加え、図外の加熱機等を用いて、処理炉2内の温度(処理温度)を300?1100℃の範囲内とし、さらに、図外のポンプ等を用いて、処理炉2内の圧力(処理圧力)を13?133000Paの範囲内とする。
このとき、炉内温度計測手段20が、炉内ガスの温度を計測し、この計測した温度を含む情報信号(炉内温度信号)を、調節計6及び記録計8へ出力する。
調節計6が炉内温度信号の入力を受けると、ガス導入量制御手段26は、処理炉2内の状態が、加熱機等による昇温中ではなく、処理炉2内の温度が上記の条件で安定している状態であるか否かを判定する。
【0068】
そして、処理炉2内の温度が上記の条件で安定している状態であると判定すると、ガス導入量制御手段26は、複数種類の炉内導入ガスの導入量の制御を開始する。これに加え、ガス導入量制御手段26は、作動状態を示す制御実施信号を、開閉弁切換え制御手段12及び炉内導入ガス供給部14へ出力する。
制御実施信号の入力を受けた開閉弁切換え制御手段12は、開閉弁10の状態を連通状態に切り換える。
【0069】
開閉弁10が連通状態に切り換わると、処理炉2と水素濃度検出手段4が連通し、炉内ガスが水素濃度検出配管22内を移動して、水素濃度検出手段4のセンサ部に接触する。
炉内ガスが水素濃度検出手段4のセンサ部に接触すると、水素濃度検出手段4が炉内ガスの水素濃度を検出して、この検出した水素濃度を含む水素濃度信号を、調節計6及び記録計8へ出力する。
【0070】
調節計6が水素濃度信号の入力を受けると、炉内ガス組成演算手段24は、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算し、炉内ガス組成信号をガス導入量制御手段26へ出力する。
炉内ガス組成信号の入力を受けたガス導入量制御手段26は、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御する。これにより、処理炉2内の雰囲気を反映する炉内ガス組成を検出し、この検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御する。
【0071】
複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御して、処理炉2内の雰囲気を制御した状態で、被処理品Sの材質や量等に応じて設定した所定の時間、被処理品Sの表面硬化処理を行う。
被処理品Sの表面硬化処理を行う間、ガス導入量制御手段26が、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量を制御しておらず、制御実施信号を出力していない状態では、開閉弁切換え制御手段12が、開閉弁10を閉鎖状態に切り換える。
【0072】
以上説明したように、表面硬化処理装置1を用いた表面硬化処理方法は、複数種類の炉内導入ガスを処理炉2内へ導入して、処理炉2内に配置した被処理品Sの表面硬化処理を行う表面硬化処理方法である。ここで、複数種類の炉内導入ガスは、処理炉2内で水素を発生する少なくとも一種類の炉内導入ガスを含む。
また、表面硬化処理方法は、処理炉2内の炉内ガスの熱伝導度に基づいて、炉内ガスの水素濃度を検出し、検出した水素濃度に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算するステップを含む。
【0073】
さらに、表面硬化処理方法は、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率を一定値に保持した状態で、複数種類の炉内導入ガスの処理炉2内への合計導入量を制御するステップ、または、炉内導入ガス流量比率が変化するように複数種類の炉内導入ガスの導入量を個別に制御するステップを含む。
【0074】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、水素濃度検出手段4が炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、炉内ガス組成演算手段24が、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。
【0075】
そして、この測定した演算値に基づいて、炉内ガス組成演算手段24が、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、ガス導入量制御手段26が、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0076】
その結果、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御することが可能となるため、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。
また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【0077】
(2)本実施形態の表面硬化処理装置1では、開閉弁切換え制御手段12が、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、開閉弁10を連通状態に切り換えて、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通させる。
一方、開閉弁切換え制御手段12が、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、開閉弁10を閉鎖状態に切り換えて、処理炉2と水素濃度検出手段4との間を閉鎖する。
このため、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態において、炉内ガスが含む汚染成分が、センサ部を含む水素濃度検出手段4へ接触することを抑制可能となる。
【0078】
その結果、水素濃度検出手段4の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
なお、表面硬化処理が、真空浸炭処理や真空浸炭窒化処理である場合は、処理炉2内で発生した煤やタールが熱伝導度センサに導入されることを抑制可能となり、水素濃度検出手段4の検出精度が低下することを、長期間に亘り抑制することが可能となる。
【0079】
(3)本実施形態の表面硬化処理方法では、炉内ガスの熱伝導度に基づいて検出した炉内ガスの水素濃度に応じて、処理炉2内で水素を発生する炉内導入ガスの炉内濃度を演算して求める。そして、この演算値に基づいて、炉内ガスの組成である炉内ガス組成を演算する。
このため、演算した炉内ガス組成と予め設定した設定炉内ガス混合比率に応じて、炉内ガス組成が設定炉内ガス混合比率となるように、複数種類の炉内導入ガスの導入量を制御することが可能となる。
【0080】
その結果、炉内ガス組成と設定炉内ガス混合比率に応じて検出した処理炉2内の雰囲気を参照して、処理炉2内の雰囲気を制御することが可能となるため、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させることが可能となる。
また、大気中へのガス排出量を減少させることが可能となるため、環境の悪化を抑制することが可能となる。
【0081】
(応用例)
以下、本実施形態の応用例を列挙する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、水素濃度検出配管22を、処理炉2と水素濃度検出手段4とを直接連通させる単線の経路で形成したが、これに限定するものではない。すなわち、水素濃度検出配管22を、図2中に示すように、処理炉2と水素濃度検出手段4との間で複数の経路に分岐する複線の経路で形成してもよい。なお、図2は、第一実施形態の変形例の構成を示す図である。また、図2中では、処理炉2、水素濃度検出手段4、水素濃度検出配管22及び開閉弁10以外の図示を省略している。
【0082】
この場合、水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する第一配管22aと、処理炉2と第一配管22aとを連通する第二配管22bと、第一配管22aと連通する第三配管22cから形成する。
そして、第一配管22a、第二配管22b及び第三配管22cが形成する経路に、それぞれ、開閉弁10を介装する。この場合、図2中に示すように、第一配管22aに介装する開閉弁10を第一開閉弁10aとし、第二配管22bに介装する開閉弁10を第二開閉弁10bとし、第三配管22cに介装する開閉弁10を第三開閉弁10cとする。
【0083】
水素濃度検出配管22及び開閉弁10の構成を、図2中に示す構成とすると、水素濃度検出手段4の応答性を向上させることが可能となる。これに加え、水素濃度検出配管22に残留しているガスの排気や、水素濃度検出手段4のチェックを行うことが容易となる。このため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
具体的には、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御している状態では、第三開閉弁10cを閉鎖状態とし、第一開閉弁10a及び第二開閉弁10bを連通状態とすることにより、炉内ガスの流れが良好となる。このため、炉内ガスのうち、偏った成分のみが水素濃度検出手段4へ導入されることを抑制して、処理炉2内の雰囲気全体の水素濃度を正確に反映することが可能となり、水素濃度検出手段4の検出精度を向上させることが可能となる。
【0084】
また、炉内ガスの流れが良好となると、炉内ガスが水素濃度検出手段4へ導入されるまでの時間を短縮することが可能となるため、水素濃度検出手段4の応答性を向上させることが可能となる。
一方、ガス導入量制御手段26が炉内導入ガスの導入量を制御していない状態では、第一開閉弁10aを閉鎖状態とし、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを連通状態とすることにより、第三開閉弁10cから窒素ガス等の清浄なガスを導入し、その後、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを閉鎖状態とすることにより、第三配管22c内に残留している炉内ガスを排気することが可能となる。このため、次に行う表面硬化処理において、炉内ガスの水素濃度を検出するまでに、水素濃度検出配管22内を清浄な状態に保持することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0085】
また、表面硬化処理を行っていない状態では、第一開閉弁10aを閉鎖状態とし、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを連通状態とし、第三開閉弁10cから窒素ガスなどの清浄なガスを導入することにより、水素濃度検出手段4のゼロ点調整を行うことが可能となる。また、水素濃度が明確なガス(標準水素ガス)を水素濃度検出手段4へ導入することにより、水素濃度検出手段4のスパン調整を行うことが可能となり、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0086】
(2)本実施形態の表面硬化処理装置1では、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38を、マスフローコントローラにより形成したが、これに限定するものではない。すなわち、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38を、安価な手動式のフロー式流量計で形成するとともに、流量を予め設定した複数個のガス流量計をフロー式流量計及び自動開閉弁と組み合わせて、第一炉内導入ガス供給量制御部30及び第二炉内導入ガス供給量制御部38を形成してもよい。
【0087】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図3は、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
図3中に示すように、本実施形態の表面硬化処理装置1の構成は、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の構成と、配管温度制御手段46を備えている点を除き、上述した第一実施形態と同様であるため、以下の説明は、配管温度制御手段46に関する部分を中心に記載する。なお、図3中では、処理炉2、水素濃度検出手段4、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び配管温度制御手段46以外の図示を省略している。
【0088】
水素濃度検出配管22は、処理炉2と水素濃度検出手段4とを連通する第一配管22aと、処理炉2と第一配管22aとを連通する第二配管22bと、第一配管22aと連通する第三配管22cから形成されている。
開閉弁10は、第一配管22aに介装する第一開閉弁10aと、第二配管22bに介装する第二開閉弁10bと、第三配管22cに介装する第三開閉弁10cから形成されている。
配管温度制御手段46は、線状のヒーターを用いて形成されており、水素濃度検出配管22の温度を制御する。
【0089】
具体的には、配管温度制御手段46は、水素濃度検出配管22内で炉内ガスが固体として析出しないように、炉内導入ガスの種類に応じて、水素濃度検出配管22の温度を、25?450℃の範囲内に制御する。
具体的には、配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス窒化処理であり、炉内導入ガスの種類が、処理炉2内で塩化水素ガスが発生するようなガスである場合は、水素濃度検出配管22の温度を340?450℃の範囲内に制御する。
また、配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス軟窒化処理である場合は、水素濃度検出配管22の温度を60?100℃の範囲内に制御する。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
【0090】
(動作)
以下、図3を参照して、被処理品の表面硬化処理を行う際の、本実施形態の表面硬化処理装置1の動作について説明する。なお、本実施形態の表面硬化処理装置1の動作は、配管温度制御手段46が行う動作を除き、上述した第一実施形態と同様であるため、以下の説明は、配管温度制御手段46が行う動作を中心に記載する。また、以下の説明は、表面硬化処理をガス窒化処理とした場合について記載する。
【0091】
表面硬化処理を行う際には、処理炉2内に被処理品Sを配置した後、混合ガスを処理炉2内へ導入し、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
このとき、配管温度制御手段46は、表面硬化処理がガス窒化処理であり、炉内導入ガスの種類が、処理炉2内で塩化水素ガスが発生するようなガスであるため、水素濃度検出配管22の温度を340?450℃の範囲内に制御する。
【0092】
配管温度制御手段46が、水素濃度検出配管22の温度を340?450℃の範囲内に制御すると、炉内ガスが水素濃度検出配管22内で固体として析出することを抑制した状態で、表面硬化処理を行うことが可能となる。これにより、水素濃度検出手段4の検出精度の低下を抑制し、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持した状態で、表面硬化処理を行うことが可能となる。
【0093】
(第二実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を記載する。
(1)本実施形態の表面硬化処理装置1では、配管温度制御手段46が、炉内導入ガスの種類に応じて、水素濃度検出配管22の温度を25?450℃の範囲内に制御することにより、炉内ガスが水素濃度検出配管22内で固体として析出することを抑制する。
【0094】
このため、ガス窒化処理やガス軟窒化処理等、塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムが水素濃度検出配管22内で析出するおそれのある表面硬化処理において、水素濃度検出配管22内における塩化アンモニウムや炭酸アンモニウムの析出を抑制することが可能となる。
その結果、炭酸アンモニウムの析出や処理炉2内における塩化水素の発生を抑制することが可能となるため、水素濃度検出手段4の検出精度を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0095】
(第一実施例)
上述した第一実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第一発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第一実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第一比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
なお、第一発明例及び第一比較例共に、処理炉として、ピット型ガス窒化炉(処理重量:50kg/gross)を備え、処理炉内の温度を570℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、1.6m^(3)/hに制御し、また、窒素ガスの処理炉への導入量を、マスフローコントローラにより、0.4m^(3)/hに制御して、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるように、ガス窒化処理を行った。
【0096】
ここで、第一発明例では、NH_(3):N_(2)=80:20という混合ガスの混合比率を基にして、ガス導入量制御手段により、窒化ポテンシャルK_(N)が3.3となるための水素濃度の設定値と、水素濃度検出手段により検出した炉内ガスの水素濃度とを比較し、アンモニアガス及び窒素ガスのマスフローコントローラに対して、それぞれ、処理炉2内への導入量の比率である炉内導入ガス流量比率NH_(3):N_(2)=80:20を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御することにより、窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。
【0097】
一方、第一比較例では、窒素ガスの処理炉内への導入量のみを制御することにより、窒化ポテンシャルK_(N)を制御した。
以下、炉内ガスの水素濃度(炉内水素濃度)、炉内ガスのアンモニア濃度(炉内アンモニア濃度)、処理炉内の雰囲気の窒化ポテンシャル(窒化ポテンシャルK_(N))を測定した結果を、表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1中に示されているように、第一発明例では、窒化ポテンシャルK_(N)を、3.3
と、精度良く制御することができた。また、炉内水素濃度を27.4%、炉内アンモニア濃度を47.2%に、それぞれ、制御することが可能であった。
これに対し、第一比較例では、窒化ポテンシャルK_(N)の制御が不可能であった。また、炉内水素濃度を27.4%に制御することが可能であったものの、炉内アンモニア濃度は計算不能であった。
これは、第一比較例では、水素濃度検出手段により炉内ガスの水素濃度のみを検出することは可能であったが、炉内ガス中における炉内ガス組成が不明であったため、検出した水素濃度からアンモニア濃度を求めることができず、窒化ポテンシャルK_(N)の演算が不可能であったためである。
【0100】
(第二実施例)
上述した第二実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第二発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第二実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第二比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0101】
ここで、図4を参照して、第二比較例の表面硬化処理装置1の構成を説明する。
図4は、比較例の表面硬化処理装置1の構成を示す図である。
図4中に示すように、比較例の表面硬化処理装置1は、開閉弁を備えていない点を除き、第一発明例(図1参照)と同様の構成である。なお、図4中では、処理炉2及び水素濃度検出手段4以外の図示を省略している。
【0102】
なお、第二発明例及び第二比較例共に、処理炉として、バッチ型ガス軟窒化炉(処理重量:600kg/gross)を備え、処理炉内の温度を580℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を8m^(3)/h、窒素ガスの処理炉への導入量を5m^(3)/h、二酸化炭素ガスの処理炉への導入量を0.4m^(3)/hに制御して、3時間のガス軟窒化処理を、5ロット/日で5日間/週の期間行った。
【0103】
ここで、第二発明例では、配管温度制御手段46により、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の温度を60℃に制御し、さらに、水素濃度検出手段4付近の温度を80℃に制御した。これに加え、第二発明例では、被処理品の温度が580℃に到達してから冷却する前の、ガス軟窒化処理期間のみ、第一開閉弁10a及び第二開閉弁10bを連通状態として、水素濃度検出手段4により炉内ガスの水素濃度を検出した。また、被処理品の冷却中は、第一開閉弁10aを閉鎖状態とし、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを連通状態として、窒素ガスを5分間流すことにより、水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部をパージした。その後、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cを閉鎖状態として、センサ部と、第一開閉弁10a、第二開閉弁10b及び第三開閉弁10cにより囲まれた水素濃度検出配管22内の空間を窒素ガスで封入しておき、この状態を、次に行う表面硬化処理における処理炉2内の昇温が完了するまで保持した。
【0104】
一方、第二比較例では、水素濃度検出手段4のセンサ部付近の温度を40℃に制御した。
以下、水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部の汚染状況(接続配管及びセンサー部の汚染状況)と、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度の標準水素ガスによる誤差のチェック結果(熱伝導度センサー値の標準水素ガスによる誤差チェック結果)を測定した結果を、表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
表2中に示されているように、第二比較例では、1ロット目から水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部に析出した炭酸アンモニウムと被処理品からの油分や汚れが付着し始めた。また、3ロットが終了した時点において、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して約10%の誤差が生じていたことが確認された。
【0107】
これに対し、第二発明例では、10ロットを処理した後においても、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び水素濃度検出手段4のセンサ部に、炭酸アンモニウムの析出は発生していなかった。また、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが確認された。さらに、第二発明例では、4ヶ月経過した後に、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが確認された。
【0108】
(第三実施例)
上述した第一実施形態の表面硬化処理装置(以下、「第三発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第一実施形態の表面硬化処理装置とは構成が異なる装置(以下、「第三比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0109】
なお、第三発明例及び第三比較例共に、処理炉として、バッチ型ガス軟窒化炉(処理重量:600kg/gross)を備え、処理炉内の温度を580℃とし、アンモニアガスの処理炉への導入量を8m^(3)/h、窒素ガスの処理炉への導入量を5m^(3)/h、二酸化炭素ガスの処理炉への導入量を0.4m^(3)/hに制御して、3時間のガス軟窒化処理を、被処理品(S45C材及びSCM440材)に対して行った。
【0110】
ここで、第三発明例では、処理炉内の昇温が完了した後、3時間のガス軟窒化処理を行う間は、窒化ポテンシャルK_(N)が3.1(N_(2):23%,NH_(3):35%)となるように、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への導入量を保持した状態で、アンモニアガス及び窒素ガスの処理炉内への合計導入量を制御することにより、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0111】
一方、第三比較例では、処理炉内の昇温が完了した後、3時間のガス軟窒化処理を行う間は、処理炉内の雰囲気を制御せずに、アンモニアガス、窒素ガス及び二酸化炭素ガスの処理炉への導入量を、それぞれ、上記の値に保持した。
以下、炉内導入ガスの使用量(ガス使用量)、表面硬化処理装置の窒化性能(窒化性能)を測定した結果を、表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
表3中に示されているように、第三発明例では、表面硬化処理装置の窒化性能を第三比較例と同様に保持した状態で、炉内導入ガスの使用量を大幅に削減することが可能となり、表面硬化処理に要するランニングコストを減少させて、経済的効果を達成するとともに、大気中へのガス排出量を減少させて、環境の悪化を抑制することが可能となることが確認された。
【0114】
(第四実施例)
上述した第二実施形態の表面硬化処理装置と同様の各種センサ及び配管温度制御手段を備え、表面硬化処理として真空浸炭処理を行う構成の表面硬化処理装置(以下、「第四発明例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合と、第二比較例と同様の構成を有する装置(以下、「第四比較例」と記載する)により表面硬化処理を行った場合に対し、処理炉内の雰囲気を制御した。
【0115】
なお、第四発明例及び第四比較例共に、処理炉として、バッチ型真空浸炭炉(処理重量:600kg/gross)を備え、まず、処理炉内の温度を950℃として、15minの浸炭、30minの拡散、7minの浸炭、45minの拡散を順に行い、その後、処理炉内の温度を850℃として、30minの保持を行った後、60℃の油中において、被処理品を焼入れした。さらに、処理炉内の圧力を1067Paとして、2時間の間、プロパンガスの処理炉への導入量を30L/m、窒素ガスの処理炉への導入量を20L/mに制御して、2ロット/日で5日間/週の期間、真空浸炭処理を行った。
ここで、第四発明例では、配管温度制御手段46により、水素濃度検出配管22及び開閉弁10の温度を60℃に制御し、さらに、水素濃度検出手段4付近の温度を80℃に制御した。
【0116】
一方、第四比較例では、水素濃度検出手段4のセンサ部付近の温度を40℃に制御した。
以下、水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部の汚染状況(接続配管及びセンサー部の汚染状況)と、水素濃度検出手段4が検出した水素濃度の標準水素ガスによる誤差のチェック結果(熱伝導度センサー値の標準水素ガスによる誤差チェック結果)を測定した結果を、表4に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
表4中に示されているように、第四比較例では、1ロット目から水素濃度検出配管22及び水素濃度検出手段4のセンサ部に、煤やタールが付着し始めた。また、10ロットが終了した時点において、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して約20%の誤差が生じていたことが確認された。
【0119】
これに対し、第四発明例では、10ロットを処理した後においても、水素濃度検出配管22、開閉弁10及び水素濃度検出手段4のセンサ部に、煤やタールの付着は発生していなかった。また、10ロットが終了した時点において、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが発見された。さらに、第四発明例では、3ヶ月経過した後に、標準水素ガスにより、水素濃度検出手段4の精度をチェックしたところ、フルスケールに対して0.5%以内の誤差しか生じていないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法は、金属材料からなる、自動車、建設機械、各種産業機械等の部品や金型に対する、窒化、軟窒化、浸炭、浸炭窒化等の表面硬化処理に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 表面硬化処理装置
2 処理炉
4 水素濃度検出手段
6 調節計
8 記録計
10 開閉弁(第一開閉弁10a、第二開閉弁10b、第三開閉弁10c)
12 開閉弁切換え制御手段
14 炉内導入ガス供給部
16 攪拌ファン
18 攪拌ファン駆動モータ
20 炉内温度計測手段
22 水素濃度検出配管(第一配管22a、第二配管22b、第三配管22c)
24 炉内ガス組成演算手段
26 ガス導入量制御手段
28 第一炉内導入ガス供給部
30 第一炉内導入ガス供給量制御部
32 第一供給弁
34 第一炉内導入ガス流量計
36 第二炉内導入ガス供給部
38 第二炉内導入ガス供給量制御部
40 第二供給弁
42 第二炉内導入ガス流量計
44 炉内導入ガス導入配管
46 配管温度制御手段
S 被処理品
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-03-28 
結審通知日 2017-03-31 
審決日 2017-04-13 
出願番号 特願2009-170345(P2009-170345)
審決分類 P 1 123・ 121- YAA (C23C)
P 1 123・ 113- YAA (C23C)
P 1 123・ 537- YAA (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 祢屋 健太郎  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 富永 泰規
小川 進
登録日 2014-10-10 
登録番号 特許第5629436号(P5629436)
発明の名称 表面硬化処理装置及び表面硬化処理方法  
代理人 辻居 幸一  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 石崎 亮  
代理人 佐竹 勝一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 尾林 章  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 尾林 章  

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