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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1342710
審判番号 不服2017-3510  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2018-08-01 
事件の表示 特願2014-525086「ネイティブ画像の一部の選択的キャプチャとその表示」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月14日国際公開、WO2013/022819、平成26年11月13日国内公表、特表2014-529930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)8月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年8月5日、米国、2011年11月23日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 5月10日:拒絶理由(送達日)
同年 8月 8日:意見書、手続補正書
同年11月 8日:拒絶査定(送達日)
平成29年 3月 8日:審判請求書、手続補正書
同年 5月22日:前置報告

第2 平成29年3月8日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年3月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、平成28年8月8日付けの手続補正で補正された請求項43(以下、「補正前の請求項43」という。)を、以下の請求項43(以下、「補正後の請求項43」という。)とする補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所である。)

(補正前の請求項43)
「【請求項43】
ネイティブ画像の一部を選択的にキャプチャして表示する方法であって、
第一の画像又は動画を第一の解像度及び第一のフレームレートにてキャプチャすることと、
ネイティブの状態でキャプチャされた第一の画像又は動画の範囲内で少なくとも一つの対象物を追跡するように構成された人工知能又は追跡ソフトフェアを用いて、前記ネイティブの第一の画像又は動画から所望の第一の部分を選択することと、
前記選択された第一の部分にキーフレームを設定することと、
前記選択された第一の部分を、出力解像度及び出力フレームレートで表示することと、を備える方法。」

(補正後の請求項43)
「【請求項43】
ネイティブ放送映像部分を選択的にキャプチャして表示する方法であって、
第一の放送画像又は放送動画を第一の解像度及び第一のフレームレートにてキャプチャすることと、
ネイティブのキャプチャされた第一の放送画像又は放送動画の範囲内で少なくとも一つの対象物を追跡するように構成された人工知能又は追跡ソフトフェアを用いて、前記ネイティブの第一の放送画像又は放送動画から所望の第一の放送部分を選択することと、
前記第一の放送動画からの生データを処理して、映像品質を放送仕様に合わせて色塗りできるものにすることと、
前記選択された第一の放送部分にキーフレームを設定することと、
前記選択された第一の放送部分を、放送表示出力解像度及び放送表示出力フレームレートで表示することと、を備える方法。」

2.新規事項、発明の特別な技術的特徴の変更、補正の目的
本件補正は、補正前の請求項43における「画像」又は「動画」について、その種類を「放送」とするとともに、「前記第一の放送動画からの生データを処理して、映像品質を放送仕様に合わせて色塗りできるものにすること」という事項を付加するものである。

上記補正事項は、願書に最初添付した明細書の段落【0002】、【0039】、【0040】に記載されており、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。

また、補正前の請求項43に記載された発明と、補正後の請求項43に記載された発明とは、発明の単一性の要件を満たしており、特許法第17条の2第4項(発明の単一性)の規定に適合している。

また、上記補正は、補正前の請求項43に記載した発明を特定するために必要な事項である「画像」又は「動画」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項43に記載された発明と補正後の請求項43に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
上記のとおり、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的としているから、本件補正後の請求項43に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものであり、以下に再掲する。なお、各構成の符号(A)ないし(F)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成Aないし構成Fと称する。

(本件補正発明)
【請求項43】
(A)ネイティブ放送映像部分を選択的にキャプチャして表示する方法であって、
(B)第一の放送画像又は放送動画を第一の解像度及び第一のフレームレートにてキャプチャすることと、
(C)ネイティブのキャプチャされた第一の放送画像又は放送動画の範囲内で少なくとも一つの対象物を追跡するように構成された人工知能又は追跡ソフトフェアを用いて、前記ネイティブの第一の放送画像又は放送動画から所望の第一の放送部分を選択することと、
(D)前記第一の放送動画からの生データを処理して、映像品質を放送仕様に合わせて色塗りできるものにすることと、
(E)前記選択された第一の放送部分にキーフレームを設定することと、
(F)前記選択された第一の放送部分を、放送表示出力解像度及び放送表示出力フレームレートで表示することと、
(A)を備える方法。」

(2)引用文献、引用発明
(2-1)引用文献1
(2-1-1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2008-35006号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。(下線は、強調のため当審で付与した。)

「【0001】
本発明は、コンテンツ提供方法、コンテンツ提供方法のプログラム、コンテンツ提供方法のプログラムを記録した記録媒体及びコンテンツ提供装置に関し、例えばスポーツ番組等の映像コンテンツをユーザーに提供する場合に適用することができる。本発明は、高解像度、ハイフレームレートの動画像データを部分的に切り出してズームアップの動画像データを作成すると共に、残りの部分の解像度、フレームを間引きして引き気味の動画像データを生成し、これらズームアップの動画像データ、引き気味の動画像データを伝送することにより、伝送するデータ量の増大を回避しつつ動画ボケ、ジャーキネスを防止して、引き気味の映像とズームアップした映像とを選択的にユーザーに提供することができるようにする。」

「【0021】
(1)実施例の構成
図1は、本発明の実施例1の映像コンテンツ提供システムを示すブロック図である。この映像コンテンツ提供システム1は、ホスト装置2とユーザー端末装置3とをホームネットワーク4で接続し、図2(A)に示すように、引き気味の映像A1と、この引き気味の映像V1の一部領域を切り出したズームアップした映像V2とを選択的に表示可能に、ホスト装置2からユーザー端末3に映像コンテンツを提供し、さらにはユーザー端末装置3からユーザーに映像コンテンツを提供する。この映像コンテンツ提供システム1は、引き気味の映像V1からズームアップした映像V2を作成する一部領域の指定をユーザー端末装置3でユーザーから受け付ける。
【0022】
ここでホスト装置2において、記録再生装置11は、例えば大容量のハードディスク装置、光ディスクプレイヤー等であり、演算処理部16の制御に従って映像コンテンツの動画像データSVHを出力する。ここでこの動画像データSVHは、高解像度、ハイフレームレートのビデオ信号によるものである。動画像データSVHは、一部領域を切り出してズームアップした映像V2をユーザー端末装置3で全画面表示した場合でも、動画ボケ、ジャーキネスを防止可能なハイフレームレートの動画像データである。動画像データは、フレーム周波数を50〔フレーム/sec〕以上とすれば、動画ボケ、ジャーキネスを低減することができ、フレーム周波数を120〔フレーム/sec〕以上とすれば、動画ボケ、ジャーキネスを知覚困難とすることができる。この実施例において、記録再生装置11は、フレーム周波数120〔フレーム/sec〕で動画像データSVHを出力する。
【0023】
また動画像データSVHは、一部領域を切り出してズームアップの映像V2をユーザー端末装置3で全画面表示した場合でも、このズームアップの映像V2を十分な解像度で全画面表示可能な高解像度の動画像データである。動画像データSVHは、好ましくはVGA(Video Graphics Array)以上の解像度であることが望まれ、さらにより好ましくは、HDTV(High Definition Television)以上の解像度とすることが望まれる。
【0024】
間引き部12は、この動画像データSVHの画素、フレームを間引きして動画像データSV1を出力する。ここでこの映像コンテンツ提供システム1では、動画像データSVHから一部領域を切り出してズームアップの映像V2を作成することから、この一部領域をユーザー端末装置3で全画面表示する場合に比して、動画像データSVHをユーザー端末装置3で全画面表示する場合(V1)、当然に被写体の動きが小さくなり、動画ボケ、ジャーキネスに対する余裕が大きくなる。また解像度の劣化についても、一部領域をユーザー端末装置3で全画面表示する場合に比して、動画像データSVHをユーザー端末装置3で全画面表示する場合の方が余裕が大きくなる。間引き部12は、この動画ボケ、ジャーキネスに対する余裕が大きい分、動画像データSVHのフレームを間引きする。また解像度の劣化についての余裕が大きい分、動画像データSVHの画素を間引きする。なおこの画素、フレームの間引きは、実用上十分な特性を確保することができる場合には、種々の間引き率に設定することができる。
【0025】
エンコーダ13は、間引き部12から出力される動画像データSV1をデータ圧縮して符号化データDV1を生成する。なおこのデータ圧縮には、例えばMPEG(Moving Picture Experts Group)-4の手法等を適用することができる。ホスト装置2は、この符号化データDV1を引き気味の映像V1としてユーザー端末装置3に提供する。
【0026】
インターフェース(I/F)14は、エンコーダ13から出力される符号化データDV1を、エンコーダ15から出力される符号化データDV2と共にホームネットワーク4に送出する。またホームネットワーク4からユーザー端末装置3の各種リクエストRQを受信し、受信したリクエストRQを演算処理部16等に通知する。ここでこの実施例では、このユーザー端末装置3からのリクエストRQが、引き気味の映像V1からズームアップの映像V2を切り出す領域の指定等である。
【0027】
選択部17は、演算処理部16からの指示に従って動画像データSVHから一定領域の動画像データを選択し、ズームアップの映像V2を表示するズームアップの動画像データSV2を出力する。
【0028】
エンコーダ15は、エンコーダ13と同様に、このズームアップの動画像データSV2をデータ圧縮処理し、その処理結果である符号化データDV2を出力する。
【0029】
演算処理部16は、図示しない記録手段に記録されたプログラムを実行してホスト装置2の動作を制御する演算処理手段である。なおこの実施例において、このプログラムは、このサーバー3に事前にインストールされて提供されるものの、これに代えて光ディスク、磁気ディスク、メモリカード等の記録媒体に記録して提供するようにしてもよく、またインターネット等のネットワークを介したダウンロードにより提供するようにしてもよい。また間引き部12、エンコーダ13、15、選択部17を、この演算処理部16の機能ブロックとして構成してもよい。」

「【0033】
続いて演算処理部16は、ステップSP4に移り、記録再生装置11に映像コンテンツの再生再開を指示し、動画による映像コンテンツの提供を再開する。また続くステップSP5において、間引き回路12から出力される動画像データSV1を解析し、ステップSP3で検出した被写体の追跡を開始する。なおここでこれらの被写体の検出、追跡は、例えばテンプレートマッチングを利用した被写体の検出、追跡、特徴点を利用した被写体の検出、追跡等、各種の手法を適用することができる。またさらに演算処理部16は、選択部17、エンコーダ15に動作の開始を指示し、ズームアップ映像V2の出力開始を指示する。
【0034】
続いて演算処理部16は、ステップSP6に移り、ここで被写体の追跡を次フレームで成功したか否か判定し、ここで肯定結果が得られると、ステップSP6からステップSP7に移る。ここで動画像データSV1で検出される現フレームから次フレームまでの、ユーザーが指示した追跡対象の被写体の移動量から、間引き前の動画像データSVHにおけるこの被写体の連続するフレーム間の移動量を計算する。なおこの実施例では、動画像データSV1と動画像データSVHとのフレーム周波数の比で、動画像データSV1で検出される現フレームから次フレームまでの被写体の移動量を割り算して、この動画像データSVHにおける移動量を計算する。
【0035】
続いて演算処理部16は、ステップSP8に移り、ステップSP8で計算した移動量に基づいて、動画像データSV1の現フレームから次フレームまでの間の期間で、動画像データSVHのフレーム毎に、追跡対象の被写体の動きに追従してこの一部領域が移動するように、動画像データSVHから切り出す一部領域の座標を計算し、この計算した各フレームの座標を選択部17に順次通知する。これによりホスト装置2は、図2(B)において符号V2-1?V2-3で示すように、被写体の移動を追跡するようにズームアップの映像を作成する一部領域を可変して、ズームアップの映像V2による動画像データSV2を生成する。
【0036】
なお演算処理部16は、このステップSP8の処理において、一定の範囲でズームアップの映像V2を作成する一部領域の可動範囲を制限し、この一部領域が動画像データSVHの画枠を飛び出さないようにする。」

「【0039】
図4は、ユーザー端末装置3の構成を詳細に示すブロック図である。ユーザー端末装置3において、インターフェース(I/F)21は、ホームネットワーク4を介して入力される符号化データDV1、DV2をデコーダ22、23に出力し、またコントローラ24から出力される各種のリクエストRQをホスト装置2に通知する。
【0040】
デコーダ23、24は、それぞれ符号化データDV1、DV2をデコードして動画像データSV1、SV2を出力する。
【0041】
表示部26は、例えば液晶表示装置により形成され、画像処理部25から出力される動画像データによる映像を表示する。」

「【0067】
図8は、本発明の実施例2の映像コンテンツ提供システムを示すブロック図である。この映像コンテンツ提供システム31は、テレビジョンカメラ33で高解像度、ハイフレームレートの動画像データDVHを撮影し、この動画像データDVHによる映像コンテンツを通信網35を介してユーザー端末装置36に提供する。なおここで放送網35は、例えば受信側とインタラクティブにデータ通信可能な放送網、インターネット等のネットワークが適用される。
【0068】
ここでホスト装置32は、実施例1のホスト装置2と同様に、ユーザー端末装置36からのリクエストにより、テレビジョンカメラ33で撮影した動画像データSVHからズームアップの動画像データを生成し、引き気味の動画像データと共に、ユーザー端末装置36に送出する。ここでこの実施例では、リアルタイムで得られるテレビジョンカメラ33の動画像データSVHがズームアップの動画像データの生成元であることから、ホスト装置32は、常時、引き気味の動画像データを解析し、この引き気味の動画像データによる各被写体について、それぞれ動きを追跡する。またこの動き追跡結果に基づいて、各被写体の位置情報を引き気味の動画像データのタイムコードと共に記録して保持する。
【0069】
またユーザー端末装置36は、この引き気味の動画像データによる映像を表示して、ユーザーがズームアップの映像表示を指示すると、それまで表示している引き気味の映像を静止画で表示し、この静止画上で、ズームアップの映像で追跡する対象の選択を受け付ける。ユーザー端末装置36は、この静止画表示した映像のタイムコードと、追跡対象の被写体の座標値とをホスト装置32に通知する。
【0070】
ホスト装置32は、この通知されたタイムコード、座標値で、記録して保持した各被写体の位置情報を検索し、この検索結果から現フレームにおける追跡対象の座標を検出する。またこの検出した座標からズームアップ映像を生成する一部領域を順次計算し、この計算結果に基づいて動画像データDVHを選択してズームアップの動画像データを出力する。この映像コンテンツ提供システムは、このズームアップ映像を切り出す一部領域の設定方法が異なる点を除いて、実施例1の映像コンテンツ提供システム1と同一に構成される。」

(2-1-2)引用発明
上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されている。

(ア)段落【0067】には、「映像コンテンツ提供システム31は、テレビジョンカメラ33で高解像度、ハイフレームレートの動画像データDVHを撮影し、この動画像データDVHによる映像コンテンツを通信網35を介してユーザー端末装置36に提供する」こと、及び、「放送網35」は、「受信側とインタラクティブにデータ通信可能な放送網」が適用されることが記載されている。
ここで、上記「通信網35」と「放送網35」とは、同じ意味のものであると認められる。
また、上記「高解像度、ハイフレームレートの動画像データDVH」との記載は、段落【0068】に「実施例1のホスト装置2と同様に、ユーザー端末装置36からのリクエストにより、テレビジョンカメラ33で撮影した動画像データSVH」と記載されていることから「高解像度、ハイフレームレートの動画像データSVH」の誤記と認められる。
さらに、段落【0068】には、「ホスト装置32」が「テレビジョンカメラ33で撮影した動画像データSVHからズームアップの動画像データを生成し、引き気味の動画像データと共に、ユーザー端末装置36に送出する」ことが記載されている。

(イ)段落【0070】には、「この映像コンテンツ提供システムは、このズームアップ映像を切り出す一部領域の設定方法が異なる点を除いて、実施例1の映像コンテンツ提供システム1と同一に構成される。」と記載されているから、段落【0068】に記載の「ホスト装置32」、「ユーザー端末装置36」は、段落【0021】に記載の実施例1の「ホスト装置2」、「ユーザー端末装置3」に対応するものと認められる。さらに、段落【0024】ないし【0029】に記載の「間引き部12」、「エンコーダ13」、「インターフェース(I/F)14」、「エンコーダ15」、「演算処理部16」、「選択部17」等の前記「ホスト装置2」に備わっている構成は、「ホスト装置32」にも同様に備わっているものと認められる。

(ウ)選択部に係る構成として、段落【0027】には、「選択部17は、動画像データSVHから一定領域の動画像データを選択し、ズームアップの映像V2を表示するズームアップの動画像データSV2を出力する」ことが記載されており、前記「ズームアップの映像V2」について、段落【0021】には、「一部領域を切り出した」ものであることが記載されている。

(エ)演算処理部に係る構成として、段落【0035】には、「演算処理部16は、」「計算した移動量に基づいて、動画像データSV1の現フレームから次フレームまでの間の期間で、動画像データSVHのフレーム毎に、追跡対象の被写体の動きに追従してこの一部領域が移動するように、動画像データSVHから切り出す一部領域の座標を計算し、この計算した各フレームの座標を選択部17に順次通知する」ことが記載されており、「これによりホスト装置2は、」「被写体の移動を追跡するようにズームアップの映像を作成する一部領域を可変して、ズームアップの映像V2による動画像データSV2を生成する」ことが記載されている。

(オ)間引き部に係る構成として、段落【0024】には、「間引き部12は、この動画像データSVHの画素、フレームを間引きして動画像データSV1を出力する」ことが記載されている。

(カ)エンコーダに係る構成として、段落【0025】には、「エンコーダ13は、間引き部12から出力される動画像データSV1をデータ圧縮して符号化データDV1を生成する」ことが記載されている。

(キ)エンコーダに係る構成として、段落【0028】には、「エンコーダ15は、このズームアップの動画像データSV2をデータ圧縮処理し、その処理結果である符号化データDV2を出力する」ことが記載されている。

(ク)インターフェースに係る構成として、段落【0026】には、「インターフェース(I/F)14は、エンコーダ13から出力される符号化データDV1を、エンコーダ15から出力される符号化データDV2と共にホームネットワーク4に送出する」ことが記載されている。
また、上記(ア)で示したとおり、段落【0067】には、「映像コンテンツ提供システム31」において、「動画像データDVHによる映像コンテンツを『放送網35』を介してユーザー端末装置36に提供すること」が記載されている。

(ケ)ユーザー端末装置に係る構成として、段落【0039】ないし【0041】には、「ユーザー端末装置3」において、「符号化データDV1、DV2をデコードして動画像データSV1、SV2を出力」し、「映像を表示する」ことが記載されている。なお、前記段落【0027】に記載のとおり、「SV2」はズームアップの動画像データである。
また、上記ズームアップの映像について、段落【0023】には、「ズームアップの映像V2をユーザー端末装置3で全画面表示した場合でも、このズームアップの映像V2を十分な解像度で全画面表示可能な高解像度の動画像データである」ことが記載されている。

(2-1-3)
以上より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、各構成の符号(a)ないし(f)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成aないし構成fと称する。

(引用発明)
(a)映像コンテンツ提供システムにおいて、テレビジョンカメラで高解像度、ハイフレームレートの動画像データSVHを撮影し、前記動画像データSVHによる映像コンテンツを受信側とインタラクティブにデータ通信可能な放送網を介してホスト装置からユーザー端末装置に提供する方法であって、
(b)前記テレビジョンカメラは、高解像度、ハイフレームレートの前記動画像データSVHを撮影することと、
(c1)前記ホスト装置の選択部は、前記動画像データSVHから一定領域の動画像データを選択し、一部領域を切り出してズームアップの映像V2を表示するズームアップの動画像データSV2を出力することと、
(c2)前記ホスト装置の演算処理部は、被写体の移動を追跡するようにズームアップの映像を作成する前記一部領域を可変して、前記ズームアップの映像V2による前記動画像データSV2を生成するよう制御することと、
(d’1)前記ホスト装置の間引き部は、前記動画像データSVHの画素、フレームを間引きして動画像データSV1を出力することと、
(d’2)前記ホスト装置のエンコーダは、前記間引き部から出力される前記動画像データSV1をデータ圧縮して符号化データDV1を生成することと、
(e’)前記ホスト装置のエンコーダは、前記ズームアップの動画像データSV2をデータ圧縮して符号化データDV2を出力することと、
(f1)前記ホスト装置のインターフェースは、前記符号化データDV1と前記符号化データDV2とを前記放送網を介して前記ユーザー端末装置に送出することと、
(f2)前記ユーザー端末装置は、前記符号化データDV1と前記符号化データDV2をデコードして前記動画像データSV1と前記ズームアップの動画像データSV2を表示することと、前記ズームアップの映像V2は、前記ユーザー端末装置で全画面表示した場合でも十分な解像度で全画面表示可能な高解像度の動画像データであることと、
(a)を備える方法。

(2-2)引用文献2
前置報告において引用された、特開2006-33739号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、強調のため当審で付与した。)

「【0021】
高画質化エンジン(HVE)115は、映像データを入力する入力ポート115Aを有している。高画質化エンジン(HVE)115は、入力ポート115Aに入力された映像データを高画質化するための映像処理(以下、画質補正処理という)を実行する映像処理コントローラである。この画質補正処理は動画を高画質化するための動画像専用の映像処理であり、滑らかで高画質の動画像をLCD17に表示するために実行される。この画質補正処理では、動画像の画質を改善するために、例えば、色補正(ガンマ補正、ホワイトバランス調整、ブライトネス調整、コントラスト調整)、シャープネス調整、輪郭強調(エッジエンハンスメント)、およびLCDの応答速度を向上させるための処理等が行われる。」

「【0025】
また、TVチューナ・キャプチャユニット123は、受信した映像データをPCIバス20を介さずに高画質化エンジン(HVE;High quality Video Engine)115に直接的に伝送する機能も有している。すなわち、高画質化エンジン(HVE)115の入力ポートとTVチューナ・キャプチャユニット123との間には、映像データ伝送パス21が配置されている。映像データ伝送パス21はAVデータ転送用の複数の信号線から構成されている。TVチューナ・キャプチャユニット123は、受信した映像データを映像データ伝送パス21を介して高画質化エンジン(HVE)115に伝送する。映像データ伝送パス21上に流れる映像データは、圧縮符号化されていない高画質の生映像データ(RAWビデオデータ)である。映像データ伝送パス21内にはデータバッファ126が挿入されている。RAWビデオデータは、データバッファ126を介して高画質化エンジン(HVE)115に入力される。」

(2-3)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2011-108165号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、強調のため当審で付与した。)

(ア)「【0052】
ここで図11の矢印で示すように、リンク領域162に向けてズームアップしていき、リンク領域162内部の領域を表示して止まるような表示領域の移動を行いたい場合を考える。すなわち、第1キーフレーム314a→第2キーフレーム314b→第3キーフレーム314c→第4キーフレーム314dのように表示領域を移動させたいとする。このとき、第1キーフレーム314aと第2キーフレーム314bは、画像156のデータを用いて表示するため、画像156の座標系、すなわち画像156の基準フレーム310に対する相対的な値でフレームパラメータを指定する。」

(2-4)引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2003-242517号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、強調のため当審で付与した。)

(ア)「【0069】図2は元画像であり、図3の210?250は元画像がズーム表示される過程の画像である。
【0070】ここで210,230、250はキーフレーム画像(例えばキーフレームに対応して予め用意された画像)であり、220、240は前後のキーフレーム画像に基づいてリアルタイムに生成された画像である。」

(イ)「【0082】図5、図6は元画像とキーフレーム画像の設定例について説明するための図である。元画像300を例えば目の部分302に向かってズーム表示を行う際に、(倍率の異なる6段階のフレームをキーフレームとして選択する。例えばフルショットの画像(キーフレーム画像1)310を出力するキーフレームK1、ウエストショットの画像(キーフレーム画像2)320を出力するキーフレームK2、バストショットの画像(キーフレーム画像3)320を出力するキーフレームK3、アップショットの画像(キーフレーム画像4)340を出力するキーフレームK4、クローズアップショットの画像(キーフレーム画像5)350を出力するキーフレームK5、ヴェリークローズアップショットの画像(キーフレーム画像6)360を出力するキーフレームK6をキーフレームとして決定する。」

(3)引用発明との対比
(3-1)本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本件補正発明の構成Aについて
引用発明は、構成aのとおり「テレビジョンカメラで」「動画像データSVHを撮影し、前記動画像データSVHによる映像コンテンツを」「放送網を介してユーザー端末装置に提供する」ものであって、構成c1のとおり「一部領域を切り出してズームアップの映像V2を表示するズームアップの動画像データSV2を出力」し、構成f2のとおり「ズームアップの動画像データSV2を表示する」ものである。
以上から、引用発明の構成aの方法は、本件補正発明の構成Aの「ネイティブ放送映像部分を選択的にキャプチャして表示する方法」に相当する。

(イ)本件補正発明の構成Bについて
引用発明の構成bにおける「高解像度」、「ハイフレームレート」は、本件補正発明の「第一の解像度」、「第一のフレームレート」に相当する。
以上から、引用発明の構成bである「テレビジョンカメラは、高解像度、ハイフレームレートの前記動画像データSVHを撮影すること」は、本件補正発明の構成Bである「第一の放送画像又は放送動画を第一の解像度及び第一のフレームレートにてキャプチャすること」に相当する。

(ウ)本件補正発明の構成Cについて
引用発明の構成c2は、「前記ホスト装置の演算処理部は、被写体の移動を追跡するようにズームアップの映像を作成する前記一部領域を可変して、前記ズームアップの映像V2による前記動画像データSV2を生成するよう制御する」ものであり、前記「被写体の移動を追跡する」処理が通常はソフトウェアによって実行されることは自明であるから、引用発明は本件補正発明における「少なくとも一つの対象物を追跡するように構成された追跡ソフトフェア」を備えているものといえる。
そして、引用発明の構成c1のとおり、ズームアップの映像とされる一部領域は、動画像データSVHから選択され切り出されるものであるから、引用発明のc1及びc2は、本件補正発明における「ネイティブのキャプチャされた第一の放送画像又は放送動画の範囲内で」「前記ネイティブの第一の放送画像又は放送動画から所望の第一の放送部分を選択すること」に相当する構成を有している。
以上から、引用発明の構成c1及びc2は、本件補正発明の構成Cに相当する。

(エ)本件補正発明の構成Dについて
引用発明は、構成d’1の「動画像データSVHの画素、フレームを間引きして動画像データSV1を出力すること」、及び、構成d’2の「動画像データSV1をデータ圧縮して符号化データDV1を生成すること」を備えているから、引用発明の構成d’1及び構成d’2は、「第一の放送動画からの生データを放送仕様に合わせるものにすること」である点で、本件補正発明と共通する。しかしながら、本件補正発明は「映像品質を放送仕様に合わせて色塗りできるものにする」のに対して、引用発明はそのような構成を備えていない点で相違する。

(オ)本件補正発明の構成Eについて
引用発明は、構成e’の「データ圧縮して符号化データDV2を出力すること」を備えているから、引用発明の構成e’は、「選択された第一の放送部分に対する処理を行うこと」である点で、本件補正発明と共通する。しかしながら、本件補正発明は「キーフレームを設定する」のに対して、引用発明はそのような構成を備えていない点で相違する。

(カ)本件補正発明の構成Fについて
引用発明の構成f1は、ズームアップの動画像データSV2の符号化データDV2が放送網を介してホスト装置からユーザー端末装置に送出されるものであり、構成f2は、ユーザー端末装置において、前記符号化データDV2をデコードして前記動画像データSV2を表示するものであり、そして、前記ズームアップの映像V2は、前記ユーザー端末装置で全画面表示した場合でも十分な解像度で全画面表示可能な高解像度の動画像データである。
よって、引用発明の構成f2のユーザー端末装置は、放送表示出力が可能な解像度及びフレームレートで表示するといえる。
そして、引用発明における上記「ズームアップの動画像」は本件補正発明の「選択された第一の放送部分」に相当するから、引用発明の構成f1及びf2は、本件補正発明の構成Fに相当する。

(3-2)以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「(A)ネイティブ放送映像部分を選択的にキャプチャして表示する方法であって、
(B)第一の放送画像又は放送動画を第一の解像度及び第一のフレームレートにてキャプチャすることと、
(C)ネイティブのキャプチャされた第一の放送画像又は放送動画の範囲内で少なくとも一つの対象物を追跡するように構成された人工知能又は追跡ソフトフェアを用いて、前記ネイティブの第一の放送画像又は放送動画から所望の第一の放送部分を選択することと、
(D’)前記第一の放送動画からの生データを放送仕様に合わせるものにすることと、
(E’)前記選択された第一の放送部分に対する処理を行うことと、
(F)前記選択された第一の放送部分を、放送表示出力解像度及び放送表示出力フレームレートで表示することと、
(A)を備える方法。」

(相違点1)
第一の放送動画からの生データに対する処理について、本件補正発明は、「映像品質を放送仕様に合わせて色塗りできるものにすること」であるのに対して、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点2)
選択された第一の放送部分に対する処理について、本件補正発明は、「選択された第一の放送部分にキーフレームを設定すること」であるのに対して、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。

(4-1)相違点1について
引用文献2に記載されているように、動画像の画質を改善するために高画質の生映像データに対して色補正等を行うことは周知技術であると認められ、映像データを扱う技術分野において色補正を行って画質を向上させることは周知の技術課題と認められるから、引用発明のホスト装置において、テレビジョンカメラから受信した動画像データに対して所望の放送仕様とするための色補正の構成を付加することにより、本件補正発明の構成Dに相当する構成を備えることは、当業者であれば容易に想到しうるものである。
よって、上記相違点1は、引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に想到しうるものである。

(4-2)相違点2について
引用文献3、4に記載されているように、画像に対してキーフレームの設定をすることは画像のズーム表示を行う場合における慣用技術であると認められ、引用発明のホスト装置において、ズームアップの動画像(本件補正発明の「選択された第一の放送部分」に相当する。)にキーフレームを設定する構成を付加することは、必要に応じて当業者が適宜行いうる事項である。
よって、上記相違点2は、引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に想到しうるものである。

(4-3)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4-4)したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年3月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年8月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし61に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項43に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項43に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)において「補正前の請求項43」として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1、3、4及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「画像」又は「動画」に係る限定事項である、種類を「放送」とすること、及び、「前記第一の放送動画からの生データを処理して、映像品質を放送仕様に合わせて色塗りできるものにすること」(構成D)を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、構成Dに対応する周知技術(引用文献2)に係る部分を除いた同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-27 
結審通知日 2018-03-06 
審決日 2018-03-20 
出願番号 特願2014-525086(P2014-525086)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 美帆子  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 渡辺 努
樫本 剛
発明の名称 ネイティブ画像の一部の選択的キャプチャとその表示  
代理人 矢野 寿一郎  

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