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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H05K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H05K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H05K |
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管理番号 | 1343895 |
異議申立番号 | 異議2017-700648 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-23 |
確定日 | 2018-07-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6051115号発明「放熱部材および電子装置ならびに画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6051115号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6051115号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6051115号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成25年6月15日に特許出願され、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、その特許に対して、平成29年6月23日付けで特許異議申立人 関 豊美子により特許異議の申立てがされた。そして、平成29年12月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月14日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、特許異議申立人に対して平成30年3月2日付けで訂正請求があった旨の通知をしたが、特許異議申立人から何ら応答がなされなかったものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年2月14日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。 (1)訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に「うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上であり」と記載されているのを、「うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上7mm以下であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する)。 2.訂正要件についての判断 (1)一群の請求項要件 訂正前の請求項1ないし5は、請求項2ないし5が、訂正の対象である請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、これらの請求項は訂正前において一群の請求項に該当する。本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法120条の5第4項に規定する要件を満たす。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項は、訂正前の請求項1に係る特許発明の発明特定事項である「うねり曲線要素の平均長さWSm」を、「3mm以上」に加え「7mm以下」として上限を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項の「うねり曲線要素の平均長さWSm」が「7mm以下」であることに関して、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」という。)の発明の詳細な説明の段落【0026】には、「本実施形態の放熱部材1において、うねり曲線要素の平均長さWSmの上限を設けていないが、7mm以下とすることが好適である。・・・」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 なお、請求項1ないし5は、特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は準用されない。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立について 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 セラミック焼結体からなり、一方の主面に接合層を介して電子部品が搭載される第1の領域を有する放熱部材であって、前記第1の領域におけるうねり曲線が、うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上7mm以下であり、うねり曲線要素の高さの最大値が15μm以上60μm以下であることを特徴とする放熱部材。 【請求項2】 前記主面が、前記第1の領域と該第1の領域以外の第2の領域とを有し、前記主面におけるうねり曲線において、前記第2の領域の幅における60%以上が、前記主面におけるうねり曲線の平均線よりも山側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の放熱部材。 【請求項3】 前記セラミック焼結体の他方の面にフィンを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放熱部材。 【請求項4】 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の放熱部材に電子部品が搭載されてなることを特徴とする電子装置。 【請求項5】 請求項4に記載の電子装置を備えてなることを特徴とする画像表示装置。」 2.取消理由通知に記載した取消理由について ア.取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし5に係る発明についての特許に対して平成29年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (ア)理由A(特許法第29条第2項) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明についての特許は取り消すべきものである。 記 引用文献1:特開2012-222339号公報(甲第3号証) 引用文献2:特開2009-215142号公報(甲第1号証) 引用文献3:特開2006-245437号公報(甲第2号証) (イ)理由B(特許法第36条第6項第1号) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ・請求項1ないし5について 本件特許の請求項1において、「第1の領域におけるうねり曲線が、うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上であり」と記載されているが、うねり曲線要素の平均長さWSmの上限は規定されていない。そうすると、本件特許の請求項1に係る発明は、1つのうねり曲線が主面の第1の領域の全体に亘って形成された場合、すなわち典型的な反りを有する基板の主面(引用文献2及び引用文献3を参照)をも含むものである。 しかしながら、発明の詳細な説明(特に、段落【0026】,【0055】【表1】)には、うねり曲線要素の平均長さWSmが7mmまでの試料しか記載がなく、7mmを超えた場合にも「電子部品との密着強度を高めることができるとともに放熱特性に優れた放熱部材を提供する」との本件特許発明の目的を達成できるか不明である。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえる。 請求項1に従属する請求項2ないし5に係る発明についても同様である。 イ.理由A(特許法第29条第2項)について (ア)引用文献の記載事項 a.引用文献1 引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同様。) (a)「【0001】 本発明はセラミック放熱モジュール及びセラミック放熱モジュールの製造方法に関し、特に、酸化アルミニウムを主要成分としたセラミック放熱モジュール及びセラミック放熱モジュールの製造方法に関する。」 (b)「【0017】 図1に示すように、本発明のセラミック放熱モジュール1は、セラミック放熱モジュール本体10を含み、セラミック放熱モジュール本体10は複数の放熱フィン101を含み、そのうち放熱フィン101は放熱効果を高めるために用いられる。セラミック放熱モジュール1の外観形状は図1に示すものに限定されず、本発明のセラミック放熱モジュール1は発熱素子の寸法に基づいて異なる形状(例えば円形や長方形)としてもよく、放熱フィン101の数及び外観形状に変化があってもよいことに注意が必要である。」 (c)「【0021】 図4に示すように、本発明のセラミック放熱モジュール1は発熱素子20の温度を下げるために用いることができ、本発明の一実施例において、発熱素子20はディスプレイ装置2内の信号回路板上の駆動回路チップであるが、本発明はこのチップに限定されない。セラミック放熱モジュール1と発熱素子20の間には熱伝導性テープ30が貼付され、セラミック放熱モジュール1を発熱素子20上に貼付することができる。本発明の一実施例において、ディスプレイ装置2は液晶テレビであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、ディスプレイ装置2はプラズマテレビやデスクトップ型液晶モニタ等としてもよい。」 (d)「【0022】 続いて図5の本発明に基づいたセラミック放熱モジュールの製造方法の一実施例の工程フロー図を参照する。 【0023】 図5に示すように、本発明はまず、工程S71:酸化アルミニウム粉末と二酸化ケイ素粉末を混合してペーストを形成する。 【0024】 工程S71では、酸化アルミニウム粉末、二酸化ケイ素粉末、粘剤等を均一に混合し、ペーストを形成する。 【0025】 続いて工程S72:ペーストを金型中に注入し、第1成形プロセスを行い、ペーストに成形体を形成させる。 【0026】 工程S72で、第1成形プロセスはペーストを高圧押出成型の方式で金型中に注入し、ドライプレスまたは等方圧プレス、ホットプレスの方式でペーストに金型中で成形体を形成させる。 【0027】 続いて工程S73:成形体を取り出し、第2成形プロセスを行う。 【0028】 工程S73では、成形体を金型から取り出し、第2成形プロセスが成形体上に複数の片状構造(即ち放熱フィンの予備成形)を形成するか、または成形体を発熱素子に対応する適切な寸法にカットする工程を含む。第2成形プロセスは本発明の必要な工程ではなく、且つ第2成形プロセスは成形体上に複数の片状構造を形成することに限定されないことに注意が必要である。 【0029】 続いて工程S74:成形体を自然乾燥させる。 【0030】 続いて工程S75:成形体に対して焼結プロセスを行い、セラミック放熱モジュールを形成する。 【0031】 工程S75では、成形体に対して焼結プロセスを行い、成形体を緻密化し、図1に示すような、セラミック放熱モジュール1を形成する。 【0032】 最後に工程S76:セラミック放熱モジュールの底部を研磨する。 【0033】 工程S76では、セラミック放熱モジュールの底部を研磨し、後続での熱伝導性テープの貼付に有利にする。」 (e)「 」 (f)「 」 ・上記(d)には、セラミック放熱モジュール1が焼結プロセスで形成されることが、記載されており、引用文献1には、焼結されたセラミック放熱モジュール1が記載されているといえる。 ・図4によれば、放熱フィン101が設けられる面とは反対の面に、熱伝導性テープ30が貼付されていることが読み取れる。 上記記載事項(特に、下線部)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。 「セラミック放熱モジュール本体10と、セラミック放熱モジュール本体10に設けられた複数の放熱フィン101を含む 焼結されたセラミック放熱モジュール1であって、 放熱フィン101が設けられる面とは反対の面に、熱伝導性テープ30を貼付することで駆動回路チップである発熱素子20が貼付された、セラミック放熱モジュール1。」 b.引用文献2 引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。 (a)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかし、上記従来の技術を窒化珪素基板に適用する場合、窒化珪素基板の反りを適性に調整することができないという問題があった。一般に、窒化珪素基板は反りが大きくなると、金属回路板及び金属放熱板との密着性が低下し、窒化珪素基板と金属回路板及び金属放熱板との接合温度(約800℃)からの冷却過程またはパワー半導体モジュールを稼働させるときの加熱冷却サイクルにおいて発生する熱応力により、窒化珪素基板から金属回路板及び金属放熱板が剥離しやすくなる。このため、反りを適性に調整する必要があるが、上記従来の技術においては、窒化珪素基板の反りを調整する点について開示が無い。従って、上述した通り、窒化珪素基板の反りの値を適性に調整することができないという問題があった。 【0007】 本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、高強度で反りが適性に調整された窒化珪素基板及びその製造方法並びにそれを使用した窒化珪素回路基板及び半導体モジュールを提供することにある。」 (b)「【0018】 本発明の一実施形態は、上述したパワー半導体モジュール等に使用される絶縁性セラミックス基板としての窒化珪素基板であって、β型窒化珪素と、イットリウム(Y)と、マグネシウム(Mg)を含有する窒化珪素基板において、前記窒化珪素基板の表面におけるMg量の分布を示す変動係数が0.20以下となっている。また、その窒化珪素基板の反りは、2.0μm/mm以下となっている。」 (c)「【0024】 また、窒化珪素基板の反りが大きくなると、窒化珪素基板と金属回路板及び金属放熱板との間で密着性が低い部分が生じやすくなる。この結果、窒化珪素基板と金属回路板及び金属放熱板とが剥離しやすくなる。そこで、本実施形態にかかる窒化珪素基板では、上述したように反りが2.0μm/mm以下に抑制されている。反りを抑制する方法については後述する。」 (d)「【0033】 また、本実施形態にかかる窒化珪素基板の一面または両面に、金属回路板及び金属放熱板であるCu(銅)回路板やAl(アルミニウム)回路板をDBC法(Direct Bonding Cupper 銅直接接合法)や活性金属ろう材法等を用いて接合することにより、窒化珪素回路基板が作製される。ここで、DBC法とは、窒化珪素基板とCu回路板またはAl回路板とを不活性ガスまたは窒素雰囲気中で共晶温度以上の温度に加熱し、生成したCu-O、Al-O共晶化合物液相を接合剤として上記回路板を窒化珪素基板の一面または両面に共晶化合物層を介して直接接合するものである。一方、活性金属ろう材法とは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)等の活性金属と低融点合金を作る銀(Ag)、銅(Cu)等の金属を混合または合金としたろう材を用いてCu回路板またはAl回路板を窒化珪素基板の一面または両面にろう材層を介して不活性ガスまたは真空雰囲気中で加熱圧着接合するものである。回路板を接合した後、窒化珪素基板上のCu回路板またはAl回路板をエッチング処理して回路パターンを形成し、さらに回路パターン形成後のCu回路板またはAl回路板にNi-Pめっきを施し、窒化珪素回路基板が作製される。 【0034】 また、上記窒化珪素回路基板上に適宜な半導体素子を搭載することにより、所望の半導体モジュールを作製することができる。」 (e)「【0036】 図1に示された製造方法に基づいて窒化珪素基板を製造し、その物性を測定した。製造条件の内、酸化マグネシウム(MgO)添加量、酸化イットリウム(Y2O3)添加量、MgOとY2O3の合計添加量、熱処理工程における熱処理温度並びに荷重及び窒化珪素基板の重ねの有無、窒化珪素基板の厚さの各項目は、表1に製造条件として示されるものを採用した(実施例1?10)。なお、窒化珪素基板の重ねの有無については、重ねが有る場合を丸印で示した。また、重ねが無い場合とは、1枚の窒化珪素基板を2枚のBN製板材14で挟んで熱処理工程を実施したものである。 【0037】 測定した物性としては、窒化珪素基板の表面のMg変動係数の他、酸化マグネシウム(MgO)含有量、酸化イットリウム(Y2O3)含有量、MgO/Y2O3の含有量の比、MgOとY2O3の合計含有量、反り、曲げ強度、ワイブル係数、破壊靱性、熱伝導率及び熱衝撃試験結果がある。これらの項目の内、反り、曲げ強度及び破壊靱性について予め設定した範囲内(反り:2μm/mm以下、曲げ強度:820MPa以上、破壊靱性:6MPam1/2以上)にあるか否かを判定した。」 (f)「【0041】 また、反りは、三次元レーザー計測器(キーエンス製 LT-8100)により測定した。図4(a),(b)には、反りの測定方法の説明図が示される。図4(a)において、適宜に設定したある面から基板表面Sまでの距離を三次元レーザー計測器で測定し、その距離が最小となる2点間を結ぶ面を基準面として設定する。次に、当該基準面からの高さ(距離)が最高となる最高点の高さDを反りの大きさとした。なお、図4(b)に示されるように、上記ある面から基板表面Sまでの距離の測定は、窒化珪素基板の対角線上で行った。上記反りの大きさを走査距離すなわち図4(b)に示された対角線の距離で除した値を反り量とした。」 (g)「【表1】 」 (h)「 」 ・【表1】の実施例3、4、8、10の窒化珪素基板において、「特性」の「反り」が、「0.5、0.6、0.7、0.4(μm/mm)」であって、いずれのものも、「判定」の「反り」、「曲げ強度」、「破壊靱性」が「○」となっていることが記載されている。 上記記載事項(特に、下線部)によれば、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されていると認められる。 「一面または両面に、金属回路板及び金属放熱板であるCu(銅)回路板やAl(アルミニウム)回路板を接合した窒化珪素基板において、窒化珪素基板の反りが大きくなることで、窒化珪素基板と金属回路板及び金属放熱板との間で密着性が低い部分が生じやすくなることを防止するために、反りを0.5、0.6、0.7、0.4(μm/mm)とした窒化珪素基板。」 c.引用文献3 引用文献3には、図面と共に以下の事項が記載されている。 (a)「【0014】 まず、本発明によるセラミックス回路基板について説明する。 本セラミックス回路基板1は、セラミックス基板2上に金属回路板3が接合され、金属回路板3が接合された反対面側には金属放熱板4が接合されたものである。本セラミックス回路基板1は、室温での反りは規定されず、230?300℃に加熱した時に、図1に示すように金属放熱板4側に凸形状に反っていることを特徴としている。これにより、本セラミックス回路基板1を、パワーモジュールの構成部品としてヒートシンク5に半田リフローで接合する際、金属放熱板4とヒートシンク5間の溶融半田6から気泡が抜け易くなるのである。」 (b)「図1 」 上記記載事項(特に、下線部)によれば、引用文献3には、以下の技術事項(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。 「セラミックス基板2上に金属回路板3が接合され、金属回路板3が接合された反対面側には金属放熱板4が接合されたセラミックス回路基板1であって、金属放熱板4側に凸形状に反っているセラミックス回路基板1。」 (イ)対比・判断 a.本件発明1について 本件発明1と引用発明1を対比すると以下のとおりである。 ・引用発明1の「セラミック放熱モジュール1」は、「焼結された」ものであるから「セラミック焼結体」と認められる。 また、引用発明1の「熱伝導性テープ30」、および「駆動回路チップである発熱素子20」は、本件発明1の「接合層」、および「電子部品」に相当する。 さらに、引用発明1の「セラミック放熱モジュール1」の「反対の面」の中で「駆動回路チップである発熱素子20」が「貼付された」領域を「第1の領域」と称することは任意である。 してみれば、引用発明1の「セラミック放熱モジュール1」は、本件発明1の「セラミック焼結体からなり、一方の主面に接合層を介して電子部品が搭載される第1の領域を有する放熱部材」に相当する。 そうすると、両者は、 <一致点> 「セラミック焼結体からなり、一方の主面に接合層を介して電子部品が搭載される第1の領域を有する放熱部材。」 の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1では、「前記第1の領域におけるうねり曲線が、うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上7mm以下であり、うねり曲線要素の高さの最大値が15μm以上60μm以下である」のに対して、 引用発明1では、そのような特定がされていない点。 相違点1について検討する。 引用文献2には、窒化珪素基板の密着性を上げるために反りを、0.5、0.6、0.7、0.4(μm/mm)とした窒化珪素基板が記載されている。 ここで、引用文献2の「窒化珪素基板」がセラミック焼結体であることは明らかである。 ここで、そもそも引用文献2にはうねりの特定が記載されていないが、引用文献2の図4(a)によれば基板は反りによりうねっており、仮に、基板サイズを当該分野における典型的な基板サイズである「50mm×50mm、50mm×60mm、60mm×60mm」を想定して引用文献2の段落【0041】の算出方法で反りを計算し検討する。 (基板サイズ50mm×50mm、対角長さ約70.7mm)の場合、 「反り0.5、0.6、0.7、0.4(μm/mm)」に対する対角線上の反りはそれぞれ「35.4、42.4、49.5、28.3(μm)」であり、 (基板サイズ50mm×60mm、対角長さ約78.1mm)の場合、 「反り0.5、0.6、0.7、0.4(μm/mm)」に対する対角線上の反りはそれぞれ「39.1、46.9、54.7、31.2(μm)」であり、 (基板サイズ60mm×60mm、対角長さ約84.9mm)の場合、 「反り0.5、0.6、0.7、0.4(μm/mm)」に対する対角線上の反りはそれぞれ「42.5、50.9、59.4、34.0(μm)」である。 基板の一方の主面の全てを本件発明1の「第1の領域」と解すると、この基板の反りによるうねりの曲線要素の高さの最大値は28.3μmから59.4μmの値となるから、うねりの曲線要素の高さの最大値が15μm以上60μm以下の範囲内にあることが認められる。 しかしながら、本件発明1の「うねり曲線要素の平均長さ」に相当する対角長さは、約70.7mm、約78.1mm、約84.9mmであって、本件発明1で特定する「7mm以下」ではない。 また、引用文献3にも、「うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上7mm以下であり、うねり曲線要素の高さの最大値が15μm以上60μm以下である」ことは記載されていない。 よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に採用し得たものではない。 したがって、本件発明1は、当業者が引用文献1ないし3に基づいて容易に発明することができたものではない。 b.本件発明2ないし5について 本件発明1を引用する本件発明2ないし5は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用文献1ないし3に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 ウ.理由B(特許法第36条第6項第1号)について 本件訂正により、請求項1に「うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上7mm以下であり」と上限が規定され、発明の詳細な説明に記載した範囲のものとなった。 したがって、当審による取消理由で指摘した不備な点は解消され、本件の請求項1及び請求項1に従属する請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 特許異議申立人の主張は概略は次の通りである。 ア.理由1 訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載され発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。(異議申立書第13頁25行-16頁7行) イ.理由2 訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証に記載され発明と甲第1号証、甲第3号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(異議申立書第16頁18行-18頁5行) ウ.理由3 訂正前の請求項1に係る発明の「うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上であり、うねり曲線要素の高さの最大値が15μm以上60μm以下であ」ることの根拠となっている【表1】には密着強度、放熱特性の順位が記載さているに過ぎず、順位は技術的な意味を有する物理量でないから、うねり曲線要素の数値の範囲は臨界的意義を有していない。 したがって、このことに関しては設計的事項であって、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第4号証または甲第5号証に記載され発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(異議申立書第18頁6行-19頁15行) エ.理由4 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、放熱部材を製造するための具体的な製造方法が開示されておらず、本件発明1の放熱部材の表面形状をどのようにして形成できるか不明である。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有するものがその実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法36条第4項第1号に規定する満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書第19頁24行-20頁5行) オ.理由5 密着強度および放熱特性は、放熱部材と電子部品とを接合する部材に大きく依存するが、発明の詳細な説明には、特定の両面テープを用いた際の結果しか記載されておらず、本件発明1の「うねり曲線要素の平均長さ」および「うねり曲線要素の高さの最大値」の数値の範囲を全ての接合部材に一般化して適用することはできない。 したがって、訂正前の請求項1ないし5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、特許法36条第6項第1号に規定する満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書第20頁6-19行) カ.理由6 訂正前の請求項1には、カットオフ値が定義がされておらず、カットオフ値が定義されていないうねり曲線要素の平均長さは、実質的な定義をなさないものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし5は、発明の範囲を当業者が理解できず、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法36条第6項第2号に規定する満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書第20頁20行-21頁2行) キ.理由7 訂正前の請求項2に「第2の領域の幅の60%以上」と記載されているが、第1の領域と第2の領域をどのように区別するか明確でなく、「第2の領域の幅の60%以上」がいかなる領域であるか不明確である。 したがって、訂正前の請求項2ないし5は、発明の範囲を当業者が理解できず、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法36条第6項第2号に規定する満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書第21頁3-14行) 甲第1号証:特開2009-215142号公報(引用文献2) 甲第2号証:特開2006-245437号公報(引用文献3) 甲第3号証:特開2012-222339号公報(引用文献1) 甲第4号証:特開2008-311296号公報 甲第5号証:特開2010-30280号公報 (2)理由1について 甲第1号証(引用文献2)の「窒化珪素基板」は、セラミック焼結体と認められ、「一面または両面に、金属回路板及び金属放熱板」が接合するものであるから、熱を伝える部材ではあるが、「金属放熱板」が接合されているために「窒化珪素基板」の表面からは放熱できず放熱のための部材とは認められないことから、本件発明1の「放熱部材」には相当せず、本件発明1とは、少なくともこの点において相違するものであって、本件発明1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。 (3)理由2について 甲第2号証(引用文献3)の「セラミックス基板」は、セラミック焼結体と認められ、「セラミックス基板2上に金属回路板3が接合され、金属回路板3が接合された反対面側には金属放熱板4が接合されたものである」から、熱を伝える部材ではあるが、「金属放熱板4が接合され」るために「セラミックス基板」の表面からは放熱できず放熱のための部材とは認められず、本件発明1の「放熱部材」には相当せず、少なくともこの点において本件発明1と相違する。 そして、「金属放熱板4」が接合される「セラミックス基板」をさらに放熱部材とする動機付けが存在しないことから、本件発明1ないし5は、甲第2号証に記載され発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 (4)理由3について 甲第4号証の段落【0014】には、上面に回路層13を、下面に金属層を金属層を設けたセラミックス基板11が、また、甲第5号証の段落【0077】には、一方の主面上に回路部材21を、他方の主面上に銅板の放熱部材22を有するセラミック基体1が記載されている。 しかしながら、上記理由2と同様に、甲第4号証の「セラミックス基板11」、および甲第5号証の「セラミック基体1」は、放熱のための他の部材がその表面に設けられるものであって、本件発明1の「放熱部材」には相当せず、また、甲第4号証の「セラミックス基板11」、および甲第5号証の「セラミック基体1」を放熱部材とする動機付けが存在しないことから、本件発明1は、甲第4号証または甲第5号証に記載され発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 (5)理由4について 本件特許明細書の段落【0039】には、「・・・、焼結後に研削加工を施したりして、本実施形態の表面形状を有する放熱部材としてもよい。・・・」とあり、放熱部材を製造するための具体的な製造方法が開示されており、その発明の属する技術分野における通常の知識を有するものがその実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまではいえない。 (6)理由5について そもそも本件発明1ないし5は、「放熱部材」に関する発明であるが、「接合層」は「電子部品」を「放熱部材」に接合するための部材であって放熱のために部材ではないから、「接合層」について限定すべき必要性は認められない。 また、「デクセリアルズ(株)社製 商品名:熱伝導性両面粘着テープ 型番:UT5918W 厚み180μm」は、電子部品を接合する際に普通に用いられる熱伝導性両面粘着テープであり、他の同様の電子部品を接合する熱伝導性両面粘着テープにおいても同様の密着強度および放熱特性が得られるものと認められるから、本件発明1ないし5が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとはいえない。 (7)理由6について 通常、「カットオフ値」はうねり曲線から高周波成分を除去するための値であり、想定される「うねり曲線要素の平均長さ」よりも十分に小さい値に設定されていることは明らかであるから、カットオフ値が規定されなくとも、本件発明1ないし5が明確でないとはいえない。 (8)理由7について 本件発明1の記載には「電子部品が搭載される第1の領域」とあり、「第1の領域」は「電子部品が搭載され」た部分であって、電子部品を搭載した部分の周囲が含まれないことは明らかであり、してみれば、本件発明2に記載の「第1の領域以外の第2の領域」がどの領域であるかは明確であるから、本件発明2ないし5が明確でないとはいえない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては、本件発明1乃至5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1乃至5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 セラミック焼結体からなり、一方の主面に接合層を介して電子部品が搭載される第1の領域を有する放熱部材であって、前記第1の領域におけるうねり曲線が、うねり曲線要素の平均長さWSmが3mm以上7mm以下であり、うねり曲線要素の高さの最大値が15μm以上60μm以下であることを特徴とする放熱部材。 【請求項2】 前記主面が、前記第1の領域と該第1の領域以外の第2の領域とを有し、前記主面におけるうねり曲線において、前記第2の領域の幅における60%以上が、前記主面におけるうねり曲線の平均線よりも山側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の放熱部材。 【請求項3】 前記セラミック焼結体の他方の面にフィンを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放熱部材。 【請求項4】 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の放熱部材に電子部品が搭載されてなることを特徴とする電子装置。 【請求項5】 請求項4に記載の電子装置を備えてなることを特徴とする画像表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-07-19 |
出願番号 | 特願2013-126196(P2013-126196) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H05K)
P 1 651・ 536- YAA (H05K) P 1 651・ 113- YAA (H05K) P 1 651・ 537- YAA (H05K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三森 雄介 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 山澤 宏 |
登録日 | 2016-12-02 |
登録番号 | 特許第6051115号(P6051115) |
権利者 | 京セラ株式会社 |
発明の名称 | 放熱部材および電子装置ならびに画像表示装置 |