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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1343556
審判番号 不服2017-18636  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-15 
確定日 2018-09-13 
事件の表示 特願2014-155666「扁平形アルカリ電池、その製造方法、および扁平形アルカリ電池用の封口板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月10日出願公開、特開2016- 33856、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年7月31日の出願であって、平成29年6月20日付けで拒絶理由が通知され、同年8月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され(以下、同年8月4日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正1」という。)、同年9月15日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月15日付けで拒絶査定不服審判の請求とともに手続補正書が提出され(以下、同年12月15日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正2」という。)、平成30年2月9日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定及び前置報告の概要

1 原査定の概要

原査定(平成29年9月15日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。
手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1,3,6,9,11,12に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項2,4,5,7,8,10に係る発明は、引用文献1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
引用文献1:特開昭56-26358号公報
引用文献2:特開昭56-145655号公報

2 前置報告の概要

平成30年2月9日付け前置報告の概要は以下のとおりである。
手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、引用文献1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
引用文献1:特開昭56-26358号公報
引用文献2:特開昭56-145655号公報

第3 本願発明

本願の請求項1?12に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
外装缶の開口部に樹脂製ガスケットを介して封口板が嵌合され、かつ前記外装缶の開口端部が内方に締め付けられることにより形成されてなる密閉空間内に、正極合剤の成形体からなる正極、亜鉛粒子または亜鉛合金粒子を含有する負極、セパレータおよびアルカリ電解液を有する扁平形アルカリ電池であって、
前記封口板は、上面壁、前記上面壁から下方向に湾曲した湾曲部、および周辺折り返し部を有しており、
前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面には、100μm×100μmの領域内に、直径が0.5?5μmの凹部を10個以上有する凹部形成箇所が存在しており、かつ
前記凹部形成箇所の表面には、トリアゾール化合物を含有する防錆被膜が形成されていることを特徴とする扁平形アルカリ電池。
【請求項2】
前記防錆被膜の表面粗さが5?50μmである請求項1に記載の扁平形アルカリ電池。
【請求項3】
前記防錆被膜の表面には、ピッチが塗布されている請求項1または2に記載の扁平形アルカリ電池。
【請求項4】
前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面の総面積の80%以上を、前記凹部形成箇所とした請求項1?3のいずれかに記載の扁平形アルカリ電池。
【請求項5】
前記凹部形成箇所の表面粗さが、算術平均粗さRaで5?50μmである請求項1?4のいずれかに記載の扁平形アルカリ電池。
【請求項6】
上面壁、前記上面壁から下方向に湾曲した湾曲部、および周辺折り返し部を有する扁平形アルカリ電池用の封口板であって、
前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面には、100μm×100μmの領域内に、直径が0.5?5μmの凹部を10個以上有する凹部形成箇所が形成されており、
前記凹部形成箇所の表面には、防錆被膜が形成されていることを特徴とする扁平形アルカリ電池用の封口板。
【請求項7】
前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面の総面積の80%以上を前記凹部形成箇所とした請求項6に記載の扁平形アルカリ電池用の封口板。
【請求項8】
前記凹部形成箇所の表面粗さが、算術平均粗さRaで5?50μmである請求項6または7に記載の扁平形アルカリ電池の封口板。
【請求項9】
前記防錆被膜がトリアゾール化合物を含有している請求項6?8のいずれかに記載の扁平形アルカリ電池用の封口板。
【請求項10】
前記防錆被膜の厚さが、5?100nmである請求項6?9のいずれかに記載の扁平形アルカリ電池用の封口板。
【請求項11】
前記防錆被膜の表面にピッチが塗布されている請求項6?10のいずれかに記載の扁平形アルカリ電池用の封口板。
【請求項12】
外装缶の開口部に樹脂製ガスケットを介して封口板が嵌合され、かつ前記外装缶の開口端部が内方に締め付けられることにより形成されてなる密閉空間内に、正極合剤の成形体からなる正極、亜鉛粒子または亜鉛合金粒子を含有する負極、セパレータおよびアルカリ電解液を有する扁平形アルカリ電池の製造方法であって、
前記封口板として、請求項6?11のいずれかに記載の扁平形アルカリ電池用の封口板であって、化学研磨と、前記化学研磨後に行われた過酸化水素が添加された酸洗液による酸洗浄とを経て、前記凹部形成箇所を形成したものを用いることを特徴とする扁平形アルカリ電池の製造方法。」

第4 当審の判断

1 引用文献1の記載事項

(1)原査定で引用された引用文献1には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

(1a)「この発明は・・・アルカリ電池の改良に係り、耐漏液性の向上を目的とする。」(第1頁左下欄第13?16行)

(1b)「アルカリ電池における電解液の漏出は、一般に陽極缶とガスケツトとの接面からよりも、陰極集電体とガスケツトとの接面からの方がおこりやすい。この理由は・・・主として陰極集電体特有の電気化学的なクリープ現象によるものと考えられている。」(第1頁右下欄下から第5行?第2頁左上欄第3行)

(1c)「陰極集電体は・・・少なくとも陰極剤と接触する側が通常銅もしくは銅合金で構成されているが、この金属と活物質である亜鉛との電位差が比較的大きいことが前記した電気化学的なクリープ現象を顕著にする原因ともなつている。
このような状況に加え、陰極端子板の場合は銅層表面が圧延時あるいは絞り加工時に直線状のキズを受け、このキズに沿つて電解液がクリープするため、電解液の漏出が非常に早くなり、電池の表面に漏出して外観を損ない、さらには電池応用機器に損傷を与えることになる。
この発明はそのような事情に照らし、なされたものであり、上述のような銅層表面における直線状のキズを除去し、該銅層表面に直径1?6μの凹状の微細孔を多数設け、電解液がクリープしたときの液溜とし、またクリープ距離を長くすることによつて電解液の漏出を抑制するようにしたものである。
すなわち、この発明は陰極集電体の銅ないし銅合金表面における少なくともガスケツトを圧接させる面に直径1?6μの凹状の微細孔を多数設けたことを特徴とするアルカリ電池に関する。」(第2頁左上欄第12行?同頁右上欄下から第5行)

(1d)「第1図はこの発明に係るボタン型アルカリ電池の一例を示す部分断面図であり、(1)は・・・陽極活物質と・・・導電助剤とを含み、これにアルカリ電解液の一部を含浸させてなる陽極合剤、(2)は陽極合剤(1)・・・に接触するセパレータであ・・・る。(4)はアマルガム化された亜鉛活物質と・・・ゲル化分散剤とを含み、これにアルカリ電解液の大半量を注入してなる陰極剤である。
(5)は・・・陽極缶であり、この陽極缶(5)は陽極合剤(1)およびセパレータ(2)を内填させるとともに、缶開口部に陰極剤(4)が内填された陰極集電体としての陰極端子板(6)を・・・各種樹脂・・・からなる・・・環状ガスケツト(7)を介装して嵌合させ、陽極缶(5)の開口縁を内方へ締め付けて電池内部を密閉構造にしている。
陰極端子板(6)は、第2図に示されるように、鋼板(8)の外面側に・・・ニツケル層(9)を、内面側に・・・銅層(10)を設けた構成からなり、通常・・・クラツド板を絞り加工によつて周辺折り返し部(11)を有する形状に加工することにより形成されたものである。そして銅層(10)表面における少なくともガスケツト(7)が圧接する面(12)には、第3図に示されるように直径1?6μの凹状の微細孔(13)が多数設けられている。
かかる微細孔(13)の形成は、たとえば過酸化水素-硫酸系の研摩剤で化学研摩することにより行なわれる。すなわち・・・過酸化水素-硫酸系の研摩剤で該銅層(10)表面を化学研摩すると直線状のキズが除去され、それに代つて独立した直径1?6μの凹状の微細孔(13)が形成される。」(第2頁右上欄下から第3行?同頁右下欄末行)

(1e)「これまでは、化学研摩後の銅表面はほぼ完全に平滑であると信じられてきたのであるが、これを走査型電子顕微鏡で観察すると意外にも前記のような独立した直径1?6μの凹状の微細孔(13)が点状に多数形成されており、またこのような状態の陰極端子板(6)を電池に組込むと化学研摩をしないものに比べて耐漏液性が・・・かなり大巾に向上するのである。 ・・・化学研摩以外の研摩手段、たとえば機械研摩、電解研摩に・・・よる場合は微細孔は形成されない。
化学研摩後の陰極端子板(6)は・・・第4図に示されるように、研摩直後にベンゾトリアゾール系化合物を主成分とする皮膜(14)を形成するのが好ましい。
陰極端子板(6)の銅層(10)表面にそのようなベンゾトリアゾール系化合物を主成分とする皮膜(14)を形成すると・・・耐漏液性がさらに向上する。」(第3頁左上欄第6行?同頁右上欄第12行)





(2)前記(1)の記載によれば、引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア 引用文献1に記載された発明は、アルカリ電池の改良に係り、耐漏液性の向上を目的とする(1a)。

イ アルカリ電池における電解液の漏出は、主として陰極集電体特有の電気化学的なクリープ現象のため、一般に陽極缶とガスケツトとの接面からよりも、陰極集電体とガスケツトとの接面からの方が生じやすく(1b)、陰極集電体の少なくとも陰極剤と接触する側が通常銅もしくは銅合金で構成されていることが上記電気化学的なクリープ現象を顕著にする原因にもなっている(1c)。
このような状況に加え、陰極端子板の銅層表面が圧延時あるいは絞り加工時に直線状のキズを受け、このキズに沿って電解液がクリープするため、電解液の漏出が非常に早くなってしまう(1c)。

ウ 引用文献1に記載された発明は、以上の事情に照らしてなされたものであり、上述のような銅層表面における直線状のキズを除去し、該銅層表面に直径1?6μの凹状の微細孔を多数設けることによって、当該微細孔を電解液がクリープしたときの液溜とするとともに、電解液のクリープ距離を長くして、その漏出を抑制するようにしたものである。
すなわち、引用文献1に記載された発明は、陰極集電体の銅ないし銅合金表面における少なくともガスケツトを圧接させる面に直径1?6μの凹状の微細孔を多数設けたことを特徴とするアルカリ電池である(1c)。

エ ボタン型アルカリ電池の一例(1d,第1図?第3図)としては、
陽極活物質と導電助剤とを含み、これにアルカリ電解液の一部を含浸させてなる陽極合剤(1)と、
前記陽極合剤(1)に接触するセパレータ(2)と、
アマルガム化された亜鉛活物質とゲル化分散剤とを含み、これにアルカリ電解液の大半量を注入してなる陰極剤(4)と
鋼板(8)の外面側にニツケル層(9)、内面側に銅層(10)が設けられたクラツド板を、絞り加工によって周辺折り返し部(11)を有する形状に加工することにより形成された陰極端子板(6)と、
前記陽極合剤(1)及び前記セパレータ(2)を内填させるとともに、開口部に前記陰極剤(4)が内填された前記陰極端子板(6)を、各種樹脂からなる環状ガスケツト(7)を介装して嵌合させ、開口縁を内方へ締め付けて電池内部を密閉構造にしている陽極缶(5)とを有し、
前記陰極端子板(6)の銅層(10)表面の少なくとも前記ガスケツト(7)が圧接する面(12)には、直径1?6μの凹状の微細孔(13)が多数設けられているボタン型アルカリ電池
の例が記載されている。

オ 前記微細孔(13)の形成は、過酸化水素-硫酸系の研摩剤で化学研摩することにより行なわれる。すなわち、過酸化水素-硫酸系の研摩剤で該銅層(10)表面を化学研摩すると直線状のキズが除去され、それに代って独立した直径1?6μの凹状の微細孔(13)が形成される(1d)。
従来、化学研摩後の銅表面はほぼ完全に平滑であると信じられてきたが、走査型電子顕微鏡による観察により意外にも前記のような独立した直径1?6μの凹状の微細孔(13)が点状に多数形成されており、このような状態の陰極端子板(6)を電池に組込むと、化学研摩をしないものに比べて耐漏液性がかなり大幅に向上することが分かった。上記微細孔(13)は、機械研摩、電解研摩等の化学研摩以外の研摩手段では形成できない(1e)。

カ また、化学研摩後の陰極端子板(6)の銅層(10)表面にベンゾトリアゾール系化合物を主成分とする皮膜(14)を形成すると耐漏液性がさらに向上する(1e,第4図)。

(3)以上によれば、引用文献1には、ボタン型アルカリ電池の一例(1d,1e,第1図?第4図)に基づいて認定した以下の「引用発明1」が記載されているものと認められる。

(引用発明1)
陽極活物質と導電助剤とを含み、これにアルカリ電解液の一部を含浸させてなる陽極合剤(1)と、
前記陽極合剤(1)に接触するセパレータ(2)と、
アマルガム化された亜鉛活物質とゲル化分散剤とを含み、これにアルカリ電解液の大半量を注入してなる陰極剤(4)と
鋼板(8)の外面側にニツケル層(9)、内面側に銅層(10)が設けられたクラツド板を、絞り加工によって周辺折り返し部(11)を有する形状に加工することにより形成された陰極端子板(6)と、
前記陽極合剤(1)及び前記セパレータ(2)を内填させるとともに、開口部に前記陰極剤(4)が内填された前記陰極端子板(6)を、各種樹脂からなる環状ガスケツト(7)を介装して嵌合させ、開口縁を内方へ締め付けて電池内部を密閉構造にしている陽極缶(5)とを有し、
前記陰極端子板(6)の銅層(10)表面には、ベンゾトリアゾール系化合物を主成分とする皮膜(14)が形成され、前記表面の少なくとも前記ガスケツト(7)が圧接する面(12)には、直径1?6μの凹状の微細孔(13)が多数設けられているボタン型アルカリ電池。

2 引用文献2の記載事項

原査定で引用された引用文献2には、以下の記載がある。

(2a)「2、特許請求の範囲
(1)負極端子を兼ねた金属封口板の絶縁性バッキングと接する表面を、中心線平均粗さが0.5?10μmの範囲で粗面化し、この粗面化した封口板と前記絶縁性パッキングとの間に接着性を有する封止剤を介在したことを特徴とするボタン型アルカリ電池。」

(2b)「本発明は・・・負極封口板の給縁封ロパッキングと接する表面を粗面化するとともに両者間に接着性のある封止剤を封入し、封止剤の密着強度を図ることで長期保存あるいけ熱サイクル試験後においても、電解液の漏液を防止して電池性能を安定化した電池を提供するものである。」(第2頁左上欄第9?15行)

(2c)「封口パッキングに接する負極封口板の表面をブラスチング法により粗面化した。なおブラスト材として#240のアルミナチタニアを使用し空気圧は5Kg/cm^(2)として封口板の周辺部のみを・・・粗面化した。
粗面化後、洗浄して・・・封口パッキングにポリアミドを含有しだエポキシ系の封止剤を介在させて負極封口板と封口パッキングとを密着させた。
このように負極封口板の周辺部を粗面化した後封止剤を介在させてバッキングと密着させると、密着強度が一段と優れることが判明した。」(第2頁右上欄下から第7行?同頁左下欄第6行)

(2d)「粗面化による表面粗さについては、0.5μm?10μmの範囲が最適であった。」(第2頁右下欄第6?7行)

(2e)「表面処理方法として本発明ではブラスチング法を用いたが、この外にケミカルエッチング、機械加工等の方法も考えられる。しかしこれらの中ではブラスチング法が生産性に優れかつ安定した条件が得られることが判った。」(第2頁右下欄第12?16行)

3 対比・判断

(1)本願発明1について

ア 本願発明1と引用発明1の一致点・相違点

(ア)本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「各種樹脂からなる環状ガスケツト(7)」及び「セパレータ(2)」は、それぞれ、本願発明1の「樹脂製ガスケット」及び「セパレータ」に相当する。
また、引用発明1の「ボタン型アルカリ電池」の形状が「扁平形」であることは明らかであるから、引用発明1と本願発明1は「扁平形アルカリ電池」である点で一致し、両者が「アルカリ電解液」を有していることも明らかである。

(イ)引用発明1における「陽極」及び「陰極」という記載が、それぞれ「正極」及び「負極」を意味することは、当業者の技術常識であるから、引用発明1の「陽極活物質と導電助剤とを含み、これにアルカリ電解液の一部を含浸させてなる陽極合剤(1)」と本願発明1の「正極合剤の成形体からなる正極」は「正極」である点で一致し、引用発明1の「アマルガム化された亜鉛活物質とゲル化分散剤とを含み、これにアルカリ電解液の大半量を注入してなる陰極剤(4)」と本願発明1の「亜鉛粒子または亜鉛合金粒子を含有する負極」は「負極」である点で一致する。

(ウ)本願発明1では、「外装缶の開口部に」「封口板が嵌合され」「形成されてなる密閉空間内に」「正極」「負極、セパレータおよびアルカリ電解液を有する」と特定されているところ、本願の発明の詳細な説明には、その根拠となる記載として「図1および図2に示す扁平形アルカリ電池では、外装缶1、封口板2および樹脂製ガスケット6からなる電池容器内の空間(密閉空間)に、正極3、負極4およびセパレータ5を含む発電要素が装填されており、更に電解液(図示しない)が注入されている。そして、外装缶1は正極端子を兼ね、封口板2は負極端子を兼ねている。」(【0013】)という記載があるから、本願発明1における「外装缶」及び「封口板」は、それぞれ、「正極端子」及び「負極端子」として機能しているものと認められる。
したがって、引用発明1の「陽極缶(5)」と本願発明1の「外装缶」は「外装缶」である点で一致し、引用発明1の「陰極端子板(6)」と本願発明1の「封口板」は「封口板」である点で一致する。

(エ)前記(ア)?(ウ)によれば、引用発明1の「前記陽極合剤(1)及び前記セパレータ(2)を内填させるとともに、開口部に前記陰極剤(4)が内填された前記陰極端子板(6)を、各種樹脂からなる環状ガスケツト(7)を介装して嵌合させ、開口縁を内方へ締め付けて電池内部を密閉構造にしている陽極缶(5)とを有」する「ボタン型アルカリ電池」と、本願発明1の「外装缶の開口部に樹脂製ガスケットを介して封口板が嵌合され、かつ前記外装缶の開口端部が内方に締め付けられることにより形成されてなる密閉空間内に、正極合剤の成形体からなる正極、亜鉛粒子または亜鉛合金粒子を含有する負極、セパレータおよびアルカリ電解液を有する扁平形アルカリ電池」は、「外装缶の開口部に樹脂製ガスケットを介して封口板が嵌合され、かつ前記外装缶の開口端部が内方に締め付けられることにより形成されてなる密閉空間内に、正極、負極、セパレータおよびアルカリ電解液を有する扁平形アルカリ電池」である点で一致する。

(オ)以上によれば、本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
外装缶の開口部に樹脂製ガスケットを介して封口板が嵌合され、かつ前記外装缶の開口端部が内方に締め付けられることにより形成されてなる密閉空間内に、正極、負極、セパレータおよびアルカリ電解液を有する扁平形アルカリ電池。

(相違点1)
本願発明1は「正極合剤の成形体からなる正極」及び「亜鉛粒子または亜鉛合金粒子を含有する負極」を有するのに対して、
引用発明1は「陽極活物質と導電助剤とを含み、これにアルカリ電解液の一部を含浸させてなる陽極合剤(1)」及び「アマルガム化された亜鉛活物質とゲル化分散剤とを含み、これにアルカリ電解液の大半量を注入してなる陰極剤(4)」を有する点。

(相違点2)
本願発明1では「封口板は、上面壁、前記上面壁から下方向に湾曲した湾曲部、および周辺折り返し部を有しており、 前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面には、100μm×100μmの領域内に、直径が0.5?5μmの凹部を10個以上有する凹部形成箇所が存在しており、かつ 前記凹部形成箇所の表面には、トリアゾール化合物を含有する防錆被膜が形成されている」のに対して、
引用発明1では「陰極端子板(6)」が「鋼板(8)の外面側にニツケル層(9)、内面側に銅層(10)が設けられたクラツド板を、絞り加工によって周辺折り返し部(11)を有する形状に加工することにより形成され」「前記陰極端子板(6)の銅層(10)表面には、ベンゾトリアゾール系化合物を主成分とする皮膜(14)が形成され、前記表面の少なくとも前記ガスケツト(7)が圧接する面(12)には、直径1?6μの凹状の微細孔(13)が多数設けられている」点。

相違点の判断

事案に鑑み、相違点2について検討する。

(ア)本願発明1における「封口板」の「前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面には、100μm×100μmの領域内に、直径が0.5?5μmの凹部を10個以上有する凹部形成箇所が存在して」いるところ、当該「凹部」の形成方法に関し、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0038】
・・・封口板は、通常、脱脂処理を行った後に、例えば、過酸化水素-硫酸系の研磨剤を使用した化学研磨法によって封口板の銅または銅合金層の表面(すなわち、上面壁、湾曲部および周辺折り返し部の電池内側の面、並びに周辺折り返し部の外装缶側の面)を化学研磨する。
【0039】
・・・前記の凹部形成箇所を設けるには、化学研磨後に水洗を行うことなく、酸洗液による酸洗浄を行えばよい。また、酸洗浄時の酸洗液に過酸化水素を添加することでもよい。酸洗時に過酸化水素を含む事で酸化被膜を除去しながら、凹部を形成することができる。
【0040】
ここで、化学研磨は、1?10質量%濃度の硫酸に、過酸化水素を0.5?1.0wt/vol添加した液を用い、5?90秒間実施する。また、酸洗液による酸洗浄は、1?10質量%濃度の硫酸に、過酸化水素を0.01?0.5wt/vol添加した液を用い、10?90秒間実施することで、前記凹部形成をより効果的に行うことができる。」
「【0068】
<封口板の作製>
・・・
【0069】
そして、前記の封口板2に、10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.5wt/vol添加して調製した化学研磨液を用いて60秒間化学研磨を行い、続いて、10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.02wt/vol添加して調製した酸洗液を用いて60秒間酸洗浄することで、上面壁2aおよび湾曲部2bの電池内側となる面、並びに周辺折り返し部2cの外装缶側となる面の全体に、凹部形成箇所を設けた。形成後の凹部形成箇所における凹部の個数は、100μm×100μmの領域内に15個であった。」
「【0075】
実施例2
封口板2の酸洗浄に用いた酸洗液を、10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.05wt/vol添加して調製したものに変更して凹部形成箇所の形成を行った以外は、実施例1と同様にして扁平形アルカリ電池を作製した。【0076】
なお、実施例2で用いた封口板2は、形成後の凹部形成箇所における凹部の個数は、100μm×100μmの領域内に100個であった。
【0077】
実施例3
封口板2の酸洗浄に用いた酸洗液を、10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.3wt/vol添加して調製したものに変更して凹部形成箇所の形成を行った以外は、実施例1と同様にして扁平形アルカリ電池を作製した。
【0078】
なお、実施例3で用いた封口板2は、形成後の凹部形成箇所における凹部の個数は、100μm×100μmの領域内に2000個であった。」
「【0080】
比較例1
封口板2の酸洗浄に用いた酸洗液を、10質量%濃度の硫酸に変更して凹部形成箇所の形成を行った以外は、実施例1と同様にして扁平形アルカリ電池を作製した。
【0081】
なお、比較例1で用いた封口板2は、形成後の凹部形成箇所における凹部の個数は、100μm×100μmの領域内に5個であった。」

(イ)前記(ア)の記載によれば、前記「凹部」は、封口板の凹部形成箇所に対し、
(i)1?10質量%濃度の硫酸に、過酸化水素を0.5?1.0wt/vol添加した化学研磨液を用いて5?90秒間の「化学研磨」をした後、
(ii)水洗を行うことなく、1?10質量%濃度の硫酸に、過酸化水素を0.01?0.5wt/vol添加した酸洗液を用いて10?90秒間の「酸洗」を行うことにより形成することができるものであり(【0038】?【0040】)、
実施例においても、
(i)10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.5wt/vol添加して調製した化学研磨液を用いて60秒間の化学研磨を行った後、
(ii)10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.02wt/vol添加して調製した酸洗液を用いた60秒間の酸洗浄(実施例1)、
実施例1の酸洗液のみを10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.05wt/vol添加して調製した酸洗液に変更して用いた60秒間の酸洗浄(実施例2)、
実施例1の酸洗液のみを10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.3wt/vol添加して調製した酸洗液に変更して用いた60秒間の酸洗浄(実施例3)
を行うことによって、100μm×100μmの領域内の凹部の個数を、それぞれ、15個(実施例1)、100個(実施例2)、2000個(実施例3)に形成することができる(【0068】?【0069】,【0075】?【0078】)。
他方、10質量%濃度の硫酸に過酸化水素を0.5wt/vol添加して調製した化学研磨液を用いて60秒間の化学研磨を行った後、過酸化水素を添加せず10質量%濃度の硫酸のみを用いて60秒間の酸洗浄を行った「比較例1」では、100μm×100μmの領域内の凹部の個数は、わずか5個であり、本願発明1の下限値である「10個」に達していない(【0080】?【0081】)。

(ウ)これに対して、引用発明1では、「陰極端子板(6)の銅層(10)表面」「の少なくとも前記ガスケツト(7)が圧接する面(12)には、直径1?6μの凹状の微細孔(13)が多数設けられている」ことは特定されているものの、引用文献1の記載を参酌しても、上記「多数」がどの程度の密度で形成されたものであるのかは不明であり、引用文献1には、前記「1」「(2)」「オ」にあるとおり、上記「微細孔(13)」は、過酸化水素-硫酸系の研摩剤を用いた化学研摩という「一段階」の工程によって意外にも形成されたことが記載されているのみで、前記(イ)にあるような「二段階」の工程によって形成することは、記載も示唆もされておらず、また、引用発明1の「直径1?6μの凹状の微細孔(13)」を100μm×100μmの領域内に10個以上形成することに対し、その動機付けとなる記載も存在しない。
そして、引用文献2の記載(前記「2」)を参酌しても、粗面化のための表面処理方法として、ブラスチング法、ケミカルエッチング、機械加工等が単に記載されているのみで、引用発明1の「直径1?6μの凹状の微細孔(13)」を100μm×100μmの領域内に10個以上形成することに対し、その動機付けとなる記載も、上記個数の「微細孔(13)」を形成可能な手段についての記載も存在しない。
したがって、引用文献1において、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。

(エ)以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本願発明2?5について

本願発明2?5は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て備えているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本願発明6?11について

本願発明6の「前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面には、100μm×100μmの領域内に、直径が0.5?5μmの凹部を10個以上有する凹部形成箇所が形成されており」という発明特定事項は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項のうちの「前記湾曲部の電池内側の面、および前記周辺折り返し部の前記外装缶側の面には、100μm×100μmの領域内に、直径が0.5?5μmの凹部を10個以上有する凹部形成箇所が存在しており」という事項と実質的に同一であり、本願発明7?11は、本願発明6を引用し、本願発明6の発明特定事項を全て備えている。
したがって、本願発明6?11は、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本願発明12について

本願発明12は、「扁平形アルカリ電池の製造方法」の発明であるが、製造対象の扁平形アルカリ電池の「封口板」について、本願発明6を引用しているから、本願発明6と同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-03 
出願番号 特願2014-155666(P2014-155666)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 長谷山 健
▲辻▼ 弘輔
発明の名称 扁平形アルカリ電池、その製造方法、および扁平形アルカリ電池用の封口板  
代理人 三輪 鐵雄  
代理人 三輪 英樹  

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