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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1345273
審判番号 不服2017-14918  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-05 
確定日 2018-10-19 
事件の表示 特願2013-14458「反射防止フィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年8月14日出願公開,特開2014-145914〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2013-14458号(以下「本件出願」という。)は,平成25年1月29日を出願日とする特許出願であって,その後の手続等の経緯は,以下のとおりである。
平成28年10月12日付け:拒絶理由通知書
平成29年 2月17日付け:意見書
平成29年 2月17日付け:手続補正書(以下「本件手続補正書」という。)
平成29年 6月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年10月 5日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである。
「 基材と,該基材側から順に,中屈折率層と,高屈折率層と,低屈折率層とを有し,
該基材の屈折率が1.45?1.65の範囲であり,
該中屈折率層が,バインダー樹脂と無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を該基材上に塗布および硬化することにより形成され,屈折率が1.67?1.78の範囲であり,厚みが70nm?120nmであり,
該高屈折率層の屈折率が2.00?2.60の範囲であり,厚みが14nm?25nmであり,
該低屈折率層の屈折率が1.35?1.55の範囲であり,厚みが70nm?120nmである,
反射防止フィルム。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2001-281415号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,反射防止フィルタ及びその製造方法に関する。
…(省略)…
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
…(省略)…
【0009】本発明は,上述したような従来の実情に鑑みて提案されたものであり,最小限の層数で優れた低反射特性を有する表示装置用反射防止フィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の反射防止フィルタは,基材と,当該基材上に形成された反射防止層を備え,上記反射防止層は,基材上に形成され無機微粒子が樹脂材料中に分散されてなる第1の構成層と,第1の構成層上に形成され無機酸化物,無機窒化物又は無機酸窒化物からなる第2の構成層と,第2の構成層上に形成され無機酸化物又は無機フッ化物からなる第3の構成層とを少なくとも有することを特徴とする。
【0011】上述したような本発明に係る反射防止フィルタでは,第1の構成層が,無機微粒子が樹脂材料中に分散されてなるので,中間屈折率膜が容易にかつ安価に形成される。また,この反射防止フィルタでは,第2の構成層以降が,無機酸化物,無機窒化物,無機酸窒化物又は無機フッ化物からなるので,膜厚制御性及び面内の膜厚均一性に優れた低反射性膜となる。」

イ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について説明する。
【0015】本実施の形態に係る反射防止フィルタ1は,図1に示すように,透明基材2と,透明基材2上に形成された反射防止層3と,反射防止層3上に形成された保護層4とから構成される。」
(当合議体注:図1は以下の図である。

)

ウ 「【0016】透明基材2は,表示装置としての機能を満たすものであれば特に限定されることはなく,例えばガラス板やプラスチック板,プラスチックフィルムなどが利用できる。
…(省略)…
【0020】反射防止層3は,透明基材側から順に積層された第1の反射防止膜5と,第2の反射防止膜6と,第3の反射防止膜7とから構成される。そして,第1の反射防止膜5は,屈折率が1.6?1.9の範囲の中屈折率層であり,第2の反射防止膜6は,屈折率が1.9?2.8の範囲の高屈折率層であり,第3の反射防止膜7は,屈折率が1.3?1.6の範囲の低屈折率層である。
【0021】ここで,本発明の反射防止フィルタ1では,反射防止層3のうち,第1の反射防止膜5が湿式塗布法によって形成されており,第2の反射防止膜6及び第3の反射防止膜7がPVD(Psysical Vapor Deposition)法又はCVD(ChemicalVapor Deposition)法により形成されている。
…(省略)…
【0040】上述したような種々の方法により形成される第1の反射防止膜5の膜厚としては,可視光領域において広範囲な低反射特性を得るため,光学的な膜厚がλ/4前後であることが好ましい。なお,第2層目以降の成膜速度のより遅いPVD/CVD法による合計膜厚を薄くするために,第1の反射防止膜5の光学的な膜厚をλ/4よりやや厚くする方が,生産性を上げることができるため産業上好ましい。
…(省略)…
【0044】そして,このような第2の反射防止膜6は,光波長550nmにおける光学的膜厚が1/4波長以下であることが好ましい。
…(省略)…
【0058】
【実施例】以下,本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】〈実施例1〉まず,基材として厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。このPETフィルムの片面には,予め表面硬度を確保するためのハードコート処理が施されている。
【0060】次に,特開平6-056478号公報に開示されているのと同様に,2.8gのアンチモンドープ酸化錫微粉末(粒径5?10nm)と0.3g(SiO_(2)換算)ポリエーテル変性シリコーンオイルと196.4gの水とを混合して,均一な分散液とし,グラビアコート法により上記基材上に塗布し,その後50℃で3分間乾燥させ,屈折率1.75,膜厚79nmの第1の反射防止膜を形成した。
【0061】次に,第1の反射防止膜上に,スパッタリング法により,誘電体のTiO_(2)を厚さ115nmに被着させて第2の反射防止膜を形成した。されに,第2の反射防止膜上に,スパッタリング法により,誘電体のSiO_(2)を厚さ93nmに被着させて第3の反射防止膜を形成して反射防止フィルタを完成した。なお,この反射防止フィルタは,光学的な膜厚が第1の反射防止膜側から順にλ/4,λ/2,λ/4となる設計とした。
【0062】〈実施例2〉まず,膜厚を110nmとしたこと以外は,実施例1と同様にして第1の反射防止膜を形成した。
【0063】次に,第1の反射防止膜上に,スパッタリング法により,誘電体のTiO_(2)を厚さ12nmに被着させて第2の反射防止膜を形成した。さらに,第2の反射防止膜上に,スパッタリング法により,誘電体のSiO_(2)を厚さ107nmに被着させて第3の反射防止膜を形成して反射防止フィルタを完成した。
…(省略)…
【0070】そして,以上のようにして作製された反射防止フィルタについて,計算機によるシュミレーションを行い,表面反射(視感反射率),反射率が1%以下になる波長範囲を算出した。なお,このときの反射防止膜の構成材料の光学的屈折率としては,表1に示す数値を用いた。
【0071】
【表1】

【0072】各実施例及び比較例の反射防止フィルタについて,計算機によるシュミレーション結果を表2に示す。また,実施例1,実施例2,比較例1及び比較例2の反射防止フィルタの反射特性を図6乃至図9に示す。
【0073】
【表2】


(当合議体注:図6?図9は以下の図である。
図6:


図7:


図8:


図9:

)

エ 「【0074】表2及び図6乃至図9から明らかなように,反射防止層の第1層目を湿式塗布法により形成し,第2及び第3層目をPVD法により形成した実施例1及び実施例2の反射防止フィルタは,3層とも湿式塗布法により形成した比較例1の反射防止フィルタ,及び3層ともPVD法により形成した比較例2の反射防止フィルタと比較して,表面反射が小さく,また,反射率が1%以下になる波長領域も広く,優れた反射防止機能を有していることがわかる。
【0075】また,実施例2では,第1層目の光学的膜厚をλ/4よりやや厚く,かつ第2層目の光学的膜厚をλ/4以下(137.5nm)として反射防止フィルタを作製した。この実施例2の反射防止フィルタは,反射特性は実施例1の反射防止フィルタにやや劣るが,成膜速度の遅いPVD法で成膜する第2層と第3層の合計膜厚を208nmから119nmへ薄くすることができ,製造コストが安くできるため,産業上より好ましいと言える。
…(省略)…
【0079】
【発明の効果】本発明では,PVD/CVD法による高精度な成膜との組み合わせにより,大面積へ安定して高品質の低反射膜を形成できる。またPVD/CVD法の成膜速度が遅いという欠点を改善でき,安価に低反射膜を形成できる。」

(2) 引用発明
引用文献1の【0059】?【0062】の記載からは,実施例2の反射防止フィルタとして,次の発明が把握される(以下「引用発明」という。)。
「 基材として厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルムを用い,
2.8gのアンチモンドープ酸化錫微粉末(粒径5?10nm)と0.3g(SiO_(2)換算)ポリエーテル変性シリコーンオイルと196.4gの水とを混合して,均一な分散液とし,グラビアコート法により上記基材上に塗布し,その後50℃で3分間乾燥させ,屈折率1.75,膜厚110nmの第1の反射防止膜を形成し,
第1の反射防止膜上に,スパッタリング法により,誘電体のTiO_(2)を厚さ12nmに被着させて第2の反射防止膜を形成し,
第2の反射防止膜上に,スパッタリング法により,誘電体のSiO_(2)を厚さ107nmに被着させて第3の反射防止膜を形成して完成させた,
反射防止フィルタ。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 基材,中屈折率層,高屈折率層,低屈折率層
引用発明の「第1の反射防止膜」,「第2の反射防止膜」及び「第3の反射防止膜」は,それぞれ,「基材上に」,「第1の反射防止膜上に」及び「第2の反射防止膜上に」形成したものである。また,引用発明の「第1の反射防止膜」は「屈折率1.75」であるところ,引用発明の「第2の反射防止膜」の屈折率が1.75より高く,「第3の反射防止膜」の屈折率が1.75より低いことは,その材料からみて明らかである(引用文献1の【0071】の【表1】からも確認できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「反射防止フィルタ」は,「厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム」である基材と,該基材側から順に,中屈折率の第1の反射防止膜と,高屈折率の第2の反射防止膜と,低屈折率の第3の反射防止膜を有する,フィルム形状のものといえる。
したがって,引用発明の「反射防止フィルタ」,「基材」,「第1の反射防止膜」,「第2の反射防止膜」及び「第3の反射防止膜」は,それぞれ本願発明の「反射防止フィルム」,「基材」,「中屈折率層」,「高屈折率層」及び「低屈折率層」に相当する。また,引用発明の「反射防止フィルタ」は,本願発明の「反射防止フィルム」の,「基材と,該基材側から順に,中屈折率層と,高屈折率層と,低屈折率層とを有し」という要件を満たす。

イ 基材の屈折率
引用発明の「基材」の材質は,「ポリエチレンテレフタレート」である。
したがって,引用発明の「基材」が,本願発明の「基材」の,「基材の屈折率が1.45?1.65の範囲であり」という要件を満たすことは明らかである。

ウ 中屈折率層
引用発明の「第1の反射防止膜」は,「2.8gのアンチモンドープ酸化錫微粉末(粒径5?10nm)と0.3g(SiO_(2)換算)ポリエーテル変性シリコーンオイルと196.4gの水とを混合して,均一な分散液とし,グラビアコート法により上記基材上に塗布し,その後50℃で3分間乾燥させ」て「形成し」たものである。また,引用発明の「ポリエーテル変性シリコーンオイル」が,「アンチモンドープ酸化錫微粉末」のバインダー樹脂といえること,及び引用発明の「アンチモンドープ酸化錫微粉末」が,無機微粒子に該当することは,技術的にみて明らかである(引用文献1の【0010】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「第1の反射防止膜」は,バインダー樹脂と無機微粒子とを含む第1の反射防止膜形成用組成物を基材上に塗布および硬化することにより形成されたものといえる。
加えて,引用発明の「第1の反射防止膜」は,「屈折率1.75,膜厚110nm」のものである。
したがって,引用発明の「第1の反射防止膜」は,本願発明の「中屈折率層」の,「バインダー樹脂と無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を該基材上に塗布および硬化することにより形成され,屈折率が1.67?1.78の範囲であり,厚みが70nm?120nmであり」という要件を満たす。
(当合議体注:本件出願の明細書の【0023】には,「バインダー樹脂は,代表的には電離線硬化型樹脂であり,より具体的には紫外線硬化型樹脂である。」と記載され,また,引用発明の「ポリエーテル変性シリコーンオイル」は「電離線硬化型樹脂」には該当しない。しかしながら,仮にこの点を相違点としても,電離線硬化型樹脂であるバインダー樹脂と無機微粒子からなる組成物は,当業者における周知慣用技術にすぎず,審決の結論を左右しない。)

エ 高屈折率層
引用発明の「第2の反射防止膜」は,「スパッタリング法により,誘電体のTiO_(2)を厚さ12nmに被着させて」形成したものである。ここで,引用発明の「第2の反射防止膜」は,その材質からみて,「屈折率が2.00?2.60の範囲」にあることは明らかである(引用文献1の【0071】の【表1】からも確認できる事項である。)。
したがって,引用発明の「第2の反射防止膜」は,本願発明の「高屈折率層」における「屈折率が2.00?2.60の範囲であり,厚みが14nm?25nmであり」という要件のうち,「屈折率が2.00?2.60の範囲であり」という要件を満たす。

オ 低屈折率層
引用発明の「第3の反射防止膜」は,「スパッタリング法により,誘電体のSiO_(2)を厚さ107nmに被着させて」形成したものである。ここで,引用発明の「第3の反射防止膜」は,その材質からみて,「屈折率が1.35?1.55の範囲」にあることは明らかである(引用文献1の【0071】の【表1】からも確認できる事項である。)。
したがって,引用発明の「第3の反射防止膜」は,本願発明の「低屈折率層」における,「屈折率が1.35?1.55の範囲であり,厚みが70nm?120nmである」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
以上勘案すると,本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 基材と,該基材側から順に,中屈折率層と,高屈折率層と,低屈折率層とを有し,
該基材の屈折率が1.45?1.65の範囲であり,
該中屈折率層が,バインダー樹脂と無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を該基材上に塗布および硬化することにより形成され,屈折率が1.67?1.78の範囲であり,厚みが70nm?120nmであり,
該高屈折率層の屈折率が2.00?2.60の範囲であり,
該低屈折率層の屈折率が1.35?1.55の範囲であり,厚みが70nm?120nmである,
反射防止フィルム。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
高屈折率層の厚みが,本願発明は「14nm?25nm」であるのに対して,引用発明は「12nm」である点。

(3) 判断
高屈折率層の厚みについて,引用文献1の【0044】には,「第2の反射防止膜6は,光波長550nmにおける光学的膜厚が1/4波長以下であることが好ましい。」と記載されている。また,引用発明において,「光波長550nmにおける光学的膜厚が1/4波長」は,約58nmと計算される(550nm÷4÷2.39≒58nm)。
そうしてみると,引用発明の「第2の反射防止膜」の膜厚を58nm以下の範囲内で調整すること,例えば,引用発明の「第2の反射防止膜」の膜厚を,「12nm」から僅か厚い「14nm」や「15nm」にすることは,引用文献1の記載に接した当業者が,当然試みる範囲内の設計変更にすぎない。
また,引用発明の「第2の反射防止膜」の膜厚を「14nm」や「15nm」等にしても,依然として,第1の反射防止膜の膜厚,第3の反射防止膜の膜厚が本願発明の中屈折率層及び低屈折率層の範囲内に収まることは,技術的にみて明らかである。
(当合議体による簡易なシミュレーションによると,第2の反射防止膜の膜厚を14nmにしても,第1の反射防止膜及び第3層の反射防止膜の膜厚を1?3nm程度調整すれば良い程度であった。また,この場合,視感度の高い500nm?600nmの反射率を約3割低く,かつフラットに設計変更することができた。)

(4) 本願発明の効果について
本願発明の効果について,本件出願の明細書の【0009】には,「本発明によれば,中屈折率層の形成にウェットプロセスを用い,および,高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くすることにより,高生産性かつ低コストで反射防止フィルムを得ることができる。加えて,本発明によれば,各層の屈折率と厚みを最適化することにより,広帯域において優れた反射特性(低反射性)かつニュートラルに近い優れた反射色相を有し,さらに優れた機械特性を有する反射防止フィルムを得ることができる。」と記載されている。
しかしながら,「中屈折率層の形成にウェットプロセスを用い,および,高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くすることにより,高生産性かつ低コストで反射防止フィルムを得ることができる。」という効果は,引用文献1に明示的に記載された,引用発明が奏する効果にすぎない。

また,「広帯域において優れた反射特性(低反射性)かつニュートラルに近い優れた反射色相」が得られるか否かは,各層の屈折率と厚みの相互依存関係により決定されるものである。そして,本願発明の各層の屈折率及び厚みの範囲のものすべてが,「広帯域において優れた反射特性(低反射性)かつニュートラルに近い優れた反射色相」であるとはいえないものである。
仮に,この点は措いて考えるとしても,[A]引用発明の各層の屈折率は,いずれも本願発明の屈折率の範囲内にある。また,[B]当業者ならば,引用発明の反射防止フィルタの各層の膜厚を適宜変更してシミュレーションし,反射特性を最適化できる。そして,[C]実際に,引用発明のものは最適化されている。加えて,[D]引用文献1の図6及び図7からは,実施例1よりも実施例2(引用発明)の方が,可視光領域の反射率の平坦性に優れると評価可能である。
以上[A]?[D]を勘案すると,「各層の屈折率と厚みを最適化することにより,広帯域において優れた反射特性(低反射性)かつニュートラルに近い優れた反射色相を有し,さらに優れた機械特性を有する反射防止フィルムを得ることができる。」という効果についても,引用発明が奏する効果にすぎないといえる。

(5) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,概略,引用文献1には[1]反射色相に関する記載がないこと,及び[2]引用発明(実施例2)の反射特性は実施例1のものに劣ること,を指摘する。
しかしながら,[1]については,前記(4)で述べたとおりである。また,[2]については,引用文献1の【0075】に記載のとおり,製造コストが安くできるため,産業上はより好ましいものである。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(6) 小括
本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-15 
結審通知日 2018-08-22 
審決日 2018-09-06 
出願番号 特願2013-14458(P2013-14458)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
関根 洋之
発明の名称 反射防止フィルムおよびその製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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