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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
審判 一部申し立て 2項進歩性  D02G
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D02G
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D02G
管理番号 1344868
異議申立番号 異議2018-700440  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-30 
確定日 2018-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6249955号発明「ゲル形成フィラメントまたは繊維を含むヤーン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6249955号の請求項1?3、5?8及び11に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6249955号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成24年11月29日(パリ条約による優先権主張 2011年12月1日、英国(GB))を国際出願日とする出願であって、平成29年12月1日にその特許権の設定登録がされた。
その後、平成30年5月30日に、請求項1?3、5?8及び11に係る特許について、特許異議申立人岩崎勇(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
特許第6249955号の請求項1?3、5?8及び11の特許に係る発明(以下、「本件発明1?3、5?8及び11」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3、5?8及び11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
50重量%?100重量%のゲル形成繊維と0重量%?50重量%のテキスタイル繊維とがブレンドされてなり、少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有することを特徴とするヤーン。
【請求項2】
ステープルファイバー長は30mmから60mmである請求項1に記載のヤーン。
【請求項3】
前記ヤーンは、60重量%から100重量%のゲル形成繊維と0重量%から40重量%のテキスタイル繊維とがブレンドされている請求項1又は2に記載のヤーン。
【請求項5】
(i)セルロース系繊維またはフィラメントのヤーンを得るステップを備え、前記ヤーンにおける少なくとも50重量%?100重量%のセルロース系繊維またはフィラメントは、ゲル形成繊維またはフィラメントを形成することができ、また、
(ii)前記ヤーンにゲル形成特性を付与するために前記ヤーンを化学的に改質するステップを備え、化学的に改質されたヤーンは50重量%?100重量%のゲル形成繊維を含み、また、
(iii)前記化学的に改質されたヤーンを編むか又は織って前記布構造を作るステップを備えたことを特徴とするゲル形成繊維またはフィラメントを含む布構造を製造するための方法。
【請求項6】
化学的な改質は、アルカリとモノクロロ酢酸を有機溶剤に溶かした溶液を含む反応流体を用いたカルボキシメチル化である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ゲル形成繊維は、多糖類繊維、化学的に改質されたセルロース系繊維、ペクチン繊維、アルギン酸繊維、キトサン繊維、ヒアルロン酸繊維、またはガムに由来する繊維である請求項1乃至3のいずれか1に記載のヤーン。
【請求項8】
前記ゲル形成繊維は変性セルロース系繊維である請求項1乃至3及び請求項7のいずれか1に記載のヤーン。
【請求項11】
前記ヤーンは、編みによって、少なくとも50重量%のゲル形成繊維を含む布に変換されることができる請求項1に記載のヤーン。

3.申立理由の概要
申立人は、以下の《理由1》?《理由3》により、本件発明1?3、5?8及び11に係る特許を取り消すべきである旨を主張している。
《理由1》
本件発明1の発明特定事項「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、本件発明の課題そのものであって、課題解決手段ではなく、本件発明1?3、5?8及び11には課題解決手段が規定されていないから、本件発明1?3、5?8及び11は、本件特許明細書に記載された発明ではなく、また、本件特許明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
ゆえに、本件特許の特許請求の範囲及び本件特許明細書の記載は、特許法第36条第6項1号及び同条第4項第1号の規定を満たしていない(以下「サポート要件及び実施可能要件違反」という。)から、その特許は、同法113条第4号に該当し、取り消すべきである。
《理由2》
本件発明1及び2の発明特定事項「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、本件発明の課題そのものであって、無視すべきものであるから、本件発明1及び2は、特表2000-510539号公報(甲第1号証、以下「甲1」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)である。
ゆえに、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項3号に該当するから、その特許は、同法113条第2号に該当し、取り消すべきである。
《理由3》
本件発明1?3、7、8及び11の発明特定事項「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、本件発明の課題そのものであって、無視すべきものであるから、本件発明1?3、7、8及び11は、甲1発明及び特表2003-510475号公報(甲第2号証、以下「甲2」という。)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ゆえに、本件発明1?3、7、8及び11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法113条第2号に該当し、取り消すべきである。

4.甲1及び2の記載
(1)甲1について
ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
1.織物繊維及びゲル形成繊維の混合物からなる創傷ドレッシングであって、該ドレッシングが支持ヤーン及びはめ込まれたヤーンからなる編んだファブリックであり、支持ヤーンが実質的にゲル形成繊維を有しない創傷ドレッシング。
・・・
3.はめ込まれたヤーンがステープルヤーンである請求項1又は2の創傷ドレッシング。
4.はめ込まれたヤーンが、0-80重量%の織物繊維及び20-100重量%のゲル形成繊維からなる請求項1-3の何れか一つの項の創傷ドレッシング。
5.支持ヤーンが連続フィラメントビスコース、ポリエステル又はポリプロピレンヤーンである請求項1-4の何れか一つの項の創傷ドレッシング。
・・・
12.ゲル形成繊維が、アルギネート又はアルギネート複合繊維であり、アルギネート複合繊維は、35重量%より多い、好ましくは50重量%より多いアルギネート含量を有する請求項1-11の何れか一つの項の創傷ドレッシング。
・・・
14.創傷の治療に使用される治療材の製造における請求項1の創傷ドレッシングの用途。」(2頁1行?3頁末行)

(イ)「実施例 1
本発明による創傷ドレッシングは、以下のようにして製造された。縦糸編みのはめ込まれたヤーンを形成するステープルヤーンは、以下のやり方でゲル繊維及び織物繊維から製造された。Bristol-Meyers Squibb Companyのヨーロッパ特許A第0721355号に記載され(そして製品KALTOGEL ex ConvaTecに使用されるような)製造されたアルギネートゲル繊維(20kg)及びポリプロピレン(20kg)(すべて3デニール)を40mmのステープルの長さに切り、そして従来の短ステープル棉打ちライン-Truteschler Openingラインで、約100gsmのラップに転化した。ラインは、供給テーブル、粗繊維オープンナー、体積供給機、ファインオープンナー及びラップ形成機からなった。
形成されたラップを、ウーステッドタイプすき機、すなわち秤量パンホッパ、繊維オープン部分及び主すき円筒からなるThibeau CA6に供給した。形成された繊維のウエブを、長さ1mあたり5gの平均重量のスライバーの形に圧縮した。
スライバーを次に従来の短ステープル延伸フレームすなわちPlatts Globe Draw Frameで細くし、その場合、ローラを異なる表面速度で操作して、スライバーの多数の供給物(6-8)を均一な重量及び太さ(長さ1mあたり約3g)に均一な単一のスライバーに細くした。
延伸されたスライバーを、スライバーをさらに細くする粗紡糸フレームで粗紡糸に転化した。撚りを加えてストランドに結合力を加えた。粗紡糸を次にリング紡糸機で紡糸し、その場合、さらなるドラフトが起こりそして撚りを加えて最終のヤーンを形成した。
はめ込まれたヤーンとして上記のステープルヤーン、そして支持ヤーンとして連続的なフィラメントの縮んだポリエステルヤーンからなる本発明による編んだ創傷ドレッシングが製造された。ドレッシングは、かぎ編み編み機(モデルSTP7 ex KOHLER)で編まれ、そのそれぞれの針は、支持又は柱ヤーンからの編み目の鎖を形成する。鎖は、はめ込まれたヤーンにより一緒にされる。45個の柱ヤーンの鎖は、150デニールの縮められたポリエステルヤーンから編まれた。これらは、44列のはめ込まれたヤーンにより一緒にされてドレッシングを形成した。」(9頁10行?10頁12行)

イ.甲1発明
上記4.(1)ア.(ア)に摘記した事項を踏まえると、上記4.(1)ア.(イ)に摘記した、「製造されたアルギネートゲル繊維(20kg)及びポリプロピレン(20kg)(すべて3デニール)を40mmのステープルの長さに切り、そして従来の短ステープル棉打ちライン-Truteschler Openingラインで、約100gsmのラップに転化した。」ものをもとに製造された「最終のヤーン」は、50重量%のアルギネートゲル繊維(ゲル形成繊維)と50重量%のポリプロピレン繊維(織物繊維)とがブレンドされてなるヤーンといえる。
ゆえに、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認める。
《甲1発明》
「50重量%のアルギネートゲル繊維(ゲル形成繊維)と50重量%のポリプロピレン繊維(織物繊維)とがブレンドされてなるヤーン。」

(2)甲2について
ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項14】
(a)補強ファイバまたはフィラメント、および
(b)ゲル生成ファイバ、またはゲル生成ファイバ先駆物質からなり、ここで
(b)が(a)と結合されて連続糸を生成する、自己補強複合糸。」
(イ)「【0001】
発明の分野
本発明は、比較的多量の流体を吸収できるファブリックに関する。特に放血の抑制に適するようなファブリックの実施例もある。
【0002】
発明の背景
種々の医療および他の目的のため、湿潤するとゲル化したり体液を吸収する、糸を含み、繊維質材料を使用することは周知である。このような材料は、手術中の消毒用布として、また止血剤や傷の手当て用品として使用される。このような材料の問題は、湿ると軟弱になりやすいことである。これらの材料で作られる構造体は、血液または体液を吸収すると破損もしくは一体性を失いやすい。」

イ.甲2発明
上記4.(1)ア.(ア)及び(イ)に摘記した事項からみて、甲2には以下の甲2発明が記載されていると認める。
《甲2発明》
「ゲル生成ファイバまたはゲル生成ファイバ先駆物質が補強ファイバまたはフィラメントと結合されて連続糸を生成する、自己補強複合糸。」

5.判断
(1)理由1について
ア.本件特許明細書等の記載
本件特許明細書及び図面には以下が記載されている。
(ア)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゲル形成フィラメントまたは繊維を含むヤーン(糸)に関し、特に、織った又は編んだ創傷ドレッシング材(wound dressing)つまり創傷被覆材その他のゲル化布構造体を作るために使用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル形成繊維から創傷被覆材を作ることが知られている。通常、このような繊維は、繊維の吸収性及びゲル化特性を高めるために、化学的に改質されたセルロースやアルギン酸塩等の多糖類から抽出される。
【0003】
ゲル形成繊維は脆い傾向があり、このため、その使用は、例えば、不織布の技術を用いて製造されるもの等、単純な布構造に限定されてきた。例えば繊維のカーディング(carding)つまり綿梳を行って不織のフェルトにし、フェルトを積層して、ニードルパンチングを行うことで、幾らかの一体性を有する布(ファブリック)を提供する。このことは、ステープルゲル形成繊維で作製することができる被覆材(dressing)タイプのものは、不織布から作ることができるものに限られ、従って、それらの使用は限定的であることを意味している。例えば、張力つまり引っ張りを受けることになる態様でゲル形成繊維からなる創傷被覆材を製造することは困難である。なぜならば、その不織性は張力に弱いことを意味するからである。また、チューブまたはソックスなど、一定の形状を作ることも困難である。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
故に、ゲル形成フィラメントまたは繊維からなり、織りまたは編みによって布に加工することのできる程十分な強度を有するヤーンを作ることができれば、望ましい。」
(ウ)「【0012】
本発明のヤーンの乾燥引張強度は、英国規格ISO20622009による測定で、好ましくは、少なくとも10cN/tex、より好ましくは10 cN/tex から 40 cN/tex、最も好ましくは、16 cN/tex からo 35 cN/texである。」
(エ)「【0015】
特に適したヤーンはロータ紡績またはオープンエンド紡績によって形成できることを我々は見出した。そのようなプロセスにおいて、ステープルゲル形成繊維をテキスタイル繊維とブレンドして、カーディングを行い、連続するウェブを生成する。このウェブを凝縮してカードスライバー(card sliver)を作った後、ロータで紡ぐ。ロータ紡績において、高速遠心分離器を使って個々の繊維を集めて撚ってヤーンにする。この技術によって作られたヤーンは、編み機または織機を用いてさらに加工することを可能にするのに十分な引張強度特性を有する。」
(オ)「【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る何本かのヤーンについてのヤーン引張強度データを示すグラフである。」
(カ)「【0023】
実施例1 - ステープルゲル形成繊維からヤーンを紡糸
ツルッシュラー梳綿機(Trutzschler cotton card)でカーディングを行い、得られたスライバーを1メートル当たり650回転の撚りをかけることによって、カルボキシメチルセルロースステープル繊維(CMC)とリヨセル繊維とのブレンドを、CMC対リヨセル繊維比を50:50、60:40,70:30として作った。」
(キ)「【0024】
実施例2 - テキスタイルヤーンをゲル形成ヤーンに変換
ミニ試験機を用いて実験室でヤーンを変換した。両テストにおいて、ステープルヤーンとフィラメントリヨセルヤーンとを変換した。変換に使用したヤーンは、33テックス テンセル(登録商標)、HF-2011/090、そして20テックス フィラメントリヨセルバッチであるHF-2011/051 (テスト1)及びHF-2011/125 (テスト2)であった。テンセル(登録商標)は、レンチング(Lenzing)社が所有するリヨセルの登録商標であり、使用したテンセル(登録商標)ヤーンはスパンステープルヤーンであった。また、フィラメントリヨセルは、アセロンケミカルズアンドファイバーコーポレーション(Acelon chemicals and Fiber Corporation)(台湾)により、オフトリー社(Offtree Ltd)を通じて供給された。
【0025】
ヤーンを変換する利点とは、コーン巻きされたヤーン全部を1つの比較的簡単な工程で変換できる可能性があること、そして、ゲル化繊維の加工を回避でき、したがって必要とされる工程数及び繊維へのダメージを減らせることである。
【0026】
テスト1-キヤーコア(kier core)に巻かれたヤーン
このテストでは、電気ドリル用いてキヤーのコアを回転させ、速度に応じてヤーンをパッケージから引っ張り出すことにより、キヤーの穴の開いたコアにテンセル(登録商標)ヤーンをきつく巻いた。これは、ヤーンが緊張した(張力を受けた)状態でコアにしっかりときつく巻かれることを意味した。
【0027】
そのヤーンを、WO 00/01425に記載の方法で変換した。つまり、流体をキヤー(kier)内したがってセルロース材料に65℃で90分間ポンプで送ることにより、カルボキシメチル化を行った。反応流体は、アルカリ(典型的には、水酸化ナトリウム)とモノクロロ酢酸ナトリウムを工業用変性アルコールに溶かした溶液である。反応時間後、反応物を酸で中和し、洗浄した後、実験室オーブンの中で、1時間、40℃で乾燥させた。
【0028】
変換は成功し、ステープルゲル化ヤーンとフィラメントゲル化ヤーンの両方つまりHF-2011/103 と HF-2011/105とを作ることができた。ステープルヤーンをコアにきつくかつ不均一に巻いたため、メスを用いて除去する必要があり、したがって、複数の短い長さ(約14cm)の変換ヤーンとなった。
【0029】
テスト2-ヤーンの小さなかせ(hanks)
2番目のテストの目的はより長い長さの変換ヤーンを作ることであったので、ステープルリヨセルヤーンとフィラメントリヨセルヤーンそれぞれで小さなかせを手作りし、これらを変換のために布(fabric)の層の間に配置した。
【0030】
それらのかせをキヤーに置き、テスト1について述べたようにゲル形成繊維ヤーンを形成するように変換することによって、ヤーンを変換した。
【0031】
変換は成功して、ステープルゲル化ヤーンとフィラメントゲル化ヤーン(それぞれHF-2011/146とHF-2011/147)の両方ができた。」
(ク)「【0032】
ヤーンの概要
試料 HF#
ゲル化ヤーン 50:50 スパンステープルゲル化ヤーン HF-2011/001
60:40 スパンステープルゲル化ヤーン HF-2011/088
70:30 スパンステープルゲル化ヤーン HF-2011/108

変換ステープルヤーン(テスト1) HF-2011/103
変換フィラメントヤーン(テスト1) HF-2011/105
変換ステープルヤーン(テスト2) HF-2011/146
変換フィラメントヤーン(テスト2) HF-2011/147
・・・」
(ケ)「【0033】
実施例1及び2の結果
HF-2011/051を除いて、ヤーンの全てを湿潤および乾燥引張強度について試験した。規格方法BS EN ISO 2062:2009「テキスタイル-パッケージからのヤーン:定速伸張形(CRE)試験機を用いての単一端の破断力と破断時の伸びの測定(Textiles - Yarns from packages: Determination of single-end breaking force and elongation at break using constant rate of extension (CRE) tester)」に対して必要な修正を行った。ツウィック(Zwick)引張試験機を用い、ゲージ長さを100mmとした。この試験は、破断点に達するまでヤーンに定速伸張を与えるために100N又は20Nのロードセルを用いた。湿潤引張試験での測定は、各ヤーンの中央3cmから4cmを0.2mlの溶液Aで試料を濡らし、1分間放置した。その後、湿潤試料をツウィック試験機のあご部に設置し、締め付けた。引張強度を試験した理由は、製造されたヤーンは、編み作業、織り作業、刺繍作業中に加えられる引っ張りや力に耐えるのに十分強くなければならないからである。」
(コ)「【0034】
引張強度
結果を図1に示す。ヤーンの全てが、湿潤時よりも乾燥時の方が強かった。そして、HF-2011/108(70:30ゲル化ヤーン)が、最大の比例強度低下を示した。
【0035】
試験したヤーンの中で、湿潤及び乾燥のいずれにおいてもHF-2011/108が最も弱いヤーンであり、リヨセル繊維の含有量が30%であるにも拘わらず、その引張強度は湿潤及び乾燥それぞれにおいて12.4cN/Tex及び3.4cN/Texであった。これは最も弱いヤーンであったが、うまく横編みでき(HF-2011/120)、また、布に織ることもできた(HF-2011/169)ので、他の全てのヤーンも布に変換するのに十分な強さを有すると考えられる。」

イ.サポート要件及び実施可能要件違反の有無について
本件発明の課題は、本件特許明細書の記載(上記5.(1)ア.(ア)を参照)からみて、「ゲル形成フィラメントまたは繊維からなり、織りまたは編みによって布に加工することのできる程十分な強度を有するヤーンを得ること」であると認められる。
そして、本件特許明細書には、
(A)「ヤーンの乾燥引張強度は、英国規格ISO20622009による測定で、好ましくは、少なくとも10cN/tex」であり(上記5.(1)ア.(ウ)を参照)、
(B)「カルボキシメチルセルロースステープル繊維(CMC)(ゲル形成繊維)とリヨセル繊維(テキスタイル繊維)とのブレンドを、CMC対リヨセル繊維比を50:50、60:40,70:30として作った(上記5.(1)ア.(カ)を参照)ものと、
(C)「ステープルヤーンとフィラメントリヨセルヤーン(セルロース系繊維またはフィラメント)を準備し、「流体をキヤー(kier)内したがってセルロース材料に65℃で90分間ポンプで送ることにより、カルボキシメチル化を行った。」ことにより、「変換は成功し、ステープルゲル化ヤーンとフィラメントゲル化ヤーンである」「HF-2011/103とHF-2011/105」及び「HF-2011/146とHF-2011/147」とを作った(上記5.(1)ア.(キ)を参照)ものの双方について、
(D)「製造されたヤーンは、編み作業、織り作業、刺繍作業中に加えられる引っ張りや力に耐えるのに十分強くなければならない」ことを理由に「湿潤および乾燥引張強度について試験した」(上記5.(1)ア.(ケ)を参照)ことが記載され、
(E)その結果を示す【図1】からは、上記(B)の「HF-2011/001」、「HF-2011/088」及び「HF-2011/108」なるヤーン及び上記(C)の「HF-2011/103」、「HF-2011/146」及び「HF-2011/147」の乾燥状態での引張強度がいずれも10cn/Texを超えていることが看取され、
(F)上記ヤーンの中で最も湿潤及び乾燥のいずれにおいても弱いヤーンであった「HF-2011/108」でも、うまく横編みでき、また、布に織ることもできたから、他のヤーンも布に変換するのに十分な強さを有すると考えられる(上記5.(1)ア.(コ)を参照)旨が記載されている。
してみると、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2、3、7、8及び11は、ヤーンが「50重量%?100重量%のゲル形成繊維と0重量%?50重量%のテキスタイル繊維とがブレンドされてなり」、「少なくとも10cn/texの乾燥引張強度を有すること」を発明特定事項とすることにより、上記課題を解決したものと理解することができる。
また、本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6は、少なくとも、「セルロース系繊維またはフィラメントのヤーンを得るステップを備え」、「前記ヤーンにゲル形成特性を付与するために前記ヤーンを化学的に改質するステップを備え」、「前記化学的に改質されたヤーンを編むか又は織って前記布構造を作るステップを備えたこと」を発明特定事項とすることにより、上記課題を解決したものと理解することができる。
したがって、本件発明1?3、5?8、11には課題解決手段が発明特定事項として規定されており、本件発明1?3、5?8、11は、本件特許明細書に記載された発明であり、また、本件特許明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

ウ.申立人の主張について
申立人は、本件発明1の発明特定事項「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、本件発明の課題そのものであって、課題解決手段ではない旨を主張(以下、「主張1」という。)しているが、上記5.(1)イ.で示したように、上記「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、課題解決に寄与する発明特定事項であるから、上記主張1は、当を得ておらず、採用できない。
また、申立人は、本件発明の課題解決手段は「ロータ紡績」であり、本件発明1?3、5?8、11は、上記「ロータ紡績」を発明特定事項としていないから、実施可能要件又はサポート要件違反である旨も主張(以下、「主張2」という。)している(特許異議申立書19頁3?12行)。
これに関し、本件特許明細書には、「特に適したヤーンはロータ紡績またはオープンエンド紡績によって形成できることを見出し、ロータ紡績において、得られたヤーンは、編み機または織機を用いてさらに加工することを可能にするのに十分な引張強度特性を有する」旨(上記5.(1)ア.(エ)を参照)が記載されているものの、上記5.(1)イ.で示した「(B)「カルボキシメチルセルロースステープル繊維(CMC)(ゲル形成繊維)とリヨセル繊維(テキスタイル繊維)とのブレンドを、CMC対リヨセル繊維比を50:50、60:40,70:30として作った(上記5.(1)ア.(カ)を参照)もの」と、「(C)「ステープルヤーンとフィラメントリヨセルヤーン(セルロース系繊維またはフィラメント)を準備し、「流体をキヤー(kier)内したがってセルロース材料に65℃で90分間ポンプで送ることにより、カルボキシメチル化を行った。」ことにより、「変換は成功し、ステープルゲル化ヤーンとフィラメントゲル化ヤーンである」「HF-2011/103とHF-2011/105」及び「HF-2011/146とHF-2011/147」とを作ったもの」の双方について、「ロータ紡績」を用いた旨は、本件特許明細書には記載されていない。
したがって、本件特許明細書における「ロータ紡績」についての記載は、更に、引張強度特性を向上させる手法についてのものと解するのが相当であって、本件発明の課題解決に不可欠な事項とまではいえないから、主張2は採用できない。

エ.理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3、5?8、11には課題解決手段が発明特定事項として規定されており、本件発明1?3、5?8、11は、本件特許明細書に記載された発明であり、また、本件特許明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるから、理由1には理由がない。

(2)理由2及び3について
ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比、判断
本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点1-1》
本件発明1は、少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有するのに対し、甲1発明はどの程度の乾燥引張強度を有するのかが不明である点。
上記《相違点1-1》について、検討する。
甲1には、乾燥引張強度についての記載がなく、この点は甲2にも記載されていない。
そして、本件発明1は、上記の点により、「ゲル形成フィラメントまたは繊維からなり、織りまたは編みによって布に加工することのできる程十分な強度を有するヤーンを得る」という課題を解決したものである(上記5.(1)イ.を参照)。
したがって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

なお、申立人は、上記「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、本件発明の課題そのものであって、無視すべきものであることを前提に、本件発明1は甲1発明である旨を主張しているが、上記5.(1)イ.及びウ.で示したように、上記「少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有すること」は、課題解決に寄与する発明特定事項であるから、上記主張は、その前提を欠くものであり、採用できない。

(イ)本件発明1と甲2発明との対比、判断
本件発明1と甲2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点1-2》
本件発明1は、少なくとも10cN/texの乾燥引張強度を有するのに対し、甲2発明はどの程度の乾燥引張強度を有するのかが不明である点。
上記《相違点1-2》について、検討する。
甲2には、乾燥引張強度についての記載がなく、この点は甲1にも記載されていない。
そして、本件発明1は、上記の点により、「ゲル形成フィラメントまたは繊維からなり、織りまたは編みによって布に加工することのできる程十分な強度を有するヤーンを得る」という課題を解決したものである(上記5.(1)イ.を参照)。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.本件発明2、3、7、8及び11について
本件発明2、3、7、8及び11は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ.理由2及び3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明ではないし、本件発明1?3、7、8及び11は甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、理由2及び3には理由がない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1?3、5?8及び11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。
そして、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件発明1?3、7、8及び11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、その特許は、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?3、5?8及び11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3、5?8及び11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-28 
出願番号 特願2014-543972(P2014-543972)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (D02G)
P 1 652・ 121- Y (D02G)
P 1 652・ 113- Y (D02G)
P 1 652・ 537- Y (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 蓮井 雅之
渡邊 豊英
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6249955号(P6249955)
権利者 コンバテック・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
発明の名称 ゲル形成フィラメントまたは繊維を含むヤーン  
代理人 前堀 義之  
代理人 山尾 憲人  
代理人 大畠 康  
代理人 磯江 悦子  

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