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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1342379
審判番号 不服2017-15536  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-19 
確定日 2018-07-12 
事件の表示 特願2013-216951「水溶液系二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月23日出願公開、特開2015-79685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年10月18日の出願であって、平成29年4月24日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものの、同年8月17日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年10月19日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明について
(1)本願発明
平成29年10月19日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、適法になされたものであるから、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成29年10月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水溶液系二次電池であって、
ナトリウムを含み、更にMn及びZnのうち1以上を含むプルシアンブルー類似体を主成分としナトリウムを吸蔵放出する正極活物質を含む正極と、
ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液と、を備え、
前記正極活物質は、基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)で表されるプルシアンブルー類似体である、
水溶液系二次電池。」
なお、本件補正により請求項2は補正されているが、請求項1は補正がなされておらず、本願発明は、拒絶査定時の請求項1に係る発明と同じである。

3 先願明細書等の記載、及び、先願発明
(1)先願明細書等の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願2012-199577号(特開2014-56663号公報参照)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の記載がある。(下線は、当審で付した。)
ア 特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む正極、金属ナトリウム、ナトリウム含有物質もしくはナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む負極、及び、ナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であり、前記正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質が、M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を含むことを特徴とするナトリウム二次電池。
【請求項2】
ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む正極、金属ナトリウム、ナトリウム含有物質もしくはナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む負極、及び、ナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であり、前記正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質が、Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を含むことを特徴とするナトリウム二次電池。」
「【請求項4】
前記電解質は、ナトリウムイオンを含む水系電解液であることを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウム二次電池。」
イ 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム二次電池に関する。特に本発明は、ナトリウム二次電池の正極材料にM_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)又はNa_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を用いた、コスト性及びサイクル特性に優れたナトリウム二次電池に関する。」
「【0009】
さらに、本発明では、前記正極の正極材料は、Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(0<x≦3.0、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)であってもよい。」
「【0016】
本発明では、正極は、M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)、又はNa_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)(以下単に、正極材料とも称する。)を含むものである。」
「【0019】
本発明で使用できるNa_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(0<x≦3.0;M=V、Mn、Co、Ni、Cu)は、例えば以下の手順で得ることができる。
【0020】
市販の試薬であるフェリシアン化カリウムK_(3)[Fe(CN)_(6)]粉末、MCl_(2)、及び塩化ナトリウムNaClを、別々に蒸留水などの溶媒に溶解し、それぞれの溶液を、目的とする試料の組成モル比となるように混合し、一昼夜攪拌して沈殿物を得る。沈殿物は、遠心分離機、吸引ろ過機等の回収手段を用いて回収し、乾燥を行う。
【0021】
本発明のナトリウム二次電池の正極は、上記正極材料とカーボン粉末のようなカーボン材料と混合したものを含むことが好ましい。
【0022】
上述の正極は、例えば以下のような手段により調製することができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
まず、カーボン粉末(例えばアセチレンブラック粉末などのカーボンブラック類)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような結着剤粉末、及び、M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)又はNa_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を混合し、次いでロールプレス機により圧延し、所定サイズに切り抜いてペレット状に成型することにより、正極を調製することができる。
【0024】
あるいは、前述のカーボン粉末、結着剤粉末及びM_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)又はNa_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)の混合物を有機溶剤(例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP))等の溶媒中に分散してスラリー状にした後、例えば銅箔のような金属箔上に塗布し、乾燥することにより、正極を調製できる。
【0025】
本発明の正極は、ナトリウムイオンを含む有機電解液及びナトリウムイオンを含む水系電解液の両電解液を電解質溶液として用いることができる。また、ナトリウムイオンを含む固体電解質やポリマー電解質などの固体状の電解質も使用することができる。」
「【0033】
さらに図1には明記していないが、正極、負極、電解質、セパレータ等を被う電池ケース等を含むことができる。本発明では、M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)、又はNa_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を正極の材料として用いることが特に好ましい。」
「【0045】
(実施例1?5)
(i)ナトリウム二次電池の作製
ナトリウム二次電池は、以下の手順で作製した。
【0046】
M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(M=V、Mn、Co、Ni又はCu)粉末、アセチレンブラック粉末(電気化学工業社製)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末(ダイキン社製)を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、次いで、ロール成形して、シートペレット状の電極(厚さ:0.5mm)を作製した。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。負極は、市販の試薬であるナトリウム塊(関東化学製)を、0.8mmの厚さまでプレスし、直径15mmの円形シート状に成型することによって作製した。電解液は、炭酸エチレン(EC)(キシダ化学製)と炭酸ジメチル(DMC)(キシダ化学製)を体積比1:1で混合して調製した混合溶媒に、1mol/Lの濃度でナトリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)(キシダ化学製)を溶解することにより調製した。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード社製)を用いた。
【0047】
ナトリウム二次電池は、図2に示すような2320コイン型のものを製造した。正極は、上記のペレット電極を正極ケース4にセットし、チタンメッシュ(ニラコ製)(図示せず)で覆い、その周縁部をスポット溶接により固定した。負極は、負極ケース6にチタンメッシュ(ニラコ製)(図示せず)をスポット溶接で固定し、その上にナトリウムシートを圧着することにより固定して調製した。次に、ペレットを固定した正極ケースに、セパレータ2をセットし、さらにセパレータ2に電解液を注入し、ナトリウムシートを固定した負極ケースを被せ、コインセルかしめ機で正極ケース4及び負極ケース6をかしめることにより、ポリプロピレン製ガスケット5を含むコインセルを作製した。なお、ナトリウム二次電池の作製は、露点が-85℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。」
「【0052】
(実施例6?10)
ナトリウム二次電池の作製及び充放電特性の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
【0053】
表2に、放電容量、放電電圧、20サイクル目及び50サイクル目の放電容量維持率を示す。表より、V系が最も放電電圧が高く、他の実施例の場合でも3V級の高電圧を示すことがわかる。放電容量は、Cu系(実施例10)が最も大きな値を示した。また、サイクル性能は、いずれの実施例でもほぼ同様の傾向を示し、1サイクル当たり約0.5%程度の容量減少しか見られず、安定したサイクル特性を有していることが分かる。このような傾向は、実施例1?5と同様であった。また、実施例6?10における放電容量は、実施例1?5よりも10%程度低い傾向を示す。これは、本実施例では、初期に構造中にNaイオンを含有し、試料の重量が増加したためであると考えられる。
【0054】
また、Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)においてx=1.0及び2.0の試料を合成し、同様の評価を行った。その結果、実施例6?10とほぼ同様の結果が得られた。
【0055】
また、Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)においてx=3.1の化合物を調製し、正極材料として使用した場合は、放電電圧や放電容量は、低下した。これは、不純物相が生成されたことに起因すると考えられる。これは、本発明で規定したNa含有量の範囲が妥当であることを示している。
【0056】
上記のように、本実施例によるナトリウム二次電池は、高電圧でサイクル特性に優れた性能を有していることが確認された。
【0057】
【表2】



(2)先願発明
ア 上記(1)アの請求項2を引用する請求項4に注目すると、先願明細書等には以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む正極、金属ナトリウム、ナトリウム含有物質もしくはナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む負極、及び、ナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であり、
前記正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質が、Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を含み、
前記電解質は、ナトリウムイオンを含む水系電解液である、
ナトリウム二次電池。」

4 対比・判断
(1)本願発明と先願発明との対比
ア 先願発明の「電解質は、ナトリウムイオンを含む水系電解液である」から、先願発明の「ナトリウム二次電池」は、本願発明の「水溶液系二次電池」に相当する。

イ 先願発明の「正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質」は、技術常識に照らせば、本願発明の「ナトリウムを吸蔵放出する正極活物質」に相当する。

ウ また、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」は、ナトリウムを含むものであるから、次の参考文献に照らせば、本願発明の「ナトリウムを含」む「プルシアンブルー類似体」に相当するものといえる。

<参考文献>吉野和典,"プルシアンブルー;新しい応用とそのナノ粒子",THE CHEMICAL TIMES 2013 No.3(通巻229号)2013年7月発行,第23?27頁)
(参考文献の摘記)
「2.1 プルシアンブルーとは
プルシアンブルーは濃青色の錯体である。ヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III)、フェロシアン化鉄(III)、フェロシアン化第二鉄、紺青などはプルシアンブルーの別名である。一般的に化学式はFe_(4)[Fe(CN)_(6)]_(3)で示されるが、実際には次の二種類の化合物の総称である。一つは、「不溶性」タイプと呼ばれ、Fe^(3+)_(4)[Fe^(2+)(CN)_(6)]_(3)・xH_(2)O(x=14?16)で示される。このタイプは凝集した粒子であり水や溶媒中で沈降する。もう一つは、「可溶性」タイプで、M^(+)Fe^(3+)[Fe^(2+)(CN)_(6)]_(3)・yH_(2)O(M^(+):K^(+),NH_(4)^(+)、y=1?5)で示される。」(第23頁左欄最後から2行?右欄8行)
「プルシアンブルーのFe^(3+)を他の金属で置換すると、同様の結晶構造を持つプルシアンブルー類似体(Prussian Blue analogue(s))が得られる。」(第24頁左欄4?6行)

エ 上記3(1)イの【0046】の「アセチレンブラック粉末」及び「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」は、上記3(1)イの【0021】及び【0023】並びに技術常識からみて、「正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質」とはいえない。
この点を考慮しつつ、上記3(1)イの【0046】?【0047】の実施例1を参酌すると、上記3(1)イの【0052】?【0057】の実施例6?10では、「正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質」として、それぞれNa_(3)V_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)、Na_(3)Mn_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)、Na_(3)Co_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)、Na_(3)Ni_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)、Na_(3)Cu_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(いずれも先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」に相当。)のみが含まれているといえる。
そうすると、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」は、「正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質」の主成分であるといえる。

オ また、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」は、Mについて、V、Mn、Co、Ni、Cuの5つの態様を包含するものであるのに対し、本願発明の「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)」は、MについてMn及びZnの2つの態様を包含するものであるから、両者は、MがMnである部分において重複している。

カ さらに、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」は、先願明細書の【0019】?【0020】によると、原料である「フェリシアン化カリウムK_(3)[Fe(CN)_(6)]粉末」を蒸留水に溶解することにより得られるものであることが記載されており、Kカチオンが含まれないか、ごく微量含まれるものと認められるのに対し、本願発明の「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)」は、カリウムの組成比であるyが、0?0.50であって、カリウムについては、含まれないか、ごく微量含まれる場合を含んでいる。
そうすると、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」と、本願発明の「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)」とは、カリウムの含有量が0ないしごく微量である点で重複している。

キ また、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」は、水和物であることが特定されていないが、本願発明の「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O」は、aが任意の数であってゼロも含み、水和物であってもなくてもよいと解されるから、この点において、両者は相違しない。

ク さらに、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」は、「Na_(x/2)M_(3/2)Fe(CN)_(6)(式中、0<x/2≦1.5であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」と表すことができるから、本願発明の「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)」とは、基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)Oにおいて、0.5<x≦1.5、z=1.5である点で重複している。

ケ 上記オ?クによれば、先願発明の「Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)」と、本願発明の「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)」とは、「基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMnであり、0.5<x≦1.5、yは0ないしごく微量、z=1.5、aは任意の数)」の部分で重複している。

コ 上記イ?エ、ケより、先願発明の「ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む正極」「を含」み、「前記正極のナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質が、Na_(x)M_(3)[Fe(CN)_(6)]_(2)(式中、0<x≦3.0であり、Mは、V、Mn、Co、Ni又はCuから選ばれる少なくとも一つの金属である。)を含」むとの発明特定事項と、本願発明の「ナトリウムを含み、更にMn及びZnのうち1以上を含むプルシアンブルー類似体を主成分としナトリウムを吸蔵放出する正極活物質を含む正極」「を備え、前記正極活物質は、基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMn及びZnのうち1以上、0.5<x≦2.0、0≦y≦0.50、1.0≦z≦2.0、aは任意の数)で表されるプルシアンブルー類似体である」との発明特定事項とは、「ナトリウムを含み、更にMnを含むプルシアンブルー類似体を主成分としナトリウムを吸蔵放出する正極活物質を含む正極」「を備え、前記正極活物質は、基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMnであり、0.5<x≦1.5、yは0ないしごく微量、z=1.5、aは任意の数)で表されるプルシアンブルー類似体である」との発明特定事項で重複している。

サ 先願発明の「金属ナトリウム、ナトリウム含有物質もしくはナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む負極」「を含む」との発明特定事項は、本願発明の「ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極」「を備え」るとの発明特定事項に相当する。

シ 先願発明の「ナトリウムイオン導電性を有する電解質を含」み、「電解質は、ナトリウムイオンを含む水系電解液であ」るとの発明特定事項は、本願発明の「正極と前記負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液」「を備え」るとの発明特定事項に相当する。

ス 上記ア?シを踏まえ、本願発明と先願発明とを対比すると、先願発明は、
「水溶液系二次電池であって、
ナトリウムを含み、更にMnを含むプルシアンブルー類似体を主成分としナトリウムを吸蔵放出する正極活物質を含む正極と、
ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しナトリウムを溶解した水溶液である電解液と、を備え、
前記正極活物質は、基本組成式Na_(x)K_(y)M_(z)Fe(CN)_(6)・aH_(2)O(但し、MはMnであり、0.5<x≦1.5、yは0ないしごく微量、1.z=1.5、aは任意の数)で表されるプルシアンブルー類似体である、
水溶液系二次電池。」の部分で本願発明と重複している。

セ よって、本願発明は、上記重複する部分において、先願発明と同一である。

5 結言
以上のとおり、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-11 
結審通知日 2018-05-15 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2013-216951(P2013-216951)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮田 透藤原 敬士  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 宮本 純
土屋 知久
発明の名称 水溶液系二次電池  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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