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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F16L
管理番号 1343044
異議申立番号 異議2017-700280  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-17 
確定日 2018-08-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5996238号発明「配管継手及びこれを用いた配管システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5996238号の請求項2に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5996238号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年9月2日に特許権の設定登録がされ、その後、平成29年3月17日に特許異議申立人御園貴美代(以下「特許異議申立人」という。)より請求項2に対して特許異議の申立てがなされ、平成29年7月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月2日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年10月13日付けで訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、同年11月17日に特許異議申立人より意見書が提出され、同年12月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年1月9日に意見書の提出がなされ、同年1月24日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年3月29日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年5月1日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年6月1日に意見書の提出がなされたものである。
なお、平成30年3月29日になされた訂正請求は、以下の第2で説示するとおり、訂正の請求が訂正要件に適合するものではなく、特許法第120条の5第5項で規定する「特別の事情があるとき」に該当するため、特許異議申立人に意見書を提出する機会は与えていない。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年3月29日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
なお、平成29年10月2日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「前記送り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記送り側用地上配管に接続され、前記戻り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記戻り側用地上配管に接続され、」と記載されているのを、「前記送り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が、L型継手2つを介して前記送り側用地上配管に設けられたT型継手1つに接続され、前記戻り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が、L型継手2つを介して前記戻り側用地上配管に設けられたT型継手1つに接続され、」に訂正する(請求項2を引用する請求項3についても、同様に訂正する。)。

2 特許権者の主張の概要
特許権者は、上記訂正事項1について、概ね以下のとおり主張している。
(1)平成30年3月29日付けの訂正請求書
訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面をも併せて「本件明細書等」という。)の段落【0028】の記載、さらに、図1には、送り側チューブ11A、12Aの上端に接続させる地上側継手20Aの第1口部と送り側用地上配管15との形態及び戻り側チューブ11B、12Bの上端に接続させる地上側継手20Bの第1口部と戻り側用地上配管16との形態が、いずれもL型継手2つと送り側又は戻り側用の各地上配管に設けられたT型継手1つを介して行われている様子が図示されていることから、当該訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である(4?5頁の「(c)」の項)。

(2)平成30年6月1日付けの意見書
本件出願時から現在に至るまで「継手」は、2つ以上の配管をつなぎ合わせる部材と定義されているから(乙第1、2号証)、継手同士の間に必ず配管が存在することは技術常識である。2つのL型継手及び1つのT型継手は、いずれも配管同士をつなぐ部材であるから、「・・・第1口部が、L型継手2つを介して・・・T型継手1つに接続され」との構成は、継手同士の間に配管があることを前提としている。訂正事項1においては、訂正後の請求項2に係る発明の効果を奏する特徴部分である3つの継手を特定し、継手を備える配管構造が当然に備える部材である「接続配管」を省略したに過ぎない。したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である(2?4頁の「イ」の項)。

3 当審の判断
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、次の記載がある(なお、下線は当審で付した。)
ア 「【0028】
なお、図1に示すように、地上側継手20A第1口部21aには、L型やT型の3つの継手19と、2本の直線状の接続配管17A、17Bを介して送り側用地上配管15に接続されている。一方、第2地上側継手20Bは、同じく3つの継手19と、2本の直線状の接続配管18(18A、18B)を介して送り戻り側用地上配管16に接続されている。」
イ 本件明細書等の図1には、以下の図が示されている。

(2)検討
ア 特許権者が訂正の根拠と主張する本件明細書の段落【0028】(上記(1)ア)には、地上側継手20Aと送り側用地上配管15との接続構造として、「L型やT型の3つの継手19と、2本の直線状の接続配管17A、17Bを介して」接続すること、及び、第2地上側継手20Bと戻り側用地上配管16との接続構造として「同じく3つの継手19と、2本の直線状の接続配管18(18A、18B)を介して」接続することが記載され、図1(上記(1)イ)にも、そのような接続構造が示されている。
イ しかし、かかる地上側継手20Aと送り側用地上配管15との接続構造は、あくまでも「L型やT型の3つの継手19」に加え、「2本の直線状の接続配管17A、17B」を用いた接続構造であって、要するに、地上側継手20Aの第1口部21aは、「L型の継手19」、「直線状の接続配管17A」、「L型の継手19」及び「直線状の接続配管17B」を介して送り側用地上配管15に設けられた「T型の継手19」に接続されるものであり、また、第2地上側継手20Bと戻り側用地上配管16との接続構造も同様である(ただし、直線状の接続配管の符号は、18A、18Bとなる。)。
そして、本件明細書等には、地上側継手20Aと送り側用地上配管15との接続構造、及び第2地上側継手20Bと送り戻り側用地上配管16との接続構造について、「L型継手2つ」及び「T型継手1つ」のみ介すれば足りるとする接続構造は記載も示唆もなされていないし、そのような接続構造が、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるということもできない。
ウ ところで、特許権者は、上記2(2)のとおり、継手同士の間に必ず配管が存在することは技術常識であるし、訂正事項1においては、訂正後の請求項2に係る発明の特徴部分である3つの継手を特定し、継手を備える配管構造が当然に備える部材である「接続配管」を省略したに過ぎないから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である旨主張するので、以下検討する。
確かに、本件明細書等には、上記アで述べたとおり、地上側継手20Aと送り側用地上配管15との接続構造、及び第2地上側継手20Bと送り戻り側用地上配管16との接続構造について、「L型継手2つ」及び「T型継手1つ」を用いることが記載されているから、かかる「3つの継手」は、特許権者が主張するとおり、訂正後の請求項2に係る発明の特徴部分ということもできる。しかし、本件明細書等には、それら「3つの継手」とともに、「2本の直線状の接続配管」を用いた接続構造が記載されているのであるから、「2本の直線状の接続配管」もそれら「3つの継手」と同様に発明の特徴部分というべきであり、単にそれら「3つの継手」に限って発明の特徴部分と解すべき合理性はない。
また、継手同士の間に必ず配管が存在することが技術常識であるとしても、本件明細書等には、そのような「配管」として、「2本の直線状の接続配管」を用いることのみが記載されているのであって(上記ア)、そのような「2本の直線状の接続配管」のほか、他の任意の形状・構造の接続配管が用いられることは記載も示唆もなされていないこと、また、継手に接続される接続配管には、「直線状」のもののほか、「曲線状」のものや、「フレキシブル」なものも存在し得ることからして、訂正事項1について、継手を備える配管構造が当然に備える部材である「接続配管」を省略したに過ぎない、と解すべき理由もない。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおり、訂正事項1による訂正(請求項2及び3に係る訂正)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるということはできないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではない。
したがって、本件訂正は、適法な訂正請求とはいえないから、本件訂正を認めることはできない。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められないので、本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
軸方向を上下方向に向けて地中に埋設される2本のチューブの上端同士を接続し、
一端に第1口部が配設され、該第1口部から二股に分岐されて略U字状に延在する貫通孔を有するU字管継手部と、前記貫通孔の両端に位置する分岐端から略平行に配設されるとともに、それぞれが前記チューブの上端に連通する第2口部を有する一対の分岐管と、を備え、
前記一対の分岐管同士が間隔をあけた状態で配設された配管継手を用いた配管システムであって、
前記チューブへ向けて流体を送り込む送り側用地上配管と、前記チューブより流体が送り込まれる戻り側用地上配管と、を備え、
上流側を地上側に向けた送り側チューブと、下流側を地上側に向けて配設した戻り側チューブとで1組とし、前記送り側チューブと前記戻り側チューブの下端同士が接続され、
2組の前記チューブのうち送り側チューブの上端同士、および戻り側チューブの上端同士がソケットを介して前記配管継手の第2口部に接続され、
前記送り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記送り側用地上配管に接続され、前記戻り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記戻り側用地上配管に接続され、
前記チューブは、鉛直方向に地中に削孔されたボーリング孔内に挿通され、
前記送り側用地上配管と前記戻り側用地上配管とは、互いに間隔をもって略平行に配置され、前記送り側用地上配管と前記戻り側用地上配管との間に前記ボーリング孔が配置されていることを特徴とする配管継手を用いた配管システム。」

第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
平成30年1月24日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

本件特許の請求項2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物等
甲第1号証:欧州特許出願公開第1036974号明細書
甲第3号証:環境省 平成22年度環境技術実証事業
ヒートアイランド対策技術分野
「(地中熱・下水等を利用したヒートポンプ空調システム)
実証試験結果報告書 <<詳細版>>」、
平成23年3月、1?17、39頁
https://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h22/052-1003b.pdf
甲第4号証:北海道大学 地中熱利用システム工学講座
「地中熱ヒートポンプシステム」、株式会社オーム社、
平成19年9月25日発行、136?138頁
なお、上記甲第1、3及び4号証は、特許異議申立人が提出した甲第1、3及び4号証である。

第5 当審の判断
1 各甲号証に記載された記載事項等
(1)甲第1号証の記載事項及び発明
ア 甲第1号証には次の記載がある(なお、甲第1号証の記載事項は、特許異議申立人が提出した甲第1号証訳文を参照して作成した訳文で示す。また、下線は当審で付した。)。
(1a)「[0001] 本発明は、液状熱媒を利用する地中熱交換システム(地中熱プローブ)用配管のための熱可塑性材料からなる接合部品に関する。
・・・
[0010] 図1は、押出成形法で熱可塑性樹脂から、例えばポリオレフィンから、好ましくはポリエチレンから一体的に作製される地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管用接合部品1を示す。接合部品1は実際にはY形に構成されており、並列する3つの管部分2、3、4を有し、そのうちの1つの管部分2はY字幹部を形成する。他の2つの管部分3、4は、それぞれ湾曲形管部5 、6を経て、Y字幹部を形成する管部分2と接合されており、最後の湾曲形管部とともにY形接合部品1の脚部を形成する。」
・・・
[0014] 図5及び図6によれば、前述の接合部品1は、栓15とともにいわゆる熱交換器(地中熱プローブ)底部25(図5)若しくは25'(図6)を形成する。前記接合部品は熱交換器(地中熱プローブ)往き管26を熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合し、前記接合部品内では循環熱媒が熱交換器(地中熱プローブ)往き管26から熱交換器(地中熱プローブ)還り管27へ転向される。栓15はその円筒部16が、Y字幹部を形成する管部分2の内部に挿入されている。底部18はその楕円長さにおいて正面12の上に突き出ている。栓15、及びY字幹部を形成する管部分2は互いに接合される又は接着される。特に好ましくは2つの部分が加熱ソケット融着接合法で互いに接合される。
・・・
[0019] 熱交換器(地中熱プローブ)底部の本発明による形態は、管直径が比較的大きな地中熱交換器(地中熱プローブ)若しくは地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入され得ることを可能とする。ボーリング孔への地中熱交換器(地中熱プローブ)の導入は、特に熱交換器(地中熱プローブ)底部のY形により及び栓15の存在により簡略化されている。栓15の舌片19は、ボーリング孔への地中熱交換器(地中熱プローブ)の導入を簡略化する衝突要素として働く。栓15はその底部18で、地中熱交換器(地中熱プローブ)をボーリング孔へ挿入する間の破損から保護する。底部18の楕円形により、地中熱交換器(地中熱プローブ)対の2つの地中熱交換器(地中熱プローブ)を可能な限り近い設置し、保護することができる。舌片19内の穴22、23により、重りを熱交換器(地中熱プロ?ブ)底部の最深点に取り付けることができ、それは、ボーリング孔内に存在する液体により生じる浮力を食い止める。 さらにその重りは、地中熱交換器(地中熱プローブ)が挿入時に正確に、即ち鉛直に留まることに寄与する。当然、栓は重りを固定するために2つの穴の代わりに1つ穴のみを有してもよく、重りを取り付けるための他の手段を備えてもよく、別の仕方で重りを載せてもよい。
・・・
[0021] しかしY形に構成された接合部品は、2つの熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は2つの熱交換器(地中熱プローブ)還り管を相互接続し、これらを集積往き管に又は集積還り管に接続する熱交換器(地中熱プローブ)頭部としても使用できる。図7は、熱交換器(地中熱プローブ)頭部として使用される接合部品1 ’の別の実施例を示す。接合部品1 ’の個別の管部分は、図1?6による接合部品1の場合のように同一参照番号で表記されている。Y字幹部を形成する管部分2も、Y字脚を形成する管部分3 、4もこの実施例では、その外径においてそれらの自由端に向けて減少している。対応する段面は32、33、34で表記されている。Y字幹部を形成する管部分2と集積往き管又は集積還り管が、他の2つの管部分3、4と2つの熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は2つの熱交換器(地中熱プローブ)還り管27が、ヒートコイル溶接、加熱要素突き合わせ溶接又は接着を用いて接合される。当然、図1?6に示された接合部品1も熱交換器(地中熱プローブ)頭部として使用できる。個別の配管の接合は図5又は図6に対応する方法で行われ得る。
(1b)「請求項
1.循環熱媒用に定められた地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管のための熱可塑性樹脂製の接合部品であって、接合部品(1、1’)が実際にY形を呈し、並行する3つの管部分(2、3、4)を含み、そのうちの前記1つの管部分(2)がY字幹部を形成し、Y字脚部を形成する前記他の2つの管部分(3、4)がそれぞれ湾曲形管部(5、6)を経て前記Y字幹部と接合されており、前記接合部品(1、1’)が射出成形法で作製されていることを特徴とする接合部品。
・・・
4.前記接合部品(1’ )が熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分(3、4)が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管(26)又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管(27)と接合される、好ましくは接合されるように定められており、前記Y字幹部を形成する前記管部分(2)が、集積往き管又は集積還り管と接合される、好ましくは接合されるように定められていることを特徴とする、請求項1?3のうちの1項に記載の接合部品。
5.前記接合部品(1)が熱交換器(地中熱プローブ)底部(25、25')を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分(3)のうちの1つが、熱交換器(地中熱プロ?ブ)往き管(26)と接合される、好ましくは接合されるように定められており、前記他の管部分(4)が、熱交換器(地中熱プローブ)還り管(27)と接合される、好ましくは接合されるように定められおり、前記Y字幹部を形成する前記管部分(2)が栓(15)を用いて閉ざされていることを特徴とする、請求項1?3のうちの1項に記載の接合部品。」
(1c)甲第1号証には、以下の図1、5、6及び7が示されている。


(2)甲第1号証に記載された発明
ア 摘示(1b)によれば、循環熱媒用に定められた地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管のための接合部品について、
接合部品1、1’がY形を呈し、並行する3つの管部分2、3、4を含み、そのうちの前記1つの管部分2がY字幹部を形成し、Y字脚部を形成する前記他の2つの管部分3、4がそれぞれ湾曲形管部5、6を経て前記Y字幹部と接合されていること(請求項1)、
前記接合部品1’が熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3、4が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され、前記Y字幹部を形成する前記管部分2が、集積往き管又は集積還り管と接合されること(請求項4)、
前記接合部品1が熱交換器(地中熱プローブ)底部25、25'を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3のうちの1つが、熱交換器(地中熱プロ?ブ)往き管26と接合され、前記他の管部分4が、熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され、前記Y字幹部を形成する前記管部分2が栓15を用いて閉ざされていること(請求項5)、が明らかである。
イ 摘示(1a)によれば、摘示(1b)に記載された接合部品との関連において、接合部品1、1’、栓15、熱交換器(地中熱プローブ)往き管26、熱交換器(地中熱プローブ)還り管27、集積往き管及び集積還り管を備えることで、循環熱媒用に定められた地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管構造が構成されることが明らかである。
さらに、熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入されることも明らかである(特に[0014][0019]を参照)。
ウ 以上によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「接合部品1、1’、栓15、熱交換器(地中熱プローブ)往き管26、熱交換器(地中熱プローブ)還り管27、集積往き管及び集積還り管を備える、循環熱媒用に定められた地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管構造であって、
前記接合部品1、1’がY形を呈し、並行する3つの管部分2、3、4を含み、そのうちの前記1つの管部分2がY字幹部を形成し、Y字脚部を形成する前記他の2つの管部分3、4がそれぞれ湾曲形管部5、6を経て前記Y字幹部と接合され、
前記接合部品1’が熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3、4が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され、前記Y字幹部を形成する前記管部分2が、集積往き管又は集積還り管と接合され、
前記接合部品1が熱交換器(地中熱プローブ)底部25、25’を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3のうちの1つが、熱交換器(地中熱プロ?ブ)往き管26と接合され、前記他の管部分4が、熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され、前記Y字幹部を形成する前記管部分2が栓15を用いて閉ざされており、
前記熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入される、
循環熱媒用に定められた地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管構造。」

(2)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には次の記載がある。
(2a)1頁「○実証全体の概要」の項


(2b)12頁「3.実証対象技術の概要」の項


(2c)12頁「図3-1 本実証対象技術の原理」に示された図



(2d)14頁「図3-4 地中熱交換器と地中熱ヒートポンプの配置状況の写真」に示された写真


(2e)15頁「図3-5 実証試験実施施設の配置図」に示された図


(2f)39頁「図6-1 サーマルレスポンス試験を実施した坑井の場所」に示された図



(3)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には次の記載がある。
(3a)137頁「表11 地中熱ヒートポンプシステムの概要」に示された表



(3b)137頁「図25 地中熱交換器の埋設位置」に示された図



2 対比・判断
(1)対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「熱交換器(地中熱プロ?ブ)往き管26」及び「熱交換器(地中熱プローブ)還り管27」は、本件発明の「チューブ」に相当する。
また、甲1発明は、「前記熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入される」ことから、2本の「熱交換器(地中熱プロ?ブ)往き管26」及び2本の「熱交換器(地中熱プローブ)還り管27」が、軸方向を上下方向に向けて地中に配置されるチューブを構成することも明らかである。
イ 甲1発明において、「熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成」する「接合部品1’」は、「Y形を呈し、並行する3つの管部分2、3、4を含み、そのうちの前記1つの管部分2がY字幹部を形成し、Y字脚部を形成する前記他の2つの管部分3、4がそれぞれ湾曲形管部5、6を経て前記Y字幹部と接合され」るものである。
(ア)ここで、上記「接合部品1 ’」を示す図7(摘示(1c))の記載によれば、「Y字幹部を形成」する「管部分2」は、その一端に口部が配設されていることが明らかであり、さらに、「接合部品1 ’」とその構造が共通(摘示(1b)請求項1を参照)する「接合部品1」の断面図(摘示(1c)図1、5、6)をも参酌すれば、上記「接合部品1 ’」を構成する「1つの管部分2」と「湾曲形管部5、6」の内部に、上記口部から二股に分岐されて略U字状に延在する貫通孔が存在することも技術的に明らかである。
したがって、上記「1つの管部分2」と「湾曲形管部5、6」は、その形状・構造に照らして、本件発明の「一端に第1口部が配設され、該第1口部から二股に分岐されて略U字状に延在する貫通孔を有するU字管継手部」に相当するものといえる。
(イ)また、上記「2つの管部分3、4」は「並行」して配列されるものであって、「Y字脚部を形成する前記他の2つの管部分3、4がそれぞれ湾曲形管部5、6を経て前記Y字幹部と接合され」、さらに、「前記Y字脚部を形成する前記管部分3、4が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され」るものであるから、上記(ア)をも踏まえると、上記「2つの管部分3、4」は、本件発明の「前記貫通孔の両端に位置する分岐端から略平行に配設されるとともに、それぞれが前記チューブの上端に連通する第2口部を有する一対の分岐管」に相当するものといえる。
ウ 甲1発明において、「前記接合部品1’が熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3、4が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され」ること、及び、「前記接合部品1’」が「並行する3つの管部分2、3、4を含」むものであって、上記「並行する」「管部分3、4」の配設態様が、図7(摘示(1c))の記載に照らして間隔をあけた状態と理解することができることから、そのように構成された「接合部品1’」は、上記ア及びイをも踏まえると、本件発明の「軸方向を上下方向に向けて地中に埋設される2本のチューブの上端同士を接続し、一端に第1口部が配設され、該第1口部から二股に分岐されて略U字状に延在する貫通孔を有するU字管継手部と、前記貫通孔の両端に位置する分岐端から略平行に配設されるとともに、それぞれが前記チューブの上端に連通する第2口部を有する一対の分岐管と、を備え、前記一対の分岐管同士が間隔をあけた状態で配設された配管継手」と、「軸方向を上下方向に向けて地中に配置される2本のチューブの上端同士を接続し、一端に第1口部が配設され、該第1口部から二股に分岐されて略U字状に延在する貫通孔を有するU字管継手部と、前記貫通孔の両端に位置する分岐端から略平行に配設されるとともに、それぞれが前記チューブの上端に連通する第2口部を有する一対の分岐管と、を備え、前記一対の分岐管同士が間隔をあけた状態で配設された配管継手」の限度で共通するものといえる。
エ 甲1発明は「前記Y字幹部を形成する前記管部分2が、集積往き管又は集積還り管と接合され」るものであるところ、「集積往き管」及び「集積還り管」を地上に配管することは技術常識であるから、上記「集積往き管」及び「集積還り管」は、本件発明の「前記チューブへ向けて流体を送り込む送り側用地上配管」及び「前記チューブより流体が送り込まれる戻り側用地上配管」にそれぞれ相当するものといえる。
オ 甲1発明の「前記接合部品1が熱交換器(地中熱プローブ)底部25、25’を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3のうちの1つが、熱交換器(地中熱プロ?ブ)往き管26と接合され、前記他の管部分4が、熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され、前記Y字幹部を形成する前記管部分2が栓15を用いて閉ざされて」という構成は、上記アをも踏まえると、本件発明の「上流側を地上側に向けた送り側チューブと、下流側を地上側に向けて配設した戻り側チューブとで1組とし、前記送り側チューブと前記戻り側チューブの下端同士が接続され」るという構成に相当するものといえる。
カ 甲1発明の「前記接合部品1’が熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3、4が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され」という構成と、本件発明の「2組の前記チューブのうち送り側チューブの上端同士、および戻り側チューブの上端同士がソケットを介して前記配管継手の第2口部に接続され」という構成とは、上記イ及びウをも踏まえると、「2組の前記チューブのうち送り側チューブの上端同士、および戻り側チューブの上端同士が前記配管継手の第2口部に接続され」という構成の限度で共通するものといえる。
キ 甲1発明の「前記Y字幹部を形成する前記管部分2が、集積往き管又は集積還り管と接合され」という構成は、上記エをも踏まえると、本件発明の「前記送り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記送り側用地上配管に接続され、前記戻り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記戻り側用地上配管に接続され」という構成に相当するものといえる。
ク 甲1発明の「前記熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入される」という構成は、本件発明の「前記チューブは、鉛直方向に地中に削孔されたボーリング孔内に挿通され」という構成に相当するものといえる。
ケ 甲1発明の「循環熱媒用に定められた地中熱交換システム(地中熱プローブ)配管構造」は、本件発明の「配管継手を用いた配管システム」に相当するものといえる。

したがって、本件発明と甲1発明とは、
「軸方向を上下方向に向けて地中に配置される2本のチューブの上端同士を接続し、
一端に第1口部が配設され、該第1口部から二股に分岐されて略U字状に延在する貫通孔を有するU字管継手部と、前記貫通孔の両端に位置する分岐端から略平行に配設されるとともに、それぞれが前記チューブの上端に連通する第2口部を有する一対の分岐管と、を備え、
前記一対の分岐管同士が間隔をあけた状態で配設された配管継手を用いた配管システムであって、
前記チューブへ向けて流体を送り込む送り側用地上配管と、前記チューブより流体が送り込まれる戻り側用地上配管と、を備え、
上流側を地上側に向けた送り側チューブと、下流側を地上側に向けて配設した戻り側チューブとで1組とし、前記送り側チューブと前記戻り側チューブの下端同士が接続され、
2組の前記チューブのうち送り側チューブの上端同士、および戻り側チューブの上端同士が前記配管継手の第2口部に接続され、
前記送り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記送り側用地上配管に接続され、前記戻り側チューブの上端に接続する前記配管継手の第1口部が前記戻り側用地上配管に接続され、
前記チューブは、鉛直方向に地中に削孔されたボーリング孔内に挿通される、
配管継手を用いた配管システム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
チューブの設置態様について、本件発明は、「チューブ」が「地中に埋設される」ものであるのに対し、甲1発明は、「熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入される」ものである点。
<相違点2>
配管継手と、送り側チューブおよび戻り側チューブとの接続について、本件発明は、「ソケットを介して」接続するのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
<相違点3>
本件発明は、「前記送り側用地上配管と前記戻り側用地上配管とは、互いに間隔をもって略平行に配置され、前記送り側用地上配管と前記戻り側用地上配管との間に前記ボーリング孔が配置されている」のに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点1について
甲1発明は、「熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入される」ものであるから、ボーリング孔に導入されて配置されたチューブ(熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27)は、地中に埋設された状態で配置されているということもでき、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。
仮に上記相違点1が実質的な相違点であるとしても、ボーリング孔に導入されたチューブを埋設することは、当業者にとって格別困難なことではない。

イ 相違点2について
配管と配管もしくは配管とその他のものを接続する技術として、種々の継手構造が存在し、その一例としてソケットを用いて配管接続することは、かかる技術分野の慣用技術である(必要ならば、特開平3-194285号公報:1頁右下欄12行?2頁左上欄8行、図15、実願昭60-10722号(実開昭61-126174号)のマイクロフィルム:明細書1頁10?17行、第5、6図、など参照)。
そして、甲第1号証には、「他の2つの管部分3、4と2つの熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は2つの熱交換器(地中熱プローブ)還り管27が、ヒートコイル溶接、加熱要素突き合わせ溶接又は接着を用いて接合される。」(摘示(1a)[0021])と記載されているように、甲1発明において、配管継手(接合部品1’)と、送り側チューブ(熱交換器(地中熱プローブ)往き管26)および戻り側チューブ(熱交換器(地中熱プローブ)還り管27)との接続については、ヒートコイル溶接、加熱要素突き合わせ溶接又は接着などが想定されており、要は、通常の接合技術を利用して両部材を接合すれば足りることが明らかであるから、かかる接続構造として、上記慣用技術であるソケットを用いた配管接続構造を採用することは、当業者にとって格別困難なことではない。

ウ 相違点3について
甲第3号証には、「学校法人森村学園における地中熱利用ヒートポンプシステム」の実証対象技術(摘示(2a))として、地下100mまでボーリング孔を掘削し、掘削孔に地中熱交換器(ポリエチレン製ダブルU字管)を設置すること、地中熱交換器に熱媒を循環させ、地中から採熱または地中に放熱させること、及び地中熱交換器を循環した熱媒が運んだ熱は地中熱ヒートポンプによって二次側の熱媒の冷却または昇温に利用されることが記載されている(摘示(2b))。
ここで、上記実証対象技術について、その原理を示す図3-1(摘示(2c))、地中熱交換器の設置状況を示す図3-4(摘示(2d)図3-4の上側の写真)及び実証試験実施施設の配置図を示す図3-5(摘示(2e))によれば、上記地中熱利用ヒートポンプシステムにおいて、掘削孔に設置された地中熱交換器(ポリエチレン製ダブルU字管)の上端には、熱媒を送るための地上配管と、熱媒を戻すための地上配管が接続され、それら地上配管が互いに間隔をもって略平行に配置されていること(特に、図3-1及び図3-4を参照)、さらに、それらの地上配管の間には、ボーリング孔が配置されていること(特に、図3-4及び図3-5を参照)が明らかである。
また、そのような地上配管とボーリング孔の設置の例は、甲第3号証の39頁図6-1のサーマルレスポンス試験を実施した坑井の場所の図面(摘示(2f))や、甲第4号証の137頁図25の地中熱交換器の埋設位置の図面(摘示(3b))にも示されており、地中熱利用ヒートポンプシステムにおける周知技術ということもできる。
そして、甲1発明は、「前記熱交換器(地中熱プローブ)往き管26及び前記熱交換器(地中熱プローブ)還り管27を具備する地中熱交換器(地中熱プローブ)対が一定直径のボーリング孔に導入される」ものであって、「前記接合部品1’が熱交換器(地中熱プローブ)頭部を形成し、前記Y字脚部を形成する前記管部分3、4が、それぞれ熱交換器(地中熱プローブ)往き管26又は熱交換器(地中熱プローブ)還り管27と接合され、前記Y字幹部を形成する前記管部分2が、集積往き管又は集積還り管と接合され」るものであるから、かかる「集積往き管」、「集積還り管」及び「ボーリング孔」の配設構造として上記甲第3号証や甲第4号証に記載される周知技術を採用し、上記相違点3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものといえる。
エ そして、本件発明の作用効果も、甲1発明、上記慣用技術及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものといえる。
オ したがって、本件発明は、甲1発明、上記慣用技術及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項2に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-25 
出願番号 特願2012-83006(P2012-83006)
審決分類 P 1 652・ 121- ZB (F16L)
P 1 652・ 841- ZB (F16L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
氏原 康宏
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5996238号(P5996238)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 配管継手及びこれを用いた配管システム  
代理人 豊山 おぎ  
代理人 佐伯 義文  
代理人 森 隆一郎  
代理人 大槻 真紀子  

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