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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1345292
審判番号 不服2018-8912  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-28 
確定日 2018-10-15 
事件の表示 特願2018- 81524「ウェハ加工方法及びウェハ加工システム」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年11月16日(以下,「原出願日」という。)に出願された特願2010-256217号(以下,「原出願」という。)の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願(特願2016-87866号)とし,さらに,その一部を平成28年11月14日に新たな特許出願(特願2016-221841号)とし,さらに,その一部を平成30年4月20日に新たな特許出願としたものであって,同年5月8日付け拒絶理由通知に対し,同年6月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年6月11日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 平成30年6月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月28日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された(下線部は,補正箇所である。)。
「ウェハをチップに分割するための切断ラインに沿って,前記ウェハの内部に設定した目標面と前記ウェハの裏面との間にレーザ改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェハの表面の略全面を拘束した状態で,前記ウェハをチップ毎に分割することなく、前記ウェハの裏面から前記目標面まで研削して前記ウェハを薄化する研削工程と,
を備えるウェハ加工方法。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の平成30年6月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「ウェハをチップに分割するための切断ラインに沿って,前記ウェハの内部に設定した目標面と前記ウェハの裏面との間にレーザ改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェハをチップ毎に分割することなく、前記ウェハの裏面から前記目標面まで研削して前記ウェハを薄化する研削工程と,
を備えるウェハ加工方法。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「研削工程」について,「前記ウェハの表面の略全面を拘束した状態で,」という限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2) 先願発明及び周知技術
ア 先願発明について
(ア) 先願明細書等の記載
原査定の拒絶の理由で引用された,原出願の出願日前の他の特許出願であって,原出願の出願後に出願公開された特願2010-171376号(特開2012-33668号。以下,「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書等」という。)には,以下の事項が記載されている(下線加筆。以下同様。)。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,レーザ加工方法,特に,パルスレーザ光線を照射して脆性材料基板を分断するレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード等の発光素子は,サファイア基板上に窒化物半導体を積層することによって形成されている。このようなサファイア基板等から構成される半導体ウェハには,複数の発光ダイオード等の発光素子が,分断予定ラインにより区画されて形成されている。そして,このような半導体ウェハを分断予定ラインに沿って分断する際には,レーザ加工が用いられている。
【0003】
(・・・中略・・・)
【0005】
さらに,特許文献3には,レーザ光を基板に照射することによって基板内部に改質層(切断起点領域)を形成し,その後基板が所定の厚さとなるように基板を研磨して基板を分割する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
(・・・中略・・・)
【特許文献3】再公表特許WO2003/077295号公報」

b 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(・・・中略・・・)
【0008】
また,特許文献2及び特許文献3に示されたレーザ加工方法では,基板内部に改質領域が形成されるために,飛散物が素子領域に付着するといった問題はない。(・・・中略・・・)また,特許文献3では,研磨することによって基板が分割されるが,基板が分割されてしまうと,後工程で基板を一体的に取り扱うことができない。したがって,研磨する表面とは逆側の表面にフィルム等を貼り付けなければならない。
【0009】
ここで,特に発光ダイオード素子が形成された基板では,改質層が発光ダイオードの発光効率を下げることが知られている。したがって,改質層は極力薄いあるいはない方が好ましい。
【0010】
なお,特許文献3に示されるように,基板に改質領域を形成した後に,基板を所定の厚さまで研磨することで,改質層を形成することが可能である。しかし,前述のように,特許文献3の方法では,研磨によって基板が分割されてしまい,後工程での取扱いが非常に不便になる。また,この不便さを解消するために,フィルムを貼り付ける等の別の工程が必要になる。
【0011】
本発明の課題は,サファイア基板等の脆性材料基板を,飛散物なしに,かつ比較的厚みが厚い基板においても容易に分断できるようにするとともに,取扱いが容易であり,しかもこの基板に形成された素子の特性を損なわないようにすることにある。」

c 「【発明の効果】
【0023】
以上のような本発明では,サファイア基板等の脆性材料基板を,飛散物なしに,かつ比較的厚みが厚い基板においても容易に分断することができる。また,基板表面を研磨することによって改質層を薄く,あるいは除去するので,この基板に形成される素子の特性劣化を抑えることができる。さらに,基板研磨後においても基板が分割されないので,基板の取扱いが容易になる。」

d 「【0025】
[加工対象]
図1は,本発明の一実施形態による加工方法が適用される半導体ウェハの一例である。この図1に示す半導体ウェハ1は,サファイア基板2上に窒化物半導体が積層され,複数の発光ダイオード等の発光素子3が分断予定ライン4によって区画されて形成されたものである。(審決注;原文は「分割予定ライン4」と記載されているが,【符号の説明】【0049】や【0029】の記載から,「分断予定ライン4」の誤記であると認められる。)
【0026】
[レーザ加工装置]
図2は,本発明の一実施形態による加工方法を実施するためのレーザ加工装置5の概略構成を示したものである。レーザ加工装置5は,レーザ光線発振器や制御部を含むレーザ光線発振ユニット6と,レーザ光を所定の方向に導くための複数のミラーを含む伝送光学系7と,伝送光学系7からのレーザ光をウェハ1の内部において集光させるための集光レンズ8と,を有している。なお,ウェハ1はテーブル9に載置されており,このテーブル9とレーザ光とは,相対的に上下方向に移動が可能であるとともに,水平面内で相対移動が可能となっている。
【0027】
[レーザ加工方法]
以上のようなレーザ加工装置5を用いたレーザ加工方法は以下の通りである。
【0028】
まず,レーザ光線発振ユニット6において,レーザ光の出力パワー等の加工条件を多光子吸収が生じる条件に制御し,ウェハ1のサファイア基板の内部に集光点Pを合わせる(図3参照)。そして,このレーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成する。
【0029】
その後,レーザ光を分断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより,集光点Pを分断予定ラインに沿って走査する。これにより,顕微鏡写真を図で示した図4に示すように,改質領域10が分断予定ラインに沿って移動し,サファイア基板の内部のみに改質された領域からなる改質層12が形成される。このとき,ウェハ1の表面ではレーザ光はほとんど吸収されないので,ウェハ1の表面が溶融することはない。また,レーザ加工条件を制御することによって,図4に示すように,改質層12からウェハ1の第1表面(第1主面)1aに向かって延びる,分断予定ラインに沿って連続した亀裂が形成される。すなわち,改質層12のウェハ第1表面1a側に,改質層12から亀裂が延びた亀裂進展層13が形成される。この亀裂は,改質層12の上下に熱応力が作用することによって生じるものである。
【0030】
次に,ウェハ1の第2表面(第2主面)1b側を研磨する。このとき,亀裂進展層13が残り,かつ改質層12が除去されるように研磨する。図4において,研磨量(研磨する厚み)を二点差線で示している。なお,ここで,研磨によって改質層12が除去されても,亀裂進展層13はウェハ1の表面まで到達していないので,研磨によってウェハ1が自動的に分断されることはない。
【0031】
以上のようにして,ウェハ1の内部に改質層12及び亀裂進展層13が形成され,さらに改質層12が除去された後は,分断予定ラインの両側に曲げ応力を加えることによって,ウェハ1を容易に分断することができる。」

e 「【0032】
以下に,改質層12及び亀裂進展層13を形成するレーザ加工方法の参考例及び実施例を示す。
【0033】
[実験条件]
各参考例及び実施例に共通の実験条件は以下の通りである。なお,ここでは,半導体ウェハ1を構成するサファイア基板を分断対象としている。
【0034】
基板:サファイア 厚みt=330μm
走査回数:1回
パルスレーザ繰り返し周波数:5MHz
集光位置:基板内部170μm
(・・・後略・・・)」

(イ) 先願発明
上記(ア)によれば,先願明細書等には,以下の先願発明が記載されている。

(先願発明)
「サファイア基板2上に窒化物半導体が積層され,複数の発光ダイオード等の発光素子3が分断予定ライン4によって区画されて形成された半導体ウェハ1の,前記分断予定ライン4に沿ってレーザ光を相対的に移動させることにより,改質層12が形成され,
レーザ加工条件を制御することによって,前記改質層12から前記半導体ウェハ1の第1表面1aに向かって延びる,前記分断予定ライン4に沿って連続した亀裂進展層13が形成され,
前記半導体ウェハ1の第2表面1b側を,前記亀裂進展層13が残り,かつ前記改質層12が除去されるように研磨することによって前記改質層12が除去され,
前記亀裂進展層13が前記半導体ウェハ1の表面まで到達していないため,研磨によって自動的に分断されていない前記半導体ウェハ1を,前記分断予定ライン4の両側に曲げ応力を加えることによって,前記半導体ウェハ1を容易に分断する,
半導体ウェハ1のレーザ加工方法。」

イ 周知技術について
(ア) 特開2000-254857号公報
原査定の拒絶の理由で引用された,原出願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2000-254857号公報には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ワークを保持する保持手段と,ワークを研削する砥石を有し該砥石でワークの一方面を研削加工する研削手段とを備えた平面加工装置において,
前記平面加工装置に,ワークの一方面を研磨する研磨手段を設け,前記研磨手段は,研磨ヘッドを回転させる回転手段,及び前記研磨ヘッドとワークとの間隔を設定する位置決め送り機構から構成されていることを特徴とする平面加工装置。
(・・・中略・・・)。
【請求項8】 前記保持手段は,ワークを吸引して吸着保持する保持手段,又はワークを氷膜を介して冷凍保持する保持手段又はワークを静電気で保持する静電保持手段であることを特徴とする請求項1記載の平面加工装置。
・・・(後略)・・・」

b 「【発明の属する技術分野】本発明は平面加工装置及び平面加工方法に係り,特に半導体ウェーハの製造工程で,チップが形成されていない半導体ウェーハの裏面を研削加工する平面加工装置及び平面加工方法に関する。」

c 「【0002】
【従来の技術】半導体ウェーハの裏面(一方面)を研削する平面加工装置は,ウェーハを吸着保持するチャック,粗研削用砥石,精研削用砥石,及び裏面洗浄装置等を備えている。斯かる平面加工装置によれば,ウェーハは前記チャックでその表面(他方面)が吸着保持された後,その裏面に前記粗研削用砥石が押し付けられるとともに,チャック及びその砥石を回転させることによって裏面が粗研削される。そして,粗研削終了したウェーハは,チャックから取り外された後,精研削用のチャックに保持され,ここで前記精研削用砥石によって精研削される。精研削終了したウェーハは,裏面洗浄装置に搬送されてその裏面が洗浄される。以上で,前記平面加工装置による1枚のウェーハの裏面研削加工が終了する。
【0003】ところで,裏面研削加工が終了したウェーハは,次の工程であるエッチング工程に移行させるため,平面加工装置からエッチング装置に搬送され,ここでエッチング処理されて,その裏面に生じている加工変質層が除去される。
【0004】しかしながら,平面加工装置において,ウェーハを規格品に近い極薄状のウェーハに研削すると,平面加工装置からエッチング装置にウェーハを搬送する際に,ウェーハが加工変質層に起因して破損(割れ欠け)するという不具合が生じる。
【0005】そこで,従来の平面加工装置では,前記不具合を防止するために,搬送中にウェーハが破損しない厚みにウェーハを研削している。ここで,ウェーハの厚みについて説明すると,インゴットから切り出された,例えば725μmの厚みのウェーハは,平面加工装置の粗研削で250μmの厚みに粗研削され,そして,精研削で200μmの厚みに研削される。そして,最終のエッチング工程で規格の50μmの厚みに加工される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の平面加工装置では,搬送中におけるウェーハの破損を防止するため,ウェーハを規格の厚み近くまで加工することができない。これによって,エッチング工程における加工取代(上記例では150μmの取代)が大きくなるので,エッチングに長時間かかり,スループットを向上させることができないという欠点があった。」

d 「【0020】請求項8記載の発明によれば,保持手段として,ワークを吸引して吸着保持する保持手段を適用し,又はワークを氷膜を介して冷凍保持する保持手段を適用し,あるいはワークを静電気で保持する保持手段を適用したので,ワークをしっかりと保持することができる。」

e 「【0033】前記チャック32は,インデックステーブル34に設置され,また,同機能を備えたチャック36,38,40が,インデックステーブル34の図2上破線で示す回転軸35を中心とする円周上に90度の間隔をもって設置されている。また,回転軸35には,図2上破線で示すモータ(移動手段に相当)37のスピンドル(不図示)が連結されている。前記チャック36は,粗研削ステージ18に位置されており,吸着したウェーハ28がここで粗研削される。また,前記チャック38は,精研削ステージ20に位置され,吸着したウェーハ28がここで仕上げ研削(精研削,スパークアウト)される。更に,前記チャック40は,研磨ステージ22に位置され,吸着したウェーハ28がここで研磨され,研削で生じた加工変質層,及びウェーハ28の厚みのバラツキ分が除去される。
【0034】(・・・中略・・・)
【0036】図7において,チャック32,36,38,40は,インデックステーブル34に形成された開口部114の段部116に載置されており,また,モータ92の下部には,シリンダ装置118のピストン120が連結されている。このピストン120が図8の如く伸長されると,連結部材112が前記開口部114を通過し,チャック32,36,38,40の下部に形成された凹部122に嵌入されて連結される。そして,チャック32,36,38,40は,ピストン120の継続する伸長動作によって,インデックステーブル34から上昇移動され,砥石46,54による研削位置に位置される。
【0037】本実施の形態のチャック32,36,38,40は,その吸着面がセラミックス等の焼結体からなるポーラス材124で形成されている。また,連結部材112が凹部122に連結されると,同時に図示しない流体継手が連結され,該流体継手に連結された図示しないサクションポンプの吸引力がエア通路126を介してポーラス材124に作用し,これによってウェーハ28がポーラス材の表面にしっかりと吸着保持される。また,連結部材112が切り離された時は,図示しない逆止弁により吸着力はそのまま保持される。
【0038】なお,本実施の形態では,ウェーハ28を吸引吸着保持するチャック32,36,38,40について説明したが,これに限られるものではなく,これに代えて図9に示す冷凍チャック装置128を適用してもよい。
【0039】冷凍チャック装置128は,チャックプレート130,コントローラ132,及び冷却水供給装置134から構成されており,コントローラ132でチャックプレート130に電圧を印加し,これによって生じるペルチェ効果を利用してウェーハ28をチャックプレート130に氷膜を介して冷凍保持する。チャックプレート130は,2種類の金属(例えばCuとBi)プレートを接続して閉回路をつくり,その接合点に電流を流すことによって熱電素子(Cuプレート)側でウェーハ28を冷凍保持する。また,冷却水供給装置134は,熱電素子の片側(Biプレート)に冷却水を供給し,その片側で発生する熱を冷却する。なお,冷凍チャック装置128に代えて,静電気でウェーハを保持する静電チャック装置を適用してもよい。」

f 「【0050】一例をあげて説明すると,φ200mmで初期厚みが725μmのウェーハを50μmの厚みに加工する場合,この時の粗研削速度を図12の如く,225(μm/sec)に設定し,精研削速度を65(μm/sec)に設定し,ポリッシュ(研磨)速度を6(μm/sec)に設定し,粗研削加工量510μm,精研削加工量150μm,ポリッシュ加工量14.9μmに設定すれば,各加工時間(2.27?2.48)が略等しくなるので,稼働率を落とすことなくウェーハ28を725μmから50μmの厚みに加工できる。この場合の例えば研磨の加工量は,精研削時の厚さのバラツキが標準偏差で2.25μm,標準偏差の6倍で計算すると13.5μmであり,精研削時の加工変質層の深さは平均値で0.7μm,それの標準偏差は0.11μmであったので,6倍で計算すると0.66μmとなり,加工変質層の最大値は1.36μmである。したがって,精研削加工時の厚さのバラツキと加工変質層の除去に必要な量は14.9μmとして設定できる。
【0051】しかしながら,上記のような計算で得られた加工時間では,厚さのバラツキと加工変質層を確実に除去することができない場合がある。
【0052】そこで,本実施の形態では,精研削における加工量150μmと,前述した標準偏差の6倍で計算した,粗研削加工時の厚さのバラツキと加工変質層の除去に必要な量とを比較し,前者が大きい場合にはその加工量150μmに設定し,後者が大きい場合には,後者の量に加工量を設定する。これにより,精研削時において,厚さのバラツキと加工変質層を確実に除去することができる。
【0053】また,研磨における加工量と,前述した標準偏差の6倍で計算した,精研削加工時の厚さのバラツキと加工変質層の除去に必要な量とを比較し,前者が大きい場合には加工量を20μmに設定し,後者が20μmよりも大きい場合には,後者の量に加工量を設定する。これにより,研磨時において,厚さのバラツキと加工変質層を確実に除去することができる。」

上記cの【0002】には,半導体ウェーハの裏面を研削する平面加工装置が,ウェーハを吸着保持するチャックを備え,ウェーハの表面をチャックで吸着保持した後,粗研削用砥石で粗研削を行うことが記載されている。
また,上記cの【0005】には,725μmの厚みのウェーハを,粗研削で250μmに,さらに,精研削で200μmの厚みに研削することが記載されているから,粗研削で475μm,精研削で50μmの厚みを研削していることが理解でき,上記dの【0050】には,初期厚みが725μmのウェハを加工する際の粗研削加工量が510μm,精研削加工量が150μmであることが記載されている。

(イ) 再公表特許第2003/077295号
原出願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であって,先願明細書(前記ア(ア)a)の【0006】に【先行技術文献】として提示されている再公表特許第2003/077295号には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

a 「発明の開示
しかしながら,上記公報に記載された方法にあっては,半導体基板の裏面の研磨を平面研削により行うと,平面研削面が,半導体基板に予め形成された溝に達した際に,当該溝の側面でチッピングやクラッキングが発生するおそれがある。
そこで,本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,チッピングやクラッキングの発生を防止して,基板を薄型化し且つ基板を分割することのできる基板の分割方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために,本発明に係る基板の分割方法は,基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,基板の切断予定ラインに沿って基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,切断起点領域を形成する工程後,基板が所定の厚さとなるよう基板を研磨する工程とを備えることを特徴とする。
(・・・中略・・・)
ここで,集光点とは,レーザ光が集光した箇所のことである。また,研磨とは,切削,研削及びケミカルエッチング等を含む意味である。さらに,切断起点領域とは,基板が切断される際に切断の起点となる領域を意味する。したがって,切断起点領域は,基板において切断が予定される切断予定部である。そして,切断起点領域は,改質領域が連続的に形成されることで形成される場合もあるし,改質領域が断続的に形成されることで形成される場合もある。」(第2頁第39行ないし第3頁第19行)

b 「次に,半導体基板1を研磨する工程について,図17?図21を参照して説明する。図17?21は,半導体基板を研磨する工程を含む各工程を説明するための図である。なお,実施例1では,半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化される。
図17に示すように,上記切断起点領域形成後の半導体基板1の表面3に保護フィルム20が貼り付けられる。保護フィルム20は,半導体基板1の表面3に形成されている機能素子19を保護すると共に,半導体基板1を保持するためのものである。続いて,図18に示すように,半導体基板1の裏面21が平面研削され,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングが施されて,半導体基板1が50μmに薄型化される。これにより,すなわち半導体基板1の裏面21の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れ15に裏面21が達して,機能素子19それぞれを有する半導体チップ25に半導体基板1が分割される。なお,上記ケミカルエッチングとしては,ウェットエッチング(HF・HNO_(3))やプラズマエッチング(HBr・Cl_(2))等が挙げられる。」(第9頁第43行ないし第10頁第4行)

上記bには,厚さ350μmの半導体基板を平面研削とケミカルエッチングによって厚さ50μmに薄型化することが記載されているから,最大で300μm程度の厚みを研削していることが理解できる。

(ウ) 特開2009-290148号公報
原出願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2009-290148号公報には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,表面に複数のストリートが格子状に形成されているとともに該複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハを,ストリートに沿って分割するウエーハの分割方法に関する。」

b 「【発明を実施するための最良の形態】
(・・・中略・・・)
【0009】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。」

c 「【0025】
次に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面を研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程を実施するに際し,図示の実施形態においてはウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,図9の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ4を貼着する(保護テープ貼着工程)。
【0026】
裏面研削工程は,図10の(a)に示す研削装置5を用いて実施する。図10の(a)に示す研削装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51に保持された被加工物を研削するための研削砥石52を備えた研削手段53を具備している。この研削装置5を用いて上記裏面研削工程を実施するには,チャックテーブル51上にウエーハ2の保護テープ4側を載置し,図示しない吸引手段を作動することによりウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,チャックテーブル51上にウエーハ2を保持したならば,チャックテーブル51を矢印51aで示す方向に例えば300rpmで回転しつつ,研削手段53の研削砥石52を矢印52aで示す方向に例えば6000rpmで回転しつつ半導体ウエーハ2の裏面2bに接触せしめて研削することにより,図10の(b)に示すように所定の厚さ(例えば100μm)に形成する。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図10の(b)に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。」

上記cの【0026】には,吸引手段を作動することにより半導体ウエーハをチャックテーブルに保持し,研削砥石で研削を行うことが記載されている。
また,上記bの【0009】には,ウエーハの厚さが600μmであり,cの【0026】には,研削により,厚さを100μmにすることが記載されているから,500μmの厚さを研削することが理解できる。

(エ) 特開2000-260738号公報
原出願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2000-260738号公報には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体基板の研削加工技術および半導体装置ならびに半導体装置の製造技術に関し,特に,携帯電話やモバイルパソコン,ICカード等の携帯型情報処理機器等に利用し得る電子部品,電子機器等の半導体装置の製造に用いられる半導体基板の平面研削仕上げ加工技術等に適用して有効な技術に関する。」

b 「【0023】まず,図3,図4および図5等にて,本実施の形態の研削装置の構成について説明する。
【0024】本実施の形態の研削装置は,回転方向および回転速度,軸方向の直線変位(送り動作)等の動作条件を互いに独立に設定することが可能な粗研削スピンドル10(第1軸)および仕上げ研削スピンドル20(第2軸),これらの各々に支持されて回転する砥石31および砥石32,ウェーハ90を吸着保持する複数のワークテーブル40,複数のワークテーブル40を支持し,粗研削スピンドル10および仕上げ研削スピンドル20の各々による加工位置と,ウェーハ90の受け払い位置に順次移動させる動作を行う割り出しテーブル80,ウェーハ90の受け払い位置にあるワークテーブル40に対して,未加工のウェーハ90が載置されるセットテーブル60と,加工済のウェーハ90が載置される取り出しテーブル70との間で入替え動作を行う吸着ハンド50,等を含んでいる。
【0025】(・・・中略・・・)
【0027】図4に例示されるように,個々のワークテーブル40は,図示しないモータ等で任意の方向に後述のように任意の回転数で回転駆動されるテーブル本体41,このテーブル本体41におけるウェーハ90の載置面に設けられ,多孔質のセラミックス等からなる平坦な吸着板42と,吸着板42の背面側に連通し,外部の図示しない排気ポンプ等に接続されることによって吸着板42に吸着力を発生させる吸引路43,等で構成されている。
【0028】この場合,ワークテーブル40における吸着板42の外径寸法は,吸着対象のウェーハ90の外径よりも片側でわずかなΔd(たとえば0.1mm以下)だけ小さく設定され,ウェーハ90のほぼ全面が吸着板42に接触することによって均一な吸着力にて確実に吸着保持される構造となっている。」

c 「【0038】次に本発明の実施の形態の条件A・Bの加工に用いた砥石やウェーハ90の保護テープ91およびウェーハ90のチャック吸着方法について説明する。
【0039】上述したように,本実施の形態の研削装置は,厚さ調整研削用スピンドル(粗研削スピンドル10(第1軸))と平面仕上げ研削スピンドル(仕上げ研削スピンドル20(第2軸))を備えている。第1軸目・第2軸目の砥石31(32)は,たとえばΦ209mmの台金31a(32a)に,巾約3mm・長さ約20mm・高さ約4mmのセグメント砥石31b(32b)を円周上に歯状に配置したインフォード型外周砥石が使用されている。
【0040】ウェーハ90の保護テープ91はUV剥離タイプの基材テープ厚が100?150μm・ノリ厚が30?50μmで全体厚130?200μmのものを用いた。また,貼り付け時気泡・ゴミなどの異物混入のないようローラーで均一にウェーハ90に貼り付けた。
【0041】ウェーハ90の研削加工時の固定は,上述のように,ワークテーブル40に埋め込まれ,多孔質セラミック等で構成される吸着板42により,ウェーハ90における保護テープ91の貼付面を真空吸着で保持した状態で加工した。
【0042】口径5インチのウェーハ90に対する吸着板42の吸着面(吸着孔の分布範囲)の大きさは当該ウェーハ90の平面以外は吸着しない寸法に設定している。すなわち,特にウェーハ90外周については,上述のように,吸着板42(吸着孔の分布範囲)がウェーハ90の外形寸法より-0.2mm(片側からは-0.1mm)の範囲内で配置されるよう位置決めして,研削加工中にウェーハ90の端部も確実に吸着保持されるようにした。」

上記bの【0023】【0027】【0028】及びcの【0042】には,ウェーハの研削装置において,ウェーハの略全面が,多孔質のセラミックス等からなる平坦な吸着板42に吸着保持され,砥石で研削加工されることが記載されている。

(オ) 周知技術
a 周知技術1
上記(ア)ないし(ウ)によれば,「ウェハを50μmから500μm程度研削して薄型化すること」は,原出願の出願日時点において,周知技術であったと認められる。

b 周知技術2
上記(ア),(ウ)及び(エ)によれば,「ウェハをチャックに吸着保持して研削すること」は,原出願の出願日時点において,周知技術であったと認められる。

(3) 本件補正発明と先願発明の対比
ア 本件補正発明と先願発明を対比する。
(ア) 先願発明の「半導体ウェハ1」,「半導体ウェハ1の第2表面1b」,「半導体ウェハ1の第1表面1a」及び「分断予定ライン4」は,本件補正発明の「ウェハ」,「ウェハの裏面」,「ウェハの表面」及び「切断ライン」に相当する。

(イ) 先願発明の「発光ダイオード等の発光素子3」は,半導体ウェハ1(ウェハ)の分断予定ライン4(切断ライン)によって区画されて形成されているところ,先願発明は,当該分断予定ライン4(切断ライン)の両側に曲げ応力を加えることによって,半導体ウェハ1(ウェハ)を容易に分断するものであるから,分断された「発光ダイオード等の発光素子3」は,「チップ」ということができる。

(ウ) 先願発明では,「分断予定ライン4(切断ライン)に沿ってレーザ光を相対的に移動させることにより,改質層12が形成され」ているから,先願発明の「改質層12」は,「レーザ改質領域」ということができる。

(エ) 先願発明では,研磨による改質層12(レーザ改質領域)を除去する処理について,「半導体ウェハ1(ウェハ)の第2表面1b側(ウェハの裏面)を,前記亀裂進展層13が残り,かつ前記改質層12(レーザ改質領域)が除去される」までという目標を設定して研磨しているといえるから,その目標を達成したときの半導体ウェハ1(ウェハ)の面は,「目標面」といえる。そうすると,先願発明は,「ウェハの内部に設定した目標面と前記ウェハの裏面との間にレーザ改質領域を形成する改質領域形成工程」を備えているということができる。

(オ) 先願発明では,「半導体ウェハ1(ウェハ)」の「改質層12(レーザ改質領域)」が除去されるように研磨しているから,目標面まで研磨されたときには,「半導体ウェハ1(ウェハ)」は薄化されている。また,「亀裂進展層13が前記半導体ウェハ1(ウェハ)の表面まで到達していないため,研磨によって自動的に分断されていない」から,先願発明は,「前記ウェハをチップ毎に分割することなく,前記ウェハの裏面から前記目標面まで研磨して前記ウェハを薄化する研磨工程」を備えているということができる。そうすると,本件補正発明の「ウェハの裏面から前記目標面まで研削して前記ウェハを薄化する研削工程」と,先願発明の「ウェハの裏面から前記目標面まで研磨して前記ウェハを薄化する研磨工程」は,「ウェハの裏面から前記目標面まで除去して前記ウェハを薄化する除去工程」である点で共通する。

イ 以上のことから,本件補正発明と先願発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

(一致点)
「ウェハをチップに分割するための切断ラインに沿って,前記ウェハの内部に設定した目標面と前記ウェハの裏面との間にレーザ改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェハをチップ毎に分割することなく,前記ウェハの裏面から前記目標面まで除去して前記ウェハを薄化する除去工程と,
を備えるウェハ加工方法。」

(相違点1)
「前記ウェハの裏面から前記目標面まで除去して前記ウェハを薄化する除去工程」について,除去する具体的な処理及び工程が,本件補正発明は,「研削」する「研削工程」と特定されているのに対し,先願発明は,「研磨」する「研磨工程」と特定されている点。

(相違点2)
「ウェハを薄化する除去工程」について,本件補正発明は,「前記ウェハの表面の略全面を拘束した状態で,」除去(研削)する処理を行うのに対し,先願発明は,どのような状態で除去(研磨)する処理を行うのか不明である点。

(4) 判断
以下,相違点について判断する。
ア 相違点1について
本件補正発明の「研削工程」は,「ウェハの裏面から目標面まで研削してウェハを薄化する」ものであるところ,本願明細書には,以下の記載がある。

a 「【0094】
載置台132aには,図8(c)に示すように,ウェハWがBGテープBを介して載置される。載置台132aは,図8(c)に示すように,ウェハWを載置台132aに載置した時に,ウェハWの外周の一部が載置台132aからはみ出すよう形成されているが,その幅xは約1.5mm程度である。なお,本実施の形態で用いられるウェハWは,直径が約12インチ,厚さtは約775μmである。」

b 「【0130】
(2)研削除去工程(ステップS12)
レーザー改質工程(ステップS10)により切断ラインLに沿って改質領域が形成されたら,搬送装置(図示せず)によりウェハWをレーザーダイシング装置1から研削装置2へ搬送する。以下の処理は研削装置2で行われ,制御部100により制御される。
(・・・中略・・・)
【0135】
本実施の形態では,図12に示すように,粗研削と精研削とをあわせて目標面まで,すなわちウェハWの表面から略50μmの深さまで研削を行う。本実施の形態では,粗研削で略700μmの研削を行い,精研削で略30?40μmの研削を行うが,厳密に決まっているわけではなく,粗研削と精研削との時間が略同一となるように研削量を決定してもよい。」

c 「【0158】
図19の(A)に示すように,研削速度を変えながら粗研削を合計710μm行い,その後,精研削を13μm(図示せず)行い,さらに化学機械研磨(図示せず)を2μm行った。(・・・後略・・・)」

前記aないしcの記載によれば,本件補正発明が対象とする実施の形態では,当初775μm程度の厚さのウェハを,700μmあるいは710μm程度粗研削し,その後,30?40μmあるいは13μm精研削し,さらに2μm程度研磨して薄化していることが理解できる。そうすると,本件補正発明における「研削」とは,13μmから710μm程度の厚みを除去する処理を含んでいるといえる。
これに対し,先願発明が対象とする実施の形態(前記(2)ア(ア)dの【0029】,同eの【0034】)では,厚さ330μmの基板の基板内部170μmを集光位置として,レーザ光線を走査して改質層12を形成し,当該改質層12が除去されるように「研磨」して薄化しているから,先願発明における「研磨」とは,少なくとも170μm程度の厚みを除去する処理を行っているといえる。
そうすると,先願発明のウェハの「研磨」と,本件補正発明のウェハの「研削」とは,170μm程度の厚みを除去する点で同様の処理ということができるから,両者の処理に実質的な相違はなく,本件補正発明と先願発明との上記相違点1は,相違点であるとはいえない。
また,先願明細書等の記載を見ても,先願発明の「研磨」は,「研削」を含む意味で用いられている技術用語として理解することが自然である。すなわち,先願発明は,その背景技術である再公表特許第2003/077295号に記載された技術が有する課題を解決する発明であるところ(前記(2)ア(ア)a及びb),当該文献には,前記(2)イ(イ)のとおり,「上記目的を達成するために,本発明に係る基板の分割方法は,基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,基板の切断予定ラインに沿って基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,切断起点領域を形成する工程後,基板が所定の厚さとなるよう基板を研磨する工程とを備えることを特徴とする。(・・・中略・・・) ここで,集光点とは,レーザ光が集光した箇所のことである。また,研磨とは,切削,研削及びケミカルエッチング等を含む意味である。」,「次に,半導体基板1を研磨する工程について,図17?図21を参照して説明する。なお,実施例1では,半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化される。(・・・中略・・・)続いて,図18に示すように,半導体基板1の裏面21が平面研削され,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングが施されて,半導体基板1が50μmに薄型化される。」と記載されているから,先願発明が前提とする背景技術において,基板(ウェハ)を「研磨」するとは,「研削」することを含むものであって,しかも,厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化する「研磨する工程」は,「平面研削」する工程を含むものとして扱われている。そして,一の明細書において,用語の意味は統一して用いられるものであるから,先願発明の「研磨」は,背景技術の説明において用いられているのと同様に,「研削」を含む技術用語として理解することが,先願明細書等の統一的な理解という観点からも当業者において自然なものといえる。したがって,先願発明の「研磨」は,「研削」を含んでおり,上記相違点1は,相違点であるとはいえない。
なお,仮に,先願発明において,「研磨」が「研削」を含んでいるといえないとしても,前記(2)イ(オ)aのとおり,「ウェハを50μmから500μm程度研削して薄型化すること」は周知技術であるから,先願発明が対象とする170μm程度の厚みを除去する処理について,当該周知技術を採用することは,周知技術の付加,あるいは,転換であって,新たな効果を奏するものではない。したがって,上記相違点1は,実質的な相違点であるとはいえない。

イ 相違点2について
先願明細書等には,ウェハを薄化する研削工程(先願発明が「研削工程」を備えているといえることは,上記ア参照。)において,ウェハの表面の略全面を拘束した状態で研削することは,明示的に記載されていない。しかしながら,研削に際して,ワーク(ウェハ)をしっかりと保持する必要があることは,前記(2)イ(ア)a及びdからも明らかなように周知の課題であって,しかも,当該周知の課題を解決するために,同eの【0036】ないし【0039】に記載されているように,ウェハの表面の略全面を吸着保持等することで拘束する保持手段が通常用いられているところ,ウェハの表面を拘束しない状態や,その一部のみを拘束した状態で研削した場合,研削ができない,あるいは,研削効率が悪いという事象が発生することは,当業者にとって自明である。そうすると,先願明細書等において,あえてウェハの表面の拘束が不十分な状態で研削しているとは考えがたく,ウェハの表面の略全面を拘束した状態で研削していると考えるのが自然である。したがって,本件補正発明と先願発明との上記相違点2は,相違点であるとはいえない。
なお,仮に,先願発明において,ウェハの表面の略全面を拘束した状態で研削しているといえないとしても,前記(2)イ(オ)bのとおり,「ウェハをチャックに吸着保持して研削すること」は周知技術であり,その際には,ウェハの略全面が吸着保持されると認められるから(前記(2)イ(エ)cの【0042】),先願発明において,当該周知技術を採用することは,周知技術の付加,あるいは,転換であって,その効果も,ウェハが十分に固定されずに,研削ができない,あるいは,研削効率が悪いという事象が発生することを防ぐというものであって,新たな効果を奏するものではない。したがって,上記相違点2は,実質的な相違点であるとはいえない。
これに対し,審判請求人は,審判請求書において,「本願発明は,ウェハの表面の略全面を拘束した状態でウェハの裏面を研削する構成を有するものであり,この構成を採用したことによって,ウェハの表面を位置ずれしないように全面的に拘束しながらウェハの裏面を研削することで,ウェハを分割するためにウェハに生じる割れのばらつきを抑えることが可能となる,という格別な作用効果を奏するものである。」と主張する。
しかしながら,上述のとおり,先願発明においても,ウェハの表面の略全面を拘束した状態でウェハを研削しているといえるし,仮にいえないとしても,周知技術の付加,あるいは,転換として採用できるものであるから,その構成によって,ウェハが十分に固定されずに,研削ができない,あるいは,研削効率が悪いという事象が発生することを防ぐという作用効果のみを有しているのではなく,審判請求人の主張する上記作用効果も有しているものと認められる。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

ウ したがって,上記相違点1及び相違点2は,実質的には相違点とはいえず,本件補正発明と先願発明は同一である。そして,本願の発明者と先願の発明者は同一ではなく,原出願の出願の時において,本願の出願人と,先願の出願人は同一ではないから,本件補正発明は,特許法29条の2の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5) 本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年6月28日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,同年6月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし4に係る発明は,その原出願の出願の日前の特許出願であって,その原出願の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願(以下,「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその原出願の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの原出願の出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない,というものである。

先願:特願2010-171376号(特開2012-33668号)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された先願及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)ア(ア)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「前記ウェハの表面の略全面を拘束した状態で,」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,先願発明と同一であるから,本願発明も,先願発明と同一である。そして,本願の発明者と先願の発明者は同一ではなく,原出願の出願の時において,本願の出願人と,先願の出願人は同一ではないから,本願発明は,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-21 
結審通知日 2018-08-22 
審決日 2018-09-04 
出願番号 特願2018-81524(P2018-81524)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 梶尾 誠哉
河合 俊英
発明の名称 ウェハ加工方法及びウェハ加工システム  
代理人 松浦 憲三  

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