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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63J
管理番号 1344519
審判番号 不服2017-12408  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-22 
確定日 2018-09-20 
事件の表示 特願2014-259673号「機関室冷却システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-117454号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月24日に出願されたものであって、平成28年9月28日付けで拒絶理由が通知され、同年12月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年5月16日付けで拒絶査定がされ、同年8月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
平成29年8月22日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前と補正後の特許請求の範囲を示すと以下のとおりである。
〔補正前〕
「【請求項1】
船舶内部に塩分を含まない清水を使用した霧状の水を散布し、前記霧状の水の気化熱により機関室を冷却することを特徴とする機関室冷却システム。
【請求項2】
前記霧状の水が、居住区エアコンのドレン水であることを特徴とする請求項1に記載の機関室冷却システム。
【請求項3】
前記霧状の水を、前記機関室に設置された主機関の放熱部位の近傍に散布することを特徴とする請求項1に記載の機関室冷却システム。
【請求項4】
前記霧状の水を、前記機関室に設置された空冷式ポンプの近傍に散布することを特徴とする請求項1に記載の機関室冷却システム。
【請求項5】
前記霧状の水を、前記機関室と船体外板との間のボイドスペースに散布し、前記ボイドスペースの空気と前記機関室の空気とを循環させることを特徴とする請求項1に記載の機関室冷却システム。
【請求項6】
前記霧状の水を、前記機関室に設置された冷却装置の内部に散布し、前記冷却装置の内部に前記機関室の空気を通過させることを特徴とする請求項1に記載の機関室冷却システム。」

〔補正後〕
「【請求項1】
船舶内部に塩分を含まない清水を使用した霧状の水を散布し、前記霧状の水の気化熱により機関室を冷却することを特徴とする機関室冷却システム。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項1を引用する請求項2?6を削除するものである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる、同法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
よって、本件補正は適法になされたものである。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1または2または3に記載された発明及び下記の引用文献4?8に開示された周知技術に基いて、また、請求項6に係る発明は、同引用文献1または2または3に記載された発明及び引用文献7?8に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1.実願昭46-040088号(実開昭48-001394号)
のマイクロフィルム
引用文献2.実願昭56-011839号(実開昭57-125700号)
のマイクロフィルム
引用文献3.英国特許出願公告第00842218号明細書
引用文献4.特開2013-147837号公報
引用文献5.特開2009-139073号公報
引用文献6.特開平09-086157号公報
引用文献7.特開2009-192159号公報
引用文献8.実願昭54-132182号(実開昭56-049429号)
のマイクロフィルム

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献2
(1)記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下同様。)
ア 「船体の上部に設けられた外気吸入用低圧フアンと、この低圧フアンの吐出口に接続された低圧通風路と、この低圧通風路に接続されて機関室上部へ配設された低圧吹出管とをそなえるとともに、上記低圧通風路に接続された昇圧フアンをそなえて、該昇圧フアンの吐出口に接続する高圧通風路が、上記機関室内の甲板で仕切られたスペースへ配設され、吹出ノズルをそなえていることを特徴とする、船舶の機関室通風装置。」(明細書第1ページ「2 実用新案登録請求の範囲」)

イ 「船体の上部両側に軸流フアンとしての一対の外気吸入用低圧フアン1が設けられ、その吐出口に接続する低圧通風路2が下方へ延在して、主機Eを有する機関室の上部に配設された低圧吹出管3に接続されている。
そして、左右の低圧吹出管3には、それぞれ吹出口3a,3bが設けられている。
また各低圧通風路2の一部に昇圧フアン4が接続され、その吐出口に接続する高圧通風路5が、機関室内の甲板Dで仕切られたスペースSへ配設されて、吹出ノズル6をそなえている。
このようにして、主機Eにおける燃焼および冷却のための軸流式低圧フアン1,低圧通風路2および低圧吹出管3による低圧通風系と、補機類における燃焼、冷却および室内換気のための昇圧フアン4,高圧通風路5および吹出ノズル6による高圧通風系とが設けられるのである。」(明細書第3ページ第11行?第4ページ第8行)

(2)引用発明
上記(1)及び第2図の記載より、引用文献2には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「船体の上部に設けられた外気吸入用低圧フアン1と、この外気吸入用低圧フアン1の吐出口に接続された低圧通風路2と、この低圧通風路2に接続されて機関室上部へ配設された低圧吹出管3とをそなえるとともに、上記低圧通風路2に接続された昇圧フアン4をそなえて、該昇圧フアン4の吐出口に接続する高圧通風路5が、上記機関室内の甲板Dで仕切られたスペースSへ配設され、吹出ノズル6をそなえ、
主機Eにおける燃焼および冷却のための外気吸入用低圧フアン1、低圧通風路2および低圧吹出管3による低圧通風系と、補機類における燃焼、冷却および室内換気のための昇圧フアン4、高圧通風路5および吹出ノズル6による高圧通風系とが設けられる、船舶の機関室通風装置。」

2 引用文献4
(1)記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
エンジンを有する建設機械の冷却装置において、
水を貯蔵するための貯水手段と、
前記貯水手段内の水を前記エンジンの排熱で加熱して水蒸気を発生する蒸発手段と、
前記蒸発手段で発生した水蒸気の圧力を利用して、噴射後に速やかに蒸発する程度にまで微細化された霧状の水を噴射する噴射装置とを備えることを特徴とする建設機械の冷却装置。」

イ 「【0017】
次に、本実施の形態に係る冷却装置の動作について図を用いて説明する。図2は本発明の第1の実施の形態に係る蒸発器4及び水タンク34へ注水する様子を示している。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略することがある(後の図も同様とする)。この図に示すように、蒸発器4及び水タンク34には水分16が供給され、それぞれ適量まで補給される。蒸発器4及び水タンク34に補給される水分16としては、例えば、純水、水道水、雨水、運転室内のエアコンディショナーで発生する結露水等が利用可能であり、さらにこれらの水を回収する装置と蒸発器4及び水タンク34とを配管等で接続しても良い。また、エンジン1の排ガスを人工膜に導入し、当該人工膜で毛管現象を利用して回収した当該排ガス中の水分も利用できる(例えば、公知の方法によれば、ディーゼル燃料1ガロン(約3.8リットル)から水1ガロンを取り出すことが可能)。」

ウ 「【0020】
なお、上記の各図に示した例では、ラジエタ2(冷却対象)に向かってミスト27を噴射する場合について説明したが、エンジンルーム内に導入され冷却対象(例えば、ラジエタ2)に到達する前の吸気にミストが噴射可能であれば、エンジンルーム内のどこに噴射装置30を設置しても本実施の形態による冷却効果が得られる。すなわち、エンジンルーム内の外気(吸気)の流通経路における冷却対象の上流側で噴射すれば良い。そのひとつの例を図5に示す。
【0021】
図5は、エンジンルーム39内においてエアフィルタ38の直後に噴射装置30を設置した油圧ショベルを示す図である。この図に示す油圧ショベルは、エンジン1、ラジエタ2及びファン3が収納されたエンジンルーム39と、操縦室40と、エアフィルタ38を備えている。エアフィルタ38は、エンジンルーム39内に取り込まれる外気19に混入している砂や埃等を捕集するためのもので、エンジンルーム39の吸気口(開口部)に取り付けられている。噴射装置30は、外気19の流通経路におけるエアフィルタ38の下流側に設置されている。このように噴射装置30を設置すると、エンジンルーム39内に吸引された直後の外気19にミストを噴射することができるので、エンジンルーム39内全体の温度を下げることができる。」

3 引用文献5
(1)記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
液体を細霧化して噴霧する装置であって、細霧発生手段、細霧化された霧を搬送する細霧搬送手段、細霧を搬送する細霧搬送路及び最後に細霧を排出する細霧排出手段から構成され、細霧を発生させた位置と異なる位置に細霧を散布することを特徴とする細霧散布装置」

イ 「【0005】
さらに、近年の地球温暖化の影響で、競技場やモールなど、大勢の人が集まる半開放場所においては、夏場に炎暑が発生することが多くなっているが、それを緩和するために細霧を散布し、気化熱による冷却を利用することも行なわれ始めている。同様の目的には、施設園芸や畜産業においても、温室や畜舎の過剰な温度上昇を抑えたり、湿度調整の目的で利用されている。」

ウ 「【0019】
湿度調整、脱臭、空気殺菌あるいは冷却など、今後もますます利用増加が見込まれる細霧の散布において、従来から行なわれている方法が持っている各種の問題点を解消し、費用が安く、液体の塵埃除去などの前処理を要せず、液体の種類の制約が少なく、維持管理に手間を要せず、使用場所の規模に応じて発生規模の設計が自由にできる細霧散布装置を提供したことにより次に説明する各種の効果がもたらされた。」

4 引用文献6
(1)記載事項
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】外部と閉塞が可能な車室内へ空気を吹き出す吹出口を備えた空気通路、この空気通路内において前記吹出口から前記車室内へ吹き出される空気流を生じさせる送風機、および前記空気通路から吹き出される空気を加湿する加湿手段を備えた加湿冷風機と、
前記車室内の空気を外部へ排出する換気ファンとを備える車両用気化冷房装置。」

イ 「【0015】〔実施例の作動〕つぎに、上記実施例の作動を説明する。図示しない運転スイッチがONされると、送風機5、加湿手段8の超音波振動子11、換気ファン4が作動を開始する。送風機5は、外気を吸引して空気通路7に供給する。一方、加湿手段8は、加湿水槽10の水に超音波振動を与えて霧化水を発生して空気通路7に供給する。そして、気化室9では、霧化水が外気から気化熱を奪って蒸発し、外気の温度を低下させる。そして温度の低下した外気は、冷風となって、吹出口6から車室内の乗員の首筋に向けて吹き出される。」

5 引用文献7
(1)記載事項
引用文献7には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
送風機と熱交換器とを備えた空気調和機室内機において、
前記熱交換器の下流に水滴を噴霧する水滴噴霧手段を備え、
水滴の空気流への追従性のパラメータであるストークス数Stが1となる粒径rより小さい水滴を空気に混合して吹き出す
ことを特徴とする空気調和機室内機。
但し、
St=ρr^(2)u/μL
ρ:水の密度、u:水滴の速度、μ:空気の粘性係数、L:吹出し風路の代表長さ」

イ 「【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における、天井埋め込み型空気調和機室内機本体の主要部の構成を示す断面図である。室内機本体には、空気を吸い込むための吸込み口1と空気を吹き出すための吹出し口6が形成されており、室内機本体の内部には、送風機2と、熱交換器3と、ドレンパン9が配置されている。
また、熱交換器の下流側には水滴を噴霧するための一流体ノズル4が配置され、一流体ノズル4は電磁弁5を介して図示しない水道管に繋がっている。一流体ノズル4は、水道圧またはこれ以上の水圧によって10μm以下の様々な粒径の水滴を噴霧できるよう、ノズル形状を形成している一流体ノズルである。
また、吸込み口1には、吸い込んだ空気の温度を測定する温度センサー7及び、湿度を測定する湿度センサー8が設けられている。
吹出し口6と図示しない室内とは、室内機本体外のダクト20によって接続されている。」

ウ 「【0016】
また、粒径10μm以下の水滴を噴霧できる水滴噴霧手段を設けたので、冷房運転時においては、吹出し風路内に水滴が凝結することがなく、水滴を十分に空気に混合して吹き出すことができる。そのため、吹き出した水滴が室内で蒸発する際に室内の熱を奪い、室内温度を下げることができる。・・・」

6 引用文献8
(1)記載事項
引用文献8には、以下の事項が記載されている。
ア 「コンデンシングユニット,圧縮器等を用いる冷房装置は,大型,かつ高価であり,しかも健康上あまり良くないので,この点を考慮して水の蒸発潜熱による温度降下を利用して室外空気を冷却し,この冷却された室外空気を室内に導入して室内を冷房する簡易冷房装置が提案されている。」(明細書第4ページ第16行?第5ページ第2行)

イ 「以上のように従来の簡易冷房装置は構成されており,今上記スイッチを閉成すると電動機(7)に通電されて羽根車(8)が回転し,室外空気を矢印の如く箱体(3)の室外空気吸込口(5)より吸込み箱体(3)内を通じて矢印の如く室外空気排出口(4)より室内に排出する。
この時上記ポンプを駆動させて水槽内の水を給水管を通じて水噴出管(9)の水噴出口(9A)より噴出させるとこの水は霧化される。
この結果送風機(6)により箱体(3)内に取入れられた室外空気は,霧化された水が気化するときに要する熱,いわゆる気化熱により熱が奪われ,外気温より低温の空気となって室内に供給され,室内を冷房する。」(明細書第6ページ第8行?第7ページ第1行)

第5 対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔補正後〕」に示されるとおりのものであって、本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(1)後者の「船舶」は前者の「船舶」に相当し、同様に、「機関室」は「機関室」に相当する。

(2)後者の「船舶の機関室通風装置」は、「主機Eにおける燃焼および冷却のための軸流式低圧フアン1、低圧通風路2および低圧吹出管3による低圧通風系と、補機類における燃焼、冷却および室内換気のための昇圧フアン4、高圧通風路5および吹出ノズル6による高圧通風系とが設けられる」ものであるから、機関室の冷却をも行うものである。また、「システム」とは、「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であるところ、後者の「船舶の機関室通風装置」も複数の要素からなるものであるから、「システム」と言い得るものである。
そうすると、後者の「船舶の機関室通風装置」と前者の「機関室冷却システム」とは、「機関室冷却システム」の限度で一致するといえる。

(3)以上のことより、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「機関室を冷却する機関室冷却システム。」

〔相違点〕
機関室を冷却する手段について、本願発明が、「船舶内部に塩分を含まない清水を使用した霧状の水を散布し、前記霧状の水の気化熱によ」るものであるのに対し、引用発明は、「低圧通風系」及び「高圧通風系」により吹き出される「外気」によるものである点。

第6 判断
冷却性能向上を図るために霧状の水を散布して、その気化熱により空気の冷却を行うことは、上記「第4」で示した引用文献4?8の記載事項から明らかなように、分野を問わず広く知られている周知技術といえるものであり、特に引用文献4は、エンジンルームの冷却(第4 2(1)ウ)を行っているものである。
ここで、引用発明は外気を吸入して機関室の冷却を行っているものであるが、特に真夏の日中や熱帯地域等の気温の高い条件下で航行するのであれば、吸入する外気の温度も高くなるので、外気による機関室の冷却だけでは所望の冷却性能が得られなくなるおそれがあることは、当業者にとって自明ないし、少なくとも十分予測可能なことであって、例えば、本願明細書において【先行技術文献】の【特許文献1】として提示された特開2002-274492号公報の段落【0006】に「また、熱帯域航行中には、燃焼に必要な空気を取り入れるだけでは、機関室内温度が上昇するため、機関室内の温度を抑えるには、全体として膨大な空気量を取り入れなければならなかった。」と記載されている
そして、上記の冷却性能不足の問題を解決するために、引用発明の「外気導入用低圧フアン1」から導入された外気を冷却すべく、「大機導入用低圧フアン1」より下流側の「低圧通風系」ないし「高圧通風系」(いずれも「船舶内部」に位置する。)に対し上記周知技術の適用を試みること、あるいは、「低圧通風系」ないし「高圧通風系」とは別途に機関室等船舶内に上記周知技術を配置することを試みることは、当業者であれば容易に想到し得た程度のことである。
その際、上記周知技術を示す各文献の記載事項及び技術常識を考慮すれば、上記周知技術の水も塩分を含んでいないものと解されるところ、上記適用の際、水が塩分を含んでいたのなら、機関室内部の各種機器に悪影響を及ぼすおそれがあることは、当業者であれば認識可能なことであるから、「塩分を含まない清水」を使用することは当然考慮すべきことである。
したがって、引用発明に上記周知技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、本願発明が奏する作用効果を検討しても、引用発明及び周知技術から予測できる程度のことであって格別とはいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「機関室の換気に冷却という副次的効果があるとしても、「作用、機能の共通性」という観点から考えれば、内部の空気を入れ換えることにより結果的に機関室内が冷却されるというはたらきを持つ「換気」と、内部の空気自体を直接冷却するはたらきを持つ「霧状の水の散布による気化熱による冷却」とでは、作用、機能が大きく異なるものである。従って、引用文献1-3のそれぞれに記載の発明(=換気)に、引用文献4-8に記載された技術(=霧状の水の散布による気化熱による冷却)を適用する動機付けがあるとはいえない。」と主張する。
しかしながら、引用発明も主機E等の冷却を行っている以上、上記「第6」で述べたように、冷却性能向上は当業者であれば十分想定可能な課題であり、周知技術を適用する動機付けは十分にあるというべきである。

また、「本願発明1が海上を航行する船舶に適用されるものであるのに対して、引用文献4-8に記載された技術の使用環境はいずれも陸上である。この使用環境の違いについて、移動範囲という点から検討すると、船舶は海上を航行するものであって、移動範囲が極めて広く外気環境の変化も激しい。例えば、出発地、経由地、目的地のそれぞれが異なる気候帯に属することもしばしばである。これに対して、引用文献4-8に記載された技術の使用環境は、移動の生じない建物か、あるいは船舶と比較すると移動範囲が極めて狭い建設機械や作業車両であって、外気環境の変化は小さい。そうすると、同じ「霧状の水の散布による気化熱による冷却効果」であっても、引用文献4-8に記載された使用環境における冷却効果が、変化の小さい外気環境におけるものに過ぎないのに対して、本願発明1の使用環境における冷却効果は、変化の激しい外気環境においてその影響を受けにくくするものであって、引用文献4-8にはない特有の効果(有利な効果)といえるものである。本願発明1は、本願明細書の(0003)、(0007)等に記載した通り、外気取り入れ(換気)による冷却が外気環境による影響を受けやすく限界があることを課題とし、これを解決するようにしたものである。これに対して、引用文献1-3には、「外気取り入れ(換気)による冷却が外気環境による影響を受けやすく限界があること」について何ら記載も示唆もない。さらに、引用文献4-8における「霧状の水の散布による気化熱による冷却」という技術は、陸上という変化の小さい外部環境において使用されているのみであって、本願発明1のような変化の激しい外部環境において有利な効果を奏することを示唆していない。」とも主張する。
しかしながら、引用発明は外気を吸入して機関室の冷却を行っているものであるが、特に真夏の日中や熱帯地域等の気温の高い条件下で航行するのであれば、吸入する外気の温度も高くなるので、外気による機関室の冷却だけでは所望の冷却性能が得られなくなるおそれがあることは、上記「第6」で指摘したように当業者にとって自明ないし、少なくとも十分予測可能なことである。
そして、本願発明が奏する効果は、本願明細書の段落【0016】に記載される「本発明の機関室冷却システムによれば、船舶内部に霧状の水を散布し、霧状の水の気化熱により機関室を冷却することができるので、外気取り入れによる冷却のように外気環境による影響を受けにくい。従って、熱帯地域等の暑い地域を航行中においても、機関室内の冷却能力を向上させることができる。」というものであるが、引用発明も上記周知技術も冷却の効果を奏するものであり、当業者が予測できないような顕著な効果であるとまではいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-18 
結審通知日 2018-07-24 
審決日 2018-08-06 
出願番号 特願2014-259673(P2014-259673)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B63J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 泰二郎  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
仁木 学
発明の名称 機関室冷却システム  
代理人 信末 孝之  
代理人 信末 孝之  

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