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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1343877 |
異議申立番号 | 異議2016-700873 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-14 |
確定日 | 2018-07-18 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5886383号発明「吸着性能に優れた活性炭、およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5886383号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕〔4?6〕について訂正することを認める。 特許第5886383号の請求項1に係る特許を取り消す。 特許第5886383号の請求項2?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第5886383号は、平成26年7月25日に出願された特願2014-152010号の特許請求の範囲に記載された請求項1?6に係る発明について、平成28年2月19日に設定登録、同年3月16日に登録公報の発行がされたものであり、その後、ジェネシスプロパティーズ株式会社(以下、「ジ社」と略す。)及び久門亨(以下、「久門」と略す。)から、同年9月14日付け及び16日付けでそれぞれ特許異議の申立てがされ、以下の手続がなされたものである。 平成28年12月21日付けの取消理由通知 平成29年 3月 6日付けの訂正請求及び意見書の提出 4月21日付けの意見書の提出(ジ社) 24日付けの意見書の提出(久門) 6月13日付けの取消理由通知 8月21日付けの訂正請求及び意見書の提出 10月 6日付けの意見書の提出(ジ社,久門) 12月15日付けの取消理由通知(決定の予告) 平成30年 2月19日付けの意見書の提出 3月13日付けの審尋 4月 6日付けの上申書の提出(ジ社) 第2.訂正請求について 1.訂正の内容 平成29年8月21日付けの訂正請求(以下、「本訂正」という。)は、次の訂正事項1?3からなる(下線部は訂正箇所)。なお、平成29年3月6日付けの訂正請求(以下、「先の訂正」という。)は取下げられたものとみなす。 訂正事項1: 請求項1に、 「1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上であり、且つ細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.04cm^(3)/g以上であることを特徴とする吸着性能に優れた活性炭。」 と記載されているのを、 「1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上であり、且つ下記式から求められる細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.04cm^(3)/g以上であることを特徴とする吸着性能に優れた活性炭。 細孔径20Å超300Å以下の細孔容積=全細孔容積-細孔径20Å以下の細孔容積 (式中、全細孔容積:相対圧0.93における窒素吸着量から算出した値、細孔径20Å以下の細孔容積:前記全細孔容積から吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超300Å以下の細孔容積を差し引いた値)」 に訂正する。 訂正事項2: 請求項2に、 「細孔径200Å超300Å以下の細孔容積が0.01cm^(3)/g以上である請求項1に記載の活性炭。」 と記載されているのを、 「下記式から求められる細孔径200Å超300Å以下の細孔容積が0.01cm^(3)/g以上である請求項1に記載の活性炭。 細孔径200Å超300Å以下の細孔容積=前記全細孔容積-(前記細孔径20Å以下の細孔容積+吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超200Å以下の細孔容積)」 に訂正する。 訂正事項3: 請求項4に、 「フェノール樹脂繊維を炭化し、次いで1回以上賦活することでフェノール樹脂由来物を順次処理することとし、」 と記載されているのを、 「請求項1?3のいずれかに記載の活性炭の製造方法であって、フェノール樹脂繊維を炭化し、次いで1回以上賦活することでフェノール樹脂由来物を順次処理することとし、」 に訂正する。 2,訂正要件の判断 (1)訂正事項1について この訂正は、請求項1に記載された発明特定事項である「細孔径20Å超300Å以下の細孔容積」について、定義式を特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、設定登録時の本件明細書【0072】?【0075】には、上記定義式に関する説明が記載されていたから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について この訂正は、請求項2に記載された発明特定事項である「細孔径200Å超300Å以下の細孔容積」について、定義式を特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、設定登録時の本件明細書【0078】には、上記定義式に関する説明が記載されていたから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について この訂正は、請求項4に記載された「活性炭の製造方法」により製造される活性炭を、請求項1?3に記載された活性炭に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、設定登録時の本件明細書【0050】には、請求項4に記載されているカルシウム等の添着量や賦活条件の調整により、所望の平衡吸着量と所定の細孔容積をもつ活性炭が得られることが説明されていたから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1を請求項2,3が引用し、訂正事項3に係る訂正前の請求項4を請求項5,6が引用していたから、これらの訂正事項を含む本訂正は、一群の請求項1?3及び請求項4?6ごとに請求をしたものと認められる。 3.まとめ 以上のとおり、本訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕〔4?6〕について訂正することを認める。 第3.本件発明について 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。 【請求項1】 1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上であり、且つ下記式から求められる細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.04cm^(3)/g以上であることを特徴とする吸着性能に優れた活性炭。 細孔径20Å超300Å以下の細孔容積=全細孔容積-細孔径20Å以下の細孔容積 (式中、全細孔容積:相対圧0.93における窒素吸着量から算出した値、細孔径20Å以下の細孔容積:前記全細孔容積から吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超300Å以下の細孔容積を差し引いた値) 【請求項2】 下記式から求められる細孔径200Å超300Å以下の細孔容積が0.01cm^(3)/g以上である請求項1に記載の活性炭。 細孔径200Å超300Å以下の細孔容積=前記全細孔容積-(前記細孔径20Å以下の細孔容積+吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超200Å以下の細孔容積) 【請求項3】 窒素吸着法により測定した細孔径分布図(縦軸:log微分細孔容積dV/dlogD(cm^(3)/g)、横軸:細孔径D(Å))において、細孔径200Å超300Å以下の範囲に細孔径100Åのlog微分細孔容積値よりも高いピークを有している請求項1または2に記載の活性炭。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の活性炭の製造方法であって、フェノール樹脂繊維を炭化し、次いで1回以上賦活することでフェノール樹脂由来物を順次処理することとし、且ついずれか1回の賦活を水蒸気賦活とし、 この1回の水蒸気賦活処理を実施するまでにフェノール樹脂由来物にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を、前記カルシウム化合物、及び前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後のフェノール樹脂由来物全体の合計100質量%に対して、前記カルシウム化合物、及び前記カリウム化合物の合計量0.01質量%以上、10質量%以下で添着させておき、添着状態を維持したまま前記1回の水蒸気賦活処理を400℃以上、1500℃以下の温度で、1分以上、10時間以下の加熱時間実施し、前記添着を維持した状態で水蒸気賦活処理を行った後は、さらなる賦活処理を実施しないことを特徴とする吸着性能に優れた活性炭の製造方法。 【請求項5】 前記フェノール樹脂繊維に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで炭化した後、或いは 前記フェノール樹脂繊維を炭化し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、 得られた添着炭化物を水蒸気賦活する請求項4に記載の活性炭の製造方法。 【請求項6】 前記フェノール樹脂繊維を炭化した後、賦活し、得られたフェノール樹脂繊維賦活物に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで水蒸気賦活する請求項4に記載の活性炭の製造方法。 第4.取消理由について 1.取消理由の概要 平成28年12月21日付けで通知した取消理由1?3及び平成29年6月13日付けで通知した取消理由4,5は次のとおりである。 取消理由1 本件明細書【0050】及び【0053】には、本発明の活性炭を製造するためには、カルシウム化合物等の添着量と水蒸気賦活処理条件を、所定の平衡吸着量と所定の細孔径の細孔容積を得られるように相互に調整しなければならないことが記載されている。 これに対し訂正前の請求項4?請求項6には、活性炭の製造方法について、カルシウム等の添着量と水蒸気賦活処理条件の数値範囲のみが記載され、活性炭の平衡吸着量や細孔容積について記載がない。 してみると、訂正前の請求項4?6に記載された製造方法では、所定の平衡吸着量と所定の細孔径の細孔容積をもたない活性炭、すなわち、請求項1に記載された活性炭以外の活性炭も得られるものと認められる。 したがって、訂正前の請求項4?6の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由2 本件明細書【0074】及び【0075】に、 「細孔径20Å以下の細孔容積(≦V_(20Å):cm^(3)/g)=全細孔容積(V_(total):cm^(3)/g)-(細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V_(20-300Å):cm^(3)/g)・・・(1) 細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V_(20-300Å):cm^(3)/g)=全細孔容積(V_(total):cm^(3)/g)-(細孔径20Å以下の細孔容積(≦V_(20Å):cm^(3)/g))・・・(2)」 と記載されているから、訂正前の請求項1に記載された「細孔径20Å超300Å以下の細孔容積」が、直接測定する((1)式)ものなのか、差分として算出する((2)式)ものなのかがわからない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由3 下記甲2の【0032】、下記甲3の【0018】又は下記甲4の【0031】に記載された「クラレケミカル(株)製フェノール樹脂原料繊維状活性炭クラクティブFR-20」は、下記甲6-2及び甲8-2の記載によれば、本件特許に係る出願前から現在に至るまで、その物性が一定のものであったと認められるところ、下記甲11の記載によれば、1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が21?26mg/gであり、下記甲12の記載によれば、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.06?0.07cm^(3)/gであったものと認められる。 してみると、訂正前の請求項1に係る発明は、甲2?4に記載された発明であり、また、甲2?4に記載されているとおり、販売により公然実施をされた発明でもある。 したがって、訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 取消理由4 本件明細書【0073】には、各細孔径の細孔容積が、BJH法により算出されることが記載されているが、一方、【0074】?【0078】には、各細孔径の細孔容積を、相対圧0.93における窒素吸収量から算出される全細孔容積からの差分として算出することが記載されている。そして、【表2】には、各実施例における全細孔容積と各細孔径の細孔容積の値が記載され、いずれの実施例においても、細孔径「?20Å」と「20?300Å」の細孔容積の和と全細孔容積の値が一致している。 これに対し、甲13,14等の記載によれば、相対圧を用いた一点法により算出される全細孔容積と、BJH法で算出される細孔容積の積算による全細孔容積は、測定原理が異なるので、通常は一致しないこと、そのため、これらの値を評価する場合には、いずれの測定によるものかを明らかにする必要があることが、技術常識であったと認められる。 してみると、表2における数値の一致は、技術常識に反しており、当業者が理解できないものである。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、細孔容積について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえない。 また、細孔容積を発明特定事項とする先の訂正後の請求項1?6に係る発明は、その定義が明らかでないから、明確でない。 よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由5 甲2の【0032】、甲3の【0018】、甲4の【0031】又は下記甲9に記載された「クラレケミカル(株)製フェノール樹脂原料繊維状活性炭クラクティブFR-20」は、甲9、下記甲19及び甲10に記載されるように、本件特許に係る出願前後において、その物性が略一定のものであったと認められ、甲11の記載によれば、1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が21?26mg/gであり、甲12の記載によれば、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が、BJH法によれば0.06?0.07cm^(3)/g、全細孔容積と細孔径20Å以下の細孔容積の差分によれば0.29?0.30cm^(3)/gであったものと認められる。 してみると、先の訂正後の請求項1に係る発明は、甲2?4又は甲9に記載された発明であり、また、甲2?4又は甲9に記載されているとおり、販売により公然実施をされた発明と認められる。 したがって、先の訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 甲2:特開平6-198165号公報 甲3:特開平8-24636号公報 甲4:特開2006-326405号公報 甲6-2:2002年7月12日にウェブサイトに掲載されていた 「クラクティブ技術レポート」クラレケミカル株式会社 (URL:https://web.archive.org/web/20020712181026/http;//www. kuraraychemical.com/Technical/Kuraactive/Kuraactive.htm) の写し及び訳文 甲8-2:2015年12月5日にウェブサイトに掲載されていた 「クラクティブ技術レポート」クラレケミカル株式会社 (URL:https://web.archive.org/web/20151205070725/http;//www. kuraraychemical.com/Technical/Kuraactive/Kuraactive.htm) の写し及び訳文 甲9:クラレケミカル株式会社作成 2014年7月7日付けの「活性炭分析報告書」の写し 甲10:クラレケミカル株式会社作成 2014年11月13日付けの「活性炭分析報告書」の写し 甲11:平成28年9月14日付けの「試験報告書」 株式会社MCエバテックの写し 甲12:平成28年9月15日付けの「測定分析結果報告書」 株式会社島津テクノリサーチの写し 甲13:株式会社島津製作所のホームページ 「ガス吸着法における全細孔容積と平均細孔直径」 URL:http://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/practice /p02/lesson14.htm 甲14:近石一弘 山口拓哉「粉体物性」 分析技術情報誌「SCAS NEWS」 株式会社住化分析センター,2001年7月26日発行 2001-II号(Vol.14),11?14頁 甲19:立本英機 安部郁夫「活性炭の応用技術」 株式会社テクノシステム,2000年7月25日発行 65?72頁 (ここで、甲2?4,甲6-2,甲8-2,甲9?14は、久門が提出した特許異議申立書に添付された甲第2?4号証、甲第6-2号証、甲第8-2号証、甲第9?14号証であり、甲19は、ジ社が提出した意見書に添付された甲第19号証である。) 2.記載不備に係る取消理由1,2,4について (1)本訂正により、請求項4?6に記載された「活性炭の製造方法」により製造される活性炭が、所定の平衡吸着量と所定の細孔容積を有する請求項1?3に記載された活性炭であることが特定された。 したがって、取消理由1には理由がない。 (2)本訂正により、請求項1には、細孔容積の定義式が、 「細孔径20Å超300Å以下の細孔容積 =全細孔容積-細孔径20Å以下の細孔容積」 であることが特定され、 「式中、全細孔容積:相対圧0.93における窒素吸着量から算出した値 細孔径20Å以下の細孔容積:前記全細孔容積から吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超300Å以下の細孔容積を差し引いた値」 であることも特定された。そして、これらの特定は、本件明細書【0072】?【0075】の記載に基づくものと認められる。 その結果、 細孔径20Å超300Å以下の細孔容積 =全細孔容積 -(全細孔容積-BJH法細孔径20Å超300Å以下の細孔容積) =BJH法細孔径20Å超300Å以下の細孔容積 となるから、結局、差分により細孔容積を求めているのは、細孔径20Å以下の場合だけであって、細孔径20Å超の場合は、BJH法により解析されていることが明らかとなった。そして、このことは、BJH法が基礎とする毛管凝縮理論の適用が1?2nmより大きな細孔であるという技術常識(要すれば、甲14参照)とも整合する。 したがって、取消理由2,4には理由がない。 3.新規性に係る取消理由3,5について (1)甲2の【0032】、甲3の【0018】及び甲4の【0031】には、次の記載がある(下線は、当審にて付記)。 甲2の【0032】には、 「(実施例1)比表面積2000m^(2)/gのフェノール系繊維状活性炭(クラレケミカル(株)製「クラクティブ FR-20」)70重量%及び、50℃におけるDMF 溶解度90%以上のフェノール樹脂プレポリマー粉末(鐘紡(株)製「ベルパール S-890」)30 重量%に水を加えて混和後、湿式成形法で外径65mm、内径30mm、長さ250mm の円筒状に成形した。これを 950℃の窒素気流中で乾留して、円筒状の繊維状活性炭成形体を得た。」 こと、甲3の【0018】には、 「【実施例】 実験例1(繊維状活性炭) クラレケミカル(株)製フェノール樹脂原料繊維状活性炭「FR-15」(モード細孔直径2.4nm)、「FR-20」(モード細孔直径3.2nm)および「FR-25」(モード細孔直径4.4nm)、大阪ガス(株)製石炭ピッチ原料繊維状活性炭「A-10」、東邦レーヨン(株)製アクリル樹脂原料繊維状活性炭「FE-300」「FE-400」を、日本真空技術(株)製真空熱処理炉を用い、0.5Torrの水素ガス雰囲気中で図1から図3に示す加熱処理をそれぞれ実施し、本発明の吸着剤を得た。」 こと、甲4の【0031】には、 「(浄水フィルターの作製方法) 粒状活性炭GW-48/100(クラレケミカル株式会社製)38重量部、繊維状活性炭FR-20(クラレケミカル株式会社製)38重量部、鉱物微粒子としてAsre-S(株式会社ソフィア製、シュベルトマナイト含有量50重量%以上)20重量部、及びバインダーとして熱融着性樹脂粉末4重量部を混合、分散した分散液を作製した。得られた分散液を円筒型の金型内に注入し、不織布を介して吸引することで水分を除去した。得られたペーストを乾燥、加熱処理することにより評価用浄水フィルターを作製した。」 ことがそれぞれ記載されている。 してみると、甲2?4には、いずれも次の発明(以下、引用発明という。)が記載されていると認められる。 「比表面積2000m^(2)/g、モード細孔直径3.2nmのクラレケミカル株式会社製フェノール系繊維状活性炭クラクティブFR-20」 (2)ここで、本件発明1と引用発明とを対比すると、活性炭として、 本件発明1が「1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上であり、且つ下記式から求められる細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.04cm^(3)/g以上である 細孔径20Å超300Å以下の細孔容積=全細孔容積-細孔径20Å以下の細孔容積 (式中、全細孔容積:相対圧0.93における窒素吸着量から算出した値、細孔径20Å以下の細孔容積:前記全細孔容積から吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超300Å以下の細孔容積を差し引いた値)」のに対し、引用発明の1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量や、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が不明である点で一応相違する。 (3)そこで検討するに、甲11には、クラレケミカル株式会社製クラクティブFR-20から作成された3検体について、本件明細書【0082】に記載された平衡試験と同様に平衡濃度0.3mg/Lにおける1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量を算出した結果、「21?26mg/g」であったことが記載されている。そして、甲12には、上記3検体について、窒素吸着装置を用いて、BET法による比表面積及びBJH法による細孔容積を算出した結果、比表面積が「1794?1978m^(2)/g」で、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が「0.06?0.07cm^(3)/g」であったことが記載されている。 してみると、上記相違点が実質的な差異であるとは認められない。 (4)したがって、本件発明1は、久門が提出した甲2?4に記載された発明であり、また、甲2?4に記載されているとおり、販売により公然実施をされた発明と認められるから、取消理由3,5には理由がある。 (5)なお、平成30年2月19日付けの意見書で特許権者は、国際公開第2003/97771号を乙第14号証(以下、「乙14」という。)として提出し、甲12や乙14に記載のデータを用いて求めた平均細孔直径(4V/A)が甲3に記載されたモード細孔直径と異なること、及び、乙14に記載されたマイクロポア外部細孔体積(Vext)が甲12に記載された細孔径20Å超300Å以下の細孔容積と異なることを根拠に、引用発明である「FR-20」の物性は一定でない旨の主張をしたが、これに対し、同年3月13日付けの審尋で、定義や測定原理の異なる物性値が互いに異なることは、物性が一定でないことの根拠にはならない旨指摘し、意見があれば回答をするように求めたが応答はなかった。 よって、上記意見書の主張は、審尋にて指摘したとおり採用できない。 第5.採用しなかった申立理由について 1.申立理由の概要 ジ社は、下記甲第1?18号証(以下、「甲1?18」と略す。)を提出し、次の申立理由1?3を主張している。 申立理由1 訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1?4に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 申立理由2 訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲1?13に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 申立理由3 発明の詳細な説明には、訂正前の請求項1?3に記載された物性をみたすフェノール系活性炭しか開示されておらず、ピッチ系等の活性炭についての製造方法の開示がなく、一方、請求項1?3には、フェノール系活性炭であることが特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 甲1:特開昭60-34674号公報 甲2:特開平9-155187号公報 甲3:特開平11-307406号公報 甲4:特開昭61-242909号公報 甲5:消費者庁ホームページ「家庭用品品質表示法 浄水器」 http://www.caa.go.jp/hinpyo/guide/zakka/zakka_34.html 2016.9.2 甲6:東京都水道局ホームページ「水質・水源、水道管理目標設定項目」 https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suigen/kijun/s_kijun2.html 2016.9.2 甲7:厚生労働省ホームページ「水質基準の見直しにおける検討概要、 II.性状に関する項目、2有機物質、1,1,1-トリクロロエタン」 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/moku20 甲8:多孔質吸着材ハンドブック、2005, 株式会社フジ・テクノシステム発行、672-675頁 甲9:日本工業規格,JIS S 3201、家庭用浄水器試験方法 財団法人日本規格協会発行、平成17年4月15日 甲10:特開平8-281099号公報 甲11:特開2004-182511号公報 甲12:特開平8-337412号公報 甲13:最新吸着技術便覧-プロセス・材料・設計-、平成11年 竹内擁監修、吉田隆発行、575-576頁 甲14:PCT/JP2015/070979の見解書 甲15:SEN-I GAKKAISHI(繊維と工業)、1993 Vol.49 No.5、p177-182 甲16:特開2008-100186号公報 甲17:多孔質吸着材ハンドブック、2005, 株式会社フジ・テクノシステム発行、91-93頁 甲18:島崎賢司、ポリアクリルニトリル系活性炭繊維の賦活にともなう 細孔と吸着能の変化、日本化学会誌、1993、(1)、54-61頁 なお、久門は、取消理由で引用した甲号証のほか、下記甲号証も提出している。 甲1:クラレケミカル株式会社ウェブページ http://www.kuraray-c.co.jo/company/index.html 2016.9.5 甲5-1?5-3:クラレケミカル株式会社の海外販売向けウェブページ http://www.kuraraychemical.com/index.shtml 2016.9.5 http://www.kuraraychemical.com/Product/Product.htm 2016.9.5 http://www.kuraraychemical.com/Technical/Kuraactive/Kraactive.htm 2016.9.5 甲5-4:上記ウェブページに掲載された「クラクティブ技術レポート」 甲6-1:2002年7月12日のクラレケミカル株式会社の海外販売向 けウェブページ https://web.archive.org/web/20020712181026/http://www.kuraraychemi cal.com/Technical/Kuraactive/Kraactive.htm 甲7-1:2012年9月4日のクラレケミカル株式会社の海外販売向 けウェブページ https://web.archive.org/web/20120904004015/http://www.kuraraychemi cal.com/Technical/Kuraactive/Kraactive.htm 甲7-2:上記ウェブページに掲載された「クラクティブ技術レポート」 甲8-1:2015年12月5日のクラレケミカル株式会社の海外販売向 けウェブページ https://web.archive.org/web/20151205070725/http://www.kuraraychemi cal.com/Technical/Kuraactive/Kraactive.htm 2.新規性に係る申立理由1について ジ社の提出した甲1には、廃水中の有機炭素(TOC)を除去するための活性炭、甲2には、酸性ガス吸着用活性炭、甲3には、電気二重層キャパシタ用活性炭、甲4には、CO分離回収用活性炭について記載されている。しかしながら、いずれの文献にも、本件発明1の活性炭が有する「1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上」という物性について記載がない。 この点について申立人は、各文献に記載された活性炭の製造方法が、本件発明1と同じであるから当該物性を有する蓋然性が高いと主張しているが、いずれの文献にも、活性炭の製造方法において賦活時に添着するカルシウム化合物(又はカリウム化合物)の量について記載されておらず、さらに、各文献記載の活性炭の用途からみて、賦活処理の温度や時間が、1,1,1-トリクロロエタンの分子サイズに適した細孔径が得られるように調整されているとは認められない。 してみると、本件発明1及びこれを引用する本件発明2,3は、甲1?4に記載された発明とはいえない。 したがって、申立理由1には理由がない。 3.進歩性に係る申立理由2について ジ社の提出した甲5?9には、水道水から1,1,1-トリクロロエタンを除去することについて、甲10?13には、有機塩素系化合物などの被吸着物質の吸着量を増大させるため、活性炭のミクロ孔の細孔容積を調整することについて記載されている。 しかしながら、上述したように、甲1?4記載の活性炭は、いずれも1,1,1-トリクロロエタンを吸着することを目的にするものではないから、甲1?4に記載された活性炭及びその製造方法において、甲5?13記載の技術的事項を採用する必要性は見いだせない。 してみると、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?6が、甲1?13に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、申立理由2には理由がない。 4.記載不備に係る申立理由3について 発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明1?3は、請求項1に記載された1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量と細孔径20Å超300Å以下の細孔容積を特定することにより、課題を解決したものと認められ、フェノール樹脂が原料であることにより課題を解決したものは認められないから、請求項1?3において、活性炭がフェノール系であることを特定していないからといって、本件発明1?3が、発明の詳細な説明に記載された発明でないということはできない。 そして、発明の詳細な説明に、本件発明1?3が、フェノール樹脂を原料として製造できることが記載されていれば、仮に、ピッチ等を原料として製造できないとしても、当業者が、本件発明1?3を実施することができるのは明らかである。 したがって、申立理由3には理由がない。 第6.むすび 以上のとおり、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。 一方、取消理由及び申立理由によっては、請求項2?6に係る特許を取り消すことはできない。 そして、他に請求項2?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上であり、且つ下記式から求められる細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.04cm^(3)/g以上であることを特徴とする吸着性能に優れた活性炭。 細孔径20Å超300Å以下の細孔容積=全細孔容積-細孔径20Å以下の細孔容積 (式中、全細孔容積:相対圧0.93における窒素吸着量から算出した値、細孔径20Å以下の細孔容積:前記全細孔容積から吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超300Å以下の細孔容積を差し引いた値) 【請求項2】 下記式から求められる細孔径200Å超300Å以下の細孔容積が0.01cm^(3)/g以上である請求項1に記載の活性炭。 細孔径200Å超300Å以下の細孔容積=前記全細孔容積-(前記細孔径20Å以下の細孔容積+吸着等温線をBJH法により解析した細孔径20Å超200Å以下の細孔容積) 【請求項3】 窒素吸着法により測定した細孔径分布図(縦軸:log微分細孔容積dV/dlogD(cm^(3)/g)、横軸:細孔径D(Å))において、細孔径200Å超300Å以下の範囲に細孔径100Åのlog微分細孔容積値よりも高いピークを有している請求項1または2に記載の活性炭。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の活性炭の製造方法であって、 フェノール樹脂繊維を炭化し、次いで1回以上賦活することでフェノール樹脂由来物を順次処理することとし、且ついずれか1回の賦活を水蒸気賦活とし、 この1回の水蒸気賦活処理を実施するまでにフェノール樹脂由来物にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を、前記カルシウム化合物、及び前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後のフェノール樹脂由来物全体の合計100質量%に対して、前記カルシウム化合物、及び前記カリウム化合物の合計量0.01質量%以上、10質量%以下で添着させておき、添着状態を維持したまま前記1回の水蒸気賦活処理を400℃以上、1500℃以下の温度で、1分以上、10時間以下の加熱時間実施し、前記添着を維持した状態で水蒸気賦活処理を行った後は、さらなる賦活処理を実施しないことを特徴とする吸着性能に優れた活性炭の製造方法。 【請求項5】 前記フェノール樹脂繊維に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで炭化した後、或いは 前記フェノール樹脂繊維を炭化し、次いで前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させた後、 得られた添着炭化物を水蒸気賦活する請求項4に記載の活性炭の製造方法。 【請求項6】 前記フェノール樹脂繊維を炭化した後、賦活し、得られたフェノール樹脂繊維賦活物に前記カルシウム化合物、および前記カリウム化合物の少なくとも一方を添着させ、次いで水蒸気賦活する請求項4に記載の活性炭の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-06-07 |
出願番号 | 特願2014-152010(P2014-152010) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
ZDA
(C01B)
P 1 651・ 536- ZDA (C01B) P 1 651・ 113- ZDA (C01B) P 1 651・ 112- ZDA (C01B) P 1 651・ 121- ZDA (C01B) |
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 廣野 知子 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 馳平 憲一 |
登録日 | 2016-02-19 |
登録番号 | 特許第5886383号(P5886383) |
権利者 | 関西熱化学株式会社 |
発明の名称 | 吸着性能に優れた活性炭、およびその製造方法 |
代理人 | 菅河 忠志 |
代理人 | 植木 久彦 |
代理人 | 伊藤 浩彰 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 伊藤 浩彰 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 菅河 忠志 |
代理人 | 植木 久彦 |