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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1343693
審判番号 不服2017-15618  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-20 
確定日 2018-08-31 
事件の表示 特願2016-243282「ダイシングテープ加熱装置及びダイシングテープ加熱方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開,特開2017- 50574〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年12月26日に出願された特願2011-282761号(優先権主張 平成23年2月16日)の一部を平成24年6月4日に新たな特許出願(特願2012-126847号)とし,さらに,その一部を平成27年6月17日に新たな特許出願(特願2015-121666号)とし,さらに,その一部を平成28年12月15日に新たな特許出願(特願2016-243282号)としたものであって,平成29年1月10日に上申書が提出され,同年5月19日に手続補正がされ,同年6月5日付け拒絶理由通知に対し,同年7月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年7月19日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ(同年7月21日発送),これに対し,同年10月20日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

(本願発明)
「ダイシングテープの弛み部分を局所的に加熱する輻射式加熱手段と,
前記輻射式加熱手段を前記ダイシングテープの弛み部分に沿って相対的に移動させる移動手段と,
を備える,ダイシングテープ加熱装置。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願(以下,「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明(以下,「先願発明」という。)と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない,というものである。


先願 特願2009-230449号(平成21年10月2日出願,平成23年4月14日公開(特開2011-77482号公報))

第4 先願発明及び周知技術
1 先願発明について
(1)先願明細書等の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,先願の先願明細書等には,以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,分割前の板状ワークに貼着された拡張テープを拡張することにより当該板状ワークを個々のチップに分割してチップ間の間隔を所望の距離に拡張する機能や,チップに分割され全体として分割前の形状を維持した状態の板状ワークに貼着された拡張テープを拡張することによりチップ間の間隔を所望の距離に拡張する機能を有するテープ拡張装置に関する。」

「【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の板状ワークを分割加工する方法として,板状ワークの分割予定ラインに沿ってその内部にレーザ光を集光して連続的な改質層を形成し,板状ワークに外力を加えることによってチップ間の間隔を広げて分割する方法がある。この方法においては,板状ワークの裏面に貼着したテープを拡張させるときの力が外力として用いられている。また,テープを拡張する力を外力として用いる技術は,板状ワークをチップに分割する場合だけでなく,チップに分割済みで全体として分割前の形状を維持した状態で拡張テープに貼着された板状ワークのチップ間隔を所望の距離に広げる場合にも,利用されている。板状ワークが半導体ウェーハであり,その裏面にDAF(Die Attach Film)と称されるダイボンド用のフィルム状接着剤が貼着されている場合においても,同様の技術が利用されている。
【0003】
(・・・中略・・・)
【0004】
また,テープを拡張させたままにしておくと,後の搬送等に支障をきたすため,拡張した拡張テープのたるみをとるために,ヒータから熱を与えて拡張テープを収縮させる技術も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】(・・・中略・・・)
【特許文献2】特開2006-114691号公報」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,拡張テープの中には,加熱された後に冷却される過程において収縮する性質を有するものもあり,このような拡張テープについてたるみ部分を十分に収縮させてたるみを除去するには,拡張テープを熱した後に拡張テープから熱が十分放出されるのを待つ必要があり,処理効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は,これらの事実に鑑みて成されたものであり,その主な技術的課題は,板状ワークに貼着される拡張テープとして加熱された後に冷却される過程において収縮する性質を有するものを使用する場合において,拡張テープの拡張によってチップ間の間隔を所望の距離にした後に,拡張テープのうち板状ワーク貼着部分の外周側に生じるたるみの除去を迅速に行うことができるテープ拡張装置を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0009】
本発明に係るテープ拡張装置は,加熱手段とともに冷却手段を備えたことにより,拡張テープを加熱した後に迅速に冷却することができるため,たるみ除去を迅速に行うことができる。」

「【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すテープ拡張装置1は,例えば図2(a),(b)に示す分割前の板状ワーク100を分割加工する装置である。板状ワーク100は,例えば図2(a)に示すように,その表面100aに,分割予定ライン101によって区画されて複数のチップ領域102が形成されたものである。図2(b)に示すように,裏面100bにはDAF(Die Attach Film)と称されるフィルム状接着剤103が貼着されており,フィルム状接着剤103が拡張テープ104に貼着されている。拡張テープ104の周縁部には,リング状に形成され開口部105aが形成された環状フレーム105が貼着されており,板状ワーク100は,開口部105aにおいて拡張テープ104を介して環状フレーム105と一体となって支持された状態となっている。以下では,このように拡張テープ104を介して環状フレーム105と一体となって支持された板状ワーク100のことを,「フレームつきワーク10」と称する。(・・・中略・・・)
【0012】
(・・・中略・・・)
【0014】
図1に示すテープ拡張装置1は,図2に示した板状ワーク100及びフィルム状接着剤103,拡張テープ104並びに環状フレーム105を保持する保持ユニット2と,保持ユニット2との間で環状フレーム105を挟持するフレーム押さえ部3と,保持ユニット2において保持された拡張テープ104に対する加熱及び冷却の機能を有する加熱冷却手段4と,加熱冷却手段4を上方から覆う蓋部材5とを備えている。
【0015】
(・・・中略・・・)
【0018】
図5に示すように,ワーク保持テーブル20は,上面が平面上に形成され無数の気孔を有する多孔質体により形成された吸着部200と,吸着部200を下方及び外周側から支持する枠体201とを有している。(・・・中略・・・)枠体201は,その外径がフレーム支持部21及びフレーム押さえ部3の内径より小さく形成されているため,ワーク保持テーブル20の外周面とフレーム支持部21及びフレーム押さえ部3の内周面との間には隙間8が形成されている。
【0019】
(・・・中略・・・)
【0021】
図6は,図1,4及び5に示した加熱冷却手段4を下からみた状態を示しており,加熱冷却手段4は,円形の基盤40と,基盤40の中心に連結され基盤40とともに回転可能な軸部41と,基盤40の周縁部から下方に突出形成したリング基台42と,リング基台42に設けられた複数の加熱手段43及び複数の冷却手段44とから構成されている。図示の例では,加熱手段43及び冷却手段44は埋設されており,例えば,加熱手段43としてはヒータや熱風を送出する加熱ブロー,冷却手段44としては冷たい風を送出する冷却ブローを用いることができる。図6及び図7に示す例では,加熱手段43及び冷却手段44は,リング基台42の周方向に沿って交互に配設されている。図7の例では,45度おきに加熱手段43及び冷却手段44が交互に配設されており,リング基台42が矢印A方向に回転することにより加熱手段43及び冷却手段44も回転する構成となっている。
【0022】
次に,図2に示した板状ワーク100を個々のチップ102に分割してチップ間隔を拡張する方法について説明する。最初に,図8に示すように,フレーム支持部21に環状フレーム105を載置する。このとき,フレーム昇降手段23による制御により,フレーム支持部21の上面は,ワーク保持テーブル20の吸着部200の上面よりも若干上方に位置している。隙間8の上方には,加熱冷却手段4を構成するリング基台42に設けられた加熱手段43及び冷却手段44(図7参照)が位置している。
【0023】
(・・・中略・・・)
【0024】
こうして拡張テープ104を拡張させた後に,吸引源203から吸着部200に対して吸引力を作用させることにより,拡張した拡張テープ104を介して板状ワーク100を吸引保持する。そして,図11に示すように,ワーク保持テーブル20を下降させてフレームつきワーク10が待機位置に戻ると,チップ102の最外周部分と環状フレーム105の内周面との間の領域,すなわち空間8において拡張テープ104にたるみ部104aが生じる。なお,このとき,吸着部200には吸引力が作用しているため,拡張テープ104のうち各チップ102が貼着されている部分についてはたるみが生じることはない。
【0025】
次に,図12に示すように,ワーク保持テーブル20,フレーム支持部21及びフレーム押さえ部3の位置を変えずに,加熱冷却手段4を下降させ,リング基台42に埋設された加熱手段43及び冷却手段44を,空間8において露出した拡張テープ104の拡張された箇所,すなわちたるみ部104aに近接させた状態で対面させる。そして,例えば,加熱手段43をオンにするとともに冷却手段44から冷風を送出し,リング基台42を矢印A方向に135度回転させる。そうすると,図7に示したように,45度おきに加熱手段43と冷却手段44とが交互に配設されているため,最初の90度の回転によってたるみ部104aの全体に対して加熱手段43から矢印B方向に加熱が行われ,最初の45度の回転以降の90度の回転によって,加熱された部分に対して冷却手段44から矢印B方向に冷却が行われる。なお,最初は加熱手段43のみをオンとして加熱冷却手段4を90度回転させ,その後,加熱手段43をオフにするとともに冷却手段44をオンとし,その状態で加熱冷却手段4をさらに90度回転させるようにしてもよい。
【0026】
以上のようにしてたるみ部104aを加熱してから冷却すると,図13に示すように,図12に示したたるみ部104aが収縮してたるみが解消され,収縮部104bとなる。したがって,分割後のフレーム突きワーク10をテープ拡張装置1から取り外して次の工程に搬送したり次の工程で保持したりするにあたり,支障が生じない。しかも,加熱冷却手段4は,加熱後すぐに冷却を行うことができるため,極めて効率的である。」

(2)先願発明
したがって,先願明細書等には,以下の先願発明が記載されている。

(先願発明)
「板状ワーク100及びフィルム状接着剤103,拡張テープ104並びに環状フレーム105を保持する保持ユニット2と,保持ユニット2との間で環状フレーム105を挟持するフレーム押さえ部3と,保持ユニット2において保持された拡張テープ104に対する加熱及び冷却の機能を有する加熱冷却手段4と,加熱冷却手段4を上方から覆う蓋部材5とを備えているテープ拡張装置であって,
前記加熱冷却手段4は,円形の基盤40と,基盤40の中心に連結され基盤40とともに回転可能な軸部41と,基盤40の周縁部から下方に突出形成したリング基台42と,リング基台42に設けられた複数の加熱手段43及び複数の冷却手段44とから構成されており,
前記加熱手段43としてはヒータや熱風を送出する加熱ブロー,前記冷却手段44としては冷たい風を送出する冷却ブローを用いることができ,前記加熱手段43及び前記冷却手段44は,リング基台42の周方向に沿って交互に配設されており,前記リング基台42が回転することにより前記加熱手段43及び前記冷却手段44も回転する構成となっており,
前記リング基台42に埋設された前記加熱手段43及び前記冷却手段44を,前記拡張テープ104の拡張された箇所,すなわちたるみ部104aに近接させた状態で対面させ,前記加熱手段43をオンにするとともに前記冷却手段44から冷風を送出し,前記リング基台42を回転させて前記たるみ部104aを加熱してから冷却することで,前記たるみ部104aを収縮させてたるみを解消して収縮部104bとする,
拡張テープのうち板状ワーク貼着部分の外周側に生じるたるみの除去を迅速に行うことができるテープ拡張装置。」

2 周知技術
(1)周知例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日(平成23年2月16日)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開平2-231740号公報(平成2年9月13日公開。以下,「周知例」という。)には,以下の事項が記載されている。

「〔発明の目的〕
(産業上の利用分野)
本発明は,インナーリードボンディング装置に使用されるウエハーシートの延伸装置に関する。」(第1頁右下欄第2行?5行)

「(従来の技術)
(・・・中略・・・)
ウエハーシート延伸装置は,(・・・中略・・・)ダイシングされた半導体ウエハーが貼付された可撓性ウエハーシートを延伸し,この延伸により互いに接触していた半導体ペレットを1つずつ分離し,この分離された半導体ペレットをバキュームチャックなどの取出手段により1つずつ取出して,上記キャリアテープに送り出すようになっている。」(第1頁右下欄第6行?第2頁左上欄第9行)

「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら,ダイシングされて互いに接触していた半導体ペレットを互いに分離するために延伸されたウエハーシートは,半導体ペレットが取り出された後,延伸荷重を解除しても,延伸した時に発生した伸びが残っているため弛みが残る。
半導体ペレットを取り去ったウエハーシートは,このシートを保持したリングホルダとともに,このウエハーシート延伸装置から取り外され,つぎの新しいウエハーシートがこのウエハーシート延伸装置に取付けられる。
このような交換時に上記弛みが残っていると,この弛みがウエハーシート固定台に引掛り,リングホルダの取り外しを阻害し,作業性を低下させる場合がある。
本発明は,半導体ペレットを取り去ったウエハーシートの弛みを除去し,リングホルダとともにこのウエハーシートを取り出す場合にウエハーシートが延伸装置に引掛かるのを防止し,作業能率が向上するウエハーシートの延伸装置を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄第10行?同頁右上欄第10行)

「(課題を解決するための手段)
本発明は,ウエハーシートを熱収縮性樹脂により形成し,半導体ペレットの取り出しの終了にもとづき上記ウエハーシートを加熱して延伸によるウエハーシートの弛みを除去する加熱機構を備えたことを特徴とする。
(作用)
本発明によれば,半導体ペレットの取り出しの終了にもとづき加熱機構によってウエハーシートを加熱すると,このウエハーシートが収縮して延伸されたことによる弛みが除去される。このためリングホルダとともにこのウエハーシートを取り出す場合にウエハーシートが延伸装置に引掛かるのが防止される。」(第2頁右上欄第12行?同頁左下欄第5行)

「(実施例)
(・・・中略・・・)
加熱装置10は,一端がエアポンプなどのようなエア供給源11に接続されたフレキシブルチューブ12の先端にヒータ13を収容した吹出口体14を有しており,この吹出口体14は上記ウエハーシート固定台4に取付けられたウエハーシート2の下面に,所定温度に加温された温風を吹付けることができるようになっている。」(第2頁左下欄第6行?第3頁左上欄第3行)

「また,加熱装置10は温風を吹付けるものに限らず,ヒータによる輻射熱や対流熱でウエハーシート2を加熱するものであってもよい。」(第3頁右下欄第5行?同欄第7行)

(2)周知技術の認定
上記(1)によれば,周知例には,温風を吹き付けたり,あるいは,ヒータによる輻射熱や対流熱によってウエハーシートを加熱することで,ダイシング用のウエハーシートの弛みを除去することが記載されている(なお,当該ダイシング用のウエハーシートは,ダイシングテープといえるものである。)。
そして,当該周知例が,先願の出願日の20年近く前に公開された文献であることを考慮すると,これらの技術は,先願の出願日時点において,周知技術であったと認められる。

第5 対比
本願発明と先願発明を対比する。
・上記第4の1(1)の【0001】の記載によれば,先願発明の「拡張テープ」は,板状ワークを個々のチップに分割,すなわち,ダイシングしてチップ間の間隔を所望の距離に拡張する機能を有するものであって,ダイシング用のテープであるということができるから,先願発明の「拡張テープ104」は,本願発明の「ダイシングテープ」に相当し,先願発明の「拡張テープ104」の「たるみ部104a」は,本願発明の「ダイシングテープ」の「弛み部分」に相当する。
・先願発明の「加熱手段43」は,リング基台42の周方向に沿って冷却手段44と交互に配設されており,拡張テープ104のたるみ部104aに近接させた状態で対面させて加熱するものであるから,たるみ部104aを局所的に加熱しているということができる。
・本願発明の「輻射式加熱手段」と,先願発明の「加熱手段43」は,「加熱手段」である点で共通する。
・先願発明の「リング基台42」に埋設された「加熱手段43」は,「拡張テープ104」の「たるみ部104a」に近接させた状態で対面させ,「リング基台42」を回転させることにより加熱するものであるから,「加熱手段43」は,「拡張テープ104」の「たるみ部104a」に沿って相対的に移動しているということができる。
・先願発明の「基盤40,軸部41及びリング基台42」は,「加熱手段43」を移動させるものであるから,「移動手段」ということができる。
・先願発明の「テープ拡張装置」は,拡張テープ104を加熱する機能を有するから,「ダイシングテープ加熱装置」ということができる。
そうすると,本願発明と先願発明は,以下の点で一致し,また,一応相違する。

(一致点)
「ダイシングテープの弛み部分を局所的に加熱する加熱手段と,
前記加熱手段を前記ダイシングテープの弛み部分に沿って相対的に移動させる移動手段と,
を備える,ダイシングテープ加熱装置。」

(一応の相違点)
加熱手段について,本願発明は,「輻射式加熱手段」であるのに対し,先願発明は,「輻射式加熱手段」であるのか不明である点。

第6 判断
一応の相違点について検討する。
先願発明の「加熱手段43」は,「ヒータや熱風を送出する加熱ブロー」を用いることができるものである。そして,「熱風を送出する加熱ブロー」と列記される「ヒータ」が,赤外線ヒータ等の輻射式加熱手段を意味することは,技術常識に照らして明らかである。
しかも,先願明細書等には,先願発明の背景技術としても,拡張テープの弛みを取るために,「ヒータ」を用いることが記載されているところ(先願明細書等【0004】,【0005】),その例として提示されている【特許文献2】特開2006-114691号公報(平成18年4月27日公開。以下,「先行技術文献」という。)には,以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,表面に複数の分割予定ラインが格子状に形成されているとともに該複数の分割予定ラインによって区画された複数の領域に機能素子が形成されたウエーハを,該分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するウエーハの分割方法に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して,分割予定ラインに沿って強度が低下して形成されたウエーハが貼着された保持テープを拡張してウエーハに引張力を付与することにより,ウエーハを個々のチップに分割する方法においては,保持テープを拡張してウエーハを個々のチップに分割した後に張力を解除すると,拡張された保持テープが収縮し搬送時等においてチップ同士が接触してチップが損傷するという問題がある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり,その主たる技術的課題は,表面に複数の分割予定ラインが格子状に形成されているとともに該複数の分割予定ラインによって区画された複数の領域に機能素子が形成されたウエーハを,該分割予定ラインに沿って個々のチップに分割し,個々に分割されたチップを所定の間隔を設けて維持することができるウエーハの分割方法を提供することである。」

「【0026】
図示の分割装置4は,上記拡張ドラム61の上部外周面に装着された外的刺激付与手段としての環状の赤外線ヒータ7を具備している。この赤外線ヒータ7は,上記フレーム保持手段5に保持された環状のフレーム2に装着された保持テープ3における環状のフレーム3の内周と半導体ウエーハ10との間の領域を加熱する。」

「【0029】
(・・・中略・・・)
そこで,本発明においては,ウエーハ破断工程が実施されたウエーハが貼着されている保持テープにおける環状のフレームの内周とウエーハが貼着された領域との間の収縮領域に外的刺激を付与し,保持テープの収縮領域を収縮せしめることによりチップ間の間隔を広げるチップ間隔形成工程を実施する。このチップ間隔形成工程は,図11の(a)に示すように上述したウエーハ破断工程を実施した状態で赤外線ヒータ7を附勢(ON)する。この結果,保持テープ3における環状のフレーム2の内周と半導体ウエーハ10が貼着された領域3aとの間の収縮領域3bは,赤外線ヒータ7によって照射される赤外線により加熱され収縮する。この収縮作用に合わせて,張力付与手段6を構成する支持手段62としての複数のエアシリンダ621を作動して,環状のフレーム保持部材51を図11の(b)に示す基準位置に上昇せしめる。なお,上記赤外線ヒータ7による保持テープ3の加熱温度は70?100℃が適当であり,加熱時間は5?10秒でよい。このように,保持テープ3における環状のフレーム2の内周と半導体ウエーハ10が貼着された領域3aとの間の収縮領域3bを収縮させることにより,上述したウエーハ破断工程において個々に破断された各半導体チップ100間の間隔Sが維持される。従って,個々に破断された半導体チップ100同士が接触することはなく,搬送時等において半導体チップ100同士が接触することによる損傷を防止することができる。」

すなわち,先願明細書等に提示された先行技術文献の前記記載に照らして,先願発明が属する背景技術の分野において,単に「ヒータ」と用いる場合には,「赤外線ヒータ」を意味しているものと理解することが自然といえる。
そして,一の明細書において,用語の意味は統一して用いられるものであり,しかも,先願発明は,前記背景技術に記載された先行技術の技術的課題を解決した発明であるから,先願発明の「ヒータ」を,先行技術の説明において用いられているのと同様に,「赤外線ヒータ」を意味する技術用語として理解することは,先願明細書等の統一的な理解という観点からも当業者において自然なものといえる。
そうすると,先願明細書等には,拡張テープの弛みを取るために,「赤外線ヒータ」を用いることが直接記載されていないとしても,先願発明の「加熱手段43」のうち「ヒータ」を用いたものは,「赤外線ヒータ」を意味しているといえる。そして,「赤外線ヒータ」は,輻射熱による加熱手段であるから,「輻射式加熱手段」であるということができる。
したがって,先願発明の「加熱手段43」のうち「ヒータ」を用いたものは,「輻射式加熱手段」といえるから,上記一応の相違点は相違点とはいえず,本願発明と先願発明は同一である。
なお,仮に,先願発明の「加熱手段43」が「輻射式加熱手段」であるといえないとしても,上記第4の2(2)のとおり,温風を吹き付けたり,あるいは,ヒータによる輻射熱や対流熱によってウエハーシートを加熱することで,ダイシング用のウエハーシートの弛みを除去することは周知技術である。
そして,加熱手段で用いられる熱としては,一般的に,伝導熱,対流熱及び輻射熱の3種類の熱のいずれかであることは,当業者にとって技術常識である(もっとも,先願明細書等を参酌すると,「加熱手段43」とたるみ部104aは直接接触するものではないから,先願発明における「加熱手段43」で用いられる熱としては,伝導熱は除外され,対流熱及び輻射熱の2種類の熱のいずれかである。)。
そうすると,先願発明における「加熱手段43」として,輻射熱を用いた加熱手段,すなわち,「輻射式加熱手段」を採用することに何ら困難性はなく,そのことは,課題解決のための具体化手段における微差にすぎないといえるものである。
したがって,上記一応の相違点は実質的な相違点とはいえず,本願発明と先願発明は実質的に同一である。

なお,審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,以下のように主張する。
「オ これに対し,本願発明1は,ワークを個々のチップに分割する際にエキスパンドにより発生したダイシングテープの外周部に生じる弛み部分を除去することを課題とし,その課題を解決するための手段として,上記相違点に係る構成である『ダイシングテープの弛み部分を局所的に加熱する輻射式加熱手段』を採用したことをその発明の特徴とするものである。そして,当該構成を採用したことにより,エキスパンドにより発生したダイシングテープの弛み部分を輻射式加熱手段で局所的に加熱しつつ,輻射式加熱手段が局所的に加熱する部分をダイシングテープの弛み部分に沿って順次移動させることができるので,ダイシングテープの弛み部分を選択的かつ局所的に加熱することができ,それ以外の部分への熱ストレスを最小限に抑制することが可能になり,温風ヒータ等の対流式加熱手段を用いて加熱を行う場合と比べて,ダイシングテープの弛み部分を一様に効率よく取り除くことができるという格別の効果を奏するものである(本願明細書の段落[0095],[0150]を参照)。
カ よって,本願発明1と先願発明との相違点は,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできず,両者は実質的に同一であるとは認められないものである。」

前記主張について検討する。
先願発明の加熱手段43は,「前記加熱手段43及び前記冷却手段44は,リング基台42の周方向に沿って交互に配設されており,前記リング基台42が回転することにより前記加熱手段43及び前記冷却手段44も回転する構成となっており,前記リング基台42に埋設された前記加熱手段43及び前記冷却手段44を,前記拡張テープ104の拡張された箇所,すなわちたるみ部104aに近接させた状態で対面させ,前記加熱手段43をオンにするとともに前記冷却手段44から冷風を送出し,前記リング基台42を回転させて前記たるみ部104aを加熱してから冷却することで,前記たるみ部104aを収縮させてたるみを解消して収縮部104bとする」ものである。
すなわち,先願発明において,加熱手段43は,エキスパンドにより発生したダイシングテープの弛み部分を局所的に加熱しつつ,前記加熱手段43が局所的に加熱する部分をダイシングテープの弛み部分に沿って順次移動させることができるので,ダイシングテープの弛み部分を選択的かつ局所的に加熱することができ,それ以外の部分への熱ストレスを最小限に抑制することが可能になるものと認められる。
そうすると,審判請求人の格別の効果を奏するものであるとの前記主張は,もっぱら,加熱手段が,エキスパンドにより発生したダイシングテープの弛み部分を局所的に加熱しつつ,前記加熱手段が局所的に加熱する部分をダイシングテープの弛み部分に沿って順次移動させることができるという構成に起因するものであって,前記加熱手段が,「輻射式加熱手段」であるか,「温風ヒータ等の対流式加熱手段」であるかの相違に基づくものとはいえない。
したがって,本願発明と先願発明との相違点が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできないという審判請求人の前記主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,先願発明と同一あるいは実質的に同一である。そして,本願の発明者と先願の発明者は同一ではなく,本願の出願の時において,本願の出願人と,先願の出願人は同一ではないから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-05 
結審通知日 2018-07-06 
審決日 2018-07-20 
出願番号 特願2016-243282(P2016-243282)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 梶尾 誠哉
河合 俊英
発明の名称 ダイシングテープ加熱装置及びダイシングテープ加熱方法  
代理人 松浦 憲三  

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