ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
---|---|
管理番号 | 1343893 |
異議申立番号 | 異議2017-700925 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-29 |
確定日 | 2018-08-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6105752号発明「光学材料用重合性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6105752号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6105752号の請求項1、2、4?7に係る特許を維持する。 特許第6105752号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6105752号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、2014年12月12日(優先権主張2014年2月27日、2013年12月13日、2014年8月26日、いずれも、日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2015-552544号)に係るものであって、平成29年3月10日に設定登録され、同年3月29日に特許掲載公報が発行され、その後、同年9月29日に本件特許の請求項1?7に係る発明についての特許に対して、特許異議申立人 増山美紀(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 その後、平成29年12月1日付けで取消理由が通知され、平成30年2月5日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、同年3月22日に申立人より意見書が提出され、同年4月18日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年5月25日に特許権者より手続補正書及び意見書が提出された。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年2月5日提出の訂正請求書(同年5月25日提出の手続補正書により補正されたもの)による、特許請求の範囲についての訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)?(5)のとおりである。(なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。) (1)訂正事項1 請求項1に記載の 「(A)5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンから選択される少なくとも一種以上のポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含む、光学材料用重合性組成物」を、 「(A)5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む化合物であるポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネートと、 2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、 ヘキサメチレンジイソシアネートと、 イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含み、 前記紫外線吸収剤(C)は、光学材料用重合性組成物100重量%中に0.4?1.5重量%含まれる、光学材料用重合性組成物」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に記載の 「ポリイソシアネート(B)は、2,5-ビス(イソシアナトメチル)一ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選択される少なくとも一種以上である、請求項1に記載の光学材料用重合性組成物」を、 「前記ポリイソシアネート(B)は、 2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)一ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、 ヘキサメチレンジイソシアネートと、 イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上である、請求項1に記載の光学材料用重合性組成物」 に、訂正する。 (3)訂正事項3 請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 請求項4に記載の「請求項1?3のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物」を、「請求項1または2に記載の光学材料用重合性組成物」に訂正する。 (5)訂正事項5 請求項7に記載の「請求項1?3のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物」を、「請求項1または2に記載の光学材料用重合性組成物」に訂正する。 2.訂正要件の適合についての検討 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の重合性組成物について、 1)(A)が、「5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンから選択される少なくとも一種以上のポリチオール」と特定され、3種のポリチオールから選択される少なくとも一種以上のポリチオールを含むものであったのを、「5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む混合物であるポリチオール」に訂正して、(A)を、3種のポリチオール全てを含む態様に限定し、 2)(B)が、「m-キシリレンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)一ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネート」を含むことが特定されていたのを、「m-キシリレンジイソシアネートと、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、ヘキサメチレンジイソシアネートと、イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネート」と訂正し、(B)を、(B)が「2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」あるいは「2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」である場合には、必ず両者が含まれるように限定し、 3)「紫外線吸収剤(C)」について、含有量を特定して限定するものである。 そうすると、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、これらの訂正に関し、(A)及び(B)の限定については、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」という。)の実施例1等(【0062】の表-1)に、成分(A)が「t-1」、成分(B)が「i-1」である具体例が記載され、【0064】には、「t-1」が「5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物」であることが、【0063】には、「i-1」が、「2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンとの混合物」であることが記載されているし、「紫外線吸収剤(C)」の含有量の限定については、本件特許明細書の【0032】に、「0.1?1.5重量%、・・・より好ましくは0.4?1.2重量%」と記載されている。 そうすると、訂正事項1による訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項に記載の(B)について、訂正事項1において(B)についてしたと同様に、(B)が「2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」あるいは「2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」である場合には、必ず両者が含まれるように(B)を限定したものであるから、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するし、(1)で説示したと同様の理由により、この訂正については、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、請求項3を削除するものであるから、当該訂正事項による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4及び5について 訂正事項4及び5による訂正は、上記の訂正事項3による請求項の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)一群の請求項について 訂正前の請求項1?7について、請求項2?7は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。 そして、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。 3.小括 上記2.のとおり、各訂正事項に係る訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項に適合するとともに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ項番に従い「本件発明1」等といい、また、本件発明1、2及び4?7をまとめて、単に、「本件発明」ともいう場合がある。)。 「【請求項1】 (A)5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む混合物であるポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネートと、 2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、 ヘキサメチレンジイソシアネートと、 イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)一クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含み、 前記紫外線吸収剤(C)は、光学材料用重合性組成物100重量%中に0.4?1.5重量%含まれる、光学材料用重合性組成物。 【請求項2】 前記ポリイソシアネート(B)は、 2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、 ヘキサメチレンジイソシアネートと、 イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上である、 請求項1に記載の光学材料用重合性組成物。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 請求項1または2に記載の光学材料用重合性組成物を加熱硬化させた成形体。 【請求項5】 請求項4に記載の成形体からなる光学材料。 【請求項6】 請求項5に記載の光学材料からなるプラスチックレンズ。 【請求項7】 請求項1または2に記載の光学材料用重合性組成物を注型重合する工程を含む、光学材料の製造方法。」 なお、以下、請求項1の「(A)」を「(A)成分」ともいい、「5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン」、「4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン」、「4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン」のポリチオールを、それぞれ、「(A1)」?「(A3)」ともいう。 また、「(B)」を「(B)成分」ともいい、「m-キシリレンジイソシアネート」、「2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」、「2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」、「ヘキサメチレンジイソシアネート」、「イソホロンジイソシアネート」を、それぞれ、「(B1)」?「(B5)」ともいう。 さらに、「(C)」を「(C)成分」ともいう。 第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要 1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由 申立人が、特許異議申立書(以下「申立書」という。)で、本件訂正前の請求項1?7に係る発明に対して、申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は、次の(1)?(6)のとおりの取消理由により、取り消されるべきものであるというものであって、申立人は、証拠方法として、下記(7)の甲第1号証?甲第4号証(以下、単に、「甲1」等と表記する。)を提出した。 また、申立人は、平成30年3月22日提出の意見書に添付して、本件特許の優先時の周知技術を示すとして甲6?9を提出し、また、本件訂正後の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさないこと示すとして甲10を、用語の解説のために甲5を提出した。 (1)取消理由1(甲1に基づく新規性/進歩性) 請求項1?7に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1号第3号に該当し特許を受けることができないし、また、請求項1?7に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、請求項1?7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)取消理由2A(甲2に基づく新規性) 請求項1?7に係る発明は、甲2に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、請求項1?7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)取消理由2B(甲2を主引例とし、甲3を副引例とする進歩性) 請求項1?7に係る発明は、甲2を主たる引例とし、甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)取消理由3(甲4を主引例とし、甲3を副引例とする進歩性1) 請求項1?7に係る発明は、甲4を主たる引例とし、甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)取消理由4(甲3を主引例とし、甲4を副引例とする進歩性) 請求項1?7に係る発明は、甲3を主たる引例とし、甲4に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)取消理由5(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (7)証拠方法 甲1:特開2012-173704号公報 甲2:特開平11-271501号公報 甲3:特開平11-295502号公報 甲4:特開平7-252207号公報 甲5:化学大辞典第1版、1989年、東京化学同人編、432頁の「化合物」の項目 甲6:特開2008-255221号公報 甲7:国際公開第2007/129450号 甲8:特開平3-220167号公報 甲9:国際公開第2008/047626号 甲10:国際公開第2014/133111号 (なお、甲10は、本件特許の優先日当時公知ではなく、甲10に基づいて申立人が意見書で主張する特許法第36条第6項第1号に基づく取消理由は、申立書には記載されていなかった新たな取消理由であって採用できないので、甲10は、この決定においては使用しない。) 2.取消理由通知書に記載した取消理由 当審において平成29年12月1日付けの取消理由通知書で通知した取消理由は、1.の(1)、(3)?(6)に記載した取消理由1、2B、3?5と同旨である。 第5 当審の判断 以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1、2、4?7に係る発明についての本件特許を取り消すことはできない。 なお、請求項3に係る特許については、上述のとおり、当該請求項を削除する訂正を含む本件訂正が認容されるため、特許異議申立ての対象となる特許が存在しない。 第5-1 取消理由通知書に記載した取消理由(取消理由1、2B、3?5)についての判断 1.取消理由1(甲1に基づく新規性及び進歩性)についての判断 (1)甲1に記載された発明 甲1の実施例6、7及び比較例4(特に、【0099】、【0102】の表1、【0126】?【0128】)によれば、甲1には、それぞれ、以下の発明が記載されていると認められる。 「(A)ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)50部、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール 50部、 (B)2,5-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート) 100部、 (C)紫外線吸収剤である、2-(4-エトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(UV-04)1部及び2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(UV-05) 2.7部、 (D)特定波長吸収色素である、テトラアザポリフィリン系バナジウム錯体化合物の異性体混合物(吸収ピーク波長595nm)(C-01) 6.2×10^(-4)部 (E)硬化剤であるジブチルチンジクロライド0.1部、内部離型剤であるアルキル燐酸エステル(アルコールC8?C12)塩0.3部、香気性付与剤であるカプロン酸エチル0.2部、 からなる、偏光レンズ用重合性液状材料。」 (以下「甲1(1)発明」という。なお、原文で「4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1.11-ウンデカンジチオール」と記載されているが、これは、「4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール」の誤記と認める。 さらに、「(A)」?「(D)」の記号は、理解を容易にするために、便宜上合議体が付したものである。以下の甲1(2)発明、甲1(3)発明についても同様である。) 「(A)ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)50部、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール 50部、 (B)2,5-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート) 100部、 (C)紫外線吸収剤である、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(UV-02)3部及び2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(UV-05 )1.5部、 (D)特定波長吸収色素である、テトラアザポリフィリン系バナジウム錯体化合物の異性体混合物(吸収ピーク波長595nm)(C-01)1.2×10^(-4)部及びピロメテン系化合物(吸収ピーク波長497nm)(C-06) 8.0×10^(-4)部 (E)硬化剤であるジブチルチンジクロライド 0.1部、内部離型剤であるアルキル燐酸エステル(アルコールC8?C12)塩 0.3部、香気性付与剤であるカプロン酸エチル 0.2部からなる偏光レンズ用重合性液状材料。」 (以下「甲1(2)発明」という。) 「(A)ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)50部、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール 50部、 (B)2,5-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート) 100部、 (C)紫外線吸収剤である、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(UV-05) 0.2部、 (E)硬化剤であるジブチルチンジクロライド 0.1部、内部離型剤であるアルキル燐酸エステル(アルコールC8?C12)塩 0.3部、香気性付与剤であるカプロン酸エチル 0.2部、からなる偏光レンズ用重合性液状材料。」 (以下「甲1(3)発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 甲1(1)発明?甲1(3)発明における、(A)成分の「4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール」、(B)成分の「2,5-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート)」、(C)成分の紫外線吸収剤である「2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1ジメチルエチル)-4-メチルフェノール」は、それぞれ、本件発明1の(A)成分である「ポリチオール」であって(A2)である「4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン」、(B)成分である「ポリイソシアネート」であって(B2)である「2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン」、(C)成分の紫外線吸収剤である「2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾール」と同一の化学構造を有する化合物であり、それぞれに、相当する。 そして、甲1(1)発明?甲1(3)発明における、(A)成分は(A2)とペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)との混合物である。 また、甲1(1)発明?甲1(3)発明の「偏光レンズ用重合性液状材料」は、本件発明1の「光学材料用重合性組成物」に相当する。 さらに、本件発明1は、「(A)・・・を含む混合物であるポリチオールと、(B)・・・からなる群から選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネートと、(C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、を含み・・・光学材料用重合性組成物。」(下線は、合議体が付した。)と特定されており、(A)?(C)成分を含んでおれば足りるもの(つまり、他の成分を包含し得るもの)として特定されているし、(C)の「2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤」についても、本件発明1の発明特定事項の記載からは、本件発明1の組成物に含まれる紫外線吸収剤が、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールのみからなる組成物を意味するとまでは理解できず、むしろ、本件特許明細書の【0031】等の記載によれば、組成物中に、他の紫外線吸収剤を含み得るものと認められる。 (C)成分の含有量に関し、(C)成分は、光学材料用重合性組成物100重量%中に、甲1(1)発明では、1.3(=2.7÷(50+50+100+1+2.7+6.2×10^(-4)+0.1+0.3+0.2)×100)重量%含まれているし、甲1(2)発明では、0.07(=1.5÷(50+50+100+3+1.5+8.0×10^(-4)+0.1+0.3+0.2)×100)重量%、甲1(3)発明では、0.01(=0.2÷(50+50+100+0.2+0.1+0.3+0.2)×100)重量%含まれており、甲1(1)発明では、本件発明1の「0.4?1.5重量%」を満足する。 ここで、本件発明1と甲1(1)発明?甲1(3)発明のそれぞれを対比する。 本件発明1と甲1(1)発明とは、 「(A)混合物であるポリチオール、 (B)ポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含み、 前記紫外線吸収剤(C)は、光学材料用重合性組成物100重量%中に0.4?1.5重量%含まれる、光学材料用重合性組成物。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> (A)成分の混合物であるポリチオールについて、本件発明1では、「5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む」こと、つまり、(A1)?(A3)を含むと特定されているのに対して、甲1(1)発明では、(A1)?(A3)のうち(A2)は含むが、(A1)及び(A3)は含んでいない点。 <相違点2> 成分(B)のポリイソシアネートについて、本件発明1では、「m-キシリレンジイソシアネートと、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、ヘキサメチレンジイソシアネートと、イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上」、つまり、(B1)と、(B2)及び(B3)と、(B4)と、(B5)と、からなる群から選択される少なくとも一種以上であると特定されているのに対し、甲1(1)発明では、(B2)のみを含み、(B3)は含まれていない点。 また、本件発明1と甲1(2)発明?甲1(3)発明とは、 「(A)ポリチオールと、 (B)ポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含む、光学材料用重合性組成物。」 で、一致し、上記の相違点1、2、及び、以下の相違点3で相違する。 <相違点3> 紫外線吸収剤(C)の光学材料用重合性組成物100重量%中における含有量について、本件発明1では、「0.4?1.5重量%」と特定されているのに対して、甲1(2)発明では、「0.07重量%」、甲1(3)発明では、「0.01重量%」と特定されている点。 イ 新規性についての判断 以上のとおり、本件発明1は、少なくとも上記の相違点1及び2で甲1(1)発明?甲1(3)発明と相違しており、これらは、実質的な相違点であるから、本件発明1が甲1に記載された発明(甲1(1)発明?甲1(3)発明)であるとはいえない。 ウ 進歩性についての判断 相違点1、2について検討する。 甲1には、相違点1に係る成分(A)のポリチオール及び相違点2に係る成分(B)のポリイソシアネートに関し、【0067】?【0069】に、偏光レンズ用重合性液状材料であるチオウレタン系樹脂(ポリチオウレタン)は、ポリイソシアナト成分と、ポリチオール成分とからなる公知のものを好適に使用して製造でき、イソシアナト成分としては、脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・チオカルボニル(チオケトン)誘導体を母体化合物とするものを挙げることができ、ポリオール成分としては、脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・ポリチオエーテルを母体化合物とするものを挙げることができることが記載され、【0071】?【0072】には、具体例も記載されているが、本件発明1の相違点1に係るポリチオールである(A1)や(A3)、本件発明1の相違点2に係るポリイソシアネートである(B1)、(B3)?(B5)の記載はないし、ましてや、(B2)と(B3)を併用することを示唆する記載はない。 そうすると、甲1の記載からは、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成は導き出せない。 これに対し、特許権者は、平成30年3月22日付けの意見書の[1](4)及び[3](4)において、ポリチオールについては、特許異議申立時に添付していた甲2の実施例2(【0066】)、甲4の実施例13(【0129】)等の記載、及び、意見書に添付した甲6の実施例9(【0113】)等、甲7の実施例5(【0050】)等の記載を指摘し、また、ポリイソシアネートについては、甲6の実施例8(【0112】)、甲8の実施例1(7頁)等、甲9の実施例5(【0060】)等の記載を指摘して、相違点1に係るポリチオール及び相違点2に係るポリイソシアネートは、通常、異性体の混合物が用いられるから、相違点1(ポリチオールを(A1)?(A3)の混合物とする点)及び相違点2(ポリイソシアネートを(B2)と(B3)の混合物とする点)は、周知技術にすぎない旨主張する。 そして、申立人の指摘する各甲号証の記載によれば、ポリチオール化合物である(A2)が、2-メルカプトエタノールとエピクロルヒドリンを反応させて得られる4官能化合物を中間体とした工程を経て得られる(A1)?(A3)の混合物からの単離によっても製造できること(甲4実施例1)、(B2)と(B3)の混合物が、対応する混合アミンから、塩酸塩化、ホスゲン化工程を経て製造できること(甲8の特許請求の範囲及び実施例1)は理解できるが、申立人の提出した他の証拠を参酌しても、(A2)や(B2)が、当該方法でしか製造できず、(A2)や(B2)を混合物として使用することが通常であるとまではいえないし、また、甲1では、(A2)や(B2)を単独で使用していることからも、両成分を混合物とすることが通常であるといえないことは明らかである。 仮に、(A2)や(B2)を混合物として使用することが周知であったとしても、甲1の請求項1の記載からも明らかなとおり、甲1に記載された発明(甲1(1)発明?甲1(3)発明)は、「薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、波長域550nm超605nm以下および波長域450?550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有する、ことを特徴とする防眩光学要素。」についてのものであって、甲1に記載された発明は、紫外線吸収剤と特定波長吸収色素を所定の配合量で配合することに特徴を有しており、甲1に記載された発明において、ポリチオールやポリイソシアネートといったレンズ材料(重合性液状材料)を積極的に変更する動機付けはない。また、甲1に記載された発明は、上記特徴を備えることで青色光を含む有害光をカットするものであって(【0033】及び【0044】)、有害光を、レンズ材料を変更することでカットするものではない。一方、本件発明1は、レンズ材料を従来のものから積極的に変更し、波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する樹脂または光学材料とすることで、有害光の目への影響が軽減され眼精疲労やストレスなどの障害を抑制できるものとするものであり(【0012】等)、両発明は、青色光の透過を効率的に抑制するための手法が異なる。 そうすると、(A1)?(A3)の混合物や(B2)及び(B3)の混合物が周知であったとしても、青色光を含む有害光の透過を抑制する目的で、甲1に記載された発明(甲1(1)発明?甲1(3)発明)を、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることが当業者にとって容易であるとはいえないし、その結果奏される効果も、甲1及び申立人が周知技術として提出した各証拠からは予測できないものである。 以上のとおりであるから、(相違点3について判断するまでもなく、)本件発明1について、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、4?7について 本件発明2、4?7はいずれも、本件発明1を(直接的あるいは間接的に)引用するものであって、本件発明1における相違点1及び2に係る構成(さらには相違点3に係る構成)をその発明特定事項として備えるものである。 そうすると、本件発明2、4?7は、(2)で記載した本件発明1と同様に判断され、本件発明2、4?7は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1、2、4?7に係る本件特許について、取消理由1によって取り消すことはできない。 2.取消理由2(甲2を主引例とし、甲3を副引例とする進歩性)についての判断 (1)甲2に記載された発明 甲2の特許請求の範囲(請求項1?4)の記載によれば、甲2には、「分子量が360以下のベンゾトリアゾール系化合物である紫外線吸収剤を、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物の混合物を主成分とする原料モノマー100重量部に対して0.7?5重量部の割合で含有する組成物であって、重合されて紫外線吸収性プラスチックレンズとされる組成物」の発明が記載されているといえるところ、この具体的な態様に相当する実施例2(【0066】?【0070】)によれば、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。 「下記構造式(A)、(B)、(C)で表される3種の4官能メルカプト化合物(A成分、B成分、C成分の混合比はモル比でA/B/C=85/5/10)を100g ![]() ポリイソシアネート化合物としてm-キシリレンジイソシアネートを103g、 紫外線吸収剤として2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールを3.45g、 内部離型剤0.15g、 重合触媒としてジブチルスズジクロライドを0.06g、 からなる、昇温重合されてプラスチックレンズを製造するための組成物」(以下「甲2発明」という。) (2)本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「構造式(A)、(B)、(C)で表される3種の4官能メルカプト化合物」は、本件発明1の(A1)?(A3)の混合物である「(A)成分」に相当するし、し、甲2発明の「昇温重合されてプラスチックレンズを製造するための組成物」は、本件発明1の「光学材料用重合性組成物」に相当する。また、本件発明1は、1.(2)のアで説示したとおり、(A)?(C)成分以外の成分を包含し得るものとして特定されているものと認められる。 さらに、甲2発明では、紫外線吸収剤は、組成物206.66g(100g+103g+3.45g+0.15g+0.06g)中に3.45g含まれるから、これは、組成物100重量%に対し、1.7重量%(=3.45g÷206.66g×100(%))含まれている。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 <一致点> 「(A)5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む混合物であるポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネートであるポリイソシアネートと、 (C)紫外線吸収剤と、 を含む、光学材料用重合性組成物。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点4> 光学材料用重合性組成物に含まれる紫外線吸収剤が、本件発明1では「2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾール」であるのに対して、甲2発明では、「2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」である点。 <相違点3’> 紫外線吸収剤(C)の光学材料用重合性組成物100重量%中における含有量について、本件発明1では、「0.4?1.5重量%」と特定されているのに対して、甲2発明では、「1.6重量%」である点。 上記相違点について検討する。 甲2発明で使用されている「2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」は、甲2の特許請求の範囲に記載の「分子量が360以下のベンゾトリアゾール系化合物である紫外線吸収剤」の具体例に該当するものであるところ、甲2の【0049】には、多数列記されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の例として、甲2発明で使用されている「2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」以外に、相違点4に係る本件発明1の紫外線吸収剤である「2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾール」に相当する、「2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール(分子量316)」も記載されている。 しかしながら、本件発明1は、「(眼の疲れや痛みを感じさせる有害光である)波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する光学材料を提供すること」を目的とするものであって(本件特許明細書の【0009】及び【0012】)、かかる目的のために、特定の紫外線吸収剤である成分(C)を選択するものであるところ、甲2には、かかる目的のために特定の成分(C)を選択することは記載されていない。 また、甲2には、【0049】及び実施例3に、分子量が360以下のベンゾトリアゾール系化合物である紫外線吸収剤として、本件発明1の成分(C)以外に、本件特許明細書の比較例4で採用されている紫外線吸収剤である商品名バイオソーブ583として記載される化合物に相当する、「2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(分子量323)」も記載されているところ、本件特許明細書によれば、比較例4等では、「波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する樹脂または光学材料を提供することができ、有害光の目への影響が軽減され眼精疲労やストレスなどの障害を抑制することができる」(本件特許明細書の【0012】)という効果は奏されない。 一方、本件特許明細書の実施例1?4の記載によれば、相違点4及び相違点3’に係る構成を備えた本件発明1では、波長420nm青色光の透過率が低く、有害な青色光の透過が効果的に抑制される(、そして、害光の目への影響が軽減され眼精疲労やストレスなどの障害を効果的に抑制することができる)という効果が奏されることが理解でき、この効果は、甲2の記載からは予測し得ない格別なものである。 また、申立人が相違点4に関連して提出した、プラスチックレンズ用の組成物に本件発明1の(C)成分に相当する「2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール」を使用した例(実施例5)が記載されている甲3の記載からも、上記の効果は予測し得ない。 したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明(甲2発明)に、甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、4?7について 本件発明2、4?7はいずれも、本件発明1を(直接的あるいは間接的に)引用するものであって、本件発明1における相違点4及び3’に係る構成をその発明特定事項として備えるものである。 そうすると、本件発明2、4?7は、(2)で記載した本件発明1と同様に判断され、本件発明2、4?7は、甲2に記載された発明に甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1、2、4?7に係る本件特許について、取消理由1によって取り消すことはできない。 3.取消理由3(甲4を主引例とし、甲3を副引例とする進歩性)についての判断 (1)甲4に記載された発明 甲4の実施例13(【0122】、【0123】及び【0129】)によれば、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。 「下記の化学構造の異性体混合物ポリチオールFSH4を36.7gと、 ![]() m-キシリレンジイソシアナート(XDi)を37.6gと、 からなる、含硫ウレタン系プラスチックレンズ用組成物。」 (以下「甲4発明」という。) (2)本件発明1について 甲4発明の特定の化学構造の「異性体混合物ポリチオールFSH4」は、本件発明1の(A1)?(A3)の混合物である「(A)成分」に相当するし、甲4発明の「含硫ウレタン系プラスチックレンズ用組成物」は、本件発明1の「光学材料用重合性組成物」に相当する。また、本件発明1は、1.(2)のアで説示したとおり、(A)?(C)成分以外の成分を包含し得るものとして特定されているものと認められる。 そうすると、本件発明1と甲4発明とは、 <一致点> 「(A)5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む混合物であるポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネートであるポリイソシアネートと、 を含む、光学材料用重合性組成物。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 本件発明1では、光学材料用重合性組成物に、「2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤(C)」が「光学材料用重合性組成物100重量%中に0.4?1.5重量%」含まれるのに対し、甲4発明では紫外線吸収剤は含まれていない点。 相違点5について検討する。 2.(2)で記載したとおり、本件発明1は、「(眼の疲れや痛みを感じさせる有害光である)波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する光学材料を提供すること」(本件特許明細書の【0012】)を目的として、特定の紫外線吸収剤である成分(C)を選択して配合するものである。一方、甲4には、【0047】に、プラスチックレンズ用の組成物に、紫外線吸収剤を添加しても良い旨の記載があるのみで、上記の目的を達成するために紫外線吸収剤を配合することも、紫外線吸収剤として、特定の成分(C)を選択して特定量配合することも記載されていない。 そして、2.(2)で記載したとおり、本件特許明細書によれば、相違点5に係る構成を備えた本件発明1では、波長420nm青色光の透過率が低く、有害な青色光の透過が効果的に抑制される(、そして、害光の目への影響が軽減され眼精疲労やストレスなどの障害を効果的に抑制することができる)という効果が奏されることが理解でき、この効果は、甲4の記載からは予測し得ない格別のものである。 また、甲3の記載を検討しても、同様である。 したがって、本件発明1は、甲4に記載された発明(甲4発明)に甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 さらに、甲4において、ポリチオールとして、FSH4を使用し、イソシアナート類としてXDi、NBDi、HDi及びIPDi(それぞれの化学構造は、甲4の【0136】参照。)を使用した他の実施例14-16、33、38-40、43-45及び47を引用発明とした場合についても、本件発明1と甲4に記載の発明は、少なくとも上記の相違点5で相違しており、上記で相違点5についての判断で示したと同様の理由によって、本件発明1は、甲4に記載の発明に甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、4?7について 本件発明2、4?7はいずれも、本件発明1を(直接的あるいは間接的に)引用するものであって、本件発明1における相違点5に係る構成をその発明特定事項として備えるものである。 そうすると、本件発明2、4?7は、(2)で記載した本件発明1と同様に判断され、本件発明2、4?7は、甲4に記載された発明に甲3に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1、2、4?7に係る本件特許について、取消理由3によって取り消すことはできない。 4.取消理由4(甲3を主引例とし、甲4を副引例とする進歩性)についての判断 (1)甲3に記載された発明 甲3には、特許請求の範囲(特に、請求項1?6)の記載によれば、「メルカプト基含有化合物及びイソシアネート基含有化合物を含む、主としてウレタン樹脂材料を含む樹脂材料と、クロロホルム溶液中における極大吸収波長が345nm以上である、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールからなる群から選択された少なくとも1種である紫外線吸収剤を樹脂材料100wt%に対する添加量が0.02?2.0wt%であるように含有するプラスチックレンズ用組成物」の発明が記載されているといえるところ、この具体的な態様に相当する実施例5(【0039】?【0041】及び【0045】)によれば、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を56.5wt%と、m-キシリレンジイソシアネートを43.5wt%とからなる樹脂材料と、 2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールを0.01wt%及び2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール0.01wt%からなる紫外線吸収剤と、 ブルーイング剤0.6ppm、 からなる、プラスチックレンズ用組成物。」(以下「甲3発明」という。) (2)本件発明1について 甲3発明の「ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)」は、「ポリチオール」である。また、甲3発明の「2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール」は、本件発明1の成分(C)に相当するし、甲3発明の「プラスチックレンズ用組成物」は、熱重合されてレンズ成形品とされるものである(甲3の【0040】)から、本件発明1の「光学材料用重合性組成物」に相当する。さらに、本件発明1は、1.(2)のアで説示したとおり、(A)?(C)成分以外の成分を包含し得るものとして特定されている。 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、 「(A)ポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネートであるポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含む、光学材料用重合性組成物。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点1’> 本件発明1では、光学材料用重合性組成物に、ポリチオールとして成分(A)のポリチオール混合物、つまり、「5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む混合物」が含まれることが特定されているのに対し、甲3発明では、ポリチオールとして当該成分(A)のポリチオール混合物は含まれておらず、「ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)」が含まれている点。 <相違点3’> 紫外線吸収剤(C)の光学材料用重合性組成物100重量%中における含有量について、本件発明1では、「0.4?1.5重量%」と特定されているのに対して、甲3発明では、「0.01重量%」と特定されている点。 まず、相違点1’について検討する。 甲3には、相違点1’に係る成分(A)のポリチオール混合物に関し、【0010】に、「前記樹脂材料はメルカプト基含有化合物を含むものである」と記載され、【0011】に記載の2種の具体例が記載されるのみで、本件発明1の成分(A)にあたるポリチオール混合物を示唆する記載はないから、甲3の記載のみからは、相違点1’に係る本件発明1の構成を導き出せない。 相違点1’に関し、申立人は、甲3と同様にメルカプト基含有化合物及びイソシアネート基含有化合物を含む組成物からのウレタン系プラスチックレンズに関する技術を開示する甲4に、プラスチックレンズ用の組成物におけるポリチオール成分として、本件発明1の成分(A)のポリチオール混合物に相当する「ポリチオールFSH4」を使用した例が記載されている(実施例13等)から、甲3発明において、樹脂材料を構成するポリチオールとして、甲4に記載のFSH4を採用することで、相違点1’に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることである旨主張する(申立書の[4](4-3)(d))。 そこで、検討すると、2.(2)で記載したとおり、本件発明1は、「(眼の疲れや痛みを感じさせる有害光である)波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する光学材料を提供すること」(本件特許明細書の【0009】及び【0012】)を目的とし、本件特許明細書の【0010】に「ポリチオールA(合議体注;これは、本件発明1の成分(A)のポリチオール混合物あるいは、該混合物を構成する(A1)?(A3)単独または2種以上の混合物である。)とポリイソシアネートと特定の紫外線吸収剤を含んでなる重合性組成物から得られる成形体が、ポリチオールB(合議体注;4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン)を用いて得られる成形体と比較して、波長420nm程度の青色光の透過を抑制することを見出し」て完成されたと記載されるとおり、本件発明1において、成分(A)のポリチオール混合物は、波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する目的で配合されている。 一方、甲3に記載された発明(甲3発明)は、「プラスチックレンズに紫外線吸収能を付与しつつ紫外線吸収剤自体の色等に起因するレンズの黄色化を抑制することができる」ものであり(【0019】)、主としてウレタン樹脂材料を含む樹脂材料を用いることにより、「特に光学用レンズとしての用途において、レンズ製品に要求される透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性が良好であり、かつ表面硬度、機械的強度に優れ、高屈折率を備えた有用なプラスチックレンズとすることができ」(【0020】)、「主としてウレタン樹脂の原料となるイソシアネート基含有化合物とメルカプト基含有化合物とを含むもの」であることで、「プラスチックレンズの屈折率をより向上させることができる」(【0021】)ものであるが、甲3には、波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する目的でポリチオールを配合することは記載されていない。 また、甲4は、新規なポリチオール(「ポリチオールFSH4」はその具体例)を用いた含硫ウレタン系樹脂に関するものであり(【0001】)、甲4には、当該新規のポリチオールを用いた含硫ウレタン系樹脂とすることで、「極めて低分散、高屈折率、耐熱性に優れ、かつ、無色透明で光学歪が無く、軽量で、耐候性、染色性、耐衝撃性、加工性等に優れ」るものとすることは記載されている(【0049】)が、甲4にも、波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する目的でポリチオールを配合することは記載されていない。 さらに、相違点3’に関し、本件発明1において、紫外線吸収剤(C)の含有量を、光学材料用重合性組成物100重量%中に、0.4?1.5重量とするのは、「効率的に、波長420nm程度の青色光の透過を抑制することができる」ようにするためである(本件特許明細書の【0032】)ところ、甲3には、紫外線吸収剤の添加量について「樹脂材料100重量部に対して0.02?2.0wt%であることが好ましく」との記載はあるが、当該範囲とするのは「0.02wt%未満であると十分な紫外線吸収効果が得られず、一方、2.0wt%を超えるとレンズの黄色化や屈折率低下等の光学的特性の変化を生じ、さらにレンズの機械的強度が低下するおそれがある」ため(【0028】)とされており、甲3には、波長420nm程度の青色光の透過を抑制する目的で紫外線吸収剤(C)の含有量を調製することは記載されていないし、甲4についても同様である。 一方、2.(2)で記載したとおり、本件特許明細書によれば、相違点1’及び相違点3’に係る構成を備えた本件発明1では、波長420nm青色光の透過率が低く、有害な青色光の透過が効果的に抑制される(、そして、害光の目への影響が軽減され眼精疲労やストレスなどの障害を効果的に抑制することができる)という効果が奏されることが理解できる。そして、この効果は、甲3及び甲4の記載からは予測し得ない格別のものである。 したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、4?7について 本件発明2、4?7はいずれも、本件発明1を(直接的あるいは間接的に)引用するものであって、本件発明1における相違点1’及び相違点3’に係る構成をその発明特定事項として備えるものである。 そうすると、本件発明2、4?7は、(2)で記載した本件発明1と同様に判断され、本件発明2、4?7は、甲3に記載された発明に甲4に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1、2、4?7に係る本件特許について、取消理由4によって取り消すことはできない。 5.取消理由5(サポート要件)についての判断 (1)取消理由5の概略 訂正前の請求項1?7に係る発明に対して通知された取消理由5は、具体的には、概略以下のとおりである。 本件特許明細書の【0002】?【0012】、特に、【0003】、【0004】、【0009】、【0012】の記載によれば、訂正前の請求項1?7(訂正後の本件発明1、2、3?7)に係る発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「(眼の疲れや痛みを感じさせる有害光である)波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制する光学材料を提供すること」であると認められる。 一方、本件発明の課題の解決手段に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0032】には、「紫外線吸収剤(C)は、光学材料用重合性組成物100重量%中に、0.1?1.5重量%、好ましくは0.3?1.3重量%、より好ましくは0.4?1.2重量%含むことができる。前記範囲内で効率的に、波長420nm程度の青色光の透過を抑制することができる。」と記載され、実施例1?4では、紫外線吸収剤(C)を光学材料用重合性組成物100重量%中に、それぞれ、換算で、0.99重量%、0.79重量%、0.50重量%、0.79重量%含有する光学材料用樹脂組成物からの成形体が、波長420nm程度の青色光の透過を効率的に抑制することができることが具体的に示されている(【0052】?【0065】の特に【0062】の表1及び【0065】)。 ここで、本件特許の出願時、光学材料用の樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量が少なすぎる場合には、十分な紫外線吸収能力が発揮できず、レンズ等の光学材料成形体とした場合に、所望の波長の紫外線を十分吸収することができないこと、及び、多すぎる場合には、紫外線吸収剤の析出やレンズの黄色化や強度低下等の問題が生じることが一般に知られていた(例えば、甲1の【0043】及び【0044】、甲2の【0013】、【0047】、【0052】及び図1、甲3の【0028】)。 そして、かかる本件特許の出願時の一般的な認識(技術常識)を考慮すれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、光学材料用重合性組成物100重量%中に、実施例で効果が確認されている範囲に近似した0.4?1.5重量%程度含む組成物の場合に、本件発明の課題を解決できることは理解できるが、この範囲を外れる含有量の場合に、本件発明の課題を解決できることまでは理解できない。 そうすると、紫外線吸収剤(C)をこの下限値(0.4重量%)及び上限値(1.5重量%)を超えて含有することを特定する請求項1?7に係る発明には、本件特許の出願時の技術常識を考慮して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明の課題を解決できることが当業者に理解できると認められる範囲を超えた発明が包含されている。 よって、請求項1?7に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 (2)訂正後の本件発明についての判断 訂正後の本件発明1、2、4?7においては、光学材料用重合性組成物100重量%中に含まれる紫外線吸収剤(C)の含有量が、「0.4?1.5重量%」に限定された。 そして、(1)で指摘した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、実施例1?4の記載によれば、当業者は、光学材料用重合性組成物100重量%中に含まれる紫外線吸収剤(C)の含有量が「0.4?1.5重量%」である、本件発明1、2、4?7の構成を備えることで、本件発明の課題を解決できることを認識できるといえる。 よって、本件発明1、2、4?7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1、2、4?7に係る本件特許について、取消理由5によって取り消すことはできない。 第5-2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由は、第4の1.に記載した取消理由2Aである。 本件発明1、2、4?7と、甲2に記載された発明とは、少なくとも、第5-1の2.(2)で記載したとおりの相違点4及び3’で相違しており、これらの相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1、2、4?7が甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 よって、申立人が主張する取消理由2Aには理由がなく、取消理由2Aによっては、本件発明1、2、4?7についての特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2、4?7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1、2、4?7に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件訂正により本件特許の請求項3が削除された結果、同請求項3に係る発明についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項3に係る発明についての本件特許異議の申立ては、決定をもって却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを含む混合物であるポリチオールと、 (B)m-キシリレンジイソシアネートと、 2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、 ヘキサメチレンジイソシアネートと、 イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上のポリイソシアネートと、 (C)2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-クロロベンゾトリアゾールからなる紫外線吸収剤と、 を含み、 前記紫外線吸収剤(C)は、光学材料用重合性組成物100重量%中に0.4?1.5重量%含まれる、光学材料用重合性組成物。 【請求項2】 前記ポリイソシアネート(B)は、 2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと、 ヘキサメチレンジイソシアネートと、 イソホロンジイソシアネートと、からなる群から選択される少なくとも一種以上である、請求項1に記載の光学材料用重合性組成物。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 請求項1または2に記載の光学材料用重合性組成物を加熱硬化させた成形体。 【請求項5】 請求項4に記載の成形体からなる光学材料。 【請求項6】 請求項5に記載の光学材料からなるプラスチックレンズ。 【請求項7】 請求項1または2に記載の光学材料用重合性組成物を注型重合する工程を含む、光学材料の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-07-30 |
出願番号 | 特願2015-552544(P2015-552544) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L) P 1 651・ 537- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
岡崎 美穂 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 井上 猛 |
登録日 | 2017-03-10 |
登録番号 | 特許第6105752号(P6105752) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | 光学材料用重合性組成物 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |