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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07K
管理番号 1343884
異議申立番号 異議2017-700685  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-11 
確定日 2018-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6056137号発明「抗体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6056137号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6056137号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第6056137号の請求項2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6056137号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成23年12月9日に特許出願(国内優先権主張 平成22年12月22日)され、平成28年12月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年7月11日に特許異議申立人戸塚 清貴(以下、「異議申立人」という)により特許異議の申立てがされ、平成29年9月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年11月27日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して異議申立人から平成30年1月5日付けで意見書が提出され、平成30年1月26日付けで再度の取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年3月30日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して異議申立人から平成30年5月28日付けで意見書が提出され、平成30年6月13日付けで特許権者宛てに審尋が行われ、平成30年7月3日付けでその回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
平成30年3月30日に2回目の訂正の請求があったことから、先にした平成29年11月27日提出の訂正の請求は特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされ、平成30年3月30日提出の訂正の請求(以下、本件訂正請求という)を審理の対象とする。

(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1及び2が、
「【請求項1】
以下(1)から(3)の特徴を有する、IgG型抗体。
(1)分子中の一部のジスルフィド結合が切断され、この切断されて生じたチオール基と標識物質が、チオール基と特異的に結合する結合試薬を介して結合されている(但し、アビジン-ビオチン結合を介して結合されているもの、及びストレプトアビジン-ビオチン結合を介して結合されているものを除く)、
(2)ジスルフィド結合の切断によって抗体自体は低分子化していない、及び、
(3)抗原結合能を保持している。
【請求項2】
ジスルフィド結合切断率が0%より大きく100%未満である、請求項1に記載の抗体。」とあったものの請求項2について、請求項1の記載を引用しない形式に書き改めるとともに、ジスルフィド結合切断率を「41.9%以上53.7%以下」と特定し、さらに、抗体が、「インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度を有」することを追加して特定する。

イ 訂正事項2 訂正前の請求項1を削除する。

(2)一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用していることから、これらの請求項は一群の請求項に該当し、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

イ 訂正要件について
(ア)訂正事項1
a 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消するための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。加えて、この訂正は、ジスルフィド結合切断率を「41.9%以上53.7%以下」と特定し、さらに、感度に関する事項を追加して特定するものであり、これらの特定は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(a)訂正事項1における「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下」について
明細書の段落【0040】の【表3】に、SS結合切断率の値として「41.9%」及び「53.7%」が記載されており、各値は明細書【0020】に記載された好ましい範囲としての「40%以上100%未満」の範囲に含まれるものである。したがって、各値を下限値及び上限値とした「41.9%以上53.7%以下」たる数値範囲を導入する訂正は、新たな技術的事項を導入するものとはいえず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(b)訂正事項1における「インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度を有し」について
明細書の段落【0028】には、「・・・任意の2点の濃度における蛍光強度の増加速度の差を心筋トロポニンIの濃度の差で割ることで、単位心筋トロポニンIあたり蛍光強度の増加速度を算出することができる。算出された数値は感度と同義である・・・」との記載がなされており、「単位心筋トロポニンIあたり蛍光強度の増加速度」が「感度」と同義であることが理解される。さらに、明細書の段落【0040】の【表3】には、SS結合切断率が0及び41.9%の際の単位トロポニンあたりの蛍光強度の増加速度が、それぞれ1.55及び2.34(nmol/L/sec)/(ng/mL)であることが示されている。ここで、「2.34」を「1.55」で除算すると「1.509・・・」となり、SS結合切断率が41.9%の抗体が、インタクト抗体を標識抗体とした場合(すなわちとSS結合切断率が0%の場合)と比較して、感度が約1.5倍であることが算出される。そして、図3には、抗体が41.9?53.7%のSS結合切断率にわたり感度が増大することが示されている。これらの記載を勘案すると、「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下」である訂正後の本件特許発明に係る抗体が、「インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度」を有することは明らかである。したがって、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(c)異議申立人の主張について
異議申立人は平成30年5月28日付け意見書において、本件特許明細書において、ジスルフィド結合切断率の実質的な数値範囲として記載されているのは、段落【0016】【0020】等の好ましい範囲としての「40%以上100%未満」、及び段落【0039】の特に好ましい範囲としての「50%以上90%以下」のみであり、訂正に係る「41.9%以上53.7%以下」は数値範囲としては記載されておらず、それぞれ下限値または上限値として記載されていないから、かかる訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない旨主張している。
しかしながら、上記(a)のとおり、かかる訂正は新たな技術的事項を導入するものとはいえず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではないとはいえない。したがって、かかる主張は採用できない。

したがって、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(イ)訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、その平成30年3月30日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下であり、かつ、インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度を有し、以下(1)から(3)の特徴を有する、IgG型抗体。
(1)分子中の一部のジスルフィド結合が切断され、この切断されて生じたチオ-ル基と標識物質が、チオール基と特異的に結合する結合試薬を介して結合されている(但し、アビジンービオチン結合を介して結合されているもの、及びストレプトアビジンービオチン結合を介して結合されているものを除く)、
(2)ジスルフィド結合の切断によって抗体自体は低分子化していない、及び、
(3)抗原結合能を保持している。」

(2)取消理由の概要
ア 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年9月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(ア)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証(以下、「甲1」という)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(イ)請求項1、2に係る発明は、甲第2号証(以下、「甲2」という)に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2に係る特許は、取り消されるべきものである。
(ウ)請求項2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

イ また、平成29年11月27日付けの訂正請求書における訂正後の請求項2に係る特許に対して平成30年1月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(ア)請求項2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
(イ)請求項2に係る特許は、その発明の詳細な説明が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)甲号証の記載
ア 甲1
(ア)甲1の記載事項
甲1(Bioconjugate Chem., Vol.1, No.1, pp.51-59 (1990))には、以下の事項が記載されている。(原文は英語のため、翻訳文で摘示する。)

(甲1-1)「この論文では、平衡移送アルキル化架橋(equilibrium transfer alkylation cross-link;ETAC)試薬(18-20)として特徴付けられた新しいクラスの架橋試薬と、2つのマウスモノクローナル抗体225.28S及び5G6.4の還元されたジスルフィドとの反応について説明する。本研究における化合物は、初期のプロトタイプ(18)と構造的及び機械的に類似しており、図1に示されている。鎖間IgG重鎖の還元されたジスルフィド結合へのETAC1型化合物の挿入をスキームIに示す。」(第51頁右欄10-19行)

(甲1-2)「

図1.ETAC化合物の化学構造:α,α-ビス[(p-トリルスルホニル)メチル]-m-アミノアセトフェノン(1a)およびテトラエチルローダミン誘導体1b」(第52頁左欄、図1)

(甲1-3)「5G6.4は、卵巣がん及び他の上皮がんに優先的な反応性を有するIgG2aマウスモノクローナル抗体である。」(第52頁右欄12-14行)

(甲1-4)「ETAC1を用いた還元型モノクローナル抗体の還元と反応225.28S及びETAC1bの反応について、手順を説明する。シリンジを使い、100μLの225.28S(およそ3.3×10^(-5)M)に2μLのDTT(アルドリッチまたはシグマ、1.71M)を加えた。この混合液を37℃で2?3時間インキュベートした。53/4 インチ(約146センチメートル)のガラス製カラムに入れたおよそ2mLのセファデックスG25-150を、0.05MのTris一HC1(pHほぼ8)で予め平衡化しておき、これを使って先の混合液のクロマトグラフィーを行った。反応混合液をおよそ200?250μLずつの画分として、DMSO(シグマ)に溶解したETAC1b(15μL、0.026M)の入った試験管に回収した。試験管をボルテックスで撹拌した後、37℃でおよそ3時間インキュベートし、次いで、ブラッドフォード試薬(バイオラッド)を使ってタンパク質含量を定性的に調べた。青色を呈した画分(通常1または2)を前述したのと同様の脱塩カラムで、別々に、再度クロマトグラフィーにかけた。余分な試薬はカラムの開始部に残され、ETAC1bで標識された225.28Sの画分は青紫色のバンドとして溶出された。
同様に、ただし脱塩の工程は行わずに、部分的に還元した5G6.4(DTT対1gG2aがモル比でおよそ50?70:1、およそ5時間)抗体と1bを反応させた。」(第52頁右欄23-51行)

(甲1-5)「スキームI.鎖間IgG重鎖チオールの分子内架橋

」(第53頁スキームI)

(甲1-6)「SDS一ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)分析(25)
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を、市販されているファルマシアの8?25%ポリアクリルアミド勾配ゲルとファルマシアのファストシステム(Phast System)を使って通常通りに行った。試料の調製は通常、SDS-PAGEを還元条件で行うために、1等量のタンパク質試料と少なくとも2倍量のTris-HCl緩衝液(pHほぼ6.8、8%(重量)SDS、20%(重量)グリセロール、及び10%(容量)2-メルカプトエタノールまたはDTT(0.67M)含有)とを混合することを伴う。電気泳動する前にこれらの混合物を、沸騰している水浴中で2?3分加熱するか、または37℃で24時間インキュベートした(いずれの反応条件でも、インタクトなモノクローナルの重鎖と軽鎖が完全に還元・解離する)。ゲルはクーマシーブルーで染色した。」(第53頁左欄3行-17行)

(甲1-7)「


図4.各レーンの説明: A,ファルマシアの分子量標準物質を使った。上から下に向かって、ホスホリラーゼb(94,000)、ウシ胎仔血清(67,000)、オボアルブミン(43,000)、炭酸脱水酵素(30,000)、ダイズトリプシン阻害剤(20,100)、a-ラクトアルブミン(14,400); B,インタクトな5G6.4の非還元条件におけるSDS-PAGE; C,還元型5G6.4とETAC1a生成混合物におけるSDS-PAGE; D,インタクトな5G6.4の還元条件におけるSDSーPAGE; E,還元型5G6.4とETAC1a生成混合物の還元条件におけるSDS-PAGE; F?I,5G6.4および還元型5G6.4+ETAC1bのSDS-PAGE解析に正確に対応している。」(第55頁左欄 図4)

(甲1-8)「ローダミンETAC1bが手元にあること、及び当研究室では77IP3ヒト卵巣癌腫標的細胞(抗卵巣モノクローナル抗体5G6.4が認識する抗原を発現している細胞)が使用可能であることから(28)、フローサイトメトリー分析を使い、フルオレセイン(抗マウス二次抗体プローブを使用)及びローダミンの蛍光をそれぞれ独立して測定することで、ETAC1bで架橋した5G6.4調製物の結合特性を試験した。これらの結果を図6に示し、かつ、表1にまとめた。」(第55頁右欄15-25行)

(イ) 甲1に記載された発明
a (甲1-2)について
図1によれば、ETAC1bは、蛍光色素であるテトラエチルローダミンに、α,α-ビス[(p-トリルスルホニル)メチル]-m-アミノアセトフェノン(1a)が結合した化合物である。

b (甲1-5)について
スキームIによれば、この論文における還元反応では、IgG重鎖間の複数のジスルフィド結合のうち、一部のジスルフィド結合がDTTで切断され、切断されて生じたチオール基にETAC1が結合される。

c (甲1-7)について
図4に掲載されたSDS-PAGEゲル写真において、レーンFは、非還元条件で泳動したインタクトな抗体5G6.4であり、レーンGは、非還元条件で泳動した還元型5G6.4+ETAC1bであり、レーンFにおいてインタクトな抗体のものと理解されるメインのバンドと同じ位置に、レーンGもメインのバンドを有することから、還元型5G6.4+ETAC1bはインタクト抗体と同様の分子量を有している。

d (甲1-8)について
フローサイトメトリー分析において、77IP3細胞(抗体5G6.4が認識する抗原を発現している細胞)の染色に用いることができることから、抗原結合能を保持しているものと認められる。

e まとめ
上記(ア)の記載および上記a-dによれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「以下(1)から(3)の特徴を有する、IgG2a型抗体5G6.4。
(1)重鎖間のジスルフィド結合が部分還元反応により切断されて生じたチオール基に、結合試薬α,α-ビス[(p-トリルスルホニル)メチル]-m-アミノアセトフェノン(1a)を介して、標識物質であるテトラエチルローダミンが結合されている、
(2)非還元条件のSDS-PAGEによる解析結果から、インタクトな抗体5G6.4と同様の分子量を有している、及び、
(3)抗原結合能を保持している。」

イ 甲2
(ア)甲2の記載事項
甲2(特表2008-500961号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲2-1)「【0074】
例示的な実施形態において、lgG_(1)、例えばcAC10は多数のジスルフィド結合を所有し、そのわずか4個が鎖間である。4個の鎖間ジスルフィド結合が高度に柔軟性のヒンジ領域に密集し、他の(鎖内)ジスルフィド結合よりはるかに溶媒に接近しやすいため、過剰の例えば還元剤、例えばこれに限定されるわけではないがジチオトレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、または2-メルカプトエタノールによる還元が4個すべての結合を切断して、8個のシステインを生成する(すなわち遊離チオール基を含有する)。8個すべてのシステインと薬物-リンカーとの結合は、図7に示すように、抗体に付き約8個の薬物を持つ完全付加結合体を生成する。」

(甲2-2)「【0083】
還元が制限量の還元剤の添加によって制御され、抗体当たり平均して4個未満の鎖間ジスルフィド結合が破壊される部分還元が起こる。4個の鎖間ジスルフィド結合すべてが高度に露出されているため、還元は種々の経路によって進行し、0、2、4、6、または8個のシステインを持つ種の混合物からなる部分還元抗体を生成する。したがって部分還元抗体の結合は、図1および7に示すように、抗体当たり0、2、4、6、または8個の薬物を持つ結合体の混合物を生成できる。部分還元の程度に応じて、薬物付加分布(すなわち0、2、4、6、または8薬物付加種のパーセント)が変化する。
【0084】
部分還元は、抗体当たり可変数の薬物を持つ種を含有する混合物を生成するだけでなく、複数の場所の薬物付着の結果として、さらなる不均一性も生じさせる。図7は、2、4、および6薬物付加種が考えられる異性体が2個以上あることを示している。」

(甲2-3)「【0209】
(表1.E4混合物の組成パーセント)
【0210】




(甲2-4)「【0213】
PLRP-S HPLCおよびキャピラリー電気泳動によって観察された種の定量化は、異性体集団への分類を可能にする。図1および7は、抗体フラグメントおよび異性体それぞれに結合された薬物の数を示す。E2およびE6の異性体集団は、各異性体が独自のパターンを生じるため、PLRP-S HPLC単独で、またはキャピラリー電気泳動単独で容易に決定できる。たとえば変性および還元条件下では、異性体E2CのみがL1およびH0を生じるのに対して、E2AのみがL0およびH1を生じ、変性および非還元条件では、異性体E2AがHHLLを生じるのに対して、E2CはLおよびHHLを生じる。」

(甲2-5)「【0214】
(表2.精製されたE2、E4およびE6の異性体集団の組成)
【0215】



(甲2-6)「

」(図7)

(甲2-7)「【0220】
(表4.cAC10-vcMMAEのインビトロ結合および細胞毒性)
【0221】



(甲2-8)「【0199】
E2およびE6の異性体分布は、PLRP-S HPLCデータのみを使用して決定した。E2異性体Aでは(これらの分析では、「異性体A」は図7の異性体2Aおよび2Bの両方を指す)、0vcMMAEを含む軽鎖(L0)のモル分率は1vcMMAEを含む重鎖(H1)のモル分率と等しいが、E2異性体Cでは、0および1vcMMAEを含む軽鎖のモル分率および0および1vcMMAEを含む重鎖のモル分率はすべて等しい。1vcMMAEを含む軽鎖(L1)および0vcMMAEを含む重鎖(H0)のみが異性体Cのパーセンテージに寄与するため、異性体Cのパーセントは、以下のように表される:
%C=2L1+2H0 (1)。」

(イ) 甲2に記載された発明
a (甲2-3)について
表1の「DTT部分還元」の方法で産生されたE4混合物には「E2」が特定の組成パーセントで含まれていたことが記載されている。
ここで、E2およびE4は、段落【0251】の図面の簡単な説明の図2の説明に記載されているように、抗体当たり2個または4個のMMAE分子(「MMAF分子」との記載は【実施例】の記載から「MMAE分子」の誤記であることが明らか)がそれぞれ結合したcAC10抗体の異性体を指す。

b (甲2-4)について
変性および非還元条件でのPLRP-S HPLCおよびキャピラリー電気泳動において、異性体E2AはHHLLを生じることから、異性体E2Aはフラグメント化されていないものと認められる。

c (甲2-5)について
表2の「DTT部分還元」の方法で産生され、生成されたE2には、異性体「E2A」が特定の組成で含まれていたことが記載されている。
ここで、E2Aは、段落【0199】(甲2-8)に記載されているように、図7の異性体2Aおよび2Bの両方を指す。

d (甲2-6)について
図7の2Aおよび2B、すなわち表2のE2Aは、4つの鎖間ジスルフィド結合のうち、1つの重鎖間のジスルフィド結合のみが還元され、生成した遊離チオールに薬物が結合したものであることが記載されている。すなわちE2Aのジスルフィド結合切断率は25%である。

e (甲2-7)について
表4の「純E2 DTT」は、(甲2-5)の「精製されたE2」であって、「DTT部分還元」の方法により産生されたものと同等のものを指し、E2Aを含むものと理解され、インビトロの結合試験および細胞毒性試験において、一定の効果を有していたことが記載されている。

f まとめ
上記(ア)の記載および上記a?eによれば、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「ジスルフィド結合切断率が25%であり、以下の(1)から(3)の特徴を有する、lgG1型抗体E2A。
(1)4つのジスルフィド結合のうち、部分還元反応により1つの重鎖間のジスルフィド結合のみが破壊され、生成した遊離チオールに、薬物MMAEが結合されている、
(2)4つのジスルフィド結合のうち、1つの重鎖間のジスルフィド結合のみが破壊されており、フラグメント化されていない、及び、
(3)インビトロの結合効果及び細胞毒性効果を有する。」

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
事案に鑑み、まず上記(2)イ(イ)の取消理由から判断する。
(ア)上記(2)イ(イ)(特許法第36条第4項第1号)について
a 取消理由通知での指摘事項
請求項2の「ジスルフィド結合切断率」について、本件特許明細書には、「1分子のインタクト抗体のうち還元処理によって切断されたSS結合数を、1分子のインタクト抗体に存在するSS結合の総数で除した値である。」(段落【0016】)と定義されているところ、異議申立人が平成30年1月5日に提出した意見書に添付された参考資料1によれば、例えば、IgG2型抗体には、H鎖中のSS結合が8つとL鎖中のSS結合が4つ更に存在し、合計18個のSS結合が存在することから、段落【0033】に記載されたDTNB試薬を用いた「SS結合切断率の算出」において、「還元が完全に進行した際のSS結合切断数(6.13)」(段落【0034】)を分母として、「SS結合切断率(%)」を算出する技術的な根拠が不明である。
また、段落【0031】には、「SS結合を完全に還元した処理抗体を前記ゲルろ過用カラムに供し、ピーク画分を分取した。この時のクロマトグラムを図2に示す。図2に示されるように、処理抗体がインタクト抗体よりも遅い溶出時間(10.4分)で溶出することから、還元処理により抗体が低分子量化していることが分かる。」と記載されているが、SS結合の切断により「低分子量化」されたIgG型抗体は、複数の分子量の異なるフラグメントになることから、これがワンピークであるとは技術常識から考えられない。
してみると、本件特許明細書の記載に従って、請求項2に係る抗体を取得することは当業者であっても困難であると認められる。
b 判断
本件特許明細書の段落【0011】における、「IgG型抗体は、・・・、二本のH鎖(重鎖)と二本のL鎖(軽鎖)からなり、H鎖-L鎖間がそれぞれ1個以上のSS結合で連結される一方、H鎖同士もまた複数のSS結合によって連結されている(・・・)。」との記載、及び、本件特許明細書の段落【0013】における、「還元処理は、インタクト抗体の一部のSS結合を切断し、その切断によってインタクト抗体を低分子化することがなく、かつ処理後の抗体が抗原結合能を維持する、即ち、インタクト抗体の二本のH鎖間の全SS結合を切断することのなく、H鎖とL鎖間の全SS結合を切断することのなく、かつ処理後の抗体が抗原結合能を維持するものであれば良い。」との記載に鑑みれば、本件特許発明において、「1分子のインタクト抗体に存在するSS結合の総数」とは、低分子化に関与するH鎖とL鎖間のSS結合数及びH鎖同士のSS結合数の合計を意味するものと認められる。このことは、平成30年7月3日付け回答書における「鎖内のSS結合は、鎖間のSS結合よりも切断されにくい」たる特許権者の主張、及び、上記甲2の摘示事項(甲2-1)の「4個の鎖間ジスルフィド結合が高度に柔軟性のヒンジ領域に密集し、他の(鎖内)ジスルフィド結合よりはるかに溶媒に接近しやすいため、過剰の例えば還元剤、例えばこれに限定されるわけではないがジチオトレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、または2-メルカプトエタノールによる還元が4個すべての結合を切断して、8個のシステインを生成する(すなわち遊離チオール基を含有する)。」たる記載の内容とも整合する。
したがって、段落【0033】に記載されたDTNB試薬を用いた「SS結合切断率の算出」において、「還元が完全に進行した際のSS結合切断数(6.13)」(段落【0034】)を分母として、「SS結合切断率(%)」を算出することの技術的な根拠は明らかである。
また、図2には、複数のフラグメントのうち、比較的分子量がインタクトな抗体に近いフラグメントのピーク(10.4分)のみが示されており、その他のフラグメントのピークは、図2の右端よりもさらに右側となるため示されていないものと解釈できるため、図2の記載に技術的な不整合は存在しない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(イ)上記(2)ア(ウ)(特許法第36条第6項第2号)について
a 取消理由通知での指摘事項
甲第5?7号証にも記載されているように、還元された重鎖と軽鎖を有する抗体はなお、非共有結合によってジスルフィド結合した状態を保つことができる。
本件明細書の段落【0034】には、「還元が完全に進行した際のSS結合切断数(6.13)」(個/分子)と記載されており、実施例2においては、H鎖とL鎖の間に1つずつとH鎖間に4つの計6つのジスルフィド結合を有する「IgG2型抗体」を用いて「SS結合切断率の評価」を行ったものと推測される。
ここで、6つのジスルフィド結合のうち1つの切断であってもH鎖とL鎖の間のジスルフィド結合が切断されると、非共有結合は不安定であるから、時間の経過とともに「抗体自体は低分子化」してしまうものと考えられ、また、H鎖間の4つのジスルフィド結合がすべて切断されても同様の状況が生じる。さらに、本件明細書の段落【0018】に記載されるように、キャッピングを行わないと「結合剤が結合しなかったSH基のジスルフィド再結合」も生じる。
したがって、本件明細書の表3に記載された「SS結合切断率の評価」の結果は、化学物質として不安定な「非共有結合」を前提とした一時的な遷移状態の評価にすぎないものと認められる。
してみれば、訂正前の請求項2の「ジスルフィド結合切断率が0%より大きく100%未満」という記載がどのような状態を意味しているのか不明確であり、上記の「非共有結合によってジスルフィド結合した状態」や「SH基のジスルフィド再結合」した状態がどのように評価されているかも明らかでなく、また、請求項1の「IgG型」の異なるサブタイプにおいてジスルフィド結合の状態(H鎖間のジスルフィド結合の数)は異なるので、これらを区別せずに「ジスルフィド結合切断率」を特定の数値を用いて限定する技術的意義も不明である。
よって、請求項2に係る発明は明確でない。
b 判断
本件発明2の「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下」という記載について、ジスルフィド結合切断とは、【0017】の第2段落の冒頭「本発明の抗体は、以上に説明した還元処理によって分子中の一部のSS結合が切断され、残基としてSH基を露出している。そこで本発明では、このSH基を利用して、例えば標識物質等を結合させることが可能である。」の記載より、「共有結合」であるジスルフィド結合を切断することを意味するものと認められる。そして、平成29年11月27日提出の意見書によれば、本件発明では、ジスルフィド結合切断率の測定時に、「共有結合している(いったん共有結合が切断された後に再度共有結合したものも含む)か又は切断されているか」という、測定時の結合/切断状況(事実)にもとづいて、ジスルフィド結合切断率が求められるものである。また、上記(ア)で述べたように、ジスルフィド結合切断率は「1分子のインタクト抗体のうち還元処理によって切断されたSS結合数を、1分子のインタクト抗体に存在するSS結合の総数で除した値である。」(段落【0016】)と定義されているところ、「1分子のインタクト抗体に存在するSS結合の総数」とは、低分子化に関与するH鎖とL鎖間のSS結合数及びH鎖同士のSS結合数の合計数であると解釈される。したがって、請求項2の記載に不明確なところはなく、請求項2に係る発明は明確である。

(ウ)上記(2)イ(ア)(特許法第36条第6項第2号)について
a 取消理由通知での指摘事項
平成29年11月27日提出の意見書において、『本件特許発明において、ジスルフィド結合切断率とは、「共有結合」であるジスルフィド結合を切断することを意味するものである(すなわち、合議体が指摘する非共有結合とは関係なく、非共有結合の思想/概念は存在しない)。』および『本件特許発明では、ジスルフィド結合切断率の測定時に、「共有結合している(いったん共有結合が切断された後に再度共有結合したものも含む)か又は切断されているか」という、測定時の結合/切断状況(事実)にもとづいて測定され、ジスルフィド結合切断率が求められるものである。』と主張されている。
一方、平成29年11月27日提出の訂正請求書において訂正請求された請求項2には、「ジスルフィド結合切断率が50%以上90%以下であり、」かつ「ジスルフィド結合の切断によって抗体自体は低分子化していない、」「IgG型抗体。」が記載されている。
ここで、本件特許明細書の段落【0034】には、「上記(1)で還元処理時間を変えて作製した還元抗体のSS結合切断数も同様に算出し、還元が完全に進行した際のSS結合切断数(6.13)で除することで、SS結合切断率(%)を算出した。」と記載されており、実験に用いられた抗体1分子に6個のSS結合が存在することを前提に段落【0040】の【表3】が作成されているが、例えば、H鎖とL鎖間に1つずつとH鎖間の4つの計6つのSS結合を有するIgG2型抗体を例にとると、6つのSS結合のうち4つ以上が切断されると、「低分子化」が生じることになる。すなわち、SS結合切断率67%(=4/6)以上のIgG2型抗体が「非共有結合の思想/概念は存在しない」前提において「抗体自体は低分子化していない」状態で存在することは技術常識を考慮すると考えられない。
してみると、訂正請求された請求項2に係る発明は、本件特許明細書の段落【0033】に記載された「SS結合切断率の算出」を行ったのちに、何らかの条件下で「再度共有結合した」異なる抗体について「低分子化していない」ことを表現したものと推測される。
したがって、訂正請求された請求項2には、技術的には両立しないと考えられる2つの異なる化合物の物性をあたかも1つの「IgG型抗体」の特徴であるかのように記載しており、請求項2に係る発明が不明確である。
b 判断
本件発明2に規定されるSS結合切断率の上限は53.7%であり、67%(=4/6)より低いことから、上記のような技術的な不整合は存在せず、請求項2に係る発明は明確である。

(エ)上記(2)ア(ア)(甲1に対する特許法第29条第1項第3号及び同条第2項)について
甲1には、抗体のジスルフィド結合切断率を測定した試験結果は記載されておらず、甲1発明のジスルフィド結合切断率は不明である。仮に摘示事項(甲1-5)に記載されたとおり、抗体1分子あたり1本の鎖間ジスルフィド結合が切断されているとした場合には、IgG2型抗体が鎖間のジスルフィド結合を6本有することを踏まえ(参考資料1)、甲1発明のジスルフィド結合切断率は1/6≒17%と算出される。
したがって、本件発明2と甲1発明とを対比すると、前者は「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下であり、かつ、インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度を有」するのに対して、甲1発明のジスルフィド結合切断率はかかる範囲内であるとはいえず、感度の特定もない点で両者は相違する。
したがって、本件発明2は甲1に記載された発明ではない。
そして、甲1には、ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下となるように調整を行うことの示唆もされていないから、上記相違点は甲1に記載された事項から導き出されるものではない。したがって、本件発明2は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)上記(2)ア(イ)(甲2に対する特許法第29条第2項)について
本件発明2と甲2発明とを対比すると、前者では「標識物質が、チオール基との特異的に結合する結合試薬を介して」抗体に結合されているのに対して、後者では、「部分還元反応により1つの重鎖間のジスルフィド結合のみが破壊され、生成した遊離チオールに、薬物MMAEが結合されて」おり、「結合試薬を介して」いるかも不明である点(相違点1)、及び、前者は「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下であり、かつ、インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度を有」するのに対して、後者はジスルフィド結合切断率が25%であり、インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較したときの感度の特定も有していない点(相違点2)、で相違する。
相違点2に関して、上記摘示事項(甲2-6)には、4本の鎖間ジスルフィド結合のうち0本、1本、2本、3本又は4本が切断された抗体、すなわち、ジスルフィド結合切断率が0%、25%、50%、75%、100%のものが記載されているが、50%以上のジスルフィド結合切断率のもの、すなわち2本以上の鎖間ジスルフィド結合が切断されたものは、L鎖、H鎖またはHL鎖のフラグメント化すなわち低分子化を免れないことは明らかである。したがって、甲2発明に基づき、「ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下」であり、かつ「(2)ジスルフィド結合の切断によって抗体自体は低分子化していない」たる要件を満たす本件発明2のIgG型抗体に至ることは理論上不可能であり、そのための動機付けはない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)甲第3号証に対する特許法第29条第2項について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1、2に係る発明は甲第3号証(CANCER RESEARCH(SUPPL.), 1990, 50, 804s-808s)に記載された発明から容易想到であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであると主張している。
しかしながら、甲第3号証に記載された発明は、標識物質^(125)Iがストレプトアビジン-ビオチン結合を介して結合された抗体であるのに対して、本件発明2は「アビジン-ビオチン結合を介して結合されているもの、及びストレプトアビジン-ビオチン結合を介して結合されているもの」を除いたものである点で両者は相違する。
そして、甲第3号証には、ストレプトアビジン-ビオチン結合以外の結合を介して標識物質^(125)Iを抗体に結合することの示唆はなく、そのことは当業者にとり自明のものでもない。
したがって、かかる主張は理由がない。

(イ)特許法第36条第4項第1号について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲第4号証(Biotechnol.Prog.2008,24,1154-1159)に記載された還元処理の条件は本件特許明細書に説明されている条件に包含されるものであり、当該条件下では低分子化していない抗体を得ることができなかったから、本件特許明細書に説明されている条件で処理された抗体の中には抗体自体が低分子化してしまうものが多く含まれると考えられ、抗体分子中の一部のジスルフィド結合は切断されるが、抗体自体は低分子化しない本件特許発明を製造するためには過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があることから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであると主張している。
しかしながら、抗体自体が低分子化しない程度にジスルフィド結合を切断する、すなわち、還元の程度を調整するためには、還元剤の種類や量、処理温度や処理時間等を調整すればよく、そのことは当業者が通常行う条件検討の範囲であって、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を要するものとはいえない。甲第4号証に記載された個別条件において抗体の低分子化が生じたことも、かかる判断を左右するものではない。
したがって、かかる主張は理由がない。

(ウ)特許法第36条第6項第2号について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1において規定されている特徴(2)「ジスルフィド結合の切断によって抗体自体は低分子化していない」が、ジスルフィド結合の切断によって生じたSH基同士が再会合してジスルフィド結合が形成された場合、及びジスルフィド結合の切断によって生じたH鎖、L鎖の鎖間において非共有結合が形成され、それによりインタクト抗体と同様の分子構造を維持している場合を包含するか否かが不明確であるため、訂正前の請求項1、2に係る発明の範囲が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであると主張している。
上記ア(ア)で述べたとおり、ジスルフィド結合切断とは「共有結合」であるジスルフィド結合を切断することを意味するものであり、本件特許発明では、ジスルフィド結合切断率の測定時に、「共有結合している(いったん共有結合が切断された後に再度共有結合したものも含む)か又は切断されているか」という、測定時の結合/切断状況(事実)にもとづいてジスルフィド結合切断率が求められるものであるから、訂正後の請求項2に係る発明は明確であり、かかる主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ジスルフィド結合切断率が41.9%以上53.7%以下であり、かつ、インタクト抗体を標識抗体とした場合と比較して1.5倍以上の感度を有し、以下(1)から(3)の特徴を有する、IgG型抗体。
(1)分子中の一部のジスルフィド結合が切断され、この切断されて生じたチオール基と標識物質が、チオール基と特異的に結合する結合試薬を介して結合されている(但し、アビジン-ビオチン結合を介して結合されているもの、及びストレプトアビジン-ビオチン結合を介して結合されているものを除く)、
(2)ジスルフィド結合の切断によって抗体自体は低分子化していない、及び、
(3)抗原結合能を保持している。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-01 
出願番号 特願2011-270273(P2011-270273)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C07K)
P 1 651・ 536- YAA (C07K)
P 1 651・ 113- YAA (C07K)
P 1 651・ 537- YAA (C07K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 松浦 安紀子
大宅 郁治
登録日 2016-12-16 
登録番号 特許第6056137号(P6056137)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 抗体  
代理人 青木 篤  
代理人 池田 達則  
代理人 池田 達則  
代理人 三橋 真二  
代理人 三橋 真二  
代理人 武居 良太郎  
代理人 中島 勝  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中島 勝  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 青木 篤  

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