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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 一部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C08L 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C08L 審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件 C08L |
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管理番号 | 1344809 |
異議申立番号 | 異議2017-701163 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-07 |
確定日 | 2018-08-23 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6146089号発明「シラノール縮合触媒およびシラン架橋ポリオレフィン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6146089号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6146089号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6146089号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成25年3月28日に、出願人三菱化学株式会社により出願された特許出願であり、平成29年5月26日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年6月14日に特許掲載公報が発行され、その後、特許異議申立人 山田均(以下、「申立人」という。)により、同年12月7日に請求項1?2に係る本件特許について、甲第1?3号証を証拠方法として、特許法第29条第1項第3号に基づく取消理由を主張する特許異議の申立てがされ、平成30年2月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月20日に意見書の提出及び訂正請求がされた。 なお、申立人に対する訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)に対しては、申立人からの応答はなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1.請求の趣旨 平成30年4月20日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6146089号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1?9からなる一群の請求項について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。 2.訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。 (1)訂正事項1 請求項1に、 「下記(1)で表されるアルミニウム化合物、下記式(2)で表されるアルミニウム化合物、トリアルキルカルボニルオキシアルミニウムより選択される有機アルミニウム化合物を含有してなることを特徴とするシラノール縮合触媒。 Al(OH)_(a)(R^(1))_(b) (1) (式中、R^(1)は親水性基で置換されているアルキルカルボニルオキシ基を示し、aは0?2の整数を示し、bは1?3の整数を示す。) Al(OH)_(c)(R^(2))_(d) (2) (式中、R^(2)はアルキルカルボニルオキシ基を示し、cは1?2の整数を示し、dは1?2の整数を示す。)」と記載されているのを、 「下記(1)で表されるアルミニウム化合物より選択される有機アルミニウム化合物を含有してなることを特徴とするシラノール縮合触媒。 Al(OH)_(a)(R^(1))_(b) (1) (式中、R^(1)はヒドロキシル基あるいはアミノ基で置換されているアルキルカルボニルオキシ基を示し、aは0?2の整数を示し、bは1?3の整数を示す。)」と訂正する。 (請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?9も同様に訂正されることになる。) (2)訂正事項2 請求項2に、 「有機アルミニウム化合物が、アセチルアセトンアルミニウム、ステアリン酸アルミニウムトリ、ビス(2-エチルヘキサノアト)ヒドロキシアルミニウム、アルミニウムグリシナートより選択される1種以上の化合物である」と記載されているのを、 「有機アルミニウム化合物が、アルミニウムグリシナートである」と訂正する。 (請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?9も同様に訂正されることになる。) 3.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)一群の請求項について 訂正事項1?2による本件訂正は、訂正前の請求項1?9を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?9は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?9は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であって、訂正事項1?2による本件訂正は、同規定による一群の請求項ごとにされたものである。 (2)訂正事項1による訂正について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明のシラノール縮合触媒に含まれる有機アルミニウム化合物の選択肢から、式(2)で表されるアルミニウム化合物を削除し、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」という。)の【0011】の記載に基づいて、式(1)で表される化合物を、R^(1)を構成する親水性基が「ヒドロキシル基あるいはアミノ基」であるものに限定してシラノール縮合触媒を限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 (訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?9についての訂正も同様である。) (3)訂正事項2による訂正について 訂正事項2は、訂正前の請求項2において、シラノール縮合触媒に含まれる有機アルミニウム化合物として記載されていた選択肢から、「アセチルアセトンアルミニウム、ステアリン酸アルミニウムトリ、ビス(2-エチルヘキサノアト)ヒドロキシアルミニウム」の3つの化合物を削除して、シラノール縮合触媒を限定するものであるし、また、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、訂正後の請求項1で規定される有機アルミニウム化合物に該当しないものとなった3つの化合物を削除することで、訂正後の請求項1の記載との整合を図るための訂正であるから、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 (訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項3?9についての訂正も同様である。) 4.特許異議の申立てのない請求項に係る発明についての独立特許要件の判断 特許異議の申立ては、訂正前の請求項1、2に対してされているので、訂正後の請求項1、2に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 しかしながら、訂正後の請求項3?9は、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされた訂正後の請求項1を引用するものであって、上記(2)で記載したとおり、実質的に、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたものである。そして、訂正前の請求項3?9は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、訂正後の請求項3?9に係る発明については、訂正を認める要件として上記独立特許要件が課せられる。 そこで、訂正後の請求3?9に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。 訂正後の請求項3?9は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、まず、訂正後の請求項1に係る発明について検討する。 訂正後の請求項1に係る発明は、下記第3の【請求項1】に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、下記第5のとおりの理由によって、訂正後の請求項1に係る発明については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由により特許を受けることができないものであるとはいえない。 そうすると、訂正後の請求項1を引用するものであって、訂正後の請求項1に係る発明をさらに限定するものである、下記第3の【請求項3】?【請求項9】に記載された事項により特定される訂正後の請求項3?9に係る発明についても、訂正後の請求項1に係る発明と同様に、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由により特許を受けることができないものであるとはいえない。 また、他に訂正後の請求項3?9に係る発明が特許を受けることができないとする理由も発見しない。 よって、訂正後の請求項3?9に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項ごとにされたものであるし、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項ないし第7項に適合するものであるから、本件訂正請求による訂正を認める。 第3 本件発明 前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?9に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。 「【請求項1】 下記(1)で表されるアルミニウム化合物より選択される有機アルミニウム化合物を含有してなることを特徴とするシラノール縮合触媒。 Al(OH)_(a)(R^(1))_(b) (1) (式中、R^(1)はヒドロキシル基あるいはアミノ基で置換されているアルキルカルボニルオキシ基を示し、aは0?2の整数を示し、bは1?3の整数を示す。) 【請求項2】 有機アルミニウム化合物が、アルミニウムグリシナートであることを特徴とする請求項1に記載のシラノール縮合触媒。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のシラノール縮合触媒およびポリオレフィンを含有することを特徴とするシラノール縮合触媒含有ポリオレフィン。 【請求項4】 シラノール縮合触媒の含有量がポリオレフィンに対して1000質量ppm以上40000質量ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載のシラノール縮合触媒含有ポリオレフィン。 【請求項5] シラン変性ポリオレフィンに、請求項1若しくは2に記載のシラノール縮合触媒又は請求項3若しくは4に記載のシラノール縮合触媒含有ポリオレフィンを含有させてなることを特徴とするシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項6】 シラノール縮合触媒の含有量がシラン変性ポリオレフィンに対して50質量ppm以上2000質量ppm以下であることを特徴とする請求項5に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項7】 さらに酸化防止剤を含有させてなることを特徴とする請求項5又は6に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項8】 成型物であることを特徴とする請求項5?7の何れか1項に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項9】 成型物が、電線・ケーブル被覆材、パイプ、ホース、チューブ、各種容器、シーリング材、フィルム又はシートであることを特徴とする請求項8に記載のシラン架橋ポリオレフィン。」 なお、以下、請求項1で特定される、 「下記(1)で表されるアルミニウム化合物より選択される有機アルミニウム化合物 Al(OH)_(a)(R^(1))_(b) (1) (式中、R^(1)はヒドロキシル基あるいはアミノ基で置換されているアルキルカルボニルオキシ基を示し、aは0?2の整数を示し、bは1?3の整数を示す。)」を、 「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」という。 第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要 1.特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由 訂正前の請求項1、2に係る特許に対し、申立人が特許異議申立書(以下、「「申立書」という。)において申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件訂正前の請求項1、2に係る発明についての本件特許は、次の(1)?(3)のとおりの取消理由(i)?(iii)により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(4)の甲第1号証?甲第3号証を提出した。(以下、それぞれ「甲1」?「甲3」ともいう。) (1)取消理由(i)(甲1に基づく新規性) 請求項1?2に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)取消理由(ii)(甲2に基づく新規性) 請求項1?2に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)取消理由(iii)(甲3に基づく新規性) 請求項1?2に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)証拠方法 1.甲第1号証:特開2008-274272号公報 2.甲第2号証:特開2011-219729号公報 3.甲第3号証:特開2003-12879号公報 2.当審合議体が通知した取消理由 本件訂正前の請求項1?2に係る発明に対して当審合議体が平成30年2月19日付け取消理由通知書で通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 なお、以下の取消理由1、取消理由2-4、取消理由3-1?取消理由3-4は、当審合議体が職権で通知した。また、申立人の主張する取消理由(iii)のうち、請求項1に係る発明に対する取消理由は採用していない。 (1)取消理由1(明確性/当審合議体が職権で通知したもの) 請求項2に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)取消理由2-1(甲1に基づく新規性)/申立書における取消理由(i)と同旨) 請求項1?2に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、請求項1?2に係る発明についての本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)取消理由2-2(甲2に基づく新規性)/申立書における取消理由(ii)と同旨) 請求項1?2に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、請求項1?2に係る発明についての本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (4)取消理由2-3(甲3に基づく新規性)/申立書における請求項2に係る発明についての取消理由(iii)と同旨) 請求項2に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、請求項2に係る発明についての本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (5)取消理由2-4(刊行物4に基づく新規性)/当審合議体が職権で通知したもの) 請求項1に係る発明は、下記の刊行物4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、請求項1に係る発明についての本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 刊行物4:特開2002-146150号公報 (6)取消理由3-1(甲1に基づく進歩性/当審合議体が職権で通知したもの) 請求項1?2に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (7)取消理由3-2(甲2に基づく進歩性/当審合議体が職権で通知したもの) 請求項1?2に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (8)取消理由3-3(甲3に基づく進歩性/当審合議体が職権で通知したもの) 請求項2に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (9)取消理由3-4(刊行物4に基づく進歩性/当審合議体が職権で通知したもの) 請求項1に係る発明は、刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1、2に係る発明についての本件特許を取り消すことはできない。 第5-1 取消理由通知書に記載した取消理由(取消理由1、2-1?2-4、3-1?3-4)についての判断 1.取消理由1(明確性)についての判断 当審合議体が取消理由1に関して、具体的に指摘した記載不備は、訂正前の請求項2には、「有機アルミニウム化合物が、アセチルアセトンアルミニウム、・・・より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のシラノール縮合触媒。」と記載されている一方で、「アセチルアセトンアルミニウム」は、訂正前の請求項1で特定される有機アルミニウム化合物に含まれない点で、請求項2の記載が請求項1の記載と技術的に整合していないから、請求項2に係る発明は不明確であるというものである。 しかしながら、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載されていた「アセチルアセトンアルミニウム」なる記載は削除されたから、本件発明2では、上記の記載不備は解消しており、本件発明2は明確である。 よって、取消理由1によって、本件発明2についての特許を取り消すことはできない。 2.取消理由2-1及び3-1(甲1に基づく新規性及び進歩性)についての判断 (1)甲1に記載された事項及び甲1発明 甲1の請求項1及び4によれば、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「1分子中に2個のシラノール基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン化合物と、1分子中に3個以上のアルコキシ基またはシラノール基を有するシロキサン化合物との縮合触媒であって、有機アルミニウム化合物である縮合触媒。」(以下「甲1発明(1)」という。) また、甲1の請求項4に係る発明の実施態様にあたる実施例8も併せみれば、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「1分子中に2個のシラノール基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン化合物と、1分子中に3個以上のアルコキシ基またはシラノール基を有するシロキサン化合物との縮合触媒であって、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムである縮合触媒。」(以下「甲1発明(2)」という。) (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明(1)とを対比する。 甲1発明(1)の「1分子中に2個のシラノール基を有する直鎖状オルガノポリシロキサン化合物と、1分子中に3個以上のアルコキシ基またはシラノール基を有するシロキサン化合物との縮合触媒」は、本件発明1の「シラノール縮合触媒」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明(1)との一致点、相違点は以下のとおりである。 <一致点> 有機アルミニウム化合物を含有してなるシラノール縮合触媒。 <相違点1> 本件発明1では、有機アルミニウム化合物が、 「下記(1)で表されるアルミニウム化合物より選択される有機アルミニウム化合物 Al(OH)_(a)(R^(1))_(b) (1) (式中、R^(1)はヒドロキシル基あるいはアミノ基で置換されているアルキルカルボニルオキシ基を示し、aは0?2の整数を示し、bは1?3の整数を示す。)」(すなわち、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」)と特定されているのに対し、甲1発明(1)では、かかる特定はされていない点。 ここで、甲1には、「有機アルミニウム化合物」に関して、【0036】に、「縮合触媒としては、例えば、キレート、塩、アルコラートのような有機基を有するものが挙げられる。」と記載され、【0038】には、「アルミニウム原子を含む縮合触媒(有機アルミニウム化合物)としては、例えば、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートのようなアルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブトキシビスエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート; オクチル酸アルミニウム、環状のアルミニウムオキサイドを含有する化合物(例えば、下記式(7)で表される化合物が挙げられる。)、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムトリステアレートのようなアルミニウム塩; アルミニウムsec-ブチラート、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルコキシアリールアルミネートのようなアルミニウムアルコラートが挙げられる。」と、種々の化合物が記載されているが、本件発明1の「式(1)で表されるアルミニウム化合物」に相当する化合物は記載されていない。 そうすると、本件発明1と甲1発明(1)とは、上記の相違点1で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲1発明(1)、すなわち、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 また、甲1の上記記載からは、有機アルミニウム化合物を、式(1)で表される有機アルミニウム化合物とすることは示唆されず、当業者は、甲1の記載から相違点1に係る本件発明1の構成を導き出すことはできないし、申立人が提出した他の証拠をみても同様である。 したがって、本件発明1について、甲1に記載された発明(甲1発明(1))から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 次に、本件発明1と甲1発明(2)とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1’> 本件発明1では、有機アルミニウム化合物が、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」であるのに対し、甲1発明(2)では、「トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム」である点。 そうすると、本件発明1と、甲1発明(2)とは、上記の相違点1’で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲1発明(2)、すなわち、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 また、甲1には、有機アルミニウム化合物を、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」とすることを示唆するような記載もなく、当業者は、甲1の記載から相違点1’に係る本件発明1の構成を導き出すことはできない。申立人が提出した他の証拠をみても同様である。 したがって、本件発明1について、甲1に記載された発明(甲1発明(2))から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1において、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」を「アルミニウムグリシナート」に限定した発明に相当する。 そして、本件発明2についても、上記(2)で記載したのと同様の理由によって、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、取消理由2-1及び3-1によっては、本件発明1、2についての特許を取り消すことはできない。 3.取消理由2-2及び3-2(甲2に基づく新規性及び進歩性)についての判断 (1)甲2に記載された事項及び甲2発明 甲2の請求項1によれば、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。 「アルミニウム化合物である、1分子中に2個以上のシラノール基を有するポリシロキサンと、1分子中にケイ素原子に結合しているアルコキシ基を2個以上有するシラン化合物との縮合触媒。」(以下「甲2発明」という。) (2)本件発明1について 甲2発明の「1分子中に2個以上のシラノール基を有するポリシロキサンと、1分子中にケイ素原子に結合しているアルコキシ基を2個以上有するシラン化合物との縮合触媒」は、本件発明1の「シラノール縮合触媒」に相当する。 そして、本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は、 「アルミニウム化合物を含有してなるシラノール縮合触媒。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点2> 本件発明1では、アルミニウム化合物が、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」と特定されているのに対し、甲2発明では、かかる特定はされていない点。 ここで、甲2には、「アルミニウム化合物」に関して、【0030】に、「縮合触媒としては、例えば、キレート、塩、アルコラートのような有機基を有するものが挙げられる。」と記載され、【0031】に、「アルミニウム化合物としては、例えば、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートのようなアルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブトキシビスエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート; オクチル酸アルミニウム、環状のアルミニウムオキサイドを含有する化合物(例えば、下記式(7)で表される化合物が挙げられる。)、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムトリステアレートのようなアルミニウム塩; アルミニウムsec-ブチラート、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルコキシアリールアルミネートのようなアルミニウムアルコラートが挙げられる。」と、種々の化合物が例示されているが、本件発明1の「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」に相当する化合物は記載されていない。 そうすると、本件発明1と、甲2発明とは、上記の相違点2で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲2発明、すなわち、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 また、甲2の上記記載からは、アルミニウム化合物を、式(1)で表される有機アルミニウム化合物とすることは示唆されず、当業者は、甲2の記載から相違点2に係る本件発明1の構成を導き出すことはできない。申立人が提出した他の証拠をみても同様である。 したがって、本件発明1について、甲2に記載された発明(甲2発明)から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1において、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」を「アルミニウムグリシナート」に限定した発明に相当する。 そして、本件発明2についても、上記(2)で記載したのと同様の理由によって、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、取消理由2-2及び3-2によっては、本件発明1、2についての特許を取り消すことはできない。 4.取消理由2-3及び3-3(甲3に基づく新規性及び進歩性)についての判断 (1)甲3に記載された事項及び甲3発明 甲3の請求項1及び明細書の【0058】の記載によれば、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。 「アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウム系のシラノール縮合触媒。」(以下、「甲3発明」という。) (2)本件発明2について 甲3発明の「アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート」は、「有機アルミニウム化合物」であるから、本件発明2と甲3発明は、 「有機アルミニウム化合物を含有してなるシラノール縮合触媒。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明2では、有機アルミニウム化合物が、「アルミニウムグリシナート」と特定されているのに対し、甲3発明では、「アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウム系」と特定されている点。 そうすると、本件発明2と、甲3発明とは、上記の相違点3で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲3発明、すなわち、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 また、甲3には、シラノール縮合触媒である有機アルミニウム化合物に関しては、【0058】に、「また、上記のスズ系硬化触媒以外の触媒の具体例として、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウム系硬化触媒;・・・等が例示できる。」との記載があるのみであり、甲3の記載からは、甲3発明のアルミニウム化合物を、アルミニウムグリシナートとすることは示唆されず、当業者は、甲3の記載から相違点3に係る本件発明2の構成を導き出すことはできない。申立人が提出した他の証拠をみても同様である。 したがって、本件発明2について、甲3に記載された発明(甲3発明)から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、取消理由2-3及び3-3によっては、本件発明2についての特許を取り消すことはできない。 5.取消理由2-4及び3-4(刊行物4に基づく新規性及び進歩性)についての判断 (1)刊行物4に記載された事項及び刊行物4発明 刊行物4の請求項1?3によれば、刊行物4には、次の発明が記載されていると認められる。 「シラン化合物をグラフト共重合させたポリオレフィンの組成物より成型され、水分を作用させることによって前記ポリオレフィンを架橋させたシラン架橋ポリオレフィン成型物において、ポリオレフィンの架橋促進のためのシラノール縮合触媒であって、アジピン酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウムより選択される1種以上の有機アルミニウム化合物からなるシラノール縮合触媒。」(以下、「刊行物4発明」という。) (2)本件発明1について 刊行物4発明の「シラン化合物をグラフト共重合させたポリオレフィンの組成物より成型され、水分を作用させることによって前記ポリオレフィンを架橋させたシラン架橋ポリオレフィン成型物において、ポリオレフィンの架橋促進のためのシラノール縮合触媒」は、本件発明1の「シラノール縮合触媒」に相当する。 そして、本件発明1と刊行物4発明を対比すると、両者は、 「有機アルミニウム化合物を含有してなるシラノール縮合触媒。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点4> 本件発明1では、有機アルミニウム化合物が、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」と特定されているのに対し、刊行物4発明では、「アジピン酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウムより選択される1種以上の有機アルミニウム化合物」と特定されている点。 そうすると、本件発明1と、刊行物4発明とは、上記の相違点4で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲4発明、すなわち、甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。 また、甲4には、有機アルミニウム化合物に関しては、請求項3に、「有機アルミニウム化合物は、アジピン酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウムより選択される1種以上の化合物」と記載され、【0009】に、「有機アルミニウム化合物としては、アジピン酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムあるいはオクチル酸アルミニウムが好ましい例として挙げられ、同様にこれらも、その1種、あるいは2種以上が混合されて使用される。」と記載され、表1(実施例6及び9)にオクチル酸アルミニウムを使用した例が記載されるのみであり、甲4の記載からは、刊行物4発明の有機アルミニウム化合物を、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」とすることは示唆されず、当業者は、刊行物4の記載から相違点4に係る本件発明1の構成を導き出すことはできない。申立人が提出した他の証拠をみても同様である。 したがって、本件発明1について、刊行物4に記載された発明(刊行物4発明)から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、取消理由2-4及び3-4によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。 第5-2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由は、第4の1.に記載した取消理由(iii)(甲3に基づく新規性)のうち、請求項1に係る発明についての特許に対するものである。 本件発明1と、上記第5-2の4.(1)に記載した甲3発明を対比すると、両者は、 「有機アルミニウム化合物を含有してなるシラノール縮合触媒。」 で、一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 本件発明1では、有機アルミニウム化合物が、「式(1)で表される有機アルミニウム化合物」と特定されているのに対し、甲3発明では、「アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウム系」と特定されている点。 そうすると、本件発明1と、甲3発明とは、上記の相違点5で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲3発明、すなわち、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。 よって、本件発明1についての特許を取消理由(iii)によって取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記(1)で表されるアルミニウム化合物より選択される有機アルミニウム化合物を含有してなることを特徴とするシラノール縮合触媒。 Al(OH)_(a)(R^(1))_(b) (1) (式中、R^(1)はヒドロキシル基あるいはアミノ基で置換されているアルキルカルボニルオキシ基を示し、aは0?2の整数を示し、bは1?3の整数を示す。) 【請求項2】 有機アルミニウム化合物が、アルミニウムグリシナートであることを特徴とする請求項1に記載のシラノール縮合触媒。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のシラノール縮合触媒およびポリオレフィンを含有することを特徴とするシラノール縮合触媒含有ポリオレフィン。 【請求項4】 シラノール縮合触媒の含有量がポリオレフィンに対して1000質量ppm以上40000質量ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載のシラノール縮合触媒含有ポリオレフィン。 【請求項5】 シラン変性ポリオレフィンに、請求項1若しくは2に記載のシラノール縮合触媒又は請求項3若しくは4に記載のシラノール縮合触媒含有ポリオレフィンを含有させてなることを特徴とするシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項6】 シラノール縮合触媒の含有量がシラン変性ポリオレフィンに対して50質量ppm以上2000質量ppm以下であることを特徴とする請求項5に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項7】 さらに酸化防止剤を含有させてなることを特徴とする請求項5又は6に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項8】 成型物であることを特徴とする請求項5?7の何れか1項に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 【請求項9】 成型物が、電線・ケーブル被覆材、パイプ、ホース、チューブ、各種容器、シーリング材、フィルム又はシートであることを特徴とする請求項8に記載のシラン架橋ポリオレフィン。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-08-14 |
出願番号 | 特願2013-70082(P2013-70082) |
審決分類 |
P
1
652・
537-
YAA
(C08L)
P 1 652・ 853- YAA (C08L) P 1 652・ 113- YAA (C08L) P 1 652・ 851- YAA (C08L) P 1 652・ 121- YAA (C08L) P 1 652・ 856- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠 |
特許庁審判長 |
岡崎 美穂 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 近野 光知 |
登録日 | 2017-05-26 |
登録番号 | 特許第6146089号(P6146089) |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | シラノール縮合触媒およびシラン架橋ポリオレフィン |
代理人 | 重野 剛 |
代理人 | 重野 剛 |