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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K |
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管理番号 | 1342704 |
審判番号 | 不服2015-10108 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-01 |
確定日 | 2018-08-09 |
事件の表示 | 特願2011-521284「第FVIII因子ポリマー結合体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月 4日国際公開、WO2010/014708、平成25年 1月 7日国内公表、特表2013-500238〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年 7月29日を国際出願日とする出願であって、平成24年 5月10日に手続補正書が提出され、平成26年 1月23日付けで拒絶理由通知がされた後、平成26年 7月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年 1月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成27年 6月1日に拒絶査定不服審判が請求され、合議体から平成28年 6月29日付けで拒絶理由通知がされた後、平成29年 1月4日に意見書が提出された。 第2 合議体が通知した拒絶の理由 平成28年 6月29日付け拒絶理由通知書で合議体が通知した拒絶の理由は、その理由1である、平成26年 7月28日付け手続補正書の請求項1?10に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである、という理由を含むものである。 第3 拒絶理由についての判断 1 優先権の主張について パリ条約4条による優先権の主張を伴う出願については、当該優先権の主張の基礎となった最初の出願に係る出願書類の全体により明らかにされている場合には優先権が認められ、新規性の判断の基準日が当該優先権の主張の基礎となった最初の出願の日となる。本願は、国際出願時に、2008年8月1日に出願された米国特許出願12/184,567(以下、「優先基礎出願」という。)に基づき、パリ条約による優先権の主張をする旨の意思表示がされたものである。しかし、本願については、平成28年 6月29日付け拒絶理由通知書において、優先権の主張をする際の出願人による優先権書類の提出義務についての要件をみたしていないから、優先権の主張が認められない旨が指摘されている。そこで、特許法第29条第1項3号について検討するのに先だって、まず、優先権の主張が有効であるかを検討する。 本願における優先権の主張に関係する手続の経緯は概略以下のとおりである。 2008年 8月 1日 優先基礎出願 2009年 7月29日 国際出願 2010年 2月 4日 国際公開 2010年 7月 2日 国際事務局への優先権書類の到達 2011年 1月27日 国内書面提出 2011年 2月 1日 国内書面提出期間の満了する時の属する日 2011年 4月 1日 特許法施行規則第38条の14の規定による優先権書類の提出期限 2011年 6月 9日付け 優先権の主張の書類提出に関する国際事務局の通知 国際出願における優先権の主張の手続について、特許協力条約規則(以下、「規則」という。)に以下の規定がある。 17.1 先の国内出願又は国際出願の謄本を提出する義務 (a)第8条の規定により先の国内出願又は国際出願に基づく優先権の主張を伴う場合には、当該先の国内出願又は国際出願を受理した当局が認証したその出願の謄本(「優先権書類」)は、既に優先権書類が優先権を主張する国際出願とともに受理官庁に提出されている場合並びに(b)及び(bの2)の規定に従う場合を除くほか、優先日から十六箇月以内に出願人が国際事務局又は受理官庁に提出する。ただし、当該期間の満了後に国際事務局が受理した当該先の出願の写しは、その写しが国際出願の国際公開の日前に到達した場合には、当該期間の末日に国際事務局が受理したものとみなす。 (b)優先権書類が受理官庁により発行される場合には、出願人は、優先権書類の提出に代えて、受理官庁に対し、優先権書類を、作成し及び国際事務局に送付するよう請求することができる。その請求は、優先日から十六箇月以内にするものとし、また、受理官庁は、手数料の支払を条件とすることができる。 (bの2)国際事務局が優先権書類を実施細則に定めるところにより国際出願の国際公開の日前に電子図書館から入手可能である場合には、出願人は、優先権書類の提出に代えて、国際事務局に対し、国際公開の日前に、当該優先権書類を当該電子図書館から入手するよう請求することができる。 (c)(a)、(b)及び(bの2)の要件のいずれも満たされない場合には、指定官庁は、(d)の規定に従うことを条件として、優先権の主張を無視することができる。ただし、指定官庁は、事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた後でなければ、優先権の主張を無視することはできない。 (d)指定官庁は、(a)に規定する先の出願が国内官庁としての当該指定官庁に出願されている場合又は当該指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合は、(c)の規定により優先権の主張を無視することはできない。 規則17.1(a)は、優先権の主張を伴う国際出願については、原則として優先日から16月以内に出願人が優先権書類を国際事務局又は受理官庁に提出することを定めている。そして、規則17.1(b)は、優先権書類の提出に代えて、受理官庁に対し、国際事務局への優先権書類の送付を請求することができる旨を規定し、同(bの2)には、優先権書類の提出に代えて、国際事務局に対し、電子図書館から当該書類を入手するよう請求できる場合がある旨を規定している。また、規則17.1(c)は、指定官庁が優先権の主張を無視することができる場合として、規則17.1(a)、(b)、(bの2)の要件のいずれも満たされない場合である旨を規定するとともに、ただし書きによって、優先権主張を無視することができない場合を定めている。さらに、規則17.1(d)にも、規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することができない場合が追加して定められている。 そうすると、本件については、規則17.1(a)、(b)及び(bの2)のいずれかの要件を満たしているかについて検討することによって、規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することができる場合に該当するか否かを判断するとともに、規則17.1(c)ただし書き及び規則17.1(d)に規定する優先権の主張を無視することができない場合に該当するか否かを判断することとなる。そこで、これらの点について以下で検討する。 (1)規則17.1(a)について 規則17.1(a)本文は、出願人は、優先日より16月以内に優先権書類を提出しなければならないと規定している。これを本願についてみると、2008年8月1日の優先日から16月後の2009年12月1日以前に優先権書類が提出されなければならないところ、2011年6月9日付の国際事務局の優先権の主張の書類提出に関する通知によれば、実際に優先権書類が国際事務局に提出された日は2010年7月2日であり、当該書類は規則17.1(a)本文に規定する期間内に提出されていない。 また、規則17.1(a)ただし書きによれば、当該期間の満了後に国際事務局が受理した優先権書類は、国際公開の日前に到達した場合には、当該期間の末日に国際事務局に到達したものとみなされる。しかし、実際に優先権書類が国際事務局に提出された日は2010年7月2日であって、国際公開の日である2010年2月4日よりも後である。 このように、本願については、規則17.1(a)を満たしていない。 (2)規則17.1(b)及び(bの2)について 規則17.1(b)によれば、優先権書類が受理官庁により発行される場合には、優先日から16月以内に、受理官庁に対し、優先権書類を、作成し及び国際事務局に送付するよう請求することができる。また、規則17.1(bの2)によれば、国際事務局に対し、国際公開の日前に、優先権書類を電子図書館から入手するよう請求することができる。しかしながら、本願において、所定の期間内にいずれの手続もとられておらず、規則17.1(b)、(bの2)を満たしていない。 (3)規則17.1(c)について 上記(1)及び(2)で検討したとおり、本願は、規則17.1(a)、(b)又は(bの2)のいずれも満たしていないから、規則17.1(c)第1文に規定された優先権の主張を無視することができる条件のひとつである「規則17.1(a)、(b)又は(bの2)のいずれも満たされない場合」に該当する。 また、規則17.1(c)における「ただし、指定官庁は、事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた後でなければ、優先権の主張を無視することはできない。」との点に関し、国内法上は、特許法施行規則第38条の14において、国内書面提出期間が満了する日後2月以内に優先権書類を提出する機会が与えられているが、本願においては、その期間内に優先権書類は提出されていない。したがって、本願は、規則17.1(c)のただし書きに規定する、優先権の主張を無視することができない場合にも該当しない。 規則17.1(c)第1文には、優先権の主張を無視することができる条件として、規則17.1(a)、(b)又は(bの2)のいずれも満たされない場合に該当することの他に、規則17.1(d)に従うことを条件とする旨が規定されているので、最終的に規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することができるか否かについては、次の(4)で、規則17.1(d)について検討した後に判断する。 (4)規則17.1(d)について 規則17.1(d)は、指定官庁は、(a)に規定する先の出願が国内官庁としての当該指定官庁に出願されている場合又は当該指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合は、(c)の規定により優先権の主張を無視することはできないと規定している。しかしながら、本願は、米国への特許出願を優先基礎出願とするものであって、日本国特許庁への特許出願を優先基礎出願とするものではないから、規則17.1(d)の「(a)に規定する先の出願が国内官庁としての当該指定官庁に出願されている場合」には該当しない。そこで、規則17.1(d)の「当該指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合」に該当するかを検討する。 規則17.1(d)における電子図書館からの優先権書類の入手の可能性については、実施細則715に以下の規定がある。 実施細則715 電子図書館からの優先権書類の入手の可能性 (a)規則17.1(bの2)、17.1(d)(該当する場合には、規則17.1(c)及び82の3.1(b)の規定によって適用する17.1(d)、66.7(a)(該当する場合には、規則43の2.1(b)の規定によって適用する66.7(a))及び91.1(e)の規定の適用上、次の場合には、国際事務局、指定官庁、国際調査機関又は国際予備審査機関が優先権書類を電子図書館から入手可能であるとみなす: (i)当該官庁又は機関が国際事務局に対し優先権書類を当該電子図書館から入手する用意があることを通知したか、又は国際事務局がその旨を宣言しており、かつ、 (ii)当該優先権書類が当該電子図書館において保有されており、出願人が当該電子図書館へのアクセスに関する手続において必要とされる範囲内で当該官庁もしくは機関又は国際事務局による当該優先権書類へのアクセスを承諾している場合 実施細則715(a)は、規則17.1(d)にいう、実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合として、実施細則715(i)に規定する官庁からの通知又は国際事務局による宣言がされたことと、実施細則715(ii)に規定する出願人の承諾がされていることの両方を満たす場合である旨を規定している。実施細則715(a)の規定からみて、実施細則715(a)(i)における通知を行う当該官庁とは、指定官庁を指すと解されるので、本願の指定官庁である日本国特許庁が実施細則715(a)の要件に該当するかを検討する。 まず、実施細則715(a)(i)について検討する。実施細則715(a)(i)に規定する国際事務局に対し優先権書類を当該電子図書館から入手する用意があることの通知及び国際事務局によるその旨の宣言について、日本国特許庁が指定官庁として優先権書類の電子的入手を行う旨の通知がされたとの事実はなく、国際事務局がその旨の宣言をしたとの事実もない。したがって、本願における指定官庁としての日本国特許庁は、実施細則715(a)(i)の要件を満たしていない。 したがって、実施細則715(a)(ii)の要件を判断するまでもなく、本願における指定官庁が、規則17.1(d)の規定の適用上、優先権書類を電子図書館から入手可能であるとはいえないから、本願は、規則17.1(d)に規定する、規則17.1(c)によって指定官庁が優先権の主張を無視することができない場合には該当しない。 なお、請求人は、本願が規則17.1(d)の規定により優先権の主張を無視することができない場合に該当する根拠として、概略、以下の点を指摘している。 (ア)日本国特許庁が平成21年4月1日より取得庁であることを通知した旨がWIPOのウエブサイトに掲載されていることや、日本国特許庁が米国との優先権書類の電子的交換を行っている旨が日本国特許庁のウエブサイトに掲載されていることから、出願人らの請求に応じて、電子図書館から優先権書類を取得する準備ができたことを通知したといえる。 (イ)優先権書類が米国特許商標庁の電子図書館に保持されている。 (ウ)優先基礎出願が既に本願の国際出願時には米国特許商標庁の電子図書館において公開され、日本国特許庁を含む万人が、基礎出願の優先権書類と同視すべき基礎出願に係る公開公報にアクセス可能になっており、出願人らは、優先基礎出願を取り下げて公開を阻止することも可能であるにもかかわらず、そのような取下げを行っていないから、当該公開公報の利用を許容している。 請求人の主張する上記(ア)は、本願において、日本国特許庁が実施細則715(a)(i)に該当すると主張することを意図するものと認められる。しかし、上記(ア)における日本国特許庁が取得庁である旨の通知は、優先権の主張を伴う日本国への出願を受け付ける特許庁としてのものであって、指定官庁としての日本国特許庁についてのものではない。また、同じく、請求人の主張する上記(ア)の米国との優先権書類の電子的交換は、日本国特許庁へ出願する際に米国特許出願を基礎とする優先権の主張が行われた出願についての特許法第43条に基づく手続に関するものであって、特許法第184条の3第2項の規定により、この規定は、国内段階へ移行した国際出願には適用されないものである。したがって、請求人の指摘する(ア)の点をもって、指定官庁としての日本国特許庁が、優先権書類を電子図書館から取得することを通知していたとはいえないから、本願の指定官庁が実施細則715(a)(i)の要件を満たすとはいえない。 請求人の主張する上記(イ)及び(ウ)は、本願が実施細則715(a)(ii)の場合に該当すると主張することを意図するものと認められる。しかしながら、公開公報は優先権書類として利用されているものではないから、公開公報が電子図書館から閲覧可能であることをもって優先権書類が入手可能であるとすることは誤りである。なお、公開後は、優先権書類の内容が記載された書類である優先基礎出願の出願明細書が、米国特許商標庁のウエブサイトの包袋閲覧システムから閲覧可能となるとしても、本願において、優先権書類の提出が可能な期間には、日本国特許庁が電子図書館から優先権書類を入手することを承諾する旨の意思表示が出願人よりなされたとの事実はなく、また、出願人が優先基礎出願を取り下げて米国特許商標庁の電子図書館における当該出願の公開を阻止する行動をとらなかったため、結果的に米国特許商標庁の電子図書館に格納されているデータへのアクセスの可能性が維持されていたとしても、そのことのみをもって、電子図書館からの優先権書類の入手の承諾があったとはいえない。したがって、本願が、実施細則715(a)(ii)の要件を満たすとはいえない。 以上のとおり、請求人の主張はいずれも誤りであり、採用することができない。 (5)以上のとおり、本願は、規則17.1(c)本文に規定する優先権の主張を無視することができる場合に該当し、規則17.1(c)ただし書に規定する規則17.1(c)の規定によって優先権の主張を無視することができない場合には該当しないから、本願の優先権の主張は認められない。 2 特許法第29条第1項第3号について (1)本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年 7月28日付け手続補正書の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 水溶性ポリマーを第VIII因子(FVIII)の酸化炭水化物部分へと結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含み、ここで、前記水溶性ポリマーに結合体化された前記FVIIIは、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%を保持する、方法。」 (2)刊行物の記載 上記1で述べたとおり、本願についての優先権の主張は認められないことから、特許法第29条の適用上、新規性の判断の基準日は、国際出願日の2009年7月29日となる。平成28年 6月29日付け拒絶理由通知に引用された刊行物1である米国特許出願公開第2009/0076237号明細書は、本願の国際出願日前に頒布された刊行物であって、以下の事項が記載されている(刊行物1は外国語で記載されているので、その記載を訳文で示す。) a「1.水溶性ポリマーと第VIII因子の酸化炭水化物部分とを結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む、方法。」(クレーム1) b「[0002] 本発明は、ポリエチレングリコールなどのポリ(アルキレンオキシド)を含めて、少なくとも1個の水溶性ポリマーに結合した凝固第VIII因子(FVIII)を含むタンパク質性構築物に関する。さらに、本発明は、FVIIIの機能的欠陥又は欠損に関連した出血性疾患を有するほ乳動物の血液中のFVIIIのin vivo半減期を延長する方法に関する。」 c「[0017] in vivoでのFVIIIの半減期を延長する可溶性ポリマーが結合したFVIII、例えば、非PEG化FVIIIと比べて機能活性を維持しつつin vivoでの半減期が延長されている、10,000ダルトンを超えるPEGが結合体化した完全長FVIIIなどの、PEG化FVIIIが、依然として必要とされている。」 d「 発明の詳細な説明 [0028] 本発明は、水溶性ポリマーに結合した、完全なBドメインの少なくとも一部を有するFVIII分子を含むタンパク質性構築物である。水溶性ポリマーとしては、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキサゾリン、ポリアクリロイルモルホリン、又はポリシアル酸(PSA)、デキストランなどの炭水化物が挙げられる。本発明の一実施形態においては、水溶性ポリマーは、10,000ダルトンを超える分子量を有するポリエチレングリコール分子である。別の実施形態においては、水溶性ポリマーは、10,000Daを超えて約125,000Daまで、約15,000Daから20,000Da、又は約18,000Daから約25,000Daの分子量を有する。一実施形態においては、構築物は、標準の治療用FVIII製品の完全な機能活性を保持し、標準の治療用FVIII製品よりも長いin vivo半減期を与える。別の実施形態においては、構築物は、未変性第VIII因子に対して少なくとも50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140又は150パーセント(%)の生物活性を保持する。」 e「[0048] FVIIIのグリコシル化パターン(Lenting et al;Blood,92:3983-96(1998))によれば、炭水化物部分を介したFVIII(審決の注:刊行物1には、FVIIと記載されているが、これは正しくはFVIIIの誤記であることは明らかである。)の結合体化は、FVIIIのBドメインで起こる可能性が高いはずである。BドメインはFVIIIの活性に役割を果たさないので、Bドメインをかかる結合体化反応の標的にすることが望ましい。・・・」 f「 実施例9 炭水化物部分を介したrFVIIIのPEG化 [0096] 炭水化物残基を介したPEG-rFVIII結合体の調製のために、rFVIII溶液(最終濃度:1.2mg/ml)を25mMリン酸バッファー、pH6.7で調製する。炭水化物残基の酸化のために、NaIO_(4)を添加する(最終濃度0.3mM)・・・。最終濃度10%でグリセロールを添加して反応をクエンチし、・・・遠心分離を繰り返して過剰の試薬を分離した。PEG-ヒドラジド(MW3300Da・・・)を添加して、最終濃度1.5mMの試薬を得た。次いで、PEG化を室温で2時間実施した。続いて、得られた結合体と過剰の試薬を、25mMリン酸バッファー、pH6.7を用い、・・・遠心分離を繰り返して分離した。」 g「 実施例10 PSA-ヒドラジンを用いたrFVIIIのポリシアル化 [0097] 炭水化物残基を介したPSA-rFVIII結合体の調製のために、rFVIII溶液(最終濃度:1mg/ml)を20mM酢酸ナトリウムバッファー、pH6.0で調製する。炭水化物残基の酸化のために、NaIO_(4)を添加する(最終濃度0.25mM)。酸化を4℃で暗所で60分間実施する。亜硫酸水素ナトリウム(最終濃度25mM)を添加して反応を停止させる。過剰の過ヨウ素酸ナトリウムをDG-10カラム・・・ゲルろ過によって分離する。続いて、・・・鎖長20kDのPSA-ヒドラジンを添加する(最終濃度10mM)。ポリシアル化手順を室温で2時間実施する。ポリシアル化rFVIIIをButyl-Sepharose・・・のHICによって精製する。5M NaCl溶液をその混合物に添加して最終濃度3M NaClにする。この混合物をButyl-Sepharose・・・充填カラムにかけ、6.7mM CaCl_(2)を含む50mM Hepesバッファー、pH7.4を使用してrFVIII-PSA結合体を溶出させる。結合体の溶出後、pHをpH6.9に調節する。」 (3)刊行物に記載された発明及び本願発明との対比・判断 (3-1)刊行物1の実施例9について ア 引用発明 刊行物1の実施例9に関する上記fには、炭水化物残基を介したPEG-rFVIII結合体の調製のための一連の工程が記載されている。結合体化の調製のための方法は、結合体化のための方法であるということもできるから、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明1) 「炭水化物残基を介したPEG-rFVIII結合体化のための方法であって、以下の工程からなる方法: rFVIII溶液(最終濃度1.2mg/ml)を25mMリン酸バッファー、pH6.7で調製する。炭水化物残基の酸化のために、NaIO_(4)を添加する(最終濃度0.3mM)。最終濃度10%でグリセロールを添加して反応をクエンチし、遠心分離を繰り返して過剰の試薬を分離する。PEG-ヒドラジド(MW3300Da)を添加して、最終濃度1.5mMの試薬を得る。次いで、PEG化を室温で2時間実施する。続いて、得られた結合体と過剰の試薬を、25mMリン酸バッファー、pH6.7を用い、遠心分離を繰り返して分離する。」 イ 対比 本願発明と引用発明1とを対比する。引用発明1におけるrFVIIIは、本願発明におけるFVIIIに該当し、引用発明1において、MW3300DaのPEGヒドラジドは、rFVIIIに結合するための活性化基として、ヒドラジド基が結合したPEGであり、分子量がおよそ3300Daであるから、本願発明における水溶性活性化ポリマーに該当し、そのPEGは、本願発明における水溶性ポリマーに該当する。そして、引用発明1において、rFVIII溶液に炭水化物残基の酸化のために、NaIO_(4)を添加し、グリセロールを添加して反応をクエンチし、過剰の試薬を分離することにより得られたものは、本願発明における酸化炭水化物に相当する。そして、引用発明1においては、この酸化炭水化物とPEGヒドラジドとを反応させ、結合体を調製すなわち製造しているから、本願発明と引用発明1とは、以下の点において一致する。 (一致点) 「水溶性ポリマーを第VIII因子(FVIII)の酸化炭水化物部分へと結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む方法。」 一方、引用発明1と本願発明とは、以下の点において、一応相違する。 (相違点) 本願発明は、「水溶性ポリマーに結合体化されたFVIIIは、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%を保持する」と特定されたものであるのに対し、引用発明1について、刊行物1には、水溶性ポリマーに結合体化されたFVIIIは、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%を保持するかどうかが明記されていない点。 ウ 相違点についての判断 上記の相違点につき、検討する。 刊行物1の[0002](b)の記載によれば、刊行物1に記載された方法は、FVIIIの機能不全やFVIIIの欠損による出血性の障害を有する哺乳類において、FVIIIの血中半減期を延長する方法に関するものであり、発明の背景の[0017](c)の記載によれば、半減期を延長するために水溶性ポリマーを結合し、非PEG化FVIIIと比べて生体半減期が延長される一方、機能的活性を保持するFVIIIが求められているものであるから、引用発明1は、水溶性ポリマーを結合することによって、非PEG化FVIIIと比べて生体半減期が延長される一方、活性を保持するFVIIIの提供を目的とするものであると認められる。 そして、刊行物1の[0028](d)には、刊行物1の発明は、FVIII分子のBドメインの少なくとも一部が無傷であり、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキサゾリン、ポリアクリロイルモルホリン又はポリシアル酸やデキストランのような炭水化物を含む水溶性ポリマーと結合しているタンパク質性の構築物であり、当該構築物が標準的な治療用FVIII製品の活性を全て保持し、延長された生体半減期を与える態様、及び、当該構築物が未変性のFVIIIの少なくとも50%の生物活性を保持する態様が記載されているから、刊行物1においては、少なくとも50%の生物活性を保持するものを意図していると認められる。 また、刊行物1の[0048](e)には、「FVIIIのグリコシル化パターン・・・によれば、炭水化物部分を介したFVIIIの結合体化は、FVIIIのBドメインで起こる可能性が高いはずである。BドメインはFVIIIの活性に役割を果たさないので、Bドメインをかかる結合体化反応の標的にすることが望ましい。」と記載されていることから、引用発明1におけるFVIIIの酸化炭水化物部分を介した活性化水溶性ポリマーによるFVIIIの結合体化は、FVIIIの活性に役割を果たさない部分であるBドメインで起こっていると推認される。また、引用発明1においては、酸化反応の後、グリセロールを添加して酸化反応をクエンチする操作や、過剰の試薬を分離する操作が反応段階ごとに行われていることから、FVIIIに対する影響が少なくなるように操作されている。以上の点からみて、引用発明1の生成物である結合体は、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%活性を保持していると認められるから、本願発明と引用発明1とは、上記相違点において相違するものではない。 したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。 (3-2)刊行物1の実施例10について ア 引用発明 上記(3-1)で刊行物1の実施例9について述べたのと同様に、刊行物1の上記gにおける実施例10の記載は、結合体化のための方法を記載したものであるといえるから、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 (引用発明2) 「炭水化物残基を介したPSA-rFVIII結合体化のための方法であって、以下の工程からなる方法: rFVIII溶液(最終濃度:1mg/ml)を20mM酢酸ナトリウムバッファー、pH6.0で調製する。炭水化物残基の酸化のために、NaIO_(4)を添加する(最終濃度0.25mM)。酸化を4℃で暗所で60分間実施する。亜硫酸水素ナトリウム(最終濃度25mM)を添加して反応を停止させる。過剰の過ヨウ素酸ナトリウムをDG-10カラムゲルろ過によって分離する。続いて、鎖長20kDのPSA-ヒドラジンを添加する(最終濃度10mM)。ポリシアル化手順を室温で2時間実施する。ポリシアル化rFVIIIをButyl-SepharoseのHICによって精製する。5M NaCl溶液をその混合物に添加して最終濃度3M NaClにする。この混合物をButyl-Sepharose充填カラムにかけ、6.7mM CaCl_(2)を含む50mM Hepesバッファー、pH7.4を使用してrFVIII-PSA結合体を溶出させる。結合体の溶出後、pHをpH6.9に調節する。」 イ 対比 本願発明と引用発明2とを対比する。引用発明2におけるrFVIIIは、本願発明におけるFVIIIに該当し、引用発明2において、PSA-ヒドラジンは、rFVIIIに結合するための活性化基として、ヒドラジド基が結合したPSA(ポリシアル酸)であるから、本願発明における水溶性活性化ポリマーに該当し、そのポリシアル酸は、本願発明における水溶性ポリマーに該当する。そして、引用発明2において、rFVIII溶液に炭水化物残基の酸化のために、NaIO_(4)を添加し、亜硫酸水素ナトリウムを添加して反応をクエンチし、過剰の試薬を分離することにより得られたものは、本願発明における酸化炭水化物に相当する。そして、引用発明2においては、この酸化炭水化物とPEGヒドラジドとを反応させ、結合体を調製すなわち製造しているから、本願発明と引用発明2の一致点及び相違点は、上記(3-1)で認定した本願発明と引用発明1との一致点及び相違点と同様の以下のものである。 (一致点) 「水溶性ポリマーを第VIII因子(FVIII)の酸化炭水化物部分へと結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む方法。」 (相違点) 本願発明は、「水溶性ポリマーに結合体化されたFVIIIは、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%を保持する」と特定されたものであるのに対し、引用発明2について、刊行物1には、水溶性ポリマーに結合体化されたFVIIIは、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%を保持するかどうかが明記されていない点。 ウ 判断 上記の相違点につき、検討する。 上記(3-1)において、刊行物1の[0002](b)及び[0017](c)の記載からみて、引用発明1は、水溶性ポリマーを結合することによって、非PEG化FVIIIと比べて生体半減期が延長される一方、活性を保持するFVIIIの提供を目的とするものであると認められると述べた点は、引用発明2についても同様にいえることである。 また、上記(3-1)で述べたとおり、刊行物1においては、少なくとも50%の生物活性を保持するものを意図していると認められるところ、刊行物1の[0048](e)の記載から、引用発明2においても、酸化炭水化物部分を介した活性化水溶性ポリマーによるFVIIIの結合体化は、FVIIIの活性に役割を果たさない部分であるBドメインで起こっていると推認される。さらに、引用発明2においては、酸化を4℃で暗所という、低温で光の影響のない条件で行うとともに、酸化反応を60分間実施した後は、亜硫酸水素ナトリウムを添加して反応を停止させ、過剰の過ヨウ素酸ナトリウムをゲルろ過によって分離し、FVIIIに対する酸化剤の影響が少なくなるような方法をとっており、また、反応の後にも精製を行った後、pHを調整していることからも、FVIIIの活性低下を防止していると認められる。以上の点からみて、引用発明2の生成物である結合体は、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%活性を保持していると認められるから、本願発明と引用発明2とは、上記の相違点において相違するものではない。 したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり、審決する。 |
審理終結日 | 2017-02-22 |
結審通知日 | 2017-02-23 |
審決日 | 2017-03-13 |
出願番号 | 特願2011-521284(P2011-521284) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福澤 洋光 |
特許庁審判長 |
關 政立 |
特許庁審判官 |
大久保 元浩 齋藤 恵 |
発明の名称 | 第FVIII因子ポリマー結合体 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |