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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01M
審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01M
管理番号 1342954
異議申立番号 異議2017-700088  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-01 
確定日 2018-06-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5965383号発明「固体酸化物形燃料電池および該電池の反応抑止層形成用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5965383号の特許請求の範囲を、平成30年3月5日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔8-9〕、〔10-11〕について訂正することを認める。 特許第5965383号の請求項1?8、10?11に係る特許を維持する。 特許第5965383号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5965383号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成25年12月25日になされ、平成28年7月8日に特許権の設定登録がされ、同年8月3日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、特許異議申立人 馬場資博(以下「異議申立人」という。)による特許異議の申立てが平成29年2月2日に受付けられ、同年3月31日付けの取消理由通知書が通知され、その指定期間内である同年5月26日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正請求がされ、同年7月31日付けの訂正拒絶理由通知書が通知され、その指定期間内である同年8月30日付けで特許権者より前記の訂正請求に対する手続補正書が提出され、同年9月8日付けで訂正請求があった旨の通知書が異議申立人に通知されたところ、異議申立人からの意見書の提出はなかったが、同年12月25日付けの取消理由通知書(決定の予告)が通知され、平成30年2月22日に特許権者代理人 安部誠らとの面接が行われ、前記の取消理由通知書(決定の予告)の指定期間内である同年3月5日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正(以下、「本件訂正」という。)請求がされ、同年3月28日付けで訂正請求があった旨の通知書が異議申立人に通知され、その指定期間内である同年4月23日に異議申立人からの意見書の差出があったものである。


第2 訂正の適否についての判断
本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものである。
なお、平成29年8月30日付けの手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げたものとみなされる。

1. 訂正請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、平成30年3月5日付けの訂正請求書に添付した、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8?11について訂正することを求める。


2.訂正の内容
(1) 訂正事項1
請求項8に、「アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、
前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物からなる」とあるのを、
「固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、
未焼成のアノードと未焼成の固体電解質と未焼成の反応抑止層とが積層されてなり、
前記グリーンシート積層体における前記未焼成の反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物で構成されている」に訂正する。

(2) 訂正事項2
請求項9を削除する。

(3) 訂正事項3
請求項10に、「アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池であって、
前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物の焼成体からなる、固体酸化物形燃料電池。」とあるのを、
「アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、
前記反応抑止層を、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の製造方法。」に訂正し、その結果として、請求項10を引用する請求項11も訂正する。

(4) 訂正事項4
請求項11に、「前記反応抑止層の厚みが10μm以下である、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池。」とあるのを、
「前記形成する反応抑止層の厚みが10μm以下である、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。」に訂正する。


3. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更
の存否、及び、一群の請求項についての検討
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、グリーンシート積層体に係る発明が記載されている請求項8について、当該グリーンシート積層体として、本件明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ということがある。)に具体的に記載されているのは、未焼成のアノード形成用シートの上に未焼成の固体電解質層を形成し、当該未焼成の固体電解質層の上に未焼成の反応抑止層を形成した、固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体である(明細書の【0030】?【0047】、【0060】?【0063】)ことから、請求項8の記載を発明の詳細な説明の具体的な記載と整合させようとするものであるため、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2
訂正事項2は、請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3
(3-1) 訂正の目的の適否について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項10には、物の発明である、「固体酸化物形燃料電池」に係る発明が記載されていたところ、その発明が備えている、「前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物の焼成体からなる」という発明特定事項が、「固体酸化物形燃料電池の反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することによって形成される焼成体からなる」ことを意味しているため、物である「前記反応抑止層」がその物の製造方法で記載されており、ひいては、「固体酸化物形燃料電池」がその物の製造方法で記載されていることとなっていたことから、物の発明としては不明であった請求項10に記載の発明を、前記発明特定事項が意味するところと整合するように、「アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、前記反応抑止層を、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の製造方法」に訂正して、物の製造方法の発明としての明瞭化を図った訂正事項であるため、明瞭でない記載の釈明を目的としている。
(3-2) 新規事項の追加の有無について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項10が、固体酸化物形燃料電池の「反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することによって形成される焼成体からなる」との固体酸化物形燃料電池の製造方法を意味する発明特定事項を備えたものであったのを、固体酸化物形燃料電池の製造方法において「反応抑止層を、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成することを特徴とする」との発明特定事項を備えたものに訂正しようとする訂正事項であり、訂正前には存在していなかった技術的事項が、訂正後において付加されているというものではないから、新規事項の追加に該当しない。
(3-3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、形式的には、「固体酸化物形燃料電池」という物の発明から「固体酸化物形燃料電池の製造方法」という物の製造方法へのカテゴリーの変更を伴っているところ、以下の検討を踏まえると、特許請求の範囲の拡張・変更をするものとはいえない。
すなわち、本件訂正の前後で請求項10に係る発明の課題及び課題解決手段には、実質的な変更は何らないから、本件訂正の前後で請求項10に係る発明の技術的意義についての実質的な変更はない。
また、訂正前請求項10に係る発明(以下、単に「訂正前発明」という。)と訂正後請求項10に係る発明(以下、単に「訂正後発明」という。)において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後発明の「実施」に該当する行為が、訂正前発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討してみても、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前発明)の実施と同法同条同項第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後発明)の実施との比較からして、「物の発明」の実施においては、物の生産方法が特定の方法には限定されないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法が「その方法」に特定されている点でのみ相違するところ、本件では、訂正前発明の「物の発明」が、上記(3-2)にも示したとおり、「反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することによって形成される焼成体からなる」との「その物を生産する方法」を意味する発明特定事項を備えたものであったのを、訂正事項3によって訂正後発明を、当該「その物を生産する方法」を発明特定事項として備える、「物を生産する方法の発明」としていることからして、訂正後発明の「実施」に該当する行為は、訂正前発明の「実施」に該当する行為に全て含まれており、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないため、訂正前発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
よって、訂正事項3は、特許請求の範囲の拡張・変更をするものとはいえない。

(4) 訂正事項4
訂正事項4は、請求項10を引用する請求項11に係る発明について、訂正事項3により、「固体酸化物形燃料電池の製造方法」に係る発明に訂正される請求項10に係る発明と整合するように、「前記反応抑止層」、「固体酸化物形燃料電池。」を、それぞれ、「前記形成する反応抑止層」、「固体酸化物形燃料電池の製造方法。」に訂正しようとする訂正事項であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としている。
また、訂正事項4は、上記(3-2)、(3-3)での検討と同様にして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項9は、請求項8を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項2によって請求項9は削除されるが、訂正前の請求項8?9に対応する訂正後の請求項8?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項3に係る本件訂正前の請求項11は、請求項10を引用するものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項10?11に対応する訂正後の請求項10?11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(6) 訂正事項1?4について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1?4には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。

(7) 補足
(7-1) 異議申立人の主張
異議申立人は、平成30年4月23日差出の意見書において、上記訂正事項3?4について、本件明細書の段落0030、0045?0047、0050、0055、0060?0063には、アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池の製造方法として、以下の方法(以下、「記載製造方法」という。)が記載されているといえるものの、他の製造方法について、本件明細書には一切記載されていないので、「記載製造方法」以外の製造方法を含む、本件訂正後の請求項10?11の固体酸化物形燃料電池の製造方法は新規事項を追加するものである旨主張している。

「アノード形成用、固体電解質形成用および反応抑止層形成用の各グリーンシートの積層体(すなわち、焼成前の各層の積層体)を、凡そ1200?1400℃の温度で凡そ1?5時間焼成することにより、焼成後のアノード-固体電解質-反応抑止層の積層体を作製し、該積層体における焼成後の反応抑止層の上に、ペースト状のカソード形成用組成物によって未焼成のカソード層を付与することによって形成される積層体を、例えば700℃?1200℃(好ましくは800℃?1100℃)の温度で凡そ1時間?5時間焼成することにより、アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池を製造する方法。」

(7-2) 当審の判断
異議申立人の上記(7-1)の主張の根拠となっている、本件明細書における段落0030?0056は、図1に模式的に示されている、本発明の一実施形態に係る平型でアノード支持型の固体酸化物形燃料電池の製造方法を具体的に説明した記載であり、また、本件明細書における段落0060?0063は、その平型でアノード支持型の固体酸化物形燃料電池の製造方法の実施例についての記載であるが、例えば本件明細書の段落0018には、段落0030?0056の記載の前提事項として、「特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、…製造方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得」、「本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる」旨の記載があり、そして、例えば本件明細書の段落0058には、図1で開示される固体酸化物形燃料電池は平型でアノード支持型の固体酸化物形燃料電池であるが、他にも種々の構造、例えば従来公知の多角形型、円筒型あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型等とすることができ、また、平型の固体酸化物形燃料電池としては、アノード支持型の他にも、例えば電解質を厚くした電解質支持型やカソード支持型等を用いることができ、その他、アノードの下に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセルとすることもできる旨の記載があり、さらに、例えば本件明細書の段落0059には、段落0060?0063の記載の前提事項として、本発明に関するいくつかの実施例の説明は、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図しない旨記載されている。
そして、本件訂正後の請求項10に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法を、例えば、平型でアノード支持型の固体酸化物形燃料電池以外の本件明細書の段落0058に記載される固体酸化物形燃料電池を製造する際に使用する場合には、従来技術と技術常識とに基づき、当然に、上記(7-1)の「記載製造方法」以外の製造方法を採用することとなるところ、そのような場合に採用される固体酸化物形燃料電池の製造方法は、従来技術と技術常識とに基づいている以上、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内での本件訂正後の請求項10に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法の実施にとどまり、新たな技術的事項を導入することにはなり得ない。
してみると、本件明細書全体の記載からすると、上記(7-1)の「記載製造方法」以外の製造方法は一切記載されていないとの異議申立人の主張は、誤った主張であって、採用できない。
そして、上記(3-2)で検討したとおり、訂正事項3は、訂正前には存在していなかった技術的事項が、訂正後において付加されているというものではないから、新規事項の追加に該当しないし、また、訂正事項4も、上記(3-2)での検討と同様にして、新規事項の追加に該当しない。


4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔8-9〕、〔10-11〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、平成30年3月5日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するための組成物であって、
少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、
前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、
前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物。
【請求項2】
前記分散剤が、分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸である、請求項1に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項3】
前記分散剤が、下式(I):
【化1】


(ただし、Rは、水素原子もしくは炭素数1?5の低級アルキル基であり、mおよびnは、1≦m≦20、0≦n≦20、m+n≦30を満たす実数である。);
で示されるジカルボン酸である、請求項1または2に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項4】
レオメーターの測定に基づくレオロジー降伏値が100Pa以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項5】
前記分散剤の含有量が、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、3wt%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒がα-テルピネオールであり、
前記バインダがエチルセルロースである、請求項1から5のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項7】
前記セリウム酸化物が、イットリア、ガドリニアまたはサマリアがドープされた酸化セリウムであり、
前記セリウム酸化物のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒径が0.1μm以上2μm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項8】
固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、
未焼成のアノードと未焼成の固体電解質と未焼成の反応抑止層とが積層されてなり、
前記グリーンシート積層体における前記未焼成の反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物で構成されている、グリーンシート積層体。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、
前記反応抑止層を、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記形成する反応抑止層の厚みが10μm以下である、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。」

以下、訂正特許請求の範囲の請求項1?11のうちの請求項8?11を、それぞれ、「訂正後請求項8」?「訂正後請求項11」ということがあり、また、訂正特許請求の範囲の請求項1?7を、それぞれ、「請求項1」?「請求項7」ということがある。


第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、甲第1?22号証を提示して、本件訂正前の請求項1?11に係る特許に対し、以下の特許異議申立理由を主張している。

A. 請求項1?8、請求項10?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証の記載事項、甲第3号証の記載事項、甲第4号証の記載事項、および/または甲第9号証の記載事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?8、請求項10?11に係る発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(特許異議申立書第11頁第9行?第42頁第25行、以下、「申立理由A」という。)。
B. 請求項1?11に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるため、請求項1?11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許異議申立書第42頁末行?第44頁第13行、以下、「申立理由B」という。)。
C. 請求項8?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。(特許異議申立書第44頁第14行?第48頁第18行、以下、「申立理由C」という。)。
D. 平成27年10月6日付け手続補正書による補正は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含んでいるため、請求項1?11に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである(特許異議申立書第48頁第19行?第50頁第10行、以下、「申立理由D」という。)。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開2009-99552号公報
甲第2号証:特開2013-69457号公報
甲第3号証:特開2011-34819号公報
甲第4号証:特開2003-257314号公報
甲第5号証:森山 登著「分散・凝集の化学」初版 1995年7月20日
産業図書株式会社発行,p.29?30
甲第6号証:日本学術振興会 高温セラミック材料第124委員会編
「先進セラミックスの作り方と使い方」初版 2005年3月
31日 日刊工業新聞社発行,p.12?13
甲第7号証:特開2013-91313号公報
甲第8号証:特開2006-1796号公報
甲第9号証:特開2009-301792号公報
甲第10号証:特開2013-251208号公報
甲第11号証:特開2003-229151号公報
甲第12号証:W.Liu et al. "Effect of nickel-phosphorus interactions
on structural integrity of anode-supported solid oxide
fuel cells" Journal of Power Sources Vol 195(2010)p.7140
-7145
甲第13号証:M.Zhi et al. "Electrochemical and microstructural
analysis of nickel-yttria-stabilized zirconia electrode
operated in phosphorus-containing syngas" Journal of
Power Sources Vol 183(2008)p.485-490
甲第14号証:特開2013-149506号公報
甲第15号証:特開2010-135180号公報
甲第16号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8 縮刷版」
第36刷 1997年9月20日 共立出版株式会社発行,
第224頁
甲第17号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3 縮刷版」
第36刷 1997年9月20日 共立出版株式会社発行,
第21頁
甲第18号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典4 縮刷版」
第36刷 1997年9月20日 共立出版株式会社発行,
第693頁
甲第19号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典1 縮刷版」
第36刷 1997年9月20日 共立出版株式会社発行,
第42頁
甲第20号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8 縮刷版」
第36刷 1997年9月20日 共立出版株式会社発行,
第899?900頁
甲第21号証:社団法人日本セラミックス協会編「セラミック工学ハンド
ブック」1版 1989年4月10日 技報堂出版株式会社
発行,第1779?1780頁
甲第22号証:社団法人日本セラミックス協会編「セラミックス辞典」
第2刷 昭和63年7月30日 丸善株式会社発行,
第109頁


2. 取消理由の概要
本件訂正前の請求項8?11に係る特許に対して、平成29年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

請求項8?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


3. 取消理由(決定の予告)の概要
平成29年8月30日付けの手続補正書により補正された訂正請求書によって請求項8?9に係る特許について訂正請求され、それらを含む請求項1?11に係る特許(請求項1?11に係る特許のうち、訂正請求された請求項8?9に係る特許を、以下、便宜上、「請求項8’に係る特許」?「請求項9’に係る特許」といい、それら以外の特許である請求項1?7に係る特許、請求項10?11に係る特許を、以下、「請求項1?7に係る特許」、「請求項10?11に係る特許」という。)に対して、平成29年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

請求項8’?9’に係る特許について訂正することを認める。
請求項1?7に係る特許と請求項8’に係る特許とを維持する。
請求項10?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
請求項9’に係る特許は訂正により削除され、対象となる請求項が存在しないから、その特許に対して異議申立人がした特許異議の申立ては却下する。


4. 当審の判断
(4a) 上記3.の取消理由(決定の予告)についての検討
ア. 本件訂正前の請求項10?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨の取消理由(決定の予告)を通知した。
すなわち、本件訂正前の請求項10には、物の発明である、「固体酸化物形燃料電池」に係る発明が記載されているところ、その発明が備えている、「前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物の焼成体からなる」という発明特定事項が、「固体酸化物形燃料電池の反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することによって形成される焼成体からなる」ことを意味しているため、物である「前記反応抑止層」がその物の製造方法で記載されており、ひいては、「固体酸化物形燃料電池」がその物の製造方法で記載されていることとなっていたことから、本件訂正前の請求項10に係る発明は物の発明としては不明であるし、その請求項10を引用する本件訂正前の請求項11に係る物の発明も明確でない旨の取消理由(決定の予告)を通知した。

イ. 上記ア.の取消理由(決定の予告)が通知された請求項10?11について、上記第2のとおり訂正が認められて、それらの発明は、上記第3に示されるとおりの訂正後請求項10?11に係る発明となった。
そして、訂正後請求項10に係る発明は、「前記反応抑止層を、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成することを特徴とする、」との物の製造方法の発明特定事項を備えた、「固体酸化物形燃料電池の製造方法」であるし、その請求項10を引用する訂正後請求項11に係る発明も、「固体酸化物形燃料電池の製造方法」であるから、訂正後請求項10?11に係る発明は、物の製造方法の発明として、明確である。

ウ. したがって、訂正後請求項10?11は、上記ア.に示した取消理由を有しない、すなわち、上記3.の取消理由(決定の予告)の取消理由を有しない。


(4b) 上記2.の取消理由についての検討
(4b-1) 本件の請求項8?9に係る特許について
ア. 本件訂正前の請求項8、及び、その請求項8を引用する本件訂正前の請求項9に対し、特許異議申立書の第44頁第14行?第47頁第18行に記載のとおりの理由で明確でないとの取消理由を通知した。
すなわち、本件訂正前の請求項8は、「前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物からなる、」との発明特定事項を備えているところ、この発明特定事項における「前記反応抑止層」は焼成後に形成される層であるから、前記発明特定事項は、「前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することによって形成される」ことを意味しており、物である「前記反応抑止層」が、その物の製造方法で記載されることとなっているため、明確でないし、また、「アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、」との発明特定事項も備えているところ、このような発明特定事項では、焼成する前の物である「グリーンシート積層体」を規定する記載が一切存在しないため、「グリーンシート積層体」が明確でないし、また、焼成する前の物である「グリーンシート積層体」と、焼成後に形成される「反応抑止層」との関係も明確でないことから、本件訂正前の請求項8は明確でないし、その請求項8を引用する本件訂正前の請求項9も明確でない旨の取消理由を通知した。

イ. 上記ア.の取消理由が通知された請求項8について、上記第2のとおり訂正が認められて、その発明は、上記第3に示されるとおりの訂正後請求項8に係る発明となった。
そして、訂正後請求項8に係る発明においては、「固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体」が、発明の詳細な説明(明細書の段落【0030】?【0047】、【0060】?【0063】)に具体的に記載されているものと整合することとなるため、訂正後請求項8に係る発明が明確なものとなった。

ウ. したがって、訂正後請求項8は、上記ア.に示した取消理由を有しない。

エ. 本件訂正前の請求項9に対しては、特許異議申立書の第47頁第19行?第48頁第18行に記載のとおりの理由で明確でないとの取消理由も通知したが、上記第2のとおり訂正が認められて、訂正後請求項9は、上記第3に示されるとおり、その記載が削除されて、存在しないものとなった。


(4b-2) 本件の請求項10?11に係る特許について
本件訂正前の請求項10、及び、その請求項10を引用する本件訂正前の請求項11に対し、特許異議申立書の第44頁第14行?第46頁第10行に記載のとおりの理由で明確でないとの取消理由を通知した。
この取消理由は、上記(4a)ア.の取消理由(決定の予告)と同じ取消理由である。
そして、上記(4a)イ.?ウ.の検討のとおり、訂正後請求項10?11は、この取消理由を有しない。

(4b-3) 小括
訂正後請求項8、訂正後請求項10?11は、上記2.の取消理由を有しない。
また、訂正後請求項9は、その記載が削除されて、存在しないものとなった。


(4c) 上記1.の申立理由A?Dについての検討
上記1.の申立理由A?Dについて、順次検討する。

(4c-A) 上記1.の申立理由Aについての検討
A1. 甲各号証の記載事項
(1) 甲第1号証(特開2009-99552号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第1号証には、以下の事項が記載されている(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)。
1ア. 「 電解質膜と空気極との間に中間層を備える固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、
中間層の材料であるセリア粉体をペースト化する工程;および
当該ペーストを電解質膜に塗布後、焼成する工程;とを含み、
中間層の材料である上記セリア粉体を、平均粒子径が0.3μm以上、1.0μm以下で比表面積が2m^(2)/g以上、9m^(2)/g以下のセリア粉体Aと、平均粒子径が0.1μm以上、0.25μm以下で比表面積が10m^(2)/g以上、62m^(2)/g以下のセリア粉体Bを含む混合物とし;
上記セリア粉体Bの平均粒子径に対する上記セリア粉体Aの平均粒子径の比を1.5以上、6.0以下とし;且つ
上記セリア粉体において、上記セリア粉体Aの割合を50質量%以上、95質量%以下、上記セリア粉体Bの割合を5質量%以上、50質量%以下にすることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

1イ. 「…従来、固体酸化物形燃料電池用セルにおいて、高温により固体電解質膜と空気極との間に抵抗の高い反応相が形成されることが知られていた。かかる反応相の形成を抑制するために、固体電解質膜と空気極との間に緻密な中間層を設ける技術が開発されている。しかし、固体酸化物形燃料電池の実用化に向けての要求はさらに厳しくなってきており、従来技術では必要とされる耐久性を満足できない。
そこで本発明が解決すべき課題は、固体電解質膜と空気極との間の反応がより一層抑制されていることから、耐久性に極めて優れ経時的な出力の劣化が低減された固体酸化物形燃料電池用のセルを製造する方法を提供することにある。また、本発明は、当該方法で製造された固体酸化物形燃料電池用セルを提供することも目的とする。」(段落0007?0008)

1ウ. 「本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、従来は中間層材料として1種のみの原料粉体が用いられていたが、中間層の材料として2種以上の特定のセリア粉体を適切な割合で混合したものを用いれば、非常に緻密な中間層を形成することができ、ひいては耐久性の高いセルを製造できることを見出して本発明を完成した。」(段落0009)

1エ. 「本発明の製造方法によれば、特定のセリア粉体を2種以上適切な割合で混合して用いることによって、比較的大きなセリア粉体の隙間に比較的小さなセリア粉体を存在せしめ、非常に緻密な中間層を形成することができ、固体電解質膜と空気極との間における反応の抑制が可能になる。その結果、本発明方法で製造されたセルを含む燃料電池は、発電時における内部抵抗の上昇が抑制されており、ひいては経時的な出力低下が低減されていることから、耐久性が顕著に向上している。従って本発明は、固体酸化物形燃料電池の実用化に寄与し得るものとして、産業上極めて有用である。」(段落0015)

1オ. 「(1) 中間層の形成工程
本発明は、中間層の原料粉体として、平均粒子径が比較的大きいセリア粉体Aと、平均粒子径が比較的小さいセリア粉体Bを適切な割合で含むものを用いる。かかる構成によって、セリア粉体A同士の隙間にセリア粉体Bが入り込み、結果として緻密な中間層を得ることができる。」(段落0017)

1カ. 「セリア粉体Aとセリア粉体Bの混合物…は、適量のバインダー等と共に溶媒に添加して3本ロールミル等でよく練合することによりペースト化する。バインダーとしてはポリエチレングリコール、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等を選択することができる。また、溶媒としてはα-テルピネオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノニルアルコール、グリセリン、ブチルカルビトールなどを挙げることができ、さらに必要に応じて分散剤やチキソ剤等を添加してもよい。
得られた中間層ペーストは、固体電解質膜に塗布した後に乾燥する。塗布方法は常法を用いればよく、例えばスクリーン印刷やコーティング法により塗布すればよい。乾燥条件は溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば、70?120℃程度で1?10時間程度加熱すればよい。さらに焼成することにより、中間層を形成する。焼成条件は適宜調節すればよいが、例えば900?1500℃程度で2?10時間程度焼成すればよい。
なお、製造効率の観点から、一般的には中間層ペーストの乾燥後、固体電解質膜の反対側面に燃料極ペーストを塗布してから乾燥し、さらに焼成して中間層と燃料極を同時に形成する。また、中間層ペーストの塗布乾燥と燃料極ペーストの塗布乾燥は、何れを先に行ってもよい。

本発明で用いる固体電解質膜は、固体電解質形燃料電池で一般的に用いられるものであれば特に制限されない。例えば、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテリビウム等で安定化されたジルコニアからなるものを使用することができる。より好適には、…4?12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア…からなるものを用いることが好ましい。…」(段落0034?0038)

1キ. 「(2) 燃料極の形成工程
本発明方法では、固体電解質膜において、中間層を形成した或いは形成すべき面とは逆の面上に燃料極を形成する。なお、前述した様に、中間層と燃料極の形成の順序は特に制限されず、また、固体電解質膜の各面にそれぞれ中間層ペーストと燃料極ペーストを塗布乾燥した後に焼結することによって、中間層と燃料極を同時に形成してもよい。

(3) 空気極の形成工程
固体電解質膜の各面にそれぞれ中間層と燃料極を形成した後には、当該中間層上に空気極ペーストを塗布乾燥した上で焼成することによってセルとする。

以上で説明した本発明方法によれば、極めて緻密な中間層を有する固体酸化物燃料電池用セルを製造できる。より具体的には、中間層の空隙率が10%以下に抑制されており、発電時等における固体電解質膜と空気極との反応がより一層抑制されていることから耐久性に極めて優れたセルを製造できる。即ち、本発明に係る固体酸化物燃料電池用セルは、耐久性に優れていることから実用的である。」(段落0040?0047)

1ク. 「製造例1
(1)GDC粉体Aの調製
…得られたGDC粉体Aの平均粒子径は0.39μmであった。
(2)GDC粉体Bの調製
…GDC粉体Bを得た。当該粉体Bの平均粒子径は0.18μmであった。
(3)電極ペーストの調製

(4) セルの作製
6モル%スカンジア安定化ジルコニアからなるシート(5cm×5cm×厚さ100μm)の片面に、スクリーン印刷により、上記燃料極ペーストを直径1cmの円の形状に塗布し、90℃で5時間乾燥した。
また、上記(1)で得たGDC粉体Aと上記(2)で得たGDC粉体Bを、質量比(粉体A/粉体B):7/3の割合で混合した。当該混合粉末100質量部に対して、エチルセルロース0.5質量部とグリセリン30質量部を加え、3本ロールミルで十分に混合することにより中間層ペーストとした。当該中間層ペーストを、燃料極と反対側へスクリーン印刷により直径1cmの円の形状に塗布し、同様に乾燥した。これを1300℃で5時間焼成した。
続いて、中間層の上に上記空気極ペーストを直径1cmの円の形状にスクリーン印刷し、90℃で5時間乾燥後、1000℃で3時間焼成することによりセルを得た。燃料極、空気極、中間層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmとした。
製造例2?9
表1に示す条件でそれぞれ粉体Aと粉体Bを調製し、上記製造例1と同様にセルを作製した。なお、表中、製造例nで調製したセリア粉体Aを調製例nAと表し、セリア粉体Bを調製例nBと表す。また、例えば「GDC」は酸化ガドリニウムをドープしたセリアを示す。同様に、「SDC」および「YDC]は、それぞれ酸化サマリウムおよび酸化イットリウムをドープしたセリアを示す。また、「SA」は比表面積を示し、使用した原料は全て6水和物である。

【表1】


さらに、表2に示す条件で、本発明の範囲外の粉体8A’、9A’および9B’を調製し、粉体8A’は粉体8Bと、粉体9A’は粉体9B’と組合わせ、上記製造例1と同様に製造例8?9のセルを作製した。表2中の下線は、本発明の規定範囲外であることを示す。
【表2】


試験例1 空隙率
上記で製造したセルにおける中間層の空隙率を測定した。具体的には、上記製造例1?9のセルを切断し、走査型電子顕微鏡を用いて断面の10,000倍拡大写真を撮影した。得られた断面拡大写真における任意の厚さ方向5μm×平面方向10μmの領域をMicrosoft社の画像作成用ソフトであるペイント(登録商標)Ver.5.1に取り込み、白黒表示に変換した。かかる画像では、空隙部分は黒色で表示され、充填部分は白色で表示される。得られた画像をImage Metrology社製のイメージ解析ソフトである走査型プローブイメージプロセッサーVer.4.5.1.0(以下、「SPIP」という)を用いて、画像に占める空隙部分の割合を求めた。…本発明に係るセリア粉体Aおよびセリア粉体Bを用いたセルの結果を表3に、本発明の範囲外の粉体を用いたセルの結果を表4に示す。なお、表3?4中の下線は、本発明の規定範囲外であることを示す。…
【表3】


【表4】


表3の通り、比較的大きなセリア粉体(平均粒子径:約0.3?1.0μm、比表面積:3?6m^(2)/g)と比較的小さなセリア粉体(平均粒子径:約0.1?0.25μm、比表面積:約10?18m^(2)/g)を用いれば、空隙率の低い非常に緻密な中間層が形成できることが分かった。
…表3の結果でもセリア粉体を1種しか用いていない製造例6?7のセルの空隙率は高い。また、表4のとおり、2種のセリア粉体を用いた場合であっても本発明の規定範囲外のセリア粉体を用いた場合にも、セル中間層の空隙率は高くなる。
…表3の結果のとおり、本発明に係るセルの中間層は空隙率が低く、緻密であることが分かる。」(段落0049?0067)


(2) 甲第2号証(特開2013-69457号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
2ア. 「複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、前記複数枚のセラミックグリーンシートのそれぞれと前記複数枚の多孔質シートのそれぞれの間に除電した粉末を介在させる、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

2イ. 「【技術分野】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という。)用電解質シートの製造方法に関する。また、本発明は、その製造方法により得られるSOFC用電解質シートおよびこれを用いたSOFCに関する。」(段落0001)

2ウ. 「【発明が解決しようとする課題】
…複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成した場合には、セラミックグリーンシートの重ね枚数が多くなると、焼成によって得られる電解質シートのうち積層体の下側に位置する電解質シートの表面に微小な凹凸や、窪みおよび/または突起等からなるディンプルが顕著に発現することがあったり、シート周縁部に連続的に発生する山脈状のウネリが発現することがあり、更なる改良の余地があることが本発明の発明者による検討で判明した。
本発明は、このような事情に鑑み、セラミックグリーンシートの重ね枚数が多くてもディンプルの顕著な発現を抑制することができるSOFC用電解質シートの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その製造方法により得られるSOFC用電解質シートおよびこの電解質シートを用いたSOFCを提供することを目的とする。」(段落0005?0006)

2エ. 「【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の発明者は鋭意研究の結果、積層体の下側に位置する電解質シートの表面にディンプルが顕著に発現することに、セラミックグリーンシートと多孔質シートの接合を防止する粉末が静電気によって凝集することが大きく影響することを見出した。本発明は、このような観点からなされたものである。
すなわち、本発明のSOFC用電解質シートの製造方法は、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、前記複数枚のセラミックグリーンシートのそれぞれと前記複数枚の多孔質シートのそれぞれの間に除電した粉末を介在させることを特徴とする。」(段落0007?0008)

2オ. 「本発明のSOFC用電解質シートの製造方法は、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に除電した粉末を介在させることを特徴とする。
各セラミックグリーンシートの形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、矩形、角が丸められた矩形などの何れであってもよい。このようなセラミックグリーンシートは、一般的に次のように作製される。まず、セラミック原料粉末、バインダー、分散剤および溶剤、さらに必要により可塑剤および消泡剤などを含むスラリーを、離型処理した高分子フィルム上にドクターブレード法、カレンダー法、押し出し法などにより敷き延べてテープ状に成形し、その後にこれを乾燥して溶剤を揮発させることにより長尺のグリーンテープを作製する。ついで、例えば金型を用いてグリーンテープを所望の形状に打ち抜くことにより、セラミックグリーンシートが得られる。
SOFC用電解質シートを製造する際に用いられるセラミック原料粉末は、ジルコニア系酸化物、LaGaO3系酸化物およびセリア系酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有することが好ましい。

好ましいセリア系酸化物としては、CaO、SrO、BaO、Ti_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Pr_(2)O_(3)、Nd_(2)O_(3)、Sm_(2)O_(3)、Eu_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Tb_(2)O_(3)、Dy_(2)O_(3)、Er_(2)O_(3)、Tm_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、PbO、WO_(3)、MoO_(3)、V_(2)O_(5)、Ta_(2)O_(5)、Nb_(2)O_(5)の1種もしくは2種以上がドープされたセリア系酸化物が例示される。」(段落0012?0017)

2カ. 「また、スラリーの調製に使用される溶剤としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-ヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、2-ブタノンなどのケトン類;ペンタン、ヘキサン、ブタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、などが適宜選択して使用される。…
スラリーの調製に当たっては、原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体、そのアンモニウム塩、アミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体、そのアンモニウム塩、などの分散剤を必要に応じて添加することができる。…」(段落0024?0025)


(3) 甲第3号証(特開2011-34819号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
3ア. 「球状の架橋重合体微粒子を気孔形成剤として使用する固体酸化物型燃料電池用材料の製造方法であって、前記架橋重合体微粒子の体積平均粒子径(dv)が0.7?50μmであり、かつ、粒子サイズの変動係数(Cv)が30%以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用材料の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

3イ. 「【技術分野】
本発明は、優れた材料強度を維持しつつ、高い発電力を確保できる固体酸化物型燃料電池(以下「SOFC」ともいう。)用材料の製造方法に関する。さらに詳しくは、SOFC用電極および支持体の製造方法に関するものである。」(段落0001)

3ウ. 「【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2006-331743号公報
【特許文献2】特開2005-327511号公報
【特許文献3】特開2005-327512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に開示されるような懸濁重合法等によって製造される架橋重合体微粒子は粒度分布が広く、気孔径および気孔分布の制御が十分にできないという問題がある。また、特許文献2および3の微粒子集合体は、乳化重合で製造した0.01?30μmの架橋重合体微粒子をスプレードライ法(噴霧式乾燥方法)により架橋・乾燥して微粒子集合体を製造するため、粒度分布が広がったり、ぶどうの房状の当該集合体の架橋反応が不均一に進んで部分的に強度が弱く、集合体が破壊されて結果的に粒度分布が広がるといった問題点がある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、電極材料として必要な強度を維持しつつ、高い発電力を確保できるSOFC用材料の製造方法を提供することにある。」(段落0005?0007)

3エ. 「【課題を解決するための手段】
本発明者は、球状の架橋重合体微粒子を気孔形成剤として使用するSOFC用材料の製造方法において、前記架橋重合体微粒子の体積平均粒子径が特定の範囲内であり、かつ、粒子サイズの変動係数が特定の範囲内である場合に、優れた材料強度を維持しつつ、高い発電力を確保できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る固体酸化物型燃料電池用材料の製造方法は、球状の架橋重合体微粒子を気孔形成剤として使用する固体酸化物型燃料電池用材料の製造方法であって、前記架橋重合体微粒子の体積平均粒子径(dv)が0.7?50μmであり、かつ、粒子サイズの変動係数(Cv)が30%以下であることを特徴とする。」(段落0008?0009)

3オ. 「…
<固体酸化物型燃料電池(SOFC)>
本発明における固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、固体電解質支持型、電極支持型、平板型、円筒型など各種の形態をとることができる。SOFCの構造は、前述したとおり、固体電解質を多孔質である空気極と燃料極とで挟持したセルと、燃料ガスと空気を分離・流通させるためのセパレータとを交互に多数積層させたものである。気孔形成剤を使用する対象は空気極であっても燃料極であってもよいが、特に燃料極は空気極に比較して反応場の長さとガス拡散性が発電特性に影響を及ぼすため、燃料極に本発明を適用することがより好ましい。
<燃料極>
燃料極または燃料極支持基板は、導電性を与えるための導電成分、支持基板の骨格成分となるセラミック質を主な構成素材とする。導電成分および骨格成分は、特に限定しないで公知の固体酸化物型燃料電池において用いられているものを使用することができる。

…骨格成分は、燃料極支持基板として必要な強度、特に耐積層荷重強度と耐レドックス性を確保する上で重要な成分で、電解質との熱膨張を極力一致させるため、その素材である骨格成分粉末としては、ジルコニア、アルミナ、チタニア、セリア、アルミニウムマグネシウムスピネル、アルミニウムニッケルスピネルなどが、単独であるいは2種以上を混合して使用される。これらの中で最も汎用性の高いのは安定化ジルコニアである。…」(段落0015?0018)

3カ. 「<電極の製造方法>
電極材料層は、上記導電成分、骨格成分および気孔形成剤のほか、可塑剤としてグリセリン、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ポリエチレングリコールなどの有機物を加えてペースト化して、スクリーン印刷法、ナイフコート法、スピンコート法、スプレーコート法やグリーンシート法などにより形成することができる。
グリーンシート製造時やコート・印刷時に使用される分散媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール、1-ヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類などが適宜選択して使用できる。…
グリーンシート製造やコート・印刷用スラリーの調製に当たっては、導電成分、骨格成分および気孔形成剤、或いは必要により補給される導電成分を、バインダー成分や、必要により原料粉末の解膠や分散促進用の分散剤、可塑剤、更には界面活性剤や消泡剤などと共に均一に混合し、均一分散状態のスラリーとされる。

分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体やそのアンモニウム塩、アミン塩、ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体等が挙げられる。」(段落0040?0044)


(4) 甲第4号証(特開2003-257314号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
4ア. 「少なくとも無機粉末、バインダー樹脂、およびカルボキシル基を1個以上有する化合物を含むペーストであって、カルボキシル基を少なくとも1個有する化合物の分子量が200?3500の範囲であることを特徴とするペースト。」(特許請求の範囲の請求項1)

4イ. 「【発明の属する技術分野】本発明はペーストおよびそれを用いたディスプレイの製造方法に関するものである。」(段落0001)

4ウ. 「【従来の技術】ディスプレイ用部材、特にプラズマディスプレイの蛍光体層を設ける方法として、特開平5-299019号公報にはスクリーン印刷法、特開平5-182592号公報にはサンドブラスト法、特開平6-273925号公報にはフォトリソグラフィ法、特開平10-233163号公報にはダイレクト塗布法といった方法が記載されている。また、隔壁を形成する方法としては、スクリーン印刷法、サンドブラスト法、型転写法、フォトリソグラフィー法といった方法が知られている。いずれも無機粉末と有機成分を含むペーストを所望の形状にパターン形成した後、焼成により有機成分を除去して無機成分のみからなるパターンとする方法である。
これらのようにペーストを用いて蛍光体層および隔壁を製造する場合には、ペーストの分散性が良好であることが非常に重要である。…ペーストの分散性が低いと、様々な問題が発生する。
ここで、ペーストの分散性が低くなる原因として、(1)無機粉末の表面帯電、(2)水素結合による無機粉末表面どうしの結合が挙げられる。特に、2種類以上の無機粉末を混合して用いる場合は凝集が起きやすい。例えば、プラズマディスプレイ部材を製造する場合、隔壁形成においては融点の調整のために2種類以上のガラス粉末を用いることがあり、蛍光体形成においては輝度、色度向上のために2?3種類の蛍光体粉末を混合して用いる場合がある。このとき、2種類の粉末の帯電の正負が異なると、ペースト中で粉末間に静電引力が作用し、粉末どうしの凝集が容易に起こる。
また、無機粉末の表面に存在する水酸基が直接、あるいは水などを介して間接的に、他の無機粉末の表面の水酸基と水素結合する場合も、粉末どうしの凝集を容易に引き起こす。
このような無機粉末表面の帯電、および/または水素結合によって起こる凝集を抑制するため、従来、リン酸化合物やスルホン酸化合物が分散剤として使用されている。これらの分散剤が有効であるのは、分散剤中の吸着点(以下「アンカー」という)として作用するリン酸基やスルホン酸基が、無機粉末表面に吸着して電位を中和し、残りの無極性部分の立体効果によって無機粉末の凝集を防いでいるためであると考えられている。」(段落0002?0006)

4エ. 「【発明が解決しようとする課題】しかし、これらの分散剤は、その後に焼成を行っても全てを除去できず、リン酸化合物ではリンが、スルホン酸化合物では硫黄が、それぞれディスプレイ部材中に不純物として残存し、ディスプレイの信頼性を著しく低下させてしまうという問題があった。
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に着目し、ペースト分散性が良好で、かつ焼成残渣の少ないペーストおよび輝度が良好なディスプレイを安定に製造する方法を提供することにある。」(段落0007?0008)

4オ. 「…本発明のペーストは、所望の形状にパターン形成した後、焼成により有機成分を除去して無機成分のみからなるパターンとする製造方法に好ましく用いられるものである。
本発明のペーストは、カルボキシル基を1個以上有する化合物を含む。カルボキシル基を1個以上有する化合物を含むことにより、ペーストの分散性を向上することができる。カルボキシル基が無機粉末の表面に吸着して表面の電位を中和、あるいは水素結合部位を不活性化し、カルボキシル基以外の部分の立体効果によって粉末の凝集を抑制することによって、ペーストの分散性を向上するためである。
すでに述べたとおり、ペーストの分散性が向上すると、スクリーン版やノズル孔の目詰まりの発生を抑制すること、粘度や機能等のペースト安定性の向上が可能となる。したがって、安定かつ連続で塗布工程を実施できるので、生産効率が改善され、欠陥の発生頻度が減少するので、欠陥が少ないディスプレイが作製できる。さらには、ペースト中において部分的に無機粉末とバインダー樹脂の組成が異なる領域(混合不良による濃度の不均一)が発生しにくく、粘度のばらつきが抑制できるので、ディスプレイ面内での厚み・形状の均一性も改善され、高品質なディスプレイを提供できる。

また、本発明のペーストで用いられるカルボキシル基を少なくとも1個有する化合物の分子量は200?3500の範囲であることが必要である。200以上であることでカルボキシル基以外の部分の立体効果を有効に活用することができ、また3500以下であることでカルボキシル基の含有濃度を上げることができ、ペースト分散性向上の効果を十分に得ることができる。特に、カルボキシル基以外の立体効果をさらに有効にするために、特にその分子量は200?1000の範囲であることがより好ましい。さらに好ましくは、800以下である。」(段落0010?0014)

4カ. 「カルボキシル基を1個以上有する化合物の具体的な構造としては、下記一般式(1)から(4)のいずれかで表されるものであることが好ましい。
R^(1)-(R^(2)-O)_(n)-CH_(2)COOH (1)
R^(1)-(R^(2)-O)_(n)-CO-R^(3)-COOH (2)
R^(1)-((R^(2)-O)_(n)-CH_(2)COOH)_(2) (3)
R^(1)-((R^(2)-O)_(n)-CO-R^(3)-COOH)_(2) (4)
(ここで、R^(1)、R^(2)は炭素数1?20のアルキル基またはアルキルフェニル基を表す。R^(3)は有機基を表す。nは1?15の整数である。)
…」(段落0018?0019)


(5) 甲第5号証(森山 登著「分散・凝集の化学」初版 1995年7
月20日 産業図書株式会社発行,p.29?30)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「…磁性粒子や顔料などの粒子の一次粒子は数十ナノメートル?数ミクロンの大きさであるが、これらが集まって二次粒子をつくっている。二次粒子は軟らかい凝集体をつくっているものと硬い凝集体をつくっているものがあるが、分散媒中にこれらの粒子を分散させるためには、粒子が分散媒によく濡れてほぐれることがまず必要である。さらに、粉砕機など機械的手段で二次粒子を一次粒子に戻すこと(微粒子化または分散化とよぶ)および、微粒子化された粒子が再凝集するのを防ぐことが必要である。
微粒子化された粒子が再凝集するのを防ぐことができるのは、粒子の界面に吸着した分散剤とよばれる第三節で述べた分散剤の作用によるものである。この安定化の作用には分散剤の吸着により粒子の荷電が高くなり、電気的な斥力で再凝集を防ぐ作用と吸着した分散剤による立体的な保護作用で再凝集を防ぐ作用の二つの作用がある。…」


(6) 甲第6号証(日本学術振興会 高温セラミック材料第124
委員会編 「先進セラミックスの作り方と使い方」初版 2005年
3月31日 日刊工業新聞社発行,p.12?13)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「湿式成形はスラリー等を用いる成形法で、その特性から複雑形状のものも成形可能である。しかし、形状とサイズの影響が大きく、とくに大型部材では乾燥や脱脂が難しい。以下に、その特徴と概要について述べる。
1)スラリー調製
湿式成形において重要なことは、原料粉体の均一な分散である。このために、原料粉体に適量の分散剤(ポリアクリル酸塩、ポリカルボン酸塩など)が添加される。…図1.8に示すように、分散剤が過不足していると原料粒子が凝集してスラリーの粘度は高くなり、よく分散したスラリーの粘度は最も低い値を示すことから、スラリの粘度測定は分散性の評価に有効である。…





(7) 甲第7号証(特開2013-91313号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
7ア. 「【技術分野】
本発明は、画像形成方法に関する。
【背景技術】
インクを用いて中間転写体に中間画像を形成し、得られた中間画像を記録媒体に転写することで画像を形成する画像形成方法において、中間転写体にインクを付与する工程に先立って、インク中の色材を凝集させる色材凝集成分を含有する反応液を付与する工程を有する画像形成方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2004-090595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1のような、反応液とインクとを用いて、中間転写体に中間画像を形成し、得られた中間画像を記録媒体に転写することで画像を形成する画像形成方法において、複数のインクを用いた場合に、得られる画像の記録品位が低い場合があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
本発明の画像形成方法は、中間転写体に、増粘剤及びインク中の色材を凝集させる色材凝集成分を含有する反応液を付与する反応液付与工程と、前記反応液が付与された中間転写体に、第1のインクを付与する第1のインク付与工程と、前記反応液及び前記第1のインクが付与された中間転写体に、第2のインクを付与することで、中間画像を形成する中間画像形成工程と、前記中間画像を、記録媒体に転写する転写工程と、を有し、前記第1のインクが付与された中間転写体に形成されたインク層の降伏値が0.5Pa以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
本発明によれば、得られる画像の記録品位が高い画像形成方法を提供することができる。」(段落0001?0006)

7イ. 「中間転写体に付与される前の反応液の降伏値は、2.5Pa以下であることが好ましい。2.5Paを超える場合には、反応液の粘度が高く、中間転写体に均一に付与できない場合がある。」(段落0023)


(8) 甲第8号証(特開2006-1796号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
8ア. 「【技術分野】
本発明は、産業廃棄物あるいは産業副産物を含ませることができ、水との練混ぜ直後における流動性に優れたセメント組成物に関する。」(段落0001)

8イ. 「【背景技術】
セメント産業では古くから原料及び燃料に産業廃棄物あるいは産業副産物を用いてきたが、1990年代より資源循環型社会の構築の機運が高まり、セメント組成物における産業廃棄物や産業副産物の使用量のさらなる増大が望まれている。一般にセメント組成物の原料として使用できる廃棄物は、Al_(2)O_(3)成分に富んだものであり、粘土代替原料として使用されている。したがって、廃棄物原料の使用量を増大させるためには、セメントクリンカーの組成をAl_(2)O_(3)成分に富む組成にすればよい。しかし、この場合、同時にクリンカー化合物組成も変化し、アルミネート系化合物である3CaO・Al_(2)O_(3)(「C_(3)A」と略される)や4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(「C_(4)AF」と略される)が増大することになる。
廃棄物を多量に使用して製造する技術の代表的なものとして、JIS R 5214「エコセメント」で規定されているエコセメントがある。このエコセメントは、従来のポルトランドセメントとは異なり、カルシウムクロロアルミネート化合物を含む、あるいはC_(3)Aを多量に含むことを特徴としている。これらの化合物は水和活性が非常に高いため、所定の流動性を得るには、化学混和剤を多量に使用する必要がある。しかも流動性の経時変化が大きいために、減水能力が大きいポリカルボン酸系高性能減水剤や遅延剤の併用が欠かせず、これを改良する技術として下記特許文献1に示されるように、アルミネート系化合物の量を制限している。
表1に、種々のセメント系材料中のアルミネート系化合物(C_(3)A、非晶質C_(12)A_(7)等)の標準的な含有量を示す。アルミネート系化合物は一般に活性が高く、その性質を利用する早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、速硬セメント、急結材等に多く含まれる。しかし、アルミネート系化合物量が多くなると、一般にセメントペースト、モルタルあるいはコンクリートの流動性は低下し、しかも経時変化が大きくなる。このため、減水剤を多量に添加する、あるいは減水能力の大きい減水剤を使用する、あるいは減水剤と遅延剤を併用するなどの対策が取られている。
【表1】


また、セメントクリンカー中のSO_(3)量及びアルカリ量は、水溶性アルカリ量やC_(3)Aの結晶多形を決定する重要な要因である。ここで、アルカリ量とは、Na_(2)OとK_(2)Oの合計量をNa_(2)Oに換算した値である。水溶性アルカリ量は、SO_(3)/アルカリのモル比が1未満であればSO_(3)量の増加とともに増大し、SO_(3)/アルカリのモル比が1以上であればアルカリ量の増加とともに増大する。また、SO_(3)/アルカリのモル比が1未満ではセメントクリンカー中にアルカリが固溶し、その固溶量に応じてC_(3)Aの結晶変態が変化することが知られている。
このようなセメントクリンカー中のSO_(3)量及びアルカリ量に着目した技術として、下記特許文献2に記載の技術がある。特許文献2では、セメントクリンカー中の(SO_(3)/アルカリ)モル比が0.7以上、(水溶性アルカリ/全アルカリ)モル比が0.7以上であることが規定されている。
【特許文献1】特開平11-199301号公報
【特許文献2】特許第3202061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、コンクリートは、セメント組成物、水、細骨材等の練混ぜ、運搬、さらに打設の過程を経る。練混ぜ直後の流動性はコンクリート配合あるいは減水剤添加量である程度の調整は可能であるが、単位水量の問題や減水剤添加量の増大によるコストアップを考慮すると、その流動性は高い方が好ましい。従って、使用するセメント組成物は、練混ぜ直後の流動性が高いことが望まれている。この点、上記特許文献2に記載のセメント組成物は、水溶性アルカリ量を増し斜方晶C_(3)A量を少なくすることで、練混ぜ直後のスランプ発現性を向上させるというものであるが、コンクリートの流動性は、必ずしも斜方晶C_(3)A量の影響が大きいとは限らない。
そこで、本発明は、産業廃棄物あるいは産業副産物を多量に含ませることができ、練混ぜ直後の流動性に優れたセメント組成物を提供することを目的とする。」(段落0002?0009)

8ウ. 「【課題を解決するための手段】
本発明者等は、このような目的を達成するために、クリンカー鉱物組成と少量成分が、セメント組成物の練混ぜ直後における流動性に及ぼす影響を鋭意研究した結果、SO_(3)量あるいはアルカリ量、さらに間隙相量と、C_(3)A量を適正化することにより、普通ポルトランドセメントよりも、廃棄物の使用量を多くし、間隙相を増量したセメントクリンカーを含有しても、練混ぜ直後の流動性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏とを含有し、該セメントクリンカーに占めるSO_(3)量が0.58質量%以下、又は、該セメントクリンカーに占めるアルカリ量がNa_(2)O当量で0.53質量%以下であることを特徴とする。
このセメント組成物によれば、普通ポルトランドセメントよりも、廃棄物の使用量が多く、間隙相を増量したセメントクリンカーを含有しても、水との練混ぜ直後の流動性は十分高い。…

この場合、水及びリグニンスルホン酸塩系分散剤を添加して調整したセメントペーストの注水練混ぜ開始時から5分後における降伏値が9.1Pa以下であることが好ましい。セメントペーストの降伏値がこの条件を満たせば、モルタルやコンクリートでも良好な流動性を発現することができる。」(段落0010?0017)


(9) 甲第9号証(特開2009-301792号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
9ア. 「【請求項1】
高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するためのガス拡散層用撥水ペーストであって、
カーボンブラックスラリーと、フッ素樹脂ディスパージョンと、界面活性剤とを混合してなり、
25℃における降伏値が6Pa?20Paの範囲内で、かつ、10℃における降伏値が0.1Pa?5Paの範囲内であることを特徴とするガス拡散層用撥水ペースト。
但し、前記降伏値は、下記の方法で測定したものである。
測定器:ばね緩和測定機能付き粘度計
コーンロータのコーン角度:1°34′
測定モード:ばね緩和モード
ばね巻上げ率:50%
測定時間:200秒

【請求項5】
前記カーボンブラックスラリー中のカーボンブラック固形分100重量部に対して、前記フッ素樹脂ディスパージョンをフッ素樹脂固形分で5重量部?80重量部の範囲内で、前記界面活性剤を3重量部?30重量部の範囲内で、それぞれ混合してなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のガス拡散層用撥水ペースト。」(特許請求の範囲)

9イ. 「【技術分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる電極のガス拡散層を形成するためのガス拡散層用撥水ペーストに関するものである。」(段落0001)

9ウ. 「【背景技術】
固体高分子型燃料電池においては、高分子電解質膜の両面にカソード側電極及びアノード側電極を形成しており、通常、これらのカソード側電極及びアノード側電極は、白金等の触媒を担持したカーボンブラックとイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、カーボンクロスやカーボンペーパー等のカーボン基材に、導電性を付与するためのカーボンブラック粉末等と撥水性を付与するためのポリテトラフルオロエチレンディスパージョン等を混練した撥水ペーストを塗工してなるガス拡散層によって構成されている。
ここで、ガス拡散層を形成するための撥水ペーストは、塗工後のタレ及びカーボン基材への染み込みを防止するために、高分子型増粘剤を添加して適度な粘性に調整して使用されており、塗工後のタレ・カーボン基材への染み込みを防止するためには降伏値をある程度高くする必要があるが、そのような高い降伏値を有する撥水ペーストは容器・塗工ヘッド等への充填時にエアーを巻き込み易く、塗工面のピンホール発生の原因となる。また、撥水性を得るために塗工後に焼成を行う必要があるが、添加した高分子型増粘剤が焼成残渣を生ずるため、電池性能に悪影響を及ぼす恐れがあった。

【発明が解決しようとする課題】

そこで、本発明においては、簡単な成分組成で製造することができ、焼成残渣を生ずる増粘剤を添加することなく塗工性能を確保することができるとともに、塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペーストの提供を課題とするものである。」(段落0002?0008)

9エ. 「【発明の効果】
請求項1のガス拡散層用撥水ペーストは、カーボンブラックスラリーと、フッ素樹脂ディスパージョンと、界面活性剤とを混合してなるものであり、三成分からなるもので組成が非常に簡単であるとともに、高分子型増粘剤を含有しないため、焼成残渣を生ずることがない。そして、25℃における降伏値が6Pa?20Paの範囲内であって、常温における降伏値が大きいため、塗工後にタレを生じたりカーボン基材への染み込みを起こしたりすることがない。更に、10℃における降伏値が0.1Pa?5Paの範囲内であることから、充填時に10℃前後に冷却することによって降伏値を小さくすることができ、塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込む事態を確実に防止することができる。

請求項5のガス拡散層用撥水ペーストは、カーボンブラックスラリー中のカーボンブラック固形分100重量部に対して、フッ素樹脂ディスパージョンをフッ素樹脂固形分で5重量部?80重量部の範囲内で、界面活性剤を3重量部?30重量部の範囲内で混合してなるため、より確実にガス拡散層用撥水ペーストの降伏値を常温では大きく、低温では小さく制御することができる。
すなわち、本発明者らは、鋭意実験研究を積み重ねた結果、カーボンブラックスラリーと、フッ素樹脂ディスパージョンと、界面活性剤とを混合してなるガス拡散層用撥水ペーストにおいて、降伏値が温度の上昇に従って増大するという従来にはない特性を持たせるためには、カーボンブラックスラリー中のカーボンブラック固形分100重量部に対して、フッ素樹脂ディスパージョンをフッ素樹脂固形分で5重量部?80重量部の範囲内とし、界面活性剤を3重量部?30重量部の範囲内とすることが、より好ましいことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
ここで、カーボンブラックスラリー中のカーボンブラック固形分100重量部に対して、フッ素樹脂ディスパージョンをフッ素樹脂固形分で10重量部?40重量部の範囲内とし、界面活性剤を5重量部?20重量部の範囲内とすることによって、より確実にガス拡散層用撥水ペーストの降伏値が温度の上昇に従って増大するという従来にはない特性を持たせることができるため、より好ましい。
このようにして、簡単な成分組成で製造することができ、焼成残渣を生ずる増粘剤を添加することなく塗工性能を確保することができるとともに、塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペーストとなる。」(段落0015?0031)


(10) 甲第10号証(特開2013-251208号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
10ア. 「【技術分野】
本発明は、導電粉末、セラミック粉末の分散性を大幅に改善することができ、かつ、優れた接着性を有する導電ペーストに関する。」(段落0001)

10イ. 「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、…導電粉末、セラミック粉末の分散性を大幅に改善することができ、かつ、優れた接着性を有する導電ペーストを提供することを目的とする。」(段落0007)

10ウ. 「【課題を解決するための手段】

本発明者らは、導電粉末、セラミック粉末、樹脂成分及び溶剤を含有する導電ペーストにおいて、分散剤として所定の構造単位を有するカルボキシル基含有化合物及びエステル化合物を用いることで、導電粉末及びセラミック粉末の両方の分散性を大幅に改善することができ、かつ、優れた接着性を実現することが可能な導電ペーストとできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明に記載の導電ペーストは、導電粉末を含有する。
上記導電粉末としては、通常の導電ペーストに用いられる焼結性を有する導電粉末であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、銅、アルミ二ウム、銀、金、白金、パラジウム、半田、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)等が挙げられる。

本発明に記載の導電ペーストは、セラミック粉末を含有する。
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等からなる粉末が挙げられる。…

本発明の導電ペーストは、下記式(1)に示す構造を有するカルボキシル基含有化合物、及び、下記式(2)に示す構造を有し、かつ、分子内に1以上の水酸基を有するエステル化合物の両者を含有する。
【化1】

式(1)において、R^(1)はC、H又はOを有する構造単位を表し、nは1?10の整数を表す。
【化2】

式(2)において、R^(2)及びR^(3)はC、H又はOを有する構造単位を表す。
上記カルボキシル基含有化合物は、カルボキシル基を有することから、カルボキシル基が導電粉末の表面に吸着することで、粒子間距離を増大させることができ、導電粉末を微細に分散させることができる。」(段落0008?0017)


(11) 甲第11号証(特開2003-229151号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
11ア. 「図4は、SOFCに予備改質器を配置し、炭化水素(原料ガス)として都市ガス、LPガス等を用いる場合における態様を示した図である。都市ガスやLPガスには付臭剤としてメルカプタンその他の形の硫黄化合物が含まれている。硫黄化合物はSOFCの燃料極を被毒するため、脱硫器で脱硫した後、水蒸気とともに予備改質器に供給され、ここでC_(2)以上の炭化水素がメタン、水素、CO等に変えられる。…」(段落0011)

11イ. 「


」(図4)


(12) 甲第12号証(W.Liu et al. "Effect of nickel-phosphorus interactions on structural integrity of anode-supported solid oxide fuel cells" Journal of Power Sources Vol 195(2010)p.7140-7145)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
「…Among various SOFC designs, anode-supported planar cells seem to provide the best performance at the reasonable cost and porous Ni-yttria-stabilized zirconia(YSZ)cermet is the anode of choice. Nickel, however, is highly susceptible to poisoning by multiple impurities, minor and trace elements, e.g., S, P, Se, As, Sb, that are naturally present in coals.…」(p.7140の左欄第8?13行)(当審訳:…種々のSOFC設計の中で、アノード支持型平板セルは、合理的なコストで最良の性能を発揮するようにみえ、多孔質のNi-YSZサーメットが、最良のアノードである。しかしながら、ニッケルは、例えば、S、P、Se、As、Sbのような、石炭中に当然に存在する複数の不純物や微量元素によって被毒されやすい。…)


(13) 甲第13号証(M.Zhi et al. "Electrochemical and microstructural analysis of nickel-yttria-stabilized zirconia electrode operated in phosphorus-containing syngas" Journal of Power Sources Vol 183(2008)p.485-490)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第13号証には、以下の事項が記載されている。
「…However, coal-derived syngas generally contains various trace impurities such as phosphorus, arsenic, mercury, selenium, vanadium and zinc. SOFC anodes that are operated in such 'dirty' CSG gases are subject to degradation due to the attack of the trace impurities. Among all the impurities in the coal syngas, phosphorus compounds could cause severe performance degradation of SOFC anodes. …」(p.485の左欄第13?19行)(当審訳:…しかしながら、石炭由来の合成ガスは、一般に、リン、ヒ素、水銀、セレン、バナジウム、亜鉛のような種々の微量不純物を含んでいる。そのような「汚れた」石炭由来の合成ガスが供給される、SOFCアノードは、微量不純物の攻撃によって劣化する。石炭合成ガス中の全ての不純物の中で、リン化合物は、SOFCアノードを著しく劣化させる可能性がある。…)


(14) 甲第14号証(特開2013-149506号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第14号証には、以下の事項が記載されている。
14ア. 「【技術分野】
本発明は、積層型固体酸化物形燃料電池に関する。」(段落0001)

14イ. 「<スラリーの作製>
まず、電解質4を形成するための電解質用スラリーと燃料極2および空気極3を形成するための電極用スラリーとを作製する。電解質用スラリーは、電解質4の原料となる粉末を粉砕用ボールとともにプラスチック製ポットに入れ、これに溶剤、バインダーおよび可塑剤を添加して10?20時間混合して得られる。溶剤、バインダーおよび可塑剤の含有量には制限はないが、例えば、溶剤の含有量は10質量%以上50質量%以下、バインダーの含有量は1質量%以上10質量%以下程度の範囲で設定することができる。スラリー中には、必要に応じて分散剤等を10質量%以下の範囲で含有させてもよい。これにより、シート形成性、構造保持性、乾燥性を確保できる。」(段落0040)


(15) 甲第15号証(特開2010-135180号公報)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第15号証には、以下の事項が記載されている。
15ア. 「【技術分野】
本発明は、導電性粉末の分散性が高く、優れた印刷性を有する導電性ペーストに関する。更に、本発明は、該導電性ペーストを用いて製造される太陽電池素子に関する。」(段落0001)

15イ. 「【背景技術】
太陽電池素子等の電極又は配線パターンを形成する方法として、例えば、半導体基板の表面又は裏面にそれぞれ必要な種々の層を積層した後、導電性ペーストをこれらの層の上に印刷して乾燥させ、所定の温度で焼成する方法が広く用いられている。このような方法に用いられる導電性ペーストは、バインダー樹脂となる樹脂成分を有機溶剤に溶解して得られるビヒクル組成物中に、導電性を有する金属粉末(導電性粉末)を分散させることによって製造される。このバインダー樹脂としては、従来、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂が用いられてきた。
しかし、バインダー樹脂としてセルロース系樹脂を用いた導電性ペーストは、焼成工程でのセルロース系樹脂の熱分解性が不充分であることから、得られる電極に炭素成分が残留し、導電性粉末の基板への接着強度が低下して電極に剥離が生じやすいという問題があった。
このような問題を解決するために、バインダー樹脂として比較的熱分解性の良いアクリル系樹脂を用いることが検討されている。しかし、バインダー樹脂としてアクリル系樹脂を用いた導電性ペーストは、導電性粉末の分散性が悪く、また、粘度が不充分であるため、基板上に印刷すると、垂れたり滲んだりして所望の厚みが得られないという問題があった。更に、導電性ペーストの粘度を上昇させる目的で分子量の大きいアクリル系樹脂を用いると、糸引き現象等の印刷上の不利益が生じるという問題があった。
そこで、糸引き現象を解決する方法として、例えば、特許文献1には、バインダー樹脂として所定の構造を有するアクリル系樹脂を含有し、高粘度特性を有する導電性ペーストを用いて、セラミック電子部品を製造する方法が開示されている。
しかし、この方法では、導電性粉末の分散性の悪さ、印刷する際の垂れ又は滲み等の問題を解決するには至っておらず、バインダー樹脂としてアクリル系樹脂を用いた場合でも、導電性粉末を良好に分散し、優れた印刷性を有する導電性ペーストが望まれている。
【特許文献1】特許第4096661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、導電性粉末の分散性が高く、優れた印刷性を有する導電性ペーストを提供することを目的とする。更に、本発明は、該導電性ペーストを用いて製造される太陽電池素子を提供することを目的とする。」(段落0002?0005)

15ウ. 「【課題を解決するための手段】
本発明は、導電性粉末、バインダー樹脂、分散剤及び有機溶剤を含有する導電性ペーストであって、上記バインダー樹脂は、ガラス転移温度が50℃以下であり、かつ、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートモノマーを5.0?50重量%含有する(メタ)アクリレートモノマー混合物を重合してなる(メタ)アクリル樹脂であり、上記ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートモノマーは、オキシエチレンの繰り返し数が9?40であり、上記分散剤は、高分子系イオン性分散剤である導電性ペーストである。

本発明者らは、導電性粉末、バインダー樹脂として所定の構造を有する(メタ)アクリル樹脂、所定の構造を有する分散剤、及び、有機溶剤を含有する導電性ペーストは、導電性粉末の分散性が高く、その結果、印刷性に優れ、高密度かつ高精細な電極を製造するために使用可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。」(段落0006?0007)


(16) 甲第16号証(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8
縮刷版」 第36刷 1997年9月20日
共立出版株式会社発行,第224頁)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第16号証には、以下の事項が記載されている。
「…平均分子量は理論的にも実際的にも,測定法によってその種類が異なる.種々の平均分量のうち,よく用いられるのは数平均分子量,重量平均分子量,Z平均分子量および粘度平均分子量である.単位体積中にM_(i)なる分子量の分子がN_(i)個存在するものとすれば,これらはそれぞれ次のように定義される.…

… 」(第224頁左欄「へいきんぶんしりょう 平均分子量」の項)


(17) 甲第17号証(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3
縮刷版」 第36刷 1997年9月20日
共立出版株式会社発行,第21頁)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第17号証には、以下の事項が記載されている。



」(第21頁右欄「くえんさん 枸櫞酸」の項)


(18) 甲第18号証(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典4
縮刷版」 第36刷 1997年9月20日
共立出版株式会社発行,第693頁 )の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第18号証には、以下の事項が記載されている。



」(第693頁右欄「しゅせきさん 酒石酸」の項)


(19) 甲第19号証(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典1
縮刷版」 第36刷 1997年9月20日
共立出版株式会社発行,第42頁)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第19号証には、以下の事項が記載されている。
「 アクリルさん…,ビニルギ酸…
C_(3)H_(4)O_(2)=72.1
CH_(2)=CHCOOH 」(第42頁左欄「アクリルさん」の項)


(20) 甲第20号証(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8
縮刷版」 第36刷 1997年9月20日
共立出版株式会社発行,第899?900頁)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第20号証には、以下の事項が記載されている。
「 マレインさん…,cis-1,2-エチレンジカルボン酸…
C_(4)H_(4)O_(4)=116.


」(第899頁右欄?900頁左欄「マレインさん」の項)


(21) 甲第21号証(社団法人日本セラミックス協会編「セラミック工 学ハンドブック」1版 1989年4月10日
技報堂出版株式会社発行,第1779?1780頁)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第21号証には、以下の事項が記載されている。
「…アルミナ原料粉末に有機質のバインダを混入させた焼成前のアルミナシート,これを通常グリーンシートと呼ぶが,このグリーンシートの表面を極めて平滑な面にすることがまず必要である.…」(第1779頁右欄末行?第1780頁左欄第4行)


(22) 甲第22号証(社団法人日本セラミックス協会編「セラミックス
辞典」 第2刷 昭和63年7月30日 丸善株式会社発行,
第109頁)の記載事項
本件特許の出願前に公開された、甲第22号証には、以下の事項が記載されている。
「…セラミック微粉末と有機結合剤,可塑剤,溶剤などの混合スリップを,ドクターブレード法やカレンダー法で薄板状にしたもの.可撓性,加工性に富み,切断や穴あけ,接着ができる.IC基板やコンデンサーの素材となる.…」(第109頁右欄「グリーンシート」の項)


A2. 甲第1号証に記載された発明
(2-1) 上記A1.(1)1ア.には、固体酸化物型燃料電池用セルの電解質膜と空気極との間に形成する中間層の材料であるセリア粉体に関し、「セリア粉体を、平均粒子径が0.3μm以上、1.0μm以下で比表面積が2m^(2)/g以上、9m^(2)/g以下のセリア粉体Aと、平均粒子径が0.1μm以上、0.25μm以下で比表面積が10m^(2)/g以上、62m^(2)/g以下のセリア粉体Bを含む混合物とし、上記セリア粉体Bの平均粒子径に対する上記セリア粉体Aの平均粒子径の比を1.5以上、6.0以下とし、且つ、上記セリア粉体において、上記セリア粉体Aの割合を50質量%以上、95質量%以下、上記セリア粉体Bの割合を5質量%以上、50質量%以下にすること」が記載され、また、そのセリア粉体を「ペースト化する」ことも記載されている。

(2-2) 上記(2-1)のセリア粉体は、上記A1.(1)1イ.?1ウ.によれば、従来、固体酸化物型燃料電池用セルにおいて、高温により固体電解質膜と空気極との間に抵抗の高い反応相が形成されることが知られており、かかる反応相の形成を抑制するために、固体電解質膜と空気極との間に緻密な中間層を設ける技術が開発されているが、従来技術では必要とされる耐久性を満足できないことから、耐久性に極めて優れ経時的な出力の劣化が低減された固体酸化物形燃料電池用のセルを製造するために、中間層の材料として2種以上の特定のセリア粉体を適切な割合で混合したものを用いれば、非常に緻密な中間層を形成することができ、ひいては耐久性の高いセルを製造できるとの知見に基づいて完成されたものであるとされている。

(2-3) そして、上記(2-1)のセリア粉体は、上記A1.(1)1エ.?1オ.によれば、比較的大きなセリア粉体の隙間に比較的小さなセリア粉体を存在せしめ、非常に緻密な中間層を形成することができ、固体電解質膜と空気極との間における反応の抑制を可能とし、その結果、製造されたセルを含む燃料電池の耐久性を顕著に向上させるものであるとされている。

(2-4) また、上記(2-1)のセリア粉体は、上記A1.(1)1カ.によれば、適量のバインダー等と共に溶媒に添加して3本ロールミル等でよく練合することによりペースト化するが、バインダーとしてはポリエチレングリコール、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等の高分子バインダーを選択することができ、また、溶媒としてはα-テルピネオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノニルアルコール、グリセリン、ブチルカルビトールなどの有機溶媒を挙げることができ、さらに必要に応じて分散剤やチキソ剤等を添加してもよいとされている。

(2-5) そして、上記(2-1)のセリア粉体と適量のバインダー等と溶媒とをよく練合することにより得られた中間層ペーストは、上記A1.(1)1カ.?1キ.によれば、一般的に用いられる、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテリビウム等で安定化されたジルコニアからなる、固体電解質膜に塗布した後に乾燥し、さらに、例えば900?1500℃程度で2?10時間程度、焼成することにより、中間層を形成するが、製造効率の観点から、前記固体電解質膜の片面に前記中間層ペーストを塗布乾燥した後、当該片面とは反対側の面に燃料極ペーストを塗布乾燥して、あるいは、片面に燃料極ペーストを塗布乾燥後に当該片面とは反対側の面に中間層ペーストを塗布乾燥して、各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の中間層ペーストとを備える固体電解質膜を得、その固体電解質膜を焼成することによって、中間層と燃料極の同時形成を行って、各面にそれぞれ中間層と燃料極とが形成された固体電解質膜を得、当該中間層上に空気極ペーストを塗布乾燥してから焼成することによって、固体酸化物形燃料電池用セルとするところ、得られた固体酸化物形燃料電池用セルは、中間層が緻密であり、耐久性に優れているとされる。

(2-6) ここで、中間層ペーストは、上記A1.(1)1ク.によれば、具体的には、GDC粉末AとGDC粉末Bを混合した、セリア粉体100質量部とエチルセルロース0.5質量部とグリセリン30質量部とからなるとされており、その中間層ペーストを、片面に燃料極ペーストが塗布乾燥された6モル%スカンジア安定化ジルコニアからなるシートの、当該片面とは反対側の面に塗布乾燥して、各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の中間層ペーストとを備える前記シートを得、燃料極と中間層の同時形成のための焼成をすることによって、各面にそれぞれ燃料極と中間層とを備える前記シートを得、続いて、当該中間層の上に空気極ペーストを塗布乾燥してから焼成することによって固体酸化物形燃料電池用セルが製造されるところ、前記中間層ペーストのうち前記セリア粉体が上記(2-1)のセリア粉体である場合には、緻密な中間層を備えた固体酸化物形燃料電池用セルが製造できたとされている。

(2-7) 上記(2-6)に示した緻密な中間層を備えた固体酸化物形燃料電池用セルの製造の際に用いられた、6モル%スカンジア安定化ジルコニアからなるシートは、上記(2-5)に示された事項を参照すると、一般的に用いられる、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテリビウム等で安定化されたジルコニアからなる、固体電解質膜の具体例として記載されていることから、「固体電解質膜」にまで一般化し得ると認められ、また、そのセルの製造の際に用いられた、セリア粉体100質量部とエチルセルロース0.5質量部とグリセリン30質量部とからなる、上記(2-6)の中間層ペーストは、上記(2-4)に示された事項を参照すると、「上記(2-1)のセリア粉体100質量部に高分子バインダー0.5質量部と有機溶媒30質量部とを添加してなる中間層ペースト」にまで一般化し得ると認められる。
なお、上記(2-4)に示したとおり、上記A1.(1)1カ.には、中間層ペーストに関し、さらに必要に応じて分散剤やチキソ剤等を添加してもよいという記載も見受けられるものの、上記(2-1)のセリア粉体100質量部に高分子バインダー0.5質量部と有機溶媒30質量部とを添加してなり、非常に緻密な中間層を形成することができ、ひいては耐久性の高いセルを製造できるという、「中間層ペースト」に、分散剤やチキソ剤を添加すると、当該中間層ペーストにおける、必須成分である、セリア粉体と高分子バインダーと有機溶媒とについての含有割合は必然的に低下してしまうため、中間層の緻密性に悪影響を及ぼすおそれがあるところ、甲第1号証全体の記載を参照しても、どのような場合に、「中間層ペースト」に分散剤やチキソ剤を添加する必要性を生ずるのかということを、把握することができないし、さらに、仮に添加の必要性を生じる場合があったとしても、中間層の緻密性に悪影響を及ぼすことなく、「中間層ペースト」に添加できる、分散剤やチキソ剤を構成する具体的な成分を把握することもできないことから、甲第1号証の記載から、分散剤やチキソ剤を添加した中間層ペーストの発明を、実質的な発明として、把握することは合理的なこととはいえない。

(2-8) 上記(2-1)?(2-7)の検討を踏まえ、中間層ペーストに注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「固体酸化物型燃料電池用セルの固体電解質膜と空気極との間に中間層を形成するための中間層ペーストであって、セリア粉体100質量部に高分子バインダー0.5質量部と有機溶媒30質量部とを添加してなり、前記セリア粉体が、平均粒子径が0.3μm以上、1.0μm以下で比表面積が2m^(2)/g以上、9m^(2)/g以下のセリア粉体Aと、平均粒子径が0.1μm以上、0.25μm以下で比表面積が10m^(2)/g以上、62m^(2)/g以下のセリア粉体Bを含む混合物であり、前記セリア粉体Bの平均粒子径に対する前記セリア粉体Aの平均粒子径の比が1.5以上、6.0以下であり、且つ、前記セリア粉体において、前記セリア粉体Aの割合が50質量%以上、95質量%以下、前記セリア粉体Bの割合が5質量%以上、50質量%以下である、中間層ペースト。」

また、甲1発明1の中間層ペーストを塗布乾燥した固体電解質膜に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の甲1発明1の中間層ペーストとを備える固体電解質膜。」

また、甲1発明1の中間層ペーストを用いた固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明3」という。)が記載されていると認められる。
「甲1発明1の中間層ペーストを、片面に燃料極ペーストが塗布乾燥された固体電解質膜の、当該片面とは反対側の面に塗布乾燥して、各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の甲1発明1の中間層ペーストとを備える前記固体電解質膜を得、燃料極と中間層の同時形成のための焼成をすることによって、各面にそれぞれ燃料極と中間層とを備える前記固体電解質膜を得、続いて、当該中間層の上に空気極ペーストを塗布乾燥してから焼成することによって固体酸化物形燃料電池用セルを製造する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。」


A3. 請求項に係る発明と甲1発明との対比・判断
3ア. 請求項1に係る発明と甲1発明1との対比・判断
(ア) 請求項1に係る発明と甲1発明1とを対比するに、技術常識からして、甲1発明1における「固体酸化物型燃料電池用セルの固体電解質膜と空気極との間に中間層を形成するための中間層ペースト」、「セリア粉体」、「高分子バインダー」は、それぞれ、請求項1に係る発明における「固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するための組成物」である「固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物」、「セリウム酸化物」、「バインダー」に相当し、そして、甲1発明1の「セリア粉体100質量部に高分子バインダー0.5質量部と有機溶媒30質量部とを添加してな」る「中間層ペースト」においては、当該「セリア粉体」は、100質量部/130.5質量部≒77重量%の割合を占めていることから、請求項1に係る発明における「前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であ」るとの発明特定事項を備えている。
そうすると、両者は、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

<相違点>
相違点1: 固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物が、請求項1に係る発明では、分散剤を含み、前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下であるのに対し、甲1発明1では、分散剤を含まない点。

(イ) そこで、上記相違点1につき検討するに、本件明細書の【0002】?【0005】によれば、固体酸化物形燃料電池用セルでは、カソード(空気極)とアノード(燃料極)とが固体電解質を介して対向し、さらに、固体電解質とカソードの間には反応抑止層(中間層)が介在しており、かかる反応抑止層は、例えば、所定材料を溶媒中に分散または溶解させたペースト状の組成物を、固体電解質の表面に付与、乾燥することにより形成できるため、均質な反応抑止層を安定的に形成するには、均質で且つ分散性に優れた組成物を用いることが重要であるところ、先行技術文献(特開2008-258064号公報)には、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物中に分散剤としてエステル型の非イオン系活性剤を添加することが記載されているが、その分散剤を用いると、組成物の流動性が悪化し、ピンホール等の塗工不良や固体電解質-反応抑止層間の界面剥離等の不具合が発生する場合があったことから、請求項1に係る発明は、分散性や塗工性に優れた均質な固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物を提供することを発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)としている。
そして、請求項1に係る発明の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物(以下、単に「反応抑止層形成用組成物」ということがある。)は、本件明細書によれば、少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてなり、前記セリウム酸化物の占める割合は、反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、前記分散剤として、分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である分散剤を用いることによって、前記課題を解決できるとされており(【0006】?【0007】)、前記カルボン酸が請求項1に係る発明の反応抑止層形成用組成物中の主成分たるセリウム酸化物の表面に吸着することによって、前記セリウム酸化物が有機溶媒中に安定的に分散することとなるため、分散性や流動性に優れ、塗工不良を防止でき、均質な反応抑止層を安定的に効率よく形成できるし、また、前記カルボン酸の重量平均分子量が1000以下であることによって、組成物の粘度上昇を抑制でき、流動性が高く且つ塗工性に優れるためとの説明がされている(【0022】、【0025】)。

(ウ) 上記(イ)に示したような請求項1に係る発明に対して、甲1発明1は、上記A2.(2-8)に示したとおりの固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物であり、分散剤を含まないものであって、上記A2.(2-1)?(2-7)の検討のとおり、非常に緻密な中間層を形成することができ、ひいては耐久性の高いセルを製造できるものであるところ、甲1発明1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物(以下、単に「甲1発明1の反応抑止層形成用組成物」ということがある。)が、分散剤を含まないものであることによって、どのような課題を抱えているのかを、甲第1号証全体の記載を参照しても把握することはできない。
また、上記A1.(2)?(3)に示したとおり、固体酸化物形燃料電池用の組成物に分散剤としてクエン酸や酒石酸を含有させてもよいとの記載事項はあるものの、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物については記載も示唆もされていない、甲第2?3号証の記載から、分散剤を含まない甲1発明1の反応抑止層形成用組成物が、分散剤を含まないものであることによって、反応抑止層形成において、どのような課題を抱えているのかを把握することもできない。
また、上記A1.(4)、(9)に示したとおり、固体酸化物形燃料電池用の組成物についての記載事項はなく、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物についても記載も示唆もされていない、甲第4号証の記載や甲第9号証の記載から、分散剤を含まない甲1発明1の反応抑止層形成用組成物が、分散剤を含まないものであることによって、反応抑止層形成において、どのような課題を抱えているのかを把握することもできない。
また、上記A1.(5)?(8)、(10)?(22)に示したとおり、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物についての記載も示唆もされていない、甲第5?8号証の記載や甲第10?22号証の記載を参照しても、分散剤を含まない甲1発明1の反応抑止層形成用組成物が、分散剤を含まないものであることによって、反応抑止層形成において、どのような課題を抱えているのかを把握することもできない。
そうすると、甲第1?22号証を参照しても、甲1発明1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物が、分散剤を含まないものであることによって、反応抑止層形成において、どのような課題を抱えているのかを把握することはできないから、甲1発明1に分散剤を含有させる動機付けを合理的に生じさせることはできないといえる。
また、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に分散剤を含有させる場合があるとの本件特許の出願時の技術常識があったと仮定してみても、上記(2-7)で検討したとおり、上記(2-1)のセリア粉体100質量部に高分子バインダー0.5質量部と有機溶媒30質量部とを添加してなり、非常に緻密な反応抑止層を形成することができ、ひいては耐久性の高いセルを製造できるという、甲1発明1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に、分散剤を添加すると、当該反応抑止層形成用組成物において、必須成分である、セリア粉体と高分子バインダーと有機溶媒とについての含有割合は必然的に低下してしまうため、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層の緻密性に悪影響を及ぼすおそれがあるところ、前記技術常識を考慮しても、どのような場合に、甲1発明1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に分散剤を添加する必要性を生ずるのかということを、本件特許の出願前に合理的に把握することができない。
さらに、分散剤添加の必要性を生じる場合があり得るとの追加的な仮定をおいてみたとしても、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層中間層の緻密性に悪影響を及ぼすことなく、甲1発明1の反応抑止層形成用組成物に添加できる、分散剤を構成する具体的な成分を、前記技術常識から、本件特許の出願前に合理的に把握することもできない。

(エ) してみると、甲1発明1が請求項1に係る発明の上記相違点1に係る発明特定事項を備えるようにすることは、甲第1?22号証の記載事項や本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、合理的なこととはいえないから、請求項1に係る発明は、甲第1?22号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得るものであるとはいえない。


3イ. 請求項2?7に係る発明と甲1発明1との対比・判断
請求項2?7に係る発明は、いずれも、請求項1に係る発明の上記相違点1に係る発明特定事項を有しているから、上記3ア.(イ)?(ウ)と同様の検討により、甲第1?22号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。


3ウ. 訂正後請求項8に係る発明と甲1発明2との対比・判断
(ア) 訂正後請求項8に係る発明と甲1発明2とを対比するに、甲1発明2の「各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の甲1発明1の中間層ペーストとを備える固体電解質膜」は、上記A1.(1)1オ.?1ク.によれば、焼結して、固体酸化物燃料電量電池の中間層と燃料極を同時に形成するための固体電解質膜であるから、訂正後請求項8における「固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体」に相当し、また、甲1発明2における「乾燥後の燃料極ペースト」、「乾燥後の甲1発明1の中間層ペースト」、「固体電解質膜」は、技術常識からして、それぞれ、訂正後請求項8に係る発明における「未焼成のアノード」、「未焼成の反応抑止層」、「固体電解質」に相当し、そして、甲1発明2において、「固体電解質膜」が「各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の甲1発明1の中間層ペーストとを備える」ことは、訂正後請求項8に係る発明における「未焼成のアノードと」「固体電解質と未焼成の反応抑止層とが積層されてな」ることに相当し、さらに、甲1発明2における「乾燥後の甲1発明1の中間層ペースト」と訂正後請求項8に係る発明における「請求項1」「に記載の反応抑止層形成用組成物」との対比については、上記3ア.(ア)での検討と同様である。
そうすると、両者は、上記相違点1に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

<相違点>
相違点2: 固体電解質が、訂正後請求項8に係る発明では「未焼成」であるのに対し、甲1発明2では「未焼成」であるのか否かが明らかではない点。

(イ) 上記相違点1?2のうちの上記相違点1については、上記3ア.(イ)?(ウ)で検討したとおりであり、甲1発明2が訂正後請求項8に係る発明の上記相違点1に係る発明特定事項を備えるようにすることは、甲第1?22号証の記載事項や本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、合理的なこととはいえない。

(ウ) してみると、訂正後請求項8に係る発明も、甲第1?22号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得るものであるとはいえない。


3エ. 訂正後請求項10に係る発明と甲1発明3との対比・判断
(ア) 訂正後請求項10に係る発明と甲1発明3とを対比するに、甲1発明3における「燃料極」、「中間層」、「固体電解質膜」、「空気極」、「固体酸化物形燃料電池用セル」は、技術常識からして、それぞれ、訂正後請求項10における「アノード」、「反応抑止層」、「固体電解質」、「カソード」、「固体酸化物形燃料電池」に相当し、そして、甲1発明3の「各面にそれぞれ燃料極と中間層とを備える前記固体電解質膜を得、続いて、当該中間層の上に空気極ペーストを塗布乾燥してから焼成することによって固体酸化物形燃料電池用セルを製造する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法」は、各面にそれぞれ燃料極と中間層とを備える固体電解質膜の当該中間層の上に空気極を積層して備える固体酸化物形燃料電池用セルを製造する方法であることは明らかであり、訂正後請求項10における「アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池を製造する方法」に相当する。また、甲1発明3における「各面にそれぞれ乾燥後の燃料極ペーストと乾燥後の中間層ペーストとを備える前記固体電解質膜を得、燃料極と中間層の同時形成のための焼成をすることによって、各面にそれぞれ燃料極と中間層とを備える前記固体電解質膜を得」ることは、訂正後請求項10における「前記反応抑止層を、」「反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成すること」の一形態であるし、さらに、甲1発明3における「乾燥後の甲1発明1の中間層ペースト」と訂正後請求項10に係る発明における「請求項1」「に記載の反応抑止層形成用組成物」との対比については、上記3ア.(ア)での検討と同様である。
そうすると、両者は、上記相違点1の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

(イ) そして、上記相違点1については、上記3ア.(イ)?(ウ)で検討したとおりであり、甲1発明3が訂正後請求項10に係る発明の上記相違点1に係る発明特定事項を備えるようにすることは、甲第1?22号証の記載事項や本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、合理的なこととはいえない。

(ウ) してみると、訂正後請求項10に係る発明も、甲第1?22号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得るものであるとはいえない。


3オ. 訂正後請求項11に係る発明と甲1発明3との対比・判断
訂正後請求項11に係る発明は、訂正後請求項10に係る発明の上記相違点1に係る発明特定事項を有しているから、上記3エ.(イ)?(ウ)と同様の検討により、甲第1?22号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。


3カ. 小括
上記3ア.?3オ.の検討によれば、申立理由Aによって、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできないし、訂正後請求項8、10?11に係る特許を取り消すこともできない。


(4c-B) 上記1.の申立理由Bについての検討
申立理由Bは、請求項1?11に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるため、それらの請求項に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとの申立理由である。

B1. そこで、まず、請求項1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるか否かにつき検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に係る発明は、上記A3.3ア.(イ)での検討と同様にして、分散性や塗工性に優れた均質な反応抑止層形成用組成物を提供することを課題としているとされる(【0002】?【0005】)。

B2. そして、発明の詳細な説明では、上記B1.に示した課題は、少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてなり、前記セリウム酸化物の占める割合は、反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、前記分散剤として、分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である分散剤を用いることによって解決できることから、当該反応抑止層形成用組成物を用いて固体酸化物形燃料電池を形成した場合は界面剥離等の不具合を生じ難いとされており(【0006】?【0007】)、前記カルボン酸が前記反応抑止層形成用組成物中の主成分たるセリウム酸化物の表面に吸着することによって、前記セリウム酸化物が有機溶媒中に安定的に分散することとなるため、分散性や流動性に優れ、塗工不良を防止でき、均質な反応抑止層を安定的に効率よく形成できるし、また、前記カルボン酸の重量平均分子量が1000以下であることによって、組成物の粘度上昇を抑制でき、流動性が高く且つ塗工性に優れるためとの説明がされている(【0022】、【0025】)。
前記のような発明の詳細な説明からは、上記B1.に示した課題が解決できる反応抑止層形成用組成物として記載されているのは、少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてなり、前記セリウム酸化物の占める割合は、反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、前記分散剤として、分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である分散剤を用いるものであるということが把握される。

B3. また、発明の詳細な説明には、上記B1.に示した課題を解決できる反応抑止層形成用組成物には包含されないことが明かな、例1?4の反応抑止層形成用組成物を用いて固体酸化物形燃料電池を得た場合は、不均質であったことや、流動性が不足し塗工性が悪化した等のため、反応抑止層の界面剥離が発生したのに対し、例5?6の反応抑止層形成用組成物を用いて固体酸化物形燃料電池を得た場合は、反応抑止層の界面剥離を抑制し得たことが記載されている(【0060】?【0068】)。
そして、例6の反応抑止層形成用組成物については、分散剤として重量平均分子量が1000以下であるジカルボン酸を用いたことが記載されている(【0060】?【0068】、【0024】?【0025】)ものの、例5の反応抑止層形成用組成物については、分散剤としてモノカルボン酸を用いたことが記載されている(【0060】?【0068】)だけであり、そのモノカルボン酸の重量平均分子量は明らかではないが、例5の組成物のレオロジー降伏値は、例1?4の組成物のレオロジー降伏値よりも格段に低いことから、【0007】と【0025】の記載からすると、前記モノカルボン酸の重量平均分子量は1000以下であったと認められる。
そうすると、例5?6の反応抑止層形成用組成物は、上記B2.に示した反応抑止層形成用組成物であって、上記B1.に示した課題が解決できる反応抑止層形成用組成物の具体例であると認められる。

B4. 上記B2.?B3.の検討から、発明の詳細な説明全体には、上記B1.に示した課題が解決できる反応抑止層形成用組成物として、少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてなり、前記セリウム酸化物の占める割合は、反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、前記分散剤として、分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である分散剤を用いるものが記載されているといえる。

B5. ここで、上記B4.の「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてな」ることにおける、「少なくとも」は、「セリウム酸化物とバインダと分散剤と」に係っているのか、あるいは、「有機溶媒中に分散または溶解されてな」るに係っているのか、あるいは、「セリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてな」るに係っているのかが、明らかでない。
ところで、固体酸化物形燃料電池を得る際に、「反応抑止層形成用組成物」とともに用いられる、「アノード形成用組成物」、「固体電解質形成用組成物」および「カソード形成用組成物」について、発明の詳細な説明には、「…アノード形成用シート10は、例えば電気触媒的作用を有する導電性材料と、バインダと、必要に応じて用いられる造孔材や分散剤とを適当な溶媒に分散させ、ペースト状の組成物(アノード形成用組成物)を調製し、かかる組成物を任意の手法で成形することにより作製することができる。」(【0031】)、「…例えば、酸化物イオン伝導体とバインダと必要に応じて含まれる添加剤(例えば可塑剤)とを溶媒に分散させて調製してなるペースト状の組成物(固体電解質層用組成物)…」(【0039】)、「…例えば、ペロブスカイト型酸化物と、バインダと、必要に応じて含まれる添加剤とを溶媒に分散させて調整してなるペースト状の組成物(カソード形成用組成物)…」(【0050】)との記載があることから、これらの組成物も「溶媒に分散させて調整してなる」ことが把握されるところ、「アノード形成用組成物」については「少なくとも」を用いた記載はないものの、「固体電解質形成用組成物」および「カソード形成用組成物」については、それぞれ、「少なくとも酸化物イオン伝導体とバインダと溶媒とを含む固体電解質形成用組成物」、「少なくともペロブスカイト型の酸化物とバインダと溶媒とを含むカソード形成用組成物」と記載されている(【0030】)。
そして、このような「少なくとも」は、発明の詳細な説明における、「本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、アノード形成用シート10には、造孔材(気孔形成材)や可塑剤、酸化防止剤、増粘剤、分散剤等の各種添加剤等を必要に応じて含み得る。」(【0036】)、「≪(b)固体電解質層の形成≫…バインダや溶媒、添加剤としては、例えば反応抑止層形成用組成物やアノード形成用として既に上述したもののなかから1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。…」(【0039】?【0041】)、「≪(d)カソード40の形成≫…バインダや溶媒、添加剤としては、例えば反応抑止層形成用組成物やアノード形成用として既に上述したもののなかから1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。…」(【0050】?【0053】)との記載からして、「本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて各種添加剤等を必要に応じて含み得る」ことを意味しており、「反応抑止層形成用組成物」においても、「少なくとも」が同様の意味で用いられていることは、「≪(c)反応抑止層の形成≫…各種添加剤を使用する場合、反応抑止層30全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1wt%?20wt%とすることができ、通常は凡そ0.5wt%?15wt%とすることが好ましい。」等の記載からして、明らかである。
してみると、前記の「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてな」るは、セリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて各種添加剤等を必要に応じて含み得ることを意味しているといえるから、「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含む」と言い換えることができる。

B6. 上記B2.?B5.の検討を踏まえると、発明の詳細な説明には、上記B1.に示した課題が解決できる固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物として、少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、前記セリウム酸化物の占める割合は、当該反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、前記分散剤として、分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である分散剤を用いるものが記載されていると認められる。

B7. 発明の詳細な説明には、上記B6.に示したとおりの、反応抑止層形成用組成物の発明が記載されているのに対し、請求項1の反応抑止層形成用組成物に係る発明は、上記第3の【請求項1】に示したとおりのものであり、再掲すると、次のとおりのものである。
「固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するための組成物であって、
少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、
前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、
前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物。」

B8. そうすると、上記B7.に示した請求項1の反応抑止層形成用組成物に係る発明は、上記B6.に示した発明の詳細な説明に記載されている反応抑止層形成用組成物の発明の範囲内であることは明らかであるから、請求項1の反応抑止層形成用組成物に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていることは明らかである。

B9. また、請求項1を引用する、請求項2?7の反応抑止層形成用組成物に係る発明についても、上記B1.?B8.での検討と同様にして、発明の詳細な説明に記載されている反応抑止層形成用組成物の発明の範囲内であることは明らかであるから、請求項2?7の反応抑止層形成用組成物に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
さらに、請求項1を引用する、訂正後請求項8のグリーン積層体に係る発明についても、上記B1.?B8.での検討と同様にして、発明の詳細な説明に記載されている発明の範囲内であることは明らかであるから、訂正後請求項8の特許も、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているし、また、請求項1を引用する、訂正後請求項10?11の固体酸化物形燃料電池の製造方法に係る発明についても、上記B1.?B8.での検討と同様にして、発明の詳細な説明に記載されている発明の範囲内であることは明らかであるから、訂正後請求項10?11の特許も、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。


B10. 小括
上記B1.?B9.の検討によれば、申立理由Bによって、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできないし、訂正後請求項8、10?11に係る特許を取り消すこともできない。
また、訂正後請求項9に係る特許は存在しないものとなった。


(4c-C) 上記1.の申立理由Cについての検討
申立理由Cは、請求項8?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものであるとの申立理由であり、上記2.の取消理由として採用した申立理由である。
そして、上記(4b)での検討と同様にして、訂正後請求項8に係る特許と訂正後請求項10?11に係る特許は、この申立理由Cによって取り消すことはできない。
また、訂正後請求項9に係る特許は存在しないものとなった。


(4c-D) 上記1.の申立理由Dについての検討
申立理由Dは、平成27年10月6日付け手続補正書による補正は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含んでいるため、請求項1?11に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとの申立理由である。

D1. そこで、まず、請求項1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に係る特許が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるか否かにつき検討するに、平成27年10月6日付け手続補正書による特許請求の範囲の補正によって、出願当初の請求項1における「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒に分散または溶解されてなり」との記載が、「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み」との記載に変更された。

D2. 上記D1.に示した特許請求の範囲の補正に関し、異議申立人は、特許異議申立書において、「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み」との記載は、セリウム酸化物等が有機溶媒に分散または溶解された状態に加えて、それ以外の状態、例えば、本件の当初明細書の段落0007に記載されている、セリウム酸化物等が有機溶媒中に凝集している状態を含んでいるので、当該補正によって、請求項1の範囲は拡張されている旨主張している(特許異議申立書第48頁第19行?第50頁第10行)。

D3. ここで、請求項1の固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物に係る発明は、「前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、 前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である、」との発明特定事項を備えているところ、そのような発明特定事項を備える、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物は、上記(4c-B)B1.?B4.で検討したとおり、分散性や塗工性に優れた均質な反応抑止層形成用組成物を提供するとの課題を解決し得るものであるから、そのような発明特定事項を備える、請求項1に係る発明は、セリウム酸化物等が有機溶媒中に凝集している状態の反応抑止層形成用組成物を包含していないことは明らかである。
してみると、異議申立人の上記D2.の主張は妥当な主張とはいえない。

D4. また、上記(4c-B)B5.?B6.で検討したとおり、発明の詳細な説明によれば、「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてな」るは、セリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて各種添加剤等を必要に応じて含み得ることを意味しているといえるから、「少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含む」と言い換えることができる。
よって、上記D1.に示した特許請求の範囲の請求項1の補正は、そのような言い換えを行った補正にすぎない。

D5. さらに、請求項1を引用する、請求項2?7、訂正後請求項8、訂正後請求項10?11についても、上記D1.に示した特許請求の範囲の請求項1の補正に伴い、上記D4.に示した言い換えが行われたにすぎない。

D6. 小括
上記D1.?D5.の検討によれば、申立理由Dによって、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできないし、訂正後請求項8、10?11に係る特許を取り消すこともできない。
また、訂正後請求項9に係る特許は存在しないものとなった。


第5 むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法であるから、これを認める。
そして、本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項1?8、10?11に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項1?8、10?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の訂正特許請求の範囲の範囲の請求項9に係る特許は、その記載が訂正により削除されたため、その特許に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するための組成物であって、
少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み、
前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%?80wt%であり、
前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物。
【請求項2】
前記分散剤が、分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸である、請求項1に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項3】
前記分散剤が、下式(I):
【化1】

(ただし、Rは、水素原子もしくは炭素数1?5の低級アルキル基であり、mおよびnは、1≦m≦20、0≦n≦20、m+n≦30を満たす実数である。);
で示されるジカルボン酸である、請求項1または2に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項4】
レオメーターの測定に基づくレオロジー降伏値が100Pa以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項5】
前記分散剤の含有量が、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、3wt%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒がα-テルピネオールであり、
前記バインダがエチルセルロースである、請求項1から5のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項7】
前記セリウム酸化物が、イットリア、ガドリニアまたはサマリアがドープされた酸化セリウムであり、
前記セリウム酸化物のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒径が0.1μm以上2μm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項8】
固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、
未焼成のアノードと未焼成の固体電解質と未焼成の反応抑止層とが積層されてなり、
前記グリーンシート積層体における前記未焼成の反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物で構成されている、グリーンシート積層体。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、
前記反応抑止層を、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物を焼成することにより形成することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記形成する反応抑止層の厚みが10μm以下である、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-04 
出願番号 特願2013-266988(P2013-266988)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 841- YAA (H01M)
P 1 651・ 853- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 康晴  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
宮本 純
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5965383号(P5965383)
権利者 アイシン精機株式会社 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
発明の名称 固体酸化物形燃料電池および該電池の反応抑止層形成用組成物  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  
代理人 安部 誠  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  

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